説明

アラキドン酸の生成方法

【課題】アラキドン酸を経済的に生成し、それを配合した食品を提供する。
【解決手段】好ましくは複合窒素源成分を含有する発酵培地において、モルティエラ シュマッカリ亜属の微生物を培養する。アラキドン酸は幼児の栄養素として重要なエイコサノイドの前駆体であり、食品にモルティエラ シュマッカリ亜属の微生物、又はこれらの微生物から分離される脂質を配合して、アラキドン酸含量を向上させた幼児用調合乳やベビーフードが製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラキドン酸の生成方法に関し、更にアラキドン酸を含有する食品及び同食品を生成する方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
アラキドン酸(全-cis-5,8,11,14-エイコサテトラエン酸)は4個の二重結合を備え、20個の炭素原子を有する多価不飽和脂肪酸(PUFA)である。これらの二重結合は最後の1つが連鎖のメチル末端から6番目の炭素原子に位置するように配置されている。従って、アラキドン酸はオメガ六系脂肪酸と呼ばれる。アラキドン酸は人体において最も豊富なC20PUFAの1つである。アラキドン酸は、特に器官、筋肉及び血液組織において顕著である。アラキドン酸は重要な生物学的調節物質であるプロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン及びプロスタサイクリンのような循環エイコサノイドの直接の前駆体である。これらのエイコサノイドはリポタンパク質の代謝、血液の流れ、脈管の状態、白血球の機能、血小板の活性及び細胞の成長に対する調節効果を示す。アラキドン酸を幼児の食事に用いることは、幼児の成長が早いために、特に重要である。アラキドン酸は幼児における細胞の代謝及び成長を調節する多くのエイコサノイドに対する重要な前駆体である。アラキドン酸はヒトの母乳に自然な形で見出されるが、大部分の幼児用調合乳には見出されない。幼児用調合乳を母乳中の長鎖脂肪酸に匹敵させるように、科学団体及び食品規制団体は幼児の調合乳、特に未熟児に用いられる調合乳にアラキドン酸を添加することを推奨している。
【0003】
特に、幼児用調合乳に使用するために生成されるアラキドン酸含有オイルは、他の長鎖高不飽和脂肪酸(例えば、エイコサペンタエン酸)を殆ど又は全く含有しないことが好ましい。これら他の長鎖高不飽和脂肪酸の中には幼児によるアラキドン酸の利用を阻害し、かつ/又はアラキドン酸含有オイルを他のオイルと混合して母乳に匹敵する適正な脂肪酸比としたり、他の所望の用途を実現したりすることを抑制するものもある。高不飽和脂肪酸は4個以上の二重結合を有する脂肪酸と定義される。
【0004】
従来のアラキドン酸源には家禽の卵、ウシの脳組織、ブタの副腎、ブタの肝臓及びイワシがある。しかし、アラキドン酸の収率は乾燥重量ベースにて、通常0.2%を下回る。アラキドン酸を新たに生成することが可能な微生物を用いることが、様々な研究者によって示唆されている。特許文献1、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、及び非特許文献10である。しかし、従来の研究者により開示された微生物によるアラキドン酸の生産性は、1日当たり0.67g/L未満である。この量は本発明の微生物により生成されるアラキドン酸の量より著しく少ない。このように生産性が低いのは、(1)成長率、即ち脂質生成率が緩慢であって長時間の発酵に至る株(即ち、2〜3日以上)(特許文献1、特許文献2、非特許文献1、非特許文献8、非特許文献9、及び非特許文献10)、及び/又は(2)最終生成オイル中のアラキドン酸の含量(脂肪酸%と表示)が少ない株(特許文献2、非特許文献4、並びに非特許文献11)、及び/又は(3)バイオマス中のアラキドン酸の濃度を高くするのに長期間のストレスを必要とする株(即ち、6〜28日間、バイオマスを熟成させる。)(非特許文献8及び非特許文献1)、及び/又は(4)非市販的成長条件においてのみアラキドン酸含量が多い株(例えば、麦芽寒天プレート)(非特許文献2)を用いた結果である。加えて、従来の研究者(特許文献1、カイル)により開示された、アラキドン酸を生成するために提示された非モルティエラ シュマッカリ微生物、特にピシウム インシディオスム(Pythium insidiosum)微生物は、ヒト及び/又は動物に対して病原性であると報告されている。
【0005】
従って、アラキドン酸を生成するための経済的かつ市販可能とする方法が必要とされる。本発明はこの要求を満たすものである。また、本発明に基づいて生成されるアラキドン酸を幼児食に導入するために、経済的かつ市販可能な食品が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】1992年8月6日公開の国際特許出願公開第92/13086号におけるカイル(Kyle)
【特許文献2】1993年4月20日付与の米国特許第5,204,250号におけるシンメン(Shinmen)ら
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】応用微生物バイオテクノロジー誌(Appl. Microbiol. Biotechnol.)の1989年第31巻11〜16頁におけるシンメン(Shinmen)ら
【非特許文献2】LIPIDS誌の1987年第22巻1060〜1062頁におけるトタニ(Totani)及びオーバ(Oba)
【非特許文献3】LIPIDS誌の1992年第27巻509〜512頁におけるシミズ(Shimizu)ら
【非特許文献4】JAOCS誌の1989年第66巻342〜347頁におけるシミズ(Shimizu)ら
【非特許文献5】JAOCS誌の1988年第65巻1455〜1459頁におけるシミズ(Shimizu)ら
【非特許文献6】JAOCS誌の1991年第68巻254〜258頁におけるシミズ(Shimizu)ら
【非特許文献7】バイオテクノロジー報告誌(Biotechnology Letters)の1990年第12巻455〜456頁におけるサジュビドル(Sajbidor)ら
【非特許文献8】応用環境微生物学誌(Appl. Environ. Microbiol.)の1991年第57巻1255〜1258頁におけるバジュパイ(Bajpai)ら
