説明

アサーマルAWGモジュール

【課題】より高い信頼性を有するアサーマルAWGモジュールを提供する。
【解決手段】アサーマルAWGモジュール10は、AWG11の導波路の一部を切断して分離し、分離された2つのチップを補償板33により連結したアサーマルAWGチップ12と、開口部14を有しアサーマルAWGチップ12を収容するパッケージ13と、開口部14を塞ぐ蓋15とを備える。AWG11の導波路の切断部と補償板33を覆い、AWG11の導波路と屈折率が整合した第1のマッチングゲル51と、マッチングゲル51を覆う第2のマッチングゲル52とを備える。針入度が高くかつ密着性に優れた第1のマッチングゲル51により導波路の切断部と補償板33を覆っているので、補償板33の柔軟な動きが可能になる。透湿度が低い第2のマッチングゲル52により第1のマッチングゲル51を覆っているので、高湿下での信頼性を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば波長多重光通信において光合分波器として用いられるアサーマル化(温度無依存化)を図ったアサーマルAWGモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光合分波器(合波器/分波器)の役割を担うアレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)型光合分波器では、石英系ガラスの屈折率が温度により変化するために、中心波長に温度依存性がある。その温度依存性をキャンセルするために、補償板を用いた構成のアサーマルAWGが提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。このアサーマルAWGでは、2つのスラブ導波路の一方が光の経路と交わる交差分離面によって切断され、分離された2つのチップが補償板により連結されている。このアサーマルAWGでは、温度が変化すると、補償板の伸縮により、2つのチップの一方がその他方に対して、交差分離面に沿ってスライドすることで、温度依存性がキャンセルされる。 このようなアサーマルAWGにおいては、導波路の一部(2つのスラブ導波路の一方)が切断されているために、その切断部に導波路の屈折率と整合したマッチングオイルを充填する方法が用いられている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4216088号公報
【特許文献2】特開2006−284632号公報
【特許文献3】特開2001−188141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来のアサーマルAWG(チップ)をパッケージに収容してアサーマルAWGモジュールを高温高湿下(例えば85℃/85%)で使用した場合、補償板をチップに固定する接着剤の劣化により、中心波長が変動してしまうといった問題があった。さらに、導波路の一部(2つのスラブ導波路の一方)の切断部にマッチングオイルを充填した場合は、そのオイルが漏れないようにパッケージに工夫を施さなければならなかった。これらの問題を解決するために、パッケージの開口部を塞ぐ蓋を溶接によりパッケージに固定するハーメチック構造を採用することが考えられるが、コストが高くなるなどの問題がある。
【0005】
低コストでアサーマルAWGモジュールを作製するために、マッチングオイルに代えて、導波路の屈折率と整合したマッチングゲルを、導波路の切断部と補償板を覆うように充填することが考えられる。しかし、マッチングゲルは、高湿下での信頼性を確保するための透湿度の低さ(耐湿性)と、補償板の動きを柔軟に許容しAWGとの密着性を上げる針入度の高さとがトレードオフの関係になっている。このため、単一のマッチングゲルでは、それら2つの性質(透湿度の低さと針入度の高さ)を共に最良のものにすることが出来ないといった問題が生じている。つまり、それら2つの性質のバランスの取れたマッチングゲルを選定するのが難しいといった問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みて為されたもので、その目的は、高温高湿下で使用した場合においても高い信頼性を有するアサーマルAWGモジュールを低コストで実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るアサーマルAWGモジュールは、AWGの導波路の一部を切断して分離し、分離されたチップを補償板により連結したアサーマルAWGチップと、開口部を有し前記アサーマルAWGチップを収容するパッケージと、前記開口部を塞ぐ蓋と、少なくとも前記導波路の切断部と前記補償板を覆い、前記導波路と屈折率が整合した第1のマッチングゲルと、前記第1のマッチングゲルを覆う第2のマッチングゲルと、を備えることを特徴とする。
