説明

めっき被覆銅線およびその製造方法

【課題】導体の導電性の低下を極力抑制しつつ、Sn系めっきと導体間の脆性の高い金属間化合物層の成長を従来よりも更に抑制し、高温保持環境においても耐屈曲特性やはんだ付けした場合の接合強度が劣化することのない、めっき被覆銅線を提供する。
【解決手段】銅を主成分とする芯材の外周に銅中に亜鉛が拡散した銅−亜鉛合金層を有し、銅−亜鉛合金層の外周に錫を主成分とするめっき層を備えるめっき被覆銅線であって、銅−亜鉛合金層における平均亜鉛濃度が35mass%以上であり、銅−亜鉛合金層の厚さが0.1μm以上であるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境でも耐屈曲特性が劣化せず、はんだ接続においても接続強度が低下しないめっき被覆銅線およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Cu或いはそれにSnめっきを施した導体に絶縁被覆層を設け、更に立体的な構造へ加工したパワーサプライボード(PSB)、バスバーなどの配線合理化製品がある。また、可動部で用いられ、高い耐屈曲特性が要求される配線部品として、車載用のフレキシブルフラットケーブル(FFC)や高周波同軸ケーブルなどの各種はんだめっき導体がある。これらの用途に用いる導体は、信号や動力を伝播させるため高導電性であることが要求されている。
【0003】
上述の配線部品に用いられる導体は、一般にCu系材料で構成され、これら導体には純Snめっき、若しくは、はんだめっきが施されることが多い。これらSn系表面処理は、導体の防食効果を発揮すると共に、コネクタ接続においては、接触抵抗を低くする効果がある。また、基板などとのはんだ接続の場合には、導体のめっきが溶けることにより、濡れ性を良好とする効果がある。
【0004】
従来は、Sn系表面処理として、Sn−Pb系はんだが良く用いられていたが、Pb規制に伴い、純Sn系、Sn−Ag系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Cu系などのPbフリーはんだめっきが用いられている。従来から、例えば、フラットケーブルに使用されているSn系めっき導体では、導体とSn系めっき層との界面においてCuとSnが反応してCu3Sn(ε相)やCu6Sn5(η相)のCu−Sn系金属間化合物層を形成し、この金属間化合物層が硬く脆い層であるため、Sn系めっき導体の機械的特性(例えば、耐屈曲特性)が低下してしまうことが知られており(例えば、特許文献1)、Sn系めっき導体の製造工程において最終焼鈍条件を調整することにより、金属間化合物層の厚さを制御して、耐屈曲特性を備えたSn系めっき導体が提案されている。
【0005】
一方で、近年広くSn系めっき導体の技術分野では、Sn系めっき導体の製造工程において金属間化合物層の厚さを制御しても、その後のSn系めっき導体の使用環境下において以下のような問題が生ずることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−86024号公報
【特許文献2】特開平1−262092号公報
【特許文献3】特開2008−221333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Sn系めっき導体が、車載用、或いは、HEV(Hybrid Electric Vehicle)やEV(Electric Vehicle)などの高電流配線部材、直接日光下などの高温環境下で使用されると、環境温度がSn系めっきの融点以下でも、Sn系めっき中のSnと導体を構成するCu系材料との間での固相拡散により、導体とSn系めっき層との界面にCu3SnやCu6Sn5のCu−Sn系金属間化合物層が形成される。このとき、保温温度、つまり製品の使用環境温度が高ければ高いほど固相拡散が進み、金属間化合物層は厚く成長する。
【0008】
金属間化合物層は一般的に脆く、Cu3Snの破壊靱性値は1.7(MPa・m1/2)、Cu6Sn5では1.4(MPa・m1/2)と、はんだ材料の破壊靱性値102〜103(MPa・m1/2)と比較すると極端に小さい。従って、はんだと導体の間に金属間化合物層が厚く成長した場合、この金属間化合物層中、若しくは、金属間化合物層とはんだや導体界面での破断が起こりやすく、導体の耐屈曲特性が劣化、或いは、はんだ接続部の信頼性が著しく低下してしまうことが問題であった。そこで、Sn系めっき導体の使用環境下における金属間化合物層の成長を抑える新たな材料或いは構造が求められていた。
【0009】
Cu3Snの成長を抑制させる方法として、特許文献2には、はんだに0.3〜3mass%のZnを添加する、或いは、Cu系合金からなる被接合部材の表面に、Znからなる被覆層を形成し、Sn系合金はんだで接合することが提案されている。Znをはんだに添加することによって、はんだとCu系合金の間にCu−Zn−Sn系金属間化合物層を形成することにより、Cu−Sn系金属間化合物層の成長を抑制できるとしている。
【0010】
また、特許文献3には、はんだボールと基板との間にZnを0.1〜30%含むZn合金からなる結合層を有する構造が提案されている。Znを界面反応に介入させることにより、Cu−Sn系金属間化合物層の成長を抑制できるとしている。
【0011】
