説明

アレルギー性疾患の疾患マーカーおよびその利用

【課題】喘息を始めとするアレルギー疾患のための確実かつ容易な診断ツール、および特に喀痰の分泌や上皮細胞のリモデリングを調節可能な薬剤の開発に寄与する手段の提供。
【解決手段】アンフィレギュリン遺伝子の連続する少なくとも15塩基の塩基配列を有するポリヌクレオチドおよび/または当該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含有してなるアレルギー性疾患の疾患マーカー、アンフィレギュリンを認識する抗体を含有してなるアレルギー性疾患の疾患マーカー、前記疾患マーカーを用いるアレルギー性疾患の診断方法、およびアンフィレギュリンの発現または機能を抑制する物質のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー性疾患の疾患マーカーおよびその利用に関する。詳しくは、喘息の喀痰検査等の診断に適するマーカーおよびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
気管支喘息は、可逆的な気流の閉塞や気道の過剰反応を生理学的特徴とする。杯状(Goblet)細胞過形成は、軽症、中程度、および重症の喘息の病理的特徴として確立されている。杯状細胞数の異常には、蓄積され分泌されるムチン(粘素)の変化が伴う。粘液の過剰分泌は、特に喘息発作重積状態において顕著な特徴であることが多い。粘液の過剰分泌があるということは、1秒間の努力呼出気量(FEV:1秒量)が有意に大きく低下することと関連している。現在、グルココルチコイドの局所適用が気管支喘息の第一選択治療として広く認識されている。ステロイドを用いる治療は、動物モデルにおいてアレルゲンで誘導される杯状細胞過形成の発症を防止することが報告されているけれども、一旦杯状細胞過形成が確立されてしまうと効果が低下する。さらに、ヒトにおいては、グルココルチコイド等のコルチコステロイドを用いる治療は、病理学的にも臨床的にも、組織のリモデリングと粘液の産生との関係においては概ね効果がない。粘液の過剰分泌は、喘息患者の病的状態と死に至ることの重要な原因であり、現在では特効的な治療がないことから、さらなる治療標的および治療戦略が緊急に必要とされている。
【0003】
過剰な喀痰分泌を伴う疾患として、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および感染による気管支炎などが知られている。COPDの一部の患者に喘息の合併はあるが、胸部画像所見や臨床症状によりCOPDと喘息の鑑別は可能である。感染の合併のない喘息患者およびCOPD患者は、粘着性で弾力があって白色の喀痰を伴う。他方、感染性の気管支炎では、黄色っぽい喀痰を生じることが多い。このような観点から、喀痰の性状に基づく定性的な検査によって喘息に感染を合併しているかどうかを判別しているのが現状である。喘息患者の30%は慢性的に喀痰を有し、70%は喀痰が発作中の重大な症状であることが示されているが、喘息に特徴的な指標に基づく喀痰の検査方法は確立されていない。
【0004】
実験レベルにおいては、アレルゲンで感作し暴露した動物は顕著な杯状細胞過形成を発症する(非特許文献1、2)。マウスにおけるアレルゲンで誘導された杯状細胞過形成の根底にある病因論は、おそらくムチン遺伝子(例、MUC2遺伝子、MUC5AC遺伝子等)の発現のアップレギュレーションによって、IL−4、IL−13およびIL−9を含む様々なメディエーター、上皮成長因子(EGF)系、disintegrinおよびメタロプロテアーゼファミリー、ならびにgob−5(ヒトではhCLCA1)などのイオンチャンネルが関与すると思われる。主なエフェクター細胞は、CD4+リンパ球のTh2サブタイプであると思われる。しかしながら、アレルゲンでチャレンジしたIgE高アフィニティー受容体(FcεRI)ノックアウトマウスは、対照と比較すると、気道の炎症および杯状細胞過形成がいずれも少なく、肺のホモジネート中のIL−13のレベルが低かった(非特許文献3)。さらに、ヒト気道上皮細胞培養系では、IL−4でもIL−13でもなくIL−9のみがムチン遺伝子の発現を上昇させた(非特許文献4)。
【0005】
肥満細胞は、喘息に導きうる即時型の炎症性アレルギー反応において中枢の役割を果たす。肥満細胞上のFcεRIを架橋させると、脱顆粒、アラキドン酸代謝物のde novoの合成および種々のサイトカイン/ケモカインの産生に導くシグナル伝達経路を活性化する。本発明者らは、ヒト肥満細胞はFcεRIが介在する特異的遺伝子の1つとしてepiregulinを発現することを報告した(非特許文献5)。EpiregulinはEGFファミリーのメンバーであり、EGFファミリーは、EGF、アンフィレギュリン(amphiregulin:AREG)、ヘパリン結合性EGF、トランスフォーミング成長因子−α(TGF−α)、betacellulin、 epiregulinおよび neuregulinからなる。
