説明

めっき物の製造方法及び電気めっき方法

【課題】めっき物を優れた生産性と十分な耐食性とをもって低コストに製造可能なめっき物の製造方法を提供する。
【解決手段】めっき槽22の内部に、隔膜24にて陽極室26とめっき室28とを画成して、陽極室26内に、クエン酸三ナトリウム溶液からなる陽極液36と不溶性陽極30とを収容する一方、めっき室28内に、クエン酸三ナトリウムが添加されたスルファミン酸ニッケル溶液からなるめっき浴38と被めっき物たる金属素材からなる陰極32とを収容する。そして、それら不溶性陽極30と陰極32との間に電流を流して、電気めっきを行うことにより、該陰極32の表面に、ニッケルめっき層を形成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき物の製造方法及び電気めっき方法に係り、特に、電子部品等に好適に用いられるめっき物の有利な製造方法と、かかるめっき物の製造に際して有利に適用される電気めっき方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コネクタや、スイッチ、リレー等の電子部品(機構部品)には、銅又は銅合金からなる金属素材の表面の全面に、下地層としてのニッケルめっき層が形成されると共に、このニッケルめっき層の少なくとも一部に、上層としての金めっき層が積層形成されてなるめっき物が、多く用いられている。このようなめっき物は、一般に、金属素材に対して、所定のニッケルめっき浴(めっき液)を用いた電気ニッケルめっきと、金めっき浴を用いた電気金めっきとを、順次、実施すること等によって製造されている。
【0003】
そして、近年では、上記の如きめっき物の製造に際して、その生産性の向上のために、長尺な板材や線材等からなる金属素材に対して電気ニッケルめっきを連続的に実施する、所謂連続めっき(フープめっき)が実施され、また、ニッケルめっき浴として、金属素材表面へのニッケルの析出速度の高速化が可能なスルファミン酸ニッケルめっき浴が、好適に使用されるようになってきている。
【0004】
ところで、スルファミン酸ニッケルめっき浴を用いた電気ニッケルめっきでは、通常、ニッケルが溶出可能な可溶性の陽極が使用されるが、そのようなスルファミン酸ニッケルめっき浴と可溶性陽極とを併用した電気ニッケルめっきを、例えば、連続めっき手法により高速で実施した場合、陽極の消耗が著しいために、陽極の付け替え作業を頻繁に行う必要が生ずる。そして、それにより、目的とするめっき物の生産性が低下してしまうこととなる。また、それに加えて、陽極の表面に黒色膜が容易に形成されるようになり、そのために、そのような黒色膜を陽極から除去する作業も頻繁に行わなければならず、これによっても、めっき物の生産効率の低下が惹起される。しかも、陽極表面に形成された黒色膜により電圧が著しく上昇して、スパークによる密着不良が生ずる恐れさえもあったのである。
【0005】
そこで、スルファミン酸ニッケルめっき浴を用いた電気ニッケルめっきの実施に際して、可溶性陽極に代えて、不溶性の陽極を使用することが考えられる。ところが、そうした場合、陽極でのH2 Oの分解反応(H2 O→H+ +1/4 O2 +1/2 H2 O+e)により生成される水素イオンの増加に伴って、めっき浴のpH値が徐々に低下し、それにより、被めっき物たる金属素材からなる陰極表面に形成されたニッケルめっき層の外観の劣化が惹起されるようになる。その上、陽極においてスルファミン酸イオンが酸化されることにより、アゾジスルホネートが生成される。そのため、このアゾジスルホネート由来の硫黄によって、陰極表面への硫黄の共析量が増大し、その結果、ニッケルめっき層の耐食性が著しく低下してしまうこととなるのである。
【0006】
なお、ニッケルめっき層の耐食性の低下は、かかるニッケルめっき層に積層形成される金めっき層を厚くしたり、或いは金めっき層に対して公知の封孔処理を施したりすることで抑制され得る。しかしながら、高価な金を含む金めっき層を厚くすると、めっき処理に要するコスト、ひいては目的とするめっき物の製造コストが高くなってしまう。また、金めっき層に対する封孔処理を行う場合には、その分だけ、余計な費用と手間がかかって、めっき物の製造コストの高騰と生産性の低下とが惹起されるようになる。
【0007】
しかも、金めっき層の封孔処理は、通常、金めっき層の上に、耐熱性の低い封孔処理剤を塗布する等して、封孔処理剤層を形成するものであるため、例えば、金めっき層上の封孔処理剤層の上に、所定の接続部品を半田付けしたときに、半田付けの熱によって封孔処理剤層がダメージを受けて、耐食性が大きく損なわれる恐れがあった。また、金めっき層上に封孔処理剤層が形成される場合、この封孔処理剤層に周囲の塵埃等が吸着される懸念さえもあったのである。
【0008】
かかる状況下、例えば、下記特許文献1及び2等には、金属素材の表面に形成された下地層たるニッケルめっき層の耐食性の向上のために、ニッケルめっき層と金めっき層との間に、ニッケル合金やコバルト−錫合金からなる合金めっき層が形成されてなるめっき物が、開示されている。しかしながら、本発明者等の研究によれば、ニッケルめっき層と金めっき層の中間層として合金めっき層を有するめっき物では、十分に満足し得る程の耐食性を得るのが困難なことが、判明したのである。
【0009】
【特許文献1】特開昭63−121693号公報
【特許文献2】特開2004−307954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、金属素材の表面に、ニッケルめっき層と金めっき層とが、順次、積層形成されてなるめっき物を製造するに際して、高品質なニッケルめっき層を、連続して、高速で且つ効率的に形成することが出来、しかも、金めっき層の増厚や金めっき層に対する封孔処理を何等行うことなくとも、優れた耐食性が十分に確保され得るように改良されためっき物の製造方法を提供することにある。また、本発明にあっては、金属素材の表面に、優れた耐食性が十分に確保されたニッケルめっき層を、高速で且つ効率的に形成することが出来る電気めっき方法を提供することをも、その解決課題とするところである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明の態様を記載する。なお、以下の記載の態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体及び図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することが出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0012】
本発明の第一の態様は、前記せるめっき物の製造方法に係る課題の解決のために、金属素材の表面に、ニッケルめっき層が形成されると共に、該ニッケルめっき層に対して、金めっき層が積層形成されてなるめっき物を製造する方法であって、
(a)陽極室とめっき室とが、プラスイオンのみを選択的に透過させる隔膜又は隔壁にて内部に画成されためっき槽を用いて、該めっき槽の該陽極室内に、クエン酸三ナトリウム溶液からなる陽極液を収容する一方、該めっき室内に、クエン酸三ナトリウムが添加されたスルファミン酸ニッケル溶液からなるめっき浴を収容し、更に、該陽極室内の該陽極液中に不溶性陽極を浸漬する一方、該めっき室内の該めっき浴中に、前記金属素材からなる陰極を浸漬して、電気めっきを行うことにより、該金属素材の表面に前記ニッケルめっき層を形成する工程と、(b)前記金属素材の表面に形成された前記ニッケルめっき層に対して、前記金めっき層を積層形成する工程とを含むめっき物の製造方法を、特徴とする。
【0013】
すなわち、このような態様によれば、金属素材の表面に、ニッケルめっき層を形成するに際して、スルファミン酸ニッケル溶液からなるめっき浴を用いた電気ニッケルめっきが、不溶性電極を使用して実施される。そのため、かかる電気ニッケルめっきを、高速で連続的に実施することが可能となり、また、その際に、可溶性陽極を使用する場合とは異なって、陽極の消耗や、陽極表面に黒色膜が容易に形成されることが解消される。それによって、陽極の付け替え作業から開放されると共に、黒色膜を陽極表面から除去するための作業を頻繁に行う必要もなくなり、以て、ニッケルめっき層の形成効率が、有利に向上され得る。その上、陽極表面への黒色膜の形成に伴う電圧上昇と、更にはそれに起因したスパークによるニッケルめっき層の密着不良の発生とが効果的に防止され、その結果、金属素材の表面に、ニッケルめっき層が、安定した品質と高い密着性とをもって、有利に形成され得ることとなる。
【0014】
