説明

アスベストの測定方法

【課題】従来の方法に比して前処理を大幅に簡素化して測定に要する時間を大幅に短縮化することのできるアスベストの測定方法を提供する。
【解決手段】捕集容器1内に放電電極3と、透光性があり、かつ、少なくとも表面が導電性を有する集塵電極4を配置し、これらの両電極間に電位差を付与した状態で、捕集容器1内に雰囲気を吸引し、その雰囲気中のアスベストを含む浮遊物質Pを、放電電極3で発生させた単極イオンで帯電させて集塵電極4上に捕集し、その集塵電極4上の浮遊物質Pを分散染色分析法を適用して顕微鏡観察し、アスベストを弁別計数する。フィルタを用いた従来の方法に比して、フィルタの灰化処理等の前処理を不要とし、測定に要する時間の短縮化を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアスベスト(石綿)の測定方法に関し、更に詳しくは、短い所要時間で雰囲気中に含まれるアスベストの数および/または濃度を知ることのできる測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベスト(石綿)は、天然に算する繊維状けい酸塩鉱物であり、ILO(国際労働機構)などの国際機関では次の6つのものをアスベストと定義している。すなわち、クリソタイル(白石綿)、アモサイド、クロシドライト(青石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトである。石綿繊維を吸入すると、石綿肺、石綿肺ガン、悪性中皮腫などを発症するおそれがあるなど、健康に対する影響があることが知られている。
【0003】
雰囲気中に浮遊するアスベストの測定方法、より具体的には、アスベストの分別計数分析方法としては、分散染色分析法が用いられている。
【0004】
分散染色分析法は、屈折率が光の波長によって変化する性質(分散)を利用して、試料中の粒子を光学的に着色させて目的の粒子を選別する方法である。特定の屈性率を持つ浸液にアスベストを浸し、位相差顕微鏡もしくは偏光顕微鏡で観察すると、アスベストと浸液の屈折率の関係からアスベストは特有の分散色を示す。アスベストの屈折率はその種類により異なることから、屈折率の異なる浸液を用いることで、分散色の違いからアスベストの種類を特定して計数することができる。この分散染色分析法を用いた従来のアスベストの測定方法として、図5にA〜Eで大略を示す手順が採用されている(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
すわなち、まず、雰囲気中のアスベストをフィルタでサンプリングする(A)。このサンプリングに用いるフィルタは、規定の直径の採じん面を有し、平均孔径(ポアサイズ)が0.8〜1.2μmのセルローズエステル・白色メンブランフィルタとされる。このフィルタを密閉容器内に配置し、その密閉容器内に吸引ポンプにより雰囲気を吸引してフィルタを通過させ、雰囲気中のアスベストを含む浮遊物質をフィルタに付着させる。
【0006】
次に、フィルタをスライドガラス上に載せアセトン蒸気で固定・透明化する(B)。次いでプラズマリアクタ(低温灰化装置)により灰化処理を行い(C)、フィルタだけを焼却処理して除去する。その後、適当な浸液を滴下し(D)、分散対物レンズ付きの位相差顕微鏡によりアスベストを計数分析する(E)。
【非特許文献1】平成16年7月28日社団法人日本作業環境測定協会発行「繊維状物質測定マニュアル」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、以上のような従来のアスベストの測定方法においては、位相差顕微鏡等を用いた計数分析に先立ち、浮遊物質を捕集したフィルタをスライドガラス上に載せてアセトン蒸気で固定・透明化した後、プラズマリアクタによる灰化処理を行うことでフィルタを取り除く前処理が必要である。特にプラズマリアクタによる灰化処理に4〜6時間が必要であり、分析に時間を要するという問題がある。
