説明

アニオン電着塗料

【課題】不揮発性水性化助剤や電荷調整助剤を添加せず、耐久性、耐水性、耐溶剤性に優れた柔軟な透明被膜を形成することが可能なポリオレフィン樹脂水性分散体からなるアニオン電着塗料を提供する。
【解決手段】下記ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体からなる電着塗料であって、このポリオレフィン樹脂の数平均粒子径が1μm以下であり、水性分散体中に不揮発性水性化助剤および電荷調整助剤を実質的に含まないことを特徴とするアニオン電着塗料。ポリオレフィン樹脂:(A1)不飽和カルボン酸またはその無水物、(A2)エチレン系炭化水素、(A3)(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ジアクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミドの少なくとも1種の化合物からなる共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン樹脂を主成分とする水性分散体からなるアニオン電着塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は不揮発性水性化助剤を添加することなしに、安定した水性分散体が得られ、また、電荷調整助剤を添加せずとも、陽極電着することができる。本発明の電着塗料では、上記のような水性化助剤や電荷調整助剤を含んでいないため、他の重合体の水性分散体、金属イオン、無機粒子、あるいは架橋剤等の添加剤との混合安定性に優れており、塗料としての設計に高い自由度を有している。さらに、本発明のポリオレフィン電着塗料は、ポリオレフィン樹脂本来の特性をそのまま損なわずに有しており、耐水性に優れた柔軟な透明被膜を形成することが可能である。低温で容易に造膜でき、硬化せずとも優れた被膜が得られることから、省エネルギーに対して貢献できる。
【0003】
アルミニウムは軽量で加工が容易であることから建築材料や電気材料として盛んに利用されているが、防食性が劣るため、一般に、表面を陽極酸化で粗面に処理した後、アニオン電着塗料により被覆されている。アニオン電着塗料は、微細な樹脂の粒子が水中に分散したいわゆる水性分散体(エマルション)からなり、乳化助剤、電荷調整助剤、硬化剤、顔料などが混合された水系溶液である。アルミニウム用のアニオン塗料としては、従来から、アクリル樹脂やアミノ樹脂などが主に使用されていた。これらは電着したままでは脆弱な塗膜であるため、塗工後に180℃以上の焼付け処理によって硬化されているが、このような高温での焼き付けは、陽極酸化被膜にひび割れを生じさせたり、硬化剤からアルデヒドなどの分解ガスを発生させる等の問題があった。
【0004】
これらの従来の電着塗料に比較して、より耐水性が高く、硬化せずとも強靱な塗膜が得られれば、アルミニウム用アニオン電着塗料として優れたものが提供できる。高分子量のオレフィン樹脂は耐水性が良好で柔軟なため、この候補材料として有望であったが、疎水性が強く電着塗料のベースとなる水性分散体を得ることが困難であった。そのため、これまで、ほとんど実用化されていなかった。
【0005】
オレフィン化合物と他の樹脂のブレンドについては、これまでにも実例があり技術開示されている。例えば、オレフィン化合物を少量含む樹脂の水性分散体が、乳化剤や保護コロイド作用を有する化合物の存在下で、乳化重合あるいは懸濁重合によって得られることは一般に知られている。しかしながら、樹脂中のオレフィン含有量が高くなるにつれて、重合時の反応圧力が高くなる等の影響で、安定な水性分散体を得ることが次第に困難になる。主にオレフィン含有量の高い樹脂は、一般にエチレンプラント等で高圧ラジカル重合して得られており、通常、水性分散体の状態では得られない。
【0006】
一方、オレフィン含有量が高い樹脂であっても、不飽和カルボン酸成分を多く共重合したものであれば、水性分散体が得られることが以前から知られている。例えば、不飽和カルボン酸の含有量が20質量%程度のエチレン−アクリル酸共重合樹脂やエチレン−メタクリル酸共重合樹脂等のエチレン−不飽和カルボン酸共重合樹脂の水性分散体は従来から知られている。
【0007】
不飽和カルボン酸を含むポリオレフィン樹脂の水性分散化方法としては、樹脂を有機溶剤に溶解するか、あるいは、溶融して液状化しておき、機械的に水性媒体中に分散せしめることが行われている。例えば、(特許文献1)、(特許文献2)には、不飽和カルボン酸の含有量が5〜30質量%のエチレン−不飽和カルボン酸共重合樹脂の水性分散体とその製法が記載されている。ただし、これらには実質的に不飽和カルボン酸の含有量が15質量%以上と非常に多いものしか例示されておらず、不飽和カルボン酸の含有量が10質量%未満、さらに5質量%未満のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体を水性媒体中に分散させる際には、不揮発性水性化助剤の添加を必須として、これらの添加なしに水分散体を得ることは非常に困難であった。カルボン酸は親水基であり、樹脂の疎水性を損ねるため、耐水性能とは相反する作用を生じる。従って、多くのカルボン酸を含むポリオレフィン樹脂は耐水性の劣るものでしかなかった。
【0008】
カルボン酸の少ないポリオレフィン樹脂を水性分散化する上で効果のある不揮発性水性化助剤としては、アルカリ金属化合物、界面活性剤、低分子量の含カルボン酸ワックス、水溶性樹脂などが知られている。例えば、(特許文献3)には、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスを水性化助剤として添加することで、ポリオレフィン樹脂を水に分散する方法が記載されている。また、(特許文献4)、(特許文献5)、(特許文献6)、(特許文献7)には、様々な乳化剤や保護コロイド作用を有する化合物を水性化助剤として用いることでポリオレフィン樹脂を水に分散する方法が記載されている。しかしながら、このような低分子量成分の添加は樹脂本来の機械的性能を損ね、製造後に少しずつブリードアウトする恐れもあるため、環境的、衛生的にも好ましくない。また親水性の高い乳化剤や保護コロイド作用を有する化合物は乾燥後も被膜中に残存して被膜の耐水性を著しく低下してしまうという大きな問題があった。
【0009】
一方、電着塗料は、電気メッキ法と同じように、直流通電することで電極である金属基体に塗工するものである。特にそのなかで陽極に電着するものがアニオン電着と呼ばれている。アニオン電着塗料では、水中に分散した樹脂粒子が正電位の陽極に電気泳動して電極上で析出する。従って樹脂は負に帯電する必要があり、帯電量は樹脂中のカルボン酸基やスルホン酸基などの官能基の量、および、電荷調整助剤として加えられる界面活性剤などで制御されている。しかし、親水性の官能基が多くなると、前述のとおりに耐水性が悪化し、界面活性剤の添加も同じ悪影響を及ぼす。従って、これらはできるだけ避けることが好ましいが、これまで実現されてはいなかった。
【特許文献1】特開2000−72879号公報
【特許文献2】特開2000−119398号公報
【特許文献3】特公昭58−42207号公報
【特許文献4】特開昭62−252478号公報
【特許文献5】特開平5−163420号公報
【特許文献6】特開平7−82423号公報
【特許文献7】特開平9−296081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、上記のような問題に対して、不揮発性水性化助剤や電荷調整助剤を実質的に添加してないため、ポリオレフィン樹脂の特性を損なうことなく、耐久性、耐水性、耐溶剤性に優れた柔軟な透明被膜を形成することが可能なポリオレフィン樹脂水性分散体からなるアニオン電着塗料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意努力した結果、不飽和カルボン酸含有量が少ない特定組成のポリオレフィン樹脂を不揮発性水性化助剤や電荷調整助剤を添加せずに水性分散化し、さらにこれらが効率良くアルミニウム基材に電着できる条件を見出すに至り、本発明のアニオン電着塗料に到達した。
【0012】
