説明

アルミニウム塗装板および熱交換器

【課題】クロムを使用することなく、かつ、高い耐食性が求められる用途に好適なアルミニウム塗装板を提供することを目的とする。
【解決手段】アルミニウム基材1の上層に、アルミニウム酸化物からなる無孔質皮膜2が20nm以上150nm未満の膜厚で形成され、その上層に、エポキシ系耐食性皮膜3が1g/m以上10g/m未満で形成されていることを特徴とするアルミニウム塗装板9を用いることにより、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材や家電製品、電子機器等の耐食性が求められる用途に好適なアルミニウム塗装板に関するものであり、その中でも、塩害地等の腐食しやすい場所・用途に用いられる自動車用空調器および家庭用空調器等の熱交換器のフィン材として、特に好適なアルミニウム塗装板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調器および家庭用空調器等の熱交換器は腐食環境で使用される場合があるため、前記熱交換器に用いられる部品には耐食性が必要とされ、耐食性に優れた下地処理を行う必要がある。耐食性に優れた下地処理として従来から行われてきたクロメート処理は、部品の耐食性を容易に改善できる方法であり、各種材料に広く利用されている。しかしながら、前記クロメート処理は、環境クロム汚染の問題を引き起こすおそれがあり、また、耐食性が不十分という問題もあった。
前記問題を鑑み、特許文献1においては、親水性や耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム材料およびその材料を用いた熱交換器について開示がされている。従来のクロメート処理に比べれば、環境クロム汚染の問題を生じさせることはなく、耐食性も向上したが、塩害地等の腐食しやすい環境で使用される場合には、耐食性がまだ不十分であるという問題があった。
【特許文献1】特開2005−97703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、クロムを使用することなく、かつ、高い耐食性が求められる用途に好適なアルミニウム塗装板を提供することを目的とする。また、塩害地等の使用にも十分に耐えうる熱交換器用フィンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。すなわち、
本発明のアルミニウム塗装板は、アルミニウム基材の上層に、アルミニウム酸化物からなる無孔質皮膜が20nm以上150nm未満の膜厚で形成され、その上層に、エポキシ系耐食性皮膜が1g/m以上10g/m未満の皮膜量で形成されていることを特徴とする。
本発明のアルミニウム塗装板は、前記エポキシ系耐食性皮膜が、前記エポキシ系耐食性皮膜100質量部に対して、フェノール系架橋剤を0.1質量部以上30質量部以下含有することを特徴とする。
本発明のアルミニウム塗装板は、前記無孔質皮膜と、前記エポキシ系耐食性皮膜との間に、シランカップリング剤層が1mg/m以上100mg/m以下での付着量で形成されていることを特徴とする。
本発明のアルミニウム塗装板は、前記シランカップリング剤がエポキシ系シランカップリング剤であることを特徴とする。
本発明の熱交換器は、先に記載のアルミニウム塗装板をフィン材として備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
上記の構成によれば、クロムを使用することなく、かつ、高い耐食性が求められる用途に好適なアルミニウム塗装板を提供することができる。特に、塩害地等の使用にも十分に耐えうる熱交換器用フィンを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施形態であるアルミニウム塗装板について説明する。
図1は、前記アルミニウム塗装板9の一例を示す拡大断面図である。
前記アルミニウム塗装板9は、アルミニウム基材1の一面1aおよび他面1bにそれぞれ無孔質皮膜2、エポキシ系耐食性皮膜3がこの順序で積層されている。
【0007】
前記アルミニウム基材1は、純アルミニウム、アルミニウム合金のいずれであってもよく、アルミニウム合金にあっては適宜の組成とすることができ、特に組成が限定されるものではない。例えば、JIS1000番台の純アルミニウムやJIS5000番台、7000番台等のアルミニウム合金を用いることができる。
【0008】
前記無孔質皮膜2は、アルミニウム酸化物により形成されるのが好ましい。無孔質皮膜2の形成方法は特に限定されるものではないが、代表的には陽極酸化皮膜形成法により形成することができる。無孔質皮膜2は、完全に無孔である必要はなく、例えば、5%以下の空孔率を有する程度の無孔質であればよい。
