説明

アフィニティー担体及びその製造方法

【課題】化学的安定性が高く、しかも、非特異的吸着を十分に抑制する親水的特性を有したアフィニティー担体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】μmサイズの細孔が三次元網目状に連続した共連続構造を有する有機高分子ゲル状のアフィニティー担体で、当該担体は、架橋剤としての、二官能性ビニルモノマー化合物、メタクリレート化合物及びアクリレート化合物の少なくともいずれか1種と、一官能性親水性モノマーとの共重合体であり、前記架橋剤と前記一官能性親水性モノマーの体積比率は100〜10:0〜90である。本製法では、上記の架橋剤と一官能性親水性モノマーとを上記の重量比率にて配合し、水溶性溶媒中でラジカル重合開始剤の存在下で共重合させてゲル状体を得、その後、当該ゲル状体を水で浸漬して洗浄を行い、乾燥させる。水溶性溶媒としては、ジエチレングリコールやトリエチルアミン等が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロメートルサイズの平均直径を有し、三次元網目状に連続した細孔と有機物質に富む骨格相からなる共連続構造をもつ粒子凝集型でない有機高分子ゲル状のアフィニティー担体(担持機能性ポリマーモノリス)、及び当該アフィニティー担体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、製薬企業において“生理自社化合物(毒性・副作用を含む)”の最大活用の重要性が認識されつつある。一方、それらの直接作用するターゲットタンパク質(特異的タンパク質)、生理的メカニズムのほとんどは解明されていない。そのような生理活性物質を担持したアフィニティークロマトグラフィー樹脂はターゲットタンパクの同定に重要な役割を果たす。アフィニティークロマトグラフィーによるターゲットタンパク質の単離に関しては、いくつかの報告例がある(例えば、非特許文献1及び2)。
【非特許文献1】S. L. Schreiber, The small-molecule approach to biology, Chem. Eng.News, 2003, 81, pp 51 - 61.
【非特許文献2】M. Yoshida, 他,特集 ケミカルゲノミクスの誕生,蛋白質核酸酵素,2005, 50, pp 1031 - 1077.
【0003】
アフィニティ樹脂は生化学の分野において多用されてきた手法であるが、従来の手法がペプチドやDNAといった親水性のリガンドを対象としてきたのに対し、細胞膜を透過する生理活性物質の多くは一定レベル以上の疎水性を示すことから、これらの化合物を固定化したアフィニティ樹脂においては疎水的要因に支配される非特異的蛋白吸着が大きな問題となってきた。特に存在量の多いtubulinやactinはターゲットの存在を覆い隠す結果となることから、これらの非特異的蛋白吸着が抑制されたアフィニティ樹脂用担体の開発が求められてきた。
アフィニティー樹脂に用いる固相担体として市販されているものがいくつかあり、その一つにアガロース系樹脂の Affigel(商標)がある。Affigel(商標)は固相担体自身が高い親水性を有するため非特異的タンパク質吸着が少ないという点で優れているが、有機合成を伴う実験条件下では容易に変性し化学的安定性が低く広範な適用が不可能である。また、メタクリレート系樹脂のToyopearl(商標)が代表的な担体として挙げられる。これは、種々の合成条件下で化学的安定が高く、効率の良いアフィニティー樹脂合成が可能であるが、ターゲットタンパク質とともに多くの非特異的タンパク質の吸着が見られ、選択性を求められる実験においては意味をなさない。したがって、メタクリレート系樹脂担体のように化学的安定性が高く、アガロース系樹脂のように非特異的吸着を十分に抑制する親水的特性を持つ新規アフィニティー樹脂が求められる。
