説明

すべり軸受の製造法

【課題】環境汚染成分を含まないAl−Sn合金を軸受材としたすべり軸受製造において、寸法および形状の自由度が高く、しかも部品数および工程数の省略をはじめ、コストおよび納期的にも有利となる異材接合方法を得る必要がある。
【解決手段】Al−Sn合金を軸受材としたすべり軸受製造において、HIP(熱間等方圧加圧)法を採用して、裏金母材をステンレス鋼とするか、または界面にニッケルを介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的軟質の軸受材と通常炭素鋼からなる裏金母材で構成されるすべり軸受の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動部をもつあらゆる製品に用いられる機械要素としてのすべり軸受は、回転する軸を回転面で支えるジャーナル軸受と軸方向で支えるスラスト軸受が代表的なものである。
【0003】
この回転軸を面で支えて、すべりの相対運動を行う軸受をとくに、「すべり軸受」と呼び、点接触する玉を用いた「ころがり軸受」とは区別する。
【0004】
図1は、このすべり軸受における代表的な(イ)にジャーナル軸受と、(ロ)にスラスト軸受の代表的な形態を示す。 (イ)と(ロ)のそれぞれにおいて、軸の断面とのX−X線に沿っての断面を示す。
【0005】
一般に、すべり軸受は比較的軟質の軸受材1と裏金母材2で構成され、裏金には汎用性や剛性がある鉄合金、通常炭素鋼や軟鋼などが用いられることが多い。
【0006】
近年、係るすべり軸受の軸受材1としては、鉛(Pb)系または錫(Sn)系のホワイトメタルやPbを含有したCu合金に替わり、より軽量な材質であるAl合金が用いられるようになってきた。
【0007】
これは、Pbが本来もつ環境負荷性を低減することも含め、軸受への荷重や速度などの負荷条件も増えて、材質的に耐えられない条件があることによる。
【0008】
この軸受材としては、含有するPbやSnは、異物埋収性やなじみ性という、すべり軸受としては必要不可欠な特性があり、それぞれが固溶しない組合せであり、固溶することなく軸受材中に分散することで、軸受材における軟質材としての特性をより発現できる。
【0009】
例えば、Snを含むAl合金として、Al−40重量%Sn−1重量%CuからなるA40という軸受合金がよく知られている。この合金はCuを1重量%含むAl合金母相中に40重量%ものSnを固溶しない第2相として含んでいる。
【0010】
ところで、このような軸受材において、Cuまたは、Al合金母材に、多量の軟質材を固溶しない第2相として含む軸受材とした軸受は、従来から、粉末焼結法、または帯板圧接法、またはこれらを複合させた製法によって製造されている。(特許文献1〜3参照)
【0011】
ところが、ジャーナル軸受の場合には、粉末焼結法や帯板圧接法においては、曲げ加工して軸受を製作する必要から、裏金母材が曲げ加工できる程度の板厚が薄くて、しかも、比較的軟質の炭素鋼または軟鋼などの鉄合金に限られることになる。したがって、剛性が必要な軸受や大型軸受の場合には、さらに剛性のある硬質の鉄合金で軸受を収納する容器を別途に製作して軸受位置に設置することが必要となる。
【0012】
従来の粉末圧延法および帯板圧接法による軸受の製作においては、軸受材1と裏金母材2は曲げ加工をできることが、寸法および材質の選定においてそれらの双方に必須であり、当然ながら、製品特性にも制限が加わってくることは自明である。
【0013】
(イ)に示すジャーナル軸受の場合、従来法では曲げ加工で製作された薄い裏金母材2をもった軸受材1を、剛性がより高い形状および寸法をもった異材の裏金補強材で全体を構成する必要があり、この場合も部品数および工程数の増加は避けがたいという製造法特有の欠点があり、コストおよび納期的にも不利であった。
【0014】
そして、すべり軸受の他の形態である回転軸の荷重を軸方向から支える(ロ)に示すスラスト軸受においては、裏金母材2が厚く曲げ加工ができないため、従来法によるジャーナル軸受とは異なる製造工程が採用され、品質や工程管理の面で複雑になっていた。つまり、ジャーナル軸受では連続した製造ラインで効率よく製造することが可能であったが、スラスト軸受では従来とは異なる製造ラインで不連続的に製造するしかなく、別々の管理方法、製造条件を採用する必要がある点ではコストおよび納期的にも不利であった。
