説明

アクリルアミドの産生を最小化するための微生物の機能強化

本開示は、食品調製/加工条件下で、アスパラギン輸送/分解の窒素異化抑制を減少させ、かつ/あるいはアスパラギン分解に関与する細胞壁もしくは細胞外タンパク質をコードする遺伝子(ASP1もしくはASP3)および/またはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子(AGP1もしくはGNP1もしくはGAP1)を過剰発現する核酸分子(GAT1)により形質転換された酵母を提供する。この遺伝子組換え酵母は、加熱により調製される食品中のアクリルアミド濃度を減少させる能力が強化されている。食品製品中のアクリルアミドを減少させるための方法およびトランスジェニック酵母の使用、ならびにトランスジェニック酵母を使用して調製されるアクリルアミド含量が減少した食品製品も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、全体が参照により本明細書に組み込まれている、それぞれ2010年3月2日および2010年3月23日に出願した対応する米国仮特許出願第61/309623号および第61/316634号の優先権に基づく米国特許法第119条の利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、食品中のアクリルアミド濃度を減少させる製品および方法、ならびにアクリルアミド含量が減少した食品製品に関する。特に、本開示は、アクリルアミドを減少させる能力を強化するための遺伝子組換え微生物に関する。
【背景技術】
【0003】
アクリルアミドは、セメントバインダーとしてならびにポリマーおよびゲルの合成で一般的に使用される重要な工業用モノマーである無色無臭の結晶性固体である。種々のインビボおよびインビトロ研究に基づいて、アクリルアミドおよびその代謝産物グリシダミドの発癌性ならびに遺伝毒性効果に関する明らかな証拠が存在する(Wilson他、2006;Rice、2005)。アクリルアミドは、1994年に国際がん研究機関(IARC)により評価され、マウスおよびラットで行われた陽性生物検定に基づき「ヒトに対する発癌性がおそらくある」と分類され、それはアクリルアミドが哺乳動物組織中で遺伝毒性グリシダミド代謝産物に生体内変換する証拠により裏付けられた(IARC、1994)。アクリルアミドのグリシダミドへの生体内変換は、ヒト組織および齧歯動物組織の両方で効率的に起こることが知られている(Rice、2005)。IARC分類に加えて、欧州連合の「毒性、生態毒性および環境に関する科学委員会」および独立した英国の「食品、消費者製品および環境中の化学物質の発癌性に関する委員会」の両者は、アクリルアミドのヒトへの曝露は、その体細胞および生殖細胞の両方に対する神経毒性ならびに遺伝毒性、発癌性ならびに生殖毒性を含む本質的有毒性のために、可能な限り低いレベルに規制されるべきであると勧告した。
【0004】
食事性のアクリルアミド曝露に関するヒト疫学的研究に関して、この化学物質のいかなる発癌性効果についての証拠も存在しないが、アクリルアミドに関するこれらの疫学的研究は、アクリルアミドに曝露したヒトにおける潜在的腫瘍を明らかにするのに十分感受性でない可能性があることも認識されている(Rice、2005;Wilson他、2006)。
【0005】
2002年に、スウェーデン国立食品庁は、いくつかの一般的な食品、特にフライドポテトおよびポテトチップスなどの加熱処理した炭水化物に富む食品中に見られるアクリルアミドの濃度を詳述した報告書を公開した。その一覧表は、現在、穀物食品、植物性食品、豆類食品、コーヒーもしくはコーヒー代用品などの飲料を含むまで拡大されている。Table 1(表1)は、種々の食品中のアクリルアミド濃度に関するFDAデータを示している。
【0006】
アクリルアミドは、主に、アミノ酸アスパラギンとグルコースなどの還元糖との間のメイラード反応により食品の調理中に形成され、アスパラギンが律速的前駆物質であることが現在立証されている(Amrein他、2004;Becalski他、2003;Mustafa他、2005;Surdyk他、2004;Yaylayan他、2003)。
【0007】
酵素アスパラギナーゼの市販調合剤(Acrylaway(登録商標)、Novozymes、Denmark and PreventASe、DSM、オランダ)の添加、6時間の大規模酵母発酵(Fredriksson他、2004)、発酵前の生地へのグリシンの添加(Brathen他、2005;Fink他、2006)、揚げる前のジャガイモの塩化カルシウムへの浸漬(GokmenおよびSenyuva、2007)、ショ糖による還元糖の置換(Amrein他、2004)、温度、pHおよび水分含量などの加工条件の一般的最適化(Claus他、2007;Gokmen他、2007)ならびに異なる原料の選択に関する研究(Claus他、2006)を含む、食品中のアクリルアミド含量を減少させるためのいくつかのアプローチも試みられてきた。これらの列挙したアプローチの全ては、ある程度不適切であるか、費用、食品の感覚受容特性に対する効果および/または食品加工条件下でのアクリルアミド減少が非効果的であることを含む、食品製品の製造中にそれらを非実用的にする固有の問題を有する。
【0008】
出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)は、多くの微生物のように、アクリルアミド前駆物質であるアスパラギンおよび還元糖を自然に消費/分解することができる。このことが、6時間の大規模発酵時間後のパン中のアクリルアミド含量の減少が観察される理由であり得る(Fredriksson他、2004)。しかしながら、アクリルアミドを効果的に減少させるためのこのような大規模発酵時間は、現代の食品製造工程では非実用的である。
【0009】
出芽酵母では、アスパラギン分解の原因である遺伝子は、それぞれ細胞質アスパラギナーゼおよび細胞壁アスパラギナーゼをコードするASP1およびASP3である。また、「アミノ酸輸送」という用語に注釈を付けられた出芽酵母の少なくとも41の遺伝子が存在し、これらの輸送体の6個は、アスパラギンを細胞中に輸送することができることが知られている[''Saccharomyces Genome Database'' http://www.yeastgenome.org/(10/01/09)]。出芽酵母のこれらの6個のアスパラギン輸送体の遺伝子名は、GAP1、AGP1、GNP1、DIP5、AGP2およびAGP3である。出芽酵母は、成長のために多種多様な窒素源を使用することができること、および出芽酵母は、混合基質培地中、高窒素源から低窒素源を順次選択するであろうこともよく立証されている(Cooper、1982)。この順次使用は、感知システムからなる分子機構、および窒素異化抑制(NCR)として知られている転写制御機構により制御されている。一般に、NCRとは、透過酵素および窒素源を分解するために必要とされる異化酵素の遺伝子発現の差異を指す。窒素異化経路の発現は、上流活性化コンセンサス配列5'-GATAA-3'に結合するGln3p、Gat1p、Dal80pおよびGzf3pとして知られている4個の制御因子により制御されている。Gln3pおよびGat1pは、遺伝子発現に正に作用する一方で、Dal80pおよびGzf3pは負に作用する。高窒素源の存在下では、Gln3pおよびGat1pは、TORキナーゼTor1pおよびTor2pによりリン酸化され、次いで、Ure2pと細胞質複合体を形成し、それによってNCR感受性転写の活性化が抑制される。低窒素源の存在下または窒素飢餓下では、Gln3pおよびGat1pは、脱リン酸化され、Ure2pから解離し、核中に蓄積し、NCR感受性転写を活性化する。
【0010】
URE2の特定の突然変異は、[URE3]と呼ばれる優性突然変異をもたらすこともよく記述されている。[URE3]は、Ure2pの感染性プロテアーゼ抵抗性アミロイド線維への自己触媒的変換により形成される酵母プリオンである(Wickner、1994)。機能性Ure2pを欠く出芽酵母細胞および[URE3]感染細胞の表現型は、NCRにもはや応答しない点で類似している(Wickner、1994;Wickner他、1995)。上記のように、高窒素源に応じて、Ure2pは、Gln3pおよびGat1p活性の下方制御に関与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4598049号
【特許文献2】米国特許第4458066号
【特許文献3】米国特許第4401796号
【特許文献4】米国特許第4373071号
【特許文献5】米国特許第4554101号
【特許文献6】米国特許第6140108号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】SmithおよびWaterman、1981、Adv.Appl.Math 2:482
【非特許文献2】NeedlemanおよびWunsch、1970、J.Mol.Biol.48:443
【非特許文献3】PearsonおよびLipman、1988、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444
【非特許文献4】Altschul他、1990、J.Mol.Biol. 215:403-10
【非特許文献5】HenikoffおよびHenikoff、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915〜10919
【非特許文献6】Ausubel他(編)、1989、Current Protocols in Molecular Biology、第1巻、Green Publishing Associates, Inc.、およびJohn Wiley&Sons, Inc.、ニューヨーク、2.10.3頁
【非特許文献7】Tijssen、1993、Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology - Hybridization with Nucleic Acid Probes、Part I、Chapter 2「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays」、Elsevier、ニューヨーク
【非特許文献8】J.Mol.Bio. 179:125〜142、184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本開示は、食品調製/加工条件下で窒素異化抑制を減少させる少なくとも1つの核酸分子により形質転換された微生物を提供する。本開示はまた、食品調製/加工条件下で、アスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/またはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する少なくとも1つの核酸分子により形質転換された微生物を提供する。本開示はまた、食品調製/加工条件下で、窒素異化抑制を減少させるならびに/あるいはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/またはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する少なくとも1つの核酸分子により形質転換された微生物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一実施形態では、微生物は、細胞壁結合型アスパラギナーゼ、Asp3pなどの細胞外アスパラギナーゼをコードする核酸分子により形質転換される。別の実施形態では、微生物は、アスパラギンアミノ酸輸送体、例えば、Gap1p、Agp1p、Gnp1p、Dip5p、Agp2pおよび/またはAgp3pなどのアミノ酸輸送体をコードする核酸分子により形質転換される。
【0015】
別の実施形態では、微生物は、Asp3pおよびGap1pの両方あるいはAsp3pおよびGat1pの両方をコードする核酸分子により形質転換される。別の実施形態では、微生物は、Asp3pをコードする第1核酸分子およびGap1pもしくはGat1pをコードする第2核酸分子により形質転換される。
