説明

アクリル系重合体の製造方法、アクリル系重合体、アクリル系粘着組成物及び粘着テープ

【課題】有機過酸化物を重合開始剤として用いたアクリル系重合体の製造において、粘着テープとしたときにVOCの原因となる重合開始剤の分解生成物を殆ど生成せず、得られたアクリル系重合体を用いてなる粘着剤層を有する粘着テープから発生するVOC量及び臭気を低減することができるアクリル系重合体の製造方法、アクリル系重合体、アクリル系粘着組成物及び粘着テープを提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される有機過酸化物重合開始剤を用いるアクリル系重合体の製造方法である。
【化1】


一般式(1)中、Rは、炭素数2〜7の炭化水素を表し、R’は、炭素数1〜7の炭化水素又は酸素原子を有する炭素数1〜7の炭化水素を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機過酸化物を重合開始剤として用いたアクリル系重合体の製造において、粘着テープとしたときにVOCの原因となる重合開始剤の分解生成物を殆ど生成せず、得られたアクリル系重合体を用いてなる粘着剤層を有する粘着テープから発生するVOC量及び臭気を低減することができるアクリル系重合体の製造方法、アクリル系重合体、アクリル系粘着組成物及び粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
部材を接着固定するための粘着テープは、自動車等の車両や住宅内、更には電子機器の内部等においても広く用いられている。しかし、近年、これらの粘着テープから発生する揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)が問題となっている。
【0003】
このようなVOCの問題に対して、例えば、日本では、住宅分野において、シックハウス対策としてこれまでの個別の室内揮発性有機化合物の低減だけではなく、揮発性有機化合物の総量を低減する指針が厚生労働省より出されている。また、例えば、ドイツ自動車工業会(VDA)では、自動車内部に用いられる部材の臭いの評価法をVDA270で定めており、揮発性成分の評価法としてDVA277、VDA278を定めている。更に、ドイツ工業会では、部材より発生する揮発成分による曇りの挙動を判定するために、ドイツ工業規格第75201号を定めている。
【0004】
従来、粘着テープの粘着剤層に用いられるアクリル系重合体は、トルエンを用いたトルエン重合により行われていたが、このようにして製造されるアクリル系重合体にはトルエンが残留しており、この残留トルエンを完全除去することができず、VOC発生の原因となっていた。そのため、粘着テープの粘着剤層となるアクリル系重合体の重合を脱トルエンで行うことが盛んに行われている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
しかしながら、脱トルエンで得られたアクリル系重合体を用いた場合、トルエン由来のVOCは低減できるが、アクリル系重合体の重合段階において生成される別の化合物に起因したVOCが問題となっていた。更に、粘着テープの粘着剤層とした場合、アクリル系重合体とともに添加する粘着付与樹脂等やその他の物質が揮発成分として粘着剤層中に残留し、これがVOC発生の原因となっていた。
【特許文献1】特開平6−122859号公報
【特許文献2】特開平2−115291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、有機過酸化物を重合開始剤として用いたアクリル系重合体の製造において、粘着テープとしたときにVOCの原因となる重合開始剤の分解生成物を殆ど生成せず、得られたアクリル系重合体を用いてなる粘着剤層を有する粘着テープから発生するVOC量及び臭気を低減することができるアクリル系重合体の製造方法、アクリル系重合体、アクリル系粘着組成物及び粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記一般式(1)で表される有機過酸化物を有する重合開始剤を用いるアクリル系重合体の製造方法である。
【化1】

一般式(1)中、Rは、炭素数2〜7の炭化水素を表し、R’は、炭素数1〜7の炭化水素又は酸素原子を有する炭素数1〜7の炭化水素を表す。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、アクリル系重合体を粘着剤層として用いてなる粘着テープから発生するVOCの原因として、アクリル系重合体を製造する際に使用する重合開始剤である有機過酸化物の分解生成物に注目し、鋭意検討の結果、特定の構造の有機過酸化物を有する重合開始剤を用いて重合したアクリル系重合体は、粘着テープの粘着剤層として使用した場合に、VOCの原因となる有機過酸化物の分解性生物の生成を抑制でき、更に、このようにして製造したアクリル系重合体と特定の粘着付与剤とを併用してなるアクリル系粘着組成物は、粘着テープの粘着剤層に用いた場合、発生するVOCの量を低減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明のアクリル系重合体の製造方法は、上記一般式(1)で表される有機過酸化物(以下、本発明に係る有機過酸化物ともいう)を有する重合開始剤を用いてアクリル系モノマーの重合を行う。
