説明

アルスロバクター由来のHsp70

アルスロバクター種由来のhsp70遺伝子を単離し、配列決定を行った。コードされるタンパク質は、特に魚類において高い免疫原性を有し、また、非特異的アジュバント及び異種抗原に対する補助キャリヤーとしての有用性もあると考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリネバクテリウム(Corynebacteria)由来のヒートショックタンパク質(hsp)遺伝子及びコードされるタンパク質に関する。特に、アルスロバクター(Arthrobacter)属由来のhsp70の単離されたDNA配列及びアミノ酸配列、並びに該配列と相同な配列に関する。さらに、本発明は、ワクチンの調製、特に魚類に対するワクチンの調製におけるアルスロバクターhsp70の様々な使用、並びにアジュバントとしての及び抗原のキャリヤーとしてのアルスロバクターhsp70の様々な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内病原体に対する有効なワクチンは、主要組織適合複合体(MHC)クラスII経路を介した液性免疫反応を刺激するだけでなく、MHCクラスI経路の活性化を介した感染細胞の破壊も誘導する(こちらの効果の方がより重要である)。感染細胞中で外来タンパク質の細胞質内分解が起こり、この外来物質の断片が細胞表面に運ばれて、CD8細胞障害性T細胞(CTL)に対して提示されることにより、後者の反応が起こる。MHCクラスI経路が活性化できないことは、精製組み換え抗原を利用したワクチンに共通する欠陥である。
【0003】
ヒートショックタンパク質(「Hsps」)は、原核細胞及び真核細胞で産生される分子シャペロンタンパク質ファミリーであり、特に抗原プロセシングや細胞表面におけるMHC I系に対する抗原断片の提示等、多くの細胞内及び細胞間プロセスにおいて必要不可欠な役割を果たす。あるhspタンパク質と他のペプチドとの融合タンパク質をうまく利用して、インビボにおいて、これらのペプチドに特異的なCTL反応を誘導することに成功している。
【0004】
さらに、hspsは、現在、様々な細菌、真菌、蠕虫、及び原虫疾患に対する抗病原体免疫反応の標的として知られている。様々な病原hsps(基本的にミコバクテリア由来)で哺乳類を免疫することにより、強い免疫反応が誘導され、これらの病原体が原因となる疾患に対する防御能が得られる。病原性hspsに対する哺乳類免疫反応が強いのは、これらのタンパク質上に複数のB細胞及びT細胞エピトープが存在することがその一因であると推測されている。
【0005】
生きている、無毒性のアルスロバクター株(コリネバクテリア科に属する)は、「Renogen」という商品名で、サケ科及びその他養殖魚の細菌性腎臓疾患(BKD)を防御するワクチンとして市販されている。この株の特徴については、WO98/33884で開示されている。このワクチンは、水産養殖で使用するものとしてライセンスを取得した最初の生の培養菌であるという点で類のないものである。
【発明の開示】
【0006】
驚くべきことに、アルスロバクターhsp70が、様々な魚類病原体に対するワクチンにおいて効果的に用いることができるということが今回示された。
【0007】
(発明の要約)
第1の側面において、本発明は、アルスロバクターhsp70遺伝子の配列、その断片の配列、又は関連配列を含む単離された核酸配列を提供する。この遺伝子は、ORF、5’UTR及び3’UTR、さらに、何らかの成分プロモーター、エンハンサー、調節因子、ターミネーター、及び局在化因子を含む。
【0008】
第2の側面において、本発明は、アルスロバクターhsp70タンパク質の配列、その免疫原性断片、又は関連タンパク質を含む単離されたアミノ酸配列を提供する。
【0009】
別の側面において、本発明は、アルスロバクターhsp70タンパク質をコードする核酸配列、又は、アルスロバクターhsp70タンパク質、又は、hsp70を濃縮したアルスロバクター細胞抽出液を含むワクチン組成物を提供する。本ワクチン組成物は、水産養殖における使用など、ヒト又は獣医用の医薬の調製において使用することができる。
【0010】
本発明のさらなる別の側面において、アルスロバクターのhsp70タンパク質全体又はその一部分と異種ポリペプチドとの融合タンパク質をコードする核酸配列を提供する。また、融合タンパク質そのものも提供する。
【0011】
本発明のさらに別の側面において、異種分子と共有結合又は非共有結合により結合しているアルスロバクターのhsp70タンパク質全体又はその一部分を含むポリペプチドを含有する物質を提供する。
【0012】
本発明のさらなる側面において、動物の疾患を治療又は予防することを目的とした、アルスロバクターのhsp70タンパク質又は核酸配列の、ワクチン抗原、アジュバント、又は異種分子のキャリヤーとしての使用を提供する。
【0013】
さらなる側面において、動物で免疫原又はハプテンに対する免疫反応を誘導又は強化する方法を提供するが、この方法には、前記免疫原又はハプテンを含有する異種分子と共有結合または非共有結合で結合された本発明に係るhsp70アミノ酸配列を含有する医薬組成物を該動物に対する投与こと、が含まれる。
【0014】
別の側面において、本発明は、本発明のhsp70核酸配列又はアミノ酸配列を含有する治療組成物を魚類に投与することを含む、魚類の感染性疾患に対する治療的処置又は予防的処置方法を提供する。
【0015】
本発明の別の側面において、異種遺伝子の発現を促進する、アルスロバクターhsp70プロモーターの使用を提供する。
【0016】
本発明のさらなる別の側面において、病原性疾患に対して魚類を免疫化するためのワクチン組成物の製造における、単離されたヒートショックタンパク質またはヒートショックタンパク質をコードする核酸分子の使用、あるいは、単離されたヒートショックタンパク質またはヒートショックタンパク質をコードする核酸分子を含有する組成物を魚類に投与することを含む、前記魚類の病原性疾患を予防又は治療する方法を提供する。前記単離されたヒートショックタンパク質は、アルスロバクターのような細菌由来のhsp70であることが好ましい。
【0017】
(発明の詳細な説明)
本発明の単離されたhsp70遺伝子の新規配列及びそれにコードされる単離又は精製されたタンパク質を図1及び2にそれぞれ示す。本発明は、図1及び2に示された配列と実質的に相同な核酸配列及びアミノ酸配列を包含する。「実質的に相同」とは、ある配列を参照配列と比較した際に、その配列が参照配列に対して最低でも60%の相同性を有し、好ましくは最低でも70%の相同性を有し、さらに好ましくは最低でも80%、85%、90%、95%、98%又はそれを超える相同性を有することを意味する。
【0018】
2個のアミノ酸配列又は2個の核酸配列の相同性%を決定するために、最適な比較条件になるようにしてその2個の配列をアラインすることができる(例えば、第2のアミノ酸又は核酸配列と最適な条件でアラインするために、第1のアミノ酸配列又は核酸配列にギャップを導入し、ギャップ中の非相同配列の介在を無視して比較を行う)。この2個の配列が同じ長さである必要はない。特に指定しない限り、配列比較を行う配列の長さが、アラインメントの全体の範囲である。場合によっては、アラインさせて比較を行う配列の長さは、参照配列の長さの最低でも30%、好ましくは最低でも40%、さらに好ましくは、最低でも50%であるが、最低でも60%であればより好ましく、最低でも70%、80%、又は90%であればさらにより好ましい。例えば、hsp70の場合、参照配列を遺伝子又は蛋白質のアミノ末端側の半分、又は、より具体的にはlobeII構造(Flahertyら、(1990)Nature 346: 623−628、及び、Zhuら、(1996)Science 272:1606−1614)に限定するというように、参照配列の任意の特定部分に限定してホモロジー解析を行うことができる。
【0019】
第1の(参照)配列における位置が、その配列中で相当する位置と同じアミノ酸残基又はヌクレオチドで占められている場合、その分子はその位置で相同である(つまり、その位置において同一性がある)。核酸配列比較の場合、遺伝コードの縮重により、そのヌクレオチドを含有するコドントリプレットが比較される両分子間で同じアミノ酸をコードする場合も、その特定位置においてホモロジーがある。
【0020】
2個の配列間の%ホモロジーは、配列間で共通の相同位置数の関数である(つまり、%ホモロジー=相同位置数/全位置数)。必要に応じて、数学アルゴリズムを用いて配列比較及び%ホモロジーの決定を行うことができる。適切なアルゴリズムは、Altschulら、(1990)J.Mol.Biol.215:430−10のNBLAST及びXBLASTプログラムに導入されている。
【0021】
ストリンジェントな条件下で参照配列番号1とハイブリダイズする配列も、本発明の核酸配列に含まれる。本発明において「ストリンジェントな」ハイブリダイゼーション条件とは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989),1.101−1.104に説明されているとおりであり、すなわち、ポジティブなハイブリダイゼーションシグナルが、1xSSCバッファー及び0.1% SDSにより55℃にて1時間洗浄した後でも観察されるというように定義されるが、62℃であることが好ましく、68℃であれば尚好ましく、特に0.2xSSCバッファー及び0.1% SDSにより55℃にて1時間であるが、62℃であることが好ましく、68℃が最も好ましい。
