説明

γ−オリザノール誘導体、液晶化合物、液晶化合物重合体、光学素子の製造方法、光学素子、偏光板、および画像表示装置

【課題】液晶性を示し、室温付近においても結晶化せずにガラス化し、均一塗布性能に優れる、液晶化合物に好適な化合物、そのような化合物からなる液晶化合物、その液晶化合物から得られる液晶化合物重合体、ならびに、これらを用いた光学素子の製造方法、外観欠点の少ない光学素子、偏光板、画像表示装置を提供する。
【解決手段】γ−オリザノール誘導体は、一般式(1)で表される。


一般式(1)中、Rは、2−イソブテニル又は2−メチリデン−イソブチル、Aは架橋基を含む基であり、Bはエーテル基、エステル基、カーボネート基のいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶化合物に好適なγ−オリザノール誘導体、そのγ−オリザノール誘導体からなる液晶化合物とその用途等に関する。より詳しくは、γ−オリザノール誘導体、液晶化合物、液晶化合物重合体、光学素子の製造方法、光学素子、偏光板、および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイに使用される光学補償フィルム等の光学フィルムには、液晶ディスプレイ素子の表示品位の向上と軽量化の両立に対する要求から、高分子フィルムに延伸処理を施した複屈折フィルムが用いられる。
【0003】
しかしながら、上記複屈折フィルムは、上記高分子フィルムのガラス転移点を越える温度で配向状態が破壊されてしまう。したがって、上記複屈折フィルムは、使用温度がガラス転移点によって制限されるという欠点がある。
【0004】
延伸処理では実現が不可能な、より高度で安定した配向状態を有する液晶配向フィルムが開発されている。この液晶配向フィルムは、傾斜配向やねじれ配向等の配向を得るために、液晶性高分子あるいは重合性官能基を有する液晶化合物を配向処理して提供される(特許文献1〜4参照)。
【0005】
液晶性高分子を用いる方法は、配向処理された基板上にサーモトロピック液晶性を示す高分子化合物溶液を塗布した後、液晶性高分子が液晶性を呈する温度で熱処理することにより所望の配向を得る方法である。上記方法で配向させた後は、液晶性高分子をガラス状態に保つことにより配向を固定化する。
【0006】
しかしながら、液晶性高分子は分子鎖のからみあいにより分子運動が阻害される。このため、溶剤への溶解性が乏しいという問題や、均一な液晶配向フィルムを作製することが困難であるという問題があった。また、液晶性高分子は他成分との相溶性に劣っているため、例えば、液晶基、架橋基、カイラル基などの機能部位を複合するために、コポリマー化などの合成操作を経なければならない。
【0007】
低分子の重合性液晶化合物を用いた液晶配向フィルムの作製方法は、低分子の2官能液晶性アクリレート化合物または組成物を、ネマチック配向させた後、光重合を行って配向重合を固定する。1分子内に2つ以上の重合性官能基を有する重合性液晶化合物を光重合(架橋)することにより、重合前の配向状態を固定化した液晶配向フィルムが開発されている(非特許文献1参照)。
【0008】
しかし、通常の低分子重合性液晶化合物を用いて複屈折材料をフィルム状に作製するにあたり、基板上への塗布や配向処理を行う際に、結晶化が原因となって、均一塗布が困難になることがある。このため、用いる液晶材料としては、液晶相を発現する温度範囲の制御が重要であるとともに、低温温度域で結晶化させずにガラス化するように分子設計することが重要である。ガラス化液晶においては、液晶の結晶性を下げることで単独のネマチック液晶相を発現することを目的として、液晶基の側方位に置換基を有する液晶化合物を設計することにより、均一塗布性能を確保している。
【0009】
重合性液晶化合物を利用して光学素子を作製するためには、重合性液晶化合物を、液晶相を示す温度に保ちながら配向させ、その後に紫外線照射などによって重合させることにより配向の固定化を行う。重合性官能基にはアクリレートやメタクリレートが多く用いられているので、液晶相発現温度が高いと、熱重合を起こしやすいなど、取り扱いが難しい。したがって、室温付近で液晶相を発現するような重合性液晶化合物を提供することが、液晶材料開発の重要な目的の一つである。
【特許文献1】特開平3−28822号公報
【特許文献2】特開平4−55813号公報
【特許文献3】特開平5−27235号公報
【特許文献4】特開2004−182702号公報
【非特許文献1】Makromol.Chem.,190,2255−2268(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、液晶性を示し、室温付近においても結晶化せずにガラス化し、均一塗布性能に優れる、液晶化合物に好適な化合物、そのような化合物からなる液晶化合物、その液晶化合物から得られる液晶化合物重合体、ならびに、これらを用いた光学素子の製造方法、外観欠点の少ない光学素子、偏光板、画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一般式(1)で表される、γ−オリザノール誘導体を提供する。
【化1】

一般式(1)中、Rは一般式(2)で表される基のいずれかであり、Aは架橋基を含む基であり、Bはエーテル基、エステル基、カーボネート基のいずれかである。
【化2】

【0012】
好ましい実施形態においては、上記Aに含まれる架橋基が、アクリル基およびメタクリル基から選ばれる少なくとも1種である。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記Bがエーテル基またはカーボネート基の場合、上記Aが一般式(3−A)〜(3−D)のいずれかで表される基であり、上記Bがエステル基の場合、上記Aが一般式(4−A)〜(4−C)のいずれかで表される基である。
【化3】

【化4】

一般式(3−A)〜(3−D)、一般式(4−A)〜(4−C)において、Yは独立に炭素数2〜12のアルキレン基であって該基に含まれる1個のメチレン基または隣接しない2個以上のメチレン基は酸素結合に置換されていてもよく、Xは水素原子またはメチル基であり、Mはアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していてもよい一般式(5−A)〜(5−G)のいずれかで表される環構造であり、Qは環構造Mにn個(nは1以上)結合されている一般式(6−A)または(6−B)のいずれかで表される基である。
【化5】