上記本発明に係る有機過酸化物は、パーオキシエステル化合物であり、上記一般式(1)中、Rは、炭素数の下限が2、上限が7の炭化水素である。このような本発明に係る有機過酸化物は、1次分解によりR部分を含むラジカルを生成し、該ラジカルは、更に分解して上記R部分からなる炭化水素ラジカルとアセトンとを生成する。上記炭化水素ラジカルは、モノマー重合時に取り込まれるか、溶剤から水素を引き抜き炭化水素となる。モノマー重合時に取り込まれた場合は、本発明により製造されるアクリル系重合体の反応溶液中に不純物として残留することがなく、また、炭化水素になった場合は、その生成物は沸点が低くなり、乾燥によって容易に除去される。更に、上記アセトンも、乾燥によって容易に除去される。従って、本発明に係る有機過酸化物を有する重合開始剤(以下、本発明に係る重合開始剤ともいう)を用いる本発明のアクリル系重合体の製造方法によると、製造するアクリル系重合体中に、本発明に係る有機過酸化物の分解生成物に起因するVOCの発生を抑制することができる。
上記Rにおける炭素数が2未満であると、本発明に係る有機過酸化物の1次分解により生成されるラジカルが溶剤から水素を引き抜いてt−ブタノール、又は、t−ペンタノールとなり、該t−ブタノール、又は、t−ペンタノールに起因するVOCの問題が生じる。7を超えると、本発明に係る有機過酸化物の1次分解により生成されたラジカルが更に分解して生成するR部分からなる炭化水素ラジカルの炭素数が7を超えるものとなり、このような炭化水素ラジカルは、溶剤から水素を引き抜き炭化水素になった場合、高沸点不純物となって製造するアクリル系重合体中に残存し、粘着テープの粘着剤層に用いた際にVOC発生の原因となる。
【0010】
上記一般式(1)中、R’は、炭素数の下限が1、上限が7の炭化水素、又は、酸素原子を有する炭素数の下限が1、上限が7の炭化水素である。このような本発明に係る有機過酸化物は、1次分解によりR’部分を含むラジカルを生成し、該ラジカルは、更に分解して上記R’部分からなる炭化水素ラジカルと二酸化炭素とを生成する。炭素数が7を超えると、本発明に係る有機過酸化物の1次分解により生成されたラジカルが更に分解して生成するR’部分からなる炭化水素ラジカルの炭素数が7を超えるものとなり、このような炭化水素ラジカルは、溶剤から水素を引き抜き炭化水素になった場合、高沸点不純物となって製造するアクリル系重合体中に残存し、粘着テープの粘着剤層に用いた際にVOC発生の原因となる。
【0011】
このような本発明に係る有機過酸化物としては、例えば、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等が挙げられる。
【0012】
本発明のアクリル系重合体の製造方法において、本発明に係る重合開始剤は、10時間半減温度が90℃以下である化合物を80重量%以上含有することが好ましい。また、10時間半減温度が80℃以下である化合物を80重量%以上含有することがより好ましい。
このような本発明に係る重合開始剤を用いることで、後述するモノマーの重合を行った際に、本発明に係る重合開始剤やその残渣が揮発成分として反応溶液中に残存することを好適に防止することができる。80重量%未満であると、製造したアクリル系重合体の反応溶液中に本発明に係る有機過酸化物やその残渣が残存することがある。
上記10時間半減温度が90℃以下である化合物としては、例えば、上述した本発明に係る有機過酸化物等が挙げられる。
【0013】
本発明のアクリル系重合体の製造方法で使用する本発明に係る重合開始剤は、上記本発明に係る有機過酸化物のみからなることが好ましいが、本発明に係る有機過酸化物以外の化合物を重合開始剤として含有していてもよい。本発明に係る有機過酸化物以外の化合物としては特に限定されず、例えば、パーオキシカーボネート、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド(ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド)等が挙げられる。
これらの化合物を重合開始剤として含有する場合、本発明に係る有機過酸化物100重量部に対して、好ましい下限は0.001重量部、好ましい上限50重量部である。0.001重量部未満であると、上記化合物を添加する効果を殆ど得ることができず、50重量部を超えると、本発明により製造したアクリル系重合体を用いた粘着剤層を有する粘着テープに、上記化合物に起因したVOCが発生することがある。
【0014】
本発明に係る重合開始剤を用いて重合を行うアクリル系モノマーとしては特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステルモノマーが好適に用いられる。
上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アルキル基の炭素数が1〜12の1級又は2級アルコールと、アクリル酸又はメタクリル酸とのエステルが好適に用いられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0015】
上記アルキル基の炭素数が1〜12の1級又は2級アルコールと、アクリル酸又はメタクリル酸とのエステルとしては、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0016】
本発明のアクリル系重合体の製造方法では、上記アクリル系モノマーと、該アクリル系モノマーと共重合可能な他のビニルモノマーとを共重合させてもよい。
上記ビニルモノマーは、本発明により製造されるアクリル系重合体を改質して凝集力を高めるために用いられるものであり、例えば、分子内に含有する官能基と外部架橋剤との架橋反応によりポリマー同士の網目形成に寄与するもの等が用いられる。
【0017】
分子内に含有する官能基と外部架橋剤との架橋反応によりポリマー同士の網目形成に寄与するビニルモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基含有モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、n−メチロールアクリルアミド等の水酸基含有モノマー;グリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー等が挙げられる。
