説明

アミノクロロヒドリン硫酸塩の製造方法

【課題】純度の高い(2R,3S)−または(2S,3R)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを高収率で工業的に製造するためのより簡便な方法の提供。
【解決手段】N,N−ジベンジルフェニルアラニンエステルにリチウムクロロメタンを作用させて3−ジベンジルアミノー1−クロローオキソー4−フェニルブタンを得て、これを還元して3−ジベンジルアミノー1−クロロー2−ヒドロキシー4−フェニルブタンを得る。これに硫酸を加えてその硫酸塩を得る工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定のアミノクロロヒドリン硫酸塩およびその結晶、ならびにそれらの製造方法に関する。また本発明は該アミノクロロヒドリン硫酸塩から誘導されるアミノエポキシドの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
式(6)で表される3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン(以下、化合物(6)ともいう)および式(7)で表される3−保護アミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタン(以下、化合物(7)ともいう)は、HIVプロテアーゼ阻害剤等の医薬化合物の中間体として有用な化合物である。
【0003】
【化1】





【0004】
[式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜20のアラルキル基を示し、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は(2R,3S)または(2S,3R)である。]
上記化合物(7)は、例えば、上記化合物(6)を塩基で処理することにより得ることができる。
【0005】
上記化合物(6)の製造方法としては、いくつかの方法が知られている。
例えば、(3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−ハロ−2−オキソ−4−フェニルブタンをエーテル中、水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムで還元することにより(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−ハロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを得ることができる(非特許文献1、2または3参照)。
【0006】
また、例えば、3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン(以下、化合物(3)ともいう)を、必要に応じて酸の存在下、水素添加により脱保護して、3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンまたはその酸性塩(以下、化合物(5)ともいう)とし、さらにアミノ基をカルバメート型保護基で保護することにより、上記化合物(6)を製造する方法が知られている(非特許文献4参照)。
【0007】
【化2】

【0008】
[式中、Rは上記で定義した通りである。]
【0009】
上記化合物(3)は、既知の方法によって、例えば、N,N−ジベンジルフェニルアラニンエステル(以下、化合物(1)ともいう)を低級アルキルリチウムおよびジハロメタンの存在下でハロメチル化して3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタン(以下、化合物(2)ともいう)を得、これを還元することにより製造することができる(非特許文献5参照)。
【0010】
しかしながら、上記製造方法においては、化合物(1)をハロメチル化する工程で、化合物(2)の他に副生成物が生じる。
【0011】
本発明者らは、上記のハロメチル化する工程で生じた副生成物が化合物(3)のベンジル基を脱保護して化合物(5)を合成する反応を著しく阻害するために長時間の反応を必要とするという知見を得ている。そのため、円滑に脱保護反応を進行させるためには、化合物(2)の精製が必要である。また、未精製のままの化合物(3)を用いた場合には、化合物(5)、(6)および(7)の純度が低下するという問題もある。
【0012】
また、化合物(2)を還元して化合物(3)を製造する工程では、不純物としてさらに化合物(3)のジアステレオマーが生成する。例えば、メタノール中、水素化ホウ素ナトリウムを用いて(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを還元した場合、ジアステレオマーである(2S,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンが、目的の(2R,3S)−体10〜20モル当量に対して1モル当量程度の割合で生成することが知られている。しかし、化合物(3)を結晶として取り上げることが困難であったことから、このようなジアステレオマーの除去も大きな課題であった。
当該ジアステレオマーを除去するための試みは、これまでに種々なされている。
非特許文献5では、工業的規模の生産には不向きなシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる化合物(3)の精製法が用いられている。
特許文献1では、ジアステレオマーを不純物として含む化合物(6)(N−カルバメート保護β−アミノアルコール)を極性有機溶媒に溶解し、当該溶液に水を添加してこれを晶析することにより、または当該N−保護−β−アミノアルコールをジオールもしくはジオール系混合溶媒から晶析することにより、ジアステレオマーを除去している。しかしながら、特許文献1記載の方法では、不純物であるジアステレオマーを固体として析出させるため、母液には目的物とともにある程度のジアステレオマーの残留が避けられず、精製レベルに限界があるという問題を有する。
特許文献2では、そのジアステレオマーを不純物として含むN−カルバメート保護β−アミノアルコールを、炭化水素溶媒等から選ばれる少なくとも1種の溶媒に溶解し、不溶物を除去する工程を含む化合物(7)(N−カルバメート保護β−アミノエポキシド)の製造方法を開示している。しかしながら、特許文献2の方法においても、ジアステレオマーである(2S,3S)−体を結晶として析出させた後に、母液に回収された(2R,3S)−N−カルバメート保護β−アミノアルコールを晶析によって取り上げる必要があり、操作が煩雑であるだけでなく、高純度の目的物を高収率で得ることは、特許文献1に記載された方法と同様に困難である。
【0013】
従って、純度の高い(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンまたは(2S,3R)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを高収率で製造するためのより簡便な方法が望まれている。
【特許文献1】国際公開WO02/44136号
【特許文献2】国際公開WO00/43357号
【非特許文献1】P.Raddatzら、ジャーナル・オブ・メディシナル・ケミストリー、34巻、11号、3267頁、1991年(J.Med.Chem., 1991, 34, 11, 3267.
【非特許文献2】A.A.Malik、第3回オーガニック・プロセス・リサーチ・アンド・デベロップメント国際会議、デベロップメント・オブ・ア・コマーシャル・プロセス・フォー・2S,3S・アンド・2R,3S−エポキシズ、2000年7月10−12日、於モントリオール(The 3rd International Conference on Organic Process Research & Development, Development of a Commercial Process for 2S, 3S and 2R, 3S-epoxides,10-12th July 2000, Montreal)
【非特許文献3】T.Archibaldら、サイエンティフィック・アップデート・コンファレンス・マニュアル、キラル・ユーエスエー・’99、フル・スケール・キラル・セパレーションズ・ユージング・エスエムビー・1999年5月4日、於サンフランシスコ、サイエンティフィック・アップデート社(Scientific Update Conference Manual, Chiral USA '99, Full Scale Chiral Separations Using SMB, 4th May 1999, San Francisco, Scientific Update)
【非特許文献4】P.Beaulieuら、ジャーナル・オブ・オーガニックケミストリー 3635頁、61巻、1996年(J. Org. Chem. 1996, 61, 3635)
【非特許文献5】J.Barluengaら、ジャーナル・オブ・オーガニックケミストリー 6696頁、60巻、1995年(J. Org. Chem. 1995, 60, 6696)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、純度の高い(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンまたは(2S,3R)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを高収率で工業的に製造するためのより簡便な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、N,N−ジベンジルフェニルアラニンエステルをリチウムクロロメタンと作用させて、少なくとも副生成物を含む化合物(2)を得、これを極性溶媒に溶解し、当該溶液に水を加えて化合物(2)の結晶を晶析することにより、比較的高純度の化合物(2)が得られるとともに、その後の脱ベンジル化反応が短時間に完結することを見出した。
さらに、本発明者らは、当該化合物(2)の結晶を還元して、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む化合物(3)を得、次いでこれに硫酸を加えることにより、化合物(3)の硫酸塩である、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む化合物(4)を得、これを酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液から晶析することにより、化合物(4)が結晶として高収率で得られることに加えて、該結晶においては不純物であるジアステレオマーが高度に除去されていることを見出した。
本発明者らは、これらの知見に基づいて、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は以下に関する:
[1]下記(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする式(4)
【0017】
【化3】



