説明

アクティブ防振装置及びこれに用いるアクチュエータ

【課題】機器1の載置される天板5がコイルばね4によって支持されているアクティブ除振台Aを、できるだけ小さくかつ軽量にするとともに、コストの上昇を招くことなく所要の減衰特性が得られるようにする。
【解決手段】鉛直用リニアモータユニット6のボビン67を、その当接部材70の球面状凸部を介してケース2の床板20上に転動可能に支持し、そのボビン67の揺動によって水平方向の振動を吸収するとともに、適度な減衰力が発生するようポールピース62との間に高減衰ゴムのOリング65を配設する。当接部材70は樹脂材によって形成し、ポールピース62とボビン67との間に配設した予圧縮状態のコイルばね66によって、ケース床板20上に略一定の押圧力で押し付ける。水平用リニアモータユニット7も同様の構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子顕微鏡等の振動を嫌う精密機器を基礎に対して弾性的に支持するとともに、その振動を減殺する制御力をアクチュエータによって付加するようにしたアクティブ防振装置に係り、特にそのアクチュエータの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりこの種の防振装置においては例えば特許文献1、2等に示されているように、精密機器の載置される定盤をばね部材及び振動減衰部材からなるパッシブ除振台によって弾性支持した上で、それら機器及び定盤(被支持体)の振動状態を検出するセンサからの信号をフィードバックして、その振動を減殺する制御力をアクチュエータによって付加するようにしている。
【0003】
前記特許文献1の図4、7、8に記載された実施例では、振動減衰部材として基礎側に配置した容器を粘性流体37で満たし、これに定盤側から下ろした棒部材38の下端を浸して粘性抵抗力により振動を減衰させるようにしている。また、同図5、6の実施例では定盤から基礎に渡した粘弾性部材39の変形によって減衰力を得るようにしている。
【0004】
そのようなアクティブ防振制御に用いられるアクチュエータとしては、小型でありながら比較的高出力で、しかも非常に応答性の高いものが求められることから、例えばボイスコイルモータのような電磁式のアクチュエータが採用されることが多い。
【0005】
一例として特許文献3には、2つのボイスコイルモータを直交状に組み合わせて、可動子と固定子とを前後、左右の両方向について非接触で移動可能に構成したものが開示されている。これによれば水平方向の全方向に制御力を出力できるとともに、アクチュエータを介して水平方向の振動成分が伝達されることを阻止できる。
【0006】
加えて同文献の図3に示される実施例では、可動子(ボビン48)と固定子(ヨーク46)とを極めて柔軟なゴムやスポンジ等の弾性体(52)により連結することによって、アクチュエータを介しての上下方向の振動伝達も実質的に無視できるようにしている。
【0007】
さらに、特許文献4に記載の動的耐震装置では、電気機械変換器20(アクチュエータ)として拡声器のボイスコイルを採用し、その下端部に取り付けた半球24を基礎側のブロック30の上面に転動可能に当接させている。こうすると、横方向の振動がボイスコイルの揺動によって吸収されるとともに、振幅が大きくなれば半球24がブロック30上で滑動するようになり、拡声器の損傷が防止できる。
【特許文献1】特開平08−128498号公報
【特許文献2】特開2007−78122号公報
【特許文献3】特開平08−074928号公報
【特許文献4】特公平06−017705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、比較的小型の精密機器を載置する防振台の場合は、それ自体もできるだけ小さくかつ軽量にしたいという要請があり、前者の従来例のように減衰部材を別途、設けることは好ましくない。特に、特許文献1の図4等に開示されるように液体の粘性抵抗力によって減衰を得る構造は、軽量化に適さない上に比較的大がかりな構造になってしまい、コスト高にもなりやすい。
【0009】
斯かる点に鑑みて本発明は、アクティブ防振装置のアクチュエータに一体的に減衰部材を設けて小型化、軽量化の要請に応えるとともに、簡易な構造としてコストの上昇を招くことなく、所要の減衰特性が得られるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明では、前記特許文献4のアクチュエータのように、可動子を球面状の凸部を介して被支持体側又は基礎側のいずれかの部材に転動可能に当接させ、その揺動によって振動を吸収するとともに、この可動子の揺動に伴い減衰力が発生するよう、固定子との間に高減衰ゴムの減衰部材を配設したものである。
