説明

アクティブフィードバック制御装置、方法、及びプログラム

【課題】制御性能を低下させることなく、同定対象の動特性を表わすパラメータを同定対象の動作中にオンライン同定する。
【解決手段】アクティブフィードバック制御装置28は、外乱が入力される制御対象12、制御対象12を駆動するアクチュエータ14、制御対象12の状態を検出するセンサ16を含む同定対象18の動特性を表わすパラメータと、センサ16からの検出信号と、に基づいて、制御対象12が目標の状態となるような制御信号を生成して出力するコントローラ20と、平均値が略ゼロとなる乱数を発生させる乱数発生部22と、コントローラ20から出力された制御信号と、発生させた乱数を制御信号に乗算したノイズ付加制御信号と、を加算してアクチュエータ14に出力する加算部24と、同定対象18の動特性を表わすパラメータを制御対象12の動作中にオンライン同定し、同定したパラメータをコントローラ20に出力する同定部26と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブフィードバック制御装置、方法、及びプログラムに係り、より詳しくは、同定対象の動特性をオンライン同定するアクティブフィードバック制御装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブフィードバック制御による振動低減技術は既に実用化され、広く用いられている。図6には、一般的なアクティブ振動制御系のアクティブフィードバック制御システム100のブロック図を示した。同図に示すように、アクティブフィードバック制御システム100は、アクティブフィードバック制御の制御対象であり、外乱が入力される制御対象102、制御対象102を駆動するアクチュエータ104、制御対象102の状態を検出するセンサ106、アクチュエータ104を制御するコントローラ108を含んで構成される。
【0003】
このようなアクティブフィードバック制御システム100では、コントローラ108は、制御対象102の動特性を示すパラメータ(例えば伝達関数のパラメータ)と、センサ106から入力された制御対象102の状態を示す信号と、に基づいて、制御対象102が所望の状態となるような制御信号をアクチュエータ104に出力することによりフィードバック制御する。このようなコントローラ108を設計するためには、制御対象102の動特性を知る必要がある。この場合、一般的には、制御対象102をモデル化し、そのモデルパラメータを推定(同定)する手法が採用される。
【0004】
しかしながら、幅広い周波数帯域における振動制御を行うためには、対象とすべきモード次数が多くなり、精度の高いモデルパラメータの同定は困難である。
【0005】
制御対象102のモデルパラメータを同定するには、一般的には、図7に示すように、コントローラを停止させ、コントローラを加振器としてノイズをアクチュエータ104に入力する加振実験を行って、制御対象102の動特性の同定を行う(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、近年では、制御を行いながら制御対象の同定を行う閉ループ同定(オンラインシステム同定)の研究がなされている(例えば、非特許文献1参照)。これらの研究では、アクティブフィードバック制御システムを2入力1出力システムとして取り扱い、モデル化した同定対象のモデルパラメータを推定する。この手法では、図8に示すように、アクチュエータ104へ入力される制御信号に加えて、制御対象102へ入力される外乱を計測する必要がある。このようなシステムは、地震動に対する建物応答などの入力外乱が計測可能な場合には適用できるが、外乱が計測できない場合には適用できない。
【0007】
また、制御対象をモデル化せずに、幅広い周波数帯域における振動制御も提案されている(例えば、非特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、制御を行いながら制御対象の特性を同定することはできない。
【0008】
また、制御対象モデルの特殊性から、同定対象のモデルパラメータを同定する方法(例えば、特許文献2参照)もあるが、一般的な制御対象の場合には適用できない。
【0009】
また、特許文献3には、閉ループ同定のために擬似不規則信号を閉ループに印加して構造モデルの物理パラメータを同定する技術が記載されている。
【0010】
