説明

アパーチャー部品製造用の金型および金型を用いたアパーチャー部品の製造方法

【課題】画像読取装置に用いられる所定の配列方向に沿って複数の貫通孔を等間隔で列状に配してなるアパーチャー部品を製造する技術において、微細な構造を有するアパーチャー部品を製造するのに適し、従来より短時間で金型を製作可能な技術を提供する。
【解決手段】互いに係合する第1の金型部品100および第2の金型部品200のそれぞれに、アパーチャー部品の貫通孔に対応する突起部103,203を設け、これらを係合させた間隙空間CVに樹脂を流し込んでアパーチャー部品を製造する。両金型部品が係合した状態では、それぞれの突起部103,203が交互に一列に、しかも等間隔で並ぶようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばスキャナー装置のような画像読取装置に用いられる、所定の配列方向に沿って複数の貫通孔を等間隔で列状に配してなるアパーチャー部品を製造するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
イメージスキャナー、ファクシミリ、複写機、金融端末装置等では、コンタクトイメージセンサーモジュール(Contact Image Sensor Module;以下、「CISM」と略称する)が画像読取装置として知られている。この種の画像読取装置では、列状に多数配列された微細な光学センサーのそれぞれに読取対象物の光学像を正しく入射させるため、読取対象物と光学センサーとの間に、各光学センサーに対応する貫通孔を設けたアパーチャー部品を配置することがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−246623号公報(例えば、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなアパーチャー部品としては例えば射出成型により作成された樹脂製のものを用いることができるが、これを製造するための金型は極めて微細な加工を必要とするものになっている。すなわち、このようなアパーチャー部品を形成するための金型は、外形寸法が1mmよりも小さなピン状のダイを例えば0.1mm程度の間隔を空けて数百本、等間隔に整列させた構造を必要とする。
【0005】
一般的な射出成型技術においては、成型部品の離型性等を考慮して、対向配置される一対の金型部品の一方側のみにダイを配置する方法が採られている。しかしながら、上記のような寸法の金型部品を製作するためにはその加工工具径も例えば0.1mm以下とする必要があり、このような微細な加工工具で必要な加工精度を得るためには膨大な加工時間が必要となるという問題があった。
【0006】
この発明にかかるいくつかの態様は、画像読取装置に用いられる所定の配列方向に沿って複数の貫通孔を等間隔で列状に配してなるアパーチャー部品を製造する技術において、上記課題を解決して、微細な構造を有するアパーチャー部品を製造するのに適し、しかも従来より短時間で製作可能な金型および該金型を用いたアパーチャー部品の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一の態様は、画像読取装置に用いられる、所定の配列方向に沿って複数の貫通孔を等間隔で列状に配してなるアパーチャー部品製造用の金型において、互いに係合可能に構成され、該係合により、前記アパーチャー部品の材料となる液体を流し込むための間隙空間を形成する第1の金型部品および第2の金型部品を備え、前記第1の金型部品では、前記第2の金型部品と係合したときに前記第2の金型部品と対向する第1の対向面に、前記第2の金型部品側に向けて、かつ前記配列方向における前記貫通孔の配列ピッチの2倍のピッチで等間隔に、前記貫通孔の側壁面に対応する外形寸法を有する複数の第1のダイが第1方向に沿った列状に突設され、前記第2の金型部品では、前記第1の金型部品と係合したときに前記第1の金型部品と対向する第2の対向面に、前記第1の金型部品側に向けて、かつ前記配列方向における前記貫通孔の配列ピッチの2倍のピッチで等間隔に、前記貫通孔の側壁面に対応する外形寸法を有する複数の第2のダイが第2方向に沿った列状に突設され、前記第1の金型部品と前記第2の金型部品とが係合したとき、前記第2方向が前記第1方向と一致し、かつ前記第1方向において前記第1のダイと前記第2のダイとが交互に並び、前記第1のダイおよび前記第2のダイの周囲に前記間隙空間が形成されることを特徴とするアパーチャー部品製造用の金型である。
