説明

アルカリ可溶性樹脂、ポジ型感光性樹脂組成物、硬化膜、保護膜、絶縁膜およびそれを用いた半導体装置、表示体装置

【課題】 本発明の目的は、ポジ型感光性樹脂組成物として用いた場合に高感度かつ低温で硬化しても耐熱性および信頼性に優れるアルカリ可溶性樹脂を提供すること。また、高感度、かつ低温で硬化しても耐熱性および信頼性に優れるポジ型感光性樹脂組成物、硬化膜等およびそれを用いた半導体装置等を提供すること。
【解決手段】 本発明のアルカリ可溶性樹脂は、ビス(アミノフェノール)と、ジカルボン酸由来の構造とで構成されるポリベンゾオキサゾール前駆体構造を含むアルカリ可溶性樹脂であって、前記ビス(アミノフェノール)の二つの芳香環を回転させた際に計算化学により算出して得られる最安定構造の生成熱と最不安定構造の生成熱との差が、37[kcal/mol]以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ可溶性樹脂、ポジ型感光性樹脂組成物、硬化膜、保護膜、絶縁膜およびそれを用いた半導体装置、表示体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の保護膜、絶縁膜には、耐熱性が優れ、かつ卓越した電気特性、機械特性等を有するポリイミド樹脂、上記特性に加えて耐湿信頼性が良いとされるポリベンゾオキサゾール樹脂等が用いられていた。更に、ポリイミド樹脂やポリベンゾオキサゾール樹脂、それらの前駆体樹脂自身に感光性を付与し、レリーフパターン作成工程の一部を簡略化できるようにし、高感度で微細加工性を有しながら、高い耐熱性、優れた電気特性、機械特性を持ち、工程短縮および歩留まり(生産性)向上に効果のある感光性樹脂組成物が開発されており、これは半導体素子の保護膜用のみならず絶縁用樹脂組成物としての可能性も有している。
【0003】
更に最近では、安全性の面からアルカリ水溶液で現像ができるポジ型感光性樹脂組成物が開発されている。例えば、特許文献1にはアルカリ可溶性樹脂としてポリベンゾオキサゾール前駆体と感光剤であるジアゾキノン化合物より構成されるポジ型感光性樹脂組成物が開示されている。このポジ型感光性樹脂組成物の現像メカニズムは以下のようになっている。基板上に塗布されたポジ型感光性樹脂組成物に、所望のパターンが描かれたマスクを通して化学線を照射すると、露光されている部分(露光部)のジアゾキノン化合物は化学変化を起こし、アルカリ水溶液に可溶となり、アルカリ可溶性樹脂の溶解を促進させる。一方、露光されていない部分(未露光部)のジアゾキノン化合物はアルカリ水溶液に不溶であり、アルカリ可溶性樹脂と相互作用することでこれに対し耐性を持つようになる。この露光部と未露光部との溶解性の差を利用し、露光部を溶解除去することにより未露光部のみのレリーフパターンの作成が可能となるものである。
【0004】
レリーフパターンを形成した感光性樹脂組成物中のポリイミド前駆体樹脂、ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂は、最終的に300℃〜350℃付近の高温で硬化することにより脱水閉環し、耐熱性に富むポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂となる。近年は半導体素子の小型化、高集積化により、特に記憶素子では耐熱性が低くなっており、生産性向上の為、低温で硬化可能なポリイミド前駆体樹脂、ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂が必要とされている。
【0005】
低温で硬化する際に重要となるのは、例えば半導体装置の温度サイクル試験等の信頼性試験において、硬化物の特性にバラツキが殆ど無く、半導体装置の耐熱性、信頼性に優れることである。従って、硬化膜のガラス転移温度(Tg)は、硬化温度が低くても鉛フリー半田の使用を想定したリフロー温度以上のTgを有することが望ましく、特にポジ型感光性樹脂組成物を250℃の低温で硬化した後の硬化膜のTgが260℃以上であることが望まれている。
【特許文献1】特開昭56−27140
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ポジ型感光性樹脂組成物として用いた場合に高感度かつ低温で硬化しても耐熱性および信頼性に優れるアルカリ可溶性樹脂を提供することにある。
また、本発明の目的は、高感度、かつ低温で硬化しても耐熱性および信頼性に優れるポジ型感光性樹脂組成物、硬化膜、保護膜、絶縁膜およびそれを用いた半導体装置、表示体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)〜(12)に記載の本発明により達成される。
(1)ビス(アミノフェノール)と、ジカルボン酸由来の構造とで構成されるポリベンゾオキサゾール前駆体構造を含むアルカリ可溶性樹脂であって、前記ビス(アミノフェノール)の二つの芳香環を回転させた際に計算化学により算出して得られる最安定構造の生成熱と最不安定構造の生成熱との差が、37〔kcal/mol〕以上であることを特徴とするアルカリ可溶性樹脂。
(2)前記ビス(アミノフェノール)は、両方のアミノ基の隣接する部位にフェノール性水酸基を有し、かつ該アミノ基の反対側の隣接する部位に置換基を有するものである上記(1)に記載のアルカリ可溶性樹脂。
(3)前記ビス(アミノフェノール)が下記式(1)で示されるものである上記(2)に記載のアルカリ可溶性樹脂。
【化1】

