説明

アルツハイマー氏病を治療するためのMnkインヒビターの使用

本発明は、タオロパシーの診断、緩和、治療及び/又は予防のための、Mnk1及び/又はMnk2のキナーゼ活性のモジュレータの使用に関する。特に本発明は、アルツハイマー氏病の診断、緩和、治療及び/又は予防のためのMnk1及び/又はMnk2キナーゼのモジュレータの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タウロパシー(tauopathy)の診断、緩和、治療及び/又は予防のための、Mnk1及び/又はMnk2のキナーゼ活性のモジュレータの使用に関する。特に、本発明は、アルツハイマー氏病の診断、緩和、治療及び/又は予防のための、Mnk1及び/又はMnk2キナーゼ活性のモジュレータの使用に関する。
【0002】
アルツハイマー氏病は、進行性の認知力衰退、記憶力低下、神経精神障害及び挙動変化により特徴付けられる進行性の神経変性疾病である(Cummings、2004)。アルツハイマー氏病の発生率は、年齢と共に増加し、たとえば60歳の1%及び85歳の30%がこの病気を有する(Cummings、2004)。当該人口の増加年齢と組み合わせて得られるアルツハイマーケースの累加的増加は、近年のヘルケアシステムに関する脅迫的な負担となっている。アルツハイマーに対する近年の顕著な薬剤は、最良の状態で、穏やかな症状改善を示すものに過ぎず、市場においては実際の疾病改善治療手段は存在しない(Mount and Downton, 2006; Roberson and Mucke, 2006)。
【0003】
組織レベルにおけるアルツハイマー氏病の病理の際だった特徴(及び100年前アルツハイマーにより最初に報告されたもの)は、細胞外プラーク及び細胞間神経原線維変化(NFTs)並びに増加した細胞死によるニューロンの損失である(Goedert and Spillantini, 2006)。プラークは、主にβ−アミロイドペプチド(Aβ42)からなる凝集物を示し、この場合、これは、APP膜貫通型タンパク質のプロセッシングにより生じるタンパク質フラグメントである。NFTsは、過リン酸化タウ(Tau)、微小管結合タンパク質の凝集体である(Goedert and Spillantini, 2006)。双方の場合において、細胞は大きい凝集体によってはではなく、むしろより小さいオリゴマータンパク質複合体により損傷されうる(SantaCruz et al., 2005; Gomez-Isla et al., 1997; Lesne et al., 2006; Jacobsen st al., 2006)。
【0004】
多年に亘ってβ−アミロイド含有細胞外プラークに注目が集まった後に、タウ翻訳後変性、発現及び凝集における病理学的変化が、アルツハイマー氏病を含む多くの神経変性疾病において重要な役割を示すことが現在、高く評価されている(Goedert and Spillantini, 2006; Kins and Beyreuther 2006)。特定のアミノ酸におけるタウのリン酸化は、微小管からの解離を招き、軸索内微小管網を不安定にし、これによって必須の輸送プロセスの崩壊をニューロン遠位部分において生じさせる(Kins and Beyreuther 2006;Biernat et al., 1993)。
【0005】
神経変性中のタウの役割の研究において最も有益であるのは、いわゆるタウロパシーであり、この場合、これは、タウの変化が神経変性を招く疾病である。このようなタウ介在型神経変性疾病に関する一つの重要な例は、第17染色体に関連する前頭側頭型痴呆及びパーキンソン症候群である。タウにおけるミスセンス変異を生じさせる30以上の疾病は、FTDP-17中に記載されており、その大部分は、微小管結合のための重要な領域であるタウの反復領域に集中発生する(Goedert and Spillantini, 2006)。タウにおける最も多くのミスセンス変異は、微小管からのタウの解離を招き、その一方で、いくつかのみが凝集を生じさせ(Hasegawa et al., 1998, Goedert and Spillantini, 2006)、これは、損なわれたタウ−微小管相互作用が神経変性における原因的役割を有しうることを示す(Kins and Beyreuther)。
【0006】
ヒトのタウのSer262は、たとえば反復配列中心(central repeat)に局在するリン酸化部位の例であり、ここでリン酸化は、微小管からのタウの解離を招き、かつ、in vitroでの微小管―タウ−同時インキュベーションアッセイにおける微小管動態を変化させる(Biernat et al., 1993; Drewes et al., 1995 Mandelkow et al., 1995)。Ser262のリン酸化は、ヒトアルツハイマー患者からの脳組織中で顕著に増加し、かつ疾病進行における早期の状態であってもよい(Hasegawa et al., 1992; Augustinack et al., 2002)。さらに、タウの病理が観察されるすべての神経変性疾病中で、タウが異常にリン酸化される(Lee et al., 2001)。
【0007】
さらに、elF4Eのリン酸化は、アルツハイマー氏病の患者の脳組織中で顕著に増加し、かつelF4F脳リン酸化レベルは、疾病の重症度と正の相関を示す(Li et al., 2004)。Mnk1及びMnk2は、in vivoでの唯一の適切なelF4Fキナーゼであり(Ueda et al., 2004)、Mnk1、Mnk2又はその双方の活性が、アルツハイマー氏病患者の脳において増加することを示唆している。さらにMnk活性は、炎症性要因により増加し、この要因は、アルツハイマー氏病に関与するものである(Eikelenboom et al., 10 2006; Buxade et al., 2005)。しかしながら、Mnk活性における上昇が、単に、アルツハイマー氏病における神経的混乱の取るに足らない副産物であるのか、あるいは、疾病の開始時及び/又は進行時において役割を有するのかについては、研究されていない。
【0008】
したがって、本発明の基礎となる技術的課題は、タウロパシーが存在する神経変性疾病の診断、緩和、治療及び/又は予防のための手段及び方法を提供することである。特に、本発明の技術的課題は、特にアルツハイマー氏病を含む、タウタンパク質の過リン酸化によって生じる病理学的状態の診断、緩和、治療及び/又は予防のための手段及び方法を提供することである。
【0009】
前記技術的課題の解決は、請求項に記載された態様を提供することにより達成される。
【0010】
本発明のアプローチは、タウタンパク質の増加したリン酸化と関連し、かつ特に、タウの微小管結合領域の範囲内におけるアミノ酸残基の増加したリン酸化に関連しうるタンパク質キナーゼの同定及び特徴付けである。微小管結合領域の範囲内のSer262及び/又はSer356のリン酸化は、特に重要である。実際に、タウロパシーの病理学的プロセスにおけるタウをリン酸化するタンパク質キナーゼの同定は、タウロパシーが存在する神経変性疾病の治療のための潜在的治療標的を提供しうるものである。特に、このようなタンパク質キナーゼの同定は、アルツハイマー氏病の治療のための潜在的治療標的を提供しうる。
