説明

アクリル樹脂多層フィルム

【課題】耐加熱白化性に優れたアクリル樹脂多層フィルムを提供する。
【解決手段】アクリル樹脂層(A)の少なくとも一方の面に、アクリル樹脂層(B)が積層されてなり、フィルム2全体の厚さが20〜300μmであり、前記アクリル樹脂層(B)の厚さが全体の厚さの50%以下、かつ5μm以上であると共に、前記アクリル樹脂層(A)が、メタクリル樹脂3を50重量%を超え90重量%以下およびアクリルゴム粒子を10重量%以上50重量%未満の割合で含む樹脂組成物からなり、前記アクリル樹脂層(B)が、メタクリル樹脂3を60〜99重量%およびアクリルゴム粒子を1〜40重量%の割合で含む樹脂組成物からなるアクリル樹脂多層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂多層フィルムに関し、より詳細には、射出成形同時貼合用に好適であり、さらには加飾フィルム、加飾シート、加飾成形品等にも好適なアクリル樹脂多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂フィルム等のアクリル樹脂フィルムは、その優れた透明性や耐候性を生かして、家電製品の外装部材や自動車の内装部材等の表面加飾用フィルムとして好適に用いられている。アクリル樹脂フィルムにより表面加飾された前記部材は、通常、射出成形同時貼合法により製造される。具体的には、加飾が施されたアクリル樹脂フィルムを射出成形金型に挿入し、そこに溶融樹脂を射出して射出成形品を形成すると同時に、その射出成形品に前記アクリル樹脂フィルムを貼合することにより、前記部材となる加飾成形品が製造される。
【0003】
このような射出成形同時貼合用のアクリル樹脂フィルムには、通常、フィルムとして必要な機械的強度を持たせるために、アクリル系のゴム粒子が添加されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0004】
近時、前記アクリル樹脂フィルムを複数積層してなるアクリル樹脂多層フィルムが多用されている。かかるアクリル樹脂多層フィルムにも、前記ゴム粒子が添加されている(例えば特許文献4〜6参照)。
【0005】
しかしながら、前記ゴム粒子を添加すると、成形加工するときの加熱により、フィルム表面に前記ゴム粒子に起因する凹凸が発生して平滑性が低下し、得られるフィルムが白化する(加熱白化)という問題がある。したがって、前記ゴム粒子を含有するアクリル樹脂多層フィルムには、加熱による白化の抑制(耐加熱白化性)が要望されていた。
【0006】
【特許文献1】特開平8−323934号公報
【特許文献2】特開平10−279766号公報
【特許文献3】特開平11−147237号公報
【特許文献4】特開2002−292808号公報
【特許文献5】特開2005−170052号公報
【特許文献6】特開2005−170053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、耐加熱白化性に優れたアクリル樹脂多層フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、多層フィルムの構成を、メタクリル樹脂と特定構造を有するアクリルゴム粒子との樹脂組成物からなる層と、メタクリル樹脂と前記アクリルゴム粒子とは異なる特定構造を有するアクリルゴム粒子との樹脂組成物からなる層とを積層し、各層の厚さを特定の範囲とする場合には、優れた耐加熱白化性を得ることができるという新たな事実を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明のアクリル樹脂多層フィルムは、以下の構成からなる。
(1)アクリル樹脂層(A)の少なくとも一方の面に、アクリル樹脂層(B)が積層されてなるアクリル樹脂多層フィルムであって、フィルム全体の厚さが20〜300μmであり、前記アクリル樹脂層(B)の厚さが全体の厚さの50%以下、かつ5μm以上であると共に、前記アクリル樹脂層(A)およびアクリル樹脂層(B)が、それぞれ下記に示す構成を有することを特徴とするアクリル樹脂多層フィルム。
アクリル樹脂層(A):メタクリル樹脂およびアクリルゴム粒子の合計100重量%を基準にメタクリル樹脂を50重量%を超え90重量%以下およびアクリルゴム粒子を10重量%以上50重量%未満の割合で含む樹脂組成物からなり、前記アクリルゴム粒子は、全単量体の合計100重量%を基準にメタクリル酸アルキルを70〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜30重量%、これら以外の単官能単量体を0〜30重量%、および多官能単量体を0〜10重量%の割合で重合させて得られる重合体と、この重合体の外側に形成され、全単量体の合計100重量%を基準にアクリル酸アルキルを50〜99.9重量%、メタクリル酸アルキルを0〜49.9重量%、これら以外の単官能単量体を0〜49.9重量%、および多官能単量体を0.1〜10重量%の割合で重合させて得られる弾性重合体の層とを有し、平均粒子径が100〜400nmの多層弾性重合体粒子である。
アクリル樹脂層(B):メタクリル樹脂およびアクリルゴム粒子の合計100重量%を基準にメタクリル樹脂を60〜99重量%およびアクリルゴム粒子を1〜40重量%の割合で含む樹脂組成物からなり、前記アクリルゴム粒子は、全単量体の合計100重量%を基準にアクリル酸アルキルを50〜99.9重量%、メタクリル酸アルキルを0〜49.9重量%、これら以外の単官能単量体を0〜49.9重量%、および多官能単量体を0.1〜10重量%の割合で重合させて得られる弾性重合体を有し、平均粒子径が100nm以下の弾性重合体粒子である。
【0010】
(2)アクリル樹脂層(A)に含まれる前記アクリルゴム粒子は、前記弾性重合体の層の外側に形成され、全単量体の合計100重量%を基準にメタクリル酸アルキルを50〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜50重量%、これら以外の単官能単量体を0〜50重量%、および多官能単量体を0〜10重量%の割合で重合させて得られる重合体の層を有する前記(1)に記載のアクリル樹脂多層フィルム。
(3)アクリル樹脂層(B)に含まれる前記アクリルゴム粒子は、前記弾性重合体の外側に形成され、全単量体の合計100重量%を基準にメタクリル酸アルキルを50〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜50重量%、これら以外の単官能単量体を0〜50重量%、および多官能単量体を0〜10重量%の割合で重合させて得られる重合体の層を有する多層構造の粒子である前記(1)または(2)に記載のアクリル樹脂多層フィルム。
