説明

アスベスト検出方法及びアスベスト検出装置

【課題】アスベストが不純物として鉄を含有していることに着目し、アスベストのみを寄せ集めて検出することである。
【解決手段】アスベストを含有する試料に磁力を作用させて、アスベストを所定領域に集める収集ステップと、前記収集ステップにより前記所定領域に集められたアスベストを計測する計測ステップと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アスベストの検出方法及びその検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベスト(石綿)は、耐久性に優れ、吸音性、耐腐食性、耐薬品性に富み、しかも安価であり、建材として多く使われてきたが、近年では、肺ガン、悪性中皮種、石綿肺などの健康への影響が問題になってきている。しかも、アスベストによる健康被害は、20年〜40年後に現れることから「静かな時限爆弾」と呼ばれ畏れられている。
【0003】
従来、このアスベストの定性分析は、特許文献1に示すように、分散染色法を用いて位相差顕微鏡により行われている。この分散染色法は、アスベスト特有の分散特性(光の波長による屈折率の違い)を利用して行う分析方法であり、試料と浸液を混同した後、光を照射したときの分散色の違いによって、アスベストと、アスベスト以外の繊維とを識別する方法である。
【0004】
しかしながら、アスベスト以外の繊維が多く存在して、アスベストとアスベスト以外の繊維が混在すると、アスベスト特有の分散色が確認しづらく、測定誤差の要因となっているという問題がある。
【特許文献1】特開平9−127102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、アスベストが不純物として鉄を含有していることに着目し、アスベストのみを集めて計測することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係るアスベスト検出方法は、アスベストを含有する試料に磁力を作用させて、アスベストを所定領域に集める収集ステップと、前記収集ステップにより前記所定領域に集められたアスベストを分散染色法を用いて計測する計測ステップと、を備えていることを特徴とする。ここで、磁力を作用させてアスベストを所定領域に集めるとは、所定領域におけるアスベストの密度を、その他の領域におけるアスベストの密度よりも大きくすることであり、好ましくは、アスベストとアスベスト以外の繊維を分離することである。
【0007】
アスベスト(石綿)には、主としてクリソタイル(白石綿)、アモサイト(青石綿)、クロシドライト(褐石綿)があり、その他にも、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトがある。
【0008】
このようなものであれば、鉄成分を含むアスベストに磁力を作用させることで一箇所に集めることができ、試料中のアスベストをアスベスト以外の不純物から分離することができるので、アスベスト特有の分散色が観察しやすくなる。したがって、誤観察を低減することができ、これによる測定誤差を排することができる。
【0009】
また、磁力によりアスベストが移動しやすくするためには、前記収集ステップにおいて、前記試料と特定の屈折率を有する浸液とを混合した後に、磁力を作用させてアスベストを所定領域に集めるようにしていることが望ましい。ここで、特定の屈折率を有する浸液とは、25℃における屈折率(nD25℃)が、1.550、1.680、1.700の3種類である。
【0010】
磁力を作用させる磁性体の具体的な実施態様としては、例えば磁石、電磁石等が考えられる。特に、検出方法を簡単、安価に実現するためには、磁石が好ましい。
【0011】
また、本発明の検出方法を実現するためのアスベスト検出装置としては、分散染色法を用いて試料中のアスベストの検出を行うアスベスト検出装置であって、前記試料が載置される試料台と、前記試料台上の試料に磁力を作用させる磁性体と、前記磁性体を前記試料台に載置された試料に対して移動させる磁性体移動機構と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