(4)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載されるアルカリ可溶性樹脂と、感光剤を含むポジ型感光性樹脂組成物。
(5)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のアルカリ可溶性樹脂を、基板に塗布し、乾燥した後に得られる膜厚5μmのフィルムの波長365nmにおける光透過率が、30%以上である請求項4に記載のポジ型感光性樹脂組成物。
(6)前記アルカリ可溶性樹脂の250℃での環化率[A]%とし、320℃での環化率[B]%としたとき、[A]/[B]が0.80以上となる上記(4)または(5)に記載のポジ型感光性樹脂組成物。
(7)前記アルカリ可溶性樹脂の250℃での環化率が、80%以上である請求項5または上記(6)に記載のポジ型感光性樹脂組成物。
(8)上記(4)ないし(7)のいずれかに記載のポジ型感光性樹脂組成物の硬化物で構成されていることを特徴とする硬化膜。
(9)上記(8)に記載の硬化膜で構成されていることを特徴とする保護膜。
(10)上記(8)に記載の硬化膜で構成されていることを特徴とする絶縁膜。
(11)上記(8)に記載の硬化膜を有していることを特徴とする半導体装置。
(12)上記(8)に記載の硬化膜を有していることを特徴とする表示体装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポジ型感光性樹脂組成物として用いた場合に高感度かつ低温で硬化しても耐熱性および信頼性に優れるアルカリ可溶性樹脂を提供することができる。
また、本発明によれば、高感度、かつ低温で硬化しても耐熱性および信頼性に優れるポジ型感光性樹脂組成物、硬化膜、保護膜、絶縁膜およびそれを用いた半導体装置、表示体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のアルカリ可溶性樹脂、ポジ型感光性樹脂組成物、硬化膜、保護膜、絶縁膜、半導体装置、表示体装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0010】
本発明で用いるアルカリ可溶性樹脂は、ビス(アミノフェノール)と、ジカルボン酸由来の構造とで構成されるポリベンゾオキサゾール前駆体構造を含むものであり、前記ビス(アミノフェノール)が、その中に含まれる二つの芳香環を回転させた時、計算化学により算出した最安定構造の生成熱と最不安定構造の生成熱の差が、37[kcal/mol]以上であることを特徴とするものである。ポジ型感光性樹脂組成物は、上記アルカリ可溶性樹脂、感光剤を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の保護膜、絶縁膜は、上記ポジ型感光性樹脂組成物の硬化物である硬化膜で構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の半導体装置、表示体装置は、上記硬化膜で構成されていることを特徴とする。
【0013】
まず、本発明のアルカリ可溶性樹脂について詳細に説明する。
【0014】
本発明のアルカリ可溶性樹脂は、ビス(アミノフェノール)と、ジカルボン酸由来の構造とで構成されるポリベンゾオキサゾール前駆体構造を含むものであり、前記ビス(アミノフェノール)に含まれる二つの芳香環を回転させる際、最安定構造と最不安定構造の生成熱の差が37[kcal/mol]以上であることが好ましい。
【0015】
ビス(アミノフェノール)の最安定構造と最不安定構造における生成熱の差は、例えば富士通株式会社製CAChe Workspaceを用いて算出することができる。具体的には式(2)に示すビス(アミノフェノール)の構造を描き、二つの芳香環をつなぐ連結基を挟み、A−B−R−Dで構成された平面と、B−R−D−Eで構成された平面による二面角を−180度から180度の範囲において変化させ、分子力学法によりそれぞれの角度の生成熱をプロットしたエネルギーマップを作成する。そのエネルギーマップから最安定構造時の生成熱と最不安定構造時の生成熱の差を取ることで求めることができる。
【0016】
【化2】

【0017】
低温で硬化しても耐熱性および信頼性に優れるためには、ポジ型感光性樹脂組成物の硬化膜が高Tgを示すアルカリ可溶性樹脂が必要となるが、Tgは硬化温度が低くなるにつれて低下する傾向があるため、従来は、低温で硬化した際にもTgが高く、耐熱性に優れるポリベンゾオキサゾール前駆体構造を有するアルカリ可溶性樹脂は無かった。
一般的にポリマーのTgを高くするための手法としては、主鎖の剛直性の向上、対称性の向上、極性基導入等の分子間相互作用の利用等が挙げられる。これに対して、本発明では、分子の回転運動を阻害し、ガラス転移に高い熱エネルギーを要させることで高Tgを得るという手法を検討した。そこで、分子の回転運動のしにくさを分子内回転におけるエネルギー障壁ととらえ、計算化学により上記二面角における生成熱の最高値と最低値の差を算出したところ、その値が37[kcal/mol]以上であるビス(アミノフェノール)を用いたとき、250℃の低温で硬化させても260℃以上のTgを有し、耐熱性に優れたポジ型感光性樹脂組成物が得られることを見出した。
前記最安定構造の生成熱と最不安定構造の生成熱との差は、より好ましくは41[kcal/mol]以上であり、特に好ましくは55[kcal/mol]以上である。差が前記範囲内であると、特に耐熱性に優れる。
【0018】
上記生成熱の差を37[kcal/mol]以上にするためには、ビス(アミノフェノール)を回転運動が起こりにくい構造、例えば、式(1)に示すRを嵩高くする、もしくはアミド結合などの剛直なものにする、二つの芳香環上に置換基を導入するなどの方法が挙げられる。なかでも二つの芳香環上に置換基を導入する、特にアミノ基隣接のオルソ位に置換基を導入すると顕著に生成熱の差を大きくすることができる。
【0019】
前記生成熱の差が37[kcal/mol]以上であることを満たすビス(アミノフェノール)は、具体的には式(3)で示されるビス(アミノフェノール)が挙げられる。式(3)に示されるビス(アミノフェノール)では、二つの芳香環の回転がアミノ基のオルソ位にある置換基(R)によってより回転しにくくなると考えられ、ガラス転移が起こるまでにより高い熱エネルギーを必要とするようになると考えられる。
【0020】
【化3】

【0021】
前記Rの有機基の具体例としては、アルキレン、置換アルキレン、−O−、−S−、−SO−、−Si(CH−、−C−、−CO−、−NHCO−、−COO−、−C(CF−等が挙げられる。
【0022】
さらに好ましくは、下記式(4)で示されるビス(アミノフェノール)である。
【0023】
【化4】

