説明

アクリル−フッ素複合重合体粒子および水性分散体

【課題】フッ素含有量を大幅に低下させ、大幅にコストを下げても、耐候性に優れた塗膜を形成させることができ、得られる塗膜の光沢の低下を抑えることができるフッ素樹脂水性塗料に好適なアクリル−フッ素複合重合体粒子を提供する。
【解決手段】(A)構造単位としてテトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位およびクロロトリフルオロエチレン単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロオレフィン単位ならびにフッ化ビニリデン単位を含むフッ化ビニリデン系重合体部分と、(B)(メタ)アクリル系単量体単位および紫外線吸収部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体単位または光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体単位を含むアクリル重合体部分とを含むアクリル−フッ素複合重合体粒子であって、該フッ化ビニリデン系重合体部分(A)の含有量が50質量%以下であるアクリル−フッ素複合重合体粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化ビニリデン(VDF)系重合体部分と光(特に紫外線)に対して安定なアクリル重合体部分とを含むアクリル−フッ素複合重合体粒子、およびそれを含む水性分散体、さらには該水性分散体を含む水性塗料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂を含む塗料は、耐候性、耐水性、耐薬品性、耐熱性などに優れた塗膜を与えるため、建造物や各種車輌などの外面塗装に用いられている。一方、フッ素樹脂はアクリル樹脂やウレタン樹脂に比較して高価であるため、その適用する場面が制限されているのが現状である。
【0003】
そこで、フッ素含有量を下げることによりコストダウンを図ることが考えられるが、その結果、フッ素樹脂の特徴である耐候性も低下してしまう。
【0004】
これまで知られている耐候性を向上させる方法としては、紫外線吸収剤や光安定化剤を添加剤として塗料組成物に配合する方法、含フッ素重合体に反応性光安定化剤などを溶剤中でグラフト重合する方法(特許文献1)、含フッ素単量体と反応性光安定化剤などを共重合する方法(特許文献2)、フッ素樹脂粒子の水性分散体中でラジカル重合性不飽和単量体をシード重合する際に紫外線吸収部位を有する単量体または光安定化部位を有する単量体を共重合する方法(特許文献3)があげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−141903号公報
【特許文献2】特開平03−215544号公報
【特許文献3】特開平10−120857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、水酸基を有するフッ素樹脂にウレタン結合で反応性二重結合を付加する必要があるために、反応プロセスが複雑になるという欠点があった。
【0007】
特許文献2の方法では、塗膜全体のフッ素含有量の低減化を他の被膜形成樹脂とブレンドすることで行っており、フッ素樹脂自体のフッ素含有量の低減化には繋がらない。
【0008】
特許文献3の方法では、得られる粒子中のフッ素含有量が大きいので、得られる粒子が高価である。
【0009】
本発明は、フッ素含有量を大幅に低下させ、大幅にコストを下げても、耐候性に優れた塗膜を形成させることができ、得られる塗膜の光沢の低下を抑えることができるフッ素樹脂水性塗料に好適なアクリル−フッ素複合重合体粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、(A)構造単位としてテトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位およびクロロトリフルオロエチレン単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロオレフィン単位ならびにフッ化ビニリデン単位を含むフッ化ビニリデン系重合体部分と、(B)(メタ)アクリル系単量体単位および紫外線吸収部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体単位または光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体単位を含むアクリル重合体部分とを含むアクリル−フッ素複合重合体粒子であって、該フッ化ビニリデン系重合体部分(A)の含有量が50質量%以下であるアクリル−フッ素複合重合体粒子に関する。
【0011】
また本発明は、構造単位としてテトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位およびクロロトリフルオロエチレン単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロオレフィン単位ならびにフッ化ビニリデン単位を含むフッ化ビニリデン系重合体粒子100質量部を含む水性分散体中において、(メタ)アクリル系単量体および紫外線吸収部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体または光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体を含むアクリル系単量体混合物100質量部以上を乳化重合に供することを特徴とするフッ化ビニリデン系重合体部分の含有量が50質量%以下であるアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体の製造方法にも関する。
【0012】
