説明

アルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシート、アルミニウム合金製熱交換器及びアルミニウム合金製熱交換器の製造方法

【課題】一般部及びヘッダー/タンク接合部のZn量の最適バランスを図ることができ、安価で合理的な構造で一般部及びヘッダー/タンク接合部の優先腐食を防止して、各部において貫通孔食の早期発生を防止することができるアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシートを提供する。
【解決手段】接合部JにおけるZn拡散プロファイルを検討した結果、Al−Zn系内張材のZn量X(wt%)が0.5〜1.0であり、厚さY(μm)が30〜70であるときの積XYを25〜70とすることによって、ヘッダー/タンク6接合部の内張材4bでは、ろう材6cとの境界BにおいてZn濃度が過剰になることがなく、内張材の一般部G及び接合部J全体のZn量の最適バランスを図って、一般部G及び接合部J共に早期の貫通を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成型されたブレージングシートを用いて中空構造を形成する接合部分の耐食性を向上させたAl合金製熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用ラジエーター、ヒーター、カーエアコンのエバポレーター、コンデンサー、など熱交換器にはAl合金製熱交換器が使用されている。
係る従来のAl合金製熱交換器、例えば自動車用ラジエーターを図1(a),(b)に示す。図1(a)は自動車用熱交換器1の正面図、図1(b)は図1(a)のA−A断面拡大模式図である。
【0003】
熱交換器1は冷却水を通す中空の流体通路であり、ろう材を被覆したアルミニウム合金ブレージングシートを成形加工したチューブ2の間にコルゲート成型したフィン3を挟み込んで配置してなる。そのチューブ2の両端に成型および打ち抜き加工したヘッダープレート4A,4Bをろう付け接合によって一体化してコア5を作製する。さらにヘッダープレート4A,4Bを介して樹脂製またはアルミニウム合金製のタンク6A,6Bを接合して中空構造の熱交換器媒体通路7を形成し、冷却水をチューブ2へと導入する。
【0004】
タンク6、ヘッダープレート4には、その素材として、Al−Mn系合金、Mnを含有するアルミニウム合金、たとえばJIS3003合金などからなる芯材6a、4aの片面にAl−Si系合金からなるろう材をクラッドし、冷却水と接する他側面にはAl−Zn合金、例えばJIS7072合金をクラッドしたアルミニウム合金ブレージングシートを用いる。
またろう付け法としては、フッ化物系フラックスを用いるろう付け法を行う。
【0005】
タンク6とヘッダープレート4相互間はタンク6を構成するアルミニウム合金ブレージングシート(以下「タンク材」とする。)6のAl−Si合金からなるろう材6cとヘッダープレート4を構成するアルミニウム合金ブレージングシート(以下「ヘッダー材」とする)4のAl−Zn合金からなる内張材4bとを接合部(以下「ヘッダー/タンク接合部」とする)Jを介して接合する。
【0006】
この熱交換器1を組み立てる際のろう付け工程ではろう材6cのAl−Si合金が溶融して接合し、内張材4bのAl−Zn合金は溶融せず、ろう付け工程における加熱によってZnが芯材4a方向に拡散する。また、その際のヘッダー材4の一般部Gにおける内張材4bはタンク6内部に面する配置になる。そのため、ヘッダー材4の一般部Gの内張材4bにおけるZnは、ろう付時に芯材4aに向かって拡散するのみならず、タンク6内部の空間に向かって脱離し、密閉空間にこもり、その一部はまた内張材4bへと戻って取り込まれる。その結果、この一般部Gにおけるろう付け後のZnの残量は接合部Jに比べ多くなる。
【0007】
また、タンク6内部の空間はろう付中の温度が比較的低いため、タンク6内部に面しているヘッダー材4の一般部Gにおける内張材4bではZnの拡散の度合が比較的小さく、タンク6とヘッダープレート4相互間の接合部Jに比べてろう付後のZn量が多くなる。
この一般部Gにおいてろう付後のZn量が多くなることは、一般部Gの内張材4bに早期に貫通孔が形成されることを防止する必要があるという点からすれば、機能上有効な現象である。
【0008】
一方、接合部Jにおけるヘッダー材4については、内張材4bがタンク材6のろう材6cに接しているため、Znは専ら芯材4aに向かって拡散するのみであり、ろう付け後のZnの残量は少なくなる。
図2はタンク6とヘッダープレート4相互間の接合部JにおけるZn拡散プロファイルを示す。
