説明

アダプティブアレーアンテナ装置の制御方法

【課題】干渉波の影響を抑制し、所望波に対して高いSINRを実現する。
【解決手段】アダプティブアレーアンテナ装置100は、指向性制御可能なm0個の指向性可変アンテナ素子AN−m(mはm0以下の自然数、以下同じ)と、無線受信機R−mと、適応制御コントローラC1と、重み付け装置(乗算器)W−mと、信号合成装置(加算器)p1とを備えている。無線受信機R−mは低歪増幅器(LNA)、ダウンコンバータ(D/C、I相/Q相の2信号を出力するもの)、アナログディジタル変換器(A/D)により構成されている。図1のアダプティブアレーアンテナ装置100は、適応制御コントローラC1によって、各アンテナ素子の指向性および乗算器で乗ずる重み係数を制御することで、所望波に対して高いSINRを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指向性を制御できる複数のアンテナ素子からなるアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法に関し、所望波と干渉波の間の空間相関係数を適応的に低減するための制御アルゴリズムに関する。
【背景技術】
【0002】
所望波と干渉波が到来する状況で、干渉波を抑圧しながら所望波のみを受信するには一般にアダプティブアレーアンテナが用いられる。装置および制御方法はすでに各種提案されており、その一例を図9に示す。
【0003】
図9のアダプティブアレーアンテナ装置900の構成は以下の通りである。各アンテナ素子ANn−1及至ANn−mは指向性が不変のアンテナ素子であり、それぞれの空間相関が小さくなるように配置されている。各アンテナに接続した無線受信機R―1及至R−mによって受信信号が得られる。このm個の受信信号から、SINR(Signal to Interference plus Noise Ratio)が最大となるように、適応制御コントローラC1により各受信信号の重み係数が算出されて、重み付け装置(乗算器)W−1及至W−mにおいて各受信信号に重み係数が乗ぜられて、信号合成装置(加算器)p1により合成信号が得られる。尚、無線受信機R―1及至R−mは低歪増幅器(LNA)、ダウンコンバータ(D/C、I相/Q相の2信号を出力するもの)、アナログディジタル変換器(A/D)により構成されている。
【0004】
アダプティブアレーアンテナによって干渉波が抑圧可能であることの判断基準として、空間相関係数がある(非特許文献1)。空間相関係数が小さいほど干渉波の抑圧が容易であり、また、最適ウェイト計算の収束も早い。
【0005】
非特許文献1では、アダプティブアレー装置の各アンテナ素子が指向性を持つ場合の空間相関係数の静特性についても述べられており、適切に各アンテナ素子の指向性を変化させることにより、無指向性の場合と比べて所望の方向に対して空間相関係数を低減できることが示されている。
【0006】
また、アナログ的に指向性を制御できるアンテナ素子として、給電素子と無給電素子から構成され、無給電素子に装荷された可変リアクタンス値を変化させることによって指向性を制御することができる簡易構造指向性制御アンテナの開発が行われている。このアンテナ装置は無給電素子を給電素子に対して、導波器または反射器として有効に動作させることできわめて容易に指向性の制御を行うことができる。
【0007】
前記簡易型指向性制御アンテナの従来例のひとつであるエスパアンテナ(ESPAR antenna; Electronically Steerable Passive Array Radiator antenna)は特許文献1等で報告されている。エスパアンテナ構成の一例を図10に示す。また、その単一ユニットにおける指向性制御方法も特許文献1等で報告されている。
【0008】
簡単に図10のエスパアンテナ10の構成を説明する。図10.Aは、給電素子A0と、各々に可変リアクタンス素子が接続された6本の無給電素子A1〜A6とを有するエスパアンテナ10の構成を示す斜視図である。これら給電素子A0と無給電素子A1〜A6は、鉛直方向に設けられた線状導体であって、水平に配設された接地導体11の7箇所の孔部110〜116を通して、接地導体11に触れることなく上方向に設けられている。7箇所の孔部110〜116の配置は、中央部に孔部110を設け、孔部110を中心として正六角形の頂点の位置に孔部111〜116を設ける。このように給電素子A0と無給電素子A1〜A6は、接地導体11の7箇所の孔部110〜116を通して例えば同一の長さで設けられている。
【0009】
図10.Bは、給電素子A0と無給電素子A1及びA4が一平面上に形成されることから、当該面による断面図を示すものである。接地導体11の孔部110の下では、給電素子A0は同軸ケーブル5の芯線に接続され、受信機に接続される。接地導体11の孔部111及び114の下では、無給電素子A1及びA4は他端が接地された可変リアクタンス素子12−1及び12−4に接続されている。全く同様にして、6個の無給電素子A1〜A6は、接地導体11の孔部111〜116の下で、他端が接地された可変リアクタンス素子12−1乃至12−6(全ては示していない)に接続されている。
【0010】
図10.Cは、可変リアクタンス素子とその制御方法の一例を示す回路図である。図10.Cのように、線状導体である無給電素子A1〜A6には、各々バラクタダイオード12−1〜12−6の負極が接続されている。また、バラクタダイオード12−1〜12−6の正極は接地されている。適応制御コントローラCから、抵抗14−1〜14−6を介してバラクタダイオード12−1〜12−6の負極に印加する電位を調整することで、バラクタダイオード12−1〜12−6を可変リアクタンス素子として作用させることができる。尚、適応制御コントローラCと抵抗14−1〜14−6との接続点は他端が接地されたコンデンサ15−1〜15−6が接続されている。バラクタダイオード12−1〜12−6の負極に、適応制御コントローラCから、抵抗14−1〜14−6を介して印加する電位をを変化させることで、バラクタダイオード12−1〜12−6を可変リアクタンス素子として作用させることができる。
【0011】
このような簡易型指向性制御アンテナ素子を複数用いて構成されたアダプティブアレーアンテナについて、特許文献2で報告されている。
【特許文献1】特開2004 134873
【特許文献2】特開2004 064743
【非特許文献1】Heng-Cheng Lin,“Spatial Correlations in Adaptive Arrays,”IEEE Trans. Antennas Propagat., vol. AP-30, pp. 212-223, March 1982.