【0016】
さらに別の実施形態では、微生物は、Ure2p、Dal80p、Gzf3p、Gln3p、Gat1p、Tor1pおよび/またはTor2pなどのアスパラギン輸送/分解の窒素異化抑制の制御因子の活性を改変する核酸分子により形質転換される。別の実施形態では、微生物は、窒素異化抑制制御因子Gln3pおよびUre2p、両方の活性を改変する核酸分子により形質転換される。さらに別の実施形態では、微生物は、窒素異化抑制を改変する、Gln3pをコードする第1核酸分子およびUre2pの発現を改変する第2核酸分子により形質転換される。
【0017】
一実施形態では、微生物は、真菌または細菌である。真菌は、出芽酵母、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロマイセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・ケフィル(Candida kefyr)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、クリプトコッカス・ラウレンティ(Cryptococcus laurentii)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、ハンセヌラ・アノマラ(Hansenula anomala)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クルイベロマイセス・フラジリス(Kluyveromyces fragilis)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・マルシアヌス変種ラクティス(Kluyveromyces marxianus var lactis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)または菌界に属する任意の酵母種などの酵母を含む任意の真菌であり得る。使用することができる他の真菌には、それだけに限らないが、アスペルギルス属(Aspergillus)、ペニシリウム属(Penicillium)、クモノスカビ属(Rhizopus)およびケカビ属(Mucor)の種が含まれる。細菌は、エルウィニア属の種(Erwinia sp.)、乳酸桿菌属の種(Lactobacillus sp.)、ラクトコッカス属の種(Lactococcus sp.)、バチルス属の種(Bacillus sp.)、ペディオコッカス属の種(Pediococcus sp.)、シュードモナス属の種(Pseudomonas sp.)、ブレビバクテリウム属の種(Brevibacterium sp.)およびロイコノストック属の種(Leuconostoc sp.)を含む任意の細菌であり得る。一実施形態では、微生物は、不活性酵母などの不活性である。
【0018】
一実施形態では、少なくとも1つの核酸分子は、恒常的活性型(constitutively active)プロモーターと作動可能に連結している(operatively linked)。別の実施形態では、少なくとも1つの核酸分子は、窒素異化抑制を受けないプロモーターと作動可能に連結している。
【0019】
本明細書ではまた、調製または加工条件下で窒素異化抑制を減少させるあるいはアスパラギン輸送および/または分解に関与する遺伝子を過剰発現する、本明細書に開示する微生物を、調製または加工条件下で食品に添加し、それによって食品製品中のアクリルアミドを減少させる工程を含む、前記食品製品中のアクリルアミドを減少させる方法も提供される。
【0020】
本明細書では、(a)窒素異化抑制を減少させるあるいはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/またはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する少なくとも1つの核酸分子により微生物を形質転換する工程と、(b)前記微生物を、調製または加工条件下で食品に添加する工程とを含み、前記微生物が、窒素異化抑制を減少させるか、アスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/またはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現し、それによって食品製品中のアクリルアミドを減少させる、食品製品中のアクリルアミドを減少させる方法がさらに提供される。
【0021】
別の実施形態では、本明細書に開示する形質転換微生物を使用して製造されるアクリルアミド濃度が減少した食品製品が提供される。さらに別の実施形態では、本明細書に開示する方法を使用して製造されるアクリルアミド濃度が減少した食品製品が提供される。
【0022】
一実施形態では、食品製品は、それらだけに限らないが、ビスケット、パンおよびクラッカーを含む穀物食品製品、それだけに限らないが、ジャガイモ製品を含む植物性食品製品、それらだけに限らないが、コーヒーもしくはコーヒー代用品を含む飲料、果物製品、豆類製品、乳製品または肉製品である。
【0023】
本開示の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるだろう。しかしながら、本開示の精神および範囲内の種々の変更および修正がこの詳細な説明から当業者に明らかとなるので、詳細な説明および特定の実施例は、本開示の好ましい実施形態を示しているが、例示のためのみに与えられることを理解すべきである。
【0024】
ここで、本開示を以下の図面に関連して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】構築されたASP3遺伝子カセットおよび出芽酵母株のLEU2またはURA3遺伝子座への組込み後にkanMXマーカーを失うその後の工程の概略図である。天然DNA配列のみを含むセルフクローニング株を産生するPGK1プロモーター直接反復配列の組換えによりkanMXマーカーが除去される。
【図2】構築されたGAP1遺伝子カセットおよび出芽酵母株のURA3遺伝子座への組込み後にkanMXマーカーを失うその後の工程の概略図である。天然DNA配列のみを含むセルフクローニング株を産生するPGK1プロモーター直接反復配列の組換えによりkanMXマーカーが除去される。
【図3】構築されたAGP3遺伝子カセットおよび出芽酵母株のLEU2遺伝子座への組込み後にkanMXマーカーを失うその後の工程の概略図である。天然DNA配列のみを含むセルフクローニング株を産生するPGK1プロモーター直接反復配列の組換えによりkanMXマーカーが除去される。
【図4】構築されたAGP2遺伝子カセットおよび出芽酵母株のLEU2遺伝子座への組込み後にkanMXマーカーを失うその後の工程の概略図である。天然DNA配列のみを含むセルフクローニング株を産生するPGK1プロモーター直接反復配列の組換えによりkanMXマーカーが除去される。
【図5】構築されたGNP1遺伝子カセットおよび出芽酵母株のLEU2遺伝子座への組込み後にkanMXマーカーを失うその後の工程の概略図である。天然DNA配列のみを含むセルフクローニング株を産生するPGK1プロモーター直接反復配列の組換えによりkanMXマーカーが除去される。
【図6】構築されたAGP1遺伝子カセットおよび出芽酵母株のURA3遺伝子座への組込み後にkanMXマーカーを失うその後の工程の概略図である。天然DNA配列のみを含むセルフクローニング株を産生するPGK1プロモーター直接反復配列の組換えによりkanMXマーカーが除去される。
【図7】構築されたGAT1遺伝子カセットおよび出芽酵母株のLEU2遺伝子座への組込み後にkanMXマーカーを失うその後の工程の概略図である。天然DNA配列のみを含むセルフクローニング株を産生するPGK1プロモーター直接反復配列の組換えによりkanMXマーカーが除去される。
【図8】kanMXマーカーを使用した出芽酵母株のURE2遺伝子座へのセルフクローニングure2Δカセットの組込みおよび直接反復配列として作用する5'URE2フランキング配列の一部の組換えによるマーカーのその後の消失の概略図である。結果として生じる形質転換は、ゲノムからURE2遺伝子を欠失させる。
【図9】LEU2遺伝子座へ組み込むためのクローニング遺伝子カセットに使用する構築されたpAC1のプラスミドマップを示す図である。
【図10】URA3遺伝子座へ組み込むための遺伝子カセットのクローニングに使用するpAC2のプラスミドマップを示す図である。
【図11】遺伝子ASP1またはASP3を過剰発現している市販のパン酵母(BY)を使用したパン生地中のアスパラギンの消費を示す図である。
【図12】図11に概説する実験から5時間経過した時点でとった焼かれた生地サンプル中のアクリルアミド濃度を示す図である。
【図13】ASP3もしくはGAP1およびASP3/GAP1の組み合わせを過剰発現している市販のパン酵母(BY)を使用したパン生地中のアスパラギンの消費を示す図である。
【図14】DAL80またはURE2遺伝子のいずれかをノックアウトした実験室酵母(LY)を使用したパン生地中のアスパラギンの消費を示す図である。
【図15】図14に概説する実験から5時間経過した時点でとった焼かれた生地サンプル中のアクリルアミド濃度を示す図である。
【図16】増殖の5時間後のAGP2またはAGP3のいずれかを過剰発現している市販のパン酵母(BY)を使用した複合培地中のアスパラギンの消費を示す図である。
【図17】GAT1もしくはASP3のいずれかおよびGAT1/ASP3の組み合わせを過剰発現している市販のパン酵母(BY)を使用したアスパラギンおよびアンモニアを含む合成培地中のアスパラギンの消費を示す図である。
【図18】GNP1を過剰発現している市販のパン酵母(BY)を使用したアスパラギンおよびアンモニアを含む合成培地中のアスパラギンの消費を示す図である。
【図19】ASP3もしくはTOR1およびtor1Δ/ASP3の組み合わせを過剰発現している実験室酵母(LY)を使用したアスパラギンおよびアンモニアを含む合成培地中のアスパラギンの消費を示す図である。
【図20】増殖の5時間後のAGP1を過剰発現している市販のパン酵母(BY)およびGZF3をノックアウトした実験室酵母(LY)を使用したアスパラギンを含む合成培地中のアスパラギンの消費を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明者等は、アクリルアミドの産生をもたらす食品加工または調製中に産生される律速的前駆物質であるアスパラギンを消費および/または分解する能力が増加した酵母株を作製した。
【0027】
微生物
一実施形態では、食品調製/加工条件下で、窒素異化抑制を減少させ、かつ/またはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/もしくはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する少なくとも1つの核酸分子により形質転換された微生物が提供される。
【0028】
別の実施形態では、微生物は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つまたはそれ以上の核酸分子により形質転換される。
【0029】
本明細書で使用する句「アスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/またはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する」とは、核酸分子により形質転換されなかった対照と比較して、細胞膜に輸送または細胞壁に分泌され、アミノ酸アスパラギンの輸送および/または分解に関与するmRNAあるいはタンパク質の発現の増加を指す。
【0030】
