説明

しぼ加工表面を有する樹脂成形品

【課題】良好な外観や触感を与え、かつ従来のしぼ加工部分による不都合がなく、表面にしぼ加工された部分を有する樹脂成形品を提供する。
【解決手段】表面にしぼ加工された部分と、しぼ加工されていない部分の表面を有する樹脂成形品であって、しぼ加工部分2の凹凸の頂点4が、しぼ加工されていない部分の表面と、ほぼ同一の平面上にある樹脂成形品。該しぼ加工部分の凹凸の頂点と、しぼ加工されていない部分の表面の平均高低差が、0.1mm以下であることが好ましい。該樹脂成形品により、外観と実用性に優れた樹脂製トレイが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にしぼ加工された部分を有する樹脂成形品に関する。さらに詳しくは、本発明は、しぼ加工部分の凹凸の頂点が、非しぼ加工表面とほぼ同一の平面上にある樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品の表面には、良好な外観や触感を得るために種々の色彩や形状を持たせるための塗装や加工が施されている。
このような加工方法の中に、樹脂成形品の表面形状によって、所望の外観や触感を付与する技術としてしぼ加工があり、樹脂成形品の表面加工方法として慣用されている。
【0003】
しかしながら、このように慣用されているしぼ加工は、容易に所望の外観や触感を付与する技術ではあるが、これを実用的な観点からみると、使用上不都合が生じることがあったので、実用的な樹脂成形品へのしぼ加工は制限されていた。
すなわち、従来公知のしぼ加工を施された樹脂成形品においては、その表面においてしぼ加工を施された部分が、しぼ加工を施された部分の表面より盛り上がっているために、表面平滑性が求められる樹脂成形品には、しぼ加工を施すことができなかった。
【0004】
樹脂製トレイは、軽量で、成形が容易であり、比較的低いコストで入手できることから、集団給食用、食堂用などに多く使用されている。このような樹脂製トレイの表面部分に装飾性付与または触感改善のためにしぼ加工を施すと、しぼ加工部分が盛り上がっているために、トレイ表面が平滑な平面とはならないので、食器を載置した場合に不安定となり、載置した食器が滑って移動したりする不都合があった。このようなトレイの場合、表面を平滑にするためにしぼ加工部分の盛り上がった部分を削り取ると、しぼ加工した効果が損なわれることになる。
このような、表面にしぼ加工された樹脂加工品の不具合については、それを改善する提案はなされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
良好な外観や触感を与え、かつ従来のしぼ加工部分による不都合がない、表面にしぼ加工された部分を有する樹脂成形品を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、表面にしぼ加工された部分を有する樹脂成形品であって、しぼ加工部分の凹凸の頂点が、しぼ加工されていない部分の表面と、ほぼ同一の平面上にあることを特徴とする樹脂成形品を提供する。
【0007】
前記しぼ加工部分の凹凸の頂点と、前記しぼ加工されていない部分の表面の平均高低差が、0.1mm以下である前記した樹脂成形品は、本発明の好ましい態様である。
【0008】
表面が、複数のしぼ加工された部分と、複数のしぼ加工されていない部分からなる前記した樹脂成形品は、本発明の好ましい態様である。
【0009】
前記樹脂成形品のしぼ加工を施した面において、しぼ加工された部分が面積において30〜60%を占める前記した樹脂成形品は、本発明の好ましい態様である。
【0010】
樹脂成形品が、トレイである態様は本発明の好ましい態様であり、表面が滑り止め加工されているトレイはより好ましい態様である。
のことを特徴とする請求項4に記載の樹脂成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、しぼ加工部分が盛り上がっていることから生じる不都合がない樹脂成形品が提供される。
本発明により、良好な外観や触感を与え、かつしぼ加工による不都合がない樹脂成形品が提供される。
本発明により、良好な外観や触感を与え、かつ従来のしぼ加工部分により生じる不都合がない樹脂製トレイが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、表面にしぼ加工された部分を有する樹脂成形品であって、しぼ加工部分の凹凸の頂点が、しぼ加工されていない部分の表面と、ほぼ同一の平面上にあることを特徴とする樹脂成形品を提供する。
【0013】
本発明において「しぼ加工」とは、表面に多数の微細な凹凸を形成させることをいう。本発明のしぼは、通常皮しぼとか梨地と呼ばれる表面の凹凸も含むものである。凹凸のうち滑らかな曲線を描く凹凸は、本発明のしぼのうちでより好ましい態様である。
【0014】
しぼ加工の調節は、凹凸の密度や大きさを変更するなどの設計変更をすることにより行うことができる。しぼ加工による凹凸の高さは適宜選択することができるので制限はない。所望の外観または触感が得られる凹凸の高さを選ぶことができる。
また、しぼ加工による凹凸は、断面視で種々の形状を取ることができる。
【0015】
このような成形品にしぼ加工を施す方法の好ましい例としては、樹脂製成形品を成形するときに、用いる成形品表面で、表面にしぼ加工を施す箇所に相当する部分をしぼ加工しておく方法を挙げることができる。金型の表面加工は、化学的又は物理的処理によって金型の表面に多数の微細な凹凸を形成し,その加工面をしぼ加工することによって行うことができる。このようなしぼ加工は、例えばサンドブラストやショットブラストなどのブラスト法によって物理的に行うことができるし、またエッチング法などで表面を腐蝕させる化学的方法によって行うこともできる。