(4)前記メタクリル樹脂は、全単量体の合計100重量%を基準にメタクリル酸アルキルを50〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜50重量%、およびこれら以外の単量体を0〜49重量%の割合で重合させて得られる重合体である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のアクリル樹脂多層フィルム。
(5)前記アクリル樹脂層(A)とアクリル樹脂層(B)とが共押出成形されてなる前記(1)〜(4)のいずれかに記載のアクリル樹脂多層フィルム。
(6)射出成形同時貼合用である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のアクリル樹脂多層フィルム。
(7)前記アクリル樹脂層(A)の一方の面にアクリル樹脂層(B)が積層されてなる前記(1)〜(6)のいずれかに記載のアクリル樹脂多層フィルム。
(8)前記アクリル樹脂層(A)の両方の面にアクリル樹脂層(B)が積層されてなる前記(1)〜(6)のいずれかに記載のアクリル樹脂多層フィルム。
【0011】
本発明の加飾フィルムは、前記(7)に記載のアクリル樹脂多層フィルムにおいて、アクリル樹脂層(B)が積層された前記アクリル樹脂層(A)の一方の面と反対の他方の面に、加飾が施されてなることを特徴とする。
本発明の他の加飾フィルムは、前記(8)に記載のアクリル樹脂多層フィルムにおいて、アクリル樹脂層(A)の両方の面に積層された前記アクリル樹脂層(B)のうち、いずれか一方のアクリル樹脂層(B)の表面に、加飾が施されてなることを特徴とする。
本発明の加飾シートは、前記(9)または(10)に記載の加飾フィルムの加飾が施された面に、熱可塑性樹脂シートが積層されてなることを特徴とする。
本発明の加飾成形品は、前記(9)または(10)に記載の加飾フィルムの加飾が施された面に、熱可塑性樹脂が射出成形されてなることを特徴とする。
本発明の他の加飾成形品は、前記(11)に記載の加飾シートの熱可塑性樹脂シートが積層された面に、熱可塑性樹脂が射出成形されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐加熱白化性に優れるという効果が得られる。また、本発明にかかるアクリル樹脂多層フィルムは、射出成形同時貼合用として好適である。本発明にかかるアクリル樹脂多層フィルムを用いることにより、耐加熱白化性および加飾性に優れた加飾フィルムおよび加飾シート、並びに加飾成形品を得ることができる。
【0013】
特に、前記(6),(7)と、本発明の加飾フィルムとによれば、耐加熱白化性に優れた射出成形同時貼合用加飾フィルムとして用いることができる。これと同様に、前記(6),(8)と、本発明の他の加飾フィルムとの組み合わせにおいても、耐加熱白化性に優れた射出成形同時貼合用加飾フィルムとして用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のアクリル樹脂多層フィルムは、アクリル樹脂層(A)の少なくとも一方の面に、アクリル樹脂層(B)が積層されてなる。前記アクリル樹脂層(A)およびアクリル樹脂層(B)は、それぞれメタクリル樹脂および特定のアクリルゴム粒子を特定の割合で含む樹脂組成物からなる。
【0015】
アクリル樹脂層(A)およびアクリル樹脂層(B)を構成する前記メタクリル樹脂は、メタクリル酸エステルを主体とする重合体であり、メタクリル酸エステルの単独重合体であってもよいし、メタクリル酸エステル50重量%以上とこれ以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。ここで、メタクリル酸エステルとしては、通常、メタクリル酸のアルキルエステルが用いられる。
【0016】
メタクリル樹脂の好ましい単量体組成は、全単量体の合計100重量%を基準として、メタクリル酸アルキルが50〜100重量%、アクリル酸アルキルが0〜50重量%、これら以外の単量体が0〜49重量%であり、より好ましくは、メタクリル酸アルキルが50〜99.9重量%、アクリル酸アルキルが0.1〜50重量%、これら以外の単量体が0〜49重量%である。
【0017】
前記メタクリル酸アルキルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0018】
前記アクリル酸アルキルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。
【0019】
メタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキル以外の前記単量体は、単官能単量体、すなわち分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を1個有する化合物であってもよいし、多官能単量体、すなわち分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有する化合物であってもよいが、単官能単量体が好ましく用いられる。
【0020】
前記単官能単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアルケニルシアン化合物、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミド等が挙げられる。
【0021】
前記多官能単量体としては、例えばエチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の多価アルコールのポリ不飽和カルボン酸エステル、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリル等の不飽和カルボン酸のアルケニルエステル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の多塩基酸のポリアルケニルエステル、ジビニルベンゼン等の芳香族ポリアルケニル化合物等が挙げられる。
【0022】
なお、上記のメタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、およびこれら以外の単量体は、それぞれ必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0023】
前記メタクリル樹脂は、耐熱性の点から、そのガラス転移温度が40℃以上であるのが好ましく、60℃以上であるのがより好ましい。このガラス転移温度は、単量体の種類やその割合を調整することにより、適宜設定することができる。
【0024】
前記メタクリル樹脂は、その単量体成分を、例えば懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の方法により重合させることにより、調製することができる。その際、好適なガラス転移温度を得るため、または好適な多層フィルムへの成形性を示す粘度を得るため、重合時に連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤の量は、単量体の種類やその割合等に応じて、適宜決定すればよい。