本発明はまた、本発明のアクリル−フッ素複合重合体粒子を含む水性分散体、さらには該水性分散体を含む水性塗料用組成物にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフッ素含有量が低減化されたアクリル−フッ素複合重合体粒子を用いることにより、コストの削減ができるうえ、耐候性に優れた塗膜を形成させることができ、得られる塗膜の光沢の低下を抑えることができるフッ素樹脂水性塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアクリル−フッ素複合重合体粒子は、フッ化ビニリデン(VDF)系重合体部分(A)と、アクリル重合体部分(B)とを含み、該VDF系重合体部分(A)の含有量が50質量%以下である。本発明のアクリル−フッ素複合重合体粒子は、VDF系重合体部分(A)の含有量が50質量%以下であるので、耐候性に優れた塗膜を形成させることができる。また、アクリル−フッ素複合重合体粒子をクリア塗料として使用した場合に、下地塗料の変色を防止できる。
【0015】
アクリル−フッ素複合重合粒子中のVDF系重合体部分(A)の含有量が50質量%を超えると、アクリル重合体部分(B)が紫外線吸収部位または光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体単位を含むものであったとしても、優れた耐候性を示す塗膜を形成させることができない。また、アクリル−フッ素複合重合体粒子をクリア塗料として使用した場合に、下地塗料の変色を防止できない。
【0016】
VDF系重合体部分(A)は、構造単位としてテトラフルオロエチレン(TFE)単位、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位およびクロロトリフルオロエチレン(CTFE)単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロオレフィン単位ならびにVDF単位を含む。
【0017】
これらの含フッ素構造単位のほか、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)などのフルオロオレフィン単位;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン単位;エチルビニルエーテル(EVE)、シクロヘキシルビニルエーテル(CHVE)、ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、メチルビニルエーテル、ポリオキシエチレンビニルエーテルなどのビニルエーテル単位;ポリオキシエチレンアリルエーテル、エチルアリルエーテル、ヒドロキシエチルアリルエーテル、アリルアルコール、アリルエーテルなどのアルケニル単位;酢酸ビニル、乳酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、VEOVA9(シェル社製)、VEOVA10(シェル社製)などのビニルエステル単位;無水イタコン酸、無水コハク酸、クロトン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸単位;などを含んでいてもよい。
【0018】
好ましいVDF系重合体部分を構成する共重合組成としては、たとえばVDF/HFP共重合体、VDF/TFE/HFP共重合体、VDF/CTFE系共重合体、VDF/TFE/PAVE系共重合体、VDF/TFE/CTFE系共重合体などがあげられる。これらのうち、アクリル重合体部分(B)を構成する非フッ素系の単量体との親和性が良好な点から、VDFが重合体中に50モル%以上含有されていることが好ましい。これらのなかでも、耐侯性、耐久性が良好な点から、VDF/TFE/CTFE共重合体が好ましい。
【0019】
VDF系重合体部分(A)の分子量は数平均分子量で1,000,000以下、さらには200,000以下、特に100,000以下のものがアクリル重合体部分(B)を構成する非フッ素系の単量体との親和性が良好な点で好ましく、1,000以上、さらには4,000以上、特に5,000以上のものが耐候性、耐久性に優れる点で好ましい。
【0020】
アクリル重合体部分(B)は、(メタ)アクリル系単量体単位および紫外線吸収部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体単位または光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体単位を含む。アクリル重合体部分(B)は、エチレン性不飽和基含有単量体単位及び光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体単位の両方を含むものであってもよい。
【0021】
(メタ)アクリル系単量体としては、たとえば、アクリル酸、アルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステル、アルキル基の炭素数が1〜18のメタクリル酸アルキルエステルなどが好ましくあげられる。
【0022】
アルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステルとしては、たとえばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリルなどをあげることができる。
【0023】
アルキル基の炭素数が1〜18のメタクリル酸アルキルエステルとしては、たとえばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリルなどをあげることができる。
【0024】
