説明

アッテネータ

【課題】通過状態及び減衰状態において同程度の歪み特性を同程度の送信電力まで許容することができ、かつ通過状態において電力増幅器の利得圧縮特性を補償することができるアッテネータを得る。
【解決手段】リニアライザは、第5ダイオードD51〜D5nと、第3抵抗RLT1と、第6ダイオードD61〜D6nと、第1のnチャネルMOSトランジスタTr1とを有する。そして、第1,第4制御電圧端子Vc1,Vc4にロウレベルの電圧が印加され、かつ第2,第3制御電圧端子Vc2,Vc3にハイレベルの電圧が印加される場合に、第5制御電圧端子Vc5にロウレベルの電圧が印加され、第1,第4制御電圧端子Vc1,Vc4にハイレベルの電圧が印加され、かつ第2,第3制御電圧端子Vc2,Vc3にロウレベルの電圧が印加される場合に、第5制御電圧端子Vc5にハイレベルの電圧が印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AC結合、DCスタック型のBCダイオードアッテネータに関し、特に通過状態及び減衰状態において同程度の歪み特性を同程度の送信電力まで許容することができ、かつ通過状態において電力増幅器の利得圧縮特性を補償することができるアッテネータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、CDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多重接続)を行う携帯電話用の電力増幅器や、無線LAN用の電力増幅器として、GaAs−HBT(ヘテロ接合バイポーラトランジスタ)電力増幅器が広く用いられている。
【0003】
GaAs−HBTは、負のゲートバイアス電圧を必要としないため、単一電源で動作可能であり、かつGaAs−FETより均一なデバイス特性を得ることができる。このため、近年盛んに携帯電話や無線LANをはじめとするGaAs系電力増幅器に適用されている。
【0004】
しかし、通常のGaAs−HBTプロセスでRF(高周波)スイッチ素子を構成する場合、ゲート電圧印加だけでチャネルをONできるスイッチを形成できない。そのため、p−i−n接合に近い接合を持つベース−コレクタ間接合のダイオード(BCダイオード)を用いたスイッチが用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図14は、BCダイオードを用いた従来のスイッチを示す回路図である。このスイッチは、アノードが入力端子INに接続され、カソードが出力端子OUTに接続されたダイオードD1と、ダイオードD1のアノードにRF阻止インダクタL1を介して接続された制御電圧端子Vc1と、ダイオードD1のカソードと接地点の間に直列接続された抵抗R1及びRF阻止インダクタL2とを有する。
【0006】
図14のスイッチにおいて、制御電圧端子Vc1にダイオードD1のON電圧(約1.25V)以上の電圧を印加すると、ダイオードD1がOFF状態からON状態になり、ダイオードD1に抵抗R1で決まる電流Idcが流れる。このようにダイオードD1がON状態になったことで、入力端子INから入力されたRF信号が出力端子OUTに伝達される。一方、制御電圧端子Vc1にダイオードD1のON電圧より小さい電圧(負のバイアスも含む)を印加すると、ダイオードD1がOFF状態になり、RF信号の伝達を阻止する。
【0007】
また、図15は、BCダイオードを用いた従来のアッテネータ(減衰器)を示す回路図である。図14の構成に加えて、一端がダイオードD1のアノードに接続された抵抗R01と、一端がダイオードD1のカソードに接続された抵抗R02と、アノードが容量C2を介して接地され、カソードが容量C1を介して抵抗R01の他端に接続され、かつカソードが抵抗R02の他端に接続されたダイオードD2と、ダイオードD2のアノードにRF阻止インダクタL2及び抵抗R4を介して接続された制御電圧端子Vc2とを有する。
【0008】
図15のアッテネータにおいて、制御電圧端子Vc1にダイオードD1のON電圧以上の電圧を印加し、制御電圧端子Vc2にダイオードD2のON電圧より小さい電圧(負のバイアスも含む)を印加すると、入力端子INから入力されたRF信号が出力端子OUTにそのまま伝達される通過状態となる。一方、制御電圧端子Vc1にダイオードD1のON電圧より小さい電圧を印加し、制御電圧端子Vc2にダイオードD2のON電圧以上の電圧を印加すると、抵抗R01,R02及びダイオードD2のON抵抗で決まる減衰状態になる。ただし、容量C1,C2をGaAsチップ上に作製する場合はその容量が小さくなるため、容量C1,C2の動作周波数帯域におけるインピーダンス値も減衰量を決定する要因になる。