また、本態様では、めっき浴中にpH緩衝機能を有するクエン酸三ナトリウムが含まれていると共に、不溶性陽極が浸漬される陽極室内の陽極液が、クエン酸三ナトリウム溶液にて構成されている。詳細なメカニズムは不明であるが、陽極液をクエン酸三ナトリウム溶液とすることにより、陽極室内の陽極液のpH値が低下しても、隔膜等を隔てためっき室内のめっき浴のpH値は低下することがなく安定した状態を示す。その結果、めっき室内の金属素材の表面におけるニッケルめっき層の形成が好適なpH値範囲内において安定的に行われることとなり、ニッケルめっき層の劣化が効果的に防止され得ることとなる。
【0015】
さらに、本態様においては、陽極室内の陽極液と、陰極が浸漬されるめっき室内のめっき浴とが、プラスイオンのみを選択的に透過する隔膜又は隔壁にて分離されている。それ故、マイナスイオンである、めっき浴中のスルファミン酸イオンが隔膜を透過して、陽極室内に移動することも回避され、それによって、陽極室内の不溶性陽極におけるスルファミン酸イオンの酸化によるアゾジスルホネートの生成が抑制され得る。そして、その結果として、アゾジスルホネート由来の硫黄による陰極表面への硫黄の共析が、極めて効果的に解消乃至は抑制され、以て、硫黄の共析に起因したニッケルめっき層の耐食性の低下が、未然に阻止され得ることとなる。
【0016】
また、電気めっきの実施中のめっき浴の温度は、好ましくは、50〜55℃の範囲内の温度に維持される。これにより、めっき浴中のスルファミン酸イオンの分解が十分に抑制乃至は阻止され、めっき浴中に硫酸イオンが生成されることが、有利に防止される。
【0017】
さらに、本態様では、上記の如く、陰極を構成する金属素材の表面に、実質的に硫黄の共析のない、高純度のニッケルめっき層が形成されるようになるところから、ニッケルめっき層と、それに積層形成される金めっき層との間の腐食電位差が有利に小さくされる。それ故、例えば、金めっき層にピンホールが多く存在しても、ニッケルめっき層が容易に腐食するようなことが効果的に防止され得、その結果、金めっき層を増厚させたり、或いは金めっき層に対する封孔処理を行ったりすることもなしに、ニッケルめっき層、ひいては目的とするめっき物全体の耐食性が、極めて有利に高められ得るのである。
【0018】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係るめっき物の製造方法において、前記金属素材として、長尺な帯状素材又は線状素材を用いて、かかる金属素材からなる前記陰極を前記めっき室内のめっき浴中に一部ずつ連続的に浸漬せしめつつ、前記電気めっきを行うことにより、該金属素材の表面の一部ずつに、前記ニッケルめっき層を連続的に形成するようにしたことを、特徴とする。
【0019】
本態様によれば、連続めっき手法による電気ニッケルめっきが実施可能となり、それによって、帯状又は線状の形態を有するめっき物が、連続的に且つ効率的に形成され得る。
【0020】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係るめっき物の製造方法において、前記スルファミン酸ニッケルめっき浴中のスルファミン酸ニッケルの濃度が450〜650g/Lであり、且つ該めっき浴中のクエン酸三ナトリウムの濃度が20〜40g/Lであることを、特徴とする。
【0021】
本態様によれば、電気ニッケルめっきの実施時に、陰極が浸漬されるめっき浴のpH値が、有利に安定する。また、かかるめっき浴中に無用な沈殿物の発生が防止乃至は抑制されて、かかる沈殿物を除去するための余分な作業からも有利に開放され得る。そして、これによっても、ニッケルめっき膜の形成効率、ひいては目的とするめっき物の生産効率の向上が、図られ得る。
【0022】
本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の態様のうちの何れか一つに係るめっき物の製造方法において、前記陽極液中の前記クエン酸三ナトリウムの濃度が250〜300g/Lであることを、特徴とする。
【0023】
この態様によれば、電気めっき操作の進行に伴うめっき浴のpH値の低下が、より確実に抑制され得る。
【0024】
本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の態様のうちの何れか一つに係るめっき物の製造方法において、前記隔膜が、カチオン交換膜であることを、特徴とする。
【0025】
この態様によれば、スルファミン酸イオンのめっき室から陽極室への移動が有利に抑制され得て、スルファミン酸イオンの酸化によるアゾジスルホネートの生成が未然に回避され得る。そして、その結果、金属素材表面への硫黄の共析が、更に効果的に抑制され得ることとなる。
【0026】
本発明の第六の態様は、前記第一乃至第五の態様のうちの何れか一つに係るめっき物の製造方法において、前記金属素材の表面に前記ニッケルめっき層を形成した後、該ニッケルめっき層に対して、ニッケル合金又はコバルト−錫合金からなる合金めっき層を積層形成し、その後、該合金めっき層に対して、前記金めっき層を更に積層形成することにより、該合金めっき層を介して、該金めっき層を該ニッケルめっき層に積層形成することを、特徴とする。
【0027】
このような態様によれば、腐食電位差が、ニッケルめっき層と金めっき層との間よりも、ニッケルめっき層と合金めっき層との間や、金めっき層と合金めっき層との間において小さくされる。それにより、ニッケルめっき層の容易な腐食が有利に抑制されて、目的とするめっき物の耐食性の向上が、更に有利に図られ得る。
【0028】
本発明の第七の態様は、前記第一乃至第五の態様のうちの何れか一つに係るめっき物の製造方法において、前記金属素材の表面に前記ニッケルめっき層を形成した後、該ニッケルめっき層に対して、金を除く貴金属からなる貴金属めっき層を積層形成し、その後、該貴金属めっき層に対して、前記金めっき層を更に積層形成することにより、該貴金属めっき層を介して、該金めっき層を該ニッケルめっき層に積層形成することを、特徴とする。
【0029】
本態様によっても、腐食電位差が、ニッケルめっき層と金めっき層との間よりも、ニッケルめっき層と貴金属めっき層との間や、金めっき層と貴金属めっき層との間において小さくされて、目的とするめっき物の耐食性の向上が、更に有利に図られ得る。
【0030】
本発明の第八の態様は、前記第一乃至第五の態様のうちの何れか一つに係るめっき物の製造方法において、前記金属素材の表面に前記ニッケルめっき層を形成した後、該ニッケルめっき層に対して、ニッケル合金又はコバルト−錫合金からなる合金めっき層と、金を除く貴金属からなる貴金属めっき層とを、該合金めっき層を下側にして、順次、積層形成し、その後、該貴金属めっき層に対して、前記金めっき層を更に積層形成することにより、該合金めっき層と該貴金属めっき層とを介して、該金めっき層を該ニッケルめっき層に積層形成することを、特徴とする。
【0031】
この態様によれば、腐食電位差が、ニッケルめっき層と金めっき層との間よりも、ニッケルめっき層と合金めっき層との間、合金めっき層と貴金属めっき層との間、貴金属層と金めっき層との間において、それぞれ小さくされ、以て、目的とするめっき物の耐食性の向上が、更に一層効果的に実現され得ることとなる。
【0032】
本発明の第九の態様は、前記第一乃至第八の態様のうちの何れか一つに係るめっき物の製造方法において、前記金属素材の表面に、前記ニッケルめっき層と前記金めっき層とを積層形成した後、それらニッケルめっき層と金めっき層とが積層形成された前記めっき物に対して、250〜350℃の温度で3〜5分間加熱する加熱処理を行うことを、特徴とする。
【0033】
本態様によれば、より優れた耐食性を有するめっき物が、更に確実に得られることとなる。
【0034】
本発明の第十の態様は、前記第一乃至第九の態様のうちの何れか一つに係るめっき物の製造方法において、前記金属素材が、銅又は銅合金を用いて形成されていることを、特徴とする。
【0035】
この態様によれば、優れた耐食性を有して製造されるめっき物が、電子部品等として、好適に使用され得る。
【0036】
本発明の第十一の態様は、前記第一乃至第十の態様のうちの何れか一つに係るめっき物の製造方法において、前記めっき物が、電子部品であることを、特徴とする。
【0037】
本態様によれば、優れた耐食性を有する電子部品が、生産性良く、しかも低コストに得られる。
【0038】
本発明の第十二の態様は、前記せる電気めっき方法に係る課題の解決のために、金属素材の表面に、ニッケルめっき層を形成する電気めっき方法であって、陽極室とめっき室とが、プラスイオンのみを選択的に透過させる隔膜又は隔壁にて内部に画成されためっき槽を用いて、該めっき槽の該陽極室内に、クエン酸三ナトリウム溶液からなる陽極液を収容する一方、該めっき室内に、クエン酸三ナトリウムが添加されたスルファミン酸ニッケル溶液からなるめっき浴を収容し、更に、該陽極室内の該陽極液中に不溶性陽極を浸漬する一方、該めっき室内の該めっき浴中に、前記金属素材からなる陰極を浸漬して、該不溶性陽極と該陰極との間に電流を流すことにより、該金属素材の表面に前記ニッケルめっき層を形成する電気めっき方法を、特徴とする。
