説明

ねじ中子抜き取り用シリンダ装置

【課題】ねじ中子をそのねじピッチで回転させながら前進/後退させるシリンダ装置を提供し、ダイカスト鋳造等においてねじ孔が形成された製品を得られるようにする。
【解決手段】ヘッドカバー14に立設・固定したねじ棒30とピストン・スリーブ15のピストン部33に内設したボールねじ機構35との螺合関係に基づいて、各ポート38,39への給油制御によりピストン・スリーブ15を回転させながら前進/後退させる。ピストン・スリーブ15のスリーブ部34にはロッド12の後端側が内嵌しており、係合キー41とキー溝42を用いた嵌合連結機構によってピストン・スリーブ15の回転トルクだけをロッド12へ作用させる。ロッド12はその先端にねじ中子22を連結させており、ロッドカバー13に螺合関係を有して貫通しているが、その螺合に係るねじピッチはねじ中子22のねじピッチと同一とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はねじ中子抜き取り用シリンダ装置に係り、ダイカスト鋳造やプラスチック射出成形における中子の挿脱のために適用され、特に製品にねじ孔を構成して中子を抜き取るためのシリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、孔が形成されたダイカスト製品を得る場合には、金型に中子ピンを装着しておき、型締めより構成されたキャビティ内に注入されて溶湯が固化した段階で中子ピンを引き抜くことにより孔を形成する。その場合、溶湯は冷却収縮して固化するために、中子ピンの引き抜き時に製品側との間にカジリや焼き付きが発生し易くなる。従って、一般的には予め中子ピンに抜け勾配を設けておき、固化した溶湯と中子ピンの離脱を容易にして不良品の発生を防止している。
【0003】
また、中子ピンを引き抜く際の力を軽減することを目的として、下記特許文献1には中子ピンを回転させながら引き抜く装置が提案されており、更に、本願出願人は中子ピンをそのように動作させる機能を備えたシリンダ装置を下記特許文献2,3において提案している。
【0004】
下記特許文献2のシリンダ装置は図7に示す構成を備えている。このシリンダ装置は片シリンダロッドの基本的構造を有しており、ヘッドカバー51のシリンダ室52側の内壁面におけるピストン・ロッド53の軸心54との対向位置に、ピストン・ロッド53のストローク長よりも長く、外周面に大きなリード角の雄ねじが形成されたねじ棒55が立設・固定せしめられている。一方、ピストン・ロッド53におけるピストン56の後端面には、前記ねじ棒55が螺合するねじ孔が形成された螺合板57が固定されている。また、ピストン・ロッド53には、ピストン56の後端面側から軸心に沿ってねじ棒55の山径より大きい内径を有すると共に、ねじ棒55の長さから螺合板57の厚みを差し引いた長さよりも深い軸方向孔58が形成されている。この構成において、ロッドカバー59側のシリンダ室60へ通じるポート61をドレインに接続し、ヘッドカバー51側のシリンダ室52へ通じるポート62を圧油供給状態にすると、ねじ棒55と螺合板57の螺合関係によってピストン・ロッド53は回転しながら前進し、逆に、ポート62をドレインに接続し、ポート61を圧油供給状態にすると、ピストン・ロッド53は前記と逆方向に回転しながら後退する。
【0005】
下記特許文献3のシリンダ装置は図8に示す構成を備えている。このシリンダ装置は、2ポート形のシリンダ本体70のヘッドカバー71に回動ロッド72の一端を軸方向への移動を拘束しながら回動自在に軸支する軸支機構73が設けられている。ここに、回動ロッド72は、その一端が軸支機構73で軸支されていると共に、他端がシリンダ本体70のロッドカバー74を貫通して突出せしめられており、且つその回動ロッド72におけるシリンダ本体70内の一部区間の外周面にはリード角が60°以上の雄ねじ75が形成されている。