【化6】

【0014】
本発明の別の局面によれば、液晶化合物が提供される。本発明の液晶化合物は、本発明のγ−オリザノール誘導体からなる。
【0015】
本発明の別の局面によれば、液晶化合物重合体が提供される。本発明の液晶化合物重合体は、本発明の液晶化合物を重合して得られる。
【0016】
本発明の別の局面によれば、光学素子の製造方法が提供される。本発明の光学素子の製造方法は、本発明の液晶化合物を、配向規制力を有する基板上に塗布し、加熱配向処理した後に室温まで冷却する。
【0017】
本発明の別の局面によれば、光学素子が提供される。本発明の光学素子は、本発明の液晶化合物を含む。
【0018】
本発明の別の局面によれば、光学素子が提供される。本発明の光学素子は、本発明の液晶化合物重合体を含む。
【0019】
本発明の別の局面によれば、偏光板が提供される。本発明の偏光板は、本発明の光学素子を含む。
【0020】
本発明の別の局面によれば、画像表示装置が提供される。本発明の画像表示装置は、本発明の偏光板を少なくとも1枚含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、液晶性を示し、室温付近においても結晶化せずにガラス化し、均一塗布性能に優れる、液晶化合物に好適な化合物、そのような化合物からなる液晶化合物、その液晶化合物から得られる液晶化合物重合体、ならびに、これらを用いた光学素子の製造方法、外観欠点の少ない光学素子、偏光板、画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0023】
≪γ−オリザノール誘導体、液晶化合物≫
本発明のγ−オリザノール誘導体は、一般式(1)で表される。
【化7】

一般式(1)中、Rは一般式(2)で表される基のいずれかであり、Aは架橋基を含む基であり、Bはエーテル基、エステル基、カーボネート基のいずれかである。
【化8】

【0024】
γ−オリザノールは、米糠原油または米麦芽原油から抽出、精製される天然成分であって、各種の植物ステロールおよびトリテルペンアルコールのフェルラ酸エステルからなる混合物であり、これらが総称してγ−オリザノールと呼ばれている(社団法人 菓子総合技術センター、農林水産省総合食料局委託事業、国産農水産物利用食品新素材利用マニュアル No.2、γ−オリザノール、平成16年3月)。本発明のγ−オリザノール誘導体を得るために用い得るγ−オリザノールとしては、これらのうちの1つの成分を用いても良いし、これらの混合物を用いても良い。
【化9】

【0025】
γ−オリザノールは、工業的には、米糠から得られる米糠油を精製する過程で生じる米糠フーツ原料から有機溶媒による抽出・晶析などの操作によって精製して製造されているが、本発明のγ−オリザノール誘導体を得るために用い得るγ−オリザノールは、その製造方法として、任意の適切な製造方法を採用し得る。
【0026】
γ−オリザノールは、これまでに、抗酸化作用、紫外線吸収作用、脂質代謝改善作用などの効果が報告されているため、化粧品、食物油などの食品、飼料などへの製品化がなされている。しかし、光学用途への展開については全く検討されておらず、報告がない。
【0027】
γ−オリザノールの化学構造中には、フェノール部位、桂皮酸エステル部位、シクロプロパン環、二重結合部位が含まれている。これらのうち、末端のフェノール部位を、特に、反応基や連結基として用い得る。γ−オリザノールのフェノール部位の、架橋部位との連結基としては、エーテル基、カーボネート基、エステル基が好ましく挙げられ、特に、エーテル基、エステル基は、簡便に剛性ができるために、より好ましい。
【0028】
本発明のγ−オリザノール誘導体は、本発明の目的を十分に発現させるために、上記Aに含まれる架橋基が、アクリル基およびメタクリル基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
本発明のγ−オリザノール誘導体は、本発明の目的を十分に発現させるために、上記Bがエーテル基またはカーボネート基の場合、上記Aが一般式(3−A)〜(3−D)のいずれかで表される基であり、上記Bがエステル基の場合、上記Aが一般式(4−A)〜(4−C)のいずれかで表される基であることが好ましい。
【化10】

【化11】

一般式(3−A)〜(3−D)、一般式(4−A)〜(4−C)において、Yは独立に炭素数2〜12のアルキレン基であって該基に含まれる1個のメチレン基または隣接しない2個以上のメチレン基は酸素結合に置換されていてもよく、Xは水素原子またはメチル基であり、Mはアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していてもよい一般式(5−A)〜(5−G)のいずれかで表される環構造であり、Qは環構造Mにn個(nは1以上)結合されている一般式(6−A)または(6−B)のいずれかで表される基である。
【化12】

【化13】

【0030】
本発明のγ−オリザノール誘導体の製造方法としては、任意の適切な製造方法を採用し得る。好ましい実施形態として、具体的な製造方法の例を以下に示す。なお、混合物からなるγ−オリザノールのステロイ骨格の桂皮酸エステル部位は、以下のスキーム中で「Ory」と略記する。また、Xは、水素原子またはメチル基である。
【0031】
本発明のγ−オリザノール誘導体において、Bがエーテル基であり、Aが一般式(3−A)で表される基である場合、例えば、下記の方法(A−1)によって製造することができる。つまり、(メタ)アクリル酸グリシジルとγ−オリザノールを直接あるいは塩基触媒存在下でエーテル化反応させることにより、目的物を得ることができる。
【化14】