【0009】
ここで、図16は、入力端子INから入力されるRF信号を示す図である。RF信号は、ダイオードD1を通過する電流I(t)で表され、振幅の最大値はImax、周期はTである。許容入力電力は、ダイオードD1に流すバイアス電流Idcの値において挿入損失が増加しないレベルに制限される。具体的には、式(1)に示すように、ダイオードD1を通過する電流I(t)の半波の時間積分値(半波中の総電荷量に相当)が、バイアス電流Idcと時定数τの積より小さくなるように制限される。ここで、時定数τは、ダイオードの接合材料と接合状態(i層(高抵抗層)の濃度や厚み等)で決定される。
【数1】

【0010】
従って、バイアス電流Idcが同じ条件では、周波数が低いほど小さな電力しか通過できない。特に、GaAs−HBTプロセスでBCダイオードを作製する場合、HBTのRF特性でBC層が決定されるため、BC層の構造設計に自由度がない。また、Si系p−i−nダイオードに比べてGaAs系の時定数τは約2桁程度小さいため、許容入力電力はかなり小さい。よって、BCダイオードをスイッチやアッテネータに適用する場合、所望の許容送信電力を得るには、大きなバイアス電流を流す必要があった。
【0011】
【特許文献1】特開2003−347870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この問題を解決するために、発明者は図17、図18のスイッチ及びそれを用いたアッテネータを考え出した。
【0013】
図17のスイッチは、アノードが入力端子INに接続され、カソードが出力端子OUTに接続されたダイオードD1と、ダイオードD1のアノードにRF阻止インダクタL1を介して接続された制御電圧端子Vc1と、アノードがダイオードD1のカソードに接続され、カソードが容量C1を介してダイオードD1のアノードに接続されたダイオードD2と、ダイオードD2のカソードと接地点の間に直列接続された抵抗R1及びRF阻止インダクタL2とを有する。
【0014】
また、図18のアッテネータにおいて、ダイオードD1のアノードは入力端子INに接続され、ダイオードD1のカソードは出力端子OUTに接続されている。また、制御電圧端子Vc1は、RF阻止インダクタL1を介してダイオードD1のアノードに接続されている。そして、ダイオードD2のアノードはダイオードD1のカソードに接続され、ダイオードD2のカソードは容量C1を介してダイオードD1のアノードに接続されている。
【0015】
また、抵抗R01の一端はダイオードD2のカソードに接続され、抵抗R02の一端は容量C2を介してダイオードD1のカソードに接続されている。そして、ダイオードD3のアノードは容量C3を介して抵抗R01,R02の他端に接続され、ダイオードD4のカソードは容量C4を介して抵抗R01,R02の他端に接続されている。さらに、容量C5の一端はダイオードD3のカソード及びダイオードD4のアノードに接続され、容量C5の他端は接地されている。
【0016】
また、制御電圧端子Vc2は、RF阻止インダクタL2及び抵抗R2を介してダイオードD2のカソードに接続されている。そして、制御電圧端子Vc3は、RF阻止インダクタL3及び抵抗R3を介してダイオードD3のアノードに接続されている。さらに、制御電圧端子Vc4は、RF阻止インダクタL4及び抵抗R4を介してダイオードD4のカソードに接続されている。
【0017】
そして、図18のアッテネータにおいて、制御電圧端子Vc1,Vc4にダイオードD1,D4のON電圧以上の電圧(ハイレベル)を印加し、制御電圧端子Vc2,Vc3にダイオードD2,D3のON電圧より小さい電圧(ロウレベル)を印加すると、入力端子INから入力されたRF信号が出力端子OUTにそのまま伝達される通過状態となる。逆に、制御電圧端子Vc1,Vc4にダイオードD1,D4のON電圧より小さい電圧(ロウレベル)を印加し、制御電圧端子Vc2,Vc3にダイオードD2,D3のON電圧以上の電圧(ハイレベル)を印加すると減衰状態になる。なお、減衰量は、抵抗R01,R02、容量C1〜C6の容量値、バイアス電流Idc及びバイアス電圧によって決まる。
【0018】
また、ダイオードD1,D2は直流的には直列接続され、交流的には容量C1を介して並列接続されている。これにより、制御電圧端子Vc1にハイレベルの電圧を印加した際、直流のバイアス電流IdcはダイオードD1,D2で共通に流れる。一方、交流的にはIdcが2倍流れていることと等価になるため、バイアス電流Idcは見かけ上約2倍になり、式(1)のImaxが約2倍となる。従って、許容送信電力がRo・Imax・Imax/2(Roは系の特性インピーダンス)で表されることから、許容送信電力は図15の回路の約4倍に向上する。
