説明

アクリル系ポリマー組成物の製造方法

【課題】 透明性、耐熱性、靱性に優れ、光学用部材の原料として好適に用いることのできるアクリル系ポリマーの製造方法を提供すること。
【解決手段】 不飽和カルボン酸アルキルエステル単位と不飽和カルボン酸単位と環化構造単位cとを含有するアクリル系ポリマーBと、粒子径が10nm以上1,000nm以下である弾性体粒子Cとを含有するアクリル系ポリマー組成物の製造方法であって、下記工程(1)および工程(2)を経る方法とする。
工程(1) 不飽和カルボン酸アルキルエステル単位と不飽和カルボン酸単位からなる共重合体Aに弾性体粒子Cを分散させ、組成物Dを得る(分散工程)。
工程(2)組成物Dに環化処理を施し、上記アクリル系ポリマーBと弾性体粒子Cを含有するアクリル系ポリマー組成物を得る(環化工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明性、耐熱性、靱性に優れ、光学用部材の原料として好適に用いることのできるアクリル系ポリマー組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂成型品は、透明性や表面光沢性、耐光性に優れているため、液晶ディスプレイ用シートまたはフィルム、導光板などの光学材料、車両用内装材および外装材、自動販売機の外装材、電化製品、建材用内装および外装材等の表面表皮材に用いられたり、ポリカーボネート、塩化ビニルなどの表皮保護材等に用いられるなど、広範な分野で使用されている。
【0003】
近年これらの樹脂は、例えば、自動車のナビゲーションシステム、ハンディカメラなどの普及により、使用範囲が屋外や自動車の車内などの耐候性、耐熱性が要求される過酷な使用環境条件下へ拡大してきている。このような過酷な環境条件下で使用する場合、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂を基板とするシートまたはフィルムは、優れた透明性、耐候性を有するものの、耐熱性が低いために変形が生じるうえに、靱性が低いために加工時に割れやすいという問題があった。
【0004】
そのため、アクリル樹脂の耐熱性を改良する目的で、環化構造単位を有するアクリル系ポリマーを用いる例もあるが、単にアクリル樹脂の組成の調整によって耐熱性を向上させると、柔軟性が不足し、曲げ応力によって割れやすくなり、加工時に必要な十分な靱性が得られない場合があった。
【0005】
靱性を改善する目的で、例えば、特許文献1にはアクリル系ポリマーに弾性体粒子を含有させる方法が記載されている。しかし該方法では、アクリル樹脂を200〜300℃に昇温したベントを有する押出機に通して加熱脱気することにより、上記環化構造単位を生成させており、アクリル樹脂が高温で処理されるため、ポリマーが着色し、アクリル樹脂最大の特徴である高い透明性が低下する場合があった。さらに、上記環化構造単位を生成させた後、弾性体粒子を含有させるために再度200〜300℃に昇温した押出機に通しているため、より着色の高いものであった。
【0006】
また、特許文献2には溶剤の存在下で押出機に導入し、加熱脱気することにより、上記環化構造単位を生成させる方法が記載されている。しかし、該方法では、押出機中でポリマーを250℃の高温下で処理している上、溶媒が残存する状態でポリマーが高温下に曝されるため、着色が生じる問題があった。
【0007】
また、特許文献3には有機リン化合物を触媒として押出機に導入し、加熱脱気することにより、上記環化構造単位を生成させる方法が記載されている。しかし、該方法では、押出機中でポリマーを250℃の高温下で処理しているため、着色が生じ、また有機リン化合物の屈折率とポリマーの屈折率が異なるため、成型品を作製したときに成型品が白化し、または、ヘイズが高くなり、透明性が失われる問題があった。
【特許文献1】特開2002−284816号公報
【特許文献2】特開2000−230016号公報
【特許文献3】特開2001−151814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明の目的は、透明性、耐熱性、靱性に優れ、光学用部材の原料として好適に用いることのできるアクリル系ポリマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するための本発明は、構造式(a)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位aと構造式(b)で表される不飽和カルボン酸単位bと構造式(c)で表される環化構造単位cとを含有するアクリル系ポリマーBと、粒子径が10nm以上1,000nm以下である弾性体粒子Cとを含有するアクリル系ポリマー組成物の製造方法であって、下記工程(1)および工程(2)を有するアクリル系ポリマー組成物の製造方法を特徴としている。
【0010】
工程(1)
構造式(a)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位aと構造式(b)で表される不飽和カルボン酸単位bとを含む共重合体Aに弾性体粒子Cを分散させ、組成物Dを得る工程(分散工程)。
【0011】
工程(2)
組成物Dに環化処理を施し、上記アクリル系ポリマーBと弾性体粒子Cとを含有するアクリル系ポリマー組成物を得る工程(環化工程)。
【0012】
【化1】

【0013】
(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
【0014】
【化2】

【0015】
(上記式中、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
【0016】
【化3】

【0017】
(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。上記式中、X、XはC=OまたはCH−R11を表す。R11は水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーは透明性、耐熱性、靱性に優れるため、光学用部材の原料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、以下に示す構造式(a)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位aと構造式(b)で表される不飽和カルボン酸単位bと構造式(c)で表される環化構造単位cとを含有するアクリル系ポリマーBと、粒子径が10nm以上1,000nm以下である弾性体粒子Cとを含有するアクリル系ポリマー組成物の製造方法であって、下記工程(1)および工程(2)を有している。
【0020】
工程(1)
構造式(a)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位aと構造式(b)で表される不飽和カルボン酸単位bとを含む共重合体Aに弾性体粒子Cを分散させ、組成物Dを得る工程(分散工程)。
【0021】
工程(2)
組成物Dに環化処理を施し、上記アクリル系ポリマーBと弾性体粒子Cとを含有するアクリル系ポリマー組成物を得る工程(環化工程)。
【0022】
【化4】

【0023】
上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。具体的には、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシエチル基、2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル基などがあげられる。なお、R、Rは同一でも異なってもよい。
【0024】
【化5】