図に示すように、ヘッダー/タンク接合部の内張材4bでは、ろう材6cとの境界Bから芯材4a方向にZnが分散し、かつ境界Bにおいて最も濃度が高く、芯材4a方向に向けて濃度が低くなるZn分布となる。これは拡散エネルギーはZn濃度が低い芯材4a側が大きく、境界B側が低い結果として図上斜めの直線によって近似する指数関数曲線を描く様に芯材4a方向に向けてZn濃度が低くなり、均一化されないためである。
【0009】
この様な不均一なZn拡散プロファイルを示す結果、ろう付け加熱後のヘッダー/タンク接合部の内張材4bのAl−Zn合金層、特にその境界BにおいてはZn濃度が充分には小さくならず、これに起因してろう材6cのAl−Si合金層と比較して特に塩水環境においては腐食され易い。
例えば特許文献2に示す様な、従来のブレージングシートを用いた場合には、図3の接合部J断面写真に示すように、そのヘッダー/タンク接合部において内張材4bのAl−Zn合金層が優先的に腐食し、早期に貫通してしまう問題があった。
【0010】
したがって、前述したように接合部Jにおけるヘッダー材4については、ろう付け後のZnの残量が少なくなるという傾向はあるとはしても、芯材4a方向に向けてZn濃度が低くなる不均一なZn拡散プロファイルである結果として、境界BにおいてはZn濃度が高く、これが優先的に腐食し、早期に貫通する原因となる。
これを防止するために、ヘッダー材4の内張材4b全体のZn量を小さくした場合には一般部Gの内張材4bの防食機能が損なわれ、一般部Gにおいて早期に貫通孔が形成される原因となる。
【0011】
そこでこの様なAl−Zn合金とろう材との接合部Jの腐食を防止する手段として、特許文献3にアルミニウム合金製積層型熱交換器として開示されたように、Al−Zn合金層とAl−Zn合金層の間にろう付用シートを挿入してろう継手を形成し、Al−Zn合金層の防食効果をもってろう付け部の優先腐食を防止する手法の採用を検討することもできる。
【0012】
しかし、接合部材にろう付用シートを用いるため部品点数が増え、コストが上がる問題がある。
またタンク材の材質をAl−Znの両面クラッド材に変える必要があり、タンク材を両面クラッド材に変えると、タンクとパイプ材の接合も置きろうなどを用いて行う必要が生じ、その点でも部品点数および工数の増加につながりコストが上がる問題がある。
【特許文献1】特開平6−23535号公報
【特許文献2】特開昭53−138955号公報
【特許文献3】特開平6−170519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上の従来技術における問題は、ヘッダー材4の一般部G及び接合部J各部に貫通孔食を早期に発生させるようなことがない内張材4b全体のZn量の最適バランスをどのように図るかという問題に帰結する。
【0014】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑み、一般部及びヘッダー/タンク接合部のZn量の最適バランスを図ることができ、安価で合理的な構造で一般部及びヘッダー/タンク接合部の優先腐食を防止して、各部において貫通孔食の早期発生を防止することができるアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシート、アルミニウム合金製熱交換器及びアルミニウム合金製熱交換器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、ヘッダ−内張材のZn量およびクラッド率を種々変えたブレージングシートを作製し、ヘッダー/タンク接合部を模擬した試験片を作製し、腐食試験を実施した。それによってヘッダー/タンク接合部の内張材の優先腐食を評価し、優先腐食を防止するブレージングシートたるZn量の最適バランスを明確にすべく検討を進めた。その結果、ヘッダー内張材のZn量(wt%)とクラッド厚さ(μm)の積がろう付け前のクラッド材の段階で25〜70であるアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシートで、アルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシートのZn量の最適バランスを実現することができることが明らかとなった。
【0016】
本発明のアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシートは、Al合金芯材と、前記芯材の片面に接合されたAl−Si系ろう材と、前記芯材の他面に熱間圧延でクラッドされたAl−Zn系内張材とを有し、前記Al−Zn系内張材のZn量X(wt%)が0.5〜1.0であり、厚さY(μm)が30〜70であってかつ積XYが25〜70であることを特徴とする。