【0011】
具体的に請求項1の発明は、基礎に対して弾性支持した被支持体に、その振動を減殺する制御力を付加するようにしたアクティブ防振装置のアクチュエータであって、前記被支持体側又は基礎側のいずれか一方の部材に固定される固定子と、この固定子に対し所定方向に往復動して、前記被支持体側又は基礎側の他方の部材に制御力を付加する可動子と、を備えている。
【0012】
そして、前記可動子を、それに設けた球面状の凸部を介して前記他方の部材の当接面に転動可能に当接させるとともに、前記固定子に対しては非接触状態で、前記制御力の作用線に直交する任意の方向に揺動するように保持させて、その上で、固定子との間に高減衰ゴムの減衰部材を設けて、可動子の揺動を減衰させるようにしている。
【0013】
前記の構成により、まず、被支持体の振動に応じてアクチュエータを制御し、その振動を減殺する制御力を発生させることにより、この制御力の作用線の方向について被支持体の振動を効果的に抑制することができる。一方で、その制御力の作用線に直交する方向の振動成分は、アクチュエータの可動子の揺動によって吸収されるようになり、この揺動が高減衰ゴムの減衰部材によって減衰されることで、振動の収束が早められる。
【0014】
つまり、被支持体の振動を減衰させるための構造がアクチュエータに一体化されることで、防振装置の小型化に有利になるとともに、アクチュエータの可動子と固定子との間に減衰部材を配設するという極めて簡易な構造であるから、軽量化にも有利でコストの上昇も殆どない。
【0015】
また、可動子と固定子との間には、両者を制御力の作用線方向に相対移動可能に保持するために、例えばOリングのような弾性体が配置されることがあり、この弾性体を高減衰ゴムによって形成すれば減衰部材として利用することができる。こうしてOリング等を利用する場合、これが可動子の揺動に伴い弾性変形するようになるので、前記のように制御力の作用線に直交する方向(以下、直交方向ともいう)に減衰力を発生するとともに、この振動による変位に対向するような弾性力も発生することになる。
【0016】
そして、被支持体の振幅が大きくなって前記直交方向の変位が所定以上に大きくなると、可動子の球面状凸部が当接する面上を滑り出すことになるが、この滑り出しのときに前記の弾性力や減衰力が急変すると、防振性能が損なわれる虞れがあるので、球面状凸部と当接面との間には或る程度以上の滑り摩擦力が発生することが望ましい。
【0017】
そこで、前記球面状凸部を樹脂材によって形成し、当接面に押し付けられたときに弾性変形して、或る程度の当接面積が確保されるようにする(請求項2)。こうすれば、両者間で発生する摩擦力が安定し、前記のように球面状凸部が当接面上を滑り出すときにも、可動子の受ける弾性力や減衰力が急変することはなくなる。よって、アクチュエータにおいて制御力の作用線に直交する方向の振動に安定して減衰を付与することができる。
【0018】
より好ましいのは、前記固定子と可動子との間に、該可動子を制御力の作用線の方向に押圧するように予圧縮状態でばね部材を配設することであり(請求項3)、こうすれば、そのばね部材の予圧縮量を調整することによって、可動子の球面状凸部と当接面との間の摩擦力を所望の大きさとすることができる。
【0019】
見方を変えれば本発明は、前記のようなアクチュエータを用いるアクティブ防振装置が対象であり、被支持体及び基礎の中間に前記アクチュエータを、制御力の作用線が鉛直方向を向くように配設する場合に、被支持体を基礎から浮上した状態になるよう下方から支持する複数の弾性支柱と、これら各弾性支柱の弾性変形に応じて被支持体の高さを略一定に維持するように調整される高さ調整機構と、を備えるものである(請求項4)。
【0020】
このアクティブ防振装置によれば、アクチュエータにより鉛直方向の制御力を発生させて、被支持体の鉛直方向の振動を効果的に抑制できるとともに、該アクチュエータの可動子の揺動によって水平方向の振動を吸収し、かつ減衰させることができる。
【0021】
また、例えば載置される機器の変更によって被支持体の重量が変化し、これを受ける弾性支柱の弾性変形量が変化しても、その高さは高さ調整機構の調整によって略一定に維持することができるので、前記アクチュエータにおいて固定子と可動子との間に配設されているばね部材の予圧縮量を略一定に保つことができる。よって、被支持体の重量の変化に依らず前記請求項3の発明の作用が得られる。