さらに、アクリル酸またはメタクリル酸;アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピルなどの水酸基含有単量体;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有単量体;γ−トリメトキシシランメタクリレート、γ−トリエトキシシランメタクリレートなどのシラノール基含有単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミドなどのアミド化合物;アクロレインなどのアルデヒド基含有単量体;アクリロニトリルなどを共重合してもよい。
【0025】
さらにまた、耐溶剤性、耐水性向上の目的で、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレートなどの多官能性単量体を共重合することもできる。
【0026】
(メタ)アクリル系単量体としては、なかでも、耐候性、耐薬品性、密着性、光沢などを向上させるために、メタクリル酸メチル、炭素数4〜10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び、アクリル酸が好ましく、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル及びアクリル酸がより好ましい。特に、アクリル重合体部分(B)が、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸ブチル単位およびアクリル酸単位を含むことが、密着性に優れた塗膜を形成することでき、増粘性、及び、造膜性が良好な点から好ましい。アクリル重合体部分(B)がアクリル酸ブチル単位を含まないと、塗膜を形成させることができないおそれがある。
【0027】
アクリル−フッ素複合重合粒子中のフッ化ビニリデン系共重合体部分の含有量が50質量%を超える場合、アクリル重合体部分がメタクリル酸メチル単位のみからなるものであっても、造膜性に問題はない。フッ化ビニリデン系共重合体部分の比率が50質量%以下である場合、アクリル重合体部分がメタクリル酸メチル単位のみからなると、造膜性が低下するおそれがある。これは、フッ化ビニリデン系共重合体はガラス転移温度(Tg)が低く、メタクリル酸メチル単位のみからなるアクリル重合体はTgが高いからであると推測される。
アクリル重合体部分(B)はメタクリル酸メチル単位を25〜65質量%含むことが、フッ化ビニリデン系共重合体部分(A)の含有量が50質量%以下であっても、高い造膜性を得ることができることから好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数が1〜18のアルキル基を有するものが、フッ化ビニリデン系共重合体部分(A)の含有量が50質量%以下であっても、高い造膜性を得ることができることから好ましい。
アクリル−フッ素複合重合粒子中の相溶性を維持するために、アクリル重合体部分(B)はアルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルキルエステル単位を含むことが好ましい。
【0028】
アクリル重合体部分(B)における(メタ)アクリル系単量体単位の含有量は、アクリル重合体部分(B)中の80〜99質量%が好ましい。80質量%未満の場合、塗膜の光沢、硬度が低下する傾向にあり、99質量%を超える場合は、下地との密着性が低下する傾向にある。さらに好ましい含有量は90質量%以上、特に95質量%以上であり、また98質量%以下である。(メタ)アクリル系単量体は複数用いても良く、複数の(メタ)アクリル系単量体の1つとしてメタクリル酸メチルを用いた場合は、アクリル重合体(B)中にメタクリル酸メチル単位が25〜65質量%含まれることが、塗膜硬度が良好な点から好ましい。
【0029】
紫外線吸収部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体としては、たとえばべンゾトリアゾール型の紫外線吸収部位を有するメタクリレートであるRUVA93(大塚化学(株)製)、シアノアクリレート系などをあげることができる。そのほか、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系などの水酸基を含有する公知の紫外線吸収剤とメタクリル酸クロリド、アクリル酸クロリドなどの酸ハロゲン化物との反応により得られる紫外線吸収剤のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステルなどもあげることができる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
紫外線吸収部位は、ベンゾトリアゾール系の水酸基を有する部位であることが好ましい。
【0030】
光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体としては、たとえばアデカスタブLA82(旭電化工業(株)製)、アデカスタブLA87(旭電化工業(株)製)などのほか、水酸基を有する光安定化剤とメタクル酸、アクリル酸とのエステルなどもあげることができる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
アクリル重合体部分(B)における紫外線吸収部位および光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体の含有量は、アクリル−フッ素複合重合体粒子中の0.1〜30質量%が好ましい。0.1質量%未満の場合、紫外線吸収効果や光安定化効果を充分に発揮することができなくなる傾向にあり、30質量%を超えると、得られる含フッ素樹脂水性分散体を適用した塗料を用いて塗膜を形成した際に、塗膜の透明性が失われ、また顔料分散塗膜の光沢が低下する傾向にある。より好ましい含有量は、0.3質量%以上であり、10質量%以下、さらには5質量%以下である。