【0011】
タンパク質キナーゼは、多くの細胞性機能の調整において必要とされる重要な酵素である。キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のLKG−セリン/トレオニン−キナーゼ遺伝子は、微小管と関連しうる短命キナーゼとして報告されている (J. Cell Sci1997, 110(2): 209-219)。ショウジョウバエに着目した化合物の開発における遺伝子分析は、RASシグナル経路の調節における役割を示唆している(Genetics 2000 153(3):1219-1230)。ショウジョウバエLK6−キナーゼの最も近いヒトホモログは、MAPキナーゼ干渉キナーゼ2(MAP kinase interacting kinase 2)(Mnk2、例えばMnk2a及びMnk2b)及びMAPキナーゼ干渉キナーゼ1(MAP kinase interacting kinase 1)(Mnk1)及びその変異体である。これらのキナーゼは、細胞質中に主に局在する。Mnksは、p42−MAPキナーゼErk1及びErk2及びp38−MAPキナーゼによりリン酸化されている。このリン酸化は成長因子、ホルボールエステル及び癌遺伝子、例えばRas及びMosに対する応答中で、かつストレスシグナル分子及びサイトカインにより引き起こされる。Mnkタンパク質のリン酸化は、真核生物開始因子4E(elF4E)に対するそのキナーゼ活性を刺激する(EMBO J. 16: 19091920, 1997; Mol Cell Biol 19, 1871-1880, 1990; Mol Cell Biol 21, 743-754, 2001)。マウスにおけるMnk1及びMnk2遺伝子の双方の同時破壊は、基礎的かつ刺激されたelF4Fリン酸化を減少させる(Mol Cell Biol 24, 6539-6549, 2004)。elF4Fのリン酸化は、タンパク質翻訳の調整を生じる(Mol Cell Biol 22: 5500-5511 , 2001)。
【0012】
共有に係る我々の特許出願WO 03/037362 は、ヒトMnk遺伝子、特にヒトMnk1及びMnk2遺伝子と、体重又は熱産生の調整に関与する疾病との関連性を開示している。ヒトMnk遺伝子、特にMnk2及びMnk1が、疾病、例えば肥満症を含む代謝疾患、摂食障害、悪液質、糖尿病、高血圧、冠状動脈疾患、高コレステロール血症、異脂肪症(dyslipidemia)、変形性関節症、胆石、生殖器の癌及び睡眠時無呼吸症、及びROS不全に関連する疾病、例えば糖尿病及び癌に関連することが推定される。WO 03/03762は、さらに、MAPキナーゼ干渉キナーゼ(Mnk)遺伝子ファミリー、特にMnk1及びMnk2の核酸配列及びこれらをコードするアミノ酸配列の使用及びこれら配列又はMnk核酸又はポリペプチドのエフェクター、特にMnkインヒビター及びアクチベーターの、体重又は熱産生の調節に関与する疾病の診断、予防又は治療における使用を開示している。
【0013】
これまで、Mnkキナーゼ及び特にMnk1及び/又はMnk2は、タウタンパク質の過リン酸化に直接的に影響し、かつこれによってタウ病理と関連しうることが記載されてきた。本願において、発明者は、組換えタウヒトタンパク質が、in vitroの組換えヒトMnk1及び/又はMnk2に対する基質であることを示した。特に、本発明者は、Mnk1及び/又はMnk2が、ヒトタウ中で、Ser262及びSer356をリン酸化することができ、この場合、Mnk1及びMnk2の双方が、微小管との結合及びタウ凝集に関与する中心反復領域中に局在化されていることを見出した。したがって、驚くべきことに、Mnk1及び/又はMnk2キナーゼの増加した活性が、Ser262及び/又はSer356の増加したリン酸化を導くことができ、この場合、これは、神経微小管網の破壊及び結果として生じる神経変性発生を招きうることを見出した。
【0014】
これらの発見に基づいて、本発明者は、タウ異常が存在する神経変性疾患の診断、緩和、治療及び/又は予防において有用でありうるMnk1及び/又はMnk2キナーゼのモジュレータを同定することができた。
【0015】
したがって、本発明の課題は、タウロパシーの診断、緩和、治療及び/又は予防のための薬剤を製造するためのMnk1及び/又はMnk2キナーゼのモジュレータの使用である。好ましい実施態様において、本発明のMnk1及び/又はMnk2キナーゼのモジュレータは、アルツハイマー氏病の診断、緩和、治療及び/又は予防のためのものである。
【0016】
Mnkホモログタンパク質及びこれをコードする核酸分子、特に、ヒトMnk−ホモログポリペプチド及びこのようなペプチドをコードする核酸は、共有に係る我々の出願WO 03/037362中に開示されている(参考のために本発明に含まれる)。特に、この出願は、ポリペプチド及びヒトMnk2タンパク質及び変異体Mnk2a及びMnk2b並びにヒトMnk1タンパク質及び変異体Mnk1a及びMnk1bをコードする核酸配列を開示する。
【0017】
本発明によるMnk1及び/又はMnk2キナーゼ又はこれらの変異体のモジュレータは、キナーゼ活性を変化、減少又は抑制する任意の化合物であってもよい。本発明の特に好ましい実施態様において、NmK1及び/又はMnk2キナーゼのモジュレータは、キナーゼの活性を減少又は抑制する化合物である。
【0018】
Mnk1及び/又はMnk2キナーゼの好ましいモジュレータは、Mnk1及び/又はMnk2キナーゼに対する抗体又は抗体フラグメント、アンチセンス分子、リボザイム又はRNAi分子及び/又は低分子量の有機分子から成る群から選択することができる。
【0019】
したがって、本発明のMnk1及び/又はMnk2キナーゼのモジュレータは、結合分子化合物であってもよく、この場合、この化合物は直接的にキナーゼ分子と相互に作用し、たとえばMnk1及び/又はMnk2キナーゼに対する抗体又は抗体フラグメントである。本発明の抗体は、モノクローナル又はポリクローナル抗体、好ましくはモノクローナル抗体であってもよい。本発明の抗体は、全体抗体(whole antibody)又は抗原結合フラグメント、例えばFab又はF(ab’)2フラグメントであってもよく、この場合、これは、Mnk1及び/又はMnk2に対する特異的結合部位を含む。抗体は、組換え抗体、すなわち、一本鎖抗体又はこれらのフラグメント、すなわち、scFvフラグメントであってもよい。
【0020】
一方、Mnk1及び/又はMnk2キナーゼのモジュレータは、核酸レベルにおいて、たとえばアンチセンス核酸、SiRNA分子及び/又はリボザイム上で機能するものであってもよい。
【0021】
最終的に、本発明の好ましい実施態様によれば、Mnk1及び/又はMnk2キナーゼに活性のモジュレータは、Mnk1及び/又はMnk2のキナーゼ活性を抑制及び/又は減少させる化合物から選択される。極めて好ましい実施態様において、本発明のモジュレータは、Mnk1及び/又はMnk2のキナーゼ活性のインヒビターである。
【0022】