【0024】
特に好ましくは、下記式(5)で示されるビス(アミノフェノール)である。
【0025】
【化5】

【0026】
式(1)のR、式(3)のR、式(4)のR10、そして式(5)のR13のアルキレン、置換アルキレンの具体的な例としては、例えば−CH−、−CH(CH)−、−C(CH−、−CH(CHCH)−、−C(CH)(CHCH)−、−C(CHCH)(CHCH)−、−CH(CHCHCH)−、−C(CH)(CHCHCH)−、−CH(CH(CH)−、−C(CH)(CH(CH)−、−CH(CHCHCHCH)−、−C(CH)(CHCHCHCH)−、−CH(CHCH(CH)−、−C(CH)(CHCH(CH)−、−CH(CHCHCHCHCH)−、−C(CH)(CHCHCHCHCH)−、−CH(CHCHCHCHCHCH)−、−C(CH)(CHCHCHCHCHCH)−等が挙げられるが、その中でも−CH−、−CH(CH)−、−C(CH−が、より低温で硬化した際にもより高Tgを維持しながら、アルカリ水溶液だけでなく溶剤に対しても十分な溶解性を持つ、よりバランスに優れるアルカリ可溶性樹脂を得ることができて好ましい。
【0027】
式(1)のRおよびR、式(3)のRおよびR、式(4)のR11およびR12、そして式(5)のR14およびR15はアルキル基、またはアルコキシ基であるビス(アミノフェノール)を用いることが好ましく、これにより低温で硬化した際にもより高Tgであることを維持しながら、アルカリ水溶液に対して十分な溶解性を持つ、よりバランスに優れるアルカリ可溶性樹脂が得られる。アルキル基の具体的な例としては、例えば−CH、−CHCH、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH、−CHCH(CH、−CH(CH)(CHCH)、−C(CH、−CHCHCHCHCH、−CHCHCH(CH、−CHCH(CH)(CHCH)、−CH(CHCH)(CHCH)、−CH(CH)(CHCHCH)、−CH(CH)(CH(CH)、−CHCHCHCHCHCH、−CH(CH)(CHCHCHCH)、−CH(CH)(CHCH(CH)、−CHCHCHCHCHCHCH、−CHCHCHCHCHCHCHCH等が挙げられる。アルコキシ基の具体的な例としては、例えば−OCH、−OCHCH、−OCHCHCH、−OCH(CH、−OCHCHCHCH、−OCHCH(CH、−OCH(CH)(CHCH)、−OC(CH等が挙げられる。
【0028】
本発明で用いるアルカリ可溶性樹脂は、ポリベンゾオキサゾール前駆体構造を有するが、これに限定されず他の構造を有しても良い。
他の構造として挙げられるのは、ポリベンゾオキサゾール構造およびポリイミド構造の少なくとも一方を有し、かつ主鎖または側鎖に水酸基、カルボキシル基、エーテル基またはエステル基を有する構造、ポリイミド前駆体構造、ポリアミド酸エステル構造である。
例えば、最終加熱後の耐熱性、信頼性の点から式(6−1)で示される構造を含むポリアミド樹脂が好ましい。より好ましくは、式(6−2)に示されるポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂である。
【0029】
【化6】

【0030】
式(6)のR16、R21のアルキレン、置換アルキレンの具体的な例としては、−CH−、−CH(CH)−、−C(CH−、−CH(CHCH)−、−C(CH)(CHCH)−、−C(CHCH)(CHCH)−、−CH(CHCHCH)−、−C(CH)(CHCHCH)−、−C−CH(CH(CH)−、−C(CH)(CH(CH)−、−CH(CHCHCHCH)−、−C(CH)(CHCHCHCH)−、−CH(CHCH(CH)−、−C(CH)(CHCH(CH)−、−CH(CHCHCHCHCH)−、−C(CH)(CHCHCHCHCH)−、−CH(CHCHCHCHCHCH)−、−C(CH)(CHCHCHCHCHCH)−等が挙げられる。
【0031】
式(6)のR17、R18、R22そしてR23のアルキル基の具体的な例としては、−CH、−CHCH、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH、−CHCH(CH、−CH(CH)(CHCH)、−C(CH、−CHCHCHCHCH、−CHCHCH(CH、−CHCH(CH)(CHCH)、−CH(CHCH)(CHCH)、−CH(CH)(CHCHCH)、−CH(CH)(CH(CH)、−CHCHCHCHCHCH、−CH(CH)(CHCHCHCH)、−CH(CH)(CHCH(CH)、−CHCHCHCHCHCHCH、−CHCHCHCHCHCHCHCH等が挙げられる。アルコキシ基の具体的な例としては、−OCH、−OCHCH、−OCHCHCH、−OCH(CH、−OCHCHCHCH、−OCHCH(CH、−OCH(CH)(CHCH)、−OC(CH等が挙げられる。)
【0032】
また前記アルカリ可溶性樹脂を塗布、乾燥後に形成されるフィルムの膜厚5μmあたりの、波長365nmにおける光透過率が、30%以上あることが重要である。フィルムの透過率が高いと、フィルム内部の奥にまでより多くの化学線が届くことにより、感度が向上する。感度が向上すると露光時間が短縮されることにより生産性が向上する。より好ましくは前記光透過率が50%以上である。
【0033】
これは前記式(1)のビス(アミノフェノール)を使用することにより、レリーフパターン形成用の露光光源としてよく使用される波長365nmの化学線に対するフィルムの光透過率が高いアルカリ可溶性樹脂が得られる。その理由として、前記式(1)のRで示される置換基同士の立体障害によりRを介した芳香族同士が折れ曲がることで平面構造が取り難くなり、電荷移動が起こり難くなったことが考えられる。
【0034】
式(6−1)で示される構造を含むポリアミド樹脂は、例えば、式(4)で示されるビス(アミノフェノール)と、必要によりXを含むジアミン或いはビス(アミノフェノール)、2,4−ジアミノフェノール等から選ばれる化合物と、Yを含むテトラカルボン酸二無水物、トリメリット酸無水物、ジカルボン酸或いはジカルボン酸ジクロライド、ジカルボン酸誘導体、ヒドロキシジカルボン酸、ヒドロキシジカルボン酸誘導体等から選ばれる化合物とを反応して得られるものである。
【0035】
式(6−2)で示されるポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂は、例えば、式(4)で示されるビス(アミノフェノール)と、必要によりXを含むビス(アミノフェノール)、2,4−ジアミノフェノール等から選ばれる化合物と、Yを含むジカルボン酸或いはジカルボン酸ジクロライド、ジカルボン酸誘導体等から選ばれる化合物とを反応して得られるものである。なお、ジカルボン酸の場合には反応収率等を高めるため、1−ヒドロキシ−1,2,3−ベンゾトリアゾール等を予め反応させた活性エステル型のジカルボン酸誘導体を用いてもよい。
【0036】
a、cが60モルパーセント以上の場合、250℃の低温で硬化しても硬化膜のTgが260℃以上であるアルカリ可溶性樹脂が得られる。
【0037】
式(6)で示されるアルカリ可溶性樹脂において、Xの置換基としての−O−R25、Yの置換基としての−O−R25、−COO−R25は、水酸基、カルボキシル基のアルカリ水溶液に対する溶解性を調節する目的で、炭素数1〜15の有機基であるR25で保護された基であり、必要により水酸基、カルボキシル基を保護しても良い。R25の例としては、ホルミル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、ターシャリーブトキシカルボニル基、フェニル基、ベンジル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。
【0038】
このアルカリ可溶性樹脂を、低温で加熱する場合は150℃以上280℃未満、高温で加熱する場合は280℃以上380℃以下で処理すると脱水閉環し、ポリベンゾオキサゾール樹脂またはポリベンゾオキサゾール樹脂とポリイミド樹脂との共重合という形で耐熱性樹脂が得られる。低温で加熱処理すると、耐熱性が低い半導体素子でも歩留まり向上に効果がある。
【0039】
式(6)のXは有機基であり、例えばベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族化合物、ビスフェノール類、ピロール類、フラン類等の複素環式化合物、シロキサン化合物等が挙げられ、より具体的には下記式(7)で示されるものを好ましく挙げることができる。これらは低温で硬化した際のTgに影響しない程度に、必要により1種類又は2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
【化7】