【0008】
このように構成された発明では、金型を構成する1対の金型部品(第1および第2の金型部品)のそれぞれに、アパーチャー部品における貫通孔に対応する空洞部を形成するためのダイ(第1および第2のダイ)が設けられる。その配列ピッチはアパーチャー部品における貫通孔の配列ピッチの2倍であり、2つの金型部品が係合したときに、各金型部品に設けられたダイが交互に並ぶことで、所望のピッチで貫通孔が配列されたアパーチャー部品を形成することができる。
【0009】
したがって、それぞれの金型部品では、比較的広いピッチでダイが配列されればよいので隣接するダイの間隔を大きく取ることができ、工具径の大きな加工工具により金型部品を製造することが可能となる。このため、必要な加工精度を維持しつつ、金型の製作に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0010】
ここで、例えば、第1の金型部品と第2の金型部品とが係合した状態では、第1のダイと第2のダイとが一列に並ぶようにしてもよい。このようにすると、貫通孔が一列に並んだアパーチャー部品を製造することができる。
【0011】
また、例えば、第1のダイはその頂部から第1の対向面に向かって断面積が漸増するテーパー形状となる一方、第2のダイはその頂部から第2の対向面に向かって断面積が漸増するテーパー形状となっており、しかも、第1のダイのテーパー角と第2のダイのテーパー角とが互いに異なる構成であってもよい。ダイにテーパーを設けることで、金型からの製品の離型性を高めることができる。互いに係合する1対の金型部品のそれぞれにダイが設けられている本発明では、それぞれのダイのテーパー角に差を設けることで、金型を分離したときに製品がどちらの金型部品に付随するかを管理することができる。これにより、離型時の製品の破損を防止するとともに、成型加工を連続的に行う場合の工程管理を容易にすることができる。
【0012】
また、例えば、第1のダイおよび第2のダイの断面形状がそれぞれ平行四辺形であってもよい。第1および第2のダイの断面形状は任意であるが、平行四辺形とした場合には、加工工具の2方向への直線移動の組み合わせのみによって各ダイを形成することが可能である。なお、長方形および正方形も当然にこの概念に含まれ、これらの場合には特に直交する2軸方向の直線移動の組み合わせで加工を行うことができる。
【0013】
また、例えば、第1の金型部品および第2の金型部品の一方に位置決めピンが突設されるとともに他方に位置決めピンと嵌合する挿通孔が設けられ、一方の金型部品の位置決めピンの側面と他方の金型部品の挿通孔の側面とが同一テーパー角のテーパー形状となるようにしてもよい。
【0014】
1対の金型部品の双方にダイが設けられた本発明では、製品における貫通孔の配列を所望のものとするためには係合時の金型部品の相対的な位置合わせの精度が非常に重要となる。同一角のテーパーを設けた位置決めピンと挿通孔とを嵌合させるようにすれば、第1の金型部品と第2の金型部品との係合時の位置合わせを高精度に行うことが可能である。
【0015】
また、この発明の他の態様は、画像読取装置に用いられる、所定の配列方向に沿って複数の貫通孔を等間隔で列状に配してなるアパーチャー部品の製造方法において、第1の金型部品および第2の金型部品を互いに係合させて金型を形成する工程と、前記金型内部の間隙空間に、前記アパーチャー部品の材料となる液体を流し込んで硬化させる工程とを備え、前記第1の金型部品は、前記第2の金型部品と係合したときに前記第2の金型部品と対向する第1の対向面に、前記第2の金型部品側に向けて、かつ前記配列方向における前記貫通孔の配列ピッチの2倍のピッチで等間隔に、前記貫通孔の側壁面に対応する外形寸法を有する複数の第1のダイを第1方向に沿った列状に突設したものであり、前記第2の金型部品は、前記第1の金型部品と係合したときに前記第1の金型部品と対向する第2の対向面に、前記第1の金型部品側に向けて、かつ前記配列方向における前記貫通孔の配列ピッチの2倍のピッチで等間隔に、前記貫通孔の側壁面に対応する外形寸法を有する複数の第2のダイを第2方向に沿った列状に突設したものであり、しかも、前記第1方向と前記第2方向とを一致させ、かつ前記第1方向において前記第1のダイと前記第2のダイとが交互に並ぶように、前記第1の金型部品と前記第2の金型部品とを係合させることを特徴とするアパーチャー部品の製造方法である。
