説明

アクリル樹脂およびその製造方法

【課題】従来のアクリル樹脂において、固化して作業性が悪化する課題がある。
【解決手段】1分子中に1個以上のアルコキシシリル基を有するアクリル樹脂であって、
数平均分子量が800〜2500であり、重量平均分子量/数平均分子量が2.5以下であり、かつ前記アルコキシシリル基の濃度が1.5モル/Kg樹脂以上であることを特徴とするアクリル樹脂を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル樹脂とその製造方法に関し、さらに詳しくは、常温で液体あるいは高粘稠な低分子量であるアクリル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アクリル樹脂は透明性に優れ、耐油性、耐候性が高いために様々な分野で利用されている。
【0003】
通常使われるアクリル樹脂は、分子量が数千から数万であり、それを固化したものである。そのため、適当な溶剤で希釈し溶液とすることが作業性を上げるために必要である。
これに対し、数平均分子量1500〜5000を有し、かつ、常温で固体あるいは高粘稠である低分子量アクリル樹脂が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−24619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これは、連鎖移動剤としてチオール類を用いるものであり、合成されたアクリル樹脂はチオール類による異臭を持つことが欠点として上げられる。
また、省資源、省エネルギー、更には、職場環境の改善を目的に様々な分野においてアクリル樹脂の優れた性能を有した無溶剤、又は低溶剤の素材が求められている。
【0006】
本発明の目的は、1分子中に1個以上のアルコキシシリル基を有する数平均分子量800〜2500、重量平均分子量/数平均分子量が2.5以下で、アルコキシシリル基の濃度が1.5モル/Kg樹脂以上であるアクリル樹脂を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明に係るアクリル樹脂は、1分子中に1個以上のアルコキシシリル基を有するアクリル樹脂であって、数平均分子量が800〜2500であり、重量平均分子量/数平均分子量が2.5以下であり、かつ前記アルコキシシリル基の濃度が1.5モル/Kg樹脂以上であることを特徴とする。
本発明により、アクリル樹脂において、固化して作業性が悪化することを防止できる。
【0008】
従って、通常のアクリル樹脂に比べて、粘性を調整するために溶剤を使用しないので大気汚染が抑制できる。また、エネルギー(熱)を節約でき、設備を簡素化できる。
また、本発明に係るアクリル樹脂の製造方法は、アクリルモノマーを有機溶剤に溶解もしくは分散させるとともに、前記アクリルモノマー100重量部に対して重合開始剤2〜10重量部を前記有機溶剤に滴下し、130℃以上で重合反応を行う工程と、前記有機溶剤を除去する工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
これにより、1分子中に1個以上のアルコキシシリル基を有し、数平均分子量が800〜2500であり、重量平均分子量/数平均分子量が2.5以下であり、かつ前記アルコキシシリル基の濃度が1.5モル/Kg樹脂以上であるアクリル樹脂を形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、アクリル樹脂において、固化して作業性が悪化することを防止できる。
従って、通常のアクリル樹脂に比べて、溶剤を使用しないので大気汚染が抑制できる。また、エネルギー(熱)を節約でき、設備を簡素化できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアクリル樹脂は、1分子中に1個以上のアルコキシシリル基を有するアクリル樹脂であって、数平均分子量が800〜2500であり、重量平均分子量/数平均分子量が2.5以下であり、かつ前記アルコキシシリル基の濃度が1.5モル/Kg樹脂以上である。
【0012】
本発明のアクリル樹脂の製造方法を説明する。
まず、複数のアクリルモノマーの成分を有機溶剤に溶解もしくは分散させ、重合温度を130℃以上に保ちながら、アクリルモノマー100重量部に対して、重合開始剤であるラジカル重合開始剤2〜10重量部をアクリルモノマーの撹拌下に滴下し、重合反応を行う。
【0013】
重合温度が130℃よりも低い場合には数平均分子量が2500より大きくなり、かつ、未重合のモノマーが多くなり好ましくない。
また、ラジカル重合開始剤が2重量部よりも少ないと、未反応のモノマーが多く残存することとなり好ましくない。