【0015】
また、粉末焼結法あるいは帯板圧接法で得られた軸受も、軸受材と裏金母材との間には、それぞれの熱膨張の差によって熱応力が発生したり、脆弱な反応層が形成したり、低品質の軸受となる恐れがあった。
【特許文献1】特許第3195042号
【特許文献2】特開2004−76039
【特許文献3】特開2002−38230
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、多量の軟質材を固溶しない第2相として含む軸受材とした従来の軸受の粉末焼結法あるいは帯板圧接法によって得られた軸受の上記欠点を解消することにある。
【0017】
具体的には、粉末焼結法あるいは帯板圧接法によって得られた軸受において、軸受材と裏金母材との接合界面における熱応力の発生を低減し、かつ、接合界面における脆弱な反応層の形成を防止することによって、信頼性の高い軸受を安定的に得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、先の図1において、従来の粉末圧延法および帯板圧接法による軸受の製作においては、軸受材1と裏金母材2は曲げ加工ができることが、寸法および材質の選定においてそれらの双方に必須であり、このことによって、当然ながら、製品特性にも制限が加わってくることは自明であり、製品により近い形状および寸法であるいわゆるニアネット形状で一体製作できるHIP法が適しているという認識に基づく。
【0019】
本発明は、多量の軟質材を固溶しない第2相として含む母材を軸受材とし、且つ、複雑な形状をもつ軸受の製造に、複雑形状やニヤネット形状製品の製造に適しているHIP(熱間等方加圧)法による拡散接合法を適用したものである。
【0020】
そして、このHIP法による拡散接合法を適応することによって得られた軸受は、軸受材が裏金母材である鋼と界面接合によって一体化され、これによって、接合界面における熱膨張率の差異による熱応力の発生を低減し、且つ、前記裏金母材である鋼の少なくとも軸受材側の一部をステンレス鋼とすることによって接合界面における脆弱な反応層の形成を抑止することができる。
【0021】
とくに、Cu合金を軸受材としたすべり軸受よりもさらに軽量化および軟質化され、さらに環境負荷成分を含まないAl−Sn合金を軸受材としたすべり軸受の製造において、裏金母材である鋼との反応によるAl−Fe系の金属間化合物の形成と熱膨張率の差とによって、寸法および形状の自由度が高く、しかも部品数および工程数の省略をはじめ、コストおよび納期的にも有利となる異材接合方法を得る必要がある。
【0022】
Al−Sn合金を軸受材は、その主要成分であるAlとSnは低温においても容易に酸化変質する性質があるため、できるだけ真空雰囲気、少なくとも酸化しない非酸化雰囲気で製造する必要があるが、その点、HIP法は真空容器内に原料を収納した清浄な状態で処理を行うため、雰囲気によって酸化劣化することは皆無となる。
【0023】
Al合金の場合は、Cu合金と比べて、鋼に対する熱膨張率差がかなり大きく(アルミは約24×10−6、銅は約16×10−6、鋼は約12×10−6)、また、Alと鋼の主要成分である鉄(Fe)とは容易に反応してAl−Fe系の金属間化合物を生成しやすいという問題がある。
【0024】
例えば、接合界面を構成するAl合金と鋼における熱膨張率の過大な差異は界面接合後の冷却過程において過大な熱応力を発生させることによる界面剥離の原因となり、接合界面における熱応力の緩和が必要となってくる。
【0025】
また、接合界面に生成したAl−Fe系の金属間化合物は、本来脆性であるため、接合界面に発生した熱応力によって容易に破壊しやすい基本的な性質があり、過剰な金属間化合物の生成は熱応力の発生に伴って界面剥離の原因となってしまう可能性がある。
【0026】
このように、HIP法においてAl−Sn合金を軸受材としたすべり軸受を製造する場合には、接合界面における熱応力の発生を極力低く抑えて、かつ金属間化合物の生成量も極力少なくする方策が必要となってくる。
【0027】
つまり、Al合金の場合は、Cu合金に比べて接合温度であるHIP保持温度は低いため、通常の裏金母材である炭素鋼との特性の差異による影響は若干小さくなることは予測される。
【0028】