【0039】
このような態様によれば、前記せるめっき物の製造方法において奏される作用・効果と実質的に同一の作用・効果が、有効に享受され得る。
【発明の効果】
【0040】
上述の説明から明らかなように、本発明に従うめっき物の製造方法によれば、金属素材の表面に、高品質なニッケルめっき層を、連続して、高速で且つ効率的に形成することが出来、また、かかるニッケルめっき層の耐食性を損なうことなしに、金めっき層に対する封孔処理を省略して、金めっき層の厚さを十分に薄く為すことが可能となる。そして、その結果として、目的とするめっき物を、優れた生産性と十分な耐食性とをもって、低コストに製造することが出来るのである。
【0041】
また、本発明に従うめっき物の製造方法にあっては、金めっきに対する封孔処理が不要となるところから、例えば、金めっき層の上に、熱に弱い封孔処理剤層を形成する場合とは異なって、高温環境に晒された後、即ち、例えばリフロー方式による半田付けが実施された後等において、耐食性が低下するようなことが有利に回避されて、耐食性と共に、耐熱性の向上も有効に図られ得る。更に、金めっき層の上に、封孔処理剤層を形成する必要がないため、かかる封孔処理剤層によって周囲の塵埃等が、金めっき層の表面に吸着されるようなことも、未然に防止され得る。
【0042】
加えて、本発明に従うめっき物の製造方法においては、不溶性陽極が使用されるため、可溶性陽極の使用時に、陽極の溶解性を高めることを主な目的として、例えば、ワット浴等に含まれる塩化ニッケルが、めっき浴中に不要となる。それによって、めっき浴が、単に、スルファミン酸ニッケルめっき浴中にクエン酸三ナトリウムが添加されただけの簡単な組成と為され得る。その結果、めっき浴の管理が容易となるだけでなく、めっき浴のリサイクル性の確保が期待され得るのである。
【0043】
そして、本発明に従う電気めっき方法によれば、金属素材の表面に、高品質なニッケルめっき層を、優れた生産性と十分な耐食性とをもって、低コストに形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0045】
先ず、図1には、本発明手法に従って、めっき物たるコネクタや、スイッチ、リレー等の電子部品を製造するに際して、電気めっきを実施するのに用いられるリール・ツー・リール連続めっき装置10が、概略的に示されている。かかる図1から明らかなように、リール・ツー・リール連続めっき装置10では、一方のリール12に巻かれた金属素材としての帯状金属板14をリール・ツー・リール連続めっき装置10に供給し、めっきの完了した帯状金属板14は連続的にもう一方のリール16に巻き取られるようになっている。具体的には、帯状金属板14は前処理槽17、水洗工程槽18等の各槽を通過した後、目的とするめっき槽22へ供給され、その後、後処理としての水洗工程槽19、乾燥工程槽20等を経て、製品としてリール16に巻き取られる。
【0046】
なお、リール・ツー・リール連続めっき装置10に設けられるこれらの前処理槽17、水洗工程槽18,19、めっき槽22等は、所望する作業工程に応じて、適宜、設置数や設置順序が設定され得る。即ち、リール12からリール16に至るまでの各処理槽の配置態様によって、めっき層形成処理の前後に、帯状金属板14に対してpH調整等の前処理や、水洗、乾燥等の所望する処理を実施することができる。また、複数のめっき槽22を設けることにより、帯状金属板14上に複数のめっき層を積層形成することができる。そして、図示はされていないが、後述するように、本実施形態においては、前処理槽17及び水洗工程槽18による準備工程に続いて、別のめっき槽22及び水洗工程槽19を設けることにより、帯状金属板14上のニッケルめっき層に対して、金めっき層等を積層形成するようになっている。なお、複数のめっき層を積層形成する場合には、各めっき槽22の間にそれぞれ水洗工程槽19が設けられて、帯状金属板14に付着しためっき浴が水洗されるようになっている。また、各槽はそれぞれ上下二槽構造になっており、例えば、めっき槽22は、めっき浴が蓄えられる下部めっき槽22bと、帯状金属板14が通過する上部めっき槽22aとにより構成されている。
【0047】
以下に、帯状金属板14の表面にニッケルめっき層を形成するめっき槽22のより詳細な構造について説明する。図2に示されるように、めっき槽22は、上部めっき槽22aと下部めっき槽22bの二つの槽により構成されている。また、上部めっき槽22aの側壁部には、図2において紙面に対して垂直方向となる帯状金属板14の進行方向に沿った両面において、箱状構造とされた一対の陽極室形成ケース23が配設されている。これらの陽極室形成ケース23には上部めっき槽22aの内部に向けて開口する開口部が設けられており、この開口部には、金属製の補強材の内側において、隔膜としてのカチオン交換膜24が配設されている。即ち、本実施形態においては、かかるカチオン交換膜24と陽極室形成ケース23とにより、一対の陽極室26が画成されている。そして、本実施形態においては、上部めっき槽22aの内部のうち陽極室26を除く部分が、めっき室28とされている。
【0048】
なお、上部めっき槽22aの陽極室26を形成するカチオン交換膜24としては、プラスイオンのみを透過させる、従来より公知の構造乃至は材質を有するものが、何れも使用され得る。また、そのようなカチオン交換膜24に代えて、例えば、プラスイオンのみを選択的に透過させる、イオン交換樹脂からなる隔壁を用いることも可能である。更にまた、陽極室形成ケース23を用いずに、陽極室26の壁部の全てを、カチオン交換膜又はイオン交換樹脂からなる隔壁のみによって構成することも可能である。
【0049】
かかる上部めっき槽22a内に設けられた陽極室26内には、不溶性陽極30が収容されている。この不溶性陽極30には、電気ニッケルめっきの実施に際して一般に用いられる公知のものが使用される。例えば、チタンからなる基材を有し、且つかかる基材が白金や酸化イリジウム、或いは白金−酸化イリジウム合金にて被覆されたものが用いられ、それらの中でも、特に、チタン基材が酸化イリジウムにて被覆されてなる不溶性電極が、高い耐久性を有するところから、好適に用いられる。
【0050】
一方、上部めっき槽22a内のめっき室28には、陰極32が収容されている。なお、この陰極32は、リール12から供給される長尺な平板状に形成された帯状金属板14の一部によって構成されている。また、帯状金属板14は、表面にニッケルめっき層と金めっき層とが積層形成されるべき被めっき物たる金属素材からなり、本実施形態では、特に、かかる帯状金属板14が、銅又は銅合金(例えば、ベリリウム−銅やリン青銅等)を用いて、長尺な平板状に形成されている。そして、そのような帯状金属板14が、リール12から少しずつ巻き戻されつつ、前処理槽17、水洗工程槽18等の各処理槽を通過した後、めっき室28内に侵入せしめられて、陰極32とされるようになっている。これにより、帯状金属板14の一部が、陰極32として、一定の時間をかけて、一定の速度で、上部めっき槽22aにおけるめっき室28内を走行せしめられるようになっている。そして、めっき室28内を走行した後、めっき室28内から取り出された陰極32は、その後、後処理としての水洗工程槽19、乾燥工程槽20を経て、次なる金めっき工程やはんだめっき工程へと進み、最終的に製品としてリール16に巻き取られることとなる。なお、陰極32は、被めっき物たる金属素材にて構成されるものであれば、その材質や形態等が何等限定されるものではない。それ故、例えば、銅や銅合金以外の金属材料からなる線材や板材、ブロック材等であっても良い。
【0051】
また、それら不溶性陽極30と陰極32は、リード線を介して、電源装置34の陽極と陰極とにそれぞれ接続されている。なお、よく知られているように、電気ニッケルめっきの実施時に電流が低下すると、陰極32の表面に形成されるニッケルめっき層の膜厚が薄くなる恐れがある。そのため、本実施形態では、電源装置34として、電気めっきの実施に際して一般的に使用されるものが適宜に用いられるものの、好ましくは、出力電流が一定に維持される定電流電源装置が、使用される。
【0052】
