説明

アクリル樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルムの製造方法及びそれを使用した再帰反射シート

【課題】アクリル樹脂フィルムを巻き取ったロール状物品とした場合であってもブロッキング性が良好であり、且つ微細構造を有する金型からの高温での離型性に優れたアクリル樹脂フィルム、その製造方法及びそれを使用した再帰反射シートを提供する。
【解決手段】ASTM D648に従って特定条件で熱変形温度(HDT)を測定した後の試験片の熱変形量が0.25mmとなるときのHDTが80〜130℃であるアクリル樹脂(A)100質量部及び界面活性剤(B)0.1〜3.8質量部を含有するアクリル樹脂組成物(C)から得られるアクリル樹脂フィルム、そのアクリル樹脂フィルムの表面に微細構造を有する金型を熱プレスした後に金型からアクリル樹脂フィルムを剥離する、表面に微細構造を有するアクリル樹脂フィルムの製造方法及び表面に微細構造を有するアクリル樹脂フィルムを使用した再帰反射シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルムの製造方法及びそれを使用した再帰反射シートに関する。
【背景技術】
【0002】
入射した光を光源方向に向けて反射させる再帰反射シートは従来からよく知られており、その再帰反射性及び暗所における優れた視認性を利用して種々の分野で使用されている。
【0003】
例えば、再帰反射シートを用いた道路標識、工事標識等の標識は、夜間等の暗所で走行する車両のヘッドライトの光源からの光を光源方向、即ち走行する車両の方向へ向けて反射させ、標識の視認者である車両の運転者に対して優れた視認性を提供し、明確な情報伝達を可能にするという優れた特性を有している。
【0004】
このような道路標識、工事標識等の標識として用いられる再帰反射シートとしてアクリルフィルムを表皮材として用いることによって、耐候性や視認性等の優れた特性を付与することができる。
【0005】
上記の用途に使用される再帰反射シートとして、再帰反射性能が優れることからプリズムを用いた再帰反射シートの利用が拡大しつつある。(例えば、特許文献1及び特許文献2)
プリズム型再帰反射シートの製造方法の1つとしては、プリズム型再帰反射シートの表面のプリズム形状を、プリズム形状を有する型を用いて熱転写法によって形成する方法が挙げられる。
【0006】
しかしながら、上記の方法では、良好なプリズム形状を有するアクリル樹脂フィルムを連続生産等の高生産条件で製造するために、転写と剥離を連続的に行なう場合には離型性が問題となる場合がある。
【0007】
上記の問題を解決する方法の1つとして、離型性を向上させたアクリル樹脂フィルムを使用することが考えられる。(例えば、特許文献3)
しかしながら、上記のアクリル樹脂フィルムを用いることにより型との離型性は向上するが、アクリル樹脂フィルムを巻き取った際にアクリル樹脂フィルム同士が貼り付き易く、ロール状物品からアクリル樹脂フィルムを巻き出すことができなくなるという、ブロッキング性の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−105,091号公報
【特許文献2】特開2001−264,525号公報
【特許文献3】特開2003−238,704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題とするところは、アクリル樹脂フィルムを巻き取ったロール状物品とした場合であってもブロッキング性が良好であり、且つ微細構造を有する金型からの高温での離型性に優れたアクリル樹脂フィルム、その製造方法及びそれを使用した再帰反射シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨とするところは、ASTM D648に従って下記条件で熱変形温度(HDT)を測定した後の試験片の熱変形量が0.25mmとなるときのHDT(以下、「本HDT」という)が80〜130℃であるアクリル樹脂(A)100質量部及び界面活性剤(B)0.1〜3.8質量部(アクリル樹脂(A)100質量部に対して)を含有するアクリル樹脂組成物(C)から得られるアクリル樹脂フィルム(以下、「本アクリル樹脂フィルム」という)を第1の発明とする。
<HDT測定条件>
試験片:長さ127mm、幅6.4mm及び高さ12.7mm
Method Aによるスパン長:101.3mm
荷重:0.45MPa
昇温速度:2℃/分
荷重がかかる試験片の部位:エッジワイズ
また、本発明の要旨とするところは、本アクリル樹脂フィルムの表面に微細構造を有する金型を熱プレスした後に金型から本アクリル樹脂フィルムを剥離する、表面に微細構造を有する本アクリル樹脂フィルムの製造方法を第2の発明とする。
【0011】
更に、本発明の要旨とするところは、表面に微細構造を有する本アクリル樹脂フィルムを使用した再帰反射シートを第3の発明とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、本アクリル樹脂フィルムを巻き取ったロール状物品とした場合であってもブロッキング性が良好であり、且つ微細構造を有する金型からの高温での離型性に優れた、表面に微細構造を有する本アクリル樹脂フィルムが高生産条件で得られることから、再帰反射シート等の光学部材用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0013】

アクリル樹脂(A)

本発明で使用されるアクリル樹脂(A)の本HDTは80〜130℃である。
【0014】
本HDTが80℃以上で、本アクリル樹脂フィルムを巻き取ったロール状物品(以下、「本ロール状物品」という)において、本アクリル樹脂フィルム同士の貼り付きを抑制することが可能であり、本ロール状物品のブロッキング性が良好である。また、本HDTが130℃以下で、熱転写法により本アクリル樹脂フィルムの表面に微細構造を転写する際の加熱温度を低温とすることが可能であり、高生産条件でも工程通過性を良好とすることができ、経済的に有利にすることができる。
【0015】
アクリル樹脂(A)としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート及びn−ブチルメタクリレートから選ばれる少なくとも1種を主原料とし、必要に応じて炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の他の共重合性単量体を有する単量体原料から得られる単一重合体又は共重合体が挙げられる。
【0016】
また、上記以外に、アクリル樹脂(A)として特開昭52−56,150号公報、特開昭57−140,161号公報、特開昭58−215,444号公報及び特開昭63−77,963号公報に記載されている重合体を用いることができる。
【0017】
本発明においては、アクリル樹脂(A)としては、例えば、以下に示す多層構造を有するアクリル重合体(以下、「多層構造重合体(1)」という)を含有するものが挙げられる。
【0018】
本発明においては、アクリル樹脂(A)としては、多層構造重合体(1)と以下に示すメタクリル酸アルキル単位を主成分とする重合体(以下、「熱可塑性重合体(2)」という)を含有するものが、多層構造重合体(1)と熱可塑性重合体(2)との比率を変えることで容易に本アクリル樹脂フィルムの耐熱性や柔軟性を調整できる点で、好ましい。
【0019】
多層構造重合体(1)の配合量としては、本アクリル樹脂フィルムの柔軟性及び耐熱性の点で、多層構造重合体(1)及び熱可塑性重合体(2)の合計量100質量部に対して1〜99質量部が好ましく、50〜95質量部がより好ましく、70〜95質量部が更に好ましい。
【0020】
また、熱可塑性重合体(2)の配合量としては、多層構造重合体(1)及び熱可塑性重合体(2)の合計量100質量部に対して1〜99質量部が好ましい。熱可塑性重合体(2)の配合量が99質量部以下、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下で本アクリル樹脂フィルムに柔軟性を与えることができる傾向にある。また、熱可塑性重合体(2)の配合量が1質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上で、本アクリル樹脂フィルムの耐熱性を良好とすることができる傾向にある。

