説明

めっき方法

【課題】素体表面にめっき阻止用被覆処理を施すことなく、めっき伸びを回避し得るめっき方法を提供すること。
【解決手段】Znを含有するセラミック材料から構成された素体2と、素体2の表面に互いに間隔を隔てて配置された複数のめっき下地膜41とを含むセラミック電子部品1を用意する。そして、Znイオン濃度を0ppm以上100ppm以下に管理しためっき液53でセラミック電子部品1に電気めっきを行い、めっき下地膜41の表面にめっき膜43を析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ状セラミック電子部品の端子電極を形成するためのめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チップ状セラミック電子部品として、従来より種々のタイプのものが知られているが、そのうちの一つに、Znを含有するセラミック材料から構成された素体の表面に、互いに間隔を隔てて、複数の端子電極を設けたタイプのものが知られている。例えば、酸化亜鉛系チップバリスタや、亜鉛含有フェライトをコアとして用いたチップインダクタ等がその代表例である。
【0003】
この種のチップ状セラミック電子部品において、端子電極を形成するには、予め形成されためっき下地膜の上にめっき膜を形成するプロセスをとる。めっき膜を形成するための方法として、予め、めっき下地膜を形成したセラミック電子部品を、めっき液に浸漬(ジャブ漬け)し、めっき下地膜の表面にめっき膜を析出させる方法が知られている。
【0004】
しかし、この方法によると、めっき下地膜の表面のみならず、素体の表面にもめっき膜が析出する「めっき伸び」の現象が発生し、端子電極間の絶縁耐圧が低下し、最悪の場合には端子電極間短絡を招いてしまうことがあった。特に最近は、この種のセラミック電子部品の小型化に伴い、端子電極の配置間隔も狭められる傾向にあり、めっき伸びによる端子電極間の絶縁耐圧の低下、端子電極間の短絡が、極めて生じやすくなっている。
【0005】
めっき伸びを防止するための手法として、めっき下地膜のまわりの素体表面を例えば電気絶縁層で被覆することにより、素体表面へのめっき付着を阻止する技術が知られている(特許文献1参照)が、このようなめっき阻止用被覆処理は手間がかかり、生産効率の悪化及び生産コストの上昇を招く。
【特許文献1】特開平5−251210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、素体表面にめっき阻止用被覆処理を施すことなく、めっき伸びを回避し得るめっき方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明に係るめっき方法では、Znを含有するセラミック材料から構成された素体と、前記素体の表面に互いに間隔を隔てて配置された複数の端子電極用めっき下地膜とを含むセラミック電子部品を用意し、次に、Znイオン濃度を0ppm以上100ppm以下に管理しためっき液中で、前記セラミック電子部品に対する電気めっき処理を行い、前記めっき下地膜上にめっき膜を形成する。
【0008】
発明者等は、素体表面でのめっき伸びについて、その原因を究明すべく、鋭意研究した結果、めっき液中のZnイオン濃度が大きな要因となっていることを見い出した。即ち、Znを含有するセラミック材料から構成された素体の場合、ZnがZnイオンとしてめっき液中に溶け出す可能性があり、めっき液のZnイオン濃度を管理する必要がある。
【0009】
発明者等の実験によれば、Znイオン濃度が100ppmを超えると、めっき伸びが顕著であるが、Znイオン濃度を100ppm以下の範囲に保つと、めっき伸びを抑え得ることが確認された。従って、Znイオン濃度を100ppm以下の範囲に保つことにより、素体表面に、めっき阻止用被覆処理を施すことなく、めっき伸びを抑え、めっき伸びによる端子電極間の耐電圧低下及び端子電極間の短絡を回避できることになる。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように、本発明によれば、素体表面にめっき阻止用被覆処理を施すことなく、めっき伸びによる端子電極間の短絡を回避し得るめっき方法を提供することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明に係るめっき方法の一実施形態に用いられるセラミック電子部品を示す断面図、図2は、図1に示したセラミック電子部品の平面図である。図示のセラミック電子部品1は、めっき処理を施す前のチップバリスタであるが、他のセラミック電子部品、例えば、チップインダクタであってもよい。このセラミック電子部品1は、素体2と、内部導体膜3と、端子電極用めっき下地膜41とを含む。