【0041】
式(7)のR26およびR27のアルキル基の具体的な例としては、−CH、−CHCH、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH、−CHCH(CH、−CH(CH)(CHCH)、−C(CH、−CHCHCHCHCH、−CHCHCH(CH、−CHCH(CH)(CHCH)、−CH(CHCH)(CHCH)、−CH(CH)(CHCHCH)、−CH(CH)(CH(CH)、−CHCHCHCHCHCH、−CH(CH)(CHCHCHCH)、−CH(CH)(CHCH(CH)、−CHCHCHCHCHCHCH、−CHCHCHCHCHCHCHCH等が挙げられる。
【0042】
式(6)で示すように、XにはR19あるいはR24が0〜2個結合される。(式(7)において、R19およびR24は省略)。
【0043】
式(6)中の、Xを含む繰り返し単位のモルパーセントであるbおよびdはゼロであってもよい。
【0044】
また、式(6)のYは有機基であり、前記Xと同様のものが挙げられ、例えばベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族化合物、ビスフェノール類、ピロール類、ピリジン類、フラン類等の複素環式化合物、シロキサン化合物等が挙げられ、より具体的には下記式(8)で示されるものを好ましく挙げることができる。これらは1種類又は2種類以上組み合わせて用いてもよい
【0045】
【化8】

【0046】
式(8)のR32およびR33のアルキル基の具体的な例としては、−CH、−CHCH、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH、−CHCH(CH、−CH(CH)(CHCH)、−C(CH、−CHCHCHCHCH、−CHCHCH(CH、−CHCH(CH)(CHCH)、−CH(CHCH)(CHCH)、−CH(CH)(CHCHCH)、−CH(CH)(CH(CH)、−CHCHCHCHCHCH、−CH(CH)(CHCHCHCH)、−CH(CH)(CHCH(CH)、−CHCHCHCHCHCHCH、−CHCHCHCHCHCHCHCH等が挙げられる。
【0047】
式(6)で示すように、YにはR20が0〜4個結合される(式(8)において、R20は省略)
【0048】
これらの中で特に好ましいものとしては、下記式(9)で表されるものが挙げられる。
下記式(9)中のテトラカルボン酸二無水物由来の構造については、C=O基に結合する位置が両方メタ位であるもの、両方パラ位であるものを挙げているが、メタ位とパラ位をそれぞれ含む構造でもよい。
【0049】
【化9】

【0050】
式(9)のR38のアルキル基の具体的な例としては、−CH、−CHCH、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH、−CHCH(CH、−CH(CH)(CHCH)、−C(CH、−CHCHCHCHCH、−CHCHCH(CH、−CHCH(CH)(CHCH)、−CH(CHCH)(CHCH)、−CH(CH)(CHCHCH)、−CH(CH)(CH(CH)、−CHCHCHCHCHCH、−CH(CH)(CHCHCHCH)、−CH(CH)(CHCH(CH)、−CHCHCHCHCHCHCH、−CHCHCHCHCHCHCHCH等が挙げられる。
【0051】
上記アルカリ可溶性樹脂からなるポジ型感光性樹脂組成物を、250℃と低温で硬化しても耐熱性に優れるためには、式(6)中のXとYは環式化合物が望ましく、特に芳香族化合物が好ましい。
【0052】
また、上述の式(6)で示されるアルカリ可溶性樹脂は、該アルカリ可溶性樹脂の末端のアミノ基を、アルケニル基またはアルキニル基を少なくとも1個有する脂肪族基、または環式化合物基を含む酸無水物を用いてアミドとしてキャップすることが好ましい。これにより、保存性を向上することができる。このような、アミノ基と反応した後のアルケニル基またはアルキニル基を少なくとも1個有する脂肪族基または環式化合物基を含む酸無水物に起因する基としては、例えば式(10)、式(11)で示される基等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いても良い。
【0053】
【化10】

【0054】
【化11】

【0055】
これらの中で特に好ましいものとしては、式(12)から選ばれる基が好ましい。これにより、特に保存性を向上することができる。
【0056】
【化12】

【0057】
またこの方法に限定される事はなく、該アルカリ可溶性樹脂中に含まれる末端のカルボン酸をアルケニル基又はアルキニル基を少なくとも1個有する脂肪族基又は環式化合物基を含むアミン誘導体を用いてアミドとしてキャップすることもできる。
【0058】
(ポジ型感光性樹脂組成物)
次に、ポジ型感光性樹脂組成物について詳細に説明する。ポジ型感光性樹脂組成物は、上記アルカリ可溶性樹脂、感光剤を含むことを特徴とする。
【0059】
本発明で用いる感光剤は、ポジ型のパターニングが可能となる感光剤を用いることができ、具体的には感光性ジアゾキノン化合物やオニウム塩など光により酸を発生する化合物や、ジヒドロピリジン化合物などを用いることができる。感光性ジアゾキノン化合物は、例えばフェノール化合物と1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸または1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸とのエステルが挙げられる。具体的には、式(13)〜式(16)に示すエステル化合物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0060】
【化13】

