説明

ろう付け装置

【課題】熱交換器等のワークをろう付けするための装置を小型化し、エネルギー消費量が小さく、ワークをろう付け温度に迅速かつ均一に昇温できるろう付け装置を提供する。
【解決手段】ろう付けチャンバ2内を加熱空間21としてワークWを配置し、ろう付けチャンバ2の上下に複数の近赤外線ヒータを設置して輻射加熱する一方、ろう付けチャンバ2の側面に窒素ガスの熱風を導入する導入口41と排出口42を設けて、加熱空間内に熱風を対流循環させる。輻射加熱と対流加熱を組み合わせて複数の近赤外線ヒータの出力を、温度センサ24の測定値を基に制御部で制御することで、ワークW全体を均一加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の熱交換器等の各種金属製品のろう付けに好適であり、特にワークを個別にろう付けするための小型で熱効率のよいろう付け装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の熱交換器は、アルミニウム製の部品を組み立ててろう材にて接合することにより製造される。ろう付け工程に用いられる従来のろう付け装置としては、複数のワークをコンベアで搬送し連続的にろう付けを行なう大型の連続炉を備えるものが知られている(例えば、特許文献1等)。その装置構成の一例を、図12(a)、(b)に示す。図12(a)において、ろう付け室102の一端側には、予熱室101が通路103を介して接続されており、ろう付け室102の他端側には、徐冷室105と急冷室106からなる冷却室104が配置されて、これら各室の内部に連続する加熱通路107を形成している(図12(b))。予熱室101は一端側に開口部100を有し、加熱通路107を経て、急冷室106の他端側に形成した開口部108に連通している。
【0003】
図12(b)に示すように、加熱通路107には、予熱室101の開口部100からコンベア109上に載置されたワークWが搬入される。予熱室101内は大気雰囲気で、頂面に炉内循環ファンF´が設置されており、コンベア109の上下に配置された熱源H´(ガスまたは電気ヒータ等)により、例えば400℃に制御されて、コンベア109上のワークW´を予備加熱するようになっている。続くろう付け室102は、同様に頂面に炉内循環ファンF´が設置されており、炉内を低酸素状態に維持するために窒素雰囲気とし、例えば600〜700℃となるように熱源Hを制御することで、移送されるワークW´をろう材の溶融点以上に加熱する。冷却室104は、水冷式の徐冷室105と空冷式の急冷室106を備え、ろう付け後のワークW´が冷却されて開口部108から取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−78328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のろう付け装置は、図12(c)に示すように、大きさの異なる熱交換器を処理対象とし、大小のワークW´の処理に一台の炉で対応している。また、連続炉構成として、大小のワークW´をコンベアで搬送しながら同時処理することで、生産能力を確保している。この場合、大小のワークW´を同時処理可能とし、かつワークW´の大きさ等によるバラツキを吸収するには、加熱通路107が十分な大きさを有し、加熱空間の熱容量を大きくして、雰囲気温度を安定させることが重要となる。
【0006】
このため、ろう付け装置が大型化する問題があり、予熱室101から冷却室104へ至る炉長は、例えば数十mになっている。これに伴い、予熱室101やろう付け室102の炉内循環ファンF´、熱源H´といった付帯設備も大掛かりになりやすく、大きな加熱空間でワークW´を多数個同時に処理しているために、エネルギー消費量が大きい。また、連続炉の両端に開口部100、108を有する構成であるため、ろう付け室102の雰囲気を低酸素状態に維持するには、窒素ガスを充填し続ける必要がある。
【0007】