【0025】
メタクリル樹脂は、上述した範囲内であれば、アクリル樹脂層(A)とアクリル樹脂層(B)とで同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。
【0026】
このようなメタクリル樹脂にアクリルゴム粒子を配合して、その組成物によりアクリル樹脂層(A),(B)を構成することで、得られる多層フィルムの柔軟性と強度を向上させる。
【0027】
アクリル樹脂層(A)を構成するアクリルゴム粒子は、ゴム成分としてアクリル酸アルキルを主体とする弾性重合体を含有する粒子であり、この弾性重合体の層の内側にメタクリル酸アルキルを主体とする重合体を有する多層構造の粒子である。すなわち、アクリル樹脂層(A)を構成する前記アクリルゴム粒子は、前記重合体を内層とし、前記弾性重合体を外層とする、少なくとも2層構造の多層弾性重合体粒子である。また、前記アクリルゴム粒子は、前記弾性重合体の層で前記重合体の表面を被覆してなる。
【0028】
内層の前記重合体は、弾性重合体100重量部に対し、通常10〜400重量部、好ましくは20〜200重量部の割合で形成するのがよい。
【0029】
内層の前記重合体の具体的な単量体組成は、全単量体の合計100重量%を基準として、メタクリル酸アルキルを70〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜30重量%、これら以外の単官能単量体を0〜30重量%、および多官能単量体を0〜10重量%である。
【0030】
前記メタクリル酸アルキルの例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。また、前記アクリル酸アルキルの例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたアクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。
【0031】
メタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキル以外の前記単官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキル以外の単官能単量体の例と同様である。前記多官能単量体の例は、先にメタクリル酸樹脂の単量体成分として挙げた多官能単量体の例と同様である。
【0032】
なお、上記のメタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、これら以外の単官能単量体、および多官能単量体は、それぞれ必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0033】
一方、前記弾性重合体は、アクリル酸アルキル50重量%以上とこれ以外の単量体50重量%以下との共重合体である。前記弾性重合体の具体的な単量体組成は、全単量体の合計100重量%を基準として、アクリル酸アルキルを50〜99.9重量%、メタクリル酸アルキルを0〜49.9重量%、これら以外の単官能単量体を0〜49.9重量%、および多官能単量体を0.1〜10重量%である。
【0034】
前記アクリル酸アルキルの例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたアクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは4〜8である。また、前記メタクリル酸アルキルの例も、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。
【0035】
これら以外の前記単官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキル以外の単官能単量体の例と同様である。中でもスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物が好ましく用いられる。
【0036】
前記多官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げた多官能単量体の例と同様であり、中でも、不飽和カルボン酸のアルケニルエステルや、多塩基酸のポリアルケニルエステルが好ましく用いられる。
【0037】
なお、上記のアクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、これら以外の単官能単量体、および多官能単量体は、それぞれ必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0038】
アクリル樹脂層(A)を構成する前記アクリルゴム粒子として、前記弾性重合体の層の外側に、さらにメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の層を有するもの、すなわち、メタクリル酸アルキルを主体とする前記重合体を内層とし、アクリル酸アルキルを主体とする前記弾性重合体を中間層とし、メタクリル酸アルキルを主体とする前記重合体を外層とする、少なくとも3層構造のものを挙げることができる。
【0039】
外層の前記重合体は、弾性重合体100重量部に対し、通常10〜400重量部、好ましくは20〜200重量部の割合で形成するのがよい。外層の前記重合体を、弾性重合体100重量部に対し10重量部以上とすることで、該弾性重合体の凝集が生じ難くなり、フィルムの透明性が良好となる。
【0040】
外層の前記重合体の好ましい単量体組成は、全単量体の合計100重量%を基準として、メタクリル酸アルキルを50〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜50重量%、これら以外の単官能単量体を0〜50重量%、および多官能単量体を0〜10重量%である。
【0041】
前記メタクリル酸アルキルの例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0042】
また、前記アクリル酸アルキルの例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたアクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。
【0043】
メタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキル以外の前記単官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキル以外の単官能単量体の例と同様であり、前記多官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げた多官能単量体の例と同様である。
【0044】
なお、上記のメタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、これら以外の単官能単量体、および多官能単量体は、それぞれ必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0045】
アクリル樹脂層(A)を構成する前記アクリルゴム粒子は、先ず、内層の重合体の単量体成分を、乳化重合法等により、少なくとも1段の反応で重合させ、次いで、得られる重合体の存在下に、前記弾性重合体の単量体成分を、乳化重合法等により、少なくとも1段の反応で重合させて、前記内層の重合体にグラフトさせることにより得ることができる。
【0046】
この弾性重合体の外側にメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の層を形成する場合には、得られた多層弾性重合体の存在下に、前記外層の重合体の単量体成分を、乳化重合法等により、少なくとも1段の反応で重合させて、前記多層弾性重合体にグラフトさせればよい。なお、各層の重合を、それぞれ2段以上で行う場合には、いずれも、各段の単量体組成ではなく、全体としての単量体組成が所定の範囲内にあればよい。
【0047】
アクリル樹脂層(A)を構成する前記アクリルゴム粒子の粒径については、下記で説明する測定方法を採用するため、ゴム粒子全体の粒径ではなく、該ゴム粒子中の前記弾性重合体の層の平均粒子径で規定する。該ゴム粒子中の前記弾性重合体の層の平均粒子径としては100〜400nmであり、好ましくは150〜300nm、より好ましくは170〜250nmである。この平均粒子径があまり大きいと、フィルムの透明性が低下するため好ましくない。また、この平均粒子径があまり小さいと、柔軟性が低下して割れ易くなるため好ましくない。
【0048】
前記平均粒子径は、アクリルゴム粒子をメタクリル樹脂と混合してフィルム化し、その断面において酸化ルテニウムによる前記弾性重合体の層の染色を施し、電子顕微鏡で観察して、ほぼ円形状に観察される染色された部分の直径から求めることができる。
【0049】
すなわち、アクリルゴム粒子をメタクリル樹脂に混合し、その断面を酸化ルテニウムで染色すると、母相のメタクリル樹脂は染色されない。そのため、前記弾性重合体の層の内側に存在するメタクリル酸アルキルを主体とする重合体は染色されず、前記弾性重合体の層のみが染色される。また、前記弾性重合体の層の外側にメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の層が存在する場合にも、この外層の重合体は染色されない。
【0050】
したがって、前記弾性重合体の層のみが染色された2層構造の状態で観察されることになり、2層構造の外側、すなわち前記弾性重合体の層の外径を測定することによって粒子径を測定することができる。そして、無作為に100個の染色された弾性重合体の層を選択し、その各々の粒子径を算出した後、その数平均値を平均粒子径とする。
【0051】
アクリル樹脂層(A)において、前記メタクリル樹脂と前記アクリルゴム粒子との配合割合は、両者の合計100重量%を基準に、メタクリル樹脂が50重量%を超え90重量%以下であり、アクリルゴム粒子が10重量%以上50重量%未満である。アクリルゴム粒子の割合があまり少ないと、フィルムの柔軟性が低下するため好ましくない。またアクリルゴム粒子の割合があまり多いと、射出成形同時貼合時の成形性が低下するので好ましくない。またフィルムの透明性も低下し、ゴム粒子由来の欠陥も増え、その結果、加飾性が低下するため好ましくない。
【0052】
また、アクリルゴム粒子中の前記弾性重合体の量は、メタクリル樹脂およびアクリルゴム粒子の合計100重量%を基準に、10〜35重量%であることが好ましい。
【0053】
一方、アクリル樹脂層(B)を構成するアクリルゴム粒子は、ゴム成分としてアクリル酸アルキルを主体とする弾性重合体を含有する弾性重合体粒子である。
【0054】
前記弾性重合体は、アクリル酸アルキル50重量%以上とこれ以外の単量体50重量%以下との共重合体である。前記弾性重合体の具体的な単量体組成は、全単量体の合計100重量%を基準として、アクリル酸アルキルを50〜99.9重量%、メタクリル酸アルキルを0〜49.9重量%、これら以外の単官能単量体を0〜49.9重量%、および多官能単量体を0.1〜10重量%である。
【0055】
前記アクリル酸アルキルの例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたアクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは4〜8である。また、前記メタクリル酸アルキルの例も、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。
【0056】
これら以外の前記単官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキル以外の単官能単量体の例と同様である。中でもスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物が好ましく用いられる。
【0057】
前記多官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げた多官能単量体の例と同様であり、中でも、不飽和カルボン酸のアルケニルエステルや、多塩基酸のポリアルケニルエステルが好ましく用いられる。
【0058】
なお、上記のアクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、これら以外の単官能単量体、および多官能単量体は、それぞれ必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0059】
アクリル樹脂層(B)を構成する前記アクリルゴム粒子として、前記弾性重合体の外側に、さらにメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の層を有する多層構造のもの、すなわち、アクリル酸アルキルを主体とする前記弾性重合体を内層とし、メタクリル酸アルキルを主体とする前記重合体を外層とする、少なくとも2層構造のものを挙げることができる。
【0060】
外層の前記重合体は、内層の弾性重合体100重量部に対し、通常10〜400重量部、好ましくは20〜200重量部の割合で形成するのがよい。外層の前記重合体を、内層の弾性重合体100重量部に対し10重量部以上とすることで、該弾性重合体の凝集が生じ難くなり、フィルムの透明性が良好となる。