【0016】
このように構成された発明では、上記のような作用効果を奏する金型を用いることで、微細な貫通孔を配列してなるアパーチャー部品を高い寸法精度で製造することができる。また、上記した通り、金型の製作時間が短くて済むため、アパーチャー部品を低コストで製造することができる。
【0017】
この場合において、例えば、第1のダイをその頂部から第1の対向面に向かって断面積が漸増するテーパー形状とする一方、第2のダイをその頂部から第2の対向面に向かって断面積が漸増するテーパー形状とし、しかも、第1のダイのテーパー角と第2のダイのテーパー角とを互いに異ならせるようにしてもよい。
【0018】
こうすることで、成型後の離型時にアパーチャー部品をどちらの金型部品に付随させるかを管理することができ、離型時の部品の破損や連続成型時の工程管理を容易にすることができる。その理由は前記した通りである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明を好適に適用可能なCISMの構成例を示す図。
【図2】アパーチャー部品を示す図。
【図3】アパーチャー部品を製造するための金型の構成例を示す図。
【図4】第1および第2の金型部品の係合状態を示す図。
【図5】金型のより詳細な形状を示す拡大断面図。
【図6】位置決めピンの嵌合の態様を示す図。
【図7】アパーチャー部品の他の形状例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1はこの発明を好適に適用可能なCISMの構成例を示す図である。より具体的には、この発明にかかる製造方法で製造されたアパーチャー部品を用いたコンタクトイメージセンサーモジュール(CISM)の構成例を示す分解組立図である。このコンタクトイメージセンサーモジュール1は、上下方向を光軸とするロッド状レンズを列状に多数配列してなるロッドレンズアレイ11と、ロッドレンズアレイ11を挟むように設けられた1対のアパーチャー部品10,12と、例えばCCDラインセンサー131を備える受光部13とが順番に積層された構造を有しており、図1において上方に配置される図示しない読取対象物からの出射光を受光部13により受光し、読取対象物の光学像を電気信号に変換して出力する機能を有する。以下の説明では、受光部13におけるラインセンサー131の配列方向をX方向、ロッドレンズアレイ11の光軸に平行な方向をZ方向とする。
【0021】
読取対象物からの出射光Lは、正立等倍結像光学系をなすロッドレンズアレイ11により受光部13に結像されるが、受光部13への迷光の入射を防止するべく、読取対象物とロッドレンズアレイ11との間、および、ロッドレンズアレイ11と受光部13との間に、光軸方向に沿った貫通孔10a,12aを多数有し該貫通孔により出射光の出射方向を規制するアパーチャー部品10,12がそれぞれ配設される。
【0022】
図2はアパーチャー部品を示す図である。より具体的には、図2(a)はアパーチャー部品10の詳細構造を示す部分拡大図であり、図2(b)は図2(a)のA−A’線断面図である。以下では一方のアパーチャー部品10を例としてその構造および製造方法について説明するが、他方のアパーチャー部品12も同様の構造を有している。
【0023】
アパーチャー部品10は可視光を透過しない例えば黒色の樹脂により形成されたX方向に延びる断面矩形の棒状部材であり、Z方向を軸方向とする多数の貫通孔10aがX方向に等間隔で多数設けられている。各貫通孔10aは、一方開口側から入射する光のうちZ方向に近い方向から入射する光を他方開口側から出射する一方、Z方向とは大きく異なる方向から入射する光については他方開口側から出射させず、これにより受光部13に迷光が入り込むことを防止する絞りとして機能する。この例では貫通孔10aの断面形状は長方形であるが、これに限定されず、例えば正方形、円形、長円形などであっても構わない。
【0024】
本発明にかかる金型および該金型を用いた製造方法は、このようなアパーチャー部品を製造するのに好適なものである。以下、アパーチャー部品10を製造するための技術について説明する。上記したように、アパーチャー部品10は樹脂製であり、以下に説明するように、金型を用いた射出成型によって製造することが可能である。
【0025】