さらに、近年は、中小量生産のニーズも増加しているが、生産能力に合わせた装置の小型化やコストダウンができない。これは、上記装置構成のまま小型化すると、熱容量が小さくなることで雰囲気温度が変動しやすくなるからで、熱処理される複数のワークWまたはワークW各部を均一に加熱し、所定のろう付け温度に制御することは難しい。結果的に、生産量が低下しても大型設備を使用せざるを得ず、エネルギー消費量の削減によるコストダウンが期待されている。
【0008】
そこで、本発明は、熱交換器等のワークをろう付けするための装置を小型化して、エネルギー消費量を低減し、しかもワークをろう付け温度に迅速かつ均一に昇温することができ、生産性を向上できる新規なろう付け装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明請求項1に記載の発明は、ワークの構成部材をろう接するためのろう付け装置であって、
内部を上記ワークに対応する容積の加熱空間とするろう付けチャンバと、
上記加熱空間に収容される上記ワークを、輻射熱で加熱する複数の加熱源を備える輻射加熱手段と、
上記加熱空間に加熱した不活性ガスを流通させて、上記ワークを対流熱で加熱する対流加熱手段と、
上記複数の加熱源の作動および上記不活性ガスの流通を制御する制御手段を備え、
上記輻射加熱手段は、上記ワークの対向する二面をそれぞれ複数の領域に分けて、各領域に対応させて上記複数の加熱源を設置する一方、各加熱源を上記制御手段にて独立に制御可能とし、
上記対流加熱手段は、上記複数の加熱源により生じる上記ワークの温度差を緩和するように、上記不活性ガスを対流循環させることを特徴とする。
【0010】
本発明請求項2に記載の発明では、上記ワークが扁平な形状であり、より受熱面積の大きい面を上記対向する二面として、上記複数の加熱源に対向配置される。
【0011】
本発明請求項3に記載の発明では、上記複数の加熱源を近赤外線ヒータとして、近赤外線透過性材料で構成した上記ろう付けチャンバの対向する二面に近接配置する。
【0012】
本発明請求項4に記載の発明では、上記ろう付けチャンバの他の対向する二面に、上記不活性ガスの導入口および排出口を設ける。
【0013】
本発明請求項5に記載の発明では、上記複数の加熱源を、上記ワークの上記対向する二面にそれぞれ4個以上設置する。
【0014】
本発明請求項6に記載の発明では、上記ワークは、アルミニウム製の熱交換器である。
【0015】
本発明請求項7に記載の発明では、上記制御手段は、上記不活性ガスを上記ワークのろう付け温度近傍の一定温度とし、上記複数の加熱源を、温度検出手段により検出される上記ワークの各領域の温度に基づいてフィードバック制御する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1に記載のろう付け装置によれば、ワーク1個に対応する加熱空間を有するろう付けチャンバを用い、ヒータ等の加熱源による輻射加熱と、加熱した不活性ガスによる対流加熱を組み合わせることで、小型の加熱空間内における均熱性を向上させ、ワーク全体を高速かつ均一にろう付け温度に到達させる。これにより、小型で加熱効率のよいろう付け装置が実現でき、個々のろう付け処理にかかる時間を短縮することができる。また、大掛かりな装置が不要となるので、エネルギー効率が高く安価であり、生産性が向上する。
【0017】
本発明請求項2に記載の発明によれば、上記ワークを、より受熱面積の大きい扁平面を対向する二面として、加熱源により輻射加熱するので、加熱効率が向上し、効果的に昇温することができる。
【0018】
本発明請求項3に記載の発明のように、ろう付けチャンバをワークに対応する大きさとし、対向する二面に、加熱効率に優れる複数の近赤外線ヒータを配置して、光照射することで、ろう付けチャンバ内のワークを効果的に輻射熱で加熱できる。
【0019】
本発明請求項4に記載のように、好ましくは、ろう付けチャンバの他の対向する二面から、不活性ガスを導入および排出することで、加熱源による輻射加熱の方向と直交する方向のガス流れを形成し、輻射熱で加熱されるワークの温度分布を解消する効果が得られる。
【0020】