【0061】
外層の前記重合体の好ましい単量体組成は、全単量体の合計100重量%を基準として、メタクリル酸アルキルを50〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜50重量%、これら以外の単官能単量体を0〜50重量%、および多官能単量体を0〜10重量%である。
【0062】
前記メタクリル酸アルキルの例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0063】
また、前記アクリル酸アルキルの例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたアクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。
【0064】
メタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキル以外の前記単官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキルおよびアクリル酸アルキル以外の単官能単量体の例と同様であり、前記多官能単量体の例は、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げた多官能単量体の例と同様である。
【0065】
なお、上記のメタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、これら以外の単官能単量体、および多官能単量体は、それぞれ必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0066】
アクリル樹脂層(B)を構成する前記アクリルゴム粒子は、前記した弾性重合体の単量体成分を、乳化重合法等により、少なくとも1段の反応で重合させることにより得ることができる。この弾性重合体の外側に、さらにメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の層を形成する場合には、得られる重合体の存在下に、前記外層の重合体の単量体成分を、乳化重合法等により、少なくとも1段の反応で重合させて、前記弾性重合体にグラフトさせればよい。なお、各層の重合を、それぞれ2段以上で行う場合には、いずれも、各段の単量体組成ではなく、全体としての単量体組成が所定の範囲内にあればよい。
【0067】
アクリル樹脂層(B)を構成する前記アクリルゴム粒子の粒径については、前記したアクリル樹脂層(A)を構成するアクリルゴム粒子と同様の理由から、ゴム粒子全体の粒径ではなく、該ゴム粒子中の前記弾性重合体の平均粒子径で規定する。該ゴム粒子中の前記弾性重合体の平均粒子径としては100nm以下であり、好ましくは20〜95nm、より好ましくは30〜90nmである。この平均粒子径があまり大きいと、フィルムの透明性が低下するため好ましくない。また、この平均粒子径があまり小さいと、柔軟性が低下して割れ易くなるため、好ましくない。前記平均粒子径は、前記したアクリル樹脂層(A)のゴム粒子と同様の方法で求めることができる。
【0068】
アクリル樹脂層(B)において、前記メタクリル樹脂と前記アクリルゴム粒子との配合割合は、両者の合計100重量%を基準に、メタクリル樹脂が60〜99重量%であり、アクリルゴム粒子が1〜40重量%である。アクリルゴム粒子の割合があまり多いと、フィルムの表面硬度が低下するため好ましくない。
【0069】
また、アクリルゴム粒子中の前記弾性重合体の量は、メタクリル樹脂およびアクリルゴム粒子の合計100重量%を基準に、1〜35重量%であることが好ましい。
【0070】
なお、アクリル樹脂層(A)およびアクリル樹脂層(B)を構成するメタクリル樹脂には、アクリルゴム粒子の他、必要に応じて他の成分、例えば紫外線吸収剤、有機系染料、無機系染料、顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤等を配合してもよい。
【0071】
以上説明したアクリル樹脂層(A)およびアクリル樹脂層(B)の構成材料であるメタクリル樹脂およびアクリルゴム粒子を含有する組成物を用いて多層フィルム化することにより、アクリル樹脂層(A)の少なくとも一方の面にアクリル樹脂層(B)を積層してなる本発明の多層フィルムを得ることができる。
【0072】
多層フィルム化の方法は適宜選択されるが、例えば、それぞれの構成材料を押出機にて溶融させ、フィードブロック法またはマルチマニホールド法を用いて積層させる共押出成形法や、アクリル樹脂層(A)もしくはアクリル樹脂層(B)の一方の樹脂組成物を押出成形法等によりフィルム化し、このフィルムの表面に、もう一方の樹脂組成物を必要により溶剤に溶解してコーティングする方法等が有利に採用されるが、中でも共押出成形法が好ましく用いられる。
【0073】
共押出成形法の場合には、溶融した樹脂をロールやベルトに密着させてフィルム成形を行う。このときのロールやベルトの本数や配置、材質は特に限定されないが、溶融した樹脂を2本の金属ロール間または金属ロールと金属ベルトに接触、通過させて、ロールやベルトの表面を転写させる方法が、フィルム表面の面精度を高め、加飾性を向上させる上で好ましい。あるいは、金属ロールと、弾性を有する金属ロールとにより、面で溶融樹脂の両面を接触、通過させる方法は、成形時の歪みを低減させ、強度や熱収縮性の異方性を低減したフィルムを得るのに好適である。金属弾性ロールとしては、例えば軸ロールと、この軸ロールの外周面を覆うように配置され、溶融樹脂に接触する円筒形の金属製薄膜とを備えており、これら軸ロールと金属製薄膜との間に水や油等の温度制御された流体が封入されたものや、ゴムロールの表面に金属ベルトを巻いたものが例として挙げられる。
【0074】
こうして得られる多層フィルムは、その厚さが20〜300μmであり、好ましくは30〜200μmであり、より好ましくは50〜150μmである。あまり厚い多層フィルムは、例えば自動車内装材として成形する際に成形加工に時間がかかると共に、物性や意匠性の向上効果が小さく、コストも高くなる。一方、あまり薄い多層フィルムは、押出成形による製膜自体が、機械的制約により困難になると共に、破断強度が小さくなり、生産不具合の発生確率が高くなる。多層フィルムの厚さは、製膜速度、T型ダイスの吐出口厚み、ロールの間隙等を調節することにより、調整できる。
【0075】
アクリル樹脂層(B)は、その厚さが多層フィルム全体の厚さの50%以下であり、かつその厚さが5μm以上である。アクリル樹脂層(B)が薄すぎると、加熱白化の抑制効果が低下し、また厚すぎると多層フィルムが脆く、割れ易くなるため好ましくない。
【0076】