また、特許文献4、5には、モータを制御対象としたシステムの特性を同定する技術が記載されており、例えば特許文献4には、オンライン状態で且つ少ない演算量で、制御対象の剛体特性と共振特性との双方を同定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−82662号公報
【特許文献2】特開平6−225564号公報
【特許文献3】特開2000−275370号公報
【特許文献4】特開2008−228360号公報
【特許文献5】特開2005−168166号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】“部分空間法による制振構造物のシステム同定”,上林雅子,三田彰,日本建築学会 学術講演梗概集. 構造系,No.B-2, pp. 983-984, 2002
【非特許文献2】“突然変異則を含む粒子群最適化(PSO)を用いた多自由度振動制御系の設計について”,吉岡 宏和,松下 仁士,高橋 良典,第51回自動制御連合講演会,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献3に記載された技術では、擬似不規則信号を閉ループに直接印加しているため、振動制御に対しては、外乱を発生させることなり、振動を低減する本来の目的に反することとなる。
【0014】
また、特許文献4、5に記載された技術は、制御対象であるモータの構造モデルの特殊性に基づく技術であり、汎用性が低い。
【0015】
本発明は、上記事実に鑑みて成されたものであり、制御性能を低下させることなく、同定対象の動特性を表わすパラメータを同定対象の動作中にオンライン同定することができるアクティブフィードバック制御装置、方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明のアクティブフィードバック制御装置は、外乱が入力される制御対象、前記制御対象を駆動するアクチュエータ、及び前記制御対象の状態を検出するセンサを含む同定対象の動特性を表わすパラメータと、前記センサからの検出信号と、に基づいて、前記制御対象が目標の状態となるような制御信号を生成して出力する制御手段と、発生した値の平均値が略ゼロとなるノイズ信号を発生させるノイズ信号発生手段と、前記制御手段から出力された制御信号と、前記ノイズ信号発生手段が発生させたノイズ信号を前記制御信号に乗算したノイズ付加制御信号と、を加算して前記アクチュエータに出力する加算手段と、前記同定対象の動特性を表わすパラメータを前記同定対象の動作中にオンライン同定し、同定した動特性を表わすパラメータを前記制御手段に出力する同定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、発生した値の平均値が略ゼロとなるノイズ信号を発生させ、これを制御信号に乗算したノイズ付加制御信号と、元の制御信号と、を加算してアクチュエータに出力し、制御対象、アクチュエータ、及びセンサを含む同定対象の動特性を表わすパラメータを同定対象の動作中にオンライン同定する。これにより、制御性能を低下させることなく、同定対象の動特性を表わすパラメータを同定対象の動作中にオンライン同定することができる。
【0018】
なお、請求項2に記載したように、前記ノイズ信号発生手段は、前記発生した値の平均値が略ゼロとなる乱数を発生させる構成とすることができる。
【0019】
また、請求項3に記載したように、前記ノイズ信号発生手段は、前記発生した値の平均値が略ゼロとなる2値の数を発生させる構成としてもよい。
【0020】
また、請求項4に記載したように、前記同定手段は、前記制御手段による制御を評価するための評価関数を予め定めた最適化方法により、前記制御手段の動特性を表わすパラメータを同定する構成としてもよい。
【0021】
この場合、請求項5に記載したように、前記最適化方法は、遺伝的アルゴリズム又は粒子群最適化を用いた方法である構成としてもよい。
【0022】
請求項6記載の発明のアクティブフィードバック制御方法は、外乱が入力される制御対象、前記制御対象を駆動するアクチュエータ、及び前記制御対象の状態を検出するセンサを含む同定対象の動特性を表わすパラメータと、前記センサからの検出信号と、に基づいて、前記制御対象が目標の状態となるような制御信号を生成して出力し、発生した値の平均値が略ゼロとなるノイズ信号を発生させ、前記制御信号と、前記ノイズ信号を前記制御信号に乗算したノイズ付加制御信号と、を加算して前記アクチュエータに出力し、前記同定対象の動特性を表わすパラメータを前記同定対象の動作中にオンライン同定し、同定した動特性を表わすパラメータを、前記制御信号を生成する制御手段に出力する、ことを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、制御性能を低下させることなく、同定対象の動特性を表わすパラメータを同定対象の動作中にオンライン同定することができる。
