説明

アルミニウム表面の酸化層形成方法及び半導体装置の製造方法

【課題】基体上に形成したアルミニウム成膜の表面を、濃度70%の硝酸に浸して、前記アルミニウム表面に酸化アルミニウムの被膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム表面を濃度70%の硝酸に40℃未満の室温、10分以上浸漬する条件下で、厚さ4nm以上の酸化アルミニウムの被膜を形成した。この酸化アルミニウム被膜は、高絶縁性誘電体層ないしは不働体化層として、電気的諸特性に優れており、電子デバイスの高性能な機能要素に利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム(Al)又はアルミニウム合金を、高濃度の硝酸に浸して、前記アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に酸化アルミニウム(Al)の生成膜を形成すること、および半導体または極薄の酸化物(酸化シリコン)の被膜の形成された半導体の上に存するアルミニウム(Al)又はアルミニウム合金を、高濃度の硝酸に浸して、前記アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に酸化アルミニウム(Al)の生成膜を形成することをそなえた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム(Al)又はアルミニウム合金は、通常、空気中に放置するだけで、表面に数ナノメートル(nm)の酸化物(自然酸化物とも呼ばれる)が形成されているが、多くの電子デバイス、とりわけ、半導体装置等の配線や電極部分にアルミニウム合金層を使用する半導体電子デバイスの場合、配線間間隔が微細化されるとともに配線間のリークが増大するという問題が発生しやすくなり、微細化の妨げとなっている。またアルミニウム電極上に良好な酸化アルミニウムが形成できれば、それを容量として用いることが可能となり、アナログ集積回路やガラス基板上の低温ポリシリコントランジスタ集積回路の微細化や高性能化が可能となる。一方、かかる半導体電子デバイスがプラスチックパッケージ中にカプセル封止されているときに生じる上記アルミニウム合金層の腐食を抑制することも、信頼性の重要な課題である。
【0003】
それに関して、一例として、アルミニウム−珪素(Al−Si)合金の金属層上に非常に薄い不働体化ホスフェート層またはリン酸化フィルム生成して、同金属層が湿った雰囲気中で応力を受けたときに、同合金層の腐食/ヒドロキシル化作用に抗するのに有効な抑制手段にすることが知られ(特許文献1)、その過程の第1段階(工程1)で同金属層を濃度100%の硝酸に浸漬することも示されているが、この段階での硝酸処理は、次の第2段階(工程2)で少量のリン酸(HPO)を含む混合物中に浸漬して金属層をホスフェートフィルムで被覆する前処理であり、アルミニウム−ケイ素(Al−Si)合金の金属層上に酸化アルミニウムのみの被膜を形成するものではない。
【0004】
また、近年、超高密度MOSデバイス等で、酸化アルミニウム(Al)膜を半導体界面の応力付加層として利用するという試みもあり、電子材料として酸化アルミニウム(Al)膜を半導体電子デバイスへ広く利用する場合の対応には、安定、かつその膜厚を十分に確保できる等、高いデバイス適応性のある,酸化アルミニウム膜およびその製造方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−214285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主な目的は、アルミニウムまたはアルミニウム合金層に対して、自然酸化物ではなく、かつそれより厚い酸化アルミニウムの被膜を化学的に生成すること、および前記アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に酸化アルミニウムの生成膜を形成することをそなえた半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アルミニウム(Al)又はアルミニウム合金を、硝酸,好ましくは濃度40〜99wt%の硝酸に浸して、前記アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に酸化アルミニウム(Al)の生成膜を形成することを特徴とする酸化アルミニウム被膜の形成方法である。
【0008】
本発明は、40℃未満,たとえば室温で、濃度40〜99wt%の範囲の所定の硝酸に浸して、前記アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に厚さが通常の自然酸化膜の厚さを超える2ナノメートル(nm)以上の酸化アルミニウム(Al)の生成膜を形成することを特徴とする酸化アルミニウム被膜の形成方法である。
【0009】
さらに、本発明は、半導体上、もしくは極薄の酸化物被膜を有する半導体上にアルミニウム(Al)又はアルミニウム合金を、40℃未満,たとえば室温で、硝酸,好ましくは濃度40〜99wt%の範囲の所定の硝酸に浸して、前記アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に厚さが通常の自然酸化膜の厚さを超える2ナノメートル(nm)以上の酸化アルミニウム(Al)の生成膜を形成することをそなえた半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、アルミニウム(Al)表面、または基体上に形成したアルミニウム(Al)成膜を、硝酸,好ましくは濃度40〜99wt%の範囲の所定の硝酸に浸して、厚さが通常の自然酸化膜の厚さを超える2ナノメートル(nm)以上の酸化アルミニウム(Al)被膜を形成することができ、この酸化アルミニウム(Al)被膜は、他金属等の不純物を含まず、高絶縁性の誘電体層として、電気的諸特性に優れており、電子デバイスの高性能な機能要素に利用可能である。
【0011】
本発明によると、半導体の上に存するアルミニウム(Al)又はアルミニウム合金を、40℃未満,たとえば室温で、硝酸,好ましくは濃度40〜99wt%の範囲の所定の硝酸に浸して、前記アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に厚さが通常の自然酸化膜の厚さを超える2ナノメートル(nm)以上,望ましくは、10ナノメートル(nm)以上の酸化アルミニウム(Al)の生成膜を形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】X線光電子分光(XPS)のスペクトル分布特性図である。(実施例1)