下記ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体からなる電着塗料であって、このポリオレフィン樹脂の数平均粒子径が1μm以下であり、水性分散体中に不揮発性水性化助剤および電荷調整助剤を実質的に含まないことを特徴とするアニオン電着塗料。ポリオレフィン樹脂:(A1)不飽和カルボン酸またはその無水物、(A2)エチレン系炭化水素、(A3)下記式(I)〜(IV)のいずれかで示される少なくとも1種の化合物とから構成される共重合体であって、各構成成分(A1)〜(A3)の質量比が下記式(1)、(2)をみたすポリオレフィン樹脂。
0.01≦(A1)/{(A1)+(A2)+(A3)}×100<5 (1)
(A2)/(A3)=55/45〜99/1 (2)
【0013】
【化2】

【発明の効果】
【0014】
本発明は、オレフィン樹脂を主成分とする水性分散体からなるアニオン電着塗料であり、不揮発性水性化助剤や電荷調整助剤を含んでいないため、他の重合体の水性分散体、金属イオン、無機粒子、あるいは架橋剤等の添加剤との混合安定性に優れており、塗料としての設計に高い自由度を有している。さらに、本発明のポリオレフィン電着塗料は、ポリオレフィン樹脂本来の特性をそのまま損なわずに有しており、耐水性と耐溶剤性に優れた柔軟な透明被膜を形成することが可能である。低温で容易に造膜でき、硬化せずとも優れた被膜が得られることから、省エネルギーとしても優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明におけるポリオレフィン樹脂水性分散体からなるアニオン電着塗料は、特定のポリオレフィン樹脂と水性媒体とを含む水性分散体からなる。
【0017】

本発明で用いられるポリオレフィン樹脂は不飽和カルボン酸またはその無水物(A1)成分をこの樹脂全体〔(A1)+(A2)+(A3)〕に対して0.01質量%以上、5質量%未満、より好ましくは0.1質量%以上、5質量%未満、さらに好ましくは0.5質量%以上、5質量%未満含有している必要があり、1質量%以上、4質量%以下が最も好ましい。(A1)成分の含有量が0.01質量%未満の場合は、樹脂を水性化(液状化)することが困難になり、良好な水性分散体を得ることが難しい。一方、不飽和カルボン酸またはその無水物の含有量が5質量%以上の場合は、水性化はし易くなるが、他の添加剤との混合安定性が低下してしまう恐れがある。
【0018】
ポリオレフィン樹脂の(A1)成分として用いることのできる不飽和カルボン酸またはその無水物は、分子内(モノマー単位内)に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物であり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また不飽和カルボン酸は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていれば良く、その形態は限定されるものではなく、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0019】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂は、下記式(I)〜(IV)のいずれかで示される(A3)成分が構成成分として必要であり、この成分によって、ポリオレフィン樹脂に親水性が付与されるため、(A1)成分が5質量%未満であっても、不揮発性水性化助剤の添加なしに水性化することができる。エチレン系炭化水素(A2)成分と(A3)成分との質量比(A2)/(A3)は、55/45〜99/1の範囲であることが必要であり、60/40〜98/2であることが好ましく、65/35〜97/3であることがより好ましく、70/30〜97/3であることがさらに好ましく、75/25〜97/3であることが特に好ましい。〔(A2)+(A3)〕に対する(A3)成分の比率が1質量%未満では、ポリオレフィン樹脂の水性化は困難になり、良好な水性分散体を得ることが難しい。一方、化合物(A3)の含有比率が45質量%を超えると、(A2)成分によるポリオレフィン樹脂としての性質が失われ、耐水性等の性能が低下する。
【0020】
【化3】

本発明のポリオレフィン樹脂を構成するエチレン系炭化水素(A2)成分としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のアルケンが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0021】
本発明のポリオレフィン樹脂を構成する上記式(I)〜(IV)のいずれかで示される(A3)成分としては、例えば、式(I)で代表される(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、式(II)で代表されるマレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、式(III)で代表される(メタ)アクリル酸アミド類、式(IV)で代表されるメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。この中で、式(I)で示される(メタ)アクリル酸エステル類がより好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、あるいは(メタ)アクリル酸エチルが特に好ましい。
【0022】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂としては、エチレン、アクリル酸メチルあるいはアクリル酸エチル、無水マレイン酸からなる三元共重合体が最も好ましい。ここで、アクリル酸エステル単位は、後述する樹脂の水性化の際に、エステル結合のごく一部が加水分解してアクリル酸単位に変化することがあるが、そのような場合には、それらの変化を加味した各構成成分の比率が規定の範囲にあればよい。
【0023】
なお、本発明におけるポリオレフィン樹脂を構成する無水マレイン酸単位等の不飽和カルボン酸無水物単位は、樹脂の乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造を形成しているが、特に塩基性化合物を含有する水性媒体中では、その一部、または全部が開環してカルボン酸、あるいはその塩の構造を取りやすくなる。また、本発明において、樹脂のカルボキシル基量を基準として量を規定する場合には、樹脂中の酸無水物基はすべて開環してカルボキシル基をなしていると仮定して算出する。
【0024】
本発明に用いられるポリオレフィン樹脂には、その他のモノマーが、少量、共重合されていても良い。例えば、ジエン類、(メタ)アクリロニトリル、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、一酸化炭素、二硫化硫黄等が挙げられる。
【0025】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、0.01〜500g/10分、好ましくは0.1〜300g/10分、より好ましくは0.1〜250g/10分、さらに好ましくは0.5〜200g/10分、最も好ましくは1〜100g/10分のものを用いることができる。ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが0.01g/10分未満では、樹脂の水性化は困難になり、良好な水性分散体を得ることが難しい。一方、ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートが500g/10分を超えると、その水性分散体から得られる被膜は、硬くてもろくなり、機械的強度が低下する。
【0026】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂の合成法は特に限定されないが、本発明の主旨を考慮すれば、乳化剤や保護コロイドを用いない方が好ましい。一般的には、ポリオレフィン樹脂を構成するモノマーをラジカル発生剤の存在下、高圧ラジカル共重合して得られる。また、不飽和カルボン酸、あるいはその無水物はグラフト共重合(グラフト変性)されていても良い。
【0027】
本発明の水性分散体は、上記のポリオレフィン樹脂が水性媒体に分散もしくは溶解されている。ここで、水性媒体とは、水を主成分とする液体からなる媒体であり、後述する水溶性の有機溶剤を含有していてもよい。また、後述する塩基性化合物を含有していてもよい。
【0028】
