説明

アキシャルギャップ型ブラシレスモータ

【課題】本発明は、従来よりもさらに渦電流損を低減し得るアキシャルギャップ型ブラシレスモータを提供する。
【解決手段】本発明のブラシレスモータ1は、コイル41を備える固定子3A,4Aと、永久磁石23を備える回転子2とが、軸方向に間隔を開けて配置されて成るアキシャルギャップ型のブラシレスモータ1であって、コイル41は、帯状の線材であって、前記帯状の線材の幅方向が回転子2の永久磁石23によって形成される磁束の方向と略一致するように、渦巻き状に巻回されて成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータに関し、特に、コイルを備える固定子と、永久磁石を備え、前記固定子から軸方向に間隔を空けて配置される回転子とを備えるアキシャルギャップ型ブラシレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
前記アキシャルギャップ型のブラシレスモータは、前記固定子が回転子の外周側に設けられるラジアルギャップ型のブラシレスモータに比べて、小径で大きなトルクを得ることができ、自動車用途等に期待されている。
【0003】
このようなアキシャルギャップ型のブラシレスモータは、例えば、特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示のDCブラシレスモータでは、固定子のコイルの線材に帯状体を用い、その線材の幅方向が軸方向と平行となるように、渦巻き状に巻回されて該コイルが形成されている。そして、そのコイルが軸方向に複数段積み上げられ、電源に対して並列に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−87544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、渦電流損やヒステリシス損等の損失の低減が望まれており、上述の従来技術におけるDCブラシレスモータでも充分ではなかった。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、従来よりもさらに損失を低減することができるアキシャルギャップ型ブラシレスモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、コイルを備える固定子と、永久磁石を備え、前記固定子から軸方向に間隔を空けて配置される回転子とを備え、前記コイルは、帯状の線材であって、前記帯状の線材の幅方向が前記回転子の永久磁石によって形成される磁束の方向と略一致するように、渦巻き状に巻回されて成ることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、コイルは、帯状(テープ状、リボン状)の線材であって、前記帯状の線材の幅方向が前記回転子の永久磁石によって形成される磁束の方向と略一致するように、渦巻き状に巻回されて成るので、このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、磁束に直交する面における前記線材の断面積を小さくすることができ、渦電流損を小さくすることができる。
【0009】
そして、好ましくは、前記コイルは、磁気的に等方性を有する磁性体のヨークを備えるものである。この構成によれば、磁束がコイルの電流方向と直交することで、高効率でトルクが発生し、またコイルにおける渦電流も低減できるので、このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、モータの効率を向上することができる。
【0010】
また、好ましくは、周方向に対して、コイル間の間隔は、永久磁石間の間隔と相互に異なり、かつ倍数でない周期に形成されるものである。この構成によれば、例えばコイル電流が、U,V,Wの3相で、巻線が3極の場合には永久磁石が4極、巻線が6極の場合には永久磁石が8極、巻線が9極の場合には永久磁石が12極と言うように、巻線の極数と、永久磁石の極数とが互いに異なる素数に基づく関係(上述の例では、巻線の極数nに対して、永久磁石の極数は、2・2(n/3)の関係)とすることで、コイル間の間隔と、永久磁石間の間隔とを相互に一致することがないようにすることができる。これによって、このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、トルクリップルを抑えることができる。
【0011】
また、他の一態様では、上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記コイルとそれを搭載する固定子側のヨークとの隙間に充填される熱伝導性の部材をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、前記コイルとそれを搭載する固定子側のヨークとの隙間に熱伝導性の部材、例えばシリコングリスやアルミナ等が充填される。したがって、帯状の線材を用い、例えばいわゆるシングルパンケーキ巻き構造を採用することで、巻線の内部で発生した熱は、例えば銅等の線材の良好な熱伝導性によって該コイルの端部まで伝導した後に、さらに前記熱伝導性の部材を介して、ヨークにまで良好な熱伝導性で伝導することができる。このため、このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、コイルの放熱性を向上することができ、これによって、コイル電流を大きくして大きなトルクを得ることができ、或いは同じトルクでは小型化することができる。
【0013】
また、他の一態様では、上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記回転子は、前記永久磁石の少なくとも外周側に、周方向に沿って周期的に配置される複数の磁性体をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、帯状の線材が渦巻き状に巻回されてコイルが形成される場合、そのコイルの径方向に延びる部分の発生する磁界は、永久磁石の軸方向に延びる磁束と作用して、ローレンツ力によって周方向への回転トルクを発生するものの、前記コイルの周方向に延びる部分(特に、軸方向から見てコイルが三角形に巻回されている場合の外周側の部分で顕著なように)の発生する磁界は、永久磁石の磁束と作用しない。しかしながら、回転子において、その部分に周期的に磁性体を配置しておくことで、該磁性体が回転磁界に吸引されて、いわゆるスイッチトリラクタンスモータの原理で、該回転磁界に同期したトルクが発生する。したがって、このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、コイルと永久磁石とのローレンツ力モータでは無駄になっていたコイルの周方向に延びる部分が発生する磁界も有効に利用することができ、トルクを向上することができる。
【0015】
また、他の一態様では、上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記永久磁石は、周方向に複数配列され、前記回転子は、周方向に配列される前記永久磁石間に径方向に延びる導体を備えるとともに、前記回転子の内周側および外周側に、前記各導体の端部間を短絡する短絡リングを備えることを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、前記導体および短絡リングは、ラジアルギャップ型のかご型誘導電動機のかごの部分と同様に機能する。したがって、このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、特に起動時の同期速度に引き入れるまでの大きなスリップの状態で、誘導電動機としてのトルクが加わり、また同期速度に達しても、コイル電流に含まれる高調波電流との間のスリップで同様にトルクを発生し、トルクをアップすることができる。
【0017】
また、他の一態様では、上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記導体および短絡リングは、回転軸に固着され、前記永久磁石が嵌め込まれる枠体から成ることを特徴とする。
【0018】
このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、前記かご型誘導電動機のかごの部分と同様に機能する前記導体および短絡リングを、例えばアルミニウム等の非磁性であって導電性の部材によって形成することによって、前記回転子を構成し、回転軸に固着され、前記永久磁石が嵌め込まれる枠体と兼用することができる。
【0019】
