説明

アクチュエータ装置およびこれを用いるロボット装置

【課題】定常的に大きな負荷が作用した場合にも効率を損なわず、柔軟な動作と周囲に対する安全を確保できるアクチュエータ装置を提供する。
【解決手段】ロボット装置やパワーアシスト装置の関節駆動に用いられるアクチュエータ機構において、選択的に駆動制御されるモータ11と、バネ要素20と、モータ駆動によりバネ要素の発生力および/またはその向きを変化させる変更機構と、バネ要素に接続された出力端22とを設けて構成する。一実施例の変更機構は、モータ駆動によって傾斜量が変化する傾斜レール16を具えるとともに、バネ要素は傾斜レールの傾斜方向へその角度に応じた力を発生し、これにより出力端が前記傾斜レールの角度に応じた力でその傾斜方向に付勢される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクチュエータ装置およびこれを用いるロボット装置に関し、特に、パワーアシスト装置の関節駆動や、人間型や動物型のロボット装置に用いることができる出力可変型アクチュエータ装置およびこれを用いるロボット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば人間型ロボットの関節駆動において、電気モータと歯車などによる減速装置とを組み合わせた回転型のアクチュエータや、油圧装置等が使用されている。このなかでも、小型化や制御が容易なDCモータ等の電気モータと減速器の組合せが広く用いられている。
【0003】
このような人間型や動物型のロボットの関節は、立位の維持や重量物を持ち上げて保持するために、大きな力を持続的に発生する状態が考えられる。また、力を出すだけではなく、外界の状況に応じて力を加減し、時には力を抜いて外力を受け流すといった柔軟な対応も重要である。例えばドアを開ける動作を考えると、力を入れてドアを引いた後は、ドアの開く軌道に逆らわずに腕を動かさねばならない。また、人間や動物は、筋肉と腱の緊張度を調整することで筋肉と腱をバネのようにして、跳躍など反動を利用した効率のよい動作が可能であるが、これをロボット装置で実現するのは困難であった。ロボットの動作をより人間や動物に近づけるには、連続的に大きな力を発生可能で、素早く動作し、関節剛性を適宜調整可能で、柔軟な動作や外力に逆らわない力を抜いた弛緩状態を再現できるようにするとともに、跳躍等の反動を利用した動作もできることが望ましい。
【0004】
さらに、人間が装着するスーツ型あるいは外部からその力を増強するいわゆるパワーアシスト装置は、例えば介護用途で被介護者を抱える場合などに持続的な力の発生が必要であり、一方で介護者や被介護者の安全のために柔軟な動作が要求される。また、力の発生が必要でない関節は、使用者の動きを妨げないことが望ましい。さらにスーツ型の装置では、万が一電力が消失したり制御系が暴走した場合でも、スーツに拘束されて動けなくなるのではなくスーツの力に逆らって動けるようにすること、あるいは動力が停止しても急激に力がなくなり被介護者を落下してしまうことがないような安全対策が要求される。加えて、その使用環境から動作の際には十分な静粛性が必要である。
【0005】
関節に柔軟性を持たせる従来技術として、付勢力の向きとアームとの成す角度に応じて、付勢力の大きさが変化して回転軸の剛性が非線形に変化する関節機構が提案されている(例えば、特許文献1)。また、固定支柱をスライドするように駆動されるスライド支持点(A)と、回動自在の回転支柱をスライドするように駆動されるスライド支持点(B)との間にバネを装着し、各支柱上のそれぞれの支持点の位置を制御することによって、てこの原理により回転支柱の回転剛性を可変にすることが開示されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−34774号公報
【特許文献2】特開2007−136601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の油空圧システムでは、持続的に大きな力を発生することは容易であるが、高圧を保つためのポンプ装置の騒音振動が大きい問題がある。また、従来の電気モータと減速器の組合せでは、例えばロボットが荷物を持ち上げたまま維持する動作のような定常的に関節に負荷がかかる動作では、電気モータが停動状態になり効率が悪いという問題がある。すなわち、電気モータは同じ電圧を印加したしたとき回転が停止している停動状態で最大の電流が流れ、電気モータに投入した電力はすべてコイルで熱として消費されるため、非常に効率が悪くなるとともに、電流が大きい場合にこの状態が続くと電気モータの電磁コイルが焼損するおそれがある。この場合に高減速比の減速器を用いて電気モータの負担を減らすことが考えられるが、停動状態では投入電力がすべてコイルで熱として消費されることに変わりはなく、さらに関節の動作速度が遅くなるという不都合が生じる。