また、本発明の水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径(以下、mn)は、水性分散体の保存安定性が向上するという観点から、1μm以下である必要があり、電着塗膜の平滑性や低温造膜性の観点から0.5μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.2μm以下がさらに好ましく、0.1μm未満が最も好ましい。さらに、重量平均粒子径(以下、mw)に関しても、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.3μm以下がさらに好ましく、0.2μm以下が最も好ましい。粒子の分散度(mw/mn)は、水性分散体の保存安定性、塗膜の平滑性及び低温造膜性の観点から、1〜3が好ましく、1〜2.5がより好ましく、1〜2が特に好ましい。
【0029】
本発明の水性分散体における、樹脂含有率は、成膜条件、目的とする樹脂被膜の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではないが、コーティング組成物の粘性を適度に保ち、かつ良好な被膜形成能を発現させる点で、1〜60質量%が好ましく、3〜55質量%がより好ましく、5〜50質量%がさらに好ましく、10〜45質量%が特に好ましい。
【0030】
本発明の水性分散体は、不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないことを特徴とし、これらを用いずとも、ポリオレフィン樹脂を数平均粒子径1μm以下で水性媒体中に安定に維持することができる。不揮発性水性化助剤は、被膜形成後にもポリオレフィン樹脂中に残存し、被膜を可塑化することにより、ポリオレフィン樹脂の特性、例えば耐水性等を悪化させる。本発明は不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないため、被膜特性、特に耐水性が優れている。ここで、「水性化助剤」とは、水性分散体の製造において、水性化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。「不揮発性水性化助剤を実質的に含有しない」とは、不揮発性水性化助剤を積極的には系に添加しないことにより、結果的にこれらを含有しないことを意味する。こうした不揮発性水性化助剤は、含有量がゼロであることが特に好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で、ポリオレフィン樹脂成分に対して0.1質量%未満程度含まれていても差し支えない。
【0031】
本発明でいう不揮発性水性化助剤としては、例えば、後述する乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0032】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0033】
本発明の水性分散体において、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基は、塩基性化合物によって中和されていることが好ましい。中和によって生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力によって微粒子間の凝集が防がれ、水性分散体に安定性が付与される。水性化の際に用いる塩基性化合物はカルボキシル基を中和できるものであれば良い。従って、このような目的で添加される塩基性化合物は、水性化助剤といえるが、本発明の効果を損なわないためには塩基性化合物は揮発性のものが用いられる。
【0034】
このような塩基性化合物として、被膜形成時に揮発するアンモニア又は有機アミン化合物が被膜の耐水性の面から好ましく、中でも沸点が30〜250℃、さらには50〜200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、後述する樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると樹脂被膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、被膜の耐水性が悪化する場合がある。
【0035】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。塩基性化合物の添加量はポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.8〜2.5倍当量がより好ましく、1.01〜2.0倍当量が特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、3.0倍当量を超えると被膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体が着色する場合がある。
【0036】
本発明においては、ポリオレフィン樹脂の水性化を促進し、分散粒子径を小さくするために、水性化の際に有機溶剤を添加することが好ましい。使用する有機溶剤量は、水性媒体中の40質量%以下が好ましく、1〜40質量%であることがより好ましく、2〜35質量%がさらに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。有機溶剤量が40質量%を超える場合には、実質的に水性媒体とはみなせなくなり、本発明の目的のひとつ(環境保護)を逸脱するだけでなく、使用する有機溶剤によっては水性分散体の安定性が低下してしまう場合がある。
【0037】
一般に、水性分散体に含有される有機溶剤は、その一部をストリッピングと呼ばれる脱溶剤操作で系外へ留去させることができるが、本発明の水性分散体においても、この操作によって、水性分散体中の有機溶剤量を上記の範囲内で適度に減量してもよく、10質量%以下とすることができ、3質量%以下であれば、環境上好ましい。ストリッピングによって有機溶剤を留去するには、装置の減圧度を高めたり、操業時間を長くするなどの生産プロセスにおける処置が必要となるため、こうした生産性を考慮した有機溶剤量の下限は0.01質量%程度(本発明の測定に使用した分析機器の検出限界)である。しかし、0.01質量%未満であっても水性分散体としての性能は特に問題とはならない。本発明の水性分散体は、ストリッピングによって有機溶剤量を低くしても、特に性能面での影響はなく、各種用途に良好に使用することができる。
【0038】
ストリッピングの方法としては、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶剤を留去する方法を挙げることができる。有機溶剤の含有率はガスクロマトグラフィーで定量することができる。また、水性媒体が留去されることにより、固形分濃度が高くなるために、例えば、粘度が上昇し作業性が悪くなるような場合には、予め水性分散体に水を添加しておくこともできる。
【0039】
有機溶剤としては、良好な水性分散体を得るという点から、ポーリング(Pauling)の電気陰性度が3.0以上の原子(具体的には酸素、窒素、フッ素、塩素)を分子内に1個以上有しているものを用いることが好ましい。さらにその中でも、20℃における水に対する溶解性が5g/L以上のものが好ましく用いられ、さらに好ましくは10g/L以上である。
【0040】
本発明において使用される有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられ、中でも沸点が30〜250℃のものが好ましく、50〜200℃のものが特に好ましい。これらの有機溶剤は2種以上を混合して使用しても良い。なお、有機溶剤の沸点が30℃未満の場合は、樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化の効率が十分に高まらない場合がある。沸点が250℃を超える有機溶剤は樹脂被膜から乾燥によって飛散させることが困難であり、被膜の耐水性が悪化する場合がある。
【0041】
上記の有機溶剤の中でも、樹脂の水性化促進に効果が高く、しかも水性媒体中から有機溶剤を除去し易いという点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、低温乾燥性の点からエタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが特に好ましい。