また、他の一態様では、上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記各コイルには、9つの位相でコイル電流が与えられることを特徴とする。
【0020】
このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、9相のコイル電流を使用する場合、3次高調波の回転磁界によって、前記かご型誘導電動機としてのトルクをアップすることができる。
【0021】
また、他の一態様では、上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記固定子は、前記回転子を挟んで一対で設けられることを特徴とする。
【0022】
このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、共通の回転子を挟んで、一対の固定子で該回転子を駆動するので、略2倍のトルクを、2倍より大幅に薄い厚さで実現することができる。
【0023】
また、他の一態様では、上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記コイルが、ラジアル方向に複数配列されていることを特徴とする。
【0024】
このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、トルクを増大することができる。
【0025】
また、他の一態様では、上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記固定子のヨークは、磁気的に等方性を有するものであって、軟磁性粉末を成型して成ることを特徴とする。
【0026】
このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、所望の磁気特性が比較的容易に得られると共に、比較的容易に所望の形状に成形され得る。
【0027】
また、他の一態様では、上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記軟磁性粉末は、電気絶縁層で覆われていることを特徴とする。
【0028】
このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、ヨーク内の電流を低減できるので、該ヨークの渦電流損を低減することができる。
【0029】
また、他の一態様では、これら上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記固定子のヨークは、帯状の軟磁性部材を、該軟磁性部材の幅方向が前記回転子の回転軸方向に沿うように、巻回することによって構成されて成ることを特徴とする。
【0030】
上記構成によれば、大きな固定子のヨークを比較的容易に形成することができるので、このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、大型化によって高トルク化することができる。
【0031】
また、他の一態様では、上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記巻き回された軟磁性部材間には、絶縁層をさらに備えることを特徴とする。
【0032】
上記構成によれば、径方向の電気抵抗が高くなるので、このような構成のアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、渦電流損を低減することができる。
【0033】
また、他の一態様では、これら上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記帯状の線材は、前記軸方向と直交する一方側面に配置された第2軟磁性部材をさらに備えていることを特徴とする。
【0034】
上記構成によれば、軸方向と直交する帯状の線材の一方側面に第2軟磁性部材が配置されているので、コイル部分の透磁率がより高くなり、第2軟磁性部材を備えない場合に分散および散逸していた磁束を当該第2軟磁性部材が捕捉して効果的に回転子の永久磁石に導くことができるので、その回転トルクをより大きくすることができる。
【0035】
また、他の一態様では、上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記コイルは、周方向に沿った直線部分を含み、前記第2軟磁性部材は、前記直線部分に配置されていることを特徴とする。
【0036】
いわゆるレーストラック型のコイルでは、コイルの曲部分は、回転子の永久磁石との相互作用が相対的に弱い一方、その直線部分は、前記相互作用が相対的に強い。このため、上記構成によれば、相互作用の強い直線部分に磁束を導くので、より効果的に回転トルクを増大することができる。
【0037】
また、他の一態様では、これら上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記軸方向と直交する方向における前記第2軟磁性部材の厚さは、当該コイルに給電される交流電力の周波数における表皮厚み以下であることを特徴とする。
【0038】
上記構成によれば、渦電流損の発生を低減することができる。
【0039】
また、他の一態様では、これら上述のアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおいて、前記帯状の線材は、前記第2軟磁性部材が被覆形成されていることを特徴とする。
【0040】
上記構成によれば、第2軟磁性部材が被覆している帯状の線材を巻き回すことによって、軸方向と直交する帯状の線材の一方側面に第2軟磁性部材が配置されているコイルを形成するので、コイルの容積対占積率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータは、磁束に直交する面における前記線材の断面積が小さくなり、渦電流損やヒステリシス損等の損失を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1実施形態にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータの構造を示す斜視図である。
【図2】図1に示すアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおける固定子の構造を示す斜視図である。
【図3】図2に示す固定子におけるヨークの構造を示す斜視図である。
【図4】図2に示す固定子におけるコイルを拡大して示す斜視図である。
【図5】図4の切断面線V−Vから見た断面図である。
【図6】図1に示すアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおける回転子の構造を示す分解斜視図である。
【図7】図1に示すアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおける磁気回路を模式的に示す図である。
【図8】第2実施形態にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータの第1構造例を模式的に示す図である。
【図9】第2実施形態にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータの第2構造例を模式的に示す図である。
【図10】第2実施形態にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータの第3構造例を模式的に示す図である。
【図11】第3実施形態にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータの構造を模式的に示す断面図である。
【図12】図11に示すアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおける固定子の模式的な正面図である。
【図13】第4実施形態にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータの構造を模式的に示す斜視図である。
【図14】第4実施形態にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータの他の構造を模式的に示す斜視図である。
【図15】第4実施形態にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータの他の構造を模式的に示す図である。
【図16】第5実施形態にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータの構造を模式的に示す斜視図である。
【図17】第6実施形態にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータの構造を模式的に示す斜視図である。