【0008】
また、アクチュエータ装置では、何らかの姿勢を保つために位置制御がおこなわれるが、従来の位置制御では、ある関節角に関節を固定することが主眼となるため、力を抜くことや外力に柔軟に対応する動作がうまくできないという問題がある。従来の装置で力を抜いたり外力に柔軟に対応する動作を行うには、力センサなどを用いて外力を計測し、その外力に対して擬似的に関節が柔軟性を持つようにコンプライアンス制御を行う方法や、柔軟性を持たせるためのバネ要素などの機構を付加して関節とは別個にこれを制御する方法が考えられるが、外力を測定して即座に対処するコンプライアンス制御による方法では、制御系と機構が外力に対して応答できなければ柔軟性が損なわれる問題があり、バネ要素などの機構を付加する方法では、装置と制御系が煩雑になる問題がある。
【0009】
さらに、例えば人間型ロボットが跳躍等の動作を行う場合、従来の電気モータと減速器の組合せでは大出力の電気モータが必要となり、装置の大型化やエネルギ消費の増大を招き効率が悪い。他方、単純にバネを動作方向に直列要素として配置した装置、例えば足先等にバネを付ける装置では、跳躍運動時以外ではバネ要素が不安定な動きを生む問題がある。これに対してバネの効果を調整できるようにする場合、関節駆動装置のほかに何らかの制御装置を追加することとなりシステムの複雑化を招く。
【0010】
装着型のパワーアシスト装置において、電気モータ式、油空圧の場合も制御系が暴走した場合は、最大の力で動作限界まで移動して、装着者が身動きできなくなる恐れがある。また、電源が停止した場合は発生力が急激に抜けて、例えば抱えている患者を落としたりする恐れもあり危険である。ねじ送り機構やウォーム歯車を利用したものであればその時の関節角が保持されるが、その代わり電力が消失した場合に装着者が身動きすることができなくなってしまう。
【0011】
本発明は上記のような問題に鑑み、定常的に大きな負荷が作用した場合にも効率を損なわず、弛緩あるいはそれに近い状態まで含めた柔軟な動作と、跳躍などの反動を利用した動作とを可能とし、さらに不意に生じる制御系の暴走や停止といった事故に対しても周囲に対する安全を確保できるアクチュエータ装置およびこれを用いるロボット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく本発明の一態様にかかるアクチュエータ装置は、ロボット装置やパワーアシスト装置の関節駆動に用いられるアクチュエータ機構であって、選択的に駆動制御されるモータと、バネ要素と、前記モータの駆動により前記バネ要素の発生力および/またはその向きを変化させる変更機構と、前記バネ要素に接続された出力端と、を具えることを特徴とする。
【0013】
実施例において、前記変更機構は前記モータにより回転駆動されるねじシャフトやウォーム歯車機構によって動作し、前記モータが停止してもその状態が保持され、したがって前記バネ要素の発生力が保たれることが有効である。
【0014】
一実施例では、前記変更機構が、前記モータの駆動によって傾斜量が変化する傾斜レールを具えるとともに、前記バネ要素は前記傾斜レールの傾斜方向へその角度に応じた力を発生し、これにより前記出力端が前記傾斜レールの角度に応じた力でその傾斜方向に付勢される。
【0015】
別の実施例では、前記出力端は一方の端部が軸支された回転アームであり、前記変更機構が前記バネ要素を前記モータによって駆動される移動支点と前記回転アームの任意の位置との間に接続する。
【0016】
このアクチュエータ機構において、前記回転アームと前記バネ要素を軸対称に2組具えることが有効である。
【0017】
さらに別の実施例では、前記出力端は一方の端部が軸支された回転アームであり、前記制御機構が前記モータにより前記回転アームと平行に回転駆動されるモーメントアームを具え、前記バネ要素が前記モーメントアームと前記回転アームの任意の位置との間に接続される。