さらに、陽極室26内には、陽極液36が、不溶性陽極30を充分に浸漬させ得る量において、収容されている。そして、ここでは、特に、かかる陽極液36として、クエン酸三ナトリウム溶液が、使用されている。このクエン酸三ナトリウム溶液からなる陽極液36は、電気めっきの実施時における陽極室26内での不溶性陽極30での陽極反応を進行せしめる機能を有する。そして、現時点ではその詳細なメカニズムは不明であるが、陽極室26内の陽極液36としてクエン酸三ナトリウム溶液を用いることにより、通電時におけるめっき室28内のめっき浴38のpH値の変動(低下)が有効に抑制され得る。即ち、陽極反応により陽極液36のpH値が低下しても、カチオン交換膜24を隔てためっき浴38のpH値は低下することなく安定して好適なpH値範囲内に保たれ得る。
【0053】
それ故、そのような陽極液36中のクエン酸三ナトリウムの濃度は、特に限定されるものではないものの、好ましくは250〜300g/Lの範囲内の値とされる。蓋し、陽極液36中のクエン酸三ナトリウム濃度が250g/Lを下回る場合には、濃度が余りにも低いために、不溶性陽極30における陽極反応が充分に起こらずに電流が流れにくくなり、電気めっきの実施が困難となる。また、陽極液36中のクエン酸三ナトリウム濃度が300g/Lを上回る場合には、過剰なクエン酸三ナトリウムが結晶化するなどして液中に溶解せず、無駄となってしまうため、コスト的にも望ましくない。従って、陽極液36中のクエン酸三ナトリウム濃度は、250〜300g/Lの範囲内の値とされていることが望ましいのである。
【0054】
一方、めっき室28内には、めっき浴38が収容されている。このめっき浴38は、下部めっき槽22bから上部めっき槽22aのめっき室28へとポンプにより汲み上げられて循環するようになっている。そして、めっき浴38は、帯状金属板14からなる陰極32が浸漬され得る量において、めっき室28内に収容されている。なお、本実施形態においては、電気めっきを実施しないときには、ポンプを停止してめっき浴38を全て下部めっき槽22bに戻し、上部めっき槽22aのめっき室28を空にすることができる。これにより、通電を停止している間のめっき浴38のpH値の変動(低下)が防止され得るようになっている。そして、ここでは、特に、このめっき浴38として、スルファミン酸ニッケルの水溶液にクエン酸三ナトリウムが添加されたスルファミン酸ニッケル溶液が用いられている。
【0055】
このめっき浴38を構成するスルファミン酸ニッケル溶液中のニッケルイオンが、後述する電気めっきにより陰極32表面に析出されることによって、ニッケルめっき層が形成されることとなる。つまり、かかるスルファミン酸ニッケル溶液が、ニッケルめっき層のニッケルの供給源とされている。
【0056】
それ故、かかるめっき浴38中のスルファミン酸ニッケルの濃度は、ニッケルめっき層の形成に際して、ニッケルイオンを十分に供給され得る濃度であれば、具体的に限定されるものではないものの、好ましくは、450〜650g/Lの範囲内の値とされる。蓋し、かかる濃度が450g/Lよりも低い場合には、電気めっきの実施中のめっき浴38のpH値が安定せず、そのために、陰極32の表面に形成されるニッケルめっき層の品質が低下する恐れがあるからである。また、めっき浴38中のスルファミン酸ニッケル濃度が650g/Lよりも高い場合には、帯状金属板14がめっき槽22を通過して次工程である水洗工程槽19に移動する際に、帯状金属板14に高濃度のスルファミン酸ニッケル溶液が付着したまま水洗工程槽19に進入することとなる。即ち、帯状金属板14の移動に伴って多量のスルファミン酸ニッケルが水洗工程槽19に汲み出され、余分な回収作業が必要となるため、コスト面等で望ましくない。なお、めっき浴38中のスルファミン酸ニッケル濃度は、600g/L程度とされていることが、最も好ましい。
【0057】
さらに、めっき浴38中のクエン酸三ナトリウムは、めっき浴38のpHの変動を抑制するpH緩衝剤として用いられるものであって、その濃度も、特に限定されるものではないが、望ましくは、20〜40g/Lの範囲内の値とされる。蓋し、めっき浴38中のクエン酸三ナトリウム濃度が20g/L未満である場合には、電気めっきの実施中のめっき浴38のpH値が安定せず、そのために、陰極32の表面に形成されるニッケルめっき層の品質が低下する恐れがあるからである。また、かかるクエン酸三ナトリウムの濃度が40g/Lよりも高い場合には、電気めっきの実施中に、クエン酸三ナトリウムの結晶が、めっき室28内に徐々に沈殿するようになり、そのために、かかる沈殿物を取り除くためのめっき室28の洗浄等の余分な作業が強いられるようになる。さらに、クエン酸の錯体化による電流効率の低下により、ニッケルめっき層の皮膜形成量が減少してしまう。なお、めっき浴38中のクエン酸三ナトリウムの濃度は、25〜30g/L程度の値が、最も好ましい。
【0058】
このように、ここでは、陽極室26内に収容される陽極液36が、クエン酸三ナトリウムだけの単一の成分を含み、また、めっき室28内に収容されるめっき浴38は、スルファミン酸ニッケルとクエン酸三ナトリウムの二成分のみで構成されている。その上、不溶性陽極30が使用されているため、可溶性陽極を用いる場合とは異なって、陽極溶解の促進を図るため等に用いられる塩化ニッケルが不要とされている。これによって、三成分以上を含む一般的なワット浴やクエン酸浴からなるめっき浴中で、可溶性陽極を用いた電気めっきを実施する場合に比して、陽極室26内の陽極液36やめっき室28内のめっき浴38の調製及び管理が容易となっている。
【0059】
また、めっき浴38中にクエン酸三ナトリウムが添加されていることによって、陰極32表面に形成されるニッケルめっき層を、無光沢ではあるものの、白っぽい艶のある表面とすることが出来る。そのため、ここでは、ワット浴やクエン酸浴等に、通常含まれている各種の光沢剤が不要とされる。これによっても、めっき浴38に含まれる成分の種類が有利に少なくされて、めっき浴38の調製及び管理が容易となっている。また、それに加えて、めっき浴38中への光沢剤の添加により、陰極32表面に形成されるニッケルめっき層が柱状構造とされて、それが、かかるニッケルめっき層の耐食性に悪影響を及ぼすようなことが、未然に防止される。
【0060】
さらに、ここで使用されるめっき浴38は、pH値が3.6〜4.8程度に調製されていることが、望ましい。蓋し、かかるめっき浴38のpH値が3.6よりも低い値となっていると、陰極32の表面に形成されるニッケルめっき層の外観が劣化して、その品質が低下する恐れがある。また、特にpH値が3以下では、スルファミン酸イオンの加水分解が生じることとなるため望ましくない。一方、めっき浴38のpH値が4.8を超える値となっていると、焦げや水酸化物の沈殿が生ずるようになるといった問題が惹起される可能性がある。なお、めっき浴38のpH値のより好ましい範囲は、4.3〜4.7である。これによって、より高い品質のニッケルめっき層が、陰極32表面に、更に一層安定的に形成され得ることとなる。また、めっき浴38のpH値の調製は、例えば、めっき浴38中のスルファミン酸ニッケルの濃度やクエン酸三ナトリウムの濃度を適宜に変更すること等によって、容易に行われる。
【0061】
そして、目的とするめっき物を製造するに際して、上記の如き構造とされた電気めっき装置10を用いた電気めっきを実施するには、例えば、先ず、めっき室28内のめっき浴38が、50〜55℃の範囲内の温度になるまで加熱される。また、かかるめっき浴38の温度は、電気めっきが終了するまで、上記の如き範囲内の値に維持される。蓋し、公知の如く、スルファミン酸イオンは、50〜55℃の温度範囲内にあるときに限って、硫酸イオンとアンモニアイオンとに分解されることが抑制される。そのため、めっき浴38を50〜55℃の範囲内の温度に維持した状態で、電気めっきを実施すれば、アゾジスルホネートに由来する硫黄の陰極32表面への共析が、極めて有利に阻止乃至は抑制することが可能となるからである。また、めっき浴38の温度が50℃より低い、又は55℃よりも高い場合には、ニッケルめっき層の内部応力が増大し、硬度の面でも悪影響が生じる懸念がある。
【0062】
次に、めっき浴38の温度が50〜55℃となったら、電源装置34が作動せしめられて、不溶性陽極30と陰極32との間に電流が流される。このとき、電源装置34からの出力電流は、その電流密度が10〜20A/dm2 とされる。蓋し、不溶性陽極30と陰極32との間に流される電流密度が10A/dm2 を下回る小さな値とされる場合には、陰極32の表面に形成されるニッケルめっき層の耐食性が低下する恐れがあるからであり、また、かかる電流密度が20A/dm2 を上回る大きな値とされる場合には、局所的に電流の集中が生じて焦げが発生する危惧があるからである。
【0063】
そして、そのように、不溶性陽極30と陰極32との間に電流が流されることによって、めっき室28内のめっき浴38中のスルファミン酸ニッケルの電離によって生じたニッケルイオンが、かかるめっき浴38中に浸漬された陰極32の表面に析出される。それにより、めっき浴38に浸漬された陰極32を形成する被めっき物たる帯状金属板14の表面に、ニッケルめっき層が形成される。また、かかる帯状金属板14が、一部ずつ連続的に、めっき室28のめっき浴38中に浸漬されることで、帯状金属板14の表面の全面に、ニッケルめっき層が形成されるようになる。