【0012】
素体2は、長さ方向X、幅方向Y及び厚さ方向Zで定義される略直方体形状である。素体2を構成するセラミック材料については、チップバリスタの場合、酸化亜鉛系のセラミック材料を挙げることができ、チップインダクタの場合、NiZn系またはNiCuZn系のセラミック材料を挙げることができる。
【0013】
内部導体膜3は、素体2の内部に埋設されている。詳しくは、内部導体膜3は、素体2の内部において厚さ方向Zに間隔を隔てて配置されており、長さ方向Xの一端が素体2の長さ方向Xの端面23または24に導出されている。
【0014】
端子電極用めっき下地膜(以下、めっき下地膜と称する)41は、図2に示すように、素体2の表面に形成されている。図示の実施例では、素体2の長さ方向Xの一端面23に、2つのめっき下地膜41が幅方向Yの間隔を隔てて形成され、同様に素体2の長さ方向Xの他端面24に、2つのめっき下地膜41が幅方向Yの間隔を隔てて形成されている。図示では、めっき下地膜41が何らかの膜を介さず直接、素体2の表面に形成された構造となっているが(図1参照)、このような構造に限定されることはない。例えば、端子電極と、素体の表面との間に何らかの膜が介在した構造でもよい。
【0015】
更に、めっき下地膜41は、素体2の長さ方向Xの端面23または24において内部導体膜3に接続されている(図1参照)。めっき下地膜41は、例えばAgを主成分として構成され、素体2に導電性ペーストを塗布して焼き付けることにより形成することができる。
【0016】
図1、図2に図示したセラミック電子部品1は、めっき下地膜41にめっき膜を付着させるべく、めっき処理に付される。めっき処理工程を図3に示す。ここでは、電気めっき処理の一つの態様としてバレルめっきが採用されている。詳しく説明すると、セラミック電子部品1を通電用メディア77とともにバレル容器79に入れ、バレル容器79ごとめっき液53に浸漬する。そして、バレル容器79を回転させながら、セラミック電子部品1に通電を行う。めっき液53は、Niめっき膜を析出させるためのNiめっき液であり、Niイオン(Ni+)を含んでいる。電極板73は、Niから構成されており、直流電源71に接続されている。
【0017】
図4は、図3に示された工程においてセラミック電子部品の状態を示す図である。図3及び図4に示すように、電極板73をアノード、セラミック電子部品1のめっき下地膜41をカソードとし、電極板73とめっき下地膜41との間に、直流電源71による直流電圧を印加する。これにより、めっき下地膜41の表面にNiめっき膜43を析出させることができる。
【0018】
上述しためっき処理工程において、何らの考慮もされなければ、めっき下地膜41の表面のみならず素体2の表面にもめっき膜が析出する「めっき伸び」の現象が発生し、完成品したセラミック電子部品において、隣り合う端子電極間の絶縁耐圧が低下し、最悪の場合には端子電極間短絡を招いてしまうことがあったことは前述したとおりである。
【0019】
そこで、本発明では、Znイオン濃度を0ppm以上100ppm以下に管理しためっき液53でセラミック電子部品1にめっきを行う。発明者等の実験によれば、Znイオン濃度を100ppm以下に保つことにより、素体2の表面に、めっき阻止用被覆処理を施すことなく、めっき伸びを抑え、めっき伸びによる隣り合うめっき下地膜41−41間の耐電圧低下及び短絡を回避できることがわかった。Znイオン濃度が100ppmを超えると、めっき伸びが次第に顕著になる。その理由は、必ずしも明確ではないが、次のように推測される。
【0020】
即ち、Znは酸にもアルカリにも弱い。このため、めっき処理の際、Znを含有するセラミック材料から構成された素体2がめっき液に触れると、素体2が少なからず溶解し、ZnがZnイオンとしてめっき液中に溶け出す可能性がある。めっき液53中のZnイオンは、めっき処理量、めっき処理回数が増加するに伴って増加し、めっき液53中のZnイオン濃度が上昇する。その結果、素体2の表面に付着するZnイオンが増加し、付着したZnイオンをベースにして、めっき下地膜41から連続して延びるように、めっき皮膜が形成され、いわゆる「めっき伸び」が発生するというものである。
【0021】
本発明では、Znイオン濃度を0ppm以上100ppm以下に管理しためっき液53でセラミック電子部品1にめっきを行うから、めっき液53中のZnイオン濃度を、上述した範囲に制限できる。このため、めっき伸びを抑えることができる。
【0022】