このようなものであれば、試料台に載置された試料に磁力が作用するので、試料中に含有されるアスベストを一箇所に集めることができる。したがって、試料中のアスベストをアスベスト以外の不純物から分離することができるので、アスベスト特有の分散色が観察しやすくなる。したがって、誤観察を低減することができ、これによる測定誤差を排することができる。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば、鉄成分を含むアスベストを磁性体により引き寄せて所定箇所に集めることができ、試料中のアスベストをアスベスト以外の不純物から分離することができるので、アスベスト特有の分散色が観察しやすくなる。誤観察を低減することができ、これによる測定誤差を排することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の第1実施形態に係るアスベスト検出装置について図面を参照して説明する。
【0015】
<第1実施形態>
【0016】
本実施形態に係るアスベスト検出装置1は、分散染色法を用いて試料中のアスベストの検出を行うものであり、図1に模式的に示すように、位相差顕微鏡2と、その位相差顕微鏡2により観測される観測画像を撮像する画像撮像部3と、当該画像撮像部3が撮像した観測画像データを取得して処理する画像処理装置4と、を備えている。なお、本実施形態では、アスベストとは、クリソタイル(白石綿)、アモサイト(青石綿)、クロシドライト(褐石綿)である。
【0017】
以下に位相差顕微鏡2、画像撮像部3及び画像処理装置4について説明する。
【0018】
位相差顕微鏡2は、光源21と、その光源21からの光をサンプルWに照射するコンデンサレンズ22と、そのコンデンサレンズ22の前側焦点位置に設けたリング状開口絞り23と、対物レンズ24と、この対物レンズ24の後側焦点位置に設けた位相板25と、アイピースグレーティクル付き接眼レンズ(図示しない)とを有している。
【0019】
コンデンサレンズ22と対物レンズ24との間に試料台26が設けられ、試料台26上に載置されたサンプルWには、コンデンサレンズ22により集光された光が照射される。サンプルWに照射された光は、対物レンズ24を通過して位相板25に到達する。この位相板25を通過した光は、結像面27に結像される。なお、ここでサンプルWとは、スライドガラス上で、アスベストを含有する試料と浸液とを混合してカバーガラスを載せたものである。
【0020】
対物レンズ24は、例えば倍率10倍又は40倍の分散対物レンズであり、検出用途に応じて適宜選択される。また、位相板25は、例えば光の位相を1/4λだけずらす1/4波長板である。
【0021】
試料台26は、台移動機構28によりX、Y、Z方向に移動されるものである。そして、この台移動機構28は、後述する画像処理装置4の台移動機構制御部43により、測定中においては、試料台26が主としてX方向、Y方向に移動するように制御されるものである。なお、光源21からの照射光の入射方向をZ方向とし、X−Y平面を照射光に垂直にしている。
【0022】
しかして、本実施形態の位相差顕微鏡2は、試料台26上のサンプルWに磁力を作用させる磁性体8と、当該磁性体8を試料台26上のサンプルWに対して移動させる磁性体移動機構29とを有している。
【0023】
磁性体8は、本実施形態ではSm−Coの3000ガウスの磁石を用いている。そして、磁性体移動機構29によって、試料台26の下方に移動可能に設けられている。
【0024】
磁性体移動機構29は、試料台26の下方に設けられ、試料台26上のサンプルWに対して磁性体8を相対移動させるものである。
【0025】
具体的には、図2、図3に示すように、例えばサンプルW中に含まれているアスベストを当該サンプルWの所定領域(本実施形態では例えば、中央部分)に集めるために、サンプルWの側方から、サンプルWに沿って中央部分に向かって磁性体8を移動させ、中央部分に移動させた後は、サンプルWの下方に向かって離しながら、サンプルWの側方に移動させる。そして、再びサンプルWの側方から、サンプルWに沿って中央部分に向かって磁性体8を移動させる。なお、磁性体8をサンプルWに沿って移動させるときには、磁性体8の磁力がアスベストに所定値以上及ぶようにする。磁性体8をサンプルWから離し、その側方に移動させるときには、磁性体8の磁力がアスベストに殆ど及ばないようにする。
【0026】
画像撮像部3は、位相差顕微鏡2により前記試料中の繊維を観測した観測画像を撮像するものであり、例えばCCDカメラである。そして、このCCDカメラは、位相差顕微鏡2の結像面27付近に設け観測画像を撮像するようにしている。なお、画像撮像部3の設置位置は、結像面27付近に設ける他に、結像面27に結像された観測画像を撮像することができる範囲内において適宜設定可能である。