特許文献2では、はんだ全体にZnを添加するため、はんだとCu系合金からなる被接合部材の界面反応に介入するZnは添加したZnの一部であり、Cu−Sn系金属間化合物層の成長抑制度合いが小さい。加えて、界面反応に介入しなかったZnの一部は、はんだめっき表面で厚いZn酸化膜をつくるため、その後のはんだ接続される用途においては濡れ性が損なわれる。また、被接合部材の表面に、Znからなる被覆層を形成した場合でも、はんだ付け時においては、溶融はんだ中にZnが瞬時に拡散するため、予めはんだにZnを添加した場合と同様となり、Znを有効に界面反応に介入させることができない。
【0012】
また、特許文献3では、結合層をCu−Zn層などZn合金とすることで、Cu−Sn系金属間化合物層の成長を有効に抑制できるが、Zn合金中のZn濃度が0.1〜30%と低いため、Cu−Sn系金属間化合物層の成長抑制度合いが小さいことが問題である。また、特許文献3のように、導体全体をCu−Zn合金とする構成とする場合、導体の導電性が著しく低下してしまうため、前記配線合理化製品やフレキシブルフラットケーブル、高周波同軸ケーブルに使用される導体として使用することができない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、導体の導電性の低下を極力抑制しつつ、Sn系めっきと導体間の脆性の高い金属間化合物層の成長を従来よりも更に抑制し、高温保持環境においても耐屈曲特性やはんだ付けした場合の接合強度が劣化することのない、めっき被覆銅線およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために創案された本発明は、銅を主成分とする芯材の外周に銅中に亜鉛が拡散した銅−亜鉛合金層を有し、該銅−亜鉛合金層の外周に錫を主成分とするめっき層を備えるめっき被覆銅線であって、前記銅−亜鉛合金層における平均亜鉛濃度が35mass%以上であり、前記銅−亜鉛合金層の厚さが0.1μm以上であるめっき被覆銅線である。
【0015】
前記芯材の断面積をA、前記銅−亜鉛合金層の断面積をBとしたときにB/Aの値が0.5以下であると良い。
【0016】
また、本発明は、銅を主成分とする導体の表面に亜鉛層を形成する亜鉛被覆銅線の形成工程と、該亜鉛被覆銅線を熱処理することにより亜鉛を銅中に拡散させて銅を主成分とする芯材の外周に銅−亜鉛合金層を形成する工程と、該銅−亜鉛合金層の上に錫めっきを施してめっき層を形成する工程とを備えるめっき被覆銅線の製造方法であって、前記銅−亜鉛合金層における平均亜鉛濃度が35mass%以上であり、前記銅−亜鉛合金層の厚さが0.1μm以上であるめっき被覆銅線の製造方法である。
【0017】
前記芯材の断面積をA、前記銅−亜鉛合金層の断面積をBとしたときにB/Aの値が0.5以下であると良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、導体の導電性の低下を極力抑制しつつ、Sn系めっきと導体間の脆性の高い金属間化合物層の成長を従来よりも更に抑制し、高温保持環境においても耐屈曲特性やはんだ付けした場合の接合強度が劣化することのない、めっき被覆銅線およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のめっき被覆銅線の表面近傍の断面写真とライン分析位置を示す図である。
【図2】図1におけるライン分析結果を示す図である。
【図3】本発明のめっき被覆銅線のはんだ/Cu−Zn層界面における150℃、1000hr保持後の金属間化合物層の光学顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図4】従来のめっき被覆銅線のはんだ/Cu界面における150℃、1000hr保持後の金属間化合物層の光学顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図5】本発明および従来のめっき被覆銅線の150℃における金属間化合物層の成長挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0021】
本発明者らが導体とめっき界面に配置する銅−亜鉛合金層(Cu−Zn層)における平均亜鉛濃度(平均Zn濃度)について研究した結果、平均Zn濃度の下限値を35mass%以上、好ましくは、38mass%以上とし、Cu−Zn層の厚さを0.1μm以上に設定することにより、高温環境で使用した場合の界面の金属間化合物層の成長はほとんど見られず、その成長を抑制する効果が高いことを見出した。
【0022】
Cu−Zn層における平均Zn濃度を35mass%以上と規定した理由は、平均Zn濃度を35mass%未満とすると、Znを含有しない場合に比して金属間化合物層の成長をある程度抑制することができるものの、金属間化合物層の厚さが2μm以上に成長するためであり、Cu−Zn層の厚さを0.1μm以上と規定した理由は、Cu−Zn層の厚さが0.1μm未満である場合にも、同様にZnを含有しない場合に比して金属間化合物層の成長をある程度抑制することができるものの、金属間化合物層の厚さが2μm以上に成長するためである。
【0023】
また、本発明は、亜鉛被覆銅線を熱処理することにより、Cuを主成分とする芯材の外周にZnをCu中に拡散させて得られるCu−Zn層を形成した後に、Cu−Zn層の上にめっき層を形成することとしたため、めっき層の中にZn成分が溶融する量を極めて少なくすることができ、めっき層表面のZn酸化膜を原因とするめっき層のはんだ濡れ性の低下を抑制することができる。
【0024】
