説明

し尿系汚水の処理方法および処理装置

【課題】 脱水処理において過度にBODを除去せず、また、浄化槽汚泥の混合率が低くても適用可能であり、しかも、無機凝集剤の使用量も少ない、し尿系汚水の処理方法および処理装置を提供する。
【解決手段】 浄化槽汚泥とし尿との混合物に高分子凝集剤を添加して凝集処理する凝集槽7と、凝集槽7において生成した凝集物の脱水機8と、脱水機8より得られる脱水分離液に無機凝集剤を添加して凝集処理する凝集混和槽9と、凝集混和槽9より排出される凝集処理液を生物学的硝化脱窒処理する生物処理槽10とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、し尿系汚水の処理方法および処理装置、広くは、し尿、浄化槽汚泥、雑排水、その他の有機性排水等からなるし尿系汚水、特に、浄化槽汚泥を主な処理対象とする、し尿系汚水の処理方法および処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、し尿等と浄化槽汚泥との混合処理に供給される浄化槽汚泥の比率が増大しており、浄化槽汚泥を主な処理対象とする、し尿系汚水の処理方法が提供されている。その一例が特許文献1(特許第2936938号公報)に開示されている。以下、このし尿系汚水の処理方法を従来処理方法という。
【0003】
従来処理方法は、し尿に浄化槽汚泥を混合した後、無機凝集剤と高分子凝集剤とを添加し、脱水し、得られる脱水分離液を生物学的硝化脱窒処理する方法であって、し尿と混合する浄化槽汚泥の量を、このし尿の2倍以上とすることに特徴を有するものである。以下、図2の処理システムのブロック図を参照しながら、従来処理方法をさらに説明する。
【0004】
浄化槽汚泥は、浄化槽汚泥受入槽14に受け入れられ、一方、し尿は、し尿受入槽15に受け入れられ、これらは前処理装置16に送られて、夾雑物が除去された後、貯留槽17に貯留される。この貯留槽17には、し尿貯留槽18内のし尿が所定の比率で送られる。貯留槽17においてし尿と浄化槽汚泥とが所定比率で混合された混合液は、反応槽19に送られ、無機凝集剤が添加されて、浄化槽汚泥やし尿に含まれるリンや高分子有機物が不溶化される。不溶化処理液は、造粒濃縮槽20に送られ、両性ポリマーの添加により造粒濃縮処理される。この造粒濃縮液は、脱水機21に送られて脱水処理される。この脱水処理により、リンの90%以上が脱水ケーキとして排出される。一方、分離液は、貯留槽22を経て生物処理槽23に送られ、生物学的硝化脱窒処理される。生物処理槽23において発生する余剰汚泥は、貯留槽17に返送される。生物処理槽23において得られた微生物を含む生物処理水は、膜分離装置24に送られ、固液分離される。膜分離装置24において処理された膜分離水は、活性炭吸着装置25においてCODおよび色度が除去され後、放流される。
【0005】
し尿は、炭酸イオンを含むので、無機凝集剤を添加してリンを不溶化するためには、多量の無機凝集剤を必要とし、また、炭酸ガスが発生して発泡し、脱水処理が困難となる。
【0006】
しかし、従来処理方法によれば、し尿に、このし尿の2倍以上の浄化槽汚泥を混合することにより、無機凝集剤によるリンの不溶化が可能となり、脱水処理により含有されるリンの90%以上を不溶化除去することができる。このため、し尿主体の処理では実現できなかった生物処理後の脱リン工程の省略を、浄化槽汚泥主体のし尿処理とすることにより実現可能となる。
【0007】
【特許文献1】特許第2936938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来処理方法は、し尿に浄化槽汚泥を混合した後、無機凝集剤と高分子凝集剤とを添加し、脱水するため、両凝集剤の相乗効果により固形物に加え、溶解性のBODも相当量が除去されてしまう。このため、後段の生物処理槽における生物学的硝化脱窒処理に必要なBODが不足し、これを補充するためのメタノール添加量が多くなるという問題を有していた。
【0009】
また、し尿と混合する浄化槽汚泥の量を、このし尿の2倍以上とすることにより、無機凝集剤の使用量が低減されるが、し尿と浄化槽汚泥との混合液は、固形物濃度が高く、固形物に消費される無機凝集剤の量も少なくなく、更なる無機凝集剤使用量の低減が望まれる。浄化槽汚泥の混合率がし尿の2倍以下になると、さらに無機凝集剤の使用量が多くなる。
【0010】
この発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであって、脱水処理において過度にBODを除去せず、また、浄化槽汚泥の混合率が低くても適用可能であり、しかも、無機凝集剤の使用量も少ない、し尿系汚水の処理方法および処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0012】
