説明

さび除去剤水溶液

【課題】人体や環境への影響が小さくしつつも、有機酸を高濃度に溶解でき、且つ、さびとの反応速度が速いさび除去剤水溶液を提供する。
【解決手段】水溶液全体を基準(100重量%)として、有機酸(A)を0.5重量%以上25重量%以下含有し、有機酸(A)に対する中和率が100%以上150%以下となるようにアミンを含有し、さらに、アミンに対する中和率が80%以上となるように有機酸(B)及び/又は無機酸を含有し、有機酸(A)が、蓚酸、スルファミン酸、グリシン、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸及びグリオキシル酸のうちの少なくとも1種であり、有機酸(B)が、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、ブチル酸及びメタンスルホン酸のうちの少なくとも1種であり、無機酸が、塩酸、硝酸、硫酸及び燐酸のうちの少なくとも1種である、さび除去剤水溶液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、さび除去剤に関する。詳細には、ステンレス鋼外装材、鉄道車両の外板等の金属或いは塗装面のさび除去を目的としたさび除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、さび除去剤は酸性フッ化アンモニウム(特許文献1)、チオグリコール酸ナトリウム(特許文献2)、塩酸、硫酸、燐酸、蓚酸及びその塩(特許文献3)、スルファミン酸、クエン酸等を組み合わせたものが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−249488号公報
【特許文献2】特開2002−105497号公報
【特許文献3】特開2010−65239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸性フッ化アンモニウムはさび除去性に優れるが、人体への影響が大きい。また、燐酸、スルファミン酸、クエン酸等の有機酸は、人体への影響は小さいが、さび除去性に劣り、特に、さびとの反応速度が遅いという問題がある。
【0005】
有機酸の中でも、特に蓚酸及びその塩は、人体への影響が少なく、比較的さび除去性に優れるが、低濃度ではさび除去速度が低いため、一部のステンレス車両にあっては強固なさび汚れを短時間で除去することが困難であり、濃度を高くして使用するのが一般的である。しかしながら、蓚酸は水に対する溶解度が小さく、さび除去剤水溶液中に多量に溶解させることができない。そのため、通常は溶剤等の可溶化剤で蓚酸を溶解させることとなるが、このような可溶化剤は化学的酸素要求量(COD)及び生物化学的酸素要求量(BOD)を増加させ、排水処理の負荷が大きくなる。
【0006】
このように、人体や環境への影響を小さくしつつも、有機酸を高濃度に可溶化でき、且つ、さびとの反応速度が速いさび除去剤は従来得られていなかった。
【0007】
また、鉄道車両の外板のさび除去は定期的に手洗い作業によって行われるが、さび除去剤を塗布してからすすぎまでの作業時間を十分に取れない場合が多い。すなわち、特に鉄道車両の外板の用途におけるさび除去剤には、さびとの反応速度の速いものが求められていた。
【0008】
そこで本発明は、人体や環境への影響を小さくしつつも、有機酸を高濃度に溶解でき、且つ、さびとの反応速度が速いさび除去剤水溶液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、有機酸(A)と有機酸(B)及び/又は無機酸とアミンとを組み合わせることにより、有機酸を高濃度に溶解でき、さび除去剤のさび除去速度を大幅に向上できることを知見した。
【0010】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
本発明は、水溶液全体を基準(100重量%)として、有機酸(A)を0.5重量%以上25重量%以下含有し、当該有機酸(A)に対する中和率が100%以上150%以下となるようにアミンを含有し、さらに、当該アミンに対する中和率が80%以上となるように有機酸(B)及び/又は無機酸を含有する、さび除去剤水溶液である。
【0011】
本発明において、アミンの「有機酸(A)に対する中和率」とは、((添加したアミンの当量)/(有機酸(A)の当量))×100として計算することができる。また、有機酸(B)及び/又は無機酸の「アミンに対する中和率」とは、((有機酸(B)及び/又は無機酸の当量)/(添加したアミンの当量))×100として計算することができる。すなわち、本発明における「中和率」とは、実際に中和されている割合を意味するのではない。本発明においては、上記式により求められる各中和率を用いることで、例えば、水溶液中の有機酸(A)の添加量を基準としてアミン添加量を決定することができ、当該アミン添加量を基準として有機酸(B)及び/又は無機酸の添加量を決定することができる。或いは、アミン添加量を基準として、有機酸(A)と有機酸(B)及び/又は無機酸とその他成分(水)との含有量を決定することも可能である。