本発明請求項5に記載の発明のように、好ましくは、複数の加熱源をワークの対向する二面にそれぞれ4個以上設置し、制御部にて個々に温度制御することで、全体を均熱化する効果が高まる。
【0021】
本発明請求項6に記載の発明のように、ワークとしてアルミニウム製の熱交換器が好適に用いられ、本発明を採用する効果が高い。
【0022】
本発明請求項7に記載の発明のように、制御手段は、具体的には不活性ガスをワークのろう付け温度近傍の一定温度として、加熱空間に対流循環させる。そしてワーク各部の温度に応じて複数の加熱源の出力を調整することで、ワーク全体を効果的に均一加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態であり、(a)は、ろう付け装置の主要部構成を示す概略斜視図、(b)は、本装置によりろう付けされる熱交換器の概略構成を示す全体斜視図である。
【図2】(a)は、第1実施形態のろう付け装置の全体構成図、(b)は、第1実施形態のろう付け装置の正面図である。
【図3】(a)、(b)は、本発明のろう付け装置による効果を説明するための図である。
【図4】(a)は、本発明のろう付け装置による対流加熱の効果を説明するための図、(b)は、本発明のろう付け装置に付設される対流加熱装置の構成例を示す概略図である。
【図5】(a)は、本発明の第2実施形態におけるろう付け装置の全体構成図、(b)は、第2実施形態のろう付け装置の正面図である。
【図6】(a)、(b)は、本発明のろう付け装置の制御部において実施される昇温制御方法を説明するための図、(c)は、一般的な昇温制御方法を説明するための図である。
【図7】(a)は、一般的な均熱制御方法を説明するための図、(b)は、本発明のろう付け装置の制御部において実施される均熱制御方法を説明するための図である。
【図8】(a)は、本発明の効果を確認するための試験方法を説明するためのろう付け装置の概略図である。
【図9】(a)、(b)は、本発明の効果を確認するために実施した試験結果を、一般的な制御方法と比較して示す図である。
【図10】(a)は、本発明の第3実施形態におけるろう付け装置の部分構成図、(b)は、熱交換器の部分拡大断面図である。
【図11】本発明の第4実施形態におけるろう付け装置の正面図である。
【図12】(a)、(b)は、従来のろう付け装置の全体斜視図および断面図であり、(c)は、本発明で対象とする熱交換器のサイズを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の第1実施形態について詳細に説明する。本発明のろう付け装置は、金属製のろう接対象物(ワーク)を、個別に加熱してろう付けするための小型の装置であり、本装置を用いたろう付け方法は、例えば車両搭載用の熱交換器といった種々の金属製品のろう接工程に適用することができる。図1(a)は、ろう付け装置1の主要部構成を示しており、図1(b)は、本実施形態においてろう付け対象となるワークWとしての熱交換器の概略構成を示している。熱交換器は、例えばアルミニウム製であり、銅、ステンレスといった他の金属で構成することもできる。図2は、ろう付け装置1の詳細構成例である。
【0025】
図1(a)において、ろう付け装置1は、ワークWを収容するろう付けチャンバ2と、ろう付けチャンバ2の上下に設置され、輻射加熱手段の加熱源となる複数の近赤外線ヒータ3と、ろう付けチャンバ2に対流加熱手段となる加熱した不活性ガスを流通させるための導入路41および排出路42を備えている。制御部5は、これら複数の近赤外線ヒータ3および不活性ガスの流通を制御し、輻射加熱と対流加熱を組み合わせることで、ワークW全体を高速かつ均一にろう付け温度まで昇温するようになっている。この制御の詳細については、後述する。
【0026】
図1(b)において、ワークWである熱交換器は、扁平な直方体形状の熱交換器コアW1とその両端に配置される一対のタンクW2、W3を有している。熱交換器コアW1は、平行配設された扁平管状の多数のチューブ間に熱交換用のフィンを配設し各チューブの両端をタンクW2、W3のヘッダに挿通して接合固定した公知の構造を有し、本実施形態では、以降の説明において、図の上下に位置する面積の広い表面(頂面および底面)を、対向する二面となるコア面W4と呼称する。一対のタンクW2、W3には、図示しない熱交換媒体の導入口または導出口が設けられて、熱交換媒体の流路が接続され、熱交換器コアW1のチューブ内を熱交換媒体が流通可能に構成される。