【0018】
[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は下記式(3)の立体配置が(2R,3S)のとき(2R,3S)であり、(2S,3R)のとき(2S,3R)である]
で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶の製造方法:
(a)式(1)
【0019】
【化4】



【0020】
[式中、Rはそれぞれ置換基を有していても良い、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基もしくは炭素数7〜20のアラルキル基、またはこれらの基のいずれかの炭素骨格中にヘテロ原子を含む基を示し、*は不斉炭素原子であることを示し、2位の立体配置はSまたはRである]
で表されるN,N−ジベンジルフェニルアラニンエステルに、リチウムクロロメタンを作用させて、少なくとも副生成物を含む式(2)
【0021】
【化5】



【0022】
[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、3位の立体配置は、当該式(1)の2位の立体配置がSのときはSであり、RのときはRである]
で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを得る工程、
(b)当該少なくとも副生成物を含む式(2)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを極性溶媒に溶解し、当該溶液に水を加えて、式(2)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶を晶析する工程、
(c)当該式(2)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶を還元し、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(3)
【0023】
【化6】



【0024】
[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は、当該式(2)で3位の立体配置がSのとき(2R,3S)であり、Rのとき(2S,3R)である]
で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを得る工程、
(d)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(3)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンに硫酸を加えて、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を得る工程、および
(e)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液から晶析することによって、上記式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得る工程。
【0025】
[2]上記[1]記載の製造方法に従って、前記式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得た後、
(f)当該式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を接触還元することにより、式(5)
【0026】
【化7】



【0027】
[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は当該式(4)の立体配置が(2R,3S)のとき(2R,3S)であり、(2S,3R)のとき(2S,3R)である]
で表される3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩に誘導する工程、および
(g)当該式(5)で表される3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩のアミノ基を、中性条件下、保護剤を用いて保護する工程
を含むことを特徴とする、式(6)
【0028】
【化8】



【0029】
[式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜20のアラルキル基を示し、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は当該式(5)の立体配置が(2R,3S)のとき(2R,3S)であり、(2S,3R)のとき(2S,3R)である]
で表される3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンの製造方法。
【0030】
[3]上記[2]記載の製造方法に従って、前記式(6)で表される3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを得た後、
(h)当該式(6)で表される3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを塩基で処理する工程を含むことを特徴とする、式(7)
【0031】
【化9】



【0032】
[式中、Rは上記[2]で定義した通りであり、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は当該式(6)の立体配置が(2R,3S)のとき(2R,3S)であり、(2S,3R)のとき(2S,3R)である]
で表される3−保護アミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタンの製造方法。
【0033】
[4]下記(d)および(e)の工程を含むことを特徴とする式(4)
【0034】
【化10】



【0035】
[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は下記式(3)の立体配置が(2R,3S)のとき(2R,3S)であり、(2S,3R)のとき(2S,3R)である]
で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶の製造方法:
(d)式(3)
【0036】
【化11】



【0037】
[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は、(2R,3S)または(2S,3R)である]
で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンに硫酸を加えて、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を得る工程、および
(e)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液から晶析することによって、上記式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得る工程。
【0038】
[5]下記(aa)〜(ae)の工程を含むことを特徴とする式(4−a)
【0039】
【化12】



【0040】
で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶の製造方法:
(aa)式(1−a)
【0041】
【化13】



【0042】
[式中、R1aはそれぞれ置換基を有していても良い、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基もしくは炭素数7〜20のアラルキル基、またはこれらの基のいずれかの炭素骨格中にヘテロ原子を含む基を示す。]
で表される(S)−N,N−ジベンジルフェニルアラニンエステルに、リチウムクロロメタンを作用させて、少なくとも副生成物を含む式(2−a)
【0043】
【化14】



【0044】
で表される(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを得る工程、
(ab)当該少なくとも副生成物を含む式(2−a)で表される(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを極性溶媒に溶解し、当該溶液に水を加えて、式(2−a)で表される(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶を晶析する工程、
(ac)当該式(2−a)で表される(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶を還元し、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(3−a)
【0045】
【化15】



【0046】
で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを得る工程、
(ad)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(3−a)で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンに硫酸を加えて、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4−a)で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を得る工程、および
(ae)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4−a)で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液から晶析することによって、上記式(4−a)で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得る工程。
【0047】
[6]上記[5]記載の製造方法に従って、前記式(4−a)で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得た後、
(af)当該式(4−a)で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を接触還元することにより、式(5−a)
【0048】
【化16】



【0049】
で表される(2R,3S)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩に誘導する工程、および
(ag)当該式(5−a)で表される(2R,3S)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩のアミノ基を、中性条件下、保護剤を用いて保護する工程
を含むことを特徴とする、式(6−a)
【0050】
【化17】



【0051】
[式中、R2aは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜20のアラルキル基を示す。]
で表される、(2R,3S)−3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンの製造方法。
【0052】
[7]上記[6]記載の製造方法に従って、前記式(6−a)で表される(2R,3S)−3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを得た後、
(ah)当該式(6−a)で表される(2R,3S)−3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを塩基で処理することを特徴とする、式(7−a)
【0053】
【化18】



【0054】
[式中、R2aは上記[6]で定義した通りである]
で表される(2R,3S)−3−保護アミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタンの製造方法。
【0055】
[8]下記(ba)〜(be)の工程を含むことを特徴とする式(4−b)
【0056】
【化19】



【0057】
で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶の製造方法:
(ba)式(1−b)
【0058】
【化20】



【0059】
[式中、R1bはそれぞれ置換基を有していても良い、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基もしくは炭素数7〜20のアラルキル基、またはこれらの基のいずれかの炭素骨格中にヘテロ原子を含む基を示す。]
で表される(R)−N,N−ジベンジルフェニルアラニンエステルに、リチウムクロロメタンを作用させて、少なくとも副生成物を含む式(2−b)
【0060】
【化21】



【0061】
で表される(3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを得る工程、
(bb)当該少なくとも副生成物を含む式(2−b)で表される(3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを極性溶媒に溶解し、当該溶液に水を加えて、式(2−b)で表される(3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶を晶析する工程、
(bc)当該式(2−b)で表される(3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶を還元し、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(3−b)
【0062】
【化22】



【0063】
で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを得る工程、
(bd)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(3−b)で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンに硫酸を加えて、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4−b)で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を得る工程、および
(be)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4−b)で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液から晶析することによって、上記式(4−b)で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得る工程。
【0064】
[9]上記[8]記載の製造方法に従って、前記式(4−b)で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得た後、
(bf)当該式(4−b)で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を接触還元することにより、式(5−b)
【0065】
【化23】



【0066】
で表される(2S,3R)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩に誘導する工程、および
(bg)当該式(5−b)で表される(2S,3R)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩のアミノ基を、中性条件下、保護剤を用いて保護する工程
を含むことを特徴とする、式(6−b)
【0067】
【化24】



【0068】
[式中、R2bは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜20のアラルキル基を示す。]で表される、(2S,3R)−3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンの製造方法。
【0069】
[10]上記[9]記載の製造方法に従って、前記式(6−b)で表される(2S,3R)−3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを得た後、
(bh)当該式(6−b)で表される(2S,3R)−3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを塩基で処理することを特徴とする、式(7−b)
【0070】
【化25】