【0017】
また本発明のアルミニウム合金製熱交換器は、Al合金芯材と、その芯材に接合されたAl−Si系ろう材部とを有するタンクと、Al合金芯材と、その芯材に熱間圧延でクラッドされたAl−Zn系内張材とを備えるブレージングシートを成型してなるヘッダープレートと、を有し、前記Al−Zn系内張材のZn量X(wt%)が0.5〜1.0であり、厚さY(μm)が30〜70であってかつ積XYが25〜70であり、前記Al−Si系ろう材部と前記Al−Zn系内張材とをろう付により接合して中空構造を形成して熱交換器媒体通路としてなることを特徴とする。
【0018】
さらに本発明のアルミニウム合金製熱交換器の製造方法は、Al合金芯材の片面にAl−Si系ろう材を接合し、他面にAl−Zn系内張材をクラッドしてブレージングシートを作製し、作製したブレージングシートをタンクとして成型するタンク成型工程と、Al合金芯材の片面にAl−Si系ろう材を接合し、他面にAl−Zn系内張材をクラッドしてブレージングシートを作製し、作製したブレージングシートをヘッダープレートとして成型するヘッダープレート成型工程と、前記タンクを構成するAl−Si系ろう材と前記ヘッダープレートを構成するAl−Zn系内張材とが接合するように中空構造を形成し熱交換器媒体通路とする接合工程と、を含み、前記ヘッダー材成型工程に用いるブレージングシートにおけるAl−Zn系内張材のZn量X(wt%)が0.5〜1.0であり、厚さY(μm)が30〜70であってかつ積XYが25〜70であることを特徴とする。
【0019】
前記ヘッダープレートとして成型するブレージングシートを作製するために芯材とAl−Zn系内張材とAl−Si系ろう材とを重ね合わせて行うクラッド熱間圧延の温度を450〜470℃とするのが望ましい。また、前記接合工程を580〜600℃でのろう付により行うのが望ましい。
【0020】
[作用]
図4に示すように、ろう付け前の内張材のZn量が多く、クラッド率が高い場合には、接合部Jにおいてはろう付け後の内張材のZn量が多くなり、ろう材よりも電位的に卑になって優先的に腐食し貫通もれに至る。
一方、図5に示すようにろう付け前の内張材のZn量を少なくし、クラッド率を低くした場合には、接合部Jにおいてはろう付け後の内張材のZn量が少なくなり、ろう材と電位的に等しくなるために、ろう材と内張材が均等に腐食し、内張材の優先腐食がなくなり貫通漏れが発生しない。
しかし、内張材の一般部G及び接合部J全体のZn量を小さくした場合には一般部Gの内張材の防食機能が損なわれ、一般部Gにおいて早期に貫通孔が形成される。
【0021】
そこで、本発明では接合部JにおけるZn拡散プロファイルを検討した結果、Al−Zn系内張材のZn量X(wt%)が0.5〜1.0であり、厚さY(μm)が30〜70であるときの積XYを25〜70とすることによって、ヘッダー/タンク接合部の内張材では、ろう材との境界BにおいてZn濃度が過剰になることがなく、内張材の一般部G及び接合部J全体のZn量の最適バランスを図って、一般部G及び接合部J共に早期の貫通を防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシート、アルミニウム合金製熱交換器及びアルミニウム合金製熱交換器の製造方法によれば、一般部及びヘッダー/タンク接合部のZn量の最適バランスを図ることができ、安価で合理的な構造で一般部及びヘッダー/タンク接合部の優先腐食を防止して、貫通孔食の早期発生を各部において防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明のアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシートにおける内張材のZn量および厚さの限定理由について説明する。なお、ここで限定するZn量は、クラッド材となった段階でかつろう付前におけるものである。その様に限定する理由はZnは拡散し易くクラッド圧延中にZn量が変化する可能性があり、またろう付中にも変化する可能性があるからである。
【0024】
(I)本発明のアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシートの構成
本発明のアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシートはAl合金芯材と、芯材の片面に接合されたAl−Si系ろう材と、芯材の他面に熱間圧延でクラッドされたAl−Zn系内張材とを有する。
(i)Al−Zn系内張材のZn量X(wt%)を0.5〜1.0とする。