【0022】
本発明の配列には、参照核酸配列又はアミノ酸配列の断片が含まれる。hsp70核酸参照配列の「断片」とは、最低でも50個、場合によっては最低でも75個、又は最低でも100個の連続したヌクレオチドを備えた前記配列の任意の一部分である。
【0023】
hsp70蛋白質の断片とは、参照hsp70アミノ酸配列の連続したアミノ酸であって最低でも25個、場合によっては最低でも35個、又は最低でも45個のアミノ酸を有する任意のペプチド分子を意味すると理解される。「免疫原性」タンパク質断片とは、病原体の感染性を中和、及び/又は、抗体−補体または抗体依存的細胞毒性を仲介して、免疫された宿主を保護する抗体を誘導することができる断片である。アルスロバクターhsp70の免疫原性断片の一例は、ミコバクテリウム(Mycobacterium)ドメインII断片(Huang Qら、(2000)J.Exp.Med.191(2):403−8)と類似のドメインII断片である。アルスロバクターhsp70のドメインII断片は、配列番号2のアミノ酸162から365の配列、又は最低でも100個の連続したアミノ酸、より好ましくは最低でも150個の連続したアミノ酸、最も好ましくは少なくとも200個の連続したアミノ酸からなる前記配列の部分である。
【0024】
本発明のアミノ酸配列には、図2の配列の誘導体、又はその配列の相同体の誘導体も含まれる。アミノ酸配列の「誘導体」とは、アミノ酸配列レベルで(例えば、ある特定の天然アミノ酸が合成アミノ酸置換物で置換されている相同配列)又は3次元レベルで(すなわち参照アミノ酸配列とほぼ同じ形状及び構造を分子が有する)、参照配列に関連する配列である。従って、誘導体には、突然変異体、模倣体、ミモトープ、類似体、単量体及び機能的均等物が含まれる。アミノ酸配列誘導体は、R.サルモニナルム(R.salmoninarum)及びピシリケッチア・サルモニス(Piscirickettsia salmonis)等の魚類病原体由来の抗原を認識し(交差)反応する抗体の産生を誘導する能力、及び/又は、魚類においてこれらの病原体の感染を防ぐ免疫反応を誘導する能力を保持する。
【0025】
本発明のhsp70核酸配列には、hsp70遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)だけでなく、5’及び3’非翻訳領域(UTR)が組み込まれている。本発明には、いずれかの成分プロモーター、エンハンサー、調節因子、ターミネーター及び局在因子、並びに異種遺伝子と結合させたこれらの因子の使用が含まれる。特に、本発明は、異種遺伝子の発現を促進するために異種遺伝子に連結されたアルスロバクターhsp70(配列番号1に示されている。)のプロモーター配列、又は、実質的に相同な配列を含有するDNA発現ベクターに及ぶ。
【0026】
本明細書に添付されているアルスロバクターhsp70の配列表(配列番号1)は、アルスロバクター中に存在することがゲノムクローニングにより同定された遺伝子の配列であり、配列番号2は、その遺伝子配列から推定されるアミノ酸配列である。元のアルスロバクター株の培養物は、受託番号 ATCC 55921として、American Type Culture Collection(10801 University Boulevard,Manassas,VA 20110−2209)に、1996年12月20日に寄託されたものである。
【0027】
同属の種のhspタンパク質は通常、非常によく保存されているので、他のアルスロバクター種に固有のhsp70遺伝子とタンパク質の配列は、それぞれ配列番号1及び配列ID番号2とあまり大きな差がないと考えられる。従って、本発明は、これらの近縁hsp70分子にも及ぶ。あるコリネバクテリア種由来のhsp70遺伝子の配列が明らかになれば、近縁生物由来の同一遺伝子を単離するのが容易になる。これらの遺伝子の単離方法は当業者にとって周知である。
【0028】
「単離された」hsp70遺伝子又は核酸配列とは、アルスロバクターゲノム内に存在するという本来の状態にない遺伝子又は配列を意味すると理解される。hsp70を発現する細胞物質から調製したcDNAライブラリからhsp70をコードするDNAを得ることができる(hspはユビキタスであり、大量に発現される)。hsp70をコードする遺伝子は、実施例1で説明する以下の工程などによってゲノムライブラリから取得することもできるし、オリゴヌクレオチド合成によって取得することもできる。
【0029】
標準的なタンパク質精製技術を用いた適切な精製スキームにより、細菌細胞ソースから、天然hsp70タンパク質を単離することができる。例えば、アルスロバクターATCC 55921 hsp70抗原に対する抗体を用いてウェスタンブロッティング又は免疫沈降を行うことにより、蛋白質の同一性を確認することができる。精製蛋白質のN末端アミノ酸配列決定を用いて、部分的なアミノ酸配列又は完全なアミノ酸配列を決定することができる。これにより、プローブをデザインしてcDNA又はゲノムライブラリから天然hsp70が簡単に単離できるようになる。
【0030】
目的の遺伝子又はこの遺伝子がコードするタンパク質を同定するように設計されたプローブ(hsp70に対する抗体、又は、最低でも約20−80塩基のオリゴヌクレオチド等)でライブラリをスクリーニングすることができる。例えば、本明細書に開示されているアルスロバクター遺伝子配列の一部と相同性を有するようにプローブを設計することができる。あるいは、プローブが、例えばビブリオ(Vivrio)hsp70遺伝子配列等、他の細菌由来のhsp遺伝子と高い相同性を持っている可能性がある。Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)で説明されているような標準的な手法を使用して、選択したプローブによりcDNA又はゲノムライブラリをスクリーニングしてもよい。hsp70をコードする遺伝子の他の単離方法としては、PCR法を用いるものがある[Sambrook et al., すpら;Dieffenbach et al, PCR Primer:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1995)]。
【0031】
このようなライブラリスクリーニング法で同定された配列を、配列番号1に開示されたhsp70、又は、GenBank等の公開データベースに寄託されており、データベースから利用可能な他の既知のhsp配列と比較しアラインすることができる。ホモロジーを測定するために様々なアルゴリズムを利用するBLAST、BLAST−2、ALIGN、DNAstar、及びINHERIT等のコンピュータソフトウェアプログラムを用いた配列アラインメントにより、その分子の所定の領域内又は全長配列にわたる配列の同一性を(アミノ酸又はヌクレオチドレベルのいずれかで)調べることができる。
【0032】
アルスロバクターhsp70タンパク質が、他種、特に細菌種の相同体と類似性を有すると思われる。近縁種間でhsp遺伝子が良く保存されていることが知られている。しかし、アルスロバクターhsp70が、ミコバクテリウム・ツバキュロシス(Mycobacterium tuberculosis)及びミコバクテリウム・レプラエ(Mycobacterium leprae)由来のhsp70と、N末端領域がほぼ同じ(最初の20アミノ酸は実際に同じである)であることを発見したことは驚くべきことである。
【0033】
実施例2で説明する実験において、細胞壁ペプチドグリカンに結合すると思われる、分子量がおよそ67kDaの、豊富に存在するアルスロバクター表面タンパク質に対して、N末端アミノ酸の配列決定による分析を行った。20残基のN末端アミノ酸配列がミコバクテリウムhsp70の当該部分の配列と同一であることが分かったが、この67kDaタンパク質は本発明のhsp70タンパク質に相当するものであると考えられる。ある側面において、本発明は、SDS−PAGEによる測定でおよそ67kDaを示す単離されたヒートショックタンパク質であって、アルスロバクター細胞の細胞壁に局在し且つN末端アミノ酸配列が(M)SRAVGIDLGTTNSVVSVLEである単離されたヒートショックタンパク質を提供する。
【0034】
本発明者らの実験の結果、魚類におけるアルスロバクターhsp70の免疫原性が、哺乳類におけるミコバクテリウムhsp70と同程度であることが示される。あとになって考えると、魚類のワクチン接種に使用した場合にRenogen(TM)のアルスロバクター生ワクチンによって付与される疾患予防能の一部は、アルスロバクターhsp70によるものであると考える。
【0035】
実際に、本願は、あらゆる起源の単離又は精製されたヒートショックタンパク質が魚類に対するワクチンとして有効であることを示す最初の証拠を提供する。魚類の免疫系は他種、特に哺乳類の免疫系と同じようなものではなく、また、あまり知られていない。従って、ヒートショックタンパク質が、魚類において強力な免疫反応を誘導しうるということは驚くべきことである。ある側面において、本発明は、魚類への投与を目的としたワクチン組成物の調製における単離又は精製されたヒートショック蛋白質の使用に関する。ワクチン組成物に対するアジュバントとして、又は、ワクチン組成物中の異種分子のためのキャリヤーとして本ヒートショックタンパク質を使用するのが好ましい。本ヒートショックタンパク質は、hsp70ファミリーに属することが好ましいが、これに代えて、hsp60、hsp90、hsp100又はいずれかの小分子ヒートショックタンパク質(sHSP)等の、他のあらゆるクラスの既知のヒートショックタンパク質であってもよい。本ヒートショックタンパク質は、原核生物又は真核生物のあらゆる種に由来するものであってよいが、アルスロバクター等の細菌種由来であることが好ましい。