図3はアパーチャー部品を製造するための金型の構成例を示す図である。アパーチャー部品10を製造するための金型は、第1の金型部品100および第2の金型部品200を有しており、後に説明するように、これらが互いに係合することにより両者の間に形成される間隙空間に溶融した樹脂材料を流し込み硬化させることで、所望の形状を有するアパーチャー部品10を形成することができる。なお、図3においては、金型部品100,200の表面の詳細構造を破線丸印で囲んだ部分拡大図により示している。
【0026】
図3に示すように、第1の金型部品100の一の主面101には、アパーチャー部品10の外形に対応する窪部102が形成されるとともに、該窪部102の内部に、多数の突起部103が所定の第1方向に沿って一列に等間隔で突設されている。各突起部103は、アパーチャー部品10における貫通孔10aの断面形状に対応する断面形状を有している。また、その配列ピッチは、後述するようにアパーチャー部品10における貫通孔10aの配列ピッチの2倍である。一方、第2の金型部品200の一の主面201には、アパーチャー部品10における貫通孔10aの断面形状に対応する断面形状を有する突起部203が所定の第2方向に沿って一列に突設されている。各突起部203の形状および配列ピッチは第1の金型部品100の突起部103のものと同じである。
【0027】
また、第1の金型部品100の主面101には略円筒形状を有する2本の位置決めピン105,106が突設され、これと対応する第2の金型部品200の主面201には、それぞれ位置決めピン105,106とぴったり嵌合する形状の挿通孔205,206が設けられている。第1の金型部品100の主面101と、第2の金型部品200の主面201とが互いに対向した状態で両者を近接させ、位置決めピン105を挿通孔205に、位置決めピン106を挿通孔206にそれぞれ挿通させることで、第1の金型部品100と第2の金型部品200とが互いに係合する。
【0028】
第1および第2の金型部品100,200が互いに係合した状態では、第1の金型部品100の主面101と第2の金型部品200の主面201とが互いに対向する。また、第1の金型部品100の突起部103の配列方向(第1方向)と、第2の金型部品200の突起部203の配列方向(第2方向)とが一致する。このとき、第1の金型部品100の突起部103は第2の金型部品200の主面201側に向かって、また第2の金型部品200の突起部203は第1の金型部品100の主面101側に向かって、それぞれ突設されることとなる。
【0029】
図4は第1および第2の金型部品の係合状態を示す図である。図4(a)は第1および第2の金型100,200が所定の間隔を空けて近接対向配置された状態を示しており、図4(b)は両者が完全に係合した状態を示している。これらの図に示すように、第1の金型部品100の突起部103と第2の金型部品200の突起部203とがその配列方向において交互にかつ一列に並ぶように、第1および第2の金型部品100,200が構成されている。このため、図4(b)に示すように、第1および第2の金型部品100,200が係合した状態では、両者の間に間隙空間CVが一定ピッチで配列される。各間隙空間CVは、図4(b)紙面の手前側および奥側で互いにつながっており、これらの間隙空間CVに溶融した樹脂材料が流し込まれることにより、前記した形状のアパーチャー部品10が形成される。
【0030】
係合された金型における間隙空間CVの配列ピッチは、アパーチャー部品10における貫通孔10aの配列ピッチと同じであり、この配列ピッチをP0とする。配列方向における突起部103,203の断面長さをL1、同方向における間隙空間CVの長さ(すなわち隣接する突起部103,203間の距離)をL3とすると、
P0=L1+L3
の関係が成立する。このピッチは交互に配列される突起部103,203によって形成されるものであり、それぞれの金型部品100,200における突起部103,203の配列ピッチP1は、図4(a)に示すように、
P1=L1+L2
により表すことができる。ここで、符号L2は各々の金型部品(例えば第1の金型部品100)における突起部(例えば符号103)同士の間隔である。このピッチP1は、アパーチャー部品10における貫通孔10aの配列ピッチP0の2倍に相当している。そして、図4(a)および図4(b)に示す関係から明らかなように、
L2=L1+2L3
である。
【0031】