【0025】
上記式中、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。具体的には、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシエチル基、2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル基などがあげられる。
【0026】
【化6】

【0027】
上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。具体的には、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシエチル基、2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基などがあげられる。なお、R、Rは同一でも異なってもよい。また、上記式中、X、XはC=OまたはCH−R11を表す。R11は水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。具体的には、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシエチル基、2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基などがあげられる。
【0028】
上記した本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーは構造式(c)に示す環化構造を有する。特に耐熱性の点からは、R,Rは水素またはメチル基が好ましく、とりわけメチル基が好ましい。
【0029】
【化7】

【0030】
(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。なお、R、Rは同一でも異なってもよい。また、有機残基には酸素原子を含んでもよい。上記式中、X、XはC=OまたはCH−R11を表す。なお、X、Xは同一でも異なってもよい。また、R11は水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。また、有機残基には酸素原子を含んでもよい。)
次に、上記構造式(c)で表される環化構造単位cを含有するアクリル系ポリマーBの製造方法の例を説明する。
【0031】
すなわち、後の環化工程により上記構造式(c)で表される環化構造単位cを与える不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体と、その他のビニル系単量体単位を含む場合には該単位を与えるビニル系単量体dとを重合させ、共重合体Aとした後、かかる共重合体Aを後述する製法により、脱アルコールおよび/または脱水による分子内環化反応を行わせることによりアクリル系ポリマーBを製造することができる。この場合、典型的には共重合体Aを加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位bのカルボキシル基が脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位bと不飽和カルボン酸アルキルエステル単位aからアルコールの脱離により1単位の前記環化構造単位cが生成される。この際用いられる不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定はなく、他のビニル化合物dと共重合させることが可能な、構造式(e)の不飽和カルボン酸単量体が使用できる。
【0032】
【化8】

【0033】
(上記式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の有機残基を表す。なお、有機残基には酸素原子を含んでもよい。)
特に、熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種、または2種以上用いることができる。なお、上記構造式(e)で表される不飽和カルボン酸単量体は共重合すると上記構造式(c)で表される環化構造単位を与える。
【0034】
また、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては特に制限はないが、好ましい例として、下記構造式(f)で表されるものを挙げることができる。
【0035】
【化9】

【0036】
(上記式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の有機残基を表す。なお、有機残基には酸素原子を含んでもよい。R10は水素原子または炭素数1〜6の脂肪族、もしくは脂環式炭化水素基を示す。)
これらのうち、炭素数1〜6の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基または置換基を有する該炭化水素基をもつアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが熱安定性が優れる点で特に好適である。なお、上記構造式(f)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると上記構造式(a)で表される構造の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0037】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、中でもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
また、上記構造式(c)で表される環化構造単位は、特に下記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位とすると、透明性に優れるため好ましい。
【0039】
【化10】