【0008】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、実質的前処理を行うことなく従来と同等の分散染色分析によりアスベストを測定することのできる方法の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明のアスベストの測定方法は、捕集容器内に、放電電極と、透光性があり、かつ、少なくとも表面が導電性を有する集塵電極とを配置するとともに、これら両電極間に電位差を付与した状態で、捕集容器内に雰囲気を吸引し、その雰囲気中のアスベストを含む浮遊物質を、上記放電電極で発生させた単極イオンで帯電させて上記集塵電極上に捕集し、その集塵電極上の浮遊物質を分散染色分析法を適用して顕微鏡観察することにより、アスベストを他の浮遊物質と弁別して計数することによって特徴づけられる(請求項1)。
【0010】
ここで、本発明においては、上記捕集容器内に吸引した雰囲気の量および装置に依存する係数を用いて、上記の計数結果から雰囲気中に含まれるアスベスト濃度を算出すること(請求項2)もできる。
【0011】
本発明は、フィルタを用いることなくアスベストを捕集し、捕集したアスベストをそのまま分散染色分析法による測定に供することを可能とすることで、課題を解決しようとするものである。
【0012】
すなわち、放電電極と集塵電極を収容した捕集容器内に、雰囲気をポンプにより吸引しつつ、放電電極に高電圧を印加すると、放電電極近傍の空気は電離して単極イオンが発生する。放電電極と集塵電極間には、放電電極により発生した単極イオンが集塵電極へと向かう方向に電位差を与える。放電電極の近傍で発生した単極イオンが集塵電極へと向かう過程で、雰囲気中に含まれる浮遊物質と接触し、浮遊物質が帯電する。帯電した浮遊物質は、放電電極と集塵電極間の電位差により集塵電極へと移動し、集塵電極上に捕集される。
【0013】
集塵電極は透光性のあるもの、例えば透明ガラスの表面にITO膜等を形成したものを用いているため、表面に浮遊物質を捕集した集塵電極に対して、観察対象となるアスベストに適した浸液を滴下し、そのまま位相差顕微鏡ないしは偏光顕微鏡を用いた分散染色分析法に基づくアスベストの弁別計数を行うことができる。
【0014】
また、捕集容器に吸引した雰囲気の量は、ポンプの流量とその駆動時間から判るため、請求項2に係る発明のように、その量と、前もって求めておいた装置係数を用いることにより、上記した集塵電極上のアスベストの計数結果から、雰囲気中のアスベスト濃度(個数濃度)を算出することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、捕集容器内に吸引される雰囲気中の浮遊物質を、放電電極によって帯電させ、その帯電物質を、放電電極に対して電位差が付与された透光性のある集塵電極上に捕集するので、集塵電極上に捕集された浮遊物質に対して浸液を直接的に滴下させ、そのまま位相差顕微鏡ないしは偏光顕微鏡を用いた分散染色分析法に基づくアスベストの係数を行うことができ、従来のフィルタを用いて捕集する場合に比して、プラズマリアクタを用いたフィルタの除去をはじめとする前処理が大幅に簡素化される。その結果、測定に要する時間を大幅に短縮化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について述べる。
図1は本発明の実施の形態の測定手順の説明図であり、図2は同じく本発明の実施の形態において用いる機器の構成図である。
【0017】
この実施の形態においては、図1に示すように、図2の装置を用いて集塵電極4上にアスベストを含む雰囲気中の浮遊物質を捕集し(a)、その集塵電極4上の浮遊物質に対して直接的に浸液を滴下し(b)、直ちに位相差顕微鏡によりアスベストの計数分析を行う(c)。
【0018】
図2に示すように、捕集装置10は、捕集容器1と、その内部に雰囲気を吸引するためのポンプ2、捕集容器1内に配置された放電電極3と集塵電極4、これらの各電極に電圧を付与するための電源5,6を主体として構成されている。
【0019】
捕集容器1は着脱自在の蓋体1aを備えるとともに、雰囲気の流入口1bとポンプ2の吸引口に連通する連通口1cが形成されている。放電電極3は、この例において多数本のワイヤを束ねた茶筅状をしており、電源5によって高電圧が印加される。そして、集塵電極4は、例えばスライドガラスを基体とし、その表面にITOや二酸化スズなどの導電性の透明コーティングを施した構造を有している。この集塵電極4は、この例では電源6により、放電電極3に対して極性は同じであるものの電位差が付与されている。また、集塵電極4は取り外しが可能となっており、蓋体1aを開けることによって簡単に捕集容器1外に取り出すことができるようになっている。
【0020】