【0032】
アクリル重合体部分(B)には、他のエチレン性不飽和基含有単量体単位、たとえばエチレン、プロピレン、イソブチレンなどのαオレフィン類;エチルビニルエーテル(EVE)、シクロヘキシルビニルエーテル(CHVE)、ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、メチルビニルエーテル、ポリオキシエチレンビニルエーテルなどのビニルエーテル類;ポリオキシエチレンアリルエーテル、エチルアリルエーテル、ヒドロキシエチルアリルエーテル、アリルアルコール、アリルエーテルなどのアルケニル類;酢酸ビニル、乳酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、VEOVA9、VEOVA10(シェル社製)などのビニルエステル類;マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、クロトン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸類;スチレン、αメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物類などがあげられる。
【0033】
本発明のアクリル−フッ素複合重合体粒子の特徴の1つは、VDF系重合体部分(A)の含有量が50質量%以下である点にある。VDF系重合体部分(A)の含有量を50質量%以下にすることにより複合重合体粒子全体のフッ素含有量をたとえば25質量%以下に低減化できる。好ましいVDF系重合体部分(A)の含有量は40質量%以下である。ただ、VDF系重合体部分(A)の含有量が低くなりすぎると、たとえ紫外線吸収部位または光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体単位が導入されていてもフッ素樹脂の利点である耐候性や耐薬品性が低下してしまうことから、好ましくは30質量%以上、さらには35質量%以上である。
【0034】
本発明のアクリル−フッ素複合重合体粒子において、耐水性や塗膜の光沢を損ねる可能性がある成分は、構造単位としても、または変性成分としても含まないことが望ましい。そうした耐水性や塗膜の光沢を損ねる可能性がある成分としては、たとえば特許文献3などにおいて乳化重合時に乳化剤として使用される反応性乳化剤などがあげられる。反応性乳化剤の使用は必ずしも禁止されるものではないが、使用する場合は、耐水性や塗膜の光沢を大きく損なわない量とすべきである。
【0035】
本発明のアクリル−フッ素複合重合体粒子はVDF系重合体部分(A)の含有量を小さくすることでフッ素含有量を低減化し、製造コストを低く抑えることができると共に、紫外線吸収部位または光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体単位を導入することにより、耐候性に優れた塗膜を形成させることができ、得られる塗膜の光沢の低下を抑えることができる。さらに、反応性乳化剤残渣を含まない場合には、フッ素含有量が低い場合でも高い耐水性を示す塗膜を形成でき、得られた塗膜の光沢の低下を抑えることができる。
アクリル重合体部分(B)は、反応性乳化剤単位を含まないことが好ましい。
【0036】
本発明のアクリル−フッ素複合重合体粒子は、たとえばつぎの本発明の方法により水性分散体の形態で製造できる。
【0037】
本発明のVDF系重合体の含有量が50質量%以下であるアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体の製造方法は、構造単位としてTFE単位、HFP単位およびCTFE単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロオレフィン単位ならびにVDF単位を含むVDF系重合体粒子100質量部を含む水性分散体中において、(メタ)アクリル系単量体および紫外線吸収部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体または光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体を含むアクリル系単量体混合物100質量部以上を乳化重合に供することを特徴とする。
【0038】
すなわち、本発明のVDF系重合体の含有量が50質量%以下であるアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体の製造方法は、構造単位としてTFE単位、HFP単位およびCTFE単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロオレフィン単位ならびにVDF単位を含むVDF系重合体粒子を含む水性分散体中において、VDF系重合体粒子100質量部に対して、100質量部以上の(メタ)アクリル系単量体および紫外線吸収部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体または光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体を含むアクリル系単量体混合物を乳化重合に供することを特徴とする。
【0039】
本発明の製造方法で使用するVDF系重合体、(メタ)アクリル系単量体および紫外線吸収部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体、光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体としては、前記アクリル−フッ素複合重合体粒子で説明したものが使用できる。
【0040】