本発明の他の態様に係るアサーマルAWGモジュールは、前記第2のマッチングゲルが、前記第1のマッチングゲルよりも透湿度が低いゲルであることを特徴とする
【0008】
本発明の他の態様に係るアサーマルAWGモジュールは、前記AWGは、少なくとも1本以上の入力導波路と、該入力導波路に接続された入力スラブ導波路と、複数本の出力導波路と、該出力導波路が接続された出力スラブ導波路と、前記入力スラブ導波路と前記出力スラブ導波路との間にそれぞれ接続されたM本のチャネル導波路からなるアレイ導波路と、を備え、前記入力スラブ導波路及び前記出力スラブ導波路の一方が、スラブ導波路を通る光の経路と交わる交差分離面によって2つの導波路チップに分離され、該2つの導波路チップが前記補償板により連結され、温度が変化すると、前記補償板の伸縮により、前記2つの導波路チップの一方がその他方に対して、移動可能であることを特徴とする。
【0009】
本発明の他の態様に係るアサーマルAWGモジュールは、 前記第1のマッチングゲルは、硬化後の針入度が、120以上のシリコーンゲルであり、前記第2のマッチングゲルは、硬化後の透湿度が、温度85℃、湿度85%の環境下で0.0001g/mm2・24h以下のシリコーンゲルであることを特徴とする。
【0010】
本発明の他の態様に係るアサーマルAWGモジュールは、前記第2のマッチングゲルは、前記第1のマッチングゲルよりも針入度が低いシリコーンゲルであることを特徴とする。
【0011】
本発明の他の態様に係るアサーマルAWGモジュールは、前記第1のマッチングゲルは前記導波路の切断部と前記補償板を覆い、前記第2のマッチングゲルは、前記第1のマッチングゲル全体を覆うように前記アサーマルAWGチップ全体を覆っていることを特徴とする。
【0012】
本発明の他の態様に係るアサーマルAWGモジュールは、前記第1のマッチングゲルは前記導波路の切断部と前記補償板を覆い、前記第2のマッチングゲルは、前記第1のマッチングゲル全体を覆うように前記パッケージ内部全体に充填されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の他の態様に係るアサーマルAWGモジュールは、前記第1のマッチングゲルは前記補償板および前記アサーマルAWGチップ全体を覆い、前記第2のマッチングゲルは、前記第1のマッチングゲル全体を覆っていることを特徴とする。
【0014】
本発明の他の態様に係るアサーマルAWGモジュールは、前記第1のマッチングゲルは前記補償板および前記アサーマルAWGチップ全体を覆い、前記第2のマッチングゲルは、前記第1のマッチングゲル全体を覆うように前記パッケージ内部全体に充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い信頼性を有するアサーマルAWGモジュールを低コストで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態に係るアサーマルAWGモジュールの内部構造を示す平面図、(b)は図1(a)のA−A線に沿った断面図、(c)は図1(a)のB−B線に沿った断面図である。
【図2】第1実施形態に係るアサーマルAWGモジュールに用いるアサーマルAWGチップを示す平面図である。
【図3】図2に示すアサーマルAWGチップを左側から見た側面図である。
【図4】第1実施形態に係るアサーマルAWGモジュールの蓋を示す平面図である。
【図5】(a)は本発明の第2実施形態に係るアサーマルAWGの内部構造を示す平面図、(b)は図5(a)のC−C線に沿った断面図である。
【図6】(a)は本発明の第3実施形態に係るアサーマルAWGモジュールの内部構造を示す平面図、(b)は図6(a)のD−D線に沿った断面図、(c)は図6(a)のE−E線に沿った断面図である。
【図7】プレッシャークッカ試験の結果を示すグラフで、中心波長変化を示すグラフである。
【図8】プレッシャークッカ試験の結果を示すグラフで、挿入損失変化を示すグラフである。
【図9】ヒートショック試験の結果を示すグラフで、中心波長変化を示すグラフである。
【図10】ヒートショック試験の結果を示すグラフで、挿入損失変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態の説明において同様の部位には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係るアサーマルAWGモジュール10を図1乃至図4に基づいて説明する。