<多層構造重合体(1)>

本発明で使用される多層構造重合体(1)としては、例えば、以下に示す、最内層重合体(1−A)、中間層重合体(1−B)及び最外層重合体(1−C)を有する多層構造重合体が挙げられる。
【0021】
尚、本発明において、最内層重合体(1−A)、中間層重合体(1−B)及び最外層重合体(1−C)を有する多層構造重合体は、まず最内層重合体(1−A)を製造し、次いで、最内層重合体(1−A)の存在下で中間層重合体(1−B)を製造し、更に中間層重合体(1−B)の存在下で最外層重合体(1−C)を製造して得られる重合体をいう。また、以下において2層以上の多層とは存在下重合により得られる2段以上の多段重合体をいう。
【0022】
また、多層構造重合体(1)の製造方法としては、以下に示す多層構造重合体(1)の製造方法が挙げられる。

〈最内層重合体(1−A)〉

本発明で使用される最内層重合体(1−A)は多層構造重合体(1)の中心部分を構成するためものである。
【0023】
多層構造重合体(1)中の最内層重合体(1−A)の含有量としては、任意の含有量とすることができる。
【0024】
最内層重合体(1−A)は単層又は多層とすることができる。また、最内層重合体(1−A)を2層とする場合、夫々の層の単量体組成としては同一でも異なっていてもよい。
【0025】
最内層重合体(1−A)を2層とする場合、内側層(1−A)のガラス転移温度(Tg)と外側層(1−A)のTgは同一でも異なっていてもよい。
【0026】
最内層重合体(1−A)としては、例えば、アクリル酸アルキル(1−A1)、メタクリル酸アルキル(1−A2)、これらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(1−A3)、多官能性単量体(1−A4)及びグラフト交叉剤(1−A5)を構成成分とする単量体成分を重合して得られる重合体が挙げられる。
【0027】
最内層重合体(1−A)のTgとしては、後述の中間層重合体(1−B)を含む場合、多層構造重合体(1)の柔軟性の点で、中間層重合体(1−B)のTgよりも低いことが好ましい。
【0028】
最内層重合体(1−A)のTgとしては、多層構造重合体(1)の柔軟性の点で、25℃未満が好ましく、10℃以下がより好ましく、0℃以下が更に好ましい。
【0029】
尚、本発明において、Tgはポリマーハンドブック〔Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)〕に記載されている値を用いてFOXの式から算出した値をいう。
【0030】
尚、上記の単量体成分において、アクリル酸アルキル(1−A1)及びグラフト交叉剤(1−A5)は必須成分であり、メタクリル酸アルキル(1−A2)、二重結合を有する他の単量体(1−A3)及び多官能性単量体(1−A4)は任意成分である。
【0031】
アクリル酸アルキル(1−A1)としては、例えば、アルキル基が直鎖状又は分岐鎖状のものが挙げられる。
【0032】
アクリル酸アルキル(1−A1)の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル及びアクリル酸n−オクチルが挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0033】
メタクリル酸アルキル(1−A2)としては、例えば、アルキル基が直鎖状又は分岐鎖状のものが挙げられる。
【0034】
メタクリル酸アルキル(1−A2)の具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル及びメタクリル酸n−ブチルが挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0035】
二重結合を有する他の単量体(1−A3)としては、例えば、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル系単量体;スチレン、アルキル置換スチレン等の芳香族ビニル単量体;及びアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0036】
多官能性単量体(1−A4)としては、同程度の共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する架橋性単量体が挙げられる。
【0037】
多官能性単量体(1−A4)の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン;及びトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のシアヌレート系単量体が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0038】
尚、本発明において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」又は「メタクリレート」を示す。
【0039】
本発明においては、最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分中に多官能性単量体(1−A4)及び後述するグラフト交叉剤(1−A5)から選ばれる少なくとも1種を含有させることができる。
【0040】
グラフト交叉剤(1−A5)としては、異なる共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する単量体が挙げられる。
【0041】
グラフト交叉剤(1−A5)の具体例としては、共重合性のα,β−不飽和カルボン酸又はジカルボン酸のアリル、メタリル若しくはクロチルエステルが挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0042】
また、本発明においては、多官能性単量体(1−A4)として使用されるトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のシアヌレート系単量体をグラフト交叉剤(1−A5)として使用することができる。
【0043】
グラフト交叉剤(1−A5)を含有する単量体の重合に際しては、グラフト交叉剤(1−A5)中のエステルを構成している部分の共役不飽和結合はアリル基、メタリル基又はクロチル基よりはるかに速く反応して重合が行なわれる。従って、重合後のグラフト交叉剤(1−A5)中のアリル基、メタリル基又はクロチル基のかなりの部分は未反応の状態で残り、次層の中間層重合体(1−B)を得る際の重合に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与えるために使用される。
【0044】
本発明においては、最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分中に連鎖移動剤を含有することができる。
【0045】
上記の連鎖移動剤としては、例えば、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール及び四塩化炭素が挙げられる。これらは単独又は二種以上を混合して使用できる。

最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分中のアクリル酸アルキル(1−A1)とメタクリル酸アルキル(1−A2)の合計量としては80〜99.9質量%が挙げられる。
【0046】
最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分中のアクリル酸アルキル(1−A1)の含有量としては50〜99.9質量%が挙げられる。
【0047】
最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分中のメタクリル酸アルキル(1−A2)の含有量としては0〜49.9質量%が挙げられる。
【0048】
最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分中の共重合可能な二重結合を有する他の単量体(1−A3)の含有量としては0〜20質量%が挙げられる。
【0049】
最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分中の多官能性単量体(1−A4)の含有量としては0〜10質量%が挙げられる。
【0050】
最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分中のグラフト交叉剤(1−A5)の含有量としては0.1〜10質量%が挙げられる。


〈中間層重合体(1−B)〉

中間層重合体(1−B)としては、アクリル酸アルキル(1−B1)、メタクリル酸アルキル(1−B2)、これらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(1−B3)、多官能性単量体(1−B4)及びグラフト交叉剤(1−B5)を構成成分とする単量体成分をグラフト重合して得られる重合体が挙げられる。
【0051】
中間層重合体(1−B)は上記の単量体成分を最内層重合体(1−A)の存在下で重合することにより得られる。
【0052】
多層構造重合体(1)中に中間層重合体(1−B)がある場合の中間層重合体(1−B)の含有量としては5〜35質量%、好ましくは5〜20質量%が好ましい。中間層重合体(1−B)の含有量がこの範囲内で、本アクリル樹脂フィルムの耐成形白化性と耐熱性及び柔軟性を両立させることができる傾向にあり、且つ、後述するアクリル樹脂組成物(C)をフィルム状に成形するときの製膜性を良好とすることができる傾向にある。
【0053】
中間層重合体(1−B)のTgとしては、本アクリル樹脂フィルムの耐成形白化性の点で、最内層重合体のTgより高いことが好ましい。
【0054】
尚、上記の単量体成分において、アクリル酸アルキル(1−B1)、メタクリル酸アルキル(1−B2)及びグラフト交叉剤(1−B5)は必須成分であり、二重結合を有する他の単量体(1−B3)及び多官能性単量体(1−B4)は任意成分である。
【0055】
アクリル酸アルキル(1−B1)としては、例えば、アルキル基が直鎖状又は分岐鎖状のものが挙げられる。
【0056】
アクリル酸アルキル(1−B1)の具体例としては、アクリル酸アルキル(1−A1)と同様の単量体が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0057】
メタクリル酸アルキル(1−B2)は、例えば、アルキル基が直鎖状又は分岐鎖状のものが挙げられる。
【0058】
メタクリル酸アルキル(1−B2)の具体例としては、メタクリル酸アルキル(1−A2)と同様の単量体が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。