【0018】
さらに別の実施例では、前記変更機構が、一端を前記出力端に、中間部をフレーム構造に、他端を前記バネ要素に接続された伸縮リンク機構と、前記伸縮リンク機構を構成するリンクの角度を倒すことで前記出力端の伸縮量に対する前記バネ要素の伸縮比を変更する比率変換機構とを具え、前記比率変換機構が前記モータにより駆動される。
【0019】
さらに本発明は、上記いずれかのアクチュエータ装置を関節駆動に適用したことを特徴とするロボット装置に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のアクチュエータ装置によれば、出力端の伸縮や回転量に対するバネ要素の伸縮量や出力方向を電気モータにより機械的に調整し、見かけ上のバネ係数を変化させて、これに応じた発生力を得ることができる。モータを駆動し続けるとバネ係数が能動的に変化するアクチュエータとして動作し、電力が消失してもその時点での発生力が保持されるようにしたため、例えばロボット装置が荷物を取り落とす等の不都合が生じることがない。また、バネ要素を用いるため、発生力を超える外力が加わった場合にはそれに順応して外力を受け流し、外力が消失すると元の状態に戻って、より人間の所作に近い動作を実現することができる。さらに、発生トルクを変更する場合にのみモータを駆動し、その他の場合にモータを停止させておくことができるため、消費電力が少なく、騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかるアクチュエータ装置の第1実施例の構成を示す図である。
【図2】本発明にかかるアクチュエータ装置の第2実施例の構成を示す図である。
【図3】本発明にかかるアクチュエータ装置の第3実施例の構成を示す図である。
【図4】本発明にかかるアクチュエータ装置の第4実施例の構成を示す図である。
【図5】本発明にかかるアクチュエータ装置の第5実施例の構成を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明にかかるアクチュエータ装置の第1実施例を示す図である。図1aに示すように、本実施例のアクチュエータ装置において、ねじシャフト12はモータ11と直接あるいは間接的に接続され、支持板13a、13bに回転可能に支持されている。直動軸14は中心部に雌ねじが切ってあり、雄ねじが切られたねじシャフト12の軸回転運動によって直動運動を行う。支持アーム15は直動軸14に対して回動可能に連結されている。対の傾斜レール16はともに、一方の端部で支持板13aに固定されたレール保持板17に接続され、他方の端部近傍で支持アーム15に接続されており、レール保持板17側の軸を中心として回転する。したがって、モータ11を駆動すると直動軸14が直線移動し、傾斜レール16がほぼ平行な状態から図面左側が拡がった状態との間で変化する。
【0024】
対の回転移動軸19a、19bが傾斜レール16a、16bを挟んでスリットガイド18にスライド可能に保持されており、これらはバネ要素20によって互いに近づく方向に付勢されている。図1bの部分平面図に示すように、スリットガイド18およびバネ要素20は、直動軸14(および傾斜レール16)を挟んで対称に設けられている。バネ要素20で付勢されているため回転移動軸19は常に傾斜レール16に接触するが、この接触部分の軸19にホイール等を設けて摩擦を軽減してもよい。スリットガイド18はロッド21を介して出力端22と接続されており、スリットガイド18とロッド21、出力端22は一緒に直動運動する。
【0025】
このように構成されたアクチュエータ装置は、モータ11によりねじシャフト12が回転すると、直動軸14が直動し、直動軸14の移動位置に伴い支持アーム15に支持された傾斜レール16の傾斜角度が変化する。バネ要素20により回転移動軸19a、19bは引っ張り方向に張力を発生しているため、例えば図1aに示すように傾斜レール16が傾斜している場合、スリットガイド18および出力端22が右側に移動しようとする力が発生する。この力は傾斜レール16の角度に比例して大きくなる。この作用により、この装置は出力端22を左へ引っ張るアクチュエータとして利用することができる。モータ11を駆動しつづければ発生力が増大し、モータ11を逆回転させれば発生力が低減し、モータ11を停めればその時点の発生力が維持される。これにより、例えばモータを止めた状態でロボットが重い荷物を持ち続けるといった作業を実現することができる。