【0022】
さらに、また別のアクチュエータを被支持体及び基礎の中間に横倒しで配設し、被支持体側から垂下する垂下壁部と基礎側に立設された立壁部との間に水平方向に制御力を作用させるようにすれば(請求項5)、その水平方向のアクチュエータの作動によって被支持体の水平方向の振動を一層、効果的に抑制することができる。
【0023】
しかも、その水平方向アクチュエータにおける可動子の揺動等によって鉛直方向の振動に適切な減衰が付与されるようになり、被支持体の振動を鉛直及び水平の全方向についてより効果的に軽減することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上、説明したように本発明に係るアクティブ防振装置によれば、制御力を発生するアクチュエータの可動子を、球面状凸部を介して被支持体側又は基礎側のいずれかの部材に転動可能に支持し、その可動子の揺動によって、制御力の作用線に直交する方向の振動を吸収するとともに、この可動子と固定子との間に配設した高減衰ゴムの減衰部材によって振動を減衰させるようにしたから、別途、振動減衰部材を設ける従来例に比べて防振装置の小型化、軽量化に有利になるとともに、極めて簡易な構造でコストの上昇を招く心配も少ない。
【0025】
特に、可動子と固定子との間に配設するOリングのような弾性体を減衰部材として利用すれば、コスト面でより好ましい。この場合に、さらに可動子の球面状凸部を樹脂材によって形成すれば、それが当接面上を滑るときにも摩擦力により安定して減衰力を得ることができる。
【0026】
その上さらに、前記固定子と可動子との間に予圧縮状態でばね部材を配設し、可動子をそれが当接する面上に所要の力で押圧するようにすれば、前記のように可動子の球面状凸部と当接面との間で発生する滑り摩擦力の大きさを所望のものとして、前記の効果をより高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0028】
(防振装置の構成)
図1には、本発明に係る防振装置の一実施形態である精密除振台Aの概略構成を示す。この除振台Aは、例えば電子顕微鏡や原子間力顕微鏡、半導体関連の試験機器、検査機器等の精密計測機器のように、振動を嫌う機器1(仮想線で示す)が載置されるものであり、主に試験や研究等に用いられる比較的小型の機器を対象とするとともに、使用者の都合によって機器が入れ替えられることも想定している。
【0029】
この除振台Aは、図示しない専用のテーブルや台等の上面に設置されるケース2と、そのケース2の4隅にそれぞれ高さ調整機構3,3,…を介して配設されたコイルばね4,4,…(弾性支柱)と、これらのコイルばね4,4,…により4隅をそれぞれ支持されてケース2から浮上する一方で、上面には前記機器1が載置される天板5(定盤)と、を備えている。
【0030】
ケース2は、この例ではアルミ合金の鋳物で、概略矩形状の床板20(基礎側の部材)とその外周縁を巡る周壁21とが一体に成形されており、例えば鉄板のプレス成形品に比べて高剛性であるとともに、アルミ合金製としては比較的大きな減衰が得られる。また、図1に破線で示すようにケース2の床板20には要所にリブ20a,…が形成されていて、全体の剛性が高められている。
【0031】
図2に拡大して示すように高さ調整機構3は、ケース2の床板20から鉛直上方に延びるよう回転自在に配設されたねじ軸30と、このねじ軸30に螺合されるとともに、コイルばね4の下端を保持するばね座31と、このばね座31の下方にてねじ軸30に回転一体に固定された被動ギヤ32と、を備えている。そして、この被動ギヤ32と歯合する中間ギヤ33(図1参照)が、電動モータ34の回転軸に固定されたピニオンにより回転されることによって、ねじ軸30が回転してばね座31が上下動するようになっている。
【0032】
そうして高さ調整機構3を介して配設されているコイルばね4は、この例では不等ピッチのもので、機器1の重量による荷重の増大に略比例してばね定数が高くなるプログレッシブ特性を有している。このため、上述したように機器1が変更されて被支持体の重量が変化しても、ばね系の固有振動数は概ね一定に保たれるようになり、機器1の変更によらず後述のアクティブ制御によって高い除振効果が得られる。
【0033】