(メタ)アクリル系単量体は、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチルおよびアクリル酸であることが好ましい。この理由は、密着性に優れた塗膜を形成させることができる水性分散体が得られ、得られた水性分散体から塗料用組成物を調製する際に増粘させるおそれが少なく、しかも塗布した場合に造膜性に優れた水性分散体が得られるからである。また、アクリル−フッ素複合重合体粒子をクリア塗料として使用した場合に、下地塗料の変色を防止できる点からも好ましい。
【0041】
VDF系重合体粒子の粒径は、アクリル−フッ素複合重合体粒子の平均粒子径と密接に関連する。たとえばアクリル−フッ素複合重合体粒子の平均粒子径を150〜250nmとするためには、100〜200nmとすることが好ましい。
【0042】
VDF系重合体粒子の水性分散体は、通常の乳化重合法によって得ることができる。具体的には、たとえば特開平08−67795号公報などに記載された公知の方法が採用できる。得られる水性分散体の固形分濃度を通常30〜60質量%の範囲に調整した後、乳化剤を用いて、アクリル系単量体混合物を重合する。この重合形式はVDF系重合体粒子をシード粒子とするシード重合と呼ばれる。乳化剤としては、光沢度が高く、耐候性および耐水性に優れた塗膜を得ることができることから、非反応性乳化剤が好ましい。
【0043】
アクリル系単量体混合物のシード重合は、公知の方法、たとえばVDF系重合体粒子の存在下に、反応系にアクリル系単量体混合物の全量を一括して仕込む方法、アクリル系単量体混合物の一部を仕込み反応させた後、残りを連続または分割して仕込む方法、アクリル系単量体混合物の全量を連続して仕込む方法などによって行うことができる。これらのうち耐水性が良好な点から連続仕込みによる重合法が好ましい。
【0044】
また、このシード重合の重合条件は、通常の乳化重合と同様である。たとえば、VDF系重合体粒子を含む水性媒体中に、非反応性乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤、場合によってはキレート化剤、pH調整剤などを添加し、10〜90℃の温度で0.5〜6時間反応を行うことにより重合することができる。
【0045】
非反応性乳化剤としては、アニオン性乳化剤、非イオン性乳化剤を単独またはこれらの併用があげられる。場合によっては両性乳化剤を用いることもできる。
【0046】
アニオン性乳化剤としては、たとえば高級アルコール硫酸エステル、アルキルスルホン酸ナトリウム塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸ナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩などの炭化水素系アニオン性乳化剤;フルオロアルキルカルボン酸塩、フルオロアルキルスルホン酸塩、フルオロアルキル硫酸エステルなどの含フッ素アニオン性乳化剤などをあげることができる。
【0047】
非イオン性乳化剤としては、たとえばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、グリセリンエステル類、これらの誘導体などをあげることができる。両性乳化剤としては、たとえばラウリルベタインなどをあげることができる。
【0048】
これらのなかでも、耐水性が良好な点から、高級アルコール硫酸エステルなどが好ましく、特にポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステルが、耐温水性が良好な点から好ましい。
【0049】
非反応性乳化剤の添加量は、水に対して1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下であり、下限は通常0.05質量%である。
【0050】
また、乳化剤として、(メタ)アクリル系単量体やエチレン性不飽和基含有単量体と共重合可能な、いわゆる反応性乳化剤と非反応性乳化剤とを併用することもできる。ただし、反応性乳化剤を単独で使用すると耐水性や塗膜の光沢を大きく損なうことがあるため、本発明においては反応性乳化剤の単独使用はない。非反応性乳化剤と併用する場合であっても、耐水性や塗膜の光沢を大きく損なわない量とすべきである。
【0051】
シード重合の際に用いる重合開始剤としては、水性媒体中でフリーラジカル反応に供し得るものであれば特に限定されず、場合によっては、還元剤と組み合せて用いることも可能である。使用可能な水溶性の重合開始剤としては、たとえば過硫酸塩、過酸化水素、還元剤としては、ピロ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸ナトリウム、ロンガリットなどをあげることができる。油溶性の重合開始剤としては、たとえばジイソプロピルパーオキシジカーボネート(IPP)、過酸化ベンゾイル、過酸化ジブチル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などをあげることができる。重合開始剤の使用量は、通常、アクリル系単量体混合物100質量部あたり、0.05〜2.0質量部である。
【0052】
シード重合の際に用いてもよい連鎖移動剤としては、たとえばクロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素;n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタンなどのメルカプタン類などをあげることができる。連鎖移動剤の使用量は、通常、アクリル系単量体混合物100質量部あたり、0〜5.0質量部である。
【0053】
本発明の製造方法において、VDF系重合体粒子とアクリル系単量体混合物との比率は、VDF系重合体粒子100質量部に対してアクリル系単量体混合物は100質量部以上である。さらには、密着性、光沢が良好な点から、VDF系重合体粒子100質量部に対してアクリル系単量体混合物は150質量部以上、特に240質量部以上が好ましい。
【0054】
本発明において水性分散体中でのアクリル−フッ素複合重合体粒子の粒子径は、150〜250nmが好ましい。より好ましくは、170〜230nmである。粒子径が150nm未満であると、水性分散体のアクリル−フッ素複合重合体粒子の濃度が実用的範囲である30質量%以上において水性分散体の粘度が著しく増大し、塗料化の作業に支障を来すことがある。一方250nmを超えると、得られる水性分散体の沈降安定性が低下する傾向があり、また、アクリル−フッ素複合重合体粒子の最低成膜温度の上昇を招くことがある。
【0055】
本発明のアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体の固形分濃度は、塗料用途の観点からは30〜65質量%であることが好ましく、より好ましくは35〜50質量%である。
【0056】
本発明のアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体は、種々の形態で各種の用途に利用できる。
【0057】
たとえば、各種の塗料組成物の塗膜形成成分、フィルムやシートの成形材料のほか、接着剤組成物、インキ用組成物などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
塗料組成物としては、耐候性塗料組成物、特に建築・建材用の耐候性塗料組成物、自動車の内・外装用塗料組成物、電気製品の内・外装塗料用組成物、事務機器あるいは厨房器具類の塗料組成物などが例示でき、特に耐候性・耐久性が良好な点から建材用の耐候性塗料組成物に有利に適用できる。
【0059】
耐候性塗料組成物は、たとえばクリアー塗料組成物でも、各種顔料が配合された塗料組成物でもよい。配合してもよい塗料用添加剤としては、硬化剤のほか、たとえば界面活性剤、顔料、分散剤、増粘剤、防腐剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング剤などがあげられる。
【0060】
フィルムやシートは、本発明の水性分散体をキャスティング法といった従来公知の方法で製造することができる。
【実施例】
【0061】
つぎに本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
製造例1(VDF系重合体粒子の水性分散体の製造)
2Lのステンレススチール製のオートクレーブに、イオン交換水500g、式:
CH=C(CH)−CHCH−O−(BO)−(EO)10−SONH
(式中、BOはブチレンオキサイド単位;EOはCHCHOまたはCH(CH)O単位)で示される化合物(1−1)0.10g(200ppm/水(重合媒体としての水。以下同様))を仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換後、減圧にした。続いて重合槽内を系内圧力が0.75〜0.80MPaとなるようにVDF/TFE/CTFE(=74/14/12モル%)混合単量体を圧入し、70℃に昇温した。
【0063】
ついで過硫酸アンモニウム(APS)1.0g(2000ppm/水)を4mlのイオン交換水に溶解した重合開始剤溶液および酢酸エチル0.75g(1500ppm/水)を窒素ガスで圧入し、600rpmで攪拌しながら反応を開始した。
【0064】
重合の進行に伴い内圧が降下し始めた時点で、VDF/TFE/CTFE(=74/14/12モル%)混合単量体を内圧が0.75〜0.80MPaを維持するように供給した。重合開始から2時間5分後に未反応単量体を放出し、オートクレーブを冷却して、固形分濃度10.6質量%のVDF系(VDF/TFE/CTFE)共重合体粒子の水性分散体を得た。
【0065】
実施例1(アクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体の製造)
攪拌翼、冷却管、温度計を備えた内容量2Lの四つ口フラスコに、製造例1で得られたVDF系共重合体粒子(シード粒子)の水性分散液90gを仕込み、これにシード重合の際のシード粒子の安定性確保のために非反応性乳化剤である707SF(日本乳化剤(株)製)をVDF系共重合体固形分に対して2.6質量%添加した。攪拌下に水浴中で加温し、該フラスコ内の温度を75℃に上げた。別途、メタクリル酸メチル(以下、MMAと略す)とブチルアクリレート(以下、BAと略す)とアクリル酸(以下、AAと略す)と反応性紫外線吸収剤RUVA93(大塚化学工業(株)製)の62.3/35.7/1.1/0.9(質量比)の混合単量体(98g)とAPSの1%水溶液16ml(混合単量体の0.158質量%に相当する量)の混合エマルジョンを調製し、これを2時間かけてフラスコ中に滴下し、重合した。重合開始2.5時間後に、前記フラスコ内の温度を80℃に上げ、2時間保持したのち冷却し、アンモニア水で中和してpHを7に調整し、300メッシュの金網で濾過して青白色の本発明のアクリル−フッ素複合重合体粒子(平均粒子径200nm)の水性分散体を製造した。
【0066】
(白塗料組成物の調製)
上記で得られたアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体と添加物を以下に示す配合比で混合し、ディスパー攪拌機を用いて充分混合して白塗料組成物を調製した。
アクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散液 65.00質量部
水 9.12質量部
酸化チタン 31.39質量部
顔料分散剤 2.35質量部
凍結防止剤 1.79質量部
pH調整剤 0.04質量部
消泡剤 0.11質量部
増粘剤 0.38質量部
造膜助剤 2.35質量部
【0067】
なお、使用した各成分はつぎのものである。
酸化チタン:石原産業(株)製タイペークCR−97(商品名)
顔料分散剤:サンノプコ(株)製ノプコスパースSN−5027(商品名)