【0036】
アルスロバクター及びミコバクテリウムのhsp70遺伝子が高い相同性を有することが明らかになったことから、予想しなかった多くのアルスロバクター相同体の適用の可能性が出てきた。単離されたミコバクテリウムhsp70タンパク質は、効果的なワクチンアジュバントとして働くことが明らかになった。アルスロバクターhsp70も、精製又は単離された状態で、抗原と併用して、アジュバントとして使用することができる。本明細書中で定義される「アジュバント」とは、抗原とともに投与した際に又は同じ部位に別個に投与した際に、抗原に対する特異的免疫反応を非特異的に増強する物質である。本発明のある側面において、動物ワクチン、特に魚類用ワクチンに対するアジュバントとして、単離又は精製されたアルスロバクターhsp70タンパク質を使用する。関連する用途では、前記hsp70遺伝子又はその一部をDNAベクター上に与えて、核酸ワクチンを賦活する。少なくとも1個の他の抗原又は抗原をコードする核酸配列及び1個又は複個の医薬的に許容される賦形剤とともに、本発明のhsp70アミノ酸又は核酸配列を含むワクチン組成物も提供されるが、かかるワクチン組成物も本発明の範囲に属する。前記他の抗原は、組み換え又は単離された単一の抗原であってもよく、病原体由来の抗原分子の混合物であってもよい。
【0037】
従来、医師及び獣医が使用してきた弱毒化ミコバクテリウムの生アジュバントには、細菌株の毒性復帰が起こる危険性があるという点で動物の健康に対するリスクが存在しているが、アジュバントとしてアルスロバクターhsp70を使用することにより、このようなアジュバントを使用する必要がなくなる。アルスロバクターhsp70核酸又は単離されたタンパク質の魚類への注射を水産養殖で用いることにより、従来型のアジュバントで共通して見られるような注射部位の腫れ又は小結節が生じないので外観を損なわず、魚の商品価値を下げないというさらなる利点が得られる。
【0038】
アルスロバクターhsp70タンパク質は、他の抗原を含有するワクチンを補強する効果を有するというだけでなく、それ自体で免疫原性活性も有する。アルスロバクターhsp70は、魚類病原体により起こる疾患、特にBKD及びSRS(salmonid rickettsial septicaemia、サケ科のリケッチア敗血症)などの(これらに限定されない)様々なヒト及び動物の疾患を予防又は治療する、ワクチンに対する活性成分を提供しうる。本発明のさらなる側面では、ワクチン組成物には、1個又は複数の医薬的に許容される賦形剤とともに、単離又は精製されたhsp70タンパク質が唯一の抗原性又は免疫原性成分として含有される。
【0039】
1個又は複数の医薬的に許容される賦形剤とともに、ワクチン組成物の唯一の抗原性又は免疫原性成分となる抗原をコードする本発明のhsp70核酸配列を含有する発現ベクターを含んだ核酸ワクチン組成物も提供される。
【0040】
ミコバクテリウム及び他のhsp70との相同性からアルスロバクターhsp70の免疫原性が高いと推定されるので、hsp70タンパク質と異種(hsp70)分子(通常は、非hsp70タンパク質(例えば、ハプテン)であるが、これに限定されるものではない)との遺伝子又はペプチド共有結合コンジュゲート(例えば、キメラ又は融合物)を調製できる可能性も示唆される。このように、アルスロバクターhsp70タンパク質は、アジュバントが必要ないキャリヤーとして作用し、付随する異種分子に対する液性及び細胞性免疫反応を刺激する。本明細書中で使用されているように、「キャリヤー」なる語は、第2の分子と共有結合している場合に、該第2の分子(タンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチド、オリゴ糖であり得る)に対する免疫反応の誘導を補助し促進するT細胞エピトープを含有する分子を意味する。
【0041】
ワクチン開発に対するこの手法は、対象となる抗原性ペプチドがあまり大きくなく、免疫原性が乏しいが、ワクチン用の標的として適切であると思われる場合に特に有利である。アルスロバクターhsp70により運ばれる異種分子は、タンパク質ハプテン又は、炭水化物部分等の非タンパク質分子とするのが有利である。
【0042】
本明細書中で使用されるhsp70「融合タンパク質」という用語には、異なるポリペプチド(「異種ポリペプチド」)に作動可能に連結させたhsp70ポリペプチドが含まれる。「異種ポリペプチド」又は「非hsp70ポリペプチド」とは、実質的にhsp70タンパク質と相同ではないタンパク質に対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。hsp70融合タンパク質中で、hsp70ポリペプチドは、hsp70タンパク質全体又はその一部(ドメインII部分等)に相当するものでよい。融合タンパク質中で、「作動可能に結合させる」とは、hsp70ポリペプチド及び非hsp70ポリペプチドが互いにイン・フレームで融合していることを示す。hsp70ポリペプチドのN末端又はC末端に、非hsp70ポリペプチドを融合させるか、又はhsp70ポリペプチド中に埋め込むことができる。
【0043】
融合タンパク質を作製すること以外に、共有結合または非共有結合によって、hsp70ポリペプチドと異種分子とを連結させることが可能である。「異種分子」とは、hsp70タンパク質以外のあらゆるタンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチド又はオリゴ糖類分子である。例としては、例えば一般式、hsp70−X−異種ポリペプチド(ここで、Xは、1個又は複数個のアミノ酸の短い配列等のスペーサー基である)の分子を作製するために、ポリペプチド間に、化学的スペーサー基を挿入してもよい。あるいは、アミノ酸の直鎖におけるアミド結合以外に、例えば、化学的連結(chemical conjugation)又は化学的、光学的(例えばUV)、又は放射線誘導性の架橋(重合)により、非hsp分子にhsp70ポリペプチドを共有結合で結合させてもよい。グルタールアルデヒド及びメルカプト結合リンカーは、適切な化学架橋剤の例である。具体的に可能であるのは、キットとして市販されている、EDC+NHS又はスルホ−NHS、スルホ−SMCC、スルホ−SBED、及びSAEDである。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、hsp70ポリペプチドを、ハプテンと共役させる。ハプテンとは、抗体を結合しうるが、大きなキャリヤー分子に共有結合している場合のみ免疫反応を誘導する低分子(例えば、ペプチド又はオリゴ糖)の物質である。
【0045】
インビトロにおいて細胞溶解液、画分、抽出液、ウイルス粒子等と複合体を形成させることにより、hsp70を、抗原性細胞又は粒子に由来する全タンパク質集団と結合させることが可能である。
【0046】
異種分子又はポリペプチドをあらゆるソースから得ることができるが、病原性生物の成分である可能性が最も高い。特に、それらは動物、特に水生動物のウイルス、細菌、原生動物、蠕虫、又は真菌性病原体由来のポリペプチドでありうる。
【0047】
大量の精製又は単離された組み換えhsp70タンパク質(又はhsp70融合タンパク質)を得るための発現ベクターにhsp70遺伝子をクローニングすることにより、単離されたhsp70遺伝子を通常の方法で有効に使用できる。組み換え操作を用いない手法でも、精製されたhsp70抗原を得ることができる。本タンパク質は豊富に存在するので、従来の精製法によりアルスロバクター細胞から抽出することが可能である。あるいは、標準的なペプチド合成技術を用いてhsp70タンパク質又はポリペプチドを化学的に合成することができる。この精製又は単離された組み換え又は非組み換えタンパク質を含むワクチンは、抗原を基にしたワクチン(antigen−based vaccine)と称することがある。
【0048】
「単離された」又は「精製された」タンパク質とは、hsp70タンパク質を取得した細胞又は組織由来の細胞性物質または他の不純なタンパク質が実質的に含有されない状態、又は、化学的に合成を行った場合は、化学的前駆体あるいは他の化学物質が実質的に含有されない状態と定義される。「細胞性物質を実質的に含有しない」という語には、単離又は組み換えによってhsp70タンパク質を与えた細胞の細胞性成分からhsp70蛋白質を分離してhsp70タンパク質を調製することが含まれる。ある実施形態において、「細胞性物質を実質的に含有しない」という語には、非hsp70タンパク質(本明細書中では、「不純なタンパク質」とも言う)の含有率が約30%未満(乾燥重量)、さらに好ましくは非hsp70タンパク質約20%未満、さらに好ましくは非hsp70タンパク質の約10%未満、最も好ましくは非hsp70タンパク質の約5%未満であるhsp70タンパク質の調製物が含まれる。hsp70タンパク質又は生物学的に活性を有するその一部を組み換えにより作製する場合、培地が実質的に含有されていないことも好ましい。すなわち、タンパク質調製物の体積に対する培地含有率が約20%未満であること、さらに好ましくは約10%未満、最も好ましくは約5%未満ということである。
