説明

アルツハイマー病を処置するためのヘリウムガスボーラス中のクルクミンの鼻腔投与

ヘリウムガスのボーラス内のクルクミンプロドラッグ及びクルクミンハイブリッドを脳へと鼻腔内投与して、アルツハイマー病を処置する。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2006年9月22日出願の、「アルツハイマー病を処置するための脳に対するクルクミンの鼻腔内投与(Intranasally Administering Curcumin to the Brain to Treat Alzheimer's Disease)」(代理人整理番号COD−5140)と題された米国特許出願第11/534,384号の一部継続出願であり、その明細書全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
〔背景技術〕
アルツハイマー病(AD)において、細胞内膜からのβアミロイドタンパク質前駆体の異常な切断は、多くの場合、正常なクリアランス工程により完全には除去されないタンパク質Aβ1−42を生成する。可溶性βアミロイドオリゴマーは、高い神経毒性を有することが報告されている。更に、時間と共にこの可溶性タンパク質の集合は、βアミロイドタンパク質Aβプラークとして脳組織内に沈着して、神経細胞の局所破壊をもたらす。またAβプラークの沈着は、プラークを異物として認識する小膠細胞及びマクロファージによる炎症性応答を誘発すると考えられている。これらの細胞は、炎症促進性サイトカイン及び活性酸素種(ROS)を放出することにより、プラーク沈着に応答すると考えられる。炎症性応答は、脳組織を有害なプラークから浄化する目的で誘発され得るが、現在では、この炎症も局所神経組織を障害し、それによりADを悪化させると考えられている。βアミロイドの可溶性オリゴマー又は「ADDL」は、AD発病に関係する神経毒性種である。ヤン(Yang)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)、280巻、7号、2005年2月18日、5892〜5901頁。
【0003】
書籍「記憶治療(Memory Cure)」(2003年、マグローヒル(McGraw-Hill)、ニューヨーク州ニューヨーク)にて、マジッド・フォトゥフィ(Majid Fotuhi)博士は:「アルツハイマー病を処置する魔法の薬物を探求している製薬会社は、クルクミンに高い注目を払う必要がある」と記述している。
【0004】
0.1〜1.0μMのクルクミンは、アミロイドβオリゴマーのインビトロ形成を阻害し、また、分化した神経芽腫細胞内でAβ1〜42オリゴマーのインビトロ毒性を遮断することが報告されている。ヤン(Yang)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)、280巻、7号、2005年2月18日、5892〜5901頁。クルクミンはまた、アルツハイマーのトランスジェニックマウスの飼料中に、160ppmの低用量で提供された際に、可溶性βアミロイドの量を43%低下させた。リム(Lim)、ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス(J. Neurosci.)、2001年11月1日、21巻(21号)、8370〜8377頁。
【0005】
クルクミンはまた、βアミロイドの沈着を有益に低下させるように思われる。中年のメスのスプラーグ・ドーリー(Sprague-Dawley)ラットにおいて、500ppmの飼料クルクミンはβアミロイド注入により誘導されたアミロイドβ沈着を約80%低下させた。フローチー(Frautschy)、ニューロバイオロジー・オブ・エイジング(Neurobiol. Aging)、22巻、2001年、993〜1005頁。クルクミンはまた、アルツハイマーのトランスジェニックマウスの飼料中に160ppmの低用量で提供された際に、βアミロイドプラーク負荷を約30〜40%低下させた。リム(Lim)、ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス(J. Neurosci.)、2001年11月1日、21巻(21号)、8370〜8377頁。このことは、ADを原因とする酸化及び炎症性損傷が、アミロイドβ沈着に対する小膠細胞応答に関連していると考えられるため、有利である。
【0006】
その可溶性βアミロイドに対する有益な作用に加えて、クルクミンは、相当の抗酸化性の性質を有し、また炎症促進性サイトカインの発現も阻害する。フランク(Frank)、アナルズ・オブ・クリニック・サイキアトリー(Ann. Clin. Psychiatry)、2005年10月〜12月、17巻、4号、269〜86頁、及び、コール(Cole)、ニューロバイオロジー・オブ・エイジング(Neurobiol. Aging)、26S巻(2005年)、S133〜S136頁。
【0007】
クルクミンはADの多数の標的に有効に作用することができるため、年齢70〜79歳のインドの人口における4.4倍低いADの発病率は、食事によるクルクミン消費の高さが原因であると仮定されている。リム(Lim)、ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス(J. Neuroscience.)、2001年11月1日、21巻(21号)、8370〜8377頁。80歳又はそれを超える年齢の人々において、インドにおける年齢調整アルツハイマー有病率は、米国の割合のおよそ1/4(4%対15.7%)である。フローチー(Frautschy)、ニューロバイオロジー・オブ・エイジング(Neurobiol. Aging)、22巻、2001年、993〜1005頁。クルクミンは、総説において、長期AD研究に関する最も有望な候補の1つとして確認されている。フランク(Frank)、アナルズ・オブ・クリニック・サイキアトリー(Ann. Clin. Psychiatry)、2005年10月〜12月、17巻、4号、269〜86頁、及び、コール(Cole)、ニューロバイオロジー・オブ・エイジング(Neurobiol. Aging)、26S巻(2005年)、S133〜S136頁。クルクミンは、現在、UCLAアルツハイマーセンターにおいて、軽度から中程度のAD患者の処置におけるFDA承認IND臨床試験の対象である。コール(Cole)、ニューロバイオロジー・オブ・エイジング(Neurobiol. Aging)、26S巻(2005年)、S133〜S136頁。
【0008】
上述したAD症状に対するクルクミンのインビボ効果は、食事内のクルクミンの提供により達成されたため、クルクミンは、有効に血管脳関門を横断できると思われる。クルクミンは高い親油性を有するため、血液脳関門を容易に横断することが期待される。フローチー(Frautschy)、ニューロバイオロジー・オブ・エイジング(Neurobiol. Aging)、22巻、2001年、993〜1005頁。実際に、インビボ研究において、加齢Tgマウスに末梢注入されたクルクミンが、血管脳関門を横断し、アミロイドプラークに結合することが示されたことを報告している。ヤン(Yang)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)、280巻、7号、2005年2月18日、5892〜5901頁。
【0009】
〔発明の開示〕
〔課題を解決するための手段〕
クルクミンの有益な効果にも関わらず、本発明者らはクルクミンの経口送達に関連して、多数のバイオアベイラビリティ上の問題が存在することに注目してきた。
【0010】
第一に、クルクミンはヒト消化管を容易に貫通せず、また腸をベースとする代謝及び拒絶に付されるため、血漿に入る経口クルクミンは1%未満である。第二に、血流に入る少量のクルクミンは、肝臓及び腎臓により急速に代謝される。したがって、クルクミンが高い親油性を有していても(したがって容易に血液脳関門を横断しても)、非常に少量の経口投与されたクルクミンのみが血清及び脳組織中に記録(register)される。1つの研究において、一日当たり3.6gまでのクルクミンの消化は、約10nMのみの程度の血漿クルクミン濃度を生成することが見出された。シャーマ(Sharma)、クリニカル・キャンサー・リサーチ(Clin. Cancer. Res.)、2004年10月15日、10巻(20号)、6847〜6854頁。第二の研究は、一日当たり6〜8gまでのクルクミンの消化が、約0.51〜1.77μMの範囲内のピーク血清濃度を生成することを見出した。第三に、4,000〜8,000mg/日の範囲内の高いクルクミンの経口用量により、おそらくクルクミンの代謝産物により引き起こされる頭痛、発疹及び下痢などの問題が起きることが報告されている。したがって、上記に引用した血漿クルクミン濃度(10nM〜1.77μM)は、クルクミンの経口投与の実際の上限を表すものと思われる。ヤン(Yang)、前出、は、5μMを超えるクルクミン濃度は、経口投与により脳内に生じない可能性があると結論付けている。事実、ワン(Wang)は、クルクミン30mg/kgの注射が、約0.15ng/mgのみの脳組織内でのピーククルクミン濃度を生じることを報告しており、これは約0.40μMである。
【0011】
約1μM程度の脳組織濃度において、全てではないがいくつかのクルクミンの有益な治療的特性が実現されると思われる。例えば、0.1〜1.0μMのクルクミンが、アミロイドβオリゴマーのインビトロ形成を阻害し、また、分化した神経芽腫細胞内でAβ1-42オリゴマーのインビトロ毒性を遮断することが報告されている。ヤン(Yang)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)、280巻、7号、2005年2月18日、5892〜5901頁。しかしながら、より高いクルクミン濃度でのみ実現される、クルクミンのAD関連の治療的特性が多数存在するように思われる。例えば、ヤン(Yang)は、0.25〜4μMの濃度のクルクミンは有毒なβアミロイドオリゴマーのインビトロでの形成を最小限阻止するのみであるが、16〜64μMの濃度のクルクミンは、有毒なβアミロイドオリゴマーの形成を完全に阻止することを報告している。ヤン(Yang)は、クルクミンがβアミロイドの銅結合を阻害する可能性を有することにも注目しているが、クルクミンの銅に対する結合活性と、脳内での可能な濃度とがCNSβアミロイド金属結合を直接変更するに十分であるか否かは明確でないと結論付けている。
【0012】
本発明は、有効量のクルクミンを含有する製剤の鼻腔内投与に関する。詳細には、本発明は、有効量のクルクミンを含有する製剤を、篩板を横切って鼻粘膜へ、そして脳内へと鼻腔内投与して、例えばADなどの神経変性疾患を処置することに関する。
【0013】
本発明の目的は、クルクミンを鼻腔経路により投与して、クルクミンを鼻粘膜を介して脳へ送達することによりクルクミンの脳バイオアベイラビリティを改善し、またその有益な効果に必要とされる用量を低下させることにある。クルクミンは高い親油性を有するため、鼻腔の高い位置にある鼻粘膜を容易に通過し、嗅神経細胞に入ることにより脳に至る。この送達モードは、より少量のクルクミンを循環内へ通過させるため、クルクミンの代謝産物の血漿濃度が低くなり、したがって副作用が低下するであろう。鼻腔内送達は、鼻粘膜を介した受動拡散により脳への薬物バイオアベイラビリティを改善し、それにより経口投与されたクルクミンの血漿及び脳濃度を有意に低下させる大量の肝臓の初回通過代謝を回避する。したがって、副作用を低下させる小用量のクルクミンを投与することができ、薬物はより耐性に優れ、より有効になるであろう。クルクミンなどの親油性薬物は、一般に、経口又は静脈内投与後と比較して鼻腔内投与後に高い脳レベルを達成する。したがって、クルクミンの鼻腔投与経路は、脳(作用部位)内でのクルクミンの有効性を高める助けとなり得る。また、クルクミンは肝臓により大量に代謝されるため、鼻腔経路による投与は、同様に肝臓により大量に代謝される他の薬物との薬物相互作用を低減する助けとなり得る。最後に、鼻腔投与されたクルクミンは、鼻粘膜を介して、辺縁系を介して海馬及び扁桃体に接続する嗅球内へと受動的に拡散するため、クルクミンの鼻腔内投与は、脳の海馬及び扁桃体に優先的に沈着すると思われる。これらの領域は、アルツハイマー病の起源部位であると思われる。
【0014】
したがって、本発明によれば、クルクミンを哺乳動物の脳に投与するための方法が提供され、該方法は:
a)クルクミンを含有する薬学的組成物を哺乳動物の鼻腔の上部1/3に適用し、ここでクルクミンは鼻粘膜を介して吸収され、哺乳動物の脳に輸送される、ことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1a】本発明の新規なクルクミンプロドラッグ(1)〜(30)を開示。
【図1b】本発明の新規なクルクミンプロドラッグ(1)〜(30)を開示。
【図1c】本発明の新規なクルクミンプロドラッグ(1)〜(30)を開示。
【図1d】これらのプロドラッグを作製するための候補親化合物である好ましいクルクミン類似体(31)〜(34)を開示。
【0016】
図2〜図16は、クルクミンと、様々な他の天然ポリフェノールとのハイブリッドである様々なクルクミン誘導体を開示する。これらの各誘導体は、クルクミンの中間のジケトン構造がフェノール基で置き換えられているトリフェノール化合物である。得られた化合物は、クルクミンの2つのフェノール間の間隔を保持し、また追加のポリフェノールのビフェノール間隔も所有している。
【0017】
【図2】クルクミン、レスベラトロール、及び2つのクルクミン−レスベラトロールハイブリッドの構造を開示。各ハイブリッドがどのようにクルクミン及びレベラトロール(reveratrol)のそれぞれのフェノール間の間隔を保持しているかに注目されたい。
【図3】クルクミン−レスベラトロールIハイブリッドの作製方法を開示。
【図4】クルクミン−レスベラトロールIIハイブリッドの作製方法を開示。
【図5】中央フェノール基及び側部フェノール基のそれぞれにおいて3つのヒドロキシル基を有するクルクミン−レスベラトロールハイブリッドの作製方法を開示。
【図6】クルクミン、レスベラトロール及びそのハイブリッドを開示し、ここで天然化合物の全てのフェノールがハイブリッドで表され、トリヒドロキシル側部フェノール基及びジヒドロキシル中央フェノール基を提供。
【図7】図6のクルクミン−レスベラトロールハイブリッドの作製方法を開示。
【図8】図6のハイブリッドと同様であるが、ベースのクルクミン分子のメトキシ基が維持されている。
【図9】クルクミン、オキシレスベラトロール及びそのハイブリッドを開示し、ここで天然化合物の全てのヒドロキシル/フェノールがハイブリッドで表され、トリヒドロキシル側部フェノール基及びトリヒドロキシル中央フェノール基を提供。
【図10】クルクミン、ピセタノール及びそのハイブリッドを開示し、ここで天然化合物の全てのヒドロキシル/フェノールがハイブリッドで表され、トリヒドロキシル側部フェノール基及びトリヒドロキシル中央フェノール基を提供。
【図11】クルクミン−レスベラトロールハイブリッドの作製方法を開示し、ここで天然化合物の全てのヒドロキシル/フェノールがハイブリッドで表され、トリヒドロキシル側部フェノール基及びジヒドロキシル中央フェノール基を提供。
【図12】クルクミン、BDMC、レスベラトロール、及びそれらのクルクミンハイブリッドを開示し、ここで天然化合物の全てのフェノールがハイブリッドで表され、ヒドロキシルデメトキシ側部フェノール基及びヒドロキシ又はジヒドロキシル中央フェノール基を提供。
【図13】ヒドロキシルデメトキシ側部フェノール基及びヒドロキシ中央フェノール基を有する、図12の化合物の作製方法を提供。
【図14】ヒドロキシルデメトキシ側部フェノール基及びジヒドロキシ中央フェノール基を有する、図12の化合物の作製方法を提供。
【図15】クルクミン、フィステイン(fistein)及びそのハイブリッドを開示し、ここで天然化合物の全てのフェノールがハイブリッドで表され、ジヒドロキシルフェノール基及びヒドロキシ中央フェノール基を、2つの天然化合物と共通する位置に提供。
【図16】図15の化合物の作製方法を提供。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本明細書で使用されるように、クルクミンは、ジフェルロイルメタン又は(E,E)−1,7−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1,6−ヘプタジエン−3,5,−ジオンとしても既知である。クルクミンは、天然源である、ショウガ(Zingiberaceae)科の一員である多年生草本クルクマ・ロンガ(Curcuma longa L.)から誘導することができる。スパイスのターメリックは、クルクマ・ロンガ(Curcuma longa L.)の根茎から抽出され、ヒンドゥー及び漢方医学で使用される伝統的な医学処置に長い間関連してきた。ターメリックは、これらの伝統的な処置方法において経口又は局所投与された。