【0027】
画像処理装置4は、画像撮像部3から観測画像データを取得して、アスベストの自動検出を行うものであり、その機器構成は、図4に示すように、CPU401、内部メモリ402、入出力インタフェース403、AD変換器404等からなる汎用又は専用のコンピュータであり、前記内部メモリ402の所定領域に格納してあるプログラムに基づいてCPU401やその周辺機器等が作動することにより、図5に示すように、画像データ取得部41、分散色データ格納部D1、アスベスト判断部42、画像データ格納部D2、台移動機構制御部43、画面表示部44等として機能する。
【0028】
以下に各部について詳述する。
【0029】
画像データ取得部41は、画像撮像部3が撮像した観測画像データを受け付けて、その観測画像データをアスベスト判断部42に出力するものである。
【0030】
分散色データ格納部D1は、アスベストに特定の屈折率を有する浸液を混合したときの分散色を示す分散色データを格納するものである。ここで、特定の屈折率を有する浸液とは、25℃における屈折率(nD25℃)が、1.550、1.680、1.700の3種類である。このとき分散色は、アスベストの種類と特定の屈折率を有する浸液とにより決まり、図6の表の一覧に示す色である。
【0031】
本実施形態において、分散色データは、例えばアスベストに浸液を混合したときの分散色を表す赤成分強度(R)、緑成分強度(G)、青成分強度(B)の組合せを示すRGB基準データである。例えば、アモサイトに屈折率(n25℃)が1.680の浸液を混合したときの分散色は桃色であるので(図6参照)、この桃色を表す赤成分強度(R)、緑成分強度(G)、青成分強度(B)の組合せをRGB基準データとして格納している。クリソタイル、クロシドライトそれぞれにおいても同様にしてそれぞれRGB基準データが決定されて格納されている。そして、この分散色データは、予め位相差顕微鏡2によりアスベスト標準試料を用いて測定したときに記憶させるようにしても良いし、外部から入力するようにしても良い。
【0032】
アスベスト判断部42は、観測画像中にアスベストがあるか否かを判断するものである。具体的には、アスベスト特有の分散色を示す繊維の個数を計数するものであり、観測画像中の繊維の分散色の色判断を行う分散色判断部421と、観測画像中の繊維の形状判断を行う形状判断部422とを有している。
【0033】
分散色判断部421は、画像データ取得部41から観測画像データ、分散色データ格納部D1から分散色データを受け付けて、その観測画像データが示す観測画像中の繊維の色と分散色データが示す分散色とを比較して、その比較結果をパラメータとしてアスベストの有無を判断するものである。
【0034】
具体的な分散色判断方法としては、例えば、観測画像を構成する1つ1つの画素の色を表す赤成分強度(R)、緑成分強度(G)、青成分強度(B)の組合せと、分散色データであるRGB基準データとを比較する。そして、その比較結果において、例えば観測画像中にRGB基準データが示す分散色と同じ色の画素が1つでもあればアスベストが存在すると判断する。
【0035】
そして、アスベスト有りと判断した観測画像データ及び分散色の色、観測画像中の分散色が生じている位置、観察された分散色により特定されるアスベストの種類等についての分散色判断データを画像データ格納部D2に格納する。
【0036】
形状判断部422は、分散色判断部421から観測画像データを受け付けて、観測画像中の繊維の形状を分析して、その分析結果をパラメータとしてアスベストの有無を判断するものである。
【0037】
具体的な形状判断方法としては、例えば、観測画面中の繊維の輪郭を例えばエッジ検出により抽出して、その抽出した輪郭が、長さが5マイクロメートル以上で、幅(直径)が3マイクロメートル未満で、長さと幅の比を意味するアスペクト比が3以上のものをアスベストと判断するものである。このとき、アスペクト比の値は、入力手段5によってオペレータによって適宜設定することができる。通常アスベスト検出においては、アスペクト比の値は3である。
【0038】