本発明のアクリル樹脂多層フィルムは、射出成形同時貼合用の加飾用フィルムとして好ましく用いられる。フィルムの柔軟性を考慮すると、アクリル樹脂層(A)の一方の面にアクリル樹脂層(B)が形成されたものが好ましく用いられるが、アクリル樹脂層(A)の両方の面にアクリル樹脂層(B)が積層されていてもよい。
【0077】
本発明のアクリル樹脂多層フィルムを用いた加飾フィルムとしては、アクリル樹脂層(B)が積層されたアクリル樹脂層(A)の一方の面と反対の他方の面に、加飾が施されてなるものや、アクリル樹脂層(A)の両方の面に積層されたアクリル樹脂層(B)のうち、いずれか一方のアクリル樹脂層(B)の表面に、加飾が施されてなるものが挙げられる。
【0078】
加飾手段としては、例えば、連続グラビア印刷やシルク印刷等により表面に木目調等や各種デザインの直接印刷を施す方法や、蒸着やスパッタリング等により金属メッキ調の加飾を施す方法、また印刷や蒸着等の加飾が施された他の樹脂フィルムをラミネートする方法等が挙げられる。
【0079】
前記加飾フィルムは、その印刷等の加飾が施された面に、バッキング材として熱可塑性樹脂シートを積層して、加飾シートとすることもできる。前記熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂としては、例えばABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。前記熱可塑性樹脂シートの厚さは、所謂フィルム領域の厚さも包含し、通常0.1〜2mm程度である。
【0080】
このような加飾フィルムまたは加飾シートを、加飾層が設けられていない樹脂層側が表側に配置されるように、熱可塑性樹脂成形品に積層することにより、すなわち加飾フィルムであれば、加飾が施された面に熱可塑性樹脂成形品を積層することにより、また、加飾シートであれば、熱可塑性樹脂シートが積層された面に熱可塑性樹脂成形品を積層することにより、加飾成形品を得ることができる。
【0081】
前記熱可塑性樹脂成形品を構成する樹脂としては、例えばABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0082】
加飾成形品を得るための方法としては、射出成形同時貼合法が採用される。射出成形同時貼合法は、例えば、前記のフィルムまたはシートを予備成形することなく射出成形金型内に挿入し、そこに溶融樹脂を射出して、射出成形品を形成すると同時にその成形品に前記のフィルムまたはシートを貼合する方法(狭義の射出成形同時貼合法と呼ばれることがある)、前記のフィルムまたはシートを真空成形や圧空成形等により予備成形してから射出成形金型内に挿入し、そこに溶融樹脂を射出して、射出成形品を形成すると同時にその成形品に前記のフィルムまたはシートを貼合する方法(インサート成形法と呼ばれることがある)、前記のフィルムまたはシートを射出成形金型内で真空成形や圧空成形等により予備成形した後、そこに溶融樹脂を射出して、射出成形品を形成すると同時にその成形品に前記のフィルムまたはシートを貼合する方法(インモールド成形法と呼ばれることがある)等によって行うことができる。射出成形同時貼合法のさらに詳しい説明は、例えば特公昭63−6339号公報、特公平4−9647号公報、特開平7−9484号公報等に記載されている。
【0083】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下の実施例中、含有量ないし使用量を表す%は、特記ないかぎり重量基準である。また、各物性の測定方法、評価方法は次の通りである。
【0084】
〔平均粒子径の測定〕
アクリルゴム粒子をメタクリル樹脂と混合してフィルム化し、得られたフィルムを適当な大きさに切り出し、切片を0.5%四酸化ルテニウム水溶液に室温で15時間浸漬し、該ゴム粒子中の弾性重合体の層または弾性重合体を染色した。さらに、ミクロトームを用いて約80nmの厚さにサンプルを切断した後、透過型電子顕微鏡で写真撮影を行った。この写真から無作為に100個の染色された弾性重合体の層または弾性重合体を選択し、その各々の粒子径を算出した後、その数平均値を平均粒子径とした。この平均粒子径は、硬質重合体を除いた弾性重合体の層または弾性重合体の平均粒子径である。
【0085】
〔全光線透過率(Tt)〕
フィルムから100mm角の試験片を作成し、JIS K7361−1に準拠して測定した。
【0086】
〔ヘイズ(H)〕
フィルムから100mm角の試験片を作成し、JIS K7136に準拠して測定した。ヘイズ(H)は、その数値が高いほど透明性が悪いことを示しており、1.0%未満が良好である。
【0087】
〔鉛筆硬度〕
アクリル樹脂層(B)の鉛筆硬度をJIS K5600に準拠して測定した。
【0088】
〔シャルピー衝撃試験〕
JIS K7111に準拠して吸収エネルギーを測定した。ただし、試験片は、フィルム作成時の押出方向を長手とした10mm×120mmの形状に切出し、両端を両面テープで支持台に固定して、衝撃時に外れないようにし、アクリル樹脂層(B)側からハンマーで打ち抜いて測定した。
【0089】
前記吸収エネルギーは、その数値が大きいほど試験片が割れ難いことを示しており、0.2〜0.5J程度が適当である。この吸収エネルギーがあまり大きいと、フィルムが割れ難くなりすぎるので、後述する射出成形同時貼合試験の結果が悪くなるおそれがある。また、この吸収エネルギーがあまり小さいと、フィルムが脆くて割れ易くなる。
【0090】
〔加熱白化試験〕
フィルムから120mm角の試験片を作成し、この試験片の四辺を固定して160℃のオーブン内で10分間静置し、その後取り出して冷却後の試験片のヘイズ(H160)をJIS K7136に準拠して測定した。ヘイズ(H160)は、1.0%未満が良好である。
【0091】
〔射出成形同時貼合試験〕
得られたフィルムを、15cm×25cmに切断し、厚さ(深さ)3mmの12cm×20cmの平板成形用射出成形金型の固定側に、キャビティーからはみ出るようにフィルムを装着した。金型を閉じた後に、射出成形機〔東芝機械(株)製、IS130FII−3AV〕を用いてメタクリル樹脂〔住友化学(株)製、スミペックスMH〕を射出し、フィルムと一体化させた。なお、射出成形時の金型温度は60℃、メタクリル樹脂温度は245℃、射出圧力は32%、冷却時間は40秒で行った。
【0092】
図1に示すように、フィルム2とメタクリル樹脂3とが一体に成形された成形品1において、この成形品1の金型からはみ出ていたフィルム2の部分2aを射出成形部分との境界Aで折り曲げて、その挙動を観察した。フィルム2の部分2aが成形部分との境界Aで綺麗に割れたものを○、割れずに成形品1との間で剥離が発生したものを×とした。
【0093】
〔印刷性試験〕
得られたフィルムを30cm×25cmに5枚切出し、アクリル樹脂層(B)が積層されたアクリル樹脂層(A)の一方の面と反対の他方の面にそれぞれ20cm×15cmの範囲で絵柄(黒ベタ画像)をスクリーン印刷し、印刷抜け等の欠陥の個数を目視にて測定した。