【0019】
いくつかの実施形態において、クルクミンは鼻腔内投与されて、少なくとも0.1μM、より好ましくは少なくとも1μM、更に好ましくは少なくとも5μM、更により好ましくは少なくとも20μMの脳組織濃度を生成する。
【0020】
理論に縛られるものではないが、少なくとも約0.2mg/kgの連日鼻腔内用量が、上記に引用した脳組織濃度を生成するに十分であろうと考えられる。より好ましくは、用量は、少なくとも1mg/kg、より好ましくは少なくとも10mg/kgである。
【0021】
クルクミンを含む薬学的組成物を、上記に引用した濃度で、クルクミンが鼻粘膜を介して吸収されて、哺乳動物の脳に輸送される哺乳動物の鼻腔の上部1/3に適用すると、脳組織内でこれらのより高い濃度のクルクミンが達成されると考えられる。
【0022】
分子は、親油性が大きい程、その鼻粘膜及び血管脳関門を横切る傾向が高くなることが既知である。この点において、クルクミンのオクタノ−ル:水分配係数(log10PC)は3.29であることが報告されている。したがって、クルクミンは非常に親油性であり、鼻粘膜及び血管脳関門を受動拡散によって容易に横切る筈である。
【0023】
更に血管脳関門が、例えば薬物などの多数の重要な分子を流出するp−糖タンパク質(P−gp)トランスポータを含むことは既知である。したがって、これらのポンプのクルクミンに向かう挙動は、クルクミンが鼻粘膜及び血管脳関門を横断するか否かの問題に関係する。クルクミンはP−gpの発現を低下させることが報告されている(ホランド(Holland)、バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochem. Pharmacol.)、2006年4月14日、71巻(8号)、1146〜1154頁))ため、クルクミンはこれらのP−gpポンプに拮抗すると考えられる。そのP−gp発現を低下させる能力に加えて、クルクミンが肝P−gpの機能を調節できることが示唆されている。低い濃度のPgpを含有する新たに撒かれた肝細胞、及び高い濃度のPgpを含有する72時間培養した肝細胞の両方において、Pgp仲介による輸送に関する特定の機能的試験に相当するローダミン−123(R−123)流出が、クルクミンにより用量依存的に阻害された(ロミティN(Romiti N)、トンジアニR(Tongiani R)、セルベリF(Cervelli F)、チエリE.(Chieli E.)「ラット肝細胞の初代培養におけるP−糖タンパク質上のクルクミンの効果(Effects of curcumin on P-glycoprotein in primary cultures of rat hepatocytes)」ライフ・サイエンシズ(Life. Sci.)、1998年、62巻、2349〜2358頁)。
【0024】
クルクミン(log10PC)のオクタノ−ル:水分配係数が3.29であり、またクルクミンはP−gpに拮抗することが示されているため、クルクミンは血管脳関門を容易に横断すると考えられる。この点において、これらのクルクミンの特性を、ヒドロキシジンのそれと比較することは有益である。キャンディマラ(Kandimalla)、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマスーティックス(Int'l. J. Pharmaceutics)、302巻(2005年)、133〜144頁により、ヒドロキシジンHClは分子量447.8を有し、log Doct/pH7.4のオクタノ−ル:水分配係数は2.37〜2.87のみであり、P−gpを阻害する能力を有することが報告されている。キャンディマラ(Kandimalla)によれば、「P−gpを阻害する(その)能力と結合した(ヒドロキシジン)の親油性により、(それは)鼻粘膜を横切って自由に浸透する。」クルクミンは更にヒドロキシジンと比較して小さい分子量を有し、有意により高い親油性を有し、p−gpの機能及び発現の両方を低下させることができるため、クルクミンは鼻粘膜及び血管脳関門をヒドロキシジンよりも更に容易に通過できる筈であると合理的に結論される。
【0025】
クルクミン(MW=368)及びカルバマゼピン(MW=236)は類似する分子量を有し、それぞれ親油性が高いため、カルバマゼピン脳濃度において鼻腔内カルバマゼピンの効果は非常に有益である。バラカット(Barakat)、ジャーナル・オブ・ファーマシー・アンド・ファーマコロジー(J. Pharm. Pharmacol.)、2006年1月、58巻(1号)、63〜72頁)、は、鼻腔内投薬(12μg/g)により得られたカルバマゼピンのピーク脳組織濃度は、経口投薬により得られたものと比較して約4倍高かったことを報告している。
【0026】
【表1】

【0027】
したがって、クルクミンがカルバマゼピンと同様のモル量で脳に入るとすれば(合理的に期待されるように)、得られる濃度は、有毒なオリゴマー形成とAβ金属結合の効果との両方が完全に阻止され得る。クルクミンの0.2mg/kgを超える更に高い投与量が使用される場合、得られる脳組織濃度は、更に高くなることが期待されるであろう。
【0028】
クルクミンの用量は、その鼻粘膜との接触を高めるために粘膜付着剤(mucoadhesive)と組み合わせ得る。いくつかの実施形態において、粘膜付着剤は、親水性ポリマー、ヒドロゲル及び熱可塑性ポリマーよりなる群から選択される。好ましい親水性ポリマーは、セルロースベースのポリマー(例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースなど)、カルボマーキトサン及び植物ゴムを含む。
【0029】
いくつかの実施形態において、粘膜付着剤は、水溶性高分子量セルロースポリマーである。高分子量セルロースポリマーは、少なくとも約25,000、好ましくは少なくとも約65,000、より好ましくは少なくとも約85,000の平均分子量を有するセルロースポリマーを指す。使用される正確な分子量のセルロースポリマーは、一般に、所望の放出プロファイルに依存するであろう。例えば、約25,000の平均分子量を有するポリマーは、約8時間までの持続放出時間を有するコントロールリリース組成物に有用である一方、約85,000の平均分子量を有するポリマーは、約18時間までの持続放出時間を有するコントロールリリース組成物に有用である。より長い放出時間を有する組成物中での使用には、更に大きい分子量のセルロースポリマーが想定される。例えば、180,000又はそれ以上の平均分子量を有するポリマーは、20時間又はそれ以上の持続放出時間を有するコントロールリリース組成物に有用である。
【0030】
コントロールリリース担体層は、好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びそれらの混合物よりなる群から選択される水溶性セルロースポリマー、好ましくは高分子量セルロースポリマーからなる。これらの中でも、最も好ましい水溶性セルロースポリマーは、HPMCである。好ましくはHPMCは、高分子量HPMCであり、特定の分子量が選択されて所望の放出プロファイルを提供する。
【0031】
HPMCは、好ましくは、少なくとも約25,000、より好ましくは少なくとも約65,000、最も好ましくは少なくとも約85,000の平均分子量を有する高分子量HPMCである。HPMCは、好ましくは、80%以上のHPMC粒子が80メッシュ篩を通るような粒径を有する微粒子からなる。HPMCは、組成物の全重量に基づき、約4〜約24重量%、好ましくは約6〜約16重量%、より好ましくは約8〜約12重量%の量で含まれ得る。
【0032】
クルクミンを鼻粘膜に送達するのにヒドロゲルを使用することもできる。「ヒドロゲル」は、有機ポリマー(天然又は合成)が硬化又は固化して、水又は他の溶液の分子を捕捉してゲルを形成する3次元開放格子構造を形成する物質である。固化は、例えば凝集、凝固、疎水性相互作用又は架橋により起こり得る。本発明で使用されるヒドロゲルは、急速に固化してクルクミンを適用部位に保持し、それにより部位からの望ましくない移動を排除する。ヒドロゲルは生体適合性でもあり、例えばヒドロゲル中に懸濁される細胞に対して無毒である。「ヒドロゲル−誘導物質(inducer)組成物」は、所望のクルクミンを含有するヒドロゲルの懸濁液である。ヒドロゲル−誘導物質組成物は、明確で正確に制御できる密度を有する誘導物質の均一な分配を形成する。更に、ヒドロゲルは、非常に大きな密度の誘導物質を支持することができる。加えて、ヒドロゲルは栄養物及び老廃物を誘導物質へ及び誘導物質から拡散させ、このことは組織増殖を促進する。
【0033】
本発明での使用に好適なヒドロゲルは、含水ゲル、すなわち、親水性及び水不溶性により特徴付けられるポリマーを含む。例えば、その開示が参照により本明細書に組み入れられる「高分子大辞典(Concise Encyclopedia of Polymer Science and Engineering)」、マーク(Mark)ら編、ワイリー・アンド・サンズ(Wiley and Sons)、1990年の「ヒドロゲル」、458〜459頁を参照されたい。
【0034】
好ましい実施形態において、ヒドロゲルは、微細な粉末状の合成ヒドロゲルである。好適なヒドロゲルは、例えば選択されたマトリクスポリマーとの適合性、及び生体適合性などの性質の最適な組み合わせを示す。ヒドロゲルは、以下の任意のものを含み得る:多糖、タンパク質、ポリホスファゼン、ポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)ブロックポリマー、エチレンジアミンのポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)ブロックポリマー、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、アクリル酸及びメタクリル酸のコポリマー、ポリ(酢酸ビニル)、並びにスルホン化ポリマー。他の好ましいヒドロゲルには、ポリ(アクリル酸コアクリルアミド)コポリマー、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、グァーガム及び修飾グァーガムが挙げられる。
【0035】
一般に、これらのポリマーは、少なくとも部分的に水性溶液、例えば帯電した側基を有する水若しくはアルコール水溶液、又はその一価イオン塩に可溶である。カチオンと反応できる酸性側基を有する多数のポリマーの例、例えば、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(アクリル酸)及びポリ(メタクリル酸)が存在する。酸性基の例は、カルボン酸基、スルホン酸基及びハロゲン化(好ましくはフッ素化)アルコール基を含む。アニオンと反応できる塩基性側基を有するポリマーの例は、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(ビニルピリジン)及びポリ(ビニルイミダゾール)である。
【0036】
好ましい熱可塑性ポリマーには、PVA、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエーテル及びハロゲン化ポリビニル、ポリメタクリル酸、ポリメチルメタクリル酸、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチレングリコールコポリマーが挙げられる。
【0037】
粘膜付着剤として使用し得る好適な他のポリマーには、脂肪族ポリエステル、ポリ(アミノ酸)、コポリ(エーテル−エステル)、ポリアルキレンオキサレート、ポリアミド、チロシン誘導ポリカーボネート、ポリ(ポリイミノカーボネート)、ポリオルトエステル、ポリオキサエステル、ポリアミドエステル、アミン基含有ポリオキサエステル、ポリ(アンヒドリド)、ポリホスファゼン、生体分子(すなわち、例えばコラーゲン、エラスチン、生体吸収性澱粉などのバイオポリマー)及びそれらのブレンドが挙げられる。本発明の目的において、脂肪族ポリエステルには、ラクチド(乳酸、D−、L−及びメソラクチドなど)、グリコリド(グリコール酸など)、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン(1,4−ジオキサン−2−オン)、トリメチレンカーボネート(1,3−ジオキサン−2−オン)、トリメチレンカーボネートのアルキル誘導体、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、χ−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレート、1,4−ジオキセパン−2−オン(その二量体1,5,8,12−テトラオキサシクロテトラデカン−7,14−ジオンなど)、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2−オン、2,5−ジケトモルホリン、ピバロラクトン、χ,χ−ジエチルプロピオラクトン、エチレンカーボネート、エチレンオキサレート、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、6,8−ジオキサビシクロオクタン−7−オンのホモポリマー及びコポリマー、並びにそれらのポリマーブレンドが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の目的において、ポリ(イミノカーボネート)には、ドーム(Domb)ら編「生分解性ポリマーの手引き(Handbook of Biodegradable Polymers)」、ハードウッド・アカデミック・プレス(Hardwood Academic Press)、251〜272頁(1997年)にケムニッツァー(Kemnitzer)及びコーン(Kohn)により記載されたポリマーが挙げられると理解される。本発明の目的において、コポリ(エーテル−エステル)には、コーン(Cohn)及びユーネス(Younes)によるジャーナル・オブ・バイオマテリアル・リサーチ(Journal of Biomaterials Research)、22巻、993〜1009頁、1988年に、及びコーン(Cohn)によるポリマー・プレプリント(Polymer Preprints)(ポリマー・ケミストリー(Polymer Chemistry)のACS部門)、30巻(1号)、498頁、1989年に記載されているコポリエステル−エーテル(例えば、PEO/PLA)が挙げられると理解される。本発明の目的において、ポリアルキレンオキサレートには、米国特許第4,208,511号、同第4,141,087号、同第4,130,639号、同第4,140,678号、同第4,105,034号及び同第4,205,399号に記載されているものが挙げられる。「高分子科学工学百科事典(Encyclopedia of Polymer Science)」、13巻、31〜41頁、ワイリー・インターサイエンシズ(Wiley Intersciences)、ジョン・ワイリー&サンズ(John Wiley & Sons)、1988年に、オールコック(Allcock)により、及び、ドーム(Domb)編「生分解性ポリマーの手引き(Handbook of Biodegradable Polymers)」、ハードウッド・アカデミック・プレス(Hardwood Academic Press)、161〜182頁(1997年)にバンドルペ(Vandorpe)らにより、記載されているようなポリホスファゼン、L−ラクチド、D,L−ラクチド、乳酸、グリコリド、グリコール酸、パラ−ジオキサノン、トリメチレンカーボネート及びε−カプロラクトンから形成されるコ−、ター−及びより高次の混合モノマーをベースとするポリマー。ポリアンヒドリドには、HOOC−C64−O−(CH2)m−O−C64−COOH(式中、mは2〜8の範囲内の整数である)の形態の二酸から誘導されたもの、及び12個までの炭素からなる脂肪族α〜ω二酸を有するそのコポリマーが挙げられる。ポリオキサエステル、ポリオキサアミド、並びにアミン及び/又はアミド基を含有するポリオキサエステルは、以下の1つ又はそれ以上にて記載されている:米国特許第5,464,929号、同第5,595,751号、同第5,597,579号、同第5,607,687号、同第5,618,552号、同第5,620,698号、同第5,645,850号、同第5,648,088号、同第5,698,213号、同第5,700,583号及び同第5,859,150号。ポリオルトエステルは、例えば、ドーム(Domb)編「生分解性ポリマーの手引き(Handbook of Biodegradable Polymers)」、ハードウッド・アカデミック・プレス(Hardwood Academic Press)、99〜118頁(1997年)にヘラー(Heller)らにより記載されているものである。
【0038】