【0018】
本発明のアクリル系重合体の製造方法において、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーとこれと共重合可能な他のビニルモノマーとを共重合体させる場合、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量は、モノマー組成中の好ましい下限は70重量%である。70重量%未満であると、得られるアクリル系重合体を粘着テープにした際に、粘着性能が低下することがある。
【0019】
また、上記他のビニルモノマーが分子内に含有する官能基と外部架橋剤との架橋反応によりポリマー同士の網目形成に寄与するものである場合、このようなビニルモノマーの含有量の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は10重量%である。0.01重量%未満であると、製造するアクリル系重合体の凝集力を充分に高めることができないことがあり、10重量%を超えると、得られるアクリル系重合体を粘着テープにした際に、粘着性能が低下することがある。より好ましい下限は0.05重量%、より好ましい上限は5重量%である。
【0020】
上記(メタ)アクリル系モノマー等のモノマーの重合方法としては特に限定されず、例えば、溶液重合(沸点重合、沸点未満重合)、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、リビング重合等の公知の重合方法を用いることができる。なかでも、界面活性剤や分散剤等を使用しない溶液重合が好ましい。
【0021】
上記(メタ)アクリル系モノマー等のモノマーの重合時に添加する本発明に係る重合開始剤の量としては特に限定されないが、好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は20重量%である。0.01重量%未満であると、上記モノマーの重合を充分に行うことができないことがあり、20重量%を超えると、本発明に係る重合開始剤やその残渣が不純物として製造するアクリル系重合体の反応世液中に残存することがある。より好ましい下限は0.1重量%であり、より好ましい上限は5重量%である。
【0022】
上記(メタ)アクリル系モノマー等のモノマーを重合する際には、重合条件として本発明に係る重合開始剤の10時間半減温度より高い反応温度に保ち、できる限り長時間反応を行うことが好ましい。この場合、反応時間の好ましい下限は5時間である。5時間以上とすることで、反応溶液中に本発明に係る重合開始剤やその残渣が揮発成分として残存することを防止することができる。
特に、反応終了時の反応温度tが重合開始剤の10時間半減温度Tに対して、T+35≧t≧Tとなるようにすることが好ましく、T+25≧t≧T+5となるようにすることがより好ましい。このようにすることで反応時にゲル等の異物が発生することを防止することができ、かつ、効率的に残存モノマーや開始剤残渣を低減させることが可能となる。
【0023】
上記(メタ)アクリル系モノマー等のモノマーを重合する際には、未反応モノマーを効率的に消費させるため、本発明に係る重合開始剤の未分解物濃度が、モノマー反応率が80%以下の状態で、投入モノマー100重量部に対して10−3〜10重量部に保持されることが好ましい。10−3重量部未満であると、本発明に係る重合開始剤の未分解物濃度が低すぎ、未反応モノマーが消費されず反応溶液中に残ることがあり、10重量部を超えると、本発明に係る重合開始剤の濃度が高すぎ、反応が暴走する危険性が高まる。
【0024】
本発明に係る重合開始剤の未分解物濃度を上記範囲に保持する方法としては、例えば、本発明に係る重合開始剤を反応初期から連続投入する方法や、複数回に分割して投入する方法等が挙げられる。これらの方法を用いることにより、効率的に未反応モノマーを消費することができ、重合後のアクリル系重合体の反応溶液中に残存する未反応モノマー(残留モノマー)、未反応重合開始剤(残留重合開始剤)及び他の不純物が少ないアクリル系重合体を得ることができる。
【0025】
このような本発明により製造したアクリル系重合体の反応溶液中には、未反応モノマー、未反応重合開始剤又は他の不純物は、殆ど残留しないが、更に未反応モノマー、未反応重合開始剤又は他の不純物を減少させるために、重合時又は重合終了後、必要に応じて残留モノマー、残留重合開始剤、他の不純物を除去する操作を施すことが好ましい。
【0026】
上記重合段階で残留モノマーを低減する具体的な手段としては、例えば、重合終期に、還流溶媒中の残存モノマーを分離・除去する方法;アクリル系モノマーやビニルモノマーと反応し揮発除去され易い低沸点のスキャベンジャーモノマーを重合中に添加する方法等が挙げられる。
【0027】
また、重合系から残留モノマーを除去する方法としては、例えば、重合溶媒の還流液を新鮮な溶媒で置換する方法;重合開始時及び重合中に酢酸ビニル、ビニルブチルエーテル、アクリル酸メチル、スチレン等の比較的低沸点のスキャベンジャーモノマーを添加し、スキャベンジャーとともに除去する方法;重合終了時に、アクリル系重合体に対する貧溶媒、例えば、メタノール、エタノール、n−ヘキサン、n−へプタン等の低沸点溶媒を用いてアクリル系重合体を洗浄する方法等が挙げられる。
【0028】
本発明のアクリル系重合体の製造方法では、上記方法を単独又は2つ以上併用することで、反応終了時における残存モノマー濃度及び残留重合開始剤濃度を、いずれも500ppm以下にすることが好ましい。反応終了時における残存モノマー濃度及び残存重合開始剤濃度が500ppmを超えると、本発明により製造されるアクリル系重合体を用いてなる粘着テープからVOCが発生してしまうことがある。
【0029】