【図2】透過電子顕微鏡(TEM)による断面図である。(実施例1)
【図3】酸化アルミニウム被膜に関する電圧−電流特性図である。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
シリコンウェーハ上にアルミニウム合金(Al中に1%のSiを含む)で厚さ200nmの成膜1を設け、同成膜1を室温(25℃)で所定濃度の硝酸に浸漬して、その後、超純水で洗浄し、乾燥した。
【0014】
図1は、シリコン基板上に成膜したアルミニウム薄膜の試料を濃度70wt%の硝酸に室温で浸漬して得られた,Al/Al構造のXPSスペクトル特性図である。硝酸酸化処理を全く行わない試料面にも自然酸化のAl膜が形成されているが、浸漬時間経過とともに、表面部のAl/Al構造が順次、Alのピーク増大へと、表面の変化が観られ、Alの被膜の形成が進むことを示している。また、XPSスペクトル特性図から推定される酸化アルミニウムの膜厚は、3.3nm(0分)、5.4nm(5分)、5.8nm(10分),8.1nm(20分),8.7nm(30分)、11.7nm(40分),12.5nm(50分)および12.9nm(60分)であり、いずれの場合も、表面の鏡面性は保たれていた。
【0015】
図2は、濃度70wt%の硝酸に室温で20分間浸漬して得られた酸化膜の透過電子顕微鏡(TEM)による観察断面図であり、アルミニウム(Al)成膜1上の酸化アルミニウム(Al)被膜2の厚み(図中の矢印先端間寸法で表示)は約20nmであった。なお、図示の試料構造は、酸化アルミニウム(Al)被膜2の表面には樹脂材3を設けてTEM観察用に試料形成したものである。このTEM観察によると、酸化アルミニウム(Al)被膜の均一性も良いことが分かる。
【0016】
図3は、代表的な電気特性として例示の電圧−電流特性図であり、濃度70wt%の硝酸に室温で20分間浸漬して得られた酸化膜の生成直後の特性と、未処理サンプルとして、硝酸酸化処理を全く行わないリファレンス試料で表面には厚さ約3.5nmの自然酸化膜が形成されているものとを対比して示した。
【0017】
濃度70wt%の硝酸に室温で20分間浸漬して得られた酸化膜について、電気容量(C)の測定結果から、この酸化膜の比誘電率は6.9と見積られた。この値は、従来から知られるバルクAl被膜の比誘電率(約10)と比べると少し小である。この生成酸化アルミニウム膜をTEMとSEMで観察したところ、ナノ構造の細孔が存在しているものが観察された。これが比誘電率のやや小さい理由と考えられる。
【実施例2】
【0018】
次に、実施例1と同形の試料面を濃度の異なる硝酸(硝酸濃度98wt%,61wt%,40wt%)に各々10〜20分間浸して得た酸化膜の表面について、TEMおよびXPSの結果から評価したところ、生成された酸化膜は平均的な膜厚、および表面の均一性並びに鏡面性に関して、いずれも実施例1の場合と同等で、概ね良好に保たれていた。ただ、濃度98wt%の硝酸の場合には、濃度70wt%の硝酸の場合に比べて、誘電率が少し大であった。TEMとSEMで観察したところ、細孔構造はほとんど観察されなかった。
【0019】
以上、シリコン基板上のアルミニウム膜を用いた実験について述べたが、半導体として炭化ケイ素(SiC)や化合物半導体またはガラス基板上のポリシリコン膜や非晶質シリコン膜上に形成されたアルミニウム膜にも適用可能である。シリコン等の半導体上に予め、硝酸酸化法を用いて、極薄の酸化物(酸化シリコン)の被膜を形成したものを用いても良い。この場合、酸化アルミニウム膜と酸化シリコン膜のスタック構造が可能となり、高性能なトランジスタ用ゲート酸化膜や不揮発性メモリに適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、合金を含むアルミニウム(Al)表面、または基体上に形成したアルミニウム(Al)成膜上に非常に薄い高絶縁性誘電体ないしは酸化アルミニウムの被膜を生成すること、およびかかる高絶縁性誘電体ないしは酸化アルミニウムの被膜を形成する表面処理により、合金を含むアルミニウム表面への酸化アルミニウムの被膜形成を利用する固体の電子デバイスおよびその製造方法に適用できるほか、高絶縁性誘電体ないしは酸化アルミニウムの被膜を電気エネルギー源、たとえば水素等の素材を蓄積する媒体とすることや高容量の電気容量素子に利用可能である。また、ナノ細孔の生じる酸化アルミニウムはメモリ容量や不揮発性メモリの容量絶縁膜に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 アルミニウム(Al)成膜
2 酸化アルミニウム(Al)被膜
3 樹脂材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金を、硝酸に浸して、前記アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に酸化アルミニウムの生成膜を形成することを特徴とする酸化アルミニウム被膜の形成方法。
【請求項2】
アルミニウム又はアルミニウム合金を、濃度40〜99%の硝酸に浸して、前記アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に酸化アルミニウムの生成膜を形成することを特徴とする酸化アルミニウム被膜の形成方法。
【請求項3】
アルミニウム又はアルミニウム合金を、濃度40〜99%の硝酸に温度40℃未満の条件下で浸漬して、前記アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に厚さが2ナノメートル以上の酸化アルミニウムの生成膜を形成することを特徴とする酸化アルミニウム被膜の形成方法。
【請求項4】
半導体または酸化物の被膜の形成された半導体の上に存するアルミニウム又はアルミニウム合金を、濃度40〜99%の硝酸に浸して、前記アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に酸化アルミニウムの生成膜を形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。


【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−180458(P2010−180458A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25813(P2009−25813)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(309005168)株式会社KIT (1)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】