また、芯材の断面積をA、Cu−Zn層の断面積をBとしたときにB/Aの値が0.5以下であることが望ましい。B/Aの値が0.5を超えると、めっき被覆銅線の導電性を低下させてしまうためである。
【0025】
また、平均Zn濃度の上限値は、98mass%以下であることが望ましい。その理由は、平均Zn濃度が98mass%を超えるCu−Zn層を持つ導体にめっきを施した場合、めっき層中にZnが瞬時に拡散し、拡散したZnがめっき層の表面でZn酸化膜を形成するため、その後のはんだ接続される用途においては濡れ性が損なわれる虞があるためである。
【0026】
また、Cu−Zn層の厚さの上限値は、20μm以下であることが望ましい。その理由は、Cu−Zn層は導電性が低いため、厚さが20μmを超えるとめっき被覆銅線の導電性が著しく低下してしまうためである。例えば、10MHzの電流を流す場合、表皮深さ(電流が流れる導体表面からの深さ)は21μm程度とされており、高周波領域における影響が大きいと考えられるためである。
【0027】
また、芯材の断面積をA、Cu−Zn層の断面積をBとしたときにB/Aの値が0.0005以上であることが望ましい。その理由は、上述の用途を考慮した場合に、B/Aの値が0.0005未満であると金属間化合物層の成長を抑制する効果が小さいためである。
【0028】
このような構成のめっき被覆銅線を製造するに際し、導体とめっき界面に配置するCu−Zn層は、スパッタや電界めっきでCu−Zn層として形成することも可能であるが、Zn単層として形成した後、熱処理によって導体のCuと相互拡散させてCu−Zn層とする方法が、簡便で経済性があり、Zn濃度の調整もしやすいため好ましい。Zn単層の形成には、めっき法の他、スパッタ法、クラッド法などの適用も可能である。
【0029】
以上説明した本発明によれば、導体の導電性の低下を極力抑制しつつ、Sn系めっきと導体間の脆性の高い金属間化合物層の成長を従来よりも更に抑制し、高温保持環境においても耐屈曲特性やはんだ付けした場合の接合強度が劣化することのない、めっき被覆銅線およびその製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0030】
本発明の実施例1〜10、従来例1、2及び比較例1〜6を以下に示す。
【0031】
(実施例1)
φ0.1mmの純Cu(タフピッチ銅;TPC)丸線に電界めっきにより厚さ4μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。得られた亜鉛被覆銅線の断面の表面付近の電子顕微鏡像およびライン分析結果を図1、図2に示す。これら図より平均Zn濃度が45〜65mass%のCu−Zn層が純Cu丸線表面に形成されていることを確認した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0032】
(実施例2)
φ0.1mmの純Cu(無酸素銅;OFC)丸線に電界めっきにより厚さ4μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。このときも同様に、平均Zn濃度が45〜65mass%のCu−Zn層が純Cu丸線表面に形成されていることを確認した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0033】
(実施例3)
φ0.1mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ2μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0034】
(実施例4)
φ0.1mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ5.4μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0035】
(実施例5)
φ0.1mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ0.08μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0036】
(実施例6)
φ0.17mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ0.08μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0037】
(実施例7)
φ0.1mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ4μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0038】
(実施例8)
φ0.1mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ8μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0039】
(実施例9)
φ0.15mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ10μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0040】
(実施例10)
φ0.178mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ17μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0041】