【非特許文献9】JAOCS誌の1991年第68巻775〜780頁におけるバジュパイ(Bajpai)
【非特許文献10】遺伝子微生物学誌(J. Gen. Microbiol.)の1991年第137巻1825〜1830頁におけるガンジー(Gandhi)ら
【非特許文献11】LIPIDS誌の1992年第27巻15〜20頁におけるケンドリック(Kendrick)及びラトリッジ(Ratledge)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、経済的にアラキドン酸を生成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の方法では、同化可能な有機炭素源及び同化可能な窒素源を備えた培地において、モルティエラ属シュマッカリ亜属の微生物を培養してアラキドン酸を生成する。
【発明の効果】
【0010】
以下に詳述するように、本発明によれば、アラキドン酸を経済的に生成できるという優れた効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明はモルティエラ シュマッカリ亜属の微生物を用いて、市販可能な量のアラキドン酸を生成する新規な方法を提供する。本発明の一実施形態は、同化性有機炭素源及び同化性窒素源を備えた培地において、モルティエラ属シュマッカリ亜属の微生物を培養してアラキドン酸を生成する。下等菌である藻菌類は少なくとも2つの綱を有し、この中に卵菌類及び接合菌が含まれる。接合菌綱は少なくとも2つの目を有し、この中にハエカビ目及びケカビ目が含まれる。ケカビ目の中には多くの属が含まれ、この中にモルティエラが含まれる。モルティエラ属は9つの亜属を有し、この中にシュマッカリ亜属が含まれる(ペルスーニア誌(Persoonia)の1977年第9巻381〜391頁におけるガムス(Gams)及び1977年南フロリダ大学(University of South Florida)第2回国際菌学大会(Second International Mycological Congress)抄録第A−L巻216頁におけるガムス)。モルティエラ属シュマッカリ亜属はモルティエラ カマルジェンシス、モルティエラ クローセニイ(clausenii)及びモルティエラ シュマッカリと呼ばれる3つの種を有している。
【0012】
アラキドン酸の生成について評価されたモルティエラの他の全ての株は、モルティエラ アルピナ(alpina)、ハイグロフィラ(hygrophila)又はスピノサ(spinosa)亜属に属している。アラキドン酸の生成において、これらの他の株と比較してモルティエラ シュマッカリ亜属の株が特に効果的であることが認識された。特に、モルティエラ シュマッカリ亜属の株は高生産性にてアラキドン酸を生成可能であることが見出された。本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属株は、好ましくは1日当たり少なくとも約0.70g/L、より好ましくは少なくとも約0.80g/L、更に好ましくは少なくとも約0.86g/Lのアラキドン酸を生成可能である。本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属株は、好ましくは乾燥重量の少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約40%の総脂肪酸含量を生成することも可能である。更に、本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属の好ましい株は、総脂肪酸の少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約35%、更に好ましくは少なくとも約48%をアラキドン酸として含有している。本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属株の細胞バイオマスのアラキドン酸含量は、細胞乾燥重量の少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約8%、より好ましくは少なくとも約13%である。本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属の好ましい株から抽出等により回収されるオイルは、少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約30%、更に好ましくは少なくとも約41%のアラキドン酸を含有している。本明細書中にて用いている「脂質」及び「脂質エキス」、「オイル」及び「オイルエキス」は置換え可能に用いられている。
【0013】
菌類の形態学的生育形態は発酵漕における生育及び生成物形成に大きな影響を与える。発酵漕中の菌形態は分散繊維状から緻密な球状にまで及ぶ。本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属の種は従来用いられたモルティエラ種より優れており、シェークフラスコ(shake flask)又は発酵漕のような攪拌液体培養器において生育させられる時、分散繊維状にて容易に生育する(発酵が早い)能力等を有している。発酵培地中にて生育させられるモルティエラの他の種の中には、通常、球状又は球状集合体として生育するものもあり(即ち、非常に緻密な綿球のような外観を呈する)、時には発酵させて数日経過して初めて分散形状を示すこともある。理論に束縛されることなく、球体又は集合体の中央部における細胞は発酵培地に含まれる必要栄養素に晒されないため、球状細胞の生育及び生産性が制約を受けるとされている。これらの菌個体群を生育する従来の方法には、これら集合体を分散して細胞の生育を良くしようと、発酵漕の攪拌又は洗浄剤の添加を強化することが含まれる。本出願の発明者は、本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属株が分散繊維状にて容易に生育し、栄養素が全細胞に達することを可能にして、これらの細胞の生育及び生産性を向上させることを見出した。本明細書中にて用いる「繊維状」という用語は球体又は集合体ではなく、緩く枝分かれした短い菌糸の網状組織としての菌類の生育のことをいう。