好ましいモジュレータ、特にMnk1及び/又はMnk2又はこれらの変異体、例えばMnk1a、Mnk1b、Mnk2a又はMnk2bのキナーゼ活性のインヒビターは、共有に係る我々の国際特許出願WO 2006/066937(22 December 2005出願)及びPCT/EP2006/005980(21 June 2006)に記載されており、これらの双方は参考のために本発明に含まれる。
【0023】
Mnk1及び/又はMnk2又はこれらの変異体のキナーゼ活性を調整する(好ましくは抑制する)特に好ましい化合物は、一般式(I)
【化1】

[式中、Rは6〜10個の炭素原子を有する置換されたアリールであるか、あるいは、5〜10個の環原子を有する場合により置換されたヘテロアリールであり、その際、置換基は、1又はそれ以上のRであり、その際、Rは独立してハロゲン、CN、COOR、OR、C(O)N(R5a)、S(O)N(R5a)、S(O)N(R5a)、S(O)、N(R)S(O)N(R5a)、SR、N(R5a)、OC(O)R、N(R)C(O)R5a、N(R)S(O)5a、N(R)S(O)R5a、N(R)C(O)N(R5a5b)、N(R)C(O)OR5a、OC(O)N(R5a)、オキソ(=O)であり、その際、当該環は少なくとも部分的に置換されており、C(O)R、Tであるか、あるいは、C〜Cアルキルであり、その際、C〜Cアルキルは場合により1又はそれ以上のRにより置換されており、
、R5a及びR5bは独立して、H、T及びC〜Cアルキルから成る群から選択されており、その際、C〜Cアルキルは場合によっては1又はそれ以上のRにより置換されており、
、Rは独立して、ハロゲン、CN、COOR、OR、C(O)R、C(O)N(R8a)、S(O)N(R8a)、S(O)N(R8a)、S(O)、N(R)S(O)N(R8a8b)、SR、N(R8a)、OC(O)R、N(R)C(O)R8a、N(R)S(O)8a、N(R)S(O)R8a、N(R)C(O)N(R8a8b)、N(R)C(O)OR8a、OC(O)N(R8a)及びTから成る群から選択されており、
、R8a、R8bは独立してH、C〜Cアルキル及びTから成る群から選択されており、
その際、TはC〜C10−シクロアリキル、C〜C10−ビシクロアルキル、C〜C10−ヘテロシクリル、C〜C10−ヘテロビシクリル、6〜10個の炭素原子を有するアリール、5〜10個の環原子を有するヘテロアリールであり、その際、Tは、場合により1又はそれ以上のRにより置換されており、その際、Rは独立してハロゲン、CN、COOR10、OR10、C(O)N(R1010a)、S(O)N(R1010a)、S(O)N(R1010a)、S(O)10、N(R10)S(O)N(R10a10b)、SR10、N(R1010a)、OC(O)R10、N(R10)C(O)R10a、N(R10)S(O)10a、N(R10)S(O)R10a、N(R10)C(O)N(R10a10b)、N(R10)C(O)OR10a、OC(O)N(R1010a)、オキソ(=O)、その際、環は少なくとも部分的に置換されており、C(O)R10、C〜C−アルキル、フェニル、C〜C−シクロアルキル又はヘテロシクリルであり、その際、C1〜C−アルキル、フェニル、C〜C−シクロアルキル及びヘテロシクリルは、場合によっては1又はそれ以上のハロゲンにより置換されており、この場合、これは同一又は異なっており;
10、R10a及びR10bは独立してH、C〜C−アルキル、フェニル、C〜C−シクロアルキル、ヘテロアリール及びヘテロシクリルから成る群から選択されており、その際、C〜C−アルキル、フェニル、C〜C−シクロアルキル及びヘテロシクリルは、場合によっては1又はそれ以上のハロゲンにより置換されており、この場合、これは同一又は異なっており、
は水素、C〜C−アルキル、アセチル基又は尿素であり、
は水素、ヒドロキシル、C〜C−アルキル又はアミノ基であり、かつ、
Xは結合である]のピラゾロピリミジン化合物又はその製薬学的に認容性の塩である。
【0024】
Mnk1及び/又はMnk2キナーゼの活性を調整、好ましくは抑制するための特に好ましい化合物はピラゾロピリミジン化合物EDJ100869、 EDJ101424、 EDJ101441、 EDJ101457、 EDJ101458、 EDJ101472 及びEDJ101496であり、これらは、共有に係る我々の出願WO 2006/066937及び図4に示されている。このピラゾロピリミジン化合物のこのクラスの最も好ましい化合物は、化合物EDJ100869である。
【0025】
さらに、Mnk1及び/又はMnk2キナーゼ又はこれらの変異体の活性を調整、特に抑制するための極めて好ましい化合物は、一般式(II)
【化2】

[式中、XはO、S、SO、CH、CHR1a、CR1a1b、CH(ハロゲン)、C(ハロゲン)、C=O、C(O)NR1a、NH又はNR1a、その際、R1a及びR1bはC〜C−アルキル、C〜C−アルキルC〜C10−シクロアルキル、C〜C10−シクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C−アルキル3〜10員のヘテロシクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有する3〜10員のヘテロシクロアルキルであり、その際、R1a及びR1bは場合により1又はそれ以上のRにより置換されており、
は水素、C〜C−アルキル、C〜C−アルキルC〜C10−シクロアルキル、C〜C10−シクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C−アルキル3〜10員のヘテロシクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有する3〜10員のヘテロシクロアルキル、C〜C10−アリール、C〜C−アルキルC〜C10アリール、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C10ヘテロアリール、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C−アルキルC〜C10−ヘテロアリール、その際、Rは場合によっては1又はそれ以上のRにより置換されているか、あるいは、
XがNR1a、CHR1a、C(O)NR1a又はCR1a1bである場合には、RはR1aを有する炭素環又はヘテロ環を形成してもよく、かつN又はC原子がこれに結合しており、この場合、これはN、S及びOから選択された1又はそれ以上の付加的なヘテロ原子を含有していてもよく、この場合、これは1又はそれ以上のRにより置換されていてもよく、
及びRは同一か又は異なって、かつ独立して水素、C〜C−アルキル、C〜C−アルキルC〜C10−シクロアルキル、C〜C10−シクロアルキル、C〜C10−アリール、C〜C−アルキルC〜C10−アリール、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C10−ヘテロアリール、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C−アルキルC〜C10−ヘテロアリール、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C−アルキル3〜10員のヘテロシクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有する3〜10員のヘテロシクロアルキルであるか、あるいは、結合されたC原子と一緒になって、C〜C−シクロアルキル又は3〜10員のヘテロシクロアルキル基を形成し、その際、R及びRは場合によっては1又はそれ以上のRにより置換されており、さらにRはRであってもよく、かつさらにRはR10であってもよく、