図1(a)は、第1実施形態に係るアサーマルAWGモジュール10の内部構造を示している。このアサーマルAWGモジュール10は、アサーマルAWGチップ12と、開口部14を有しアサーマルAWGチップ12を収容するパッケージ13と、開口部14を塞ぐ蓋15(図4)とを備える。アサーマルAWGチップ12は、アレイ導波路回折格子(AWG)11の導波路の一部を切断して分離され、分離された2つのチップが補償板33により連結されている。
【0018】
アサーマルAWGチップ(以下、AWGチップという。)12は、例えばシリコンなどの基板上に石英系ガラスの導波路を形成することにより得られる。AWGチップ12のAWG11は、図2および図3に示すように、1本の入力導波路20と、該入力導波路20に接続された入力スラブ導波路21と、複数本の出力導波路24と、該出力導波路24が接続された出力スラブ導波路23と、入力スラブ導波路21と出力スラブ導波路23との間にそれぞれ接続されたM本のチャネル導波路22aからなるアレイ導波路22と、を備える。入力導波路20は、2本以上の入力導波路を含む構成であっても良い。
【0019】
AWGチップ12では、入力スラブ導波路21が、このスラブ導波路を通る光の経路と交わる交差分離面30によって2つの導波路チップ(第1の導波路チップ12aおよび第2の導波路チップ12b)に分離されている。交差分離面30はAWGチップ12の一端側(図2の上端側)からAWGチップ12の途中部にかけて設けられている。この交差分離面30に連通させて、入力スラブ導波路21と交差しない非交差分離面31が形成されている。非交差分離面31は交差分離面30と直交して設けられている。なお、非交差分離面31は交差分離面30と直交しなくてもよい。
【0020】
また、AWGチップ12は、図2に示すように、交差分離面30と非交差分離面31とによって、分離スラブ導波路21aを含む第1の導波路チップ12aと、分離スラブ導波路21bを含む第2の導波路チップ12bとの2つに分離されている。第1の導波路チップ12aと第2の導波路チップ12bとが補償板33により連結されている。この補償板33は、図3に示す接着箇所41,42で第1の導波路チップ12a,第2の導波路チップ12bの表面上にそれぞれ接着剤により固定されている。その補償板33には、例えばアルミニウム合金1080を用いている。
【0021】
このAWGチップ12では、温度が変化すると、補償板33の伸縮により、第1の導波路チップ12aが第2の導波路チップ12bに対して、交差分離面30に沿ってスライドすることで、温度依存性がキャンセルされる。つまり、温度が変化すると入力スラブ導波路20による集光位置は変化するが、補償板33の伸縮によって第1の導波路チップ12aを第2の導波路チップ12bに対して移動させ、集光位置の変化をキャンセルすることができる。このため、温度が変化しても、同一の光入力導波路20或いは同一の光出力導波路24から同一の波長の光を取り出すことができる。これが温度無依存化を図ったアサーマルAWG11の原理である。
【0022】
さらに、アサーマルAWGモジュール10は、図1(a)乃至(c)に示すように、AWG11の導波路の切断部(図2に示す切断分離面30)と補償板33を覆う、AWG11の導波路と屈折率が整合した第1のマッチングゲル51と、第1のマッチングゲル51を覆う第2のマッチングゲル52と、を備える。
本実施形態のアサーマルAWGモジュール10では、図1(a)乃至(c)に示すように、第1のマッチングゲル51はAWG11の導波路の切断部である切断分離面30と補償板33を覆い、第2のマッチングゲル52は、第1のマッチングゲル51全体を覆っている。各マッチングゲル51,52は、充填後にゲル状に硬化させてある。なお、本実施の形態においては、第2のマッチングゲル52は、AWGチップ11全体を覆う構成としているが、第2のマッチングゲル52は、第1のマッチングゲル51全体を覆っていればよい。なお、第2のマッチングゲル52は、AWGチップ11全体を覆う構成とすることで、高い信頼性を有するアサーマルAWGモジュールを実現することができる。
【0023】
このように、アサーマルAWGモジュール10では、AWG11の切断分離面30と補償板33を第1のマッチングゲル51で覆い、このマッチングゲル51の周囲全体を第2層のマッチングゲル52で覆う二重の封止構造になっている。
【0024】