そこで、熱応力の発生を低く抑えるために少なくとも接合界面における熱膨張率の差異を小さくするため、裏金としてAl−Sn合金に近い熱膨張率をもった鋼であるステンレス鋼(熱膨張率は約14〜16×10−6)を採用すること、またはニッケル(熱膨張率は約13×10−6)を界面層として介在させることが非常に有効である。
【0029】
つまり、本発明であるHIP法におけるAl−Sn合金を軸受材としたすべり軸受の製造において、裏金母材として少なくとも一部にオーステナイト組織を含むオーステナイト系ステンレス鋼を採用すること、またはニッケルを界面層として介在させることは、接合界面における熱応力緩和と界面反応抑止の両方において効果がある。
【0030】
このAl−Sn系の軸受材自体は従来から知られた軸受用合金であり、Pbなどの環境汚染成分を含まず、すべり軸受の軟質化と軽量化を同時に達成できる軸受材である。ただし、潤滑材として機能する錫を多量に含むAl−Sn合金は、インゴットのような溶製材で製造すると、母相であるアルミよりも低融点の錫が原因となって粗大化や偏析を起こすので均一な組織や特性が得られないため、粉末の形態とする必要がある。
【0031】
粉末の製造法としては、従来から用いられてきたアトマイズ法としてガスアトマイズ法が好適である。
【0032】
そして、もうひとつの主要な軸受構成材である裏金母材は、熱応力緩和と界面反応抑制のために少なくとも裏金母材側の界面の一部をステンレス鋼とするか、またはニッケルを界面に介在させる。
【0033】
例えば、少なくとも裏金母材側の界面付近をステンレス鋼とする例として、最も基本的で単純な例は裏金母材全体をステンレス鋼とすることであり、製造コストおよび納期対応の点で最も有利である。もちろん、接合界面となる界面側がステンレス鋼である2層クラッド材でも使用可能ではあるが、価格も高価で、所定の寸法範囲仕様からすると市場での入手も容易ではないと思われる。
【0034】
ステンレス鋼の材質としては、最も汎用性の高いオーステナイト系ステンレス鋼が熱膨張率の範囲からは好適である。つまり、SUS304やSUS316を代表例とするオーステナイト系ステンレス鋼は適度のNiを含み、ステンレス鋼の中でも熱膨張率が高く、Al−Sn合金との界面反応性や熱膨張率の差異をより小さく設定できる。SUS430のようなフェライト系ステンレス鋼ではNiを含まず熱膨張率が比較的低く(約9×10−6)、SUS410のようなマルテンサイト系ステンレス鋼では低い熱膨張率のほかにも、磁性があるためアーク溶接が困難であるなど本発明には適さない。もちろん、Niを含んで、少なくとも一部にオーステナイト組織をもつ析出硬化系ステンレス鋼SUS630や2相系ステンレス鋼SUS329も適用可能である。
【0035】
そして、もうひとつの方法としてニッケル(Ni)を界面に介在させることは熱膨張率(約13×10−6)というよりも、Al−Fe間の界面反応抑制の面から評価される。もちろん、Al−Ni間にも金属間化合物は存在するが、Al−Fe系よりも成長が遅いとか、より脆性の小さい金属間化合物である点から、比較的に有利である。
【0036】
ニッケルを界面に介在させる方法として電気めっきが好適例として挙げられる。介在層としてめっき層に求められる特性は、不可避不純物を含む純Niであればよく、厚さも平均して10μ以上であれば反応抑制には効果があり、厚くしてもめっき後に剥離しやすいとか、処理時間が長くなることでめっき費用が高くなるなどの不利なことのほうが多くなるだけである。
【0037】
本発明において、HIPに用いる装置は、加熱と加圧が同時または個別に行える装置であればよく、処理品は容器に真空封入して加圧アルゴンまたは窒素ガスによって所定の等方圧を負荷できる機能を備えていればよい。
【0038】
本発明で使用するHIP法であれば、粉末焼結と拡散接合が同時に行えるので、この点においてもやはり製造方法として最適である。
【発明の効果】
【0039】
軟質材を固溶しない第2相として含む母材からなるCu−Pb,Al−Sn合金系の軸受材とする軸受の製作に、HIP法による拡散接合法を適用したことによって、粉末焼結法や帯板圧接法に比べて寸法および形状の自由度は高くなり、しかも、部品数および工程数が省略できる。
【0040】
また、HIP法による拡散接合法を適用したことによって、熱応力の発生が低減され、接合界面において脆弱な反応層の形成を防止することによって、すべり軸受の中でも、ジャーナル軸受において、軽量化、軟質化が達成される。とくに、環境負荷成分を含まないAl−Sn合金を軸受材とする軸受の製作に適したものである。