【0009】
前記無孔質皮膜2の膜厚は20nm以上150nm未満が好ましい。無孔質皮膜2の膜厚が20nm未満の場合には、薄すぎるため無孔質皮膜2自体の耐食性が十分でない。逆に、無孔質皮膜2の膜厚が150nm以上の場合には、アルミニウム塗装板9の加工時に無孔質皮膜2にクラックが入り、エポキシ系耐食性皮膜3の剥離が生じたり、耐食性が低下するおそれが発生する。アルミニウム塗装板9は、塗装後に何らかの成形加工が行われるが、近年はこれまでにない複雑な形状に成形されたり、生産性を高めるために成形加工の高速化が図られるなど、年々、成形加工条件が厳しいものとなってきている。たとえば、空調機用熱交換器に用いられるフィンの成形加工では、プレス成形の高速化、あるいは銅管との接合部では母材の厚さが1/2になるほどのしごき加工が行われるなど、厳しい成形加工が行われるようになっている。そのため、無孔質皮膜2の膜厚を20nm以上150nm未満とするのが好ましい。
【0010】
前記エポキシ系耐食性皮膜3を構成する材料は、エポキシ系樹脂が好ましい。耐食性樹脂皮膜材料としては、アクリル系、ポリエステル系、ビニル系など数多くの樹脂皮膜が存在するが、その中でも特に、前記エポキシ系樹脂は前記無孔質皮膜2の両表面2a、2aに存在する水酸基と前記エポキシ系樹脂のエポキシ基とが強固に結合し、前記無孔質皮膜2と前記エポキシ系耐食性皮膜3との界面での密着力を高める。その結果、腐食性物質のアルミニウム基材1への浸入を抑制し、耐食性を高める。たとえば、前記エポキシ系樹脂としては、三井東圧社製エポキ−833−40HM(商品名)を例示できる。
【0011】
前記エポキシ系耐食性皮膜3は、1g/m以上10g/m未満の皮膜量で形成されていることが好ましい。前記皮膜量が1g/m未満では、エポキシ系耐食性皮膜3にピンホールのような局部的に弱い部分が存在して耐食性が劣るほか、エポキシ系耐食性皮膜3全体としても薄いので十分な耐食性が得られない。
逆に、前記皮膜量が10g/m以上では、耐食性がそれほど向上せず、むしろ、アルミニウム塗装板9を曲げたり、張り出したりするような加工をした際に、エポキシ系耐食性皮膜3にクラックが入りやすくなり、加工部の耐食性を低下させる場合が発生する。また、樹脂使用量も増加し、経済的にも不利となる。
【0012】
前記エポキシ系耐食性皮膜3は、架橋剤を含有していることが好ましい。架橋剤としては、アミン系、酸無水物系、ケチミン系、フェノール系架橋剤を上げることができる。特に、フェノール系架橋剤を用いることが好ましい。前記フェノール系架橋剤によって、エポキシ系樹脂の架橋密度が高まり、エポキシ系耐食性皮膜3のバリア性を高めることができる。また、前記フェノール系架橋剤の水酸基は、前記エポキシ系樹脂のエポキシ基と無孔質皮膜2の両表面2a、2aに存在する水酸基とそれぞれ強く結合し、エポキシ系耐食性皮膜3の密着性をより強固にする。
フェノール系架橋剤は、エポキシ系耐食性皮膜100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下含有されることが好ましい。前記フェノール系架橋剤が0.1質量部未満の場合には、エポキシ系耐食性皮膜3の架橋が疎となり、水分や腐食性液体の浸入を抑えることができず、十分な耐食性が得られない。逆に、フェノール系架橋剤が30質量部を超える場合には、基本となるエポキシ樹脂等が相対的に少なくなり、架橋構造が疎となるばかりか、未架橋の架橋剤が脱落するため、水分や腐食性液体の浸入を抑えることができず十分な耐食性が得られない。
前記フェノール架橋剤としては、キシレノール、パラフェニルフェノール、ビスフェノールA、ジメチルアミノメチルフェノール等およびこれらをエポキシ樹脂、メラニン樹脂等で変性したものを用いることができる。
【0013】
図2は、本発明の実施形態であるアルミニウム塗装板の別の一例を示す拡大断面図である。
前記アルミニウム塗装板10は、アルミニウム基材1の一面1a、他面1bにそれぞれ無孔質皮膜2、シランカップリング剤層4、エポキシ系耐食性皮膜3がこの順序で積層されている。
【0014】
前記シランカップリング剤層4は、無孔質皮膜2とエポキシ系耐食性皮膜3との中間層として形成する。前記シランカップリング剤層4は無孔質皮膜2と極めて強力に結合するとともに、エポキシ系耐食性皮膜3とも極めて強力に結合する。そのため、それぞれの界面の間の密着力を高めることができる。また、多層膜構造とすることにより、バリア性を高めることができる。これら2つの効果により、耐食性を高めることができる。
【0015】