【0026】
また、アクチュエータ装置が力を発生している状態で、その発生力を超える外力を加えて出力端22を左方向へ引っ張ると、ロッド21を介してスリットガイド18も左に引かれ、傾斜レール16の傾斜に沿ってスリットにはまった回転移動軸19が互いに離れる方向へ移動し、バネ要素20はこれに抵抗する張力を発生する。この張力は出力端22の移動量に伴い直線的に増大する。これにより、外力が加わった場合にこれを受け流す作用あるいは外力に抵抗する張力を得ることができる。
【0027】
さらに、傾斜レール16が互いに平行である場合、スリットガイド18が左右に移動しても回転移動軸19aと19bの上下距離は変化しない。したがって、バネ要素20は張力を発することはなく、出力端22をほとんど抵抗なく自由に動かすことができる。このように、傾斜レール16の傾斜角を変化させることで、出力端22の水平移動量に対するバネ要素20の伸長量の比率を変化させることができる。このアクチュエータ装置は引張バネとして機能し、モータの駆動によりこの引張バネのバネ係数を見かけ上変化させることが可能となる。ある出力端22のストローク位置に対して、傾斜レール16の傾斜角を変化させると、引張り力も増減するため、能動的なアクチュエータとして機能する。なお、本実施例のアクチュエータ装置では、レール保持板17と支持アーム15、およびスリットガイド18の構成を図1の反対側にすることができ、その場合はアクチュエータ装置は引っ張りバネではなく、伸長バネとして機能する。
【実施例2】
【0028】
図2は、本発明にかかるアクチュエータ装置の第2実施例を示す図である。本実施例のアクチュエータ装置において、ねじシャフト30と移動支点33はねじ送り機構を形成しており、ねじシャフト30はベース32に対して、支持軸受31を介して支持されている。ねじシャフト30に接続されたモータ11の回転により移動支点33が直動運動を行う。回転アーム34は、点Pにおいてベース32に回動可能に連結されており、この点Pを中心として回転する。圧縮バネ要素35は回転アーム34上の点Qと移動支点33に接続される。圧縮バネ要素35の移動支点33側接続点は、点P上を通過する配置になっている。
【0029】
移動支点33が点P上にある場合、回転アーム34が回動してもバネ長は変わらないため、回転アーム34は外力によって容易に動かすことが可能な無拘束状態となる。例えば手でアーム34を固定したままモータ11を駆動してねじシャフト30を回転させ、移動支点33を図2に示す位置関係とすると、圧縮バネ要素35は圧縮され、回転アーム34には反時計回りにトルクが発生する。この状態で本装置は、時計回りの力に対して反発する回転バネ機構として機能する。ここからモータ11を駆動して移動支点33を点Pの方向へ移動させていくと、トルクは次第に小さくなっていき、点P上では0となり(無拘束状態)、さらに移動支点33を点Pより下に進めると今度は回転アーム34に時計回りのトルクが発生し、そのトルクは点Pから離れるほど大きくなっていく。この状態で停止させると本装置は反時計回りの力に対して反発する回転バネ機構として機能する。このように図2に示す装置は、モータ11により移動支点33の位置を変化させることで、回転アーム34の回転方向と発生トルクを自由に変化可能な回転型アクチュエータ装置として機能する。この第2実施例のアクチュエータ装置は、圧縮バネ要素35を引張バネに置き換えることが可能であり、その場合は移動支点33の位置に対する回転アーム34の回転方向は逆転して機能する。
【実施例3】
【0030】
図3は、本発明にかかるアクチュエータ装置の第3実施例を示す図である。本実施例のアクチュエータ装置は、第2実施例と動作原理は同じであるが、回転アーム34と圧縮バネ要素35を2組用意し、ねじシャフトに対して軸対象に配置している。本実施例のアクチュエータ装置では、回転アーム34aと回転アーム34bがねじシャフト30を中心として軸対称に動作するため、例えば図3の状態において、回転アーム34bを固定し回転アーム34aで回転変位を得るようにすれば、第2実施例のアクチュエータ装置に対して倍の回転角度範囲を得ることができる。また、移動支点33には圧縮バネ要素35の力が両側から均等に作用するため、ねじシャフト30をたわませる力がほとんど作用せず、より構造的に安定した装置を得ることができる。本実施例のアクチュエータ装置は、例えばロボットの間接部分などに好適に利用することができる。なお、この第3実施例のアクチュエータ装置は圧縮バネ要素35を引張バネに置き換えてもよく、その場合に移動支点位置に対する回転アーム34の回転方向は逆転して機能する。