二重結合を有する他の単量体(1−B3)としては、二重結合を有する他の単量体(1−A3)と同様の単量体が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0059】
多官能性単量体(1−B4)としては、多官能性単量体(1−A4)と同様の単量体が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0060】
本発明においては、中間層重合体(1−B)を得るための単量体成分中に多官能性単量体(1−B4)及び後述するグラフト交叉剤(1−B5)から選ばれる少なくとも1種を含有させることにより、例えば、アクリル樹脂(A)に耐熱性等が厳しく要求されたりする場合においても、安定な中間層重合体(1−B)を得ることができる傾向にある。
【0061】
グラフト交叉剤(1−B5)としては、グラフト交叉剤(1−A5)と同様の単量体が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0062】
また、本発明においては、多官能性単量体(1−B4)として使用されるトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のシアヌレート系単量体をグラフト交叉剤(1−B5)として使用することができる。
【0063】
グラフト交叉剤(1−B5)を含有する単量体の重合に際しては、グラフト交叉剤(1−B5)中のエステルを構成している部分の共役不飽和結合はアリル基、メタリル基又はクロチル基よりはるかに速く反応して重合が行なわれる。従って、重合後のグラフト交叉剤(1−A5)中のアリル基、メタリル基又はクロチル基のかなりの部分は未反応の状態で残り、次層の中間層重合体(1−B)を得る際の重合に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与えるために使用される。
【0064】
本発明においては、中間層重合体(1−B)を得るための単量体成分中に連鎖移動剤を含有することができる。
【0065】
上記の連鎖移動剤としては、最内層重合体(1−A)を得るために使用される連鎖移動剤と同様の連鎖移動剤が挙げられ、単独で又は二種以上を混合して使用できる。

中間層重合体(1−B)を得るための単量体成分中のアクリル酸アルキル(1−B1)とメタクリル酸アルキル(1−B2)の合計量としては19.8〜99.9質量%が挙げられる。
【0066】
中間層重合体(1−B)を得るための単量体成分中のアクリル酸アルキル(1−B1)の含有量としては9.9〜90質量%が挙げられる。
【0067】
中間層重合体(1−B)を得るための単量体成分中のメタクリル酸アルキル(1−B2)の含有量としては9.9〜90質量%が挙げられる。
【0068】
中間層重合体(1−B)を得るための単量体成分中の共重合可能な二重結合を有する他の単量体(1−B3)の含有量としては0〜20質量%が挙げられる。
【0069】
中間層重合体(1−B)を得るための単量体成分中の多官能性単量体(1−B4)の含有量としては0〜10質量%が挙げられる。
【0070】
中間層重合体(1−B)を得るための単量体成分中のグラフト交叉剤(1−B5)の含有量としては0.1〜10質量%が挙げられる。

本発明においては、中間層重合体(1−B)の組成としては、最内層重合体(1−A)の組成と異なることが好ましい。最内層重合体(1−A)と中間層重合体(1−B)の組成を異ならせることで、本アクリル樹脂フィルムの耐成形白化性を良好とすることができる傾向にある。
【0071】
尚、本発明で言う「異なる組成」とは、各重合体を形成する単量体の種類及び量の少なくとも1種が異なるものをいう。
【0072】
本発明においては、中間層重合体(1−B)単独のTgとしては25〜100℃が好ましい。中間層重合体(1−B)単独のTgが25℃以上、好ましくは40℃以上、更に好ましくは50℃以上で、アクリル樹脂(A)の耐熱性及び柔軟性が良好となる傾向にある。また、中間層重合体(1−B)単独のTgが100℃以下、好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下で、アクリル樹脂(A)をフィルム状に成形するときの製膜性が良好となる傾向にあり、本アクリル樹脂フィルムの耐成形白化性が良好となる傾向にある。

〈最外層重合体(1−C)〉

最外層重合体(1−C)としては、メタクリル酸アルキル(1−C1)、アクリル酸アルキル(1−C2)及びこれらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(1−C3)を構成成分とする単量体成分を重合して得られる重合体が挙げられる。
【0073】
最外層重合体(1−C)は、最内層重合体(1−A)の存在下で重合して得られた中間層重合体(1−B)の存在下又は最内層重合体(1−A)の存在下で上記の単量体成分をグラフト重合することにより得られる。
【0074】
最外層重合体(1−C)のTgとしては60℃以上が好ましい。最外層重合体(1−C)のTgが60℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上で、耐熱性の良好な本アクリル樹脂フィルムが得られる傾向にある。また、最外層重合体(1−C)のTgとしては、乳化重合で得られた場合の多層構造重合体(1)の凝固性及び多層構造重合体(1)の取り扱い性の点で、105℃以下が好ましい。
【0075】
最外層重合体(1−C)としては、目的に応じて単層又は2層以上の多層とすることができる。2層以上の最外層重合体(1−C)とする場合には、最外層重合体(1−C)を得るための単量体成分を2段以上の多段重合させることにより最外層重合体(1−C)を得ることができる。
【0076】
多層構造重合体(1)中の最外層重合体(1−C)の含有量としては10〜80質量%が挙げられる。
【0077】
最外層重合体(1−C)を得るための単量体成分において、メタクリル酸アルキル(1−C1)は必須成分であり、アクリル酸アルキル(1−C2)及びこれらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(1−C3)は任意成分である。
【0078】
メタクリル酸アルキル(1−C1)としては、例えば、アルキル基が直鎖状及び分岐鎖状のものが挙げられる。
【0079】
メタクリル酸アルキル(1−C1)の具体例としては、メタクリル酸アルキル(1−A2)と同様の単量体が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0080】
アクリル酸アルキル(1−C2)としては、例えば、アルキル基が直鎖状及び分岐鎖状のものが挙げられる。
【0081】
アクリル酸アルキル(1−C2)の具体例としては、アクリル酸アルキル(1−A1)と同様の単量体が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0082】
二重結合を有する他の単量体(1−C3)としては、例えば、二重結合を有する他の単量体(1−A3)と同様の単量体が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。

最外層重合体(1−C)を得るための単量体成分中のメタクリル酸アルキル(1−C1)の含有量としては51〜100質量%が挙げられる。
【0083】
最外層重合体(1−C)を得るための単量体成分中のアクリル酸アルキル(1−C2)の含有量としては0〜20質量%が挙げられる。
【0084】
二重結合を有する単量体(1−C3)の含有量としては0〜49質量%が挙げられる。
【0085】
上記の連鎖移動剤としては、最内層重合体(1−A)を得るために使用される連鎖移動剤と同様の連鎖移動剤が挙げられ、単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0086】
最外層重合体(1−C)を得るための単量体成分中の連鎖移動剤の含有量としては、最外層重合体(1−C)を得るための単量体成分100質量部に対して0.01〜5質量部が挙げられる。