【0040】
(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。なお、R、Rは同一でも異なってもよい。また、有機残基には酸素原子を含んでもよい。)
共重合体Aの重合方法については、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の重合方法を用いることができるが、不純物がより少ない点で溶液重合、塊状重合、懸濁重合が特に好ましい。
【0041】
重合温度については、特に制限はないが、色調の観点から、不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物を95℃以下の重合温度で重合することが好ましい。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、通常50℃以上である。重合収率あるいは重合速度を向上させる目的で、重合進行に従い重合温度を昇温することも可能である。また重合時間は、必要な重合度を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から60〜360分間の範囲が好ましい。
【0042】
本発明において、共重合体Aの製造時に用いられるこれらの単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物を100重量部として、不飽和カルボン酸単量体が5〜50重量部、より好ましくは9〜33重量部、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は好ましくは50〜95重量部、より好ましくは67〜91重量部、これらに共重合可能な他のビニル系単量体を用いる場合、その好ましい割合は0〜5重量部であり、より好ましい割合は0〜3重量部である。
【0043】
不飽和カルボン酸単量体量が5重量部未満の場合には、共重合体Aの加熱などによる上記構造式(c)で表される環化構造単位の生成量が少なくなり、ポリマーの耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸単量体量が50重量部を超える場合には、共重合体Aの加熱による環化反応後に、不飽和カルボン酸単位が多量に残存する傾向があり、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0044】
本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBとしては、上記構造式(c)で表される環化構造単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からなる共重合体を好ましく使用することができる。不飽和カルボン酸アルキルエステル単位と環化構造単位の含有量は、特に制限はないが、耐熱性が向上することから、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位と環化構造単位の合計を100wt%としたときに、好ましくは不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜90wt%および環化構造単位10〜50wt%からなり、より好ましくは、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位55〜80wt%および環化構造単位20〜45wt%からなる。環化構造単位が10wt%未満である場合、耐熱性向上効果が小さくなるだけでなく、十分な低複屈折性(光学等方性)や耐薬品性が得られない場合がある。ここで、上記のような構造単位についての含有量(wt%)とは、構造単位を構成する原子の原子量の総和をその構造単位の重量としたときに計算される割合の値である。
【0045】
また、本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBにおける各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、環化構造単位は、1,800cm-1及び1,760cm-1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単位から区別することができる。また、H−NMR法では、例えば、環化構造単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよび環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0046】
また、本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマー組成物は、アクリル系ポリマーB中に他の不飽和カルボン酸単位および/または、共重合可能な他のビニル系単量体単位を含有することができる。
【0047】
上記の熱可塑性重合体100重量部中に含有される他の不飽和カルボン酸単位量は10重量部以下、すなわち0〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0〜5重量部、最も好ましくは0〜1重量部である。不飽和カルボン酸単位が10重量部を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0048】
また、共重合可能な他のビニル系単量体単位量は上記熱可塑性重合体100重量部中、5重量部以下、すなわち0〜5重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜3重量部である。特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体単位を含有する場合、含有量が上記範囲を超えると、無色透明性、光学等方性、耐薬品性が低下する傾向がある。
【0049】
また、本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBの製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、スチレン、アクリルアミド、メタクリルアミドなど、他のビニル系単量体を共重合してもかまわない。ビニル系単量体単位量は上記熱可塑性重合体100重量部中、5重量部以下、すなわち0〜5重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜3重量部である。特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体単位を含有する場合、含有量が上記範囲を超えると、無色透明性、光学等方性、耐薬品性が低下する傾向がある。透明性、複屈折、耐薬品性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0050】
また、本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBは、質量平均分子量が8万〜20万であることが好ましい。このような分子量を有するアクリル系ポリマーBは、共重合体Aの製造時に、共重合体Aを所望の分子量、すなわち質量平均分子量で5万〜20万に予め制御しておくことにより、達成することができる。質量平均分子量が、20万を越える場合、後工程の環化時に着色する傾向が見られる。一方、質量平均分子量が、5万未満の場合、アクリル系ポリマー組成物を用いた成型品の機械的強度が低下する傾向が見られる。
【0051】
本発明においては、上記のアクリル系ポリマーBに弾性体粒子Cを分散せしめることにより、アクリル系ポリマーBの優れた特性を大きく損なうことなく伸度や靭性が向上し優れた加工性を付与することができる。弾性体粒子Cとしては、少なくとも1層のゴム質重合体を含む層と、少なくとも1層の前記ゴム質重合体とは異なる重合体を含む層とから構成される、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体である弾性体粒子(C−1)や、ゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体などからなる単量体混合物を共重合せしめたグラフト共重合体である弾性体粒子(C−2)等が好ましく使用でき、より好ましくは多層構造重合体である弾性体粒子(C−1)である。
【0052】
本発明に使用されるコアシェル型の多層構造重合体である弾性体粒子(C−1)としては、これを構成する層の数は、特に限定されるものではなく、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であってもよいが、内部に少なくとも1層以上のゴム質重合体よりなるゴム弾性体層を有する多層構造重合体であることが好ましい。
【0053】
多層構造重合体である弾性体粒子(C−1)において、ゴム弾性体層の種類は、特に限定されるものではなく、ゴム弾性を有する重合体成分から構成されるものであればよい。例えば、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレン成分、プロピレン成分、イソブテン成分などを重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。好ましいゴム弾性体としては、例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル成分およびブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分から構成されるゴム弾性体である。また、これらの成分を2種以上組み合わせたものから構成されるゴム弾性体も好ましい。また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、アリルアクリレート単位およびブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分から構成される共重合体を架橋させたゴム弾性体も好ましい。