第1のマッチングゲル51は、硬化後は針入度が高く(軟らかく)かつ密着性に優れたゲル状になるシリコーンゲルである。なお、第1のマッチングゲル51の硬化後の針入度は、温度が変化による補償板33の伸縮を妨げず、補償板33の伸縮により剥離が起こらないようにする観点から、120以上であることが好ましい。また、第2のマッチングゲル52は、硬化後は透湿度が低いゲル状になるシリコーンゲルである。なお、第2のマッチングゲル52の硬化後の透湿度は、補償板33を接着している接着剤に水分が到達しない程度とするために、プレッシャークッカ試験において、温度85℃、湿度85%の環境下で0.0001g/mm・24h以下であることが好ましい。また、ゲルは針入度が高いほど透湿度が大きくなることから、第2のマッチングゲル52は、第1のマッチングゲル51よりも針入度が低い(硬い)シリコーンゲルであるのが好ましい。ここで、「針入度」は、アスファルト類の硬さを表わす数値で、針入度が高いほど軟らかい。その試験方法はJIS K6249(未硬化及び硬化シリコーンゴムの試験方法)に規定されている。
【0025】
第1のマッチングゲル51と第2のマッチングゲル52は、各マッチングゲル間で成分が移行(拡散)しない材料を選択するのが好ましい。なお、両者間での移行を抑制するためには、一方をシラン系のシリコーンゲル、もう一方をフッ化物系のシリコーンゲルとすることが好ましく、第1のマッチングゲル51は、例えば、下記に示すポリジメチルシリコーン等のシリコーンゲルを、第2のマッチングゲル52は、例えば、下記に示すフッ素化ポリエーテル等のシリコーンゲルを用いることができる。

【0026】
シリコーンゲルには硬化形態によって付加型と縮合型があり、どちらの型のシリコーンゲルを第1のマッチングゲル51および第2層のマッチンゲル52として使用しても良い。また、シリコーンゲルには、2種類以上のシリコーンゲルを混合して用いてもよく、シリコーンゲル以外の熱硬化性のゲルを混合或いは変性したものを用いても良い。また、シリコーンゲルの硬化方法は熱、光、電子線のいずれを用いても良い。さらに、2種類以上の液を混合することで室温でも進む反応が起こりゲル化する2液混合の室温硬化型のゲルを用いると、製造がより容易となる。
【0027】
さらに、アサーマルAWGモジュール10では、図4に示すように、蓋15はネジ(図示省略)でパッケージ13に固定されており、ハーメチック構造になっていない。図1(a)に示すように、パッケージ13の周壁部13aには、複数のネジ穴34が設けられている。一方、図4に示すように、蓋15にはネジが挿通する複数の貫通孔35が設けられている。複数の貫通孔35にネジをそれぞれ挿通させ、パッケージ13の複数のネジ穴34に螺合させて締め付けることにより、蓋15がパッケージ13に固定されるようになっている。
なお、本実施の形態においては、マッチングオイルがゲル状となっているため、マッチングオイルが液状である場合と比較して要求されるパッケージの気密性は低くなる。したがって、パッケージの開口部を塞ぐ蓋を溶接によりパッケージに固定するハーメチック構造を用いる必要が無く、上記のようにネジ止めで蓋15をパッケージ13に固定しても問題がない。これにより、低コストでAWGモジュールを製造することができる。
【0028】
アサーマルAWGモジュール10では、波長の異なる複数の光が多重化された光(λ1〜λn)が入力導波路20に入射すると、この光は、入力スラブ導波路21で回折により広がり、アレイ導波路22に入射する。アレイ導波路22の複数のチャネル導波路22aは一定の光路長差ΔLをもって配列されているため、アレイ導波路22の出力端では、それぞれのチャネル導波路22aを通過した光に位相差が付けられる。アレイ導波路22を通過した光は出力スラブ導波路23に伝搬され、回折により広がるが、それぞれのチャネル導波路22aを通過した光は互いに干渉し、結果として波面の揃う方向にのみ強め合い集光する。その集光位置に光出力導波路24を形成することによって、波長の異なった光を波長ごとに異なる光出力導波路24から出力することができる。すなわち、AWG11は、光入力導波路20から入力される互いに異なる複数の波長をもった多重光から1つ以上の波長の光を分波して各光出力導波路24から出力する光分波機能を有している。
【0029】
AWG11は、上記のような特性を有するために、波長多重伝送に適用する光分波用の光透過デバイスとして用いることができる。
各光出力導波路24の出射端に光出力用の光ファイバアレイ25の各光ファイバ26(図1(a)参照)を接続することにより、各光ファイバ26を介して、各波長の光が取り出される。また、光入力導波路20の入射端に光入力用の光ファイバアレイ27の光ファイバ28(図1(a)参照)を接続することにより、光ファイバ28を介して、光が入射される。