Znはアルミニウム合金に固溶し、ろう材の自然電極電位を卑にして芯材を防食し、チューブの耐食性を向上させる。しかしながら、Zn量が多いとヘッダー/タンク接合部においてろう付け後Zn濃度が高くなり、内張材の優先腐食を発生させる。
Znの添加量が0.5wt%未満ではヘッダー材の熱交換器媒体通路7を流通する冷却水と接している一般部Gに早期に貫通腐食を発生してしまう。
一方1.0wt%を超えると冷却水と接している一般部Gの耐食性は良好になるが、ヘッダー/タンク接合部の優先腐食を促進する。従ってZnの添加量を0.5wt%〜1.0wt%と規定した。
【0025】
(ii)Al−Zn系内張材の厚さY(μm)を30〜70とする。
ろう付け後のヘッダー/タンク接合部における内張材でのZn量はヘッダー内張材のZn量だけでなくクラッド厚さ(μm)にも関係してくる。
このクラッド厚さY(μm)が30(μm)未満である場合には、冷却水と接している一般部Gに早期に貫通腐食を発生しない充分なZn量とするためには1.0wt%を超える過剰なZn量とする必要が生じる。
その様に1.0wt%を超える過剰なZn量とする場合には、ヘッダー/タンク接合部の内張材においてろう付け後のZn量を抑制して貫通もれを防止する適切なバランスを図ることはできない。
【0026】
(iii)Al−Zn系内張材のZn量X(wt%)、厚さY(μm)の積XYを25〜70とする。
冷却水と接している一般部Gに早期に貫通腐食を発生しない充分なZn量とし、かつヘッダー/タンク接合部の内張材においてろう付け後のZn量を抑制して貫通もれを防止する適切なバランスを図る指標として積XYを採用し、これを25〜70とした。
【0027】
Zn量とクラッド厚さの積XYが25未満の場合、Znの芯材方向への拡散距離が小さく、拡散が容易に進行することから、図5のZn拡散プロファイルに示すように、Zn濃度が最も高いろう材6cとの境界Bにおいてもろう付け後のZnが0.2%未満になる。
その結果、ヘッダー/タンク接合部においてはろう材と内張材とが電位的に等しくなるために、ろう材と内張材が均等に腐食し、内張材の優先腐食がなくなり貫通漏れが発生しない。
【0028】
しかし、その反面、ヘッダー/タンク接合部以外の冷却水と接している一般部GにおけるZn量が0.25%未満になるため、犠牲腐食効果が発揮できず冷却水と接している一般部Gに早期に貫通腐食を発生してしまう。
【0029】
一方Zn量とクラッド率の積XYが70を超える場合、冷却水と接している一般部Gの腐食が良好になる。しかし、その場合図4のZn拡散プロファイルに示すようにろう材6cとの境界Bにおいて最もZn濃度が高く、ろう付け前のZn量X(wt%)を0.5〜1.0とすると、境界Bにおいてはろう付け後のZn量は0.55%を越える。その結果、ヘッダー/タンク接合部のろう材よりも電位的に卑になり、ヘッダー/タンク接合部において内張材が優先的に腐食し貫通もれに至ってしまう。
【0030】
以上のように、加熱による拡散エネルギー及び拡散距離に依存するろう付けにおけるZnの拡散プロファイルを考慮して、ヘッダー材のろう付け前の内張材のZn量とクラッド厚さ(μm)の積XYを25〜70とすることによって、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部においてろう材6cとの境界BにおけるZn量を0.2〜0.55%に抑制して、適切なバランスとすることが可能となる。すなわちヘッダー/タンク接合部の耐食性が良好になり、かつ一般部Gにおいても内張材のZn量が0.25%以上になるために、一般部Gの耐食性も確保できる。
【0031】
(II)本発明のアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシートの製造工程
ここで本発明で提案されるブレージングシート材の製造工程は、クラッド熱間圧延の温度を(開始から終了までを通して)450℃〜470℃で実施する。
これはこの温度範囲で熱間圧延することにより、熱間圧延時の予備加熱や圧延時の温度上昇によって内張材のZnを芯材に予め拡散させ、ろう付け加熱時においてヘッダー材/タンクヘッダー/タンク接合部において内張材のZn量を小さくするためである。しかし、特に500℃を超える温度域では、圧延加工による内張材・外ろう材の温度上昇が芯材より高いため、内張材のZnの拡散が大きくなりすぎてしまう。このため、ヘッダー材/タンクヘッダー/タンク接合部において内張材のZn量が小さくなり、ヘッダー/タンク接合部の腐食は問題ないが、冷却水と接している一般部Gでのろう付け後Zn量が0.25%未満になるために、内張材の犠牲腐食効果が小さくなり、一般部において早期に貫通してしまう問題点がある。
【0032】
(III)本発明のアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシートの各製造段階におけるZn量