【0024】
請求項7記載の発明のアクティブフィードバック制御プログラムは、コンピュータを、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載のアクティブフィードバック制御装置を構成する各手段として機能させる。
【0025】
この発明によれば、制御性能を低下させることなく、同定対象の動特性を表わすパラメータを同定対象の動作中にオンライン同定することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、制御性能を低下させることなく、同定対象の動特性を表わすパラメータを同定対象の動作中にオンライン同定することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るアクティブフィードバック制御システムのブロック図である。
【図2】コントローラで実行される処理のフローチャートである。
【図3】同定部で実行される処理のフローチャートである。
【図4】制御対象の振動数とアクセレランスとの関係をシミュレーションした結果を示すグラフである。
【図5】(A)は閉ループ同定を行わない従来におけるアクティブ制御について制御対象の振動数とアクセレランスとの関係をシミュレーションした結果を示す図、(B)は本発明に係る閉ループ同定を行うアクティブ制御について制御対象の振動数とアクセレランスとの関係をシミュレーションした結果を示す図である。
【図6】従来におけるアクティブフィードバック制御システムのブロック図である。
【図7】従来における制御対象のモデルのパラメータを同定する場合のシステムのブロック図である。
【図8】従来におけるアクティブフィードバック制御システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例について詳細に説明する。
【0029】
図1には、本実施形態に係るアクティブフィードバック制御システム10の概略ブロック図を示した。同図に示すように、アクティブフィードバック制御システム10は、制御対象12、アクチュエータ14、及びセンサ16から成る同定対象18と、コントローラ20、乱数発生部22、加算部24、及び同定部26から成るアクティブフィードバック制御装置28と、を含んで構成されている。
【0030】
制御対象12は、アクティブフィードバック制御の制御対象であり、外乱が入力される。制御対象としては、例えば建物等の制振対象の構造物とすることができるが、制御対象の種類はこれに限られるものではない。
【0031】
アクチュエータ14は、制御対象12を駆動する。アクチュエータ14は、例えば制御対象12が制振対象の構造物である場合には、この構造物の振動を抑制するための制御力を構造物に加えるものとすることができるが、アクチュエータの種類はこれに限られるものではない。
【0032】
センサ16は、制御対象12の状態を検出する。センサ16は、例えば制御対象12が構造物の場合には、この構造物の加速度等の物理パラメータを検出するものとすることができるが、センサ16が検出する物理パラメータの種類はこれに限られるものではない。
【0033】
コントローラ20は、アクチュエータ14、制御対象12、及びセンサ16から成る同定対象18の動特性を表わすパラメータと、センサ16により検出された制御対象12の状態を示す検出信号と、に基づいて、制御対象12が所望の状態となるような制御信号、例えば制御対象12が構造物であれば、この構造物の振動が抑制された状態となるような制御信号をアクチュエータ14に出力することによりフィードバック制御する。
【0034】
乱数発生部22は、発生させた乱数の平均値が略ゼロとなるような乱数を発生させ、コントローラ20から入力された制御信号に乗算したノイズ付加制御信号を加算部24に出力する。
【0035】
加算部24は、コントローラ20から入力された制御信号と、乱数発生部22から入力されたノイズ付加制御信号と、を加算した制御信号をアクチュエータ14に出力する。これにより、アクチュエータ14は、加算部24から入力された制御信号に応じて制御対象12を駆動する。
【0036】