【0071】
[式中、R2aは上記[9]で定義した通りである]
で表される(2S,3R)−3−保護アミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタンの製造方法。
【0072】
[11]Rがtert−ブチル基、ベンジル基またはフルオレニルメチル基である上記[2]または[3]に記載の製造方法。
【0073】
[12]R2aがtert−ブチル基、ベンジル基またはフルオレニルメチル基である上記[6]または[7]に記載の製造方法。
【0074】
[13]R2bがtert−ブチル基、ベンジル基またはフルオレニルメチル基である上記[9]または[10]に記載の製造方法。
【0075】
[14]Rがメチル基、エチル基、イソブチル基またはベンジル基である上記[1]に記載の製造方法。
【0076】
[15]R1aがメチル基、エチル基、イソブチル基またはベンジル基である上記[5]に記載の製造方法。
【0077】
[16]R1bがメチル基、エチル基、イソブチル基またはベンジル基である上記[8]に記載の製造方法。
【0078】
[17]酢酸エステルが、酢酸メチル、酢酸エチルおよび酢酸プロピルからなる群より選択される1種以上である上記[1]〜[16]のいずれか1項に記載の製造方法。
【0079】
[18]式(4)
【0080】
【化26】



【0081】
[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は(2R,3S)または(2S,3R)である。]
で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩。
【0082】
[19]式(4−a)
【0083】
【化27】



【0084】
で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩。
【0085】
[20]式(4−b)
【0086】
【化28】