本発明のアクリル系重合体の製造方法では、上記モノマーの重合時に上記一般式(1)に示す構造の有機過酸化物を有する重合開始剤を用いる。上記有機過酸化物は、1次分解によりR部分を含むラジカルを生成し、該ラジカルは、更に分解して上記R部分からなる炭化水素ラジカルとアセトンとが生成する。この生成した炭化水素ラジカルは、モノマー重合時に取り込まれるか、溶剤から水素を引き抜き炭化水素となる。モノマー重合時に取り込まれた場合は、本発明により製造されるアクリル系重合体の反応溶液中に不純物として残留することがなく、また、炭化水素になった場合は、その生成物は沸点が低くなり、乾燥によって容易に除去される。更に、上記アセトンも、乾燥によって容易に除去される。また、上記有機過酸化物は、1次分解によりR’部分を含むラジカルを生成し、該ラジカルは、更に分解して上記R’部分からなる炭化水素ラジカルと二酸化炭素とを生成するが、生成した炭化水素ラジカルは、低沸点であるため乾燥によって容易に除去される。
従って、本発明のアクリル系重合体の製造方法により製造するアクリル系重合体は、その反応溶液中に上記一般式(1)で表される有機過酸化物の分解生成物が殆ど残存しておらず、製造したアクリル系重合体を用いてなる粘着テープは、上記有機過酸化物の分解生成物に起因したVOCの発生を抑制することができる。
【0030】
下記一般式(1)で表される有機過酸化物を有する重合開始剤を用いて製造されてなるアクリル系重合体であって、反応終了時における残留モノマー濃度及び残留重合開始剤濃度が、いずれも500ppm以下であるアクリル系重合体もまた、本発明の1つである。
【0031】
【化2】

一般式(1)中、Rは、炭素数2〜7の炭化水素を表し、R’は、炭素数1〜7の炭化水素又は酸素原子を有する炭素数1〜7の炭化水素を表す。
【0032】
本発明のアクリル系重合体において、上記一般式(1)で表される有機過酸化物は、上述した本発明のアクリル系重合体の製造方法における有機過酸化物と同様のものが挙げられる。
【0033】
本発明のアクリル系重合体は、アルキル部分の炭素数が1〜12であるアルキル(メタ)アクリレートを有するモノマー成分と、上記一般式(1)で表される有機過酸化物を有する重合開始剤とを用いて製造されてなることが好ましい。このような本発明のアクリル系重合体は、粘着テープの粘着剤層を構成する材料として好適に用いることができる。
【0034】
上記アルキル部分の炭素数が1〜12であるアルキル(メタ)アクリレートとしては特に限定されず、上述した本発明のアクリル系重合体の製造方法において説明したアルキル基の炭素数が1〜12の1級又は2級アルコールと、アクリル酸又はメタクリル酸とのエステルが挙げられる。
【0035】
このような本発明のアクリル系重合体は、上述した本発明のアクリル系重合体の製造方法により好適に製造することができる。
【0036】
上記アルキル部分の炭素数が1〜12であるアルキル(メタ)アクリレートを有するモノマー成分と、上記一般式(1)で表される有機過酸化物を有する重合開始剤とを用いて製造されてなる本発明のアクリル系重合体と、粘着付与樹脂とを含有するアクリル系粘着組成物であって、前記粘着付与樹脂は、重量平均分子量が600以下の成分の含有量が13重量%以下であり、かつ、0.1〜50重量%含有されているアクリル系粘着組成物もまた、本発明の1つである。
【0037】
本発明のアクリル系粘着組成物は、アクリル系重合体と、粘着付与樹脂とを含有する。
上記アクリル系重合体は、上述した本発明のアクリル系重合体であって、アルキル部分の炭素数が1〜12であるアルキル(メタ)アクリレートと、上記一般式(1)で表される有機過酸化物を有する重合開始剤とを用いて製造されてなるものである。
【0038】
上記粘着付与剤は、本発明のアクリル系粘着組成物の粘着力や耐剥離性等の粘着物性を改善する役割を果たし、このような粘着付与剤としては、重量平均分子量600以下の成分の含有量が13重量%以下である。このような粘着付与剤を用いれば、本発明のアクリル系粘着組成物の粘着物性を損なうことなく粘着付与剤より発生する揮発成分を低く抑え、粘着物性を改善し、かつ、本発明のアクリル系粘着組成物を用いてなる粘着テープから発生するVOCを抑制することができる。なお、上記粘着付与剤の重量平均分子量及びその含有量は、GPCにより測定し、ポリスチレン換算値及び面積比により算出できる。
【0039】
上記粘着付与剤としては、例えば、ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、不均化ロジンエステル樹脂類、重合ロジンエステル樹脂、水添ロジン樹脂、水添ロジンエステル樹脂類、テルペンフェノール樹脂類、クマロンインデン樹脂、アルキルフェノール樹脂、石油樹脂類等が挙げられる。なかでも、不均化ロジンエステル樹脂類、重合ロジンエステル樹脂、石油樹脂類に位置する脂環族飽和炭化水素樹脂等は、低分子量成分を除去可能であることから好適である。特に、ポリプロピレン樹脂等の難被着体に対しても粘着力が強く耐剥離性に優れる点で、重合ロジンエステル樹脂がより好ましい。
【0040】
上記粘着付与剤から分子量600以下の成分を除去する方法としては、例えば、粘着付与剤を軟化点以上に加熱溶融する方法、水蒸気を吹き込む方法等が挙げられる。
上記粘着付与剤を加熱溶融する方法においては、空気中の酸素との酸化反応を防ぐために、窒素、ヘリウム等の不活性ガス中で加熱することが好ましい。また、加熱時間は、加熱による粘着付与剤の分解を避けるために1〜5時間程度が好ましい。
上記水蒸気を吹き込む方法においては、粘着付与剤を加熱溶融後に1〜50kPa程度に減圧してから水蒸気を吹き込むと、揮発性成分の低減、臭気の低減が達成される。水蒸気を吹き込む時間としては、1〜5時間程度が好ましい。1時間未満であると、大きな揮発性ガスの低減と、それに伴う臭気の低減効果が少なく、5時間を超えて処理しても処理効果はあまり変わらない。
【0041】