また、回動ロッド72にはピストン76が外嵌してシリンダチューブ77内を摺動するようになっているが、ピストン76の回動ロッド72に対する外嵌部分は、回動ロッド72の雄ねじ75との螺合区間と、回動ロッド72の丸棒部分に嵌合する嵌合区間と、前記の螺合区間と嵌合区間の間に構成される非接触区間とからなり、ピストン76の内部には前記螺合区間側に構成されるシリンダ室78と前記非接触区間の内側を通じさせる連通孔79が形成されている。一方、ピストン76とシリンダ本体70との間には相対的回動を拘束する回動拘束機構(図ではピストンの外周に取り付けたキー80とシリンダチューブ77の内周面に形成したキー溝81)が構成されている。この構成において、ロッドカバー74側のシリンダ室82へ通じるポート83をドレインに接続し、ヘッドカバー71側のシリンダ室78へ通じるポート84を圧油供給状態にすると、回動ロッド72のねじ75とピストン76との螺合関係、及びキー80とキー溝81による回動拘束機構に基づいて、回動ロッド72はピストン76の前進に伴って一方向へ回転し、逆に、ポート84をドレインへ接続し、ポート83を圧油供給状態にすると、回動ロッド72はピストン76の後退に伴って前記と逆方向へ回転する。
【特許文献1】実開昭61−167255号公報
【特許文献2】特開平10−131913号公報
【特許文献3】特開平11−62907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、中子ピンを用いたダイカスト鋳造やプラスチック射出成形による製品には丸孔が形成されているが、製品によってはそれら成形後の丸孔の全部又は一部をねじ孔に形成しなければならない場合があり、そのような場合には別途に追加工程を設けてねじ孔加工を施すことになる。従って、最終製品にねじ孔が含まれていると、必ず追加工程を組み入れなければならず、また、一般に製品のねじ孔は一方向とは限らず、ねじ孔加工の自動化が困難なことが多いため、必然的に製造コストの増大を招くことになる。
【0007】
この問題に対して、中子ピンを所要の雄ねじ形態をなす中子(以下、「ねじ中子」という)とし、ダイカスト製品の場合であれば、溶湯中にねじ中子を挿入しておき、溶湯が固化した段階でそのねじ中子を1回転毎に前記雄ねじのピッチ分だけ後退させるようにして抜き取れば、その抜き取り後の孔を所要雌ねじ孔に形成することが可能である。ここで、前記特許文献2のシリンダ装置(図7)によると、ピストン・ロッド53を大きなトルクで回転させながら後退させることができるため、原理的にはねじ孔の形成に用いることができるように思える。しかし、同シリンダ装置ではねじ棒55と螺合板57との螺合関係によってピストン・ロッド53を回転させており、ねじ棒55と螺合板57の各ねじ部のリード角は通常のねじのリード角と比較して遥かに大きい角度に設定せざるを得ないため、回転ピッチとストローク長のいずれの観点からもねじ中子を抜き取るためのシリンダ装置としては適用できない。
【0008】
そこで、本発明は、ダイカスト鋳造やプラスチック射出成形の工程において、ねじ中子をそのねじピッチで強力に回転させながら前進/後退させることが可能なシリンダ装置を提供し、以って、ダイカスト鋳造やプラスチック射出成形においてねじ孔が形成された製品を直接得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、片ロッド形の複動シリンダとしての形態をなすシリンダ装置であり、後記ピストン・スリーブのピストン部のストローク区間では前記ピストン部が内嵌して摺動する内径に形成されており、前記ストローク区間より前方の一定区間では後記ピストン・スリーブのスリーブ部が内嵌して摺動する内径に形成されているシリンダチューブと、前端部にねじ中子が同軸状に連設されており、前記ねじ中子から所定距離だけ離隔した位置に前記ねじ中子のねじピッチと同ピッチの雄ねじが形成されていると共に、後端側区間が後記ピストン・スリーブのスリーブ部に対する内嵌部として形成されており、また、前記内嵌部の