さらに、形状判断部422は、観測画像中に存在する全ての繊維数と分散色を示すアスペクト比3以上の繊維数を計数するものである。そして、アスベスト有りと判断した観測画像データ及びアスベストと判断された繊維の観測画像中の位置、分散色を示すアスペクト比3以上の繊維数、全繊維数に対する分散色を示すアスペクト比3以上の繊維の割合等についての形状判断データを画像データ格納部D2に格納する。さらに、観測画像中に存在する全ての繊維数の合計が、所定値(例えば1000繊維)未満であるときは、計測を継続する旨の出力信号を台移動機構制御部43に出力する。一方、その合計が、所定値に達したときは、計測終了である旨の出力信号を台移動機構制御部43に出力する。
【0039】
画像データ格納部D2は、アスベストが存在すると判断された観測画像の観測画像データ及びそれに関連する判断データが前記アスベスト判断部42により格納されるものである。
【0040】
具体的には、分散色判断部421によりアスベストの存在が確認された観測画像の観測画像データ及び分散色の色、観測画像中の分散色が生じている位置、観察された分散色により特定されるアスベストの種類等についての分散色判断データが格納される。また、形状判断部422によりアスベストの存在が確認された観測画像の観測画像データ及びアスベストと判断された繊維の位置、分散色を示すアスペクト比3以上の繊維数、全繊維数に対する分散色を示すアスペクト比3以上の繊維の割合等についての形状判断データが格納されるものである。
【0041】
台移動機構制御部43は、試料台26を移動させる台移動機構28を制御するものである。具体的には、前記形状判断部422からの出力信号を受け付けて、形状判断部422が計数する繊維数と分散色を示したアスペクト比3以上の繊維数との合計計数値が1000繊維になるまで、試料台26を主として所定領域(サンプルWの中央部分)内において、ランダム又は規則的に移動させるために台移動機構28を制御するものである。
【0042】
さらに、試料台26を移動させるタイミングは、例えば画像撮像部3により撮像された観測画像がアスベスト判断部42によってアスベストの有無が判断される毎である。
【0043】
画面表示部44は、画像データ格納部D2から分散色判断部421及び形状判断部422により格納された観測画像データ及びそれに関連する判断データ等を取得して、ディスプレイ6上に表示するものである。
【0044】
次にこのように構成したアスベスト検出装置1を用いたアスベスト検出方法をその動作とともに、図7のフローチャートを参照して説明する。
【0045】
このアスベスト検出方法は、前処理ステップと、収集ステップと、計測ステップとからなる。
【0046】
まず、前処理ステップとして、容量50mlの共柱試験管に分析用試料10〜20mgと無じん水40mlを入れ、激しく振とうした後、容量50mlのコニカルビーカに移し、回転子を入れてマグネチックスターラで撹拌しながら清拭した3枚のスライドガラス上にマイクロピペッタで10〜20μl滴下し乾燥させる。
【0047】
次に屈折率n25℃=1.550、1.680、1.700の3種類の浸液をそれぞれのスライドガラスに3〜4滴滴下し、ピンセットの尖端で浸液を充分に混合・分散させ、その上に清拭したカバーガラスを載せてサンプルWとする。屈折率の異なる浸液それぞれについて作製した3枚のスライドガラスを1サンプルとし、同様の操作を3回繰り返し、1つの分析用試料についてサンプルWを3つ作製する。そして、そのサンプルWを位相顕微鏡の試料台26にセットする。このとき、位相差顕微鏡2のピントを合わせる。キーボードなどの入力手段5を用いて、アスペクト比(本実施形態では3)及び計測する繊維数(本実施形態では、1000繊維)を設定する。
【0048】
次に、収集ステップとして、磁性体移動機構29により磁性体8を移動させて、アスベストを所定箇所(例えば、サンプルW中央部分)に集める。
【0049】
その後、アスベスト検出装置1のスイッチ(図示しない)をオンにする(以下計測ステップ)。
【0050】
まず、画像データ取得部41が、画像撮像部3が撮像した観測画像データを取得する(ステップS1)。そして、その観測画像データをアスベスト判断部42のうち分散色判断部421に出力する。分散色判断部421は、画像データ取得部41から観測画像データを受信して、分散色データに基づいてアスベスト有無判断を行う(ステップS2)。そして、アスベスト有りと判断した分散色判断データ等を画像データ格納部D2に格納し、観測画像データを形状判断部422に出力する。
【0051】