【図18】磁歪効果を説明するための図である。
【図19】第7実施形態にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータの構造を模式的に示す斜視図である。
【図20】変形形態におけるコイル部分の構成を説明するための図である。
【図21】変形形態におけるコイル部分の他の構成を説明するための図である。
【図22】アウターロータ型のアキシャルギャップ型ブラシレスモータの構成を示す図である。
【図23】図22に示すアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおける磁気回路を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。
【0044】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかるアキシャルギャップ型ブラシレスモータの構造を示す斜視図である。なお、この図1では、ケーシングの内部について示しているため、ケーシングは、図示しておらず、また出力軸21も、本来、軸方向に延びているが、この図1では短縮して示されている。
【0045】
このブラシレスモータ1Aは、回転子2が、その軸方向に間隔を開けて配置される上下一対の固定子3A,4Aで挟み込まれて構成されるアキシャルギャップ型のブラシレスモータである。回転子2には、前記出力軸21が固着されている。例えば、このブラシレスモータ1Aの径は、30cm程度であり、厚さは、10cm程度であり、前記回転子2と固定子3A,4Aとの間のギャップは、1mm程度である。
【0046】
図2は、図1に示すアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおける、一方の固定子4Aの構造を示す斜視図である。他方の固定子3Aは、固定子4Aと同様に構成されるので、その説明を省略する。固定子4Aは、複数のコイル41と、ヨーク42とを備えて構成される。複数のコイル41は、それぞれ、ヒステリシス損による損失を小さくすることができるように、空芯のコイルであり、ヨーク42に嵌め込まれている。図3は、図2に示す固定子におけるヨーク42の斜視図である。このヨーク42は、中心に前記出力軸21を遊挿するための挿通孔421aを有する円板状の支持板421を備え、この支持板421における回転子2側の表面には、前記複数のコイル41をそれぞれ位置決めするための複数の三角形(略扇状)の薄板状の歯422が、その三角形の頂点を前記挿通孔421a側に向けて周方向に等間隔に隆起して形成されている。前記挿通孔421aの部分は、前記出力軸21を回転自在に支持する軸受けとなっていてもよい。
【0047】
ヨーク42は、所望の磁気特性(比較的高い透磁率)の実現容易性および所望の形状の成形容易性の観点から、磁気的に等方性を有するものであって、例えば軟磁性粉末を、圧力成型、或いは加熱や接着剤等を用いて成型して形成される。この軟磁性粉末は、強磁性の金属粉末であり、より具体的には、例えば純鉄粉、鉄基合金粉末(Fe−Al合金、Fe−Si合金、センダスト、パーマロイ等)およびアモルファス粉末、さらには、表面にリン酸系化成皮膜等の電気絶縁皮膜が形成された鉄粉等が挙げられる。これら軟磁性粉末は、例えば、アトマイズ法等によって製造することができる。また、軟磁性粉末は、例えば上記純鉄粉、鉄基合金粉末およびアモルファス粉末等の金属材料であることが好ましい。そして、公知の常套手段を用いることによって、このような軟磁性粉末を圧粉成形した所定の密度の部材で、ヨーク42が形成される。
【0048】
また、ヨーク42は、磁気的に等方性を有するフェライトであってもよい。このような構成では、上述の軟磁性粉末の場合と同様に、所望の磁気特性が比較的容易に得られると共に、比較的容易に所望の形状に成形され得る。前記軟磁性粉末は、電気絶縁層で覆われていることが好ましく、より具体的には、上述したようにリン酸系化成被膜等の電気絶縁被膜で表面処理されていることが好ましい。なお、前記軟磁性粉末に、絶縁性樹脂コーティング等を施すこともできる。
【0049】
図4は、前記コイル41を拡大して示す斜視図であり、図5は、図4の切断面線V−Vから見た断面図である。ここで、本実施の形態のコイル41は、帯状の線材であって、前記帯状の線材の幅方向が回転子2の永久磁石によって形成される磁束の方向と略一致するように、渦巻き状に巻回されて成る、いわゆるシングルパンケーキ巻きで形成されることである。より具体的には、コイル41は、前記帯状の線材が、その幅方向が軸方向と平行となるように、渦巻き状に巻回されて成る。さらに、本実施の形態では、例えば、帯状の線材が、図示しない巻き枠に巻回され、加熱および冷却や接着等で該コイル41の形に形成され、前記巻き枠から取外された後、前記複数の各ヨーク42に嵌め込まれ、その支持板421との隙間に、シリコングリスやアルミナ等の熱伝導性の部材43が充填される。すなわち、本実施の形態におけるブラシレスモータ1Aは、コイル41とそれを搭載する固定子3A,4A側のヨーク42との隙間に充填される熱伝導性の部材43をさらに備えている。熱伝導性の部材43は、例えばアルミナ等の粉体である場合には所定の媒体に練り込まれて少なくとも初期では流動性を有するものとされる。
【0050】
このような帯状の線材を用いる場合では、導体層と絶縁層とをその厚み方向に積層して、コイル41が形成される。前記線材の導体部材(導体層の部材)は、例えば、銅、アルミ、またはその合金等からなる。前記導体部材は、絶縁性の樹脂等により被覆され、テープ面同士が電気的に接触しないように絶縁が確保される。なお、絶縁シートを挟むことで絶縁性が確保されてもよい。
【0051】
このコイル41を形成する線材の幅は、一例では、30mm程度、厚みは、1mm程度で、アスペクト比は30:1程度である。また、このコイル41の巻き厚は、一例では、10mm以下、すなわちターン数は、10程度である(図4等では、図面の簡略化のために、ターン数を少なく描いている。)。また、前記渦巻き状に巻回されたコイル41の外周側の端部411は、そのまま外部に引出され、後述のように同相の巻線同士並列に接続され、内周側の端部412には、引出し用の線材44が半田付けされ、その引出し用の線材44は、前記歯422の外周から支持板421に形成された溝42aを引回されて外部に引出され、同様に同相の巻線同士並列に接続される。
【0052】
一般に、コイルに流れる交流電流は、導体部材の表皮厚みδまでの範囲しか流れず、断面全体に一様に電流が流れていない。この表皮厚みδは、一般に、コイルに流れる交流電流の周波数(角周波数)をωとし、導体部材の透磁率をμとし、その電気伝導率をσとする場合に、δ=(2/ωμσ)1/2で表わされる。ここで、前記導体部材の厚みを前記表皮厚みδより厚くすると、導体部材において電流が流れない無効な部分が存在し、その導体部材の体積が無駄に増加することになって、コイルの巻線効率が低下してしまう。さらに、磁場がテープ状の導体平面に平行にかかる場合でも、導体部材に流れる渦電流の損失が増加することになる。これに対して、導体部材の厚みを前記表皮厚みδ以下にすると、電流の流れない無駄な導体部材の部分が無くなり、導体部材全体に電流が流れてコイル巻線の効率が向上し、コンパクトにコイルを構成することが可能となる。さらに、磁場がテープ状の導体平面に平行にかかるようにすれば、導体部材に流れる渦電流の損失を大幅に低減できる。したがって、前記コイル41の線材には、前記表皮厚みδ以下の厚みの導体部材が用いられることが好ましい。
【0053】
また、帯状の導体部材の厚みをtとし、幅をWとする場合に、幅Wは、該導体部材に流す電流の大きさによって決まるが、t/W≦1/10の条件を満足することが好ましい。上記一例では、その限界のt/W=1/30である。t/W≦1/10とすると、実効的な導体部材の占積率を向上させることができ、かつ、渦電流損を大幅に低減することが可能である。
【0054】
図6は、回転子2の構造を示す斜視図である。回転子2は、中心に前記出力軸21が固着される枠体22に、複数の永久磁石23および磁性体24,25が取付けられて構成される。これら磁性体24,25は、前記軟磁性粉末を圧粉成形して形成される。一方、前記枠体22は、オーステナイト系ステンレス等の非磁性体から成り、前記出力軸21が固着されるハブ221と、同心の外側リング222と、径方向に延び、それらの間を連結するスポーク223とを備えて構成される。前記スポーク223によって、該枠体22には、軸方向から見て略三角形状(略扇状)で大小の開口224,225が周方向に交互に形成されている。そして、大きい開口224内には、略三角形状の前記永久磁石23が嵌め込まれて、その表裏(上下)に略三角形状の磁性体24が積層されて、それらがボルト締め等で該枠体22に取付けられる。一方、小さい開口225には、略三角形状で表裏(上下)一対の磁性体25が嵌め込まれて、それらがボルト締め等で該枠体22に取付けられる。