【0049】
単離又は精製されたhsp70の代わりにhsp70を「濃縮された」アルスロバクター細胞抽出液を使用しても、本発明を実施できる。アルスロバクター細胞全体を不活性化又は死滅させ、その細胞を溶解して得られた細胞溶解液を慣用法で分画して、他の画分よりもhsp70タンパク質を多く含有する画分を見つける(例えばウェスタンブロッティングなど)ことにより、「濃縮された」細胞抽出液を得ることができる。ヒートショックタンパク質の発現を増大させる条件下(つまり、熱又は他のストレスが細胞にかかっている状態)でアルスロバクター細胞を培養し、不活性化又は殺菌させ、細胞を溶解することによっても、hsp70が濃縮された細胞抽出液を調製することができる。場合によっては、得られた細胞抽出液(溶解液)を分画化し、hsp70含有量が多い画分を見つける。
【0050】
本発明のhsp70キメラ又は融合タンパク質は標準的な組み換えDNA技術によって産生することが好ましい。例を挙げると、従来の方法、例えば、連結を行うために末端を平滑末端又は粘着末端にし、末端が適切な形になるように制限酵素消化を行い、適宜粘着末端を埋め、望ましくない結合が起こらないようにアルカリホスファターゼで処理し、酵素を用いて連結を行うことにより、様々なポリペプチド配列をコードするDNA断片をイン・フレームになるようにして連結を行う。別の実施形態において、DNA自動合成装置を含む従来の技術により融合遺伝子を合成することができる。あるいは、続いてアニーリングさせて再増幅を行い、キメラ遺伝子配列を生成することができる2個の連続した遺伝子断片の間に相補的な突出部を生じさせるアンカープライマーを用いて遺伝子断片のPCR増幅を行うことができる(例えば、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al. John Wiley&Sons:1992)。
【0051】
本発明の別の側面は、hsp70(又はその一部)をコードする核酸配列を含むベクター、好ましくは発現ベクターに関する。本明細書で使用する「ベクター」なる語は、連結されている他の核酸を運ぶことができる核酸分子を意味する。あるベクターは、「プラスミド」タイプであるが、「プラスミド」とは、さらなるDNAセグメントをその中に連結することができる環状二重鎖DNAループを意味する。別のタイプのベクターとしては、ウイルスベクターがあるが、これは、他のDNAセグメントをウイルスゲノム中に連結できるものである。ある種のベクターは、作動可能なように結合させた遺伝子の発現を誘導することが可能である。このようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と言う。一般的に、組み換えDNA技術において発現ベクターを利用する場合、プラスミドの形で利用することが多い。しかし、本発明では、ウイルスベクター(例えば、複製欠損のレトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)など、均等な機能を有する他の形態の発現ベクターも含まれるものとする。
【0052】
本発明の組み換え発現ベクターには、宿主細胞における核酸発現に適した形態の本発明核酸が含まれるが、これは、発現させるべき核酸配列と作動可能に連結された1個又は複数の調節配列が本組み換え発現ベクターに含有されるということを意味する。ここで上記調節配列は、発現に使用する宿主細胞に依存して選択される。hsp70抗原の対象レシピエント中での発現用(DNAワクチンとして)、又は、最終的なレシピエント以外の宿主生物中での発現用(組み換え抗原ワクチン産生用)に本発明の発現ベクターを使用し得る。
【0053】
発現ベクター中で、「作動可能に結合された」とは、目的のヌクレオチド配列と調節配列とが、(例えば、インビトロ転写/翻訳系において、又は宿主細胞にベクターが導入された場合にはその宿主細胞において)前記ヌクレオチド配列が発現できるように連結されていることを意味する。「調節配列」なる語は、プロモーター、エンハンサー及び他の発現調節因子(例えばポリアデニル化シグナル)を含むものとする。このような調節配列については、例えば、Goeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)に記載されている。調節配列には、多くの種類の宿主細胞においてヌクレオチド配列の構成的発現を誘導する配列及びある種の宿主細胞中でのみヌクレオチド配列の発現を誘導する配列(例えば、組織特異的調節配列)が含まれる。発現ベクターの設計が、形質転換すべき宿主細胞の選択、所望される蛋白質の発現レベル等のような要因に依存しうるということは、当業者に自明であろう。本発明の発現ベクターを宿主細胞に導入し、それにより、本明細書中に記載されているような核酸にコードされる、融合タンパク質又はペプチドを含むタンパク質又はペプチド(例えば、hsp70タンパク質、hsp70の突然変異型、hsp70と異種ペプチドとの融合タンパク質など)を産生させることができる。
【0054】
本発明の別の側面は、形質転換により本発明の組み換え発現ベクターが導入された宿主細胞に関する。宿主細胞は、いずれかの原核細胞又は真核細胞(多細胞真核生物の真核細胞を含む)とすることができる。例えば、E.コリ等の細菌細胞、昆虫細胞(baculovirus(バキュロウイルス)発現ベクターを用いて)、酵母細胞又は哺乳類細胞の中でhspタンパク質を発現させることができる。他の適切な宿主細胞が当業者にとって公知である(例えば、Goeddel、上記)。前記組み換え発現ベクターは、宿主魚類細胞中で発現させるようにデザインしてもよい(DNAワクチン接種後)。あるいは、例えばT7プロモーター調節配列及びT7ポリメラーゼを用いて、前記組み換え発現ベクターを、インビトロで、転写、翻訳させることも可能である。
【0055】
原核細胞におけるタンパク質の発現は、融合タンパク質又は非融合タンパク質のいずれかの発現を支配する構成的又は誘導可能なプロモーターを含有するベクターを用いてE.コリで行われることが最も多い。融合ベクターは、その中にコードされるタンパク質、通常は組み換えタンパク質のアミノ末端に、多くのアミノ酸を付加する。融合発現ベクターにおいては、融合部分と組み換えタンパク質との連結部にタンパク質分解性の切断部位を導入して、融合タンパク質を精製した後にその組み換えタンパク質を融合部分から切り離すことができるようにすることが多い。このような酵素、及びその同族の(cognate)認識配列には、Xa因子、トロンビン及びエンテロキナーゼが含まれる。典型的な融合発現ベクターには、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質、又はタンパク質Aが標的組み換えタンパク質と融合している、それぞれ、pGEX(Pharmacia Biotech Inc;Smith,D.B.及びJohnson,K.S.(1988)Gene 67:31−40)、pMAL(New England Biolabs,Beverly,Mass.)及びpRIT5(Pharmacia,Piscataway,N.J.)が含まれる。
【0056】
核酸ワクチン(NAV)を生きた動物の宿主細胞に取り込ませ、hsp70遺伝子の発現を細胞質中で行うように、hsp70遺伝子をNAVに組み込むことができる。細胞内hsp70抗原の短いペプチドが細胞表面に運ばれ、MHC I系と接触できるようになるため、NAV由来hsp70抗原が細胞性免疫反応を誘導するのに理想的な位置に存在するようになる。
【0057】
魚類細胞中で、インビボにおいて発現させるために、DNAベクターに挿入されたhsp70遺伝子を魚類に直接接種(例えば、経口、筋肉内又腹腔内投与)することができる。他種の動物にも、DNAワクチン接種を行うことができる。つまり、本発明のある側面において、医薬的に許容されるキャリヤー及び、アルスロバクターhsp70をコードする核酸配列が転写調節配列に作動可能に結合しているDNAプラスミドを含有する核酸ワクチンを提供する。転写調節配列には、プロモーター、ポリアデニル化配列及び、非メチル化CpGジヌクレオチドを有する免疫刺激性オリゴヌクレオチド、又は他の抗原性タンパク質又は促進作用のあるサイトカインをコードするヌクレオチド配列等の他のヌクレオチド配列が含まれる。真核生物又はウイルスの転写調節配列が存在することにより、魚類細胞中でhsp70遺伝子が発現できるようになる。ワクチン組成物を調製するために、細菌細胞中でDNAプラスミド自身を複製させることができるが、この場合、通常、原核細胞中ではhsp70遺伝子発現を可能にする転写調節配列が欠如している。インビボ発現を最適化するためには、ワクチン接種を行う魚類に内在する転写調節配列を選択することが好ましいであろう。例えば、内在性サイトカイン又はアクチン遺伝子プロモーターが考えられる。前記DNAは裸の状態にしておくか、又は、細胞取り込みを促進する因子とともに投与することができる(例えば、リポソーム又はカチオン性脂質)。この魚類へのDNAワクチン接種技術については、本明細書中に参照により組み入れる米国特許第5,780,448号で詳述されている。
【0058】
本発明は、ある分子に連結されたhsp70タンパク質のコンジュゲートを使用して、該分子に対するモノクローナル又はポリクローナル抗体を作製する方法にも関する。この実施形態では、有効量(つまり、前記動物宿主に免疫反応を引き起こす量)の前記コンジュゲートを動物宿主に導入して、前記物質に対する抗体を前記宿主に産生させる。前記宿主から産生された抗体を取り出し、既知の技術(例えばクロマトグラフィー)を用いて精製し、ポリクローナル抗体を得る。あるいは、本発明の方法を用いて産生された抗体を使用して、既知の技術によりモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を作製することができる。