いくつかの実施形態において、粘膜付着剤は、ポリ(乳酸)(「PLA」)及びポリ(グリコール酸)(「PGA」)、並びにそれらのコポリマーよりなる群から選択される。
【0039】
いくつかの実施形態において、粘膜付着剤製剤は、グリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、L−リソホスホチジルコリン(lysophosphotidyl choline)、DMSO及びプロテアーゼ阻害剤などの浸透促進剤を含有する。
【0040】
いくつかの実施形態において、クルクミンは、特に例えば着臭剤などの鼻粘膜と結合する分子により標識される。
【0041】
いくつかの実施形態において、クルクミンを含む薬学的組成物は、薬学的に許容され得る担体、親油性ミセル、リポソーム又はそれらの組み合わせを含む。好ましくは、親油性ミセル又はリポソームは、ガングリオシド、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン又はそれらの組み合わせを含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、薬学的組成物は、神経細胞上の受容体部位に対して親和性を有する物質を含有する。
【0043】
鼻腔内送達の特定の方法によれば、鼻腔内(例えば、嗅部及び/又は洞領域(sinus region)内)での薬学的組成物の滞留時間を、例えば吸収を高めるために、延長することが望ましいと思われる。そのため、薬学的組成物は、所望により、鼻腔内での滞留時間を延長する薬剤である、生体接着性ポリマー、ゴム(例えば、キサンタンゴム)、キトサン(例えば、高純度カチオン性多糖)、ペクチン(又は、鼻粘膜に適用された際に、ゲル様に増粘する又は乳化する任意の炭水化物)、ミクロスフェア(例えば、澱粉、アルブミン、デキストラン、シクロデキストリン)、ゼラチン、リポソーム、カルボマー(carbamer)、ポリビニルアルコール、アルギネート、アカシア、キトサン及び/又はセルロース(例えば、メチル若しくはプロピル;ヒドロキシル又はカルボキシ;カルボキシメチル又はヒドロキシルプロピル)と共に配合することができる。更なる手法として、投薬製剤の粘度を増大させることにより、薬剤の嗅上皮との接触を延長させる手段が提供することができる。薬学的組成物は、鼻腔乳剤、軟膏又はゲルとして配合することができ、これらはそれらの粘度により局所適用における利点を付与する。
【0044】
薬学的組成物はまた、所望により、例えば酵素活性を阻害する、粘液粘度又は弾性を低下させる、粘膜毛様体クリアランス効果を低下させる、密着結合を開放する、及び/又は活性化合物を可溶化する薬剤などの吸収促進剤を含有することができる。化学的促進剤は、当該技術分野にて既知であり、キレート剤(例えば、EDTA)、脂肪酸、胆汁酸塩、界面活性剤、及び/又は保存剤が挙げられる。浸透のための促進剤は、乏しい膜透過性、親油性の不足を呈する及び/又はアミノペプチダーゼにより分解される化合物を配合する際に特に有用であることができる。薬学的組成物中の吸収促進剤の濃度は、選択される薬剤、及び製剤に応じて変動するであろう。
【0045】
貯蔵寿命を延長するために、所望により薬学的組成物に保存剤を加えてもよい。好適な保存剤には、ベンジルアルコール、パラベン、チメロサール、クロロブタノール及び塩化ベンザルコニウム、並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。保存剤の濃度は、使用する保存剤、配合される化合物、製剤、及び同様物に応じて変動するであろう。いくつかの代表的な実施形態において、保存剤は2重量%又はそれ未満の量にて存在する。
【0046】
薬学的組成物は、所望により、例えば欧州特許第0504263(B1)号に記載されている着臭剤を含んで臭気の感覚を提供し、組成物の吸入を補助して嗅上皮への送達を促進し、及び/又は嗅覚神経細胞による輸送を誘発することができる。
【0047】
いくつかの実施形態において、クルクミンは、液体、粉末、スプレー、点鼻薬、ゲル、軟膏又はそれらの組み合わせよりなる群から選択される薬学的組成物中で送達される。
【0048】
いくつかの実施形態において、クルクミンは、ピペリンを含有する薬学的組成物中で送達される。
【0049】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、薬学的組成物を、例えば鼻粘膜などの、鼻腔の上部1/3内の嗅覚野に適用することを含む。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、薬学的組成物を鼻腔の天井部に適用することを含む。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、チューブ、カテーテル、注射器、パックテイル、綿球、粘膜下注入、鼻腔内スプレー容器又はそれらの組み合わせを使用することにより薬学的組成物を適用することを含む。
【0050】
送達のために、先端に取り付けられた細長い半可撓性チューブを有する、点鼻薬を圧搾可能な標準的なスプレー容器が提供される。チューブの外径は1ミリメートル未満であり、好ましくは0.5mm未満、より好ましくは0.25mm未満である。チューブの退出孔が、好ましくはチューブの先端近辺の周壁に位置しており、それによりそこから退出するスプレーが上方に配向される。容器上には、退出孔が篩板に向かって上方に配向された際に指示するマーカーが存在する。
【0051】
したがって、本発明によれば、鼻腔内スプレーデバイスが提供され、このデバイスは:
a)第一の開口部を有する中空容器、
b)貫通孔と、第二の開口部を有する先端と、第三の開口部を有する基端とを有する可撓性チューブ、及び、
c)容器内に収容される有効量のクルクミンを含有する製剤、を備え、
このチューブの基端の第三の開口部は、中空容器の第一の開口部と流体連通している。
【0052】
別の実施形態において、鼻腔内スプレーデバイスは:
a)第一の開口部を有する中空容器、
b)貫通孔と、第二の開口部を有する側面と、第三の開口部を有する基端と、端面を有する先端とを有する可撓性チューブ、及び、
c)容器内に収容される有効量のクルクミンを含有する製剤、を備え、
このチューブの基端の第三の開口部は、中空容器の第一の開口部と流体連通している。
【0053】
使用者は、チューブを鼻孔内壁の方へ配向し、チューブを内側へ鼻甲介上に案内するように上方へ向ける。チューブの長さは、使用者が容器の肩部を鼻孔に対して同一平面上とした際に、孔が篩板に隣接するように予め定められる。
【0054】
チューブを鼻道を通して挿入することに対する安全性に懸念がある場合、チューブをバルーン様として、加圧により膨張して完全長となるようにすることもできる。
【0055】
前鼻孔を介した送達
吸い込んだ空気の約10%未満が、嗅細隙(olfactory slit)を介して移動することが報告されている。したがって、鼻腔に送達されたクルクミンの相当量が、鼻粘膜領域に存在しない。したがって、本発明の目的は、鼻粘膜に送達されるクルクミンの量を増大させることである。
【0056】
文献にて、鼻腔内の気流を薄層として特徴づけると、鼻孔の前方10%からの流線が嗅細隙(olfactory slit)に到達することが報告されている。
【0057】
したがって、本発明のいくつかの実施形態において、少なくとも25%のクルクミン含有製剤を、鼻孔の前方10%内に送達する。好ましくは、少なくとも50%のクルクミン含有製剤を、鼻孔の前方10%内に送達する。より好ましくは、少なくとも75%のクルクミン含有製剤を、鼻孔の前方10%内に送達する。
【0058】
いくつかの実施形態において、製剤の鼻孔の前方部内への重点的な送達が、実質的に鼻孔の前方10%内に配置された案内チューブを提供することにより支援される。
【0059】
いくつかの実施形態において、製剤の鼻孔の前方部への送達を支援するためのデバイスが提供され、このデバイスは:
a)鼻孔の開口部内に一致するように適合された環体、及び
b)この環体から延び、鼻孔の前方10%の領域内で環体に接続する案内チューブ、を備えている。
【0060】
鼻孔のまさに開口部内の流線は、約90°の角度で移動するため、案内チューブは、好ましくはその流線内へ製剤を送達する角度で配置される。環体は、好ましくは鼻孔の形状に対応する長円形である。
【0061】
使用時、使用者は、製剤を含むスプレー容器を作動させると同時にゆっくり吸引する。製剤は、エアゾルとして薄層流で、案内チューブの前方部に送達される。製剤は案内チューブを通って移動し、エアゾルとして薄層流で後方端を退出する。したがって、製剤は、吸引により生成される吸い込んだ空気の薄層流線に従って鼻腔内に入る筈である。一旦これらの流線内に入ると、製剤は優先的に嗅細隙(olfactory slit)へ、したがって鼻粘膜へ移動する。
【0062】
ヘリウム
いくつかの実施形態において、クルクミンは、空気中に上昇できるヘリウムを積載した微細気泡を介して鼻粘膜へ送達される。これは鼻粘膜が鼻腔の最も高い部分に位置する事実を利用する。理論的に、従来鼻腔内に送達されている適切な寸法のヘリウム充填微細気泡は、鼻腔内の最も高い地点−鼻粘膜に向かって上方に移動する筈である。一旦それらが配置されると、微細気泡は簡素な手持ちの非侵襲的超音波装置で破裂されて、それらの内容物を解放することができる。本発明は、鼻粘膜内に行き着くクルクミンの量を非常に増大させるであろう。
【0063】
したがって、本発明によれば、神経治療薬を哺乳動物の脳に輸送するための方法が提供され、この方法は:
a)神経治療薬(好ましくは、クルクミン)を含む、空気よりも軽い(そして好ましくはヘリウムガスを含む)複数の微細気泡を哺乳動物の鼻腔へ適用し、それにより微細気泡は哺乳動物の鼻腔の上部1/3に上昇し、その後神経治療薬が鼻粘膜を介して吸収され、哺乳動物の脳へ輸送される、ことを含む。
【0064】
他の実施形態において、クルクミンは、空気中に上昇できるヘリウムガスのボーラス内でエアゾルとして、鼻粘膜へ送達される。これも、鼻粘膜が鼻腔の最も高い部分に位置する事実を利用する。理論的に、従来鼻腔内に送達されているヘリウムボーラス及び内部のエアゾルは、鼻腔内の最も高い地点−鼻粘膜に集団で移動する筈である。一旦それらが配置されると、エアゾルは、鼻粘膜を含む鼻腔壁上に沈着することができる。本発明は、鼻粘膜内に行き着くクルクミンの量を非常に増大させるであろう。
【0065】
したがって本発明によれば、神経治療薬を哺乳動物の脳に輸送するための方法が提供され、この方法は:
a)神経治療薬(好ましくは、クルクミン)のエアゾル液滴をヘリウムガスのボーラス内に提供し、
b)製剤を哺乳動物の鼻腔に適用し、それにより製剤は、哺乳動物の鼻腔の上部1/3に上昇し、その後神経治療薬は鼻粘膜を介して吸収され、哺乳動物の脳へ輸送される、ことを含む。
【0066】
米国特許公開第2003/0199594号(「シャー(Shah)」)は、組成物が70%〜100%のヘリウムを含み、組成物は例えば定量噴霧器などの鼻腔内スプレーデバイスに使用することができる、エアゾルと共に使用するための噴射組成物を開示している。シャー(Shah)は、組成物が更に溶媒(例えばエタノールなどのアルコール)及び分散剤(例えばオレイン酸など)を含んでもよいことを開示している。
【0067】
したがって、本発明によれば:
a)有効量のクルクミン、
b)ヘリウム(好ましくは、少なくとも約70重量%のヘリウム)を含む噴射剤、
c)(所望により)溶媒(例えば水、又はエタノールなどのアルコール)、及び、
d)(所望により)分散剤(例えばオレイン酸など)
を含有する製剤を有する鼻腔内スプレーデバイスが提供される。
【0068】
クルクミンプロドラッグ
治療化合物の高い親油性は、それを血管脳関門を容易に横断して脳組織を浸透できるものとするが、高い親油性はまた、通常、化合物が水に高い溶解性を有さないことも意味する。例えば、米国特許第2003/0153512号は、親油性クルクミンが約0.004mg/mLのみの水溶性を有することを報告している。鼻腔内製剤は一般に50μL〜200μL(典型的には100μL)の小用量で提供されるため、親油性化合物の十分な量を単回投与で提供して治療反応を生成することにおける課題が存在する可能性がある。
【0069】
したがって、本発明の一態様は、治療化合物を水溶性プロドラッグの形態で提供することを含む。プロドラッグの高い水溶性により、大量のプロドラッグが単回投与で提供でき、鼻粘膜に入って鼻粘膜を横断して受動的に拡散する。プロドラッグが脳組織の境界に到達したら、このプロドラッグは(典型的には、脳エステラーゼによる化学的又は酵素的加水分解反応を介して)親油性親分子に代謝されて、脳組織容積内に拡散し、治療効果を提供することができる。
【0070】
したがって、本発明によれば、クルクミンを哺乳動物の脳に投与するための方法が提供され、この方法は:
a)水溶性クルクミンプロドラッグを含有する薬学的組成物を、哺乳動物の鼻腔の上部1/3に適用し、ここでクルクミンプロドラッグが鼻粘膜を介して吸収され、哺乳動物の脳に輸送される、ことを含む。
【0071】
いくつかの実施形態において、親油性親化合物は、追加された極性部分、又は永久荷電を有するエステルを形成することにより水溶性が付与されたフェノールである。好ましくは、エステルは極性部分を有する。好ましくは、極性部分は、第三級又は第四級窒素を含む。
【0072】
したがって、いくつかの実施形態において、エステルは、極性部分としてアミノアルカンカルボン酸を含む。これらの化合物は、窒素化合物とカルボキシル基との間にアルカン基を有するエステル部分により特徴づけられる。好ましくは、部分は、末端アルキル基を有する。より好ましくは、アミノアルカンカルボン酸は、グリシネート部分、より好ましくは、例えばN,N,ジメチルグリシネートなどのメチル化グリシネート部分を含む。
【0073】
したがって本発明によれば、アミノアルキルカルボン酸部分を含むクルクミンエステルプロドラッグが提供される。好ましくは、アミノアルキルカルボン酸部分は、アミノアルカンカルボン酸部分を含む。いくつかの実施形態において、アミノアルカンカルボン酸は、グリシネート部分を含む。そのような化合物を形成する方法は、ポップ(Pop)、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharm. Res.)、13巻(1号)1996年、62〜69頁に見出される。
【0074】
以下、図1a〜図1cを参照すると、(1)〜(30)で表示された、本発明の新規なクルクミンプロドラッグが提供される。
【0075】
したがって、いくつかの実施形態において、アミノアルカンカルボン酸部分は、1つの末端メチル基(1)、2つの末端メチル基(2)、(17)、(20)、又は3つの末端メチル基(3)(19)を含む。
【0076】
いくつかの実施形態において、アミノアルカンカルボン酸部分は、1つの末端エチル基(5)、2つの末端エチル基(6)(18)、又は3つの末端エチル基(8)を含む。
【0077】
いくつかの実施形態において、アミノアルカンカルボン酸部分は、末端エチル基及び末端メチル基;末端エチル基及び2つの末端メチル基(10);又は2つの末端エチル基及び末端メチル基(9)を含む。
【0078】
いくつかの実施形態において、アミノアルカンカルボン酸部分は、末端プロピル基を含む。
【0079】
いくつかの実施形態において、プロドラッグは、化合物(3)、(8)〜(14)、(17)〜(20)のように、塩の形態である。好ましくは、塩には塩化物(14)(17)(18)(20)、ヨウ化物(19)及び臭化物よりなる群から選択されるアニオンが挙げられる。
【0080】
いくつかの実施形態において、プロドラッグは、エタン(17〜18)又はプロパン(19〜20)基がカルボキシル基と窒素基との間に位置するするエステル部分により特徴づけられ、好ましくは末端アルキル基を有する。
【0081】
いくつかの実施形態において、プロドラッグは、カルボキシル基と窒素基との間に位置するアルカンが置換されている、エステル部分により特徴づけられる。いくつかの実施形態において、これは、カルボキシル基と窒素基との間に位置する末端エチル基(7)である。好ましくは、その部分は、第二の末端アルキル基を有する。
【0082】
いくつかの実施形態において、クルクミンプロドラッグは、カルバモイル部分、好ましくは(カルボキシメチル)カルバモイル部分(16)を含む。(16)の(カルボキシメチル)カルバモイル部分は、ムルホーランド(Mulholland)、アナルズ・オブ・オンコロジー(Annals Oncology)、12巻、245〜248頁(2001年)に従って形成することができる。
【0083】