【0014】
本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属の好ましい株には、冷えた乾燥土壌から分離されるモルティエラ シュマッカリ亜属株がある。この場合、微生物は短期間の間、湿気に晒される。詳細には、これらの領域には幾分長期の凍結又は凍結に近い条件を経験する土壌が含まれる。モルティエラ シュマッカリ亜属の更に好ましい株は北米の南西部、詳細には米国及び/又はメキシコの砂漠地帯にて分離される。詳細には、モルティエラ シュマッカリ亜属のモルティエラ シュマッカリ種の株は、カリフォルニア南部及び/又はメキシコにて分離される。
【0015】
モルティエラ株は当業者に周知の技術を用いて土壌又は水生生息地から分離可能である(米国シアトルに所在のワシントン州立大学(University of Washington)出版局発行の1974年版「菌学案内書(Mycology Guidebook)」におけるスチーブンス(Stevens)、及び微生物学分類法誌(Methods of Microbiology)の1971年第4巻405〜427頁におけるバロン(Barron))。更に詳細には、モルティエラ シュマッカリ亜属の種は、少量の土壌試料を蒸留水に懸濁し、コーン粉の寒天プレート又は所望の発酵培地を有する寒天プレート上に懸濁液の一部を接種して分離可能である。加えて、モルティエラ シュマッカリ亜属の種は、当業者に周知の技術を用いて水生生息地から分離可能である(例えば、1992年7月14日にバークレイ(Barclay)らに付与された米国特許第5,130,242号、及び1994年8月23日にバークレーらに付与された米国特許第5,340,594号を参照されたい。)。寒天プレート上において、モルティエラのコロニーは幾つかの特徴により部分的に同定可能であり、例えば空中に際立つように生育するのではなく、本質的に寒天中にて生育する白色コロニーとして同定可能である。モルティエラのコロニーは、例えばタルボット(Talbot)が概説している菌分類法の一般的特徴を用いて(マクミラン社(Macmillan Press)発行の1971年版「菌分類法の原理(Principles of Fungal Taxonomy)」)、他の菌類から識別することも可能である。純粋コロニーの分離後、モルティエラ属の一部は、例えばシェークフラスコ、又は上記のスチーブンスにおいて記載された培地を有する寒天プレート培養物において培養された時のニンニク様臭気によっても同定可能である。そして、ガムスが概説しているモルティエラ検索表を用いて(ペルスーニア誌の1977年第9巻381〜391頁、及び米国マサチューセッツ州アマースト(Amherst)に所在のハミルトン・ニューエル社(Hamilton Newell, Inc.)発行の、タンパ(Tampa)南フロリダ大学第2回国際菌学大会抄録における「モルティエラにおける分類上の課題(Taxonomic problems in Mortierella)」)、培養物の種を同定するために、最良の胞子形成を行う培養物を用いることが可能である。
【0016】
モルティエラ シュマッカリ亜属株の純粋コロニーの分離後、脂質含量及びアラキドン酸含量を知るため、ガスクロマトグラフィーにより株のバイオマスを分析可能である。そして、急速な生育並びに多量の脂質及びアラキドン酸含量を示す好適なコロニーを選択することが可能である。他の特性の有無についての更なる選択も可能である。例えば、アラキドン酸含量に利するように抽出脂質を幼児用調合乳に用いる際、エイコサペンタエン酸(C20:5n-3; EPA)の存在は有害である。従って、多量のEPA含量が存在しないように選択可能である。本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属の好ましい種の1つはモルティエラ カマルジェンシスである。本発明のモルティエラ カマルジェンシスの特に好適な株は、1日当たり約0.86g/Lのアラキドン酸を生成可能であるという同定特性を有している。別の同定特性は、この特に好適なモルティエラ カマルジェンシスが生成する総脂肪酸の約25%〜約33%がアラキドン酸であることである。従って、本発明の特に好適なモルティエラ カマルジェンシスのバイオマスの生成アラキドン酸含量は、適正な発酵条件のもとで約9.6%〜約10.8%である。更に別の同定特性は、本発明の特に好適なモルティエラ カマルジェンシスから回収される生成オイルが、総脂肪酸の約20%〜約30%の範囲のアラキドン酸含量を有することである。
【0017】
本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属の特に好適な別の種であるモルティエラ シュマッカリは、1日当たり約0.84g/Lのアラキドン酸を生成可能であるという同定特性を有している。別の同定特性は、本発明のこの特に好適なモルティエラ シュマッカリが生成する総脂肪酸の約40%〜約49%がアラキドン酸であることである。従って、本発明の特に好適なモルティエラ シュマッカリのバイオマスの生成アラキドン酸含量は、適正な発酵条件のもとで約12.5%〜約13.6%である。更に別の同定特性は、特に好適なモルティエラ シュマッカリから回収される生成オイルが、総脂肪酸の約33%〜約41%の範囲のアラキドン酸含量を有することである。アメリカ型微生物株保存機関(ATCC)に寄託された株のような周知のモルティエラ シュマッカリ亜属の株に加えて、自然界から新たに確認される株、並びに周知の又は新たに確認される株から得られる突然変異株を用いてアラキドン酸を生成することが可能であることは、本発明の範囲内にある。アラキドン酸を生成可能なモルティエラ シュマッカリ亜属の親株の自然発生的突然変異株は、例えば突然変異生成率を高めるべく、親株を少なくとも1回の化学的又は物理的な突然変異生成に晒すことによって分離可能であり、アラキドン酸の生成量が増大した微生物を得る可能性を高くしている。本発明の突然変異微生物にはアラキドン酸生成微生物も含まれることは当業者には明らかであろう。このアラキドン酸生成微生物はアラキドン酸の生成量を増大させるように微生物を遺伝子操作して得られる。例えば、モルティエラ属 シュマッカリ亜属の微生物のような菌性アラキドン酸生成微生物から得られるアラキドン酸生合成経路の核酸分子符号化酵素を用いて、モルティエラ シュマッカリ亜属の微生物を形質転換することは本発明の範囲内にある。本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属の核酸分子は、完全な遺伝子として、或いは該完全遺伝子と安定した雑種を形成可能な該完全遺伝子の一部のいずれかとして自然源から得られる。モルティエラ シュマッカリ亜属株から得られる核酸分子は、組換えDNA法(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅又はクローン化)又は化学合成を用いて生成することも可能である。本明細書中にて用いている「突然変異微生物」とは突然変異した親微生物のことであり、この突然変異親微生物のヌクレオチド組成は、自然発生し、突然変異誘発物質に晒された結果であり、或いは遺伝子操作の結果である突然変異により変更されている。