同定部26は、センサ16により検出された制御対象12の状態を示す検出信号と、乱数発生部22が出力したノイズ付加制御信号と、に基づいて、同定対象18の動特性を表わすパラメータを同定する。
【0037】
乱数発生部22の出力(入力1)からセンサ16の出力までの閉ループ伝達関数T(s)は、次式で表わされる。
【0038】
【数1】

【0039】
ここで、G(s)は同定対象18の動特性を表わす伝達関数であり、H(s)はコントローラ20の特性を表わす伝達関数である。
【0040】
上記(1)式より、同定対象18の動特性G(s)は次式で表わされる。
【0041】
【数2】

【0042】
閉ループ伝達関数T(s)は、計測等により予め定めることができ、コントローラ20の特性を表わす伝達関数H(s)も予め定められる。
【0043】
従って、同定部26は、外乱を計測することなく、制御対象12を制御した状態で、同定対象18の動特性を表わす伝達関数G(s)を求めることができる。すなわち、伝達関数G(s)を表わすパラメータを同定することができる。ここで、同定部26は、制御対象12自体をモデル化する必要がなく、直接同定対象18の伝達関数G(s)を同定することができる。
【0044】
なお、同定方法は、種々公知の同定方法を用いることができるが、例えば、制御対象12自体をモデル化せずに直接同定対象18の伝達関数G(s)を同定する方法としては、例えば上記非特許文献2記載の方法を用いることができる。この方法は、任意の評価関数を最適化する方法であり、この方法を用いる場合、同定対象18の伝達関数G(s)を表わすパラメータを複数種類発生させ、その中から最適なパラメータを探索することになる。
【0045】
このように、複数種類のパラメータの中から最適なパラメータを探索して設定することにより、コントローラ20による制御性能及び制御安定性をより向上させることができる。なお、制御対象12の伝達関数G(s)のパラメータの最適化方法としては、粒子群最適化に限定されるものではなく、遺伝的アルゴリズム(GA)等の他の最適化方法を用いても良い。
【0046】
なお、コントローラ20の制御安定性は、次式で示す開ループ特性を表わす伝達関数OL(s)から求められる位相余裕やゲイン余裕から算出できる。
【0047】
OL(s)=G(s)H(s) ・・・(3)
【0048】
次に、本実施形態の作用として、コントローラ20で実行される処理及び同定部26で実行される処理の流れを図2、図3に示すフローチャートを参照して説明する。
【0049】
まず、コントローラ20で実行される処理について、図2に示すフローチャートを参照して説明する。
【0050】
図2に示すように、ステップ100では、予め定めた初期パラメータの設定を行う。具体的には、同定部26から出力された、同定対象18の伝達関数G(s)の予め定めた初期パラメータを入力し、これを設定(記憶)する。
【0051】
ステップ102では、センサ16からの検出信号を入力し、ステップ104では、入力されたセンサ16からの検出信号と、同定対象18の動特性を示すパラメータと、に基づいて、制御対象12が所望の状態となるような制御信号を生成して加算部24及び乱数発生部22に出力する。
【0052】
乱数発生部22では、所定時間毎に乱数を発生させ、発生した乱数をコントローラ20からの制御信号に乗算したノイズ付加制御信号を加算部24に出力する。
【0053】
加算部24は、コントローラ20からの制御信号と乱数発生部22からのノイズ付加制御信号とを加算してアクチュエータ14に出力する。
【0054】
ここで、乱数発生部22が発生する乱数は、その平均値が略0となる乱数であり、コントローラ20が出力する制御信号の値の範囲内の乱数であることが好ましい。例えば、コントローラ20が出力する制御信号の値の範囲が‘−1’〜‘+1’の範囲である場合、乱数はこの範囲内の値、例えば‘−0.5’〜‘+0.5’の範囲の値とする。これにより、コントローラ20から出力される制御信号の値の符号と加算部24から出力される信号の符号とが逆になるのを防ぐ、すなわち制御対象12の制御の方向が逆になるのを防ぐことができる。
【0055】
ステップ106では、同定対象18の伝達関数G(s)を表わすパラメータが同定部26から入力されたか否かを判断する。同定部26では、後述する処理により同定対象18の伝達関数G(s)を表わすパラメータを同定し、コントローラ20に出力する。そして、同定対象18の伝達関数G(s)を表わすパラメータが同定部26から入力された場合には、ステップ108へ移行し、入力されていない場合には、ステップ110へ移行する。