いくつかの実施形態において、アミノアルカンカルボン酸部分は、窒素複素環(21、23)を含む。いくつかの実施形態において、複素環は酸素(23)を含む。部分(23)は、ポップ(Pop)、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharm. Res.)、13巻、3号、469〜475頁(1996年)、及び、トラパニ(Trapani)、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマスーティックス(Intl. J. Pharm.)、175巻(1998年)、195〜204頁に開示されている手順に従って形成してもよい。部分(21)は、トラパニ(Trapani)、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマスーティックス(Intl. J. Pharm.)、175巻(1998年)、195〜204頁に開示されている手順に従って形成してもよい。ポップ(Pop)、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharm. Res.)、13巻、3号、469〜475頁(1996年)は、(21、23)の様な窒素複素環部分を有するデキサナビノールが、約5〜7mg/mLの溶解度を有することを開示している。
【0084】
いくつかの実施形態において、アミノアルカンカルボン酸部分は、L−プロリン基(15)を含む。部分(15)は、アルトメア(Altomare)、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマスーティカル・サイエンシズ(Eur. J. Pharm. Sci.)、20巻、2003年、17〜26頁、及び、トラパニ(Trapani)、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマスーティックス(Intl. J. Pharm.)、175巻(1998年)、195〜204頁に開示されている手順に従って形成してもよい。アルトメア(Altomare)は、プロポフォールのL−プロリンエステルが、約1.1mmol/mLの溶解度を有するプロドラッグを提供することを報告している。
【0085】
いくつかの実施形態において、アミノアルカンカルボン酸部分は、ベンゾエート基(22)を含む。部分(22)は、バンガード(Bundgaard)、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharm. Res.)、8巻、9号、1087〜1093頁(1991年)に開示されている手順に従って形成してもよい。バンガード(Bundgaard)は、グリシネート部分のカルボキシルとアミノ基との間にベンゾエート部分(22)を提供することにより、アシクロビルの溶解度がpH約7にて1.4mg/mLから3mg/mLに、及びpH約5にて約300mg/mLに増大することを開示している。
【0086】
他のクルクミングリシンエステルは、ミシュラ(Mishra)、バイオオーガニック&メディシナル・ケミストリー(Bioorganic & Medicinal Chemistry)、13巻(2005年)、1477〜86頁;クマール(Kumar)、核酸シンポジウムシリーズ(Nucleic Acids Symposium Series)No.44、2000年、75〜76頁;カプール(Kapoor)、キャンサーレター(Cancer Lett.)、2007年、4月18日、248巻(2号)245〜50頁;トン(Tong)、アンチキャンサー・ドラッグス(Anti-Cancer Drugs)17巻(3号)、279〜187頁、2006年3月;及びミシュラ(Mishra)、フリーラジカル・バイオロジー&メディシン(Free Rad. Biology & Medicine)、38巻(2005年)、1353〜1360頁に開示されている。
【0087】
望ましいプロドラッグの特性
本発明のクルクミンプロドラッグは、3つの特質を有する必要がある:水に対する高い溶解性、水中での高い安定性、及び脳内での急速なクルクミンへの変換。
【0088】
溶解性
文献は、グリシネート含有部分が、フェノール化合物に大幅により高い水溶性を付与し、典型的には親化合物の溶解度を25〜50mg/mLの範囲に増大させることを報告している。グリシネートによるそれらのエステル化による低溶解度フェノールに付与される溶解度の増大の例を、以下に示す:
【0089】
【表2】

(a)ポップ(Pop)、ジャーナル・オブ・ファーマスーティカル・サイエンシズ(J. Pharm. Sci)、88巻、11号、1999年、1156頁
(b)タカタ(Takata)、ジャーナル・オブ・リピッド・リサーチ(J. Lipid. Res.)、2002年、43巻、2196頁
(c)アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)、AAPSファームサイテック(AAPS PharmSciTech)、2002年、3巻、1号、論文5
(d)フセイン(Hussain)、ジャーナル・オブ・ファーマスーティカル・サイエンシズ(J. Pharm Sci.)、91巻:785〜789頁、2002年
(e)タカタ(Takata)、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharm. Res.)、21巻、1号、1995年18〜23頁(溶解度は50mMと報告)
(f)カオー(Kao)、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharm. Res.)、17巻、8号、2000年、978〜984頁
【0090】
更に、pHは、フェノールの窒素含有エステルの溶解度に多大な影響を与えるように思われる。文献に報告されている、フェノールの窒素含有エステルの溶解度に対するpHの影響を、以下の表に示す:
【0091】
【表3】

(a)トラパニ(Trapani)、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマスーティックス(Intl. J. Pharm.)、175巻(1998年)、195〜204頁
(b)バンガード(Bundgaard)、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharm. Res.)、8巻、9号、1087〜1093頁(1991年)
【0092】
文献は、殆どの場合、酸性pH(約4〜5)中でのエステルの付与が、水に対するその溶解度を約10倍増大させることを示す。
【0093】
また、特別なクラスのグリシネート様部分は、フェノール化合物の水溶性を更に増大させるように思われる。詳細には、フェノール化合物の水溶性を100〜1000mg/mLの範囲の濃度に増大させる追加の酸素を所有する多数のグリシネート様部分が存在する。そのような化合物の例を、下記に示す。
【0094】
これらの化合物の試験は、それぞれが酸素含有部分によるアミンの末端置換により特徴づけられることを明らかにしている。それらは特に:
a)(カルボキシメチル)カルバモイル部分(マルホランド(Mullholand)、アナルズ・オブ・オンコロジー(Ann. Oncology)、12巻、245〜248頁(2001年))、
b)N−アシルオキシメチル部分(ニールセン(Neilsen)、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマスーティカル・サイエンシズ(Eur. J. Pharm. Sci.)、2005年4月、24巻、5号、433〜440頁)、又は
c)(オキシアルキル)アセトアミド部分(米国特許第5073641号)、
d)グリシンベンゾエート(国際公開第90/08128号)
により特徴づけられる。
【0095】
理論に縛られるものではないが、これらの部分は、適切な濃度において、ミセルを生成する界面活性剤として作用し得るものと思われる。実際に、(ジヒドロキシエチル)グリシネート部分が界面活性剤として作用し(米国特許第6831108号)、(カルボキシメチル)カルバモイル部分がミセルを生成することができることが報告されている(シャムシ(Shamsi)、エレクトロフォレシス(Electrophoresis)、2005年、26号、4138〜52頁)。
【0096】
したがって、本発明によれば、ミセルのクルクミンプロドラッグを含有する製剤が提供される。
【0097】
(カルボキシメチル)カルバモイル部分(Mullholland)は、高い溶解度(>20mg/mL)を有することから特に興味深い。その血中での急速な加水分解(t1/2=0.39時間)は、脳エステラーゼによっても急速に加水分解されることを示すことができる。最後に、これは水中で比較的安定(t1/2=16.9時間)であるように思われ、したがって酸性の水性溶液中で非常に安定であると思われる。
【0098】
プロドラッグを塩に変換することは、同様にその水に対する溶解度を増大させることが報告されている。例えば、グリシン様エステルプロドラッグに関する国際公開第90/08128号は、それらのプロドラッグを塩に変換することにより、15w/v%までの水溶性が生じることを報告している。ジェンセン(Jensen)、アクタ・ファーマスーティカ・ノーディカ(Acta Pharm. Nord.)、3巻(1号)31〜40頁(1991年)は、1つのアミノアルキルベンゾエートエステルの二塩化物塩が、20℃で40%v/vを超える水溶性を有することが見出されたことを報告している。最後に、米国特許第4,482,722号は、メトラゾールグリシネートの付加塩が、約30%の水溶性を有することを報告している。
【0099】
安定性
本発明の製剤は望ましくは水性鼻腔スプレーの形態で使用されるため、本発明のエステルプロドラッグは、相当な時間中、水中で安定な状態に留まる必要がある。グリシネートエステルは、中性の水性溶液と比較して酸性の水性溶液中でより安定であるように思われる。アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)、AAPSファームサイテック(AAPS PharmSciTech)、2002年、3巻、1号、論文5は、フェノールエステルの安定性はpHにより影響を受け、僅かに酸性のpH(pH3〜5)にて、1つのフェノールエステル(17−DMABE2HCl)は、溶液剤形に配合されるに十分な貯蔵寿命を有し、プロドラッグの薬学的鼻腔スプレー溶液は、pH4にて、25℃で約19カ月の貯蔵寿命を有するであろうことを報告している。同様に、カオー(Kao)、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharm. Res.)、17巻、8号、2000年、978〜984頁は、pH4.4におけるL−ドーパブチルエステルに関する最大の安定性、すなわちpH4.4、(0.05Mリン酸緩衝液)及び10℃で10%分解に関する見積もり時間を2.7年と計算し、僅かな酸性pH(pH3〜5)にて、エステルは溶液剤形に配合されるのに十分な、貯蔵寿命上の安定性を有するであろうと報告している。最後に、ベンゾエート含有グリシン様エステルプロドラッグに関するPCT国際公開第90/08128号は、1つのヒドロコルチゾン系プロドラッグが、pH4.0の水性溶液中で、それぞれ25℃及び20℃にて6.0及び10.2年の貯蔵寿命を所有したことを報告している。
【0100】
したがって、本発明のいくつかの実施形態において、クルクミン製剤は、pHを約3.0〜5.5、好ましくはpHを約3.5〜5、好ましくはpHを約4〜5に設定する緩衝液を含有する。本発明のいくつかの実施形態において、クルクミン製剤は、pHを約3〜4に設定する緩衝液を含有する。製剤のpHをこれらの範囲内に設定することにより、製剤は商業的に満足し得る貯蔵寿命を有することができると思われる。
【0101】
また、本発明のいくつかの実施形態において:
a)有効量のクルクミン、及び
b)pHを3〜5.5に設定する緩衝剤
を含有する製剤を含む鼻腔内スプレーデバイスが提供される。
【0102】
変換速度
プロドラッグが脳に到達したら、エステル化されたプロドラッグが非常に急速にその親化合物に変換されることが望ましい。単純に言えば、プロドラッグは、脳から排出される前に、脳エステラーゼにより親化合物に変換される必要がある。プロドラッグが親化合物に十分に急速に変換されるか否かを理解するためには、脳又はCSF内におけるプロドラッグの滞留時間を知ることが重要である。
【0103】
鼻腔内に導入された化合物の濃度対時間のプロファイルを再考すると、2つの相モデルにより特徴づけられる挙動が現れる。第一の相において、薬物は、急速にピーク濃度に到達した後、約1〜2時間以内にピーク濃度の約10〜25%に急速に低下する。第二の相は、次の24時間に亘る非常に遅い薬物濃度の低下により特徴づけられる。
【0104】
したがって、薬物の濃度が、1〜2時間の範囲内に存在する(すなわち、ピーク濃度の約10〜25%)と概算される場合、薬物は脳内に約24時間存在すると仮定することができる。したがって、有用であるためには、脳内でのプロドラッグの親化合物への変換速度は、約12時間を超えない半減期t1/2により特徴づけられる筈である。
【0105】
少なくとも3つの例にて、文献は、グリシネート含有フェノールエステルの脳ホモジネートによる親化合物への変換速度を報告している。これらの報告書の2つは、非常に急速な変換である。アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)、AAPSファームサイテック(AAPS PharmSciTech)、2002年、3巻、1号、論文5は、エストラジオールグリシネートエステルの親エストラジオールへの約1〜2分での急速な変換を報告している。カオー(Kao)、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharm. Res.)、17巻、8号、2000年、978〜984頁は、ベンジルL−ドーパエステル(L−ドーパ親がグリシネート部分を含む)の約1分での急速な変換を報告している。
【0106】
約12時間を超えない半減期t1/2により特徴づけられる、プロドラッグの親への変換速度を有することが望ましく、また文献はグリシネートエステルの親フェノール化合物への約1〜2分での急速変換の半減期を報告しているため、グリシネートプロドラッグは、脳内で完全に親プロドラッグに変換されることを仮定するべきことが明らかである。一研究者(トラパニ(Trapani)、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマスーティックス(Intl. J. Pharm.)、175巻(1998年)、195〜204頁)が、プロポフォールグリシネートエステルの親プロポフォールへの比較的非常に遅い変換を報告していることに留意するべきである。しかしながら、関係する構造−活性の関係を再考することにより、プロポフォールのヒドロキシル部分は、プロポフォールの隣接するイソプロピル基により大きく立体的に妨害されていることが示される。理論に縛られるものではないが、これらのプロポフォールグリシネートのエーテル性酸素の大きな立体障害が、グリシネートエステルからプロポフォールへの遅い変換の理由であると考えられる。
【0107】
対照的に、ベンジルL−ドーパエステル及びエストラジオールグリシネートエステルの両方のエーテル性酸素は、立体障害の遭遇が非常に少なく、それゆえ、脳エステラーゼは、エーテル性酸素に対してその分子の少なくとも一面から自由に接近する機会を有する。その結果、脳エステラーゼによる加水分解が、遥かに急速に起こることができる。
【0108】
クルクミングリシネートエステルにより同様の分析を行い、L−ドーパ及びエストラジオールと同様、クルクミングリシネートエステルは遥かに小さい立体障害に遭遇し、それゆえ脳エステラーゼは、クルクミングリシネートエステルのエーテル性酸素に対してその分子の少なくとも一面から自由に接近する機会を有することが明らかとなっている。
【0109】
更に、別の研究グループが、プロポフォールジメチルグリシネートエステルの親への遥かに速い変換を報告しており、またトラパニ(Trapani)グループはこの相違を認識しているように思われる。アルトメア(Altomare)、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマスーティカル・サイエンシズ(Eur. J. Pharm. Sci.)、20巻、2003年、17〜26頁を参照されたい。
【0110】
最後に、カオー(Kao)の論文が、脳ホモジネート中と血漿中でのL−ドーパエステルのL−ドーパへの変換に関する非常に類似した半減期を報告していることは注目に値する。脳ホモジネート及び血漿中でのプロポフォールグリシネートエステルのプロポフォールへの変換に関する半減期の高い一致もまた、トラパニ(Trapani)により報告されている。血漿中での変換を、脳ホモジネート中でのグリシネートエステルの変換を合理的に概算するのに使用する場合、血漿中でのグリシネート含有フェノールエステルの親フェノール化合物への変換に関して更に文献を閲覧することができる。表IIIに報告された文献は、下記を報告している。