【0042】
本発明のアニオン電着塗料は、水性分散体中に電荷調整助剤を実質的に含有しないことを特徴とし、これらを用いずとも、樹脂のカルボン酸による電荷だけでアニオン電着される。すなわち、耐水性を阻害しない程度に必要十分な量のカルボン酸によって電着するように調整されている。
【0043】
なお、ここで、「電荷調整助剤」とは、電荷を樹脂に付与して電着可能にする目的で添加される薬剤や化合物のことであり、一般にアニオン性界面活性剤などが使用される。このようなアニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられる。「電荷調整助剤を実質的に含有しない」とは、電荷調整助剤を積極的には系に添加しないことにより、結果的にこれらを含有しないことを意味する。こうした電荷調整助剤は、含有量がゼロであることが特に好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で、ポリオレフィン樹脂成分に対して0.1質量%未満程度含まれていても差し支えない。
【0044】
本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体は、電着が容易で、電着後の熱処理をせずとも、透明性の高い被膜を形成することができる。ここでは、造膜性や透明性の目安として、ポリオレフィン樹脂水性分散体をコートしたコートフィルムの「ヘーズ(曇価)」を用いる。基材としてヘーズ2.0〜5.0(%)のフィルムを用い、コート膜厚が2μmとなるようにポリオレフィン樹脂水性分散体を電着する。こうして得られたコートフィルム全体のヘーズが本発明においては10.0(%)以下となる。このコートフィルム全体のヘーズは基材フィルムのヘーズに近いほど、透明性が高いことを示す。ヘーズが10.0(%)以下の場合には、視覚的にコートフィルムの透明性は良好であり、このとき水性分散体は透明膜の造膜が可能であると判定した。本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体は、このように熱処理をしなくても電着したままの状態で透明膜の作製が可能であることが特長のひとつであるが、分散している樹脂の融点よりも低い温度(さらに具体的には25℃以下)で熱処理することも支障はなく、好ましい実施形態のひとつである。前記の融点よりも高い温度での熱処理についても、本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体の分子量を比較的高いものにしておくことによって、膜の流動を抑えることができ、高温の加熱に耐えるものが得られる。電着後の水分を除去するための乾燥時間を短くするために好適である。
【0045】
次に、ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法について説明する。本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体を得るための方法は特に限定されないが、たとえば、既述の各成分、すなわち、特定組成のポリオレフィン樹脂、塩基性化合物、水、さらに必要に応じて有機溶剤を、好ましくは密閉可能な容器中で加熱、攪拌する方法を採用することができ、この方法が最も好ましい。この方法によれば、乳化剤成分や保護コロイド作用を有する化合物等の不揮発性水性化助剤を実質的に添加しなくとも特定組成のポリオレフィン樹脂を良好に水性分散体とすることができる。
【0046】
容器としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入された水性媒体と樹脂粉末ないしは粒状物との混合物を適度に撹拌できるものであればよい。そのような装置としては、固/液撹拌装置や乳化機として広く当業者に知られている装置を使用することができ、0.1MPa以上の加圧が可能な装置を使用することが好ましい。本発明における撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されないが、樹脂が水性媒体中で浮遊状態となる程度の低速の撹拌でも十分水性化が達成され、高速撹拌(例えば1000rpm以上)は必須ではない。このため、簡便な装置でも水性分散体の製造が可能である。
【0047】
水性化に用いられるポリオレフィン樹脂の形状は特に限定されないが、水性化速度を速めるという点から、粒子径1cm以下、好ましくは0.8cm以下の粒状ないしは粉末状のものを用いることが好ましい。
【0048】
この装置の槽内に水、塩基性化合物及び有機溶剤とからなる水性媒体、並びに粒状ないしは粉末状のポリオレフィン樹脂を投入し、好ましくは40℃以下の温度で攪拌混合しておく。次いで、槽内の温度を80〜200℃、好ましくは90〜200℃、さらに好ましくは100〜190℃の温度に保ちつつ、好ましくは5〜120分間攪拌を続けることによりポリオレフィン樹脂を十分に水性化させ、その後、好ましくは攪拌下で40℃以下に冷却することにより、水性分散体を得ることができる。槽内の温度が80℃未満の場合は、ポリオレフィン樹脂の水性化が困難になる。槽内の温度が200℃を超える場合は、ポリオレフィン樹脂の分子量が低下する恐れがある。槽内の加熱方法としては槽外部からの加熱が好ましく、例えば、オイルや水を用いて槽を加熱する、あるいはヒーターを槽に取り付けて加熱を行うことができる。槽内の冷却方法としては、例えば、室温で自然放冷する方法や0〜40℃のオイルまたは水を使用して冷却する方法を挙げることができる。
【0049】
なお、この後、必要に応じてさらにジェット粉砕処理を行ってもよい。ここでいうジェット粉砕処理とは、ポリオレフィン樹脂水性分散体のような流体を、高圧下でノズルやスリットのような細孔より噴出させ、樹脂粒子同士や樹脂粒子と衝突板等とを衝突させて、機械的なエネルギーによって樹脂粒子をさらに細粒化することであり、そのための装置の具体例としA.P.V.GAULIN社製ホモジナイザー、みずほ工業社製マイクロフルイタイザーM-110E/H等が挙げられる。
【0050】
このようにして得られた水性分散体の固形分濃度の調整方法としては、例えば、所望の固形分濃度となるように水性媒体を留去したり、水により希釈したりする方法が挙げられる。
【0051】
上記のようにして、本発明の水性分散体は、ポリオレフィン樹脂が水性媒体中に分散又は溶解され、均一な液状に調製されて得られる。ここで、均一な液状であるとは、外観上、水性分散体中に沈殿、相分離あるいは皮張りといった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見いだされない状態にあることをいう。
【0052】
また、水性分散体製造における水性化収率は、得られた水性分散体中に残存する粗大粒子の量によって知ることができる。具体的には、水性分散体を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、フィルター上に残存する樹脂量を測定する。なお、残存樹脂が多く収率が低い場合でも、製造工程中で上記の濾過を行って、こうした粗大粒子を除去すれば、以降の工程で水性分散体としての使用は可能である。本発明における水性化収率は、条件によってやや低下する場合もあるが、概ねきわめて良好であり、粗大粒子はほとんど残存することなく水性化が達成される。
【0053】
このようにして製造したポリオレフィン樹脂水性分散体は、低温造膜性に優れており、樹脂の融点以下の乾燥条件においても透明な被膜を形成することができる。
本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体は、不飽和カルボン酸の含有量が低いため、様々な添加剤との混合安定性に優れる。例えば、他の重合体の水性分散体、金属イオン、無機粒子、あるいは架橋剤等を添加することができる。
【0054】
他の重合体の水性分散体としては、特に限定されない。例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の水性分散体を挙げることができる。これらは、2種以上を混合して使用しても良い。
【0055】