【0055】
また、固定子3Aと回転子2との間隔の均一度および固定子4Aと回転子2との間隔の均一度は、コイル41の内部を通る磁束の方向に重大な影響を及ぼす。最外周における固定子3A,4Aと回転子2との間隔L1と、最内周における固定子3A,4Aと回転子2との間隔L2との差(L1−L2)を、その平均値L3で除して得られる値(L1−L2)/L3の絶対値を1/50以下に設定することが好ましい。このように設定することによってコイル41の内部を通る磁束が軸方向に平行でないために生じる渦電流の増大を抑制することができる。
【0056】
次に、本実施形態に係るブラシレスモータ1Aの動作について説明する。本実施形態では、コイル41が12極、永久磁石23が8極設けられ、それぞれの厚み方向に分極する。そして、その12極のコイル41を3つのグループに分割してそれぞれ並列に接続し、3相交流のU,V,W相の電流によるローレンツ力で回転子2に回転トルクが発生し、該回転子2が回転する。
【0057】
この本実施形態のブラシレスモータ1Aでは、等価磁気回路の考察から、パーミアンス(動作点)B/Hは、次の式1−1のようになり、ここで、B=f(H)をB(1−H/H)と直線近似すると、式1−2のようになる。
【0058】
【数1】

【0059】
ここで、μは、比透磁率であり、μは、真空の透磁率であり、Hは、磁束線経路の平均の磁界の強さであり、Bは、磁束線経路の平均磁束密度である。また、図7に示すように、TPMは、ロータ2の厚さであり、Tは、コイル31、41の厚さであり、gは、回転子2と固定子3Aとのアキシャル方向の間隔であり、回転子2と固定子4Aとのアキシャル方向の間隔であり、sは、ロータ2の永久磁石23間のスペースであり、Tは、固定子3A,4Aの厚さ(ヨークの厚さ)であり、WPMは、永久磁石23の幅である。
【0060】
したがって、この式1−2から、トルクを改善するためには、1)Hがより大きく、かつ、μ×H≦Bが、より大きい方が好ましくは、2)gは、可能な限り0に近い方が好ましく、3)T≦TPM≦2Tである方が好ましく、4)(WPM/(4T(T+g))<<μ/μである方が好ましく、5)s≦TPM<<WPMである方が好ましい。
【0061】
そして、上述のように構成されるブラシレスモータ1Aは、コイル41の線材が円柱状の線材では表皮効果で電流の流れが少なくなる部分があるのに対して、上述のように、帯状(テープ状)の線材を用いることで、線材の断面(電流の流路断面)において、内部側(高周波の電流が流れない領域)の面積を減少させて電流密度を向上し、さらに渦電流も少なくすることができ、より大きなトルクを得ることができるとともに、AT(アンペアターン)が小さく、組立て(リサイクル時の分解も)が容易であり、かつ巻線自体の構造が強固になり、断線や磁歪による疲労にも強くすることができる。
【0062】
また、同じ厚みに巻いても、円柱状の線材では、線間に空気が入り込み、熱伝導が悪くなるのに対して、上述のように構成されるブラシレスモータ1Aは、帯状(テープ状)の線材を用い、さらに前記シングルパンケーキ巻き構造を採用することで、図5で示すように、コイル41の内部で発生した熱を、銅等の該線材の良好な熱伝導性によって、参照符号41aで示すように、コイル41の端部まで伝導させた後、さらに前記熱伝導性の部材43を介して、ヨーク42にまで良好な熱伝導性で伝導することができ、コイル41の放熱性を向上することができる。これによって、上述のように構成されるブラシレスモータ1は、コイル電流を大きくして大きなトルクを得ることができ、或いは同じトルクでは小型化することができる。なお、一般に、熱絶縁体の伝導度が1W/mK程度以下であるのに対して、前記熱伝導性の部材43は、100W/mK以上の高熱伝導度を有するものであればよい。
【0063】
さらにまた、上述のように構成されるブラシレスモータ1Aは、共通の回転子2を挟んで、一対の固定子3A,4Aで該回転子2を駆動するので、略2倍のトルクを、2倍より大幅に薄い厚さで実現することができる。また、上述のような構造で、コイル41が発生する電流と永久磁石23の磁界とで回転トルクを得る、いわゆるローレンツ力モータの構造であるので、上述のように構成されるブラシレスモータ1Aは、ヨーク42の材料に比較的透磁率の低い軟磁性粉末を用いることができ、それを圧粉成形して該ヨーク42を作成することで、電磁鋼板を用いる場合に比べて、コストを大幅に下げることができるとともに、任意の形状に形成することができる。
【0064】
また、回転子2において、枠体22および磁性体24,25も、前記軟磁性粉末を成型して形成されることで、該回転子2を組立てた後に、強磁場で永久磁石23および磁性体24を着磁することで、回転子2は、組立てし易くなる。
【0065】
また、上述のように構成されるブラシレスモータ1Aでは、永久磁石23間に、回転子2の表面から裏面へと貫通している磁性体25が設けられ、そして、それらの間にギャップが形成される。これによって、上述のように構成されるブラシレスモータ1Aは、コイル41と永久磁石23との間に生じる磁気的な吸引力および反発力を増大させるリラクタンストルクを得ることができる。ここで、磁性体24間のギャップ間隔および永久磁石23と磁性体25との間のギャップ長は、回転子2と固定子3A,4Aとの間のギャップ長(前記1mm)よりも大きいことが好ましい。これによって、永久磁石23から流出した磁束の内、隣接する永久磁石23あるいは磁性体25等へと流れる磁束が減少し、永久磁石23の法線方向(出力軸21方向)の磁束が増加し、トルクが増加する。
【0066】
次に、別の実施形態について説明する。
【0067】
(第2実施形態)
図8〜図10は、第2実施形態に係るブラシレスモータの構造を示し、コイルとして円筒型コイルを適用した図であり、それぞれ(a)は、固定子4a,4b,4cの模式的な正面図であり、(b)は、回転子2a,2b,2cの模式的な正面図である。これらのブラシレスモータでは、周方向に対して、前記の円筒型のコイルCU1,CV1,CW1;CU21,CV21,CW21,CU22,CV22,CW22;CU31,CV31,CW31,CU32,CV32,CW32,CU33,CV33,CW33(総称するときは、以下参照符号Cで示す)間の間隔は、永久磁石M11〜M14;M21〜M28;M31〜M42(総称するときは、以下参照符号Mで示す)間の間隔と相互に異なり、かつ倍数でない周期に形成される。
【0068】
より具体的には、コイル電流が、U,V,Wの3相であり、例えば、図8で示すように巻線がCU1,CV1,CW1の3極の場合には永久磁石がM11〜M14の4極であり、また例えば、図9で示すように巻線がCU21,CV21,CW21,CU22,CV22,CW22の6極の場合には永久磁石がM21〜M28の8極であり、また例えば、図10で示すように巻線がCU31,CV31,CW31,CU32,CV32,CW32,CU33,CV33,CW33の9極の場合には永久磁石がM31〜M42の12極である、と言うように、巻線の極数と、永久磁石の極数とが互いに異なる素数の関係(上述の例では、巻線の極数nに対して、永久磁石の極数は、2・2(n/3)の関係)とすることによって、コイルC間の間隔と、永久磁石M間の間隔とは、相互に一致することがないようにすることができる。
【0069】
次に、別の実施形態について説明する。
【0070】
(第3実施形態)
図11は、第3実施形態に係るブラシレスモータ1Bの構造を模式的に示す断面図であり、図12は、その固定子14の模式的な正面図である。このブラシレスモータ1Bも、前述のブラシレスモータ1と同様に、回転子12の上下両側を固定子13,14で挟み込み、それらの間にギャップを有するアキシャルギャップ型のブラシレスモータである。ここで、本実施形態のブラシレスモータ1Bでは、コイルが、参照符号131,132;141,142で示すように、ラジアル方向に複数(図11および図12の例では2)配列されている。これに対応して、永久磁石も、参照符号1231,1232で示すように、ラジアル方向に複数(図11および図12の例では2)配列されている。このように構成することによっても、トルクが増大する。また、このように構成することによって、漏れ磁束が低減される。このような構成は、特に、極数が少なく周方向の永久磁石間隔が大きい場合に効果的である。
【0071】
次に、別の実施形態について説明する。
【0072】
(第4実施形態)