【0027】
ろう付けチャンバ2は直方体形状で、内部を加熱空間21としてあり、その中央部にワークWが配置される。ここでは、図示するように、ワークWを受熱面積の広いコア面W4が上下に位置するように配置し、底面側のコア面W4を、加熱空間21内を横切って配設した複数の耐熱ガラス製の棒状支持部材22上に支持している。ろう付けチャンバ2は、加熱空間21が処理対象となるワークWを収容可能な容積を有し、かつワークWの全周囲に不活性ガスが対流する適度な空間を有する大きさとなるように、ワークWの形状や大きさに応じて設定することができる。また、ろう付けチャンバ2は、ワークWの上下コア面W4に対向するチャンバ面23(頂面および底面)を対向する二面として、近赤外線透過性材料である石英ガラスにて構成し、その上方および下方に、それぞれ複数の近赤外線ヒータ3を配設している。
【0028】
図1(c)に示すように、近赤外線ヒータ3は、ブロック状のユニットU前面にプロテクトガラスGを備え、ユニットU内に平行配置した複数の棒状ヒータHの背面に反射板Pを配置した公知の構造を有する正方形の平行照射タイプのものである。本実施形態では、この近赤外線ヒータ3を、ろう付けチャンバ2の頂面側に9個(上部近赤外線ヒータ)、底面側に9個(下部近赤外線ヒータ)、それぞれ配置して、加熱空間21に配置されるワークWの上下コア面W4と対向させている。9個の近赤外線ヒータ3は、図の左右および奥行方向にそれぞれ3個ずつ並ぶように配置される。これにより、ワークWの上方のコア面W4を、9個の上部近赤外線ヒータ3に対応する9つの領域に分け、下方のコア面W4を、9個の下部近赤外線ヒータ3に対応する9つの領域に分けて、各領域を独立に加熱できる。
【0029】
この時、加熱空間21には、ワークWの上下コア面W4に設定した複数の温度測定点における温度を検出するために、温度検出手段である温度センサ24(例えば熱電対等)が複数設置される。温度センサ24は、好適には、上部または下部近赤外線ヒータ3に対応する領域毎に設けられ、検出結果が制御部5に出力される。ワークWの上下コア面W4の温度は、面内で温度分布があるために、各領域の温度を基に、近赤外線ヒータ3の出力を調整することで、効率よくワークWを加熱できる。なお、近赤外線ヒータ3は、被加熱物であるアルミニウム製のワークWに輻射熱を伝える場合に、反射率が最も低い(熱吸収が高い)、約0.8μmの光波長(近赤外光)を照射するものであり、加熱効率に優れているので、有効である。
【0030】
ろう付けチャンバ2は、他の対向する二面の一方である図の右側面上部に開口し、熱風導入路から加熱された不活性ガスが導入されるガス導入口41と、他の対向する二面の他方である図の左側面下部に開口し、熱風排出路に接続されるガス排出口42を備えている。不活性ガスとしては、通常、窒素ガスが用いられ、外部の加熱部にてろう付け温度近傍に加熱されて、熱風としてろう付けチャンバ2内に導入される。熱風は、ワークWの上コア面W4に沿って流通する一方、熱交換器コアW1のフィン間隙を通過して下コア面W4側へ流れ、ガス排出口42へ向かう。これにより、加熱空間21の雰囲気を低酸素状態に維持するとともに、熱対流により、ワークWの熱を高温部から低温部へ移送して、全体を均一に加熱することができる。
【0031】
図2(a)、(b)に示すように、より具体的には、ろう付けチャンバ2の頂面および底面に容器形状のカバー体25を固定し、これらカバー体25内に、上部および下部近赤外線ヒータ3を保持する構成とする。また、ろう付けチャンバ2内に、ワークWの上下コア面W4と対向する通気板26を設けて、ガス導入口41が開口する加熱空間21の上部空間と、ガス排出口42が開口する加熱空間21の下部空間を、ワークWの収容空間と区画することもできる。通気板26は、例えば、近赤外線透過性材料である石英ガラス製であり、板面にガス流通用の多数のスリットが設けられて、ガス導入口41から導入される熱風を上下方向の流れとして、ワークWの全面に均一供給することができる。この時、ガス導入口41、ガス排出口42の幅を、図示するように、右側面または左側面の幅に一致させて開口部を大きくすることで、不活性ガスの導入および排出を速やかに行うことができる。