【非特許文献2】R. J. Dinger,“Reactively steered adaptive array using microstrip patch at 4GHz,”IEEE Trans. Antennas & Propag., vol. AP 32, no. 8, pp. 848 856, Aug. 1984.
【非特許文献3】T. Ohira et al.,“Electronically steerable passive array radiator antennas for low-cost analog adaptive beamforming,”2000 IEEE International Conference on Phased Array System & Technology pp. 101-104, Dana point, California, May 21-25, 2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
アダプティブアレーアンテナにグレーティングローブあるいはグレーティングヌルが存在する場合には、所望波方向以外にも空間相関係数の絶対値が1に近い方向が存在し、その付近では干渉波の抑圧が困難となる。通常、アダプティブアレーでは設計段階でグレーティングローブを避けるために、アンテナ素子の間隔を半波長としている。
【0013】
しかしながら、同一チャネル干渉とフェージングが同時に存在する状況では、干渉波抑圧に加えてフェージング対策も行う必要があり、前述のように素子間隔が狭いと各アンテナ素子の相関が高いため、フェージングに対して十分なダイバーシチ効果を得ることができない。一方で、素子間隔を広げると、各素子の相関が低減してダイバーシチ効果が高くなるが、空間相関係数が1に近い方向が所望波方向以外にも出現し、その付近では干渉波の抑圧が困難となる。その他にも、アンテナ素子間の相互結合の低減や、ビーム幅を鋭くするといった目的により、素子間隔を一定値以上保ちたい場合がある。このときにも、上述の空間相関係数の問題から干渉波抑圧困難な方向が存在する。
【0014】
この問題に対し、アダプティブアレーの各アンテナ素子の指向性を電波伝搬環境に合わせて適切に変化させることにより、所望波・干渉波間における空間相関係数の低減が期待できる。しかしながら、空間相関係数は所望波と干渉波の到来角度を変数に含むため、空間相関係数を直接低減するためには到来方向をあらかじめ知っておかなければならず、現実的ではない。そこで、ブラインド制御により空間相関係数を適応的に低減することが重要となるが、これまでにそれを実現する具体的なアンテナ構成および制御方法についての報告がない。
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、複数の指向性可変アンテナ素子によって構成されるアダプティブアレーアンテナにおいて、到来方向に関する予備知識なしに、所望波と干渉波の間の空間相関係数に対して、適応的に低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
すなわち、本発明の第1の手段は、各々の指向性を独立に制御可能な複数の指向性アンテナ素子と、前記複数の指向性アンテナ素子毎に、その受信信号に対してそれぞれ決定された重み係数を乗ずる複数の乗算器と、前記複数の乗算器の出力を加算する加算器とを有するアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法であって、前記複数の指向性アンテナ素子の各指向性を変化させて受信を行い、前記複数の指向性アンテナ素子による受信信号によって構成される相関行列における、固有値または固有ベクトルを変数とする目的関数が最大または最小となる前記複数の指向性アンテナ素子の各指向性を決定する手順と、当該決定された前記複数の指向性アンテナ素子の各指向性における前記複数の受信信号に対する重み係数を、干渉波の影響を抑制するように決定する手順とを含むことを特徴とするアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法である。
【0017】
第2の手段は、上記の第1の手段において、前記複数の指向性可変アンテナ素子のそれぞれが、1つの給電素子と、前記給電素子から所定の間隔だけ離れて設けられた複数の無給電素子と、前記無給電素子に装荷された複数の可変リアクタンス素子から構成され、前記可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより指向性可変アンテナ素子の指向性を制御可能であることを特徴とする。
【0018】
第3の手段は、上記の第1の手段において、前記複数の指向性アンテナ素子のそれぞれが、2点1組の給電点から成る給電部を備えて1つの基準平面上に配置された1つの主のループ配線と、前記主のループ配線と平行または同一平面上に配置された、給電点を備えない少なくとも1つの従のループ配線とを有するアンテナ素子であって、各前記ループ配線は、それぞれ互いに交点及び接点を持たず、前記従のループ配線に囲まれた平面領域の中心点は、前記主のループ配線に囲まれた平面領域の中心点を通る、前記基準平面に垂直な1つの垂直断面上に位置しており、任意の1つの前記ループ配線によって囲まれる平面領域は、前記基準平面の法線方向から見たときに、隣り合う他の前記ループ配線によって囲まれる他の平面領域と部分的に重なって見え、前記従のループ配線は、前記垂直断面上の2箇所にそれぞれ可変リアクタンス素子を有し、前記主のループ配線は、前記垂直断面上の1箇所に可変リアクタンス素子を有し、前記垂直断面上の他の1箇所に前記給電部を有するものであり、前記給電点を前記給電素子、前記金属ループ配線に備えられた複数の可変リアクタンス素子を前記複数の無給電素子とみなし、前記金属ループ配線に備えられた複数の可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより指向性を変化させることを特徴とする。
【0019】
第4の手段は、上記の第1の手段において、前記複数のアンテナ素子のそれぞれが、複数の指向性微小アンテナ素子を切り替えることにより指向性制御を実現することを特徴とする。