【0087】
で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩。
【発明の効果】
【0088】
本発明の製造方法によれば、純度の高い化合物(4)、(5)、(6)および(7)を、高収率で、かつ工業生産に適したより簡便な方法で得ることができる。
特に、本発明によれば、化合物(2)の製造において生成する副生成物を効率的に除去することができ、その結果、その後の脱ベンジル化反応を短時間で完了させることが可能である。
さらに、化合物(3)をその硫酸塩である化合物(4)とし、さらに当該化合物(4)を結晶として得ることにより、不純物であるジアステレオマー、ならびにその他の不純物等を効率的に除去することができる。そのため、本発明の方法では、(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンまたは(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを、純度の高い硫酸塩の結晶として、簡便かつ高収率に得ることができる。
例えば、本発明の方法のように3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液から硫酸塩の結晶として晶析させることにより、(2R,3S)−あるいは(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンとそのジアステレオマーの比は99:1程度に改善され、さらには100:0にすることも可能となる。
さらに、本発明により、上記のような化合物(4)の結晶を接触還元して得られる化合物(5)、当該化合物のアミノ基を中性条件下、保護剤を用いて保護することにより得られる化合物(6)、当該化合物(6)を塩基で処理することにより得られる化合物(7)を、高純度かつ高収率で得ることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0089】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
本明細書中では、例えば、「式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩」、「式(1)で表されるN,N−ジベンジルフェニルアラニンエステル」等の表現を、単に「化合物(4)」、「化合物(1)」等と表す場合がある。また、本明細書中の以下の説明中、例えば、「化合物(4)」と記載している場合は、特に断りがない限り、化合物(4−a)および化合物(4−b)の両方について包括的に説明しているものとする。
【0090】
(R、R1aおよびR1bの説明)
上記式(1)中のRは、それぞれ置換基を有していても良い、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基もしくは炭素数7〜20のアラルキル基、またはこれらの基のいずれかの炭素骨格中にヘテロ原子を含む基である。
上記「炭素数1〜10のアルキル基」としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基(例、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(例、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等)等が挙げられる。
上記「炭素数6〜15のアリール基」として好ましくはフェニル基、ナフチル基等であり、より好ましくはフェニル基等である。
上記「炭素数7〜20のアラルキル基」として好ましくはベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、フルオレニルメチル基等であり、より好ましくはベンジル基、フルオレニルメチル基等である。
上記「これらの基のいずれかの炭素骨格中にヘテロ原子を含む基」としては、例えば、上記炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基もしくは炭素数7〜20のアラルキル基の炭素骨格における1〜3の炭素原子が、窒素、酸素、イオウ原子等のヘテロ原子で置換された基が挙げられる。好ましい「これらの基のいずれかの炭素骨格中にヘテロ原子を含む基」としては、例えばメチルチオエチル基、t−ブチルチオメチル基、トリチルチオメチル基、(p−メチルベンジル)チオメチル基、(p−メトキシベンジル)チオメチル基、t−ブトキシメチル基、ベンジルオキシメチル基、t−ブトキシエチル基、ベンジルオキシエチル基、4−(t−ブトキシ)フェニルメチル基、4−ベンジルオキシフェニルメチル基、フェニルチオメチル基等が挙げられる。
上記Rとしての「炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基もしくは炭素数7〜20のアラルキル基、またはこれらの基のいずれかの炭素骨格中にヘテロ原子を含む基」が有していてもよい「置換基」としては、本発明の反応に悪影響を与えない置換基であれば特に限定されず、例えばアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜7のアルコキシ基)、ニトロ基、アルキル基(好ましくは炭素数1〜6のアルキル基)、ハロゲン原子等が挙げられる。
上記Rとして好ましくは、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ベンジル基等であり、より好ましくはメチル基、エチル基、ベンジル基等である。
上記式(1−a)中のR1aおよび上記式(1−b)中のR1bとしては、上記Rと同様のものがそれぞれ挙げられる。
【0091】
(R、R2aおよびR2bの説明)
上記式(6)および(7)中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜20のアラルキルである。上記「炭素数1〜10のアルキル基」としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基(例、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(例、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等)等が挙げられる。
上記「炭素数7〜20のアラルキル基」として好ましくはベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、フルオレニルメチル基等であり、より好ましくはベンジル基、フルオレニルメチル基等である。
上記Rとして好ましくは、例えば、tert−ブチル基、ベンジル基、フルオレニルメチル基等であり、より好ましくはtert−ブチル基、ベンジル基等である。
上記式(6−a)および(7−a)中のR2aならびに式(6−b)および(7−b)中のR2bとしては、上記Rと同様のものがそれぞれ挙げられる。
【0092】
以下に、本発明の製造方法における各工程を詳細に説明する。
(工程(a)の説明)
工程(a)は、上記式(1)で表されるN,N−ジベンジルフェニルアラニンエステルにリチウムクロロメタンを作用させて、上記少なくとも副生成物を含む式(2)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを得る工程である。
工程(a)の反応は公知であり、例えば、J. Barluengaら、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー、60巻、21号、6696頁、1995年(J. Org. Chem., 1995, 60, 6698)に記載の方法を参照することができる。
工程(a)において用いるリチウムクロロメタンは、例えば、ブロモクロロメタンまたはヨードクロロメタンを反応系に先に添加しておき、次いでアルキルリチウムを添加することにより、反応系中で形成させる。好ましいアルキルリチウムとしては、例えば、ノルマルブチルリチウム、メチルリチウム等の炭素数1〜6のアルキルリチウムが挙げられ、特にノルマルブチルリチウムが好ましい。
工程(a)の反応は、好ましくは溶媒存在下で行う。好ましい反応溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル系溶媒、これらのエーテル系溶媒とベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の非極性溶媒との混合溶媒等を挙げることができる。特に好ましくは、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフランとトルエンまたはヘプタンとの混合溶媒等を挙げることができる。
工程(a)の反応の好ましい反応温度は−50℃〜−100℃であり、特に好ましくは−70℃〜−100℃である。
工程(a)の反応では、副生成物が生成する。(例えば、J. Barluengaら、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー、62巻、17号、5974頁、1997年(J. Org. Chem., 1997, 62, 5974)、G. Kobrichら、テトラへドロン、24巻、4343頁、1968年(Tetrahedron 1968, 24, 4343)等を参照。)これらの副生成物は、次に説明する工程(b)で除去する。
なお、上記工程(aa)および工程(ba)は、本工程(a)に準じるので、これらの工程についての説明は省略する。
【0093】
(工程(b)の説明)
工程(b)は、上記少なくとも副生成物を含む化合物(2)を極性溶媒に溶解し、当該溶液に水を加えて、化合物(2)の結晶を晶析する工程である。
工程(b)では、まず、上記少なくとも副生成物を含む化合物(2)を極性溶媒に溶解する。当該極性溶媒としては、水と混和する有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、2−ブタノン、アセトニトリル、テトラヒドロフランおよびこれらの溶媒の任意の混合溶媒が挙げられるが、特にメタノールが好ましい。また、当該極性溶媒には、本発明の効果を阻害しない範囲で、極性溶媒以外の他の溶媒が存在していても良い。
上記少なくとも副生成物を含む化合物(2)を極性溶媒に溶解させる際の温度は特に制限されないが、好ましくは−20℃〜60℃、さらに好ましくは−10℃〜30℃である。また、極性溶媒の使用量も特に制限されないが、例えば、上記化合物(2)1gに対して、2ml〜20mlの量の溶媒を使用することが好ましい。
次に、上記溶液に水を添加して、上記化合物(2)の結晶を晶析する。
水の添加量は特に制限されないが、上記極性溶媒に対して、重量比で好ましくは1%〜100%、より好ましくは5%〜50%である。
晶析を行う温度は、好ましくは−20℃〜60℃、特に好ましくは−20℃〜30℃である。添加する水の温度は特に制限されないが、晶析を行う温度と同じにするのが好ましい。また水の加え方も特に制限されないが、30分〜4時間にわたって徐々に加えるのが好ましい。
上記晶析は、攪拌しながら行ってもよいし、静置下で行ってもよい。必要に応じて、水の添加前、添加中もしくは添加後に、目的とする化合物(2)の結晶の種結晶を接種することにより、結晶化をより容易に行うことができる。さらに、必要により、水の添加中もしくは添加後に結晶−溶媒系を冷却しながら晶析しても良い。
本工程(b)においては、目的物である化合物(2)を結晶として得る一方、不純物を母液側に残留させて除去する。従って、本工程(b)では、化合物(2)を高純度かつ効率的に得ることができる。
得られた化合物(2)の結晶は、必要により、水、メタノール、エタノール、アセトン、ヘプタン、ヘキサン、トルエン等の溶媒でさらに洗浄しても良い。
化合物(2)の結晶は、次に説明する工程(c)に供する。
なお、上記工程(ab)および工程(bb)は、本工程(b)に準じるので、これらの工程についての説明は省略する。
【0094】
(工程(c)の説明)
工程(c)では、工程(b)で晶析した上記化合物(2)の結晶を還元し、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む化合物(3)を得る。
工程(c)の還元はいずれの方法で行ってもよいが、好ましくは、還元剤および溶媒の存在下で行う。
工程(c)の還元において好ましい還元剤としては、例えば水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム等が挙げられる。