核酸分子は、アスパラギン輸送に直接的もしくは間接的に関与するタンパク質および/またはアスパラギン分解に直接的もしくは間接的に関与する細胞外タンパク質をコードする任意の核酸分子であり得る。一実施形態では、核酸分子は、細胞壁アスパラギナーゼまたはアスパラギン分解活性を有するそのフラグメントをコードする。細胞外アスパラギナーゼは、当技術分野で既知の酵素であり、それだけに限らないが、酵母Asp3pまたはその相同体などの、アスパラギンをアスパラギン酸に変換することができ、それだけに限らないが、ASP3またはその相同体を含む細胞壁アスパラギナーゼをコードする任意のアスパラギナーゼ遺伝子によりコードされ得る任意の供給源からの細胞壁などの細胞外のアスパラギナーゼを含む。一実施形態では、細胞壁アスパラギナーゼは、配列番号2に示す核酸分子ASP3またはその相同体もしくはフラグメントによりコードされる、あるいは配列番号1に示すアミノ酸配列Asp3pまたはその相同体もしくはフラグメントを含む。細胞外アスパラギナーゼをコードする核酸分子を含む微生物は、食品調製および加工条件下でアスパラギンを分解することができるだろう。
【0031】
別の実施形態では、核酸分子は、アスパラギンを細胞中に輸送する能力を有するアミノ酸輸送体またはそのフラグメントをコードする。アミノ酸輸送体は、当技術分野で既知であり、それだけに限らないが、酵母Gap1p、Agp1p、Gnp1p、Dip5p、Agp2pおよびAgp3p(NP_012965、NP_009905、NP_010796、NP_015058、NP_009690およびNP_116600)またはその相同体などのアスパラギンを微生物中に積極的に輸送することができる任意の供給源からのアミノ酸輸送体を含み、それだけに限らないが、GAP1、AGP1、GNP1、DIP5、AGP2およびAGP3(SGD:S000001747、SGD:S000000530、SGD:S000002916、SGD:S000006186、SGDS000000336およびSGD:S000001839)またはその相同体を含む任意のアミノ酸輸送体遺伝子によりコードされ得る。したがって、一実施形態では、アミノ酸輸送体は、それぞれ配列番号4、6、8、10、12もしくは30に示す核酸分子GAP1、AGP3、AGP2、GNP1、AGP1もしくはDIP5、またはその相同体もしくはフラグメントによりコードされる、あるいはそれぞれ配列番号3、5、7、9、11もしくは29に示すGap1p、Agp3p、Agp2p、Gnp1p、Agp1pもしくはDip5pまたはその相同体もしくはフラグメントのアミノ酸配列を含む。アミノ酸輸送体をコードする核酸分子を含む微生物は、食品調製および加工条件下でアスパラギンを消費するまたは取り込むことができるだろう。
【0032】
別の実施形態では、微生物は、細胞壁アスパラギナーゼをコードする核酸およびアミノ酸輸送体をコードする核酸により形質転換される。このような実施形態では、微生物は、アスパラギンを消費および分解することができる。
【0033】
本明細書で使用するアスパラギン輸送/分解の「窒素異化抑制(NCR)を減少させる」という句は、NCR感受性遺伝子の遺伝子抑制の実際の減少を指す、またはNCR感受性遺伝子の内因性発現もしくは異種発現の増加を指す。例えば、NCRを減少させる核酸分子は、窒素異化抑制の発現を改変する制御因子であり得る、またはNCR感受性遺伝子の過剰発現であり得る。
【0034】
さらに別の実施形態では、核酸分子は、窒素異化抑制の制御因子の活性を改変する。窒素異化抑制のための制御因子は、当技術分野で既知であり、それらだけに限らないが、配列番号13、15、17、19、21、33もしくは31に示す酵母Gat1p、Ure2p、Tor1p、Dal80p、Gzf3p、Tor2pもしくはGln3pまたはそれらの相同体もしくはフラグメントなどの任意の供給源からの制御因子を含み、配列番号14、16、18、20、22、34もしくは32に示すGAT1、URE2、TOR1、DAL80、GZF3、TOR2もしくはGLN3などの制御因子をコードする任意の遺伝子によりコードされ得る。例えば、もはやUre2p、Tor1p、Tor2p、Dal80pもしくはGzf3pなどの機能的負の制御因子を有さない微生物を産生することができる。これは、例えば、野生型株を[URE3]株と交配することにより、またはURE2のサイトダクション(cytoduction)および過剰発現を含む任意の分子生物学手段により[URE3]表現型を誘導することにより、URE2遺伝子の欠失、ure2変異表現型の単離および発現をもたらし、もはやGln3pおよびGat1pの活性を下方制御しない核酸分子により達成することができる。機能的Ure2pを欠く細胞の結果は、アンモニアまたはグルタミンなどの高窒素源の存在下でもはや抑制されない、アスパラギン輸送および利用に関与するもの(すなわち、ASP3、AGP1、GAP1、GAT1、DAL80およびGZF3)などのNCR感受性遺伝子をもたらすだろう。したがって、一実施形態では、核酸分子は、URE2、TOR1、TOR2、DAL80および/またはGZF3欠失カセットを含む。機能的Ure2p、Tor1p、Dal80pおよび/またはGzf3pを欠く微生物は、食品調製および加工条件下でアスパラギンを消費および分解することができるだろう。あるいは、これは、Gat1pおよび/またはGln3pなどの機能的正の制御因子の過剰発現をもたらす核酸分子により達成することができる。
【0035】
本明細書で使用する用語「遺伝子」とは、その通常の定義に従って、核酸配列の作動可能に連結した集団を意味する。本開示の文脈中の遺伝子の改変は、遺伝子中で作動可能に連結している種々に配列のいずれか1つの改変を含み得る。「作動可能に連結している」とは、特定の配列が、直接的もしくは間接的に相互作用して、遺伝子発現の媒介または調節などのその所期の機能を行うことを意味する。作動可能に連結している配列の相互作用は、例えば、同様に核酸配列と相互作用するタンパク質により媒介され得る。
【0036】
本開示の種々の遺伝子および核酸配列は、組換え配列であり得る。本明細書で使用する用語「組換え」とは、組換えられた何かを指し、核酸構造体に関して、この用語は、分子生物学的技術によってある点で結合されたまたは製造された核酸配列で構成された分子を指す。タンパク質またはポリペプチドに関して作られた場合の用語「組換え」とは、分子生物学的技術によって作成された組換え核酸構造体を使用して発現されるタンパク質またはポリペプチド分子を指す。遺伝子組成物に関して作られた場合の用語「組換え」とは、天然起源の親ゲノムでは生じなかった新しい組み合わせの対立遺伝子を有する配偶子または子孫または細胞またはゲノムを指す。組換え核酸構造体は、自然では連結しないもしくは自然では異なる位置で連結する核酸配列と、連結するまたは連結するよう操作される核酸配列を含み得る。そのため、核酸構造体を「組換え」と呼ぶことは、その核酸分子が、遺伝子工学を使用してヒトの介入により操作されたことを示す。
【0037】
核酸分子は、例えば、Itakura他、米国特許第4598049号;Caruthers他、米国特許第4458066号;ならびにItakura、米国特許第4401796号および第4373071号に開示されているものなどの技術を使用して化学合成することができる。このような合成核酸は、この用語が本明細書で使用される場合には、本質的に「組換え」である(分子の構成成分を組み合わせる連続的工程の産物である)。
【0038】
配列(天然Asp3p、Gap1p、Dip5p、Gnp1p、Agp1p、Agp2p、Agp3p、Tor1p、Tor2p、Gat1p、Gln3p、Dal80p、Gzf3pもしくはUre2pアミノ酸配列、または天然ASP3、GAP1、DIP5、GNP1、AGP1、AGP2、AGP3、TOR1、TOR2、GAT1、GLN3、DAL80、GZF3もしくはURE2核酸配列、ならびに相同体の配列など)間の相同性の程度は、配列間の完全な一致の発生率を意味する、配列を最適にアラインメントさせた場合の同一性の割合として表すことができる。同一性を比較するための配列の最適アラインメントは、SmithおよびWaterman、1981、Adv.Appl.Math 2:482の局所相同性アルゴリズム、NeedlemanおよびWunsch、1970、J.Mol.Biol.48:443の相同性アラインメントアルゴリズム、PearsonおよびLipman、1988、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444の類似性手法のための検索などの種々のアルゴリズムならびにこれらのアルゴリズムのコンピュータによる実行(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、Madison、WI、米国のGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTAなど)を使用して行うことができる。配列アラインメントはまた、Altschul他、1990、J.Mol.Biol. 215:403-10に記載のBLASTアルゴリズムを使用して行うことができる(公開されたデフォルトの設定を使用して)。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、国立生物工学情報センターを通して(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/でインターネットを通して)入手可能である。BLASTアルゴリズムは、最初に、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインメントした際にいくつかの正の値の閾値スコアTに一致または適合する、クエリー配列中の長さWの短いワードを同定することによって、高スコア配列対(high scoring sequence pair)(HSP)を同定することを必要とする。Tは、隣接ワードスコア閾値(neighbourhood word score threshold)と呼ばれる。最初の隣接ワードヒットは、より長いHSPを発見するための検索を開始するための種として働く。このワードヒットは、累積アラインメントスコアが増加し得る限り、各配列に沿って両方向に延長される。以下のパラメータを満たす場合に、各方向でのワードヒットの延長は止まる:累積アラインメントスコアが、その達成される最大値から量X減少する;1つもしくは複数の負のスコアの残基アラインメントの蓄積のために、累積スコアが0以下になる;またはいずれかの配列の末端に到達する。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。核酸については、BLASTプログラムは、デフォルトとして、11のワード長(W)、50のBLOSUM62スコアリング行列(HenikoffおよびHenikoff、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915〜10919)アラインメント(B)、10の期待値(E)(代替実施形態において1もしくは0.1もしくは0.01もしくは0.001もしくは0.0001に変えることができる;0.1をはるかに超えるE値は、機能的類似配列を同定することができないが、短い領域の類似性について、より低い有意性、0.1と10との間のE値で、ヒットを調べることは有用である)、M=5、N=4、および両鎖の比較を使用することができる。タンパク質の比較については、BLASTPは、デフォルトとして、以下のように使用することができる:G=11(ギャップを開くためのコスト);E=1(ギャップを伸長させるためのコスト);E=10(この設定における期待値、定義されたアラインメントスコアSに等しいもしくはこれより優れたスコアを有する10のヒットが、検索しているものと同じサイズのデータベース中に偶然生じると期待される;E値を増加または減少させて、検索の厳密性を変えることができる);およびW=3(ワードサイズ、BLASTNについては、デフォルトは11であり、他のblastプログラムについては3である)。BLOSUM行列は、関連するタンパク質内のコンセンサスブロック中に置換が生じることが知られている頻度に基づき、アラインメント中の各位置に確率スコアを割り当てる。BLOSUM62(ギャップ存在コスト=11;1残基当たりのギャップコスト=1;ラムダ比=0.85)置換行列は、BLAST2.0でデフォルトにより使用される。BLOSUM62の代替として、PAM30(9,1,0.87);PAM70(10,1,0.87);BLOSUM80(10,1,0.87);BLOSUM62(11,1,0.82)およびBLOSUM45(14,2,0.87)を含む種々の他の行列を使用することができる。BLASTアルゴリズムを使用した2つの配列間の統計的類似性の1つの尺度は、2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の一致が偶然生じると思われる確率を示す、最小合計確率(smallest sum probability)(P(N))である。代替実施形態では、テスト配列の比較における最小合計確率が約1未満、約0.1未満、約0.01未満または約0.001未満である場合に、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列が実質的に同一であると考えられる。配列間の類似性はまた、同一性パーセントとして表すこともできる。