【0020】
第5の手段は、上記の第2または3の手段において、前記複数の指向性可変アンテナ素子の各指向性を決定する手順は、前記可変リアクタンス素子の各リアクタンス値における前記目的関数値に基づいて、反復的な非線形計画法を用いて前記目的関数値を最大または最小にする各指向性を決定する手順であることを特徴とする。
【0021】
第6の手段は、上記の第2または3の手段において、前記複数のアンテナ素子それぞれに設けられた複数の可変リアクタンス素子のリアクタンスセット値を所定の数だけ用意し、前記リアクタンスセット値をアンテナ素子ごとに順次切替えて、各リアクタンス値に対して前記目的関数を計算する手順と、前記目的関数値を最大または最小にするための前記リアクタンス値を設定する手順とを有することを特徴とする。
【0022】
第7の手段は、上記の第1乃至第6の何れか1つの手段において、前記目的関数が前記固有値の中で、雑音電力よりも大きい最小固有値であることを特徴とする。
【0023】
第8の手段は、上記の第1乃至第6の何れか1つの手段において、前記目的関数が前記固有値の中で、雑音電力よりも大きいすべての固有値同士の積であることを特徴とする。
【0024】
第9の手段は、上記の第1乃至第6の何れか1つの手段において、
前記目的関数が前記固有値の中で、雑音電力よりも大きいすべての固有値同士の積を和で割ったものであることを特徴とする。
【0025】
第10の手段は、上記の第1乃至第9の何れか1つの手段において、前記アダプティブアレーアンテナ装置は移動体における通信に用いられるものであって、前記移動体の移動速度又は位置情報に応じて、指向性及び重み付けの更新頻度を変化させることを特徴とする。
【0026】
第11の手段は、上記の第5の手段において、前記アダプティブアレーアンテナ装置は移動体における通信に用いられるものであって、前記移動体の移動速度又は位置情報に応じて、非線型計画法におけるリアクタンス値の変化幅の大きさを変化させることを特徴とする。
【0027】
第12の手段は、上記の第1乃至第11の何れか1つの手段において、水平面内の任意の方向に対し、当該方向にビームを向けることが可能である指向性アンテナ素子が複数の指向性アンテナ素子全体のうちに1個以上存在することを特徴とする。
【0028】
第13の手段は、上記の第1乃至第12の何れか1つの手段において、前記指向性を制御可能な複数の指向性可変アンテナ素子が、それぞれ通信に用いられる波長λ以上離れて設置されていることを特徴とする。
【0029】
また、第14の手段は、上記の第1乃至第13の何れか1つの手段において、前記指向性を制御可能な複数の指向性アンテナ素子を、前記指向性を制御可能な1個以上の指向性アンテナ素子と、指向性が固定された1個以上のアンテナ素子とを含む複数のアンテナ素子に置き換えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
第1の手段によれば、アダプティブアレーアンテナの各素子に指向性制御可能なアンテナ素子を用いることによって、刻々と変化する電波到来環境において、所望波と干渉波の間の空間相関係数を低く保ち、干渉波抑圧能力を維持することができる。また、受信信号の相関行列による固有値・固有ベクトルを目的関数とする規範を用いることで、各アンテナブランチの指向性を、統合的な制御によって最適な状態にすることができる。このため、各アンテナ素子で個別に制御を行うよりも装置が小規模で済み、また、自己矛盾のない制御が可能である。このとき、所望波および干渉波の電力や到来角、参照信号などの予備知識を必要とせず、ブラインド処理が可能である。
【0031】
また、各指向性可変アンテナ素子の位置関係を必要としないため、アダプティブアレーアンテナ搭載の自由度が高い。
【0032】
以上の制御により、グレーティングローブに起因する空間相関係数の問題を解決することが可能であり、高いダイバーシチ効果と干渉波抑圧能力をもつアダプティブアレーアンテナが実現できる。
【0033】
第2の手段によれば、指向性を独立に制御可能な指向性可変アンテナ素子が簡易な構造で実現できる。
【0034】
第3の手段によれば、ループ配線によって囲まれた面積を貫く磁束を共有することによって、平板構造でありながら、給電点を備えた主のループ配線の半分と、その他の給電点を備えないループ配線の半分との間に高い相互結合を達成する事ができ、パタン形成能力や制御能力の高い指向性可変アンテナ素子を実現できる。 したがって、搭載位置に制限のある場合や、各指向性可変アンテナ素子が鋭いビームを絞ることが求められる場合に有効である。
【0035】
第4の手段によれば、微小指向性アンテナ素子の切り替え装置のみで各指向性アンテナ素子の指向性を変化させることができるため、単純な構成で実現可能である。
【0036】
第5の手段によれば、前記目的関数に対して最急勾配法などの非線形計画法を用いることで、速やかに所望の状態に収束させることができる。すべてのリアクタンス値に対して、同一の目的関数を用いて制御を行うため、統合的な制御が可能となる。また、連続的に各アンテナの指向性を変化させるため、精度の高い制御が可能となる。
【0037】
第6の手段によれば、各指向性可変アンテナ素子にあらかじめ用意しておいたリアクタンス値に対応する指向性の組み合わせの中で、もっとも目的関数が所望の値に近いものを解とするため、速やかに解を求めることができる。電波伝搬環境の変化が非常に速い場合においても、解を速やかに追従させるのに有効である。
【0038】
第7の手段によれば、第7の手段によれば、固有値が示すすべての到来波に対し受信電力の和を大きくし、かつ、各到来波の入力電力の差と空間相関係数を小さくするように指向性を制御できる。このため、空間相関係数低減後の最適制御によって、高いSINRを達成できる。
【0039】
第8の手段によれば、各到来波の電力に関係なくすべての波に対して同等に指向性を向けようとし、かつ、空間相関係数を小さくするように各アンテナの指向性を制御する。このため、干渉波電力が大きい場合には、所望波に比べて高い電力のまま受信をして、空間相関係数低減後の最適制御においてより高いSINRを実現できる。
【0040】