工程(c)の還元に好ましい溶媒は、還元剤の種類によって変わる。還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを使用する場合に好ましい溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のプロトン性溶媒、これらのプロトン性溶媒のいずれかと、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等の非プロトン性溶媒との混合溶媒等が挙げられ、好ましくはメタノール、エタノール等のプロトン性溶媒、これらのプロトン性溶媒のいずれかと、ジクロロメタン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、テトラヒドロフラン等の非プロトン性溶媒との混合溶媒等が挙げられる。また、還元剤として水素化アルミニウムリチウムを用いる場合に好ましい溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、トルエン等の非プロトン性溶媒、これらの混合溶媒等が挙げられる。
工程(c)の還元の反応温度は、通常−100℃〜50℃、好ましくは−100℃〜10℃である。
還元反応終了後、酸を用いて反応を停止する。反応停止に用いる酸としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸等が挙げられ、好ましくは塩酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。
還元反応を停止する温度は特に制限されないが、還元反応を行う温度と同じであることが好ましい。
還元反応停止後、水と有機溶媒とを用いて、上記化合物(3)を抽出する。当該抽出に使用する有機溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等が好ましく、特にジクロロメタン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等が好ましい。また、当該有機溶媒には、本発明の効果を阻害しない範囲で他の溶媒が存在しても良い。
なお、ここでは還元反応停止後、目的の上記化合物(3)を抽出する例を挙げたが、反応終了後、反応溶媒を留去して、上記有機溶媒で置換することにより抽出を行っても良い。
上記抽出に使用する有機溶媒および水の量は特に制限されないが、上記化合物(3)1gに対し、それぞれ2ml〜20mlが好ましく用いられる。抽出温度も特に制限されないが、−10℃〜40℃が好ましく、特に10℃〜30℃が好ましい。
上記還元においては、還元剤の種類、反応条件により化合物(3)とその不純物であるジアステレオマーとの生成比率が異なることが知られており、適当な還元条件を選択することにより、当該ジアステレオマーの生成をある程度までは抑制できることができる。(例えば、J. Barluengaら、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー、60巻、21号、6696頁、1995年(J. Org. Chem., 1995, 60, 6696)参照)。しかしながら、本工程における還元条件の選択によってのみでは、当該ジアステレオマーの生成抑制は不十分である。従って、本発明の方法では、本工程で得られた少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む化合物(3)を、次に説明する工程(d)および工程(e)に供することにより、当該ジアステレオマーを除去する。
なお、上記工程(ac)および工程(bc)は、本工程(c)に準じるので、これらの工程についての説明は省略する。
【0095】
(工程(d)の説明)
工程(d)では、上記少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む化合物(3)に硫酸を加えて、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む化合物(4)を得る。化合物(4)は、化合物(3)の硫酸塩であり、本発明者らによって初めて得られた。
工程(d)の反応は、好ましくは溶媒中で行う。好ましい溶媒としては、例えば、酢酸エステル[例、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル(例、酢酸イソプロピル)]、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、イソプロパノール等が挙げられ、より好ましくは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジクロロメタン等である。あるいは、上記工程(c)で還元反応停止後、反応系を水および有機溶媒で抽出して得られた、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む化合物(3)を含む有機溶媒層を、そのまま工程(d)に供してもよい。
工程(d)における硫酸の使用量としては、上記少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む化合物(3)に対して0.5モル当量〜2モル当量が好ましく、特に0.9モル当量〜1.2モル当量が好ましい。
硫酸を加える温度は特に制限されないが、好ましくは−10℃〜40℃であり、特に−10℃〜30℃が好ましい。
本工程(d)で得られた、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む化合物(4)は、次の工程(e)に供する。
なお、上記工程(ad)および工程(bd)は、本工程(d)に準じるので、これらの工程についての説明は省略する。
【0096】
(工程(e)の説明)
工程(e)では、上記工程(d)で得られた、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む化合物(4)を、酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液から、結晶として晶析する。化合物(4)の結晶もまた、本発明者らによって初めて見出されたものである。
工程(e)の晶析において使用する酢酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル(例、酢酸イソプロピル)等が挙げられ、特に酢酸エチルが好ましい。
上記酢酸エステルを含む溶液としては、例えば、上記酢酸エステルと、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等の溶媒との混合溶媒が挙げられ、特に酢酸エチルとジクロロメタンとの混合溶媒および酢酸イソプロピルとジクロロメタンとの混合溶媒が好ましい。
上記酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液に使用する酢酸エステルの量は特に制限されないが、上記化合物(4)1gに対して、1ml〜30mlを好ましく用いることができる。
晶析を行う温度は、好ましくは−20℃〜60℃、特に好ましくは0℃〜40℃である。
上記酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液を、上記少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む化合物(4)に加える場合、その加え方に特に制限はないが、30分〜4時間にわたって徐々に加えるのが好ましい。また、加える上記酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液の温度は特に制限されないが、晶析を行う温度と同じにするのが好ましい。
工程(e)の晶析は、攪拌しながら行ってもよいし、静置下で行ってもよい。必要に応じて、目的とする化合物(4)の結晶の種結晶の接種を行うことにより、結晶化をより容易に行うことができる。
工程(e)においては、晶析の際、不純物であるジアステレオマーのみならずその他の不純物も同時に母液側に残留させて除去できるため、上記化合物(4)の結晶を高純度でかつ効率的に得ることができる。
また、得られた化合物(4)の結晶は、必要により、酢酸エステル[例、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル(例、酢酸イソプロピル)]、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、水、メタノール、エタノール、アセトン、ヘプタン、ヘキサン、トルエン等の溶媒で洗浄しても良い。
化合物(4)の結晶は、次で説明する化合物(5)の合成に用いる。
なお、上記工程(ae)および工程(be)は、本工程(e)に準じるので、これらの工程についての説明は省略する。
【0097】
(工程(f)の説明)
工程(f)では、上記工程(e)で得られた化合物(4)の結晶を接触還元することにより、式(5)で表される3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩に誘導する。
上記接触還元は、好ましくは溶媒中、触媒存在下で、水素化することにより行うことができる。
上記接触還元に用いる触媒としては、例えばパラジウム炭素、水酸化パラジウム炭素、リンドラーズ触媒等が挙げられ、パラジウム炭素、水酸化パラジウム炭素等が好ましい。
上記接触還元に用いる溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、およびこれらの溶媒のいずれかと水との混合溶液等が挙げられ、メタノール、エタノール等が好ましい。
上記接触還元の好ましい反応温度は、0℃〜70℃であり、特に好ましくは10℃〜50℃である。
本工程(f)では、出発物質である化合物(4)の結晶が硫酸塩であるため、接触還元によって得られる化合物(5)もまた硫酸塩である。そのため、本工程(f)では、化合物(5)が反応系中で非常に安定であり、その収率も向上するという利点を有する。
なお、上記工程(af)および工程(bf)は、本工程(f)に準じるので、これらの工程についての説明は省略する。
【0098】
(工程(g)の説明)
工程(g)では、化合物(5)のアミノ基を中性条件下、保護剤を用いて保護することにより、化合物(6)を得る。
工程(g)で用いることができる保護剤としては、例えば、tert−ブトキシカルボニル基を導入し得る保護剤(例、ジ−tert−ブチルカーボネート等)等が挙げられる。
上記反応は、上記保護剤が酸に対して不安定なため、中性条件下で行う必要がある。本反応系を中性とするためには、硫酸塩である化合物(5)を中和する。例えば、反応系に塩基(例、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等)を添加して中和し、次いで、この中和された反応系に上記保護剤を添加する。
上記反応は、例えば、ジクロロメタン、酢酸エチル等の溶媒中で行うことが好ましい。
上記反応の好ましい反応温度は、10℃〜50℃であり、特に好ましくは20℃〜40℃である。
上記反応の好ましい反応時間は、0.5時間〜24時間であり、特に好ましくは1時間〜12時間である。
得られた化合物(6)は、必要に応じて、さらに再結晶等の方法で精製してもよい。
なお、上記工程(ag)および工程(bg)は、本工程(g)に準じるので、これらの工程についての説明は省略する。
【0099】
(工程(h)の説明)
工程(h)では、化合物(6)を塩基で処理することにより、化合物(7)を得る。
当該塩基処理反応は公知であり、例えば、P. L. Beaulieuら、テトラへドロン レターズ、36巻、19号、3317頁、1995年(Tetrahedron lett., 1995, 36, 3317)等を参照して行うことができる。
なお、上記工程(ah)および工程(bh)は、本工程(h)に準じるので、これらの工程についての説明は省略する。
【実施例】
【0100】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。もちろん、本実施例は、本発明を何ら限定するものではない。なお、実施例中に記載されている目的物とそのジアステレオマーとの比率は全てモル比率である。
【0101】
<実施例1>(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶の製造
工程(1a):(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタン(副生成物を含む)の製造