【0041】
HIP法であれば、粉末焼結と拡散接合が同時に行えるので、この点においてもやはり製造方法として最適である。
【0042】
ジャーナル軸受およびスラスト軸受ともHIP装置が共通して使えるため、同一の管理方法、製造条件が採用でき、寸法および形状に関係なく制限容量内で同バッチ処理することも可能であるため、コストおよび納期的にも有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態の一つを、組成がCuを1重量%含むAl合金母相中に40重量%ものSnを固溶しない第2相として含むAl−Sn合金の軸受材を有するリング状の形態で回転軸の荷重を放射方向から支えるジャーナル軸受に適用した実施例で示す。
【実施例】
【0044】
HIP法においては、容器中に処理品を真空封入して処理するものであるが、本発明においては、裏金母材を容器として使用してHIP処理する。
【0045】
図2は、図1に示すジャーナル軸受(イ)とスラスト軸受(ロ)において、裏金母材2を容器に兼用している。
【0046】
すなわち、ジャーナル軸受(イ)の場合、軸受材1を、裏金母材2と収納容器を構成するふた3と内管4とによって溶接構造容器とした形態を採ることができる。その溶接の形態としては、アーク溶接の場合はTIG溶接、特殊溶接としては電子ビーム溶接(EBW)を採用できるが、HIP処理の場合の雰囲気制御も同時に行うようにすることを考慮すれば電子ビーム溶接は特に好適である。
【0047】
また、スラスト軸受(ロ)の場合は、裏金母材2の外面に形成した凹部に軸受材1をセットし、さらにその外周面をふた3によってシールし、軸受材1は裏金母材2とふたによって形成された容器に真空封入した形態を採る。
【0048】
このように、裏金母材2を、軸受材1を真空封入した収納容器の構造部材として採用することによって容器構造が簡略化され、製造コストおよび工程上も有利となる。
【表1】

【0049】
表1は、図2に示すすべり軸受の軸受材と裏金母材、それに内管の組成の代表例を示す。
【0050】
同表において、A40は、一般に軸受材としてのAl−Sn合金であり、Snを40重量%も含むジャーナル軸受およびスラスト軸受に共通した材質である。
【0051】
STKM13Aは、機械構造用炭素鋼鋼管であり、ジャーナル軸受の場合、図2に示す内管4となる材質である。そして、ジャーナル軸受の裏金母材は通常炭素鋼S45Cで、スラスト軸受の場合は炭素鋼S25Cであり、本発明による熱応力緩和と界面反応抑制のためにジャーナル軸受において一部ステンレス鋼SUS304を採用することで効果を得た。また、図2において容器を構成するふた3には炭素鋼S25C相当または軟鋼板を、スラスト軸受のふた3にも軟鋼板を用いる。
【表2】

【0052】
表2は、すべり軸受の軸受材として上記A40を用い、裏金母材として各種のものを用い、さらに、裏金母材の表面に各種のめっきを施したものも含め、HIP処理条件としての保持温度、保持圧力および保持時間をそれぞれ500℃、98MPaおよび90分とした。
【0053】
同表において、No.1からNo.5がジャーナル軸受であり、No.6からNo.8がスラスト軸受である。
【0054】
ジャーナル軸受のうち、No.1からNo.4は、裏金母材をS45Cとし、界面に介在させる各種めっき層を変化させた場合を示す。
【0055】
めっきなしまたは無電解Ni−Pめっきの場合にはHIP処理直後における超音波探傷試験(UT)による検査の結果、一部の接合界面に欠陥が見つかり不合格となった。また電気めっきによるCu(銅)およびNiめっきの場合の両者とも接合界面に欠陥は見つからず、UT検査は合格であった。
【0056】
そして、裏金母材全体をオーステナイト系ステンレス鋼SUS304としたNo.5の場合は、接合界面に欠陥は見つからず、UT検査は合格であり、接合界面が適度の接合強度をもつことが分かった。
【0057】
No.6はめっきなしのスラスト軸受の場合であるが、HIP処理直後におけるUT検査の結果、一部の接合界面に欠陥が見つかり、不合格となった。
【0058】
No.7およびNo.8に示すスラスト軸受の場合は、界面介在層としてのCuおよびNiめっきを実施したが、やはり両者とも接合界面に欠陥は見つからずUT検査は合格であった。