また、上記担体が粒子状、破砕状、あるいはブロック状であり、このため、実験後の除去操作などが煩雑でスピードを求められる実験において改善が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来のアフィニティー樹脂における上述の問題点を解決し、メタクリレート系樹脂担体のように化学的安定性が高く、アガロース系樹脂のように非特異的吸着を十分に抑制する親水的特性を持ち、充分に大きな細孔を持つ一体型の新規アフィニティー樹脂を提供することを課題とする。又、上述の特性を有したアフィニティー樹脂を製造するのに適した方法を提供することも、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決可能な本発明のアフィニティー担体は、マイクロメートルサイズの平均直径を有し、三次元網目状に連続した細孔と有機物質に富む骨格相からなる共連続構造をもつ粒子凝集型でない有機高分子ゲル状物(いわゆる有機モノリス体)であって、当該アフィニティー担体が、架橋剤としての、二官能性ビニルモノマー化合物、メタクリレート化合物及びアクリレート化合物の少なくともいずれか1種と、一官能性親水性モノマーとの共重合体であり、しかも、前記アフィニティー担体における前記架橋剤と前記一官能性親水性モノマーの体積比率が100〜10:0〜90であることを特徴とする。
【0006】
又、本発明は、上記の特徴を有したアフィニティー担体において、前記アフィニティー担体の内外表面が、乾燥状態で当該表面に水を滴下した際に1分以内に当該担体内部に滴下された水を吸収し得る親水性を有していることを特徴とするものでもある。
【0007】
更に、本発明は、上記の特徴を有したアフィニティー担体において、前記一官能性親水性モノマーが、アミノ基、アミド基、アンモニウム基,カルボキシル基、エステル基、カルボニル基、水酸基、スルホ基及びリン酸基あるいはその誘導体、保護体から成るグループより選ばれた官能性基を有するものであることを特徴とするものでもある。
【0008】
又、マイクロメートルサイズの平均直径を有し、三次元網目状に連続した細孔と有機物質に富む骨格相からなる共連続構造をもつ粒子凝集型でない有機高分子ゲル状のアフィニティー担体を製造するための本発明の方法は、架橋剤としての、二官能性ビニルモノマー化合物、メタクリレート化合物及びアクリレート化合物の少なくともいずれか1種と、一官能性親水性モノマーとを、前記架橋剤と前記一官能性親水性モノマーの体積比率が100〜10:0〜90となるように配合し、水及び分子量500以下の水溶性溶媒から成るグループより選ばれた少なくとも1種の溶媒中で、ラジカル重合開始剤の存在下で共重合させてゲル状体を得、その後、当該ゲル状体を水で浸漬して洗浄を行い、乾燥させることによっても共連続構造を保つことを特徴とする。
【0009】
又、本発明は、上記の特徴を有したアフィニティー担体の製造方法において、前記水溶性溶媒が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール,ヘキサエチレングリコール、トリエチルアミン、ビニルピリジン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、メタノール及びエタノールから成るグループより選ばれたものであることを特徴とするものでもある。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアフィニティー担体は、マイクロメートルサイズの細孔が三次元網目状に連続した構造を有した有機高分子ゲルで、メタクリレート系樹脂担体のように化学的安定性が高く、アガロース系樹脂のように非特異的吸着を十分に抑制する親水的特性を持ち、本発明の製法を用いることによって、このような特性を有したアフィニティー担体が、比較的簡単な工程にて効率良く製造可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のアフィニティー担体は、二官能性ビニルモノマー架橋剤あるいはメタクリレート架橋剤あるいはアクリレート架橋剤の少なくともいずれか1種に、一官能性親水性モノマー(一官能性の親水的な機能性モノマー)を0〜90体積%、好ましくは5〜50体積%含ませた担持機能性ポリマーモノリス型担体で、これら化合物の共重合によって得られる。そして、このアフィニティー担体は、ゲル状の共重合体で、ポリマー粒子凝集型ではなく共連続構造を有し、化学的安定性が高く、アガロース系樹脂のように非特異的吸着を十分に抑制する親水的特性を有している。本発明のアフィニティー担体においては、共連続した細孔のサイズが0.1μmから50μmで単分散であり、骨格サイズが0.1μmから50μmで単分散であるものの組み合わせである。
【0012】