【0032】
次に、図3により、上記構成のろう付け装置1によるワークWの加熱原理について説明する。本実施形態では、図3(a)に示すように、ワークWである熱交換器を、加熱空間21の上下に配置した近赤外線ヒータ3を用いて輻射加熱するとともに、加熱空間21内に窒素ガスの熱風を導入して対流加熱する。ここで、図3(b)に示すように、ワークWである熱交換器は、受熱面積の広いコア面W4が上下面となるように配置されており、上下にそれぞれ9個の近赤外線ヒータ3を配置することで、上下コア面W4を各近赤外線ヒータ3に対応する9つの領域に分けて温度調整することが可能になる。すなわち、各領域の温度を温度センサ24で検出し、検出された温度に基づいて対応する近赤外線ヒータ3の出力を増減することで、領域毎の昇温制御が可能になる。例えば、アルミニウム製品のろう付けでは、ワークWがろう材の溶融温度以上、通常600℃±10℃の所定温度になるように、各近赤外線ヒータ3の目標温度を設定する。
【0033】
ただし、輻射加熱のみの場合は、熱収支による物理的現象上、放熱性がワークWの中央部と周辺部で異なり、図示するように放熱性の小さい中央部で温度が高く放熱性の小さい周辺部(図の左右端部)で低くなるために、温度分布が生じる。また、ワークWのコア面W4の表面部と内部との間にも温度差が生じやすくなる。この温度分布は、複数の近赤外線ヒータ3の出力を調整するだけでは容易に解消されず、ワークWを短時間で所定温度に均一加熱することは難しい。
【0034】
一方、対流加熱のみの場合は、加熱空間21内にガス導入口41からワークWに沿ってガス排出口42へ向かう熱風の流れが形成され、ガス排出口42側に熱が滞留しやすくなるために、ガス排出口42の近傍に位置するワーク端部(図の左端部)において、温度が高くなる。このような温度分布は、窒素ガスの温度や流量を調整することでは解消できず、ガス導入口41やガス排出口42の配置といったろう付けチャンバ2の構造の変更によっても容易ではない。
【0035】
そこで、本発明では、これら輻射加熱と対流加熱を組み合わせたハイブリッド加熱により、ワークW全体を、高速で所定のろう付け温度まで昇温し、かつ均熱化を図る。特に、本実施形態では、アルミニウム製品のワークWに対して、加熱効率の優れた近赤外線ヒータ3による短波長輻射を用いて、受熱面積の広い上下コア面W4を直接加熱し、さらに、窒素ガスの熱風を導入して加熱空間21内に対流を形成する。この時、輻射加熱用の近赤外線ヒータ3をろう付けチャンバ2の上下に配置する一方、対流加熱用のガス導入口41およびガス排出口42をろう付けチャンバ2の対向側面に開口させているので、対流加熱用のガス流れ方向は、全体として水平方向(図の右から左方向)となり、輻射加熱の方向(上下方向)に対して、直交する。これにより、ワークWの高温部から低温部へ熱を移送し、ワークWの水平面内の温度ムラを解消する効果が得られる。
【0036】
また、加熱空間21内に、ワークWの上下に通気板25を配置することにより、熱風の向きをワークWと直交する方向に変え、熱交換器コアW1を通過するガス流れを形成している。これにより、熱交換器の特徴を利用し、熱交換面積の最大方向に熱風を通過させて、均熱化を促進することができる。すなわち、図4(a)に示すように、熱交換器コアW1は、チューブと熱交換用のフィンが交互に積層された構成であり、輻射加熱による熱は、コア面W4となる上下表面から内部へ伝達される。さらに、チューブ間の空間を熱風が通過することにより、表面積の大きいフィンを介して対流加熱による熱交換がなされる。この時、所定のろう付け温度(例えば600℃)に加熱された熱風を送り込むことで、より高温部(例えば630℃)から余分な熱を奪い、より低温部(例えば550℃)へ加熱の補助がなされるので、ワークW全体を均一かつ急速に昇温することが可能になる。