凍結防止剤:エチレングリコール
pH調整剤:アンモニア水
消泡剤:ビックケミー製BYK028(商品名)
増粘剤:旭電化工業(株)製アデカノールUH−420(商品名)
造膜助剤:アジピン酸ジエチル
【0068】
得られた白塗料組成物について、つぎの試験を行なった。結果を表1に示す。
【0069】
(被験塗板の作製)
得られた白塗料組成物をアルミ板(予めアクリル系塗料(日本合成化学(株)製のDM774(商品名))を100g/mとなるように塗装し、室温で1日間乾燥させたもの)に150g/mとなるように塗装し、室温で7日間乾燥させ、被験塗板を作製した。
【0070】
(光沢)
被験塗板を23℃で7日間乾燥した後、JIS K5600−4−7に従って変角光沢計(日本電色工業(株)製VGS−SENSOR)を用いて60°鏡面光沢度を測定した。
【0071】
(耐侯性)
被験塗板を23℃で7日間乾燥した後、促進耐侯性試験機QUV(米国Q−LAB社製)を用いて1000時間試験を行い、試験後の60°鏡面光沢度保持率を測定した。
【0072】
(耐水性試験)
被験塗板を23℃で1日間乾燥した後、JIS K5600−5−6に従って一次密着試験を行い、はがれ(JIS K5600−8−5に準拠)の等級を評価した。その後JIS K5600−6−2に従って23℃の水中に6日間浸漬し、その後23℃で1日間乾燥し、膨れ(JIS K5600−8−2)、割れ(JIS K5600−8−4)、はがれ(JIS K5600−8−5)の等級を評価した。さらに被験塗板を23℃で1日間乾燥した後、JIS K5600−5−6に従って二次密着試験を行いはがれ(JIS K5600−8−5に準拠)の等級を評価した。
【0073】
膨れの等級(JIS K5600−8−2)の評価基準
密度を0〜5の等級(小さい方が0)に、大きさをS1〜S5の等級(S1の方が小さい)に分け、たとえば2(S1)のように記載する。
【0074】
割れの等級(JIS K5600−8−4)の評価基準
密度を0〜5の等級(小さい方が0)に、大きさをS0〜S5の等級(S0の方が小さい)に、深さをa〜cの等級(aの方が浅い)に分け、たとえば2(S1)bのように記載する。
【0075】
はがれの等級(JIS K5600−8−5)の評価基準
密度を0〜5の等級(小さい方が0)に、大きさをS1〜S5の等級(S1の方が小さい)に、深さをa〜bの等級(aの方が浅い)に分け、たとえば2(S1)aのように記載する。
【0076】
実施例2(アクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体の製造)
製造例1で得られたVDF系共重合体粒子の水性分散体を用い、安定性確保のための乳化剤として非反応性乳化剤である707SFに代えて反応性乳化剤であるJS−20(三洋化成社製)をVDF系共重合体固形分に対して1.5質量%添加したほかは実施例1と同様にしてシード重合を行い、本発明のアクリル−フッ素複合重合体粒子(平均粒子径205nm)の水性分散体を製造した。
【0077】
上記で得られたアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体を用いたほかは実施例1と同様にして白塗料組成物を調製し、各種の特性を調べた。結果を表1に示す。
【0078】
比較例1(比較用のアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体の製造)
反応性紫外線吸収剤を共重合しなかったほかは実施例1と同様にしてシード重合を行い、比較用のアクリル−フッ素複合重合体粒子(平均粒子径198nm)の水性分散体を製造した。
【0079】
上記で得られた比較用のアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体を用いたほかは実施例1と同様にして白塗料組成物を調製し、各種の特性を調べた。結果を表1に示す。
【0080】
比較例2(比較用のアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体の製造)
反応性紫外線吸収剤を共重合しなかったほかは実施例2と同様にしてシード重合を行い、比較用のアクリル−フッ素複合重合体粒子(平均粒子径203nm)の水性分散体を製造した。
【0081】
上記で得られた比較用のアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体を用いたほかは実施例1と同様にして白塗料組成物を調製し、各種の特性を調べた。結果を表1に示す。
【0082】
比較例3(比較用のアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体の製造)
攪拌翼、冷却管、温度計を備えた内容量2Lの四つ口フラスコに、製造例1で得られたVDF系共重合体粒子の水性分散液490gを仕込み、これにシード重合の際のシード粒子の安定性確保のために非反応性乳化剤である707SF(日本乳化剤(株)製)をVDF系共重合体固形分に対して2.6質量%、反応性乳化剤であるRMA−450M(日本乳化剤(株)製)をVDF系共重合体固形分に対して3質量%添加した。攪拌下に水浴中で加温し、該フラスコ内の温度を75℃に上げた。別途、MMAとBAとAAの63.2/35.7/1.1(質量比)の混合単量体(98g)とドデシルメルカプタン0.5g(混合単量体の0.5質量%に相当する量)、APSの1%水溶液16ml(混合単量体の0.158質量%に相当する量)の混合エマルジョンを調製し、これを2時間かけてフラスコ中に滴下し、重合を開始した。重合開始2.5時間後に、前記フラスコ内の温度を80℃に上げ、2時間保持したのち冷却し、アンモニア水で中和してpHを7に調整し、300メッシュの金網で濾過して青白色の比較用のアクリル−フッ素複合重合体粒子(平均粒子径230nm)の水性分散体を製造した。