【0030】
また、AWG11は、光回路の相反性(可逆性)の原理を利用しているため、光分波器としての機能と共に、光合波器としての機能も有している。すなわち、上記とは逆に、各光出力導波路24から互いに波長が異なる複数の光を入射させると、これらの光は、上記と逆の伝搬経路を通り、1本の光入力導波路20から出射される。
【0031】
AWGチップ12を作製するときには、例えば、まず、火炎堆積(Flame Hydrolysis Deposition:FHD)法を用いて、シリコンなどの基板上に下部クラッド膜、コア膜を順に形成し、フォトリソグラフィーと反応性イオンエッチング法を用い、コア膜にAWG11の導波路パターンを転写する。その後、再度、FHD法を用いて上部クラッド膜を形成する。
【0032】
以上の構成を有する第1実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)AWG11の導波路の切断部である切断分離面30に、AWG11の導波路と屈折率が整合した第1のマッチングゲル51が充填されているので、その導波路の切断部での回折損失はほとんど無い。
(2)AWG11の導波路と屈折率が整合した第1のマッチングゲル51によりAWG11の切断分離面30と補償板33を覆うと共に、第2のマッチングゲル52により第1のマッチングゲル51を覆っている。この構成により、補償板33の動きを柔軟に許容しアサーマルAWGチップ12との密着性を上げる「針入度の高さ」を第1のマッチングゲル51に持たせ、保湿性を第2のマッチングゲル52に持たせることができる。このため、「針入度の高さ」と「保湿性」を共に最良のものにすることができると共に、それら2つの性質のバランスの取れたマッチングゲルを選定するのが容易になる。従って、高い信頼性を有するアサーマルAWGモジュールを実現することができる。
【0033】
(3)硬化後は針入度が高くかつ密着性に優れたゲル状になるシリコーンゲルで構成された第1のマッチングゲル51によりAWG11の切断分離面30と補償板33を覆っているので、補償板33の柔軟な動きが可能になり、高い信頼性を有するアサーマルAWGモジュールを実現することができる。
(4)硬化後は透湿度が低いゲル状になるシリコーンゲルで構成された第2のマッチングゲル52により第1のマッチングゲル51を覆っているので、高湿下での信頼性を確保することができる。つまり、高湿下において、補償板33とAWGチップ12との接着箇所41および接着箇所42(図3参照)の接着剤の劣化を透湿度が低い第2のマッチングゲル52により抑制でき、中心波長の変動が抑制されるので、高湿下での信頼性を確保することができる。
【0034】
(5)蓋15をネジでパッケージ13に固定する構造にしており、ハーメチック構造になっていないので、アサーマルAWGモジュールのコスト低減と小型化を図ることができる。
(6)第1のマッチングオイル51を、このマッチングオイル51よりも針入度の低い第2のマッチングゲルにより覆っているので、AWG11の導波路切断部および補償板33にかかるダメージを第2のマッチングゲルにより抑制することができる。
【0035】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るアサーマルAWGモジュール10Aを図5(a)、(b)に基づいて説明する。
このアサーマルAWGモジュール10Aでは、図5(a)、(b)に示すように、硬化後は針入度が高く(軟らかく)かつ密着性に優れたゲル状になるシリコーンゲルである第1のマッチングゲル51がAWG11の導波路の切断部である交差分離面30と補償板33を覆っている。また、上記第2のマッチングゲル52と同様に、硬化後は透湿度が低いゲル状になるシリコーンゲルである第2のマッチングゲル52Aが、第1のマッチングゲル51全体を覆うようにパッケージ13内部全体に充填されている。
【0036】
第2実施形態によれば、硬化後は針入度が高くかつ密着性に優れたゲル状になるリコーンゲルで構成された第1のマッチングゲル51によりAWG11の導波路切断部と補償板33を覆っているので、補償板33の柔軟な動きが可能になり、高い信頼性を有するアサーマルAWGモジュールを実現することができる。
また、硬化後は透湿度が低いゲル状になる第2のマッチングゲル52Aにより、第1のマッチングゲル51全体を覆っているので、高湿下での信頼性を確保することができる。
