説明

アルコキシアルキルメチル基を有するβ−ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体の有機溶媒溶液

【課題】 本発明の課題は、例えば、化学気相蒸着法による亜鉛含有薄膜の製造材料として有用である、高濃度のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体の有機溶媒溶液を提供することにある。
【解決手段】 本発明の課題は、濃度が0.5mol/l以上であるアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体の有機溶媒溶液によって解決される。によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体の有機溶媒溶液に関する。高濃度の亜鉛錯体有機溶媒溶液は、例えば、化学気相蒸着法による亜鉛含有薄膜の製造材料として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体、電子部品、光学部品等の分野の材料として、金属錯体化合物に関しては、多くの研究、開発がなされている。その中でも、亜鉛化合物は、例えば、透明導電性膜や発光素子等としての使用や研究がなされている。亜鉛原子を含有する薄膜の製法としては、均一な薄膜を製造し易い化学気相蒸着法(以下、CVD法と称する)による成膜が最も盛んに採用されている。
【0003】
ところで、CVD法による亜鉛原子を含有する薄膜製造用原料としては、例えば、β-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体が幅広く使用されつつある。このβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体は、安定性や昇華性に優れており、CVD法における亜鉛源としては有用である。なお、β-ジケトナト配位子の具体例としては、例えば、アセチルアセトナト(acac)や2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト(dpm)が一般的に知られている。
【0004】
前記のβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体のほとんどは、常温では固体であり、高い融点を有することから、CVD法による成膜の際、亜鉛錯体を加熱し、キャリアーガスに金属錯体蒸気を同伴させて蒸着装置内に導入する方法が一般的に採用されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、長時間高温加熱することによって、これらの亜鉛錯体が熱劣化するという問題があった。
【0005】
これに対して、亜鉛錯体を有機溶媒に溶解させて溶液状態とし、液体用マスフローコントローラーを用いて気化器に定量的に供給して気化する方法の採用が提案されている。しかしながら、従来のβ-ジケトナト亜鉛錯体は、有機溶媒への溶解度が極端に低いため(通常、0.2mol/l以下)、有機溶媒溶液を気化器で加熱して気化させる場合、多量の有機溶媒を気化させる必要があるためにエネルギー的に不利であり、又、有機溶媒の大半が先に気化することにより、気化器内で当該亜鉛錯体に由来する固体の析出が起こり、気化器内で目詰まりが起こるという問題があった。そのため、亜鉛含有薄膜製造用材料として、高濃度の亜鉛錯体有機溶媒溶液が求められていた。その中でも、低粘度(20cP以下)の亜鉛錯体有機溶媒溶液の開発が期待されていた。これらの要件を満たすことにより、通常の液体マスルローコントローラー等の定量的液体輸送ポンプによる亜鉛錯体の搬送が可能となると考えられる。更に、亜鉛錯体の有機溶媒溶液と水との接触による白濁化現象(亜鉛化合物類の析出)により、液体マスフローコントローラー内部等での管閉塞の原因となることが問題視されていた。
【特許文献1】特開2000-273636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、例えば、化学気相蒸着法による亜鉛含有薄膜の製造材料として有用である、高濃度のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体の有機溶媒溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、濃度が0.5mol/l以上であるアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体の有機溶媒溶液によって解決される。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、化学気相蒸着法による亜鉛薄膜の製造材料として有用である、高濃度のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体の有機溶媒溶液を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用する有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジn-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコール等のアルコール類;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル類が挙げられるが、好ましくはヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、ジn-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、n-ブチルアルコール、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、更に好ましくはメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、エタノール、炭酸ジメチルが使用される。なお、これらの有機溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0010】
前記有機溶媒は、本発明のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体を溶解する前に、予め、脱水や精製(例えば、蒸留等)しておくことが望ましい。該脱水方法としては、例えば、モレキュラシーブ、水素化カルシウム、塩化カルシウム等の脱水剤で処理する等の方法によって行われる。なお、脱水処理と精製を組み合わせることもできる。
【0011】
本願発明のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体の有機溶媒溶液の粘度は、好ましくは20cP以下である。前記粘度であることによって、気化器への搬送が容易に行われる。
【0012】
本発明のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体としては、一般式(1)