前記シランカップリング剤層4としては、アミノ系、メタクリル系、メルカプト系、ビニル系およびエポキシ系等のシランカップリング剤を用いることができるが、特に、エポキシ系シランカップリング剤を用いることが好ましい。エポキシ系シランカップリング剤とは、エポキシ基を持つシランカップリング剤のことであり、エポキシ系シランカップリング剤のエポキシ基とエポキシ系耐食性皮膜3のエポキシ基とが強固な結合を形成する。また、シランカップリング剤は、十分に水和(加水分解されてSi−OHを形成)させて無孔質皮膜2上に塗布し、乾燥させることで、無孔質皮膜2表面の水酸基と脱水縮合反応して強固な結合を形成する。エポキシ系耐食性皮膜3とはシランカップリング剤のエポキシ基が強固な結合を形成する。
また、エポキシ系シランカップリング剤のエポキシ基は、樹脂皮膜の焼付けの際に加わる熱により、シランカップリング剤内で強い結合を形成し、バリア性を高めることができる。
エポキシ系シランカップリング剤としては、たとえば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製KBM−403(商品名))、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を例示することができる。
【0016】
前記シランカップリング剤層4の付着量は、1mg/m以上100mg/m以下とすることが好ましい。前記シランカップリング剤層4の付着量が1mg/m未満では、無孔質皮膜2の両表面2a、2aをシランカップリング剤層4で覆うことができず、局部的に密着力の弱い部分が生じ、十分な耐食性が得られない。逆に、前記シランカップリング剤層4の付着量が100mg/mを超える場合には、材料を大量に使う割に、耐食性がそれほど向上せず、経済的に不利となる。
【0017】
たとえば、アルミニウム基材1として、JIS A1200組成を有する板厚0.100mmのアルミニウム合金板を用意する。前記アルミニウム基材1は、常法により溶製、鋳造、圧延などの方法を用いて製造することができ、特定の製造工程に限定されるものではない。 まず、そのアルミニウム合金板に、脱脂、洗浄などの前処理を施す。たとえば、このアルミニウム合金板を、温度60℃の1%のアルカリ性溶液に30秒間浸漬して脱脂した後、水洗し、さらに乾燥し、アルミニウム基材1とする。
【0018】
次に、アルミニウム基材1の一面1aおよび他面1b上に無孔質皮膜2を形成する。この無孔質皮膜2を形成には、陽極酸化処理を用いる。
前記陽極酸化処理は、アルミニウム基材1を陽極、不溶性電極を陰極となるように電源に接続し、電解質水溶液中で両電極間に電界を印加し、直流電流を流すことによって、アルミニウム基材1表面を酸化する処理のことである。
【0019】
前記不溶性電極としては、電解質水溶液に対し不溶性の導電材料が用いられる。たとえば、カーボン、チタン、ステンレス等を挙げることができる。
【0020】
電解質水溶液としては、硼酸、硼酸塩、リン酸塩、ホウ酸、アジピン酸塩、フタル酸塩、安息香酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、ケイ酸塩などの群から選ばれる1種または2種以上の酸あるいは酸塩を、電解質として溶解した水溶液が好ましい。これらの酸あるいは酸塩のなかでも、特に、ホウ酸、アジピン酸塩、フタル酸塩、ケイ酸塩が好ましい。無孔質皮膜2の膜質を良好にするとともに、製造コストも安くできるためである。
【0021】
前記電解質水溶液の電解質濃度は、2質量%からその電解質の飽和濃度の範囲とするのが好ましい。2質量%より小さい場合には、電解質の量が少ないので、陽極酸化処理を完全に行うことができず、均一な酸化膜を形成することが困難となる。また、逆に、飽和濃度を超えるような電解質を加えた場合には、溶解できない電解質が沈殿し、陽極酸化処理に活用できないため、材料の無駄となる。
【0022】
前記電解質水溶液の温度は10℃以上90℃以下とするのが好ましい。10℃未満では、電解質が十分溶解しない場合があり、90℃を超える場合には、熱による対流が生じ、無孔質皮膜2の膜質が均一にならない場合が発生するおそれがあるためである。前記温度領域においては、電解質が十分に溶解するとともに、熱による対流も発生しないために、均一な膜質の無孔質皮膜2を形成することができる。
【0023】
前記陽極酸化処理には、定電圧電解法を用いることができる。定電圧電解法は、印加する電圧を一定に保持して電解を行う方法である。
定電圧電解法における印加電圧は、14V以上107V以下とするのが好ましい。印加電圧が14Vより小さい場合には、酸化処理を十分行うことができず、均一な無孔質皮膜を形成できない。また、逆に、107Vより大きい場合には、膜厚が厚くなりすぎるとともに、表面膜厚が不均一となり、表面が粗くなる。さらに、20V以上90V以下とするのがより好ましい。