〈多層構造重合体(1)の製造方法〉

多層構造重合体(1)の製造法としては、例えば、逐次多段乳化重合法、及び最内層重合体(1−A)及び中間層重合体(1−B)を逐次多段乳化重合法で得た後に最外層重合体(1−C)の重合時に懸濁重合系に転換させる乳化懸濁重合法が挙げられる。
【0087】
多層構造重合体(1)を逐次多段乳化重合法で製造する方法としては、例えば、最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分、水及び界面活性剤を混合して調製した乳化液を反応器に供給して重合した後に、中間層重合体(1−B)を得るための単量体成分及び最外層重合体(1−C)を得るための単量体成分をそれぞれ順に反応器に供給して重合する方法が挙げられる。
【0088】
上記の方法で多層構造重合体(1)を得ることにより、得られたラテックスをアセトン中に分散させた際に、その分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数が多層構造重合体(1)100gあたり0〜50個である多層構造重合体(1)を容易に得ることができる。
【0089】
上記の方法で得られた多層構造重合体(1)を用いて得られる本アクリル樹脂フィルムは、フィルム中のフィッシュアイ数が少ないという特性の点で、好ましい。
【0090】
多層構造重合体(1)を逐次多段乳化重合法で製造する際に使用される界面活性剤としては、例えば、アニオン系、カチオン系及びノニオン系の界面活性剤が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0091】
アニオン系の界面活性剤としては、ロジン石鹸、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系等のスルホン酸塩;及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩が挙げられる。
【0092】
アニオン系の界面活性剤の市販品の具体例としては、三洋化成工業(株)製のエレミノールNC−718、東邦化学工業(株)製のフォスファノールLS−529、フォスファノールRS−610NA、フォスファノールRS−620NA、フォスファノールRS−630NA、フォスファノールRS−640NA、フォスファノールRS−650NA及びフォスファノールRS−660NA並びに花王(株)製のラテムルP−0404、ラテムルP−0405、ラテムルP−0406及びラテムルP−0407(いずれも商品名)が挙げられる。
【0093】
最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分、水及び界面活性剤を混合して乳化液を調製する方法としては、例えば、水中に最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分を仕込んだ後、界面活性剤を投入する方法;水中に界面活性剤を仕込んだ後に最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分を投入する方法;及び最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分中に界面活性剤を仕込んだ後に水を投入する方法が挙げられる。
【0094】
最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分を水及び界面活性剤と混合して乳化液を調製するための混合装置としては、例えば、攪拌翼を備えた攪拌機;ホモジナイザー、ホモミキサー等の強制乳化装置;及び膜乳化装置が挙げられる。
【0095】
上記の乳化液としては、最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分の油中に水滴が分散したW/O型、水中に最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分の油滴が分散したO/W型のいずれの分散体でも使用することができる。
【0096】
上記の方法で得られた多層構造重合体(1)のラテックスは、必要に応じて濾材を配した濾過装置を用いて処理することができる。この濾過処理は、多層構造重合体(1)のラテックスから重合中に発生したスケールの除去又は重合原料中若しくは重合中に外部から混入する夾雑物の除去に使用される。
【0097】
上記の濾材を配した濾過装置としては、例えば、袋状のメッシュフィルターを利用したISPフィルターズ・ピーテーイー・リミテッド社のGAFフィルターシステム、円筒型濾過室内の内側面に円筒型の濾材を配し、該濾材内に攪拌翼を配した遠心分離型濾過装置及び濾材が該濾材面に対して水平の円運動及び垂直の振幅運動をする振動型濾過装置が挙げられる。
【0098】
多層構造重合体(1)は多層構造重合体(1)のラテックスから回収することによって粉状物として得られる。
【0099】
多層構造重合体(1)のラテックスから多層構造重合体(1)を回収する方法としては、例えば、塩析又は酸析による凝固方法、噴霧乾燥法及び凍結乾燥法が挙げられる。
【0100】
多層構造重合体(1)を、金属塩を用いた塩析処理による凝固法で回収する場合、最終的に得られた多層構造重合体(1)中への残存金属含有量を800ppm以下にすることが好ましく、微量であるほど好ましい。
【0101】
上記の塩析処理における金属塩としてカルシウム、マグネシウム、ナトリウム等の水との親和性の強い金属塩、好ましくはカルシウム塩を使用する場合には、多層構造重合体(1)中の残存金属含有量を極力少なくすることにより、本アクリル樹脂フィルムを沸騰水中に浸漬する際の白化現象を抑制できる傾向にある。
【0102】
多層構造重合体(1)中の最内層重合体(1−A)、中間層重合体(1−B)及び最外層重合体(1−C)を形成する際に使用される重合開始剤としては公知のものが使用でき、その添加方法としては、水相、単量体相のいずれか片方に添加する方法又は双方に添加する方法が挙げられる。
【0103】
上記の重合開始剤としては、例えば、過酸化物、アゾ系開始剤及び過酸化物又はアゾ系開始剤と酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が挙げられる。

レドックス系開始剤の具体例としては、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が挙げられる。
【0104】
本発明においては、多層構造重合体(1)のラテックスの製造方法として、最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分を水及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給して重合した後に、中間層重合体(1−B)を形成する場合には中間層重合体(1−B)を得るための単量体成分、及び最外層重合体(1−C)を得るための単量体成分をそれぞれ順に反応器に供給して重合する方法で製造する場合、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩・ロンガリットを含む、重合容器内の水溶液を重合温度まで昇温した後に、最内層重合体(1−A)を得るための単量体成分を水及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給して重合し、次いで、中間層重合体(1−B)を形成する場合には重合開始剤を含む中間層重合体(1−B)を得るための単量体成分混合物、及び最外層重合体(1−C)を得るための単量体成分混合物を順次反応器に供給して重合する方法が好ましい。
【0105】
本発明においては、多層構造重合体(1)のラテックスを得るための重合温度としては用いる重合開始剤の種類や量によって異なるが、例えば40〜120℃が挙げられる。

<熱可塑性重合体(2)>

本発明で使用される熱可塑性重合体(2)としては、例えば、メタクリル酸アルキル単位を主成分とする重合体が挙げられる。
【0106】
メタクリル酸アルキル単位を主成分とする重合体としては、本アクリル樹脂フィルムの耐熱性の点で、メタクリル酸アルキル50〜100質量%、アクリル酸アルキル0〜50質量%及びこれらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜49質量%を含有する単量体成分を重合して得られる重合体が好ましい。
【0107】
また、熱可塑性重合体(2)から作成したJISK7191に基づく荷重たわみ温度測定用試験片を使用したときの、1.82MPaの荷重でJISK7191に従って測定して得られる熱可塑性重合体(2)の荷重たわみ温度としては、90〜150℃が好ましい。熱可塑性重合体(2)の荷重たわみ温度が90℃以上で、アクリル樹脂(A)の本HDTを80〜130℃とすることが容易となる傾向にある。
【0108】
熱可塑性重合体(2)を得るための単量体成分に使用されるメタクリル酸アルキルとしては、メタクリル酸アルキル(1−A2)と同様の単量体が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0109】
熱可塑性重合体(2)を得るための単量体成分中のメタクリル酸アルキルの含有量としては、本アクリル樹脂フィルムの耐熱性の点で、50〜100質量%が好ましく、85〜99.9質量%がより好ましく、92〜99.9質量%が更に好ましい。
【0110】
熱可塑性重合体(2)を得るための単量体成分中に必要に応じて含有されるアクリル酸アルキルとしては、アクリル酸アルキル(1−A1)と同様の単量体が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0111】
熱可塑性重合体(2)を得るための単量体成分中のアクリル酸アルキルの含有量としては、本アクリル樹脂フィルムの耐熱性の点で、0〜50質量%が好ましく、0.1〜40質量%がより好ましく、0.1〜15質量%更に好ましく、0.1〜8質量%が特に好ましい。
【0112】
熱可塑性重合体(2)を得るための単量体成分中の二重結合を有する他の単量体としては、二重結合を有する他の単量体(1−A3)と同様の単量体が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0113】
熱可塑性重合体(2)を得るための単量体成分中の二重結合を有する他の単量体の含有量としては、本アクリル樹脂フィルムの耐熱性の点で、0〜49質量%が好ましい。
【0114】
熱可塑性重合体(2)の重合方法としては、例えば、懸濁重合法、乳化重合法及び塊状重合法が挙げられる。