また、そうして4つのコイルばね4,4,…によって弾性支持した天板5をケース2に対して鉛直及び水平方向にそれぞれ数ミリ程度、相対変位させるように、鉛直用及び水平用の各々4個ずつのリニアモータユニット6,…,7,…(アクチュエータ)が配設されている。鉛直用の4個のリニアモータユニット6,…は、それぞれ、ケース2のリブ20a,…同士が交わる部位に近接して直立配置され、該ケース2の床板20から天板5に対し鉛直方向の制御力を付加する。
【0034】
一方、水平用の4個のリニアモータユニット7,…は、天板5の長手方向を向いたものと幅方向を向いたものとが二つずつ対をなし、該天板5の重心周りに反対向きの偶力が発生するように配置されている。図3に拡大して示すように水平用のリニアモータユニット7は、天板5の下面から垂下する垂下壁部5aと、ケース2の床板20aに立設された立壁部20bとの間で水平方向に制御力を作用させるよう横倒しで配置されている。
【0035】
それらの鉛直用及び水平用の各リニアモータユニット6,7は同じものであり、図4に鉛直用リニアモータユニット6について示すように、加速度センサ8が一体的に設けられている。この加速度センサ8から天板5の相対加速度(天板5の振動状態)を示す信号が出力され、この信号を受けたコントローラ10からリニアモータユニット6に制御信号が出力されて、天板5及び機器1にその振動を減殺するような制御力が付加される。つまり、一例として加速度フィードバックのアクティブ除振制御が行われる。
【0036】
尚、コントローラ10には、天板5の高さを検出するセンサ9(図1にのみ示す)からの信号も入力され、この信号を受けたコントローラ10が高さ調整機構3の電動モータ34を制御することにより、コイルばね4の弾性変形に応じてその下端位置が調整されて、天板5の高さが略一定に保たれるようになっている。
【0037】
(リニアモータユニットの構成)
次に、図4を参照してリニアモータユニット6の構造を詳細に説明する。同図は、鉛直用リニアモータユニット6の断面図であるが、上述したように、ケース2や天板5への取り付けを除けば水平用のものも同じ構造である。
【0038】
図示のように、鉛直用リニアモータユニット6は、上部に配置された加速度センサ8と一体化されて除振台Aの天板5に固定される固定側(固定子)と、これに対し非接触状態で組み付けられて、電磁力により鉛直方向に移動される可動側(可動子)と、に分かれている。固定側は、ハウジングを兼ねて有底円筒状に形成され、図では上下に反転されて下方に開口する鉄製のヨーク60と、その筒壁部60a内に同心状に収容されて、底部60bにボルト留めされる円盤状の磁石61及びポールピース62と、からなる。
【0039】
前記ヨーク60の底部60bには周方向に間隔を空けて例えば4箇所にねじ穴が形成されていて、それぞれに軸端がねじ込まれたボルト63,…によって円環状のブラケット64(被支持体側の部材)に連結されている。このブラケット64は、加速度センサ8の円筒状ケースの外周に突設されている鍔部8aと係合して、該加速度センサ8をヨーク60に固定するとともに、図示しない別のボルトによって下方から天板5に締結されている。
【0040】
また、前記磁石61及びポールピース62は該略同径でかつ同程度の厚みを有する比較的厚肉の円盤状とされている。図の例では、ポールピース62の上端部には磁石61との間に周溝が形成されるよう段状に縮径部が形成されていて、この周溝に高減衰ゴムからなるゴム製のOリング65(減衰部材)が嵌め込まれている。このOリング65は、例えばフッ素ゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ポリノルボルネンゴム、エポキシ化天然ゴム、シリコンゴム等を主成分とし、加硫後の硬度が60度〜80度で、損失係数が約0.4〜1.0くらいになるものが好ましい。
【0041】
さらにポールピース62には、その下面略中央に開口するように円形断面の凹部62aが形成されていて、そこには、以下に述べるようにボビン67を下向きに付勢するコイルばね66が嵌挿されている。
【0042】
すなわち、リニアモータの可動側は、樹脂材からなる有底円筒状のボビン67と、その筒壁部67aに電線を巻き付けてなるコイル68と、からなり、ボビン67は、図では上方に開口し、ヨーク60とは軸心(軸線Z)が合致するように配置されていて、その筒壁部67aが磁石61及びポールピース62を非接触状態で取り囲む一方、ヨーク60の筒壁部60aには非接触状態で取り囲まれている。
【0043】