【0018】
本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属株の好ましい突然変異株は、詳述したような、本発明の好適なモルティエラ カマルジェンシス及び本発明の好適なモルティエラ シュマッカリの同定特性を1つ以上有している。
【0019】
本発明に基づき、アラキドン酸を生成可能なモルティエラ シュマッカリ亜属の微生物は、効果的な培地において培養される。この培地はアラキドン酸の生成を促進可能な培地であれば如何なる培地でもよいと規定する。効果的培地は菌の生育を早めるようにすることも好ましい。本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属の微生物は従来の発酵方法にて培養可能であり、これにはバッチ法、フェッドバッチ法(fed-batch)及び連続法(continuous)があるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明は同化性有機炭素源及び同化性窒素源を備えた培地において、モルティエラ属シュマッカリ亜属の微生物を培養し、アラキドン酸を生成する方法を提供する。
【0021】
同化性炭素源にはデンプン、デキストリン、サッカロース、マルトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、ソルボース、アラビノース、キシロース、レブロース、セロビオース、糖蜜等の糖及び糖の重合体、脂肪酸並びにグリセリンのようなポリアルコールがあるが、これらに限定されるものではない。本発明における好ましい炭素源には単糖、二糖及び三糖がある。最も好ましい炭素源はグルコースである。
【0022】
本発明の微生物を発酵させるのに有用な同化性窒素源には、単純窒素源、有機窒素源及び複合窒素源がある。これら窒素源にはアンモニウム塩並びに動物、野菜及び/又は微生物起源の物質がある。有機窒素源にはコーンスティープリカー、タンパク質加水分解物、微生物バイオマス加水分解物、ソイトーン(soy tone)、豆粉、魚粉、肉粉、肉エキス、ペプトン、トリプトン、酵母エキス、酵母、乳清、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウム及びアミノ酸がある。
【0023】
本発明の効果的な培地において使用される好適な窒素源には複合窒素源がある。本発明の発酵培地にて複合窒素源を用いることにより、複合窒素源が存在しない状態で生育させられるモルティエラ シュマッカリ亜属株と比較し、オイル中の乾燥重量%又は総脂肪酸%のいずれかにより測定されるように、本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属株によるアラキドン酸生成は少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約100%増加している。適正な複合窒素源には、例えばコーンスティープリカー、タンパク質加水分解物、微生物バイオマス加水分解物、ソイトーン、豆粉、魚粉、肉粉、肉エキス、ペプトン、トリプトン、酵母エキス、酵母及び乳清がある。当業者であれば、発酵過程において用いるモルティエラ シュマッカリ亜属株において、何れの複合窒素源が最もアラキドン酸生成を刺激するかを判断できよう。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、非炭素栄養素、例えば窒素又はマグネシウムであって好ましくは窒素が、制限された発酵を行っている。このようにして、細胞代謝は脂質生成に向かい、アラキドン酸の生成が全体的に向上する。
【0025】
効果的な培地は無機塩、ビタミン、微量金属又は成長促進物質のような他の化合物を含有してもよい。これらの化合物は効果的培地における炭素源、窒素源又は鉱物源に存在するか、或いは培地そのものに添加可能である。マグネシウム濃度が低いことも好ましい。
【0026】
発酵中、酸素含量、pH、気温、二酸化炭素含量及び炭素源の添加率等の変数が調節され、発酵を首尾よく行う時間を不当に制限することなく、アラキドン酸の生成を最大化している。アラキドン酸を生成するのに最適な酸素濃度は、培地の酸素含量の変動により、モルティエラ シュマッカリ亜属の何れの個体群であっても確定可能である。詳細には、発酵培地の酸素含量は好ましくは約20%〜約60%の飽和状態に及ぶ酸素含量に保持される。
【0027】
本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属株の生育は、株の十分な生育を誘導する気温であれば如何なる気温にて行ってもよい。例えば、約25〜約33℃、好ましくは約27〜約32℃、更に好ましくは約30℃である。通常、酸の添加又は緩衝剤によりpHを調節しないと、培地は発酵中にアルカリ度が高くなる。本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属株は約4.0〜約10.0の範囲のpHにわたって生育するが、開始pHは約5.5であることがより好ましい。
【0028】
本発明の別の態様には、モルティエラ属シュマッカリ亜属の微生物と結合させられる食材を備えた食品が含まれる。本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属株はアラキドン酸濃度が高くなった食品を生み出すように、食材に添加される。本明細書中にて用いている「食材」という用語は、ヒト又は動物に供給される如何なる食物をもいう。また、モルティエラ属シュマッカリ亜属の微生物を食材に添加して食品を生成する方法も本発明の範囲に含まれる。