後端面から前記雄ねじ形成区間の位置まで軸孔が形成されていると共に、前記雄ねじ形成区間の前方位置と前記軸孔とを連通させる第1の連通孔と、前記内嵌部における後記ピストン・スリーブのスリーブ部が密着外嵌しない位置と前記軸孔とを連通させる第2の連通孔が形成されたロッドと、前記ロッドの雄ねじ形成区間と螺合する雌ねじ孔が形成されており、前記ロッドを螺合状態で貫通させるロッドカバーと、ねじ棒の軸心が前記ロッドカバーに螺合した前記ロッドの軸心方向と一致するように、前記ねじ棒をシリンダ室側の内壁面に立設・固定したヘッドカバーと、前記シリンダチューブに内嵌する中空円筒状のピストン部とスリーブ部が同軸状に連設された構成からなり、前記ピストン部の内周側には前記ヘッドカバーに立設・固定されたねじ棒と螺合するボールねじ機構が内設されていると共に、前記スリーブ部が前記ロッドの後端側区間に外嵌するピストン・スリーブと、前記ロッドの後端側区間と前記ピストン・スリーブのスリーブ部とを軸方向にはすべり対偶条件で、周方向には係合条件で嵌合させた嵌合連結機構と、を備え、前記ピストン部が前記シリンダチューブ内で前進限位置にある状態での前方シリンダ室に作動油を供給できる位置と、後退限位置にある状態での後方シリンダ室に作動油を供給できる位置にそれぞれ給油ポートを設けたことを特徴とするねじ中子抜き取り用シリンダ装置に係る。
【0010】
本発明によると、給油によってピストン・スリーブが軸方向へ前進/後退すると、ねじ棒とボールねじ機構との螺合関係によりピストン・スリーブには回転トルクが作用し、ピストン・スリーブは軸方向へ前進/後退しながら回転する。そして、ピストン・スリーブのスリーブ部とロッドの内嵌部との間の嵌合連結機構はピストン・スリーブの回転トルクだけをロッドへ伝達する役割を果たし、それによりロッドは強力な回転トルクで回転せしめられる。一方、ねじ中子を連設したロッドはロッドカバーとの螺合関係で規定されたピッチで作動し、そのピッチはねじ中子のピッチと同一である。従って、ねじ中子は、ピストン・スリーブ側から供給される強力な回転トルクにより、1回転にそのねじピッチ分ずつ前進/後退する。尚、ボールねじ機構を用いているのは短いストロークで多くの回転数が得られるようにするためである。即ち、前記特許文献2のシリンダ装置のようにピストン・スリーブとねじ棒とを直接螺合させると、大きなリード角を設定しなければならず、所要の回転数を得るには非現実的なほどの極めて長いストロークが必要になるからである。
【0011】
ところで、本発明において、シリンダチューブ内は、ピストン部のストローク区間と、ロッドの内嵌部とスリーブ部の嵌合区間とに分割されており、ピストン部のストローク区間は通常の複動シリンダの構成と同様であるが、ロッドのロッドカバーに対する螺合関係やロッドの内嵌部とスリーブ部との嵌合関係により、ロッドとロッドカバーの螺合部の前方には隙間が構成され、またスリーブ部の前端とロッドカバーの間には室が構成される。そして、それらの隙間と室はピストン・スリーブやロッドの移動によって容積が拡縮するため、何等の対策が施されていない場合には、負荷圧を生じさせてピストン・スリーブとロッドが作動できなくなる。そこで、本発明では、ねじ棒とボールねじ機構との螺合関係が連通性を有して作動油を流通させることを利用してピストン部の後方側シリンダ室とスリーブ部内とを連通させ、更にスリーブ部内をロッドの軸孔から第1及び第2の連通孔を通じてロッドとロッドカバーの螺合部の前方に構成される隙間及びスリーブ部の前端とロッドカバーの間に形成される室と連通させている。従って、ピストン・スリーブやロッドの移動によって前記隙間や前記室の容積が拡縮しても、その変化相当分の圧油が後方シリンダ室側の給油ポートから給排されるために負荷圧が発生することはない。換言すれば、本発明は、ボールねじ機構を用いて、短いストロークで多くの回転数が得られるようにする(シリンダの全長を短く構成する)と共に、その連通性を利用して単一シリンダ装置でねじ中子の回動機能を合理的に構成している。
