せん断ダンパー
【課題】部材間の大きな変形にも追従することができるとともに、面外変形に対する剛性の高いせん断ダンパーを提供する。
【解決手段】せん断パネル11の幅方向の両端には補剛板13が、また、せん断パネル12a、12bの幅方向の両端には補剛板14が固定されている。補剛板13、14は、せん断パネル11、12a、12bと同等の高さを有しており、各々、第1水平連結部21の上面に設けられる下部補剛板16と上部補剛板15との間に、第2水平連結部23の下面に設けられる上部補剛板15と下部補剛板16との間に隙間なく配置されている。せん断パネル11とせん断パネル12a、12bは、連結部材20により連結されている。連結部材20は、せん断パネル11、12a、12bよりも大きなせん断耐力を有するように構成されている。
【解決手段】せん断パネル11の幅方向の両端には補剛板13が、また、せん断パネル12a、12bの幅方向の両端には補剛板14が固定されている。補剛板13、14は、せん断パネル11、12a、12bと同等の高さを有しており、各々、第1水平連結部21の上面に設けられる下部補剛板16と上部補剛板15との間に、第2水平連結部23の下面に設けられる上部補剛板15と下部補剛板16との間に隙間なく配置されている。せん断パネル11とせん断パネル12a、12bは、連結部材20により連結されている。連結部材20は、せん断パネル11、12a、12bよりも大きなせん断耐力を有するように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や塔状構造物などに適用される耐震や耐風のためのせん断ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物や塔状構造物を構成する部材間に生じるせん断力に対して、中小地震時や暴風時には降伏しないが、大地震時には降伏してエネルギーを吸収するせん断ダンパーが耐震対策として用いられている。
従来のせん断ダンパーとして、例えば特許文献1には、部材間に低降伏点鋼からなるせん断パネルを設置し、所定レベル以上の地震に対してせん断塑性変形するものが開示されている。
ところが特許文献1に開示されるせん断ダンパーには、設計上想定された変形角を上回る塑性変形が生じたときに使用ができなくなり、部材間の大きな相対変形に適用でいないという問題がある。
これに対して、特許文献2、3には、部材間に生じる相対変位量が大きな場合に適用可能なせん断ダンパーとして、複数のせん断プレートを同一平面状に配置することなく、千鳥状に平行に配置したものが開示されている。特許文献2、3のせん断ダンパーは、ダンパー全体の変形量を個々のせん断プレートに分配することにより、部材間の大きな変形にも追従することができる。つまり、このせん断ダンパーは、個々のせん断パネルの変形量δ1、δ2、… δnを総和した量がダンパー全体の変形量δとなる。
ところが、特許文献2、3に開示されるせん断ダンパーは、せん断パネルの面内方向以外の方向(以下、面外方向)への変形に対する剛性が低く、せん断パネルに局部座屈が生じるなどして安定したエネルギー吸収性能が得られない、あるいはエネルギー吸収性能が低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−191912号公報
【特許文献2】特開2001−173130号公報
【特許文献3】特開平9−317240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような課題に基づいてなされたもので、部材間の大きな変形にも追従することができるとともに、面外変形に対する剛性の高いせん断ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
互いに対向して配置される第1構造部材と第2構造部材の間に配置される本発明のせん断ダンパーは、互いに対向して配置され各々が第1方向及び第1方向に直交する第2方向に延びる複数のせん断パネルと、せん断パネルの第1方向の両端にそれぞれが接合される一対の第1補剛体と、せん断パネルの第2方向の両端に接合され、一対の第1補剛体間に配置される一対の第2補剛体と、を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明のせん断ダンパーにおいて、複数のせん断パネルは、第1構造部材と第2構造部材との位置関係により第1せん断パネルと第2せん断パネルと、に区分することができる。そして、第1構造部材に近い側に第1せん断パネルが配置され、第2構造部材に近い側に第2せん断パネルが配置されるものとする。この場合に、第1せん断パネルは、第1構造部材に接合されるもとする。一方、第2せん断パネルは、第2構造部材に接合されるものとすることができるが、第2構造部材に設けられるストッパーにより第2方向、つまりせん断方向の変位が規制されるものとすることもできる。このように一方の構造部材(第2構造部材)との接合を行わないせん断ダンパーは、せん断方向のみの効率的なエネルギー吸収が可能となる。
【0007】
このせん断ダンパーの適用例として煙突がある。つまり、第1構造部材及び第2構造体部材の一方が煙突の筒身であるものとすると、第1構造部材及び第2構造体部材の他方は筒身を水平方向に支持する支持体とすることができる。そうすることにより、地震動の向きによって、せん断パネルの面外変形による損傷を防止することが可能となり、煙突における効率的かつ安定したエネルギー吸収性能を確保することができる。
また、他の適用例として橋梁がある。つまり、第1構造部材及び第2構造体部材の一方が橋梁の橋脚であるものとすると、第1構造部材及び第2構造体部材の他方は橋脚に支持される上部構造物とすることができる。この場合も、せん断パネルの面外変形による損傷を防止することが可能となり、橋梁における効率的かつ安定したエネルギー吸収性能を確保することができる。
【0008】
本発明のせん断ダンパーにおいて、複数のせん断パネルの各々のせん断降伏荷重は、等しく設定することもできるし、相違させることもできる。
せん断パネルのせん断降伏荷重を等しく設定すれば、それぞれのせん断パネルが同時にせん断降伏させることができるので、高いエネルギー吸収性能を得ることができる。一方、各せん断パネルのせん断降伏荷重を相違させ、中小規模地震においてはせん断降伏荷重の小さいせん断パネルのみを塑性変形させ、せん断降伏荷重の大きなせん断パネルは弾性範囲の変形に留まるようにできる。そうすると、損傷したせん断パネルを地震後に取替える作業を最小限に抑えることができる。この場合、大規模地震においては、せん断降伏荷重の小さいせん断パネルが先行して塑性変形し、次いで、せん断降伏荷重の大きなせん断パネルが塑性変形する、という経過を辿る。
【0009】
本発明のせん断ダンパーにおいて、第2補剛体を各せん断パネルの第2方向の両端に設けるのに加えて、せん断パネルの表裏両面側に、一対の第2補剛体の間を繋ぐ第1規制体を配置することが好ましい。この第1規制体は、せん断パネルに座屈が局部的に生ずるのをより確実に防ぐのに有効である。
さらに、せん断パネルの表裏両面側に、一対の第1補剛体の間を繋ぐ第2規制体を配置することができる。この第2規制体も、せん断パネルに座屈が局部的に生ずるのをより確実に防ぐのに有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、互いに対向して配置され各々が第1方向及び第2方向に延びる複数のせん断パネルを備えているので、第1構造部材と第2構造部材の間に生ずる大きな変形にも追従することができる。また、本発明によれば、せん断パネルの第2方向の両端に接合され、一対の第1補剛体間に配置される一対の第2補剛体を備えることにより面外変形に対する剛性の高いせん断ダンパーを提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態によるせん断ダンパー(ボルトを省略)を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態によるせん断ダンパーを示し、(a)が正面図、(b)が側面図である。
【図3】第1実施形態によるせん断ダンパーを架構に適用した例を示し、(a)は変形が生じていない状態、(b)は変形が生じている状態を示している。