以上の製造工程を経て製造される本発明のアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシートにあっては、そのZn量は各製造段階において以下の通りとなる。
(i)皮材の鋳塊
0.5−1.0%必要である。これは、ろう付け後に優先腐食・犠牲効果の観点でZn量の条件を満たす必要があるためである。
(ii)製造後のクラッドした状態のブレージングシート
クラッド熱間圧延の温度が高すぎると、鋳塊のZn量から減ってしまうが、それではろう付け後に充分な犠牲効果が得られない。従って、熱間圧延後もろう付前は0.5−1.0%必要である。
(iii)ろう付後のヘッダー/タンク接合部
ヘッダー/タンク接合部の優先腐食を防止する観点から0.55%未満であることが必要となる。
(iv)ろう付後の一般部G
充分な犠牲防食効果を得るために0.25%以上であることが必要となる。
【0033】
(IV)本発明のアルミニウム合金製熱交換器
図1(a),(b)に示すように本発明のアルミニウム合金製熱交換器1は、本発明のアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシートを成型してなるヘッダー材プレート4を有し、Al−Si系ろう材6cとAl−Zn系内張材4bとをろう付により接合して中空構造を形成して熱交換器媒体通路7とする。この熱交換器媒体通路7は580〜600℃のろう付により形成してなる。
【0034】
(V)本発明のアルミニウム合金製熱交換器の製造方法
以上の本発明のアルミニウム合金製熱交換器1は、次の各工程によって製造される。
Al合金芯材6aの片面にAl−Si系ろう材6cを接合し、他面にAl−Zn系内張材6bをクラッドしてブレージングシートを作製し、作製したブレージングシートをタンク(6A),(6B)として成型するタンク成型工程を行う。
【0035】
また、Al合金芯材4aの片面にAl−Si系ろう材4cを接合し、他面にAl−Zn系内張材4bをクラッドしてブレージングシートを作製し、作製したブレージングシートをヘッダー材プレート4として成型するヘッダー材プレート成型工程を行う。
このブレージングシートには本発明のアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシートを用いる。
【0036】
タンク(6A),(6B)を構成するAl−Si系ろう材6cとヘッダー材プレート4を構成するAl−Zn系内張材4bとが接合するように中空構造を形成し熱交換器媒体通路7とする接合工程を580〜600℃でのろう付により行う。
【0037】
[実施例]
表1に本発明例のヘッダー材の内の内張材成分とクラッド率および本発明例を外れる比較例内張材成分を示す。これら内張材と芯材合金(JIS3003合金)と内ろう材(BA4343P合金(内ろう材と示す)を鋳塊サイズ幅600mm、長さ5000mm、幅1200mmのサイズで鋳造し、外ろう材、内ろう材は所定のクラッド率になるよう熱間圧延の開始温度500℃で圧延した後に、所定のクラッド率になるように重ね合わせ、クラッド熱間圧延の開始温度を460℃、終了温度470℃で圧延し、冷間圧延にて最終板厚を1.0mmにしたものに、最終焼鈍温度を400℃で1時間実施してブレージングシートを作製した。なお、比較例として、内張材合金の成分およびZn量とクラッド厚さの積XYは本発明例範囲内であるが、クラッド熱間圧延の開始温度を520℃、終了温度を530℃で実施し、冷間圧延にて1.0mmにしたものに、最終焼鈍温度を400℃で1時間実施したブレージングシートも作製した。
【0038】
これらヘッダー材と接合するタンク材として、BAS311P(芯材:JIS3003合金、内ろう材:JIS4343合金、内張材:JIS7072合金)の板厚1.0mm、O調質材を用いた。
【0039】
【表1】

【0040】
(1)腐食試験
ヘッダー/タンク接合部の腐食試験として、表1の構成のヘッダー材を幅25mm、長さ100mmの試験片に加工し、ヘッダー材の内張材とタンク材(BAS311P:板厚1.0mm)のろう材を接合面積幅25mm、長さ20mmで接合し、窒素雰囲気下でろう付け相当の加熱(600℃で3分)を行った後、接合面を残して裏面・端部をマスキングした後に、JISH8601に準じるCASS試験を行ない、腐食生成物を除去した後に、ヘッダー/タンク接合部の腐食深さを焦点深度法にて測定した。また一般部の腐食試験として、表1の構成のヘッダー材を幅25mm、長さ100mmの試験片に加工し、窒素雰囲気下でろう付け加熱(600℃で3分)を行った。内張材の部分を幅20mm、長さ80mmを残し、端部と裏面をマスキングした後に、OY水(Cl−:195ppm、SO−:60ppm、Cu+:1ppm、Fe+:30ppm)の溶液に浸漬し、88℃×8時間加熱、16時間放冷の熱サイクルを繰り返す試験に3ヶ月供した。試験後、腐食生成物を除去した後に、腐食深さを焦点深度法にて測定した。その結果を表1に示す。