通常使われる典型的なサイズのアパーチャー部品では、配列方向における貫通孔10aの開口長さが例えば0.2mm程度、その間隔が例えば0.1mm程度である。したがって、完成品のアパーチャー部品10における貫通孔10aの配列ピッチP1は0.3mm程度である。そして、これを製造するための金型における各部の寸法としては、突起部の断面長さL1を0.2mm程度、係合した状態での間隙空間CVの長さL3を0.1mm程度とすればよい。個々の金型部品100,200における突起部の間隔L2は0.4mm程度となる。
【0032】
これに対し、比較例として図4(c)に示す、1対の金型部品300,400の一方のみに突起部303を配置する従来の製造技術では、該突起部303を有する一方の金型部品300における突起部303の間隔L4は、間隙空間CVの長さL3と同じであり、上記寸法例では0.1mm程度である。したがって、本実施形態の金型においては、従来技術の金型に比べて突起部間の間隔を2倍を超えてより大きくすることができる。こうすることにより、次のような利点が得られる。
【0033】
これらの金型部品は金属ブロックを削り出して作成される。このような加工を行うのに好適に適用可能な加工装置としては、例えばソディック株式会社製のマシニングセンターMC430L型があり、これに装着する切削工具としては、例えば日進工具株式会社製のMHRH230型を用いることができる。
【0034】
ここで、狭いピッチで多数の突起部を形成するための切削工具の径は、当然に突起部同士の間隔よりも小さいものでなければならない。図4(c)に示す金型部品300を製作するためには、工具径0.1mm以下とする必要がある。これに対して、図4(a)に示す本実施形態の金型部品100,200の加工には、工具径は0.4mm以下であればよい。
【0035】
この種の切削工具では、仕上がりにおける所望の表面粗さを得るために、その径が小さいほど送り速度および切り込み量を小さくする必要があり、微細な加工が可能な半面、単位時間当たりの加工量は少なくなる。上記工具の例では、直径0.4mmのものでは200mm/分程度の送り速度が可能であるのに対して、直径0.1mmの工具では50mm/分程度となり、加工に要する時間は4倍となる。つまり、大径の工具を使用することのできる本実施形態では、2つの金型部品をそれぞれ加工する必要があることを加味しても、金型製作に必要な時間は従来技術の半分でよいこととなる。
【0036】
そのため、金型製作に必要な時間を大幅に短縮することが可能である。また、この種の成型部品では、その製造コストに金型の製作コストが占める割合はかなり大きいことから、金型の製作時間を短縮することで、部品の製造コストも大きく引き下げることが可能となる。
【0037】
なお、これまでの説明では、第1および第2の金型部品100,200の突起部103,203を単なる直方体形状とみなしているが、次に説明するように、実際にはそれぞれの突起部103,203にはそれぞれ小さなテーパーが付けられている。すなわち、突起部103,203の側面は各金型部品100,201の主面101,201から垂直に突出しているのではなく少し傾いており、主面101,201から離れるにつれて突起部103,203の断面積が少しずつ小さくなる、逆から見れば頂部から底部に向けて断面積が漸増するような形状となっている。
【0038】
図5は金型のより詳細な形状を示す拡大断面図である。なお、図5では突起部103,203の側面の傾きが実際よりも強調されている。図5に示すように、第1の金型部品100の主面101から突設された突起部103の側面103aは、主面101への垂線に対して角度α(>0)の傾き(テーパー角)を有している。このテーパー角αは、例えば0.5度とすることができる。一方、第2の金型部品200の主面201から突設された突起部203の側面203aは、主面201への垂線に対して角度β(>0)の傾きを有している。このテーパー角βは、もう1つの金型部品のテーパー角αよりも大きく、例えば1度とすることができる。
【0039】
このように、突起部103,203にテーパーを付けることにより、両金型部品を係合させて樹脂材料を流し込んだ後、硬化した樹脂を金型から取り外す際の離型性が向上し、完成した樹脂製品を容易に型から取り出すことができる。また、1対の金型部品100,200の間でテーパー角の大きさを異ならせることで、それぞれの金型部品における製品の離型性に差異を生じさせることができる。このため、2つの金型部品を引き離す際に、製品がいずれの金型部品に付随するかを統一させることができる。この例では、テーパー角の小さな第1の金型部品100側に製品が付随する。