通常、水性分散体において、カルボキシルアニオン等の電気的な反発力によって微粒子の安定を付与している場合、各種金属イオンを添加することにより、微粒子が凝集し、分散液の安定性が低下することがよく知られている。これに対して、本発明の水性分散体は、例えばコーティング剤として性能を付与する目的で、金属イオンを添加した場合にも、安定性に優れている。金属イオンの種類は、目的に応じて選定され特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、亜鉛、銅、コバルト、アルミニウムなどを用いることができる。これらは、2種以上を混合して使用しても良い。また、添加量も特に限定されず、幅広い添加量範囲で使用できるが、コーティング剤として用いる場合には、金属イオンとして、ポリオレフィン樹脂のカルボキシル基量に対して10〜90モル%が好ましく、20〜80モル%がより好ましい。
【0056】
無機粒子としては、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化すず等の金属酸化物、炭酸カルシウム、シリカなどの無機粒子や、バーミキュライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、合成雲母等の水膨潤性の層状無機化合物を添加することができる。これらの無機粒子の平均粒子径は水性分散体の安定性の面から0.005〜10μmが好ましく、より好ましくは0.005〜5μmである。なお、無機粒子は、2種以上を混合して使用しても良い。
【0057】
耐水性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を水性分散体中の樹脂100質量部に対して0.01〜100質量部、好ましくは0.1〜60質量部添加することができる。架橋剤の添加量が0.01質量部未満の場合は、塗膜性能の向上の程度が小さく、100質量部を超える場合は、加工性等の性能が低下してしまう。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用しても良い。
【0058】
さらに、本発明の水性分散体に、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤や、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料あるいは染料を添加して、本発明の水性分散体をコーティング剤や塗料として使用することができる。また、水性分散体の安定性を損なわない範囲で上記以外の有機もしくは無機の化合物を水性分散体に添加することも可能である。
【0059】
上記に示した他の重合体の水性分散体、金属イオン、無機粒子、架橋剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、顔料あるいは染料などの添加剤は2種類以上、組み合わせて用いても良い。
【0060】
本発明の水性分散体から得られる樹脂組成物は塗料やコーティング用途のほかに、様々な基材との密着性に優れるため、接着剤として使用することができる。例えば、金属、ガラス、プラスチックの成形体、フィルム、紙等に使用することができ、ヒートシールなどの目的に好適である。
【0061】
次に、本発明のアニオン電着塗料の使用方法について説明する。
本発明のアニオン電着塗料はポリオレフィン樹脂を主体とする水性分散体によって構成され、さらに、エポキシ系、ウレタン系、エステル系などの他の樹脂の混合や、架橋剤や顔料・染料などの色調調整剤などを適宜に加えてもよい。塗料は通電によって陽極に電着され、その設備としては、一般的なアニオン電着塗装用であれば特に限定なく使用できる。本発明の電着塗料ではベースのポリオレフィン樹脂が塗料の状態ですでに高分子量であり、低温造膜性に富んでいるので、高温の焼き付け工程は特に必要ない。ただし、本発明においても、架橋剤を加え、従来と同様に焼き付けをおこなっても支障はない。本発明ではこのような架橋処理をおこなったとしても、従来の熱硬化樹脂に比べて架橋密度が高くならないので、脆化せずに強い膜が得られる。従って架橋剤は本発明の塗料においても、設計上の重要な要素の1つと考えても良い。
【0062】
電着される金属基材としては、アルミニウムやチタンなどが特に好適であるが、鉄やステンレス、銅などでも同様に電着できる。ただし、これらの卑金属の場合は、陽極として用いられる卑金属基材中より、金属がイオンとして溶出する比率が高いため、塗膜に混入して着色しやすく、色調に厳しい用途では注意する必要がある。
【0063】
本発明の電着塗料は通電することで陽極基材上に成膜される。通常は、電着槽から引き上げられた基材は、水洗によって余分な付着塗料を除いて、乾燥される。本発明の電着塗料では電着したままで良好な膜が形成されていることが特長であって、乾燥は造膜の目的ではなく、膜中に残った水分除去のためにおこなわれる。一般にこの残存水分の量は10質量%程度であり、電着法以外塗工法では膜の数倍の水分を除去しなければならないことと比較すると、極めて少ない。従って乾燥条件を極めて簡素化することができる。また前記したように、すでに造膜は完了しているため、乾燥までの膜の垂れがないことから、作業が容易で歩留まりのよい生産方式である。
【0064】
このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよく、工程中で時間がかかってもよければ風乾であってもよい。また電着した状態ですでに造膜されているので、エアー吹き付けや回転力などで付着水分を吹き飛ばすこともでき、乾燥時間の短縮に有効である。加熱温度や加熱時間としては、被アニオン電着物である金属基材の特性や後述する硬化剤の種類、配合量等により適宜選択されるものであるが、経済性を考慮した場合、加熱温度としては、30〜250℃が好ましく、60〜230℃がより好ましく、80〜210℃が特に好ましく、加熱時間としては、1秒〜20分が好ましく、5秒〜15分がより好ましく、5秒〜10分が特に好ましい。なお、架橋剤を添加した場合は、ポリオレフィン中のカルボキシル基と架橋剤との反応を十分進行させるために、加熱温度および時間は架橋剤の種類によって適宜選定することが望ましい。
【0065】
また、本発明のアニオン電着塗料では、形成される樹脂被膜の厚さとしては、その用途によって適宜選択されるものであるが、0.01〜100μmが好ましく、0.1〜50μmがより好ましく、0.2〜30μmが特に好ましい。樹脂被膜の厚さが上記範囲となるように成膜すれば、均一性に優れた樹脂被膜が得られる。なお、樹脂被膜の厚さは、アニオン電着に用いる装置やその使用条件を適宜選択することに加えて、目的とする樹脂被膜の厚さに適した塗料の濃度、通電時間や印加する電圧などで調整される。なお連続的に電着を続けると塗料の濃度が次第に薄くなってくるため、濃度調整が必要である。また、印加電圧は通常は定電圧の直流電源が用いられ、一般的には10V以上100V以下が適当である。さらに、定電流の直流電源あるいはパルス電圧の電源であっても良い。電着中の塗料の攪拌は均一な成膜には有効であり、不活性ガスによるバブリングや超音波の印加は好ましい手段の1つである。
【0066】
本発明のアニオン電着塗料は、オレフィン構造からなる樹脂であるために耐溶剤性に優れており、また、高分子量の熱可塑性樹脂にできることから可とう性を有している。さらに、不揮発性水性化助剤や電荷調整助剤を用いずとも電着可能な水性分散体であることから、耐水性にも優れている。このように各性能をバランスよく満足する電着塗料はこれまでなかったことから、各種のコーティングや接着用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各種の特性については以下の方法によって測定又は評価した。
(1)ポリオレフィン樹脂の構成
オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて1H-NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い求めた。
(2)水性化後のエステル基の残存量
水性化後のポリオレフィン水性分散体を150℃で乾燥させた後、オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて1H-NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い、水性化前のアクリル酸エステルのエステル基量を100としてエステル基の残存率(%)を求めた。
(3)ポリオレフィン樹脂水性分散体の固形分濃度