請求項1記載の発明は、浄化槽汚泥とし尿との混合物に高分子凝集剤を添加して凝集処理する第一の凝集工程と、前記第一の凝集工程より得られる凝集物の脱水工程と、前記脱水工程より得られる脱水分離液に無機凝集剤を添加して凝集処理する第二の凝集工程と、前記第二の凝集工程より得られる処理液の生物学的硝化脱窒処理工程とを具備することに特徴を有するものである。
【0013】
請求項2記載の発明は、浄化槽汚泥とし尿との混合物に高分子凝集剤を添加して凝集処理する凝集槽と、前記凝集槽において生成した凝集物の脱水手段と、前記脱水手段より得られる脱水分離液に無機凝集剤を添加して凝集処理する凝集混和槽と、前記凝集混和槽より排出される凝集処理液を生物学的硝化脱窒処理する生物処理槽とを具備することに特徴を有するものである。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、生物処理槽の後段に、生物学的硝化脱窒処理液の膜分離手段を備えたことに特徴を有するものである。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、膜分離手段の後段に、膜分離液の活性炭吸着手段を備えたことに特徴を有するものである。
【0016】
この発明によれば、脱水においては、凝集剤として高分子凝集剤のみを使用し、このため、固形物を主体として分離除去され、溶解性のBODは過度に除去されない。また、脱水において混合液中の大半の固形物が分離除去されるため、固形物による無機凝集剤の消費が少なくなり、浄化槽汚泥の混合率の多寡に関わらず、無機凝集剤の低添加率でリンが除去可能となる。
【0017】
また、脱水処理においてはリンを分離除去していないため、無機凝集剤の添加によるリン除去に替えてマグネシウムまたはカルシウムを添加して、適切なpHに調節することにより、容易にリン酸マグネシウムアンモニウムまたはヒドロキシアパタイトの形態でリンを資源として回収することもできる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、浄化槽汚泥にし尿の一部または全部を混合した後、高分子凝集剤を添加し、脱水し、得られる脱水分離液に無機凝集剤を添加して、凝集処理し、その処理水を生物学的硝化脱窒処理するように構成したので、脱水においては、固形物を主体として分離除去され、この結果、溶解性のBODは過度に除去されない。
【0019】
また、混合液中の大半の固形物が分離除去されるため、固形物による無機凝集剤の消費が少なくなり、浄化槽汚泥の混合率の多寡に関わらず、無機凝集剤の低添加率でリンが除去可能となる効果がもたらされる。
【0020】
さらに、無機凝集剤によるリン除去に替えて、脱水分離液にマグネシウムまたはカルシウムを添加して適切なpHに調節すれば、容易に脱水分離液中のリンをリン酸マグネシウムアンモニウムまたはヒドロキシアパタイトの形態でリンを資源として回収することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明の、し尿系汚水の処理方法の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0022】
この発明において処理対象となるし尿系汚水は、浄化槽汚泥を主とし、し尿、雑排水、農業集落排水汚泥等のその他の有機性排水を含むことができる。
【0023】
図1は、この発明の、し尿系汚水の処理方法を示すブロック図である。
【0024】
図1に示すように、浄化槽汚泥は、浄化槽汚泥受入槽1に受入れられ、浄化槽汚泥前処理装置2において夾雑物が除去された後、浄化槽汚泥貯槽3に貯留される。一方、し尿は、し尿受入槽4に受入れられ、し尿前処理装置5において夾雑物が除去された後、し尿貯槽6に貯留される。浄化槽汚泥貯槽3に貯留された浄化槽汚泥とし尿貯槽6に貯留されたし尿とは、それぞれ一定の割合で凝集槽7に送られ、高分子凝集剤が添加されて凝集が行われる。この際、後段の生物処理槽10における生物学的硝化脱窒処理においてBODが不足する場合には、し尿の一部をバイパスして凝集混和槽9に送っても良い。また、生物処理槽10で発生する余剰汚泥を凝集槽7に送り、同時に脱水処理を行っても良い。更に、浄化槽汚泥とし尿とを均一に混合するため、凝集槽7の手前に混合槽(図示せず)を設置しても良い。
【0025】