こうして同軸状に配置されているボビン67の筒壁部67aの内周面には、前記のようにポールピース62の周溝に嵌め込まれているOリング65の外周が接触して、該ポールピース62や磁石61の外周面とボビン67の筒壁部67aの内周面との間隔を所定の大きさに保つとともに、そのボビン67の筒壁部67aの外周面とヨーク60の筒壁部60aの内周面との間隔も所定の大きさに保つようになっている。
【0044】
また、ボビン67の底壁部67bは、図の例では比較的厚肉の円盤状とされ、その下面の外周寄りの部位とヨーク60の筒壁部60aの下端面との間がゴムのダイヤフラム69によって連繋されている。このダイヤフラム69は非常に柔らかなゴムによって形成され、ボビン67及びヨーク60の各底壁部67b,60a間で全周が大きく撓むことにより、ボビン67の軸線Z方向の相対移動を許容するとともに、該ボビン67を挟む両側部位が逆位相に撓むことによって(図6を参照)、当該ボビン67の揺動を許容するようになっている。
【0045】
さらに、前記ボビン67の底壁部67bの上面には、ポールピース62の凹部62aに上部を嵌挿されたコイルばね66の下端が当接している。このコイルばね66は、外力の加わらない状態でもボビン67を下向きに押圧するように予圧縮されており、これにより、天板5を押し上げるだけでなくそれを引き下げる向きにも制御力を発生できる。予圧縮量は、ポールピース62の下面とボビン67の底壁部67b上面との間隔で決まり、この実施形態では、上述したように高さ調整機構3によって天板5の高さが略一定に保たれることから、予圧縮量も略一定に保たれるようになる。
【0046】
つまり、リニアモータユニット6において可動側であるボビン67は、Oリング65及びダイヤフラム69によって固定側であるヨーク60等に対し非接触状態で保持されていて、電磁力により軸線Z方向に往復動してケース2床板20及び天板5の間に上下方向の制御力を出力するとともに、この制御力の作用線(鉛直軸線Z)に直交する任意の方向、即ち水平方向には揺動可能に保持されている。
【0047】
また、そうして軸線Z方向に往復動するボビン67の底壁部67bには、その内周側の部位において下方に膨出するように円形の台座部67cが形成され、この台座部67cの下面略中央に開口する円形断面の凹部67dには、ケース2の床板20の上面20a(当接面)に当接して制御力を伝えるための当接部材70が、出没可能に嵌挿されている。
【0048】
この当接部材70は、例えばMCナイロン等の樹脂材を円柱状に成形してその先端(図の下端)部を球面状の凸部とする一方、基端(図の上端)部には鍔部を形成したもので、図の例では、その鍔部の外径が凹部67dの内径と略同径とされている。そして、台座部67cの下面には押さえ板71が重ね合わされ、これには鍔部を除いた当接部材70の外径と略同径の丸穴が空けられており、この丸穴の周縁部によって鍔部が押さえられることで、当接部材70の抜け止めがなされている。
【0049】
尚、図の例では凹部67dにもコイルばね72が配設されている。このコイルばね72は、ボビン67を下方に付勢するコイルばね66よりもかなりばね定数が高いことから、通常は殆ど撓まず、過大な外力によってポールピース62とボビン67が接触したときに初めて縮んで、それらがダメージを受けることを阻止するためのものである。
【0050】
そうしてボビン67が、その下端部の当接部材70を介してケース2の床板20の上面(当接面)に転動可能に支持されていることから、鉛直用のリニアモータユニット6においては、後述するように水平方向の振動を受けてヨーク60とボビン67とが水平方向に相対変位するとき、当接部材70が床板20上を転動することによってボビン67が揺動し、変位を吸収するようになる(図6参照)。
【0051】
その揺動に伴いボビン67の筒壁部67aの内周面とポールピース62の外周面との間でOリング65が弾性変形し、ボビン67の揺動を抑えるような弾性力及び減衰力を発生する。そして、さらに変位が大きくなると、当接部材70が当接するケース床板20上を滑り出し、滑り摩擦によって減衰力が発生するようになる。
【0052】
上述した構造のリニアモータユニット6の組み付けは、図5に模式的に示すように、まず、磁石61とポールピース62とを間にOリング65を挟んで組合せ、これをヨーク60に組み付けてボルト73により締結する。一方、ボビン67の凹部67dにコイルばね72を挿入した後に当接部材70を嵌挿して、押さえ板71をねじ留めする。
【0053】