ポリオレフィン分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、ポリオレフィン樹脂固形分濃度を求めた。
(4)ポリオレフィン樹脂水性分散体の粘度
トキメック社製、DVL-BII型デジタル粘度計(B型粘度計)を用い、温度20℃における水性分散体の回転粘度を測定した。
(5)ポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用い、数平均粒子径、及び重量平均粒子径を求めた。
(6)水性化収率
水性化後の水性分散体を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)した際に、フィルター上に残存する樹脂質量を測定し、仕込み樹脂質量より収率を算出した。
(7)水性分散体の外観
水性分散体の色調を目視観察により評価した。
(8)電着試験
水性分散体を200ccのガラス製ビーカーに入れ、縦100mm横50mm厚み0.5mmのアルミニウム板を2枚対向させて浸積し、それぞれワニ口クリップでCUSTOM社製安定化電源cps-3030Dの+極と−極に接続した。アルミニウム板に20Vの定電圧直流を2分間通電して電着試験をおこない、付着した塗料を流水で洗浄除去した後タバイエステック社製の熱風乾燥機LG-122で60℃10分間乾燥した。このようにして得られた膜の厚みをULVAC社製3次元形状測定器DEKTAK3000によって測定した。
(9)ポットライフ
ポリオレフィン樹脂水性分散体を室温で90日放置したときの外観を、次の3段階で評価した。
○:外観に変化なし。
△:増粘がみられる。
×:固化、凝集や沈殿物の発生が見られる。
(10)ポリオレフィン樹脂水性分散体と他の添加剤との混合安定性
ポリオレフィン樹脂水性分散体と他の添加剤とを混合した後、室温で放置した場合に、混合液の外観(増粘、固化、凝集や沈殿物の発生)が変化するまでの日数を示す。
(11)ポリオレフィン樹脂水性分散体中の有機溶剤の含有率
島津製作所社製ガスクロマトグラフGC-8A〔FID検出器使用、キャリアーガス:窒素、カラム充填物質(ジーエルサイエンス社製):PEG-HT(5%)-Uniport HP(60/80メッシュ)、カラムサイズ:直径3mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):150℃、カラム温度:60℃、内部標準物質:n-ブタノール〕を用い、水性分散体または水性分散体を水で希釈したものを直接装置内に投入して、有機溶剤の含有率を求めた。検出限界は0.01質量%であった。
(12)水性化後のポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)
ポリオレフィン水性分散体をガラスシャーレに取り、100℃で6時間乾燥させた。得られたポリオレフィン樹脂のMFRはJIS 6730記載の方法(190℃、2160g荷重)で測定した。
使用した樹脂の組成を表1に示す。なお、表1に記載されている樹脂の融点はDSCで測定した値であり(測定装置:パーキン・エルマー社製DSC−7)、メルトフローレートはJIS 6730記載の方法(190℃、2160g荷重)で測定した値である。
【0068】
【表1】

実施例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂(A)(ボンダインHX-8210、住友化学社製)、30.0gのエチレングリコール−n−ブチルエーテル(以下、Bu-EG)、3.9g(樹脂中の無水マレイン酸のカルボキシル基に対して1.2倍当量)のN,N−ジメチルエタノールアミン(以下、DMEA)及び206.1gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体E-1を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。数平均粒子径、重量平均粒子径はそれぞれ0.060μm、0.088μmであり、その分布は1山であり、ポリオレフィン樹脂が水性媒体中に良好な状態で分散していた。さらに水性分散体のポットライフは90日以上であった。なお、水性化後の樹脂のエステル基残存率は100%であり、アクリル酸エチルは加水分解されていなかった。このエステル基残存率は室温で90日、放置後でも変化せず100%であった。さらに、水性化後の樹脂のMFRは200g/10分であり、分子量の低下はなかった。この水性分散体を5℃、25℃雰囲気中で乾燥したコートフィルムのヘーズはいずれも2.8%であり、透明性は良好であった。
実施例2
添加するアミンの量を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で水性分散体E-2を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
実施例3
添加するアミンの種類をトリエチルアミン(以下、TEA)とした以外は実施例1と同様の方法で水性分散体E-3を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
実施例4
添加するアミンの種類をTEAとし、添加する有機溶剤の種類をイソプロパノール(以下、IPA)とし、その添加量を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で水性分散体E-4を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。なお、水性化後の樹脂のエステル基残存率は98%であり、アクリル酸エチルの2%が加水分解されていた。このエステル基残存率は室温で90日、放置後でも変化せず98%であった。
実施例5
添加するアミンの種類をTEAとし、添加する有機溶剤の種類をエタノール(以下、EtOH)とし、その添加量を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で水性分散体E-5を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
実施例6
添加するBu-EGの量を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で水性分散体E-6を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
実施例7
添加する塩基性化合物の種類をアンモニア(25%NH3水)とした以外は実施例1と同様の方法で水性分散体E-7を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
実施例8
樹脂の固形分が30質量%になるようにした以外は実施例1と同様の方法で水性分散体E-8を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
実施例9
ポリオレフィン樹脂(B)(ボンダインHX-8290、住友化学社製)を用い、アミンの添加量を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で水性分散体E-9を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
実施例10
ポリオレフィン樹脂(B)(ボンダインHX-8290、住友化学社製)を用い、アミン及び有機溶剤の種類と添加量を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で水性分散体E-10を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
実施例11、12
ポリオレフィン樹脂(C)(ボンダインTX-8030、住友化学社製)を用い、アミン及び有機溶剤の種類と添加量を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で水性分散体E-11、E-12を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
実施例13
ポリオレフィン樹脂(D)(ボンダインLX-4110、住友化学社製)を用い、アミン及び有機溶剤の種類と添加量を表2記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で水性分散体E-13を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。なお、水性化後の樹脂のエステル基残存率は95%であり、アクリル酸エチルの5%が加水分解されていた。このエステル基残存率は室温で90日、放置後でも変化せず95%であった。