(2S)−N,N−ジベンジル−L−フェニルアラニンベンジルエステル(3.4g、net.3.0g、6.89mmol、88.2 wt%)にヘキサン(10.6ml)、テトラヒドロフラン(11.3ml)およびブロモクロロメタン(1.23ml)を加え、混合物をアルゴン雰囲気下において撹拌しながら−70℃に冷却した。当該溶液を撹拌しながら、同温度で、2.64Mノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(5.35ml)を2時間かけて滴下した。反応液を同温度で30分撹拌後、4M塩酸水溶液(3.53ml)にこの反応液を一気に加えて反応を停止した後、静置して有機層を分取した。HPLC分析の結果、有機層中には目的物である(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンが1.94g(収率74.5%)含まれており、そのピーク面積比は57.4%であった。また、不純物の総ピーク面積比は42.6%であった。
【0102】
工程(1b):(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶の製造
減圧下、上記工程(1a)で得られた有機層((3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを1.94g(5.13mmol)含む)から溶媒を留去し、残渣にメタノール(15ml)を加えて10℃に冷却した。この溶液に(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶(10mg)を種晶として加え、さらに1時間攪拌した。得られたスラリーを−10℃まで冷却後、水(2.3ml)を加え、さらに2時間攪拌した。得られたスラリーをろ過し、結晶をメタノール(7.2ml)と水(1.8ml)との混合溶媒で洗浄した。得られた結晶を減圧下において乾燥し、(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶を1.68g(4.45mmol、収率86.6%)得た。HPLC分析の結果、当該化合物のピーク面積比は92.4%であった。
融点45.8−46.8℃
H−NMR(CDCl,400MHz);δppm 2.99(dd,J=9.7,3.6Hz,1H),3.20−3.26(m,1H),3.58(d,J=13.6 Hz,2H),3.65−3.69(m,1H),3.81−3.85(m,3H),4.41−4.43(m,1H),7.13−7.37(m,15H)
13C−NMR(CDCl,100MHz);δppm 29.4,48.3,55.1,67.1,126.7,128.0,129.0,129.1,129.4,129.9,138.9,139.1,201.0
マススペクトル;m/z=378.71(M+H)
[α]20=−110.3℃(c=1.0, メタノール)
【0103】
工程(1c):(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン(ジアステレオマーとしてその(2S,3S)−体を含む)の製造
上記工程(1b)で得られた(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶(5.1g、13.5mmol)をアルゴン雰囲気下においてメタノール(41ml)とジクロロメタン(15.3ml)との混合溶媒に溶解し、−10℃に冷却した。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム(255mg)を10分割して10分かけて添加し、1時間攪拌した。この反応溶液に36%濃塩酸(0.579ml)を加えて反応を停止させた。20℃にてジクロロメタン(10.2ml)および水(25.5ml)を加えて分層し、有機層を再び水(25.5ml)および飽和食塩水で洗浄することによって、不純物としてそのジアステレオマーである(2S,3S)−体を含む(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを含む有機層を得た。
【0104】
工程(1d):(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の製造
上記工程(1c)で得られた有機層に、20℃にて硫酸(0.718ml)を加え、不純物としてそのジアステレオマーである(2S,3S)−体を含む(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を含む有機層を得た。
【0105】
工程(1e):(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶の製造
上記工程(1d)で得られた有機層に酢酸エチル(10.2ml)を加え、さらに(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の種晶(10mg)を加えて1時間攪拌した。このスラリー液に酢酸エチル(15.3ml)を30分かけて滴下し、さらに20℃で2時間攪拌した。このスラリー液をろ過し、得られた結晶を20℃の酢酸エチル(25.5ml)で2回洗浄した。この湿結晶を室温にて減圧乾燥することにより、(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶(5.7g、net.5.6g、98wt%)を収率87%で得た。HPLC分析の結果、当該化合物のピーク面積比は99.2%であり、ジアステレオマー比(2R,3S)/(2S,3S)は99.9/0.1であった。
融点117.2−117.4℃
H−NMR(メタノール−d,400MHz);δppm 2.97(dd,J=12.6,3.2Hz,1H),3.12(dd,J=14.6,9.2Hz,1H)、3.44(dd,J=12.6,3.2Hz,1H),3.61(dd,J=14.6,4.6Hz,1H),3.86(ddd,J=9.2,9.2,4.6Hz,1H),4.37(ddd,J=9.2,3.2,3.2Hz,1H),4.98(bs,4H),7.12−7.17(m,2H),7.27−7.35(m,5H),7.40−7.48(m,3H),7.50−7.58(m,3H),7.64−7.72(m,2H)
13C-NMR(メタノール−d,100MHz);δppm 32.1,48.5,56.9,64.4,69.8,129.3,130.7,130.7,131.1,131.6,131.8,132.7,137.0
マススペクトル;m/z=380.4((M−HSO)+H)
[α]20=6.0℃(c=1.0,メタノール)
【0106】
<実施例2>(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶の製造
工程(2c):(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン(ジアステレオマーとしてその(2S,3S)−体を含む)の製造
実施例1の工程(1b)と同様にして得られた(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶(5.0g、13.2mmol、100wt%)をアルゴン雰囲気下、メタノール(40ml)とジクロロメタン(15ml)との混合溶媒に溶解し、−10℃に冷却した。この溶液に水素化ホウ素ナトリウム(300mg)を10分割して10分かけて添加し、1時間攪拌した。反応溶液に36%濃塩酸(0.682ml)を加えて反応を停止させた。20℃にて水(15ml)を加えて分層し、得られた有機層に水(15ml)とジクロロメタン(10ml)とを加えて分層した。
【0107】
工程(2d):(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩(そのジアステレオマーとしてその(2S,3S)−体を含む)の製造
上記工程(2c)で得られた有機層を飽和食塩水(15ml)にて洗浄した後、20℃にて硫酸(0.721ml)を加え、ジアステレオマーとしてその(2S,3S)−体を不純物として含む(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を含む有機層を得た。
【0108】
工程(2e):(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶の製造
上記工程(2d)で得られた有機層に酢酸イソプロピル(7.5ml)を加え、さらに(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の種晶(10mg)を加えて1時間攪拌した。このスラリー液にジクロロメタン(5ml)と酢酸イソプロピル(2.5ml)との混合溶媒を加え、さらに酢酸イソプロピル(20ml)を30分かけて滴下し、混合物を2.5時間攪拌した。このスラリー液をろ過し、得られた結晶を20℃にて酢酸イソプロピル(7.5ml)とジクロロメタン(7.5ml)との混合溶媒で洗浄した。この湿結晶を室温にて減圧乾燥することにより目的の(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶(5.3g)を収率76%で得た。HPLC分析の結果、当該化合物のピーク面積比は98.2%であり、ジアステレオマー比(2R,3S)/(2S,3S)は99.0/1.0であった。
融点102−105℃
マススペクトル、m/z=380.4((M−HSO)+H)
[α]20=9.2℃(c=1.0、メタノール)
【0109】
<実施例3>(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンの製造
工程(3f):(2R,3S)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の製造
実施例2で得られた(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶(5.0g)をメタノール(25ml)に溶解し、反応雰囲気を窒素置換した後に、混合物に20%水酸化パラジウム炭素(50wt%wet、150mg)を加えた。反応雰囲気を水素に置換した後に混合物を40℃にて攪拌したところ、脱ベンジル化反応は3時間で完結した。反応雰囲気を窒素置換した後に触媒をろ過し、ろ過液にジクロロメタン(15ml)と水(15ml)とを加えて分層した。有機層を水(10ml)で抽出し、先に得た水層と混合した。水層をHPLC分析した結果、(2R,3S)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩が3.1g(収率100%)含まれており、そのピーク面積比は84.5%であった。また当該水層中には、ベンジルアルコールが8%(ピーク面積比)含まれており、その他の副生成物は1%以下(ピーク面積比)であった。得られた水層は精製することなく、次の工程(3g)に供した。
【0110】
工程(3g):(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンの製造
上記工程(3f)で得られた水溶液にジクロロメタン(10ml)を加え、さらに29%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを7に調整した。混合物にジ−tert−ブチルジカーボネート(2.75g)を加え、25℃で2時間攪拌した。攪拌を停止して混合物を分層し、有機層を水(10ml)で洗浄した。ジクロロメタンを減圧留去し、有機層にメタノール(17ml)と水(4.4ml)とを加え、0℃まで冷却し、次いで、(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンの種晶を添加した。この有機層を0℃で1時間攪拌した後、水(16.3ml)を30分かけて滴下し、さらに1時間攪拌した。このスラリー液をろ過し、湿結晶を酢酸エチル(0.2ml)とヘプタン(10ml)との混合溶媒で洗浄した。得られた湿結晶を室温にて減圧乾燥し、目的の(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンの白色結晶(2.99g、100wt%)を95.3%の収率で得た。HPLCにて分析の結果、当該化合物のピーク面積比は99.7%であり、そのジアステレオマーである(2S,3S)−体は検出されなかった。
H−NMR(CDCl,300MHz);δppm 1.38(s,9H),2.91(dd,J=8.1,13.2Hz,1H),3.01(dd,J=7.1,13.2Hz,1H),3.14(d,J=4.0Hz,1H),3.53(s,1H),3.55(d,J=2.3Hz,1H),3.70−3.77(m,1H),3.79−3.89(m,1H),4.88(bd,1H),7.19−7.35(m,5H)
マススペクトル m/e;322(M+Na