【0054】
本発明の多層構造重合体である弾性体粒子(C−1)において、ゴム弾性体層以外の層の種類は、熱可塑性を有する重合体成分から構成されるものであれば特に限定されるものではないが、ゴム弾性体層よりもガラス転移温度が高い重合体成分であることが好ましい。熱可塑性を有する重合体としては、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位およびその他のビニル系単位などから選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物系単位から選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が好ましく、さらには不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物系単位から選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体がより好ましい。
【0055】
本発明のゴム質重合体を含有する多層構造重合体である弾性体粒子(C−1)において、最外層の種類は、特に限定されるものではなく、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位およびその他のビニル系単位などを含有する重合体などから選ばれた少なくとも1種が挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物系単位を含有する重合体から選ばれた少なくとも1種が好ましく、さらには不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体がより好ましい。
【0056】
さらに、上記の多層構造重合体である弾性体粒子(C−1)における最外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位および不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体であると、加熱することにより、前述した本発明の共重合体Aと同様に、分子内環化反応が進行し、上記構造式Cで表される環化構造単位が生成し、良好な分散状態が可能となり、耐衝撃性等の機械特性向上とともに、極めて高度な透明性が実現するため好ましい。
【0057】
本発明の多層構造重合体である弾性体粒子(C−1)の好ましい例としては、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/上記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位からなる共重合体、またはメタクリル酸メチル/上記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位/メタクリル酸重合体であるもの、コア層がジメチルシロキサン/アクリル酸ブチル重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、コア層がブタンジエン/スチレン重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、およびコア層がアクリル酸ブチル重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるものなどが挙げられる(「/」は共重合を示す)。さらに、ゴム弾性体層または最外層のいずれか一つもしくは両方の層がメタクリル酸グリシジル単位を含有する重合体であるものも好ましい例として挙げられる。中でも、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/上記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位からなる共重合体、またはメタクリル酸メチル/上記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位/メタクリル酸重合体であるものが、連続相(マトリックス相)であるアクリル系ポリマーBとの屈折率を近似させること、およびポリマー組成物中での良好な分散状態を得ることが可能となり、近年より高度化する要求を満足しうる透明性が発現するため、好ましく使用することができる。
【0058】
本発明に好ましく用いられる多層構造重合体である弾性体粒子(C−1)において、コアとシェルの質量比は、特に限定されるものではないが、多層構造重合体全体を100重量部としたときに、コア層が50重量部以上、90重量部以下であることが好ましく、さらに、60重量部以上、80重量部以下であることがより好ましい。
【0059】
本発明に好ましく用いられる多層構造重合体としては、上述した条件を満たす市販品を用いてもよい。
【0060】
このような多層構造重合体の市販品の例としては、例えば、三菱レイヨン社製“メタブレン”、鐘淵化学工業社製“カネエース”、呉羽化学工業社製“パラロイド”、ロームアンドハース社製“アクリロイド”、ガンツ化成工業社製“スタフィロイド”およびクラレ社製“パラペットSA”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0061】
また、アクリル系ポリマーBおよび弾性体粒子Cのそれぞれの屈折率が近似している場合、本発明のアクリル系フィルムの透明性を得ることができるため、好ましい。具体的には、弾性体粒子Cとアクリル系ポリマーBの屈折率差が0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.02以下、とりわけ0.01以下であることが好ましい。このような屈折率条件を満たすためには、アクリル系ポリマーBの各単量体単位組成比を調整する方法、および/または弾性体粒子Cに使用されるゴム質重合体あるいは単量体の組成比を調製する方法などにより、屈折率差を小さくすることができ、透明性に優れたアクリル系フィルムを得ることができる。
【0062】
尚、ここでいう屈折率差とは、アクリル系ポリマーBが可溶な溶媒に、本発明のアクリル系ポリマー組成物を適当な条件で十分に溶解させ白濁溶液とし、これを遠心分離等の操作により、溶媒可溶部分と不溶部分に分離し、この可溶部分(アクリル系ポリマーB)と不溶部分(弾性体粒子C)をそれぞれ精製した後、測定した屈折率(23℃、測定波長:550nm)の差を示す。
【0063】
なお、粒子の屈折率は、以下の方法で測定される値とする。まず、屈折率が既知であり、かつ、粒子を溶解しない液体中に、粒子を分散させてヘイズメータでヘイズを測定する。液体の屈折率を変更させて測定し、最もヘイズが低くなった時の液体の屈折率を粒子の屈折率とする。
【0064】
弾性体粒子Cの平均粒子径としては、10〜1,000nmとすることが好ましく、より好ましくは100〜200nmである。10nm以上とすることで靱性向上の実効を得ることができ、1,000nm以下とすることで、耐熱性の低下を抑えることができる。
【0065】
弾性体粒子Cのアクリル系ポリマー組成物に対する含有量としては、0.1〜50重量部とすることが好ましく、より好ましくは5重量部〜20重量部である。弾性体粒子の含有量を上記範囲にすることにより、耐折れ性などの加工適性と耐熱性が特に優れたアクリル系フィルムを得ることができる。ここで弾性体粒子の平均粒子径は透過型電子顕微鏡で確認可能である。具体的には以下の方法で測定される値とする。
【0066】
本発明のアクリル系ポリマー組成物を用いたフィルムを、厚さ方向に100〜800nm程度の超薄切片とし、ルテニウム酸で染色した後に透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM-1200EX)を用いて、10万倍の倍率で場所を変えながら100個の粒子について円相当径を求め、平均値を平均粒子径とした。
【0067】
なお、実質的なアクリル系ポリマー組成物中でのアクリル系ポリマーBと弾性体粒子Cの共重合組成は、上記の溶媒による可溶成分と不溶成分の分離操作により、各成分を個別に分析可能である。
【0068】
また、本発明のアクリル系ポリマー組成物には本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど)、熱硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など)の一種以上をさらに含有させることができ、また、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤が有する色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加することが好ましい。
【0069】
アクリル系ポリマー組成物は、ガラス転移温度(Tg)が120℃以上であることが耐熱性の面で好ましい。ガラス転移温度を上げる方法としては、特に限定されないが、アクリル系ポリマーB中の、例えば、前記構造式(c)で表される様な環化構造単位の含有量を増やすことが効果的である。
【0070】
次に、本発明の製造方法における、工程(1)の共重合体Aに弾性体粒子Cを分散させ組成物Dを得る分散工程および、工程(2)の組成物Dを加熱し、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応を行い、環化構造単位を含有するアクリル系ポリマー組成物を製造する環化工程について説明する。
【0071】