【0012】
尚、前記嵌合連結機構の具体的構成としては、例えば、前記ロッドの後端側区間の外周面に形成した凹部に係合キーを固定し、前記ピストン・スリーブのスリーブ部の内周面に軸と平行な方向へ前記係合キーが嵌合摺動するキー溝を形成した構成とすることができ、その場合には、前記ロッドの第2の連通孔を前記係合キーの軸方向前方位置に形成することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の中子抜き取り用シリンダ装置によれば、ねじ中子をそのねじピッチで強力に回転させながら前進/後退させることができ、ダイカスト鋳造やプラスチック射出成形において金型に組み込むことにより、追加のねじ孔加工を施すことなく、ねじ孔が形成された製品をそのまま得られるようにして、ダイカスト製品やプラスチック成形製品の製造コストの低減化を実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の中子抜き取り用シリンダ装置の実施形態を図1から図6に基づいて詳細に説明する。先ず、図1の(A)はシリンダ装置の断面図と駆動油圧回路図、(B)は断面図(A)におけるZ-Z矢視断面図、(C)はシリンダ装置の正面図であり、このシリンダ装置10は片ロッド形の複動シリンダとしての外観的形態をなしている。各図において、11はシリンダチューブ、12はロッド、13はロッドカバー、14はヘッドカバー、15はシリンダ・スリーブ、16は4ポート3位置切り換え弁、16aは油圧ポンプを示す。尚、シリンダ装置10における各部材の接合部やピストンの摺動部等には適宜シール部材が施されているが、図1の(A)においてはそれらシール部材の表記を省略してある。
【0015】
ここで、ロッド12については、その先端に連結器21を介して同軸状にねじ中子22が連結されており、ロッドカバー13を貫通する部分にはロッドカバー13側に形成されている雌ねじ23と螺合する雄ねじ区間24が形成されていると共に、その雄ねじ区間24より後部側はシリンダチューブ11の略中央位置までがピストン・スリーブ15のスリーブ部(34)に対する内嵌部25として構成されている。また、ロッド12には後端面から雄ねじ区間24の前方位置まで軸孔26が形成されていると共に、その軸孔26と雄ねじ区間24の前方位置の外周とを連通する連通孔27と、軸孔26と雄ねじ区間24より後方位置の外周とを連通する連通孔28が形成されている。尚、この実施形態でのねじ中子22は、全長が30mmでねじピッチが1.5mmである。
【0016】
ロッドカバー13は、通常の複動シリンダとは異なり、前記のようにロッド12を貫通させる孔29に雌ねじ23が形成されており、ロッド12を螺合した状態で貫通させている。そして、ロッド12側の雄ねじとロッドカバー13側の雌ねじのねじピッチはねじ中子22のねじピッチと同一になっており、ロッド12の1回の右回転/左回転によってねじ中子22は前記ねじピッチ分だけ前進/後退するようになっている。従って、ねじ中子22(ピッチ:1.5mm)の全長30mm分を軸方向に移動させるには、ロッド12を20回転させる必要がある。尚、ねじ中子22は通常の右回転ねじのねじ孔を形成する場合のものであり、逆ねじ(右回転ねじ)のねじ孔を形成する場合のものである場合には、ロッド12側の雄ねじとロッドカバー13側の雌ねじもそれに相応したものとなる。
【0017】
ヘッドカバー14は、通常のカバー端板だけではなく、ねじ棒30がその軸心をロッドカバー13に螺合したロッド12の軸心方向と一致するように立設・固定されている。この実施形態では、ねじ棒30の後端に延長棒部31を設けておき、その延長棒部31をヘッドカバー14に貫通させて、背面側でナット32により締着されている。尤も、ねじ棒30をヘッドカバー14に溶接して立設・固定させる方法であってもよい。
【0018】