第9の手段によれば、各到来波における入力電力の逆数の和を小さくしようとし、かつ、空間相関係数を小さくするように各アンテナの指向性を制御する。このため、強い電力の到来波に比べて、弱い電力の到来波に対して優先的にビームを向けようとする。
【0041】
第10及び第11の手段によれば、移動体の移動速度に応じた適切な制御、及び移動体の周囲の電波遮蔽物を考慮した適切な制御を行うことができる。移動通信では速度に応じて電波環境の変化するスピードが変化するため、そのスピードに応じて制御を行うことで、通信品質の向上と計算リソースの節約が可能である。
【0042】
また、移動通信では、伝搬路の遮蔽に伴うマルチパスによるフェージングが伝搬劣化の要因となる。そのマルチパスの度合いは、例えば市街地のビルに囲まれたような環境では強くあらわれ、一方で郊外地のような基地局から見通しがよい環境では弱くなる。このため、伝搬環境に応じて前記目的関数の更新頻度を適切に設定することで、通信品質の向上と計算リソースの節約が可能である。
【0043】
第12の手段によれば、水平面で全方位(360deg)のいずれの方向から到来する電波に対して適切な制御を行うことができる。アンテナは車両搭載時に車体の影響を受け、指向性が大きく歪む。このため、指向性可変アンテナ素子においては、ビームを走査できない範囲が生じることが考えられる。このことを考慮して、指向性可変アンテナ素子を複数用いて構成するシステムにおいては、水平面内360degの任意の点で少なくとも1素子はビームを向けることができるようにアンテナ素子を配置することで、制御範囲を確保することができる。
【0044】
第13の手段によれば、各アンテナ素子が波長よりも十分離れていないと電磁的に結合し、所望の指向性制御が達成できないことがあるため、各アンテナ素子を一波長以上離して設置することで所望の性能を確保できる。特に、各アンテナ素子に相互結合を利用する可変リアクタンス素子装荷の指向性制御アンテナを用いる場合には重要である。
また、空間相関がない程度にアンテナ素子を離して設置することで、高いダイバーシチ効果を得ることができる。
【0045】
以上はアダプティブアレーアンテナを構成する全てのアンテナ素子が指向性可変アンテナ素子であることを前提としているが、そこに指向性不変のアンテナ素子を加えても、効果が減ずることは無いことは明らかである。更には、指向性可変アンテナ素子を1個以上、指向性不変のアンテナ素子を1個以上としても、同様の効果を有するアダプティブアレーが期待できる(請求項14)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
〔アダプティブアレーアンテナ装置100の構成〕
図1は本発明に係る第1の実施例であるアダプティブアレーアンテナ装置100の構成を示す構成図である。アダプティブアレーアンテナ装置100は、図1に示すように、指向性制御可能なm0個の指向性可変アンテナ素子AN−m(mはm0以下の自然数、以下同じ)と、無線受信機R−mと、適応制御コントローラC1と、重み付け装置(乗算器)W−mと、信号合成装置(加算器)p1とを備えている。尚、無線受信機R−mは低歪増幅器(LNA)、ダウンコンバータ(D/C、I相/Q相の2信号を出力するもの)、アナログディジタル変換器(A/D)により構成されている。図1のアダプティブアレーアンテナ装置100は、適応制御コントローラC1によって、各アンテナ素子の指向性および乗算器で乗ずる重み係数を制御することで、所望波に対して高いSINRを実現するものである。
【0048】
前述のように、各アンテナ素子の指向性を制御することで、グレーティングローブが存在するアダプティブアレーアンテナに対して、所望波と干渉波の間の空間相関係数を低減する。制御アルゴリズムは、各アンテナ素子の受信波の相関行列から固有値を求め、当該固有値の関数である目的関数Jの極値を求める。この制御アルゴリズムに応じて各アンテナの指向性を制御することで、所望波と干渉波の間の空間相関係数を低減できることを、数値シミュレーションを用いて以下に示す。
【0049】
図2のように2つの指向性アンテナ素子k1、k2を用いて、それらの間隔dを、所望波の波長λに等しく置く。図のように2つの指向性アンテナ素子k1、k2を結ぶ線分の垂直二等分線方向にx軸(方向0deg)をとる。また、指向性アンテナ素子k1、k2として、図10のエスパアンテナ10を用いるとする。
【0050】
各エスパアンテナ10(アンテナ素子k1、k2)の複素指向性をD1,D2と置くと、それらはそれぞれ6個のリアクタンス値と角度θの関数である。図3の手順に従って、リアクタンス値xm,k(m=1,2;k=1〜6)の各成分それぞれ微小値Δxだけ摂動させて、目的関数の勾配値∇Jを求め、目的関数の最大または最小を求めるために最急勾配法を適用するものである。
【0051】
〔図3の概要〕
適応制御コントローラC1から複数の可変リアクタンス素子のリアクタンス値を与えることにより、各アンテナの指向性を連続的に制御することができる。
【0052】
各指向性可変アンテナ素子AN−mは各々k個(kはk0以下の自然数)の可変リアクタンス素子を備えている。本実施例では反復的な非線形アルゴリズム、例えば最急降下法を用いて、適切なリアクタンス値、固有値、および固有ベクトルを求め、ひとつまたは複数の所望波に対して高いSINRを達成するように指向性を制御できることを示す。
【0053】
図3の手順に従って、リアクタンス値xm,kの各成分を順次所定の微小値Δxm,kだけ摂動させて受信信号を得て、受信信号の相関行列から目的関数Jの変化分(偏微分値)を得て勾配値∇Jを求め、目的関数の最大または最小を求めるために最急勾配法を適用する。繰り返し数L0だけ手順を繰り返したのち、目的関数Jが最大または最小となったとして、例えば最適化アルゴリズムを適用するなどして求めたウェイトベクトルのm番目の要素を受信信号ym(t)に対応する重み係数として乗算器W−mに出力すれば、図1のアダプティブアレーアンテナ装置100において、所望波に対して高いSINRを実現できる。
【0054】
〔図3の詳細〕