本発明のアクリル系粘着組成物において、上記粘着付与剤の含有量の下限は0.1重量%、上限は50重量%である。0.1重量%未満であると、本発明のアクリル系粘着組成物の粘着物性の改善が不充分となり、50重量%を超えると、本発明のアクリル系粘着組成物を用いてなる粘着テープに上記粘着付与剤に起因したVOCが発生してしまう。好ましい下限は5重量%、好ましい上限は30重量%である。
【0042】
このような粘着付与剤を含有する本発明のアクリル系粘着組成物は、粘着テープの粘着剤層に用いたときに、発生するVOCの量を少なくすることができ、具体的には、上記粘着テープを90℃、30分間加熱したときに放出される、下記式(1)で表される揮発成分濃度(A)を300ppm以下に、120℃、30分間加熱したときに放出される、下記式(2)で表される揮発成分濃度(B)を400ppm以下にそれぞれ抑えることができ、更に、乾燥で除去が困難な高沸点成分である保持時間30分以上の揮発成分量を50ppm以下にすることができる。
【0043】
【数1】

但し、式(1)中、揮発成分量Xは、トルエン換算量を表す。
【0044】
【数2】

但し、式(2)中、揮発成分量Yは、n−ヘキサデカン換算量を表す。
【0045】
本発明のアクリル系粘着組成物は、架橋剤を含有していてもよい。架橋剤を含有することにより、アクリル系重合体又は粘着付与剤中に導入された官能基と反応し、アクリル系重合体同士又はアクリル系重合体と粘着付与剤との架橋構造が形成され、凝集力が高められる。
上記架橋剤としては特に限定されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート型架橋剤等が挙げられる。
【0046】
本発明のアクリル系粘着組成物が上記架橋剤を含有する場合、その含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は10重量%である。0.1重量%未満であると、上述したアクリル系重合体同士等を架橋する効果を殆ど得ることができず、10重量%を超えると、本発明のアクリル系粘着組成物を用いてなる粘着テープから上記架橋剤に起因したVOCが発生することがある。より好ましい下限は0.5重量%、より好ましい上限は3重量%である。
【0047】
また、本発明のアクリル系粘着組成物は、必要に応じて、可塑剤、乳化剤、軟化剤、充填剤、顔料、染料等の添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤も上記粘着付与剤と同様に適宜揮発成分を可能な限り除去していることが好ましい。
【0048】
本発明のアクリル系粘着組成物は、上述した本発明のアクリル系重合体の製造方法により製造されるアクリル系重合体と、上述した粘着性付与剤とを有するものである。従って、本発明のアクリル系粘着組成物は、粘着テープの粘着剤層に用いた場合、上記アクリル系重合体の製造過程において使用した有機過酸化物に起因したVOCの発生、及び、上記粘着性付与剤に起因したVOCの発生を、いずれも好適に抑制することができる。
【0049】
本発明のアクリル系粘着組成物は、粘着テープの粘着剤層として好適である。本発明のアクリル系粘着組成物からなる粘着剤層を有する粘着テープは、車両、住宅内及び電子機器内部等のVOCの発生が問題となるものに利用される部材の接着固定に好ましく用いることができる。このような本発明のアクリル系粘着組成物を含有する粘着剤層を有する粘着テープもまた、本発明の1つである。
【0050】
本発明の粘着テープは、上述した本発明のアクリル系粘着組成物からなる粘着剤層のみから構成されていてもよいし、基材の片面又は両面に上記粘着剤層が積層されているものであってもよい。
【0051】
上記基材としては特に限定されず、例えば、紙、不織布や、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリクロロプレン、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等からなるシート状成形体が挙げられる。また、上記基材としては、発泡処理を行ったものを用いてもよい。これらの基材も、発生するVOCの量を低減させるために、予め精製された材料により構成され、又は、揮発成分の除去がされていることが好ましい。
【0052】
本発明の粘着テープの製造方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、基材上に直接粘着剤層を形成する方法;離型処理された工程紙上に一旦粘着剤層を形成し、該工程紙上の粘着剤層を基材に転写する方法等が挙げられる。
【0053】
上記粘着剤層を形成する方法としては、例えば、本発明のアクリル系粘着組成物を基材又は工程紙上に所定の厚さで塗布した後に、溶剤を乾燥させる方法が挙げられる。上記溶剤を乾燥させる際には、基材や工程紙が発泡しない範囲内においてできるだけ乾燥温度を高める方法、乾燥炉内における滞留時間を長くする方法、乾燥炉内を負圧に設定する方法、乾燥風量を大きくする方法等を行うことにより、本発明の粘着テープに残留する揮発成分量を更に低減することができる。これらの方法は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
また、本発明の粘着テープを養生保管する際においても、養生温度の調節、養生雰囲気の減圧等により、粘着剤層に含まれる揮発成分を減少させ、発生するVOCの量を低減することができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明のアクリル系重合体の製造方法は、上記一般式(1)で表される構造の有機過酸化物を有する重合開始剤を用いる。該有機過酸化物は、1次分解によりR部分を含むラジカルを生成し、該ラジカルは、更に分解して上記R部分からなる炭化水素ラジカルとアセトンとが生成される。この生成した炭化水素ラジカルは、モノマー重合時に取り込まれるか、溶剤から水素を引き抜き炭化水素となる。モノマー重合時に取り込まれた場合は、本発明により製造されるアクリル系重合体の反応溶液中に不純物として残留することがなく、また、炭化水素になった場合は、その生成物は沸点が低くなり、乾燥によって容易に除去される。更に、上記アセトンも、乾燥によって容易に除去される。また、上記有機過酸化物は、1次分解によりR’部分を含むラジカルを生成し、該ラジカルは、更に分解して上記R’部分からなる炭化水素ラジカルと二酸化炭素とを生成するが、生成した炭化水素ラジカルは、低沸点であるため乾燥によって容易に除去される。