本発明の製造方法では、先ず分散工程において共重合体Aに弾性体粒子Cを分散させ、続いて環化工程により、上記環化構造単位(c)を含有したアクリル系ポリマー組成物を得る。環化前に弾性体粒子を分散させることにより、分散時の温度を低く設定することが可能であり、着色を低減できる。また、上述したように弾性体粒子が多層構造重合体であり、その最外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位および不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体である場合、最外層のポリマーも本発明の共重合体Aと同様に環化反応を起こす。ここで、環化工程の前に分散工程を行うことにより、最外層のポリマーと共重合体Aの環化構造単位(c)の含有率が同等になり、弾性体粒子が良好に分散し、耐衝撃性等の機械特性向上とともに、極めて高度な透明性が実現するため好ましい。
【0072】
分散工程は、共重合体Aと弾性体粒子Cを常温で上述した割合で混合するだけでも構わないし、押出機などを用いて加熱下で共重合体Aを溶融させ、弾性体粒子Cを分散させても構わないが、弾性体粒子の分散性が良く、ヘイズの低い成型品を得られることから加熱下で行うことが好ましい。
【0073】
加熱下で分散工程を行う場合、温度は150℃以上280℃未満であることが好ましい。より好ましくは150℃以上250℃未満、さらに好ましくは160℃以上220℃未満である。150℃未満では、温度が低すぎてポリマーが溶融しなかったり、ポリマーの溶融粘度が高すぎて撹拌が困難であったり、弾性体粒子が凝集する場合がある。280℃以上ではポリマーが着色したり、ポリマーの溶融粘度が低すぎて弾性体粒子が凝集する場合がある。
【0074】
加熱下で分散工程を行う場合、分散工程の温度における溶融粘度は500Pa・s以上1万Pa・s未満であると、弾性体粒子が分散し易いため好ましい。
【0075】
加熱下で分散工程を行う場合、使用する装置は特に限定されず、1軸や2軸の押出機を用いることができる。通常、分散工程に要する時間は1分〜30分程度である。
【0076】
続く環化工程の温度は、150℃以上280℃未満であることが好ましい。温度が150℃未満であると環化反応が進行しなかったり、進行しても反応速度が遅く生産性が著しく低下する場合がある。280℃以上であるとポリマーが着色し、光学部材として使用できない場合がある。着色を抑制する観点から、環化時の温度は150℃以上250℃未満であることが好ましく、より好ましくは160℃以上220℃未満、さらに好ましくは、160℃以上200℃未満である。
【0077】
また、環化時の圧力条件は500Pa以上20,000Pa未満であることが好ましい。圧力条件が20,000Pa以上の場合、減圧度が足りないため、ポリマーが環化時の温度により劣化し、着色する場合がある。また、不活性ガスの雰囲気下で反応を行ったとしても、環化時に発生する水やアルコール等の揮発分が着色の原因となる場合があるため、減圧下で環化を行うことが望ましい。より好ましくは、原料である共重合体Aを不活性ガスの雰囲気下においたあと、上記減圧下で環化反応を行うと、ポリマーの着色を低減させることができる。また、減圧下では環化反応がより進みやすくなるため生産性の観点からも好ましい。より着色を低減できることから、圧力条件は500Pa以上10,000Pa未満であることがより好ましく、さらに好ましくは500Pa以上5,000Pa未満である。
【0078】
環化反応に要する環化処理時間は、上記環化温度および圧力条件下でポリマーの環化反応が目的の環化反応率に到達すれば特に限定はないが、0.5時間以上20時間未満であることが好ましい。処理時間が短いと、環化反応率が低くアクリル系ポリマーの共重合組成を本発明の範囲内とすることが困難であり、すなわち、未反応の不飽和カルボン酸単位が多量に残存するため、加熱成形加工時に反応が再進行し、成形品にシルバーや気泡が見られる場合がある。20時間以上では生産性が低下する。ここで、環化処理時間とはポリマーが上述した環化時の温度下で処理されている時間をいう。
【0079】
本発明の製造方法の環化反応に使用する反応装置は、装置の空間容積が大きいことが好ましい。空間容積が大きいことにより生産効率が向上するばかりでなく、環化時に発生する水やアルコール等の揮発分が装置内の空間に希釈されるため、ポリマー付近の局所的な揮発分濃度を低下させることができ、着色の少ないポリマーを得ることができる。
【0080】
本発明の製造方法の環化反応に使用する反応装置は、溶融したポリマーの撹拌効率が良く、また、溶融したポリマーの液面(表面)を効率よく更新可能なことが好ましい。脱水および/または脱アルコールによる分子内環化反応は溶融したポリマーの液面で生じやすいため、液面の更新が効率的に行われないと局所的に環化反応が進行し、得られるポリマー溶液の組成のムラが大きくなる場合がある。また、環化反応を効率的に行うために、環化反応装置内でのポリマーの液面の表面積ができるだけ大きいことが好ましい。
【0081】
また、本発明の製造方法の環化反応に使用する反応装置は、滞留時間の分布が少ないことが好ましい。滞留時間の分布が大きいと製品の組成や着色度合いにムラができることがある。また装置中に溶融ポリマーの異常滞留を引き起こすデッドスペースが存在すると、連続運転したときに経時でポリマーの着色度合いが大きくなることがある。
【0082】
環化反応に使用する装置は、上記温度、圧力、時間の条件を満たすことができれば特に限定はなく、バッチ式では昇温、減圧、撹拌が可能な重合槽やニーダーを用いることができる。製品の品質が安定し、生産性も向上することから環化反応は連続式で行うことがより好ましく、ベント付きの押出機や、横型の連続式重合装置を用いることができる。また、バッチ式の反応器を多段で設置して、多段槽型反応器として使用してもよい。中でも、生産性が良いこと、空間容積が大きいこと、撹拌効率が良いことから、横型の連続式重合装置を用いることが好ましく、(株)日立製作所社製メガネ翼重合器などを好ましく用いることができる。
【0083】
本発明では、上述した工程(1)および工程(2)を有していればよく、工程(1)の前後や工程(2)の後に、原料乾燥工程や添加剤の添加工程など別工程を有していても構わない。
【0084】
さらに本発明では、共重合体(A)を上記方法等により加熱する際に環化構造単位への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリおよび塩化合物から選ばれた1種以上を添加することができる。その添加量は、共重合体(A)100重量部に対し、0.01〜1重量部程度が好ましい。酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類等が挙げられる。さらに、塩化合物触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩、各種アルキルアンモニウム塩を含むアンモニウム塩等が挙げられる。ただし、その触媒が熱可塑性重合体の着色に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加することが好ましい。中でも、アルカリ金属を含有する化合物が、比較的少量の添加量で、優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられる。とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、および酢酸ナトリウムを好ましく使用することができる。
【0085】
次に、本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマー組成物を光学用フィルムとして用いる場合を例にとって、その製膜方法を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0086】
アクリル系フィルムの製膜方法としては、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルション法、ホットプレス法等の製造法が使用できるが、ここでは流延法による溶液製膜を例にとって説明する。また、溶液製膜には乾湿式法、乾式法、湿式法などがありいずれの方法で製膜されても差し支えないが、ここでは乾式法を例にとって説明する。
【0087】
製膜原液としては、溶液重合などによりポリマーを重合した場合は、ポリマー溶液をそのまま用いてもよいし、一旦単離したポリマーを、溶媒に溶解したものを用いてもよい。
【0088】
溶媒としては、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶剤が使用可能であり、好ましくはアセトン、メチルエチルケトンあるいはN−メチルピロリドン等が使用できる。溶媒は1種類の溶媒を用いてもよいし、2種類以上の溶媒を混合して用いてもよい。また、溶媒の乾燥促進や基材からの剥離性向上を目的に乾燥助剤や剥離剤などを添加してもよい。製膜原液中のポリマー濃度は2〜50重量%程度が好ましい。濃度が低いとフィルムの表面性が悪化したり、溶媒乾燥に長時間を要するため好ましくない。濃度が高いとポリマー溶液の流動性が低下したり、溶解性が悪化したりする。ポリマー濃度は、より好ましくは10〜45重量%、さらに好ましくは15〜40重量%である。
【0089】
濃度調整後のポリマー溶液は、濾過を行い、異物やゲル状物を取り除くことが好ましい。異物を除去することにより、欠点が減少し光学用途フィルムとして有用に使用できる。濾過精度は50μm以上の異物を除去できることが好ましい。さらに好ましくは10μm、最も好ましくは1μmである。濾過精度の異なる複数のフィルターにより段階的に濾過を行うと濾過寿命が延長されるため好ましい。濾過は、25℃以上100℃以下の温度で適宜フィルター、例えば、焼結金属、多孔性セラミック、サンド、金網等で濾過することができる。