図13は、第4実施形態に係るブラシレスモータ1Cの構造を模式的に示す斜視図である。このブラシレスモータ1Cは、前述の図1〜図6で示すブラシレスモータ1Aに類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。図13(a)は、前述の図4と同様に、固定子4A側の構造、特にコイル41の構造を示し、図13(b)は、そのコイル41と本実施形態に係る回転子2eとの関係を示す図である。
【0073】
前述のように、帯状の線材が渦巻き状に巻回されてコイル41が形成される場合、図13(a)で示すように、そのコイル41の径方向に延びる部分413に流れる電流I1によって発生される磁界B1は、永久磁石23の軸方向に延びる磁束と作用して、前記のローレンツ力によって周方向への回転トルクFを発生するものの、前記コイル41の周方向に延びる部分414(特に軸方向から見てコイルが三角形に巻回されている場合の外周側の部分で顕著である)に流れる電流I2によって発生される磁界B2は、永久磁石23の磁束と作用しない。
【0074】
そこで、本実施形態では、図13(b)で示すように、回転子2eにおいて、その部分に、例えば永久磁石23の少なくとも外周側に、周方向に沿って周期的に磁性体26が配置される。これによって、このような構成のブラシレスモータ1Cでは、該磁性体26がコイル41の発生する回転磁界に吸引されて、いわゆるスイッチトリラクタンスモータの原理で、該回転磁界に同期したトルクが発生する。
【0075】
したがって、このような構成のブラシレスモータ1Cでは、コイル41と永久磁石23とのローレンツ力モータでは無駄になっていたコイル41の周方向に延びる部分414によって発生される磁界B2も有効に利用され、このような構成のブラシレスモータ1Cは、トルクを向上、例えば2割程度アップすることができる。
【0076】
図14は、第4実施形態に係るブラシレスモータ1Cの他の構造を模式的に示す斜視図である。図14は、前述の図4と同様に、固定子4A側の構造、特にコイル41の他の構造を示している。そして、このような構成のブラシレスモータ1Cにおいて、さらに高トルク化するために、図14に示すように、固定子4Aには、磁性体26と相互作用する、比較的大きな透磁率を持つ磁性体から成るポールピース46およびポールピース47のうちの両方またはいずれか一方がさらに設けられてもよい。ポールピース46は、各コイル41の芯部内であって磁性体26と相互作用する位置にそれぞれ配置される磁性体から成る柱状体である。図14に示す例では、ポールピース46は、コイル41の芯部内で外よりに配置され、コイル41と同じ高さの円柱体である。ポールピース47は、各コイル41間であって磁性体26と相互作用する位置にそれぞれ配置される磁性体から成る柱状体である。図14に示す例では、ポールピース47は、互いに隣接する2つのコイル41間におけるコイル41の頂部外側に配置され、コイル41と同じ高さの、断面扇形あるいは三角形の柱状体である。このようなポールピース46、47を配置することによって磁束Bがポールピース46、47に集中し、リラクタンストルクを向上することができる。このポールピース46、47は、交流磁束が生じるため、例えばフェライト等の高抵抗であって高透磁率な磁性体材料で形成されることが好ましい。また、このポールピース46、47は、絶縁被覆した純鉄系線材を複数、コイル41の軸方向に沿って束ねて形成されてもよい。
【0077】
図15は、第4実施形態に係るブラシレスモータ1Cのさらに他の構造を模式的に示し、(a)は、固定子4dの模式的な正面図であり、(b)は、回転子2dの模式的な正面図である。これらのブラシレスモータでは、周方向に対して、コイルCU41,CV41,CW41,CU42,CV42,CW42,CU43,CV43,CW43,CU44,CV44,CW44(総称するときは、以下参照符号Cで示す)間の間隔は、永久磁石M51〜M66(総称するときは、以下参照符号Mで示す)間の間隔と相互に異なり、かつ倍数でない周期に形成される。
【0078】
より具体的には、コイル電流が、U,V,Wの3相であり、例えば、図15で示すように巻線がCU41,CV41,CW41,CU42,CV42,CW42,CU43,CV43,CW43,CU44,CV44,CW44の12極の場合には永久磁石がM51〜M66の16極である、と言うように、巻線の極数と、永久磁石の極数とが互いに異なる素数の関係(上述の例では、巻線の極数nに対して、永久磁石の極数は、2・2(n/3)の関係)とすることによって、コイルC間の間隔と、永久磁石M間の間隔とは、相互に一致することがないようにすることができる。
【0079】
次に、別の実施形態について説明する。
【0080】
(第5実施形態)
図16は、第5実施形態に係るブラシレスモータ1Dの構造を模式的に示す図である。このブラシレスモータ1Dも、前述の図1〜図6で示すブラシレスモータ1Aに類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。図16(a)は、ブラシレスモータ1Dを周方向に転回して示す断面図であり、図16(b)は、平面図である。本実施形態では、固定子4A側の構造は、前述のブラシレスモータ1と同様である。
【0081】
ここで、本実施形態では、回転子2fは、周方向に配列される前記永久磁石23間に、径方向に延びる導体27を備えるとともに、該回転子2fの内周側および外周側に、前記各導体27の端部間を短絡する短絡リング28,29を備えている。このように構成することによって、図16(b)で示すように、回転子2fに前記導体27および短絡リング28,29による電流ループを形成すると、コイル41による回転磁界B3によって、前記電流ループに渦電流I3が発生し、本来、その渦電流I3は、損失となるが、回転子2fが前記回転磁界B3の同期速度より低い、すなわち滑りを生じている場合には、前記導体27を流れる渦電流I3と前記回転磁界B3とによって回転トルクF3が発生し、その回転トルクF3を起動時、或いは同期速度の維持に利用することができる。すなわち、本実施形態のブラシレスモータ1Dは、前述のようにアキシャルギャップ型のブラシレスモータであるものの、回転子2fに、前記のような導体27および短絡リング28,29を設けることによって、これら導体27および短絡リング28,29がラジアルギャップ型のかご型誘導電動機のかごの部分と同様に機能することを利用することができる。
【0082】
したがって、特に、起動時の同期速度に引き入れるまでの大きなスリップの状態では、誘導電動機としてのトルクF3が加わり、また同期速度に達しても、コイル電流に含まれる高調波電流との間のスリップで同様にトルクが発生し、このような構成のブラシレスモータ1Dは、トルクをアップすることができる。
【0083】
ここで、前述の図6を参照して、前記永久磁石23および磁性体24,25が取付けられる枠体22は、上述したように、内周側のリング状のハブ221と、同心の外側リング222と、それらの間を連結し、前記永久磁石23間を径方向に延びるスポーク223とを備えて構成される。したがって、この枠体22を非磁性で導電性を有するアルミ等で構成することによって、このような構成のブラシレスモータ1Dは、該枠体22を前記導体27および短絡リング28,29として兼用することができる。
【0084】
また、例えば前述の図10で示す固定子4cを用い、9極の巻線CU31,CV31,CW31,CU32,CV32,CW32,CU33,CV33,CW33のそれぞれには、相互に異なる位相の(40°ずれた)コイル電流を与えることで、標準的な3相の場合に比べて、3次高調波の回転磁界による大きなスリップで、前記かご型誘導電動機としてのトルクをアップすることができる。以下にその理由を詳述する。
【0085】
先ず、コイルによって作られる磁界が正弦波でない場合、高調波成分が存在する。一方、印加電圧を正弦波としても、コイル形状やロータとの位置関係によって磁界は、正弦波とはならない。特に、スイッチングによって各相をON/OFF制御した場合、矩形波となり、この場合奇数次の高調波が発生する。このとき、回転磁界を3相交流で作成し、その基本波V11,V12,V13を、
V11=A・sin(ωt)
V12=A・sin(ωt−1/3・2π)
V13=A・sin(ωt−2/3・2π)
とするとき、3次高調波V31,V32,V33は、
V31=A・sin(3ωt)
V32=A・sin(3ωt−3・1/3・2π)=A・sin(3ωt−2π)
V33=A・sin(3ωt−3・2/3・2π)=A・sin(3ωt−4π)
となる。すなわち、V31=V32=V33となり、回転磁界は、発生しない。
【0086】
したがって、3相交流の場合、高調波が存在すると、それによる損失が大きくなることが理解される。そこで、前述のように回転磁界を9相とすると、隣接相間の位相差は2π/9となり、基本波V11,V12,V13を、
V11=A・sin(ωt)
V12=A・sin(ωt−1/9・2π)=A・sin(ωt−2π/9)