第2のマッチングゲル52Aは、第1のマッチングゲル51全体を覆うようにパッケージ13内部全体に充填されているので、高湿下での信頼性を更に向上させることができる。
【0037】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るアサーマルAWGモジュール10Bを図6(a)乃至(c)に基づいて説明する。
このアサーマルAWGモジュール10Bでは、上記第1のマッチングゲル51と同様の性質を有する第1のマッチングゲル51AがAWG11の交差分離面30、補償板33およびAWGチップ11全体を覆っている。そして、上記第2のマッチングゲル52と同様の性質を有する第2のマッチングゲル(図示省略)が、第1のマッチングゲル51A全体を覆っている。第2のマッチングゲルは、第1のマッチングゲル51A全体を覆うようにパッケージ13内部全体に充填されている構成であっても良い。
【0038】
本実施形態に係るアサーマルAWGモジュール10Bにおけるその他の構成は、上記第1実施形態に係るアサーマルAWGモジュール10と同様である。
第3実施形態によれば、AWG11の導波路と屈折率が整合した第1のマッチングゲル51AによりAWG11の交差分離面30、補償板33およびAWGチップ11全体を覆っているので、補償板33の柔軟な動きが可能になり、高い信頼性を有するアサーマルAWGモジュールを実現することができる。
また、第2のマッチングゲル(図示省略)により第1のマッチングゲル51A全体を覆う構成により、高湿下での信頼性を確保することができる。
【0039】
[実施例]
はじめに、シリコン基板上にFHD法、フォトリソグラフィー、反応性イオンエッチングを用いて100GHz-48chのAWGチップ(アサーマルAWGチップ12)を作製した。その後、AWGチップ12をパッケージ13に収容し、導波路の屈折率と整合した第1のマッチングゲル51でAWG11の交差分離面30と補償板33を覆い、第1のマッチングゲル51をゲル状に硬化させた。この後、針入度が第1のマッチングオイル51より低い第2のマッチングオイル52により第1のマッチングゲル51およびAWGチップ12全体を覆い、第2のマッチングゲルをゲル状に硬化させた。このとき、切断したAWGの導波路の切断部である交差分離面30には第1のマッチングゲル51が充填されており、その部分での回折損失はほとんど無い。また、蓋15はネジ止めのみでパッケージ13に固定される構成とし、ハーメチック構造になっていない。
【0040】
補償板33とAWGチップ12との接着箇所41および接着箇所42の接着剤は、透湿度が低い第2のマッチングゲル52により覆われている。また、光学特性及び温度特性は従来のマッチングオイルを用いた場合或いはマッチングゲルを1層とした場合の特性となんら変わりなく、良好な特性が得られている。
【0041】
このとき、第1のマッチングゲルはAWGの導波路切断部と補償板だけでなく、AWGチップ全体を覆ってもよい。その場合でも、第2のマッチングゲルは第1のマッチングゲルとAWGチップ全体を覆うことになる。また、第2のマッチングゲルは、AWGチップ全体を含めたパッケージ内部全体に充填してもよい。さらに、第2のマッチングゲルは屈折率が導波路と整合したものでなくてもよい。
【0042】
図7および図8は、作製したアサーマルAWGモジュール10のプレッシャークッカ試験(温度:120℃、湿度:100%、圧力:2気圧)の結果を示す。非常に過酷な条件のもと、20h後においても、図7および図8に示すように、各光出力導波路24(48ポート)から出力する光の中心波長変動および挿入損失変動はほとんどなかった。この結果は、従来のハーメチック構造のアサーマルAWGモジュールの結果と比較しても同等であり、本アサーマルAWGモジュール10の高い信頼性を確認した。さらには、試験前後での圧力変化によるオイル漏れの心配はなくなり、モジュールとしてより高い信頼性を有することが可能になった。
【0043】
図9および図10は、作製したアサーマルAWGモジュール10のヒートショック試験(80℃〜−40℃/30min)の結果を示す。非常に過酷な条件のもと、100サイクル前後においても各光出力導波路24(48ポート)から出力する光の中心波長変動および挿入損失変動はほとんどなかった。この結果は、従来のハーメチック構造のアサーマルAWGモジュールの結果と比較しても同等であり、本アサーマルAWGモジュール10の高い信頼性を確認した。さらには、AWGチップ12全体を針入度の低い(硬い)第2のマッチングゲル52で覆っているため、衝撃や振動時にAWGチップ12にかかるダメージを抑制することができ、強固なアサーマルAWGモジュール10を実現することができる。