【0039】
本明細書に記載する核酸およびタンパク質配列は、いくつかの実施形態では、Asp3p、Gap1p、Gnp1p、Agp1p、Agp2p、Agp3p、Gat1p、Tor1p、Tor2p、Dip5p、Gln3p、Dal80p、Gzf3pもしくはUre2pアミノ酸配列またはASP3、GAP1、GNP1、AGP1、AGP2、AGP3、TOR1、TOR2、DIP5、GLN3、GAT1、DAL80、GZF3もしくはURE2核酸配列と実質的に同一であるなど、実質的に同一であり得る。このような配列の実質的同一性は、最適にアラインメントした場合の同一性の割合に反映され、これは、遺伝子標的化物質の場合に標的配列の一部と遺伝子標的化物質の一部の同一性を指し、例えば、50%超、80%〜100%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%であり得る。ここで同一性の程度は、相同的対合および組換えおよび/または修復を促進し得る。2つの核酸配列が実質的に同一であることの別の兆候は、2つの配列が中程度のストリンジェントな条件または高ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズすることである。中程度のストリンジェントな条件下でのフィルター結合配列とのハイブリダイゼーションは、例えば、65℃で0.5M NaHPO4、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1mM EDTA中および42℃で0.2×SSC/0.1% SDS中での洗浄で行うことができる(Ausubel他(編)、1989、Current Protocols in Molecular Biology、第1巻、Green Publishing Associates, Inc.、およびJohn Wiley&Sons, Inc.、ニューヨーク、2.10.3頁参照)。あるいは、高ストリンジェントな条件下でのフィルター結合配列とのハイブリダイゼーションは、例えば、65℃で0.5M NaHPO4、7% SDS、1mM EDTA中および68℃で0.1×SSC/0.1% SDS中での洗浄で行うことができる(Ausubel他(編)、1989、上記参照)。ハイブリダイゼーション条件は、目的の配列に応じて既知の方法に従って修正することができる(Tijssen、1993、Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology - Hybridization with Nucleic Acid Probes、Part I、Chapter 2「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays」、Elsevier、ニューヨーク参照)。一般的にストリンジェントな条件は、定義されたイオン強度およびpHで、特定の配列についての熱融点よりも約5℃低くなるよう選択される。ストリンジェントハイブリダイゼーションのための洗浄は、例えば、少なくとも15分、30分、45分、60分、75分、90分、105分または120分とすることができる。
【0040】
そのペプチドの生物学的機能を実質的に変えることなく、Asp3p、Gap1p、Gnp1p、Agp1p、Agp2p、Agp3p、Gat1p、Tor1p、Tor2p、Dip5p、Gln3p、Dal80p、Gzf3pまたはUre2pなどのポリペプチドの構造にいくつかの修正および変更をして、生物学的に同等のポリペプチドを得ることができることが当技術分野で周知である。一態様では、アスパラギン輸送活性を有するタンパク質は、保存的アミノ酸置換により、天然のGap1p、Gnp1p、Dip5p、Agp1p、Agp2p、Agp3pまたは他のアミノ酸輸送体配列とは異なるタンパク質を含むことができる。同様に、アスパラギナーゼ活性を有するタンパク質は、保存的アミノ酸置換により、天然のAsp3pまたは他の細胞壁アスパラギナーゼ配列とは異なるタンパク質を含むことができる。本明細書で使用する場合、用語「保存されたまたは保存的アミノ酸置換」とは、タンパク質中の所与の位置でのあるアミノ酸と別のアミノ酸との置換を指し、ここでは置換は関連する機能の実質的喪失なしに行われ得る。このような変更を行う際、アミノ酸残基などの置換は、側鎖置換基の相対的類似性、例えば、その大きさ、荷電、疎水性、親水性などに基づいて行うことができ、このような置換は、通例の試験によりタンパク質の機能に対する効果について分析することができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、アミノ酸残基が、類似の親水性値(例えば、プラスもしくはマイナス2.0の値以内)を有する別のものに置換される保存されたアミノ酸置換を行うことができ、以下は、(参照により本明細書に組み込まれている米国特許第4554101号に詳述されている)アミノ酸残基に割り当てられているTyr(-1.3)またはPro(-1.6)などの約-1.6のハイドロパシックインデックス(hydropathic index)を有するアミノ酸であり得る:Arg(+3.0);Lys(+3.0);Asp(+3.0);Glu(+3.0);Ser(+3.0);Asn(+0.2);Gln(+0.2);Gly(0);Pro(-0.5);Thr(-0.4);Ala(-0.5);His(-0.5);Cys(-1.0);Met(-1.3);Val(-1.5);Leu(-1.8);Ile(-1.8);Tyr(-2.3);Phe(-2.5);およびTrp(-3.4)。
【0042】
代替実施形態では、アミノ酸残基が、類似のハイドロパシックインデックス(例えば、プラスもしくはマイナス2.0の値以内)を有する別のものに置換される保存されたアミノ酸置換を行うことができる。このような実施形態では、各アミノ酸残基に、以下のように、その疎水性および荷電特性に基づいてハイドロパシックインデックスを割り当てることがでる:Ile(+4.5);Val(+4.2);Leu(+3.8);Phe(+2.8);Cys(+2.5);Met(+1.9);Ala(+1.8);Gly(-0.4);Thr(-0.7);Ser(-0.8);Trp(-0.9);Tyr(-1.3);Pro(-1.6);His(-3.2);Glu(-3.5);Gln(-3.5);Asp(-3.5);Asn(-3.5);Lys(-3.9);およびArg(-4.5)。
【0043】
代替実施形態では、アミノ酸残基が同じクラスの別のものに置換される保存されたアミノ酸置換を行うことができ、ここではアミノ酸は、以下のように非極性、酸性、塩基性および中性のクラスに分けられる:非極性:Ala、Val、Leu、Ile、Phe、Trp、Pro、Met;酸性:Asp、Glu;塩基性:Lys、Arg、His;中性:Gly、Ser、Thr、Cys、Asn、Gln、Tyr。
【0044】
代替実施形態では、保存的アミノ酸変化は、親水性もしくは疎水性、大きさもしくは体積、または荷電の考察に基づく変化を含む。アミノ酸は、一般的に、主にアミノ酸側鎖の特性に応じて、疎水性または親水性として特徴づけることができる。Eisenberg他の規格化したコンセンサス疎水性等級(normalized consensus hydrophobicity scale)に基づいて(J.Mol.Bio. 179:125〜142、184)、疎水性アミノ酸は、0を超える疎水性を示し、親水性アミノ酸は、0未満の親水性を示す。遺伝的にコードされた疎水性アミノ酸には、Gly、Ala、Phe、Val、Leu、Ile、Pro、MetおよびTrpが含まれ、遺伝的にコードされた親水性アミノ酸には、Thr、His、Glu、Gln、Asp、Arg、SerおよびLysが含まれる。遺伝的にコードされていない疎水性アミノ酸には、t-ブチルアラニンが含まれ、遺伝的にコードされていない親水性アミノ酸には、シトルリンおよびホモシステインが含まれる。
【0045】
疎水性または親水性アミノ酸は、その側鎖の特性に基づいてさらに細分することができる。例えば、芳香族アミノ酸は、側鎖が少なくとも1個の芳香環もしくは芳香族複素環を含む疎水性アミノ酸であり、-OH、-SH、-CN、-F、-Cl、-Br、-I、-NO2、-NO、-NH2、-NHR、-NRR、-C(O)R、-C(O)OH、-C(O)OR、-C(O)NH2、-C(O)NHR、-C(O)NRR等(Rは独立に(C1〜C6)アルキル、置換(C1〜C6)アルキル、(C1〜C6)アルケニル、置換(C1〜C6)アルケニル、(C1〜C6)アルキニル、置換(C1〜C6)アルキニル、(C5〜C20)アリール、置換(C5〜C20)アリール、(C6〜C26)アルカリール、置換(C6〜C26)アルカリール、5〜20員ヘテロアリール、置換5〜20員ヘテロアリール、6〜26員アルクヘテロアリール(alkheteroaryl)または置換6〜26員アルクヘテロアリールである)などの1個または複数個の置換基を含むことができる。遺伝的にコードされた芳香族アミノ酸には、Phe、TyrおよびTrpが含まれる。
【0046】
無極性アミノ酸は、生理学的pHで荷電しておらず、2個の原子により共通に共有されている電子対が、一般的に2個の原子の各々により等しく保持されている結合を有する側鎖を有する(すなわち、側鎖は極性でない)疎水性アミノ酸である。遺伝的にコードされた無極性アミノ酸には、Gly、Leu、Val、Ile、AlaおよびMetが含まれる。無極性アミノ酸は、脂肪族炭化水素側鎖を有する疎水性アミノ酸である脂肪族アミノ酸を含むようさらに細分することができる。遺伝的にコードされた脂肪族アミノ酸には、Ala、Leu、ValおよびIleが含まれる。
【0047】
極性アミノ酸は、生理学的pHで荷電していないが、2個の原子により共通に共有されている電子対が、原子の一方により、より密接に保持されている、一結合を有する側鎖を有する親水性アミノ酸である。遺伝的にコードされた極性アミノ酸には、Ser、Thr、AsnおよびGlnが含まれる。
【0048】
酸性アミノ酸は、7未満の側鎖pKa値を有する親水性アミノ酸である。酸性アミノ酸は、典型的には、水素イオンの喪失のために生理学的pHで負荷電側鎖を有する。遺伝的にコードされた酸性アミノ酸には、AspおよびGluが含まれる。塩基性アミノ酸は、7を超える側鎖pKa値を有する親水性アミノ酸である。塩基性アミノ酸は、典型的には、ヒドロニウムイオンとの会合のために生理学的pHで正荷電側鎖を有する。遺伝的にコードされた塩基性アミノ酸には、Arg、LysおよびHisが含まれる。
【0049】
上記分類は絶対的なものではないこと、およびアミノ酸を、2つ以上のカテゴリーに分類することができることが当業者により認識されるだろう。さらに、アミノ酸を、既知の挙動および特定の分析に基づく特徴的な化学的、物理的もしくは生物学的特性に基づいて、あるいは以前同定したアミノ酸と比較して分類することができる。
【0050】