【0111】
【表4】

(a)ポップ(Pop)、ジャーナル・オブ・ファーマスーティカル・サイエンシズ(J. Pharm. Sci)、88巻、11号、1999年、1156頁
(b)カオー(Kao)、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharm. Res.)、17巻、8号、2000年、978〜984頁
(c)バンガード(Bundgaard)、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharm. Res.)、8巻、9号(1991年)、1087〜1093頁
(d)アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)、AAPSファームサイテック(AAPS PharmSciTech)、2002年、3巻、1号、論文5
(e)トラパニ(Trapani)、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマスーティックス(Intl. J. Pharm.)、175巻(1998年)、195〜204頁
(f)タカタ(Takata)、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharm. Res.)、21巻、1号、1995年18〜23頁
【0112】
したがって、血漿中での変換に関する文献報告を使用して、脳ホモジネート中でのグリシネートエステルの可能性のある変換時期を合理的に概算すると、脳内でのグリシネート含有フェノールエステルの親フェノール化合物への変換は、再度、非常に急速であると思われる。
【0113】
したがって、非立体障害フェノールグリシネートエステルは、脳ホモジネート中で急速に親フェノールに変換されるため、またジメチルグリシネートフェノールエステルは血漿中で急速に変換されるため、グリシネート含有クルクミンエステルの親クルクミン化合物への変換速度は、脳環境内で急速であると考えられる。
【0114】
プロドラッグの製造方法
アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)、AAPSファームサイテック(AAPS PharmSciTech)、2002年、3巻、1号、論文5は、以下のアミノ−アルカン−カルボン酸部分を含むエステルの製造方法を教示している:3−N,NジメチルアミノブチルエステルHCl(3−DMABE2HCl);3−N,N−ジエチルアミノプロピオニルエステル塩酸塩(DEAPE2HCl);3−N,N,N−トリメチルアミノブチルエステルヨージド(3−TMABE2ヨージド)及び17−N,NジメチルアミノブチルエステルHCl(17−DMABE2HCl);
【0115】
いくつかの実施形態において、水溶性エステルプロドラッグは、フェノール親化合物をジメチルグリシンと反応させることにより形成される。文献は、フェノール親化合物をジメチルグリシンと反応させることにより、親油性フェノール化合物を水溶性にすることを報告している。例えば、アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)、AAPSファームサイテック(AAPS PharmSciTech)、2002年、3巻、1号、論文5は、親化合物のジメチルグリシンエステルを形成することにより、17B−エストラジオールの水溶性を0.008mg/mLから0.8mg/mLへ(100倍増加)増大させることを報告している。アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)は更に、このエステルはラット脳ホモジネートにより容易に加水分解されて親化合物を提供し、またプロドラッグの鼻腔内投与は、プロドラッグの同等の静脈内用量と比較して、5〜8倍高い17B−エストラジオールのCSF濃度を与えたことを見出した。アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)は、プロドラッグが17B−エストラジオールの脳への標的を定めた鼻腔内送達を提供することを結論付けた。
【0116】
いくつかの実施形態において、親フェノール化合物からの水溶性エステルプロドラッグの形成は、フセイン(Hussain)、ジャーナル・オブ・ファーマスーティカル・サイエンシズ(J. Pharm Sci.)、91巻、3号、2002年3月、785〜789頁に記載されている方法に実質的に従って行われる。詳細には、ジメチルグリシンHCl及び塩化オキサリルを、HClガスの発生が停止するまで、穏やかに40℃に温める。次に、窒素ガスを溶液全体にバブリングして未反応塩化オキサリルを除去する。得られた酸塩化物をジメチルホルムアミドに溶解し、親フェノール化合物の塩化メチレン溶液に攪拌しながら滴加する。反応混合物を3時間還流する。次にエステルを単離し、HCl塩に変換する。
【0117】
いくつかの実施形態において、親化合物からの水溶性エステルプロドラッグの形成は、アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)、AAPSファームサイテック(AAPS PharmSciTech)、2002年、3巻、1号、論文5に記載されている方法に実質的に従って行われる。詳細には、4−(ジメチルアミン)酪酸塩酸塩(2.0g、0.012mol)又は3−(ジメチルアミン)プロピオン酸塩酸塩(2.2g、0.012mol)を出発物質として使用する。アミノ酸を塩化オキサリル(1.6mL、0.018mol)と共に、透明な黄色溶液が形成されるまで、穏やかに短時間還流する。次に、溶液混合物を窒素流により非常に穏やかにフラッシュして過剰な塩化オキサリルを除去し、固体を残留させる(酸塩化物)。
【0118】
3−N,N−ジメチルアミノブチルエステル塩酸塩(3−DMABE2HCl);3−N,N−ジメチルアミノプロピオニルエステル塩酸塩(3−DEAPE2HCl);及び3−N,N,N−トリメチルアミノブチルエステルヨージド(3−TMABE2ヨージド)を部分として有するフェノールエステルは、好適な酸塩化物の後、フセイン(Hussian)、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharm. Res.)、1988年、5巻、1号、44〜47頁に報告されている手順に従って合成される。アルコールエステル、17−N,N−ジメチルアミノブチルエステル塩酸塩(17−DMABE2HCl)は、酸塩化物を、反応が発熱性であるために氷浴中で10mL N,N,ジメチルホルムアミド(DMF)中にゆっくり溶解することにより調製される。次に、親フェノール化合物を塩化メチレン中に溶解し、酸塩化物のDMF溶液を、攪拌しながら親フェノール化合物溶液に滴加する;反応混合物を45分間穏やかに還流した後、濾過する。濾液をビュッヒ(Buchi)モデルのロータリーエバポレーター(rotavaporator)(ニューヨーク州ウェストベリー(Westbury))を使用して蒸発させた後、少量の、80:20のCHCl3とMeOHの中に再溶解する。混合物の内容物を分離し、シリカゲルカラムを使用して精製する。溶媒混合物を蒸発させ、生成物を少量の塩化メチレン中に再溶解した後、攪拌しながら塩化水素ガスを溶液全体に注意深くバブリングする。十分なジエチルエーテルを加えてエステル塩酸塩を沈殿させて溶液を混濁させた後、混合物を冷蔵庫内にて4℃で一夜置いておく。最終生成物を、プレシジョン・サイエンティフィック(Precision Scientific)モデルD75ポンプ(イリノイ州シカゴ)を使用して、真空デシケーター内で室温での溶媒蒸発により収集し、使用時まで、デシケーター内で保管する。
【0119】
いくつかの実施形態において、親化合物からの水溶性エステルプロドラッグの形成は、タカタ(Takata)、タカタ(Takata)、ジャーナル・オブ・リピッド・リサーチ(J. Lipid. Res.)、2002年、43巻、2196〜2204頁に記載されている方法に従って実質的に行われる。詳細には、親フェノール化合物(4.8mmol)の乾燥ピリジン溶液に、5.7molのN,N,−ジメチルグリシンHCl及び5.7mmolのジシクロヘキシルカルボジイミドを加える。反応混合物を室温で20時間攪拌し、形成したジシクロヘキシル尿素を濾過により除去する。溶媒を蒸発させた後、残留物を100mLの水で処理し、重炭酸ナトリウムでアルカリ性にする。次に、溶液を酢酸エチル(100mL×3)で抽出する。有機層を酢酸エチルと共に無水硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発させる。残留物をn−ヘキサン酢酸エチル(8:2、v/v)を溶離液として使用したフラッシュカラムパックしたワコーゲル(Wakogel)LP40、60Aにより分画する。単離されたエステルを、3%HClジオキサン溶液を含有するイソプロピルエーテル中に直接収集し、沈殿させ、アセトンから再結晶化させて、親フェノール化合物のHCl塩を与える。
【0120】
脳濃度
クルクミンの水溶性プロドラッグの鼻腔内導入が、高濃度のクルクミンを脳に送達できる証拠は、エストラジオールをベースとする研究にて見出されている。アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)、AAPSファームサイテック(AAPS PharmSciTech)、2002年、3巻、1号、論文5。17β−エストラジオールは、ほぼlogP=3.1〜4.0のオクタノール/水分配係数を有する272ダルトンのフェノールである。したがって、エストラジオールは、それぞれが親油性であり、フェノール小分子であるという点でクルクミンと類似している。また、クルクミンと同様、17β−エストラジオールも、乏しいバイオアベイラビリティによる不都合を有している。更に、アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)は、エストラジオールが水に対して高い溶解度を有さないため、有効用量(0.1mL中0.1mg)の鼻腔投与にとって非実用的なものとなっていると報告している。アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)は、エストラジオールをジメチルグリシネート部分で修飾して、エストラジオールの水溶性を0.008mg/mLから約0.8mg/mLに(100倍増加)増大させ、またエストラジオールを3−DEAPE2HCl部分で修飾して、エストラジオールの水溶性を0.008mg/mLから約20mg/mLに(1000倍超増加)増大させることを報告している。したがって、水に対する溶解度が約0.004mg/mLに過ぎないクルクミンの様な親油性のフェノール小分子の溶解度は、非常に増大させることができる。
【0121】
ヒトに関する鼻腔内用量の典型的な容積は、0.2mLまでであり得るため、また上記の表Iでは、20mg/mLの程度での溶解度の増大が報告されているため、鼻腔投与は約20mg/mL×0.2mL=4mg/用量までの最大負荷量を達成することが期待できる。一日2度の鼻孔毎の2回投与により、一日当たり8用量が提供されるため、約32mg/日までのエストラジオールを鼻腔投与できると考えられる。この量は、約0.5mg/kgに近い全身濃度を提供する。
【0122】
更に、アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)は、0 1mg/kgの17β−エストラジオールの水溶性プロドラッグの鼻腔導入は、約30ng/mL(17−DMABE2−HClに関する)〜約66ng/mL(3−DMABE2−HClに関する)のエストラジオール(estrdiol)のピーク脳脊髄液(CSF)濃度を生じ、これは約0.075μM〜0.15μMの化合物のモル濃度を提供することを報告している。アル−ガナニーム(Al-Ghananeem)の薬物動態学的結果は、20mg/kgのL−ドーパの水溶性エステルプロドラッグの鼻腔導入が、約10〜20μg/mLピーク脳脊髄液(CSF)濃度を生じることを報告したカオー(Kao)の結果と非常によく一致する。したがって、エストラジオール又はクルクミンなどの親油性の小分子フェノール化合物の水溶性プロドラッグの0.5mg/kg鼻腔導入は、約0.75μMまでのCSF濃度を提供すると思われる。0.1〜1.0μMのクルクミンは、アミロイドβオリゴマーのインビトロ形成を阻害し、分化した神経芽腫細胞内でAβ1〜42オリゴマーのインビトロ毒性を遮断する(ヤン(Yang)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)、280巻、7号、2005年2月18日、5892〜5901頁)ことが報告されているため、クルクミンの水溶性プロドラッグの鼻腔内導入は、アルツハイマー病に対する治療的利益を提供するであろうクルクミンの脳濃度を達成する、実現可能な投与計画を可能とするであろうと思われる。
【0123】
二重相クルクミン
いくつかの実施形態において、クルクミンは、2つの別個の製剤相の中に存在する。第一の相は、好ましくは、クルクミンを鼻粘膜に急速に送達する急速放出相である。クルクミンの急速送達は、例えばUGT及びP450などの、クルクミンを代謝する酵素系を一時的に無効にする効果を有するであろう。第二の相は、クルクミンを鼻粘膜にゆっくり送達する遅延放出相である。一旦これらの酵素系が一時的に無効にされると、酵素による代謝妨害が実質的に存在しない環境内で、遅延放出相がクルクミンをゆっくり放出する。
【0124】
したがって、本発明によれば:
a)有効量のクルクミンを含有して、酵素系を一時的に無効にする第一の急速放出相、及び、
b)有効量のクルクミンを含有して、神経変性疾患を処置する第二の遅延放出相、
を含む製剤が提供される。
【0125】
いくつかの実施形態において、第一の急速放出相相は、粘膜付着剤、及び例えばハッカ油などの油よりなる群から選択することができる。ハッカ油は、独立してUGT及びP450酵素を阻害する特質を有する。
【0126】
いくつかの実施形態において、第二の遅延放出相は、リポソーム及び熱可塑性ポリマー(例えばPLGAなど)よりなる群から選択することができる。
【0127】
本発明によれば:
a)クルクミンを含有するポリマー微粒子デポー、及び、
b)粘膜付着剤
を含有する製剤が提供される。
【0128】
いくつかの実施形態において、粘膜付着剤は、ポリマー微粒子デポー上のコーティングとして存在する。
【0129】
いくつかの実施形態において、粘膜付着剤は、別個の微粒子として存在する。
【0130】
いくつかの実施形態において、粘膜付着剤は、キトサン及びセルロースよりなる群から選択される化合物を含有する。
【0131】
いくつかの実施形態において、粘膜付着剤は、更にクルクミンを含有する。
【0132】
いくつかの実施形態において、ポリマー微粒子デポーは、リポソームである。
【0133】
いくつかの実施形態において、ポリマー微粒子デポーは、熱可塑性生体吸収性ポリマーである。
【0134】
いくつかの実施形態において、クルクミンは、ミクロスフェア内に収容される。クマール(Kumar)、インディアン・ジャーナル・オブ・フィジオロジー&ファーマコロジー(Indian J. Phisiol. Pharmacol.)、2002年4月、46巻(2号)209〜217頁は、クルクミンが、アルブミン又はキトサンのいずれかのミクロスフェア内に負荷された場合、破裂効果とそれに続く遅延放出により特徴づけられる二相放出パターンが起きることを報告している。この二相効果は、クルクミンの第一の用量が放出されて鼻粘膜内の酵素活性を阻害し、続いて第二の用量がゆっくり放出されて、嗅覚神経細胞により取り込まれ、脳に輸送されるという言及した願望とよく一致している。いくつかの実施形態において、クルクミンは、二相放出効果を示すミクロスフェア内に収容される。
【0135】
クルクミンによる酵素阻害
クルクミンは酵素による代謝を受け易いが、クルクミンは、まさにそれらの酵素の阻害剤としても公知である。例えば、ホン(Hong)、バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem. Biophys. Res. Comm.)、2003年10月10日、310号(1巻)222〜7頁は、hPgP、hMRP1及びhMRP2遺伝子でトランスフェクトした細胞内でのEGCGのクルクミンによる共処置が、これらの細胞内でEGCGの蓄積を増大させたことを報告している。
【0136】