その観測画像データを受信した形状判断部422は、当該観測画像中にアスペクト比3以上の繊維が存在するか否かを判断する(ステップS4)。また、その観測画像中の全ての繊維を計数する(ステップS5)。そして、アスベスト有りと判断した観測画像データ、その形状判断データ等を画像データ格納部D2に格納する(ステップS6)。さらに、形状判断部422は、合計計数値が1000繊維を超えているかを判断し、1000未満ならば、台移動機構制御部43に計測を継続する旨の出力信号を出力し、1000に達したならば、台移動機構制御部43に計測を終了する旨の出力信号を出力する(ステップS8)。
【0052】
そして、合計計数値が1000未満であるならば、台移動機構制御部43は、試料台26がX−Y平面内において、主として所定領域(サンプルWの中央部分)内において移動するように台移動機構28を制御する(ステップS9)。合計計数値が1000に達したならば、画面表示部44が、画像データ格納部D2から、検出結果などのデータを取得し、その検出結果をディスプレイ6上に表示して、アスベスト検出装置1の自動検出動作が終了する(ステップS10)。
【0053】
このように構成した本実施形態に係るアスベスト検出装置1によれば、鉄成分を含むアスベストを磁性体により引き寄せて所定箇所に集めることができる。したがって、アスベスト以外の繊維が多く存在することによる分散色が検出しづらいという不具合を解消することができ、アスベスト特有の分散色を検出しやすくすることができる。したがって、誤検出を低減させることができ、測定誤差を排除することができる。
【0054】
また、収集ステップにおいて、試料と特定の屈折率を有する浸液とを混合した後に、磁力を作用させてアスベストを所定領域に集めるようにしているので、アスベストが移動する際の抵抗を小さくすることができ、磁力によるアスベストの移動を容易にすることができる。したがって、より一層アスベストを所定領域に集めることが可能となる。
【0055】
さらに、自動でアスベストの有無判定を行うので、人件費等のコストを削減することができ、検出時間を短縮することができ、さらに客観的に測定するので、分析者の能力や個人差による測定誤差を軽減することができる。
【0056】
<第2実施形態>
【0057】
次に本発明に係る第2実施形態のアスベスト検出装置について図面を参照して説明する。
【0058】
本実施形態に係るアスベスト検出装置1は、前記第1実施形態とはアスベスト検出方法が異なり、各浸液(各屈折率)を用いて作製したサンプルWから異なる分散色が検出されたときには、それら分散色を有する繊維数のうち多い方を、その特有の分散色と判断し、アスベストの種類を判定するものである。
【0059】
このため本実施形態に係るアスベスト判断部42は、屈折率が異なるそれぞれの浸液と混合したときに、その浸液特有の分散色を有し、かつアスペクト比が所定値以上の繊維をそれぞれ計数して、それら異なる分散色を有する繊維数を比較して、多い方の分散色により特定されるアスベストを含んでいると判断するものである。
【0060】
具体的には、アスベスト判断部42は、図8に示すように、観測画像中の繊維の分散色の色判断を行う分散色判断部421と、観測画像中の繊維の形状判断を行う形状判断部422と、前記分散色判断部421及び形状判断部422からの各判断データに基づいて、異なる分散色を有する繊維数を比較して、多い方の分散色により特定されるアスベストがサンプルW中に含まれていると判定する比較判定部423とを有している。
【0061】
分散色判断部421及び形状判断部422は、前記第1実施形態と同じ機能を有するものであり、さらに、分散色判断部421は、分散色判断データを比較判定部423に出力するものであり、形状判断部422は、形状判断データを比較判定部423に出力するものである。
【0062】
比較判定部423は、分散色判断部421から分散色判断データ及び形状判断部422から形状判断データを受け付けて、サンプルWに含まれるアスベストを判定するものである。そして、その判定結果データを画像データ格納部D1に格納するものである。
【0063】
具体的には、同じ分析用試料から作製された浸液の異なる3種類のサンプルW毎に、分散色判断部421からの分散色判断データ及び形状判断部422からの形状判断データを受け付ける。そして、その各判断データに基づいて、特有の分散色を有し、かつアスペクト比3以上の繊維数を特定する。そして、それら繊維数を比較して、繊維数の多い分散色により特定されるアスベストを含んでいると判定するものである。
【0064】
例えば、屈折率n25℃=1.550の浸液を用いたサンプルWでは、赤紫色を示し、屈折率n25℃=1.680の浸液を用いたサンプルWでは、少し橙色を示し、屈折率n25℃=1.700の浸液を用いたサンプルWでは、少し青みがかっている色を示した場合には、図6からわかるように、当該サンプルWはクリソタイルあるいはクロシドライトの可能性がある。