[α]20=−28.3゜(c=0.50,CHCl
【0111】
<実施例4>(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタンの製造
工程(4h):(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタンの製造
実施例3で得られた(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン(45.1g)にイソプロパノール(120ml)と水(45ml)とを加えて0℃に冷却し、29%水酸化ナトリウム水溶液を加え、4時間攪拌した。反応液にクエン酸水溶液(クエン酸6.73gと水14mlとの混合溶液)を添加し、さらにアセトン(35ml)と水(59.5ml)を加え、次いで(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタンの種晶を加えて、この混合物を1時間攪拌した。この混合物に水(200ml)を1時間かけて滴下し、終夜攪拌した。このスラリー液をろ過し、結晶をアセトン水溶液(アセトン50ml、水350mlの混合溶液)で2回洗浄した。湿結晶を室温にて減圧乾燥し、(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタンを白色結晶(37.1g、100wt%)として収率93%で得た。HPLCにて分析した結果、当該化合物のピーク面積比は99.9%であり、そのジアステレオマーである(2S,3S)−体は検出されなかった。
【0112】
<比較例1>(2R,3S)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン塩酸塩の製造
工程(1’a):(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタン(副生成物を含む)の製造
N,N−ジベンジル−L−フェニルアラニンベンジルエステルのヘキサン溶液(243g、net.176g、404mmol)にヘキサン(322ml)、テトラヒドロフラン(500ml)およびブロモクロロメタン(44.8ml)を加え、混合物をアルゴン雰囲気下において−70℃に冷却した。この混合物に1.59Mn−ブチルリチウムヘキサン溶液(434ml)を3.5時間かけて滴下した。反応液を同温度で55分間撹拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液(345ml)に反応液を一気に加えて反応を停止し、有機層を分取した。HPLCによる分析の結果、当該有機層中には目的物である(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンが138g(収率90%)含まれており、そのピーク面積比は60.5%であった。また、不純物の総ピーク面積比は39.5%であった。
【0113】
工程(1’c):(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン塩酸塩(ジアステレオマーとしてその(2S,3S)−体、および副生成物を含む)の製造
減圧下、上記工程(1’a)で得られた有機層から溶媒を留去し、残渣にメタノール(780ml)を加えて−10℃に冷却した後、アルゴン雰囲気下において水素化ホウ素ナトリウム(13.0g)を10分割して10分かけて添加し1時間攪拌した。反応溶液に2M塩酸(345ml)を加えて反応を停止させ、(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン塩酸塩および不純物としてそのジアステレオマーである(2S,3S)−体、ならびに副生成物を含む反応混合物を得た。
【0114】
<比較例2> (2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン(ジアステレオマーとしてその(2S,3S)−体、および副生成物を含む)の製造
工程(2’f):(2R,3S)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン塩酸塩(ジアステレオマーとしてその(2S,3S)−体、および副生成物を含む)の製造
比較例1の(1’c)で得られた(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン塩酸塩を含む反応混合物を窒素置換し、20%水酸化パラジウム炭素(50wt%wet、9.8g)を加えた。反応雰囲気を水素に置換した後、40℃にて攪拌したところ、22時間後に脱ベンジル化反応が完結した。反応雰囲気を窒素置換した後、水酸化パラジウム炭素をろ過した。ろ過液を減圧下濃縮した後、残渣に2M塩酸(195ml)を加えて再び濃縮し、得られた残渣にジクロロメタン(225ml)と水(75ml)とを加えて分層した。分取した水層をHPLCにて分析した結果、(2R,3S)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン塩酸塩およびそのジアステレオマーとしてその(2S,3S)−体が75.6g(収率88%)含まれており、それらの総ピーク面積比は75.0%であることがわかった。また当該水層中には、ベンジルアルコールが8%(ピーク面積比)、その他の副生成物が7.5%(ピーク面積比)含まれていた。
【0115】
工程(2’g):(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン(ジアステレオマーとしてその(2S,3S)−体を含む)の製造
上記工程(2’f)で得られた、ジアステレオマーとしてその(2S,3S)−体を含む(2R,3S)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン塩酸塩(74.4g)の水溶液にトルエン(378ml)を加えて激しく攪拌し、4M水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7に調整した。4M水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを7に保ちつつ、ジ−tert−ブチルジカーボネート(68.7g)とトルエン(94ml)との混合溶液を加え、25℃で3時間激しく攪拌した。有機層(606.4g)を分取し、0℃に冷却した後にろ過した。HPLC分析の結果、ろ過液中には(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンが64.9g(収率68%)含まれており、ジアステレオマー比(2R,3S)/(2S,3S)は、95/5であった。また、その他の副生成物は、(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンに対してピーク面積比で19.5%含まれていた。
【0116】
<比較例3>(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタン(そのジアステレオマーとして(2S,3S)−体を含む)の製造
工程(3’h):(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタン(そのジアステレオマーとして(2S,3S)−体を含む)の製造
比較例2の工程(2’g)で得られた有機層26.5gを減圧濃縮した後、残渣にイソプロパノール(2ml)を加え再び濃縮乾固した。残渣にイソプロパノール(21.8ml)および水(3.0ml)を加えて0℃に冷却し、次いで、この溶液に6M水酸化ナトリウム水溶液(2.7ml)および水(1.2ml)を加え、8.5時間反応させた。クエン酸(351mg)の水(36.6ml)溶液を反応液に加え、混合物を3時間かけて0℃〜−10℃まで冷却した。(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタンの種晶を添加し、−10℃で3日攪拌した後にろ過した。得られた結晶を減圧乾燥することによって、粘着性のあるオレンジ色に着色した結晶を2.47g得た。HPLC分析の結果、目的物である(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタンの含量は2.07g(83.8wt%)であり、収率は83%であった。また、当該結晶中にはジアステレオマーである(2S,3S)−体が0.071g含まれており、ジアステレオマー比(2R,3S)/(2S,3S)は、96.7/3.3であった。また、その他の副生成物は、目的物である(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタンに対するピーク面積比で10%含まれていた。
【0117】
<実施例5>(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンの各種塩の結晶の製造
従来は、化合物(3)を晶析によって精製することが困難であったことから、化合物(3)のジアステレオマー比は、化合物(2)の還元選択性に依存していた。そのため、工業的な規模での適用が可能な水素化ホウ素ナトリウムによる還元では、(2R,3S)−または(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンとそれらのジアステレオマーとの比はせいぜい95:5程度であった。また、国際公開WO96/17821号では、(2S,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンの塩酸塩をメタノール溶液から晶析していることが報告されている。
そこで、本発明者らは、(2S,3S)−体のジアステレオマーである化合物(3)を塩酸塩としてメタノールや酢酸エチルから晶析することを試みたが、結晶の析出は見られず、溶媒を留去しても残渣は油状物であり、結晶として取り上げることができなかった。
従って、本発明者らは、化合物(3)の結晶化に適当な溶媒と酸との組み合わせを見出すことを目的として、以下の実験を行った。
比較例1の(1’c)で得られた(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン塩酸塩を含む反応混合物((2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン塩酸塩およびそのジアステレオマーである(2S,3S)−体として計11g、(2S,3S)/(2R,3S)=11/89)を濃縮後、ジクロロメタン(28ml)と水(28ml)を加え、15%炭酸カリウム水溶液を添加してpHを7.0に調整した。有機層と水層とに分離し、得られた有機層を濃縮乾固させオイルを得た。これを分割し、以下に挙げる溶媒(0.25ml/g)と酸(1モル当量)の種々の組み合わせを室温にて添加、攪拌した後、溶媒を留去して、各酸との塩が結晶として析出するか否かを調べた。
使用した溶媒:メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸イソプロピルおよびアセトニトリル
使用した酸:シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、フタル酸、クエン酸、グリコール酸、(−)(D)酒石酸、(+)(L)酒石酸、(L)(−)ジベンゾイル酒石酸、(D)(+)ジベンゾイル酒石酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、トシル酸、(+)−10−カンファースルホン酸、(−)−10−カンファースルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸および硫酸
上記実験により、溶媒として酢酸エチルまたは酢酸イソプロピルを用い、かつ、酸として硫酸を用いた場合は、(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶(化合物(4−a)の結晶)が析出することがわかった。一方、その他の酸および溶媒の組み合わせを用いた場合はいずれも、(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶は得られなかった。
さらに、硫酸と酢酸エチルまたは酢酸イソプロピルとを用いて得られた上記結晶のスラリーをろ過すると、実施例1の(1c)で得られた反応混合物に含まれていたジアステレオマー(2S,3S)−体はほぼ母液へと除去されており、取り上げた結晶中にはジアステレオマーは含まれていないこともわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする式(4)
【化1】