電解時間は数秒以上3分以下が好ましい。電解時間が数秒未満の場合には、十分な酸化処理を行うことができず、薄い無孔質皮膜となったり、均一な無孔質皮膜を形成できない。また、逆に3分を超える処理は既に十分な膜厚が得られているので、時間の無駄となる。
なお、印加電圧、電流密度および電解時間により、無孔質皮膜2の厚さがおおよそ決定する。たとえば、定電圧電解法において、電圧1Vを印加したとき形成される無孔質皮膜2の厚さが約14Åとなる比例関係がある。
【0024】
上記条件範囲内で陽極酸化処理を行うことにより、膜厚20nm以上150nm未満の厚さが均一な無孔質皮膜2を形成することができる。また、この無孔質皮膜2は、少なくとも空孔率5%以下の無孔質となり、通常は空孔率2%以下の無孔質となる。また、この無孔質皮膜2の含水量は1〜5質量%と低い値を示し、通常は1〜3質量%の含水量と極めて低い値を示す。
【0025】
最後に、アルミニウム基材1の一面1aおよび他面1b上に形成した無孔質皮膜2の両表面2a、2a上にエポキシ系耐食性皮膜3を形成し、アルミニウム塗装板9とする。
具体的には、まず、前記無孔質皮膜2を形成したアルミニウム基材1を水洗し、約100℃で乾燥する。乾燥後、ロールコート法によって、フェノール系架橋剤等を0.1質量部以上30質量部以下添加したエポキシ系耐食性皮膜3の材料を1g/m以上10g/m未満の皮膜量で塗布した後、約200℃で乾燥し、アルミニウム塗装板9とする。
【0026】
先の記載したアルミニウム塗装板9の製造工程と同様にして、アルミニウム基材1を用意する。次に、前記アルミニウム基材1の一面1aおよび他面1b上に無孔質皮膜2を形成した後、ロールコート法によって無孔質皮膜2の両表面2a、2a上にシランカップリング剤層4を塗布する。
最後に、前記シランカップリング剤層4の両表面4a、4a上に、エポキシ系耐食性皮膜3を形成し、アルミニウム塗装板10とする。具体的には、たとえば、まず、前記のようにしてシランカップリング剤層4および無孔質皮膜2を形成したアルミニウム基材1を約100℃で乾燥する。乾燥後、ロールコート法によって、フェノール系架橋剤等を添加したエポキシ系耐食性皮膜3を塗布し、約200℃で乾燥する。
【0027】
前記工程により得られたアルミニウム塗装板9もしくは10は、必要に応じて加工油を塗布した後、プレス加工などにより、所望の形状に成形加工し、熱交換器用アルミニウム材とする。さらに、必要に応じて、それを薄板のフィン材とする。
前記フィン材はチューブ間に組み付けられ、チューブを拡管し接合することによって熱交換器を得ることができる。
【0028】
なお、前記実施形態においては、アルミニウム基材1の一面1aおよび他面1b上に、無孔質皮膜2、2、シランカップリング剤層4、4、エポキシ系耐食性皮膜3、3をこの順序で形成したが、アルミニウム基材1の片面だけに前記各皮膜を設けてもかまわない。また、アルミニウム基材1の4つの側面にも、前記各皮膜を設けてもかまわない。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
常法により製造した、JIS A1200組成を有する板厚0.100mmのアルミニウム合金板を用意し、このアルミニウム合金板を60℃の1%のアルカリ性溶液に30秒間浸漬して脱脂した後、水洗し、乾燥した。
このアルミニウム合金板を陽極にし、不溶性電極を陰極にして、温度60℃の10%ケイ酸塩水溶液中に浸漬し、電解電圧14V、電流密度1A/dm、電解時間40秒の条件で電解処理を施して、膜厚20nmとなる無孔質皮膜を形成した。
【0030】
さらに、無孔質皮膜を形成したアルミニウム基材を水洗し、100℃で乾燥した。乾燥後、ロールコート法によって、アミン系架橋剤(ポリアミドアミン)を10質量部添加したエポキシ系耐食性皮膜材料(ジャパンエポキシレジン社製jERW3432R67(商品名))を、1g/mの皮膜量で塗布し、200℃で乾燥した。
【0031】
上記のようにして作製したアルミニウム塗装板について、耐食性特性を評価した。
前記耐食性特性の評価は、JIS H8681に準拠したキャス試験を行い、腐食が発生するまでの時間を測定することにより行った。
実施例1のサンプルの腐食発生時間は72時間であった。なお、キャス試験は、極めて腐食促進性の高い試験であり、キャス試験24hr(1日)は、JIS Z 2371に準拠した一般的な腐食促進試験である塩水噴霧試験の3ヶ月以上に相当する。そのため、前記評価結果は、塩水噴霧試験では9ヶ月以上に相当すると判断した。十分な耐食性を有することが分かった。
【0032】