従って、上記有機過酸化物を有する重合開始剤を用いる本発明のアクリル系重合体の製造方法によると、製造するアクリル系重合体中に、上記有機過酸化物の分解生成物に起因するVOCの発生を抑制することができる。
すなわち、本発明によると、有機過酸化物を重合開始剤として用いたアクリル系重合体の製造において、粘着テープとしたときにVOCの原因となる重合開始剤の分解生成物を殆ど生成せず、得られたアクリル系重合体を用いてなる粘着剤層を有する粘着テープから発生するVOC量及び臭気を低減することができるアクリル系重合体の製造方法、アクリル系重合体、アクリル系粘着組成物及び粘着テープを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器にて、n−ブチルアクリレート79g、2−エチルヘキシルアクリレート18g、アクリル酸3g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.1g、及び、ドデカンチオール0.05gからなるモノマー混合物を、酢酸エチル82gに半分溶解し、還流点において、重合開始剤としてパーオキシエステル(t−ヘキシルパーオキシピバレート、10時間半減温度:50℃)0.68gを重合開始時〜7時間に適宜加え、残り半分のモノマー混合物を反応開始後1.0〜2.5時間の間に滴下してアクリルモノマーを重合させた。残留モノマーを低減した後、更なる残留モノマー低減、及び、残留開始剤低減のため、10時間反応させた(重合終期)。なお、反応終了時の反応温度は75℃であった。得られた溶液を冷却し、アクリル系重合体溶液を得た。
【0057】
(実施例2)
パーオキシエステル(t−ヘキシルパーオキシピバレート、10時間半減温度:50℃)に代えて、パーオキシエステル(1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシピバレート、10時間半減温度:45℃)を用いた以外は、実施例1と同様にしてアクリル系重合体を得た。なお、反応終了時の反応温度は75℃であった。
【0058】
(実施例3)
パーオキシエステル(t−ヘキシルパーオキシピバレート、10時間半減温度:50℃)に代えて、パーオキシエステル(1,1,3,3−テトラメチルヘキシルパーオキシピバレート、10時間半減温度:40℃)を用いた以外は、実施例1と同様にしてアクリル系重合体を得た。なお、反応終了時の反応温度は75℃であった。
【0059】
(実施例4)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器にて、n−ブチルアクリレート79g、2−エチルヘキシルアクリレート18g、アクリル酸3g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.1g、ドデカンチオール0.05gからなるモノマー混合物を、酢酸エチル82gに半分溶解し、還流点において、重合開始剤としてパーオキシエステル(t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、10時間半減温度:70℃)0.03gを重合開始時に加え、更にパーオキシエステル(t−ヘキシルパーオキシピバレート、10時間半減温度:50℃)1.47gを1〜7時間に適宜加え、残り半分のモノマー混合物を反応開始後1.0〜2.5時間の間に滴下して、アクリルモノマーを重合させた。残留モノマーを低減した後、更なる残留モノマー低減、及び、残留開始剤低減のため、10時間反応させた(重合終期)。なお、反応終了時の反応温度は75℃であった。得られた溶液を冷却し、アクリル系重合体溶液を得た。
【0060】
(実施例5)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器にて、n−ブチルアクリレート79g、2−エチルヘキシルアクリレート18g、アクリル酸3g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.1g、ドデカンチオール0.05g、及び、酢酸ビニルモノマー5gからなるモノマー混合物を、酢酸エチル82gに半分溶解し、還流点において、重合開始剤としてパーオキシエステル(t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、10時間半減温度:70℃)0.03gを重合開始時に加え、更にパーオキシエステル(t−ヘキシルパーオキシピバレート、10時間半減温度:50℃)0.97gを、1〜7時間に適宜加え、残り半分のモノマー混合物を反応開始後1.0〜2.5時間の間に滴下して、アクリルモノマーを重合させた。残留モノマーを低減した後、更なる残留モノマー低減、及び、残留開始剤低減のため、10時間反応させた(重合終期)。なお、反応終了時の反応温度は75℃であった。得られた溶液を冷却し、アクリル系重合体溶液を得た。
【0061】