【0064】
また、このとき、可溶性陽極を使用する場合とは異なって、不溶性陽極30が消費されることがなく、しかも、不溶性陽極30の表面に黒色膜が容易に形成されることがない。そのため、陽極の付け替え作業や、黒色膜を陽極表面から除去するための作業を行う必要も有利に解消される。その上、陽極表面への黒色膜の形成に伴う電圧上昇と、更にはそれに起因したスパークによるニッケルめっき層の密着不良の発生とが効果的に防止される。そして、それによって、帯状金属板14に対して、ニッケルめっき層が、安定した品質と高い密着性とをもって、効率的に形成され得ることとなる。
【0065】
また、陽極室26内の陽極液36としてクエン酸三ナトリウム溶液が用いられていることにより、その詳細な原理は未だ解明されていないが、結果として、めっき室28内のめっき浴38のpH値の低下が有利に抑制される。即ち、通電によって陽極室26内のpH値が低下しても、カチオン交換膜24を隔てためっき室28内のpH値は低下することなく略一定に保たれることとなるのである。その結果、陰極32を構成する帯状金属板14の表面に形成されるニッケルめっき層の外観の劣化が、効果的に防止され得る。
【0066】
更に、めっき室28と陽極室26がカチオン交換膜24によって隔てられていることにより、マイナスイオンであるめっき浴中のスルファミン酸イオンが陽極室26に移動し、そこで酸化されることによりアゾジスルホネートが生成されることも、効果的に抑制され得る。その結果、アゾジスルホネート由来の硫黄が、陰極32の表面に共析されることが、効果的に解消乃至は十分に抑制され得るようになる。また、不溶性陽極30の陽極反応において各種の酸化生成物が発生しても、陽極室26がカチオン交換膜24を介してめっき室28から分離されていることにより、それらの酸化生成物が陽極室26内に封じ込められて、めっき室28への混入が阻止され得る。これにより、帯状金属板14に対してより高純度で安定した品質のニッケルめっき層が効率的に形成され得る。
【0067】
かくして、かかる電気ニッケルめっきの実施によって、陰極32を構成する帯状金属板14の表面の全面に、pH値が所望の範囲内の値に維持されためっき浴38中で、実質的に硫黄の共析のない極めて純度の高いニッケルからなるニッケルめっき層が、形成される。なお、このとき、ニッケルめっき層の厚さは、一般に、0.5〜4.0μm程度の範囲内の値とされる。蓋し、ニッケルめっき層の厚さが0.5μmを下回る場合には、ニッケルめっき層が余りにも薄いために、後述する金めっき層の下地層としての機能を十分に果たすことが困難となってしまう恐れがあるからである。また、ニッケルめっき層の厚さが4.0μmを超える場合には、今度はニッケルめっき層が厚過ぎるために製造コストの観点から好ましくないうえ、めっき層の形成にも長時間が必要となるために、生産性が低下してしまうからである。更に、このニッケルめっき層の厚さは、1.0〜3.0μm程度されていることが、より好ましい。
【0068】
なお、一般には、上記の如き帯状金属板14に対する電気ニッケルめっきの実施に先立って、リール12から巻き戻された帯状金属板14に対して、めっき室28のめっき浴38中に浸漬される前に、めっき槽22に隣接して設けられた前処理槽17及び水洗工程槽18等を通過することにより、電解脱脂操作と1回目の水洗操作と酸中和操作と2回目の水洗操作が、その順番で、連続して実施される。また、帯状金属板14に対する電気ニッケルめっきを行っている最中に、消費されるニッケルイオンを補うために、必要に応じて、めっき浴38中にスルファミン酸ニッケルが追加供給される。
【0069】
そして、帯状金属板14の表面の全面に、ニッケルめっき層が形成されたら、帯状金属板14が水洗された後、ニッケルめっき層に対して、金めっき層が形成されるのであるが、ニッケルめっき層の耐食性の更なる向上のために、必要に応じて、金めっき層の形成に先立って、合金めっき層と貴金属めっき層のうちの少なくとも何れか一方が、ニッケルめっき層と金めっき層との間に位置するように、形成される。なお、それら合金めっき層や貴金属めっき層の形成操作の前後には、所定の水洗操作が、適宜に行われる。
【0070】
すなわち、ニッケルめっき層に対して合金めっき層を形成する場合には、かかる合金めっき層として、例えば、ニッケル−錫めっき層や、ニッケル−リンめっき層、パラジウム−ニッケルめっき層等のニッケル合金めっき層の他、コバルト−錫等のニッケル合金以外の合金めっき層等の中から適宜に選択された1種又は2種以上ものが、帯状金属板14上に形成されたニッケルめっき層上の全面に、或いはニッケルめっき層上の一部の表面上に形成される。これにより、帯状金属板14上において、帯状金属板14に近い側から順に、ニッケルめっき層、合金めっき層、金めっき層が積層形成されることとなる。
【0071】
そして、このような合金めっき層をニッケルめっき層と金めっき層との間に形成することによって、腐食電位差が、ニッケルめっき層と金めっき層との間よりも、ニッケルめっき層と合金めっき層との間や、金めっき層と合金めっき層との間において小さくされる。その結果、ニッケルめっき層の容易な腐食が有利に抑制されて、目的とするめっき物の耐食性の向上が、更に有利に図られ得る。
【0072】
なお、そのような合金めっき層の形成に際しては、上記に例示された各種の合金材料を含むめっき浴を用いて、電気めっきを始めとした公知のめっき手法が実施されることとなる。また、かかる合金めっき層の厚さは、特に限定されるものではないものの、一般には、0.05〜0.2μm程度の厚さとされる。蓋し、合金めっき層の厚さが0.05μm未満とされる場合には、余りにも薄いために、ニッケルめっき層の耐食性の向上が十分に望めなく恐れがあるからである。また、合金めっき層の厚さが0.2μmを超える場合には、内部応力が増大して、表面に腐食の原因となるマイクロクラックと呼ばれる微小な亀裂が生じる懸念があるからである。そして、この合金めっき層は、ニッケルめっき層の耐食性の向上効果を効率的且つ十分に確保する上において、0.1〜0.2μmの範囲内の厚さとされていることが、より好ましい。
【0073】
また、ニッケルめっき層と金めっき層との間に、貴金属めっき層を形成する場合には、かかる貴金属めっき層として、例えば、パラジウムめっき層が、帯状金属板14上に形成されたニッケルめっき層上の全面に、或いはニッケルめっき層上の一部の表面上に形成される。これにより、帯状金属板14上において、帯状金属体14に近い側から順に、ニッケルめっき層、貴金属めっき層、金めっき層が積層形成されることとなる。なお、このような貴金属めっき層においては、その強度向上等を目的として、例えば、コバルトやニッケル、銀等が含まれていても良い。
【0074】
そして、このような貴金属めっき層をニッケルめっき層と金めっき層との間に形成することによって、腐食電位差が、ニッケルめっき層と金めっき層との間よりも、ニッケルめっき層と貴金属めっき層との間や、金めっき層と貴金属めっき層との間において小さくされる。その結果、ニッケルめっき層の容易な腐食が有利に抑制されて、目的とするめっき物の耐食性の向上が、更に有利に図られ得ることとなる。
【0075】
なお、そのような貴金属めっき層の形成に際しては、上記に例示されたパラジウム等の貴金属材料を含むめっき浴を用いて、電気めっきを始めとした公知のめっき手法が実施されることとなる。また、かかる貴金属めっき層の厚さは、何等限定されるものではないものの、一般には、0.01〜0.1μm程度の厚さとされる。蓋し、貴金属めっき層の厚さが0.01μm未満とされる場合には、余りにも薄いために、ニッケルめっき層の耐食性の向上が十分に望めなく恐れがあるからである。また、貴金属めっき層の厚さが0.1μmを超える場合には、内部応力が増大して表面にマイクロクラックが生じるために耐腐食性が低下する恐れがあり、また、高価な貴金属材料の使用量が増大し、そのためにコスト高となるといった問題が生ずる懸念があるからである。そして、この貴金属めっき層は、ニッケルめっき層の耐食性の向上効果を可及的に低コストに且つ十分に確保する上ために、0.01〜0.05μmの範囲内の厚さとされていることが、より望ましいのである。
【0076】
さらに、ニッケルめっき層と金めっき層との間に、上記せるような合金めっき層と貴金属めっき層の両方を形成する場合には、帯状金属板14上において、帯状金属板14に近い側から順に、ニッケルめっき層、合金めっき層、貴金属めっき層、金めっき層が、順次積層形成されることとなる。なお、これらのめっき層は、帯状金属板14上に形成されたニッケルめっき層上の全面に、或いはニッケルめっき層の一部の表面上に形成される。