【0029】
本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属は、発酵培地から細胞を分離するだけで食品補充物として用いるように回収される。培地から微生物細胞を回収するには、種々の処置を用いることが可能である。好ましい回収方法においては、発酵過程において生成される細胞は、遠心分離又は濾過のような従来の手段を用いて、分離によって培地から回収される。そして、細胞は洗浄、凍結、凍結乾燥、及び/又は乾燥(例えば、噴霧乾燥、トンネル乾燥(tunnel drying)、真空乾燥又は同様の処理)される。アラキドン酸に富むオイルが細胞から即座に抽出され、或いは生成された細胞が食材に取り込まれる前にN2又はCO2のような気体の非酸化雰囲気下にて貯蔵される(O2を排除するため)。また、回収された細胞を食品補充物として直接(乾燥せず)用いてもよい。貯蔵寿命を延ばすべく、モルティエラ シュマッカリ亜属株の湿潤バイオマスは酵素を不活性化させるように酸性化され(pH=約3.5〜4.5)、及び/又は、殺菌或いは閃光加熱され、そして真空下にて缶詰にされ、瓶詰めにされ、又は梱包される。
【0030】
本発明の食品の形成に有用な適正食材には動物食が含まれる。「動物」という用語は動物界に属する如何なる有機体も指し、霊長類(例えば、ヒト及びサル)、家畜及びペット等、制限がない。「食品」という用語にはこれら動物に与えられる如何なる生成物も含まれる。ヒトが消費する好ましい食材には幼児用調合乳及びベビーフードがある。ペットが消費する好ましい食材にはドッグフードがある。アラキドン酸源を付与するためモルティエラ シュマッカリ亜属のバイオマス又は抽出オイルを添加することにより、本発明の好ましい食品は、総脂肪酸の約20重量%まで、更に好ましくは約10重量%まで、より一層好ましくは約0.1〜約1.0重量%がアラキドン酸である総脂肪酸含量を備えている。
【0031】
更なる実施形態は、モルティエラ属シュマッカリ亜属の微生物から回収される脂質を備えた食品及び食材を有している。回収される脂質は微生物から回収される総脂質又はその一部のいずれかである(即ち、分離されるアラキドン酸又はアラキドン酸を含有する総脂肪酸)。前者の場合、脂質組成は有機体に存在する場合とほぼ同一の相対量のアラキドン酸を有している。また、有機体にて自然発生するよりもアラキドン酸濃度が高い組成を実現するように、回収された脂質は更に加工されてアラキドン酸を濃縮する。また、モルティエラ属シュマッカリ亜属の微生物から回収される脂質を食材に添加して食品を生成する方法も本発明の範囲内である。
【0032】
モルティエラ シュマッカリ亜属株から脂質を回収するには、適正な方法であれば如何なる方法で行うことも可能であり、当業者に周知の方法が多数存在する。例えば、回収には次の方法が含まれる。採収された細胞(生の状態又は乾燥されて)は当業者に周知の技術を用いて破壊することが可能である。そして、超臨界流体抽出法のような適正な手段により、又はクロロホルム、ヘキサン、メチレン、塩化物、メタノール、イソプロピル、酢酸エチル等のような溶媒による抽出により、細胞から脂質を抽出可能である。このエキスは減圧下にて気化され、濃縮脂質の試料を生成する。アラキドン酸が溶液中に残留する間に、脂肪酸組成中の飽和脂肪酸が沈澱するように組成物を冷却することにより、他の脂質からアラキドン酸を更に分離することが可能である。そして、溶液を回収することができる。
【0033】
モルティエラ シュマッカリ亜属の微生物は破壊したり、或いは溶解することも可能であり、当業者に周知の技術を用いて脂質を食用油に回収できる。回収されたオイルは、植物油を精製するのに日常的に用いられる周知の処理(例えば、化学精製又は物理精製)により精製可能である。これらの精製処理は食用油として使用又は販売される前に、回収オイルから不純物を除去する。精製処理は回収オイルを脱ガムし、漂白し、濾過し、脱臭し、仕上げる一連の処理からなっている。精製後、オイルはアラキドン酸に富む生成物を生成するように、給餌添加物又は食品添加物として直接使用可能である。また、以下に概説するように、オイルは更に処理し、精製することが可能であり、本明細書中に説明するように使用可能である。
【0034】
本発明のモルティエラ シュマッカリ亜属株のバイオマスから回収される脂質は、動物の食材、詳細にはヒトの食材と組み合わされ、アラキドン酸濃度が高くなった食品を生成する。食品中に天然に含まれる脂肪酸の量は食品によって異なる。本発明の食品は標準量のアラキドン酸又は修正量のアラキドン酸を有している。前者の場合、自然発生する脂質の一部が本発明の脂質に置換されている。後者の場合、自然発生する脂質は本発明の脂質に補完されている。
【0035】
モルティエラ シュマッカリ亜属株のバイオマスから回収される脂質は、幼児用調合乳及びベビーフードのような幼児用食物に添加することが好ましい。本発明に基づき、幼児とは胎児及び約2歳以下の子供をいい、特に未熟児が含まれる。アラキドン酸は特に幼児用調合乳及びベビーフードの重要な組成物であるが、これは幼児の成長が早いためである(即ち、最初の1年にて2倍又は3倍)。幼児用調合乳を補充するアラキドン酸の有効量は、ヒトの母乳中のアラキドン酸濃度に近い量である。幼児用調合乳又はベビーフードに添加するアラキドン酸の好適量は、総脂肪酸の約0.1〜約1.0%、更に好ましくは約0.1〜約0.6、更に一層好ましくは約0.4%である。
【0036】