【0032】
本発明のγ−オリザノール誘導体において、Bがエーテル基であり、Aが一般式(3−B)で表される基である場合、例えば、下記の方法(A−2)によって製造することができる。つまり、クロロメチルエチレングリコールのクロロ基とγ−オリザノールのフェノール部位とをWilliamsonエーテル化反応によって連結した後、アルコールをアクリル酸とエステル化することによって、目的物を得ることができる。また、予めアルコールがアクリル酸エステル化されたクロロ化合物とWilliamsonエーテル化反応することによっても合成が可能である。
【化15】

【0033】
本発明のγ−オリザノール誘導体において、Bがエーテル基であり、Aが一般式(3−C)で表される基である場合、例えば、下記の方法(A−3)によって製造することができる。つまり、クロロエチル(メタ)アクリレートのクロロ基とγ−オリザノールのフェノール部位とをWilliamsonエーテル化反応することによって、目的物を得ることができる。
【化16】

【0034】
本発明のγ−オリザノール誘導体において、Bがエーテル基であり、Aが一般式(3−D)で表される基であり、Mが一般式(5−A)で表される基であり、nが1または2であり、Qが一般式(6−B)で表される基であり、Yがエチレン基である場合、例えば、下記の方法(A−4)によって製造することができる。つまり、クロロエタノールとγ−オリザノールとをWilliamsonエーテル化反応した後、(メタ)アクリロイルオキシエトキシ安息香酸と縮合剤などを用いてエステル化することによって、目的物を得ることができる。
【化17】

【0035】
本発明のγ−オリザノール誘導体において、Bがカーボネート基であり、Aが一般式(3−C)で表される基である場合、例えば、下記の方法(A−5)によって製造することができる。つまり、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートから誘導できるクロロ炭酸(メタ)アクリロイルオキシエチルとγ−オリザノールとを受酸剤(塩基)存在下で連結してカーボネート化することによって、目的物を得ることができる。
【化18】

【0036】
本発明のγ−オリザノール誘導体において、Bがエステル基であり、Aが一般式(4−A)で表される基である場合、例えば、下記の方法(A−6)によって製造することができる。つまり、(メタ)アクリル酸とγ−オリザノールとを縮合剤などを用いてエステル化反応するによって、目的物を得ることができる。
【化19】

【0037】
本発明のγ−オリザノール誘導体において、Bがエステル基であり、Aが一般式(4−B)で表される基であり、Mが一般式(5−A)で表される基であり、nが1であり、Qが一般式(6−B)で表される基であり、Yがエチレン基である場合、例えば、下記の方法(A−7)によって製造することができる。つまり、(メタ)アクリロイルオキシエトキシ安息香酸とγ−オリザノールとを縮合剤などを用いてエステル化することによって、目的物を得ることができる。
【化20】

【0038】
本発明のγ−オリザノール誘導体において、Bがエステル基であり、Aが一般式(4−C)で表される基である場合、例えば、下記の方法(A−8)によって製造することができる。つまり、コハク酸モノ((メタ)アクリロイルオキシエチル)エステルとγ−オリザノールとをエステル化することによって、目的物を得ることができる。
【化21】