クルクミンは、多剤耐性タンパク質1(MRP1)、多剤耐性タンパク質2(MRP2)の両方に影響を与えることが報告されている。クルクミンは、IC50値15μM〜5μMでMRP−1及びMRP−2により仲介される輸送の両方を阻害したように思われる。ボルテルブール(WortelBoer)、ケミカル・リサーチ・イン・トキシコロジー(Chem. Res. Toxicol.)、2003年12月、16巻:12号、1642〜1651頁。ボルテルブール(WortelBoer)は、MRP阻害と、MRP阻害剤の代謝との間の複雑な相互作用も認識した。チェアワエ(Chearwae)、キャンサー・ケモセラピー・アンド・ファーマコロジー(Cancer Chemothr. Pharmacol.)、2006年2月、57巻(3号)、376〜388頁は、約14.5μMのIC50でMRP1を阻害するクルクミンを報告している。
【0137】
注目すべきは、ホン(Hong)、バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem. Biophys. Res. Comm.)、2003年10月10日、310巻(1号)222〜227頁が、クルクミンによるMRPの阻害が、MDCKII/MRP1及びHT−29細胞内にて緑茶カテキンEGCGの量を有意に増大させたことを報告していることである。したがって、クルクミンは治療効果を提供し、またEGCGのバイオアベイラビリティを増大させることができるため、クルクミンとEGCGの両方を同一の製剤中に提供することには特別な利点が存在する。
【0138】
クルクミンは、主にグルクロン酸抱合を介して代謝されるように思われる。パン(Pan)、ドラッグ・メタボリズム・アンド・ディスポジション(Drug Metab. Dispos.)、1999年、27巻、1号、486〜494頁。しかしながら、クルクミンはグルクロン酸抱合を阻害することも繰り返し示されている。バス(Basu)、ドラッグ・メタボリズム・アンド・ディスポジション(Drug Metab. Dispos.)、2004年7月、32巻(7号)768〜773頁は、クルクミンがヒトLS180結腸細胞及びマウス十二指腸の両方の中で、MPAグルクロン酸抱合を一時的に阻害することを報告している。バス(Basu)、PNAS、2005年5月3日、102巻(18号)6285〜90頁は、クルクミンに対する暴露後の細胞内UGT1a7及びUGT1A10活性の阻害を報告している。バス(Basu)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)、279巻、2004年1月9日、1429〜1441頁は、クルクミンは可逆的にUGTを標的として、阻害を生じることを報告している。一般に、クルクミンは、暴露から約1〜2時間後に、UGT活性の最大阻害を与えるように思われる。バス(Basu)、バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem. Biophys. Res. Comm.)、303巻(2003年)、98〜104頁(図1)は、クルクミンによるUGT1A1の阻害は、暴露から約1時間後に約95%に到達することができ、約10時間後に対照値の約80%に戻ることを報告している。ナガヌマ(Naganuma)、バイオロジカル&ファーマスーティカル・ビュレット・イン(Biol. Pharm. Bull.)、2006年7月、29巻(7号)、1476〜1479頁は、クルクミンによるCaco−2細胞内での1−ナフトールとの結合が、UGT活性を中程度に阻害することを報告している。
【0139】
クルクミンによるUGTの強力な阻害により、クルクミンは癌化学療法用の前処置として提案されており、またMPA投与前のクルクミンを用いた経口前処置によるグルクロン酸抱合の一時的な阻害が、マウスにおいて、抗原刺激による脾臓細胞障害性T−リンパ球増殖の免疫抑制を6倍増大させたことが報告されている。(http://nichddirsage.nichd.nih.gov:8080/ar2004/pages/hdb/sgddm.htm)を参照されたい。
【0140】
しかしながら、クルクミンによるUGT活性の増大を報告する一研究者(ファン・デル・ロフト(van der Logt)、カルシノジェネシス(Carcinogenesis)、24巻、10号、1651〜1656頁、2003年)がいる。
【0141】
クルクミンによるグルクロン酸抱合阻害は可逆的であるため、クルクミンは、薬物−薬物相互作用の懸念を有さずに、後のクルクミンの治療的用量による酵素活性の阻害のための、鼻粘膜の前処置に使用することができると思われる。
【0142】
したがって、いくつかの実施形態において、クルクミンの第一用量が患者に鼻腔内投与され(鼻粘膜内の酵素活性を阻害し)た後、クルクミンの第二用量が、第一用量の少なくとも約15分後、患者に鼻腔内投与され(脳に移動され)る。
【0143】
シトクロムp450酵素は鼻粘膜内で顕著であることが周知である。ウタリ(Oetari)、バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochem. Pharmacol.)、1996年、1月12日、51巻(1号)39〜45頁は、クルクミンが、ラット肝臓内でP450を強力に阻害することを報告している。タプリヤル(Thapliyal)、フード・アンド・ケミカル・トキシコロジー(Food Chem. Toxicology)、2001年6月、39巻(6号)541〜547頁は、インビトロ及びインビボの両方での、クルクミンによるシトクロムP450イソ酵素の阻害を報告した。
【0144】
シュウ(Zhou)、ドラッグ・メタボリズム・レビューズ(Drug Metab. Rev.)、2004年2月、36巻(1号)、57〜104頁は、クルクミンがPgpの阻害剤であることを報告している。
【0145】
いくつかの実施形態において、ピペリンがグルクロン酸抱合阻害剤として使用されている。リーン(Reen)、バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochem. Pharmacol.)、1993年7月20日、46巻(2号)229〜238頁は、ピペリンをグルクロン酸抱合の強力な阻害剤として報告している。ショバ(Shoba)、プランタ・メディカ(Planta Med.)、1998年5月、64巻(4号)、353〜356頁は、ピペリンの前投与が、ヒト内でクルクミンのバイオアベイラビリティを2000%増大させることを報告している。
【0146】
いくつかの実施形態において、グルクロン酸抱合阻害剤は、ピペリンの類似体である。好ましくは、ピペリン類似体は、アンチエピレプシリンである。アンチエピレプシリンの投与はセロトニン合成の増大にも有効であり(リュー(Liu)、バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochem. Pharmacol.)、1984年12月1日、33巻(23号)3883〜3886頁)、抗てんかん薬として研究されている(ワン(Wang)、ブレイン&ディブロップメント(Brain Dev.)、1999年1月、21巻(1号)、36〜40頁)。したがって、その鼻腔内投与は、有意な問題に繋がらない筈である。
【0147】
いくつかの実施形態において、グルクロン酸抱合阻害剤は、界面活性剤である。クルケラ(Kurkela)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)、2003年2月7日;278巻(6号)、3536〜3544頁は、数種のUGT酵素が、界面活性剤、すなわちトリトン(Toriton)X−100によりほぼ完全に阻害されたことを報告している。好ましくは、界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。
【0148】
いくつかの実施形態において、グルクロン酸抱合阻害剤は、例えばN−アセチルシステイン(NAC)などの粘液溶解剤である。タカツカ(Takatsuka)、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマティックス(Int. J. Pharm.)、2006年1月19日、316巻(1〜2号)、124〜130頁は、粘液溶解剤(NAC)と界面活性剤(トリトン(Triton)TX−100)との共投与が腸吸収を相乗的に上昇させることを報告している。更に、粘膜に対する損傷は可逆的であることが報告された。
【0149】
いくつかの実施形態において、グルクロン酸抱合阻害剤は、NSAIDである。好ましい実施形態において、NSAIDは、ニフルム酸である。マノ(Mano)、バイオファーマスティクス&ドラッグ・ディスポジション(Biopharm. Drug Dispos.)、2006年1月、27巻(1号)1〜6頁は、特にUGT活性に対するNSAID及びニフルム酸の阻害効果を報告している。
【0150】
緩衝液による酵素阻害
いくつかの実施形態において、グルクロン酸抱合阻害剤として低pH緩衝液が使用される。バス(Basu)、PNAS、2005年5月3日、102巻、18号、6285〜6290頁は、UGT1A7による親油性物質(lipophile)の最大グルクロン酸抱合は、pH範囲6〜9において最大となり、pH5にてUGT1A7によるグルクロン酸抱合活性はほぼゼロとなることを報告している。同様に、バス(Basu)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)、279巻、2004年1月9日、1429〜1441頁は、pHがUGT活性のレベルを劇的に変更することができ、pH5はUGT1A7及びUGT1A10のそれぞれに関してほぼ全てのグルクロン酸抱合活性を阻害することを報告している。したがって、低pHの製剤は、グルクロン酸抱合活性を完全に阻害するのに有効であると思われる。本発明のいくつかの実施形態において、クルクミン製剤は、pHを約3.0〜5.5、好ましくはpHを約3.5〜5、好ましくはpHを約4〜5に設定する緩衝液を含有する。本発明のいくつかの実施形態において、クルクミン製剤は、pHを約3〜4に設定する緩衝液を含有する。これらの引用範囲を下回ると、製剤の酸性の性質が鼻腔を刺激する危険性がある。この範囲を上回ると、グルクロン酸抱合の阻害が極小となり得る。米国特許第6,187,332号(「ゲルン(Gern)」)は、ヒト鼻内で長期間そのpHを維持することができる、pH4〜5の緩衝した流動鼻腔スプレー製剤を開示している。ゲルン(Gern)は、クエン酸及びリン酸緩衝剤を含有する製剤を開示している。
【0151】
したがって本発明によれば:
a)有効量のクルクミン、及び、
b)4〜5のpHを有し、ヒトの鼻内で製剤のpHを4〜5に長時間維持できる緩衝剤(好ましくは、クエン酸及びリン酸)、
を含有する薬剤を含む鼻腔内スプレーデバイスが提供される。
【0152】
吸収促進剤
いくつかの実施形態において、吸収促進剤は、胆汁塩である。チャバンパティル(Chavanpatil)、ファーマジエ(Pharmazie)、2005年5月、60巻(5号)347〜349頁。好ましい実施形態において、胆汁塩は、デオキシコール酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、及びタウログリココール酸ナトリウム、並びにEDTAよりなる群から選択される。
【0153】
いくつかの実施形態において、グルクロン酸抱合阻害剤としてマグネシウム+2が使用される。ウォン(Wong)、バイオケミカル・ジャーナル(Biochemical Jounal)(1968年)、110巻、99頁は、約10mMを超えるMg+2濃度は、約85%のグルクロン酸抱合酵素活性の阻害に有効であったことを報告している。
【0154】
冷却
UGT酵素は温度に対して非常に高い感受性を有するように、本発明者らにより認識される。したがって、粘膜内層の温度を低下させることは、UGTによるクルクミンの酵素的グルクロン酸抱合を低下させるのを期待するのは合理的である。実際に、カストゥマ(Castuma)、バイオケミカル・ジャーナル(Biochemical Jounal)(1989年)258巻、723〜731頁により、モルモットの正常な肝臓ミクロソーム内のUDP−グルクロン酸転移酵素の酵素活性は、ミクロソームの温度を約37℃から約10℃に低下させた際に約3倍低下したことが報告されている。
【0155】
したがって、本発明者らは、鼻粘膜を一時的に冷却してクルクミンのグルクロン酸抱合を阻害することに基づいて本発明を考案した。
【0156】
一実施形態において、本発明の製剤は、例えばメントールなどの冷却薬剤を含有する。
【0157】
一実施形態において、本発明の製剤は、吸熱性の溶質を含有する。好ましい実施形態において、吸熱性溶質は、吸熱工程により水に溶解する強塩、酸又は塩基である。より好ましくは、吸熱性溶質は、塩である。
【0158】
いくつかの実施形態において、吸熱性溶質は、重炭酸ナトリウム(ΔH=+19.1kJ/mol);重炭酸カリウム(ΔH=+5.3kcal/mol);硫酸カリウム(ΔH=+23.7kJ/mol);塩化カリウム(ΔH=+17.2kJ/mol);塩化ナトリウム(ΔH=+3.9kJ/mol);及びリン酸二水素カリウム(ΔH=+19.6kJ/mol)よりなる群から選択してもよい。
【0159】
いくつかの実施形態において、吸熱性溶質は、硫酸マグネシウムであってもよく、これは冷却及びグルクロン酸抱合阻害の両方を促進するであろう。
【0160】
したがって本発明によれば:
a)有効量のクルクミン、及び、
b)吸熱性の溶質(好ましくは硫酸マグネシウム)、
を含有する製剤を含む鼻腔内スプレーデバイスが提供される。
【0161】
クルクミンは、水溶性に乏しいことが周知である。鼻粘膜は水性ベースのため、鼻粘膜を横切った製剤からのクルクミンの輸送には問題がある。
【0162】
したがって、鼻粘膜を横切ったクルクミンの輸送を増大させるため、いくつかの実施形態において、クルクミンは、有効量のクルクミン−混和性溶媒を含有する製剤中で送達される。好ましくは、溶媒はDMSO及びエタノールよりなる群から選択される。クルクミンは、DMSO及びエタノールに対して非常に高い溶解性を有することが周知である。この製剤が鼻粘膜に適用されると、溶媒が鼻粘膜内の水と混合し、クルクミンをその混合物中に可溶とする。
【0163】
好ましい実施形態において、溶媒はDMSOである。DMSOは、無毒であり、また血管脳関門を一時的に開放することもできる。クラインディーンスト(Kleindienst)、アクタ・ニューロキラージカ・スプルメンタム(Acta Neurochir. Suppl.)、2006年;96巻、258〜262頁、及びシェルド(Scheld)、レビューズ・オブ・インフェクシャス・ディジーシズ(Rev. Infect. Dis.)、1989年11月〜12月;11巻増刊7号;S1669〜1690頁。
【0164】
したがって、本発明によれば:
a)有効量のクルクミン、並びに、
b)DMSO及びエタノールよりなる群から選択される溶媒、
を含有する製剤を含む鼻腔内スプレーデバイスが提供される。
【0165】
溶解度の増大
いくつかの実施形態では、ポリエチレングリコール6000(PEG6000)又はポリビニルピロリドンK−30(PVP K30)により形成されたものなどの固体ディスパージョンを用いて、クルクミンの水に対する溶解度を増大させる。リュアン(Ruan)、ジャーナル・オブ・ファーマスーティカル・アンド・バイオケミカル・アナリシス(J. Pharm. Biomed. Anal.)、2005年1月1日;38巻(3号):457〜464頁。パラドカー(Paradkar)、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマティックス(Int. J. Pharm.)、2004年3月1日;271巻(1〜2号):281〜286頁。
【0166】
いくつかの実施形態では、β−シクロデキストリン(BCD)及びヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPBCD)により形成されるものなどの包接複合体を用いて、水に対するクルクミンの溶解度を増大させる。リュアン(Ruan)、ジャーナル・オブ・ファーマスーティカル・アンド・バイオケミカル・アナリシス(J. Pharm. Biomed. Anal.)、2005年1月1日;38巻(3号):457〜464頁。
【0167】
他のクルクミン類似体
ADを処置する能力を向上させるか又はあまり影響を与えないかのいずれかのクルクミン及びその機能的断片の修飾も、用語「クルクミン」に含まれる。そのような修飾には、例えば、1つ又はそれ以上の官能基の付加、削除、又は置換が挙げられる。これらの修飾は、クルクミン又はその機能的断片の構造、立体配座又は機能的活性を向上させるか又は有意に変更しないかのいずれかであろう。加えて、クルクミン又はその機能的断片は、その精製を補助し、その活性にあまり影響を与えないエピトープタグ又は他の配列の付加により修飾することができる。本明細書に使用されるように、クルクミンに関連した用語「機能的断片」は、酸化を阻害する、又はβアミロイドオリゴマーの形成を阻止するために維持するクルクミンの任意の部分を意味することが意図される。所望であれば、機能的断片は、酸化又はオリゴマー形成を阻害する能力と有利に協働する活性を有するクルクミンの領域を含むことができる。