【0059】
接合界面における健全性を定量的に評価する方法として、接合界面におけるせん断強さを測定することとした。図3に示す(イ)としてジャーナル軸受、(ロ)としてスラスト軸受のせん断試験片として、(イ)の場合は直径部を製品寸法に合わせて、全長15mm、フランジ部厚5mm、(ロ)の場合は全長を製品寸法に合わせて、裏金母材部直径25mm、軸受材部直径15mmとした試験片を複数個採取した。
【0060】
そして、図4に示す(イ)の場合は受け治具と押し治具で構成され、回転軸方向に押し抜きするように荷重を負荷する機構を、(ロ)の場合は軸受材部と裏金母材部を界面に対して平行にずらす機構をもった試験治具を用いて、アムスラー型万能試験機で荷重を負荷しながら、最大負荷荷重(kgf)を接合面積(mm)で除してせん断強さ(kgf/mm)を求め、表3に示した。同図において、(イ)はジャーナル軸受であり、(ロ)はスラスト軸受である。
【0061】
また、試験後の試験片を観察して破断位置の特定を行い、せん断試験片を採取した位置の近傍から採取した組織観察片において観察したミクロ組織観察から界面に生成した金属間化合物の厚さ計測、およびEDX(エネルギー分散型エックス線分光)分析による化合物の組成決定も行い、併せて表3に示す。
【表3】

【0062】
No.1〜No.3で示したジャーナル軸受の場合、めっきなし、Ni−PめっきおよびCuめっきではせん断強さは5kgf/mm以下の低い不安定な接合強度であり、いずれも接合界面に形成された金属間化合物内で破壊していた。
【0063】
そしてNo.4に示したNiめっきの場合、せん断強さは5〜6kgf/mmと安定した接合強度で、一部A40を含んだ界面で破壊していた。
【0064】
さらに、裏金母材全体をSUS304とした場合にはさらにせん断強さは6〜7kgf/mmに増加し、やはり一部A40を含んだ界面で破壊した。
【0065】
また、スラスト軸受に対応するNo.6からNo.8の場合には、めっきなしとCuめっきの場合には5kgf/mm以下の低い接合強度であったが、Niめっきの場合にはせん断強さが5〜6kgf/mmで安定した接合強度を示し、一部A40を含んだ界面で破壊していた。
【0066】
つまり、ジャーナル軸受およびスラスト軸受とも、No.4,No.5およびNo.8のように、裏金母材をステンレス鋼とするか、もしくは接合界面にNiを介在させることによって、UT検査に合格し、相当の接合強度をもつ接合界面をもったすべり軸受を製造できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明が適用できるジャーナル軸受およびスラスト軸受の代表的な形態および断面形状を示す。
【図2】ジャーナル軸受およびスラスト軸受の容器形態を断面によって示す。
【図3】実施例で用いたせん断試験片の形状を示す。
【図4】実施例で用いたせん断試験のための試験治具を示す。
【符号の説明】
【0068】
1 Al−Sn合金軸受材
2 裏金母材
3 HIP処理のための収納容器のふた
4 HIP処理のための収納容器の内管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuまたはAlの合金母材に固溶しない軟質材を第2相として含む軸受材とし、鋼材を裏金母材とした軸受を、HIP法による拡散接合法を適用するすべり軸受の製造法。
【請求項2】
裏金母材をオーステナイト系ステンレス鋼とした請求項1に記載のすべり軸受の製造法。
【請求項3】
軸受材と裏金母材の間にNiまたはNiを主体とする介在層を設けた請求項1に記載のすべり軸受の製造法。
【請求項4】
軸受材がAl−Sn系合金である請求項1に記載のすべり軸受の製造法。
【請求項5】
裏金母材をHIP法による処理のための軸受材の収納容器とする請求項1に記載のすべり軸受の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−291316(P2008−291316A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138066(P2007−138066)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(000143628)株式会社黒木工業所 (17)
【Fターム(参考)】