【0039】
なお、上記したγ−オリザノール誘導体の製造方法は、好ましい実施形態としての具体的な例を示したものであり、実際には、任意の適切な製造方法を採用し得る。上記架橋基として、アクリル基、メタクリル基以外にも、例えば、エポキシ基、オキセタン基など、合成反応に応じて導入することができる。架橋基の数も、1つのみならず、2つ以上の任意の適切な数を導入することができる。
【0040】
本発明のγ−オリザノール誘導体は、化粧品、食品、飼料など、任意の適切な用途に適用できる。好ましくは、本発明のγ−オリザノール誘導体は、光学用途に好適に用いることができる。特に、液晶化合物として用いることが好ましい。すなわち、本発明の液晶化合物は、本発明のγ−オリザノール誘導体からなる。
【0041】
本発明の液晶化合物は、液晶性を示す最低温度が、好ましくは15〜45℃、より好ましくは20〜45℃である。このように、本発明の液晶化合物は、室温付近で液晶相を発現することが可能であるという効果を発揮できる。
【0042】
本発明の液晶化合物は、任意の適切な用途に適用し得る。例えば、本発明の液晶化合物の複屈折挙動を利用した位相差板、視野角補償板、コレステリック選択反射板等の光学素子、さらには、光異性化挙動を組み込んで光記録材料へ応用展開が可能となる。また、本発明の液晶化合物は膜形成することが可能であり、スピンコートなどの溶液塗布や熱溶融などの任意の手段により任意の形状へ変化させて使うことが可能である。
【0043】
≪液晶化合物重合体≫
本発明の液晶化合物重合体は、本発明の液晶化合物を重合して得られる。
【0044】
本発明の液晶化合物を重合する際には、該液晶化合物は1種のみでも良いし、2種以上でも良い。また、該液晶化合物に任意の適切な添加剤が添加されていても良い。該添加剤の添加量は、任意の適切な量を採用し得る。
【0045】
上記添加剤としては、例えば、カイラル剤、重合性添加剤、重合開始剤、老化防止剤、難燃化剤、レベリング剤、光学活性化合物などが挙げられる。このような添加剤は、1種のみを用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0046】
上記老化防止剤としては、例えば、フェノール系化合物、アミン系化合物、有機硫黄系化合物、ホスフィン系化合物などが挙げられる。
【0047】
上記光学活性化合物としては、任意の適切な光学活性化合物を採用し得る。例えば、ねじれネマチック配向やコレステリック配向の螺旋構造を導入できるものが挙げられる。また、光学活性化合物自体が液晶性を示す必要はなく、重合性基を有していても良いし、重合性基を有していなくても良い。さらに、ねじれの向きは、使用する目的によって任意の適切な向きを採用し得る。
【0048】
上記光学活性化合物としては、例えば、光学活性基としてコレステリル基を有するペラルゴン酸コレステロール、ステアリン酸コレステロール;光学活性基として2−メチルブチル基を有する「CB−15」、「C−15」(以上、BDH社製)、「S1082」(メルク社製)、「CM−19」、「CM−20」、「CM」(以上、チッソ社製);光学活性基として1−メチルヘプチル基を有する「S−811」(メルク社製)、「CM−21」、「CM−22」(以上、チッソ社製);などを挙げることができる。
【0049】
本発明の液晶化合物を重合する際には、本発明の液晶化合物以外に、重合性官能基を有していない液晶化合物および/または重合性化合物を併用することができる。該重合性官能基を有していない液晶化合物および/または重合性化合物の併用量としては、任意の適切な量を採用し得る。
【0050】
上記重合性官能基を有していない液晶化合物としては、任意の適切な重合性官能基を有していない液晶化合物を採用し得る。例えば、ネマチック液晶化合物、スメクチック液晶化合物、コレステリック液晶化合物などが挙げられる。
【0051】
上記重合性化合物としては、任意の適切な重合性化合物を採用し得る。例えば、重合性基を有するアクリルモノマー、重合性基を有するウレタンオリゴマー、ポリエステルオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマーなどが挙げられる。
【0052】
本発明の液晶化合物に、上記添加剤、上記重合性官能基を有していない液晶化合物、上記重合性化合物から選ばれる少なくとも1種を含むものを、本明細書において、以下、「液晶組成物」と称することがある。すなわち、本発明の液晶化合物重合体は、本発明の液晶化合物または本発明の液晶化合物を含む液晶組成物を重合して得られる。
【0053】
重合方法としては、本発明の目的を損なわない範囲で任意の適切な方法を採用しうる。例えば、熱重合、紫外線等の活性エネルギー線による重合が挙げられる。これらの重合方法は組み合わせて採用しても良い。
【0054】
熱重合の場合は、重合開始剤として、任意の適切な熱重合開始剤を用いることが好ましい。熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4’−ジ(ターシャリーブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイドなどの過酸化物類;7−アゾビスイソブチルニトリルなどのアゾ化合物類;テトラメチルチウラムジスルフィド;等が挙げられる。
【0055】
活性エネルギー線による重合は、製造工程が簡略化できるので、好ましい。活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、重合開始剤として、光重合開始剤を用いることが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、ラジカル重合用光開始剤、カチオン重合用光開始剤が挙げられる。
【0056】
ラジカル重合用光開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン等のアセトフェノン系;ベンゾイン、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン等のアミノベンゾフェノン系;10−ブチル−2−クロロアクリドン;2−エチルアンスラキノン、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン等のキノン系;などが挙げられる。
【0057】
カチオン重合用光開始剤としては、鉄アレーン錯体、アリールスルホニウム塩、アリールヨードニウム塩などが挙げられる。
【0058】
重合開始剤の添加量は、液晶化合物または液晶組成物中に、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%である。
【0059】
上記ラジカル重合用光開始剤を用いる場合、それだけでも硬化し得るが、硬化性をより向上させるために、光増感剤を併用することが好ましい。
【0060】
上記光増感剤としては、任意の適切な光増感剤を採用し得る。例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシル等のアミン類が挙げられる。
【0061】
上記光増感剤の配合量は、液晶化合物または液晶組成物中に、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%である。
【0062】
本発明の液晶化合物を含む上記液晶組成物や本発明の液晶化合物重合体は、任意の適切な用途に適用し得る。例えば、本発明の液晶化合物の複屈折挙動を利用した位相差板、視野角補償板、コレステリック選択反射板等の光学素子、さらには、光異性化挙動を組み込んで光記録材料へ応用展開が可能となる。また、本発明の液晶化合物を含む上記液晶組成物や本発明の液晶化合物重合体は膜形成することが可能であり、スピンコートなどの溶液塗布や熱溶融などの任意の手段により任意の形状へ変化させて使うことが可能である。
【0063】
≪光学素子、光学素子の製造方法≫
本発明の光学素子は、本発明の液晶化合物を含む。また、本発明の光学素子は、本発明の液晶化合物重合体を含む。
【0064】
本発明の光学素子の種類としては、任意の適切な種類が採用され得る。例えば、位相差板、視野角補償板、コレステリック選択反射板が挙げられる。
【0065】
本発明の光学素子を製造する方法としては、任意の適切な製造方法を採用し得る。好ましい実施形態として、本発明の液晶化合物を、配向規制力を有する基板上に塗布し、加熱配向処理した後に室温まで冷却する方法が挙げられる。すなわち、本発明の光学素子の製造方法は、本発明の液晶化合物を、配向規制力を有する基板上に塗布し、加熱配向処理した後に室温まで冷却する。
【0066】
本発明の光学素子の製造方法は、より具体的には、本発明の液晶化合物あるいは本発明の液晶化合物を含む上記液晶組成物を、配向規制力を有する基板上に塗布し、加熱配向処理した後に室温まで冷却する。ここで、配向規制力を有する基板上への塗布は、1枚のみの配向規制力を有する基板を用いて該基板上へ塗布する方法でも良いし、少なくとも一方が配向規制力を有する2枚の基板間に本発明の液晶化合物あるいは本発明の液晶化合物を含む上記液晶組成物を介在させるような塗布方法でも良い。
【0067】
上記配向規制力を有する基板としては、液晶化合物や液晶組成物を配向できるものであれば、任意の適切な基板を採用し得る。例えば、プラスチックのフィルムやシートの表面を、レーヨン布等でラビング処理したものを採用し得る。
【0068】
上記プラスチックとしては、任意の適切なプラスチックを採用し得る。例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)等)、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリノルボルネン、セルロース系プラスチックス、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0069】
上記配向規制力を有する基板としては、アルミ、銅、鉄等の金属製基板やセラミック製基板やガラス製基板等の表面に、上記のようなプラスチックのフィルムやシートを配置したものや、SiO斜方蒸着膜を形成したもの等も使用できる。
【0070】
上記配向規制力を有する基板としては、上記のようなプラスチックのフィルムやシートに、一軸延伸等の延伸処理を施した複屈折性を有する延伸フィルム等を配向膜として積層した積層体も使用することができる。
【0071】