めっき液53のZnイオン濃度をかかる範囲内に管理するための手法としては、めっき液53のZnイオン濃度を計測し、計測値に応じてめっき液53を新たなものに交換する手法のほか、めっき液53を一定量だけかけ流しする手法などを採用することができる。
【0023】
最終製品としての端子電極のめっき膜の層数は、めっき膜の担うべき役割に応じて異なる。チップ状のセラミック電子部品においては、回路基板上の導体パターンに対して、端子電極がはんだ付けされるので、図3及び図4に示しためっき工程の後、Niめっき膜41の上に、はんだ付け性の良好なめっき膜、例えばSnめっき膜を形成する。
【0024】
Snめっき膜の形成にあたっては、図5に示すように、セラミック電子部品1を、Snめっき液55に浸漬することにより、再度電気めっきを行う。図5において、図3に現れた構成部分と同一性ある構成部分には、同一の参照符号を付し、重複説明を省略する。Snめっき液55は、Snイオン(Sn+)を含んでいる。電極板75は、Snから構成される。
【0025】
図6は、図5に示された工程においてセラミック電子部品の状態を示す図である。図5及び図6に示すように、電極板75をアノード、セラミック電子部品1のNiめっき膜43をカソードとし、電極板75とNiめっき膜43との間に、直流電源71による直流電圧を印加する。これにより、本来のめっき下地膜41のみならず、Niめっき膜43をもめっき下地膜として、その表面にSnめっき膜45を析出させることができる。
【0026】
図5及び図6に示しためっき工程においても、Znイオン濃度を0ppm以上100ppm以下に管理しためっき液55でセラミック電子部品1にめっきを行う。めっき液55のZnイオン濃度をかかる数値範囲に管理することによる効果、及び、めっき液55のZnイオン濃度を管理するための手法については、図3及び図4に示しためっき工程で述べたのと同様であり、重複説明を省略する。
【0027】
図7は、上述しためっき方法により得られたセラミック電子部品を示す断面図、図8は、図7に示したセラミック電子部品の平面図である。図示のセラミック電子部品は、素体2と、内部導体膜3と、複数の端子電極4とを有する。端子電極4のそれぞれは、めっき下地膜41と、Niめっき膜43と、Snめっき膜45とを含んでいる。図示において、先の図面に現れた構成部分と同一性ある構成部分には、同一の参照符号を付し、重複説明をできるだけ省略する。
【0028】
めっき下地膜41、Niめっき膜43及びSnめっき膜45は、この順序で素体2の面上に積層された構造となっている。Niめっき膜43は、膜中のZn濃度が1wt%以下となっている。Niめっき膜43のこのような組成は、図3に示したNiめっき工程で、Niめっき液53のZnイオン濃度を0ppm以上100ppm以下に管理することにより、得ることができる。
【0029】
同様に、Snめっき膜45も、膜中のZn濃度が1wt%以下となっている。Snめっき膜45のこのような組成は、図4に示したSnめっき工程で、Snめっき液55のZnイオン濃度を0ppm以上100ppm以下に管理することにより、得ることができる。
【0030】
次に、めっき液のZnイオン濃度と、めっき伸びとの関係について、実験データを挙げて説明する。
【0031】
<実験1>
まず、Niめっきに関する実験データについて説明する。この実験では、図1及び図2に示したセラミック電子部品を用い、図3及び図4のNiめっき工程でNiめっき液のZnイオン濃度を様々な値に設定し、Niめっき膜を形成した。Niめっき液のZnイオン濃度を0ppm、10ppm、50ppm、100ppm及び300ppmとしたものを、それぞれ、サンプル1〜5とする。更に、各サンプル1〜5についてNiめっき膜の外観を確認し、めっき伸び量を調べた。
【0032】
図9は、Niめっき液のZnイオン濃度とめっき伸び量との関係を示すグラフである。図9において、横軸にNiめっき液のZnイオン濃度(ppm)をとり、縦軸にめっき伸び量(mm)をとってある。
【0033】
図9に示すように、Niめっき液のZnイオン濃度が0ppm以上100ppm以下のとき(サンプル1〜4)、Niめっき膜のめっき伸び量は0.04mm未満に抑えられた。
【0034】
これに対し、Niめっき液のZnイオン濃度が100ppmを超えると(サンプル5)、Niめっき膜のめっき伸び量は急激に増大し、0.04mm以上になった。
【0035】
従って、Niめっき液のZnイオン濃度を0ppm以上100ppm以下とすることにより、Niめっき膜のめっき伸びを抑制することができることがわかる。
【0036】