(従来例1)
Cu−Zn層のないφ0.1mmの純Cu(TPC)丸線に、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0042】
(従来例2)
Cu−Zn層のないφ0.1mmの純Cu(TPC)丸線に、溶融めっきにより厚さ20μmの有鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−37mass%Pb)を形成した。
【0043】
(比較例1)
φ0.1mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ4μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの有鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−37mass%Pb)を形成した。
【0044】
(比較例2)
φ0.1mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ1μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0045】
(比較例3)
φ0.1mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ5.7μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0046】
(比較例4)
φ0.1mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ0.04μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0047】
(比較例5)
φ0.1mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ10μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0048】
(比較例6)
φ0.1mmの純Cu(TPC)丸線に電界めっきにより厚さ17μmのZn層を形成した。その後、通電焼鈍熱処理により、Cu及びZnを相互拡散させて、純Cu丸線表面にCu−Zn層を形成した。次いで、溶融めっきにより厚さ20μmの無鉛はんだめっき層(めっき組成:Sn−3.0mass%Ag−0.5mass%Cu)を形成した。
【0049】
これら実施例1〜10、従来例1、2及び比較例1〜6で形成しためっき被覆銅線を、150℃に設定した恒温槽にて1000hrまで種々の時間保持し、導体とめっき界面に形成される金属間化合物層の状態を光学顕微鏡により断面観察し、面積法により厚さを測定した。150℃×1000hr保持後の実施例1と従来例1のめっき/導体界面の拡大断面写真を図3、図4にそれぞれ示す。これら図より、実施例1の金属間化合物層の厚さは、従来例1と比較して大幅に抑制されていることが明らかである。
【0050】
また同様に、150℃環境における実施例1及び従来例1の金属間化合物層の成長挙動(厚さ変化)を数値化し、比較した結果を図5に示す。150℃×1000hr保持後の実施例1の金属間化合物層の厚さは2μm以下であり、従来例1の約7μmの1/3以下にまで抑制できていることが確認できた。
【0051】
芯材、Cu−Zn層の平均Zn濃度、Cu−Zn層の厚さ、はんだの種類をそれぞれ変化させ、150℃×1000hr保持後の金属間化合物層の厚さを比較評価した結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
ここに平均Zn濃度とは、Cu−Zn層の中のZn濃度を厚さで積分してCu−Zn層の厚さで除したものである。例えば、図2の場合、以下のように求めることができる。
図2における平均Zn濃度=(60%×3.5μm+50%×2μm+25%×0.5μm)/6μm=54%
【0054】
先ず、Cu−Zn層の平均Zn濃度に関して、35mass%以上の範囲にある実施例1〜4は、金属間化合物層の成長が遅く、いずれも2μm以下であった。一方、平均Zn濃度が10mass%の比較例2の場合、金属間化合物層成長抑制の効果は認められるものの、金属間化合物層の成長が速く、その厚さは4.5μmであり、2μmを大きく上回っていた。つまり、Cu−Zn層の平均Zn濃度は、35mass%以上が適正であると判断できる。この原因として、本発明者らは、Cu−Zn合金が35mass%ZnまでZnの固溶限を持つことに関連していると考えており、Znの固溶限を超える35mass%Zn以上で金属間化合物層成長抑制の効果が高いとされる。その理由から、平均Zn濃度として、確実に固溶限を超える38mass%以上がより好ましい。また、実施例における熱処理後の最表面におけるZn濃度を測定したところ、35〜100mass%であった。また、いずれの実施例もCu−Zn層は最表面から内部に向かってZn濃度が低くなる拡散層であった。
【0055】