【0061】
【化14】

【0062】
【化15】

【0063】
【化16】

【0064】
式中Qは、水素原子、式(17)、式(18)のいずれかから選ばれるものである。ここで各化合物のQのうち、少なくとも1つは式(17)、式(18)である。
【化17】

【0065】
【化18】

【0066】
本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、特に式(3)、(4)、(5)に示す本発明のビス(アミノフェノール)からなるポリベンゾオキサゾール前駆体構造を有するアルカリ可溶性樹脂を用いた場合、低温で硬化した際にTgのみならず環化率も向上する。これは、ポリベンゾオキサゾール前駆体構造におけるアミド結合がアミノ基のオルソ位にある置換基との立体障害により水酸基側に押し出されることによるものと考えられる。
【0067】
従来は、低温で硬化した際にも耐熱性および信頼性に優れるポリベンゾオキサゾール前駆体構造を有するアルカリ可溶性樹脂は無かった。原因としては前述の、低温硬化時にはポリマーのTgが低くなることに加え、低温で硬化した際には環化反応が十分進行しなかったことにより、フェノール性水酸基が残存する為に、吸水率が増加することによるものと考えられる。
【0068】
これに対し本発明では鋭意検討を行った結果、アルカリ可溶性樹脂の250℃での環化率[A]%とし、320℃での環化率[B]%としたとき、[A]/[B]が0.80以上となる前記アルカリ可溶性樹脂を用いたポジ型感光性樹脂組成物が、幅広い温度領域で硬化しても吸水率が低く、信頼性に優れることを見出した。
【0069】
このような前記比率による値以上を達成するアルカリ可溶性樹脂を得る方法としては、例えば、アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量を1万以下に低下させたり、シロキサン結合や脂肪族炭化水素結合などを主鎖に導入したりする方法等が考えられるが、その中でも、下記式(3)、(4)、(5)に示すビス(アミノフェノール)を使用する方法が好ましい。
【0070】
具体的には、ビス(アミノフェノール)が、両方のアミノ基の隣接する部位にフェノール性水酸基を有し、更にアミノ基の反対側の隣接する部位に置換基を有するものである。
【0071】
より具体的には、前記ビス(アミノフェノール)として、式(3)で示される化合物が挙げられる。これによりアルカリ可溶性樹脂中のアミド結合が式(3)のアミノ基のオルソ位にある置換基(R)との立体障害により水酸基側に押し出され、アミド結合のカルボニル炭素と水酸基の酸素原子との距離が短くなると考えられ、環化反応におけるビス(アミノフェノール)由来の水酸基の酸素原子がアミド結合中のカルボニル基の炭素原子へ求核攻撃し易くなり、250℃の低温で硬化した際にも環化率が80%以上となることから、幅広い温度領域での硬化で高い環化率を示す為、前述の高Tg化の効果も相乗し、より優れた信頼性を与えることができる。
【0072】
【化3】

【0073】
前記Rの有機基の具体的例としては、アルキレン、置換アルキレン、−O−、−S−、−SO−、−Si(CH−、−C−、−CO−、−NHCO−、−COO−、−C(CF−等が挙げられる。
【0074】
前記ビス(アミノフェノール)は、より好ましくは、式(4)で示されるビス(ア
ミノフェノール)である。
【0075】
【化4】

【0076】
特に好ましくは、式(5)に示されるビス(アミノフェノール)である。これは、フェノール性水酸基のオルソ位(R15)にも置換基を有するビス(アミノフェノール)を用いると、前記同様、フェノール性水酸基が置換基との立体障害によりアミド結合側に押し出されて更に接近すると考えられる為である。
【0077】
【化5】