【0037】
図4(b)に、対流加熱手段としての対流加熱装置4の一例を示す。対流加熱装置4は、対流加熱源となる加熱ヒータH1と対流加熱風速源となる循環ファンF1を備える対流加熱室43を備え、ろう付けチャンバ2のガス導入口41およびガス排出口42との間を、それぞれ熱風導入路44および熱風排出路45で接続している。熱風導入路44の途中には、図示しない窒素ガス供給部から対流熱調整用の窒素ガスを導入するための導入管46が接続されている。熱風排出路45の途中には、ろう付けチャンバ2を通過した窒素ガスを一定の酸素濃度に維持するための窒素ガス管47が接続される。また、熱風導入路44および熱風排出路45には大気に連通する開閉弁付の通路48が設けられ、ワークWを空冷する冷却ファンF2が設置してある。
【0038】
このような対流加熱装置4を設けることで、対流加熱室43からろう付けチャンバ2へ、ろう付け温度域の窒素ガスの熱風を、所定風速で安定して供給する循環路を形成することができる。制御部5は、例えば、対流加熱室43に循環された窒素ガスが所定温度より低い場合には、加熱ヒータH1で加熱し、所定温度より高い場合には、常温の窒素ガスを導入管46から供給し、所定温度に保持することができる。また、ろう付け終了後に対流加熱室43への循環路を閉じ、大気への通路48を開放するとともに冷却ファンF2で送風冷却することで、速やかにワークWを空冷することができる。
【0039】
図5(a)、(b)は、本発明の第2実施形態であり、ろう付け装置1の全体構成を示す。本実施形態のろう付け装置1は、上記第1実施形態と同一の基本構成を有しており、ろう付けチャンバ2の頂面および底面に配置される上部および下部近赤外線ヒータ3の個数のみ異なっている。上記第1実施形態では、上部および下部近赤外線ヒータ3をそれぞれ9個とし、対向するワークWの上下面を9つの領域に分けて温度制御可能としたが、ワークWやろう付けチャンバ2の大きさや、近赤外線ヒータ3の加熱能力等に応じて、任意に設定することができる。
【0040】
具体的には、ワークWの長手方向、幅方向にそれぞれ2個以上、少なくとも計4個以上の近赤外線ヒータ3をワークWの上下にそれぞれ配置すれば、対流加熱との組み合わせにより均熱効果が得られる。ワークWが長方形状の熱交換器である場合には、好ましくは、図示するように、長手方向(図の奥行方向)に3個の近赤外線ヒータ3を、幅方向(図の左右方向)に2個の近赤外線ヒータ3を配置し、ワークWの上下にそれぞれ6個の配置とすることで、十分な効果が得られる。
【0041】
次に、図6、7により、本発明のろう付け装置1によるワークWの加熱制御について説明する。上述したように、本発明の制御部5は、ろう付けチャンバ2に所定温度、所定風速で窒素ガスの熱風を導入し、対流循環させながら、ワークWの上下にそれぞれ配置した上部および下部近赤外線ヒータ3の出力を、領域毎に調整して、輻射熱を制御する。ここで図6(c)は、一般的な独立制御方法を示し、ワークWの各領域における昇温特性を予め把握し、複数の段階(例えば3段階)に分けて、予め領域毎に出力値MVを設定し、検出される測定温度PVが所定温度に達したら、次の段階の制御に移行するような制御を行なう。例えば、昇温初期には近赤外線ヒータ3の出力を高くし、段階的に出力を低下させるとともに、放熱性の大きい周辺部ほど出力を高くし、段階的に出力差が小さくなるようにする。この制御では、領域毎に昇温特性が異なるために所定温度に達するまでの均熱時間が長くなり、急速加熱が難しい。
【0042】
そこで好適には、ワークWの昇温制御方法として、図6(a)、(b)に示すグルーピング制御を行なう。例えば、図6(b)に制御アルゴリズムを示すように、ワークWに設定した複数の温度測定点(温測点)において、目標温度SP1と温度センサ24で検出される測定温度PV1、隣り合う温測点における測定温度PV2との温度差より目標温度補正処理を行なって目標温度SP1’を算出する。この目標温度SP1’を基にPID演算を行い、近赤外線ヒータ3の出力値MVを演算することで、均熱性を保持しながら目標温度SPまで昇温させるものである。