【0090】
乾式法で製膜する場合は該原液を口金からドラム、エンドレスベルト、工程フィルム等の支持体上に押し出して膜を形成し、続く乾燥工程でかかる膜層から溶媒を飛散させ膜が自己保持性をもつまで乾燥し、支持体から剥離可能なフィルムを得る。
【0091】
乾燥工程の温度条件は例えば、室温〜220℃の範囲で行うことができる。効率よく溶媒を除去するため、段階的に乾燥温度を上昇させることが好ましい。初期の乾燥温度は使用する溶媒の沸点をbpとすると、(bp−40℃)〜bpの範囲にあることが好ましい。より好ましくは(bp−40℃)〜(bp−20℃)である。初期乾燥温度が低すぎると溶媒乾燥に時間がかかり生産性が低下する。初期乾燥温度が溶媒の沸点より高いと、発泡欠点が生じる場合がある。初期乾燥後のフィルム中の溶媒濃度は10〜30重量%であることが好ましく、通常初期乾燥に要する時間は、30秒〜5分程度である。次に、初期乾燥を終えたフィルムはポリマーのガラス転移温度をTgとすると、(Tg−50℃)〜Tgの温度範囲で2次乾燥を行うことが好ましい。2次乾燥の温度が低すぎると溶媒乾燥に時間がかかり生産性が低下する。温度がTg以上であると、フィルム中の残存溶媒が揮発する際に発泡欠点を生じる場合がある。2次乾燥後のフィルム中の溶媒濃度は2〜15重量%であることが好ましく、通常2次乾燥に要する時間は5〜60分程度である。2次乾燥を終えたフィルムは、ポリマーの分解温度以下の温度で最終乾燥を行い、フィルム中の溶媒濃度を2重量%未満に低減させることが好ましい。溶媒濃度が2重量%以上であると、製品として使用したときに溶媒が溶出する場合がある。
【0092】
得られたフィルムは、例えば工程フィルムを基材として製膜した場合は、積層したまま巻き取ってもよいし、乾燥工程の途中または最後で基材から剥離してもよい。基材から剥離する場合は、保護フィルムを積層して巻き取ると傷が抑制されるため好ましい。またこの乾燥工程で用いられるドラム、エンドレスベルト、工程フィルム等の表面はできるだけ平滑であれば表面の平滑なフィルムが得られる。
【0093】
得られたフィルムは、後工程で延伸、ハードコート層や反射防止層の積層などの処理を行ってもよい。
【0094】
本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマー組成物からなるフィルムは、ヘイズが1%未満であることが好ましい。ヘイズが1%以上であると、目視でもフィルムの白化が確認できるため光学用部材として好ましくない。ヘイズはより好ましくは0.9%未満、さらに好ましくは0.8%未満である。上記ヘイズの範囲を達成するためには、触媒や可塑剤などの添加物の添加量を減らすこと、アクリル系ポリマーBと弾性体粒子Cやその他添加物との屈折率差を低減させることが重要である。また、環化構造単位の生成工程を低温で行い、ポリマー劣化物などの副生成物を発生させないことが重要である。
【0095】
本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマー組成物からなるフィルムは、黄色度(YI値)が1.5未満であることが好ましい。YI値が1.5以上であると、目視でもフィルムの着色が確認できるため光学用部材として好ましくない。YI値はより好ましくは1.3未満、さらに好ましくは1.0未満である。上記YI値の範囲を達成するためには、触媒や可塑剤などの添加物の添加量を減らすこと、環化構造単位の生成工程を低温で行いポリマーや添加物の劣化を防止すること、環化反応を減圧下で行い環化時に発生する揮発ガスを効率よく除去することが重要である。
【0096】
本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマー組成物からなるフィルムは、150℃〜300℃での水およびアルコールの合計発生量が5wt%未満であることが好ましい。好ましくは3wt%未満、さらに好ましくは3wt%未満である。水およびアルコールの合計発生量を低減させるには上述した本発明の製法により環化工程を十分に行うことが有効である。環化が不十分であると水およびアルコールの合計発生量が5wt%以上となり、加熱成形加工時に環化反応が起こり、ガスが発生して成形品にシルバーや気泡が見られる場合がある。
【0097】
本発明のアクリル系ポリマー組成物は、その優れた透明性、耐熱性、耐光性、靱性を活かして、電気・電子部品、光学フィルター、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0098】
上記成形品の具体的用途としては、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、カバー等、これら各種の用途にとって極めて有用である。
【実施例】
【0099】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0100】
1.ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。サンプル量は5mgとした。
【0101】
尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
【0102】
2.透明性(全光線透過率、ヘイズ値)
東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて、23℃での全光線透過率(%)、ヘイズ値(%)を評価した。光源にはハロゲンランプ(12V50W)を用い、全光線透過率はJIS−K7361−1997、ヘイズはJIS−K7136−2000に準じて測定を行った。測定は実施例に示す方法で、アクリル系ポリマーをフィルム化し、厚み50μmの部分を3カ所測定して平均値を求めた。
【0103】
3.黄色度(YI値)
日本電色株式会社製の分光式色差計SE2000で測定した。測定は以下の(5)に示す方法で、アクリル系ポリマー組成物をフィルム化し、厚み50μmの部分を3カ所測定して平均値を求めた。
【0104】
4.ガス発生量
TPD−MS(Temperature Programmed Desorption - Mass Spectrometry)法により、加熱した試料から発生するガスの定量を行い、150℃〜300℃の温度範囲における水およびアルコールの発生量を求めた。ここで、アルコールとは本発明における共重合体Aを分子内環化させ環化構造単位を生成する際に発生するアルコールを示す。表1には水およびアルコールの合計発生量を示した。
【0105】
5.フィルム厚み
マイクロ厚み計(アンリツ社製)を用いて5点測定し、平均値を求めた。
【0106】
6.破断伸度・引張弾性率
JIS K7127−1999に規定された方法によりロボットテンシロンRTA100(オリエンテック社製)を用いて、25℃、65%RH雰囲気で5回測定を行い、平均値を求めた。ただし、試験片は幅10mmで長さ50mmの試料とした。試験を開始してから荷重が1Nを通過した点を伸びの原点とした。
【0107】
7.質量平均分子量(絶対分子量)
ジメチルホルムアミドを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて測定した。
【0108】
8.各成分組成
アクリル系ポリマーにアセトンを加え、4時間還流し、この溶液を9,000rpmで30分間、遠心分離し、アセトン可溶成分とアセトン不溶成分とに分離した。アセトン可溶成分を60℃で5時間減圧乾燥し、各成分単位定量を行って、アクリル系ポリマーの各成分組成とした。
【0109】
各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、環化構造単位は、1,800cm−1及び1,760cm−1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単位から区別することができる。また、H−NMR法では、例えば、環化構造単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよび環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0110】
[実施例1]
(1)共重合体Aの調製
先ず、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤を、次のようにして調整した。
【0111】
メタクリル酸メチル20重量部、
アクリルアミド80重量部、
過硫酸カリウム0.3重量部、
イオン交換水1,500重量部
を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら、単量体が完全に重合体に転化するまで、70℃に保ち反応を進行させた。得られた水溶液を懸濁剤とした。容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、上記懸濁剤0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解した溶液を供給し、系内を窒素ガスで置換しながら400rpmで撹拌した。
【0112】
次に、下記仕込み組成の混合物質を、反応系を撹拌しながら添加した。
【0113】
メタクリル酸 :27重量部
メタクリル酸メチル :73重量部
t−ドデシルメルカプタン :1.2重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル:0.4重量部
添加後、70℃まで昇温し、内温が70℃に達した時点を重合開始時点として、180分間保ち、重合を進行させた。
【0114】
その後、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い共重合体Aを得た。この共重合体の重合率は97%であり、質量平均分子量は13万であった。