【0078】
式(3)のR、式(4)のR10、そして式(5)のR13のアルキレン、置換アルキレンの具体的な例としては、例えば−CH−、−CH(CH)−、−C(CH−、−CH(CHCH)−、−C(CH)(CHCH)−、−C(CHCH)(CHCH)−、−CH(CHCHCH)−、−C(CH)(CHCHCH)−、−CH(CH(CH)−、−C(CH)(CH(CH)−、−CH(CHCHCHCH)−、−C(CH)(CHCHCHCH)−、−CH(CHCH(CH)−、−C(CH)(CHCH(CH)−、−CH(CHCHCHCHCH)−、−C(CH)(CHCHCHCHCH)−、−CH(CHCHCHCHCHCH)−、−C(CH)(CHCHCHCHCHCH)−等が挙げられるが、その中でも−CH−、−CH(CH)−、−C(CH−が、より低温で硬化した際にもより高環化率を維持しながら、アルカリ水溶液だけでなく溶剤に対しても十分な溶解性を持つ、よりバランスに優れるアルカリ可溶性樹脂を得ることができて好ましい。
【0079】
式(3)のRおよびR、式(4)のR11およびR12、そして式(5)のR14およびR15はアルキル基、またはアルコキシ基であるビス(アミノフェノール)を用いることが好ましく、これにより低温で硬化した際にもより高環化率であることを維持しながら、アルカリ水溶液に対して十分な溶解性を持つ、よりバランスに優れるアルカリ可溶性樹脂が得られる。アルキル基の具体的な例としては、例えば−CH、−CHCH、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH、−CHCH(CH、−CH(CH)(CHCH)、−C(CH、−CHCHCHCHCH、−CHCHCH(CH、−CHCH(CH)(CHCH)、−CH(CHCH)(CHCH)、−CH(CH)(CHCHCH)、−CH(CH)(CH(CH)、−CHCHCHCHCHCH、−CH(CH)(CHCHCHCH)、−CH(CH)(CHCH(CH)、−CHCHCHCHCHCHCH、−CHCHCHCHCHCHCHCH等が挙げられる。アルコキシ基の具体的な例としては、例えば−OCH、−OCHCH、−OCHCHCH、−OCH(CH、−OCHCHCHCH、−OCHCH(CH、−OCH(CH)(CHCH)、−OC(CH等が挙げられる。
【0080】
更に本発明では、高感度で更に現像後の樹脂残り(スカム)無くパターニングできるようにフェノール性化合物を添加することができる。
【0081】
本発明における樹脂組成物および感光性樹脂組成物には、必要によりレベリング剤、シランカップリング剤等の添加剤を含んでも良い。
【0082】
本発明においては、これらの成分を溶剤に溶解し、ワニス状にして使用する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、メチル−1,3−ブチレングリコールアセテート、1,3−ブチレングリコール−3−モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メチル−3−メトキシプロピオネート等が挙げられ、単独でも混合して用いても良い。
【0083】
本発明の感光性樹脂組成物の使用方法は、まず該組成物を適当な支持体、例えば、シリコンウエハー、セラミック基板、アルミ基板等に塗布する。塗布量は、半導体素子上に塗布する場合、硬化後の最終膜厚が0.1〜30μmになるよう塗布する。膜厚が下限値を下回ると、半導体素子の保護膜、絶縁膜としての機能を十分に発揮することが困難となる場合があり、上限値を越えると、微細なレリーフパターンを得ることが困難となるばかりでなく、加工に時間がかかりスループットが低下する場合がある。塗布方法としては、スピンナーを用いた回転塗布、スプレーコーターを用いた噴霧塗布、浸漬、印刷、ロールコーティング等がある。次に、60〜130℃でプリベークして塗膜を乾燥後、所望のパターン形状に化学線を照射する。化学線としては、X線、電子線、紫外線、可視光線等が使用できるが、200〜500nmの波長のものが好ましい。
【0084】
次に、照射部を現像液で溶解除去することによりレリーフパターンを得る。現像液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水等の無機アルカリ類、エチルアミン、n−プロピルアミン等の第1アミン類、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン等の第2アミン類、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第3アミン類、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第4級アンモニウム塩等のアルカリ類の水溶液、及びこれにメタノール、エタノールのごときアルコール類等の水溶性有機溶媒や界面活性剤を適当量添加した水溶液を好適に使用することができる。現像方法としては、スプレー、パドル、浸漬、超音波等の方式が可能である。
【0085】
次に、現像によって形成したレリーフパターンをリンスする。リンス液としては、蒸留水を使用する。次に加熱処理(硬化)を行い、オキサゾール環、又はオキサゾール環およびイミド環を形成し、耐熱性に富む硬化物を得る。
【0086】
加熱処理は高温でも低温でも可能であり、高温での加熱処理温度は、280℃〜380℃が好ましく、より好ましくは290℃〜350℃である。低温での加熱処理温度は150℃〜280℃が好ましく、より好ましくは180℃〜260℃である。
【0087】
次に、本発明による感光性樹脂組成物の硬化膜について説明する。感光性樹脂組成物の硬化物である硬化膜は、半導体素子等の半導体装置用途のみならず、TFT型液晶や有機EL等の表示体装置用途、多層回路の層間絶縁膜やフレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜や液晶配向膜としても有用である。
【0088】
半導体装置用途の例としては、半導体素子上に上述の感光性樹脂組成物の硬化膜を形成してなるパッシベーション膜、パッシベーション膜上に上述の感光性樹脂組成物の硬化膜を形成してなるバッファーコート膜等の保護膜、また、半導体素子上に形成された回路上に上述の感光性樹脂組成物の硬化膜を形成してなる層間絶縁膜等の絶縁膜、また、α線遮断膜、平坦化膜、突起(樹脂ポスト)、隔壁等を挙げることができる。
【0089】
表示体装置用途の例としては、表示体素子上に上述の感光性樹脂組成物の硬化膜を形成してなる保護膜、TFT素子やカラーフィルター用等の絶縁膜または平坦化膜、MVA型液晶表示装置用等の突起、有機EL素子陰極用等の隔壁等を挙げることができる。その使用方法は、半導体装置用途に準じ、表示体素子やカラーフィルターを形成した基板上にパターン化された感光性樹脂組成物層を、上記の方法で形成することによるものである。表示体装置用途の、特に絶縁膜や平坦化膜用途では、高い透明性が要求されるが、この感光性樹脂組成物層の硬化前に、後露光工程を導入することにより、透明性に優れた樹脂層が得られることもでき、実用上更に好ましい。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでは無い。
<実施例1>
アルカリ可溶性樹脂の合成
イソフタル酸0.360モルとジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸0.540モルと1−ヒドロキシ−1,2,3−ベンゾトリアゾール1.800モルとを反応させて得られたジカルボン酸誘導体(活性エステル)410.04g(0.900モル)と、4,4′‐メチレンビス(2−アミノ−3,6‐ジメチルフェノール)171.82g(0.600モル)、4,4′‐メチレンビス(2−アミノフェノール)92.10g(0.400モル)とを温度計、攪拌機、原料投入口、乾燥窒素ガス導入管を備えた4つ口のセパラブルフラスコに入れ、N−メチル−2−ピロリドン3370gを加えて溶解させた。その後オイルバスを用いて75℃にて16時間反応させた。次にN−メチル−2−ピロリドン215gに溶解させた4−エチニルフタル酸無水物43.04g(0.250モル)を加え、更に3時間攪拌して反応を終了した。反応混合物を濾過した後、反応混合物を水/イソプロパノール=7/4(体積比)の溶液に投入、沈殿物を濾集し水で充分洗浄した後、真空下で乾燥し、式(6−2)で示され、c=60、d=40、p=2で、表1で示される化合物からなる目的のアルカリ可溶性樹脂(A−1)を得た。
【0091】
最安定構造時の生成熱と再不安定構造時の生成熱の差
計算には504MBのメモリーを搭載した日本電気(株)製ノート型パーソナルコンピュータVersaPro VY12F/BH−Xを使用した。
富士通(株)製CAChe Workspaceで4,4′‐メチレンビス(2−アミノ−3,6‐ジメチルフェノール)を左側から描いた。式(2)に示すA−B−R−Dで構成される平面と、B−R−D−Eで構成される平面による二面角を−180度から180度の範囲において変化させ、それぞれの配座における生成熱を分子力学法(MM2法)により求め、そのエネルギーマップを作成した。そのエネルギーマップから最も高い生成熱と最も低い生成熱を読み取り、その差をとったところ、55.4[kcal/mol]であった。同様にして4,4′‐メチレンビス(2−アミノフェノール)についても計算を行うと、その生成熱の差は10.4[kcal/mol]という値を得た。アルカリ可溶性樹脂(A−1)はアミノフェノールを4,4′‐メチレンビス(2−アミノ−3,6‐ジメチルフェノール)6割と4,4′‐メチレンビス(2−アミノフェノール)4割を混合して用いているので、その生成熱の差は4,4′‐メチレンビス(2−アミノ−3,6‐ジメチルフェノール)の55.4[kcal/mol]を0.6倍した値と4,4′‐メチレンビス(2−アミノフェノール)の10.4[kcal/mol]を0.4倍した値を足し合わせた37.4[kcal/mol]となった。
【0092】
透過率評価
アルカリ可溶性樹脂(A−1)4.0gをγ−ブチロラクトン8.0gに溶解した樹脂を石英板にスピンコーターを用いて塗布した後、ホットプレートにて120℃で4分乾燥し、膜厚5μmの塗膜を得た。この塗膜の透過率を紫外可視分光光度計(島津製作所製)により測定した。波長365nmにおける透過率は31%であった。
【0093】
環化率評価(アルカリ可溶性樹脂)
上記アルカリ可溶性樹脂を3枚のシリコンウエハー上にスピンコーターを用いて塗布した後、ホットプレートにて120℃で4分プリベークし、それぞれ膜厚約5μmの塗膜を得た。次に塗膜付きシリコンウエハーの1枚を2%フッ化水素酸に浸け、フィルムを得た。このフィルムをフーリエ変換赤外分光光度計PARAGON1000(パーキンエルマー製)を用いて測定し、1650cm−1のアミド基と1490cm−1の全芳香族に伴うピークの比(a)を算出した。次にオーブンを用いて、もう1枚の塗膜付きシリコンウエハーを250℃/90分で加熱を行った後、同様にして硬化フィルムを得、フーリエ変換赤外分光光度計による測定から1650cm−1のアミド基と1490cm−1の全芳香族に伴うピークの比(b)を算出した。残りの1枚の塗膜付きシリコンウエハーを同様に320℃/30分で加熱を行った後、同様にして硬化フィルムを得、フーリエ変換赤外分光光度計による測定から1650cm−1のアミド基と1490cm−1の全芳香族に伴うピークの比(c)を算出した。
【0094】
250℃での環化率[A]は(1−(b)/(a))に100を乗じた値とした。このようにして求めた環化率は89%であった。320℃での環化率[B]は(1−(c)/(a))に100を乗じた値とした。このようにして求めた環化率は100%であった。これより、[A]/[B]は0.89であり、幅広い温度領域でも環化率のバラツキが少ないアルカリ可溶性樹脂が得られた。
【0095】
感光剤の合成
フェノール式(B−1)13.53g(0.0214モル)と、トリエチルアミン7.62g(0.0737モル)とを温度計、攪拌機、原料投入口、乾燥窒素ガス導入管を備えた4つ口のセパラブルフラスコに入れ、テトラヒドロフラン108.65gを加えて溶解させた。この反応溶液を10℃以下に冷却した後に、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホニルクロライド19.80g(0.0737モル)をテトラヒドロフラン100gと共に10℃以上にならないように徐々に滴下した。その後10℃以下で5分攪拌した後、室温で5時間攪拌して反応を終了させた。反応混合物を濾過した後、反応混合物を水/メタノール=3/1(体積比)の溶液に投入、沈殿物を濾集し水で充分洗浄した後、真空下で乾燥し、式(Q−1)の構造で示される感光剤を得た。
【0096】
【化19】