【0059】
本発明のある実施形態では、アルスロバクターhsp70遺伝子のプロモーター配列を使用して異種遺伝子(つまり、アルスロバクターhsp70をコードする遺伝子以外の遺伝子)の発現を誘導する。このプロモーターは、生物の染色体DNA中の異種遺伝子の上流、又は染色体外プラスミド又は他の発現ベクターに挿入することができる。例えば、内在するアルスロバクター遺伝子を過剰発現させるか、又はアルスロバクターの内在プラスミドに外来遺伝子を挿入したい場合、上流hsp70プロモーターにより、ヒートショック等の刺激に反応して異種遺伝子の発現を引き起こすようにすることができる。
【0060】
本発明の方法により製造したワクチンは、液性及び/又は細胞性免疫系を有するあらゆる種の動物に対する投与に適している。本発明において、「動物」及び「哺乳類」の意味の中には、ヒトが含まれる。
【0061】
哺乳類、鳥類、爬虫類又は魚類(魚類又は貝・甲殻類)に対する、あらゆるワクチンの補強にもアルスロバクターhsp70を利用することができる。同様に、ワクチンにおいて、共有結合している抗原のキャリヤーとして、アルスロバクターhsp70を使用することができるが、必要に応じて従来のアジュバントを除外して使用してもよい(いわゆる、「非アジュバント」ワクチン)。アルスロバクターhsp70は、特異的な疾患、特にBKD及びSalmonid Rickettsial Septicaemia(SRS、サケ科のリケッチア敗血症)等の魚類の感染症に対する免疫反応を誘発するためのワクチンにおいて、免疫原(必要に応じて、唯一の免疫原として)として使用することも可能である。
【0062】
「ワクチン」なる語は広い範囲で使用されるが、病原体に対する免疫に使用する組成物だけでなく、抗腫瘍ワクチン、自己抗原を基にしたワクチン(例えば化学的去勢用)等も含む。獣医科のワクチン接種の分野では、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、及び家禽類といった主要な種の陸生家畜など、ヒト以外のあらゆる動物にワクチン接種することができる。水産養殖の場合には、貝類・甲殻又は魚類において、特に、サケ、マス、コイ、タイ、スズキ、ハマチ、ナマズ、オヒョウ、コダラ等の硬骨類の治療用、又は、場合によっては、甲殻類(例えば小エビ、クルマエビ、ロブスター、カニ)、及び軟体動物(例えば、カキ、イガイ)等の他の水生生物種の治療用に本発明のワクチンを使用することができる。ワクチン中でアルスロバクターhsp70配列と結合させるのに適した候補抗原に制限はない。病原性抗原は、細菌、ウイルス、原生動物、蠕虫類及び真菌由来のものでありうる。ある具体的な標的は、魚類病原性生物の抗原、特に表面抗原である。
【0063】
ワクチン組成物中において、貝・甲殻類又は魚類が罹患する疾患由来の細菌、原生動物、ウイルス又は真菌由来抗原とともに、又はコンジュゲート形成させて、hsp70アミノ酸又は核酸配列を使用することができる。上記抗原には、感染性サケ貧血ウイルス(ISAV、Infectious Salmon Anaemia Virus)、感染性膵臓壊死ウイルス(IPNV、Infectious Pancreatic Necrosis Virus)、伝染性造血器壊死症ウイルス(IHNV、Infectious Hematopoietic Necrosis Virus)、イリドウイルス(Iridovirus)、神経壊死症原因ウイルス(NNV、Nervous Necrosis Virus)、サケ膵臓疾患ウイルス(SPDV、Salmon Pancreas Disease Virus)、SVCウイルス(SVCV、Spring Viremia of Carp Virus)、ウイルス性出血性敗血症ウイルス(VHSV、Viral Hemorrhagic Septicemia Virus)、黄頭ウイルス(YHV、Yellow−head virus)、タウラ症候群ウイルス(TSV、Taura Syndrome Virus)、ホワイトスポットシンドロームウイルス(WSSV、White Spot Syndrome Virus)、レニバクテリウム・サルモニアルム(Renibacterium salmoninarum(細菌性腎疾患の原因物質))、ピシリケッチア・サルモニス(Piscirickettsia salmonis(Salmonid Rickettsial Septicemiaの原因物質))、ビブリオ(Vibrio)spp、アエロモナス(Aeromonas)spp、エルシニア・ルッケリー(Yersinia Ruckerii)、シュードモナス(Pseudomonas)spp、フォトバクテリウム・ダムセラ(Photobacterium damselae)等由来の抗原(又はコード配列)が含まれる。上記及び他の病原性生物由来の多数のポリペプチドの精製及び/又はクローニングと発現が行われ、さらにその数は増えているが、これらは、ワクチン組成物中でアルスロバクターhsp70又はそのコード配列とコンジュゲート形成させて利用できるか、又は、アルスロバクターhsp70又はそのコード配列とともに提供される。好ましい例には、IPNVタンパク質であるVP1、VP2、VP3及びNS、並びにそのコードヌクレオチド配列;ヘマグルチニン、ヌクレオキャプシド、ポリメラーゼ及びセグメント7 P4及びP5タンパク質を含むWO 01/10469で開示されているISAVタンパク質及びそのコードヌクレオチド配列;OspA及びlcmEなどWO 01/68865で開示されているP.サルモニスタンパク質とそのコードヌクレオチド配列;ヌクレオキャプシド等のノダウイルス(nodavirus)タンパク質;及び、SPDV由来の構造ポリペプチド及びそのコードヌクレオチド配列(WO 99/58639で開示)が含まれる。本発明の好ましいワクチン組成物には、イン・フレームでIPNV VP2配列又はIPNV VP3配列と融合しているhsp70ヌクレオチド配列を担持するDNA発現ベクターが含有される。必要に応じて、前記ワクチンは、hsp70−VP2融合物を担持する第1のプラスミドとhsp70−VP3融合物を担持する第2のプラスミドとを含む。
【0064】
ウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV、Bovine Viral Diarrhea Virus)、ウシヘルペスウイルス(BHV、Bovine Herpesvirus)、口蹄疫ウイルス(Foot and mouth disease virus)ウシRSウイルス(BRSV、Bovine Respiratory Syncytial Virus)、パラインフルエンザ3型ウイルス(Parainfluenza type 3 virus(PI3))、ウシ伝染性鼻気管炎(IBR、Infectious Bovine Rhinotracheitis)、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV、Porcine Respiratory and Reproductive Syndrome Virus)、ミコバクテリア(Mycobacteria)、レイシュマニア(Leishmania)、エールリヒア(Ehrlichia)、アイメリア(Eimeria)、クロストリジウム(Clostridia)、パスツレラ(Pasteurella)、マイコプラズマ(Mycoplasma)(例えば、M、ボビス(M.bovis)、M、ヒオニューモニア(M.hyopneumoniae))、レプトスピラ(Leptospira)、ブラキスピラ(Brachyspira)、サルモネラ(Salmonella)、ブルセラ(Brucella)、ネオスポラ(Neospora)、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)、フソバクテリウム(Fusobacterium)、E.コリ(E.coli)、ロタウイルス(Rotavirus)、コロナウイルス(Coronavirus)、マンヘミア・ヘモリティカ(Mannheimia haemolytica)、ヘモフィラス・ソムナス(Haemophilus somnus)、アクチノバシラス・プルロニューモニア(Actinobacillus pleuropneumoniae)、トリパノソーマ(Trypanosoma)、アナプラズマ(Anaplasma)、トレポネーマ(Treponema)等を含む他の動物病原体及び寄生生物由来の抗原(又はそのコード配列)と併用して又はコンジュゲート形成させて、hsp70配列を使用することも可能である。
【0065】
前記抗原を与える病原因子による感染によって引き起こされる疾病を治療又は予防するための医薬組成物の製造において、上記抗原の何れか又はそれらのコード配列とともに、hsp70配列を使用することも、本発明に包含される。
【0066】
前記ワクチン抗原をhsp70遺伝子又はタンパク質とともに与える場合には、化学的にhsp70とコンジュゲート形成させてもよいし(キメラ又は融合タンパク質)、又は、単一のワクチン組成物の中に、別々の分子として一緒に提供してもよい。別の方法としては、個別投与、連続投与、又は同時投与キット中に、抗原又は抗原をコードする核酸配列とともにhsp70遺伝子又はタンパク質を与えてもよい。hsp70遺伝子又はタンパク質とともに与えられるワクチン抗原は、細菌ワクチン、細胞抽出物、組み換えタンパク質、プラスミドによって運ばれる遺伝子、又は生/弱毒化病原株とすることができる。