【図4】第1実施形態によるせん断ダンパーの作用を説明する図であり、(a)は変形性能を示し、(b)はせん断パネルのせん断力−変位履歴曲線を示す。
【図5】第1実施形態によるせん断パネルの配置を種々変更した例を示す側面図である。
【図6】第1実施形態において、一方の主構造にストッパーを設置して、せん断ダンパーとの直接的な接合を行わない変更例をし、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)の6c−6c矢視断面図、(d)は変形の様子を示す正面図である。
【図7】図6に示す変更例の煙突への適用事例を示し、(a)は煙突の全体図、(b)は(a)の7b−7b矢視断面図である。
【図8】図6に示す変更例の橋梁への適用事例を示す正面図である。
【図9】第2実施形態を説明する図であり、(a)は第2実施形態が適用されるせん断ダンパーを示す斜視図であり、(b)は当該せん断ダンパーを構成するせん断パネルの骨格曲線を示すグラフである。
【図10】第2実施形態によるせん断ダンパーのせん断力−変位履歴曲線を示し、(a)は中小規模の地震が生じた場合を、また、(b)は大規模な地震が生じた場合を示す。
【図11】第3実施形態によるせん断ダンパーを示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)の11c−11c矢視断面図、(d)は(b)の11d−11d矢視断面図、である。
【図12】第3実施形態による他のせん断ダンパーを示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)の12c−12c矢視断面図、(d)は(b)の12d−12d矢視断面図、である。
【図13】第3実施形態の変更例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に示す実施形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1〜図3に示すように、せん断ダンパー1は、互いに対向する上部構造部材USと下部構造部材LSとの間に設けられるものであり、上部構造部材USと下部構造部材LSの間に生じるせん断変形に対して抵抗し、中小地震時や暴風時には降伏しないが、大地震時には降伏してエネルギーを吸収するように機能する。なお、図1はボルトBの記載を省略している。
せん断ダンパー1は、3枚のせん断パネル11、12a、12bを備えている。これらせん断パネル11、12a、12bは、上部構造部材US、下部構造部材LSに対して垂直に配置され、かつ水平方向に間隔を設けて千鳥状に配置されている。そして、せん断パネル11、12a、12bは互いに平行に配置され、かつ中央に配置されるせん断パネル11を中心にしてせん断パネル12a、12bは対称の位置に配置されている。各せん断パネル11、12a、12bは、図2(a)の矢印xに沿った水平方向の外力が作用したとき、せん断変形に伴う履歴減衰によって地震時の振動エネルギーを吸収することが可能な履歴減衰性能を有するものとされ、公知の偏平な鋼板により構成される。せん断パネル11、12a、12bは、各々同じ仕様を有していてもよいし、異なる仕様を有していてもよい。
【0013】
高さ方向(図1のH、第1方向)及び幅方向(図1のW、第2方向)に延びるせん断パネル11(第1せん断パネル)の上端に上部補剛板15(第1補剛体)が溶接によりフランジ状に固定されており、この上部補剛板15はボルトBにより上部構造部材USに締結されている。こうして、せん断パネル11は上部補剛板15を介して上部構造部材USに接合される。
また、せん断パネル12a、12b(第2せん断パネル)の各々の下端に下部補剛板16(第1補剛体)が溶接によりフランジ状に固定されており、この下部補剛板16(第1補剛体)はボルトBにより下部構造部材LSに締結されている。こうして、せん断パネル12a、12bは下部補剛板16を介して下部構造部材LSに接合される。
【0014】
各せん断パネル11、12a、12bの厚みや幅は、せん断ダンパー1に作用する地震時のせん断力の大きさを主に考慮して設定されるべきである。一方で、せん断パネル11の高さL11、せん断パネル12a、12bの高さL12については、各々の許容せん断変形角と地震時における上部構造部材USと下部構造部材LSとの間の水平方向の変形(δ)の大きさとを考慮して定めればよい。また、せん断パネル11、12a、12bに降伏後の塑性変形能力の大きい低降伏点鋼を用いることによって大きな塑性エネルギーを吸収する効果が得られる。
【0015】
せん断パネル11の幅方向の両端には一対の補剛板13(第2補剛体)が溶接によりフランジ状に接合されている。補剛板13は、せん断パネル11と同等の高さを有しており、後述する連結部材20の第1水平連結部21の図中上面に設けられる下部補剛板16(第1補剛体)と上部補剛板15(第1補剛体)との間に隙間なく配置されている。
同様に、せん断パネル12a、12bの幅方向の両端には補剛板14(第2補剛体)が溶接によりフランジ状に接合されている。補剛板14は、せん断パネル12a、12bと同等の高さを有しており、後述する連結部材20の第2水平連結部23の図中下面に設けられる上部補剛板15(第1補剛体)と下部補剛板16(第1補剛体)との間に隙間なく配置されている。
補剛板13、14は、せん断パネル11、12a、12bの面外変形に対する剛性を高めることを目的に設けられるものである。したがって、補剛板13、14はこの目的をなし得る程度の剛性を有するように、材質、板厚などの仕様が設定されるべきである。
【0016】
<連結部材20>
せん断パネル11とせん断パネル12a、12bは、連結部材20により連結されている。連結部材20は、せん断パネル11、12a、12bよりも大きなせん断耐力を有するように構成されている。鋼板を曲げ加工あるいは溶接加工することにより製作される連結部材20は、第1水平連結部21、一対の第2水平連結部23及び一対の垂直連結部25を備えている。
第1水平連結部21の上面には下部補剛板16が設けられている。この下部補剛板16にはせん断パネル11及び補剛板13の下端が溶接により接合されており、第1水平連結部21と、せん断パネル11及び補剛板13とは、下部補剛板16を介してボルト結合により連結されている。
また、一対の第2水平連結部23の各々の下面には上部補剛板15が設けられている。一方の上部補剛板15にはせん断パネル12a及び補剛板14の上端が、また、他方の上部補剛板15にはせん断パネル12b及び補剛板14の上端が、溶接により接合されている。そして、第2水平連結部23と、せん断パネル12a及び補剛板14とは、上部補剛板15を介してボルト結合により連結されている。また、第2水平連結部23と、せん断パネル12b及び補剛板14とは、上部補剛板15を介してボルト結合により連結されている。
一対の垂直連結部25は、一対のせん断パネル12a、12bのせん断パネル11に臨む側の端部から垂下し、第1水平連結部21と一対の第2水平連結部23とを繋いでいる。
【0017】
このようにして、せん断パネル11、12a、12bは、連結部材20により連結されており、せん断パネル11、12a、12bの間でせん断力(図2(a)の矢印x方向に作用するせん断力)の伝達が連結部材20を介して行われる。
なお、連結部材20のせん断耐力をせん断パネル11、12a、12bよりも大きくする手法は任意である。例えば、連結部材20を構成する鋼板の板厚をせん断パネル12a、12bを構成する鋼板よりも厚くすればよい。また、せん断パネル11、12a、12bよりも高強度の鋼板により連結部材20を構成してもよい。
【0018】
以上のせん断ダンパー1の適用事例を図3に示す。この事例は、梁102及び柱103からなる鉄骨構造物100とその構面内に配置された一対の鉄骨偏心ブレース104とともに使用されものであり、鉄骨構造物100の上側の梁102(上部構造部材USに対応)の下面と鉄骨偏心ブレース104の頂部(下部構造部材LSに対応)との間にせん断ダンパー1が配置されている。図3の矢印xに沿った水平方向の外力が作用したときに、鉄骨構造物100の変形によって生じるせん断力に対して履歴減衰によってその振動エネルギーを吸収することができる。
【0019】
<効果>