【0056】
ステップ108では、同定部26から入力された同定対象18の伝達関数G(s)を表わすパラメータを更新する。これにより、制御対象12を制御しながら、コントローラ20による制御を最適化することができる。
【0057】
ステップ110では、所定時間経過したか否かを判断し、所定時間経過した場合にはステップ102へ戻って上記と同様の処理を繰り返し、所定時間経過していない場合には、所定時間経過するまで待機する。これにより、所定時間毎に上記の処理が繰り返される。
【0058】
次に、同定部26により実行される処理について、図3に示すフローチャートを参照して説明する。
【0059】
ステップ200では、コントローラ20に制御対象12の伝達関数G(s)の予め定めた初期パラメータを出力する。
【0060】
ステップ202では、閉ループ同定処理を行う。すなわち、センサ16により検出された制御対象12の状態を示す検出信号と、乱数発生部22が出力したノイズ付加制御信号と、を入力し、これらの信号に基づいて、同定対象18の動特性を表わすパラメータを同定する。同定方法は、前述したように種々公知の手法を用いることができる。
【0061】
ステップ204では、同定したパラメータをコントローラ20に出力する。これにより、コントローラ20は、制御対象12の伝達関数G(s)のパラメータを更新する。
【0062】
ステップ206では、所定時間経過したか否かを判断し、所定時間経過した場合にはステップ202へ戻って上記と同様の処理を繰り返し、所定時間経過していない場合には、所定時間経過するまで待機する。これにより、所定時間毎に上記の処理が繰り返される。
【0063】
次に、本発明者が本実施形態に係るアクティブフィードバック制御システム10をシミュレーションした結果について説明する。
【0064】
なお、制御対象12(同定対象)は2自由度の構造物とし、外乱としてホワイトノイズを制御対象12に与え、構造物の加速度応答(アクセレランス)を計測した。また、コントローラ20は、単純に速度に比例した制御を行う絶対速度フィードバック制御と、低い振動成分をカットするハイパスフィルタと、を組み合わせた制御を行うものとした。また、乱数発生部22からは、−0.5〜0.5の範囲の乱数であって、その平均値がゼロとなる外乱とは相関のない一様乱数を発生させるものとした。
【0065】
このような条件で制御対象12を同定した結果を図4に示した。同図は、制御対象12の振動数とアクセレランスとの関係を、真の値及び同定結果について示している。同図に示すように、同定結果は、ほぼ真の値を推定できていることが判る。これは、乱数を発生させ、これを制御信号に加えたノイズ付加制御信号によりアクチュエータ14を制御する、すなわち、制御信号に相関があるノイズが付加された制御信号によりアクチュエータ14を駆動するためである。
【0066】
また、図5(A)には、閉ループ同定を行わない従来におけるアクティブ制御について制御対象12の振動数とアクセレランスとの関係をシミュレーションした結果を示し、同図(B)には、本実施形態に係る閉ループ同定を行うアクティブ制御について制御対象12の振動数とアクセレランスとの関係をシミュレーションした結果を示した。なお、同図(A)、(B)の両方に、比較対象としてフィードバック制御を行わないパッシブ制御についてシミュレーションした結果を示している。同図(A)、(B)に示すように、閉ループ同定を行わない場合と閉ループ同定を行った場合との制御性能(外乱に対する応答の伝達関数)には、ほとんど差がないことが判った。
【0067】
以上のように、本実施形態に係るアクティブフィードバック制御装置28では、制御対象12、アクチュエータ14、及びセンサ16を同定対象18とし、制御対象12自体をモデル化せずに、かつ外乱を計測することなく同定対象18の伝達関数をオンライン同定している。
【0068】
このように、制御対象12自体をモデル化する必要がないため、制御対象12がどのようなものでもフィードバック制御するにあたって特殊な条件を設定する必要がなく、アクティブフィードバック制御装置28の汎用性を高めることができると共に、高振動数領域におけるアクティブフィードバック制御の性能を高めることができる。
【0069】
また、本実施形態に係るアクティブフィードバック制御装置28では、乱数を発生させ、これを制御信号に加えたノイズ付加制御信号によりアクチュエータ14を制御する、すなわち、制御信号に相関があるノイズが付加された制御信号によりアクチュエータ14を駆動するため、制御性能をほとんど低減させることがない。