図3のフローチャートを、例えば目的関数Jとしてm0個の受信信号ym(t)によるm0行m0列の相関行列の所定番目に大きい固有値であって、当該固有値を最大とする場合のm00個のリアクタンス値xm,kの組{xm,k}を求める場合として説明する。尚、m00個のリアクタンス値xm,kを、1番からm00(=n0)番まで番号を振って、単にxn(nはn0以下の自然数)と示す。同様にΔxm,kを、単にΔxnと示す。尚、全てのΔxnを同一の微小値Δxと設定しても良い。また、リアクタンス値xm,kの組{xm,k}、即ちリアクタンス値xnの組{xn}のL回目の更新を単にx(L)と示す。x(L)はm00個のリアクタンス値から成るm00次のベクトルである。また、リアクタンス値xnの組{xn}の初期値は、リアクタンス値xm,kの全要素が、例えば0であるとする。また、比較のため、各リアクタンス値xm,kの取りうる最大値、最小値を別途記憶しておく。
【0055】
図3のようにステップ100(図3ではS100と記載、以下同じ)で、まず、自然数カウンタLの初期値を1とし、ステップ102に進む。ステップ102では自然数カウンタnの初期値を1とし、ステップ104に進む。
【0056】
ステップ104では第L回の更新のための受信信号として、m00(=n0)個のリアクタンス値xnの組{xn}即ちベクトルx(L)によりm0個の指向性可変アンテナ素子AN−mの指向性を設定して、所定時間、受信信号ym(t)を得てステップ106に進む。
【0057】
ステップ106では、m0個の受信信号ym(t)によるm0行m0列の相関行列から、固有値演算を行い、目的関数Jの値を計算する。本実施例では相関行列の所定番目に大きい固有値である。このJの値を比較対象値JSとして記憶し、ステップ108に進む。
【0058】
ステップ108では、n番目のリアクタンス値xnのみについて、微小値Δxnだけ増加させる。上述の通り、全ての微小値Δxnを同一の値Δxとしても良い。次にステップ110に進む。
【0059】
ステップ110では、n番目のリアクタンス値xnのみ更新されたm00(=n0)個のリアクタンス値xnの組{xn}、即ちベクトルx(L)によりm0個の指向性可変アンテナ素子AN−mの指向性を設定して、所定時間、受信信号ym(t)を得てステップ112に進む。
【0060】
ステップ112では、m0個の受信信号ym(t)によるm0行m0列の相関行列から、固有値演算を行い、目的関数Jの値を計算する。本実施例では相関行列の所定番目に大きい固有値である。次にステップ114に進む。
【0061】
ステップ114では、このJの値の比較対象値JSに対する増加分を、n番目のリアクタンス値xnに対する目的関数Jの偏微分値として記憶し、ステップ116に進む。
【0062】
ステップ116では、n番目のリアクタンス値xnのみについて、微小値Δxnだけ減少させる。これにより、n番目のリアクタンス値xnは、ステップ108で更新する前の値に戻る。次にステップ118に進む。
【0063】
ステップ118では、nが最大値であるn0(=m00)以上であるかどうかを判定し、nが最大値であるn0(=m00)以上でなければステップ120に、nが最大値であるn0(=m00)以上であればステップ122にそれぞれ進む。ステップ120では、nをn+1に更新して、ステップ108に進む。
【0064】
ステップ122では、今回L回目の更新でのJの勾配である、n0(=m00)個の値を有するベクトル∇J(L)(n番目の要素がn番目のリアクタンス値xnに対する目的関数Jの偏微分値)をμ倍して、ベクトルx(L)に加えて、ベクトルx(L+1)を求めて記憶する。このμは、最急降下法におけるステップ量である。この際、ベクトルx(L)は消去して良いが、ベクトルx(L+1)のn0(=m00)個の要素、即ちxm,kのうち、1個でもその取りうる最大値を超える場合はx(L+1)=x(L)とするものとする。次にステップ124に進む。
【0065】
ステップ124では、Lが最大値であるL0以上であるかどうかを判定し、Lが最大値であるL0以上でなければステップ126に、Lが最大値であるL0以上であればアルゴリズムを終了する。ステップ126では、LをL+1に更新して、ステップ102に進む。
【0066】
こうして、n0(=m00)次のベクトルx(L0+1)のm00個のリアクタンス値xm,kによりm0個の指向性可変アンテナ素子AN−mの指向性を設定することができる。目的関数として例えば雑音でない最小の固有値を用い、それを最大とするように実施し、例えば最適化アルゴリズムなどによって求めた適切な重み係数で重み付けを行うことにより、図1のアダプティブアレーアンテナ装置100において、干渉波の影響を抑制し、所望波に対して高いSINRを実現できる。
【0067】
〔本発明の前半についてのシミュレーション〕
可変リアクタンス素子を装荷した指向性可変アンテナ素子AN−1及至AN−m0に、図10に示す7素子エスパアンテナ10を2ユニット用い、m0=2、k0=6としてシミュレーションを行った。各アンテナの配置は実施例1の場合と同様とし、それぞれのアンテナ素子を図2におけるk1,k2の配置とした。また、簡単のため、リアクタンス値xm,kの初期値(最小値)は0とした。
【0068】
水平面内で所望波が0deg、干渉波がφdeg(φ=30,60,90,120,150,180)から到来しているとして、シミュレーションを行った。SIRは−10dB、0dB、10dBとした。そのとき結果である、空間相関係数|ρ|の分布を図4.A〜4.Fに示す。また、比較のために各アンテナが無指向性であるときの空間相関係数の分布を図5に示す。ここで、空間相関係数|ρ|は、所望波到来角をθ1、干渉波到来角をθ2、アンテナが無指向性のときのアレー応答ベクトルをv(θ)として以下の式で計算できるものとする。
【数1】

【0069】
以上の結果より、提案する制御方法では干渉波の到来角に合わせて適応的に空間相関係数が低減していることが確認できる。それに比べて、各アンテナが無指向性のときには、90degと180deg付近では空間相関係数の絶対値が1に近く、干渉波の抑圧能力が低いことがわかる。
【0070】
〔本発明の後半についてのシミュレーション〕
前段の制御は、各アンテナ素子の指向性の制御により、所望波・干渉波共にできるだけ大きい電力で受信し、尚且つそれらが分離可能な状態で受信しようとするものである。しかしながら、この段階では受信信号に所望波及び干渉波が混在している。このため、次段として、最適化アルゴリズムなどで適切な重み係数を求め、所望波のみを効果的に受信することが重要であり、これによって初めて前段の制御を生かすことができる。