は水素、C〜C−アルキル、尿素、チオ尿素又はアセチルであり、場合によっては1又はそれ以上のRにより置換されているか、
あるいは、RはRを有する5又は6員のヘテロ環を形成していてもよく、
、R、R及びRは同一か又は異なって、かつ別個にH又はRから選択され、
は独立してハロゲン、CN、COOR11、OR11、C(O)N(R1111a)、S(O)N(R1111a)、S(O)N(R1111a)、S(O)R11、N(R11)S(O)N(R11a11b)、SR11、N(R1111a)、OC(O)R11、N(R11)C(O)R11a、N(R11)S(O)11a、N(R11)S(O)R11a、N(R11)C(O)N(R11a11b)、N(R11)C(O)OR11a、OC(O)N(R1111a)、オキソ(=O)であり、その際、環は少なくとも部分的に飽和されており、C(O)R11、C〜C−アルキル、フェニル、C〜C−シクロアルキル又はヘテロシクリル、その際、C〜C−アルキル、フェニル、C〜C−シクロアルキル及びヘテロシクリルは、場合によっては1又はそれ以上のR10により置換されており、
10は独立してハロゲン、CN、OR11、S(O)N(R1111a)、S(O)N(R1111a)、S(O)11、N(R11)S(O)N(R11a11b)、SR11、N(R1111a)、OC(O)R11、N(R11)C(O)R11a、N(R11)S(O)11a、N(R11)S(O)R11a、N(R11)C(O)N(R11a11b)、N(R11)C(O)OR11a、OC(O)N(R1111a)、オキソ(=O)であり、その際、環は少なくとも部分的に飽和されており、C(O)R11、C〜C−アルキル、フェニル、C〜C−シクロアルキル、又はヘテロシクリルであり、その際、C〜C−アルキル、フェニル、C〜C−シクロアルキル及びヘテロシクリルは場合により1又はそれ以上のRにより置換されており、
11、R11a、R11bは独立して水素、C〜C−アルキル、C〜C−アルキルC〜C10−シクロアルキル、C〜C10−シクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を含有するC〜C−アルキル3〜10員のヘテロシクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を含有する3〜10員のヘテロシクロアルキル、C〜C10−アリール、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を含有する5〜10員のヘテロアリールであり、その際、R11、R11a、R11bは場合により1個又はそれ以上のRにより置換されている]のチエノピリミジン化合物又はその代謝物、プロドラック又は製薬学的に認容性の塩である。
【0026】
好ましいチエノピリミジン化合物は図5に示されている。本発明によるMnk1及び/又はMnk2キナーゼの極めて好ましいモジュレータ及び特にインヒビターは、チエノピリミジン化合物 EDJ101401、この場合、これは、共有に係る我々の出願PCT/EP2006/005980に記載されており、これは3−エトキシ−4−(5−メチル−チエノ[2,3−D]ピリミジン−4−イルアミノ)−ベンズアミドである。
【0027】
Mnk1及び/又はMnk2キナーゼの他の好ましいインヒビターは、共有に係る我々の出願EP 06 007 454 (7 April 2006出願)に記載されたチエノピリミジン化合物及び共有に係る我々の欧州特許出願EP 06 014 297(10 July 2006出願)のピロロピリミジン化合物である(双方はここで参考のために引用する)。
【0028】
他の好ましい実施態様において、本発明のモジュレータ、特にインヒビター化合物は、一般式(III)
【化3】

[式中、YはNH又はSであり、
Xは単結合、O、S、SO、CH、CHR1a、CR1a1b、CH(ハロゲン)、C(ハロゲン)、C=O、C(O)NR1a、NH又はNR1a、その際R1a及びR1bはC〜C−アルキル、C〜C−アルキルC〜C10−シクロアルキル、C〜C10−シクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C−アルキル3〜10員のヘテロシクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有する3〜10員のヘテロシクロアルキルであり、その際、R1a及びR1bは場合により1又はそれ以上のRにより置換されており、
は水素、C〜C−アルキル、C〜C−アルキルC〜C10−シクロアルキル、C〜C10−シクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C−アルキル3〜10員のヘテロシクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有する3〜10員のヘテロシクロアルキル、C〜C10−アリール、C〜C−アルキルC〜C10−アリール、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C10−ヘテロアリール、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C−アルキルC〜C10−ヘテロアリールであり、その際、Rは場合によっては1又はそれ以上のRにより置換されているか、
XがNR1a、CHR1a、C(O)NR1a又はCR1a1bである場合には、RはR1aを有する5又は6員の飽和、不飽和又は芳香族の炭素環又はヘテロ環を形成してもよく、かつN又はC原子が結合しており、この場合、この環は、N、S及びOから選択された1又はそれ以上の付加的なヘテロ原子を含有していてもよく、この場合、これは1又はそれ以上のRにより置換されていてもよく、
及びRは同一又は異なって、かつ独立して水素、C〜C−アルキル、C〜C−アルキルC〜C10−シクロアルキル、C〜C10−シクロアルキル、C〜C10−アリール、C〜C−アルキルC〜C10−アリール、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C10−ヘテロアリール、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C−アルキルC〜C10−ヘテロアリール、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C−アルキル3〜10員のヘテロシクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有する3〜10員のヘテロシクロアルキルであるか、あるいは、結合したC原子と一緒になってC〜C−シクロアルキル又は3〜10員のヘテロシクロアルキル基を形成し、その際、RおよびRは場合によっては1又はそれ以上のRで置換されており、さらにRはRであってもよく、かつさらにRはR10であってもよく、