基板自体が複屈折性を有する場合は、ラビング処理や、表面に複屈折性フィルムを積層することは不要となるので、好ましい。このように、基板自体に複屈折性を付与する方法としては、基板の形成において、例えば、延伸処理の他に、キャスティングや押出し成形等を行う方法が挙げられる。また、配向処理を施した基板を用いない場合は、電場や磁場を利用して配向基板とする方法も挙げられる。その中でも、基板表面をレーヨン布等でラビング処理した基板を用いる方法は、その簡便性から好ましい。
【0072】
基板表面をレーヨン布等でラビング処理しても適当な配向性が得られない場合は、例えば、任意の適切な方法によって、ポリイミド薄膜またはポリビニルアルコール薄膜等を基板表面上に形成し、これをレーヨン布等でラビング処理しても良い。
【0073】
本発明の液晶化合物あるいは本発明の液晶化合物を含む上記液晶組成物を、配向規制力を有する基板上に塗布する方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、エクストルージョンコート法、カーテンコート法、スプレーコート法等によって流動展開させれば良い。これらの中でも、塗布効率の点から、スピンコート法、エクストルージョンコート法が好ましい。
【0074】
本発明の光学素子の製造方法における加熱配向処理としては、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、加熱温度としては、用いる液晶化合物の種類に応じて、適宜設定し得る。また、加熱した後に、室温まで冷却することにより、ガラス固定化され、光学補償機能を発現させることが可能となる。
【0075】
本発明の光学素子の製造方法における加熱配向処理として、配向規制力を有する基板上に塗布した本発明の液晶化合物あるいは本発明の液晶化合物を含む上記液晶組成物を、重合することが好ましい。重合方法としては、例えば、熱重合、活性エネルギー線を用いた重合が挙げられる。低温硬化および迅速な硬化を発現できる点から、活性エネルギー線を用いた重合が好ましい。活性エネルギー線の照射は、本発明の液晶化合物あるいは本発明の液晶化合物を含む上記液晶組成物を塗布した基板面または塗布していない基板面のいずれの側から照射しても良いが、塗布していない基板面の側から照射する場合には、例えば、基板が透明性を有していることが必要となる場合がある。
【0076】
上記活性エネルギー線としては、ラジカル性活性種を生成させることができる活性エネルギー線であれば、任意の適切な活性エネルギー線を採用し得る。例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線のような電離放射線;可視光線;マイクロ波;高周波;などが挙げられる。
【0077】
製造が簡便であるという点から、上記重合方法としては、紫外線による重合が好ましい。紫外線を発生させる手段としては、例えば、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、水銀−キセノンランプ、ショートアーク灯等が挙げられる。これらは、ラジカル性活性種を発生させる化合物の吸収波長を考慮して選択すれば良い。
【0078】
本発明の製造方法で得られる光学素子は、基板から剥離して単独の光学フィルムや光学シート(例えば、位相差フィルム)として用いても良いし、基板上に担持させたまま積層体として用いても良い。
【0079】
《偏光板》
本発明の偏光板は、本発明の光学素子を含む。好ましくは、本発明の偏光板は、ポリビニルアルコール系樹脂から形成される偏光子と、偏光子の少なくとも一方に有する偏光子保護フィルムと、本発明の光学素子とを含む。好ましくは、偏光子は接着剤層を介して偏光子保護フィルムに接着されてなる。
【0080】
本発明の偏光板の好ましい実施形態の1つは、偏光子保護フィルム/偏光子/偏光子保護フィルムの積層体の少なくとも一方の面に、少なくとも1つの光学素子が積層されてなる。偏光子の両面に積層された偏光子保護フィルムが、本発明の光学素子であっても良い。
【0081】
偏光子としては、自然光や偏光から任意の偏光に変換し得るフィルムであれば、任意の適切な偏光子が採用され得る。例えば、自然光又は偏光を直線偏光に変換するものが好ましく用いられる。偏光子として好ましくは、入射する光を直交する2つの偏光成分に分けたとき、そのうちの一方の偏光成分を通過させる機能を有し、且つ、そのうちの他方の偏光成分を、吸収、反射、および散乱させる機能から選ばれる少なくとも1つ以上の機能を有するものが用いられる。
【0082】
偏光子の厚みとしては、任意の適切な厚みが採用され得る。偏光子の厚みは、好ましくは5μm〜80μmである。上記の範囲であれば、光学特性や機械的強度に優れるものを得ることができる。
【0083】
偏光子保護フィルムとしては、偏光子の保護フィルムとして使用できる任意の適切なフィルムが採用され得る。このようなフィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。上記ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。TAC、ポリイミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ガラス質系ポリマーが好ましい。それぞれの偏光子保護フィルムは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0084】
偏光子保護フィルムは、透明で、色付きが無いことが好ましい。具体的には、厚み方向の位相差値が、好ましくは−90nm〜+90nmであり、さらに好ましくは−80nm〜+80nmであり、最も好ましくは−70nm〜+70nmである。
【0085】
偏光子保護フィルムの厚みとしては、上記の好ましい厚み方向の位相差が得られる限りにおいて、任意の適切な厚みが採用され得る。具体的には、偏光子保護フィルムの厚みは、好ましくは5mm以下であり、さらに好ましくは1mm以下であり、特に好ましくは1〜500μmであり、最も好ましくは5〜150μmである。
【0086】
本発明において、偏光板を形成する偏光子や光学素子などの各層は、例えば、サリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式などの方式により紫外線吸収能をもたせたものなどであってもよい。
【0087】
本発明の偏光板は、液晶セルの視認側、バックライト側のどちらか片側に設けても、両側に設けてもよく、限定されない。
【0088】
《画像表示装置》
本発明の画像表示装置について説明する。本発明の画像表示装置は本発明の偏光板を少なくとも1枚含む。ここでは一例として液晶表示装置について説明するが、本発明が偏光板を必要とするあらゆる表示装置に適用され得ることはいうまでもない。本発明の偏光板が適用可能な画像表示装置の具体例としては、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)のような自発光型表示装置が挙げられる。図1は、本発明の好ましい実施形態による液晶表示装置の概略断面図である。図示例では透過型液晶表示装置について説明するが、本発明が反射型液晶表示装置等にも適用されることはいうまでもない。
【0089】
液晶表示装置100は、液晶セル10と、液晶セル10を挟んで配された位相差フィルム20、20’と、位相差フィルム20、20’の外側に配された偏光板30、30’と、導光板40と、光源50と、リフレクター60とを備える。偏光板30、30’は、その偏光軸が互いに直交するようにして配置されている。液晶セル10は、一対のガラス基板11、11’と、該基板間に配された表示媒体としての液晶層12とを有する。一方の基板11には、液晶の電気光学特性を制御するスイッチング素子(代表的にはTFT)と、このスイッチング素子にゲート信号を与える走査線およびソース信号を与える信号線とが設けられている(いずれも図示せず)。他方のガラス基板11’には、カラーフィルターを構成するカラー層と遮光層(ブラックマトリックス層)とが設けられている(いずれも図示せず)。基板11、11’の間隔(セルギャップ)は、スペーサー13によって制御されている。本発明の液晶表示装置においては、偏光板30、30’の少なくとも1つとして、上記記載の本発明の偏光板が採用される。
【0090】
例えば、TN方式の場合には、このような液晶表示装置100は、電圧無印加時には液晶層12の液晶分子が、偏光軸を90度ずらすような状態で配列している。そのような状態においては、偏光板によって一方向の光のみが透過した入射光は、液晶分子によって90度ねじられる。上記のように、偏光板はその偏光軸が互いに直交するようにして配置されているので、他方の偏光板に到達した光(偏光)は、当該偏光板を透過する。したがって、電圧無印加時には、液晶表示装置100は白表示を行う(ノーマリホワイト方式)。一方、このような液晶表示装置100に電圧を印加すると、液晶層12内の液晶分子の配列が変化する。その結果、他方の偏光板に到達した光(偏光)は、当該偏光板を透過できず、黒表示となる。このような表示の切り替えを、アクティブ素子を用いて画素ごとに行うことにより、画像が形成される。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例には限定されない。なお、特に示さない限り、実施例中の部およびパーセントは重量基準である。
【0092】
〔実施例1〕
300mLの一口フラスコにγ−オリザノール(10.0g、16.4mmol)とカリウムターシャリーブトキシド(0.184g、1.64mmol)とジターシャリーブチルヒドロキシトルエン(BHT)少量を窒素雰囲気下で仕込み、そこへ、脱水メチルイソブチルケトン(MIBK、50mL)を加えた。オイルバスにて110℃で激しく加熱撹拌しているところへ、メタクリル酸グリシジル(8.6mL、65.5mmol)を加え、4時間加熱撹拌した。原料の消失をシリカゲルTLC(展開溶媒:トルエン/酢酸エチル=4/1)で確認した後、反応懸濁液を室温まで冷却し、酢酸エチルで希釈した。有機相を水で2回、飽和食塩水で数回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で溶媒を留去することで、目的物の粗生成物を得た。さらに、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/酢酸エチル=4/1)によって精製することで、白色のワックス状固体としてγ−オリザノール誘導体(1)を得た(6.53g、8.7mmol、53%)。
【化22】