以上の構成を有するせん断ダンパー1は、以下の効果を奏する。
(1)せん断ダンパー1は、せん断パネル11の幅方向の両端に補剛板13が接合され、また、せん断パネル12a、12bの幅方向の両端には補剛板14が接合されている。したがって、せん断ダンパー1は、補剛板13、14が面外変形を補剛することにより、せん断パネル11、12a、12bの面外方向への剛性を高め、安定したエネルギー吸収性能を確保することができる。
【0020】
(2)せん断ダンパー1は、複数枚のせん断パネル11、12a、12bを配置している。したがって、図4(a)に示すように、せん断パネル11、12a、12bの高さを総和した総延長長さをL11+L12にできる。したがって、これらせん断パネル11及びせん断パネル11、12a、12bのせん断変形量をδ11、δ12とすると、せん断ダンパー1全体としての変形量δは以下の式に示すように、せん断パネル11とせん断パネル12a、12bの個々の変形量δ11、δ12を総和した量となる。この量は、せん断パネル11、12a、12bの許容せん断変形角γを用いて、下記の式により求めることができる。
δ=(δ11+δ12)=γ×(L11+L12)
このようにせん断ダンパー1は、複数枚のせん断パネル11、12a、12bを備えていることで許容される変形量が大きくなるので、上部構造部材USと下部構造部材LSの間に大きな相対変位が生じても、図4(b)に実線で示すように安定したせん断力−変位履歴を得ることが可能である。これに対して補剛板13、14を設けなければ、大きな相対変位が生じると面外変形が生じ、図4(b)に破線で示すように不安定なせん断力−変位履歴になる。
【0021】
ここで、上部構造部材US及び下部構造部材LSとせん断ダンパー1との連結は、図2に示すようにボルトBにより行うことが好ましい。地震後などによりせん断ダンパー1が使用できなくなった際に新たなせん断ダンパー1と取替える作業が容易になるからである。ただし本発明はこれに限定されず、図5(b)に示すようにボルトBを用いることなく溶接結合により接合することができるし、ボルト結合と溶接結合を組み合わせた接合としてもよい。
【0022】
本発明において、複数枚のせん断パネルを備え、かつ各せん断パネルの各々が平行に配置されている範囲で、せん断ダンパーに要求される変形性能や設置スペース等の条件により適宜変更することができる。そのいくつかの例を図5(a)、(c)〜(f)に示す。詳細は省略するが、図5(a)は3枚のせん断パネルを、図5(c)は4枚のせん断パネルを、また、図5(d)〜(f)は5枚のせん断パネルを設けている。なお、図5(a)は図2(b)と同じものを上下反転させたものである。
【0023】
<一方の主構造との連結を行わない例>
以上説明したせん断ダンパー1は、上部構造部材USと下部構造部材LSの両者に接合されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6に示すように、上部構造部材USに近い側のせん断パネル11の上端に接合されている上部補剛板15と上部構造部材USの接合は行わず、その代わりにせん断パネル11の幅方向の両側に一対のストッパー17を設ける。ストッパー17は、上部構造部材USに固定されている。下部構造部材LSに近い側のせん断パネル12a、12bは、以上と同様に下部補剛板16を介して下部構造部材LSに接合されている。なお、ここで説明した以外の構成は、図1〜図3に示されるせん断ダンパー1と同じである。
図6(d)に示すように、地震が起きて上部構造部材USと下部構造部材LSとの間に水平方向の相対変位が生じてせん断ダンパー1に変形が生ずると、上部補剛板15が一方のストッパー17に突き当たりせん断パネル11、12a、12bの幅方向、つまりせん断方向への変位が規制される。そうすることで、せん断パネル11、12a、12bにせん断力が生じ、せん断ダンパー1が機能する。
なお、ここではせん断ダンパー1が下部構造部材LSには接続されるが上部構造部材USに接続されない例を示しているが、逆に、せん断ダンパー1が上部構造部材USには接続されるが下部構造部材LSには接続されない形態にすることもできる。この場合には、下部構造部材LSにストッパー17を設けることになる。
【0024】
以上のように、一方の構造部材(上部構造部材US)との接合を行わない形態によると、せん断パネル11、12a、12bの面外方向への動き及び構造部材と離間する動きに対して、せん断ダンパー1には荷重伝達が行われない。よってこの形態によるせん断パネル11、12a、12bは面外方向への曲げや軸力等の荷重を負担することがないので、それらによる損傷が防止される。つまり、一方の構造部材との接合を行わないせん断ダンパー1は、せん断方向のみの効率的なエネルギー吸収が可能となる。
このせん断ダンパー1の2つの適用事例を以下で説明する。
【0025】
<煙突構造への適用例>
以上で述べた一方の構造部材との接合を行わない形態のせん断ダンパー1を、煙突の筒身と鉄塔の連結部に適用する例を図7に示す。
図7に示すように、この煙突30は地上に立設された筒身31を鉄塔32で支持する構成を有している。鉄塔32は、柱33と、隣接する柱33の間を繋ぐ梁34、柱33と梁34とを繋ぐブレース35とを備えており、水平方向の断面において、柱33を頂点にして梁34は矩形状の構造をなしている。そして、各柱33から矩形の対角線方向に延びる水平材36が設けられ、各水平材36の端部には平面視が矩形の水平支持枠37が固定されている。
【0026】
水平支持枠37を構成する各辺の中央部にはせん断ダンパー1が連結されており、水平支持枠37の内側には筒身31を取り囲むように合せて4つのせん断ダンパー1が設けられている。せん断ダンパー1は、互いに対向する2つのせん断ダンパー1Aとせん断ダンパー1Bと呼ぶことにする。なお、各せん断ダンパー1は、その内側に配置される筒身31とは連結されていない。
水平支持枠37の内側に配置される筒身31の外周には、各せん断ダンパー1に対応して一対のストッパー38が固定されている。一対のストッパー38は、せん断ダンパー1を挟んで筒身31の周方向に所定の間隔を空けて配置されている。
【0027】
以上のように構成された煙突30に、例えば図7(b)の矢印1aに沿った方向の地震動が作用するとき、せん断ダンパー1Aのみがダンパーとして機能し、せん断ダンパー1Bは抵抗しない。逆に矢印1bに沿った方向の地震動が作用するとき、せん断ダンパー1Bのみがダンパーとして機能し、せん断ダンパー1Aは抵抗しない。
このように、煙突30に設けられたせん断ダンパー1(1A、1B)の中で、地震動の向きによって、せん断パネルの面外変形による損傷を防止することが可能となり、煙突30における効率的かつ安定したエネルギー吸収性能を確保することができる。
なお、筒身31にせん断ダンパー1を固定し、水平支持枠37にストッパー38を設けても、以上と同じ作用、効果を得ることができる。
【0028】
<橋梁への適用例>
次に、せん断ダンパー1を橋梁40に適用した事例について図8を参照して説明する。
橋梁40は、地面に固定された橋脚41と、橋脚41の上面に支承43を介して支持される上部構造42と、を備えている。
この橋梁40には、橋脚41の上面にせん断ダンパー1が接合されている。せん断ダンパー1は、上部構造42とは接合されていない。
上部構造42の下面にはせん断ダンパー1に対応して一対のストッパー44が固定されている。一対のストッパー44は、せん断ダンパー1を挟んで上部構造42の幅方向に所定の間隔を空けて配置されている。
【0029】
以上の橋梁40は、橋脚41と上部構造42を連結することにより、せん断ダンパー1が橋軸に対して直角方向(矢印x)の相対変位に対してエネルギーを吸収し、橋軸方向の相対変位に対して抵抗しない。したがって、せん断ダンパー1のせん断パネルの面外変形による損傷を防止することが可能となり、橋梁40において、効率的に安定したエネルギー吸収性能を確保することができる。
【0030】
[第2実施形態]
図9(a)に示す第2実施形態によるせん断ダンパー2は、基本的な構成はせん断ダンパー1と同じであるが、各々のせん断降伏荷重が異なるものとなるように各せん断パネル11、12a、12bの寸法を定める。