【0016】
従来のしぼ加工金型は、金型の表面しぼ加工をしたものを樹脂の成形に用いるために、成形品のしぼ加工部分が盛り上がっていることから不都合が生じたが、本発明の樹脂成形品を得る好ましい態様としての成形方法においては、しぼ加工していない部分の表面高さが、しぼ部分の最凹部の高さとほぼ同じにした金型を用いて成形することによって、本発明の樹脂成形品を得ることができる。このような金型を得るには、例えば金型表面をしぼ加工した後に、しぼ加工していない部分をエッチング法などで腐蝕させて、しぼ部分の最凹部とほぼ同じの高さまでその高さを減じることによって得ることができる。また、しぼ加工を行うのと同時にしぼ加工していない部分の腐蝕を行ってもよい。
【0017】
このような金型は、従来知られたものとは異なるものであり、またこのような金型を用いる樹脂成形方法もまた従来知られていた成形方法と異なるものである。
【0018】
本発明の樹脂成形品を構成する樹脂としては特に制限はなく、熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でもよい。具体的な例として、熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、フラン系樹脂、珪素系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ポリイミド系樹脂などが挙げられ、熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂等、及びそれらのアロイ化物などが挙げられる。中で、熱硬化性樹脂としては不飽和ポリエステル系樹脂を、熱可塑性樹脂としてはポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレンをより好ましいものとして挙げることができる。特には、不飽和ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0019】
本発明の樹脂には、必要に応じて、ゴム、充填材、可塑剤、及び、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、潤滑剤、滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、防菌剤、蛍光増白剤、分散剤、着色剤等の添加剤等が配合されていてもよい。また異なった種類の樹脂が混合されていてもよい。
【0020】
本発明の表面にしぼ加工された部分を有する樹脂成形品の特徴を図1の概略図に基いて説明する。図1に示した成形品表面1には凹凸を形成させたしぼ加工部分2と、しぼ加工されていない平滑部分3がある。しぼ加工部分2の頂点4は、平滑部分3の表面とほぼ同一面にある。
【0021】
本発明において、ほぼ同一の平面上にあるとは、高さに実質的な差異がないことをいう。例えば、しぼ加工部分2の頂点の高さと、平滑部分3の表面の高さをダイヤルゲージで測定したとき、それぞれ複数点で測定した平均高低差値が、0.1mm以下、好ましくは0.03mm以下であることをいう。
【0022】
従来公知のしぼ加工を施した樹脂成形品の表面状態を、図2の概略図によって説明する。図2に示した成形品表面1には凹凸を形成させたしぼ加工部分2と、しぼ加工されていない平滑部分3がある。しぼ加工部分2の頂点4は、平滑部分3の表面よりも高い位置にあり、しぼ加工部分2が盛り上がった状態になっている。
【0023】
本発明の樹脂成形品を得るための成形方法もまた、特に制限されるものではなく、目的とする成形品に応じて従来公知の成形方法から適宜選択して使用することができる。中でも成形方法の好ましいものとして、射出成形方法、圧縮成形方法などを挙げることができる。
【0024】
本発明の樹脂成形品の形状についても、特に制限はなく、種々の形状の成形品であり得る。シートやパイプなどの連続する形状の成形品であってもよく、また特定の形状を有する成形体であってもよい。本発明により、外観と実用性に優れた樹脂製トレイが得られるので、樹脂製トレイは本発明の樹脂成形品の好適な例である。
【0025】
以下に本発明の具体的態様を、樹脂成形品として樹脂製トレイを例にして説明する。
樹脂製トレイの形状は、特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜選択することができる。たとえば、給仕用に用いられるトレイでは、通常食器の転落を防ぐため、縁部に上方突起部を有する浅い底を持った容器状に成形される。大きさもまた、特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0026】
図3は、学校、病院や企業の社員食堂など大規模に給食する施設における配膳用に好適に使用される樹脂製トレイを示す概略図である。図3の樹脂製トレイには、ゴバン目状に升目が見られるが、しぼ加工部分と、しぼ加工されていない平滑部分が縦横に交互に配置されていて、外観上いわゆる市松模様を構成していて美観を感じさせるトレイである。
【0027】
図4は、図3に示した樹脂製トレイ5を示す平面図である。図3の樹脂製トレイ5には、縁部に上方突起部6が形成されている。トレイ表面には、しぼ加工部分7と、しぼ加工されていない平滑部分8が縦横に交互に配置されている。図5は、図4の樹脂製トレイの正面図である。
【0028】
図6は、図4のA−Aにおけるの樹脂製トレイの断面図である。図6は、しぼ加工部分7の頂点と、しぼ加工されていない平滑部分8の表面がほぼ同一の面にあることを示している。
【0029】
図7は、後記実施例1で実際に成形した樹脂製トレイの断面写真を示す。図7の左半分がしぼ加工部分であり、右半分がしぼ加工を施していない部分である。しぼ加工部分の頂点の高さが、しぼ加工されていない平滑部分8の表面の高さとほぼ同一の面にあることが、具体的例として示されている。