本発明の方法により生成されるアラキドン酸は、治療剤及び実験剤としての使用に好適である。本発明の一実施形態では、アラキドン酸欠乏症児の治療用にアラキドン酸を生成している。アラキドン酸は、幼児のアラキドン酸供給を強化するように、非経口経路を介して幼児に投与可能な非経口製剤に含有させることが可能である。好ましい非経口経路には皮下、皮内、静脈、筋肉内及び腹腔内の経路があるが、これらに限定されるものではない。非経口製剤は本発明のアラキドン酸及び非経口搬送に好適なキャリアを含有可能である。本明細書中にて用いている「キャリア」とは、分子又は組成物を適正な生体内作用部位に搬送するための媒体として適正な如何なる物質をもいう。これらのキャリアの例には、水、リン酸緩衝溶液、リンガー氏液、デキストロース溶液、血清含有液、ハンクス液及び他の生理的平衡水溶液があるが、これらに限定されるものではない。アラキドン酸を有効に投与する許容プロトコルには、個人の服用量、服用数、投与回数及び投与方法がある。これらのプロトコルは種々の変数に応じて当業者により決定できるが、これらの変数には幼児の体重及びアラキドン酸欠乏の程度等がある。本発明の別の実施形態では、大人、詳細には妊婦の治療用のアラキドン酸を生成している。アラキドン酸を大人に投与するのに許容されるプロトコルには、非経口供給技術、又は経口投与するようにゼラチン(即ち、消化可能)カプセルのようなカプセル状に、かつ/或いは液状食製剤として、本発明の微生物から回収されるオイルをカプセル化することがある。液状食製剤は食事を補充するのに適正な栄養素、又は完全な食事として十分な栄養素を含有する液状組成物を備えている。
【0037】
本発明の別の実施形態では、アラキドン酸が前駆体となる代謝経路の調節物質を確認するように、実験試薬として用いるためにアラキドン酸を生成している。例えば、アラキドン酸はロイコトリエンの前駆体である。ロイコトリエンは炎症及びアレルギー等の疾患の発生に関わっていると考えられている。このように、ロイコトリエンの阻害剤の生成が貴重な治療剤となり得る。本発明の方法を用いて回収されたアラキドン酸は、当業者に周知の適正条件下にてアラキドン酸を用いて推定阻害剤を保温培養し、かつロイコトリエンの生成量を測定することによって、試験管内にて推定阻害剤を試験するのに用いることが可能である。
【0038】
以下の例及び試験結果は例示を目的とするものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
例1:
この例はモルティエラ シュマッカリの株の1つであるモルティエラ シュマッカリ亜属のS12株によるアラキドン酸の生成を説明している。
【0039】
モルティエラ シュマッカリ株は本発明の方法に基づいて同定された。この株を本明細書においてS12株と呼ぶ。1cm平方部分のモルティエラ シュマッカリS12株が固形寒天プレートから切断され、100mlの培地アリコートに配置された。この培地は10g/Lのコーンスティープリカー、0.1g/LのCaCO3、0.1g/LのMgSO4−7H2O、0.5g/LのKH2PO4、1ml/LのPII金属(6.0gのNa2EDTA、0.24gのFeCl3−6H2O、6.84gのH3BO3、0.86gのMnCl2−4H2O、0.133gのZnSO4−7H2O、0.026gのCoCl2−6H2O、0.005gのNaMoO4−2H2O、0.002gのCuSO4−5H2O及び0.052gのNiSO4−6H2O;1Lの水に溶解し、pHを8.0に調節)、及び1ml/Lのビタミン混合物(100mg/Lのチアミン、500μg/Lのビオチン及び500μg/LのビタミンB12)を有し、250mlのバッフル付シェークフラスコに入れられた。培養物はロータリーシェーカー上にて(225rpm)30℃で72時間、培養した。72時間後、培養物は高濃度になり、生育を停止した。
【0040】
そして、無灰乾燥重量を測定するとともに、細胞の脂肪酸含量を測定するようにフラスコ内の細胞を試料採取した。モルティエラ シュマッカリ株S12の細胞が採収され、遠心分離された。採収細胞の乾燥バイオマス中の脂肪酸が1時間、100℃にて4%メタノール性H2SO4(96mlのメタノール中に4mlのH2SO4)においてメチル化された。そして、ガスクロマトグラフィー(ヴェリアン(Varian)3500ガスクロマトグラフ、スペルコ(Supelco)SP2330カラム、当初のカラム温度は70℃、検出器の温度は250℃、注入器の温度は220℃、キャリアガスはヘリウム、温度計画は当初のカラム温度70℃を3分間保持し、1分毎に20℃上昇させて195℃にし、5分間保持し、1分毎に25℃上昇させて220℃にし、8分間保持した。)により脂肪酸メチルエステルを測量した。表1に菌バイオマス中の脂肪酸の組成を示す。
【0041】
【表1】

これらの発酵条件下にて、S12株のバイオマスは約33.7%の脂肪酸を含有するという結果を示した。総脂肪酸の約40.3%はアラキドン酸からなっていた。従って、このバイオマスのアラキドン酸含量は細胞乾燥重量の13.6%であった。
【0042】
例2:
この例では、発酵培地の炭素・窒素比を変動させることがモルティエラ シュマッカリ株S12の細胞の発酵におけるアラキドン酸生成に与える影響を説明している。
【0043】
発酵培養物は例1において説明したように調製した。グルコース濃度が高くなるようにして多くの発酵試料を調製した(表2の第1コラムにグルコースの量を示す。)。総脂肪酸及びアラキドン酸の相対量は例1において説明した方法に基づいて測定した。表2にこれらの結果を示す。
【0044】
【表2】

S12株の発酵における炭素・窒素の最適比は約40:1〜約60:1という結果を示した。S12細胞により生成されるアラキドン酸の量は、発酵培地における非炭素栄養素、詳細には窒素の量を制限することにより増大可能であるという結果も示す。
【0045】
例3:
この例では、栄養素を操作することにより、モルティエラ シュマッカリ株S12及びモルティエラ カマルジェンシス株S3によるアラキドン酸生成に与える影響を示す。
【0046】
本発明の方法に基づいてモルティエラ カマルジェンシス株を同定した。この株を本明細書においてS3株と呼ぶ。例1において説明したように発酵培養物を調製した。発酵培地から互いに異なる栄養素を削除した多くの発酵試料を調製した。種々の発酵試料から削除した栄養素を表3に示す(第1コラム)。総脂肪酸及びアラキドン酸の相対量は例1において説明した方法に基づいて測定した。表3にこれらの結果を示す。
【0047】
【表3】

双方のモルティエラ シュマッカリ亜属株につき、発酵培地におけるマグネシウム濃度を最小限にする方が、カルシウム、ビタミン、微量金属及びリン酸カリウムを削除するよりもアラキドン酸生成に対して大きな影響を与えるという結果を示した。例えば、マグネシウムが存在しない条件下にて生育されるS12株の細胞により生成されるアラキドン酸の量は、1L当たり約0.7gであったが、カルシウムが存在しない条件下にて生育されるS12株の細胞により生成されるアラキドン酸は、1L当たり平均約0.4gであった。