【0097】
感光性樹脂組成物の作製
合成したアルカリ可溶性樹脂(A−1)100g、式(Q−1)の構造を有する感光剤13.5gをN−メチル−2−ピロリドン140gとγ−ブチロラクトン60gの混合溶媒に溶解した後、0.2μmのテフロン(登録商標)フィルターで濾過し感光性樹脂組成物を得た。
【0098】
感度評価
この感光性樹脂組成物をシリコンウエハー上にスピンコーターを用いて塗布した後、ホットプレートにて120℃で4分プリベークし、膜厚約8.0μmの塗膜を得た。この塗膜に凸版印刷(株)製・マスク(テストチャートNo.1:幅0.88〜50μmの残しパターン及び抜きパターンが描かれている)を通して、i線ステッパー((株)ニコン製・4425i)を用いて、露光量を変化させて照射した。
次に2.38%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用い、プリベーク後と現像後の未露光部の膜厚差が1μmになるように現像時間を調節してパドル現像を行った。その後、純水で10秒間リンスした。その結果、露光量210mJ/cmで照射した部分よりパターンが成形されていることが確認できた。(感度は210mJ/cm)。解像度は5μmと非常に高い値を示した。
【0099】
ガラス転移温度(Tg)評価
上記感光性樹脂組成物を6インチのシリコンウエハー上にスピンコーターを用いて塗布した後、ホットプレートにて120℃で4分プリベークし、膜厚約10μmの塗膜を得た。次にオーブンを用いて、塗膜付きシリコンウエハーを250℃/90分で加熱を行った。次に得られた硬化膜を2%のフッ化水素水に漬浸し、膜をシリコンウエハーから剥離した。得られた膜を純水で充分に洗浄し、オーブンで乾燥した。乾燥後の膜を5mm幅に切ってサンプル片を作成し、セイコーインスツルメンツ(株)製熱機械分析装置(TMA)SS6000を用いてガラス転移温度を測定した結果、270℃であった。
【0100】
<実施例2>
実施例1におけるアルカリ可溶性樹脂の合成において、4,4′‐メチレンビス(2−アミノ−3,6‐ジメチルフェノール)を200.46g(0.700モル)に増やし、4,4′‐メチレンビス(2−アミノフェノール)69.08g(0.300モル)に減らして、同様にして反応し、式(6−2)で示され、c=70、d=30、p=2で、表1で示される化合物からなるアルカリ可溶性樹脂(A−2)を合成した。その他は実施例1と同様にして感光性樹脂組成物を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
最安定構造時の生成熱と再不安定構造時の生成熱の差は、41.9[kcal/mol]であった。
【0101】
<実施例3>
実施例1におけるアルカリ可溶性樹脂の合成において、4,4′‐メチレンビス(2−アミノフェノール)を用いず、4,4′‐メチレンビス(2−アミノ−3,6‐ジメチルフェノール)を286.37g(1.000モル)を用いて同様にして反応し、式(6−2)で示され、c=100、d=0、p=2で、表1で示される化合物からなるアルカリ可溶性樹脂(A−3)を合成した。その他は実施例1と同様にして感光性樹脂組成物を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
最安定構造時の生成熱と再不安定構造時の生成熱の差は、55.4[kcal/mol]であった。
【0102】
<実施例4>
実施例3におけるアルカリ可溶性樹脂の合成において、4,4′‐メチレンビス(2−アミノ−3,6‐ジメチルフェノール)の替わりに、4,4′‐エチリデンビス(2−アミノ−3,6‐ジメチルフェノール)300.40g(1.000モル)を用いて同様にして反応し、式(6−2)で示され、c=100、d=0、p=2で、表1で示される化合物からなるアルカリ可溶性樹脂(A−4)を合成した。その他は実施例1と同様にして感光性樹脂組成物を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
最安定構造時の生成熱と再不安定構造時の生成熱の差は、65.0[kcal/mol]であった。
【0103】
<比較例1>
実施例1におけるアルカリ可溶性樹脂の合成において、4,4′‐メチレンビス(2−アミノ−3,6‐ジメチルフェノール)を用いず、4,4′‐メチレンビス(2−アミノフェノール)を230.26g(1.000モル)を用いて同様にして反応し、式(6−2)で示され、c=0、d=100、p=2で、表1で示される化合物からなるアルカリ可溶性樹脂(A−5)を合成した。その他は実施例1と同様にして感光性樹脂組成物を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
最安定構造時の生成熱と再不安定構造時の生成熱の差は、10.4[kcal/mol]であった。
【0104】
<比較例2>
アルカリ可溶性樹脂の合成
4,4′−ジアミノジフェニルメタン198.26g(1.000モル)を温度計、攪拌機、原料投入口、乾燥窒素ガス導入管を備えた4つ口のセパラブルフラスコに入れ、N−メチル−2−ピロリドン3370gを加えて溶解させた。水浴しながら、N−メチル−2−ピロリドン215gに溶解させた4,4′−オキシビスフタル酸1,2:1′,2′−二無水物279.19g(0.900モル)を加え、室温に戻して1時間攪拌した。そのその後オイルバスを用いて75℃にて16時間反応させた。次にN−メチル−2−ピロリドン215gに溶解させた4−エチニルフタル酸無水物43.04g(0.250モル)を加え、更に3時間攪拌して反応を終了した。反応混合物を濾過した後、反応混合物を水/イソプロパノール=7/4(体積比)の溶液に投入、沈殿物を濾集し水で充分洗浄した後、真空下で乾燥し、式(6−1)で示され、a=0、b=100、m=0、n=2で、表1で示される化合物からなる目的のアルカリ可溶性樹脂(A−6)を得た。
【0105】
実施例1における最安定構造時の生成熱と再不安定構造時の生成熱の差の計算において、4,4′‐メチレンビス(2−アミノ−3,6‐ジメチルフェノール)の替わりに4,4′−ジアミノジフェニルメタンを描き、式(20)に示すA−B−C−Dで構成される平面と、B−C−D−Eで構成される平面による二面角を−180度から180度の範囲において変化させた。
他は実施例1と同様にして計算し、感光性樹脂組成物を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
最安定構造時の生成熱と再不安定構造時の生成熱の差は、10.3[kcal/mol]であった。
【0106】
【化20】