【0115】
(2)弾性体粒子Cの調製
多層構造重合体である弾性体粒子(C−1)
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内に、初期調整溶液として、
脱イオン水120重量部、
炭酸カリウム0.5重量部、
スルホコハク酸ジオクチル0.5重量部、
過硫酸カリウム0.005重量部
を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌後、
アクリル酸ブチル53重量部、
スチレン17重量部、
メタクリル酸アリル(架橋剤)1重量部
を仕込んだ。これら混合物を70℃で30分間反応させて、ゴム質重合体を得た。
【0116】
次いで、メタクリル酸メチル21重量部、
メタクリル酸9重量部、
過硫酸カリウム0.005重量部
の混合物を引き続き70℃で90分かけて連続的に添加し、更に90分間保持して、シェル層を重合させた。
【0117】
この重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソ−ダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、多層構造重合体である弾性体粒子(C−1)を得た。電子顕微鏡で測定した弾性体粒子のゴム質重合体部分の平均粒子径は140nmであった。
【0118】
(3)分散工程(共重合体Aと弾性体粒子Cとの配合)
共重合体A80重量部と弾性体粒子C20重量部とを配合し、2軸押出機(日本製鋼社製TEX30、L/D=44.5)を用いて、スクリュー回転数150rpm、シリンダ温度220℃、平均滞留時間2分で混練し、ペレット状の組成物Dを得た。
【0119】
(4)環化工程
上記共重合体に触媒(NaOCH)を0.2重量%配合し、ホッパー部に窒素を10L/分の量でパージしながら、2軸撹拌式の横型反応装置に連続的に供給して、温度240℃で撹拌混合した。圧力は1,500Paの減圧下で撹拌し、分子内環化反応で生成する水およびアルコールは系外に除去した。上記条件下、平均滞留時間15時間でペレット状のアクリル系ポリマーを得た。アクリル系ポリマーの分子量は13万、Tgは140℃であった。
【0120】
(5)製膜
アクリル系ポリマー組成物を80℃で8時間減圧乾燥した後、メチルエチルケトンに固形分濃度30重量%となるように溶解させ、1μmカットフィルターを用いて濾過を行い、ビーカーで24時間静置して溶液中の泡を除去してポリマー溶液aを得た。このポリマー溶液aを、バーコーターでPETフィルム上に流延し、熱風オーブンで50℃で5分、100℃で5分、130℃で10分の3段階で加熱して溶媒を蒸発させ、自己支持性を発現した重合体シートを支持体から剥離した。続いて剥離したフィルムを、金枠に固定し170℃で10分間熱処理し、厚み50μmのアクリル系フィルムを得た。
【0121】
[実施例2]
実施例1において、環化工程における触媒(NaOCH)を添加しない以外は、実施例1と同様の方法でアクリル系ポリマーおよびフィルムを作製した。得られたポリマーおよびフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0122】
[実施例3]
実施例1において、2軸撹拌式の横型反応装置での撹拌条件を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法でアクリル系ポリマーおよびフィルムを作製した。得られたポリマーおよびフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0123】
[実施例4]
実施例3において、環化工程における触媒(NaOCH)を添加しない以外は、実施例3と同様の方法でアクリル系ポリマーおよびフィルムを作製した。得られたポリマーおよびフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0124】
[実施例5]
(1)共重合体Aの調製
実施例1と同様に行った。
【0125】
(2)弾性体粒子Cの調製
実施例1と同様に行った。
【0126】
(3)分散工程(共重合体Aと弾性体粒子Cとの配合)
共重合体A80重量部と弾性体粒子C20重量部と触媒(NaOCH)0.2重量%を配合し、2軸押出機(日本製鋼社製TEX30、L/D=44.5)を用いて、スクリュー回転数140rpm、シリンダ温度220℃、吐出量50kg/hr、平均滞留時間2分で混練し、ペレット状の組成物Dを得た。
【0127】
(4)環化工程
上記共重合体を、ホッパー部に窒素を10L/分の量でパージしながら、(株)日立製作所社製メガネ翼重合器に連続的に供給して、温度280℃、回転数10rpmで撹拌混合した。圧力は6,500Paの減圧下で撹拌し、分子内環化反応で生成する水およびアルコールは系外に除去した。上記条件下、平均滞留時間1.5時間でペレット状のアクリル系ポリマーを得た。アクリル系ポリマーの分子量は13万、Tgは140℃であった。
【0128】
(5)製膜
実施例1と同様に行った。
【0129】
以上の工程で得られたポリマーおよびフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0130】
[実施例6]
実施例5において、平均滞留時間を0.5時間とする以外は、実施例5と同様の方法でアクリル系ポリマーおよびフィルムを作製した。得られたポリマーおよびフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0131】
[実施例7]
実施例5において、環化工程における触媒(NaOCH)を添加しない以外は、実施例5と同様の方法でアクリル系ポリマーおよびフィルムを作製した。得られたポリマーおよびフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0132】
[実施例8]
実施例5において、平均滞留時間を0.5時間とし、また、環化工程における触媒(NaOCH)を添加しない以外は、実施例5と同様の方法でアクリル系ポリマーおよびフィルムを作製した。得られたポリマーおよびフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0133】
[実施例9]
実施例5において、環化時の温度を260℃とし、また、環化工程における触媒(NaOCH)を添加しない以外は、実施例5と同様の方法でアクリル系ポリマーおよびフィルムを作製した。得られたポリマーおよびフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0134】
[実施例10]
実施例5において、環化時の圧力を大気圧(101,300Pa)とし、また、環化工程における触媒(NaOCH)を添加しない以外は、実施例5と同様の方法でアクリル系ポリマーおよびフィルムを作製した。得られたポリマーおよびフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0135】
[比較例1]
(1)共重合体Aの調製
実施例1と同様に行った。
【0136】
(2)弾性体粒子Cの調製
実施例1と同様に行った。
【0137】
(3)環化工程
上記共重合体Aに添加剤(NaOCH)を0.2重量%配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いて、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数100rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状のアクリル系ポリマーを得た。アクリル系ポリマーの分子量は13万、Tgは140℃であった。
【0138】
(4)分散工程(アクリル系ポリマーと弾性体粒子Cとの配合)
アクリル系ポリマー80重量部と弾性体粒子C20重量部とを配合し、2軸押出機(日本製鋼社製TEX30、L/D=44.5)を用いて、スクリュー回転数150rpm、シリンダ温度280℃で混練し、ペレット状のアクリル系ポリマー組成物を得た。ポリマーのTgは137℃であった。
【0139】
(5)製膜
実施例1と同様に行った。
【0140】
以上の工程で得られたポリマーおよびフィルムの物性、評価結果を表1に示す。ポリマーを環化後に弾性体粒子を分散させたため、ポリマーの熱履歴が多くなり、YI値が若干高くなった。
【0141】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマー組成物は透明性、耐熱性、靱性に優れるため、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、カバー等の光学用部材の原料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式(a)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位aと構造式(b)で表される不飽和カルボン酸単位bと構造式(c)で表される環化構造単位cとを含有するアクリル系ポリマーBと、粒子径が10nm以上1,000nm以下である弾性体粒子Cとを含有するアクリル系ポリマー組成物の製造方法であって、下記工程(1)および工程(2)を有するアクリル系ポリマー組成物の製造方法。
工程(1)
構造式(a)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位aと構造式(b)で表される不飽和カルボン酸単位bとを含む共重合体Aに弾性体粒子Cを分散させ、組成物Dを得る工程(分散工程)。
工程(2)
組成物Dに環化処理を施し、上記アクリル系ポリマーBと弾性体粒子Cとを含有するアクリル系ポリマー組成物を得る工程(環化工程)。
【化1】