以上の捕集装置10において、蓋体1aを装着した状態でポンプ2を駆動して、流入口1bから雰囲気を捕集容器1内に送り込みつつ、放電電極3に高電圧を印加すると、その近傍の空気が電離して単極イオンが発生し、捕集容器1内に送り込まれた雰囲気中の浮遊物質Pはその単極イオンと接触して帯電し、放電電極3と集塵電極4の電位差により集塵電極4に向けて移動し、集塵電極4上に捕集される。
【0021】
以上の動作を規定時間だけ継続した後、浮遊物質Pがその上面に捕集された集塵電極4を捕集容器1外に取り出し、その上面に観察すべきアスベストの屈折率に適した浸液を滴下し、図2に示すように、その上からカバーガラス31を被せ、位相差顕微鏡もしくは偏光顕微鏡30の観察に供することにより、従来と同様に分散色並びに粒子形状からアスベストの数を計数する。
【0022】
また、ポンプ2の単位時間当たりの流量と、その駆動時間とから、捕集容器1内に送り込んだ大気の総量を把握することができ、その総量と、捕集装置10に依存する係数を用いることで、上記のようにして計数したアスベストの数から、単位堆積当たりの雰囲気中のアスベスト濃度(個数濃度)を計算することができる。ここで、装置に依存する計数は、例えば、あらかじめフィルタを使用した従来の方法と比較して算出することができる。
【0023】
以上の本発明の実施の形態によると、雰囲気中のアスベストを含む浮遊物質は集塵電極4上に捕集され、補修後に浸液を滴下してカバーガラスを被せることにより、直ちに位相差顕微鏡や偏光顕微鏡を用いた分散染色分析法に基づくアスベストの弁別計数を行うことができ、図5に示した従来のフィルタを用いた方法に比して、その前処理を大幅に簡素化することができ、分析ないしは測定に要する時間を大幅に短縮化することができる。
【0024】
なお、捕集装置10の放電電極3の形態は、図2に示したようなものに限られることなく、図3,図4に例示するような棒状の放電電極3′を用いることができ、また、集塵電極4に対する電圧の印加の仕方についても、図3に示すように放電電極3と共に接地電位からはフローティング状態としたり、あるいは図4に示すように、集塵電極4を接地電位とするなどの変形が可能であることは勿論である。また、図3、図4に示すように、捕集容器1の蓋体1aを取り外し、その部分から雰囲気を導入してもよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の測定手順の説明図である。
【図2】本発明の実施の形態において用いる機器の構成図である。
【図3】本発明の実施の形態において用いる捕集装置の他の構成例の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態において用いる捕集装置の更に他の構成例の説明図である。
【図5】分散染色分析法に基づく従来のアスベストの分析方法の大略の手順の説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 捕集容器
1a 蓋体
1b 流入口
1c 連通口
2 ポンプ
3 放電電極
4 集塵電極
30 位相差顕微鏡もしくは偏光顕微鏡
31 カバーガラス
P 浮遊物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
捕集容器内に、放電電極と、透光性があり、かつ、少なくとも表面が導電性を有する集塵電極とを配置するとともに、これら両電極間に電位差を付与した状態で、捕集容器内に雰囲気を吸引し、その雰囲気中のアスベストを含む浮遊物質を、上記放電電極で発生させた単極イオンで帯電させて上記集塵電極上に捕集し、その集塵電極上の浮遊物質を分散染色分析法を適用して顕微鏡観察することにより、アスベストを他の浮遊物質と弁別して計数することを特徴とするアスベストの測定方法。
【請求項2】
上記捕集容器内に吸引した雰囲気の量および装置に依存する係数を用いて、上記計数結果から雰囲気中に含まれるアスベスト濃度を算出することを特徴とする請求項1に記載のアスベストの測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−107970(P2007−107970A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297990(P2005−297990)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】