それから前記ポールピース62の凹部62aにコイルばね66を嵌挿し、これを間に挟むようにしてボビン67をヨーク60に組み付け、このヨーク60の開口を塞ぐようにダイヤフラム69を取り付けて、ねじ留めする。最後に、同図には示さない加速度センサ8を組み付ければ、図4に示すようにリニアモータユニット6が完成する。
【0054】
(リニアモータユニットの作動)
次に、この実施形態の除振台Aにおけるリニアモータユニット6,7の作動について、図4の他、図6も参照して説明する。まず、鉛直用リニアモータユニット6は、上述したように加速度センサ8からの信号に基づいてコントローラ10により制御され、天板5及び機器1にその鉛直方向の振動を減殺するような制御力を付加する。これにより機器1の振動が鉛直方向について効果的に抑制される。
【0055】
同様に、水平用リニアモータユニット7もコントローラ10によって制御され、天板5及び機器1にその水平方向の振動を減殺するような制御力を付加する。これにより機器1の振動は水平方向についても効果的に抑制される。
【0056】
その水平方向の振動に対して鉛直用リニアモータユニット6においては、ボビン67の揺動によって振動が吸収されるとともに、適度の減衰が付与されるようになる。すなわち、図6に模式的に示すように例えばヨーク60等、固定側が機器1や天板5とともに図の左側に変位するとき、可動側であるボビン67はその下端の当接部材70の転動によって左側に傾いて、ヨーク60等との相対変位を吸収する。
【0057】
このとき、図の右側ではボビン67の筒壁部67aとポールピース62との間隔が狭まり、Oリング65が圧縮されて弾性力(圧縮反力)を発生するとともに、こうして圧縮される際の内部損失によって適度な減衰力を発生するようになる。よって、鉛直用リニアモータユニット6において水平方向の振動を適度に減衰させて、その収束を早めることができる。
【0058】
また、比較的大きな振動によって相対変位が所定以上に大きくなると、当接部材70の先端(球面状凸部)が当接するケース床板20上を滑り出すことになるが、この当接部材70は樹脂材によって形成されており、予圧縮状態のコイルばね66によってケース床板20上に略一定の押圧力で押し付けられているので、当接部材70の先端が弾性変形して或る程度以上の当接面積が確保されるようになり、ここにおいて適度の滑り摩擦力が安定して発生する。
【0059】
よって、前記のように当接部材70がケース床板20上を滑り出すときにもボビン67とヨーク60等との間で水平方向に作用する力が急変することはなく、水平方向の振動に対して安定して減衰を付与することができる。同様に、水平用リニアモータユニット7においては鉛直方向の振動がボビンの揺動によって吸収されるとともに、これに適度の減衰が付与されて、その収束が早められる。
【0060】
したがって、この実施形態に係る除振台Aのリニアモータユニット6,7によると、可動側のボビン67を、当接部材70の球面状凸部を介して被支持体側又は基礎側のいずれかの部材に転動可能に当接させ、その揺動によって制御力の作用線に直交する方向の振動を吸収するとともに、固定側であるポールピース62との間に介在させたOリング65の弾性変形によって適度な減衰力を得ることができる。つまり、減衰部材をリニアモータユニット6,7のOリング65と兼用することで、除振台Aの小型化、軽量化に有利になるとともに、コストの上昇を招く心配もない。
【0061】
また、比較的大きな振動に対しては前記当接部材70が当接面上を滑るときの摩擦力によって減衰を付与することができ、その力の大きさが滑り出しのときにも急変しないことから、振動に対し安定して減衰を付与することができるものである。
【0062】
尚、本発明の防振装置の構成は前記実施形態の除振台Aに何ら限定されるものではない。例えばリニアモータユニット6,7においてはOリング65のみならず、ダイヤフラム69も高減衰ゴムで形成することができる一方、それらを高減衰ゴムにはせず、それらとは別に高減衰ゴムの減衰部材を設けてもよい。
【0063】
また、前記したリニアモータユニット6,7の構造は一例に過ぎず、ヨーク60やボビン67の形状は異なるものであってもよいし、前記の例とは反対にヨーク60を可動側とし、ボビン67を固定側とすることもできる。
【0064】
また、除振台Aにおいて鉛直用リニアモータユニット6,6,…は3個以上であればよく、同様に天板5を支持するコイルばね4も3固以上であればよい。コイルばね4に代えて、例えばゴム弾性体や気体ばねを用いることも可能であるが、金属製のコイルばね4は、気体ばねのような圧力源が不要であり比較的特性ばらつきも少ないので、好ましい。
【0065】