例えば、図9(a)に示すせん断ダンパー2においては、下記式(1)、(2)のように各せん断パネル11、12a、12bのせん断降伏荷重Q11y、Q12yが求められるので、b11=b12a=b12bかつσ11y=σ12ay=σ12byの場合は、t11とt12a+t12bが異なる値となるようにせん断パネル11、12a、12bの寸法を定める。以上のように設定されたせん断パネル11、12a、12bの骨格曲線を図9(b)に示す。図9(b)において、Q1は中小規模の地震による荷重を示し、Q2は大規模の地震による荷重を示しており、Q11y、Q12yと下記式(3)、(4)の関係を有している。つまり、それぞれのせん断パネル11、12a、12bがせん断降伏するタイミングが異なるものとなるため、地震動の大きさに応じて塑性変形するせん断パネル11、12a、12bを限定することができる。
【0031】
Q11y=b11×t11×σ11y 式(1)
Q12y=b12a×t12a×σ12ay+b12b×t12b×σ12by 式(2)
せん断パネル11 : b11;幅 t11;厚さ σ11;せん断降伏応力
せん断パネル12a : b12a;幅 t12a:厚さ σ12ay;せん断降伏応力
せん断パネル12b : b12a;幅 t12b:厚さ σ12by;せん断降伏応力
【0032】
Q1:Q11y<Q1<Q12y 式(3)
Q2:Q11y<Q12y<Q2 式(4)
【0033】
以上の構成を有するせん断ダンパー2において、中小規模地震、大規模地震が生じた時の、各せん断パネルのせん断荷重と変位の関係、せん断ダンパー2全体におけるせん断荷重と変位の関係を図10に示す。
図10(a)に示すように、中小規模地震においては、せん断降伏荷重(Q11y)の小さいせん断パネル11のみが塑性変形し、せん断降伏荷重(Q12y)の大きなせん断パネル12a、12bは弾性範囲の変形に留まる。したがって、地震後に損傷したせん断パネルを取替える作業を最小限に抑えることが可能となる。
一方、図10(b)に示すように、大規模地震においては、せん断降伏荷重(Q11y)の小さいせん断パネル11が塑性変形し、次いで、せん断降伏荷重(Q12y)の大きなせん断パネル12a、12bが塑性変形する、という経過を経る。そうすることで、せん断ダンパー2全体として大きな変形に対応することが可能になる。この場合、地震後には損傷したせん断パネル11、12a、12bの全てを取替える。
【0034】
以上の第2実施形態は、せん断パネル11、12a、12bというように3枚のせん断パネルからなるせん断ダンパー2について説明したが、4枚以上のせん断パネルからなるせん断ダンパー2についても同様に適用できる。例えば、5枚のせん断パネルからなるせん断ダンパー2の場合、小規模地震、中規模地震及び大規模地震というように3段階に分けてせん断パネルを塑性変形させることで、地震後に損傷したせん断パネルを取替える作業を最小限にさらに抑えることが可能となる。
また、以上ではせん断パネル11、12a、12bの厚さを変えることによりせん断パネル11、12a、12bのせん断降伏荷重を変える例を示したが、せん断パネル11、12a、12bを構成する鋼板の材質を変えることによりせん断パネル11、12a、12bのせん断降伏荷重を変えることもできる。
【0035】
なお、せん断パネル11のせん断降伏荷重Q11yとせん断パネル12a、12bのせん断降伏荷重Q12ay、Q12byを等しく設定すれば(Q11y=Q12ay=Q12by)、それぞれのせん断パネル11、12a、12bを同時にせん断降伏させることにより、高いエネルギー吸収性能を得ることが可能となる。
【0036】
[第3実施形態]
図11に示す第3実施形態によるせん断ダンパー3は、せん断ダンパー1の構造に加えて、せん断パネル11、12a、12bのそれぞれを表裏から挟むように第1規制板18を設ける。第1規制板18は、各々がせん断パネル11、12a、12bの幅方向(水平方向)に沿って、せん断パネル11、12a、12bを境にして対向するように配置される。第1規制板18は、その長手方向の両端を補剛板13、14に溶接により接合されているが、せん断パネル11、12a、12bから隙間を空けて配置されており、せん断パネル11、12a、12bとは接合されていない。
【0037】
以上のように、両端部を補剛板13、14に固定した一対の第1規制板18を各せん断パネル11、12a、12bの表裏に設置することで、各せん断パネル11、12a、12bの面外変形が規制される。したがって、せん断パネル11、12a、12bに局部的に座屈が生じるのをより確実に防止できるとともに、塑性域における効率的で安定したエネルギー吸収性能を確保することができる。
この第1規制板18はせん断パネル11、12a、12bには溶接接合されていないため、溶接部の破壊に起因する損傷がせん断ダンパー3には生じない。
【0038】
以上に示したせん断ダンパー3は、第1規制板18をせん断パネル11、12a、12bに一段だけ設けたが、図12に示すように複数段の第1規制板18を設けてもよい。
また、第1規制板18は、図12に示すようにせん断パネル11、12a、12bを高さ方向に均等に分割するように配置するのが望ましいが、本発明はこれに限定されず、図13(a)に示すように不均等に配置してもよい。
さらに、第1規制板18と同様の目的を備える第2規制板19を、図13(b)に示すように、せん断パネル11、12a、12bの高さ方向に沿って配置することもできる。
【0039】
上記実施の形態では、補剛板13、14をせん断パネル11、12a、12bの端面に突き当てて接合しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、せん断パネル11の端部を分割された板で表裏両側から挟み込むようにして補剛板13を構成することもできる。
また、上記実施の形態では、全てのせん断パネルに第1補剛体、第2補剛体を設けた例を示しているが、一部のせん断パネルに限り第1補剛体及び第2補剛体の一方又は双方を設けない形態を本発明は包含している。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1、1A、1B、2、3 せん断ダンパー
11、12a、12b せん断パネル
13、14 補剛板(第2補剛体)
15 上部補剛板(第1補剛体)
16 下部補剛板(第1補剛体)
17 ストッパー
18 第1規制板(第1規制体)
19 第2規制板(第2規制体)
20 連結部材
21 第1水平連結部
23 第2水平連結部
25 垂直連結部
30 煙突
31 筒身
32 鉄塔
33 柱
34 梁
35 ブレース
36 水平材
37 水平支持枠(支持体)
38 ストッパー
40 橋梁
41 橋脚
42 上部構造
43 支承
44 ストッパー
100 鉄骨構造物
102 梁
103 柱
104 鉄骨偏心ブレース
B ボルト
LS 下部構造部材
US 上部構造部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や塔状構造物などに適用される耐震や耐風のためのせん断ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物や塔状構造物を構成する部材間に生じるせん断力に対して、中小地震時や暴風時には降伏しないが、大地震時には降伏してエネルギーを吸収するせん断ダンパーが耐震対策として用いられている。
従来のせん断ダンパーとして、例えば特許文献1には、部材間に低降伏点鋼からなるせん断パネルを設置し、所定レベル以上の地震に対してせん断塑性変形するものが開示されている。
ところが特許文献1に開示されるせん断ダンパーには、設計上想定された変形角を上回る塑性変形が生じたときに使用ができなくなり、部材間の大きな相対変形に適用でいないという問題がある。
これに対して、特許文献2、3には、部材間に生じる相対変位量が大きな場合に適用可能なせん断ダンパーとして、複数のせん断プレートを同一平面状に配置することなく、千鳥状に平行に配置したものが開示されている。特許文献2、3のせん断ダンパーは、ダンパー全体の変形量を個々のせん断プレートに分配することにより、部材間の大きな変形にも追従することができる。つまり、このせん断ダンパーは、個々のせん断パネルの変形量δ1、δ2、… δnを総和した量がダンパー全体の変形量δとなる。