微生物は、それらだけに限らないが、真菌および/または細菌を含む、食品製品中への添加に適した任意の微生物であり得る。本開示中の有用な真菌には、それらだけに限らないが、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、コウジカビ(Aspergillus oryzae)、アカパンカビ(Neurospora crassa)、ニューロスポラ・インターメディア変種オンコメンシス(Neurospora intermedia var. oncomensis)、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)、ペニシリウム・カンディダム(Penicillium candidum)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)、リゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)が含まれる。別の実施形態では、真菌は、出芽酵母、サッカロマイセス・バヤヌス、サッカロマイセス・カールスベルゲンシス、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・ケフィル、カンジダ・トロピカリス、クリプトコッカス・ラウレンティ、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、ハンセヌラ・アノマラ、ハンセヌラ・ポリモルファ、クルイベロマイセス・フラジリス、クルイベロマイセス・ラクティス、クルイベロマイセス・マルシアヌス変種ラクティス、ピキア・パストリス、ロドトルラ・ルブラ、分裂酵母、ヤロウイア・リポリティカまたは菌界に属する任意の株などの酵母である。Lallemand Inc.(カナダ)、AB Mauri(オーストラリア)およびLesaffre(フランス)などの、酵母株のための種々の商業的供給源が存在する。別の実施形態では、細菌は、エルウィニア属の種、乳酸桿菌属の種、ラクトコッカス属の種、バチルス属の種、ペディオコッカス属の種、シュードモナス属の種、ブレビバクテリウム属の種およびロイコノストック属の種を含む任意の細菌であり得る。
【0051】
一実施形態では、微生物は、不活性酵母などの不活性である。本明細書で使用する用語「不活性」とは、その栄養含量および他の特性をまだ保持している不活性の、生存不能のおよび/または死んだ微生物の組成物を指す。例えば、酵母を、所望のタンパク質(単数または複数)の過剰発現を可能にする条件下で培養することができる。次いで、この酵母を使用して、例えば、それだけに限らないが、高温短時間殺菌を含む種々の殺菌法、それだけに限らないが、湿性加熱照射を含む種々の滅菌法、それだけに限らないが、高圧、光触媒およびパルス光、光増感、RFおよびパルス化を含む電界、細胞破砕、超音波処理、均質化、自己融解、ならびにそれだけに限らないが、ホルムアルデヒド、チメロサール、クロラミン、二酸化塩素、ヨウ素、銀、銅、抗生物質およびオゾンを含む化学的不活性化を含む種々の不活性化法を通して不活性酵母を産生することができる。
【0052】
組換え核酸構造体は、例えば、形質転換により微生物宿主細胞に導入することができる。このような組換え核酸構造体は、単離され、宿主種の細胞に再導入された、同じ宿主細胞種または異なる宿主細胞種由来の配列を含むことができる。
【0053】
組換え核酸配列は、宿主細胞の最初の形質転換の結果としてあるいは後の組換えおよび/または修復事象の結果として、宿主細胞ゲノムに組み込まれ得る。あるいは、組換え配列は、染色体外因子として維持され得る。このような配列は、例えば、突然変異、集団交配またはプロトプラスト融合により実行される株改良手段のための開始株として、形質転換酵母株などの生物を使用することにより複製することができる。本発明の組換え配列を保存する得られた株は、その用語が本明細書で使用される場合、それ自体「組換え」と考えられる。
【0054】
形質転換は、細胞により運ばれる遺伝物質が、1種または複数の外因性核酸の細胞への組込みにより変えられる過程である。例えば、酵母は、種々のプロトコル(Gietz他、1995)を使用して形質転換することができる。このような形質転換は、細胞の遺伝物質への外因性核酸の組込みにより、または外因性核酸への細胞の曝露の結果として生じる細胞の内因性遺伝物質の変化によって起こり得る。形質転換体または形質転換細胞は、外因性核酸の取り込みを通して機能的に強化された細胞または細胞の子孫である。これらの用語を本明細書で使用する場合、これらの用語は、その後の世代の細胞中にも存在し得る他の突然変異または変化にかかわりなく、その後の細胞世代を通して所望の遺伝子変異が保存された、形質転換細胞の子孫に適用する。
【0055】
一実施形態では、ポリペプチドの制御された発現を媒介する異種性プロモーター配列の制御下で、アスパラギナーゼもしくはアミノ酸輸送体もしくは正のNCR制御因子もしくは突然変異による負のNCR制御因子コード配列またはこれらの相同体を有する組換え核酸分子を含むベクターを提供することができる。このようなベクターを提供するため、オープンリーディングフレーム(ORF)、例えば、宿主微生物由来のものを、発現カセットを含むプラスミドに挿入することができ、これが組換え遺伝子の発現を制御するだろう。あるいは、核酸分子は、負のNCR制御因子を欠失させるための欠失カセットであり得る。組換え分子を選択された微生物に導入して、アスパラギン輸送および分解活性が変化した形質転換株を提供することができる。代替実施形態では、宿主中の天然のアスパラギナーゼもしくはアミノ酸輸送体もしくはNCR制御因子コード配列または相同体の発現を、天然のプロモーターを別のプロモーターに置換することにより行うこともできる。内因性コード配列を利用して、追加の制御因子を使用して、組換え発現カセットを構築することもできる。組換え遺伝子または発現カセットを、宿主の染色体DNAに組み込むことができる。
【0056】
一実施形態では、微生物は、食品調製/加工条件下でアスパラギンを絶えず分解するおよび/または取り込むよう形質転換される。例えば、核酸分子は、恒常的活性型プロモーターと作動可能に連結され得る。恒常的活性型プロモーターは当技術分野で既知であり、それだけに限らないが、PGK1プロモーター、TEFプロモーター、短縮型(truncated)HXT7プロモーターを含む。あるいは、核酸分子は、ADH1、GAL1、CUP1、PYK1またはCaMV35Sなどの窒素異化抑制を受けないプロモーターと作動可能に連結され得る。
【0057】
本明細書で使用する用語「プロモーター」とは、転写制御領域が目的の配列と作動可能に連結している場合に、所望の空間もしくは時間パターンでかつ所望の程度に目的のヌクレオチド配列の転写を媒介または調節することができるヌクレオチド配列を指す。目的の転写制御領域および配列は、転写制御領域により媒介または調節される目的の配列の転写を可能にするためにこれらの配列が機能的に連結されている場合、「操作可能または作動可能に連結している」。いくつかの実施形態では、操作可能に連結するために、転写制御領域は、目的の配列と同じ鎖上に位置することができる。転写制御領域は、いくつかの実施形態では、目的の配列の5'に位置することができる。このような実施形態では、転写制御領域は、直接目的の配列の5'に存在してもよいし、これらの領域の間に介在配列が存在してもよい。転写制御配列は、いくつかの実施形態では、目的の配列の3'に位置することができる。転写制御領域および目的の配列の操作可能な連結は、転写制御領域に結合するための適当な分子(転写活性化タンパク質など)を必要とし得るので、本開示は、インビボまたはインビトロのいずれかでこのような分子が提供される実施形態を包含する。
【0058】
使用するためのプロモーターには、それだけに限らないが、PGK1プロモーターなどの適当な天然の出芽酵母プロモーターから選択されるものが含まれる。このようなプロモーターは、PGK1ターミネーターなどの追加の制御因子と共に使用することができる。種々の天然のまたは組換えのプロモーターを使用することができ、ここでプロモーターは、食品調製加工条件などの選択された条件下で、Asp3p活性などのアスパラギン分解活性の発現を媒介するよう選択または構築される。種々の恒常的プロモーターは、例えば、コード配列と作動可能に連結され得る。
【0059】
一実施形態では、核酸分子は、LEU2遺伝子座に挿入されるASP3またはGNP1またはAGP2またはAGP3またはGAT1遺伝子カセット(図1、3、4、5または7)を含む。別の実施形態では、核酸分子は、URA3遺伝子座に挿入されるGAP1またはAGP1またはASP3カセット(図1、2および6)を含む。別の実施形態では、核酸分子は、URE2遺伝子座に挿入されるure2Δカセット(図8)を含む。
【0060】
方法
別の態様では、本明細書に記載する微生物を、調製または加工条件下で食品に添加する工程を含み、前記微生物が、窒素異化抑制を減少させ、かつ/またはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/もしくはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現し、それによって前記食品製品中のアスパラギンを減少させる、食品調製または加工中にアスパラギンを減少させる方法が提供される。本明細書ではまた、食品調製または加工条件中にアスパラギンを減少させるための本明細書に開示する微生物の使用も提供される。
【0061】
別の実施形態では、
a) 窒素異化抑制を減少させるならびに/あるいはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/またはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する少なくとも1つの核酸分子により微生物を形質転換する工程と、
b) 前記微生物を、食品調製または加工条件下で食品に添加する工程と
を含み、前記微生物が、窒素異化抑制を減少させ、かつ/またはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/もしくはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現し、それによってアスパラギンを減少させる、食品調製または加工中にアスパラギンを減少させる方法が提供される。
【0062】
アスパラギンは、食品調製または加工中にアクリルアミドを産生する反応の律速的前駆物質である。したがって、別の実施形態では、本明細書に記載する微生物を、調製または加工条件下で食品に添加する工程を含み、前記微生物が、窒素異化抑制を減少させ、かつ/またはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/もしくはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現し、それによって食品製品中のアクリルアミドを減少させる、食品製品中のアクリルアミドを減少させる方法が提供される。本明細書ではまた、食品調製または加工条件中にアクリルアミド濃度を減少させるための本明細書に開示する微生物の使用も提供される。
【0063】
別の実施形態では、
a) 窒素異化抑制を減少させ、かつ/またはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/もしくはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する、少なくとも1つの核酸分子により微生物を形質転換する工程と、
b) 前記微生物を、食品調製または加工条件下で食品に添加する工程と
を含み、窒素異化抑制を減少させ、かつ/またはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/もしくはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現し、それによって食品製品中のアクリルアミドを減少させる、食品製品中のアクリルアミドを減少させる方法が提供される。
【0064】
一実施形態では、核酸分子は、本明細書に記載する細胞壁アスパラギナーゼをコードし、食品調製または加工条件下で、微生物は、例えば、恒常的発現によりアスパラギナーゼを発現する。別の実施形態では、核酸分子は、本明細書に記載するアミノ酸輸送体をコードし、食品調製または加工条件下で、例えば、恒常的発現によりアミノ酸輸送体を発現する。別の実施形態では、核酸分子は、細胞壁アスパラギナーゼおよびアミノ酸輸送体の両方をコードする。さらに別の実施形態では、核酸は、本明細書に記載する窒素異化抑制の制御因子を改変し、食品調製または加工条件下で制御因子を発現せず、結果として高窒素源の存在下でNCR感受性遺伝子が発現する。さらに別の実施形態では、形質転換後、微生物は、所望のタンパク質の過剰発現を可能にする条件下で培養され、次いで、微生物は、不活性化され、食品調製または加工条件下で食品に添加するために処理される。このような実施形態では、不活性微生物中のタンパク質は、アスパラギン分解活性を有しており、それによって食品製品中のアクリルアミドが減少する。