界面活性剤(B)

本発明で使用される界面活性剤(B)としては、例えば、アニオン系、カチオン系及びノニオン系の界面活性剤が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0115】
界面活性剤(B)の市販品の具体例としては、東邦化学工業(株)製のフォスファノールRS−610NA及び三井サイテック(株)製のエアロゾルOT(いずれも商品名)が挙げられる。

アクリル樹脂組成物(C)

本発明で使用されるアクリル樹脂組成物(C)はアクリル樹脂(A)及び界面活性剤(B)を含有する。
【0116】
アクリル樹脂組成物(C)中のアクリル樹脂(A)及び界面活性剤(B)の含有量としては、アクリル樹脂(A)100質量部に対して界面活性剤(B)0.1〜3.8質量部である。
【0117】
アクリル樹脂組成物(C)の形状としては、例えば、塊状物、粉体状物及びペレット状物が挙げられる。これらの中で、アクリル樹脂組成物(C)の取り扱い性の点で、ペレット状物が好ましい。
【0118】
界面活性剤(B)の含有量を0.1質量部以上とすることで、微細構造を有する金型からの、後述する本アクリル樹脂フィルムの離型が容易となる。また、界面活性剤(B)の含有量を3.8質量部以下とすることでアクリル樹脂組成物(C)をペレット化する際のアクリル樹脂組成物(C)(のブロッキングを抑制でき、アクリル樹脂組成物(C)の押出加工が容易となる。
【0119】
界面活性剤(B)のアクリル樹脂(A)への添加方法としては、例えば、アクリル樹脂組成物(C)をペレット状物とする前に添加する方法及びペレット状物としたアクリル樹脂(A)に添加する方法が挙げられる。これらの中で、アクリル樹脂組成物(C)の取り扱い性の点で、アクリル樹脂組成物(C)をペレット状物とする前に添加する方法が好ましい。
【0120】
本発明においては、アクリル樹脂組成物(C)中には、必要に応じて、安定剤、滑剤、加工助剤、艶消し剤、光拡散剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、着色剤、抗菌剤、防かび剤、離型剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等の各種配合剤を含むことができる。
【0121】
本発明においては、アクリル樹脂組成物(C)中には、本アクリル樹脂フィルムを使用した製品を保護するための本アクリル樹脂フィルムの耐候性を付与する点で、紫外線吸収剤を配合することが好ましい。
【0122】
アクリル樹脂組成物(C)中に配合される紫外線吸収剤の分子量としては300以上が好ましく、400以上がより好ましい。紫外線吸収剤の分子量が300以上で、本アクリル樹脂フィルムを製造する際に使用される金型の汚れを抑制することができる傾向にある。
【0123】
紫外線吸収剤の種類としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤及びトリアジン系紫外線吸収剤が挙げられる。
【0124】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の市販品としては、例えば、チバガイギー社のチヌビン234及び旭電化工業(株)製のアデカスタブLA−31が挙げられる。
【0125】
トリアジン系紫外線吸収剤の市販品としては、例えば、チバガイギー社のチヌビン1577(商品名)が挙げられる。

本アクリル樹脂フィルム

本アクリル樹脂フィルムはアクリル樹脂組成物(C)を成形して得られるものである。
【0126】
本アクリル樹脂フィルムの厚みとしては、本アクリル樹脂フィルムの取り扱い性の点で、10〜500μmが好ましく、30〜200μmがより好ましい。
【0127】
本アクリル樹脂フィルムの伸度としては、175μmの厚みの本アクリル樹脂フィルムを使用して得られるJIS K7127に記載の試験片タイプ2に基づいた引張試験片を、チャック間距離100mm及び引張速度100mm/分の速度でJIS K7127に従って測定した際の伸度として、本アクリル樹脂フィルムの表面に微細構造を転写する際の工程通過性の点で、10〜350%が好ましい。本アクリル樹脂フィルムの伸度が10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上で、微細構造を有する金型からの転写により本アクリル樹脂フィルムの表面に微細構造を形成させる際に本アクリル樹脂フィルムを破断させることなく取り扱うことができる傾向にあり、本アクリル樹脂フィルムのハンドリング性を良好に保つことができる傾向にある。また、本アクリル樹脂フィルムの伸度が350%以下、好ましくは340%以下、より好ましくは330%以下で、微細構造を有する金型からの本アクリル樹脂フィルムの離型性を良好に保つことができる傾向にある。
【0128】
本アクリル樹脂フィルムの製造法としては、例えば、溶融流延法、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法及びカレンダー法が挙げられるが、経済性の点でTダイ法が好ましい。
【0129】
本アクリル樹脂フィルムをTダイ法等の溶融押出法で製造する場合には、200メッシュ以上、好ましくは300メッシュ以上、より好ましくは500メッシュ以上のスクリーンメッシュで溶融状態にあるアクリル樹脂組成物(C)を濾過しながら押出すことが好ましい。
【0130】
本アクリル樹脂フィルムは押出機等で製膜した後、巻き取り機で紙管等の管状物に巻き取って、本ロール状物品とすることができる。
【0131】
本アクリル樹脂フィルムの表面に微細構造を形成する方法としては、例えば、熱転写法及びエッチング法が挙げられる。
【0132】
これらの中で、微細構造を有する金型を加熱した後に、本アクリル樹脂フィルムの表面に、加熱された金型をプレスして本アクリル樹脂フィルムの表面に微細構造を形成する熱転写法が生産性や経済性の点で好ましい。
【0133】
上記の熱転写法としては、例えば、微細構造を有する金型を本ロール状物品から切り出された本アクリル樹脂フィルムに加熱プレスして微細構造を枚葉で熱転写させる方法及び加熱されたベルト状の微細構造を有する金型にニップロールを用いて本ロール状物品から巻き出された本アクリル樹脂フィルムを挟みこみ加圧し、本アクリル樹脂フィルムの表面に微細構造を熱転写させる連続賦形方法が挙げられる。
【0134】
熱転写する際の微細構造を有する金型の金型温度としては、130〜250℃、好ましくは140〜240℃、更に好ましくは150〜230℃が好ましい。金型温度が130℃以上で、本アクリル樹脂フィルムの表面に均一な微細構造を形成することができる傾向にある。また、金型温度が250℃以下で、本アクリル樹脂フィルムの表面に形成された微細構造を変形させることなく工程を通過させることができる傾向にある。
【0135】
上記の微細構造を有する金型を作成する方法としては、例えば、サンドブラスト法、エッチング法及び放電加工法が挙げられる。
【0136】
微細構造を有する金型を作成する方法の具体例としては以下に示す方法が挙げられる。
【0137】
まず、表面を平坦に研削した銅等の金属基材上に、切削法により所望の大きさの微細構造を形成し、微細構造を有する雄型金型を作成する。
【0138】
次いで、得られた雄型金型の表面に電鋳加工を行うことにより金属被膜を形成し、この金属被膜を雄型金型から取り外すことにより、得られる微細構造を有する金属被膜を金型とする。
【0139】
得られた金型は、接合して所望の大きさ又はベルト状に加工して使用できる。