【0041】
表1からわかるように、本発明例1では、ヘッダー材鋳塊段階のZn(wt%)が0.52であり、ヘッダー材ろう付け前のZn(wt%)が0.51、ヘッダー内張材厚さ(μm)が70であった。またろう付け前のZn量とクラッド率の積XYは35.7であり、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部におけるヘッダー内張材のZn量は0.27、ろう付け後の一般部におけるヘッダー内張材のZn量は0.35であった。その結果、ヘッダー/タンク接合部の腐食深さ(mm)は1.1、一般部の腐食深さ(mm)は0.05であった。
【0042】
本発明例2では、ヘッダー材鋳塊段階のZn(wt%)が0.72であり、ヘッダー材ろう付け前のZn(wt%)が0.70、ヘッダー内張材厚さ(μm)が50であった。またろう付け前のZn量とクラッド率の積XYは35.0であり、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部におけるヘッダー内張材のZn量は0.26、ろう付け後の一般部におけるヘッダー内張材のZn量は0.34であった。その結果、ヘッダー/タンク接合部の腐食深さ(mm)は1.4、一般部の腐食深さ(mm)は0.05であった。
【0043】
本発明例3では、ヘッダー材鋳塊段階のZn(wt%)が0.73であり、ヘッダー材ろう付け前のZn(wt%)が0.71、ヘッダー内張材厚さ(μm)が70であった。またろう付け前のZn量とクラッド率の積XYは49.7であり、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部におけるヘッダー内張材のZn量は0.37、ろう付け後の一般部におけるヘッダー内張材のZn量は0.48であった。その結果、ヘッダー/タンク接合部の腐食深さ(mm)は1.5、一般部の腐食深さ(mm)は0.10であった。
【0044】
本発明例4では、ヘッダー材鋳塊段階のZn(wt%)が0.95であり、ヘッダー材ろう付け前のZn(wt%)が0.93、ヘッダー内張材厚さ(μm)が50であった。またろう付け前のZn量とクラッド率の積XYは46.5であり、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部におけるヘッダー内張材のZn量は0.35、ろう付け後の一般部におけるヘッダー内張材のZn量は0.45であった。その結果、ヘッダー/タンク接合部の腐食深さ(mm)は1.5、一般部の腐食深さ(mm)は0.04であった。
【0045】
本発明例5では、ヘッダー材鋳塊段階のZn(wt%)が0.99であり、ヘッダー材ろう付け前のZn(wt%)が0.97、ヘッダー内張材厚さ(μm)が70であった。またろう付け前のZn量とクラッド率の積XYは67.9であり、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部におけるヘッダー内張材のZn量は0.51、ろう付け後の一般部におけるヘッダー内張材のZn量は0.66であった。その結果、ヘッダー/タンク接合部の腐食深さ(mm)は2.1、一般部の腐食深さ(mm)は0.04であった。
【0046】
本発明例6では、ヘッダー材鋳塊段階のZn(wt%)が0.53であり、ヘッダー材ろう付け前のZn(wt%)が0.52、ヘッダー内張材厚さ(μm)が50であった。またろう付け前のZn量とクラッド率の積XYは26.0であり、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部におけるヘッダー内張材のZn量は0.20、ろう付け後の一般部におけるヘッダー内張材のZn量は0.25であった。その結果、ヘッダー/タンク接合部の腐食深さ(mm)は0.9、一般部の腐食深さ(mm)は0.08であった。
【0047】
本発明例7では、ヘッダー材鋳塊段階のZn(wt%)が0.98であり、ヘッダー材ろう付け前のZn(wt%)が0.96、ヘッダー内張材厚さ(μm)が30であった。またろう付け前のZn量とクラッド率の積XYは28.8であり、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部におけるヘッダー内張材のZn量は0.22、ろう付け後の一般部におけるヘッダー内張材のZn量は0.28であった。その結果、ヘッダー/タンク接合部の腐食深さ(mm)は1.2、一般部の腐食深さ(mm)は0.08であった。