は水素、C〜C−アルキル、尿素、チオ尿素又はアセチルであり、場合によっては1又はそれ以上のRにより置換されているか、あるいは、
はXを有する5又は6員の飽和、不飽和又は芳香族のヘテロ環を形成してもよく、
、R、R及びRは同じか又は異なって、かつ独立して水素及びRから選択されるか、あるいは、
及びRは5又は6員の飽和、不飽和又は芳香族の炭素環又はヘテロ環を形成してもよく、その際、ヘテロ環はN、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有し、
は独立してハロゲン、CN、COOR11、OR11、C(O)N(R1111a)、S(O)N(R1111a)、S(O)N(R1111a)、S(O)11、N(R11)S(O)N(R11a11b)、SR11、N(R1111a)、OC(O)R11、N(R11)C(O)R11a、N(R11)S(O)11a、N(R11)S(O)R11a、N(R11)C(O)N(R11a11b)、N(R11)C(O)OR11a、OC(O)N(R1111a)、オキソ(=O)であり、その際、環は、少なくとも部分的に飽和されており、C(O)R11、C〜C−アルキル、フェニル、C〜C−シクロアルキル、又はN、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有する5又は6員の飽和、不飽和又は芳香族のヘテロシクリルであり、その際、C〜C−アルキル、フェニル、C〜C−シクロアルキル及びヘテロシクリルは、場合により1又はそれ以上のR10により置換されており、
10は独立してハロゲン、CN、OR11、S(O)N(R1111a)、S(O)N(R1111a)、S(O)11、N(R11)S(O)N(R11a11b)、SR11、N(R1111a)、OC(O)R11、N(R11)C(O)R11a、N(R11)S(O)11a、N(R11)S(O)R11a、N(R11)C(O)N(R11a11b)、N(R11)C(O)OR11a、OC(O)N(R1111a)、オキソ(=O)であり、その際、環は少なくとも部分的に飽和されており、C(O)R11、C〜C−アルキル、フェニル、C〜C−シクロアルキル又はヘテロシクリルであり、その際、C〜C−アルキル、フェニル、C〜C−シクロアルキル及びヘテロシクリルは場合によっては1又はそれ以上のRにより置換されており、
11、R11a、R11bは独立して水素、C〜C−アルキル、C〜C−アルキルC〜C10−シクロアルキル、C〜C10−シクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有するC〜C−アルキル3〜10員のヘテロシクロアルキル、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有する3〜10員のヘテロシクロアルキル、C〜C10−アリール、N、S及びOから選択された少なくとも1個のヘテロ原子を有する5〜10員のヘテロアリール、その際、R11、R11a、R11bは場合によっては1又はそれ以上のRにより置換されている]の化合物又はこれらの製薬学的に認容性の塩である。
【0029】
さらに前記化合物の製薬学的に認容性の塩の使用は、本発明に包含される。式(I)、(II)及び(III)の本発明の化合物の製薬学的に認容性の塩は、多くの有機又は無機の酸及び塩基と一緒に形成することができ、かつ、特に、前記の共有に係る我々の出願は中で開示されている(この出願は、ここで参考のために引用される)。
【0030】
タウロパシーは、微小管結合性タウに関与する疾病である。タウは、微小管動態、軸索内輸送及び神経線維成長を調整する上で重要な役割を有し、かつタウのこれらすべての機能は、部位特異的リン酸化により調整される。正常なリン酸化状態の破壊は、タウの不全及び結果としての神経変性疾病を生じる。神経変性状態を生じる異常なタウのリン酸化、いわゆるタウロパシーは、減少した微小管結合及び増加したタウ−タウ相互作用を生じ、これにより過リン酸化したタウたんぱく質が、神経原線維変化(NFTs)を形成する対になったらせん状フィラメント(PHFs)中で凝集する。
【0031】
本発明によれば、タウロパシーは、タウ含有細胞間神経原線維変化とアミロイド−βプラークとの同時の存在を示す疾病から選択される。たとえば、神経線維損傷は、アルツハイマー氏病、クロイツフェルトヤコブ病、拳闘家痴呆、ダウン症候群、ゲルストマン−ストロイスラー−シャインカー病、封入体性筋炎、プリオンタンパク質大脳アミロイド血管障害中で、アミロイド−βプラークと同時に存在する。
【0032】
一方、さらに本発明は、特異なアミロイド−β含有プラークを含まない疾病から選択されたタウロパシーを含む。明らかにアミロイド−β異常を含まない疾病の例は、前頭側頭型痴呆(FTD)、第17染色体に関連するパーキンソン症を伴う前頭側頭型痴呆(FTDT−17)、ピック病、もつれ(tangle)優勢型アルツハイマー氏病、皮質基底核変性、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン症痴呆症候群、好銀性顆粒痴呆、石灰沈着を伴うび慢性神経原繊維変性、ハラーホルデンスパッツ病、多発性統萎縮症、ニーマンピッグ病C型、進行性皮質下部神経膠症(progressive subcortial gliosis)、進行性核上性麻痺及び亜急性硬化性全脳炎である。
【0033】
極めて好ましい実施態様において、本発明のタウロパシーはアルツハイマー氏病に関する。
【0034】
本発明のMnk1及び/又はMnk2キナーゼのモジュレータは、診断又は治療的適用のために使用されていてもよい。診断的適用に関して、このモジュレータは、標識化された形で存在してもよく、たとえば、同位元素、たとえば放射性同位元素又は核磁気共鳴により検出されてもよい同位元素を含む形であってもよい。
【0035】
本発明のMnk1及び/又はMnk2キナーゼのモジュレータは、単一治療のための薬剤又は併用治療のために薬剤として使用することができる。したがって、本発明のモジュレータ化合物は、単独又は少なくとも1種の他の活性剤との組み合わせにおいて投与することができる。好ましくは、本発明の化合物は、タウロパシーの緩和、治療及び/又は予防に適した他の1種の薬剤と一緒に投与される。本発明の特に好ましい実施態様において、 本発明のモジュレータ化合物は、アルツハイマー氏病の緩和、治療及び/又は予防のために適した少なくとも1種の他の薬剤と一緒に投与する。特に、本発明のモジュレータ化合物と一緒に使用することができる他の薬剤は、NMDAアンタゴニスト、たとえばメマンチン又はアセチルコリンエステラーゼインヒビター、たとえばドネペジル、リバスチグミン及びガランタミンである。
【0036】
適切には当業者によって、本発明による化合物及び付加的な治療剤は、単一の投与形で処方されるか、あるいは、別個の投与形で存在していてもよく、かつ一緒に、すなわち同時にかあるいは連続的に投与してもよい。