ところが、特許文献2、3に開示されるせん断ダンパーは、せん断パネルの面内方向以外の方向(以下、面外方向)への変形に対する剛性が低く、せん断パネルに局部座屈が生じるなどして安定したエネルギー吸収性能が得られない、あるいはエネルギー吸収性能が低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−191912号公報
【特許文献2】特開2001−173130号公報
【特許文献3】特開平9−317240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような課題に基づいてなされたもので、部材間の大きな変形にも追従することができるとともに、面外変形に対する剛性の高いせん断ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
互いに対向して配置される第1構造部材と第2構造部材の間に配置される本発明のせん断ダンパーは、互いに対向して配置され各々が第1方向及び第1方向に直交する第2方向に延びる複数のせん断パネルと、せん断パネルの第1方向の両端にそれぞれが接合される一対の第1補剛体と、せん断パネルの第2方向の両端に接合され、一対の第1補剛体間に配置される一対の第2補剛体と、を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明のせん断ダンパーにおいて、複数のせん断パネルは、第1構造部材と第2構造部材との位置関係により第1せん断パネルと第2せん断パネルと、に区分することができる。そして、第1構造部材に近い側に第1せん断パネルが配置され、第2構造部材に近い側に第2せん断パネルが配置されるものとする。この場合に、第1せん断パネルは、第1構造部材に接合されるもとする。一方、第2せん断パネルは、第2構造部材に接合されるものとすることができるが、第2構造部材に設けられるストッパーにより第2方向、つまりせん断方向の変位が規制されるものとすることもできる。このように一方の構造部材(第2構造部材)との接合を行わないせん断ダンパーは、せん断方向のみの効率的なエネルギー吸収が可能となる。
【0007】
このせん断ダンパーの適用例として煙突がある。つまり、第1構造部材及び第2構造体部材の一方が煙突の筒身であるものとすると、第1構造部材及び第2構造体部材の他方は筒身を水平方向に支持する支持体とすることができる。そうすることにより、地震動の向きによって、せん断パネルの面外変形による損傷を防止することが可能となり、煙突における効率的かつ安定したエネルギー吸収性能を確保することができる。
また、他の適用例として橋梁がある。つまり、第1構造部材及び第2構造体部材の一方が橋梁の橋脚であるものとすると、第1構造部材及び第2構造体部材の他方は橋脚に支持される上部構造物とすることができる。この場合も、せん断パネルの面外変形による損傷を防止することが可能となり、橋梁における効率的かつ安定したエネルギー吸収性能を確保することができる。
【0008】
本発明のせん断ダンパーにおいて、複数のせん断パネルの各々のせん断降伏荷重は、等しく設定することもできるし、相違させることもできる。
せん断パネルのせん断降伏荷重を等しく設定すれば、それぞれのせん断パネルが同時にせん断降伏させることができるので、高いエネルギー吸収性能を得ることができる。一方、各せん断パネルのせん断降伏荷重を相違させ、中小規模地震においてはせん断降伏荷重の小さいせん断パネルのみを塑性変形させ、せん断降伏荷重の大きなせん断パネルは弾性範囲の変形に留まるようにできる。そうすると、損傷したせん断パネルを地震後に取替える作業を最小限に抑えることができる。この場合、大規模地震においては、せん断降伏荷重の小さいせん断パネルが先行して塑性変形し、次いで、せん断降伏荷重の大きなせん断パネルが塑性変形する、という経過を辿る。
【0009】
本発明のせん断ダンパーにおいて、第2補剛体を各せん断パネルの第2方向の両端に設けるのに加えて、せん断パネルの表裏両面側に、一対の第2補剛体の間を繋ぐ第1規制体を配置することが好ましい。この第1規制体は、せん断パネルに座屈が局部的に生ずるのをより確実に防ぐのに有効である。
さらに、せん断パネルの表裏両面側に、一対の第1補剛体の間を繋ぐ第2規制体を配置することができる。この第2規制体も、せん断パネルに座屈が局部的に生ずるのをより確実に防ぐのに有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、互いに対向して配置され各々が第1方向及び第2方向に延びる複数のせん断パネルを備えているので、第1構造部材と第2構造部材の間に生ずる大きな変形にも追従することができる。また、本発明によれば、せん断パネルの第2方向の両端に接合され、一対の第1補剛体間に配置される一対の第2補剛体を備えることにより面外変形に対する剛性の高いせん断ダンパーを提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態によるせん断ダンパー(ボルトを省略)を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態によるせん断ダンパーを示し、(a)が正面図、(b)が側面図である。
【図3】第1実施形態によるせん断ダンパーを架構に適用した例を示し、(a)は変形が生じていない状態、(b)は変形が生じている状態を示している。
【図4】第1実施形態によるせん断ダンパーの作用を説明する図であり、(a)は変形性能を示し、(b)はせん断パネルのせん断力−変位履歴曲線を示す。
【図5】第1実施形態によるせん断パネルの配置を種々変更した例を示す側面図である。
【図6】第1実施形態において、一方の主構造にストッパーを設置して、せん断ダンパーとの直接的な接合を行わない変更例をし、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)の6c−6c矢視断面図、(d)は変形の様子を示す正面図である。
【図7】図6に示す変更例の煙突への適用事例を示し、(a)は煙突の全体図、(b)は(a)の7b−7b矢視断面図である。
【図8】図6に示す変更例の橋梁への適用事例を示す正面図である。
【図9】第2実施形態を説明する図であり、(a)は第2実施形態が適用されるせん断ダンパーを示す斜視図であり、(b)は当該せん断ダンパーを構成するせん断パネルの骨格曲線を示すグラフである。
【図10】第2実施形態によるせん断ダンパーのせん断力−変位履歴曲線を示し、(a)は中小規模の地震が生じた場合を、また、(b)は大規模な地震が生じた場合を示す。
【図11】第3実施形態によるせん断ダンパーを示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)の11c−11c矢視断面図、(d)は(b)の11d−11d矢視断面図、である。
【図12】第3実施形態による他のせん断ダンパーを示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は(a)の12c−12c矢視断面図、(d)は(b)の12d−12d矢視断面図、である。
【図13】第3実施形態の変更例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に示す実施形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1〜図3に示すように、せん断ダンパー1は、互いに対向する上部構造部材USと下部構造部材LSとの間に設けられるものであり、上部構造部材USと下部構造部材LSの間に生じるせん断変形に対して抵抗し、中小地震時や暴風時には降伏しないが、大地震時には降伏してエネルギーを吸収するように機能する。なお、図1はボルトBの記載を省略している。
せん断ダンパー1は、3枚のせん断パネル11、12a、12bを備えている。これらせん断パネル11、12a、12bは、上部構造部材US、下部構造部材LSに対して垂直に配置され、かつ水平方向に間隔を設けて千鳥状に配置されている。そして、せん断パネル11、12a、12bは互いに平行に配置され、かつ中央に配置されるせん断パネル11を中心にしてせん断パネル12a、12bは対称の位置に配置されている。各せん断パネル11、12a、12bは、図2(a)の矢印xに沿った水平方向の外力が作用したとき、せん断変形に伴う履歴減衰によって地震時の振動エネルギーを吸収することが可能な履歴減衰性能を有するものとされ、公知の偏平な鋼板により構成される。せん断パネル11、12a、12bは、各々同じ仕様を有していてもよいし、異なる仕様を有していてもよい。