したがって、以上の本発明例はいずれも本発明の条件を充足し、ヘッダー/タンク接合部に優先腐食が生じず、かつ一般部の耐食性が良好で、最適バランスが図られていることが判る。
【0048】
比較例8では、ヘッダー材鋳塊段階のZn(wt%)が0.45であり、ヘッダー材ろう付け前のZn(wt%)が0.44、ヘッダー内張材厚さ(μm)が50であった。またろう付け前のZn量とクラッド率の積XYは22.0であり、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部におけるヘッダー内張材のZn量は0.11、ろう付け後の一般部におけるヘッダー内張材のZn量は0.14であった。したがって、比較例8はヘッダー材のZn量がAl−Zn系内張材(2b)のZn量が0.5〜1.0%とする本発明未満であった。またヘッダー材のZn量(wt%)とクラッド厚さの積XYが25未満であったため、ヘッダー/タンク接合部の腐食深さ(mm)は0.8で腐食が生じなかったが、冷却水と接している一般部に貫通腐食を生じた。
【0049】
比較例9では、ヘッダー材鋳塊段階のZn(wt%)が0.51であり、ヘッダー材ろう付け前のZn(wt%)が0.50、ヘッダー内張材厚さ(μm)が30であった。またろう付け前のZn量とクラッド率の積XYは15.0であり、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部におけるヘッダー内張材のZn量は0.11、ろう付け後の一般部におけるヘッダー内張材のZn量は0.15であった。その結果、内張材のZn量は本発明範囲内であるが、ヘッダー材のZn量(wt%)とクラッド厚さの積XYが25未満であったためヘッダー/タンク接合部に腐食が生じなかった(腐食深さ(mm)は0.8)が、冷却水と接している一般部に貫通腐食を生じた。
【0050】
比較例10では、ヘッダー材鋳塊段階のZn(wt%)が0.70であり、ヘッダー材ろう付け前のZn(wt%)が0.68、ヘッダー内張材厚さ(μm)が30であった。またろう付け前のZn量とクラッド率の積XYは20.4であり、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部におけるヘッダー内張材のZn量は0.12、ろう付け後の一般部におけるヘッダー内張材のZn量は0.16であった。その結果、比較例9と同様に、内張材のZn量は本発明範囲内であるが、ヘッダー材のZn量(wt%)とクラッド厚さの積XYが25未満であったためヘッダー/タンク接合部に腐食が生じなかった(腐食深さ(mm)は1.0)が、冷却水と接している一般部に貫通腐食を生じた。
【0051】
比較例11では、ヘッダー材鋳塊段階のZn(wt%)が0.98であり、ヘッダー材ろう付け前のZn(wt%)が0.98、ヘッダー内張材厚さ(μm)が100であった。またろう付け前のZn量とクラッド率の積XYは98.0であり、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部におけるヘッダー内張材のZn量は0.74、ろう付け後の一般部におけるヘッダー内張材のZn量は0.96であった。その結果、内張材のZn量は本発明範囲内であるが、ヘッダー材のZn量(wt%)とクラッド厚さの積XYが70を越えたために、ヘッダー/タンク接合部のAl−Zn合金層に優先腐食を生じ貫通腐食を生じてしまった。
【0052】
比較例12では、ヘッダー材鋳塊段階のZn(wt%)が1.20であり、ヘッダー材ろう付け前のZn(wt%)が1.15、ヘッダー内張材厚さ(μm)が70であった。またろう付け前のZn量とクラッド率の積XYは80.5であり、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部におけるヘッダー内張材のZn量は0.60、ろう付け後の一般部におけるヘッダー内張材のZn量は0.78であった。その結果、内張材のZn量が本発明を越え、かつヘッダー材のZn量(wt%)とクラッド厚さの積XYが70を越えたために、ヘッダー/タンク接合部のAl−Zn合金層に優先腐食を生じ貫通腐食を生じてしまった。
【0053】
比較例13では、ヘッダー材鋳塊段階のZn(wt%)が0.75であり、ヘッダー材ろう付け前のZn(wt%)が0.44、ヘッダー内張材厚さ(μm)が70であった。またろう付け前のZn量とクラッド率の積XYは30.8であり、ろう付け後のヘッダー/タンク接合部におけるヘッダー内張材のZn量は0.12、ろう付け後の一般部におけるヘッダー内張材のZn量は0.16であった。この比較例13は、クラッド熱間圧延の開始温度を520℃、終了温度を530℃で実施したために、ヘッダー材を形成するブレージングシート中のZn量が少なくなり(一般部において内張材のZn量が0.25%未満となり)、ヘッダー/タンク接合部に腐食が生じなかったが、冷却水と接している一般部に貫通腐食を生じた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1(a)は自動車用熱交換器(ラジエーター)の正面図、図1(b)は図1(a)のA−A断面拡大模式図である。