【実施例4】
【0031】
図4は、本発明にかかるアクチュエータ装置の第4実施例を示す図である。本実施例のアクチュエータ装置において、モータ11の回転をウォーム歯車減速機36により伝達し、ベース38に軸支されたモーメントアーム37を回転させる。出力端となる回転アーム40は、点Mを回転軸とする回転支持部39を介してベース38に接続されている。 圧縮バネ要素41の両端は、回転アーム40の任意の地点とモーメントアーム37の先端(点N)に接続されている。回転支持部39はベース38から浮いた状態でモーメントアーム37を支持しており、モーメントアーム37は、ベース38と回転アーム40との間を通過することができる。
【0032】
点Mが点Nと一致して重なる角度位置では、回転アーム34が回転してもバネ要素41の長さは変わらないため、回転アーム40は外力によって容易に動かすことが可能な無拘束状態となる。回転アーム40を外部から固定し、モータ11を駆動してモーメントアーム37を図4に示す角度位置にすると、回転アーム40は圧縮バネ要素41の反発力により時計回りのトルクを発生する。ここからモーメントアーム37を逆に反時計回りに回転させると、トルクが小さくなっていき、点Mと点Nが重なる時点でトルクは0となり、さらに回転させると、回転アーム34には反時計回りのトルクが発生する。このように、図4に示す装置は、モータ11によりモーメントアーム37の位置を変化させることで、回転方向と発生トルクを自由に変化可能な回転型アクチュエータ装置として機能する。この機能は図2に示す第2実施例と同種であるが、移動支点をねじシャフト上で動かさないため製造が容易でスタック等の不具合が生じにくいという点で異なる。なお、この第4実施例のアクチュエータ装置は圧縮バネ要素35を引張バネに置き換えることができ、この場合はモーメントアーム37角度に対する回転アーム40の回転方向は逆転して機能する。
【0033】
図5は、本発明にかかるアクチュエータ装置の第5実施例を示す図である。図5aはケース55を一部切り取った平面図、図5bは同じくケース55を切り取った正面図である。本実施例のアクチュエータ装置において、支柱60とケース55、基部52によってフレームを構成し、モータ11はこのフレームに固定されている。モータ11の回転は減速機構50を介して主軸51に伝達される。主軸51はスプライン軸であり、伝達歯車61は主軸51が回転するとともに回転するが、主軸51上を軸方向にスライド可能である。なお、この伝達歯車61の回転範囲は90°未満に構成される。圧縮バネ要素53は、一端を基部52、他端を摺動部54と接続されている。摺動部54は主軸51周りで回転および摺動可能であり、伝達歯車61を回転可能に連結している。さらに摺動部54には、一対の旋回歯車62a、62bが伝達歯車61を挟んで回転対偶として連結されている。伝達歯車61と対の旋回歯車62a、62bの関係を図5cに示すように、伝達歯車61がモータ駆動により回転すると、旋回歯車62a、62bがともに矢印の方向に回転する。旋回歯車62a、62bは、それぞれ対応する旋回リンク56a、56bと連結している。旋回リンク56は、屈折リンク57と、出力側リンク58とを介して出力端59に接続される。
【0034】
図5dに屈折リンク57の詳細を示す。屈折リンク57は、出力側リンク58に接続される屈折リンク主部57aと、屈折リンク屈折部57bと、旋回リンク56に接続される屈折リンクジョイント部57cからなり、屈折リンク主部57aに対して屈折リンク屈折部57bは回転屈折し、屈折リンクジョイント部57cは、屈折リンク屈折部57bに対して軸周りに旋回する。屈折リンク主部57aと屈折リンク屈折部57bの連結部は、装置の支柱60に軸支されている。これら旋回リンク56、屈折リンク57、出力側リンク58は、全体で支柱60を支点とする伸縮リンク機構を構成しており、その一端が出力端59と連結され、他端がバネ53側と連結されている。旋回リンク56、屈折リンク57のリンク長A、Bと、出力側リンク58のリンク長は等しくなっている。
【0035】