【0094】
以下の実施例および比較例で使用したメタクリル樹脂およびアクリルゴム粒子(I),(II)は、次の通りである。
〔メタクリル樹脂〕
メタクリル樹脂として、メタクリル酸メチル97.8%とアクリル酸メチル2.2%とからなる単量体のバルク重合により得られた熱可塑性重合体(ガラス転移温度104℃)のペレットを用いた。なお、このガラス転移温度は、JIS K7121:1987に従い、示差走査熱量測定により加熱速度10℃/分で求めた補外ガラス転移開始温度である。
【0095】
〔アクリルゴム粒子(I)〕
最内層がメタクリル酸メチル93.8%とアクリル酸メチル6%とメタクリル酸アリル0.2%とからなる単量体の重合により得られた硬質重合体であり、中間層がアクリル酸ブチル81%とスチレン17%とメタクリル酸アリル2%とからなる単量体の重合により得られた弾性重合体であり、最外層がメタクリル酸メチル94%とアクリル酸メチル6%とからなる単量体の重合により得られた硬質重合体であり、最内層/中間層/最外層の重量割合が35/45/20であり、中間層の弾性重合体の層の平均粒子径が220nmである、乳化重合法による球形3層構造のゴム粒子を用いた。
【0096】
〔アクリルゴム粒子(II)〕
最内層がアクリル酸ブチル81%とスチレン17%とメタクリル酸アリル2%とからなる単量体の重合により得られた弾性重合体であり、最外層がメタクリル酸メチル94%とアクリル酸メチル6%とからなる単量体の重合により得られた硬質重合体であり、最内層/最外層の重量割合が60/40であり、最内層の弾性重合体の平均粒子径が80nmである、乳化重合法による球形2層構造のゴム粒子を用いた。
【0097】
[実施例1〜5および比較例1〜5]
上記のメタクリル樹脂およびアクリルゴム粒子(I),(II)を表1に示す組み合わせで用いた。すなわち、先ず、メタクリル樹脂のペレットとアクリルゴム粒子(I),(II)とを、表1に示す割合でスーパーミキサーで混合し、二軸押出機にて溶融混錬してアクリル樹脂層(A)およびアクリル樹脂層(B)用のメタクリル樹脂組成物のペレットを得た。
【0098】
次いで、アクリル樹脂層(A)用の樹脂のペレットを65mmφ一軸押出機〔東芝機械(株)製〕で、アクリル樹脂層(B)用の樹脂ペレットを45mmφ一軸押出機〔東芝機械(株)製〕で、それぞれ溶融させ、フィードブロック法にて溶融積層一体化させ、設定温度265℃のT型ダイスを介して押し出した。
【0099】
次いで、得られたフィルム状物を、一対の表面が平滑な金属製のロールの間に挟み込んで成形し、厚さ125μmの2層構成の多層フィルムを製造した。なお、比較例5については、アクリル樹脂層(B)の層厚の方がアクリル樹脂層(A)よりも大きいため、アクリル樹脂層(A)用の樹脂のペレットを45mmφ一軸押出機〔東芝機械(株)製〕、アクリル樹脂層(B)用の樹脂ペレットを65mmφ一軸押出機〔東芝機械(株)製〕を用いて、同様に製造した。
【0100】
表1中、層(A),層(B)とは、それぞれアクリル樹脂層(A),アクリル樹脂層(B)を意味している。また、「層(B)の厚さ/全体の厚さ」は、フィルム全体の厚さ(125μm)に対するアクリル樹脂層(B)の厚さの割合(%)を示しており、式:〔アクリル樹脂層(B)の厚さ(μm)/125μm〕×100から算出される値である。
【0101】
得られた各フィルムについて、全光線透過率(Tt)、ヘイズ(H)、鉛筆硬度、シャルピー衝撃試験、加熱白化試験(H160)、射出成形同時貼合試験および印刷性試験を上記した方法に従って評価した。その結果を、表2に示す。
【0102】
[比較例6,7]
上記のメタクリル樹脂およびアクリルゴム粒子(I),(II)を表1に示す組み合わせで用いた。すなわち、先ず、メタクリル樹脂ペレットとアクリルゴム粒子(I),(II)とを、表1に示す割合でスーパーミキサーで混合し、二軸押出機にて溶融混錬してメタクリル樹脂組成物のペレットを得た。
【0103】
次いで、このメタクリル樹脂組成物のペレットを、65mmφ一軸押出機〔東芝機械(株)製〕で溶融させ、設定温度275℃のT型ダイスを介して押し出し、得られたフィルム状物を、一対の表面が平滑な金属製のロールの間に挟み込んで成形した。得られた厚さ125μmの単層アクリル樹脂フィルムについて、実施例1〜5と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
表1,表2から明らかなように、本発明の範囲内である実施例1〜5は、加熱白化試験の結果がいずれも1.0%未満と良好であり、耐加熱白化性に優れているのがわかる。また、全光線透過率およびヘイズの結果が良好であることから、透明性に優れているのがわかると共に、鉛筆硬度結果も良好であり、高い表面硬度を有しているのがわかる。さらに、シャルピー衝撃試験の結果が良好であり、射出成形同時貼合試験においても良好な結果を示しているのがわかる。印刷性試験の結果も良好であることから、加飾性に優れているのがわかる。
【0107】
一方、アクリル樹脂層(A)において、メタクリル樹脂の割合が50重量%以下であり、かつアクリルゴム粒子の割合が50重量%以上である比較例1は、加熱白化試験の結果が実施例1〜5より劣る結果を示し、印刷性試験においても悪い結果を示した。この結果は、前記ゴム粒子の割合が多いことにより、フィルム表面に前記ゴム粒子に起因する凹凸が発生して平滑性が低下したためと推察される。
【0108】
また、比較例1は、鉛筆硬度がHBであり、実施例1〜5より表面硬度に劣る結果を示した。さらに、シャルピー衝撃試験における吸収エネルギーの値が実施例1〜5より高く、射出成形同時貼合試験において悪い結果を示した。これらの結果は、前記ゴム粒子が多く配合されたことにより、表面硬度が低下し、かつフィルムが割れ難くなりすぎたためと推察される。
【0109】
アクリル樹脂層(A)において、メタクリル樹脂の割合が90重量%より多く、かつアクリルゴム粒子の割合が10重量%より少ない比較例2は、シャルピー衝撃試験における吸収エネルギーの値が実施例1〜5より低く、フィルムが脆くて割れ易いものであった。これは、前記ゴム粒子の配合が少ないため、フィルムの柔軟性が低下したためと推察される。
【0110】
アクリル樹脂層(B)において、メタクリル樹脂の割合が60重量%より少なく、かつアクリルゴム粒子の割合が40重量%より多い比較例3は、鉛筆硬度がBであり、実施例1〜5より表面硬度に劣る結果を示した。
【0111】
アクリル樹脂層(B)の厚さが5μmより薄い比較例4は、加熱白化試験の結果が1.0%以上と悪く、射出成形同時貼合試験においても悪い結果を示した。
【0112】
アクリル樹脂層(B)の厚さが全体の厚さの50%より大きい比較例5は、シャルピー衝撃試験における吸収エネルギーの値が実施例1〜5より低く、フィルムが脆くて割れ易いものであった。