また、上記のようにして作製したアルミニウム塗装板をJIS Z 2247のエリクセン試験B法(締付け荷重10kN、ポンチ径10R、押し込み速度6mm/min)で5mmの張り出しを行った。キャス試験を実施し、張り出し部分において腐食が発生するまでの時間で評価した。腐食発生時間は60時間であった。なお、前記評価結果は、塩水噴霧試験では7.5ヶ月以上に相当すると判断した。十分な耐食性を有することが分かった。
実施例2以下は、表1のように行った。
【0033】
【表1】

【0034】
(実施例7)
常法により製造した、JIS A1200組成を有する板厚0.100mmのアルミニウム合金板を用意し、実施例1と同様にして、脱脂、水洗、乾燥を行った。
さらに、このアルミニウム合金板を陽極にし、不溶性電極を陰極にして、温度60℃の10%ケイ酸塩水溶液中に浸漬し、電解電圧57V、電流密度1.5A/dm、電解時間1分の条件で電解処理を施して、膜厚80nmとなる無孔質皮膜を形成した。
【0035】
次に、ロールコート法によって、アミノ系シランカップリング剤(3−アミノプロピルトリメトキシシラン)を10mg/mの付着量で塗布した。さらに、この無孔質皮膜およびシランカップリング剤層を形成したアルミニウム基材を100℃で乾燥した。
【0036】
乾燥後、ロールコート法によって、フェノール系架橋剤であるジメチルアミノメチルフェノールを0.5質量部添加したエポキシ系耐食性皮膜材料を、1g/mの皮膜量で塗布した後、200℃で乾燥し、実施例7のサンプルを作製した。耐食性試験の結果、実施例7のサンプルのキャス試験の腐食発生時間は360時間であり、エリクセン試験B法の処理を行ったサンプルの腐食発生時間は300時間であった。
実施例8以下は、表2のようにして行った。
【0037】
【表2】

【0038】
表1および表2から分かるように、耐食性および加工後耐食性について、実施例1〜15のサンプルは、比較例1〜5のサンプルよりも良好な結果を示した。特に、実施例11〜15は、耐食性試験測定限界を超える良好な結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、建材や家電製品、電子機器等の耐食性が求められる用途に好適なアルミニウム塗装板に関するものであり、その中でも、塩害地等の腐食しやすい場所・用途に用いられる自動車用空調器および家庭用空調器等の熱交換器のフィン材として、特に好適なアルミニウム塗装板に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態であるアルミニウム塗装板の一例を説明する拡大断面図である。
【図2】本発明の実施形態であるアルミニウム塗装板の別の一例を説明する拡大断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1…アルミニウム基材、2…無孔質皮膜、3…エポキシ系耐食性皮膜、4…シランカップリング剤層、9…アルミニウム塗装板、10…アルミニウム塗装板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材の上層に、アルミニウム酸化物からなる無孔質皮膜が20nm以上150nm未満の膜厚で形成され、その上層に、エポキシ系耐食性皮膜が1g/m以上10g/m未満の皮膜量で形成されていることを特徴とするアルミニウム塗装板。
【請求項2】
前記エポキシ系耐食性皮膜が、前記エポキシ系耐食性皮膜100質量部に対して、フェノール系架橋剤を0.1質量部以上30質量部以下含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項3】
前記無孔質皮膜と、前記エポキシ系耐食性皮膜との間に、シランカップリング剤層が1mg/m以上100mg/m以下での付着量で形成されていることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のアルミニウム塗装板。
【請求項4】
前記シランカップリング剤がエポキシ系シランカップリング剤であることを特徴とする請求項3に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム塗装板をフィン材として備えたことを特徴とする熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−202132(P2008−202132A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42383(P2007−42383)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】