図5において、屈折リンク57の屈折がない状態、すなわち図5a、5bに示すように屈折リンク屈折部57bが外側に屈折していない状態では、出力側とバネ側の動きは支柱60を中心として1:1の対称動作を行うため、出力側を引くとバネ側は圧縮されることになり、出力側には圧縮バネ要素53の力が張力としてそのまま伝達される。
【0036】
モータ11の回転により伝達歯車61が回転すると、旋回歯車62も回転し、それに伴い旋回リンク56が旋回する(図5c)。これに伴いその幾何学的拘束から、屈折リンク57において屈折リンク屈折部57bが屈折し、屈折リンクジョイント部57cが旋回する。この状態では図5e(正面視)、図5f(平面視)に示すように、伸縮リンク機構のバネ側のリンク長が見かけ上短くなり、出力側の伸縮に対してバネ側の伸縮量は小さくなる。したがって、出力端59を同じだけ引っ張っても圧縮バネ要素53の変形量が小さくなり、出力端59に作用する応力(張力)も小さくなる。旋回リンク56の旋回角度が90度に近づくと張力も非常に小さなものになる。モータ11の回転はウォーム歯車減速機などによる減速機構50を介して伝達するため、モータ11が停止すると旋回リンク56はその旋回角度で固定される。この状態で第4実施例のアクチュエータ装置は引張バネ機構として作用するため、負荷に対して張力を保持することが可能である。つまり本アクチュエータ装置では、モータ11の回転量によって、アクチュエータ装置の張力を調整することができるため、収縮型のアクチュエータ装置として機能する。また、圧縮バネ要素53を引張バネに変更することで、伸長型のアクチュエータ装置として機能する。
【0037】
以上に詳細に説明したように、本発明のアクチュエータ装置によれば、アクチュエータ装置の伸縮や回転量に対するバネの伸縮量を電機モータにより機械的に調整し見かけ上のバネ係数を変化させることで、伸縮力あるいは回転力を得ることができる。負荷はバネが受けるため、モータが停止しても持続的に力を発生させて負荷との拮抗状態を保持することができる。したがって、持続的な停動状態でも電力を消費せず、またモータ焼損の問題も騒音も発生しない。また、負荷が軽ければモータの最大速度とは無関係に素早く動くことが可能である。
【0038】
また、本アクチュエータ装置はバネ係数を自在に変化できるバネとして作用し、本質的に柔軟に動き、見かけ上のバネ係数を0またはその近くまで調整できるため、外力によって自由に関節を動かすことのできる弛緩状態を再現することができる。さらに、本アクチュエータ装置では外力や負荷はバネに作用し、外力による作用を弾性エネルギとして蓄え、瞬時に開放することが可能であるため、本アクチュエータ装置を接続した関節に外力によって負荷を与え、その負荷を瞬時に取り除くことによる反動で跳躍などの動作を行うことが可能である。
【0039】
さらに、可動限界付近でバネが自然長になるよう調整すれば、制御系が暴走しても可動限界付近で発生力はなくなるので、関節部に挟まれ抜けなくなるといった事故を抑止することができる。また、例えば装着型のパワーアシスト装置において操作者がある程度の範囲で力に逆らって装置を動かし脱出することが可能となり安全性が向上する。他方、何らかの原因により電源が切れてしまった場合は、その時の剛性が維持され、力が抜けてしまうことはない。また、このときもアクチュエータが固定されてしまうわけではないので、操作者はある程度身動きが取れ、脱出等が可能となり安全である。さらに、剛性可変速度が遅くても問題ない用途であれば、小型のモータでもこれらの特性を得られるため、装置の小型軽量化、低コスト化が可能である。
【0040】
なお、本発明は上記実施例の形態に限定されるものではなく、当業者であれば本明細書の記載から様々な変形例、変更例を考えることができる。本発明の範囲はこのような変形例、変更例を包括すると理解されるべきであり、その外延は添付の特許請求の範囲によってのみ解釈されたい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のアクチュエータ装置は、軸方向の収縮あるいは伸長、軸周りの正転逆転が必要な様々な動力装置に適用することができる。例えば、本発明の持つ電気的にバネ係数を変化できる特徴を生かし、走行面や車両の状態に応じて能動的にサスペンション特性を調整する自動車や電車のサスペンションや、多様な振動を速やかに吸収する免振装置に利用することができる。
【0042】