V13=A・sin(ωt−2/9・2π)=A・sin(ωt−4π/9)
とすると、3次高調波V31,V32,V33は、
V31=A・sin(3ωt)
V32
=A・sin(3ωt−3・1/9・2π)=A・sin(3ωt−(1/3)・2π)
V33
=A・sin(3ωt−3・2/9・2π)=A・sin(3ωt−(2/3)・2π)
となり、基本波と同方向で、3倍の速度の回転磁界となることが理解される。したがって、同期回転中であっても、3倍の速度差による大きなすべりが発生し、誘導電流によるトルクが加算されることになる。なお、より高次での高調波で逆回転のトルクが生じる可能性もあるが、主要な高調波成分は、3次程度であるので、問題は、ない。
【0087】
以上のようにして、9相の回転磁界を用いることで、高調波成分もトルクの発生に寄与させることができる。この9相のコイル電流の発生には、制御系が複雑になることも考えられるが、基本の3相の成分を、2種類の移相回路にそれぞれ入力させて、40°ずつ遅延させるようにすればよい。
【0088】
次に、別の実施形態について説明する。
【0089】
(第6実施形態)
図17は、第6実施形態に係るブラシレスモータ1Eの構造を模式的に示す図である。第1ないし第5実施形態におけるブラシレスモータ1A〜1Dでは、回転子3A、4Aのヨーク32、42は、例えば軟磁性粉末を、圧力成型、或いは加熱や接着剤等を用いて成型して形成されたが、第6実施形態におけるブラシレスモータ1Eは、ヨーク32、42に代え、図17に示すように、いわゆるパンケーキ巻き構造のヨーク52、62を用いるものである。
【0090】
より具体的には、このブラシレスモータ1Eは、回転子2が、その出力軸21の軸方向に間隔を開けて配置される上下一対の固定子3B,4Bで挟み込まれて構成されるアキシャルギャップ型のブラシレスモータである。固定子3Bは、複数のコイル31と、ヨーク52とを備えて構成され、同様に、固定子4Bは、複数のコイル41と、ヨーク62とを備えて構成される。これら回転子2およびコイル31、41等は、上述した第1ないし第5実施形態におけるブラシレスモータ1A〜1Dの回転子2およびコイル31、41等と同様であるので、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。
【0091】
本実施形態のヨーク52,62は、それぞれ、図17に示すように、帯状の軟磁性部材を、該軟磁性部材の幅方向が回転子2の出力軸21方向に沿うように、巻回することによって構成されて成る。より具体的には、本実施形態のヨーク52,62は、それぞれ、片面を絶縁被覆522した帯状(テープ状、リボン状)の軟磁性部材521を渦巻き状に巻き回していわゆるシングルパンケーキ巻きで形成される。あるいは、本実施形態のヨーク52,62は、それぞれ、帯状の軟磁性部材521に比較的薄い絶縁シート522を挟み込んで渦巻き状に巻き回していわゆるシングルパンケーキ巻きで形成される。この帯状の軟磁性部材521は、例えば、純鉄系または低シリコン添加の柔軟な磁性体を、帯状に圧延し、その後に、軟磁性とするために、これを焼鈍処理することによって得られる。絶縁被覆521や絶縁シート521には、例えば、ポリイミド樹脂等の樹脂が用いられる。そして、ヨーク52の芯部は、出力軸21のための挿通孔となり、ヨーク52の一方面上には、第1ないし第5実施形態におけるブラシレスモータ1A〜1Dと同様に、複数のコイル31が例えば接着等によって固定される。同様に、ヨーク62の芯部は、出力軸21のための挿通孔となり、ヨーク62の一方面上には、第1ないし第5実施形態におけるブラシレスモータ1A〜1Dと同様に、複数のコイル41が例えば接着等によって固定される。
【0092】
例えば軟磁性粉末を、圧力成型、或いは加熱や接着剤等を用いて成型して形成されたヨークは、一括プレスで製作することができ、低コスト化にメリットがある一方で、プレス設備が大型化してしまうため、大きなヨークには、適していない。一方、本実施形態のヨーク52、62は、帯状の軟磁性部材を巻き回して形成されるため、小径なものは言うに及ばず、大径化した場合でも容易に製作することができ、低コスト化も可能である。このため、本実施形態のブラシレスモータ1Eは、大型化によって高トルク化することができる。
【0093】
そして、本実施形態のブラシレスモータ1Eにおけるヨーク52、62中の渦電流は、図17に一点差線で示す周回方向の円環面内で流れる磁束線Bによって前記面に垂直な方向に生じるが、本実施形態では、絶縁被覆522または絶縁シート522による絶縁層522で、巻き回された磁性体部材521間が絶縁されているので、前記渦電流を効果的に抑制することができる。さらに、渦電流損を低減するために、軟磁性部材の厚みを上述した表皮厚みδ以下とされてもよい。また、圧延と熱処理とを繰り返すことによって帯状の軟磁性部材を製造すると、粒界組織が自ずと圧延方向に伸びて配向し、その配向方向に透磁率が例えばいわゆる電磁鋼板に近似するほど高くなり、このように製造された帯状の軟磁性部材によるヨーク52、62は、このヨーク52、62内の前記磁束線Bとの関係で、より好ましい。
【0094】
そして、本実施形態のブラシレスモータ1Eは、ヨーク52、62に生じる磁歪効果も抑制することができる。図18は、磁歪効果を説明するための図である。図18(A)は、磁場の無い無磁場下の場合を示し、図18(B)は、磁場の有る有磁場下の場合を示す。すなわち、磁場の無い無磁場下における磁性材料では、図18(A)に示すように、電子のスピンによる微小磁石におけるNS極の方向が不揃いな状態(様々な方向を向いたランダムな状態)であるが、磁場が印加された有磁場下における磁性材料では、図18(B)に示すように、前記微小磁石におけるNS極の方向が揃うため、磁性材料全体において、所定の一方向に膨張するとともに所定の他方向で収縮する歪み(磁歪)が生じる。本実施形態のブラシレスモータ1Eでは、磁歪効果によって帯状の軟磁性部材における長手方向に伸縮が生じるが、帯状の軟磁性部材が巻き回されているので、前記伸縮が周方向の巻き弛緩および緊縛として吸収され、前記伸縮が生じても径方向の伸縮は、1/π(πは円周率)〜1/3に縮小されるため、磁歪効果が抑制される。
【0095】
次に、別の実施形態について説明する。
【0096】
(第7実施形態)
図19は、第7実施形態に係るブラシレスモータ1Fの構造を模式的に示す図である。第1ないし第6実施形態におけるブラシレスモータ1A〜1Eは、1個の回転子2を備えて構成されたが、第7実施形態におけるブラシレスモータ1Fは、複数の回転子2を備えて構成され、各回転子2は、回転磁界をそれぞれ生じさせる一対の固定子で挟み込まれる。図19には、第6実施形態にかかるブラシレスモータ1Eの構成で3段に構成したブラシレスモータ1Fが示されている。この図19に示す例では、第7実施形態におけるブラシレスモータ1Fは、3個の回転子2−1〜2−3と、4個の固定子3B、7−1、7−2、4Bとを備えて構成されている。これら回転子2−1〜2−3および固定子3B、4Bは、上述した第6実施形態におけるブラシレスモータ1Eの回転子2−1〜2−3および固定子3B、4Bと同様であるので、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。
【0097】
固定子7(7−1、7−2)は、上下の回転子2に挟まれ、上段の回転子2のために回転磁界を生じさせるとともに、下段の回転子2のために回転磁界を生じさせるものである。このため、固定子7(7−1、7−2)は、ヨーク52、62と同様のヨーク72を備え、その一方面上には、複数のコイル41が第6実施形態と同様に配置され、その他方面には、複数のコイル31が第6実施形態と同様に配置されている。
【0098】
第7実施形態におけるブラシレスモータ1Fは、出力軸21方向に、ヨーク4B、回転子2−3、ヨーク7−2、回転子2−2、ヨーク7−1、回転子2−1およびヨーク3Bを所定のギャップを空けて順次に積層されることによって構成される。
【0099】
なお、第1ないし第5実施形態におけるブラシレスモータ1A〜1Dの構成で多段に構成した場合も上述と同様に構成可能である。
【0100】
ブラシレスモータのトルクは、段数に略比例して増大し、このような構成の第7実施形態におけるブラシレスモータ1Fは、高トルク化が可能となる。また、このような構成では、格段の回転磁界の位相を少しずつずらすことによって、いわゆるコギングトルクが低減される。
【0101】