更に、Niめっき膜について定量分析を行い、Niめっき膜中のZn濃度を求めたところ、Niめっき液のZnイオン濃度が100ppmのとき(サンプル4)、Niめっき膜中のZn濃度は1wt%以下となった。これに対し、Niめっき液のZnイオン濃度が300ppmのとき(サンプル5)、Niめっき膜中のZn濃度は10wt%以上となった。
【0037】
<実験2>
次に、Snめっきに関する実験データについて説明する。この実験では、図1及び図2に示したセラミック電子部品を用い、図3及び図4のNiめっき工程を行った後、図5及び図6のSnめっき工程でSnめっき液のZnイオン濃度を様々な値に設定し、Snめっき膜を形成した。Snめっき液のZnイオン濃度を0ppm、100ppm、200ppm及び300ppmとしたものを、それぞれ、サンプル6〜9とする。なお、各サンプルのデータ数Nは300とした。更に、各サンプル6〜9についてSnめっき膜の外観を確認し、めっき伸び不良率を調べた。
【0038】
図10は、Snめっき液のZnイオン濃度とめっき伸び不良率との関係を示すグラフである。図10において、横軸にSnめっき液のZnイオン濃度(ppm)をとり、縦軸にめっき伸び不良率(%)をとってある。
【0039】
図10に示すように、Snめっき液のZnイオン濃度が0ppm以上100ppm以下のとき(サンプル6及び7)、Snめっき膜のめっき伸び量は低い値になり、めっき伸び不良率は10%以下に抑えられた。
【0040】
これに対し、Snめっき液のZnイオン濃度が100ppmを超えると(サンプル8及び9)、Snめっき膜のめっき伸び量は急激に増大し、めっき伸び不良率は20%以上になった。
【0041】
従って、Snめっき液のZnイオン濃度を0ppm以上100ppm以下とすることにより、Snめっき膜のめっき伸びを抑制することができることがわかる。
【0042】
また、ここでは、Niめっきに関する実験結果と、Snめっきに関する実験結果とについて説明を行ったが、他のめっき種についても、同様な実験結果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るめっき方法の一実施形態に用いられるセラミック電子部品を示す断面図である。
【図2】図1に示したセラミック電子部品の平面図である。
【図3】本発明に係るめっき方法の一実施形態に含まれる工程を示す図である。
【図4】図3に示された工程においてセラミック電子部品の状態を示す図である。
【図5】図3及び図4に示した工程の後の工程を示す図である。
【図6】図5に示された工程においてセラミック電子部品の状態を示す図である。
【図7】図1乃至図6に示しためっき方法により得られたセラミック電子部品を示す断面図である。
【図8】図7に示したセラミック電子部品の平面図である。
【図9】Niめっき液のZnイオン濃度とめっき伸び量との関係を示すグラフである。
【図10】Snめっき液のZnイオン濃度とめっき伸び不良率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1 セラミック電子部品
2 素体
43 Niめっき膜
45 Snめっき膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znを含有するセラミック材料から構成された素体と、前記素体の表面に互いに間隔を隔てて配置された複数の端子電極用めっき下地膜とを含むセラミック電子部品を用意し、
Znイオン濃度を0ppm以上100ppm以下に管理しためっき液中で前記セラミック電子部品に対する電気めっき処理を行い、前記めっき下地膜上にめっき膜を形成する、
めっき方法。
【請求項2】
請求項1に記載されためっき方法であって、
前記めっき液は、Niめっき液またはSnめっき液である
めっき方法。
【請求項3】
素体と、複数の端子電極とを含むセラミック電子部品であって、
前記素体は、Znを含有するセラミック材料から構成されており、
前記端子電極は、前記素体の表面に互いに間隔を隔てて配置され、表面にめっき膜を有しており、
前記めっき膜は、請求項1または2に記載されためっき方法により形成されたものである、
セラミック電子部品。
【請求項4】
請求項3に記載されたセラミック電子部品であって、
前記めっき膜中のZn濃度は1wt%以下である、
セラミック電子部品。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−204822(P2007−204822A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26730(P2006−26730)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】