(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
【化2】

(上記式中、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
【化3】

(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。上記式中、X、XはC=OまたはCH−R11を表す。R11は水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
【請求項2】
工程(1)の分散工程を、150℃以上280℃未満の温度で行う、請求項1に記載のアクリル系ポリマー組成物の製造方法。
【請求項3】
工程(1)の分散工程における組成物Dの粘度が500Pa・s以上1万Pa・s未満である、請求項1または2に記載のアクリル系ポリマー組成物の製造方法。
【請求項4】
工程(2)の環化工程を、150℃以上300℃未満の温度で、かつ、500Pa以上20,000Pa未満の圧力下で行うと共に、環化処理を0.5時間以上20時間未満で行う、請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系ポリマー組成物の製造方法。
【請求項5】
環化構造単位cが下記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位である、請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系ポリマー組成物の製造方法。
【化4】

(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
【請求項6】
アクリル系ポリマーBに含まれる構造式(c)で表される環化構造単位cの割合が10wt%以上50wt%未満である、請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系ポリマー組成物の製造方法。
【請求項7】
触媒を用いて環化反応を行うと共に、触媒として水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の触媒を用いる、請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル系ポリマー組成物の製造方法。
【請求項8】
アクリル系ポリマー組成物が、アクリル系ポリマー組成物100重量部に対し、弾性体粒子Cを0.1〜50重量部含有する、請求項1〜7のいずれかに記載のアクリル系ポリマー組成物の製造方法。
【請求項9】
弾性体粒子Cが、少なくとも1層のゴム質重合体を含む層と、少なくとも1層の該ゴム質重合体以外の重合体を含む層とから構成される多層構造を有している、請求項1〜8のいずれかに記載のアクリル系ポリマー組成物の製造方法。
【請求項10】
弾性体粒子Cとアクリル系ポリマーBとの屈折率差が0.05以下である、請求項1〜9のいずれかに記載のアクリル系ポリマー組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−56917(P2008−56917A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200441(P2007−200441)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】