【0040】
アパーチャー部品10のように細長くかつ入り組んだ構造を有する製品において、製品がどちらの金型部品に付随するかが不定であると次のような問題がある。例えば製品の一部が一方の金型部品に付随し、他の一部が他方の金型製品に付随するようなことがあると、金型部品を引き離したときに製品が捩れ、変形や破損を生じることがある。また、多数の製品を連続的に形成する場合、製品が付随する側が一定していないと、型から製品を取り外すための作業においては製品がどちらの型に付随したかを判断することが必要となる。このことは、特に作業を自動化する上で工程管理を複雑にしてしまう。
【0041】
2つの金型部品の突起部に設けるテーパー角を異ならせれば、離型時に製品が付随する側の金型部品を一定させることができるので、上記のような問題を解消することが可能となる。
【0042】
なお、このように金型部品100,200にテーパー角を付けたことにより、図5の中段に示すように、当該金型部品100,200を用いて製造されるアパーチャー部品10の貫通孔10aの側面にもテーパーが付くこととなる。したがって、テーパー角が大きい、あるいは両金型部品間のテーパー角の差が大きいと、互いに隣接する貫通孔10a間で入射光に対する通過の態様が異なってしまい、通過光の明るさにムラが生じるおそれがある。この意味から、テーパー角の大きさは、離型性を適正に管理することができる範囲で小さい方が望ましい。本実施形態ではテーパー角を0.5〜1度としている。
【0043】
図6は位置決めピンの嵌合の態様を示す図である。前述したように、第1の金型部品100には位置決めピン105,106が設けられる一方、第2の金型部品200では、位置決めピンに対応する位置に挿通孔205,206が設けられている。位置決めピン105,106の側面にはテーパー角γのテーパーが付けられており、挿通孔205,206のない壁面にも同じテーパー角γのテーパーが付けられている。テーパー角γとしては例えば1度とすることができる。そのため、2つの金型部品100,200の係合の初期段階で両者の位置に多少のずれがあったとしても、接近するにつれて位置決めピン105,106が挿通孔205,206に挿通され、テーパーによる位置補正作用が機能して、位置ずれが解消される。
【0044】
この実施形態では、それぞれ多数の突起部を設けた1対の金型部品100,200を互いの突起部が交互に並ぶように位置決めする必要がある。このような目的のために、上記した同一テーパー角を有する位置決めピンと挿通孔との組み合わせを用いることが可能である。
【0045】
以上のように、この実施形態では、貫通孔10aが列状に配列されてなる樹脂製のアパーチャー部品10を製造するための金型として、互いに係合する1対の金型部品100,200のそれぞれに貫通孔10aに対応する突起部103,203を設ける。より詳しくは、一方の金型部品100に一列に配した突起部103と、他方の金型部品200に一列に配した突起部203とを形成し、これらが互いに交互に並ぶように2つの金型部品100,200を係合させる。そして、2つの金型部品の間に形成された間隙空間CVに樹脂材料を流し込む射出成型の技術によりアパーチャー部品10を製造する。
【0046】
このように、従来は一方の金型部品に集中させていた貫通孔を形成するための突起部を、2つの金型部品に分散させ、しかも列状に並ぶ突起部を交互に各金型部品に配分することで、各々の金型部品では隣接する突起部間の間隔を大きく取ることができる。これにより、金型部品を製作するための加工工具として工具径の大きなものを用いることが可能となる。そのため、この実施形態では、金型の製作に要する時間を従来よりも大幅に短縮することが可能である。また、金型の製作コストが抑えられることで、アパーチャー部品10の製造コストも低減することができる。
【0047】
また、各金型部品100,200に設けた突起部103,203の側面にテーパーを付けることで金型からの製品の離型性を高め、しかもテーパー角を互いに異ならせることにより、離型時に製品がどちらの金型に付随した状態となるかを統一的に管理することができる。これにより、離型時のアパーチャー部品の破損や、特に連続製造時の工程管理を容易にすることができる。
【0048】