【0168】
本発明によれば、公知のクルクミン類似体を使用することもできる。
【0169】
いくつかの実施形態において、クルクミン類似体は、米国特許出願公開第2006/0067998号に見出されるものである。
【0170】
クルクミンは、エタノール、アルカリ、ケトン、酢酸及びクロロホルムに可溶である。クルクミンは、水に不溶である。したがってクルクミンは親油性であり、一般に脂質、例えば本発明のコロイド状薬物送達システムに使用される多数のものと容易に結合する。特定の実施形態において、クルクミンは、金属キレートとして配合することもできる。
【0171】
本明細書で使用されるように、クルクミン類似体は、クルクミンに対する構造的類似性により、癌細胞上にクルクミンと同様の抗増殖又は抗アポトーシス効果を示す化合物である。クルクミンと同様の抗癌効果を有し得るクルクミン類似体には、Ar−トゥメロン(tumerone)、メチルクルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン、ナトリウムクルクミネート(curcuminate)、ジベンジルメタン、アセチルクルクミン、フェルロイルメタン、テトラヒドロクルクミン、1,7−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1,6−ヘプタジエン−3,5−ジオン(クルクミン1)、1,7−ビス(ピペロニル)−1,6−ヘプタジエン−3,5−ジオン(ピペロニルクルクミン)1,7−ビス(2−ヒドロキシナフチル)−1,6−ヘプタジエン−2,5−ジオン(2−ヒドロキシルナフチルクルクミン)、1,1−ビス(フェニル)−1,3,8,10−ウンデカテトラエン−5,7−ジオン(シンナミルクルクミン)及び同様物が挙げられる(アロージョ(Araujo)及びレオン(Leon)、2001年;リン(Lin)ら、2001年;ジョン(John)ら、2002年;イシダ(Ishida)ら、2002年も参照されたい)。クルクミン類似体には、クルクミンの(Z、E)及び(Z、Z)異性体などのクルクミン異性体を挙げてもよい。関連した実施形態において、クルクミンと同様の抗癌効果を有するクルクミン代謝産物も本発明に使用することができる。既知のクルクミン代謝産物には、テトラヒドロクルクミン及びヘキサヒドロクルクミンのグルクロニド(glucoronides)、及びジヒドロフェルラ酸が挙げられる。特定の実施形態において、クルクミン類似体又は代謝産物は、金属キレート、特に銅キレートとして配合することができる。他の好適なクルクミン誘導体、本発明に使用するのに好適なクルクミン類似体及びクルクミン代謝産物は、当業者に明らかであろう。
【0172】
いくつかの実施形態において、クルクミン類似体は、米国特許出願公開第2005/0181036号に見出されるものである。
【0173】
商業的なクルクミンは、3つの主な成分:クルクミン(77%)、デメトキシクルクミン(17%)及びビスデメトキシクルクミン(3%)を含み、これらは度々「クルクミノイド」と称される。本明細書で使用されるように、「クルクミン」は、これら商業的なクルクミン3つの主な成分の任意の1つ又はそれ以上、及びこれらの薬剤の任意の活性誘導体を含むと定義される。これは、クルクミンの天然及び合成誘導体、並びにクルクミノイドを含み、また2つ以上のクルクミノイド又はクルクミン誘導体の任意の組み合わせを含む。クルクミン誘導体及びクルクミノイドには、参照により本明細書に特に組み入れられる米国特許出願公開第20020019382号に開示されている誘導体が挙げられる。
【0174】
いくつかの実施形態において、クルクミン類似体は、米国特許出願公開第2005/0267221号に見出されるものである。
【0175】
特定の態様において、1,7,−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1,6−ヘプタジエン−3,5−ジオンは、本発明に使用してもよいクルクミンである。使用してもよい他のクルクミン類似体(クルクミノイド)には、例えば、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン、ジヒドロクルクミン、テトラヒドロクルクミン、ヘキサヒドロクルクミン、ジヒドロキシテトラヒドロクルクミン、ヤクチノンA及びヤクチノンB、並びにそれらの塩、酸化剤、還元剤、配糖体及びそれらのエステルが挙げられる。それらの類似体は、その両方がその全体において参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第20030147979号;及び米国特許第5,891,924号に記載されている。
【0176】
使用してもよい他のクルクミン類似体(クルクミノイド)には、ジヒドロキシクルクミン及びNDGAが挙げられる。
【0177】
クルクミン類似体の更なる例には、(a)フェルラ酸、(すなわち、4−ヒドロキシ−3−メトキシ桂皮酸;3,4−メチレンジオキシ桂皮酸;及び3,4−ジメトキシ桂皮酸);(b)芳香族ケトン(すなわち、4−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−3−ブテン−2−オン;ジンゲロン(zingerone);−4−(3,4−メチレンジオキシフェニル(methylenedioxyphenyly)−2−ブタノン;4−(p−ヒドロキシフェニル)−3−ブテン−2−オン;4−ヒドロキシバレロフェノン;4−ヒドロキシベンジラクトン(benzylactone);4−ヒドロキシベンゾフェノン;1,5−ビス(4−ジメチルアミノフェン−イル)−1,4−ペンタジエン−3−オン);(c)芳香族ジケトン(すなわち、6−ヒドロキシジベンゾイルメタン)(d)コーヒー酸化合物(すなわち、3,4−ジヒドロキシ桂皮酸);(e)桂皮酸;(f)芳香族カルボン酸(すなわち、3,4−ジヒドロキシヒドロ桂皮酸;2−ヒドロキシ桂皮酸;3−ヒドロキシ桂皮酸及び4−ヒドロキシ桂皮酸);(g)芳香族ケトカルボン酸(すなわち、4−ヒドロキシフェニルピルビン酸);並びに(h)芳香族アルコール(すなわち、4−ヒドロキシフェネチルアルコール)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明で使用できるこれらの類似体及び他の代表的な類似体は、更に、その全体が参照により本明細書に組み入れられる国際公開第9518606号及び同第01040188号に記載されている。
【0178】
クルクミン又はその類似体は、植物から精製され、又は周知の、当業者により使用される方法を用いて化学的に合成され得る。植物由来のクルクミン及び/又はその類似体は、ショウガ科クルクマ属(Zingiberaceae Curcuma)、例えばクルクマ・ロンガ(Curcuma longa)(ターメリック)、クルクマ・アロマチカ(Curcuma aromatica)(野生ターメリック)、クルクマ・ゼドアリア(Curcuma zedoaria)(ゼドアリー(zedoary))、クルクマ・キサントリザ(Curcuma xanthorrhiza)、マンゴージンジャー(mango ginger)、インドネシアン・アロールート(Indonesian arrowroot)、イエロー・ゼドアリー(yellow zedoary)、ブラック・ゼドアリー(black zedoary)及びガランガル(galangal)などの植物からの抽出物により得ることができる。ターメリックからクルクミノイドを単離する方法は、当該技術分野にて周知である(ジャナキ(Janaki)及びボーズ(Bose)、1967年)。また更に、クルクミンは商業的な源から得てもよく、例えばクルクミンは、シグマ・ケミカルズ社(Sigma Chemicals Co)(ミズーリ州セントルイス(St. Louis))から得てもよい。
【0179】
本発明で使用するべきクルクミン及びその類似体の調製には、任意の従来の方法を使用することができる。例えば、クルクミンを本質的に含有する食品添加物であるターメリック色素(turmericoleoresin)は、ターメリック根茎の乾燥製品から、高温でエタノールにより、高温の油及び脂肪若しくはプロピレングリコールにより、又は室温〜高温でヘキサン若しくはアセトンにより、抽出して生成することができる。代替的に、それらは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる特開2000−236843号、特開平11−235192号及び特開平6−9479号、並びに米国特許出願第20030147979号に開示されている方法により生成することができる。
【0180】
特定の実施形態において、少なくとも1つのクルクミン及び/又はその類似体の精製製品を使用してもよい。代替的に、薬学的又は食品として許容し得ない不純物を含有しないならば、その半精製又は粗製品を使用してもよい。
【0181】
好ましい類似体
βアミロイドに対するクルクミン類似体の有効性についての限られた試験が存在する。パーク(Park)、ジャーナル・オブ・ナショナル・プロダクツ(J. Nat. Prod)、65巻、9号、2002年9月は、βアミロイド傷害に対するPC12細胞のインビトロ保護を提供する以下のクルクミン類似体の能力に関する試験を報告している。
4’’−(3’’’−メトキシ−4’’’−ヒドロキシフェニル)−2’’−オキソ−3’’−エンブタニル3−(3’−メトキシ−4’ヒドロキシフェニル)プロピオネート(31);
1−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−7−(4−ヒドロキシフェニル)−1,6−ヘプタジエン−3,5−ジオン(デメトキシクルクミン)(32);
1,7−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,6−ヘプタジエン−3,5−ジオン(ビスデメトキシクルクミン)、(33);及び、
1,7−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ヘプテン−3,5−ジオン(34)。
【0182】
これらの各化合物を、図1dに示す。パーク(Park)は、表IVに示すように、以下の結果を報告している:
【0183】
【表5】

aED50は、50%の細胞生存率の達成に要するサンプル濃度を表す。
【0184】
パーク(Park)のデータの解析により、化合物(31)〜(34)のそれぞれは、クルクミンよりも強力なβアミロイドに対する神経保護剤であり、化合物(31)及び化合物(34)は、5〜10倍のオーダーでより強力であることが明らかとなる。したがって、好ましい実施形態において、各化合物(31)〜(34)は、クルクミンプロドラッグの製造及び使用のために、親化合物として単独で使用され、又は組み合わせて使用される。各親化合物は、パーク(Park)にて開示された方法により得てもよい。
【0185】
キム(Kim)、ニューロサイエンス・レターズ(Neuroscience Lett.)、303巻(2001年)57〜61頁は同様に、以下のクルクミン類似体のβアミロイド傷害に対するPC12細胞をインビトロ保護する能力に関する試験を、表Vに報告している。:
【0186】
【表6】

【0187】
キム(Kim)のデータの解析により、デメトキシクルクミン及びビスデメトキシクルクミン化合物のそれぞれが、クルクミンよりも強力なβアミロイドに対する神経保護剤であり、デメトキシクルクミン及びビスデメトキシクルクミン化合物が1.5〜2倍のオーダーでより強力であることが明らかとなる。このデータは、上記のパーク(Park)により報告されたデメトキシクルクミン及びビスデメトキシクルクミンの相対的な有効性と実質的に一致する。
【0188】
他の疾病
他の実施形態において、本発明は、有効量のクルクミンを含有する製剤を、篩板を横断して脳内へと鼻腔内投与して、脳卒中を処置することに関する。
【0189】
他の実施形態において、本発明は、有効量のクルクミンを含有する製剤を、篩板を横断して脳内へと鼻腔内投与して、多発性硬化症を処置することに関する。
【0190】
他のポリフェノールプロドラッグ
いくつかの実施形態において、クルクミンは、第二の親油性治療薬剤、好ましくはレスベラトロールなどの別のポリフェノールと組み合わせられる。いくつかの実施形態において、クルクミンは、銀杏抽出物、レスベラトロール及び緑茶カテキンよりなる群から選択される別の化合物と共に製剤中に提供された後、鼻腔投与される。
【0191】
また本発明によれば、銀杏抽出物を哺乳動物の脳に輸送するための方法が提供され、この方法は:a)銀杏抽出物を含有する薬学的組成物を、哺乳動物の鼻腔の上部1/3に適用し、銀杏抽出物は、鼻粘膜を介して吸収されて哺乳動物の脳に輸送される、ことを含む。
【0192】
また本発明によれば、レスベラトロールを哺乳動物の脳に輸送するための方法が提供され、この方法は:
a)レスベラトロールを含有する薬学的組成物を哺乳動物の鼻腔の上部1/3に適用し、レスベラトロールは鼻粘膜を介して吸収され、哺乳動物の脳に輸送される、ことを含む。
【0193】
また本発明によれば、緑茶カテキンを哺乳動物の脳に投与する方法が提供され、この方法は:
a)カテキンを含有する薬学的組成物を哺乳動物の鼻腔の上部1/3に適用し、カテキンは鼻粘膜を介して吸収され、哺乳動物の脳に輸送される、ことを含む。
【0194】
クルクミンに関する上述したプロドラッグの原理は、例えばフラボノイド種の化合物などの他の治療的フェノール化合物(好ましくは、治療的ポリフェノール化合物)にも適用することができる。好ましい実施形態において、この化合物はレスベラトロール、ヒスピジン、ゲニステイン、エラグ酸、1,25ジヒドロキシビタミンD3、緑茶カテキンEGCG及びドコサヘキサエン酸(DHA)よりなる群から選択される。別の実施形態において、この化合物はドコサヘキサエン酸(DHA)である。また本発明によれば、フラボノイドプロドラッグを哺乳動物の脳に輸送するための方法が提供され、この方法は:
a)フラボノイドプロドラッグ(例えばレスベラトロールプロドラッグなど)を含有する薬学的組成物を哺乳動物の鼻腔の上部1/3に適用し、フラボノイドプロドラッグは鼻粘膜を介して吸収され、哺乳動物の脳に輸送される、ことを含む。
【0195】
レスベラトロール
特に好ましい実施形態において、フラボノイドプロドラッグはレスベラトロールである。
【0196】
通常、赤ワイン中に見出されるポリフェノール化合物であるレスベラトロールは、AD病理学の複数のメカニズムに影響を与えると思われることから、アルツハイマー病の可能な処置として推奨されている。アネコンダ(Anekonda)、ブレイン・リサーチ・レビューズ(Brain Research Reviews)、52巻、2006年、316〜326頁。
【0197】
第一に、レスベラトロールは脳組織内のβアミロイドの量を低下させることが示されている。レスベラトロールがこれを達成するメカニズムは、論議の対象となっている。最近の一論文はレスベラトロールがBACE1酵素の特異的な阻害剤であると結論付けており、IC50は約15μMである。ジェオン(Jeon)、フィオメデシン(Phyomedicine)、2006年11月2日(E−pub)。他の最近の論文は、プロテオソームが関与するメカニズムを介して、レスベラトロールがβアミロイドの細胞内分解を促進することによってβアミロイド含有量を低下させることを報告している。マラムボード(Marambaud)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)、280巻(45号)、37377−37382頁。
【0198】
第二に、レスベラトロールは、βアミロイド線維(fibril)の形成を阻害すると考えられる。リビエレ(Riviere)、バイオオーガニック&メディシナル・ケミストリー(Bioorg. Med. Chem.)、2006年10月1日(E−pub)。
【0199】
第三に、20μMのレスベラトロールは、ラット海馬神経において、βアミロイドが誘導する神経毒性に対して神経保護効果を有し、タンパク質キナーゼC(PKC)の活性化を介してこの神経防護作用を提供すると考えられる。ハン(Han)、ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(Br. J. Pharmacol.)、2004年、141巻、997〜1005頁。ハン(Han)、ザ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー・エンド・エクスペリメンタル・セラポーティックス(J. Pharmacol. Exp. Ther.)、2006年7月、318巻(1号)238〜245頁(Epub、2006年3月30日)は、ラット脳内のレスベラトロールに関する特定の血漿膜結合部位の存在を報告し(Ki=102nM)、βアミロイド誘導の神経毒性に対するラット海馬細胞の保護におけるレスベラトロール類似体の有効性が、それらの明らかな親和性と相関することに注目している。