また、これら第1ないし第7実施形態の複数のコイル31,41、コイルとしての円筒型コイルCおよびコイル131、132、141、142において、帯状の線材は、コイル31、41、円筒型コイルCおよびコイル131、132、141、142の軸方向と直交する一方側面に配置された第2軟磁性部材をさらに備えてもよい。このように構成することによって、軸方向と直交する帯状の線材の一方側面に前記第2軟磁性部材層が配置されるので、複数のコイル31、41、円筒型コイルC、コイル131、132、141、142部分における透磁率がより高くなる。このため、前記第2軟磁性部材層を備えない場合では、磁気的にはコイル部分が固定子と回転子の永久磁石との間の実質的なギャップ(磁気間隙)となってそのため磁束が分散および散逸していたが、このように構成することによって、前記分散および散逸していた磁束を当該第2軟磁性部材層が捕捉し、前記固定子と回転子の永久磁石との間のギャップからコイルと回転子の永久磁石との間にギャップへ短縮し、磁気抵抗を低減し、効果的に回転子の永久磁石に導くことができる。したがって、このような構成の複数のコイル31、41、円筒型コイルC、コイル131、132、141、142を用いることによって、アキシャルギャップ型ブラシレスモータは、その回転トルクをより大きくすることができる。
【0102】
図20は、変形形態におけるコイル部分の構成を説明するための図である。図20には、このような構成の円筒型のコイルCoの例が示されているが、他のコイル31、41、131、132、141、142も同様に図示することが可能である。
【0103】
より具体的には、このような帯状の線材は、例えば、図20に示すように、導体層Cn、第2軟磁性部材層Maおよび絶縁層Inをその厚み方向に積層されて構成される。導体部材Cnの幅(軸方向の長さ)と第2軟磁性体部材Maの幅(軸方向の長さ)とは、同一であってもよく(一致してもよく)、また異なってもよい。好ましくは、第2軟磁性部材Maの一方端部を固定子32、42に当接させるべく、第2軟磁性部材Maの幅は、導体部材Cnの幅よりも長い。これら導体層Cn、第2軟磁性部材層Maおよび絶縁層Inは、例えば、図20に示すように、それぞれ、個別の帯状(テープ状)の部材であってもよく、また例えば、図示しないが、一方の層に他方の層が被着されたものであってもよい。
【0104】
個別の帯状の部材である場合では、コイルCoは、例えば、帯状の長尺な所定材料の導体部材Cnと、軸方向と直交する導体部材Cnの一方側面に配置される、所定材料の第2軟磁性部材Maと、軸方向と直交する導体部材Cnの一方側面に第2軟磁性部材Maを介して配置される、所定材料の絶縁材Inとを備え、これら導体部材Cn、第2軟磁性部材Maおよび絶縁材Inは、順次に積層されるように、共に巻き回されている。すなわち、これら導体部材Cn、第2軟磁性部材Maおよび絶縁材Inは、順次に重ね合わせて束ねられて渦巻き状に共巻きされている。例えば、第2実施形態では、このような導体部材Cn、第2軟磁性部材Maおよび絶縁材Inを順次に積層した部材を、さらに順次に積層して巻き回すことによって、第2実施形態の複数のコイルCにおける変形形態のコイルCoが構成される。他の実施形態におけるコイル31、41、円筒型コイルCおよびコイル131、132、141、142も同様である。より具体的には、例えば、帯状の長尺な銅のテープに、同様な帯状の長尺な鉄のテープおよび同様な帯状の長尺な絶縁材のテープを重ねることによって、第2軟磁性部材Maは、導体部材Cnの一方側面に配置されてよい。
【0105】
また、第2軟磁性部材Maを被着する場合では、例えば、第2軟磁性体部材Maは、導体部材Cnに例えば圧着(熱圧着等)、メッキ(電解メッキ等)および蒸着等によって被覆形成されることによって、導体部材Cnの一方側面に配置されてもよい。例えば、銅のテープと鉄のテーブとを重ね合わせ、加熱しながら荷重を加えることによって、銅と鉄とを圧着したテープが形成される。また例えば、銅のテープに鉄がメッキされる。これら例において、前記銅は、導体部材Cnの一例であり、前記鉄は、第2軟磁性部材Maの一例である。これら一方側面に鉄の層(薄膜)を形成した銅テープでは、銅の導電率が鉄の導電率よりも約一桁程度大きいので、電流は、主に銅部分に流れる。このような構成では、第2軟磁性部材Maが被覆している帯状の線材を巻き回すことによってコイルCoを形成するので、コイルCoの容積対占積率を向上することができる。
【0106】
なお、上述では、第2軟磁性部材Maは、導体部材Cnの一方側面に直接的に配置されたが、絶縁材を介して導体部材Cnの一方側面に間接的に配置されてもよい。
【0107】
第2軟磁性部材Maの厚さ(前記軸方向と直交する方向における第2軟磁性部材Maの厚さ)は、コイルCoに給電される交流電力の周波数における表皮厚みδ以下であることが好ましい。このように構成することによって、渦電流損の発生を低減することができる。
【0108】
このような第2軟磁性部材Maを導体部材Cnの一方側面に配置されたコイルCoでは、等価磁気回路の考察から、パーミアンス(動作点)B/Hは、前記式1−1に代え、次の式2−1のようになり、前記式1−2に代え、式2−2のようになる。
【0109】
【数2】

【0110】
ここで、μは、比透磁率であり、μは、真空の透磁率であり、Bは、磁束線経路の平均磁束密度である。また、TPMは、回転子(ロータ)の厚さであり、gは、回転子とコイルとのアキシャル方向の間隔であり、μは、コイルの透磁率であり、Tは、コイルの厚さであり、μは、固定子(ヨーク)の透磁率であり、Tは、固定子の厚さであり、sは、回転子の永久磁石間のスペースであり、WPMは、永久磁石23の幅である。
【0111】
第1ないし第7実施形態において、その回転トルクをより大きくしようとすると、複数のコイル31、41、円筒型コイルC、コイル131、132、141、142の巻き数(ターン数)を大きくする必要があり、より多くの帯状の線材が必要となるとともに装置が大型化してしまう。しかしながら、この変形形態の前記構成を採用することによって、帯状の線材の増大および装置の大型化を抑制することができる。例えば、銅テープでコイルを形成する場合には、比較的安価な純鉄系材を用いるだけで、その回転トルクを大きくすることができる。そして、複数のコイル31、41、円筒型コイルC、コイル131、132、141、142の部分に、この変形形態では、第2軟磁性部材Maを設けるので、磁束密度の点では、磁束線は、複数のコイル31、41、円筒型コイルC、コイル131、132、141、142の部分にも分散する。このため、磁束密度がより平均化するので、いわゆるコギングトルクを低減することができる。
【0112】
なお、この変形形態において、磁気結合部材をその芯部に備える有芯コイルとする場合には、前記磁気結合部材は、第2軟磁性部材Maを備えるコイル部分の平均透磁率と等価な透磁率であることが好ましい。このような透磁率を持つ磁気結合部材は、例えば、上述の軟磁性粉末で圧粉形成される。このような前記磁気結合部材をその芯部に備えることによって、有芯コイルとする場合でも、磁束線の複数のコイル31、41、円筒型コイルC、コイル131、132、141、142の部分への分散を維持することができる。
【0113】
図21は、変形形態におけるコイル部分の他の構成を説明するための図である。図21(A)は、全体斜視図であり、図21(B)は、直線部分および曲部分での縦断面を示す。
【0114】
また、上述の変形態様において、前記第2軟磁性部材Maは、図21に示すように、いわゆるレーストラック型のコイル31、41の直線部分のみに配置されてもよい。なお、本形態では、コイル31、41は、長円形ではなく、対向する曲部分の曲げの程度が互いに異なる変形レーストラック型となっている。通常、コイルの曲部分は、回転子の永久磁石との相互作用が相対的に弱い一方、その直線部分は、前記相互作用が相対的に強い。このため、このような構成のコイルを備えるアキシャルギャップ型ブラシレスモータでは、相互作用の強い直線部分に磁束を導くので、より効果的に回転トルクを増大することができる。そして、このような構成では、コイルの曲部分における曲げ性もよくすることができる。
【0115】
なお、上述では、アキシャルギャップ型ブラシレスモータは、インナーロータ型であるが、アウターロータ型であってもよい。このようなアウターロータ型は、例えば、インホイールモータに好適に適用することができる。
【0116】
図22は、アウターロータ型のアキシャルギャップ型ブラシレスモータの構成を示す図である。図22(A)は、縦断面を示し、図22(B)は、回転子の構造を示すための横断面を示す。なお、図22(B)は、回転子の半分を示している。図23は、図22に示すアキシャルギャップ型ブラシレスモータにおける磁気回路を模式的に示す図である。
【0117】
より具体的には、例えば、図22および図23に示すように、アウターロータ型のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ1Gは、コイル91を備える固定子9と、永久磁石82、84を備え、前記固定子9から軸方向に間隔を空けて互いに対向するように配置される一対のヨーク81、83を持つ回転子8とを備え、前記コイル91は、帯状の線材であって、前記帯状の線材の幅方向が前記回転子8の永久磁石によって形成される磁束の方向と略一致するように、渦巻き状に巻回されて成る。