【0065】
一実施形態では、食品調製または加工条件は、発酵を含む。例えば、本明細書中の方法および使用は、それだけに限らないが、製パン中の炭水化物、ジャガイモ加工、ビスケット製造、コーヒー製造またはスナック食品製造を含む食品製品の発酵に有用である。
【0066】
別の実施形態では、本開示は、食品調製および加工条件下で所望のレベルのアスパラギン分解活性を有する発酵微生物の天然の突然変異体を選択する方法を提供する。例えば、ASP3、GAP1、GNP1、AGP1、AGP2、AGP3、TOR1、TOR2、DIP5、GLN3、GAT1、DAL80、GZF3またはURE2などの、アミノ酸輸送体または細胞壁アスパラギナーゼのNCRを欠く株を選択することができる。酵母のための突然変異および選択プロトコルの例については、参照により本明細書に組み込まれている、2000年10月31日にMortimer他に交付された米国特許第6140108号を参照されたい。このような方法では、酵母株を、塩基対置換により突然変異体を産生するエチルメタンスルホン酸、亜硝酸またはヒドロキシルアミンなどの突然変異原で処理することができる。アスパラギン分解活性が変化した突然変異体は、例えば、適当な培地に蒔くことによりスクリーニングすることができる。
【0067】
別の実施形態では、部位特異的変異誘発を使用して、宿主のアスパラギン輸送またはアスパラギン分解活性のレベルを変えることができる。例えば、部位特異的変異誘発を使用して、酵母AGP1、ASP3、GAP1、DIP5、GAT1、TOR2、DAL80またはGZF3プロモーターなどのプロモーターからNCR媒介エレメント(NCR mediating element)を除去することができる。例えば、それぞれ配列番号23〜28、35および36に示す天然のAGP1、ASP3、GAP1、DIP5、GAT1、TOR2、DAL80またはGZF3プロモーター配列中のGATAA(G)ボックスを、置換により欠失させるまたは改変することができる。一実施形態では、例えば、GをTで置換して、配列がTATAAになるようにGATAAボックスの1つまたは全てを改変することができる。部位特異的変異誘発の方法は、例えば、Rothstein、1991;SimonおよびMoore、1987;Winzeler他、1999;ならびにNegritto他、1997に開示されている。次いで、NCRを欠く選択されたまたは設計されたプロモーターを、アスパラギナーゼまたはアミノ酸輸送体コード配列と作動可能に連結させて、食品調製および加工条件下でのタンパク質の発現を媒介することができる。代替実施形態では、出芽酵母でNCRを媒介するGln3p、Gat1p、Ure2p、Tor1/2p、Dal80pまたはGzf3pをコードする遺伝子を突然変異させてNCRを調節することもできる。
【0068】
微生物株の相対的アスパラギン輸送または分解酵素活性は、非形質転換親株に対して測定することができる。例えば、形質転換株は、食品調製および加工条件下で親株よりも高いアスパラギン輸送または分解活性、あるいは親株活性の少なくとも150%、200%、250%、300%、400%または500%などの、同じ発酵条件下で親株活性のいくらか高い割合である活性を有するよう選択することができる。同様に、本開示の組換え核酸により発現またはコードされる酵素の活性は、類似の倍数の活性を使用して、それらが得られる非組換え配列に対して測定することができる。
【0069】
本明細書に記載する方法および使用の実施形態では、微生物は、それだけに限らないが、真菌および/または細菌を含む、食品製品中への添加に適した任意の活性または不活性微生物である。本明細書に記載する場合、本方法および使用に有用な真菌には、それだけに限らないが、クロコウジカビ、コウジカビ、アカパンカビ、ニューロスポラ・インターメディア変種オンコメンシス、ペニシリウム・カマンベルティ、ペニシリウム・カンディダム、ペニシリウム・ロックフォルティ、リゾプス・オリゴスポラス、リゾプス・オリザエが含まれる。別の実施形態では、真菌は、出芽酵母、サッカロマイセス・バヤヌス、サッカロマイセス・カールスベルゲンシス、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・ケフィル、カンジダ・トロピカリス、クリプトコッカス・ラウレンティ、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、ハンセヌラ・アノマラ、ハンセヌラ・ポリモルファ、クルイベロマイセス・フラジリス、クルイベロマイセス・ラクティス、クルイベロマイセス・マルシアヌス変種ラクティス、ピキア・パストリス、ロドトルラ・ルブラ、分裂酵母、ヤロウイア・リポリティカまたは菌界に属する任意の株などの酵母である。細菌は、エルウィニア属の種、乳酸桿菌属の種、ラクトコッカス属の種、バチルス属の種、ペディオコッカス属の種、シュードモナス属の種、ブレビバクテリウム属の種およびロイコノストック属の種を含む任意の細菌であり得る。
【0070】
食品製品
さらに別の態様では、本開示は、本明細書に開示する形質転換微生物を使用して製造される、アクリルアミド濃度が減少した食品製品を提供する。
【0071】
別の実施形態では、本開示は、本明細書に開示する方法を使用して製造される、アクリルアミド濃度が減少した食品製品を提供する。
【0072】
食品製品は、アスパラギン産生および最終的にはアクリルアミド産生をもたらす調製または加工条件下で製造される任意の食品製品であり得る。アクリルアミド産生をもたらす典型的な調製および加工条件には、高調理温度(120℃を超える)を伴う調製が含まれ、それだけに限らないが、フライおよびベーキング、トースト、ばい焼、グリル、蒸し煮および網焼きが含まれる。アクリルアミドは、典型的には、ジャガイモ製品、ベーカリー製品および任意のシリアルもしくは穀物製品(Table 1(表1)も参照)中に高濃度で見出される。したがって、一実施形態では、食品製品は、ジャガイモ、タロイモなどの野菜、またはオリーブ製品、ベーカリー製品、またはシリアルもしくは穀物製品である。ジャガイモ製品には、それだけに限らないが、フライドポテト、ポテトチップス、フライド/ベークドポテトスナックおよび形成されたジャガイモ製品が含まれる。ベーカリー製品には、それだけに限らないが、ビスケット、クッキー、クラッカー、パン、無発酵パン製品、バッター製品(battered product)、トウモロコシおよび小麦粉のトルティーヤ、ペーストリー、パイ皮、ケーキおよびマフィンミックス、ならびにペーストリー生地が含まれる。例えば、パンには、それだけに限らないが、出来たてのおよび冷凍のパンならびに生地、発酵生地、ピザ生地、バンズおよびロールパンおよび種々のパン、ならびにフライドもしくはベークドスナックまたはパン粉などの関連するパン製品が含まれ;ペーストリーには、それだけに限らないが、甘いバンズ、ドーナッツおよびケーキが含まれる。シリアルもしくは穀物製品には、それだけに限らないが、典型的な朝食シリアル、ビール麦芽および乳清製品、コーンチップス、ならびにプレッツェルが含まれる。高温で加工される他の食品には、それだけに限らないが、コーヒー、ローストナッツ、ローストアスパラガス、ビール、麦芽および乳清飲料、チョコレート粉末、魚類製品、肉および家禽製品、オニオンスープおよびディップミックス、ナッツバター、コーティングされたピーナッツ、大豆炒り豆、ローストヒマワリ種子、ファラフェルおよびキッベ(kobbeh)などのフライドまたはベークド食品、ならびにチョコレートバーが含まれる。
【0073】
上記開示は、本開示を概括的に説明している。以下の特定の実施例を参照することにより、より完全な理解を得ることができる。これらの実施例は、例示のためのみに記載され、本開示の範囲を限定することは意図されていない。状況を示唆または好都合にするように、形の変化および同等物の置換が意図される。本明細書で特定の用語を使用してきたが、このような用語は、説明的意味で意図されており、限定を目的としていない。
【0074】
以下の非限定的実施例は、本開示を説明するものである。
【0075】
(実施例)
(実施例1)出芽酵母の株におけるASP3、ASP1、GAP1、GNP1、AGP1、AGP2、AGP3およびGAT1遺伝子のクローニングおよび恒常的発現ならびにURE2、TOR1、DAL80およびGZF3の欠失
クローン選択のために、抗生物質耐性マーカーkanMXを使用した。工業用/市販のパン酵母または実験室株を形質転換させて、ASP3、ASP1、GAP1、GNP1、AGP1、AGP2、AGP3もしくはGAT1またはASP3とGAP1の組み合わせもしくはASP3とGAT1の組み合わせを恒常的に発現させた、あるいはURE2、TOR1、DAL80もしくはGZF3遺伝子を欠失させた、またはtor1Δと、ASP3の過剰発現の組み合わせを有するようにした。唯一の遺伝子および代謝改変は、ASP3、ASP1、GAP1、GNP1、AGP1、AGP2、AGP3もしくはGAT1、またはASP3とGAP1の組み合わせもしくはASP3とGAT1の組み合わせの意図した恒常的発現であった、あるいはURE2、TOR1、DAL80およびGZF3遺伝子を欠失させた、またはtor1Δと、ASP3の過剰発現の組み合わせを有するようにした。
【0076】
(実施例2)ASP3、ASP1、GAP1、GNP1、AGP1、AGP2、AGP3もしくはGAT1遺伝子カセットまたはURE2欠失遺伝子カセットによる酵母の形質転換
PGK1プロモーターおよびターミネーターシグナルの制御下でASP3、ASP1、GAP1、GNP1、AGP1、AGP2、AGP3もしくはGAT1遺伝子を含む組換え核酸により酵母を形質転換した。PGK1プロモーターはNCRを受けない。URE2欠失カセットは、標的となる遺伝子欠失のための5'および3'URE2フランキング配列を含んでいた。
【0077】
(実施例3)選択マーカーの除去を可能にするセルフクローニングカセット
図1〜8は、以下に記載するこの実施例で使用される直接反復配列の組換えを通して、設計した遺伝子カセットが形質転換酵母の選択およびその後の抗生物質耐性マーカーの除去をどのように可能にするかを説明している。ASP1セルフクローニングカセットを、他の実施例について説明したのと類似の方法で構築し、形質転換し、抗生物質耐性マーカーを除去した。
【0078】
(実施例4)アクリルアミドまたは律速的前駆物質アスパラギンの減少の発生を確立するためのセルフクローニング酵母を使用したアスパラギンおよびアクリルアミド減少試験
図11〜20は、ASP3、GAP1、GNP1、AGP1、AGP2、AGP3もしくはGAT1またはASP3とGAP1の組み合わせもしくはASP3とGAT1の組み合わせにより形質転換した、あるいはURE2、TOR1、DAL80もしくはGZF3遺伝子を欠失させた、またはtor1Δと、ASP3の過剰発現の組み合わせを有する酵母についての、アスパラギンおよび/またはアクリルアミドの有意な減少を示している。図11はまた、細胞質ASP1の過剰発現が、細胞壁結合型アスパラギナーゼをコードするASP3の過剰発現と比べて作用しないことを明らかに示している。
【0079】
ASP3、GAP1/ASP3およびure2Δ(図11、13および14)などの形質転換株のいくつかを、パン生地中で試験した。形質転換株および市販のパン酵母対照株の両方を、2つの別々の発酵槽中で同時に培養し、生地試験のために翌日細胞を収集した。酵素分析を使用してアスパラギン消費を監視するために、アスパラギンを生地に添加した。いったん形質転換酵母を生地中に混合したら、アスパラギンレベルは直ちに減少し始めたことに気づいた;対照的に、対照株を使用すると、アスパラギンの注目すべき減少は測定されなかった。生地を形成した後、アスパラギン濃度について試験するために、酵母の添加から定期的にサンプルを取り出した。最終的なパン製品中のアクリルアミド濃度を測定するために、これらの実験のいくつかからの生地(より高レベルのアスパラギンを含んでいた)も使用してベークドサンプルを調製した。この実験のアクリルアミドの結果は、図12および14に示されており、形質転換酵母株が、対照酵母サンプルよりも有意にアクリルアミドを減少させることを明らかにしている。この結果は、生地分析で見出されたアスパラギン減少と一致している。