ピストン・スリーブ15は、中空円筒状のピストン部33とスリーブ部34とからなり、それらが同軸状に一体形成されている。そして、ピストン部33の内周側にはヘッドカバー14側のねじ棒30と螺合するボールねじ機構35が内設させてあり、ねじ棒30をスリーブ部34側へ貫通させている。また、スリーブ部34はその前端側から内挿しているロッド12の内嵌部25に外嵌している。ここに、ボールねじ機構35は、例えば、図2に示すような構成を備えている。即ち、円筒状のナット45の内周面にねじ棒30に対応したねじ溝が形成されており、ボール46がねじ棒30のねじ溝とナット45側のねじ溝が対向して形成される螺旋状の軌道を負荷状態で転動することにより、ナット45がねじ棒30に対して相対的に直線移動する。また、チューブ(戻し路)47は前記螺旋状の軌道における一定間隔毎の始点と終点を連結するように配設されており、ボール46循環経路を構成している。尚、この実施形態のボールねじ機構35とねじ棒30の螺合関係のピッチは、ビストン・スリーブ15のストローク長とねじ中子22(ロッド12)の所要回転数(20回転)との関係で決定され、ストローク長を80mmと設定した場合には4mm(=80/20)のピッチに設定される。尚、ピストン部33の前端部と後端部においては、前進限と後退限で圧油の流入出を確保するために、外径が他の部分より少し小さくなっている。
【0019】
シリンダチューブ11は、ピストン・スリーブ15のピストン部33のストローク区間とそれよりも前方の区間とで内径を異にしている。即ち、ピストン部33のストローク区間では当然にピストン部33を内嵌摺動させる内径に設定されているが、そのストローク区間より前方の一定区間はピストン・スリーブ15のスリーブ部34を内嵌摺動させる内径に設定されており、更にそれよりも前方のロッドカバー13の内壁に至るまでの区間では前記一定区間での内径よりも僅かに大きい内径に設定されている。即ち、シリンダチューブ11の前記一定区間はチューブ内を前方と後方に分ける隔壁37であり、ピストン・スリーブ15のスリーブ部34に対する摺動支持機能も果たす。そして、シリンダチューブ11におけるピストン部33のストローク区間の前方端と後方端に対応する各位置にそれぞれ給油ポート38,39が形成されており、それらに4ポート3位置切り換え弁16を用いた給排油圧回路が接続されている。
【0020】
ところで、ロッド12の後方側の内嵌部25とピストン・スリーブ15のスリーブ部34との関係は単なる嵌合関係ではなく、軸方向にはすべり対偶条件であり、周方向には係合条件となった嵌合連結機構を構成している。この実施形態では、ロッド12の後端側区間の外周面に形成した凹部40に係合キー41を固定し、ピストン・スリーブ15のスリーブ部34の内周面に軸と平行な方向へ前記係合キー41が嵌合摺動するキー溝42を形成した構成になっており、ピストン・スリーブ15の回転トルクだけをロッド12へ作用させ、軸方向の駆動力を作用させないという機能を実現させている。従って、ピストン・スリーブ15が後退限から前進限まで移動すると(移動距離:80mm)、ピストン・スリーブ15とロッド12は右回りに20回転し、ロッド12とねじ中子22も同様に20回転して30mmだけ前進する。また、逆にピストン・スリーブ15が前進限から後退限まで移動すると、ロッド12とねじ中子22は左回りに20回転し、ロッド12とねじ中子22も同様に20回転して30mmだけ後退する。尚、前記連通孔28はロッド12における係合キー41の固定位置に対する軸方向前方位置に形成されており、それにより、前記連通孔28がピストン・スリーブ15のスリーブ部34に覆われても、キー溝42を通じてスリーブ部34の前方に構成される室と常に連通させることができる。
【0021】