一方で、各素子が無指向性の従来のアダプティブアレーでは、本発明適用時と比べて、所望波が分離不可能な状態にある場合が有り、そのような状態ではいかなる最適化アルゴリズムを適用しても、所望波のみを受信するような適切な重み係数が存在しない。
従って、本発明において前段の制御と後段の制御を両方行うことにより、初めて高いSINRを実現することができる。
その一例として再帰的最小2乗法(Recursive Least-Squares : RLS)による最適制御の合成パタンの結果を図6.A〜6.Fに、0degに対する一様励振の合成パタンの結果を図7.A〜7.Fにそれぞれ示す。RLS、一様励振ともに、どの方向にも干渉波を効果的に抑圧しており、本制御の有効性が確認できた。
【0071】
上記の一様励振では、所望方向に対して同相になるような重み付けを行うため、到来方向が既知であればウェイトベクトルの計算をすることなしに高いSINRの受信が可能となる。また、所望方向が未知の場合にも、相関ベクトルをウェイトベクトルとして用いることで一様励振が実現可能である。このため、RLS等の最適制御を行うときに比べて相関行列を求める必要がなく、少ない計算でウェイトベクトルを求めることが出来る。
【0072】
〔空間相関係数と固有値の関係と目的関数の例〕
到来波2波の場合には、空間相関係数と固有値の間には以下の関係が成り立つ。
【数2】

ただし、
【数3】

とした。
【0073】
このため、第2固有値を大きくする規範では、第一項、第二項より入力電力の和を大きくし、かつ、平方根の中身より入力電力の差と空間相関係数の絶対値を小さくしようと働くことがわかる。この性質はアンテナ数や到来波数が増えても一般的に適用できる。例えば、上記の第2固有値を大きくする規範の代わりに、雑音電力より大きい固有値の中の最小固有値を大きくする規範を用いればよい。
【0074】
また、他の実施例として目的関数として雑音電力より大きい固有値同士の積を用いてもよい。到来波2波の場合には前述と同様にして以下の式で表せる。
【数4】

【0075】
このため、この規範では、各到来波の電力にかかわらず、到来波に対してビームを向けようとし、かつ、空間相関係数を小さくしようとする。
【0076】
このほか、目的関数として雑音電力より大きい固有値同士の積を和で割ったものを用いてもよい。到来波2波の場合は以下の式で表せる。
【数5】

【0077】
この規範では、各入力電力を大きくしようとし、空間相関係数を小さくしようと働く。ただし、各入力電力の逆数の和を小さくしようとしているため、どちらかの波の入力電力に差があるときに、小さいほうの波を優先的に受信しようとする。
【0078】
到来波が2波より多い場合には、例えば、以下に示す雑音電力より大きい固有値同士の逆数の和の逆数を大きくする規範を用いてよい。
【数6】

【0079】
その他にも、以下に示す雑音電力より大きい固有値同士の積を和で割ったものを大きくする規範を用いてもよい。
【数7】

【0080】
〔変形例〕
実施例2では各アンテナ素子に図10のアンテナを用いたが、他の構造のアンテナ素子を用いてもよく、例えば、図8に示す平面構造可変リアクタンス装荷指向性制御アンテナ20を用いてもよい。これは本願の請求項3に言う主のループ配線と従のループ配線とから成るアンテナ素子に対応する。図8の平面構造可変リアクタンス装荷指向性制御アンテナ20は本願出願人らによる特願2005−159014で述べている。以下、簡単に説明する。
【0081】
図8のアンテナ20が備える給電素子A11、無給電素子P11aおよび無給電素子P11bの各ループ配線の平面形状はそれぞれ円形になっている。この給電素子A11が主のループ配線に相当している。また、無給電素子P11aおよび無給電素子P11bが、従のループ配線に相当する。給電素子A11は、図8のyz平面に平行な基準平面Σ0上に配置されている。また、無給電素子P11a及び無給電素子P11bは、この基準平面Σ0に平行な平面Σ2上にそれぞれ配置されている。ここで符号d2は、これらの基準平面Σ0と平面Σ2との距離を示している。
【0082】
また、図8の平面Σ1は、給電素子A11の中心点C0を通る、平面Σ0に垂直な平面(以下、垂直断面Σ1と言う)である。垂直断面Σ1は、xy平面に平行な面であり、主のループ配線が囲む平面領域に対して垂直に交わり、従のループ配線(無給電素子P11aおよび無給電素子P11b)の中心点Ca,Cbは何れもこの垂直断面Σ1上に配置されている。
図8の符号d1aは、無給電素子P11aの中心点Caから主のループ配線の中心点C0までの距離を示している。また同様に、符号d1bは、無給電素子P11bの中心点Cbの中心点C0までの距離を示している。より詳しく言えば、給電素子A11に対して、それぞれの従のループ配線(無給電素子P11aおよび無給電素子P11b)は、所定の基準となる1波長λに対して、y軸方向においてはd1a=d1b=λ/4となる様に配置されており、かつ、z軸方向においてはd2=0.0064λとなる様に基準平面Σ0から離して設置されている。
【0083】
また、給電素子A11上には、垂直断面Σ1上に給電部F0が配置されており、このループ配線の反対側には可変リアクタンス素子X1が配設されている。その他の各可変リアクタンス素子X2〜X5についても、各ループ配線上の垂直断面Σ1上にそれぞれ1つずつ配設されている。
これらの構成により、各ループ配線における各リアクタンスの作用をも加味した各ループの実効長は、各リアクタンス素子X1〜X5の各リアクタンス値の可変制御に基づいて、何れも本アンテナ100が取り扱う目的の電磁波の1波長に一致する様に可変制御することができる。
【0084】
なお、可変リアクタンス素子X1〜X5はバリキャップダイオード、チップコンデンサ、チップインダクタ、チップ抵抗などのチップ部品から構成されており、バリキャップダイオードに直流電圧を加えることでリアクタンス値を変化させる。また、本実施例1では、可変リアクタンス素子X1〜X5の可変範囲をそれぞれ、−100Ωから+100Ωとした。