【0080】
酵母のための環境条件がより高い水分含量を有することができるような工業用加工条件(すなわち、ジャガイモ、シリアルおよびコーヒー製造)をシミュレートするために、形質転換酵母を液体培地中でも試験した。同細胞数の各株を、種々のレベルのアスパラギンを添加した複合培地または合成実験室培地を含む別々の試験管中に播種した。サンプルを定期的に取り出し、酵素キットを使用してまたはLC-MS/MSによりアスパラギン濃度を測定した。図16〜20は、アスパラギン分解が強化された形質転換酵母株を示している。
【0081】
食品中のアクリルアミドを減少させるために、製造者は、製品の味覚、肌理および外観を損なうことなくその工程および/または製品パラメータを変化させる難題に直面する。例として、形質転換酵母および市販のパン酵母対照を使用して、種々のパンを作った。最終製品は、色、大きさまたは肌理において差異を示さなかった。重要なことには、パン中のアクリルアミド形成のこれらの有意な減少を達成するために、ベーキング工程のいかなる変更も要求されなかった。
【0082】
上記実施例のために使用した実験手順
1. pAC1-ASP3、pAC1-AGP1、pAC1-AGP3、pAC1-GNP1およびpAC1-GAT1の構築
ASP3、AGP1、GNP1およびGAT1を恒常的PGK1プロモーターおよびターミネーターシグナルの制御下におくために、ORFの各々をpAC1にクローニングした(図9)。その5'末端中に構築したMlu1およびBmt1制限酵素部位を含んだプライマーを使用して、開始コドンから終止コドンまでの各ORFを、出芽酵母ゲノムDNAから増幅した。
【0083】
PCR、0.8%アガロースゲル可視化およびPCRクリーンアップ(Qiagen、米国-PCR精製キット)後、PCR産物(挿入断片)およびpAC1(ベクター)の両方をMlu1およびBmt1(Fermentas、カナダ)で消化した。消化したベクターを、再環状化を防ぐためにrAPiDアルカリホスファターゼ(Roche、米国)で処理した後、挿入断片および脱リン酸化ベクターを室温で連結した(T4 DNA Ligase - Roche、米国);連結混合物(2μL)を使用して、DH5α(商標)コンピテント細胞(Invitrogen、米国)を形質転換し、その後これを100μg/mLアンピシリン(Sigma-Aldrich、米国)補充LB(Difco、米国)プレート上で培養した。形質転換コロニーの無作為選択からのプラスミドを収集し(Qiagen、米国-QIAprep Spin Miniprep kit)、Mlu1およびBmt1(Fermentas、カナダ)で消化して、正確な大きさの挿入断片を有するプラスミドを同定した;配列決定により、挿入断片がAGP1、AGP3、GNP1またはGAT1に相当することが確認された。
【0084】
2. pAC2-GAP1、pAC2-AGP1およびpAC2-ASP3の構築
GAP1、AGP1およびASP3を恒常的PGK1プロモーターおよびターミネーターシグナルの制御下におくために、各ORFをpAC2にクローニングした(図10)。その5'末端中に構築したMlu1およびBmt1制限酵素部位を含んだプライマーを使用して、開始コドンから終止コドンまでの各ORFを、出芽酵母ゲノムDNAから増幅した。
【0085】
PCR、0.8%アガロースゲル可視化およびPCRクリーンアップ(Qiagen、米国-PCR精製キット)後、PCR産物(挿入断片)およびpAC2(ベクター)の両方をMlu1およびBmt1(Fermentas、カナダ)で分解消化した。消化したベクターを、再環状化を防ぐためにrAPiDアルカリホスファターゼ(Roche、米国)で処理した後、挿入断片および脱リン酸化ベクターを室温で連結した(T4 DNA Ligase - Roche、米国);連結混合物(2μL)を使用して、DH5α(商標)コンピテント細胞(Invitrogen、米国)を形質転換し、その後これを100μg/mLアンピシリン(Sigma-Aldrich、米国)補充LB(Difco、米国)プレート上で培養した。形質転換コロニーの無作為選択からのプラスミドを収集し(Qiagen、米国-QIAprep Spin Miniprep kit)、Mlu1およびBmt1(Fermentas、カナダ)で消化して、正確な大きさの挿入断片を有するプラスミドを同定した;配列決定により、挿入断片がGAP1、AGP1またはASP3に相当することが確認された。
【0086】
3. ure2Δカセットの構築
DNA合成によりure2Δカセットを完成させた(MrGene、ドイツ)。
【0087】
4. 線状カセットの出芽酵母株への形質転換および形質転換体の選択
Swa1(Fermentas、カナダ)を使用して各カセットを適当なプラスミドから切断し、0.8%アガロースゲル上で可視化した。ゲルから予想バンドサイズを分割および抽出した(Qiagen、米国-Gel extraction kit)。抽出、クリーンアップおよび定量化後、500ngの線状カセットを使用して、出芽酵母株を形質転換した。酢酸リチウム/ポリエチレングリコール/ssDNA法を使用して酵母株を形質転換した。形質転換後、500μg/mL G418(Sigma、米国)を補充したYPDプレート上に蒔く前に、細胞を30℃で3時間、YEG中で回復させた。コロニーが現れるまで、プレートを30℃でインキュベートした。
【0088】
5. 線状ure2Δカセットの出芽酵母への形質転換および形質転換体の選択
Pme1(Fermentas、カナダ)を使用して3149bpのure2ΔカセットをpMrG-ure2Δから切断し、0.8%アガロースゲル上で可視化した。ゲルから予想3149bpバンドを分割および抽出した(Qiagen、米国-Gel extraction kit)。抽出、クリーンアップおよび定量化後、500ngの線状カセットを使用して、出芽酵母株PDMを形質転換した。酢酸リチウム/ポリエチレングリコール/ssDNA法を使用して酵母株を形質転換した。形質転換後、500μg/mLのG418(Sigma、米国)を補充したYPDプレート上に蒔く前に、細胞を30℃で3時間、YEG中で回復させた。コロニーが現れるまで、プレートを30℃でインキュベートした。
【0089】
試験のいくつかを完了するために、tor1Δ、dal80Δ、gzf3Δおよびure2Δについての欠失突然変異実験室酵母株も市販の供給源から得た。
【0090】
6. アスパラギンおよびアクリルアミド減少試験
以下の成分で、全粒粉パン生地を調製した:全粒粉、グルテン粉、塩、植物油、糖蜜、水および酵母(試験株または対照のいずれか)。方法は、「ノータイム生地(no time dough)」法の工程に厳密に従った。また、5時間の時点で、アクリルアミドデータを得るためにサンプルを加熱した(詳細は以下に示す)。
1. -30℃冷凍庫中で液体窒素デュワーを冷却し、液体N2で充填する。
2. 250mLメディアボトル中、L-アスパラギンを50mLの濾水に溶解する。
3. 生地配合に添加する酵母(湿性または乾燥のいずれか)の水分/固形含量を測定する。
4. 計算した量の酵母を200mLコニカルファルコンチューブに計り分ける。
5. 添加する酵母により持ち込まれる水分含量を説明することにより、必要とされるRO水の量を決定する。上皿秤上の重量で必要とされる量のRO水を計り分ける。
6. 残っているRO水(30℃)の2/3と共に適当な量の酵母を再懸濁する。水洗に残っている1/3を使用する。
7. ミキシングボウルの重量を測定する。
8. 乾燥成分(小麦粉、グルテンおよび塩)をキッチンエイドミキシングボウル中に量り分ける。へらで20〜30秒間乾燥成分を攪拌する。へら型アタッチメントをフックに変える。
9. ミキシングボウルに測定した植物油および糖蜜およびL-アスパラギン溶液を添加する。生地が一様な硬さになるまで速度2で混合する。
10. タイマーを10分に設定する。
11. 混合生地に酵母懸濁液を添加する。直ちにタイマーを開始し、速度2で混合する。
酵母添加の時間:
12. 残っている水でファルコンチューブをすすぎ、リンスをミキシングボウルに添加する。
13. 10分後にタイマーが鳴るまで混合し続ける。
14. ミキシングボウル+生地の最終重量を計る。
15. 直ちに生地を約1.0cmの厚さに伸ばし、円形のクッキー型を使用して実験のために適当な数の生地サンプルを切り抜く。
1つの生地サンプルを素早く取り出し、ばらばらにし、次いで、液体窒素を乳鉢に注ぎ込んで生地小片を凍結させる。これを「T=15分」サンプルとする。
さらなる分析のために、凍結生地小片を、ラベルを付した50mLファルコンチューブ中-80℃で保管する。
16. 残っている生地サンプルをクッキングシート上にのせ、30℃でインキュベートする。
17. 実験のために所望の時点で生地サンプルを取り出し、より小さい片に分解し、液体窒素で凍結する。
凍結片を、ラベルを付した50mLファルコン中-80℃で保管する。
18. いくつかの実験については、T=5時間で、追加のクッキーを取り出し、400°F(204℃)で20分間焼き、-80℃で保管する。
【0091】
標準的プロトコルに従って液体培地調製品を作り、種々の量のアスパラギンを添加した。同細胞数の各株を、無菌調製培地を含む別々の試験管中に播種し、サンプルを定期的にとった。酵素キット(Megazyme、K-ASNAM)を使用してまたはLC-MS/MSにより、アスパラギン濃度を測定した(以下に記載)。
【0092】
7. アスパラギンおよびアクリルアミドの定量化
アスパラギナーゼ活性を止めるために、予め調製した生地サンプルを、調製の時に液体窒素で処理した。次いで、サンプルをひき、分析まで-80℃で保管した。以下の修正を含むベーカリー製品のための抽出プロトコル後に、酵素分析(K-ASNAM-Megazyme)を通して生地サンプル中のアスパラギンの分析を行った:均質化した生地サンプル(2g)を、素早く秤量し、100mL容量フラスコに移した。酵素活性のあらゆる再発を防ぐために、約90mLの80℃MilliQ H2Oを添加し、80℃水浴中で20分間サンプルをインキュベートした。次いで、サンプルを室温まで冷却させ、容積に希釈し、一定分量を分析のために遠心分離でスピンダウンした(RT、4000xg、15分)。
【0093】
実験室調製ベークドサンプル中のアクリルアミドを、ELISA法で分析した。パンサンプルをグラインダーで減らし、均質性も保証した。分析までサンプルを-80℃で保管した。2gのサンプルホモジネートを量り分け、水で30分間抽出した。次いで、サンプルを濾過し、遠心分離し、その後に固相抽出クリーンアップおよびアクリルアミド溶出した。次いで、抽出した分析物を、ELISAアッセイ(Abraxis)を通して分析した。
【0094】
LC-MS/MSによるアスパラギンについては、以下のパラメータを使用して、液体培地中で調製した細胞培養サンプルを分析した。2x250mm Aquasilカラム(Thermo)ならびに12% MeOHおよび1mMギ酸アンモニウムからなる二成分移動相、モニタリングアスパラギンイオン変化133.0→74.0および133.0→87.0(MRM)。0.01g/Lの濃度で同位体標識13C-アクリルアミド(Cambridge Isotope Laboratories)の内部標準を使用し、清澄化細胞培養上清に直接添加した。
【0095】
好ましい実施例であると現在考えられているものに関連して本開示を記載してきたが、本開示は、開示されている実施例に限定されないことを理解すべきである。逆に、本開示は、添付の特許請求の範囲の精神および範囲内に含まれる種々の修正および同等のアレンジを包含することが意図されている。
【0096】
全ての刊行物、特許および特許出願は、あたかも個々の刊行物、特許または特許出願の各々が、その全体が参照により組み込まれるように具体的かつ個別的に示されているように、同程度にその全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0097】
【表1A】