本発明のアフィニティー担体と構成する「二官能性ビニルモノマー架橋剤あるいはメタクリレート架橋剤あるいはアクリレート架橋剤」としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等のオリゴ、ポリエチレングリコールジメタクリレートおよびそのアクリレート置換体、グリセリンジメタクリレート、ビニルメタクリレート、N,N’‐メチレンビスアクリルアミドなどが挙げられ、特に好ましい化合物としては、三次元網目状の細孔連続構造形成性の点から、9個のポリエチレングリコール単位を有するノナエチレングリコールジメタクリレートが挙げられる。この化合物は、例えば新中村化学工業株式会社から「NK ESTER 9G」という商品名で市販されており、本発明では、市販の二官能性架橋剤が利用できる。
【0013】
一方、本発明のアフィニティー担体と構成する「一官能性親水性モノマー」としては、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、エステル基、カルボニル基、水酸基、スルホ基、リン酸基、およびその誘導体を含む親水的モノマー(一官能性の担持機能性モノマー)が挙げられ、例えば下記の化1の反応にて合成されるpOH型モノマーやPEG型モノマーが好適である。本発明において、上記の官能性基は、ゲルの疎水性に基づく非特異的吸着を排除する役割を果たす。
【0014】
【化1】

【0015】
また、親水基を導入可能なハロゲン化アルキル基を有するモノマー(例えばクロロメチルスチレン)や、エポキシ基を持つモノマー(例えばグリシジルメタクリレート)、フェニル基を有するモノマー(例えばスチレン)等も挙げられる。
選択的で効率良くターゲットタンパク質が吸着するアフィニティー樹脂として好適な本発明のアフィニティー担体においては、前記メタクリレートモノマーと前記一官能性モノマーの構成重量比率が20〜100:80〜0であり、この際、50〜95:50〜5が好ましく、30〜80:70〜20が特に好ましい。本発明では、前記メタクリレートモノマーの構成重量割合が10以下になると、モノリス構造(三次元網目構造)が安定に維持できなくなる。
【0016】
上述の構成モノマーより成る本発明のアフィニティー担体は、乾燥状態で水を担体表面に滴下した際に1分以内、好ましくは10秒以内、特に好ましくは1秒以内に担体内に水を収着するに充分な親水性を有しており、このような親水性は、細孔が三次元網目状に連続した構造と、構成モノマー中の親水性基に起因するものである。
本発明のアフィニティー担体の用途としては、アフィニティ担体、担持担体などの生化学用の固相体の他、イオン交換クロマトグラフィー担体、キラルクロマトグラフィー担体、フィリッククロマトグラフィー担体、逆相クロマトグラフィー担体などのクロマトグラフィー固定相、気体や液体などの環境毒に対する捕捉担体や、水浄化用の固定相や電気泳動などの担体、細胞培養担体などが挙げられる。
【0017】
次に、上記のアフィニティー担体を効率良く製造するのに適した本発明の製造方法について説明する。本発明の製法では、ポリエチレングリコール単位を主鎖に含むメタクリレートモノマーと、重合可能な官能性基を一つ有した一官能性モノマーとを準備した後、前記メタクリレートモノマーと前記一官能性モノマーとを、重量比率(混合比率)が10〜100:90〜0となるように配合して水溶性溶媒の中に添加、混合し、ラジカル重合開始剤を添加して加熱を行い、両モノマーを共重合させる。この際、前記水溶性溶媒としては、水に自由に溶解することが可能な低分子量(分子量500以下)の溶媒が使用でき、好ましい溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのエチレングリコール縮合系溶媒、トリエチルアミン、ビニルピリジン等のアミノ基を有する溶媒、ホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド基を有する溶媒、アセトニトリルのようなシアノ基を有する溶媒、アセトンなどのカルボニル基を有する溶媒、メタノールやエタノールなどの水酸基を有する溶媒などが挙げられる。本発明においては、共重合を行う際の溶媒として、水に溶解しない溶媒(例えばパラフィン類、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素など)を使用することはできず、この場合には、ナノメートルサイズの細孔が三次元網目状に連続した構造を有した有機高分子ゲルは得られない。尚、上記水溶性溶媒に添加されるモノマーの総量は、溶媒100重量部に対して10〜120重量部であることが好ましい。
【0018】