また、以上の実施形態においては給電素子A11、無給電素子P11a、P11bを多層構造としたが、それぞれの素子が交点を持たなければよく、同一平面で構成し、例えばブリッジをつかって交点を持たないように構成してもよい。
【0085】
以下、アンテナ20の制御理論と動作特性について説明する。
線路長が1波長λであるループアンテナA11は、近似的に給電部F0および可変リアクタンス素子X1を設置している位置に微小ダイポールアンテナが存在するとみなすことができる。同様に、無給電素子P11aおよびP11bにおいても、可変リアクタンス素子X2及至X5を設置している位置を微小ダイポールアンテナが存在するとみなすことができる。このためアンテナ100は6素子微小ダイポールアレイとして、従来のエスパアンテナの理論を適用することができる。
【0086】
隣り合う各ループ配線の中心間のy軸方向における距離d1a,d1bを適切に設定することで、ダイポールを平面状に並べたときに比べて強い結合を維持したまま更に制御素子を増設可能なことが判明している。
また、各リアクタンス素子のリアクタンス値を適切に設定することによりアンテナの指向性(放射パターン)を自在に制御可能なことが判明している。
【0087】
また、前述した様に給電部F0、可変リアクタンス素子X1〜X5を近似的に微小ダイポールとみなすことによって、指向性をアレーファクタと等価ウェイトベクトルの積で表現し、定式化することができる。そして、例えばこの様な定式化により、従来のエスパアンテナにおけるリアクタンスドメインアルゴリズムを容易に応用することができるので、本発明のアンテナ装置を用いれば、到来波の方位や位相などを精度よく推定する高度な適応制御を実行することができる。
【0088】
可変リアクタンス素子の数が制御の自由度となり、自由度分の到来波を推定できることが判明している。
【0089】
〔その他〕
また、本実施例2ではリアクタンスの初期値をすべて0とし、最急勾配法のみを用いて制御を行ったが、あらかじめ代表的なパタンを与えるリアクタンス値をいくつか用意しておき、実施例1のようにまずそれらの組み合わせの中で目的関数が最大または最小となるものを調べ、そのときのリアクタンス値を初期値として反復的な非線形計画法を行ってもよい。
その他に、各アンテナ素子において到来波推定を行い、その情報に基づいて到来波に対して指向性を向けるようなリアクタンス値を計算し、初期値として上記反復的な非線形計画法を行ってもよい。
【0090】
また、本実施例1および2では、各指向性可変アンテナ素子を同一の特性を持つと仮定したが、異なる特性を持つアンテナ素子で構成してもよい。例えば、指向性が不変のアンテナ素子をアンテナ素子の一部に用いてアダプティブアレーアンテナ装置を構成してもよい。そのほか、可変リアクタンス素子の数や、アンテナ形状の異なるアンテナ素子を用いて、アダプティブアレーアンテナ装置を構成してもよい。
【0091】
本実施例では、非線形計画法の実施例として最急降下法を用いたが、例えば、マルカート法やハミルトン法など他の非線形計画法を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施例1のアダプティブアレーアンテナ装置の説明図。
【図2】実施例1において用いた各アンテナ素子の配置説明図。
【図3】実施例1のアダプティブアレーアンテナ装置の最急降下法よる適応制御処理アルゴリズム。
【図4】提案方式実施後の空間相関係数の分布、干渉波到来角が30deg(4.A)、60deg(4.B)、90deg(4.C)、120deg(4.D)、150deg(4.E)、180deg(4.F)。
【図5】オムニパタンのアンテナを用いたときの空間相関係数の分布(従来例)
【図6】空間相関低減後のRLS適用によるパタン、干渉波到来角が30deg(6.A)、60deg(6.B)、90deg(6.C)、120deg(6.D)、150deg(6.E)、180deg(6.F)。
【図7】空間相関低減後の一様励振によるパタン、干渉波到来角が30deg(7.A)、60deg(7.B)、90deg(7.C)、120deg(7.D)、150deg(7.E)、180deg(7.F)。
【図8】実施例2のアンテナ素子の変形例。
【図9】従来のダイバーシチアンテナ装置の説明図。
【図10】従来の可変リアクタンス素子装荷指向性制御アンテナの説明図。
【符号の説明】
【0093】
AN−m:指向性可変アンテナ素子(mはm0以下の自然数、以下同じ)
R−m:無線受信機
W−m:重み付け装置
C1:適応制御コントローラ
p1:信号合成装置
k1,k2:指向性可変アンテナ素子
AN−m:可変リアクタンス素子を装荷した指向性可変アンテナ素子
A11:給電点を含む金属ループ配線
P11a,P11b:給電点を含まない金属ループ配線
A0:給電点
ANn−m:指向性不変アンテナ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々の指向性を独立に制御可能な複数の指向性アンテナ素子と、
前記複数の指向性アンテナ素子毎に、その受信信号に対してそれぞれ決定された重み係数を乗ずる複数の乗算器と、
前記複数の乗算器の出力を加算する加算器とを有するアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法であって、
前記複数の指向性アンテナ素子の各指向性を変化させて受信を行い、前記複数の指向性アンテナ素子による受信信号によって構成される相関行列における、固有値または固有ベクトルを変数とする目的関数が最大または最小となる前記複数の指向性アンテナ素子の各指向性を決定する手順と、
当該決定された前記複数の指向性アンテナ素子の各指向性における前記複数の受信信号に対する重み係数を、干渉波の影響を抑制するように決定する手順とを含むことを特徴とするアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。
【請求項2】
前記複数の指向性アンテナ素子のそれぞれが、
1つの給電素子と、前記給電素子から所定の間隔だけ離れて設けられた複数の無給電素子と、前記無給電素子に装荷された複数の可変リアクタンス素子から構成され、