次に、はんだの種類に関して、めっき層と導体間にCu−Zn層を設け、且つ無鉛はんだを使用した実施例1、2は、TPC、OFCなどの導体の種類によらず、150℃×1000hr保持後も金属間化合物層の厚さを2μm以下に抑制できることが分かった。一方、めっき層として有鉛はんだを用いた従来例2と比較例1では、150℃×1000hr保持後の金属間化合物層の厚さがそれぞれ約9.5μm、8μmであり、いずれも実施例と比較して金属間化合物層の成長が大きいことが分かった。つまり、有鉛はんだの場合、Cu−Zn層による金属間化合物層成長抑制の効果が、無鉛はんだの場合よりも小さいことが分かった。
【0056】
次に、150℃×1000hr保持後の実施例1及び従来例1の耐屈曲特性を比較するため、R=15mm、90°左右屈曲試験を行い、導体が破断するまでの屈曲回数を調査した。その結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
本発明の実施例1は、従来例1と比較し、1.5倍以上の耐屈曲特性を有することを確認した。
【0059】
Cu−Zn層の厚さおよびCu−Zn/Cu断面積比を変化させ、150℃×1000hr保持後の試料を評価した結果を表3に示す。なお、実施例、比較例において、Cu−Zn層の厚さ、平均Zn濃度、芯材の断面積をA、Cu−Zn層の断面積をBとしたときのB/Aの値は、Zn層の厚さ及び熱処理条件を変更するなどの公知の方法によって調整している。
【0060】
【表3】

【0061】
導電率については、Cu−Zn層がない試料の導電率を基準とし、1%以上値が低下したものを×とし、それ未満のものを○とした。その結果、導体のサイズに関係なく、Cu−Zn層の厚さが0.1μm以上の実施例5〜10に関しては、金属間化合物層の厚さはいずれも2μm以下であったのに対し、Cu−Zn層が1μm未満の比較例4は、金属間化合物層の成長を抑制する効果が得られなかった。また、Cu−Zn/Cu断面積比が0.5を超える比較例5、6では、金属間化合物層の成長は小さかったが、導電率が低下してしまう結果となった。つまり、金属間化合物層の成長抑制と高い導電率を兼ね備えるためには、Cu−Zn層の厚さが0.1μm以上必要であり、且つ、Cu−Zn/Cu断面積比が0.5以下であるのが好ましい。
【0062】
本発明に関わる実施例1〜10について、Zn層は、はんだめっき処理前に加熱により予めCu−Zn層としているため、はんだめっき処理時にめっき中にZnがほとんど溶け出すことがない。よって、めっき表面に形成される酸化膜は30nm以下と薄く、その後のはんだ接続される用途においては濡れ性が損なわれない。
【0063】
以上、本発明によれば、高温保持におけるめっき/導体界面の金属間化合物層の成長を抑制することができ、導体の耐屈曲特性が劣化せず、はんだ接続部においても長期信頼性を得られることが分かる。この効果により、本発明を適用した製品は、高温環境下での使用が可能となる。
【0064】
実施例の芯材として、TPC、OFCを示したが、本発明はTPC、OFCに限るものでなく、Cu−Zn化合物を形成するあらゆるCu及びCu合金に適用が可能である。上述した導電性の低下に影響を与えない限りにおいて、Cu合金の種類として、例えば、Mg、Zr、Ti、Nb、Ca、V、Ni、Mnのうちから選ばれた1種又は2種以上の100massppm以下の添加元素を含むいわゆる希薄Cu合金であっても良い。
【0065】
めっき層の材質としては、Sn−Ag−Cuめっきに限定されるものではなく、純Sn系、Sn−Ag系、Sn−Cu系などのPbを含まないPbフリーはんだめっきを用いることができる。
【0066】
導体の形状としては、特に限定されるものではなく、平角状のものであっても、断面丸形状のものであっても良い。
【0067】
本実施例においては、めっき層側へのZnの拡散はほとんど無いものと考えられるが、本発明の効果に悪影響を及ぼさない限りにおいてはZnがめっき層側に拡散する態様を排除するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を主成分とする芯材の外周に銅中に亜鉛が拡散した銅−亜鉛合金層を有し、該銅−亜鉛合金層の外周に錫を主成分とするめっき層を備えるめっき被覆銅線であって、
前記銅−亜鉛合金層における平均亜鉛濃度が35mass%以上であり、
前記銅−亜鉛合金層の厚さが0.1μm以上であることを特徴とするめっき被覆銅線。
【請求項2】
前記芯材の断面積をA、前記銅−亜鉛合金層の断面積をBとしたときにB/Aの値が0.5以下であることを特徴とする請求項1に記載のめっき被覆銅線。
【請求項3】
銅を主成分とする導体の表面に亜鉛層を形成する亜鉛被覆銅線の形成工程と、
該亜鉛被覆銅線を熱処理することにより亜鉛を銅中に拡散させて銅を主成分とする芯材の外周に銅−亜鉛合金層を形成する工程と、
該銅−亜鉛合金層の上に錫めっきを施してめっき層を形成する工程とを備えるめっき被覆銅線の製造方法であって、
前記銅−亜鉛合金層における平均亜鉛濃度が35mass%以上であり、
前記銅−亜鉛合金層の厚さが0.1μm以上であることを特徴とするめっき被覆銅線の製造方法。
【請求項4】
前記芯材の断面積をA、前記銅−亜鉛合金層の断面積をBとしたときにB/Aの値が0.5以下であることを特徴とする請求項3に記載のめっき被覆銅線の製造方法。

【図2】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−124025(P2012−124025A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273811(P2010−273811)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】