【0077】
それによって、腐食電位差が、ニッケルめっき層と金めっき層との間よりも、ニッケルめっき層と合金めっき層との間、合金めっき層と貴金属めっき層との間、貴金属層と金めっき層との間において、それぞれ小さくされ、以て、目的とするめっき物の耐食性の向上が、更に一層効果的に実現され得ることとなる。
【0078】
そして、前記せるように、ここでは、帯状金属板14の全表面に形成されたニッケルめっき層に対して、合金めっき層や貴金属めっき層を介して、或いは直接に金めっき層が形成され、以て、目的とするめっき物たる電子部品が得られるのである。
【0079】
なお、かかる金めっき層の形成に際しては、金を含むめっき浴を用いて、電気めっきを始めとした公知のめっき手法が実施されることとなる。また、この金めっき層は、上記せる貴金属めっき層と同様に、例えば、強度向上等の改質を目的として、例えば、コバルト等が含まれていても良い。
【0080】
そして、金めっき層の厚さは、特に限定されるものではないものの、一般には、目的とするめっき物の耐食性の向上ために、0.05μm以上の厚さとされる。
【0081】
また、本実施形態では、特に、前記せるように、ニッケルめっき層が、実質的に硫黄の共析のない、高純度のニッケルにて構成されている。そのため、ニッケルめっき層と金めっき層との間の腐食電位差が有利に小さくされ、それ故、例えば、金めっき層にピンホールが多く存在しても、ニッケルめっき層が容易に腐食するようなことが効果的に防止され得るようになる。
【0082】
これにより、ここでは、金めっき層が薄くされていても、具体的には、0.1μm以下の薄い厚さとされていても、ニッケルめっき層、更には最終的に得られるめっき物の耐食性が、極めて有利に高められ得る。従って、かかる金めっき層は、めっき物の耐食性を低コストに且つ十分に高める上で、0.05〜0.1μmの範囲内の厚さとされていることが、望ましいのである。
【0083】
また、ここでは、上記の如く、金めっき層が多くのピンホールを有していても、ニッケルめっき層の十分な耐食性が有利に確保され得るため、ニッケルめっき層と金めっき層とが積層形成された電子部品製造に際して、従来では必須とされている金めっき層に対する封孔処理が、省略されている。
【0084】
そして、本実施形態においては、ニッケルめっき層に対して、直接に、或いは合金めっき層や貴金属めっき層を介して、金めっき層が積層形成されて、目的とするめっき物たる電子部品が製造された後、この電子部品に対して、加熱処理が、必要に応じて実施される。それによって、電子部品の耐食性が、更に効果的に高められ得ることとなる。
【0085】
この加熱処理は、例えば、電子部品を250〜350℃の温度で3〜5分間加熱することにより実施される。電子部品に対する加熱温度が250℃を下回る場合や加熱時間が3分未満である場合には、かかる加熱処理による電子部品の耐食性の向上効果が不十分となる恐れがあるからであり、また、電子部品に対する加熱温度が350℃を上回る高い温度とされる場合や、加熱時間が5分を超える長時間となる場合には、金めっき層の品質の低下や加熱処理効率が低下が惹起されるようになるからである。
【0086】
なお、金めっき層が形成された後、電子部品に対して、リフロー方式による半田付け等が実施されて、電子部品が加熱される場合には、上記の如き特別な加熱処理が、電子部品に対して実施されなくとも、かかる加熱処理が施されたときと同様に、電子部品の耐熱性の向上が期待される。
【0087】
このように、本実施形態の電子部品の製造方法によれば、帯状金属板14に対する電気ニッケルめっきを、連続めっき手法により、高速で連続的に実施可能となる。また、前述の如く、そのような電気ニッケルめっきによって、帯状金属板14に対して、ニッケルめっき層が、安定した品質と高い密着性とをもって、効率的に形成され得ることとなる。更に、かかる電気ニッケルめっきの実施時にめっき浴38のpH値が低下して、そのために、ニッケルめっき層の外観が劣化することが防止され得る。その上、帯状金属板14に形成されるニッケルめっき層への硫黄の共析が実質的に解消されて、ニッケルめっき層の耐食性が、極めて有利に高められ、以て、金めっき層の厚さが十分に薄く為され得ると共に、金めっき層に対する封孔処理も省略可能となっている。
【0088】
従って、かくの如き本実施形態手法にあっては、目的とするめっき物たる電子部品を、優れた生産性と十分な耐食性とをもって、しかも低コストに製造することが可能となるのである。
【0089】
また、本実施形態によれば、金めっき層に対する封孔処理が行われないため、熱に弱い封孔処理剤層が、金めっき層上から省略され、それによって、例えばリフロー方式による半田付け等が実施される等して、高温環境に晒された後に、耐食性が低下するようなことが有利に回避されて、耐食性と共に、耐熱性の向上も有効に図られ得る。更に、金めっき層の上に、封孔処理剤層が省略されているため、かかる封孔処理剤層によって周囲の塵埃等が、金めっき層の表面に吸着されるようなことも、未然に防止され得る。
【実施例】
【0090】
以下に、本発明の幾つかの実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0091】
−実施例1−
先ず、図1に示される如き構造を有する電気めっき装置を準備した。また、市販のクエン酸三ナトリウム溶液[ 商品名:SN−CSB(株)ムラタ製] の所定量を準備する一方、600g/Lの濃度のスルファミン酸ニッケル溶液を調製して、所定量準備した。更に、かかるスルファミン酸ニッケル溶液中に、上記せる市販のクエン酸三ナトリウム溶液を添加して、スルファミン酸ニッケルめっき浴を調製して、所定量準備した。なお、このスルファミン酸ニッケルめっき浴中のクエン酸三ナトリウムの濃度は、30g/Lとし、スルファミン酸ニッケルめっき浴のpH値を4.5に調製した。また、市販のクエン酸三ナトリウム溶液のpH値も5.7であった。更に、それらとは別に、チタンからなる基材が酸化イリジウムにて被覆されてなる不溶性陽極と、銅製の平板状金属素材からなる陰極とを、それぞれ準備した。
【0092】
次いで、準備された電気めっき装置のめっき槽に設けられた陽極室形成ケースとカチオン交換膜からなる陽極室内に、不溶性陽極を収容せしめると共に、クエン酸三ナトリウム溶液を、陽極液として、かかる不溶性陽極の全体が浸漬される量において収容せしめた。また、その一方で、めっき槽のめっき室内に、陰極を収容せしめると共に、スルファミン酸ニッケルめっき浴を、かかる陰極の全体が浸漬される量において収容せしめた。
【0093】
その後、陽極室内の陽極液とめっき室内のめっき浴とを50〜55℃の温度にまで加熱して、その温度を維持させた。それに引き続いて、不溶性陽極とめっき室内の陰極との間に、5Aの電流を30分間流して、公知の連続めっき手法による電気ニッケルめっきを実施し、陰極表面にニッケルめっき層を形成した。このニッケルめっき層の厚さは、60μmであった。なお、このときの電流密度は、10A/dm2 とした。
【0094】
そして、電気ニッケルめっきの終了後に、陽極室内の陽極液とめっき室内のめっき浴のpH値をそれぞれ測定して、電気ニッケルめっきの開始前の値と比較した。その結果、めっき浴は、電気ニッケルめっき開始前のpH値が4.5であり、電気ニッケルめっき終了後のpH値も4.5のままであった。これにより、本発明手法に従って電気ニッケルめっきを実施した際に、かかる電気ニッケルめっきの開始前と終了後とにおいて、めっき浴のpH値が、殆ど変動しなかったことが確認された。
【0095】
また、陰極表面に形成されたニッケルめっき層を、30mmの測定径で波長分散型蛍光X線分析装置(WD−XRF)により分析し、硫黄の共析量を測定した。その結果、ニッケルめっき層中に、硫黄が検出されなかった。なお、検出限界値は0.0019%である。
【0096】
比較のために、めっき槽内に、カチオン交換膜にて陽極室が設けられることなく、めっき槽内の全体がめっき室とされた従来より公知のめっき槽を準備した。また、上記の電気ニッケルめっきに用いられためっき浴と同一のスルファミン酸ニッケルめっき浴を調製して、所定量準備すると共に、上記の電気ニッケルめっき用いられた不溶性陽極と陰極と同じものを、それぞれ準備した。
【0097】
次いで、準備されためっき槽内に、不溶性陽極と陰極とを一緒に収容せしめると共に、スルファミン酸ニッケルめっき浴を、不溶性陽極と陰極のそれぞれの全体が浸漬される量において収容せしめた。その後、上記の電気ニッケルめっきと同一の条件で、連続めっき手法による電気ニッケルめっきを実施して、陰極表面にニッケルめっき層を形成した。このニッケルめっき層の厚さは、60μmであった。
【0098】