【0093】
〔実施例2〕
300mLの一口フラスコにγ−オリザノール(15.11g、24.8mmol)と炭酸カリウム(6.85g、49.5mmol)とジターシャリーブチルヒドロキシトルエン(BHT)少量を窒素雰囲気下で仕込み、そこへ、脱水N−メチルピロリドン(NMP、50mL)を加えた。オイルバスにて135℃で激しく加熱撹拌しているところへ、2−クロロエチルアクリレート(5mL、37.2mmol)を加え、3時間加熱撹拌した。原料の消失をシリカゲルTLC(展開溶媒:トルエン/メタノール=100/2)で確認した後、反応懸濁液を室温まで冷却し、沈殿物を濾過により取り除き、濾液に2mol/L塩酸水を加え、酢酸エチルで抽出した。引き続いて、塩酸水と飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で溶媒を留去することで、目的物の粗生成物を得た。さらに、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/メタノール=100/2)によって精製することで、白色のワックス状固体としてγ−オリザノール誘導体(2)を得た(8.19g、11.57mmol、47%)。
【化23】

【0094】
〔実施例3〕
100mLのナスフラスコにγ−オリザノール(5.0g、8.2mmol)、アクリロイルオキシエトキシ安息香酸(2.32g、9.84mmol)、ジメチルアミノピリジニウムp−トルエンスルホン酸塩(DPTS、0.1g、0.82mmol)、ジターシャリーブチルヒドロキシトルエン(BHT)少量、および塩化メチレン(30mL)を仕込んだ。この懸濁液を冷却、撹拌しながら、1−エチル−3−(3’−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC、2.36g、12.3mmol)を少量ずつ加えた。WSCを加えている途中段階で、懸濁液は透明になった。そのまま室温で5時間撹拌し、原料の消失をシリカゲルTLC(展開溶媒:トルエン/メタノール=100/2)で確認した後、反応液をエバポレーションによって濃縮した。この粘調な液体に、撹拌しながら、塩酸水溶液とメタノールと少量の水を加えることで析出する沈殿物を、ブフナーロートに載せたキムワイプによって濾過し、水およびメタノールで洗浄し、そのまま乾燥することで、白色固体としてγ−オリザノール誘導体(3)を得た(5.17g、6.3mmol、77%)。
【化24】