再帰反射シート

本発明の再帰反射シートは本アクリル樹脂フィルムの表面に、微細構造を有する金型を熱プレスした後に金型からアクリル樹脂フィルムを剥離することにより得られる、表面に微細構造を有するアクリル樹脂フィルムを使用して製造したものである。
【実施例】
【0140】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。尚、以下において、「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。また、以下の説明で使用される略号は以下の通りである。
MMA: メチルメタクリレート
MA: メチルアクリレート
n−BA: n−ブチルアクリレート
St: スチレン
1,3−BD: 1,3−ブチレングリコールジメタクリレート
AMA: アリルメタクリレート
CHP: クメンハイドロパーオキサイド
t−BH: t−ブチルハイドロパーオキサイド
n−OM: n−オクチルメルカプタン
EDTA: エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
SFS: ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート
RS610NA:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム(東邦化学工業(株)製、商品名:フォスファノールRS610NA)
本発明において、多層構造重合体(1)、熱可塑性重合体(2)、アクリル樹脂フィルム及び再帰反射シートについての各種評価は以下の方法により実施した。
(1)熱可塑性重合体(2)の荷重たわみ温度
熱可塑性重合体(2)を使用して射出成形法によりJISK7191に基づく荷重たわみ温度測定用試験片を作製し、60℃で4時間アニールを行った後に、1.82MPaの荷重でJISK7191に従って熱可塑性重合体(2)の荷重たわみ温度を測定した。
(2)アクリル樹脂組成物の押出加工性
アクリル樹脂組成物の粉末を、230℃に加熱した脱気式押出機(東芝機械(株)製、商品名:TEM−35B)に供給し、混練してペレットを得る際の、アクリル樹脂組成物の押出加工性を以下の基準に従って評価した。
○:押出良好(原料供給ホッパー内での粉末のブロッキングが無い)
×:押出不可(原料供給ホッパー内での粉末のブロッキングが生じ、ペレット化不可)
(3)アクリル樹脂の本HDT
アクリル樹脂フィルムの原料として使用するペレット状のアクリル樹脂を使用して射出成形法によりASTM D648に基づく長さ127mm、幅6.4mm及び高さ12.7mmの熱変形温度測定試験片を作製し、60℃で4時間アニールを行った。
【0141】
次いで、この試験片を使用して、ASTM D648に従って、Method Aによるスパン長101.6mm、荷重0.45MPa、昇温速度2℃/分及びエッジワイズの条件でHDTの測定試験を行い、試験片の変形量が0.25mmに達した際のアクリル樹脂の本HDTを測定した。
(4)アクリル樹脂フィルムの伸度
厚さ175μmのアクリル樹脂フィルムを作製し、このフィルム使用してJISK7127に記載の試験片タイプ2に基づいた引張試験片を、チャック間距離100mm及び引張速度100mm/分で、JIS K7127に従ってアクリル樹脂フィルムの伸度を測定した。
(5)アクリル樹脂フィルムの鏡面金型離型性
横10cm及び縦25cmにカットした厚さ175μmのアクリル樹脂フィルムを、ステンレス製鏡面金型とポリテトラフルオロエチレンシートで挟み込み、200℃の温度及び0.5MPaの圧力で10分間加圧した後、2.0MPaの圧力で更に10分間加圧を行い、アクリル樹脂フィルムを金型に貼り付けた。
【0142】
次いで、金型に貼り付けたアクリル樹脂フィルムの表面温度が110℃、90℃、70℃となった際の各温度における90°の角度でフィルムを手で剥がした際のアクリル樹脂フィルムの鏡面金型離型性を以下の基準に従って評価した。
◎:無理なく剥がれる。
○:僅かな力で剥がれる。
△:力を入れると剥がれる。
×:力を入れても剥がれない又は剥がす際にフィルムが断裂する。
【0143】
尚、ステンレス製鏡面金型の表面粗さ(Ra)を、超深度表面形状測定顕微鏡(キーエンス社製、商品名:VK−8500)を用いて、測定倍率100倍及び測定ピッチ0.05μmで測定したところ、20〜40nmであった。
(6)プリズム形状転写時のアクリル樹脂フィルムのブロッキング性
アクリル樹脂フィルムのロール状物品から巻き出して搬送されるアクリル樹脂フィルムを150〜180℃に加熱されたプリズム形状を持つベルト状の金型にニップロールを用いて挟み込むことによりアクリル樹脂フィルムを金型に加圧してプリズム形状を転写する工程において、アクリル樹脂フィルムを巻き出す際のアクリル樹脂フィルムのブロッキング性を以下の基準に従って評価した。
○:貼り付きが無く搬送可能。
×:貼り付きが有り搬送不可能。
(7)プリズム形状転写時のアクリル樹脂フィルムのプリズム金型離型性
アクリル樹脂フィルムのロール状物品から巻き出して搬送されるアクリル樹脂フィルムを150〜180℃に加熱されたプリズム形状を持つベルト状の金型にニップロールを用いて挟み込むことによりアクリル樹脂フィルムを金型に加圧してプリズム形状を転写した後に金型からアクリル樹脂フィルムを離型する工程において、アクリル樹脂フィルムの金型からの離型性を以下の基準に従って評価した。
○:離型性は良好。
△:僅かにフィルムが金型に貼り付くものの、離型は可能。
×:フィルムが金型に貼り付き、離型は不可能。
(8)プリズム形状転写時のアクリル樹脂フィルムのハンドリング性
アクリル樹脂フィルムのロール状物品から巻き出して搬送されるアクリル樹脂フィルムを150〜180℃に加熱されたプリズム形状を持つベルト状の金型にニップロールを用いて挟み込むことによりアクリル樹脂フィルムを金型に加圧してプリズム形状を転写した後に金型からアクリル樹脂フィルムを離型する工程において、金型からの離型の際のアクリル樹脂フィルムのハンドリング性を以下の基準に従って評価した。
○:フィルムの破断は無し。
△:フィルムが破断することはあるものの、使用は可能。
×:常に破断。使用は不可。

[調製例1]多層構造重合体(1−1)の製造
窒素雰囲気下、攪拌機及び還流冷却器を備えた反応容器内に脱イオン水204部を入れ、80℃に昇温し、以下に示す原料(イ)を添加した。
【0144】
次いで、反応容器内の液体を撹拌しながら以下に示す原料(ロ)の混合物の1/10を仕込み、15分保持した。
【0145】
更に、反応容器内に原料(ロ)の残りを水に対する単量体混合物の増加率が8%/時間となるように連続的に添加した後に1時間保持して、最内層重合体内側層(1−1−A)のラテックスを得た。
【0146】
続いて、最内層重合体内側層(1−1−A)のラテックスにSFS0.12部を加え、15分保持し、窒素雰囲気下80℃で撹拌を行いながら、以下に示す原料(ハ)を水に対する単量体混合物の増加率が4%/時間となるように連続的に添加した後に2時間保持して、最内層重合体外側層(1−1−A)を形成させて、最内層重合体(1−1−A)のラテックスを得た。
【0147】
次いで、最内層重合体(1−1−A)のラテックスにSFS0.12部を加え、15分保持し、窒素雰囲気下80℃で撹拌を行いながら、以下に示す原料(ニ)を水に対する単量体混合物の増加率が10%/時間となるように連続的に添加した後に1時間保持して、最外層重合体(1−1−C)を形成させて、多層構造重合体(1−1)のラテックスを得た。
【0148】
得られた多層構造重合体(1−1)のラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き:150μm)を取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した後、脱イオン水306部に酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状の多層構造重合体(1−1)を得た。多層構造重合体(1−1)の組成を表1に示す。
<原料(イ)>
SFS 0.25部
硫酸第一鉄 0.00002部
EDTA 0.00007部
<原料(ロ)>
MMA 11.2部
n−BA 12.4部
St 1.2部
AMA 0.1部
1,3−BD 0.7部
t―BH 0.04部
RS610NA 0.7部
<原料(ハ)>
n−BA 30.7部
St 6.5部
AMA 0.65部
1,3−BD 0.1部
CHP 0.11部
RS610NA 0.59部
<原料(ニ)>
MMA 35.3部
MA 1.9部
n−OM 0.11部
t−BH 0.06部
【0149】
【表1】