本発明では、共重合に使用されるラジカル重合開始剤の種類が特に限定されるものではなく、加熱によって重合が開始可能な一般的なラジカル重合開始剤が種々使用でき、重合条件(重合温度や重合時間)についても特殊な条件を必要とせず、一般的な条件でラジカル重合が行える。本発明において適した開始剤としては、過酸化系ラジカル開始剤(過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム等)あるいは、アゾ系ラジカル開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビス2,4‐ジメチルバレロニトリル(ADVN)等)および水溶性、あるいは油溶性のレドックス系ラジカル開始剤(ジメチルアニリン+過酸化ベンゾイル)が挙げられ、0.2部〜10部、好ましくは0.5部〜3部添加される。
【0019】
前記化1に示したpOH型モノマーを用いてpOH型溶液重合樹脂を製造する際の合成スキームの一例を、以下の化2に示す。又、化3は、化2で得られたpOH型溶液重合樹脂の脱保護反応を示すスキームである。
【0020】
【化2】

【0021】
【化3】

【0022】
更に、前記化1に示したPEG型モノマーを用いてPEG型溶液重合樹脂を製造する際の合成スキームの一例を、以下の化4に示す。又、化5は、化4で得られたPEG型溶液重合樹脂の脱保護反応を示すスキームである。
【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
本発明では、上記の共重合を行った後、得られたゲル状体を水で浸漬して洗浄を行い、乾燥させる。この際、洗浄を2〜3回繰り返し、加熱乾燥を行うのが一般的である。
このようにして得られた重合体の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察すると、表面に10nm〜10μm程度の細孔が三次元網目状に連続していることがわかる。そして、このような三次元網目状の細孔構造を有するアフィニティー担体は、化学的安定性が高く、アガロース系樹脂のように非特異的吸着を十分に抑制する親水的特性を有している。
【0026】
以下の化6には、上記化4により得られたPEG型樹脂を用いてFK506担持樹脂を合成する際のスキームが示されており、化7は、pOH型モノマー及びPEG型モノマーの合成法と担持法をまとめたスキームである。
【0027】
【化6】

【0028】
【化7】

【0029】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
実施例1:本発明のアフィニティー担体の製造例(溶媒としてジエチレングリコールを使用した場合)
[試薬及び溶媒]
ポリエチレングリコール単位を主鎖に含むメタクリレートモノマーとしては、市販されているノナエチレングリコールジメタクリレート(商品名:NK ESTER 9G、新中村化学工業株式会社製)をそのまま用いた。
又、一つの官能性基を有する一官能性モノマーとしては、合成したPEG型モノマーの1種である化1に示されているもの(アミンの保護体)を用いた。
を用いた。尚、ラジカル重合開始剤としては、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル(ADVN)(和光純薬工業、和光一級)をそのまま使用し、溶媒としては、ジエチレングリコール(和光純薬工業、和光一級)をそのまま使用した。
【0031】
[ゲルの作製]
60μlのNK ESTER 9Gに4mgのADVNを溶解し、下記の表1に記載される量のPEG型モノマーと、0.37mlのジエチレングリコールを加えて均一に混合し、60℃で1時間加熱重合させた。得られたゲル体を水で浸漬して、超音波振動により30分洗浄し、洗浄は三回繰り返した。尚、操作はエッペンドルフチューブ内で行った。得られたゲル体を60℃の乾燥機内で乾燥させ、SEM観察を行った。
実験に用いた組成を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
上記の重合によって製造された本発明のアフィニティー担体におけるモノリス構造(ナノメートルサイズの細孔が三次元網目状に連続した構造)を、図1及び図2の電子顕微鏡写真により示す。尚、縮尺は各写真右下にスケールで提示している。
図1及び図2に示されるように、本発明のアフィニティー担体(組成A〜H)においては、PEG型モノマーの含有率を変えた場合でも、ナノメートルサイズの細孔の共連続構造が出来ていることが分かる。