【0095】
〔実施例4〕
水酸化カリウム(42g、750mmol)をエタノール(150mL)と水(150mL)で溶解させると同時に窒素バブリングした(A液)。他方、プロトカテク酸(3,4−ジヒドロキシ安息香酸、23.1g、150mmol)とヨウ化カリウム(2.4g、15mmol)を300mL三口フラスコに用意し、クロロエタノール(40g、600mmol)とエタノール(50mL)の混合物を入れた滴下ロートと窒素風船付きジムロート冷却管をこの三口フラスコに設置し、系内を窒素置換した。三口フラスコ内を撹拌しながら速やかに上記A液を加え、再度、窒素置換した。この二相系液体をバス温度100℃にて激しく撹拌させている状態で、滴下ロート内の「クロロエタノール/エタノール」溶液をゆっくり1時間以上かけて滴下し、そのまま12時間還流撹拌した。沈殿物が析出した反応溶液を室温まで冷却した後、濃塩酸を加えて酸性にしてから、酢酸エチルで数回抽出し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥し、溶媒を留去した。この粗生成物を、アセトン/ヘキサンで再結晶することで、白色結晶(26.2g、108mmol、72%)を得た。
開放系のディーンシュターク還流管付きの一口フラスコ中に、上記白色結晶(7.92g、33mmol)、アクリル酸(11.8mL、163mmol)ヒドロキノン(1.1g、10mmol)、トルエン(200mL)を用意し、室温で撹拌させているところへ、p−トルエンスルホン酸1水和物(1g)を加えた。この懸濁溶液を135℃で加熱還流させると、ディーンシュターク還流管に溜まるトルエンの下層に水がトラップされるので、これを適宜除きながら、3時間加熱還流を続けた。ディーンシュターク還流管にトラップされるトルエンが透明になったら、反応溶液を室温に冷却し、酢酸エチルを加えてから飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液による洗浄を3回行った後、飽和食塩水でも洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を留去した。多少のアクリル酸臭がするウェットな固体の状態で、アセトン/ヘキサン混合溶媒で再結晶することで、白色粉末(7.44g、21.3mmol、65%)を得た。
100mLのナスフラスコに上記白色粉末(5.00g、14.5mmol)、γ−オリザノール(7.26g、11.9mmol)、ジメチルアミノピリジニウムp−トルエンスルホン酸塩(DPTS、0.35g、1.2mmol)、ジターシャリーブチルヒドロキシトルエン(BHT)少量、および塩化メチレン(20mL)を仕込んだ。この懸濁液を冷却、撹拌しながら、1−エチル−3−(3’−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC、3.42g、17.9mmol)を少量ずつ加えた。WSCを加えている途中段階で、懸濁液は透明になった。そのまま室温で5時間撹拌し、溶媒を留去してから、THFと塩酸水溶液とメタノールを加えて析出するキャラメル状物質を取り出した。このキャラメル状物質をトルエンに溶解した後、メタノールを加えると、再度キャラメル状となった。発泡に注意しながら乾燥させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/メタノール=100/3)により精製し、白色固体としてγ−オリザノール誘導体(4)を得た(5.61g、5.95mmol、50%)。
【化25】

【0096】
〔分子量測定〕
実施例1〜4で得られたγ−オリザノール誘導体(1)〜(4)の分子量をMALDI−TOFMS法により測定した。各サンプル1mg、ジスラノール10mg、トリフルオロ酢酸ナトリウム10mgをそれぞれテトラヒドロフラン1mLに溶解した。この溶液を、それぞれ10μL、50μL、10μL採取混合した溶液をサンプルプレートに塗布し、MALDI−TOFMS装置(Kratos Konpact、島津製作所製)を用い、リニアモードで測定した。各化合物二成分の分子量の計算値と、MALDI−TOFMSによって観測された質量値(測定値)を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
MALDI−TOFMS測定では、サンプル化合物に対してプロトンあるいはナトリウムイオンの付加物として質量値が観察されるが、表1の結果からは、二種類の目的化合物にそれぞれプロトン(+1)あるいはナトリウムイオン(+23)に相当するピークのみが600〜1500の分子量領域で観察された。したがって、目的化合物であるγ−オリザノール誘導体(1)〜(4)が得られていることが確認された。
【0099】
〔比較例1〕
300mLのナスフラスコにコレステロール(20.0g、51.5mmol)、少量のDMAP(ジメチルアミノピリジン)、少量のジターシャリーブチルヒドロキシトルエン(BHT)、アセトン(150mL)を用意した。この懸濁液に、ピリジン(6.3mL、77.6mmol)を加え、さらに冷却、撹拌しながら、アクリル酸クロリド(5.0mL、62.1mmol)を少量ずつ加えた。そのまま室温で5時間撹拌し、塩酸水溶液およびメタノールを加えることで生成する沈殿物を濾過により分取、乾燥することで、白色固体の目的物(10.14g、23mmol、44%)を得た。
【化26】