前記可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより指向性アンテナ素子の指向性を制御可能であることを特徴とする請求項1に記載のアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。
【請求項3】
前記複数の指向性アンテナ素子のそれぞれが、
2点1組の給電点から成る給電部を備えて1つの基準平面上に配置された1つの主のループ配線と、前記主のループ配線と平行または同一平面上に配置された、給電点を備えない少なくとも1つの従のループ配線とを有するアンテナ素子であって、
各前記ループ配線は、それぞれ互いに交点及び接点を持たず、
前記従のループ配線に囲まれた平面領域の中心点は、前記主のループ配線に囲まれた平面領域の中心点を通る、前記基準平面に垂直な1つの垂直断面上に位置しており、
任意の1つの前記ループ配線によって囲まれる平面領域は、前記基準平面の法線方向から見たときに、隣り合う他の前記ループ配線によって囲まれる他の平面領域と部分的に重なって見え、
前記従のループ配線は、前記垂直断面上の2箇所にそれぞれ可変リアクタンス素子を有し、
前記主のループ配線は、前記垂直断面上の1箇所に可変リアクタンス素子を有し、前記垂直断面上の他の1箇所に前記給電部を有するものであり、
前記給電点を中心とする主のループ配線の半分を前記給電素子、前記可変リアクタンス素子を中心とする主のループ配線及び従のループ配線を前記複数の無給電素子とみなし、
前記複数の可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることにより指向性を変化させることを特徴とする請求項2に記載のアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。
【請求項4】
前記複数の指向性アンテナ素子のそれぞれが、更に複数の指向性微小アンテナ素子を切り替えることにより指向性制御を実現することを特徴とする請求項1に記載のアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。
【請求項5】
前記複数の指向性アンテナ素子の各指向性を決定する手順は、
前記可変リアクタンス素子の各リアクタンス値における前記目的関数値に基づいて、反復的な非線形計画法を用いて前記目的関数値を最大または最小にする各指向性を決定する手順であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。
【請求項6】
前記複数のアンテナ素子それぞれに設けられた複数の可変リアクタンス素子のリアクタンスセット値を所定の数だけ用意し、前記リアクタンスセット値をアンテナ素子ごとに順次切替えて、各リアクタンス値に対して前記目的関数を計算する手順と、
前記目的関数値を最大または最小にするための前記リアクタンス値を設定する手順とを有することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。
【請求項7】
前記目的関数が、前記固有値の中の雑音電力よりも大きい最小固有値であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。
【請求項8】
前記目的関数が、前記固有値の中の雑音電力よりも大きいすべての固有値の積であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。
【請求項9】
前記目的関数が、前記固有値の中の雑音電力よりも大きいすべての固有値の積と和の商でであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のアダプティブアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。
【請求項10】
前記アダプティブアレーアンテナ装置は移動体における通信に用いられるものであって、
前記移動体の移動速度又は位置情報に応じて、指向性及び重み付けの更新頻度を変化させることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載のアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。
【請求項11】
前記アダプティブアレーアンテナ装置は移動体における通信に用いられるものであって、
前記移動体の移動速度又は位置情報に応じて、非線型計画法におけるリアクタンス値の変化幅の大きさを変化させることを特徴とする請求項5に記載のアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。
【請求項12】
水平面内の任意の方向に対し、当該方向にビームを向けることが可能である指向性アンテナ素子が複数の指向性アンテナ素子全体のうちに1個以上存在することを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載のアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。
【請求項13】
前記指向性を制御可能な複数の指向性アンテナ素子が、それぞれ通信に用いられる波長λ以上離れて設置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載のアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。
【請求項14】
前記指向性を制御可能な複数の指向性アンテナ素子を、
前記指向性を制御可能な1個以上の指向性アンテナ素子と、指向性が固定された1個以上のアンテナ素子とを含む複数のアンテナ素子に置き換えたことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載のアダプティブアレーアンテナ装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−110365(P2007−110365A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298428(P2005−298428)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】