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rは、炭素数2〜4の直鎖状又は分枝状のアルキル基である。)
で示されるものが好適に使用されるが、更に好ましくは、Rが、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基であるが、特に好ましくは、Rが、イソプロピル基のものが使用される。
【0015】
本発明の濃度が0.5mol/lのアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体の有機溶媒溶液を、亜鉛含有薄膜材料として用いることにより、通常の液体マスルローコントローラー等の定量的液体輸送ポンプによる亜鉛錯体の搬送が可能となると考えられる。更に、化学気相蒸着法による亜鉛含有薄膜が容易に製造できると考えられる。又、本発明のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体の有機溶媒溶液は、極めて水に対して安定であり、当該亜鉛錯体の有機溶剤溶液が多量の水に接触しても、その溶液が白濁する現象(結晶が析出する)は観察されていない。
【実施例】
【0016】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例及び比較例で使用した有機溶媒は、全て予め脱水処理を行ったものである。
【0017】
実施例1(ビス(2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオナト)亜鉛錯体のメチルシクロヘキサン溶液の調製)
ビス(2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオナト)亜鉛錯体4.00g(9.81mmol)を、メチルシクロヘキサン1.82g(18.5mmol)に溶解させ、1.7mol/lの当該亜鉛錯体のメチルシクロヘキサン溶液を得た。この溶液の25℃における粘度を測定したところ、12.9cPであった。
【0018】
実施例2〜12(ビス(2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオナト)亜鉛錯体の有機溶媒溶液の調製)
実施例1において、使用する有機溶媒及びその量を変えたこと以外は、実施例1と同様に当該亜鉛錯体の有機溶媒溶液の調製を行い、25℃におけるその粘度を測定した。その結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
比較例1(ビス(ジピバロイルメタナト)亜鉛錯体のメチルシクロヘキサン溶液の調製の試み)
ビス(ジピバロイルメタナト)亜鉛錯体4.00g(9.26mmol)を、メチルシクロヘキサン32.4g(330mmol)に溶解させ、0.2mol/lの当該亜鉛錯体のメチルシクロヘキサン溶液を調整しようとしたが、懸濁状態となり、当該亜鉛錯体はメチルシクロヘキサンに完全に溶解しなかった。
【0021】
比較例2(ビス(ジピバロイルメタナト)亜鉛錯体のトルエン溶液の調製の試み)
ビス(ジピバロイルメタナト)亜鉛錯体4.00g(9.26mmol)を、トルエン36.4g(395mmol)に溶解させ、0.2mol/lの当該亜鉛錯体のトルエン溶液を調整しようとしたが、僅かに懸濁状態となり(目視で判別できる程度)、当該亜鉛錯体はトルエンに完全に溶解しなかった。
【0022】
実施例13(ビス(2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオナト)亜鉛錯体のトルエン溶液の調製と水に対する安定性の確認)
ビス(2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオナト)亜鉛錯体4.00g(9.81mmol)を、トルエン5.50g(59.7mmol)に溶解させ、1.0mol/lの当該亜鉛錯体のトルエン溶液を得た。この溶液の25℃における粘度を測定したところ、1.5cPであった。当該トルエン溶液に、水2g(111mmol)を加えたところ、トルエン層/水層の二層となり、亜鉛化合物の析出と考えられる白濁化は観察されなかった。
【0023】
参考例1(ビス(2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオナト)亜鉛錯体のトルエン溶液の調製と水に対する安定性の確認)
ビス(2-メトキシ-6-メチル-3,5-ヘプタンジオナト)亜鉛錯体4.00g(9.81mmol)を、トルエン38.76g(421mmol)に溶解させ、0.2mol/lの当該亜鉛錯体のメチルシクロヘキサン溶液を得た。この溶液の25℃における粘度を測定したところ、1.0cpであった。当該トルエン溶液に、水10g(556mmol)を加えたところ、トルエン層/水層の二層となり、亜鉛化合物の析出と考えられる白濁化は観察されなかった。
【0024】
以上の結果により、アルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体のみが、高濃度の有機溶媒溶液を調製できることが明らかとなった。又、その粘度は全て20cP以下であり、気化器への定量的な金属錯体の送入が可能な粘度であった。又、それらの有機溶媒溶液は水に対しても極めて安定であり、液体マスフローコントローラー内部等での管閉塞の原因とならないことが容易に推定される。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、高濃度のアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体の有機溶媒溶液に関する。高濃度の亜鉛錯体有機溶媒溶液は、例えば、化学気相蒸着法による亜鉛含有薄膜の製造材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度が0.5mol/l以上であるアルコキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体の有機溶媒溶液。
【請求項2】
亜鉛錯体の有機溶媒溶液の25℃における粘度が20cP以下である請求項1記載の亜鉛錯体の有機溶媒溶液。
【請求項3】
β-ジケトナトを配位子とする亜鉛錯体が、一般式(1)
【化1】

(式中、Rは、炭素数2〜4の直鎖状又は分枝状のアルキル基である。)
である請求項1記載の亜鉛錯体の有機溶媒溶液。
【請求項4】
有機溶媒が脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、アルコール類及び炭酸エステル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒である請求項1〜3記載の亜鉛錯体の有機溶媒溶液。

【公開番号】特開2007−314456(P2007−314456A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145090(P2006−145090)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】