【0100】
〔DSC評価〕
実施例1〜4、比較例1で得られた液晶化合物の液晶温度範囲を測定するために、DSC測定を行った。DSC測定は、SII社製のDSC6200によって行った。サンプル量3〜5mgを用い、室温から150℃への昇温過程、および、150℃から0℃への降温過程を毎分10℃でスキャンしたときの相変化挙動を測定した。結果を表2に示した。
【0101】
〔配向評価〕
実施例1〜4、比較例1で得られた液晶化合物の配向フィルム化を、以下の基本条件によって行った。
溶液:トルエンに20重量%で溶解
光重合開始剤:イルガキュア907(チバスペシャリティーケミカルズ社製)(液晶に対して5重量%)
基材:ガラス基板
フィルム塗布:スピンコートにて1500rpm、30秒
加熱配向:ホットプレート85℃、1分
UV照射:400mJ/cm
実施例1〜4、比較例1で得られた液晶化合物の液晶性を示す最低温度、基材上での薄膜(約2μm厚)の配向挙動を表2に示す。
【0102】
【表2】

【0103】
実施例1で得られた液晶化合物の相変化挙動においては、19℃で液晶相(スメクチック相)の状態となった後、100℃より高い温度で分解した。
【0104】
実施例2で得られた液晶化合物の相変化挙動においては、30℃で液晶相(スメクチック相)の状態となった後、99℃で異なった液晶相(コレステリック相)の状態となり、その後、114℃で等方相へと変化した。
【0105】
実施例3で得られた液晶化合物の相変化挙動においては、43℃で液晶相(スメクチック相)の状態となった後、100℃より高い温度で分解した。
【0106】
実施例4で得られた液晶化合物の相変化挙動においては、31℃で液晶相(スメクチック相)の状態となった後、104℃で異なった液晶相(コレステリック相)の状態となり、その後、137℃で等方相へと変化した。
【0107】
比較例1で得られた液晶化合物の相変化挙動においては、88℃で液晶相(コレステリック相)の状態となった後、123℃で等方相へと変化した。
【0108】
表2に示すように、実施例1〜4の化合物は液晶性を示すとともに、室温への冷却の過程でガラス化したため、ガラス基板上で均一に垂直配向した状態をそのままガラス固定化することができた。しかし、比較例1の化合物は、液晶性を示したものの、冷却過程で結晶化したため、室温においては微結晶からなる白濁した薄膜が得られた。また、実施例1〜4の化合物は液晶性を示す最低温度が室温付近であったが、比較例1の化合物は液晶性を示す最低温度が88℃となって高かった。さらに、実施例1〜4の化合物をガラス基板上に塗布したことによって得られた薄膜は、さらにUV照射することによって、分子内のアクリル基の架橋によって、その垂直配向状態をそのまま固定化することができた。
【0109】
以上のように、本発明のγ−オリザノール誘導体は、二成分の低分子であるにも関わらず、薄膜塗布および冷却によって簡便に均一配向状態をガラス固定化できる液晶材料であることが判明した。また、本発明のγ−オリザノール誘導体は、γ−オリザノールと同様なステロイド骨格であるコレステロールおよびアクリル架橋基を有する低分子液晶化合物とは異なるガラス化液晶材料であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のγ−オリザノール誘導体は、液晶化合物として好適であり、かかる液晶化合物は、液晶化合物重合体、光学素子、偏光板、および画像表示装置に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の好ましい実施形態による液晶表示装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0112】
10 液晶セル
11、11´ ガラス基板
12 液晶層
13 スペーサー
20、20´ 位相差フィルム
30、30´ 偏光板
40 導光板
50 光源
60 リフレクター
100 液晶表示装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される、γ−オリザノール誘導体。
【化1】

一般式(1)中、Rは一般式(2)で表される基のいずれかであり、Aは架橋基を含む基であり、Bはエーテル基、エステル基、カーボネート基のいずれかである。
【化2】

【請求項2】
前記Aに含まれる架橋基が、アクリル基およびメタクリル基から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のγ−オリザノール誘導体。
【請求項3】
前記Bがエーテル基またはカーボネート基の場合、前記Aが一般式(3−A)〜(3−D)のいずれかで表される基であり、前記Bがエステル基の場合、前記Aが一般式(4−A)〜(4−C)のいずれかで表される基である、請求項1または2に記載のγ−オリザノール誘導体。
【化3】

【化4】

一般式(3−A)〜(3−D)、一般式(4−A)〜(4−C)において、Yは独立に炭素数2〜12のアルキレン基であって該基に含まれる1個のメチレン基または隣接しない2個以上のメチレン基は酸素結合に置換されていてもよく、Xは水素原子またはメチル基であり、Mはアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していてもよい一般式(5−A)〜(5−G)のいずれかで表される環構造であり、Qは環構造Mにn個(nは1以上)結合されている一般式(6−A)または(6−B)のいずれかで表される基である。
【化5】

【化6】

【請求項4】
請求項1から3までのいずれかに記載のγ−オリザノール誘導体からなる、液晶化合物。
【請求項5】
請求項4に記載の液晶化合物を重合して得られる、液晶化合物重合体。
【請求項6】
請求項4に記載の液晶化合物を、配向規制力を有する基板上に塗布し、加熱配向処理した後に室温まで冷却する、光学素子の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の液晶化合物を含む、光学素子。
【請求項8】
請求項5に記載の液晶化合物重合体を含む、光学素子。
【請求項9】
請求項7または8に記載の光学素子を含む、偏光板。
【請求項10】
請求項9に記載の偏光板を少なくとも1枚含む、画像表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−96741(P2009−96741A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268070(P2007−268070)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】