【0067】
中性の又は塩の形態の本融合タンパク質又は単離されたhsp70タンパク質を用いて、単独投与により又は医薬的に許容されるビヒクル若しくは賦形剤との混合投与により、対象生物を免疫することが可能である。通常は、溶液又は懸濁液としてワクチンを調製するが、投与前に液体ビヒクルにより溶液又は懸濁液として調製するのに適した固形物としてワクチンを調製してもよい。該調製物を乳化してもよいし、又はリポソームビヒクル中に活性成分をカプセル封入してもよい。本発明の医薬組成物は、即時放出の形態又は徐放型の形態で投与することができる。
【0068】
医薬的に許容されるビヒクルとは、例えば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロールや、湿潤剤又は乳化剤、膨張剤、結合剤、錠剤分解物質、希釈剤、潤滑剤、pH緩衝剤等の補助剤、又はムラミールジペプチド、アブリジン(avridine)、水酸化アルミニウム、油、サポニン類、ブロックコポリマーや当業者にとって公知の他の物質等の従来のアジュバントである。
【0069】
対象を免疫するために、hsp70抗原又はhsp70遺伝子ベクターは、適切なビヒクル中に加えて筋肉内注射により非経口投与するのが通常であるが、必要に応じて、皮下経路、静脈内注射、又は皮内注射、経鼻投与により、非経口的に投与することも可能である。魚類に免疫する場合、通常の投与経路は腹腔内注射、餌に混合して行う経口的投与、又は薬浴による投与である。本発明の好ましい抗原性ワクチン組成物は、注射又は薬浴投与に適した形態である。DNAワクチン接種は通常、筋肉内注射により行う。
【0070】
有効量は、対象の大きさおよび種、さらに投与形態により様々であってよい。医師又は獣医師が試行を繰り返して最適用量を決定することができる。通常は、hsp70抗原の1回量は、約0.01−1000μg/kg体重の範囲にあるものと思われるが、0.5−500μg/kg体重であることが好ましく、0.1−100μg/kg体重であればさらに好ましい。DNAワクチンの場合、インビボにおいて抗原を適切に発現させるためには、動物1匹あたり最小10pgの用量から最大1000μgの用量までのプラスミドで十分であると考えられる。
【0071】
本発明の一部として開示されている新規抗原は、病原性タンパク質に対する抗体のスクリーニングにも有用である。本発明には、例えば、病原生物の有無について動物を調べる際に有用な診断キットの調製などにおいて、これらの抗原を診断に使用することがさらに含まれる。
【0072】
本明細書中で開示されている精製hsp70抗原及び/又はhsp70融合タンパク質に対して生じた抗体も、本発明の範囲に属する。このような抗体は、疾病管理及び魚類の健康維持のための診断及び治療の両用途に適用可能であろう。この点に関しては、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体がともに有用であろう。例えばマウス等の動物をタンパク質で免疫し、免疫原特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択する手法は、本分野において周知である(例えば、Kohler及びMilstein(1975)Nature 256:495−497を参照)。診断アッセイの具体的な例としてはサンドイッチアッセイ及びELISAを挙げることができる。
【0073】
本発明のhsp70核酸配列は、例えばPCR増幅アッセイ用のプライマーのデザイン等で診断へ適用することができる。
【実施例1】
【0074】
アルスロバクターATCC 55921のゲノム由来hsp70遺伝子の単離及び配列決定
5mlのアルスロバクター培養液を、振盪しながら一晩、カナマイシン(30μg/ml)を含有するLB培地で30℃にて培養する。Puregene DNA isolation kit(Gentra)又はInstageneTM Resinを用いて、説明書に従い、DNA抽出を行う。
【0075】
縮重PCR
いくつかのミコバクテリアとストレプトマイセスとのhsp70(dnaK)配列間においてヌクレオチドレベルで最も相同性が高い領域を用いて、PCR及び配列決定用の縮重プライマーをデザインする。選択したプライマーは、dnak−1Fdeg(5’−gtcggnatcgacctvggnac−3’)及びdnak−4Rdeg(5’−gcggtsggctcgttgac−3’)である。アニーリング温度が50℃のPCR反応で、アルスロバクターDNAを増幅させるためにこれらのプライマーを使用する。増幅させたDNAの品質を、ゲル電気泳動で確認する。10μlの試料を0.8%アガロースゲルに添加し、1xTris−ホウ酸電気泳動バッファー(TBE)を用い、100Vでおよそ1時間、電気泳動を行う。次に650bpの産物をゲルから切り出し、Qiaquick purification kit(Qiagen)を用いて精製する。Qiagen PCR clean up kitを用いて説明書に従いPCR産物をクリーンアップし、BigDye primer chemistry(Applied Biosystems)及びPCRで用いた各プライマーをプライマーとして用いて説明書に従い配列決定を行う。ABI PRISM(8r)BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction mixを用いて伸長反応混合液(〜600ngのDNAテンプレート、3.2pmolの適切なプライマーに、ddHOを全量が20μlになるよう添加)を調製する。サイクルシークエンシング条件は以下のとおりである。すなわち、96℃を10秒、50℃を5秒、60℃を4分からなる反応を25サイクル繰り返すように、サーマルサイクラーを設定する。この配列決定により、この断片がdnaK遺伝子の最初のおよそ400bpを含有することが明らかとなる。
【0076】
さらにhsp70/dnaK遺伝子配列を得るために、縮重プライマーを用いてアルスロバクターhsp70遺伝子の下流の部分を増幅させる。これらのプライマーは、Galleyら、(1992)Biochemica et Biophysica Acta 1130:203−208から選択する。[ホワード・プライマー hsp70 ユニバーサル−F1(5’CAR GCN CAN AAR GAY GCN GG 3’)、リバース・プライマー hsp70 ユニバーサル−R1:(5’GCN CAN GCY TCR TCN GGR TT 3’)]である。プライマーは、hsp70遺伝子中の保存度の高い2つの領域とアニーリングして650bpの産物が生成されるようにデザインする。
【0077】
PCR反応液(全量50μl)は、5μlの10xPCRバッファー、5μlの25mM MgCl、2.5μlの10mM 各dNTP、2μlのHsp70 universal−F1(200μM)、2μlのHsp70 universal−R1(200μM)、0.5μlのAmplitaq DNAポリメラーゼ(5U/μl)、10μlのInstageneで抽出したDNA、23μlのddHOからなる。PCR反応の条件は、94℃で2分間処理を行った後、94℃で1.0分間、50℃または58℃のいずれかで0.5分間、72℃で1.0分間という反応を1サイクルとして40サイクル行う。このサイクルの後に最後に72℃で3.0分間、伸長反応を行い、PCRを終了する。上記のようにして、PCR産物を電気泳動にかけ、切り出し、精製して配列を調べる。この断片の配列が、最初に行った配列決定で同定された、〜400bpの配列の3'と重複しておりさらに伸びていることが分かる。
【0078】
ゲノムウォーキング
ゲノムウォーキング法を用いて、既に同定した配列の5’および3’配列を伸長させる。Genome Walkerマニュアル(Clontech)に記載されている配列からプライマーをデザインする。最初に、4種類のゲノムライブラリを作製(DraI、EcoRV、PvuII、StuI)し、次にさらに3種類のライブラリを作製する(AluI、ScaI及びSnaF1)。全てのライブラリ及びそれに続くPCR反応については、Genome Walkerマニュアルに記載されている。
【0079】
5'ゲノムウォーキングにより、前に得た配列と重複する、〜500bpの断片が得られる。5'の延長部分には、開始コドン及びhsp70遺伝子の5'UTRが含まれている。3'ウォーキングでは、遺伝子が伸長できない。
【0080】
RACE
3'RACEを使用して、さらなる3'配列を得る。一晩培養(上記のように培養)したアルスロバクターから、Purescript(Gentra)RNA単離キットを用いて、使用説明書に従い、RNAを単離する。Boehringer Mannheim、5'3'RACEキットを用いて、使用説明書に従い、3'RACEを行う。既知の配列の3'末端からRACE用プライマーをデザインする。10% DMSOを含有すること及びアニーリング温度が55℃であること以外は、記述したとおりにPCR反応を行う。〜1.0kbのバンドが増幅されるので、インビトロgenのTOPO sequencing kitを用いて、付属のプロトコールに従い、それをpCR4ベクターにクローニングする。ベクタープライマーを用いてコロニーをスクリーニングし、選択したクローンを一晩培養して、インビトロgenのSNAP miniprep kitを用いてDNA抽出を行い、上記のようにしてベクタープライマーを用いて配列決定を行う。