【0065】
このような場合、本実施形態においては比較判定部423が、分散色判断データ及び形状判断データにより、屈折率n25℃=1.550の浸液を用いたサンプルWにおいて、アスペクト比3以上かつ赤紫色の繊維数を特定する。また、屈折率n25℃=1.680の浸液を用いたサンプルWにおいて、アスペクト比3以上かつ橙色の繊維数を特定する。さらに、屈折率n25℃=1.700の浸液を用いたサンプルWにおいて、アスペクト比3以上かつ青色の繊維数を特定する。
【0066】
そして、比較判定部423は、上記各浸液での繊維数を比較して、繊維数が最も多い分散色が、サンプルWに含まれるアスベスト特有の分散色であると判断し、アスベストを判定する。つまり、屈折率n25℃=1.550のサンプルWの繊維数が最も多い場合には、上記サンプルWにはクリソタイルが含まれていると判定する。そして、屈折率n25℃=1.680のサンプルWにおける橙色、屈折率n25℃=1.700のサンプルWにおける青みがかった色を誤認識であると判断する。
【0067】
なお、このように判断するのは、日本においては、クリソタイルとクロシドライトとが混在する(複数種のアスベストが混在する)ような試料は、殆ど無いことからである。
【0068】
このように構成したアスベスト検出装置1によれば、例えば複数種のアスベストが混合していると考えにくい試料を測定する場合には誤認識を好適に排除することができるようになる。
【0069】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0070】
例えば、前記実施形態では、サンプルを試料台にセットした後に、磁力を作用させて、アスベストを一箇所に集めるようにしているが、試料台にセットする前に、磁力を作用させてアスベストを一箇所に集中させるようにしても良い。この場合、例えば磁性体をスライドガラス下面に沿わせるように移動させるようにする。
【0071】
また、試料と浸液とを混合した後に、磁力を作用させてアスベストを所定領域に集める他にも、浸液と混合する前において、試料のみに磁力を作用させてアスベストを所定領域に集めるようにしてもよい。この場合、例えば試料をスライドガラス上に載せて、スライドガラスの下面に磁性体を沿わせて移動させるようにする。
【0072】
さらに、前記実施形態では、磁性体には磁石を用いているが、電磁石を用いてアスベストを所定領域に集めることもできる。前記実施形態のように、アスベストをサンプルの中央部分に集める場合には、サンプル側方から中央部分に移動させるときは、電磁石に電流を流して磁力を作用させ、中央部分から側方に移動させるときは、電磁石に電流を流さないで、磁力が作用しないようにすることが考えられる。
【0073】
その上、前記実施形態では、位相差顕微鏡を用いたものであったが、その他にも走査型電子顕微鏡(SEM)等の電子顕微鏡、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡や偏光顕微鏡等の光学顕微鏡、あるいは、原子間力顕微鏡(AFM)等の走査型プローブ顕微鏡などを用いたものにも適用することができる。
【0074】
前記実施形態に加えて、位相差顕微鏡2が、アスベストの分散曲線と浸液の分散曲線とが交差する特定波長の光のみを透光するフィルタ7を備え、画像撮像部3が、前記フィルタ7を介した観測画像を観測画像データとして取得するものであることが考えられる。フィルタ7は、図9に示すように、アスベストの分散曲線と浸液の分散曲線とが合致する特定波長λ及びその近傍の波長域の光のみを通す例えばバンドパスフィルタ又はカットフィルタなどであり、対物レンズ24と画像データ取得部27との間に設けられる。
【0075】
このアスベスト検出装置1を用いたアスベストの検出方法としては、計測する波長の光をフィルタ7によって設定しておいて、浸液の屈折率を変化させていき、特定波長が検出されたときの浸液の屈折率によって、そのアスベストを特定する方法等が考えられる。
【0076】
このようなものであれば、不純物等がアスベストと混在することによって色々な波長の光が混ざり合うことから生じる誤差の要因を削除することができ、特定のアスベストの波長の光のみを取り出すことができるので、高解像を得ることができ、誤検出などの不具合を解消することができる。
【0077】