【0043】
具体的には、図6(a)中に示すように、ワークWのタンクW2、W3間に並列した3個の近赤外線ヒータ3による輻射加熱を行なった時に、温度センサ24による左端部の測定温度PV1に対して中央部の測定温度PV2が低い場合には、これらの温度差が小さくなるように、左端部の近赤外線ヒータ3の目標温度SPを低下させ、これに伴い出力値MVを低下させる補正を行なう。逆に、測定温度PV1に対して隣り合う領域の測定温度PV2が高い場合には、目標温度SPおよび出力値MVを上昇させることになる。
【0044】
このグルーピング制御を、ワークWの各領域に対応する上部および下部近赤外線ヒータ3の昇温制御に適用し、隣り合う温度差をフィードバックしながら加熱制御する。これにより、任意の温測点における熱干渉度合いを把握し、各到達温度の目標値を補正しながら、複数の近赤外線ヒータ3の出力を相関的に変えていくことが可能となる。
【0045】
さらに、目標温度に到達した後の均熱制御についても、同様にグルーピング制御を採用することで、熱干渉を抑制することができる。図7(a)は、独立制御により近赤外線ヒータ3でワークWの各領域を加熱した場合で、対応する測温点での測定温度PVが目標温度SPとなるように個々に出力MVを制御する。ところが隣り合う領域からの熱伝達が考慮されないために熱干渉が発生し、目標温度に安定して制御することができない。これに対して、図7(b)のグルーピング制御では、隣り合う測温点での測定温度PV1、PV2の温度差を検出し、温度差すなわち熱干渉度合が小さくなるように目標温度SPおよび出力MVをフィードバック補正するので、均熱制御が可能となる。
【0046】
本発明の効果を確認するために、図8に示すろう付け装置1を用いてテストピースの加熱試験を行った。ろう付け装置1は、上記図1の装置とほぼ同一構成で、ユニット状の近赤外線ヒータ3の代わりに、5本の棒状近赤外線ランプヒータH3を、ろう付けチャンバ2の上方に平行配設している。テストピースは、アルミニウム製の扁平な直方体形状(300×250×40)であり、ろう付けチャンバ2内に平行配設した複数の支持部材21上に支持されている。ろう付けチャンバ2には、ガス導入口41および排出口42が設けられて、加熱した窒素ガス(600℃、10m/s)で対流させるようになっている。目標温度を500℃として、近赤外線ランプヒータH3の出力を、上述した独立制御およびグルーピング制御により昇温制御し、図示の温測ポイント(中央部5点、周辺部4点)における温度を測定した結果を、図9に示す。
【0047】
図9(a)に明らかなように、独立制御を採用した場合には、目標温度に到達するまでの昇温時間は140秒と短いものの、温測ポイントの温度差が大きく、テストピースの面内における温度バラツキが大きい。また、目標温度に対してオーバーシュートが見られ、温度バラツキがあるために安定するまでに時間を要する。これに対して、グルーピング制御を採用することにより、目標温度に到達するまでの昇温時間は若干長くなるものの、昇温時の均熱性が向上し、目標温度に対するオーバーシュートおよび温度バラツキが小さくなる。その結果、目標温度に安定するまでの時間を短縮することができ、テストピース全体を均一に加熱できるために、エネルギー効率に優れることがわかる。
【0048】
図10(a)、(b)は、本発明の第3実施形態であり、上述した輻射加熱と対流加熱に加えて、内部加熱方式を組み合わせている。本発明でろう付け対象とするワークWが熱交換器である場合には、上述したように熱交換器コアW1が多数のチューブからなり、内部にタンクに連通する流路を有している。したがって、熱交換器コアW1両端のタンクW2、W3に、対流加熱用の窒素ガスを導入するための管路W5を接続すれば、熱交換器コアW1とタンクW2、W3を内部から加熱することができ、昇温性がさらに向上する。
【0049】