(実施例6)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器にて、n−ブチルアクリレート79g、2−エチルヘキシルアクリレート18g、アクリル酸3g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.1g、ドデカンチオール0.05g、及び、酢酸ビニルモノマー5gからなるモノマー混合物を、酢酸エチル82gに溶解し、還流点において、重合開始剤としてパーオキシケタール(ジ(t−ヘキシルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、10時間半減温度:90℃)0.01gを重合開始時に加え、パーオキシエステル(t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、10時間半減温度:70℃)0.01gを0.5時間に加え、更に、パーオキシエステル(t−ヘキシルパーオキシピバレート、10時間半減温度:50℃)0.78gを1〜4.5時間に適宜加え、アクリルモノマーを重合させた。残留モノマーを低減した後、更なる残留モノマー低減、及び、残留開始剤低減のため、6.5時間反応させた(重合終期)。なお、反応終了時の反応温度は75℃であった。得られた溶液を冷却し、アクリル系重合体溶液を得た。
【0062】
(比較例1)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器にて、n−ブチルアクリレート79g、2−エチルヘキシルアクリレート18g、アクリル酸3g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.1g、及び、ドデカンチオール0.05g、及び、酢酸ビニルモノマー5gからなるモノマー混合物を、酢酸エチル82gに溶解し、還流点において、重合開始剤としてパーオキシケタール(1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、10時間半減温度:90℃)0.04gを重合開始時〜1時間に適宜加え、更にジアシルパーオキサイド(ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、10時間半減温度:60℃)1.16gを1.5〜7時間に適宜加え、アクリルモノマーを重合させた。残留モノマーを低減した後、更なる残留モノマー低減、及び、残留開始剤低減のため10時間反応させた(重合終期)。なお、反応終了時の反応温度は75℃であった。得られた溶液を冷却し、アクリル系重合体溶液を得た。
【0063】
(比較例2)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器にて、n−ブチルアクリレート79g、2−エチルヘキシルアクリレート18g、アクリル酸3g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.1g、及び、ドデカンチオール0.05gからなるモノマー混合物をトルエン82gに溶解し、還流点において、重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド(10時間半減温度:74℃)0.53gを重合開始時〜1時間に適宜加え、更に重合開始から1時間後に酢酸ビニルモノマー7gを投入しアクリルモノマーを重合させた。残留モノマーを低減した後、更なる残留モノマー低減、及び、残留開始剤低減のため3.25時間反応させた(重合終期)。なお、反応終了時の反応温度は75℃であった。得られた溶液を冷却し、アクリル系重合体溶液を得た。
【0064】
(粘着テープの作製)
実施例1〜6及び比較例1、2で作製したアクリル系重合体100gに、官能性イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製、コロネートL(有効成分55%))1.2〜2.0gを加え均一になるよう再度攪拌してアクリル系粘着組成物を得た。得られたアクリル系粘着組成物を厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなるセパレータの片面に、乾燥後の厚みが60μmになるように塗布し、100℃で3分間溶剤を完全に乾燥除去し、不織布を挟み、粘着テープを作製した。
なお、官能性イソシアネート系架橋剤の添加量は、実施例1、2及び比較例1、2では1.2g;実施例3、5、6では1.4g;実施例4では2.0gとした。
【0065】
(実施例7〜9、比較例3、4)
表2に示す組み合わせのベースアクリル系重合体及び粘着付与樹脂を用いて粘着テープを作製した。即ち、表2に示すベースアクリル系重合体100gに対して、表2に示す粘着付与樹脂20g(固形分比)を添加して混合することにより、アクリル系粘着剤を作製した。これに官能性イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製、コロネートL(有効成分55%))1.2〜2.0gを加え均一になるよう再度攪拌してアクリル系粘着組成物を得た。得られたアクリル系粘着組成物を厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなるセパレータの片面に、乾燥後の厚みが60μmになるように塗布し、100℃で3分間溶剤を完全に乾燥除去し、不織布を挟み、粘着テープを作製した。
なお、官能性イソシアネート系架橋剤の添加量は、実施例7及び比較例3、4では2.0g;実施例8では1.4g;実施例9では1.2gとした。
【0066】
(比較例5)
粘着テープの作製において、乾燥条件を120℃、30分間とした以外は比較例4と同様にして粘着テープを作成した。
【0067】
実施例1〜6及び比較例1、2で作製したアクリル系重合体を用いて調製したアクリル系粘着組成物について、以下の方法により残留モノマー量、残留開始剤量を評価し、更に作製した粘着テープについて揮発成分濃度(TVOC)、臭気及び粘着性能を評価した。結果を表1に示した。
また、実施例7〜9及び比較例3〜5で作成した粘着テープについても、以下の方法により揮発成分濃度、臭気及び粘着性能を評価した。結果を表2に示した。