【0012】
本発明において「有機酸(A)」としては、蓚酸、スルファミン酸、グリシン、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸及びグリオキシル酸のうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0013】
本発明において「有機酸(B)」としては、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、ブチル酸及びメタンスルホン酸のうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0014】
本発明において「無機酸」としては、塩酸、硝酸、硫酸及び燐酸のうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0015】
本発明において「アミン」としては、アルカノールアミン及びアルキルアミンのうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0016】
本発明に係るさび除去剤水溶液は、ステンレス鋼外装材のさびを除去する場合や、鉄道車両の外板のさびを除去する場合に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、さび除去剤水溶液中に、有機酸(A)と有機酸(B)及び/又は無機酸とアミンとが組み合わされて含有される。これにより有機酸を高濃度で溶解させることができ、さび除去剤のさび除去速度を大幅に向上できる。有機酸やアミンは、人体への影響が小さく、環境負荷も小さい。すなわち、本発明によれば、人体や環境への影響を小さくしつつも、有機酸を高濃度に溶解でき、且つ、さびとの反応速度が速いさび除去剤水溶液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<さび除去剤水溶液>
本発明に係るさび除去剤水溶液においては、有機酸(A)とアミンと有機酸(B)及び/又は無機酸とが組み合わされて用いられる。
【0019】
1.有機酸(A)
本発明において用いられる有機酸(A)は、蓚酸、スルファミン酸、グリシン、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸、グリオキシル酸のうちの少なくとも1種である。この中でも、蓚酸、スルファミン酸、グリオキシル酸、リンゴ酸が好ましく、蓚酸が特に好ましい。
【0020】
本発明に係るさび除去剤水溶液において、有機酸(A)は、水溶液全体を基準(100重量%)として、0.5重量%以上25重量%以下含まれている。有機酸(A)の含有量の下限は好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上である。有機酸(A)の濃度が低すぎると、さび除去速度が小さくなってしまう。一方、上限については有機酸(A)の飽和濃度にもよるが、23質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよい。
【0021】
従来のさび除去剤にあっては、水に対する飽和濃度を超えて有機酸を溶解させるために、溶剤等の可溶化剤を併用していたが、可溶化剤を多量に使用することは、COD及びBODを増加させ、環境負荷の観点或いは人体への影響の観点から好ましくない。本発明では、水溶液中に有機酸(A)と下記アミンと下記有機酸(B)及び/又は無機酸とを含ませることで、有機酸を高濃度で溶解させ、且つ、さび除去速度を増大させることができる。
【0022】
2.アミン
本発明において用いられるアミンは、アルカノールアミン及びアルキルアミンのうちの少なくとも1種である。例えば、モノアミンを用いることができる。具体的には、アルカノールアミンとして、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、アミノメチルプロパノールアミン等を用いることができる。アルキルアミンは、炭素数1〜12のアルキル基を有するアミンであり、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、n−アミルアミン、イソアミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ノニルアミン、デカンアミン、ドデカンアミン等を用いることができる。
【0023】
本発明に係るさび除去剤水溶液において、アミンの含有量は有機酸(A)に対する中和率が100%以上150%以下となる量であり、好ましくは100%以上130%以下、より好ましくは100%以上120%以下となる量である。本発明においては、中和率が低すぎても高すぎても、さび除去性に劣る傾向にある。尚、本発明においてアミンの「有機酸(A)に対する中和率」とは下記の式で表されるものである。
【0024】
【数1】