【0048】
例4:
この例では、複合窒素源であるコーンスティープリカーが存在する状態にて生育された細胞と、コーンスティープリカーが存在しない状態にて生育された細胞との場合において、モルティエラ カマルジェンシス株S3によるアラキドン酸生成を比較している。
【0049】
例1において説明した方法及び培地を用いて、第1の発酵試料を調製した。例1において説明した培地を用いて第2の発酵試料を調製したが、窒素源としてコーンスティープリカーではなく、酵母エキスを用いた。S3株の細胞から脂質が調製され、例1において説明した方法を用いて分析した。前記各発酵過程から得られた脂肪酸混合物の組成を表4及び表5に示す。コーンスティープリカーを用いて生育されるS3試料は、脂肪酸として乾燥重量の35.9%を有することが見出された。この試料のアラキドン酸含量は細胞乾燥重量の10.8%であった。コーンスティープリカーを用いずに生育されるS3試料は、脂肪酸として乾燥重量の19.8%を有することが見出された。
【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

窒素源としてコーンスティープリカーを発酵培地に備えることにより、S3細胞によるアラキドン酸生成量が倍増するという結果を示した。例えば、コーンスティープリカーの存在下にて生育されたS3細胞は、1gの菌バイオマス当たり約107.8mgのアラキドン酸を生成した。アラキドン酸は総脂肪酸の約30%であった。これとは逆に、コーンスティープリカーの非存在下にて生育されたS3細胞は、1gの菌バイオマス当たり約48.8mgのアラキドン酸を生成した。アラキドン酸は総脂肪酸の約24.7%であった。従って、コーンスティープリカー(複合窒素源)の存在下にて発酵させることにより、アラキドン酸の生成を向上させた。
【0052】
コーンスティープリカーはS3株におけるアラキドン酸生成を刺激するための最良の複合窒素源の1つであるという結果を示す。しかし、S12株(モルティエラ シュマッカリ)によるアラキドン酸生成は、より広範囲の複合窒素により刺激され、これにはコーンスティープリカー、酵母エキス、酵母、乳清及び豆粉があるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
例5:
この例では、モルティエラ カマルジェンシス株S3及びモルティエラ シュマッカリ株S12のアラキドン酸含量につき、モルティエラのシュマッカリ亜属の周知のATCC株と比較している。3株、即ちモルティエラ カマルジェンシス株S3、モルティエラ シュマッカリ株S12及びモルティエラ シュマッカリ(ATCC 42658番)を、例4において説明したように、コーンスティープリカーが存在する状態にて、又はコーンスティープリカーが存在しない状態にて培養した。S3株及び周知の2株の細胞の脂肪酸含量を、例1において説明した方法に基づいて測定した。総脂肪酸の収率とアラキドン酸の収率との比較を表6に示す。
【0054】
【表6】

表6に示す結果から、発酵培地にコーンスティープリカーが存在することにより、総脂肪酸生成量が株S3及びS12においては約2倍になり、モルティエラ シュマッカリ(ATCC 42658番)においては約1/3だけ増大していることがわかる。しかし、発酵培地にコーンスティープリカーが存在することにより、株S3においてアラキドン酸含量(乾燥重量%として)が約2倍増大したが、コーンスティープリカーはモルティエラ シュマッカリ(ATCC 42658番)の場合にはアラキドン酸生成に影響を与えなかった。モルティエラ クローセニイ(ATCC 64864番)はコーンスティープリカーの有無に関わらず顕著な生育を示すことはなかった。
【0055】
例6:
この例では、発酵生産性及びモルティエラ シュマッカリ株S12から得られるオイルの脂質含量の分析について説明している。
【0056】
容器B20及びB23と示す2個の14L入り発酵培養器において、モルティエラ シュマッカリ株S12を用いて発酵を行った。容器B20にはM−3培地を用い、容器B23にはM−6培地を用いた。M−3培地は12g/Lのカーギル(Cargill)200/20豆粉、0.1g/LのMgSO4−7H2O、0.1g/LのCaCO3、1ml/LのPII金属、1ml/Lのビタミン混合物、2g/LのKH2PO4、43.8g/Lのグルコース及び0.5ml/LのK60K泡止め剤を有した。M−6培地はM−3培地と同成分を有したが、豆粉ではなく、不活性パン酵母の噴霧乾燥形態である12g/Lのナトレックス55(Nutrex55、商標名)(米国ウィスコンシン州ミルウォーキーに所在のレッドスター・スペシャルティ・プロダクツ社(Red Star Specialty Products))を有した。オイル試料が精製され、アラキドン酸(ARA)含量の分析を行った。これら2つの発酵の結果を表7に示す。
【0057】
【表7】

以下の処理に基づき、2つの発酵において生成される菌バイオマスからオイルを抽出した。容器B23及びB20から得られるS12の発酵肉汁の試料は真空濾過され、生体物質の塊を生成した。この塊を分離し、蒸気カマドにて乾燥した。湿式製粉(wet milling)に近づけるように、ワーリングブレンダー中にてヘキサン(2×600ml)を用いて乾燥生体物質(200g)を抽出した。ミルド菌バイオマスを濾過して固形物を除去し、ヘキサンを蒸発させて原油を生成した。この湿式製粉処理において、理論上のオイル含量の約75%を回収した。シリカゲルのカラムに通すことにより原油を精製し、ヘキサン中の30%エタノール:酢酸によりカラム部分を溶離させることにより中性のオイル画分(トリアシルグリセリド)を分離した。中性オイルを含有する画分(原油の90%)を貯留し、濃縮させて純オイル画分を生成した。この純オイル画分を気−液クロマトグラフィーによって分析した。精製されたオイル試料に対して行った脂肪酸分析の結果を表8に示す。
【0058】
【表8】

容器B20内にて生成されるバイオマスから得られる精製オイルは41%のアラキドン酸を含有し、容器B23内にて生成されるバイオマスから得られる精製オイルは37%のアラキドン酸を含有したという結果を示す。
【0059】