なお、この実施形態においては、第1の金型部品100の主面101が本発明の「第1の対向面」に相当しており、これに設けられた突起部103が、本発明の「第1のダイ」に相当している。一方、第2の金型部品200の主面201が本発明の「第2の対向面」に相当しており、これに設けられた突起部203が、本発明の「第2のダイ」に相当している。
【0049】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態のアパーチャー部品10は、入射光を通過させるための貫通孔10aをX方向に一列に配した構造を有しているが、貫通孔の配列は2列以上であってもよく、また、以下に例示するような、いわゆる千鳥配置であってもよい。
【0050】
図7はアパーチャー部品の他の形状例を示す図である。より具体的には、図7(a)は貫通孔の配列が上記実施形態とは異なるアパーチャー部品の一例を示す外観図であり、図7(b)はこれを製造するための金型の例を示す図である。CISMに用いられる光学部品では、レンズや光学センサー等の光学素子をより高密度に配置させるために、2列以上の光学素子の列をその配列方向に位置を少し異ならせて配した、いわゆる千鳥配置のものがある。図7(a)に示すアパーチャー部品15は、このような光学素子と好適に組み合わせることができるものである。
【0051】
このアパーチャー部品15では、複数の貫通孔15aをX方向に一列に配してなる列150aと、この列150aに対してX方向と直交するY方向に隣接して設けられた複数の貫通孔15bをX方向に一列に配してなる列150bとが設けられている。2つの列150a,150bは、X方向には貫通孔の配列ピッチの1/2だけ互いの位置が異なっている。Y方向における貫通孔の開口位置は、2つの列において一部が重なっていてもよい。
【0052】
このような形状のアパーチャー部品15の製造に本発明を適用する場合、金型の形状は例えば図7(b)にようにすることができる。図7(b)において実線で示す突起部503a,503bは、金型を構成する1対の金型部品のうち一方の金型部品500の主面501に突設されるものであることを示す。また、点線で示す突起部603a,603bは、図示しない他方の金型部品の主面に突設されるものであることを示す。ただし、2つの金型部品への突起部の配分の態様はこれに限定されるものではない。
【0053】
貫通孔150aに対応する突起部503a,603aを係合状態で交互に一列に並ぶように形成する一方、貫通孔150bに対応する突起部503b,603bについても突起部503a,603aとは異なる列を作るように交互に形成することで、個々の金型部品においては突起部間の間隔L5,L6を上記実施形態と同様に広く取ることができ、径の大きな工具を用いて金型を製作することができる。そのため、図7(a)に示す千鳥配置のアパーチャー部品15を製造するための金型を短い時間で、また低コストで製作することが可能である。
【0054】
また、上記実施形態では、アパーチャー部品10の貫通孔10aの断面形状を略長方形としているが、貫通孔およびこれを製造するための金型におけるダイの断面形状についてはこれに限定されるものでなく任意である。例えば、貫通孔の断面形状を円形、長円形や他の多角形としてもよく、また概略矩形のダイの角部に丸みを持たせた形状としても構わない。なお、ダイの断面形状を本実施形態の長方形を含めた平行四辺形とした場合には、当該ダイを製作するための加工工具の動作を2軸の直線動作のみとすることができるので、金型の製作に要する時間をさらに短縮することが可能である。
【0055】
また、上記では貫通孔を一列に配したケースおよび2列の千鳥配置としたケースを採り上げて説明したが、貫通孔の配列はこれらに限定されるものではない。また、それに対応するダイの配列についても、上記以外に種々のものを採用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
10,15…アパーチャー部品、 10a,15a,15b…貫通孔、 100…第1の金型部品、 101…(第1の金型部品100の)主面(第1の対向面)、 103…突起部(第1のダイ)、 105,106…位置決めピン、 200…第2の金型部品、 201…(第2の金型部品200の)主面(第2の対向面)、 203…突起部(第2のダイ)、 205,206…挿通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像読取装置に用いられる、所定の配列方向に沿って複数の貫通孔を等間隔で列状に配してなるアパーチャー部品製造用の金型において、