【0081】
GenecodeのSequencherソフトウェアを用いてコンティグをアセンブルする。コンティグ配列を用いてGenbank検索を行い、それがhsp70であることを確認する。
【0082】
上記のようなゲノムウォーキングにより、hsp70遺伝子の残りの部分及び3'UTRが得られる。再び、GenecodeのSequencherソフトウェアを用いてコンティグを同定する。コンティグ配列を用いてGenbank検索を行い、3'UTR及び5'UTRを含むhsp70遺伝子がその配列に入っていることを確認する。
【実施例2】
【0083】
アルスロバクター細胞壁タンパク質の特性分析
電気泳動およびウェスタンブロッティング
23℃にて48時間インキュベーションした後に、tryptic soy agar(TSA)プレートから直接、サブカルチャーした細菌を回収して、アルスロバクターATCC 55921細胞懸濁液を調製する。pH7.2の100mM Tris−HCl、1mM EDTA及び0.1% Triton−X 100(BioRad Laboratories,Hercules,CA)からなる10mlの「TET」バッファー中に、光学密度がおよそ50OD660単位(ここで、1 OD660は、1x10個の細胞を含むと推定される)になるように細菌を再懸濁し、6500gで遠心する。上清を捨て、細胞をさらに10mlのTETで懸濁し、再び遠心を行う。4mlのTETで細胞ペレットを再懸濁し、1.5mlのマイクロチューブにそれぞれ1mlずつ分注する。そのうち1本を、さらに200μlの5mg/ml ニワトリ卵白ライソザイムと混合し、振盪しながら一晩(18時間)、37℃にてインキュベーションを行う。卓上微量遠心機にて、最高速度で5分間、細胞懸濁液を遠心する。150μlの無細胞上清を、50μlのNuPage 4xLDSサンプルバッファー(インビトロgen Carlsbad,CA)と混合し、振盪しながら70℃で10分間インキュベーションを行う。得られた上清を10μlずつ分注し、8% Mini Protean II gel(BioRad)で電気泳動し、セミドライ転写装置(BioRad)を用いて30分間、20Vで、PVDF(Millipore,Bedford MA)上にウェスタンブロットする。ブロッティング後すぐに、0.1% ポンソーS(Amersham Pharmacia Biotech,Uppsala,Sweden)中で、膜を1分間洗浄し、ブロットしたタンパク質が見えるようになるまで、蒸留水で数回洗浄して脱色する。後の染色に備えて蒸留水で繰り返し洗浄を行い、前記膜を風乾させることでピンク色の発色が消える前に、免疫染色した後の基準点となるように、分子量マーカー及び特定のタンパク質に鉛筆で印を付ける。
【0084】
アミノ酸配列決定を行うタンパク質バンドをクーマシーブルーで染め出すために、50% メタノール、7% 酢酸、及び0.1% R−250を含有する溶液中で、脱色した膜を10分間インキュベーションした後、クーマシーブルーを含有しない上記溶液を用いてバックグラウンドを脱色する。次に、そのブロットを脱イオン蒸留水で10分間リンスし、風乾させて、タンパク質自動シーケンサー(Applied Biosystems)を用いたエドマン分解法によるN−末端アミノ酸配列決定に供する。
【0085】
1% カゼインTris緩衝化生理的食塩水(pH7.4)(cTBS)(BioRad)で200分の1に希釈した抗体(ポリクローナルウサギ抗アルスロバクター)とともに60分間、前記乾燥させたブロットをインキュベーションし、TBSで10秒x2回洗浄し、その後1:2000希釈のヤギ抗ウサギイムノグロブリンアルカリホスファターゼ(Pierce、Rockford IL)とともにインキュベーションすることにより、免疫反応抗原の検出に必要な反応を行う。1−Step NBT/BCIP(Pierce)を用いて約3分間発色反応を行い、蒸留水で洗浄して反応を停止させる。全てのインキュベーションは、red rocker platform(Hoefer,San Francisco,CA)上で、最終体積10mlで行う。Imagemaster及び関連ソフトウェア(Amersham Pharmacia Biotech,Uppsala Sweden)を用いて記録を行う。Precision broad range prestained standards(BioRad)を用いて、抗原の移動度を比較して分子量を推定する。First Order Lagrange使用して相対的移動度を計算することにより、分子量の概算を行う。
【0086】
抗血清の産生
滅菌したダルベッコ塩類溶液で前もって洗浄した4x10個の細胞を3部とフロイント不完全アジュバントを1部とからなる0.5mlの懸濁液をニュージーランドウサギにi.m.注射して、アルスロバクター抗原に対するポリクローナル抗血清を調製する。4週間後に、同量の注射用試料を上記ウサギに注射する。6週間後に耳の末梢静脈から5mlの血液を採取し、血餅を形成させた後に遠心を行って、血清を収集する。
【0087】
結果
ライソザイム処理したアルスロバクター懸濁液をSDS−PAGEで分析することにより、150−10kDaの範囲にわたりタンパク質バンドが存在することが分かる。これらのバンドのうち、およそ67、63及び59kDaの主要なタンパク質バンドが卓越している。アルスロバクター細胞壁のペプチドグリカンはライソザイム処理を行わないと放出されないので、67kDaのタンパク質が、アルスロバクター細胞壁のペプチドグリカンと架橋結合していることは明らかである。
【0088】
SDS−PAGEにかけたタンパク質をウェスタンブロットしてアルスロバクターの細胞全体に対する抗血清で染色すると、免疫反応を示す主要なバンドは122及び67kDaと同定される。67kDaタンパク質のN末端の配列決定から、SRAVG IDLGT TNSVV SVLEであることが分かる。BLASTのタンパク質−タンパク質アルゴリズムを用いてホモロジー検索を行うと、その配列がミコバクテリウム・ツバキュロシスのhsp70タンパク質 と100%の相同性を有することが示される。この67kDaのタンパク質は、ゲノム配列決定によって同定され、本明細書中に開示されているhsp70タンパク質と同じであると考えられる。
【実施例3】
【0089】
hsp70の組み換え発現
アルスロバクターヒートショックタンパク質70の完全なコード配列を、非融合ペプチド及び融合ペプチドとして、pET30EKLICベクター(Novagen)にクローニングする。N融合タグは、その後の標的タンパク質の精製に利用する様々な機能を有する55個のアミノ酸(Hisタグ、S−タグ、エンテロキナーゼ切断部位を含む)からなる。ドメインIIとして知られている、HSP70タンパク質内に存在する200アミノ酸活性モチーフも、非融合ペプチド及び融合ペプチドとしてクローニングする。
【0090】
組み換えHSP70及び組み換えドメインIIの発現をE.コリ DE3細胞中で行う。適切な細胞密度に達したら、DE3培養物を2本のフラスコに分ける。そのうち1本に対して、IPTG基質によりタンパク質発現を誘導し、もう1本のフラスコはコントロールとする。HSP70及びドメインIIの両方が、融合又は非融合ペプチドとして発現されるが、基本的に、E.コリの細胞質内における可溶型として、又はペリプラズムに会合して存在する。従って、E.コリにおいて、アルスロバクターの天然のタンパク質と同じように、組み換えHSP70及びそのドメインIIは、首尾よく細胞表面に誘導される。上記タンパク質のN末端には融合タグが付加されているが、これは蛋白質の転移に影響を与えないと思われる。以上の観察から分かるように、完全長のHSP70及びドメインIIはともに、他の抗原性配列を細胞表面へと移動させる能力を有する。
【実施例4】
【0091】
hsp70との遺伝子融合を用いたIPNVに対する核酸ワクチン
清潔な水槽水で希釈したベンゾカインを用いて、流動する淡水で飼育したpre−smoltの大西洋サケ(Salmo salar)(35−40g)を麻酔する。ワクチン接種前に、致死量の麻酔剤で6匹の魚を安楽死させ、免疫前血清として尾静脈から採血する。
【0092】
50μlの核酸ワクチン及びPBSコントロールを、背びれ直下の左背側面に筋肉内注射で接種する。40匹の魚にワクチン接種し、さらに40匹の魚に前の40匹と同じようにワクチン接種する(各群80匹、2つのタンクに分ける)。ワクチン接種後、魚を淡水で回復させ、それぞれ適切なタンクに移動させる。
【0093】
試験を行う核酸ワクチンは、pUKrsxHSP70−ipnVP2及びpUKrsxHSP70−ipnVP3である。これらのプラスミドには、CMVプロモーター制御下において、アルスロバクターhsp70とそれぞれIPNV VP2又はIPNV VP3との完全コード配列のイン・フレームの融合物が組み込まれている。pUKrsxHSP70−ipnVP2単独で、さらに両プラスミドを一緒に試験する。
【0094】
比較を行うために、先行研究でVP2成分の免疫防御効果をおよそ20%強化することが知られている配列の3'と融合させたIPN VP2タンパク質を含むプラスミドも調製する(つまり、「gold standard」VP2−ベースのIPNV核酸ワクチン)。
【0095】