【0019】
図19は、図15,18のアッテネータの通過電力特性を示す図である。図示のように、図18の回路では、図15の回路に比べて同じバイアス電流で許容送信電力が約6〜8dB改善した。
【0020】
図20は、図18のアッテネータの減衰時の出力特性を示す図である。ここで、信号の歪みを2信号入力時における第3次相互変調歪みPim3で表している。実験の結果、20dBの減衰状態で、高電力入力時において急激な信号歪みの増加が観測された。このような急激な信号歪みの増加は、通過状態では観測されなかった。このような信号歪みの増加は、変調信号などを用いるシステムでは信号品質の劣化に繋がるので望ましくない。
【0021】
そこで、発明者は、図21に示すように、図18の回路にリニアライザLを追加したアッテネータを考え出した。このリニアライザLは、入力端子INとダイオードD1のアノードとの間に設けられている。そして、リニアライザLは、アノードが接地され、カソードが入力端子INとダイオードD1のアノードとの接続点に接続されたダイオードD5と、入力端子INとダイオードD1のアノードとの接続点と制御電圧端子Vc5との間に接続された抵抗RLT1とを有する。
【0022】
ここで、制御電圧端子Vc5がハイレベル(例えば5V)の時は、ダイオードD5に大きな逆バイアス電圧が印加され、リニアライザLは動作しない。一方、VcLをロウレベル(例えば0V)にすると、リニアライザLは動作する。そして、入力電力Pinが高いと、リニアライザLの利得Gpが低下する。従って、高電力入力時にアッテネータの利得が上昇する。
【0023】
そこで、減衰状態においてのみ、制御電圧端子Vc5にロウレベルの電圧が印加されるように設定する。これにより、リニアライザLは、減衰状態においてのみ動作し、入力端子INから入力された信号をリニアライズする。従って、通過状態においては、リニアライザLは動作せず、アッテネータは図20の通過状態の特性を発揮することになる。
【0024】
図22は、図21のアッテネータの減衰時における特性を示す図である。利得Gpの平坦部が点線で示されるように改善され、これに対応して3次歪みPim3の特性も改善されている。よって、このアッテネータにより、減衰時における高電力入力時の歪み特性を改善することができるため、通過状態及び減衰状態において同程度の歪み特性を同程度の送信電力まで許容することができる。また、図18のアッテネータと同様に、図15の回路に比べて同じバイアス電流で許容送信電力を約6dB以上改善することもできる。
【0025】
また、図21のアッテネータATTは、低バイアス電流で大きな送信許容電力を有するので、図23に示すように電力増幅器A1〜A3の段間に設けても、アッテネータATTから生じる歪みは少ない。従って、低雑音性を有する電力増幅器を提供することができる。
【0026】
ここで、通常の電力増幅器は、図24に示すような利得圧縮特性を有する。なお、利得圧縮特性は、大半が電力増幅器部で生じるが、通過状態のアッテネータ部においても幾分生じる。従って、できるだけ線形領域(利得の平坦な領域)を伸ばすため、利得伸張特性を有するリニアライザを電力増幅器の前段に設ける必要がある。しかし、図21のアッテネータには通過状態において電力増幅器の利得圧縮特性を補償する機能がないため、利得伸張特性を有する別のリニアライザを電力増幅器の前段又は段間に設ける必要があり、チップ面積の増大を招くという問題があった。
【0027】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、通過状態及び減衰状態において同程度の歪み特性を同程度の送信電力まで許容することができ、かつ通過状態において電力増幅器の利得圧縮特性を補償することができるアッテネータを得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明に係るアッテネータは、アノードが入力端子に接続され、カソードが出力端子に接続された第1ダイオードと、第1ダイオードのアノードに接続された第1制御電圧端子と、アノードが第1ダイオードのカソードに接続され、カソードが第1容量を介して第1ダイオードのアノードに接続された第2ダイオードと、一端が第2ダイオードのカソードに接続された第1抵抗と、一端が第2容量を介して第1ダイオードのカソードに接続された第2抵抗と、アノードが第3容量を介して第1,第2抵抗の他端に接続された第3ダイオードと、カソードが第4容量を介して第1,第2抵抗の他端に接続された第4ダイオードと、一端が第3ダイオードのカソード及び第4ダイオードのアノードに接続され、他端が接地された第5容量と、第2ダイオードのカソードに接続された第2制御電圧端子と、第3ダイオードのアノードに接続された第3制御電圧端子と、第4ダイオードのカソードに接続された第4制御電圧端子と、入力端子と第1ダイオードのアノードとの間に設けられたリニアライザとを有し、リニアライザは、アノードが接地され、カソードが入力端子と第1ダイオードのアノードとの接続点に接続された第5ダイオードと、入力端子と第1ダイオードのアノードとの接続点と第5制御電圧端子との間に接続された第3抵抗と、アノードが入力端子に接続された第6ダイオードと、ゲートが第5制御電圧端子に接続され、ソースが接地され、ドレインが第6ダイオードのカソードに接続された第1のnチャネルMOSトランジスタとを有し、第1,第4制御電圧端子にロウレベルの電圧が印加され、かつ第2,第3制御電圧端子にハイレベルの電圧が印加される場合に、第5制御電圧端子にロウレベルの電圧が印加され、第1,第4制御電圧端子にハイレベルの電圧が印加され、かつ第2,第3制御電圧端子にロウレベルの電圧が印加される場合に、第5制御電圧端子にハイレベルの電圧が印加される。本発明のその他の特徴は以下に明らかにする。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、通過状態及び減衰状態において同程度の歪み特性を同程度の送信電力まで許容することができ、かつ通過状態において電力増幅器の利得圧縮特性を補償することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るアッテネータを示す回路図である。ダイオードD1(第1ダイオード)のアノードは入力端子INに接続され、ダイオードD1のカソードは出力端子OUTに接続されている。また、制御電圧端子Vc1(第1制御電圧端子)は、RF阻止インダクタL1を介してダイオードD1のアノードに接続されている。そして、ダイオードD2(第2ダイオード)のアノードはダイオードD1のカソードに接続され、ダイオードD2のカソードは容量C1(第1容量)を介してダイオードD1のアノードに接続されている。
【0031】
また、抵抗R01(第1抵抗)の一端はダイオードD2のカソードに接続され、抵抗R02(第2抵抗)の一端は容量C2(第2容量)を介してダイオードD1のカソードに接続されている。そして、ダイオードD3(第3ダイオード)のアノードは容量C3(第3容量)を介して抵抗R01,R02の他端に接続され、ダイオードD4(第4ダイオード)のカソードは容量C4(第4容量)を介して抵抗R01,R02の他端に接続されている。さらに、容量C5(第5容量)の一端はダイオードD3のカソード及びダイオードD4のアノードに接続され、容量C5の他端は接地されている。
【0032】
また、制御電圧端子Vc2(第2制御電圧端子)は、RF阻止インダクタL2及び抵抗R2を介してダイオードD2のカソードに接続されている。そして、制御電圧端子Vc3(第3制御電圧端子)は、RF阻止インダクタL3及び抵抗R3を介してダイオードD3のアノードに接続されている。さらに、制御電圧端子Vc4(第4制御電圧端子)は、RF阻止インダクタL4及び抵抗R4を介してダイオードD4のカソードに接続されている。
【0033】
また、リニアライザLが、入力端子INとダイオードD1のアノードとの間に設けられている。本実施の形態1に係るリニアライザLは、図2に示すように、アノードが接地され、カソードが入力端子INとダイオードD1のアノードとの接続点に接続されたダイオードD51〜D5n(第5ダイオード)と、入力端子INとダイオードD1のアノードとの接続点と制御電圧端子Vc5(第5制御電圧端子)との間に接続された抵抗RLT1(第3抵抗)と、アノードが入力端子INに接続されたダイオードD61〜D6n(第6ダイオード)と、ゲートが抵抗RL4を介して制御電圧端子Vc5に接続され、ソースが接地され、ドレインが抵抗RL2を介してダイオードD61〜D6nのカソードに接続された第1のnチャネルMOSトランジスタTr1とを有する。ただし、ダイオードD51〜D5n及びダイオードD61〜D6nは、それぞれn段の縦積みされたダイオード部を表す。縦積みとは、例えばD51のカソードにD52のアノードが接続されるように直列に接続されている状態を示す。
【0034】