【0013】
高さ方向(図1のH、第1方向)及び幅方向(図1のW、第2方向)に延びるせん断パネル11(第1せん断パネル)の上端に上部補剛板15(第1補剛体)が溶接によりフランジ状に固定されており、この上部補剛板15はボルトBにより上部構造部材USに締結されている。こうして、せん断パネル11は上部補剛板15を介して上部構造部材USに接合される。
また、せん断パネル12a、12b(第2せん断パネル)の各々の下端に下部補剛板16(第1補剛体)が溶接によりフランジ状に固定されており、この下部補剛板16(第1補剛体)はボルトBにより下部構造部材LSに締結されている。こうして、せん断パネル12a、12bは下部補剛板16を介して下部構造部材LSに接合される。
【0014】
各せん断パネル11、12a、12bの厚みや幅は、せん断ダンパー1に作用する地震時のせん断力の大きさを主に考慮して設定されるべきである。一方で、せん断パネル11の高さL11、せん断パネル12a、12bの高さL12については、各々の許容せん断変形角と地震時における上部構造部材USと下部構造部材LSとの間の水平方向の変形(δ)の大きさとを考慮して定めればよい。また、せん断パネル11、12a、12bに降伏後の塑性変形能力の大きい低降伏点鋼を用いることによって大きな塑性エネルギーを吸収する効果が得られる。
【0015】
せん断パネル11の幅方向の両端には一対の補剛板13(第2補剛体)が溶接によりフランジ状に接合されている。補剛板13は、せん断パネル11と同等の高さを有しており、後述する連結部材20の第1水平連結部21の図中上面に設けられる下部補剛板16(第1補剛体)と上部補剛板15(第1補剛体)との間に隙間なく配置されている。
同様に、せん断パネル12a、12bの幅方向の両端には補剛板14(第2補剛体)が溶接によりフランジ状に接合されている。補剛板14は、せん断パネル12a、12bと同等の高さを有しており、後述する連結部材20の第2水平連結部23の図中下面に設けられる上部補剛板15(第1補剛体)と下部補剛板16(第1補剛体)との間に隙間なく配置されている。
補剛板13、14は、せん断パネル11、12a、12bの面外変形に対する剛性を高めることを目的に設けられるものである。したがって、補剛板13、14はこの目的をなし得る程度の剛性を有するように、材質、板厚などの仕様が設定されるべきである。
【0016】
<連結部材20>
せん断パネル11とせん断パネル12a、12bは、連結部材20により連結されている。連結部材20は、せん断パネル11、12a、12bよりも大きなせん断耐力を有するように構成されている。鋼板を曲げ加工あるいは溶接加工することにより製作される連結部材20は、第1水平連結部21、一対の第2水平連結部23及び一対の垂直連結部25を備えている。
第1水平連結部21の上面には下部補剛板16が設けられている。この下部補剛板16にはせん断パネル11及び補剛板13の下端が溶接により接合されており、第1水平連結部21と、せん断パネル11及び補剛板13とは、下部補剛板16を介してボルト結合により連結されている。
また、一対の第2水平連結部23の各々の下面には上部補剛板15が設けられている。一方の上部補剛板15にはせん断パネル12a及び補剛板14の上端が、また、他方の上部補剛板15にはせん断パネル12b及び補剛板14の上端が、溶接により接合されている。そして、第2水平連結部23と、せん断パネル12a及び補剛板14とは、上部補剛板15を介してボルト結合により連結されている。また、第2水平連結部23と、せん断パネル12b及び補剛板14とは、上部補剛板15を介してボルト結合により連結されている。
一対の垂直連結部25は、一対のせん断パネル12a、12bのせん断パネル11に臨む側の端部から垂下し、第1水平連結部21と一対の第2水平連結部23とを繋いでいる。
【0017】
このようにして、せん断パネル11、12a、12bは、連結部材20により連結されており、せん断パネル11、12a、12bの間でせん断力(図2(a)の矢印x方向に作用するせん断力)の伝達が連結部材20を介して行われる。
なお、連結部材20のせん断耐力をせん断パネル11、12a、12bよりも大きくする手法は任意である。例えば、連結部材20を構成する鋼板の板厚をせん断パネル12a、12bを構成する鋼板よりも厚くすればよい。また、せん断パネル11、12a、12bよりも高強度の鋼板により連結部材20を構成してもよい。
【0018】
以上のせん断ダンパー1の適用事例を図3に示す。この事例は、梁102及び柱103からなる鉄骨構造物100とその構面内に配置された一対の鉄骨偏心ブレース104とともに使用されものであり、鉄骨構造物100の上側の梁102(上部構造部材USに対応)の下面と鉄骨偏心ブレース104の頂部(下部構造部材LSに対応)との間にせん断ダンパー1が配置されている。図3の矢印xに沿った水平方向の外力が作用したときに、鉄骨構造物100の変形によって生じるせん断力に対して履歴減衰によってその振動エネルギーを吸収することができる。
【0019】
<効果>
以上の構成を有するせん断ダンパー1は、以下の効果を奏する。
(1)せん断ダンパー1は、せん断パネル11の幅方向の両端に補剛板13が接合され、また、せん断パネル12a、12bの幅方向の両端には補剛板14が接合されている。したがって、せん断ダンパー1は、補剛板13、14が面外変形を補剛することにより、せん断パネル11、12a、12bの面外方向への剛性を高め、安定したエネルギー吸収性能を確保することができる。
【0020】
(2)せん断ダンパー1は、複数枚のせん断パネル11、12a、12bを配置している。したがって、図4(a)に示すように、せん断パネル11、12a、12bの高さを総和した総延長長さをL11+L12にできる。したがって、これらせん断パネル11及びせん断パネル11、12a、12bのせん断変形量をδ11、δ12とすると、せん断ダンパー1全体としての変形量δは以下の式に示すように、せん断パネル11とせん断パネル12a、12bの個々の変形量δ11、δ12を総和した量となる。この量は、せん断パネル11、12a、12bの許容せん断変形角γを用いて、下記の式により求めることができる。
δ=(δ11+δ12)=γ×(L11+L12)
このようにせん断ダンパー1は、複数枚のせん断パネル11、12a、12bを備えていることで許容される変形量が大きくなるので、上部構造部材USと下部構造部材LSの間に大きな相対変位が生じても、図4(b)に実線で示すように安定したせん断力−変位履歴を得ることが可能である。これに対して補剛板13、14を設けなければ、大きな相対変位が生じると面外変形が生じ、図4(b)に破線で示すように不安定なせん断力−変位履歴になる。
【0021】
ここで、上部構造部材US及び下部構造部材LSとせん断ダンパー1との連結は、図2に示すようにボルトBにより行うことが好ましい。地震後などによりせん断ダンパー1が使用できなくなった際に新たなせん断ダンパー1と取替える作業が容易になるからである。ただし本発明はこれに限定されず、図5(b)に示すようにボルトBを用いることなく溶接結合により接合することができるし、ボルト結合と溶接結合を組み合わせた接合としてもよい。
【0022】
本発明において、複数枚のせん断パネルを備え、かつ各せん断パネルの各々が平行に配置されている範囲で、せん断ダンパーに要求される変形性能や設置スペース等の条件により適宜変更することができる。そのいくつかの例を図5(a)、(c)〜(f)に示す。詳細は省略するが、図5(a)は3枚のせん断パネルを、図5(c)は4枚のせん断パネルを、また、図5(d)〜(f)は5枚のせん断パネルを設けている。なお、図5(a)は図2(b)と同じものを上下反転させたものである。
【0023】
<一方の主構造との連結を行わない例>