【符号の説明】
【0044】
10,10A,10B:アサーマルAWGモジュール
11:アレイ導波路回折格子(AWG)
12:アサーマルAWGチップ(AWGチップ)
12a:第1の導波路チップ
12b:第2の導波路チップ
13:パッケージ
14:開口部
15:蓋
20:入力導波路
21:入力スラブ導波路
22:アレイ導波路
23:出力スラブ導波路
24:出力導波路
30:交差分離面
33:補償板
51,51A:第1のマッチングゲル
52,52A:第2のマッチングゲル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AWGの導波路の一部を切断して分離し、分離されたチップを補償板により連結したアサーマルAWGチップと、
開口部を有し前記アサーマルAWGチップを収容するパッケージと、
前記開口部を塞ぐ蓋と、
少なくとも前記導波路の切断部と前記補償板を覆い、前記導波路と屈折率が整合した第1のマッチングゲルと、
前記第1のマッチングゲルを覆う第2のマッチングゲルと、を備えることを特徴とするアサーマルAWGモジュール。
【請求項2】
前記第2のマッチングゲルは、前記第1のマッチングゲルよりも透湿度が低いゲルであることを特徴とする請求項1記載のアサーマルAWGモジュール。
【請求項3】
前記AWGは、少なくとも1本以上の入力導波路と、該入力導波路に接続された入力スラブ導波路と、複数本の出力導波路と、該出力導波路が接続された出力スラブ導波路と、前記入力スラブ導波路と前記出力スラブ導波路との間にそれぞれ接続されたM本のチャネル導波路からなるアレイ導波路と、を備え、
前記入力スラブ導波路及び前記出力スラブ導波路の一方が、スラブ導波路を通る光の経路と交わる交差分離面によって2つの導波路チップに分離され、該2つの導波路チップが前記補償板により連結され、温度が変化すると、前記補償板の伸縮により、前記2つの導波路チップの一方がその他方に対して、移動可能であることを特徴とする請求項1または2に記載のアサーマルAWGモジュール。
【請求項4】
前記第1のマッチングゲルは、硬化後の針入度が、120以上のシリコーンゲルであり、
前記第2のマッチングゲルは、硬化後の透湿度が、温度85℃、湿度85%の環境下で0.0001g/mm・24h以下のシリコーンゲルであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のアサーマルAWGモジュール。
【請求項5】
前記第2のマッチングゲルは、前記第1のマッチングゲルよりも針入度が低いシリコーンゲルであることを特徴とする請求項4に記載のアサーマルAWGモジュール。
【請求項6】
前記第1のマッチングゲルは前記導波路の切断部と前記補償板を覆い、前記第2のマッチングゲルは、前記第1のマッチングゲル全体を覆うように前記アサーマルAWGチップ全体を覆っていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のアサーマルAWGモジュール。
【請求項7】
前記第1のマッチングゲルは前記導波路の切断部と前記補償板を覆い、前記第2のマッチングゲルは、前記第1のマッチングゲル全体を覆うように前記パッケージ内部全体に充填されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のアサーマルAWGモジュール。
【請求項8】
前記第1のマッチングゲルは前記補償板および前記アサーマルAWGチップ全体を覆い、前記第2のマッチングゲルは、前記第1のマッチングゲル全体を覆っていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のアサーマルAWGモジュール。
【請求項9】
前記第1のマッチングゲルは前記補償板および前記アサーマルAWGチップ全体を覆い、前記第2のマッチングゲルは、前記第1のマッチングゲル全体を覆うように前記パッケージ内部全体に充填されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のアサーマルAWGモジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−252217(P2012−252217A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125539(P2011−125539)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】