ワクチン接種から6週間後、魚を海水に移す。攻撃誘発を行う前日に、各同型群当たり4匹の魚から血清を採取する。注射部位の筋肉試料も採取しホルマリン固定してワクチン反応を観察する。攻撃誘発から21日後に、各同型群につき最大4匹の生存魚から血清を採取する。攻撃誘発後には、毎日、ざっと観察して死亡した魚を排除し、腎臓試料を採取してELISA分析を行うために凍結する。
【0096】
毒性のあるIPNV(10cfu)を腹腔内注射して攻撃誘発を行い、マークを付した同種の魚と一緒に飼育することによって、海水に移動させてから4−6週間後に攻撃誘発を行う。20週間後に試験を終了する。
【0097】
この結果、hsp70−VP2融合物をはじめ、IPNVのVP2配列を利用した核酸ワクチン全てに、ウイルスによる攻撃誘発に対する防御効果があることが示される。
【実施例5】
【0098】
ISAVに対するワクチンにおける組み換えHsp70
実験開始1週間前から通気した流水(10℃)が供給されている0.5mの貯蔵タンクに大西洋サケの幼魚を順応させ、実験期間全体を通して、毎日給餌する。各群55匹の魚を、25匹ずつ2つのタンクに分け、同型処理群を用意する。大西洋サケ幼魚に対してISAVで攻撃誘発を行うと、60−80%のへい死率を示す。
【0099】
魚に麻酔をかけた後、0.2mlの生理食塩水又は、特異的な組み換えタンパク質を含有する0.2mlの生理食塩水を腹腔内に注射してワクチン接種する。ネガティブコントロールはPBS注射(生理食塩水)である。処理群は、(A)Hisタグ付加精製アルスロバクターhsp70組み換えタンパク質、12μg(B)ISAV組み換えHisタグ付加ヌクレオキャプシドタンパク質(NC)、12μg(C)Hisタグ付加精製アルスロバクターhsp70組み換えタンパク質、12μg、Hisタグ付加ISAV NC、12μgとの混合剤、(D)Hisタグ付加精製アルスロバクターhsp70組み換えタンパク質、12μg、Hisタグ付加ISAV NC、12μgと架橋結合、(E)Hisタグ付加精製アルスロバクターhsp70ドメイン2組み換えタンパク質、12μg、Hisタグ付加ISAV NC、12μgとの混合剤、(F)Hisタグ付加精製アルスロバクターhsp70 ドメインII組み換えタンパク質、12μg、His−タグ付加ISAV NC、12μgと架橋結合、である。
【0100】
処理群D及びFには、共有結合によって架橋されたタンパク質を与える。架橋剤としてEDC及びスルホ−NHSを用い、標準的手法を使用する。
【0101】
0.1mlの培養毒性ISAV(〜10 TCID50/匹(魚))を少数のサケにi.p.投与し、処理魚の各タンクに加えて一緒に飼育して攻撃誘発を行う。各タンクのへい死状況を毎日観察する。
【0102】
特定の時点における各処理群とコントロール群との間のへい死率を比較して、相対的生存率を調べる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1−1】図1は、配列番号1、つまり、アルスロバクターATCC 55921から単離した、5’及び3’UTR配列を含むhsp70遺伝子のDNA配列(5’から3’)を表す。
【図1−2】図1は、配列番号1、つまり、アルスロバクターATCC 55921から単離した、5’及び3’UTR配列を含むhsp70遺伝子のDNA配列(5’から3’)を表す。
【図2】図2は、配列番号2、つまり、図1のhsp70遺伝子配列によりコードされると予想されるアミノ酸配列を示す。
【配列表】







【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルスロバクター(Arthrobacter)hsp70タンパク質をコードする単離された核酸配列、又はその断片。
【請求項2】
ATCC 55291の受託番号で寄託されているアルスロバクター(Arthrobacter)株から得られる、請求項1に記載の単離されたhsp70核酸配列。
【請求項3】
配列番号1の核酸配列、又は、その断片、又は、これら配列と少なくとも85%の相同性を有する配列、又は、配列番号1の配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む単離された核酸配列。
【請求項4】
異種コード配列にイン・フレームになるように融合された請求項1ないし3の何れか1項の単離された核酸配列を含む、キメラ核酸配列。
【請求項5】
前記異種コード配列が動物病原体由来の抗原をコードする、請求項4に記載のキメラ核酸配列。
【請求項6】
前記抗原がIPNV VP2又はVP3である、請求項5に記載のキメラ核酸配列。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか1項の核酸配列を含み、前記核酸配列が転写調節配列に作動可能に結合している、DNA発現ベクター。
【請求項8】
請求項7のDNA発現ベクターで形質転換されている宿主細胞。
【請求項9】
単離されたアルスロバクター(Arthrobacter)hsp70アミノ酸配列又はその断片。
【請求項10】
ATCC 55921の受託番号で寄託されている、アルスロバクター(Arthrobacter)株から得られる、請求項9に記載の単離されたhsp70アミノ酸配列。
【請求項11】
配列番号2のアミノ酸配列、若しくは、その免疫原性断片、若しくは、該アミノ酸配列の162−365のアミノ酸由来の配列、若しくは、該アミノ酸配列と少なくとも85%の相同性を有する配列、又は、その誘導体を含む単離されたアミノ酸配列。
【請求項12】
共有結合又は非共有結合によって異種分子に連結されてコンジュゲート分子を形成する、請求項9ないし11の何れか1項に記載のアミノ酸配列。
【請求項13】
前記コンジュゲート分子が融合タンパク質である、請求項12に記載のアミノ酸配列。
【請求項14】
前記異種分子が細菌、ウイルス、真菌、原生動物、蠕虫類及び腫瘍の抗原から選択される、請求項12又は請求項13に記載のアミノ酸配列。
【請求項15】
前記抗原が、ISAV由来の、ヌクレオキャプシドタンパク質、ヘマグルチニン、ポリメラーゼ、及びセグメント7 P4及びP5タンパク質のうちいずれかのタンパク質である、請求項14に記載のアミノ酸配列。
【請求項16】
請求項1ないし6の何れかの核酸分子によりコードされた単離されたアミノ酸配列。
【請求項17】
請求項9ないし15の何れかの単離されたアミノ酸配列をコードする単離された核酸分子。
【請求項18】
請求項1ないし6の何れかの核酸分子、又は、請求項7のDNA発現ベクター、又は、請求項9ないし15の何れかのアミノ酸配列、又は、hsp70が濃縮されたアルスロバクター(Arthrobacter)細胞抽出物と、医薬的に許容されるキャリヤーとを含む、ワクチン組成物。
【請求項19】
少なくとも1つの異種抗原、又は、異種抗原をコードする核酸配列をさらに含む、請求項18に記載のワクチン組成物。
【請求項20】
請求項18に記載のワクチン組成物と、異種抗原又は異種抗原をコードする核酸配列とを含む、個別投与、連続投与または同時投与用のキット。
【請求項21】
請求項1ないし3のいずれかに記載の核酸配列、又は請求項9ないし11のいずれかに記載のアミノ酸配列の、ワクチンアジュバントとしての使用。
【請求項22】
ワクチン抗原を請求項9ないし11のいずれかに記載のアミノ酸配列と混合することを含む、ワクチンを賦活する方法。
【請求項23】
請求項9ないし15のいずれかのアミノ酸配列に対して生じた抗体。
【請求項24】
請求項1ないし6のいずれかに記載の核酸配列、又は請求項9ないし15のいずれかに記載のアミノ酸配列の、医薬としての使用。
【請求項25】
請求項1ないし6のいずれかに記載の核酸配列、請求項7に記載のDNA発現ベクター、請求項9ないし15のいずれかに記載のアミノ酸配列、又はhsp70が濃縮されたアルスロバクター(Arthrobacter)
細胞抽出物の、感染症に対して動物を免疫するための医薬の調製における使用。
【請求項26】
前記動物が硬骨魚類である、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記疾患が細菌性腎疾患(BKD)、又は、サケ科のリケッチア敗血症(SRS)である、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
アルスロバクター(Arthrobacter)細胞の細胞壁に局在し、N末端のアミノ酸配列が(M)SRAVG IDLGT TNSVV SVLEであり、SDS−PAGEによって測定した分子量がおよそ67kDaである単離されたヒートショックタンパク質。
【請求項29】
異種遺伝子に連結された配列番号1のプロモーター配列又は実質的に相同的な配列を含む、DNA発現ベクター。
【請求項30】
魚類の感染症を予防又は治療するためのワクチン組成物の製造における、ヒートショックタンパク質の使用。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−514537(P2006−514537A)
【公表日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−520618(P2004−520618)
【出願日】平成15年7月14日(2003.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2003/007602
【国際公開番号】WO2004/007539
【国際公開日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】