凝集槽7において凝集処理された混合液は、脱水手段としての脱水機8により脱水処理され、分離された固形物は、脱水ケーキとして排出され、処分される。一方、脱水分離液は、凝集混和槽9に送られる。この脱水処理においては、混合液中の主に固形物が分離除去され、後段の生物処理槽10における生物学的硝化脱窒処理において必要となる溶解性BODを過度に除去することは無い。
【0026】
凝集混和槽9に送られた脱水分離液は、無機凝集剤が添加されて凝集処理され、リン酸イオンが不溶化されるため、リンが後段の膜分離装置11において容易に分離され、生物処理後の凝集沈殿処理が不要となる。また、前段の脱水処理では混合液中の固形物の大半が分離除去されたため、固形物による無機凝集剤の消費が少なくなり、結果として凝集剤の添加率は少なくて済む。不溶化したリンを生物処理にかける前に分離除去するため、生物処理槽10の手前に沈降分離槽(図示せず)を設置しても良い。
【0027】
凝集処理された脱水分離液は、生物処理槽10において生物学的硝化脱窒処理を受け、その処理水は、膜分離装置11により固液分離される。生物処理において余剰となった汚泥は、余剰汚泥として生物処理槽10から排出され、脱水された後、脱水ケーキとして処分される。
【0028】
膜分離装置11において処理された膜分離水は、活性炭吸着装置12においてCODおよび色度が除去され、消毒装置13において滅菌された後、放流される。
【0029】
以上のように、この発明によれば、浄化槽汚泥にし尿の一部または全部を混合した後、高分子凝集剤を添加し、脱水し、得られる脱水分離液に無機凝集剤を添加し、その処理水を生物学的硝化脱窒処理するように構成したので、脱水においては、固形物を主体として分離除去され、この結果、溶解性のBODは過度に除去されない。
【0030】
また、混合液中の大半の固形物が分離除去されるため、固形物による無機凝集剤の消費が少なくなり、浄化槽汚泥の混合率の多寡に関わらず、無機凝集剤の低添加率でリンが除去可能となる効果がもたらされる。
【0031】
さらに、無機凝集剤によるリン除去に替えて、脱水分離液にマグネシウムまたはカルシウムを添加して適切なpHに調節すれば、容易に脱水分離液中のリンをリン酸マグネシウムアンモニウムまたはヒドロキシアパタイトの形態でリンを資源として回収することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の、し尿系汚水の処理方法を示すブロック図である。
【図2】従来処理方法を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0033】
1:浄化槽汚泥受入槽
2:浄化槽汚泥前処理装置
3:浄化槽汚泥貯槽
4:し尿受入槽
5:し尿前処理装置
6:し尿貯槽
7:凝集槽
8:脱水機
9:凝集混和槽
10:生物処理槽
11:膜分離装置
12:活性炭吸着装置
13:消毒装置
14:浄化槽汚泥受入槽
15:し尿受入槽
16:前処理装置
17:貯留槽
18:し尿貯留槽
19:反応槽
20:造粒濃縮槽
21:脱水機
22:貯留槽
23:生物処理槽
24:膜分離装置
25:活性炭吸着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄化槽汚泥とし尿との混合物に高分子凝集剤を添加して凝集処理する第一の凝集工程と、前記第一の凝集工程より得られる凝集物の脱水工程と、前記脱水工程より得られる脱水分離液に無機凝集剤を添加して凝集処理する第二の凝集工程と、前記第二の凝集工程より得られる処理液の生物学的硝化脱窒処理工程とを具備することを特徴とする、し尿系汚水の処理方法。
【請求項2】
浄化槽汚泥とし尿との混合物に高分子凝集剤を添加して凝集処理する凝集槽と、前記凝集槽において生成した凝集物の脱水手段と、前記脱水手段より得られる脱水分離液に無機凝集剤を添加して凝集処理する凝集混和槽と、前記凝集混和槽より排出される凝集処理液を生物学的硝化脱窒処理する生物処理槽を具備することを特徴とする、し尿系汚水の処理装置。
【請求項3】
生物処理槽の後段に、生物学的硝化脱窒処理液の膜分離手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の、し尿系汚水の処理装置。
【請求項4】
膜分離手段の後段に、膜分離液の活性炭吸着手段を備えたことを特徴とする請求項3に記載の、し尿系汚水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−255605(P2006−255605A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77349(P2005−77349)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】