【0069】
【表2】

比較例1
ポリオレフィン樹脂(E)(エスコールTR-5100、エクソン化学社製)を用いた以外は実施例1と同様の方法を行ったが、140℃で20分間撹拌しても粗大粒子の存在が目視で観察された。そこで、系内温度を160℃まで上げて20分間撹拌したがなお粗大粒子の存在が目視で観察された。室温まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)したが多量の樹脂がフィルター上に認められた。実質的に樹脂の水性化はできなかった。
比較例2
化合物(A3)を含まないポリオレフィン樹脂としてポリ(エチレン−無水マレイン酸)(Aldrich社製、無水マレイン酸3質量%、140℃での粘度は1700〜4500cps)(F)を用い、アミン及び有機溶剤の種類と添加量を表3記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法を行ったが、140℃で20分間撹拌しても粗大粒子の存在が目視で観察された。そこで、系内温度を160℃まで上げて20分間撹拌したがなお粗大粒子の存在が目視で観察された。室温まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)したが多量の樹脂がフィルター上に認められた。実質的に樹脂の水性化はできなかった。
比較例3
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂(A)(ボンダインHX-8210,住友化学社製)、4.5g(樹脂中の無水マレイン酸のカルボキシル基に対して1.2倍当量)のTEA、乳化剤である6.0gのポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、及び229.5gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を180℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)しようとしたが、目詰まりを起こした。そこで濾過せずに乳白色のポリオレフィン樹脂水性分散体H-3を得た。水性分散体の各種特性を表3に示した。
比較例4
有機溶剤を添加しなかった以外は実施例1と同様の方法を行ったが、140℃で20分間撹拌しても粗大粒子の存在が目視で観察された。そこで、系内温度を160℃まで上げて20分間撹拌したがなお粗大粒子の存在が目視で観察された。室温まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)したが多量の樹脂がフィルター上に認められた。実質的に樹脂の水性化はできなかった。
比較例5
有機溶剤を添加せず、ポリオレフィン樹脂(B)(ボンダインHX-8290、住友化学製)を用い、添加するアミンの種類、量を表3のように変更した以外は実施例1と同様の方法を行ったが、140℃で20分間撹拌しても粗大粒子の存在が目視で観察された。そこで、系内温度を160℃まで上げて20分間撹拌したがなお粗大粒子の存在が目視で観察された。室温まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)したが多量の樹脂がフィルター上に認められた。実質的に樹脂の水性化はできなかった。
比較例6
アミンを添加しなかった以外は実施例1と同様の方法を行ったが、140℃で20分間撹拌しても粗大粒子の存在が目視で観察された。そこで、系内温度を160℃まで上げて20分間撹拌したがなお粗大粒子の存在が目視で観察された。室温まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)したが多量の樹脂がフィルター上に認められた。実質的に樹脂の水性化はできなかった。
【0070】
【表3】

実施例14
実施例1で得られたポリオレフィン樹脂水性分散体E-1と他の重合体の水性分散体とを混合した。重合体の水性分散体としては、ポリウレタン水性分散体(アデカボンタイターHUX-380、旭電化工業社製)を用いた。E-1を撹拌しておき、E-1の固形分100質量部に対して上記水性分散体を固形分換算で50質量部添加し、室温で30分間、撹拌した(M-1とする)。得られた液の混合安定性を表4に示す。
実施例15〜19
実施例10で得られたポリオレフィン樹脂水性分散体E-10と架橋剤とを混合した。架橋剤としては、メラミン化合物(サイメル327、三井サイテック社製、実施例15)、エポキシ化合物(デナコールEX-313、ナガセ化成工業社製、実施例16、及びデナコールEX-1310、ナガセ化成工業社製、実施例17)、オキサゾリン基含有化合物(エポクロスWS-700、日本触媒社製、実施例18)、及びカルボジイミド化合物(カルボジライトE-02、日清紡社製、実施例19)を用いた。E-10を撹拌しておき、E-10の固形分100質量部に対して上記架橋剤を固形分換算で表4に示す量を添加し、室温で30分間、撹拌した。得られた液(それぞれ、M−2〜M−6とする)の混合安定性を表4に示す。
実施例20
実施例1で得られたポリオレフィン樹脂水性分散体E-1の固形分100質量部に対して層状無機化合物(クニピアF、クニミネ工業社製)を10質量部、ガラスビーズ250質量部を混合し、ペイントシェーカーで1時間振とう分散した後、ガラスビーズを取り除いた。得られた液(M−7とする)の混合安定性を表4に示す。
実施例21
層状無機化合物の代わりに酸化マグネシウム(粒子径0.01μm、和光純薬工業社製)を用いた以外は実施例19と同様の方法を行った。得られた液(M−8とする)の混合安定性を表4に示す。
実施例22
実施例1で得られたポリオレフィン樹脂水性分散体E-1に、ポリオレフィン樹脂のカルボキシル基量に対して30モル%の塩化ナトリウムを加えて、室温で30分間、撹拌した。得られた液(M−9とする)の混合安定性を表4に示す。
【0071】
【表4】

実施例23
E-10 250g、蒸留水85gを1Lの2口丸底フラスコに仕込み、メカニカルスターラーとリービッヒ型冷却器を設置し、フラスコをオイルバスで加熱していき、水性媒体を留去した。約90gの水性媒体を留去したところで、加熱を終了し、室温まで冷却した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、濾液の固形分濃度を測定したところ、20.5質量%であった。この濾液を攪拌しながら蒸留水を添加し、固形分濃度が20.0質量%になるように調整した。この水性分散体中の有機溶剤(IPA)の含有率は0.4質量%であった。また、この水性分散体の外観を目視で観察したところ、沈殿や層分離の見られない均一なものであり、数平均粒子径、重量平均粒子径はそれぞれ0.070μm、0.092μmであり、その分布も1山であった。また、室温で90日間、放置しても外観に変化はなく安定であった。この水性分散体を5℃、25℃雰囲気中で乾燥したコートフィルムのヘーズはそれぞれ3.2%、3.3%であり、透明性は良好であった。
実施例24
E-11 250g、蒸留水100gを1Lの2口丸底フラスコに仕込み、メカニカルスターラーとリービッヒ型冷却器を設置し、フラスコをオイルバスで加熱していき、水性媒体を留去した。約105gの水性媒体を留去したところで、加熱を終了し、室温まで冷却した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、濾液の固形分濃度を測定したところ、20.4質量%であった。この濾液を攪拌しながら蒸留水を添加し、固形分濃度が20.0質量%になるように調整した。この水性分散体中の有機溶剤(IPA)の含有率は1.0質量%であった。また、この水性分散体の外観を目視で観察したところ、沈殿や層分離の見られない均一なものであり、数平均粒子径、重量平均粒子径はそれぞれ0.094μm、0.148μmであり、その分布も1山であった。また、室温で90日間、放置しても外観に変化はなく安定であった。この水性分散体を5℃、25℃雰囲気中で乾燥したコートフィルムのヘーズはいずれも3.3%であり、透明性は良好であった。
比較例7〜9