【0200】
レスベラトロールがPKCを介して作用するという仮定は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の非アミロイド生成性プロセシングも、PKCの活性化を介して作用すると考えられるため特に興味深い。
【0201】
第四に、アルツハイマー病のいくつかの仮説には、脳の重金属の高い濃度による酸化が含まれる。レスベラトロールに関して、レスベラトロールは銅の非常に強力なキレート化剤であることが報告されている。ベルゲンドス(Belguendouz)、バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochemical Pharmacology)、53巻、1347〜1355頁、1997年。
【0202】
第五に、アネコンダ(Anekonda)、ブレイン・リサーチ・レビューズ(Brain Research Reviews)、52巻、2006年、316〜326頁は、加齢メカニズムとADは複雑に関連し、これらのメカニズムは、カロリー制限管理とカロリー制限模倣物(mimetics)の両方により調節でき、その主要なメディエーターがSIRT1タンパク質であることを報告している。ホービッツ(Howitz)、ネイチャー(Nature)、2003年、425巻、191〜196頁は、試験した小分子の中でもレスベラトロールが最高レベルのSIRT1活性化を示したことを報告している。チェン(Chen)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)、280巻、48号、40364〜40374頁は、レスベラトロールが小膠細胞内でNF−KBシグナル伝達を顕著に低下させることを見出し、この利益を、レスベラトロールによるSIRT1の誘導に帰した。同様に、キム(Kim)、インターナショナル・ジャーナル・オブ・モルキュラー・メディシン(Int. J. Mol. Med.)、2006年1月、17巻、6号、1069〜1075頁は、NF−KB活性の調節が、βアミロイド誘導による神経毒性に対するレスベラトロールの神経保護作用に関係することを報告している。
【0203】
第六に、レスベラトロールは周知の酸化防止剤であり、5〜25μMのレスベラトロールは、培養された海馬細胞を酸化窒素関連の神経毒性に対して保護する能力を示している。バスティアネット(Bastianetto)、ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(Br. J. Pharm.)、2000年、131巻、711〜720頁。同様に、サバスカン(Savascan)、ジェロントロジー(Gerontology)、2003年11月〜12月、49巻(6号)380〜383頁は、レスベラトロールが、βアミロイド関連の酸化ストレスに対する細胞生存率を維持し、細胞内フリーラジカル捕捉剤グルタチオンを高めることによりその抗酸化作用を発揮することを報告している。
【0204】
レスベラトロールのバイオアベイラビリティは、よく研究されている。レスベラトロールは腸及び肝臓内でグルクロン酸抱合を極めて受け易いように思われるため、レスベラトロールの経口バイオアベイラビリティは「ほぼゼロ」であると結論付けられている。ウェンゼル(Wenzel)、モルキュラー・ニュートリション&フード・リサーチ(Mol. Nutr. Food Res.)、2005年、49巻、472〜481頁。したがって、トランス−レスベラトロールがヒト血清中にて遊離形態ではなくグルクロニド形態で存在することが見出されたことから、ビタグリオン(Vitaglione)、モルキュラー・ニュートリション&フード・リサーチ(Mol. Nutr. Food Res.)、2005年5月49巻(5号)、495〜504頁はレスベラトロールの食事による消費の健康上の効果に関するいくつかの疑問を提示している。したがって、トランス−レスベラトロールに関する鼻腔内の原理は、支持されると思われる。
【0205】
それにも関わらず、レスベラトロールは脳に到達すると、相当の滞留時間を有すると思われる。エル−モーゼン(El-Mohsen)、ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ニュートリション(British J. Nutrition)、2006年、96巻、62〜70頁は、胃内投与から約18時間後の脳内のレスベラトロール濃度は、尚、2時間にて測定したものの43%であったことを報告している。ワン(Wang)、ブレイン・リサーチ(Brain Research)、958巻(2002年)、439〜447頁は、レスベラトロールの腹腔内投与が、その投与から4時間後に脳内でピーク濃度を与えることを報告している。
【0206】
トランス−レスベラトロールは、約228の分子量を有し、非常に親油性が高い(約3.14のオクタノ−ル−水分配係数LogPを有する)。しかしながら、その水に対する溶解度は非常に低い(<0.01mol/L)。したがって、トランス−レスベラトロールに関するプロドラッグの原理は、支持されると思われる。
【0207】
ハイブリッド
図2〜図16は、クルクミンと、様々な他の天然ポリフェノールとのハイブリッドである様々なクルクミン誘導体を開示する。これらの各誘導体は、クルクミンの中間のジケトン構造がフェノール基で置き換えられているトリフェノール化合物である。得られた化合物は、クルクミンの2つのフェノール間の間隔を保持し、また追加のポリフェノールのビフェノール間隔も所有している。
【0208】
図2は、クルクミン、レスベラトロール、及び2つのクルクミン−レスベラトロールハイブリッドの構造を開示している。各ハイブリッドがどのようにクルクミン及びレスベラトロール(reveratrol)のそれぞれのフェノール間の間隔を維持しているかに注目されたい。
図3は、クルクミン−レスベラトロールIハイブリッドの作製方法を開示する。
図4は、クルクミン−レスベラトロールIIハイブリッドの作製方法を開示する。
図5は、中央フェノール基及び側部フェノール基のそれぞれにおいて3つのヒドロキシル基を有するクルクミン−レスベラトロールハイブリッドの作製方法を開示する。
図6は、クルクミン、レスベラトロール及びそのハイブリッドを開示し、天然化合物の全てのフェノールがハイブリッドで表され、トリヒドロキシル側部フェノール基及びジヒドロキシル中央フェノール基を提供する。
図7は、図6のクルクミン−レスベラトロールハイブリッドの作製方法を開示する。
図8は、図6のハイブリッドと同様であるが、ベースのクルクミン分子のメトキシ基が維持されている。
図9は、クルクミン、オキシレスベラトロール及びそのハイブリッドを開示し、天然化合物の全てのヒドロキシル/フェノールがハイブリッドで表され、トリヒドロキシル側部フェノール基及びトリヒドロキシル中央フェノール基を提供する。
図10は、クルクミン、ピセタノール及びそのハイブリッドを開示し、天然化合物の全てのヒドロキシル/フェノールがハイブリッドで表され、トリヒドロキシル側部フェノール基及びトリヒドロキシル中央フェノール基を提供する。
図11は、クルクミン−レスベラトロールハイブリッドの作製方法を開示し、天然化合物の全てのヒドロキシル/フェノールがハイブリッドで表され、トリヒドロキシル側部フェノール基及びジヒドロキシル中央フェノール基を提供する。
図12は、クルクミン、BDMC、レスベラトロール、及びそのクルクミンハイブリッドを開示し、天然化合物の全てのフェノールがハイブリッドで表され、ヒドロキシルデメトキシ側部フェノール基及びヒドロキシ又はジヒドロキシル中央フェノール基を提供する。
図13は、ヒドロキシルデメトキシ側部フェノール基及びヒドロキシ中央フェノール基を有する、図12の化合物の作製方法を提供する。
図14は、ヒドロキシルデメトキシ側部フェノール基及びジヒドロキシ中央フェノール基を有する、図12の化合物の作製方法を提供する。
図15は、クルクミン、フィステイン(fistein)及びそのハイブリッドを開示し、天然化合物の全てのフェノールがハイブリッドで表され、ジヒドロキシルフェノール基及びヒドロキシ中央フェノール基を、2つの天然化合物と共通する位置に提供する。
図16は、図15の化合物の作製方法を提供する。
【0209】
〔実施態様〕
(1)薬学的製剤において、
a)有効量のクルクミンエステルプロドラッグ、及び、
b)pHを3〜5.5に設定する緩衝剤、
を含有する、薬学的製剤。
(2) 実施態様1に記載の製剤において、
前記プロドラッグがアミノアルキルカルボン酸部分を含む、製剤。
(3) 実施態様2に記載の製剤において、
前記アミノアルキルカルボン酸部分がアミノアルカンカルボン酸部分を含む、製剤。
(4) 実施態様3に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分がグリシネート部分を含む、製剤。
(5) 実施態様4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が末端メチル基を含む、製剤。
(6) 実施態様4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が2つの末端メチル基を含む、製剤。
(7) 実施態様4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が3つの末端メチル基を含む、製剤。
(8) 実施態様4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が末端エチル基を含む、製剤。
(9) 実施態様4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が2つの末端エチル基を含む、製剤。
(10) 実施態様4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が3つの末端エチル基を含む、製剤。
(11) 実施態様4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が、末端エチル基及び末端メチル基を含む、製剤。
(12) 実施態様4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が、末端エチル基及び2つの末端メチル基を含む、製剤。
(13) 実施態様4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が、2つの末端エチル基、及び末端メチル基を含む、製剤。
(14) 実施態様4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が末端プロピル基を含む、製剤。
(15) 実施態様4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が、酸素含有部分による前記アミンの末端置換により特徴づけられる、製剤。
(16) 実施態様4に記載の製剤において、
前記プロドラッグが塩の形態である、製剤。
(17) 実施態様16に記載の製剤において、
前記塩が、塩化物及び臭化物からなる群から選択される陰イオンを含む、製剤。
(18) 実施態様1に記載の製剤において、
前記緩衝液がpHを約3.5〜5に設定する、製剤。
(19) 実施態様1に記載の製剤において、
前記緩衝液がpHを約4〜5に設定する、製剤。
(20) 実施態様1に記載の製剤において、
前記緩衝液がpHを約3〜4に設定する、製剤。
(21) 実施態様1に記載の製剤において、
前記プロドラッグがカルバモイル部分を含む、製剤。
(22) クルクミンを哺乳動物の脳に投与するための方法において、
a)水溶性クルクミンプロドラッグを含有する薬学的組成物を前記哺乳動物の鼻腔の上部1/3に適用することであって、前記クルクミンプロドラッグは鼻粘膜を介して吸収され、該哺乳動物の前記脳に輸送される、適用すること、
を含む、方法。
(23) 実施態様22に記載の方法において、
前記プロドラッグがエステルプロドラッグである、方法。
(24) 実施態様22に記載の方法において、
前記プロドラッグがグリシネート部分を含む、方法。
(25) 実施態様22に記載の方法において、
前記プロドラッグがカルバモイル部分を含む、方法。
(26) 鼻腔内スプレーデバイスにおいて、
a)有効量のクルクミン、及び、
b)pHを3〜5.5に設定する緩衝剤、
を含有する製剤、
を含む、鼻腔内スプレーデバイス。
(27) 実施態様26に記載のデバイスにおいて、
前記製剤がpHを3.5〜5に設定する緩衝液を含有する、デバイス。
(28) 実施態様26に記載のデバイスにおいて、
前記製剤が、好ましくはpHを約4〜5に設定する緩衝液を含有する、デバイス。
(29) 実施態様26に記載のデバイスにおいて、
前記製剤がpHを3〜4に設定する緩衝液を含有する、デバイス。
(30) 薬学的製剤において、
a.有効量のクルクミンエステルプロドラッグ、
を含有し、
前記プロドラッグが塩の形態である、薬学的製剤。
(31) 実施態様30に記載の製剤において、
前記プロドラッグがアミノアルキルカルボン酸部分を含む、製剤。
(32) 実施態様31に記載の製剤において、
前記アミノアルキルカルボン酸部分がアミノアルカンカルボン酸部分を含む、製剤。
(33) 実施態様32に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸がグリシネート部分を含む、製剤。
(34) 実施態様30に記載の製剤において、
前記塩が、塩化物及び臭化物よりなる群から選択される陰イオンを含む、製剤。
(35) 神経治療薬を哺乳動物の脳に輸送するための方法において、
a)神経治療薬を含有するエアゾル液滴を含む製剤をヘリウムガスのボーラス内に提供すること、及び、
b)前記製剤を前記哺乳動物の鼻腔に適用することであって、それにより該製剤は、該哺乳動物の鼻腔の上部1/3に上昇し、その後前記神経治療薬は鼻粘膜を介して吸収され、該哺乳動物の前記脳へ輸送される、適用すること、
を含む、方法。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的製剤において、
a)有効量のクルクミンエステルプロドラッグ、及び、
b)pHを3〜5.5に設定する緩衝剤、
を含有する、薬学的製剤。
【請求項2】
請求項1に記載の製剤において、
前記プロドラッグがアミノアルキルカルボン酸部分を含む、製剤。
【請求項3】
請求項2に記載の製剤において、
前記アミノアルキルカルボン酸部分がアミノアルカンカルボン酸部分を含む、製剤。
【請求項4】
請求項3に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分がグリシネート部分を含む、製剤。
【請求項5】
請求項4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が末端メチル基を含む、製剤。
【請求項6】
請求項4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が2つの末端メチル基を含む、製剤。
【請求項7】
請求項4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が3つの末端メチル基を含む、製剤。
【請求項8】
請求項4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が末端エチル基を含む、製剤。
【請求項9】
請求項4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が2つの末端エチル基を含む、製剤。
【請求項10】
請求項4に記載の製剤において、
前記アミノアルカンカルボン酸部分が、酸素含有部分による前記アミンの末端置換により特徴づけられる、製剤。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−524959(P2010−524959A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504239(P2010−504239)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/060569
【国際公開番号】WO2008/131059
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(500140415)コドマン・アンド・シャートレフ・インコーポレイテッド (34)
【氏名又は名称原語表記】Codman & Shurtleff, Inc.
【住所又は居所原語表記】325 Paramount Drive, Raynham, Massachusetts 02767−0350, U.S.A.
【Fターム(参考)】