以上の構成と機能を有した中子抜き取り用シリンダ装置10は、ダイカスト鋳造における金型の可動型に組み込まれて次のように動作する。先ず、図3(A)は金型の型開き状態におけるシリンダ装置10と可動型101との関係を示し、シリンダ装置10は可動型101の下面から距離Loの位置に固定されている。そして、この状態ではピストン・スリーブ15とロッド12は共に後退限にあって、切り換え弁16は各給油ポート38,39を共に閉止状態としている。また、ピストン・スリーブ15とロッド12が後退限にある状態では、ねじ中子22の先端が可動型101の孔102の途中まで嵌入するように位置関係が設定されている。尚、図3(A)における下側の二点鎖線は型締めした際の可動型101の下側面の位置(金型のキャビティの内壁)に相当する。
【0022】
次に、可動型101とシリンダ装置10は図示しない駆動装置によって降下せしめられ、図3(B)に示すように型締め状態となる。尚、この段階でも各給油ポート38,39は閉止状態とされており、ピストン・スリーブ15とロッド12は後退限のままである。型締めがなされると、切り換え弁16は給油ポート38をドレインに、給油ポート39を油圧ポンプ16a側に接続するように切り換えられる。この状態では、ピストン・スリーブ15のヘッドカバー14側のシリンダ室の圧力が高くなってピストン・スリーブ15が前方(下方)へ駆動されるが、ヘッドカバー14に立設・固定されているねじ棒30とピストン部33に内設されているボールねじ機構35との螺合関係により、図4(A)に示すように、ピストン・スリーブ15は右回り方向に回転しながら4mmのピッチで前進する。
【0023】
そして、ピストン・スリーブ15のスリーブ部34とロッド12の内嵌部25とは前記のように係合キー41とキー溝42による嵌合連結機構を構成しているため、ピストン・スリーブ15の回転トルクだけがロッド12へ作用し、ロッド12はピストン・スリーブ15と共に回転する。また、ロッド12が回転せしめられると、ロッド12の雄ねじ区間24がロッドカバー13側の雌ねじ23と螺合していることにより、その螺合関係に基づいてロッド12とねじ中子22は右回り方向に回転しながら1.5mmのピッチで前進する。
【0024】
ところで、ピストン・スリーブ15とロッド12が軸方向へ移動するとピストン部33の前後のシリンダ室の容積が変化するのは当然であるが、このシリンダ装置10では、スリーブ部34の内部に構成される室C1や、スリーブ部34の前方であってロッド12の内嵌部25の周囲に構成される室C2や、ロッドカバー13におけるロッド12の雄ねじ区間24との螺合部より前方にある隙間G0の容積も変化する。従って、それら室C1,C2や隙間G0が密閉されていると、ピストン・スリーブ15とロッド12の軸方向移動が妨げられることになる。しかし、この実施形態では、ロッド12に連通孔28,27が形成されていると共に、ねじ棒30とボールねじ機構30のボール46との間、及びボールねじ機構30の内部には圧油の流通路が構成されているため、[各室C1,C2や隙間G0]−[ロッド12の軸孔26]−[ピストン・スリーブ15のスリーブ部34の内部]−[ヘッドカバー14側の後方シリンダ室]−[給油ポート39]が常に連通していることになり、前記の各室C1,C2や隙間G0の拡縮によって負荷が発生しないように配慮されている。
【0025】
このようにして、ピストン・スリーブ15とロッド12がそれぞれの前進限に達すると、図4(B)に示すようにねじ中子22は可動型101の孔102を貫通して金型のキャビティ内に挿入された状態となり、その時点で切り換え弁16を切り換えて各給油ポート38,39を共に閉止状態とする。そして、キャビティ内に溶湯103を注入・充填させた後、溶湯103の冷却固化のための所要時間だけそのままの状態に保たれる。
【0026】