【0083】
上記で得られた比較用のアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体を用いたほかは実施例1と同様にして白塗料組成物を調製し、各種の特性を調べた。結果を表1に示す。
【0084】
比較例4(比較用のアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体の製造)
攪拌翼、冷却管、温度計を備えた内容量2Lの四つ口フラスコに、製造例1で得られたVDF系共重合体粒子の水性分散液490gを仕込み、これにシード重合の際のシード粒子の安定性確保のために反応性乳化剤であるJS−20(三洋化成社製)をVDF系共重合体固形分に対して1.5質量%添加した。攪拌下に水浴中で加温し、該フラスコ内の温度を75℃に上げた。別途、MMAとAAの97.0/3.0(質量比)の混合単量体(98g)とドデシルメルカプタン0.5g(混合単量体の0.5質量%に相当する量)、APSの1%水溶液16ml(混合単量体の0.158質量%に相当する量)の混合エマルジョンを調製し、これを2時間かけてフラスコ中に滴下し、重合を開始した。重合開始2.5時間後に、前記フラスコ内の温度を80℃に上げ、2時間保持したのち冷却し、アンモニア水で中和してpHを7に調整し、300メッシュの金網で濾過して青白色の比較用のアクリル−フッ素複合重合体粒子(平均粒子径230nm)の水性分散体を製造した。
上記で得られた比較用のアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体を用いたほかは実施例1と同様にして白塗料組成物を調製し、各種の特性を調べた。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1から、反応性紫外線吸収剤を共重合した場合、VDF系重合体部分が少なくても耐候性が維持できしかも塗膜光沢が向上することが分かる。特に、アクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体の製造工程で非反応性乳化剤を用いた場合、耐水性がさらに向上することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)構造単位としてテトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位およびクロロトリフルオロエチレン単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロオレフィン単位ならびにフッ化ビニリデン単位を含むフッ化ビニリデン系重合体部分と、
(B)(メタ)アクリル系単量体単位および紫外線吸収部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体単位または光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体単位を含むアクリル重合体部分とを含むアクリル−フッ素複合重合体粒子であって、該フッ化ビニリデン系重合体部分(A)の含有量が50質量%以下であるアクリル−フッ素複合重合体粒子。
【請求項2】
アクリル系重合体部分(B)が、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸ブチル単位およびアクリル酸単位を含む請求項1記載のアクリル−フッ素複合重合体粒子。
【請求項3】
フッ化ビニリデン系重合体部分(A)が、テトラフルオロエチレン単位およびクロロトリフルオロエチレン単位を含む請求項1または2記載のアクリル−フッ素複合重合体粒子。
【請求項4】
アクリル系重合体部分(B)が、メタクリル酸メチル単位を25〜65質量%含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル−フッ素複合重合体粒子。
【請求項5】
構造単位としてテトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位およびクロロトリフルオロエチレン単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロオレフィン単位ならびにフッ化ビニリデン単位を含むフッ化ビニリデン系重合体粒子100質量部を含む水性分散体中において、(メタ)アクリル系単量体および紫外線吸収部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体または光安定化部位を有するエチレン性不飽和基含有単量体を含むアクリル系単量体混合物100質量部以上を乳化重合に供することを特徴とするフッ化ビニリデン系重合体の含有量が50質量%以下であるアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体の製造方法。
【請求項6】
(メタ)アクリル系単量体は、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチルおよびアクリル酸である請求項5記載のアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクリル−フッ素複合重合体粒子を含む水性分散体。
【請求項8】
請求項5または6記載の製造方法により得られるアクリル−フッ素複合重合体粒子の水性分散体。
【請求項9】
請求項7または8記載の水性分散体を含む水性塗料用組成物。

【公開番号】特開2012−82414(P2012−82414A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204929(P2011−204929)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】