又、上記の本発明のアフィニティー担体(組成A〜H)の表面にスポイトを用いて水を滴下したところ、いずれも担体の場合も10秒以内に担体内部に水が吸収されることが確認された。
【0034】
実施例2:重合時に使用される溶媒としてトリエチルアミンを使用した場合のアフィニティー担体の製造
前記実施例1におけるジエチレングリコール(分子量106)の代わりに、分子量が類似した溶媒としてトリエチルアミン(分子量101)を使用し、前記の共重合条件と同じ条件下にて共重合を行い、得られた重合物の構造(形成される細孔の状態)を調べた。
図3に、この実施例にて得られたゲル状担体の電子顕微鏡写真を示す。
図3に示されるように、溶媒としてトリエチルアミンを使用した場合においても、モノリス構造が確認できた。
又、実施例1と同様にして、上記の本発明のアフィニティー担体の表面にスポイトを用いて水を滴下したところ、10秒以内に担体内部に水が吸収されることが確認された。
【0035】
比較例1:重合時に使用される溶媒としてクロロペンタンを使用した場合の共重合生成物の構造観察
前記実施例1におけるジエチレングリコール(分子量106)の代わりに、分子量が類似した溶媒として、水に溶解しないクロロペンタン(分子量107)を使用し、前記の共重合条件と同じ条件下にて共重合を行い、得られた重合物の構造(形成される細孔の状態)を調べた。
図4(a)に、この比較例1にて得られたゲル状担体の電子顕微鏡写真を示す。
図4(a)に示されるように、溶媒としてクロロペンタンを使用した場合には、細孔(モノリス構造)が形成されないことがわかった。
又、この共重合物の表面にスポイトを用いて水を滴下したところ、1分以上が経過しても共重合物の内部に水が吸収されないことが確認された。
【0036】
比較例2:重合時に使用される溶媒としてキシレンを使用した場合の共重合生成物の構造観察
前記実施例1におけるジエチレングリコール(分子量106)の代わりに、分子量が類似した溶媒として、水に溶解しないキシレン(分子量106)を使用し、前記の共重合条件と同じ条件下にて共重合を行い、得られた重合物の構造(形成される細孔の状態)を調べた。
図4(b)に、この比較例2にて得られたゲル状担体の電子顕微鏡写真を示す。
図4(b)に示されるように、溶媒としてキシレンを使用した場合にも、細孔(モノリス構造)が形成されないことがわかった。
又、この共重合物の表面にスポイトを用いて水を滴下したところ、5分以上が経過しても共重合物の内部に水が吸収されないことが確認された。
【0037】
実施例3:本発明のアフィニティー担体による蛋白質捕捉実験
前記実施例1で得たアフィニティー担体(組成A,B,D,F,G)の性能を検定するために、FK506(32位からリンカー)を共通のリガンドとして選択し、従来条件と同じ方法で固定化した樹脂を合成し、これまで同様ラットの脳から調整したライゼートを蛋白混合物として用い、各アフィニティー樹脂の比較を行った。尚、ラットの脳はこれまでの研究からFK506のターゲット蛋白質であるFKBP12及び非特異的吸着蛋白質として有名なtubulin, actinが多く含まれていることから本研究目的として適していることが知られている。図5に、樹脂上のアミノ基に対して約0.1等量のFK506を固定化した結果を示す。尚、対照担体としては、市販のメタクリレート系樹脂担体(Toyopearl(商標)、東ソー製)を用いた。
【0038】
図5に示される実験結果から、市販のメタクリレート系樹脂担体を用いた場合には、アフィニティークロマトグラフィーによるターゲットタンパク質の単離において、非特異的なタンパク質吸着が見られたのに対して、本発明のアフィニティー担体を用いた場合には、従来のメタクリレート系樹脂担体を用いた場合の欠点が解消され、アフィニティー樹脂への非特異的タンパク質の吸着が見られず、選択的で効率良くターゲットタンパク質が吸着されることが確認された。
【0039】
実施例4:二官能性モノマーのみの製造例
二官能性モノマーとして、グリセリンジメタクリレートを用い、溶媒としてジエチレングリコールとホルムアミドの混合溶媒、開始剤としてADVNを用いた場合。
ジエチレングリコール1gとホルムアミド1mlの混合溶媒に、グリセリンジメタクリレート1gとADVN0.01gを溶解して撹拌し、均一溶液とした。その後、容器を密閉し、60℃条件で24時間ゲル化を行った。さらに得られたゲルをアルコールで洗浄し乾燥後、ポリマーモノリスを得た。
図6に、この実施例4にて得られたポリマーモノリスの電子顕微鏡写真を示す。