溶湯103が冷却固化するとねじ中子22の抜き取り工程へ移行し、切り換え弁16が給油ポート39をドレインに、給油ポート38を油圧ポンプ16a側に接続するように切り換えられる。そして、このねじ中子22の抜き取り過程でのシリンダ装置10の状態は図5(A)に示され、基本的には図4(A)のねじ中子22の挿入過程と逆の状態になっている。即ち、ピストン・スリーブ15の隔壁37側のシリンダ室の圧力が高くなってピストン・スリーブ15が後方(上方)へ駆動されるが、ヘッドカバー14に立設・固定されているねじ棒30とピストン部33に固定されているボールねじ機構35との螺合関係により、ピストン・スリーブ15は左回り方向に回転しながら4mmのピッチで後退する。また、ピストン・スリーブ15のスリーブ部34とロッド12の内嵌部25との間で構成されている係合キー41とキー溝42による嵌合連結機構によって回転トルクだけがロッド12へ作用し、ロッド12の雄ねじ区間24とロッドカバー13側の雌ねじ23と螺合関係に基づいて、ロッド12とねじ中子22が左回り方向に回転しながら1.5mmのピッチで後退する。尚、この場合にも、前記の図4(A)の場合と同様に、各連通孔27,28が形成されていると共に、ねじ棒30とボールねじ機構30のボール46との間、及びボールねじ機構30の内部には圧油の流通路が構成されていることにより、前記の各室C1,C2や隙間G0の拡縮によって負荷が発生しない。
【0027】
ところで、このねじ中子22の抜き取り過程でのロッド12の回転に要するトルクの大きさは、挿入過程(図4)の場合と比較して遥かに大きなものとなる。即ち、挿入過程の場合におけるロッド12側の負荷トルクはロッド12の雄ねじ区間24とロッドカバー13側の雌ねじ23と螺合部分で生じるものだけであるが、抜き取り過程では、その負荷トルクに加えて、溶湯103が冷却固化した鋳造金属103sの中に埋め込まれているねじ中子22を螺旋状に抜き取るための回転トルクが必要になり、強力な回転トルクが供給される必要がある。しかし、この実施形態のシリンダ装置10ではピストン・スリーブ15に対する油圧駆動力を回転力に変換して螺旋動作を実行させているため、前記の所要回転トルクを十分に供給することができる。
【0028】
そして、図5(B)のように、ピストン・スリーブ15とロッド12を後退限まで戻した後、各給油ポート38,39を閉止状態とするように切り換え弁16を切り換える。この段階ではねじ中子22は鋳造金属103sから抜き取られており、鋳造金属103sにはねじ中子22に対応したねじ孔104が形成されている。また、最終的には、図6に示すように可動型101とシリンダ装置10とを図示しない駆動装置によって上昇させて型開きを行い、固定型(図示せず)から鋳造金属103sの製品を取り出す。
【0029】
尚、この実施形態では中子ねじ22をロッド12に対して連結器21を用いて同軸状に取り付けているが、ロッド12の先端部をそのまま中子ねじ22として形成しておいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、ダイカスト鋳造やプラスチック射出成形における中子の抜き取り用シリンダ装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(A)は本発明の実施形態に係る中子抜き取り用シリンダ装置の断面図と駆動油圧回路図、(B)は(A)の断面図におけるZ-Z矢視断面図、(C)はシリンダ装置の正面図である。
【図2】ボールねじ機構の構成を示す斜視図(部分的に破断)である。
【図3】シリンダ装置の動作状態を示す断面図である。
【図4】シリンダ装置の動作状態を示す断面図である。
【図5】シリンダ装置の動作状態を示す断面図である。
【図6】シリンダ装置の動作状態を示す断面図である。
【図7】従来技術に係る中子ピン引き抜き用シリンダ装置の断面図である。
【図8】従来技術に係る中子ピン引き抜き用シリンダ装置の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