【図2】タンクとヘッダー材プレート相互間のヘッダー/タンク接合部におけるZn拡散プロファイルを示す説明図。
【図3】タンクとヘッダー材プレート相互間のヘッダー/タンク接合部断面写真。
【図4】タンクとヘッダー材プレート相互間のヘッダー/タンク接合部におけるZn拡散プロファイルの一例を示す説明図であり、(a)はろう付け前、(b)はろう付け後を示す。
【図5】タンクとヘッダー材プレート相互間のヘッダー/タンク接合部におけるZn拡散プロファイルの他の例を示す説明図であり、(a)はろう付け前、(b)はろう付け後を示す。
【符号の説明】
【0055】
2・・・チューブ、6・・・タンク、4・・・ヘッダープレート、6a,4a・・・芯材6c・・・ろう材、4b・・・内張材、J・・・接合部、G・・・一般部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al合金芯材と、前記芯材の片面に接合されたAl−Si系ろう材と、前記芯材の他面に熱間圧延でクラッドされたAl−Zn系内張材とを有し、前記Al−Zn系内張材のZn量X(wt%)が0.5〜1.0であり、厚さY(μm)が30〜70であってかつ積XYが25〜70であることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシート。
【請求項2】
前記Al−Zn系内張材を450〜470℃における熱間圧延でクラッドしてなる請求項1に記載のアルミニウム合金製熱交換器用ブレージングシート。
【請求項3】
Al合金芯材と、その芯材に接合されたAl−Si系ろう材部とを有するタンクと、
Al合金芯材と、その芯材に熱間圧延でクラッドされたAl−Zn系内張材とを備えるブレージングシートを成型してなるヘッダープレートと、を有し、
前記ブレージングシートにおけるAl−Zn系内張材のろう付前段階でのZn量X(wt%)が0.5〜1.0であり、厚さY(μm)が30〜70であってかつ積XYが25〜70であり、
前記Al−Si系ろう材部と前記Al−Zn系内張材とをろう付により接合して中空構造を形成して熱交換器媒体通路としてなることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器。
【請求項4】
前記熱交換器媒体通路を580〜600℃のろう付により形成してなる請求項3に記載のアルミニウム合金製熱交換器。
【請求項5】
Al合金芯材の片面にAl−Si系ろう材を接合し、他面にAl−Zn系内張材をクラッドしてブレージングシートを作製し、作製したブレージングシートをタンクとして成型するタンク成型工程と、
Al合金芯材の片面にAl−Si系ろう材を接合し、他面にAl−Zn系内張材をクラッドしてブレージングシートを作製し、作製したブレージングシートをヘッダープレートとして成型するヘッダープレート成型工程と、
前記タンクを構成するAl−Si系ろう材と前記ヘッダープレートを構成するAl−Zn系内張材とが接合するように中空構造を形成し熱交換器媒体通路とする接合工程と、を含み
前記ヘッダー材成型工程に用いるブレージングシートにおけるAl−Zn系内張材のZn量X(wt%)が0.5〜1.0であり、厚さY(μm)が30〜70であってかつ積XYが25〜70であることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器の製造方法。
【請求項6】
前記ヘッダープレートとして成型するブレージングシートを作製するために芯材とAl−Zn系内張材とAl−Si系ろう材とを重ね合わせて行うクラッド熱間圧延の温度を450〜470℃とする請求項5に記載のアルミニウム合金製熱交換器の製造方法。
【請求項7】
前記接合工程を580〜600℃でのろう付により行う請求項5または請求項6に記載のアルミニウム合金製熱交換器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−275246(P2009−275246A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125475(P2008−125475)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】