図6の電子顕微鏡写真から、二官能性モノマーであるグリセリンジメタクリレートの単独重合によって得られる重合物の場合も、マイクロメートルサイズの平均直径を有し、三次元網目状に連続した細孔と有機物質に富む骨格相からなる共連続構造が形成されていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1にて得られた本発明のアフィニティー担体(組成A〜D)についての電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1にて得られた本発明のアフィニティー担体(組成E〜H)についての電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例2で得られた本発明のアフィニティー担体についての電子顕微鏡写真である。
【図4】(a)は、比較例1で得られたゲル状担体の電子顕微鏡写真であり、(b)は、比較例2で得られたゲル状担体の電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例1にて合成したアフィニティー樹脂の性能比較を示す図である。
【図6】実施例4で得られた本発明のアフィニティー担体についての電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロメートルサイズの平均直径を有し、三次元網目状に連続した細孔と有機物質に富む骨格相からなる共連続構造をもつ粒子凝集型でない有機高分子ゲル状のアフィニティー担体であって、当該アフィニティー担体が、架橋剤としての、少なくとも二官能性以上のビニルモノマー化合物、メタクリレート化合物及びアクリレート化合物の少なくともいずれか1種と、一官能性親水性モノマーとの共重合体であり、しかも、前記アフィニティー担体における前記架橋剤と前記一官能性親水性モノマーの体積比率が100〜10:0〜90であることを特徴とするアフィニティー担体。
【請求項2】
前記アフィニティー担体の内外表面が、乾燥状態で当該表面に水を滴下した際に1分以内に当該担体内部に滴下された水を吸収し得る親水性を有していることを特徴とする請求項1記載のアフィニティー担体。
【請求項3】
前記一官能性親水性モノマーが、アミノ基、アミド基、アンモニウム基、カルボキシル基、エステル基、カルボニル基、水酸基、スルホ基及びリン酸基およびその誘導体あるいは保護体から成るグループより選ばれた官能性基を有するものであることを特徴とする請求項1又は2記載のアフィニティー担体。
【請求項4】
マイクロメートルサイズの平均直径を有し、三次元網目状に連続した細孔と有機物質に富む骨格相からなる共連続構造をもつ粒子凝集型でない有機高分子ゲル状のアフィニティー担体を製造するための方法であって、架橋剤としての、二官能性ビニルモノマー化合物、メタクリレート化合物及びアクリレート化合物の少なくともいずれか1種と、一官能性親水性モノマーとを、前記架橋剤と前記一官能性親水性モノマーの体積比率が100〜10:0〜90となるように配合し、水及び分子量500以下の水溶性溶媒から成るグループより選ばれた少なくとも1種の溶媒中で、ラジカル重合開始剤の存在下で共重合させてゲル状体を得、その後、当該ゲル状体を水で浸漬して洗浄を行い、乾燥させることによっても共連続構造を保つことを特徴とするアフィニティー担体の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性溶媒が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール,ヘキサエチレングリコール、トリエチルアミン、ビニルピリジン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、メタノール及びエタノールから成るグループより選ばれたものであることを特徴とする請求項4記載のアフィニティー担体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−154083(P2007−154083A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353074(P2005−353074)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(505191803)株式会社エマオス京都 (9)
【Fターム(参考)】