【0113】
アクリル樹脂層(B)が積層されていない単層フィルムである比較例6は、加熱白化試験の結果が1.0%以上と悪く、射出成形同時貼合試験においても悪い結果を示した。
【0114】
アクリル樹脂層(A)に含まれるアクリルゴム粒子が本発明の範囲外であり、かつアクリル樹脂層(B)が積層されていない単層フィルムである比較例7は、シャルピー衝撃試験における吸収エネルギーの値が実施例1〜5より低く、フィルムが脆くて割れ易いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】実施例における射出成形同時貼合試験方法を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0116】
1 成形品
2 フィルム
3 メタクリル樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂層(A)の少なくとも一方の面に、アクリル樹脂層(B)が積層されてなるアクリル樹脂多層フィルムであって、
フィルム全体の厚さが20〜300μmであり、前記アクリル樹脂層(B)の厚さが全体の厚さの50%以下、かつ5μm以上であると共に、
前記アクリル樹脂層(A)およびアクリル樹脂層(B)が、それぞれ下記に示す構成を有することを特徴とするアクリル樹脂多層フィルム。
アクリル樹脂層(A):メタクリル樹脂およびアクリルゴム粒子の合計100重量%を基準にメタクリル樹脂を50重量%を超え90重量%以下およびアクリルゴム粒子を10重量%以上50重量%未満の割合で含む樹脂組成物からなり、前記アクリルゴム粒子は、全単量体の合計100重量%を基準にメタクリル酸アルキルを70〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜30重量%、これら以外の単官能単量体を0〜30重量%、および多官能単量体を0〜10重量%の割合で重合させて得られる重合体と、この重合体の外側に形成され、全単量体の合計100重量%を基準にアクリル酸アルキルを50〜99.9重量%、メタクリル酸アルキルを0〜49.9重量%、これら以外の単官能単量体を0〜49.9重量%、および多官能単量体を0.1〜10重量%の割合で重合させて得られる弾性重合体の層とを有し、平均粒子径が100〜400nmの多層弾性重合体粒子である。
アクリル樹脂層(B):メタクリル樹脂およびアクリルゴム粒子の合計100重量%を基準にメタクリル樹脂を60〜99重量%およびアクリルゴム粒子を1〜40重量%の割合で含む樹脂組成物からなり、前記アクリルゴム粒子は、全単量体の合計100重量%を基準にアクリル酸アルキルを50〜99.9重量%、メタクリル酸アルキルを0〜49.9重量%、これら以外の単官能単量体を0〜49.9重量%、および多官能単量体を0.1〜10重量%の割合で重合させて得られる弾性重合体を有し、平均粒子径が100nm以下の弾性重合体粒子である。
【請求項2】
アクリル樹脂層(A)に含まれる前記アクリルゴム粒子は、前記弾性重合体の層の外側に形成され、全単量体の合計100重量%を基準にメタクリル酸アルキルを50〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜50重量%、これら以外の単官能単量体を0〜50重量%、および多官能単量体を0〜10重量%の割合で重合させて得られる重合体の層を有する請求項1に記載のアクリル樹脂多層フィルム。
【請求項3】
アクリル樹脂層(B)に含まれる前記アクリルゴム粒子は、前記弾性重合体の外側に形成され、全単量体の合計100重量%を基準にメタクリル酸アルキルを50〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜50重量%、これら以外の単官能単量体を0〜50重量%、および多官能単量体を0〜10重量%の割合で重合させて得られる重合体の層を有する多層構造の粒子である請求項1または2に記載のアクリル樹脂多層フィルム。
【請求項4】
前記メタクリル樹脂は、全単量体の合計100重量%を基準にメタクリル酸アルキルを50〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜50重量%、およびこれら以外の単量体を0〜49重量%の割合で重合させて得られる重合体である請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル樹脂多層フィルム。
【請求項5】
前記アクリル樹脂層(A)とアクリル樹脂層(B)とが共押出成形されてなる請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル樹脂多層フィルム。
【請求項6】
射出成形同時貼合用である請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル樹脂多層フィルム。
【請求項7】
前記アクリル樹脂層(A)の一方の面にアクリル樹脂層(B)が積層されてなる請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル樹脂多層フィルム。
【請求項8】
前記アクリル樹脂層(A)の両方の面にアクリル樹脂層(B)が積層されてなる請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル樹脂多層フィルム。
【請求項9】
請求項7に記載のアクリル樹脂多層フィルムにおいて、アクリル樹脂層(B)が積層された前記アクリル樹脂層(A)の一方の面と反対の他方の面に、加飾が施されてなることを特徴とする加飾フィルム。
【請求項10】
請求項8に記載のアクリル樹脂多層フィルムにおいて、アクリル樹脂層(A)の両方の面に積層された前記アクリル樹脂層(B)のうち、いずれか一方のアクリル樹脂層(B)の表面に、加飾が施されてなることを特徴とする加飾フィルム。
【請求項11】
請求項9または10に記載の加飾フィルムの加飾が施された面に、熱可塑性樹脂シートが積層されてなることを特徴とする加飾シート。
【請求項12】
請求項9または10に記載の加飾フィルムの加飾が施された面に、熱可塑性樹脂が射出成形されてなることを特徴とする加飾成形品。
【請求項13】
請求項11に記載の加飾シートの熱可塑性樹脂シートが積層された面に、熱可塑性樹脂が射出成形されてなることを特徴とする加飾成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−5944(P2010−5944A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168474(P2008−168474)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】