以上説明したせん断ダンパー1は、上部構造部材USと下部構造部材LSの両者に接合されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6に示すように、上部構造部材USに近い側のせん断パネル11の上端に接合されている上部補剛板15と上部構造部材USの接合は行わず、その代わりにせん断パネル11の幅方向の両側に一対のストッパー17を設ける。ストッパー17は、上部構造部材USに固定されている。下部構造部材LSに近い側のせん断パネル12a、12bは、以上と同様に下部補剛板16を介して下部構造部材LSに接合されている。なお、ここで説明した以外の構成は、図1〜図3に示されるせん断ダンパー1と同じである。
図6(d)に示すように、地震が起きて上部構造部材USと下部構造部材LSとの間に水平方向の相対変位が生じてせん断ダンパー1に変形が生ずると、上部補剛板15が一方のストッパー17に突き当たりせん断パネル11、12a、12bの幅方向、つまりせん断方向への変位が規制される。そうすることで、せん断パネル11、12a、12bにせん断力が生じ、せん断ダンパー1が機能する。
なお、ここではせん断ダンパー1が下部構造部材LSには接続されるが上部構造部材USに接続されない例を示しているが、逆に、せん断ダンパー1が上部構造部材USには接続されるが下部構造部材LSには接続されない形態にすることもできる。この場合には、下部構造部材LSにストッパー17を設けることになる。
【0024】
以上のように、一方の構造部材(上部構造部材US)との接合を行わない形態によると、せん断パネル11、12a、12bの面外方向への動き及び構造部材と離間する動きに対して、せん断ダンパー1には荷重伝達が行われない。よってこの形態によるせん断パネル11、12a、12bは面外方向への曲げや軸力等の荷重を負担することがないので、それらによる損傷が防止される。つまり、一方の構造部材との接合を行わないせん断ダンパー1は、せん断方向のみの効率的なエネルギー吸収が可能となる。
このせん断ダンパー1の2つの適用事例を以下で説明する。
【0025】
<煙突構造への適用例>
以上で述べた一方の構造部材との接合を行わない形態のせん断ダンパー1を、煙突の筒身と鉄塔の連結部に適用する例を図7に示す。
図7に示すように、この煙突30は地上に立設された筒身31を鉄塔32で支持する構成を有している。鉄塔32は、柱33と、隣接する柱33の間を繋ぐ梁34、柱33と梁34とを繋ぐブレース35とを備えており、水平方向の断面において、柱33を頂点にして梁34は矩形状の構造をなしている。そして、各柱33から矩形の対角線方向に延びる水平材36が設けられ、各水平材36の端部には平面視が矩形の水平支持枠37が固定されている。
【0026】
水平支持枠37を構成する各辺の中央部にはせん断ダンパー1が連結されており、水平支持枠37の内側には筒身31を取り囲むように合せて4つのせん断ダンパー1が設けられている。せん断ダンパー1は、互いに対向する2つのせん断ダンパー1Aとせん断ダンパー1Bと呼ぶことにする。なお、各せん断ダンパー1は、その内側に配置される筒身31とは連結されていない。
水平支持枠37の内側に配置される筒身31の外周には、各せん断ダンパー1に対応して一対のストッパー38が固定されている。一対のストッパー38は、せん断ダンパー1を挟んで筒身31の周方向に所定の間隔を空けて配置されている。
【0027】
以上のように構成された煙突30に、例えば図7(b)の矢印1aに沿った方向の地震動が作用するとき、せん断ダンパー1Aのみがダンパーとして機能し、せん断ダンパー1Bは抵抗しない。逆に矢印1bに沿った方向の地震動が作用するとき、せん断ダンパー1Bのみがダンパーとして機能し、せん断ダンパー1Aは抵抗しない。
このように、煙突30に設けられたせん断ダンパー1(1A、1B)の中で、地震動の向きによって、せん断パネルの面外変形による損傷を防止することが可能となり、煙突30における効率的かつ安定したエネルギー吸収性能を確保することができる。
なお、筒身31にせん断ダンパー1を固定し、水平支持枠37にストッパー38を設けても、以上と同じ作用、効果を得ることができる。
【0028】
<橋梁への適用例>
次に、せん断ダンパー1を橋梁40に適用した事例について図8を参照して説明する。
橋梁40は、地面に固定された橋脚41と、橋脚41の上面に支承43を介して支持される上部構造42と、を備えている。
この橋梁40には、橋脚41の上面にせん断ダンパー1が接合されている。せん断ダンパー1は、上部構造42とは接合されていない。
上部構造42の下面にはせん断ダンパー1に対応して一対のストッパー44が固定されている。一対のストッパー44は、せん断ダンパー1を挟んで上部構造42の幅方向に所定の間隔を空けて配置されている。
【0029】
以上の橋梁40は、橋脚41と上部構造42を連結することにより、せん断ダンパー1が橋軸に対して直角方向(矢印x)の相対変位に対してエネルギーを吸収し、橋軸方向の相対変位に対して抵抗しない。したがって、せん断ダンパー1のせん断パネルの面外変形による損傷を防止することが可能となり、橋梁40において、効率的に安定したエネルギー吸収性能を確保することができる。
【0030】
[第2実施形態]
図9(a)に示す第2実施形態によるせん断ダンパー2は、基本的な構成はせん断ダンパー1と同じであるが、各々のせん断降伏荷重が異なるものとなるように各せん断パネル11、12a、12bの寸法を定める。
例えば、図9(a)に示すせん断ダンパー2においては、下記式(1)、(2)のように各せん断パネル11、12a、12bのせん断降伏荷重Q11y、Q12yが求められるので、b11=b12a=b12bかつσ11y=σ12ay=σ12byの場合は、t11とt12a+t12bが異なる値となるようにせん断パネル11、12a、12bの寸法を定める。以上のように設定されたせん断パネル11、12a、12bの骨格曲線を図9(b)に示す。図9(b)において、Q1は中小規模の地震による荷重を示し、Q2は大規模の地震による荷重を示しており、Q11y、Q12yと下記式(3)、(4)の関係を有している。つまり、それぞれのせん断パネル11、12a、12bがせん断降伏するタイミングが異なるものとなるため、地震動の大きさに応じて塑性変形するせん断パネル11、12a、12bを限定することができる。
【0031】
Q11y=b11×t11×σ11y 式(1)
Q12y=b12a×t12a×σ12ay+b12b×t12b×σ12by 式(2)
せん断パネル11 : b11;幅 t11;厚さ σ11;せん断降伏応力
せん断パネル12a : b12a;幅 t12a:厚さ σ12ay;せん断降伏応力
せん断パネル12b : b12a;幅 t12b:厚さ σ12by;せん断降伏応力
【0032】
Q1:Q11y<Q1<Q12y 式(3)
Q2:Q11y<Q12y<Q2 式(4)
【0033】
以上の構成を有するせん断ダンパー2において、中小規模地震、大規模地震が生じた時の、各せん断パネルのせん断荷重と変位の関係、せん断ダンパー2全体におけるせん断荷重と変位の関係を図10に示す。
図10(a)に示すように、中小規模地震においては、せん断降伏荷重(Q11y)の小さいせん断パネル11のみが塑性変形し、せん断降伏荷重(Q12y)の大きなせん断パネル12a、12bは弾性範囲の変形に留まる。したがって、地震後に損傷したせん断パネルを取替える作業を最小限に抑えることが可能となる。
一方、図10(b)に示すように、大規模地震においては、せん断降伏荷重(Q11y)の小さいせん断パネル11が塑性変形し、次いで、せん断降伏荷重(Q12y)の大きなせん断パネル12a、12bが塑性変形する、という経過を経る。そうすることで、せん断ダンパー2全体として大きな変形に対応することが可能になる。この場合、地震後には損傷したせん断パネル11、12a、12bの全てを取替える。
【0034】
以上の第2実施形態は、せん断パネル11、12a、12bというように3枚のせん断パネルからなるせん断ダンパー2について説明したが、4枚以上のせん断パネルからなるせん断ダンパー2についても同様に適用できる。例えば、5枚のせん断パネルからなるせん断ダンパー2の場合、小規模地震、中規模地震及び大規模地震というように3段階に分けてせん断パネルを塑性変形させることで、地震後に損傷したせん断パネルを取替える作業を最小限にさらに抑えることが可能となる。