[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は下記式(3)の立体配置が(2R,3S)のとき(2R,3S)であり、(2S,3R)のとき(2S,3R)である]
で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶の製造方法:
(a)式(1)
【化2】



[式中、Rはそれぞれ置換基を有していても良い、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基もしくは炭素数7〜20のアラルキル基、またはこれらの基のいずれかの炭素骨格中にヘテロ原子を含む基を示し、*は不斉炭素原子であることを示し、2位の立体配置はSまたはRである]
で表されるN,N−ジベンジルフェニルアラニンエステルに、リチウムクロロメタンを作用させて、少なくとも副生成物を含む式(2)
【化3】



[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、3位の立体配置は、当該式(1)の2位の立体配置がSのときはSであり、RのときはRである]
で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを得る工程、
(b)当該少なくとも副生成物を含む式(2)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを極性溶媒に溶解し、当該溶液に水を加えて、式(2)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶を晶析する工程、
(c)当該式(2)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶を還元し、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(3)
【化4】



[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は、当該式(2)で3位の立体配置がSのとき(2R,3S)であり、Rのとき(2S,3R)である]
で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを得る工程、
(d)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(3)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンに硫酸を加えて、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を得る工程、および
(e)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液から晶析することによって、上記式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得る工程。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法に従って、前記式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得た後、
(f)当該式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を接触還元することにより、式(5)
【化5】



[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は当該式(4)の立体配置が(2R,3S)のとき(2R,3S)であり、(2S,3R)のとき(2S,3R)である]
で表される3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩に誘導する工程、および
(g)当該式(5)で表される3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩のアミノ基を、中性条件下、保護剤を用いて保護する工程
を含むことを特徴とする、式(6)
【化6】



[式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜20のアラルキル基を示し、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は当該式(5)の立体配置が(2R,3S)のとき(2R,3S)であり、(2S,3R)のとき(2S,3R)である]
で表される3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンの製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の製造方法に従って、前記式(6)で表される3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを得た後、
(h)当該式(6)で表される3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを塩基で処理する工程を含むことを特徴とする、式(7)
【化7】



[式中、Rは請求項2で定義した通りであり、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は当該式(6)の立体配置が(2R,3S)のとき(2R,3S)であり、(2S,3R)のとき(2S,3R)である]
で表される3−保護アミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタンの製造方法。
【請求項4】
下記(d)および(e)の工程を含むことを特徴とする式(4)
【化8】



[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は下記式(3)の立体配置が(2R,3S)のとき(2R,3S)であり、(2S,3R)のとき(2S,3R)である]
で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶の製造方法:
(d)式(3)
【化9】



[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は、(2R,3S)または(2S,3R)である]
で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンに硫酸を加えて、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を得る工程、および
(e)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液から晶析することによって、上記式(4)で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得る工程。
【請求項5】
下記(aa)〜(ae)の工程を含むことを特徴とする式(4−a)
【化10】



で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶の製造方法:
(aa)式(1−a)
【化11】



[式中、R1aはそれぞれ置換基を有していても良い、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基もしくは炭素数7〜20のアラルキル基、またはこれらの基のいずれかの炭素骨格中にヘテロ原子を含む基を示す。]
で表される(S)−N,N−ジベンジルフェニルアラニンエステルに、リチウムクロロメタンを作用させて、少なくとも副生成物を含む式(2−a)
【化12】



で表される(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを得る工程、
(ab)当該少なくとも副生成物を含む式(2−a)で表される(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを極性溶媒に溶解し、当該溶液に水を加えて、式(2−a)で表される(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶を晶析する工程、
(ac)当該式(2−a)で表される(3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶を還元し、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(3−a)
【化13】



で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを得る工程、
(ad)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(3−a)で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンに硫酸を加えて、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4−a)で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を得る工程、および
(ae)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4−a)で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液から晶析することによって、上記式(4−a)で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得る工程。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法に従って、前記式(4−a)で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得た後、
(af)当該式(4−a)で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を接触還元することにより、式(5−a)
【化14】



で表される(2R,3S)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩に誘導する工程、および
(ag)当該式(5−a)で表される(2R,3S)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩のアミノ基を、中性条件下、保護剤を用いて保護する工程
を含むことを特徴とする、式(6−a)
【化15】



[式中、R2aは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜20のアラルキル基を示す。]
で表される、(2R,3S)−3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンの製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の製造方法に従って、前記式(6−a)で表される(2R,3S)−3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを得た後、
(ah)当該式(6−a)で表される(2R,3S)−3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを塩基で処理することを特徴とする、式(7−a)
【化16】



[式中、R2aは請求項6で定義した通りである]
で表される(2R,3S)−3−保護アミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタンの製造方法。
【請求項8】
下記(ba)〜(be)の工程を含むことを特徴とする式(4−b)
【化17】



で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶の製造方法:
(ba)式(1−b)
【化18】



[式中、R1bはそれぞれ置換基を有していても良い、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基もしくは炭素数7〜20のアラルキル基、またはこれらの基のいずれかの炭素骨格中にヘテロ原子を含む基を示す。]
で表される(R)−N,N−ジベンジルフェニルアラニンエステルに、リチウムクロロメタンを作用させて、少なくとも副生成物を含む式(2−b)
【化19】



で表される(3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを得る工程、
(bb)当該少なくとも副生成物を含む式(2−b)で表される(3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンを極性溶媒に溶解し、当該溶液に水を加えて、式(2−b)で表される(3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶を晶析する工程、
(bc)当該式(2−b)で表される(3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−オキソ−4−フェニルブタンの結晶を還元し、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(3−b)
【化20】



で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを得る工程、
(bd)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(3−b)で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンに硫酸を加えて、少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4−b)で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を得る工程、および
(be)当該少なくともそのジアステレオマーを不純物として含む式(4−b)で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩を酢酸エステルまたは酢酸エステルを含む溶液から晶析することによって、上記式(4−b)で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得る工程。
【請求項9】
請求項8記載の製造方法に従って、前記式(4−b)で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を得た後、
(bf)当該式(4−b)で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩の結晶を接触還元することにより、式(5−b)
【化21】



で表される(2S,3R)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩に誘導する工程、および
(bg)当該式(5−b)で表される(2S,3R)−3−アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩のアミノ基を、中性条件下、保護剤を用いて保護する工程
を含むことを特徴とする、式(6−b)
【化22】



[式中、R2bは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数7〜20のアラルキル基を示す。]で表される、(2S,3R)−3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンの製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の製造方法に従って、前記式(6−b)で表される(2S,3R)−3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを得た後、
(bh)当該式(6−b)で表される(2S,3R)−3−保護アミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタンを塩基で処理することを特徴とする、式(7−b)
【化23】



[式中、R2aは請求項9で定義した通りである]
で表される(2S,3R)−3−保護アミノ−1,2−エポキシ−4−フェニルブタンの製造方法。
【請求項11】
がtert−ブチル基、ベンジル基またはフルオレニルメチル基である請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項12】
2aがtert−ブチル基、ベンジル基またはフルオレニルメチル基である請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項13】
2bがtert−ブチル基、ベンジル基またはフルオレニルメチル基である請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項14】
がメチル基、エチル基、イソブチル基またはベンジル基である請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
1aがメチル基、エチル基、イソブチル基またはベンジル基である請求項5に記載の製造方法。
【請求項16】
1bがメチル基、エチル基、イソブチル基またはベンジル基である請求項8に記載の製造方法。
【請求項17】
酢酸エステルが、酢酸メチル、酢酸エチルおよび酢酸プロピルからなる群より選択される1種以上である請求項1〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
式(4)
【化24】



[式中、*は不斉炭素原子であることを示し、2位および3位の立体配置は(2R,3S)または(2S,3R)である。]
で表される3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩。
【請求項19】
式(4−a)
【化25】



で表される(2R,3S)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩。
【請求項20】
式(4−b)
【化26】



で表される(2S,3R)−3−ジベンジルアミノ−1−クロロ−2−ヒドロキシ−4−フェニルブタン硫酸塩。


【公開番号】特開2007−112723(P2007−112723A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303673(P2005−303673)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】