バネ係数を調整できる特徴と柔軟で安全性の高い特徴を生かし、筋力トレーニングやリハビリテーション用装置、義肢の関節駆動装置として使用できる。
【符号の説明】
【0043】
11 電機モータ
12 ねじシャフト
13 支持板
14 直動軸
15 支持リンク
16 傾斜レール
17 レール固定板
18 スリットガイド
19 回転移動軸
20 引張バネ
21 ロッド
22 出力端
30 ねじシャフト
31 支持軸受
32 ベース
33 移動支点
34、40 回転アーム
35、41 圧縮バネ要素
36 ウォーム歯車減速機
37 モーメントアーム
38 ベース
39 回転支持部
50 減速機構
51 主軸
52 基部
53 圧縮バネ要素
54 摺動部
55 ケース
56 旋回リンク
57 屈折リンク
58 出力側リンク
59 出力端
60 支柱
61 伝達歯車
62 旋回歯車
【図1a】

【図1b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボット装置やパワーアシスト装置の関節駆動に用いられるアクチュエータ機構であって、選択的に駆動制御されるモータと、バネ要素と、前記モータの駆動により前記バネ要素の発生力および/またはその向きを変化させる変更機構と、前記バネ要素に接続された出力端と、を具えることを特徴とするアクチュエータ機構。
【請求項2】
請求項1に記載のアクチュエータ機構において、前記変更機構は前記モータにより回転駆動されるねじシャフトやウォーム歯車機構によって動作し、前記モータが停止してもその状態が保持され、したがって前記バネ要素の発生力が保たれることを特徴とするアクチュエータ機構。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアクチュエータ機構において、前記変更機構が、前記モータの駆動によって傾斜量が変化する傾斜レールを具えるとともに、前記バネ要素は前記傾斜レールの傾斜方向へその角度に応じた力を発生し、これにより前記出力端が前記傾斜レールの角度に応じた力でその傾斜方向に付勢されることを特徴とするアクチュエータ機構。
【請求項4】
請求項1または2に記載のアクチュエータ機構において、前記出力端は一方の端部が軸支された回転アームであり、前記変更機構が前記バネ要素を前記モータによって駆動される移動支点と前記回転アームの任意の位置との間に接続していることを特徴とするアクチュエータ機構。
【請求項5】
請求項4に記載のアクチュエータ機構において、前記回転アームと前記バネ要素を軸対称に2組具えることを特徴とするアクチュエータ機構。
【請求項6】
請求項1に記載のアクチュエータ機構において、前記出力端は一方の端部が軸支された回転アームであり、前記制御機構が前記モータにより前記回転アームと平行に回転駆動されるモーメントアームを具え、前記バネ要素が前記モーメントアームと前記回転アームの任意の位置との間に接続されていることを特徴とするアクチュエータ機構。
【請求項7】
請求項1に記載のアクチュエータ機構において、前記変更機構が、一端を前記出力端に、中間部をフレーム構造に、他端を前記バネ要素に接続された伸縮リンク機構と、前記伸縮リンク機構を構成するリンクの角度を倒すことで前記出力端の伸縮量に対する前記バネ要素の伸縮比を変更する比率変換機構とを具え、前記比率変換機構が前記モータにより駆動されることを特徴とするアクチュエータ機構。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のアクチュエータ装置を関節駆動に適用したことを特徴とするロボット装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【図5e】
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【図5f】
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【公開番号】特開2012−66314(P2012−66314A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210921(P2010−210921)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(509126748)
【Fターム(参考)】