また、10重量部よりも多くなると、得られた樹脂中の開始剤の残基の割合が高くなる。そのため、アクリル樹脂の本来持つ特性、透明性、耐油性、耐候性等が損なわれ好ましくない。
【0014】
反応時間は通常、1〜10時間とすればよい。重合終了後、常圧、又は減圧下に有機溶媒を除去する。
これにより、1分子中に1個以上のアルコキシシリル基を有するアクリル樹脂であって、数平均分子量が800〜2500であり、重量平均分子量/数平均分子量が2.5以下であり、かつ前記アルコキシシリル基の濃度が1.5モル/Kg樹脂以上であるアクリル樹脂が作製できる。
【0015】
アクリル樹脂の数平均分子量があまりに低い場合、アクリル樹脂の持つ特性が損なわれ強靭な硬化物が得られなくなる。また、アクリル樹脂の数平均分子量があまり高いと粘度が高くなり無溶剤化の妨げになる。したがって、アクリル樹脂の数平均分子量は、800〜2500であることが好ましい。
【0016】
本発明に使用される(メタ)アクリルモノマーとしては特に限定されるものではなく、一般的に(メタ)アクリルモノマーとして知られているものであればいかなるものであってもよい。
【0017】
この化合物の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−ヒイドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフラル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等があげられる。
【0018】
また、本発明に使用できるアルコキシシリル基を有するアクリルモノマーの具体例としては、下記のように表わされる化合物がある。
【0019】
【化1】

【0020】
(R1=水素またはメチル、R2=メチルまたはエチル、n=3〜10の整数)
本発明で用いることができるラジカル重合開始剤としては、通常使用されているものを用いることができる。また、好ましくは10時間半減期温度が50℃から125℃までのものである。
【0021】
具体例としては、t−ブチルパーオキシピバレ−ト、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート等である。
また、その他、アゾイソブチルニトリル,アゾビスジメチルバレロニトリル等があげられる。
【0022】
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒を用いることができる。また、炭化水素系溶媒を用いた場合には、溶解性の点から他の溶媒を併用することが好ましい。特に好ましくはキシレン、トルエンである。
なお、本発明のアクリル樹脂にはその他共重合可能な不飽和モノマーを共重合させることができる。
【0023】
共重合可能な不飽和モノマーの具体例としてはアクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、メチルスチレン、クロルスチレン、等のスチレン誘導体、ビニリデンクロライド、アクリルアミド、エチルα−アセトキシアクリレ−ト等の重合性モノマーがある。
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0024】
「実験例1」
撹拌機、コンデンサー及び滴下ロート2基を備えた2リットルセパラブルフラスコにキシレン1000gを計り取り、オイルバスにより140℃に加熱した。8−(トリメトキシシリル)オクチルメタクリレート177g、メチルメタクリレート56g、n−ブチルアクリレート77gをはかりとり、よく混合して滴下ロートに仕込んだ。
また、キシレン200gとt−ブチルパーオキシー2−エチルヘキサノエート31gをよく混合し別の滴下ロートに仕込んだ。
【0025】
これらモノマーと重合開始剤とを重合温度140℃を維持するようにキシレン中に約3時間で滴下した。滴下終了後、更に140℃で3時間熟成した。
熟成終了後、ガスクロマト分析によりモノマー成分が0.5%以下であることを確認した。つぎに減圧下にキシレンを除去し、目的のアクリル樹脂345gを得た。
得られたアクリル樹脂の性状はアルコキシシリル基濃度1.6mol/kg、数平均分子量Mn1080、重量平均分子量/数平均分子量=1.9であった。
【0026】
「実験例2」
撹拌機、コンデンサー及び滴下ロート2基を備えた2リットルセパラブルフラスコにキシレン1000gを計り取り、オイルバスにより140℃に加熱する。8−(トリメトキシシリル)オクチルメタクリレート126g、メチルメタクリレート29g、n−ブチルアクリレート60g、2−ヒドロキシエチルアクリレート36g、8−(トリメトキシシリル)オクチルアクリレート59gを計り取り、よく混合して滴下ロートに仕込んだ。