【0030】
本発明に基いて製造された、例えば図3に示す樹脂製トレイは、優れた美的外観を有し、心地よい触感を有すると共に、平滑な平面を有するので、安定して食器類を載置できるという優れた樹脂製トレイであって、極めて商品価値の高いものである。
【0031】
このような本発明に基いて製造された樹脂製トレイは、その表面が滑り止め加工が施されている場合、さらに好適な樹脂製トレイとなる。滑り止め加工の方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。滑り止め加工例の一つとして、滑り止め効果のある樹脂皮膜をトレイ表面に形成させる方法を挙げることができる。このような滑り止め加工も、本発明の樹脂製トレイのしぼ加工部分の頂点が、しぼ加工されていない平滑面とほぼ同一の高さであるので、その効果が十分に発揮される。
【0032】
本発明の樹脂成形品においては、表面が複数のしぼ加工された部分と、複数のしぼ加工されていない部分からなる前記した樹脂成形品は、本発明の好ましい態様である。
【0033】
また、本発明の樹脂成形品において、前記樹脂成形品のしぼ加工を施した面において、しぼ加工された部分が面積において30〜60%を占める前記した樹脂成形品は、本発明の好ましい態様である。
【0034】
以上詳細に説明したとおり、本発明によって、外観にすぐれかつ実用上何らの支障も生じさせない優れた樹脂成形品を得ることができる。
【実施例1】
【0035】
以下に本発明の具体的例を示して、本発明をより詳細に説明をするが、本発明はこの例によって何ら制限されるものではない。
【0036】
(実施例1)
樹脂として、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体を用い、前記段落[0015]に記載された金型を用いて、射出成形方法によって、樹脂製トレイを成形した。
得られた樹脂製トレイのサイズは、縦33cm、横33cmで、平面部の厚さは2.5mmであった。
平面部表面には、図4に示すような、2.5cm四方のゴバン目状に、しぼ加工部分と、しぼ加工されていない平滑部分が縦横交互に配置された、市松模様が構成されている。
得られた樹脂製トレイの平面部において、隣接するしぼ加工部分と、しぼ加工されていない部分を任意に10箇所(表1の1〜10)、ハイトゲージにダイヤルゲージをセットした測定器で、測定精度1/100mmとして測定した。
結果を表1に示すが、しぼ加工部分の高さは、しぼ加工されていない部分に対する高低差で表した。(−)は低いことを表す。高低差の平均値は、0.008mmであった。
なお、得られた樹脂製トレイの平面部の断面写真を図7として示した。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、外観にすぐれかつ従来しぼ加工部分から生じる不都合がなく、実用上何らの支障も生じさせない優れた樹脂成形品が提供される。
本発明により、良好な外観や触感を与え、かつ従来のしぼ加工部分により生じる不都合がない樹脂製トレイが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の樹脂成形品のしぼ加工部分と、非しぼ加工部分を示す概略図である。
【図2】従来樹脂成形品のしぼ加工部分と、非しぼ加工部分を示す概略図である。
【図3】本発明の樹脂製トレイを示す概略図である。
【図4】本発明の樹脂製トレイの平面図である。
【図5】図4の樹脂製トレイの正面図である。
【図6】図4の樹脂製トレイのA−A断面図である。
【図7】実施例1の樹脂製トレイの断面写真である。
【符号の説明】
【0040】
1.成形品表面
2.しぼ加工部分
3.平滑部分
4.しぼ加工部分の頂点
5.樹脂製トレイ
6.上方突起部
7.樹脂製トレイのしぼ加工部分
8.樹脂トレイの平滑部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にしぼ加工された部分を有する樹脂成形品であって、しぼ加工部分の凹凸の頂点が、しぼ加工されていない部分の表面と、ほぼ同一の平面上にあることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
前記しぼ加工部分の凹凸の頂点と、前記しぼ加工されていない部分の表面の平均高低差が、0.1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形品。
【請求項3】
前記樹脂成形品の表面が、複数のしぼ加工された部分と、複数のしぼ加工されていない部分からなることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂成形品。
【請求項4】
前記樹脂成形品のしぼ加工を施した面において、しぼ加工された部分が面積において30〜60%を占めることを特長とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂成形品。
【請求項5】
樹脂成形品が、トレイであることを特徴とする請求項1〜4に記載の樹脂成形品。
【請求項6】
前記トレイの表面が滑り止め加工されていることを特徴とする請求項5に記載の樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−307723(P2008−307723A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155785(P2007−155785)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000176176)三信化工株式会社 (34)
【Fターム(参考)】