表1中の略号は以下の化合物を示す。
MMA: メチルメタクリレート
n−BA: n−ブチルアクリレート
St: スチレン
AMA: アリルメタクリレート
1,3−BD: 1,3−ブチレングリコールジメタクリレート
t−BH: t−ブチルハイドロパーオキサイド
RS610NA:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム(東邦化学工業(株)製、商品名:フォスファノールRS610NA)
CHP: クメンハイドロパーオキサイド
MA: メチルアクリレート
n−OM: n−オクチルメルカプタン
[調製例2]多層構造重合体(1−2)の製造
攪拌機を備えた容器内に脱イオン水10.8部を仕込んだ後、MMA0.3部、n−BA4.5部、1,3−BD0.2部、AMA0.05部及びCHP0.025部を含有する単量体成分を投入し、室温下にて攪拌混合した。
【0150】
次いで、容器内を攪拌しながら、乳化剤としてRS610NA1.3部を容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
【0151】
攪拌機及び還流冷却器を備えた反応容器内に脱イオン水139.2部を投入し、75℃に昇温した。
【0152】
更に、イオン交換水5部にSFS0.20部、硫酸第一鉄0.0001部及びEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を上記の反応容器内に一度に投入した。
【0153】
次いで、反応容器内を窒素下で攪拌しながら、上記の乳化液を窒素雰囲気下75℃で撹拌を行いながら、8分間にわたって重合容器内に滴下した後、15分間反応を継続させ、最内層重合体内側層(1−2−A)のラテックスを得た。
【0154】
続いて、MMA9.6部、n−BA14.4部、1,3−BD1.0部及びAMA0.25部を含有する単量体成分をCHP0.016部と共に窒素雰囲気下75℃で撹拌を行いながら、90分間にわたって反応容器内に滴下した後、60分間反応を継続させ、最内層重合体外側層(1−2−A)を形成させて最内層重合体(1−2−A)のラテックスを得た。
【0155】
更に、MMA6部、MA4部及びAMA0.075部を含有する単量体成分をCHP0.0125部と共に窒素雰囲気下75℃で撹拌を行いながら、45分間にわたって反応容器内に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間層重合体(1−2−B)を形成させた。
【0156】
続いて、MMA57部、MA3部、n−OM0.264部及びt−BH0.075部を含有する単量体成分を窒素雰囲気下75℃で撹拌を行いながら、140分間にわたって反応容器内に滴下した後、60分間反応を継続させ、最外層重合体(1−2−C)を形成させて、多層構造重合体(1−2)のラテックスを得た。
【0157】
得られた多層構造重合体(1−2)のラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した後、脱イオン水257部に酢酸カルシウム3.5部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状の多層構造重合体(1−2)を得た。多層構造重合体(1−2)の組成を表1に示す。
[調製例3]多層構造重合体(1−3)の製造
攪拌機及び還流冷却器を備えた反応容器内に原料(ホ)を投入し、70℃に昇温した後に、原料(ヘ)を一括投入した。
【0158】
次いで、反応容器内に原料(ト)を窒素雰囲気下80℃で撹拌を行いながら、185分間で滴下した後に120分間保持して、最内層重合体(1−3−A)のラテックスを得た。
【0159】
続いて、反応容器内に原料(チ)を窒素雰囲気下80℃で撹拌を行いながら、一括投入し、次いで15分後に原料(リ)を90分間かけて滴下した後に60分間保持して、最外層重合体(1−3−C)を形成させて、多層構造重合体(1−3)のラテックスを得た。
【0160】
得られた多層構造重合体(1−3)のラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した後、脱イオン水296部に酢酸カルシウム2.5部を含む水溶液中で塩析させ、ポリマーに対し20倍量の純水で洗浄、脱水、乾燥し、粉体状の多層構造重合体(1−3)を得た。多層構造重合体(1−3)の組成を表1に示す。
<原料(ホ)>
イオン交換水 188部
炭酸ナトリウム 0.03部
RS610NA 0.63部
<原料(ヘ)>
イオン交換水 53.1部
SFS 0.3部
硫酸第一鉄 0.00003部
EDTA 0.00008部
<原料(ト)>
n−BA 50.9部
St 11.6部
AMA 0.56部
t−BH 0.19部
RS610NA 1.0部
<原料(チ)>
イオン交換水 3.1部
SFS 0.08部
<原料(リ)>
MMA 35.6部
MA 1.9部
n−OM 0.16部
t−BH 0.06部
RS610NA 0.25部
[調製例4]多層構造重合体(1−4)の製造
攪拌機を備えた容器内に脱イオン水8.5部を仕込んだ後、MMA0.3部、n−BA4.5部、1,3−BD0.2部、AMA0.05部及びCHP0.025部を含有する単量体成分を投入し、室温下にて攪拌混合した。
【0161】
次いで、攪拌しながら、乳化剤としてRS610NA1.3部を容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
【0162】
撹拌機及び還流冷却器を備えた反応容器内に脱イオン水186.5部を投入し、70℃に昇温した。
【0163】
更に、イオン交換水5部にSFS0.20部、硫酸第一鉄0.0001部及びEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を上記の反応容器内に一度に投入した。
【0164】
次いで、反応容器内を窒素雰囲気下75℃で撹拌を行いながら、上記の乳化液を8分間にわたって反応容器内に滴下した後、15分間反応を継続させ、最内層重合体内側層(1−4−A)のラテックスを得た。
【0165】
続いて、MMA1.5部、n−BA22.5部、1,3−BD1.0部及びAMA0.25部を含有する単量体成分をCHP0.016部と共に窒素雰囲気下75℃で撹拌を行いながら、90分間にわたって反応容器内に滴下した後、60分間反応を継続させ、最内層重合体外側層(1−4−A)を形成させ、最内層重合体(1−4−A)のラテックスを得た
更に、MMA6部、n−BA4部及びAMA0.075部を含有する単量体成分をCHP0.0125部と共に窒素雰囲気下75℃で撹拌を行いながら、45分間にわたって反応容器内に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間層重合体(1−4−B)を形成させた。
【0166】
続いて、MMA55.2部、n−BA4.8部、n−OM0.19部及びt−BH0.08部を含有する単量体成分を窒素雰囲気下75℃で撹拌を行いながら、140分間にわたって反応容器内に滴下した後、60分間反応を継続させ、最外層重合体(1−4−C)を形成させて、多層構造重合体(1−4)のラテックスを得た。
【0167】
得られた多層構造重合体(1−4)のラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した後、脱イオン水302部に酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状の多層構造重合体(1−4)を得た。多層構造重合体(1−4)の組成を表1に示す。
[実施例1]
多層構造重合体(1−1)10部、多層構造重合体(1−2)70部及び熱可塑性重合体(2)としてMMA/MA共重合体(MMA/MA=99/1(質量比)、荷重たわみ温度:101℃)20部を含有するアクリル樹脂(A)100部に、配合剤としてアデカスタブLA−31RG((株)ADEKA製、商品名)0.6部、アデカスタブLA−57((株)ADEKA製、商品名)0.2部及びイルガノックス1076(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名)0.1部を添加し、更に界面活性剤(B)としてフォスファノールRS610NA(東邦化学工業(株)製ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム、商品名)0.275部を加え、ヘンシェルミキサーにて混合し、アクリル樹脂組成物(C)を得た。
【0168】
上記のアクリル樹脂組成物(C)を、230℃に加熱した脱気式押出機(東芝機械(株)製、商品名:TEM−35B)に供給して混練し、アクリル樹脂組成物(C)のペレットを得た。アクリル樹脂組成物(C)を押出機に供給する際に、押出機のホッパー部分でのアクリル樹脂組成物(C)のブロッキングは発生せず、良好な押出加工性を示した。
【0169】
得られたアクリル樹脂組成物(C)のペレットを使用して本HDTを測定したところ、本HDTは88.2℃であった。
【0170】
得られたアクリル樹脂組成物(C)のペレットを、300mm幅のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いてシリンダー温度200℃〜240℃、Tダイ温度250℃及び冷却ロール温度80℃の条件で製膜し、得られたアクリル樹脂フィルムを巻き取り機で紙管に巻き取り、厚さ175μmのアクリル樹脂フィルムのロール状物品を得た。得られたアクリル樹脂フィルムの伸度は85%で、鏡面金型離型性は良好であった。
【0171】
次いで、アクリル樹脂フィルムのロール状物品からアクリル樹脂フィルムを巻き出して搬送して、アクリル樹脂フィルムを150〜180℃に加熱されたプリズム形状を持つベルト状の金型にニップロールを用いて挟み込んで、アクリル樹脂フィルムの表面にプリズム形状を転写させた。この工程において、アクリル樹脂フィルムのロール状物品からアクリル樹脂フィルムを巻き出す際のフィルム同士の貼り付きはなく、アクリル樹脂フィルムのブロッキング性は良好であった。更に、アクリル樹脂フィルムの金型からの離型性としては、僅かにアクリル樹脂フィルムが金型に貼り付くものの、離型は可能であった。また、離型後のフィルムの破断は見られなかった。結果を表2に示す。
【0172】
上記工程において、表面にプリズム形状が転写されたアクリル樹脂フィルムと結合剤層を有するポリエチレンテレフタラートフィルムとを、線幅0.3mmの網目状凸彫刻を施した表面温度約190℃の金属金型とゴムロールとの間に、プリズム形状がゴムロールに接するようにして加圧しながら通過させて、熱融着法による密封封入構造を形成して、再帰反射シートを作製した。得られた再帰反射シートは良好な再帰反射性能を示した。
【0173】
【表2】