互いに係合可能に構成され、該係合により、前記アパーチャー部品の材料となる液体を流し込むための間隙空間を形成する第1の金型部品および第2の金型部品を備え、
前記第1の金型部品では、前記第2の金型部品と係合したときに前記第2の金型部品と対向する第1の対向面に、前記第2の金型部品側に向けて、かつ前記配列方向における前記貫通孔の配列ピッチの2倍のピッチで等間隔に、前記貫通孔の側壁面に対応する外形寸法を有する複数の第1のダイが第1方向に沿った列状に突設され、
前記第2の金型部品では、前記第1の金型部品と係合したときに前記第1の金型部品と対向する第2の対向面に、前記第1の金型部品側に向けて、かつ前記配列方向における前記貫通孔の配列ピッチの2倍のピッチで等間隔に、前記貫通孔の側壁面に対応する外形寸法を有する複数の第2のダイが第2方向に沿った列状に突設され、
前記第1の金型部品と前記第2の金型部品とが係合したとき、前記第2方向が前記第1方向と一致し、かつ前記第1方向において前記第1のダイと前記第2のダイとが交互に並び、前記第1のダイおよび前記第2のダイの周囲に前記間隙空間が形成される
ことを特徴とするアパーチャー部品製造用の金型。
【請求項2】
前記第1の金型部品と前記第2の金型部品とが係合した状態で、前記第1のダイと前記第2のダイとが一列に並ぶ請求項1に記載のアパーチャー部品製造用の金型。
【請求項3】
前記第1のダイはその頂部から前記第1の対向面に向かって断面積が漸増するテーパー形状となる一方、前記第2のダイはその頂部から前記第2の対向面に向かって断面積が漸増するテーパー形状となっており、しかも、前記第1のダイのテーパー角と前記第2のダイのテーパー角とが互いに異なる請求項1または2に記載のアパーチャー部品製造用の金型。
【請求項4】
前記第1のダイおよび前記第2のダイの断面形状がそれぞれ平行四辺形である請求項1ないし3のいずれかに記載のアパーチャー部品製造用の金型。
【請求項5】
前記第1の金型部品および前記第2の金型部品の一方に位置決めピンが突設されるとともに他方に前記位置決めピンと嵌合する挿通孔が設けられ、前記位置決めピンの側面と前記挿通孔の側面とが同一テーパー角のテーパー形状となっている請求項1ないし4のいずれかに記載のアパーチャー部品製造用の金型。
【請求項6】
画像読取装置に用いられる、所定の配列方向に沿って複数の貫通孔を等間隔で列状に配してなるアパーチャー部品の製造方法において、
第1の金型部品および第2の金型部品を互いに係合させて金型を形成する工程と、
前記金型内部の間隙空間に、前記アパーチャー部品の材料となる液体を流し込んで硬化させる工程と
を備え、
前記第1の金型部品は、前記第2の金型部品と係合したときに前記第2の金型部品と対向する第1の対向面に、前記第2の金型部品側に向けて、かつ前記配列方向における前記貫通孔の配列ピッチの2倍のピッチで等間隔に、前記貫通孔の側壁面に対応する外形寸法を有する複数の第1のダイを第1方向に沿った列状に突設したものであり、
前記第2の金型部品は、前記第1の金型部品と係合したときに前記第1の金型部品と対向する第2の対向面に、前記第1の金型部品側に向けて、かつ前記配列方向における前記貫通孔の配列ピッチの2倍のピッチで等間隔に、前記貫通孔の側壁面に対応する外形寸法を有する複数の第2のダイを第2方向に沿った列状に突設したものであり、
しかも、前記第1方向と前記第2方向とを一致させ、かつ前記第1方向において前記第1のダイと前記第2のダイとが交互に並ぶように、前記第1の金型部品と前記第2の金型部品とを係合させる
ことを特徴とするアパーチャー部品の製造方法。
【請求項7】
前記第1のダイをその頂部から前記第1の対向面に向かって断面積が漸増するテーパー形状とする一方、前記第2のダイをその頂部から前記第2の対向面に向かって断面積が漸増するテーパー形状とし、しかも、前記第1のダイのテーパー角と前記第2のダイのテーパー角とを互いに異ならせる請求項6に記載のアパーチャー部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−52557(P2013−52557A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191199(P2011−191199)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】