また、高さ調整機構3についても種々の構成が適用可能であり、その配置も前記実施形態には限定されない。
【0066】
さらに、リニアモータユニット6,7の作動によるアクティブ除振制御の手法として、前記実施形態のようなフィードバック制御に限らず、ケース2の振動状態に基づいて天板5へ伝達する振動を推定し、この振動を打ち消すような制御力を発生させる、所謂フィードフォワード制御や、機器1の作動に伴う振動を予測してこれを打ち消すような制御力を発生させる、所謂制振フィードフォワード制御も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、精密機器の振動を抑えるアクティブタイプの防振装置の小型化、軽量化に有利であり、コストの上昇を招くこともないから、特に試験、研究用の比較的小型の除振台に極めて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施形態に係る精密除振台の概略構成を示す図である。
【図2】コイルばね及び高さ調整機構の概略構成を示す拡大図である。
【図3】水平用リニアモータユニットの配置を示す拡大図である。
【図4】リニアモータユニットの構造を示す拡大図である。
【図5】リニアモータの組み付け手順を示す分解図である。
【図6】水平方向の振動によるボビンの揺動を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
A 精密除振台(防振装置)
1 精密機器(被支持体)
2 ケース
20 床板(基礎側の部材)
3 高さ調整機構
4 コイルばね(弾性支柱)
5 天板(定盤:被支持体)
6,7 リニアモータユニット(アクチュエータ)
60 ヨーク(固定子)
61 磁石(固定子)
62 ポールピース(固定子)
64 ブラケット(被支持体側の部材)
65 Oリング(減衰部材)
66 コイルばね(ばね部材)
67 ボビン(可動子)
68 コイル(可動子)
69 ダイヤフラム
70 当接部材(球面状凸部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎に対して弾性支持した被支持体に、その振動を減殺する制御力を付加するようにしたアクティブ防振装置のアクチュエータであって、
前記被支持体側又は基礎側のいずれか一方の部材に固定される固定子と、この固定子に対し所定方向に往復動して、前記被支持体側又は基礎側の他方の部材に制御力を付加する可動子と、を備え、
前記可動子は、それに設けられた球面状の凸部を介して前記他方の部材の当接面に転動可能に当接されるとともに、前記固定子に対し非接触状態で、前記制御力の作用線に直交する方向に揺動可能に保持されていて、
その可動子の揺動を減衰させるように、該可動子と固定子との間に高減衰ゴムの減衰部材が設けられている、アクティブ防振装置のアクチュエータ。
【請求項2】
請求項1のアクチュエータにおいて、
減衰部材は、可動子の揺動に伴い弾性変形するよう固定子との間に配設され、
前記可動子の球面状凸部が樹脂材によって形成されている、アクティブ防振装置のアクチュエータ。
【請求項3】
請求項2のアクチュエータにおいて、
固定子と可動子との間には、該可動子を制御力の作用線の方向に押圧するように予圧縮状態でばね部材が配設されている、アクティブ防振装置のアクチュエータ。
【請求項4】
請求項3のアクチュエータを用いたアクティブ防振装置であって、
被支持体を基礎から浮上した状態になるよう下方から支持する複数の弾性支柱と、
前記弾性支柱の弾性変形に応じて、前記被支持体の高さを略一定に維持するように調整される高さ調整機構と、を備え、
前記アクチュエータは、前記被支持体及び基礎の中間にて制御力の作用線が鉛直方向を向くように配設されている、ことを特徴とするアクティブ防振装置。
【請求項5】
請求項4のアクティブ防振装置において、
被支持体側から垂下する垂下壁部と基礎側に立設された立壁部との間で水平方向に制御力を作用させるように、両者の中間にもアクチュエータが配設されている、ことを特徴とするアクティブ防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−127391(P2010−127391A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303026(P2008−303026)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】