【0025】
3.有機酸(B)及び/又は無機酸
本発明に係るさび除去剤水溶液には、上記の有機酸(A)及びアミンに加えて、さらに、有機酸(B)及び/又は無機酸が含有される。有機酸(B)としては、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、ブチル酸及びメタンスルホン酸のうちの少なくとも1種を用いることができ、この中でも酢酸、ギ酸、プロピオン酸、ブチル酸が好ましく、特に酢酸が好ましい。無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸及び燐酸のうちの少なくとも1種を用いることができ、この中でも特に塩酸が好ましい。
【0026】
本発明に係るさび除去剤水溶液において、有機酸(B)及び/又は無機酸の含有量は、上記アミンに対する中和率が80%以上となる量であり、好ましくは100%以上となる量である。本発明においては、有機酸(B)及び/又は無機酸のアミンに対する中和率が低すぎる場合、さび除去性に劣る傾向にある。また、有機酸(B)及び/又は無機酸の含有量の上限については、水に可溶な限り添加することができるが、取り扱い性等を鑑みると、アミンに対する中和率が200%となる程度の量までとすることが好ましい。尚、本発明において有機酸(B)及び/又は無機酸の「アミンに対する中和率」とは下記の式で表されるものである。
【0027】
【数2】

【0028】
4.その他成分
本発明に係るさび除去剤水溶液は、上記成分以外の残部は水とすることができる。ただし、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤を使用してもよい。添加剤としては、界面活性剤、増粘剤、グリコール系溶剤、アルコール系溶剤等が挙げられる。尚、可溶化剤として使用できるグリコール系溶剤、アルコール系溶剤は、配合量にもよるが、COD及びBODを増加させ、排水処理の負荷が大きくなることがある。このような問題を防ぐ観点からは、グリコール系溶剤やアルコール系溶剤はできるだけ使用しないことが好ましく、実質的に含まないものとすることが特に好ましい。
【0029】
尚、本発明に係るさび除去剤水溶液においては、必ずしも上記有機酸等をすべて溶解させる必要はなく、本発明の効果を損なわない範囲であれば、水溶液中に有機酸等が固体として一部残存するような形態であってもよい。本発明に係るさび除去剤水溶液は、例えば、有機酸(A)とアミンと有機酸(B)及び/又は無機酸と任意に上記その他成分とを水に添加することによって得ることができる。
【0030】
<さび除去剤水溶液の用途>
本発明に係るさび除去剤水溶液は、環境や人体への影響を小さくしつつ、有機酸を高濃度で溶解させることができるため、さび除去速度が大きく、さび除去性能に優れたものである。これにより、ステンレス鋼外装材、ステンレス鋼製の流し台、鉄道車両の外板等の塗装面又は金属面のさびを除去する場合に好適に用いることができる。特に、迅速にさびを除去する必要がある、鉄道車両の外板等の塗装面又は金属面のさびを除去するためのさび除去剤として好適である。
【実施例】
【0031】
(実施例1〜10、比較例1〜8)
表1、2に示す配合比率となるように、実施例及び比較例に係るさび除去剤水溶液を調製した。尚、表1、2における各成分としては下記のものを用いた。
(蓚酸)
三菱ガス化学社製、蓚酸2水和物、純度99.5%以上
(スルファミン酸)
日産化学工業社製、スルファミン酸(99.5%以上)
(グリオキシル酸)
メルク株式会社、グリオキシル酸・1水和物(98%以上)
(リンゴ酸)
純正化学株式会社、DLリンゴ酸(99%以上)
(ジエタノールアミン)
ダウケミカル日本社製、ジエタノールアミンLFG(95%以上)
(塩酸)
鶴見曹達社製、塩酸(12N)
(硝酸)
宇部興産社製、濃硝酸(98%以上)
(酢酸)
協和発酵ケミカル社製、酢酸(99.3%以上)
【0032】
調製したさび除去剤水溶液は、以下の評価方法によりさび除去性を評価した。
【0033】
プラスチックシャーレ(φ50mm)に鋳物切屑を入れ、水を加えた後、液切りをして蓋をした。次いで、2日間放置してから蓋を取り外し、室温で乾燥させた後、鋳物切屑を取り除き、さびが転写されたシャーレを試験片として用いた。当該試験片にさび除去剤水溶液を5g加え、経時でのさび除去スピードを評価した。評価基準は下記の通りとした。
◎:45分以内に、さびがほとんど除去される。
○:1.5時間以内に、さびがほとんど除去される。
△:3時間以内に、さびがほとんど除去される。
×:3時間後でも、さびが明らかに残存する。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
表1から明らかなように、実施例1〜10に係るさび除去剤水溶液のさび除去速度は、比較例と比べて速い。また、実施例の有機酸(A)の量が本発明の上限値付近の場合でアミン中和率が150%付近の場合、さび除去剤において水がごく少量となるものの、水に可溶な限り、有機酸(B)及び/又は無機酸を配合でき、そのさび除去速度は特に優れたものとなることが分かる。一方、比較例1は有機酸(A)の含有量が本発明よりも少なく、比較例2及び6は有機酸(A)に対するアミン中和率が本発明よりも小さく、比較例4は有機酸(A)に対するアミン中和率が本発明よりも大きく、比較例3、5及び7はアミンに対する無機酸の中和率が本発明よりも小さく、比較例8はアミンに対する有機酸(B)の中和率が本発明よりも小さいため、さび除去速度が遅い。以上のように本発明によれば、人体や環境への影響が小さくしつつも、有機酸を高濃度に溶解でき、且つ、さびとの反応速度が速いさび除去剤水溶液を提供することができる。
【0037】
以上、現時点において、最も実践的であり、且つ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うさび除去剤水溶液もまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係るさび除去剤水溶液は、ステンレス鋼外装材、ステンレス鋼製の流し台、鉄道車両の外板等の塗装面又は金属面のさびを除去する場合に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液全体を基準(100重量%)として、有機酸(A)を0.5重量%以上25重量%以下含有し、
前記有機酸(A)に対する中和率が100%以上150%以下となるようにアミンを含有し、
さらに、前記アミンに対する中和率が80%以上となるように有機酸(B)及び/又は無機酸を含有し、
前記有機酸(A)が、蓚酸、スルファミン酸、グリシン、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸及びグリオキシル酸のうちの少なくとも1種であり、
前記有機酸(B)が、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、ブチル酸及びメタンスルホン酸のうちの少なくとも1種であり、
前記無機酸が、塩酸、硝酸、硫酸及び燐酸のうちの少なくとも1種である、
さび除去剤水溶液。
【請求項2】
前記アミンが、アルカノールアミン及びアルキルアミンのうちの少なくとも1種である、請求項1に記載のさび除去剤水溶液。
【請求項3】
ステンレス鋼外装材のさびを除去するための、請求項1又は2に記載のさび除去剤水溶液。
【請求項4】
鉄道車両の外板のさびを除去するための、請求項1又は2に記載のさび除去剤水溶液。

【公開番号】特開2013−10987(P2013−10987A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143811(P2011−143811)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】