ここで、制御電圧端子Vc1、Vc4にロウレベル(例えば0V)の電圧が印加され、かつ制御電圧端子Vc2、Vc3にハイレベル(例えば5V)の電圧が印加される場合に、通過アームTはOFF、減衰アームAはONとなるので、アッテネータは減衰状態(例えば20dBの減衰状態)となる。この際、制御電圧端子Vc5にロウレベルの電圧が印加される。これにより、第1のnチャネルMOSトランジスタTr1はOFFとなり、ダイオードD61〜D6nには電流は流れない。一方、ダイオードD51〜D5nは零バイアスとなり、入力端子INに大きな信号電力が入力されるとダイオードD51〜D5nに直流電流が流れるが、この直流電流は抵抗RLT1を通してロウレベルの制御電圧端子Vc5へ流れる。従って、リニアライザとして動作する。この結果、リニアライザLは図3に示す出力特性を呈するため、図21の回路と同様に、図22に示すように歪み特性を改善することができる。
【0035】
一方、制御電圧端子Vc1、Vc4にハイレベルの電圧が印加され、かつ制御電圧端子Vc2、Vc3にロウレベルの電圧が印加される場合に、通過アームTはON、減衰アームAはOFFとなるので、アッテネータは通過状態(例えば0dBの非減衰状態)となる。この際、制御電圧端子Vc5にハイレベルの電圧が印加される。これにより、第1のnチャネルMOSトランジスタTr1はONとなり、ダイオードD51〜D5nは大きな逆バイアスによりOFFとなるが、ダイオードD61〜D6nはONとなる。この結果、リニアライザLは図4に示す利得伸張の特性を呈する。即ち、アッテネータATTの利得Gpは出力電力Poutが大きくなると上昇するため、電力増幅器AMPに本発明のアッテネータATTを接続させることで、電力増幅器AMPの利得圧縮特性を補償することができる。
【0036】
また、本実施の形態に係るアッテネータは、図21のアッテネータと同様に減衰時における高電力入力時の歪み特性を改善することができるため、通過状態及び減衰状態において同程度の歪み特性を同程度の送信電力まで許容することができる。そして、リニアライザLは、抵抗、トランジスタ及びダイオードといった小型の素子だけで構成され、ダイオードD51〜D5nとダイオードD61〜D6nとの間にDCカット容量を設ける必要が無いため、チップ全体の小型化を図ることができる。
【0037】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2に係るリニアライザを示す回路図である。このリニアライザLは、一端が入力端子INとD1ダイオードのアノードとの接続点に接続された抵抗RL3(第4抵抗)と、ゲートが抵抗RL5を介して制御電圧端子Vc6(第6制御電圧端子)に接続され、ソースが接地され、ドレインが抵抗RL3の他端に接続された第2のnチャネルMOSトランジスタTr2とを更に有する。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0038】
ここで、制御電圧端子Vc1、Vc4にハイレベルの電圧が印加され、かつ制御電圧端子Vc2、Vc3にロウレベルの電圧が印加される場合に、制御電圧端子Vc6にロウレベルの電圧が印加される。これにより、第2のnチャネルMOSトランジスタTr2はOFFとなる。一方、制御電圧端子Vc1、Vc4にロウレベルの電圧が印加され、かつ制御電圧端子Vc2、Vc3にハイレベルの電圧が印加される場合に、制御電圧端子Vc6にハイレベルの電圧が印加される。これにより、第2のnチャネルMOSトランジスタTr2はONとなる。
【0039】
従って、本実施の形態によれば、通過状態で動作するダイオードD61〜D6nと減衰状態で動作するダイオードD51〜D5nの直流電流経路を完全に分離することができる。ここで、実施の形態1では、通過状態で動作するダイオードD61〜D6nと減衰状態で動作するダイオードD51〜D5nの両方のバイアス電流の振る舞い、即ちリニアライザLの利得特性が同じ抵抗RLT1で決定されるため、通過時と減衰時のリニアライザの設計自由度が少なかった。これに対し、本実施の形態では、DC経路が完全に分離されることにより、設計の自由度が増すという利点がある。その他の効果については、実施の形態1と同じである。
【0040】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3に係るリニアライザを示す回路図である。このリニアライザLは、アノードが制御電圧端子Vc8(第8制御電圧端子)に接続されたダイオードD7(第7ダイオード)と、一端がダイオードD7のカソードに接続され、他端が入力端子INとダイオードD1のアノードとの接続点に接続された抵抗RLA1(第7抵抗)とを更に有する。その他の構成は実施の形態2と同様である。
【0041】
実施の形態1、2では減衰状態で動作するダイオードD51〜D5nのバイアスは零バイアスとなっていたが、本実施の形態3では制御電圧端子Vc8に電圧(例えば2〜5V)を印加することにより、リニアライザLの利得圧縮特性を所望の特性に調整することができる。その他の効果に関しては、実施の形態2と同じである。
【0042】
実施の形態4.