【0070】
また、制御中に同定対象18の伝達関数をオンライン同定するため、制御対象12の動特性が変化した場合でも制御性能が劣化するのを防ぐことができる。
【0071】
なお、アクティブフィードバック制御装置28は、CPU、ROM、RAM等を含んで構成されたコンピュータで構成することもできる。この場合、図2、3に示すような処理を実行するプログラムをCPUが読み込んで実行することにより、コンピュータを、アクティブフィードバック制御装置28を構成する各手段として機能させることができる。
【0072】
また、本実施形態では、乱数発生部22により乱数を発生させ、この乱数に制御信号を乗算したノイズ付加制御信号を生成して、これとコントローラ20からの制御信号とを加算してアクチュエータ14に出力する構成としたが、平均値が略ゼロになる値であれば、乱数に限られるものではなく、乱数発生部22に代えて、平均値が略ゼロとなる2値の値を発生させる手段を用いてもよい。例えば、‘−0.5’と‘+0.5’を交互に発生させる手段を用いても良い。
【符号の説明】
【0073】
10 アクティブフィードバック制御システム
12 制御対象
14 アクチュエータ
16 センサ
18 同定対象
20 コントローラ
22 乱数発生部
24 加算部
26 同定部
28 アクティブフィードバック制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外乱が入力される制御対象、前記制御対象を駆動するアクチュエータ、及び前記制御対象の状態を検出するセンサを含む同定対象の動特性を表わすパラメータと、前記センサからの検出信号と、に基づいて、前記制御対象が目標の状態となるような制御信号を生成して出力する制御手段と、
発生した値の平均値が略ゼロとなるノイズ信号を発生させるノイズ信号発生手段と、
前記制御手段から出力された制御信号と、前記ノイズ信号発生手段が発生させたノイズ信号を前記制御信号に乗算したノイズ付加制御信号と、を加算して前記アクチュエータに出力する加算手段と、
前記同定対象の動特性を表わすパラメータを前記同定対象の動作中にオンライン同定し、同定した動特性を表わすパラメータを前記制御手段に出力する同定手段と、
を備えたアクティブフィードバック制御装置。
【請求項2】
前記ノイズ信号発生手段は、前記発生した値の平均値が略ゼロとなる乱数を発生させる
請求項1記載のアクティブフィードバック制御装置。
【請求項3】
前記ノイズ信号発生手段は、前記発生した値の平均値が略ゼロとなる2値の数を発生させる
請求項1記載のアクティブフィードバック制御装置。
【請求項4】
前記同定手段は、前記制御手段による制御を評価するための評価関数を予め定めた最適化方法により、前記制御手段の動特性を表わすパラメータを同定する
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のアクティブフィードバック制御装置。
【請求項5】
前記最適化方法は、遺伝的アルゴリズム又は粒子群最適化を用いた方法である
請求項4記載のアクティブフィードバック制御装置。
【請求項6】
外乱が入力される制御対象、前記制御対象を駆動するアクチュエータ、及び前記制御対象の状態を検出するセンサを含む同定対象の動特性を表わすパラメータと、前記センサからの検出信号と、に基づいて、前記制御対象が目標の状態となるような制御信号を生成して出力し、
発生した値の平均値が略ゼロとなるノイズ信号を発生させ、
前記制御信号と、前記ノイズ信号を前記制御信号に乗算したノイズ付加制御信号と、を加算して前記アクチュエータに出力し、
前記同定対象の動特性を表わすパラメータを前記同定対象の動作中にオンライン同定し、同定した動特性を表わすパラメータを、前記制御信号を生成する制御手段に出力する、
アクティブフィードバック制御方法。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載のアクティブフィードバック制御装置を構成する各手段として機能させるためのアクティブフィードバック制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−257314(P2010−257314A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107865(P2009−107865)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】