【0037】
本発明の薬剤は、意図する投与方法に適した医薬組成物の形で処方されてもよい。本発明の化合物は、当業者に公知の方法で、たとえば注入によって、特に静脈内、筋肉内、経粘膜、皮下又は経会陰的(interperintoneal)注入及び/又は経口、局所、鼻腔内、吸入、エーロゾル及び/又は直腸投与等によって投与されてもよい。投与は局所的又は全身的であってもよい。
【0038】
この目的のために、本発明によるモジュレータ化合物は、製薬学的組成物として処方されていてもよい。製薬学的組成物は、適した製薬学的認容性の担持物質を含有していてもよく、この場合、この担持物質は賦形剤及び製剤への活性化合物の加工を容易にする助剤を含む。処方及び投与に関する技術及び適した製薬学的認容性の担持物質及び賦形剤は、Remington's Pharmaceutical Science Mack Publishing, Eston, PAの最新の版において見出すことができる。
【0039】
単一の投与形を処方するために担持物質及び/又は賦形剤と組み合わせてもよい本発明による化合物の量は、治療されるホスト及び投与の特別な様式により多様であってもよい。
【0040】
本発明における使用に適した製薬学的組成物は、活性成分が目的を達成するための有効量で含有されている組成物を包含する。有効量の決定は、当業者の能力の範囲内でおこなうことが可能である。本発明の目的のために、治療学的有効量は、一般には1〜500mg/日、好ましくは約10〜200mg/日及び最も好ましくは、10〜100mg/日から約1g/日の総用量までであり、この場合、これらは、一又は複数の用量で投与されてもよい。
【0041】
しかしながら、適切には、任意の特別な患者のための本発明の化合物の特定の投与レベルは、様々の要因、たとえば年齢、性別、体重、一般的な健康状態、食事、治療すべき患者の個々の応答、投与時間、治療すべき疾病の重症度、投与された特定の化合物の活性、投与形、投与様式及び同時投与の薬物に依存する。与えれられた状態のための治療的有効用量は、通常の試験により簡単に測定することができ、かつこれは、通常の医師又は薬剤師の能力及び判断の範囲内である。
【0042】
本発明の他の課題は、タウロパシーの診断、緩和、治療及び/又は予防のための薬剤をスクリーニングするための方法であり、この場合、この方法は、
(a)化合物を、少なくとも部分的に単離及び/又は精製されたMnk1及び/又はMnk2キナーゼと接触させ、
(b)タウたんぱく質のリン酸化上で、Mnk1及び/又はKnK2キナーゼの活性を決定し、かつ、
(c)Mnk1及び/又はMnk2キナーゼの活性を減少させる化合物を選択する、
工程を含む。
【0043】
タウたんぱく質は、好ましくはヒトタウたんぱく質又はこれらの変異体である。
【0044】
本発明の好ましい実施態様において、前記スクリーニング方法の工程(b)及び(c)中のMnk1及び/又はMnk2キナーゼの活性は、残基Ser262及び/又はSer356上のタウたんぱく質のリン酸化を測定することによって決定する。
【0045】
本発明の他の課題は、タウロパシーを診断、緩和、治療及び/又は予防するための薬剤であり、この場合、この方法は、
(a)Mnk1及び/又はMnk2キナーゼを発現する能力を有する細胞を提供するか、及び/又はMnk1及び/又はMnk2キナーゼを含有する脳抽出物を提供し、
(b)化合物と細胞及び/又は脳抽出物とを接触させ、
(c)Mnk1及び/又はMnk2キナーゼの量及び/又は活性を決定し、かつ、
(d)Mnk1及び/又はMnk2キナーゼの量及び/又は活性を減少させる化合物を選択する工程を含む。
【0046】
このスクリーニングの他の方法の工程(c)及び工程(d)中のMnk1及びMnk2キナーゼの活性は、タウたんぱく質のリン酸化の度合いによって測定される。タウたんぱく質は、好ましくはヒトタウたんぱく質である。
【0047】
本発明の極めて好ましい実施態様において、前記スクリーニング方法の工程(c)及び(d)中のMnk1及び/又はMnk2キナーゼの活性は、残基Ser262及び/又はSer356上のタウたんぱく質のリン酸化を測定することによって決定する。
【0048】
さらに本発明は、Mnk1及び/又はMnk2キナーゼのモジュレータの製薬学的有効量をこれを必要とする対象に投与することを含む、タウロパシーの診断、緩和、治療及び/又は予防のための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】in vitroでMnk1及びMnk2によるヒトタウ中でSer262及びSer356のリン酸化を示すウエスタンブロット分析を示す図
【図2】in vitroでMnk1及びMnk2によるヒトタウ中でのSer262(A)及びSer356(B)のリン酸化の、特異的MnkインヒビターEDJ101401での阻害を示すウエスタンブロット分析を示す図
【図3】in vitroでMnk1及びMnk2によるヒトタウ中でのSer262(A)及びSer356(B)のリン酸化の、特異的MnkインヒビターEDJ100869での阻害を示すウエスタンブロット分析を示す図
【図4】Mnk1及び/又はMnk2のインヒビターとしての好ましいピラゾロピリミジン化合物を示す表
【図5】Mnk1及び/又はMnk2のインヒビターとしての好ましいチエノピリミジン化合物を示す表
【0050】
図1は、in vitroでMnk1及びMnk2によるヒトタウ中でSer262及びSer356のリン酸化を示すウエスタンブロット分析を示す。Erk2は、Mnkを活性化するために使用され、かつMnk反応中に含まれる。Erk2単独では、ヒトタウ中Ser262及びSer356をリン酸化しない。PKAリン酸化は、ポジティブコントロールとして使用される。キナーゼ反応は、0.5μMのヒトタウ及び500μMのATPの存在下で、120分に亘って37℃でインキュベートする。全量タウ(total Tau)は、ローディングコントロールとして役立つ。
【0051】
図2において、特異的MnkインヒビターEDJ101401は、Mnk1及びMnk2によるヒトタウ中のSer262(A)及びSer356(B)のin vitroリン酸化を、用量依存的に阻害する。Erk2(5nM)は、Mnkを活性化するために使用し、かつMnk反応中に含まれる。Erk2は、ヒトタウ中のSer262及びSer356をリン酸化しない。PKAリン酸化は、ポジティブコントロールとして使用される。キナーゼ反応は、0.5μMのヒトタウ及び500μMのATPの存在下で、120分に亘って37℃でインキュベートする。全量タウは、ローディングコントロールとして役立つ。
【0052】
図3において、特異的MnkインヒビターEDJ100869は、Mnk2によるヒトタウ中のSer262(A)及びSer356(B)のin vitroリン酸化を、用量依存的に阻害する。PKAリン酸化は、ポジティブコントロールとして使用される。キナーゼ反応は、0.5μMのヒトタウ及び500μMのATPの存在下で、120分に亘って37℃でインキュベートする。全量タウは、ローディングコントロールとして役立つ。