【0098】
【表1B】

【0099】
【表2A】

【0100】
【表2B】

【0101】
【表2C】

【0102】
【表2D】

【0103】
【表2E】

【0104】
【表2F】

【0105】
【表2G】

【0106】
【表2H】

【0107】
【表2I】

【0108】
【表2J】

【0109】
【表2K】

【0110】
【表2L】

【0111】
【表2M】

【0112】
【表2N】

【0113】
【表2O】

【0114】
【表2P】

【0115】
【表2Q】

【0116】
【表2R】

【0117】
【表2S】

【0118】
[参考文献]




【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品調製/加工条件下で、窒素異化抑制を減少させ、かつ/またはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/もしくはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する少なくとも1つの核酸分子により形質転換された微生物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの核酸分子が、細胞壁アスパラギナーゼをコードする、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記アスパラギナーゼが、ASP3によりコードされる、請求項2に記載の微生物。
【請求項4】
前記アスパラギナーゼが、Asp3pである、請求項2に記載の微生物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの核酸分子が、アミノ酸輸送体をコードする、請求項1に記載の微生物。
【請求項6】
前記アミノ酸輸送体が、GAP1、AGP1、GNP1、DIP5、AGP2またはAGP3によりコードされる、請求項5に記載の微生物。
【請求項7】
前記アミノ酸輸送体が、Gap1p、Agp1p、Gnp1p、Dip5p、Agp2pまたはAgp3pである、請求項5に記載の微生物。
【請求項8】
前記少なくとも1つの核酸分子が、窒素異化抑制の制御因子の活性を改変する、請求項1に記載の微生物。
【請求項9】
前記制御因子が、URE2、GAT1、TOR1、TOR2、DAL80、GLN3またはGZF3によりコードされる、請求項8に記載の微生物。
【請求項10】
前記制御因子が、Ure2p、Gat1p、Tor1p、Tor2p、Dal80p、Gln3pまたはGzf3pである、請求項8に記載の微生物。
【請求項11】
前記少なくとも1つの核酸分子が、URE2欠失カセットを含む、請求項8に記載の微生物。
【請求項12】
前記少なくとも1つの核酸が、[URE3]をコードする、請求項8に記載の微生物。
【請求項13】
前記微生物が不活性である、請求項1から12のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項14】
真菌または細菌である、請求項1から13のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項15】
前記真菌が酵母である、請求項14に記載の微生物。
【請求項16】
前記酵母が出芽酵母である、請求項15に記載の微生物。
【請求項17】
食品調製/加工条件下で、アスパラギンを絶えず分解するおよび/または取り込むよう形質転換された、請求項1から16のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項18】
前記少なくとも1つの核酸分子が、恒常的活性型プロモーターと作動可能に連結している、請求項1から17のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項19】
前記少なくとも1つの核酸分子が、窒素異化抑制を受けないプロモーターと作動可能に連結している、請求項1から17のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項20】
少なくとも2つの核酸分子により形質転換される、請求項1から19のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項21】
Asp3pをコードする第1核酸分子およびGap1pもしくはGat1pをコードする第2核酸分子により形質転換された、請求項1に記載の微生物。
【請求項22】
Gln3pの発現を改変する第1核酸分子およびUre2pの発現を改変する第2核酸分子により形質転換された、請求項1に記載の微生物。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか一項に記載の微生物を、食品調製または加工条件下で食品に添加する工程を含み、前記微生物が、食品調製または加工中に、窒素異化抑制を減少させ、かつ/またはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/もしくはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現し、それによって食品調製または加工中にアスパラギンを減少させる、食品調製または加工中にアスパラギンを減少させる方法。
【請求項24】
請求項1から22のいずれか一項に記載の微生物を、食品調製または加工条件下で食品に添加する工程を含み、前記微生物が、食品調製または加工中に、窒素異化抑制を減少させ、かつ/またはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/もしくはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現し、それによって食品製品中のアクリルアミドを減少させる、食品製品中のアクリルアミドを減少させる方法。
【請求項25】
a) 窒素異化抑制を減少させるならびに/またはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/もしくはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する少なくとも1つの核酸分子により微生物を形質転換する工程と、
b) 前記微生物を、食品調製または加工条件下で食品に添加する工程と
を含み、窒素異化抑制を減少させ、かつ/またはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/もしくはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現し、それによって食品調製または加工中にアスパラギンを減少させる、食品調製または加工中にアスパラギンを減少させる方法。
【請求項26】
a) 窒素異化抑制を減少させ、かつ/またはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/もしくはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現する少なくとも1つの核酸分子により微生物を形質転換する工程と、
b) 前記微生物を、食品調製または加工条件下で食品に添加する工程と
を含み、前記微生物が、窒素異化抑制を減少させ、かつ/またはアスパラギン分解に関与する細胞外タンパク質をコードする遺伝子および/もしくはアスパラギン輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現し、それによって食品製品中のアクリルアミドを減少させる、食品製品中のアクリルアミドを減少させる方法。
【請求項27】
前記少なくとも1つの核酸分子が、細胞壁アスパラギナーゼをコードする、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記アスパラギナーゼが、ASP3によりコードされる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記アスパラギナーゼが、Asp3pである、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記少なくとも1つの核酸分子が、アミノ酸輸送体をコードする、請求項25または26に記載の方法。
【請求項31】
前記アミノ酸輸送体が、GAP1、AGP1、GNP1、DIP5、AGP2またはAGP3によりコードされる、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記アミノ酸輸送体が、Gap1p、Agp1p、Gnp1p、Dip5p、Agp2pまたはAgp3pである、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つの核酸が、前記微生物の窒素異化抑制の制御因子の活性を改変するタンパク質をコードする、請求項25または26に記載の方法。
【請求項34】
前記制御因子が、URE2、GAT1、TOR1、TOR2、DAL80、GLN3またはGZF3によりコードされる、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記制御因子が、Ure2p、Gat1p、Tor1p、Tor2p、Dal80p、Gln3pまたはGzf3pである、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記核酸が、URE2欠失カセットを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記微生物が不活性である、請求項25から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記微生物が真菌または細菌である、請求項25から37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記真菌が酵母である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記酵母が出芽酵母である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記核酸分子が、恒常的活性型プロモーターと作動可能に連結している、請求項23から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記核酸分子が、窒素異化抑制を受けないプロモーターと作動可能に連結している、請求項23から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記食品製品が、植物性食品製品、飲料、ベーカリー製品、穀物製品、果物製品、豆類製品、乳製品または肉製品である、請求項23から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
請求項1から22のいずれか一項に記載の形質転換微生物を使用して製造される、アクリルアミド濃度が減少した食品製品。
【請求項45】
請求項23から43のいずれか一項に記載の方法を使用して製造される、アクリルアミド濃度が減少した食品製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2013−520964(P2013−520964A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555263(P2012−555263)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【国際出願番号】PCT/CA2011/000222
【国際公開番号】WO2011/106874
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(512227122)ファンクショナル・テクノロジーズ・コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】