図11は、本発明の第4実施形態であり、ろう付け装置1の全体構成を示す。本実施形態のろう付け装置1は、上記第2実施形態と同一の基本構成を有しており、ろう付けチャンバ2およびワークWを縦置きとした点のみ異なっている。すなわち、上記第2実施形態では、扁平な形状を有するワークWを、受熱面積の広いコア面W4が頂面および底面となり上下に位置するように配置したが、本実施形態では、図の左右位置の対向する二側面がコア面W4となる。したがって、ろう付けチャンバ2は、左右コア面W4に対向するチャンバ面23(左右位置の対向する二側面)を、近赤外線透過性材料である石英ガラスにて構成し、その左方および右方に、それぞれ複数の近赤外線ヒータ3を配設することになる。また、ろう付けチャンバ2は、他の対向する二面として図の底面および頂面に、それぞれガス導入口41とガス排出口42を接続している。
【0050】
このように、ワークWの受熱面積の広いコア面W4を、近赤外線ヒータ3の輻射熱で加熱し、輻射加熱の方向(左右方向)に対して、対流加熱用のガス流れ方向を、全体として上下方向となるようにしてもよい。この場合も輻射加熱の方向と対流加熱の方向が直交することで、ワークWの高温部から低温部へ熱を移送し、ワークWの水平面内の温度ムラを解消する同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、熱交換器に限らず、種々の金属製車載部品その他のろう付けに採用することができ、小型のろう付けチャンバ内で、ろう付け対象物を高速で均一に加熱することができる。
【符号の説明】
【0052】
W ワーク
W1 熱交換器コア
W2、3 タンク
W4 コア面
1 ろう付け装置
2 ろう付けチャンバ
21 加熱空間
22 支持部材
23 チャンバ面
24 温度センサ(温度検出手段)
25 カバー体
26 通気板
3 近赤外線ヒータ
4 対流加熱装置
41 導入口
42 排出口
5 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの構成部材をろう接するためのろう付け装置であって、
内部を上記ワークに対応する容積の加熱空間とするろう付けチャンバと、
上記加熱空間に収容される上記ワークを、輻射熱で加熱する複数の加熱源を備える輻射加熱手段と、
上記加熱空間に加熱した不活性ガスを流通させて、上記ワークを対流熱で加熱する対流加熱手段と、
上記複数の加熱源の作動および上記不活性ガスの流通を制御する制御手段を備え、
上記輻射加熱手段は、上記ワークの対向する二面をそれぞれ複数の領域に分けて、各領域に対応させて上記複数の加熱源を設置する一方、各加熱源を上記制御手段にて独立に制御可能とし、
上記対流加熱手段は、上記複数の加熱源により生じる上記ワークの温度差を緩和するように、上記不活性ガスを対流循環させることを特徴とするろう付け装置。
【請求項2】
上記ワークが扁平な形状であり、より受熱面積の大きい面を上記対向する二面として、上記複数の加熱源に対向配置させる請求項1記載のろう付け装置。
【請求項3】
上記複数の加熱源を近赤外線ヒータとして、近赤外線透過性材料で構成した上記ろう付けチャンバの対向する二面に近接配置する請求項1または2記載のろう付け装置。
【請求項4】
上記ろう付けチャンバの他の対向する二面に、上記不活性ガスの導入口および排出口を設ける請求項3記載のろう付け装置。
【請求項5】
上記複数の加熱源を、上記ワークの上記対向する二面にそれぞれ4個以上設置する請求項1ないし4のいずれか1項に記載のろう付け装置。
【請求項6】
上記ワークは、アルミニウム製の熱交換器である請求項1ないし5のいずれか1項に記載のろう付け装置。
【請求項7】
上記制御手段は、上記不活性ガスを上記ワークのろう付け温度近傍の所定温度とし、上記複数の加熱源を、温度検出手段により検出される上記ワークの各領域の温度に基づいてフィードバック制御する請求項1ないし6のいずれか1項に記載のろう付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−159218(P2012−159218A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17907(P2011−17907)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】