【0053】
図4において、Mnk1及び/又はMnk2のインヒビターとしての好ましいピラゾロピリミジン化合物を示す。
【0054】
図5において、Mnk1及び/又はMnk2のインヒビターとしての好ましいチエノピリミジン化合物を示す。
【0055】
例1
1.Mnkキナーゼによるヒトタウのin vitroリン酸化
キナーゼ反応:キナーゼ反応は、30μlの全量の反応バッファー(20mM HEPES/KOH pH7.4、10mM MgCl2、2mM DTT、0.1% Pluronic F127、0.01% BSA)中で実施し、この場合、このバッファーは、500μMのATP、0.5μMのヒト組換えタウ(USBiological, T1040-10)、インヒビター及びキナーゼを図のように含むものである。ヒトMnk1-GST 及びMnk2-GSTは、E.Coli中で発現させ、かつAkta Explorer 100 (Amersham)により精製し、ヒト組換えErk2 (DeveloGen)により前活性化した。アリコートを−80℃で使用するまで貯蔵した。組換えヒトPKA(Calbiochem, 539482)は、ポジティブコントロールとして使用した。反応のすべての成分を、反応バッファー中で前希釈した。反応を120分に亘って30℃でインキュベートし、かつ20mMのEDTAの添加により停止させた。試料をイムノブロッティングにより分析した。
【0056】
イムノブロッティング:Laemmli試料バッファー(Biorad)を、停止させたキナーゼ反応に添加し、SDS-PAGEをおこない、かつニトロセルロースメンブレン(Schleicher & Schull)上でエレクトロブロットをおこなった。トランスファーされたメンブレンを1/1000(v/v)抗タウ(anti Tau)(phospho S262)又は抗タウ(phospho S356)抗体(Abeam、ab4856及び ab4857)を含有するNET−Gバッファー(50 mM Tris/HCI pH 7.5、 5 mM EDTA、 150 mM NaCI、 0.05% Triton X-100、 0.25% (w/v) ゼラチン)を用いて、4℃で一晩に亘ってインキュベートした。NET−Gバッファーで洗浄した後に、メンブレンを1/5000(v/v)HRP 結合抗ウサギIgG抗体(Pierce)を含有するNET−Gバッファーで、2時間に亘って室温で処理した。
【0057】
ローディングコントロールのために、メンブレンをストリッピングバッファー(200 mM グリシン/HCI(pH2.2)、0.1% SDS、0.1% Tween 20)で、3時間に亘って室温でストリッピングした。その後にメンブレンを1/4000(v/v)抗タウ抗体(Abeam、ab19326)を含むNET−Gバッファーで処理した。NET−Gで洗浄した後に、メンブレンを1/5000(v/v)HRP−結合抗ヤギIgG抗体 (DakoCytomation)を含有するNET−Gバッファーでインキュベートした。シグナルをECL Super Signal West Dura kit (Pierce)を用いて化学ルミネセンスで検出した。
【0058】
2.結果
図1は、タウのリン酸化が、微小管結合領域上の適切な部位に相当するリン酸化部位Ser262及びSer356でMnk1及びMnk2により影響を受けることを示す。これらのリン酸化部位は、タウロパシーの発生及び特にアルツハイマー氏病に関与する。
【0059】
図2は、チエノピリミジン物質EDJ101401によるMnk1及びMnk2依存型タウリン酸化の用量依存的阻害を示す。
【0060】
図3はピラゾロピリミジン化合物EDJ100869によるMnk1及びMnk2依存型タウリン酸化の用量依存的阻害を示す。
【0061】
図4及び5は、Mnkインヒビターの他の好ましい例を示す。
【0062】

【0063】

【0064】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウロパシーの診断、緩和、治療及び/又は予防のための薬剤を製造するためのMnk1及び/又はMnk2キナーゼのモジュレータの使用
【請求項2】
モジュレータが、Mnk1及び/又はMnk2キナーゼに対する抗体又は抗体フラグメント、アンチセンス分子、リボザイム又はRNAi分子及び/又は低分子量有機性分子である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
モジュレータがインヒビターである、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
モジュレータが、チエノピリミジン、ピラゾロピリミジン又はピロロピリミジン化合物又はその製薬学的に認容性の塩である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
インヒビターが、EDJ101401化合物又はその製薬学的に認容性の塩である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
インヒビターが、EDJ100869化合物又はその製薬学的に認容性の塩である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
タウロパシーが、タウ含有細胞間神経原線維変化(NFTs)及びアミロイド−β含有プラークの同時発生を示す疾病から選択される、請求項1から6までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
タウロパシーが、アルツハイマー氏病、クロイツフェルトヤコブ病、拳闘家痴呆、ダウン症候群、ゲルストマン−ストロイスラー−シャインカー病、封入体性筋炎、プリオンタンパク質大脳アミロイド血管障害から成る群から選択される、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
タウロパシーが、特異なアミロイド−β含有プラークを有しない疾患から選択される、請求項1から6までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
タウロパシーが、前頭側頭型痴呆(FTD)、第17染色体に関連するパーキンソン症を伴う前頭側頭型痴呆(FTDT−17)、ピック病、もつれ優勢型アルツハイマー氏病、皮質基底核変性、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン症痴呆症候群、好銀性顆粒痴呆、石灰沈着を伴うび慢性神経原繊維変性、ハラーホルデンスパッツ病、多発性統萎縮症、ニーマンピッグ病C型、進行性皮質下部神経膠症、進行性核上性麻痺及び亜急性硬化性全脳炎から成る群から選択される、請求項1から6及び9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
タウロパシーがアルツハイマー氏病である、請求項1から10までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
薬剤が診断薬である、請求項1から11までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