表2中の略号は以下の化合物を示す。
RS610NA:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム(東邦化学工業(株)製、商品名:フォスファノールRS610NA)
AOT:スルホコハク酸ジ(2−エチルヘキシル)ナトリウム(三井サイテック(株)製、商品名:エアロゾルOT)
LA−31RG:アデカスタブLA−31RG((株)ADEKA製、商品名)
LA−57:アデカスタブLA−57((株)ADEKA製、商品名)
イルガノックス1076:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名
[実施例2〜5]
界面活性剤であるRS610NAの添加量を表2に示す量とした以外は実施例1と同様にしてアクリル樹脂フィルムのロール状物品を得た。各種評価結果を表2に示す。
【0174】
また、得られたアクリル樹脂フィルムから作製した再帰反射シートは良好な再帰反射性能を示した。
[実施例6〜8]
界面活性剤としてAOT(スルホコハク酸ジ(2−エチルヘキシル)ナトリウム(三井サイテック(株)製、商品名:エアロゾルOT))を使用し、AOTの添加量を表2に示す量とした以外は実施例1と同様にしてアクリル樹脂フィルムのロール状物品を得た。各種評価結果を表2に示す。
【0175】
また、得られたアクリル樹脂フィルムから作製した再帰反射シートは良好な再帰反射性能を示した。
[実施例9、10]
多層構造重合体(1)として表2に示すものを使用し、多層構造重合体(1)、熱可塑性重合体(2)及び界面活性剤(B)の配合量を表2に示す量とした。それ以外は実施例1と同様にしてアクリル樹脂フィルムのロール状物品を得た。各種評価結果を表2に示す。
また、得られたアクリル樹脂フィルムから作製した再帰反射シートは良好な再帰反射性能を示した。
[比較例1]
アクリル樹脂(A)として多層構造重合体(1−4)100部を用いた以外は実施例4と同様にしてアクリル樹脂フィルムのロール状物品を得た。各種評価結果を表2に示す。
【0176】
アクリル樹脂フィルムのロール状物品からアクリル樹脂フィルムを巻き出す際にフィルム同士が貼り付き、アクリル樹脂フィルムの搬送が不可能であった。
[比較例2]
界面活性剤をAOT0.3部とした以外は比較例1と同様にしてアクリル樹脂フィルムのロール状物品を得た。各種評価結果を表2に示す。
【0177】
アクリル樹脂フィルムのロール状物品からアクリル樹脂フィルムを巻き出す際にフィルム同士が貼り付き、アクリル樹脂フィルムの搬送が不可能であった。
[比較例3〜5]
界面活性剤の種類及び添加量を表2に示す量とした以外は実施例1と同様にしてアクリル樹脂フィルムのロール状物品を得た。各種評価結果を表2に示す。
【0178】
比較例3ではアクリル樹脂フィルムの鏡面金型離型性及びプリズム形状転写時のアクリル樹脂フィルムのプリズム金型離型性が不良であった。また、比較例4及び5においては、アクリル樹脂組成物(C)を脱気式押出機に供給して混練し、アクリル樹脂組成物(C)のペレットを得ようとしたが、アクリル樹脂組成物(C)を押出機に供給する際に、押出機のホッパー部分でのアクリル樹脂組成物(C)のブロッキングが発生し、アクリル樹脂組成物(C)のペレットを得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D648に従って下記条件で熱変形温度(HDT)を測定した後の試験片の熱変形量が0.25mmとなるときのHDTが80〜130℃であるアクリル樹脂(A)100質量部及び界面活性剤(B)0.1〜3.8質量部(アクリル樹脂(A)100質量部に対して)を含有するアクリル樹脂組成物(C)から得られるアクリル樹脂フィルム。
<HDT測定条件>
試験片:長さ127mm、幅6.4mm及び高さ12.7mm
Method Aによるスパン長:101.3mm
荷重:0.45MPa
昇温速度:2℃/分
荷重がかかる試験片の部位:エッジワイズ
【請求項2】
界面活性剤(B)がリン酸エステル塩(B−1)及びスルホン酸塩(B−2)から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤を含むものである請求項1記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアクリル樹脂フィルムの表面に微細構造を有する金型を熱プレスした後に金型からアクリル樹脂フィルムを剥離する、表面に微細構造を有するアクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項3の方法で得られたアクリル樹脂フィルムを使用した再帰反射シート。

【公開番号】特開2012−171972(P2012−171972A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32054(P2011−32054)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】