【0107】
得られた結果を、表1を示す。
【0108】
【表1】

【0109】
表1に示すように、実施例1〜4は高感度、かつ250℃の低温で硬化した場合でも高Tgを示し、耐熱性および信頼性に優れていた。また、幅広い温度領域で硬化しても環化率のバラツキが少なく、低温で硬化した場合でも高環化率であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、ポジ型感光性樹脂組成物として用いた場合に高感度かつ低温で硬化しても耐熱性および信頼性に優れるアルカリ可溶性樹脂を提供することができる。
本発明によれば、高感度、かつ低温で硬化しても耐熱性および信頼性に優れるポジ型感光性樹脂組成物、硬化膜、保護膜、絶縁膜およびそれを用いた半導体装置、表示体装置を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(アミノフェノール)と、ジカルボン酸由来の構造とで構成されるポリベンゾオキサゾール前駆体構造を含むアルカリ可溶性樹脂であって、前記ビス(アミノフェノール)の二つの芳香環を回転させた際に計算化学により算出して得られる最安定構造の生成熱と最不安定構造の生成熱との差が、37〔kcal/mol〕以上であることを特徴とするアルカリ可溶性樹脂。
【請求項2】
前記ビス(アミノフェノール)は、両方のアミノ基の隣接する部位にフェノール性水酸基を有し、かつ該アミノ基の反対側の隣接する部位に置換基を有するものである請求項1記載のアルカリ可溶性樹脂。
【請求項3】
前記ビス(アミノフェノール)が下記式(1)で示されるものである請求項2に記載のアルカリ可溶性樹脂。
【化1】

【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載されるアルカリ可溶性樹脂と、感光剤を含むポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載のアルカリ可溶性樹脂を、基板に塗布し、乾燥した後に得られる膜厚5μmのフィルムの波長365nmにおける光透過率が、30%以上である請求項4に記載のポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記アルカリ可溶性樹脂の250℃での環化率[A]%とし、320℃での環化率[B]%としたとき、[A]/[B]が0.80以上となる請求項4または5に記載のポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項7】
前記アルカリ可溶性樹脂の250℃での環化率が、80%以上である請求項5または請求項6に記載のポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項4ないし7のいずれかに記載のポジ型感光性樹脂組成物の硬化物で構成されていることを特徴とする硬化膜。
【請求項9】
請求項8に記載の硬化膜で構成されていることを特徴とする保護膜。
【請求項10】
請求項8に記載の硬化膜で構成されていることを特徴とする絶縁膜。
【請求項11】
請求項8に記載の硬化膜を有していることを特徴とする半導体装置。
【請求項12】
請求項8に記載の硬化膜を有していることを特徴とする表示体装置。

【公開番号】特開2009−155481(P2009−155481A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335490(P2007−335490)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】