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのエチレン−アクリル酸共重合体樹脂(プリマコール5980I、アクリル酸20質量%共重合体、ダウ・ケミカル社製)(G)、17.7g(樹脂中のアクリル酸のカルボキシル基に対して1.05倍当量)のTEA、及び222.3gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を100〜105℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白濁の水性分散体S-1を得た。この際、フィルター上に樹脂は殆ど残っていなかった。S-1を撹拌しておき、S-1の固形分100質量部に対して、ポリウレタン水性分散体(アデカボンタイターHUX-380、旭電化工業社製、比較例7)、及びエポキシ化合物(デナコールEX-313、ナガセ化成工業社製、比較例8)、及びデナコールEX-1310、ナガセ化成工業社製、比較例9)を固形分換算で表4に示す量を添加し、室温で30分間、撹拌した。得られた液の混合安定性を表4に示す。
-E-1、E-9、M-1〜M-9の各コート液について密着性試験を行った結果を表5に示す。
【0072】
【表5】

実施例1〜5と比較例10の電着試験
実施例1〜5の水性分散体を200ccのガラス製ビーカーに入れ、縦100mm横50mm厚み0.5mmのアルミニウム板を2枚対向させて浸積し、それぞれワニ口クリップでCUSTOM社製安定化電源cps-3030Dの+極と−極に接続した。アルミニウム板に20Vの定電圧直流を2分間通電して電着試験をおこない、成膜される状態を観察した。得られた試料は、付着した塗料を流水で洗浄除去した後、付着した水分をエアーで吹きとばし、外観観察した。また、電着直後にタバイエステック社製の熱風乾燥機LG-122で60℃10分間の乾燥したものも試験して、風乾試料と比較した。なお、これらとの比較のために、本発明でないオレフィン樹脂組成物からなる比較例1〜3の電着塗料を作製しようとしたが、均一な水性分散体が得られなかったため、電着試験には供せられなかった。また、比較例10として、オレフィン樹脂ではない試料として、ポリエステル樹脂からなるエリーテル KA-5034(ユニチカ(株)製品)の水性分散体を用いて、同様の方法で電着試験を行った。
【0073】
結果を表5に示す。実施例1〜5の水性分散体はいずれも+極のアルミニウム板に成膜し、良好なアニオン電着性能を示した。得られたコーティングは電着後で透明性の良好な膜となっており、風乾で水分が除去されても透明性は維持されたままであった。60℃10分間の乾燥を経た試料も風乾によるものと違いはなく、均一性のよい良好な膜であった。
【0074】
これらの電着されたアルミニウム板を、トルエン、メチルエチルケトン、メタノールに1時間浸漬したが、膜に変化は認められず、耐溶剤性が良好であることが確認された。
【0075】
比較例10のポリエステル系のKA-5034では、アルミニウム基板上に透明な膜が電着できたが、風乾で水分が除去されるのにつれて透明性が失われて粒子状の堆積物となった。電着後に60℃10分の熱処理をおこなったものも同じく透明性がなかったが、150℃20秒の熱処理をおこなったものでは透明性なコーティング膜が得られた。このコーティング膜をトルエン、メチルエチルケトン、メタノールに1時間浸漬したが、トルエンとメチルエチルケトンでは膜が溶解剥離し、実施例1〜3に比べて耐溶剤性が劣るものであった。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体からなる電着塗料であって、このポリオレフィン樹脂の数平均粒子径が1μm以下であり、水性分散体中に不揮発性水性化助剤および電荷調整助剤を実質的に含まないことを特徴とするアニオン電着塗料。ポリオレフィン樹脂:(A1)不飽和カルボン酸またはその無水物、(A2)エチレン系炭化水素、(A3)下記式(I)〜(IV)のいずれかで示される少なくとも1種の化合物とから構成される共重合体であって、各構成成分(A1)〜(A3)の質量比が下記式(1)、(2)をみたすポリオレフィン樹脂。
0.01≦(A1)/{(A1)+(A2)+(A3)}×100<5 (1)
(A2)/(A3)=55/45〜99/1 (2)
【化1】

【請求項2】
不飽和カルボン酸またはその無水物(A1)成分が無水マレイン酸、アクリル酸またはメタクリル酸から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の樹脂水性分散体組成物からなるアニオン電着塗料。
【請求項3】
ポリオレフィン樹脂がエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体またはエチレン−メタクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体であることを特徴とする請求項1、2記載のポリオレフィン樹脂水性分散体からなるアニオン電着塗料。
【請求項4】
ポリオレフィン樹脂の190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.1〜250g/10分であることを特徴とする請求項1〜3記載のポリオレフィン樹脂水性分散体からなるアニオン電着塗料。
【請求項5】
水性分散体が、さらに有機溶剤を含有し、この有機溶剤の含有量が水性分散体の40質量%以下であることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン樹脂水性分散体からなるアニオン電着塗料。
【請求項6】
有機溶剤が、ポーリング(Pauling)の電気陰性度が3.0以上の原子を分子内に1個以上有し、かつ30〜250℃の沸点を有する有機溶剤であることを特徴とする請求項5記載のポリオレフィン樹脂水性分散体からなるアニオン電着塗料。
【請求項7】
水性分散体が、さらに塩基性化合物を含有し、該塩基性化合物の含有量がポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基のモル数に対し0.5〜3.0倍当量モルであることを特徴とする請求項6記載のポリオレフィン樹脂水性分散体からなるアニオン電着塗料。
【請求項8】
塩基性化合物が、沸点30〜250℃の有機アミン化合物であることを特徴とする請求項7記載のポリオレフィン樹脂水性分散体からなるアニオン電着塗料。
【請求項9】
さらに金属イオンを含有することを特徴とする請求項8記載の水性分散体からなるアニオン電着塗料。
【請求項10】
さらに平均粒子径が0.005〜10μmの無機粒子を含有することを特徴とする請求項9記載の水性分散体からなるアニオン電着塗料。
【請求項11】
水性分散体中の樹脂100質量部に対して、さらに架橋剤を0.01〜100質量部含有することを特徴とする請求項1記載の水性分散体からなるアニオン電着塗料。
【請求項12】
下記ポリオレフィン樹脂、塩基性化合物、及び水を原料とし、これらを密閉容器中で80〜200℃の温度で加熱、攪拌することを特徴とするポリオレフィン樹脂水性分散体からなるアニオン電着塗料の製造方法。ポリオレフィン樹脂:(A1)不飽和カルボン酸またはその無水物、(A2)エチレン系炭化水素、(A3)上記式(I)〜(IV)のいずれかで示される少なくとも1種の化合物とから構成される共重合体であって、各構成成分(A1)〜(A3)の質量比が下記式(1)、(2)をみたすポリオレフィン樹脂。
0.01≦(A1)/{(A1)+(A2)+(A3)}×100<5 (1)
(A2)/(A3)=55/45〜99/1 (2)
【請求項13】
原料としてさらに有機溶剤を用いることを特徴とする請求項12記載のポリオレフィン樹脂水性分散体からなるアニオン電着塗料の製造方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法でポリオレフィン樹脂水性分散体を得た後、さらに脱溶剤処理をおこなって水性分散体の有機溶剤含有量を低減することを特徴とする水性分散体からなるアニオン電着塗料の製造方法。











【公開番号】特開2008−247977(P2008−247977A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88045(P2007−88045)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】