【0118】
固定子9は、中心に固定軸92が固着される枠体に、複数のコイル91が取付けられて構成される。前記枠体は、例えば、前記固定軸91が固着されるハブと、径方向に延び、周方向に沿って配置される複数のティースとを備えて構成される。なお、固定子9は、同心の外側リングをさらに備えてもよい。前記複数のコイル91は、各ティース間にそれぞれ嵌め込まれて固定される。そして、固定軸92は、中空の円筒形状であり、複数のコイル91のそれぞれに電力を供給するための複数の配線が円筒内に配置される。回転子8は、周方向に沿って配置される複数の永久磁石82を備える円板形状のヨーク81と、周方向に沿って配置される複数の永久磁石84を備える円板形状のヨーク83とを備えている。これらヨーク81とヨーク83とは、ヨーク81の永久磁石82とヨーク83の永久磁石84との間に、固定子9のコイル91を挟み込むように、配置される。このような配置位置関係を維持するために、回転子8は、ヨーク81およびヨーク83を所定の間隔を空けて配置するべく、ヨーク81とヨーク83との間に、ヨーク81およびヨーク83の外周縁に沿って支持部材85をさらに備えている。そして、回転子8のヨーク81およびヨーク83には、その中央(中心点)に、固定子9の固定軸92を挿通するための挿通孔がそれぞれ開口形成されており、固定子8のヨーク81およびヨーク83は、例えば、ボールベアリング等を介して固定子9の固定軸92に回転自在に支持されている。
【0119】
このような構成のアウターロータ型のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ1Gは、上述したインナーロータ型のブラシレスモータと同様に、構成可能であるが、アウターロータ型であるため、以下の構成も採用することができる。
【0120】
すなわち、第1に、ヨーク81およびヨーク83は、バルクの純鉄であってもよい。第2に、支持部材85は、肉厚の筒状のヨークである必要は必ずしもなく、いわゆる突っ張り棒のような棒状部材(円柱部材)であってもよい。第3に、固定子9は、外縁にティースを極数持ったアルミ合金製歯車構造体を採用してもよい。この場合、ティース間には、有芯のコイル91または鉄共巻きのコイル91が挟み込まれ、固着される。有芯のコイル91におけるコアには、例えば、純鉄系または合金系の圧粉形成体が用いられる。鉄共巻きのコイル91には、例えば、純鉄系棒鋼をテープ状に圧延して絶縁皮膜を付けた帯状の線材が用いられる。そして、コイル91は、例えば、ダブルパンケーキ構造で形成され、リード線は、軸方向に取り出され、固定軸92近傍でパターン結線され、3相3本に束ねられて固定軸92の軸中心の空洞へ導かれる。
【0121】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0122】
1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G ブラシレスモータ
2,12,9 回転子
2a,2b,2c,2e,2f 回転子
21 出力軸
22 枠体
221 ハブ
222 外側リング
223 スポーク
23,82,84 永久磁石
24,25,26 磁性体
27 導体
28,29 短絡リング
3A,4A;13,14,3B,4B,7,8 固定子
41 コイル
42,52,62,72,81,83 ヨーク
421 支持板
422 歯
43 熱伝導性の部材
4a,4b,4c 固定子
1231,1232 永久磁石
131,132;141,142 コイル
CU1,CV1,CW1 コイル
CU21,CV21,CW21,CU22,CV22,CW22 コイル
CU31,CV31,CW31,CU32,CV32,CW32,CU33,CV33,CW33 コイル
M11〜M14;M21〜M28;M31〜M42 永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルを備える固定子と、
永久磁石を備え、前記固定子から軸方向に間隔を空けて配置される回転子とを備え、
前記コイルは、帯状の線材であって、前記帯状の線材の幅方向が前記回転子の永久磁石によって形成される磁束の方向と略一致するように、渦巻き状に巻回されて成ること
を特徴とするアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項2】
前記コイルとそれを搭載する固定子側のヨークとの隙間に充填される熱伝導性の部材をさらに備えること
を特徴とする請求項1に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項3】
前記回転子は、前記永久磁石の少なくとも外周側に、周方向に沿って周期的に配置される複数の磁性体をさらに備えること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項4】
前記永久磁石は、周方向に複数配列され、
前記回転子は、周方向に配列される前記永久磁石間に径方向に延びる導体を備えるとともに、前記回転子の内周側および外周側に、前記各導体の端部間を短絡する短絡リングを備えること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項5】
前記導体および短絡リングは、回転軸に固着され、前記永久磁石が嵌め込まれる枠体から成ること
を特徴とする請求項4に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項6】
前記各コイルには、9つの位相でコイル電流が与えられること
を特徴とする請求項4または請求項5に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項7】
前記固定子は、前記回転子を挟んで一対で設けられること
を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項8】
前記コイルが、ラジアル方向に複数配列されていること
を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項9】
前記固定子のヨークは、磁気的に等方性を有するものであって、軟磁性粉末を成型して成ること
を特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項10】
前記軟磁性粉末は、電気絶縁層で覆われていること
を特徴とする請求項9に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項11】
前記固定子のヨークは、帯状の軟磁性部材を、該軟磁性部材の幅方向が前記回転子の回転軸方向に沿うように、巻回することによって構成されて成ること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項12】
前記巻き回された軟磁性部材間には、絶縁層をさらに備えること
を特徴とする請求項11に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項13】
前記帯状の線材は、前記軸方向と直交する一方側面に配置された第2軟磁性部材をさらに備えていること
を特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項14】
前記コイルは、周方向に沿った直線部分を含み、
前記第2軟磁性部材は、前記直線部分に配置されていること
を特徴とする請求項13に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項15】
前記軸方向と直交する方向における前記第2軟磁性部材の厚さは、当該コイルに給電される交流電力の周波数における表皮厚み以下であること
を特徴とする請求項13または請求項14に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。
【請求項16】
前記帯状の線材は、前記第2軟磁性部材が被覆形成されていること
を特徴とする請求項13ないし請求項15のいずれか1項に記載のアキシャルギャップ型ブラシレスモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−50312(P2012−50312A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246560(P2010−246560)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】