【0068】
(残留モノマー量評価)
メスフラスコに秤量したアクリル系重合体溶液を酢酸エチルセルソルブが0.03%入ったアセトン溶液で溶解し、GC装置(GC−17A、島津製作所社製)を用いて測定し、ピーク比からアクリル系粘着組成物中の残留モノマー濃度を測定した。
【0069】
(残留開始剤量評価)
重合時における反応温度を測定し、有機過酸化物の分解性データ(温度における半減期時間データ)により、開始剤投入経過時間、反応温度から、アクリル系重合体溶液中の残留開始剤濃度を算出した。
【0070】
(揮発成分濃度の測定)
熱脱着装置(パーキンエルマー社製「ATD−400」)を用い、秤量した粘着テープを90℃で30分間加熱したとき、及び、120℃で30分間加熱したときに放出された揮発成分量を、GC−MS装置(日本電子社製、「AutomassII−15」)を用いることにより揮発成分量を測定し、下記式(1)及び(2)により揮発成分濃度を算出した。
なお、GC−MS測定には、無極性のキャピラリーカラム(アジレントテクノロジー社製「HP−1」:0.32mm×60m×0.25μm)を使用し、120℃で30分間加熱を行い、加熱により揮発してきた成分をカラムに通し、カラムの温度を50℃で2分維持した後、毎分25℃で160℃まで昇温して、毎分10℃の昇温速度で300℃まで昇温し、20分保持し、その揮発成分を測定し、下記式(2)により、揮発成分濃度を算出した。
MS測定範囲は30〜400amu、He流量は1.5mL/min、イオン化電圧は70eV、イオン源は230℃、インターフェイスは250℃、トランスファーラインは225℃とした。
なお、90℃30分間加熱した場合については、保持時間30分以降(具体的には30分〜40分)の揮発成分濃度についても同様にして測定した。
【0071】
【数3】

但し、式(1)中、揮発成分量Xは、トルエン換算量を表す。
【0072】
【数4】

但し、式(2)中、揮発成分量Yは、n−ヘキサデカン換算量を表す。
【0073】
(臭気の測定)
VDA270に準じ、以下の方法で臭気の評価を行った。1Lのガラス瓶中に50cmの粘着テープを封入し、40℃の雰囲気下で24時間経過後、取り出してすぐの臭気を下記の6点法で評価した。評価に際しては、3人以上のパネラーがそれぞれ粘着テープを評価し、その平均値を求めた。
1:知覚できない
2:知覚できるが、不快ではない
3:はっきりと知覚できるが、それほど不快ではない
4:不快
5:とても不快
6:我慢できない
【0074】
(粘着性能の測定)
(1)対ポリプロピレン板粘着力
JIS Z 0237に準拠した方法により、ポリプロピレン板に対する粘着力を測定した。具体的には、23℃、65%RH雰囲気下において、厚さ23μmのポリエステルフィルムをバッキング材として貼り付けた幅25mmの粘着テープをポリプロピレン板に貼り合わせ、重さ2kgのローラーで1往復させて圧着した後、23℃、65%RHで24時間放置した。その後、23℃の雰囲気下で引っ張り試験機を用いて、300mm/分の引っ張り速度で引っ張ることにより、180度剥離力を測定した。
【0075】
(2)対ポリプロピレン板定加重剥離
「(1)対ポリプロピレン板粘着力」と同様にして、貼り付け部分の長さが100mmとなるように粘着テープをポリプロピレン板に貼り合わせた後、50℃のオーブン中にて粘着テープの一端に100gの錘を剥離角度が90度となるようにぶら下げた。そして、50℃で5時間放置した後の剥離長さを測定した。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、有機過酸化物を重合開始剤として用いたアクリル系重合体の製造において、粘着テープとしたときにVOCの原因となる重合開始剤の分解生成物を殆ど生成せず、得られたアクリル系重合体を用いてなる粘着剤層を有する粘着テープから発生するVOC量及び臭気を低減することができるアクリル系重合体の製造方法、アクリル系重合体、アクリル系粘着組成物及び粘着テープを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される有機過酸化物を有する重合開始剤を用いることを特徴とするアクリル系重合体の製造方法。
【化1】

一般式(1)中、Rは、炭素数2〜7の炭化水素を表し、R’は、炭素数1〜7の炭化水素又は酸素原子を有する炭素数1〜7の炭化水素を表す。
【請求項2】
下記一般式(1)で表される有機過酸化物を有する重合開始剤を用いて製造されてなるアクリル系重合体であって、反応終了時における残留モノマー濃度及び残留重合開始剤濃度が、いずれも500ppm以下であることを特徴とするアクリル系重合体。
【化2】

一般式(1)中、Rは、炭素数2〜7の炭化水素を表し、R’は、炭素数1〜7の炭化水素又は酸素原子を有する炭素数1〜7の炭化水素を表す。
【請求項3】
アルキル部分の炭素数が1〜12であるアルキル(メタ)アクリートを有するモノマー成分と、一般式(1)で表される有機過酸化物を有する重合開始剤とを用いて製造されてなることを特徴とする請求項2記載のアクリル系重合体。
【請求項4】
請求項3記載のアクリル系重合体と、粘着付与樹脂とを含有するアクリル系粘着組成物であって、
前記粘着付与樹脂は、重量平均分子量が600以下の成分の含有量が13重量%以下であり、かつ、0.1〜50重量%含有されている
ことを特徴とするアクリル系粘着組成物。
【請求項5】
請求項4記載のアクリル系粘着組成物を含有する粘着剤層を有することを特徴とする粘着テープ。

【公開番号】特開2007−131838(P2007−131838A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275739(P2006−275739)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】