また、以上ではせん断パネル11、12a、12bの厚さを変えることによりせん断パネル11、12a、12bのせん断降伏荷重を変える例を示したが、せん断パネル11、12a、12bを構成する鋼板の材質を変えることによりせん断パネル11、12a、12bのせん断降伏荷重を変えることもできる。
【0035】
なお、せん断パネル11のせん断降伏荷重Q11yとせん断パネル12a、12bのせん断降伏荷重Q12ay、Q12byを等しく設定すれば(Q11y=Q12ay=Q12by)、それぞれのせん断パネル11、12a、12bを同時にせん断降伏させることにより、高いエネルギー吸収性能を得ることが可能となる。
【0036】
[第3実施形態]
図11に示す第3実施形態によるせん断ダンパー3は、せん断ダンパー1の構造に加えて、せん断パネル11、12a、12bのそれぞれを表裏から挟むように第1規制板18を設ける。第1規制板18は、各々がせん断パネル11、12a、12bの幅方向(水平方向)に沿って、せん断パネル11、12a、12bを境にして対向するように配置される。第1規制板18は、その長手方向の両端を補剛板13、14に溶接により接合されているが、せん断パネル11、12a、12bから隙間を空けて配置されており、せん断パネル11、12a、12bとは接合されていない。
【0037】
以上のように、両端部を補剛板13、14に固定した一対の第1規制板18を各せん断パネル11、12a、12bの表裏に設置することで、各せん断パネル11、12a、12bの面外変形が規制される。したがって、せん断パネル11、12a、12bに局部的に座屈が生じるのをより確実に防止できるとともに、塑性域における効率的で安定したエネルギー吸収性能を確保することができる。
この第1規制板18はせん断パネル11、12a、12bには溶接接合されていないため、溶接部の破壊に起因する損傷がせん断ダンパー3には生じない。
【0038】
以上に示したせん断ダンパー3は、第1規制板18をせん断パネル11、12a、12bに一段だけ設けたが、図12に示すように複数段の第1規制板18を設けてもよい。
また、第1規制板18は、図12に示すようにせん断パネル11、12a、12bを高さ方向に均等に分割するように配置するのが望ましいが、本発明はこれに限定されず、図13(a)に示すように不均等に配置してもよい。
さらに、第1規制板18と同様の目的を備える第2規制板19を、図13(b)に示すように、せん断パネル11、12a、12bの高さ方向に沿って配置することもできる。
【0039】
上記実施の形態では、補剛板13、14をせん断パネル11、12a、12bの端面に突き当てて接合しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、せん断パネル11の端部を分割された板で表裏両側から挟み込むようにして補剛板13を構成することもできる。
また、上記実施の形態では、全てのせん断パネルに第1補剛体、第2補剛体を設けた例を示しているが、一部のせん断パネルに限り第1補剛体及び第2補剛体の一方又は双方を設けない形態を本発明は包含している。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1、1A、1B、2、3 せん断ダンパー
11、12a、12b せん断パネル
13、14 補剛板(第2補剛体)
15 上部補剛板(第1補剛体)
16 下部補剛板(第1補剛体)
17 ストッパー
18 第1規制板(第1規制体)
19 第2規制板(第2規制体)
20 連結部材
21 第1水平連結部
23 第2水平連結部
25 垂直連結部
30 煙突
31 筒身
32 鉄塔
33 柱
34 梁
35 ブレース
36 水平材
37 水平支持枠(支持体)
38 ストッパー
40 橋梁
41 橋脚
42 上部構造
43 支承
44 ストッパー
100 鉄骨構造物
102 梁
103 柱
104 鉄骨偏心ブレース
B ボルト
LS 下部構造部材
US 上部構造部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1構造部材と第2構造部材の間に配置されるせん断ダンパーであって、
互いに対向して配置され各々が第1方向及び前記第1方向に直交する第2方向に延びる複数のせん断パネルと、
前記せん断パネルの前記第1方向の両端にそれぞれ接合される一対の第1補剛体と、
前記せん断パネルの前記第2方向の両端に接合され、一対の前記第1補剛体間に配置される一対の第2補剛体と、
を備えることを特徴とするせん断ダンパー。
【請求項2】
複数の前記せん断パネルは、
前記第1構造部材に近い側に配置される第1せん断パネルと、
前記第2構造部材に近い側に配置される第2せん断パネルと、に区分され、
前記第1せん断パネルは、前記第1構造部材に接合され、
前記第2せん断パネルは、前記第2構造部材に設けられるストッパーにより前記第2方向の変位が規制される、
請求項1に記載のせん断ダンパー。
【請求項3】
前記第1構造部材及び前記第2構造体部材の一方が煙突の筒身であり、
前記第1構造部材及び前記第2構造体部材の他方は前記筒身を水平方向に支持する支持体である、
請求項2に記載のせん断ダンパー。
【請求項4】
前記第1構造部材及び前記第2構造体部材の一方が橋梁の橋脚であり、
前記第1構造部材及び前記第2構造体部材の他方は前記橋脚に支持される上部構造物である、
請求項2に記載のせん断ダンパー。
【請求項5】
複数の前記せん断パネルの各々のせん断降伏荷重が相違する、
請求項1に記載のせん断ダンパー。
【請求項6】
前記せん断パネルの表裏両面側に、一対の前記第2補剛板の間を繋ぐ第1規制体が配置される、
請求項1〜5のいずれか一項に記載のせん断ダンパー。
【請求項7】
前記せん断パネルの表裏両面側に、一対の前記第1補剛板の間を繋ぐ第2規制体が配置される、
請求項1〜6のいずれか一項に記載のせん断ダンパー。
【請求項1】
互いに対向する第1構造部材と第2構造部材の間に配置されるせん断ダンパーであって、
互いに対向して配置され各々が第1方向及び前記第1方向に直交する第2方向に延びる複数のせん断パネルと、
前記せん断パネルの前記第1方向の両端にそれぞれ接合される一対の第1補剛体と、
前記せん断パネルの前記第2方向の両端に接合され、一対の前記第1補剛体間に配置される一対の第2補剛体と、
を備えることを特徴とするせん断ダンパー。
【請求項2】
複数の前記せん断パネルは、
前記第1構造部材に近い側に配置される第1せん断パネルと、
前記第2構造部材に近い側に配置される第2せん断パネルと、に区分され、
前記第1せん断パネルは、前記第1構造部材に接合され、
前記第2せん断パネルは、前記第2構造部材に設けられるストッパーにより前記第2方向の変位が規制される、
請求項1に記載のせん断ダンパー。
【請求項3】
前記第1構造部材及び前記第2構造体部材の一方が煙突の筒身であり、
前記第1構造部材及び前記第2構造体部材の他方は前記筒身を水平方向に支持する支持体である、
請求項2に記載のせん断ダンパー。
【請求項4】
前記第1構造部材及び前記第2構造体部材の一方が橋梁の橋脚であり、
前記第1構造部材及び前記第2構造体部材の他方は前記橋脚に支持される上部構造物である、
請求項2に記載のせん断ダンパー。
【請求項5】
複数の前記せん断パネルの各々のせん断降伏荷重が相違する、
請求項1に記載のせん断ダンパー。
【請求項6】
前記せん断パネルの表裏両面側に、一対の前記第2補剛板の間を繋ぐ第1規制体が配置される、
請求項1〜5のいずれか一項に記載のせん断ダンパー。
【請求項7】
前記せん断パネルの表裏両面側に、一対の前記第1補剛板の間を繋ぐ第2規制体が配置される、
請求項1〜6のいずれか一項に記載のせん断ダンパー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−189174(P2012−189174A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54814(P2011−54814)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)
【Fターム(参考)】
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