そして、電気ニッケルめっきの終了後に、めっき槽内のめっき浴のpH値を測定して、電気ニッケルめっきの開始前の値と比較した。その結果、電気ニッケルめっき開始前のめっき浴のpH値が4.5であったのに対して、電気ニッケルめっき終了後のめっき浴のpH値が、1.5となっていた。このことから、従来の不溶性陽極を用いた電気ニッケルめっきを実施した場合には、かかる電気ニッケルめっきの終了後に、めっき浴のpH値が、著しく低下することが、確認された。
【0099】
また、陰極表面に形成されたニッケルめっき層を、前述の分析試験と同様に、30mmの測定径で波長分散型蛍光X線分析装置(WD−XRF)を用いて分析し、硫黄の共析量を測定した。その結果、0.17%の共析量が確認された。
【0100】
これらの結果から、本発明手法に従って電気ニッケルめっきを実施することによって、初めて、電気ニッケルめっきの終了後のpH低下が防止されると共に、陰極として用いられて、ニッケルめっき層が形成される金属素材の表面への硫黄の共析を効果的に阻止し得ることが、明確に認識され得る。
【0101】
−実施例2−
<発明例1の作製>
先ず、前記実施例1において準備されたものと同一の、めっき槽内に陽極室が設けられためっき槽と、スルファミン酸ニッケルめっき浴の所定量と、クエン酸三ナトリウム溶液の所定量と、不溶性陽極と、金属素材からなる陰極とを、それぞれ準備した。また、それらとは別に、めっき槽内に陽極室が何等設けられていない公知のめっき槽を準備し、更に、ニッケルが30g/L、錫が7.5g/Lの濃度で含まれるニッケル−錫合金めっき浴と、パラジウムが5g/Lの濃度で含まれるパラジウムめっき浴と、金が5g/L、コバルトが0.2g/Lの濃度で含まれる金−コバルト合金めっき浴とを、それぞれ、従来手法により調製して、所定量準備した。
【0102】
次いで、めっき槽内に陽極室が設けられためっき槽とスルファミン酸ニッケルめっき浴とクエン酸三ナトリウム溶液と不溶性陽極と陰極とを用いて、前記実施例1と同様にして、電気ニッケルめっきを実施し、陰極を構成する金属素材の表面の全面に、ニッケルめっき層を3.5μmの厚さで形成した。なお、このとき、不溶性陽極と陰極との間に、2Aの電流を10A/dm2 の電流密度において、1分30秒間流して、電気ニッケルめっきを実施した。そして、そのようにして、表面にニッケルめっき層が形成された金属素材を4個形成した。
【0103】
その後、それら表面にニッケルめっき層が形成された4個の金属素材のうちの1個と、先に準備されためっき槽内に陽極室を有しないめっき槽と金−コバルトめっき浴とを用いて、公知の電気めっきを行うことにより、金属素材のニッケルめっき層に対して、金−コバルトめっき層を、0.3μmの厚さで積層形成した。なお、このとき、陽極と陰極との間に、0.2Aの電流を1A/dm2 の電流密度において、54秒間流して、電気めっきを実施した。これにより、金属素材の表面に、ニッケルめっき層と金−コバルトめっき層とが積層形成されてなるめっき物を作製した。また、その後、このめっき物に対して、公知の封孔処理を行った。そして、かくして作製されためっき物を発明例1とした。
【0104】
<発明例2の作製>
また、表面にニッケルめっき層が形成された、残り3個の金属素材のうちの1個と、先に準備されためっき槽内に陽極室を有しないめっき槽と、ニッケル−錫めっき浴とを用いて、公知の電気めっきを行うことにより、金属素材のニッケルめっき層に対して、ニッケル−錫めっきからなる合金めっき層を0.1μmの厚さで積層形成した。なお、このとき、陽極と陰極との間に、0.12Aの電流を0.5A/dm2 の電流密度において、40秒間流して、電気めっきを実施した。
【0105】
引き続き、かくして得られた、表面にニッケルめっき層と合金めっき層とが積層形成された金属素材と、電気めっき装置と、金−コバルトめっき浴とを用いて、公知の電気めっきを行うことにより、金属素材の合金めっき層に対して、金−コバルトめっき層を0.1μmの厚さで積層形成した。なお、このとき、陽極と陰極との間に、0.2Aの電流を1A/dm2 の電流密度で18秒間流して、電気めっきを実施した。これにより、金属素材の表面に、ニッケルめっき層と合金めっき層と金−コバルトめっき層とが積層形成されてなるめっき物を作製した。そして、かくして作製されためっき物を発明例2とした。なお、この発明例2のめっき物には、封孔処理を何等行わなかった。
【0106】
<発明例3の作製>
さらに、表面にニッケルめっき層が形成された、残り2個の金属素材のうちの1個と、先に準備されためっき槽内に陽極室を有しないめっき槽と、パラジウムめっき浴とを用いて、公知の電気めっきを行うことにより、金属素材のニッケルめっき層に対して、パラジウムからなる貴金属めっき層を0.01μmの厚さで積層形成した。なお、このとき、陽極と陰極との間に、0.08Aの電流を0.4A/dm2 の電流密度において、6秒間流して、電気めっきを実施した。
【0107】
引き続き、かくして得られた、表面にニッケルめっき層と貴金属めっき層とが積層形成された金属素材と、電気めっき装置と、金−コバルトめっき浴とを用いて、公知の電気めっきを行うことにより、金属素材の貴金属めっき層に対して、金−コバルトめっき層を0.1μmの厚さで積層形成した。なお、このとき、陽極と陰極との間に、0.2Aの電流を1A/dm2 の電流密度で18秒間流して、電気めっきを実施した。これにより、金属素材の表面に、ニッケルめっき層と貴金属めっき層と金−コバルトめっき層とが積層形成されてなるめっき物を作製した。そして、かくして作製されためっき物を発明例3とした。なお、この発明例3のめっき物にも、封孔処理を何等行わなかった。
【0108】
<発明例4の作製>
更にまた、表面にニッケルめっき層が形成された、残り1個の金属素材に対して、上記発明例2や発明例3のめっき物を作製する際と同様な電気めっきを行って、かかる金属素材の表面に、ニッケルめっき層と合金めっき層と貴金属めっき層と金−コバルトめっき層とが、順次、積層形成されてなるめっき物を作製した。そして、かくして作製されためっき物を発明例4とした。なお、この発明例4のめっき物にも、封孔処理を何等行わなかった。
【0109】
<比較例1の作製>
一方、比較のために、めっき槽内に陽極室が何等設けられていない公知のめっき槽を準備した。また、600g/Lの濃度のスルファミン酸ニッケルと、10g/Lの濃度の塩化ニッケルと、45g/Lの濃度の硼酸とを含む公知のスルファミン酸ニッケルめっき浴を所定量準備すると共に、上記発明例1〜4のめっき物の作製の際に用いられたときと同じ濃度の金−コバルトめっき浴とニッケル−錫めっき浴とパラジウムめっき浴とを、それぞれ所定量準備した。更に、公知の電気ニッケルめっきの実施に際して一般に用いられる可溶性陽極と、銅製の平板状金属素材からなる陰極とを、それぞれ準備した。
【0110】
そして、準備された電気めっき装置とスルファミン酸ニッケルめっき浴と可溶性陽極と陰極とを用いて、公知の手法に従って電気ニッケルめっきを実施し、陰極を構成する金属素材の表面の全面に、ニッケルめっき層を3.5μmの厚さで形成した。なお、このとき、可溶性陽極と陰極との間に、2Aの電流を10A/dm2 の電流密度において、1分30秒間流して、電気ニッケルめっきを実施した。そして、そのようにして、表面にニッケルめっき層が形成された金属素材を4個形成した。
【0111】
その後、それら表面にニッケルめっき層が形成された4個の金属素材のうちの1個と、先に準備されためっき槽内に陽極室を有しない電気めっき装置と金−コバルトめっき浴とを用いて、公知の電気めっきを行うことにより、金属素材のニッケルめっき層に対して、金−コバルトめっき層を、0.3μmの厚さで積層形成した。なお、このとき、陽極と陰極との間に、0.2Aの電流を1A/dm2 の電流密度において、54秒間流して、電気めっきを実施した。これにより、金属素材の表面に、ニッケルめっき層と金−コバルトめっき層とが積層形成されてなるめっき物を作製した。また、その後、このめっき物に対して、公知の封孔処理を行った。そして、かくして作製されためっき物を比較例1とした。
【0112】
<比較例2の作製>
また、表面にニッケルめっき層が形成された、残り3個の金属素材のうちの1個を用いて、前記せる発明例2のめっき物の作製時と同様な電気めっき操作を実施して、ニッケルめっき層に対して、ニッケル−錫からなる、厚さ0.1μmの合金めっき層と、厚さ0.1μmの金−コバルトめっき層とが積層形成されためっき物を作製した。そして、このめっき物を比較例2とした。なお、この比較例2のめっき物には、封孔処理を何等行わなかった。
【0113】
<比較例3の作製>
さらに、表面にニッケルめっき層が形成された、残り2個の金属素材のうちの1個を用いて、前記せる発明例3のめっき物の作製時と同様な電気めっき操作を実施して、ニッケルめっき層に対して、パラジウムからなる、厚さ0.01μmの合金めっき層と、厚さ0.1μmの金−コバルトめっき層とが積層形成されためっき物を作製した。そして、このめっき物を比較例3とした。なお、この比較例3のめっき物にも、封孔処理を何等行わなかった。