本発明の種々の実施形態を詳細に説明してきたが、これら実施形態の改変及び改良が可能であることは当業者には明らかである。しかし、これら改変及び改良は請求の範囲に示すように、本発明の範囲内にあることを理解されたい。
【0060】
本発明はアラキドン酸を経済的に生成する方法を提供する。本発明の一実施形態は、同化性有機炭素源及び同化性窒素源を備えた培地において、モルティエラ属シュマッカリ亜属の微生物を培養し、アラキドン酸を生成する方法を有している。別の実施形態において、このモルティエラ シュマッカリ亜属の株は1日当たり少なくとも約0.86g/Lのアラキドン酸を生成することが可能である。
【0061】
本発明の更に別の実施形態は、モルティエラ属シュマッカリ亜属の微生物から回収される脂質を備えた食品及び食材を有している。詳細には、この脂質は幼児用調合乳及びベビーフードに添加され、これら食品のアラキドン酸、即ち長鎖オメガ六系脂肪酸含量を増加させることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同化性有機炭素源及び同化性窒素源を備えた培地において、モルティエラ属シュマッカリ亜属(genus Mortierella sect. schmuckeri)の微生物を培養してアラキドン酸を生成する方法。
【請求項2】
前記モルティエラ シュマッカリ亜属は1日当たり少なくとも約0.70g/Lのアラキドン酸を生成可能である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モルティエラ シュマッカリ亜属は1日当たり少なくとも約0.80g/Lのアラキドン酸を生成可能である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記モルティエラ シュマッカリ亜属は1日当たり少なくとも約0.86g/Lのアラキドン酸を生成可能である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法はモルティエラ シュマッカリ亜属のモルティエラ シュマッカリ種を培養する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記方法はモルティエラ シュマッカリ亜属のモルティエラ カマルジェンシス(camargensis)種を培養する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記モルティエラ シュマッカリ亜属は液体培養条件下にて生育される時に、分散繊維状形態として生育可能である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記培地は複合窒素源を備える請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記複合窒素源は複合窒素源が存在しない状態にて生育されるモルティエラ シュマッカリ亜属と比較し、オイル中の細胞乾燥重量%及び総脂肪酸%のいずれかにより測定し、モルティエラ シュマッカリ亜属によるアラキドン酸生成を少なくとも約50%増大させる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記複合窒素源は複合窒素源が存在しない状態にて生育されるモルティエラ シュマッカリ亜属と比較し、オイル中の細胞乾燥重量%及び総脂肪酸%のいずれかにより測定し、モルティエラ シュマッカリ亜属によるアラキドン酸生成を少なくとも約100%増大させる請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記微生物における脂質生成を十分に刺激するように非炭素栄養素を制限する請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記非炭素栄養素は窒素を備える請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は更にアラキドン酸を備える脂質をモルティエラ シュマッカリ亜属から回収する請求項1に記載の方法。
【請求項14】
モルティエラ シュマッカリ亜属の微生物と食材とを含む食品。
【請求項15】
前記食材は動物食を含む請求項14に記載の食品。
【請求項16】
モルティエラ属シュマッカリ亜属の微生物と食材とから回収される脂質を含む食品。
【請求項17】
前記モルティエラ シュマッカリ亜属は1日当たり少なくとも約0.70g/Lのアラキドン酸を生成可能である請求項16に記載の食品。
【請求項18】
前記モルティエラ シュマッカリ亜属はモルティエラ シュマッカリ種である請求項16に記載の食品。
【請求項19】
前記モルティエラ シュマッカリ亜属はモルティエラ カマルジェンシス種である請求項16に記載の食品。
【請求項20】
前記食品は総脂肪酸の約20重量%までがアラキドン酸である総脂肪酸含量を有する請求項16に記載の食品。
【請求項21】
前記食品は総脂肪酸の約10重量%までがアラキドン酸である総脂肪酸含量を有する請求項16に記載の食品。
【請求項22】
前記食品は総脂肪酸の約0.1〜約1.0重量%がアラキドン酸である総脂肪酸含量を有する請求項16に記載の食品。
【請求項23】
前記食材は幼児用食材を含む請求項16に記載の食品。
【請求項24】
前記食材は幼児用調合乳及びベビーフードからなる群から選択される請求項16に記載の食品。
【請求項25】
モルティエラ属シュマッカリ亜属の微生物から回収される脂質を備える治療剤。
【請求項26】
前記治療剤はカプセル、非経口製剤及び液状食製剤からなる群から選択される媒体により搬送される請求項25に記載の治療剤。

【公開番号】特開2010−42024(P2010−42024A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259658(P2009−259658)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【分割の表示】特願2007−336075(P2007−336075)の分割
【原出願日】平成7年12月1日(1995.12.1)
【出願人】(503166090)マーテック・バイオサイエンシズ・コーポレイション (16)
【Fターム(参考)】