また、キシレン200gと重合開始剤t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート31gをよく混合し別の滴下ロートに仕込んだ。
【0027】
これらモノマーと重合開始剤を重合温度140℃を維持するようにキシレン中に約3時間で滴下した。
滴下終了後、140℃で1時間熟成し、重合開始剤t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1.6gを再度追加した。その後、更に同温で2時間熟成した。
【0028】
ガスクロマト分析によりモノマー成分が0.5%以下であることを確認した。つぎに減圧下にキシレンを除去し、目的のアクリル樹脂350gを得た。
得られたアクリル樹脂はアルコキシシリル基濃度1.6mol/kg、数平均分子量Mn1100、重量平均分子量/数平均分子量=1.9であった。
以下、本発明に対する比較例を説明する。
【0029】
「比較例1」
撹拌機、コンデンサー及び滴下ロートを備えた2リットルセパラブルフラスコにトルエン820g、8−(トリメトキシシリル)オクチルメタクリレート311g、メチルメタクリレート311g、n−ブチルアクリレート197g、2−メルカプトエタノール105gをはかりとり、オイルバスで110℃に加熱した。
【0030】
また、重合開始剤t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート78gを滴下ロートを用いて2時間かけて滴下した。
滴下終了後、重合温度110℃で3時間熟成した。ガスクロマト分析によりモノマー成分が0.7%以下であることを確認した。この比較例では、重合温度を130度より低くしている。
【0031】
つぎに減圧下にキシレンを除去しアクリル樹脂900gを得た。
得られたアクリル樹脂の性状はアルコキシシリル基濃度1.1mol/kg、数平均分子量Mn760、重量平均分子量/数平均分子量=1.6であった。なお、連鎖移動剤を有しているため、数平均分子量Mnは760となっている。
また、連鎖移動剤を有しているため、このアクリル樹脂は特異なメルカプタン臭を有していた。
【0032】
「比較例2」
撹拌機、コンデンサー及び滴下ロート2基を備えた2リットルセパラブルフラスコにキシレン1000gをとり、オイルバスにより140℃に加熱した。8−(トリメトキシシリル)オクチルメタクリレート126g、メチルメタクリレート29g、n−ブチルアクリレート60g、2−ヒドロキシエチルアクリレート36g、8−(トリメトキシシリル)オクチルアクリレート59gをはかりとり良く混合して滴下ロ−トに仕込んだ。
【0033】
キシレン200gと重合開始剤t−ブチルパーオキシ−2ー−エチルヘキサノエート3gを良く混合して別の滴下ロートに仕込んだ。
これらモノマーと重合開始剤を重合温度140℃を維持するようにキシレン中に3時間かけて滴下した。
【0034】
滴下終了後、さらに140℃で3時間熟成した。熟成終了後、減圧下キシレンを除去し、アクリル樹脂340gを得た。この比較例では、アクリルモノマー100重量部に対して重合開始剤1重量部である。
得られたアクリル樹脂の性状はアルコキシシリル基濃度1.7mol/kg、数平均分子量Mn2750、重量平均分子量/数平均分子量=2.1であった。
【0035】
この比較例では、得られたアクリル樹脂の数平均分子量Mnが2500より大きい。このため、未重合のモノマーが多くなっている。これは、重合開始剤の滴下量が2重量部よりも小さいためである。
以上より、本実験例は、比較例と比較し、重合反応を精度良く行うことができた。また、溶剤を使用しないので大気汚染が抑制でき、またエネルギー(熱)を節約できるといった効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に1個以上のアルコキシシリル基を有するアクリル樹脂であって、
数平均分子量が800〜2500であり、重量平均分子量/数平均分子量が2.5以下であり、かつ前記アルコキシシリル基の濃度が1.5モル/Kg樹脂以上であることを特徴とするアクリル樹脂。
【請求項2】
アクリルモノマーを有機溶剤に溶解もしくは分散させるとともに、前記アクリルモノマー100重量部に対して重合開始剤2〜10重量部を前記有機溶剤に滴下し、130℃以上で重合反応を行う工程と、
前記有機溶剤を除去する工程と、
を備えることを特徴とするアクリル樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2012−184364(P2012−184364A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49453(P2011−49453)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】