さらに、前記実施形態では、形状判断部が観測画面中の繊維を計数する機能を有するものであったが、アスベスト判断部が、形状判断部とは別に、観測画面中の繊維を計数する機能を有する繊維計数部を設けるようにしても良い。
【0078】
加えて、前記アスベスト判断部は、分散色判断部及び形状判断部を有するものであったが、分散色判断部のみを有するものであっても良いし、形状判断部のみを有するものであっても良い。
【0079】
さらに加えて、前記実施形態では、分散色判断部によって分散色を判断した後、形状判断部によって形状を判断するようにしているが、これに限定されることはなく、例えば形状判断部によって形状を判断した後、分散色判断部によって分散色を判断することもできるし、また、分散色判断部及び形状判断部が別々にそれぞれ分散色を判断し、形状を判断するようにすることもできる。
【0080】
上記に加えて、前記実施形態では形状判断部が、全繊維数に対する分散色を示すアスペクト比3以上の繊維の割合を算出するものであったが、さらにこの割合に基づいて、計測した試料が「アスベスト含有試料」又は「アスベスト含有せず」をさらに判断することも考えられる。
【0081】
前記実施形態において分散色データは、RGB基準データであったが、その他にも分散色の色相、彩度、明度を示すHSB基準データも加えたものも考えることができる。
【0082】
加えて、前記第2実施形態の比較判定部は、繊維数が最も多い分散色によって、サンプルに含まれるアスベストを判定するようにしているが、この他にも、繊維数の比較結果をパラメータとして、サンプルに含まれるアスベストを判定するようにしても良い。例えば、比較した結果、異なる分散色を示す繊維数が同数あるいはその差が所定値以内であれば、それら分散色により特定されるアスベスト両方を含んでいると判定するようにしても良い。一方、繊維数の差が所定値以上であれば、多い方の分散色により特定されるアスベストが含まれていると判定するようにしても良い。
【0083】
その他、前記実施形態を含む前記した各構成を適宜組み合わせるようにしてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の一実施形態に係るアスベスト検出装置の模式的構成図。
【図2】同実施形態における所定領域及び磁性体の軌道を示す図。
【図3】同実施形態における所定領域及び磁性体の移動態様を示す図。
【図4】同実施形態における画像処理装置の機器構成図。
【図5】同実施形態における画像処理装置の機能構成図。
【図6】アスベスト標準試料の分散色を示す一覧表。
【図7】同実施形態におけるアスベスト検出装置の動作を示すフローチャート。
【図8】本発明の第2実施形態に係るアスベスト判断部の機能構成図。
【図9】アスベストの分散曲線と浸液の分散曲線とを示す図。
【符号の説明】
【0085】
1 ・・・アスベスト検出装置
2 ・・・位相差顕微鏡
41 ・・・画像データ取得部
D1 ・・・分散色データ格納部
42 ・・・アスベスト判断部
D2 ・・・画像データ格納部
26 ・・・試料台
7 ・・・フィルタ
8 ・・・磁性体
29 ・・・磁性体移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベストを含有する試料に磁力を作用させて、アスベストを所定領域に集める収集ステップと、
前記収集ステップにより前記所定領域に集められたアスベストを計測する計測ステップと、を備えているアスベスト検出方法。
【請求項2】
前記収集ステップにおいて、前記試料と特定の屈折率を有する浸液とを混合した後に、磁力を作用させてアスベストを所定領域に集めるようにしている請求項1記載のアスベスト検出方法。
【請求項3】
分散染色法を用いて試料中のアスベストの検出を行うアスベスト検出装置であって、
前記試料が載置される試料台と、
前記試料台上の試料に磁力を作用させる磁性体と、
前記磁性体を前記試料台に対して移動させる磁性体移動機構と、を備えているアスベスト検出装置。
【請求項4】
前記磁性体が、磁石である請求項3記載のアスベスト検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−218640(P2007−218640A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37246(P2006−37246)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】