10…シリンダ装置、11…シリンダチューブ、12…ロッド、13…ロッドカバー、14…ヘッドカバー、15…ピストン・スリーブ、16…4ポート3位置切り換え弁、16a…油圧ポンプ、21…連結器、22…ねじ中子、23…雌ねじ、24…雄ねじ区間、25…内嵌部、26…軸孔、27…連通孔、28…連通孔、29…孔、30…ねじ棒、31…延長棒部、32…ナット、33…ピストン部、34…スリーブ部、35…ボールねじ機構、37…隔壁、38…給油ポート、39…給油ポート、40…凹部、41…係合キー、42…キー溝、45…ボールねじ機構のナット、46…ボール、47…チューブ(戻し路)、51…ヘッドカバー、52…シリンダ室、53…ピストン・ロッド、54…軸心、55…ねじ棒、56…ピストン、57…螺合板、58…軸方向孔、59…ロッドカバー、60…シリンダ室、61…ポート、62…ポート、70…シリンダ本体、71…ヘッドカバー、72…回動ロッド、73…軸支機構、74…ロッドカバー、75…ねじ、76…ピストン、77…シリンダチューブ、78…シリンダ室、79…連通孔、80…キー、81…キー溝、82…シリンダ室、83…ポート、84…ポート、101…可動型、102…孔、103…溶湯、103s…鋳造金属、104…ねじ孔、C1…室、C2…室、G0…隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片ロッド形の複動シリンダとしての形態をなすシリンダ装置であり、
後記ピストン・スリーブのピストン部のストローク区間では前記ピストン部が内嵌して摺動する内径に形成されており、前記ストローク区間より前方の一定区間では後記ピストン・スリーブのスリーブ部が内嵌して摺動する内径に形成されているシリンダチューブと、
前端部に雄ねじ形状の中子(以下、「ねじ中子」という)が同軸状に連設されており、前記ねじ中子から所定距離だけ離隔した位置に前記ねじ中子のねじピッチと同ピッチの雄ねじが形成されていると共に、後端側区間が後記ピストン・スリーブのスリーブ部に対する内嵌部として形成されており、また、前記内嵌部の後端面から前記雄ねじ形成区間の位置まで軸孔が形成されていると共に、前記雄ねじ形成区間の前方位置と前記軸孔とを連通させる第1の連通孔と、前記内嵌部における後記ピストン・スリーブのスリーブ部が密着外嵌しない位置と前記軸孔とを連通させる第2の連通孔が形成されたロッドと、
前記ロッドの雄ねじ形成区間と螺合する雌ねじ孔が形成されており、前記ロッドを螺合状態で貫通させるロッドカバーと、
ねじ棒の軸心が前記ロッドカバーに螺合した前記ロッドの軸心方向と一致するように、前記ねじ棒をシリンダ室側の内壁面に立設・固定したヘッドカバーと、
前記シリンダチューブに内嵌する中空円筒状のピストン部とスリーブ部が同軸状に連設された構成からなり、前記ピストン部の内周側には前記ヘッドカバーに立設・固定されたねじ棒と螺合するボールねじ機構が内設されていると共に、前記スリーブ部が前記ロッドの後端側区間に外嵌するピストン・スリーブと、
前記ロッドの後端側区間と前記ピストン・スリーブのスリーブ部とを軸方向にはすべり対偶条件で、周方向には係合条件で嵌合させた嵌合連結機構と、
を備え、前記ピストン部が前記シリンダチューブ内で前進限位置にある状態での前方シリンダ室に作動油を供給できる位置と、後退限位置にある状態での後方シリンダ室に作動油を供給できる位置にそれぞれ給油ポートを設けたことを特徴とするねじ中子抜き取り用シリンダ装置。
【請求項2】
前記嵌合連結機構が、前記ロッドの後端側区間の外周面に形成した凹部に係合キーを固定し、前記ピストン・スリーブのスリーブ部の内周面に軸と平行な方向へ前記係合キーが嵌合摺動するキー溝を形成した構成であり、前記ロッドの第2の連通孔が前記係合キーの軸方向前方位置に形成されている請求項1に記載のねじ中子抜き取り用シリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−2593(P2008−2593A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173313(P2006−173313)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(392003661)株式会社南武 (8)
【Fターム(参考)】