図7は、本発明の実施の形態4に係るリニアライザを示す回路図である。このリニアライザLは、アノードが制御電圧端子Vc81に接続されたダイオードD71と、一端がダイオードD71のカソードに接続され、他端が入力端子INとダイオードD1のアノードとの接続点に接続された抵抗RLA2とを更に有する。その他の構成は実施の形態3と同様である。
【0043】
このように、減衰状態で動作するダイオードD51〜D5nの逆バイアス印加端子を制御電圧端子Vc8,Vc81の2つにすることで、温度や電力増幅器の使用状態に応じて、減衰時に動作するリニアライザLの特性を変えることができる。例えば、制御電圧端子Vc8を使う時は、図3において利得圧縮を呈する出力電力レベルを約15dBm、制御電圧端子Vc81を使う時は、同動作を出力電力レベル約12dBmで動作させるといった調整を制御電圧端子の電圧印加だけで変更することができる。その他の効果に関しては、実施の形態3と同じである。
【0044】
実施の形態5.
図8は、本発明の実施の形態5に係るリニアライザを示す回路図である。このリニアライザLは、ダイオードD51〜D5nのアノードと接地点との間に設けられた容量C6(第6容量)と、ダイオードD51〜D5nのアノードと容量C6の接続点に接続された制御電圧端子Vc7(第7制御電圧端子)とを更に有する。その他の構成は、実施の形態2と同様である。
【0045】
ここで、実施の形態1〜4では、減衰状態においてダイオードD51〜D5nに零又は逆バイアスを印加し、図3の特性を実現していた。しかし、減衰状態のアッテネータの歪み特性が劣化する前の出力電力レベルにおいて、電力増幅器自身が利得圧縮特性を呈する場合がある。例えば、電力増幅器のバイアス状態を通過・減衰状態の間で変える場合(低消費電流動作のために、通過状態のバイアス電流よりも減衰状態のバイアス電流を低減させる場合など)に見られる。
【0046】
これに対し、本実施の形態では、制御電圧端子Vc1、Vc4にロウレベルの電圧が印加され、かつ制御電圧端子Vc2、Vc3にハイレベルの電圧が印加される減衰状態の場合に、制御電圧端子Vc7にハイレベルの電圧が印加される。即ち、減衰状態で動作するダイオードD51〜D5nに零又は順バイアスを印加する。これにより、減衰状態においてもリニアライザが利得伸張特性を呈するため、電力増幅器全体の歪み特性を改善することができる。その他の効果に関しては、実施の形態2と同じである。
【0047】
実施の形態6.
図9は、本発明の実施の形態6に係るリニアライザを示す回路図である。このリニアライザは、実施の形態3に係るリニアライザと実施の形態5に係るリニアライザを組み合わせたものである。
【0048】
制御電圧端子Vc6がハイレベルの減衰状態の場合において、制御電圧端子Vc8をハイレベルにすることでダイオードD51〜D5nに逆バイアスを、制御電圧端子Vc7をハイレベルにすることでダイオードD51〜D5nに順バイアスを印加することができる。これにより、電力増幅器の特性に応じて利得圧縮・利得伸張特性を切替ることができる。その他の効果に関しては、実施の形態3,5と同じである。
【0049】
実施の形態7.
図10は、本発明の実施の形態7に係るリニアライザを示す回路図である。このリニアライザは、アノードが制御電圧端子Vc51に接続されたダイオードD81と、一端がダイオードD81のカソードに接続され、他端が入力端子INとダイオードD1のアノードとの接続点に接続された抵抗RLT2とを更に有する。その他の構成は実施の形態4と同様である。
【0050】
これにより、通過状態のリニアライザの特性を制御電圧端子Vc5,Vc51により変化させることができる。例えば、制御電圧端子Vc5がハイレベルの時に制御電圧端子Vc51もハイレベルにすることで、ダイオードD61〜D6nのバイアス回路の抵抗を抵抗RLT1と抵抗RLT2の並列抵抗にし、順バイアス電流を増加させることができる。これにより、利得伸張の度合いを抑制することができる。その他の効果に関しては、実施の形態4と同じである。
【0051】
実施の形態8.