【0114】
<比較例4の作製>
更にまた、表面にニッケルめっき層が形成された、残り1個の金属素材を用いて、前記せる発明例4のめっき物の作製時と同様な電気めっき操作を実施して、ニッケルめっき層に対して、ニッケル−錫からなる、厚さ0.1μmの合金めっき層と、パラジウムからなる、厚さ0.01μmの合金めっき層と、厚さ0.1μmの金−コバルトめっき層とが積層形成されためっき物を作製した。そして、このめっき物を比較例4とした。なお、この比較例4のめっき物にも、封孔処理を何等行わなかった。
【0115】
かくして、発明例1〜4及び比較例1〜4の合計8個のめっき物を作製した後、それら8個のめっき物の全てに対して、260℃で5分間加熱する加熱処理、すなわち、大気リフローを3回行ったときと同じ条件での加熱処理を実施した。
【0116】
その後、かかる8個のめっき物に対する耐食性試験を行った。なお、この耐食性試験としては、10ppmの濃度で亜硫酸:SO2 を含む亜硫酸ガス中に、発明例1〜4及び比較例1〜4のめっき物のそれぞれを、湿度95%、温度40℃の環境下で96時間暴露する亜硫酸試験と、濃硝酸中に鉄片を投入して、亜硝酸:NO2 ガスを発生させ、この亜硝酸ガス中に、発明例1〜4及び比較例1〜4のめっき物のそれぞれを3時間暴露する亜硝酸試験の2種類の試験を行った。そして、それら2種類の耐食性試験を行ったときの各めっき物における金−コバルトめっき層の表面の状態を目視により観察して、各めっき物の耐食性を評価した。その結果を下記表1に示した。なお、かかる表1には、◎:大変良い、○:良い、△:若干良い、×:悪い、××:大変悪いとして、評価結果を示した。
【0117】
【表1】

【0118】
かかる表1の結果からも明らかなように、本発明手法に従って金属素材の表面にニッケルめっき膜が形成された発明例1〜4の4個のめっき物は、何れも、耐食性が、△:若干良い以上の高い評価となっている。特に、発明例2〜4のめっき物は、封孔処理されていないにも拘わらず、耐食性評価が良好な結果となっている。これに対して、従来手法に従って金属素材の表面にニッケルめっき膜が形成された比較例1〜4の4個のめっき物は、耐食性の評価が、一番高い評価のものでも△:若干良いとなっており、殆どが、×:悪い又は××:大変悪いといった極めて低い評価となっている。しかも、発明例のめっき物と比較例のめっき物とにおいて、めっき層の構成が同じものの間では、それら発明例のめっき物と比較例のめっき物の耐食性評価が同一か、或いは前者が後者よりも耐食性の評価が上回る結果となっている。これらのことから、本発明手法によって、優れた耐食性を有するめっき物が製造され得ることが、明確に認識され得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明手法に従ってめっき物を製造する際に用いられるリール・ツー・リール連続めっき装置の一例を示す概略図。
【図2】図1におけるめっき槽の断面説明図。
【符号の説明】
【0120】
10:リール・ツー・リール連続めっき装置、14:帯状金属板、22:めっき槽
24:カチオン交換膜、26:陽極室、28:めっき室、30:不溶性陽極、32:陰極、34:電源装置、36:陽極液、38:めっき浴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属素材の表面に、ニッケルめっき層が形成されると共に、該ニッケルめっき層に対して、金めっき層が積層形成されてなるめっき物を製造する方法であって、
陽極室とめっき室とが、プラスイオンのみを選択的に透過させる隔膜又は隔壁にて内部に画成されためっき槽を用いて、該めっき槽の該陽極室内に、クエン酸三ナトリウム溶液からなる陽極液を収容する一方、該めっき室内に、クエン酸三ナトリウムが添加されたスルファミン酸ニッケル溶液からなるめっき浴を収容し、更に、該陽極室内の該陽極液中に不溶性陽極を浸漬する一方、該めっき室内の該めっき浴中に、前記金属素材からなる陰極を浸漬して、電気めっきを行うことにより、該金属素材の表面に前記ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記金属素材の表面に形成された前記ニッケルめっき層に対して、前記金めっき層を積層形成する工程と、
を含むことを特徴とするめっき物の製造方法。
【請求項2】
前記金属素材として、長尺な帯状素材又は線状素材を用いて、かかる金属素材からなる前記陰極を前記めっき室内のめっき浴中に一部ずつ連続的に浸漬せしめつつ、前記電気めっきを行うことにより、該金属素材の表面の一部ずつに、前記ニッケルめっき層を連続的に形成するようにした請求項1に記載のめっき物の製造方法。
【請求項3】
前記めっき浴中の前記スルファミン酸ニッケルの濃度が450〜650g/Lであり、且つ該めっき浴中の前記クエン酸三ナトリウムの濃度が20〜40g/Lである請求項1又は請求項2に記載のめっき物の製造方法。
【請求項4】
前記陽極液中の前記クエン酸三ナトリウムの濃度が250〜300g/Lである請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載のめっき物の製造方法。
【請求項5】
前記隔膜が、カチオン交換膜である請求項1乃至請求項4のうちの何れか1項に記載のめっき物の製造方法。
【請求項6】
前記金属素材の表面に前記ニッケルめっき層を形成した後、該ニッケルめっき層に対して、ニッケル合金又はコバルト−錫合金からなる合金めっき層を積層形成し、その後、該合金めっき層に対して、前記金めっき層を更に積層形成することにより、該合金めっき層を介して、該金めっき層を該ニッケルめっき層に積層形成するようにした請求項1乃至請求項5のうちの何れか1項に記載のめっき物の製造方法。
【請求項7】
前記金属素材の表面に前記ニッケルめっき層を形成した後、該ニッケルめっき層に対して、金を除く貴金属からなる貴金属めっき層を積層形成し、その後、該貴金属めっき層に対して、前記金めっき層を更に積層形成することにより、該貴金属めっき層を介して、該金めっき層を該ニッケルめっき層に積層形成するようにした請求項1乃至請求項5のうちの何れか1項に記載のめっき物の製造方法。
【請求項8】
前記金属素材の表面に前記ニッケルめっき層を形成した後、該ニッケルめっき層に対して、ニッケル合金又はコバルト−錫合金からなる合金めっき層と、金を除く貴金属からなる貴金属めっき層とを、該合金めっき層を下側にして、順次、積層形成し、その後、該貴金属めっき層に対して、前記金めっき層を更に積層形成することにより、該合金めっき層と該貴金属めっき層とを介して、該金めっき層を該ニッケルめっき層に積層形成するようにした請求項1乃至請求項5のうちの何れか1項に記載のめっき物の製造方法。
【請求項9】
前記金属素材の表面に、前記ニッケルめっき層と前記金めっき層とを積層形成した後、それらニッケルめっき層と金めっき層とが積層形成された前記めっき物に対して、250〜350℃の温度で3〜5分間加熱する加熱処理を行うようにした請求項1乃至請求項8のうちの何れか1項に記載のめっき物の製造方法。
【請求項10】
前記金属素材が、銅又は銅合金を用いて形成されている請求項1乃至請求項9のうちの何れか1項に記載のめっき物の製造方法。
【請求項11】
前記めっき物が、電子部品である請求項1乃至請求項10のうちの何れか1項に記載のめっき物の製造方法。
【請求項12】
金属素材の表面に、ニッケルめっき層を形成する電気めっき方法であって、
陽極室とめっき室とが、プラスイオンのみを選択的に透過させる隔膜又は隔壁にて内部に画成されためっき槽を用いて、該めっき槽の該陽極室内に、クエン酸三ナトリウム溶液からなる陽極液を収容する一方、該めっき室内に、クエン酸三ナトリウムが添加されたスルファミン酸ニッケル溶液からなるめっき浴を収容し、更に、該陽極室内の該陽極液中に不溶性陽極を浸漬する一方、該めっき室内の該めっき浴中に、前記金属素材からなる陰極を浸漬して、該不溶性陽極と該陰極との間に電流を流すことにより、該金属素材の表面に前記ニッケルめっき層を形成することを特徴とする電気めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−173992(P2009−173992A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12951(P2008−12951)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(307047254)旭鍍金株式会社 (3)
【Fターム(参考)】