薬剤が治療薬である、請求項1から11までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
単一治療のための薬剤を製造するための、請求項1から13までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
併用治療のための薬剤を製造するための、請求項1から13までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
タウロパシーの緩和、治療及び/又は予防のために適した少なくとも1種の薬剤と組合せての請求項15に記載の使用。
【請求項17】
アルツハイマー氏病の緩和、治療及び/又は予防のために適した少なくとも1種の薬剤と組み合わせての請求項15に記載の使用。
【請求項18】
他の薬剤がNMDAアンタゴニスト又はアセチルコリンエステラーゼインヒビターである、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
NMDAアンタゴニストがメマンチンであり、かつアセチルコリンエステラーゼインヒビターがドネペジル、リバスチグミン及びガランタミンから選択される、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
タウロパシーの診断、緩和、治療及び/又は予防のための薬剤をスクリーニングする方法において、
(d)化合物を、少なくとも部分的に単離及び/又は精製されたMnk1及び/又はMnk2キナーゼと接触させ、
(e)Mnk1及び/又はMnk2キナーゼの活性を、タウたんぱく質のリン酸化上で決定し、かつ、
(f)Mnk1及び/又はMnk2キナーゼの活性を減少させる化合物を選択する、
工程を含む、前記方法。
【請求項21】
タウたんぱく質がヒトタウたんぱく質である、請求項17に記載のスクリーニング方法。
【請求項22】
工程(b)及び(c)中のMnk1及び/又はMnk2キナーゼの活性を、残基Ser262及び/又はSer356上のタウたんぱく質のリン酸化を測定することによって決定する、請求項17又は18に記載のスクリーニング方法。
【請求項23】
(e)Mnk1及び/又はMnk2キナーゼを発現する能力を有する細胞を提供するか、及び/又はMnk1及び/又はMnk2キナーゼ含有脳抽出物を提供し、
(f)化合物を細胞及び/又は脳抽出物と接触させ、
(g)Mnk1及び/又はMnk2キナーゼの量及び/又は活性を決定し、かつ、
(h)Mnk1及び/又はMnk2キナーゼの量及び/又は活性を減少させる化合物を選択する工程を含む、タウロパシーの診断、緩和、治療及び/又は予防のための薬剤をスクリーニングする方法。
【請求項24】
工程(c)及び(d)中でMnk1及び/又はMnk2キナーゼの活性を、タウたんぱく質のリン酸化度合いにより決定する、請求項20に記載のスクリーニングの方法。
【請求項25】
タウがヒトタウたんぱく質である、請求項24に記載のスクリーニング方法。
【請求項26】
工程(c)及び(d)中のMnk1及び/又はMnk2キナーゼの活性を、残基Ser262及び/又はSer356上のタウたんぱく質のリン酸化を測定することにより決定する、請求項23又は25に記載の方法。
【請求項27】
Mnk1及び/又はMnk2キナーゼのモジュレータの薬剤的有効量をこれを必要とする対象に投与することを含む、タウロパシーの診断、緩和、治療及び/又は予防のための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【図4−5】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図5−4】
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【図5−5】
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【図5−6】
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【図5−7】
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【図5−8】
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【図5−9】
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【図5−10】
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【図5−11】
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【図5−12】
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【図5−13】
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【図5−14】
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【図5−15】
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【図5−16】
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【図5−17】
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【図5−18】
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【図5−19】
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【図5−20】
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【公表番号】特表2011−504474(P2011−504474A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534409(P2010−534409)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009880
【国際公開番号】WO2009/065596
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(510053400)ベーリンガー インゲルハイム インテルナツィオナール ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (3)
【氏名又は名称原語表記】Boehringer Ingelheim International GmbH
【住所又は居所原語表記】Binger Strasse 173, D−55216 Ingelheim am Rhein, Germany
【Fターム(参考)】