図11は、本発明の実施の形態8に係るアッテネータを示す回路図である。本実施の形態では、容量C1と入力端子INとの接続点とダイオードD1のアノードとの間に接続された容量C6(第7容量)を更に有する。即ち、スルーアームTにおいて、容量を容量C1と容量C6に分割している。その他の構成は実施の形態1〜7と同様である。
【0052】
これにより、ダイオードD1、D2を通過する電力が実施の形態1よりも均等化され、交流的に回路対称となるため、通過状態における歪み特性が改善される。このため、実施の形態1に挙げた効果を低損失或いは低制御電流で実現することができる。また、低歪みになった分、リニアライザで補償すべき利得補償量が小さくて済み、リニアライザで生じる初期通過損失を小さくすることができる。ただし、挿入損失は容量C1、C2のインピーダンスが均一に付加されるので若干増大する。その他の効果に関しては、実施の形態1〜7と同じである。
【0053】
実施の形態9.
図12は、本発明の実施の形態9に係るアッテネータを示す回路図である。本実施の形態では、制御電圧端子Vc2が抵抗R01を介さずにダイオードD2のカソードに接続されている。また、抵抗R01の一端は、容量C7(第8容量)を介してダイオードD2のカソードに接続されている。その他の構成は実施の形態1〜7と同様である。
【0054】
まず、制御電圧端子Vc2が抵抗R01を介さずにダイオードD2のカソードに接続されていることにより、抵抗R01での電圧降下が無くなり、同じ制御電圧でより大きなバイアス電流を流すことができる。また、通過アームAから見て抵抗R01,R02及び容量C7,C2が回路的に対称になっているので、減衰時の歪み特性を改善することができる。その他の効果に関しては、実施の形態1〜7と同じである。
【0055】
実施の形態10.
図13は、本発明の実施の形態10に係るアッテネータを示す回路図である。本実施の形態では、容量C1と入力端子INとの接続点とダイオードD1のアノードとの間に接続された容量C6を更に有する。即ち、スルーアームTにおいて、容量を容量C1と容量C6に分割している。その他の構成は実施の形態9と同様である。これにより、実施の形態8及び実施の形態9と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1に係るアッテネータを示す回路図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るリニアライザを示す回路図である。
【図3】図2のリニアライザの減衰時における出力特性を示す図である。
【図4】図2のリニアライザの通過時における出力特性を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係るリニアライザを示す回路図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係るリニアライザを示す回路図である。
【図7】本発明の実施の形態4に係るリニアライザを示す回路図である。
【図8】本発明の実施の形態5に係るリニアライザを示す回路図である。
【図9】本発明の実施の形態6に係るリニアライザを示す回路図である。
【図10】本発明の実施の形態7に係るリニアライザを示す回路図である。
【図11】本発明の実施の形態8に係るアッテネータを示す回路図である。
【図12】本発明の実施の形態9に係るアッテネータを示す回路図である。
【図13】本発明の実施の形態10に係るアッテネータを示す回路図である。
【図14】従来のスイッチを示す回路図である。
【図15】従来のアッテネータを示す回路図である。
【図16】入力端子から入力されるRF信号を示す図である。
【図17】改良されたスイッチを示す回路図である。
【図18】改良されたアッテネータを示す回路図である。
【図19】図15,18のアッテネータの通過電力特性を示す図である。
【図20】図18のアッテネータの減衰時における出力特性を示す図である。
【図21】更に改良されたアッテネータを示す回路図である。
【図22】図21のアッテネータの減衰時における特性を示す図である。
【図23】図21のアッテネータを電力増幅器の段間に設けた状態を示すブロック図である。
【図24】通常の電力増幅器の出力特性を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
C1 容量(第1容量)
C2 容量(第2容量)
C3 容量(第3容量)
C4 容量(第4容量)
C5 容量(第5容量)
C6 容量(第7容量)
C7 容量(第8容量)
D1 ダイオード(第1ダイオード)
D2 ダイオード(第2ダイオード)
D3 ダイオード(第3ダイオード)
D4 ダイオード(第4ダイオード)
D51〜D5n ダイオード(第5ダイオード)
D61〜D6n ダイオード(第6ダイオード)
R01 抵抗(第1抵抗)
R02 抵抗(第2抵抗)
RL1 抵抗(第3抵抗)
RL3 抵抗(第4抵抗)
Tr1 第1のnチャネルMOSトランジスタ
Tr2 第2のnチャネルMOSトランジスタ
Vc1 制御電圧端子(第1制御電圧端子)
Vc2 制御電圧端子(第2制御電圧端子)
Vc3 制御電圧端子(第3制御電圧端子)
Vc4 制御電圧端子(第4制御電圧端子)
Vc5 制御電圧端子(第5制御電圧端子)
Vc6 制御電圧端子(第6制御電圧端子)
Vc7 制御電圧端子(第7制御電圧端子)
Vc8 制御電圧端子(第8制御電圧端子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードが入力端子に接続され、カソードが出力端子に接続された第1ダイオードと、
前記第1ダイオードのアノードに接続された第1制御電圧端子と、
アノードが前記第1ダイオードのカソードに接続され、カソードが第1容量を介して前記第1ダイオードのアノードに接続された第2ダイオードと、
一端が前記第2ダイオードのカソードに接続された第1抵抗と、
一端が第2容量を介して前記第1ダイオードのカソードに接続された第2抵抗と、
アノードが第3容量を介して前記第1,第2抵抗の他端に接続された第3ダイオードと、
カソードが第4容量を介して前記第1,第2抵抗の他端に接続された第4ダイオードと、
一端が前記第3ダイオードのカソード及び前記第4ダイオードのアノードに接続され、他端が接地された第5容量と、
前記第2ダイオードのカソードに接続された第2制御電圧端子と、
前記第3ダイオードのアノードに接続された第3制御電圧端子と、
前記第4ダイオードのカソードに接続された第4制御電圧端子と、
前記入力端子と前記第1ダイオードのアノードとの間に設けられたリニアライザとを有し、
前記リニアライザは、
アノードが接地され、カソードが前記入力端子と前記第1ダイオードのアノードとの接続点に接続された第5ダイオードと、
前記入力端子と前記第1ダイオードのアノードとの接続点と第5制御電圧端子との間に接続された第3抵抗と、
アノードが前記入力端子に接続された第6ダイオードと、
ゲートが前記第5制御電圧端子に接続され、ソースが接地され、ドレインが前記第6ダイオードのカソードに接続された第1のnチャネルMOSトランジスタとを有し、
前記第1,第4制御電圧端子にロウレベルの電圧が印加され、かつ前記第2,第3制御電圧端子にハイレベルの電圧が印加される場合に、前記第5制御電圧端子にロウレベルの電圧が印加され、
前記第1,第4制御電圧端子にハイレベルの電圧が印加され、かつ前記第2,第3制御電圧端子にロウレベルの電圧が印加される場合に、前記第5制御電圧端子にハイレベルの電圧が印加されることを特徴とするアッテネータ。
【請求項2】
前記リニアライザは、
一端が前記入力端子と前記第1ダイオードのアノードとの接続点に接続された第4抵抗と、
ゲートが第6制御電圧端子に接続され、ソースが接地され、ドレインが前記第4抵抗の他端に接続された第2のnチャネルMOSトランジスタとを更に有し、
前記第1,第4制御電圧端子にハイレベルの電圧が印加され、かつ前記第2,第3制御電圧端子にロウレベルの電圧が印加される場合に、前記第6制御電圧端子にロウレベルの電圧が印加され、
前記第1,第4制御電圧端子にロウレベルの電圧が印加され、かつ前記第2,第3制御電圧端子にハイレベルの電圧が印加される場合に、前記第6制御電圧端子にハイレベルの電圧が印加されることを特徴とする請求項1に記載のアッテネータ。
【請求項3】
前記リニアライザは、
前記第5ダイオードのアノードと接地点との間に設けられた第6容量と、
前記第5ダイオードのアノードと前記第6容量の接続点に接続された第7制御電圧端子とを更に有し、
前記第1,第4制御電圧端子にロウレベルの電圧が印加され、かつ前記第2,第3制御電圧端子にハイレベルの電圧が印加される場合に、前記第7制御電圧端子にハイレベルの電圧が印加されることを特徴とする請求項2に記載のアッテネータ。
【請求項4】
前記リニアライザは、
アノードが第8制御電圧端子に接続された第7ダイオードと、
一端が前記第7ダイオードのカソードに接続され、他端が前記入力端子と前記第1ダイオードのアノードとの接続点に接続された第7抵抗とを更に有し、
前記第8制御電圧端子に印加される電圧により前記リニアライザの利得圧縮特性が調整されることを特徴とする請求項2又は3に記載のアッテネータ。
【請求項5】
前記第1容量と前記入力端子との接続点と前記第1ダイオードのアノードとの間に接続された第7容量を更に有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のアッテネータ。
【請求項6】
前記第1抵抗の一端は、第8容量を介して前記第2ダイオードのカソードに接続されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のアッテネータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2008−98936(P2008−98936A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278001(P2006−278001)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】