【0006】
AREGは、12-ο-テトラデカノイルホルボール-13-アセテートで処理したMCF−7ヒト乳がん細胞のならし培地から最初に精製された(非特許文献6)。AREG分子のカルボキシ末端側は、EGFに特徴的なホモロジーを示し、それゆえにEGFファミリーのメンバーとして分類しうるものである。AREGは、EGF受容体に結合し、EGFおよびTGF−αと同様に、細胞増殖、細胞生存および細胞分化に重要な役割を果たしている。AREGは、プロテアーゼ切断により最終的に放出される分泌型タンパク質の特徴をもった膜貫通型前駆体として合成される。in vitroでは、肥満細胞で産生されたAREGのレベルは、上皮細胞で産生されたレベルよりも高いことが報告されている(非特許文献7)。
【非特許文献1】Am J Respir Crit Care Med 2001; 163: 674-679
【非特許文献2】Am J Respir Crit Care Med 2000; 161: 627-635
【非特許文献3】J Immunol 2004; 172: 6398-6406
【非特許文献4】J Clin Invest 1999; 104: 1375-1382
【非特許文献5】Blood 2003; 102: 2547-2554
【非特許文献6】Proc Natl Acad Sci U S A 1988; 85: 6528-6532
【非特許文献7】Am J Respir Cell Mol Biol 2004; 30: 470-478
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、喘息を始めとするアレルギー疾患のための確実かつ容易な診断ツール、および特に喀痰の分泌や上皮細胞のリモデリングを調節可能な薬剤の開発に寄与する手段の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ヒト肥満細胞はFcεRIの凝集の後に杯状細胞過形成を誘導する分子を産生すること、およびこれらの分子の発現はグルココルチコイドによって阻害されないという仮説を立てた。本発明者らは、高密度オリゴヌクレオチドプローブアレイを用いてFcεRIが介在する遺伝子発現プロファイルを調べ、ヒト肥満細胞でFcεRIが介在する遺伝子発現におけるグルココルチコイドの効果に依存するクラスタリング分析を行った。本発明者らは、デキサメタゾンではその発現が阻害されなかったクラスター遺伝子の中で、リモデリングに関連する分子を見出し、さらに、ヒト血中単核球、好酸球および好中球の遺伝子発現プロファイルとの比較により肥満細胞特異的分子を選択した。このように選択されたアンフィレギュリン遺伝子は、FcεRIの凝集によりアップレギュレートするがデキサメタゾンでの前処理によりダウンレギュレートしない遺伝子のサブセットに含まれるものであった。
【0009】
本発明者らは、in vitroおよび in vivoでヒト上皮細胞でのムチン遺伝子発現におけるアンフィレギュリンの作用を調べた結果、アンフィレギュリンの発現と抗原感作による疾患との密接な関係を見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本願発明は、以下に示す通りである。
【0010】
〔1〕 アンフィレギュリン遺伝子の連続する少なくとも15塩基の塩基配列を有するポリヌクレオチドおよび/または当該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含有してなるアレルギー性疾患の疾患マーカー。
〔2〕 前記アレルギー性疾患が喘息、アトピーまたはアレルギー性鼻炎であり、当該疾患の検査においてプローブまたはプライマーとして使用される上記〔1〕記載の疾患マーカー。
〔3〕 前記アレルギー性疾患が喘息であり、喀痰検査に使用される上記〔1〕または〔2〕に記載の疾患マーカー。
〔4〕 下記の工程(A)および(B)を含む、アレルギー性疾患の診断方法:
(A)被験者の生体試料中のアンフィレギュリン遺伝子の発現量を測定する工程、および
(B)前記(A)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
〔5〕 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、アレルギー性疾患の診断方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと上記〔1〕〜〔3〕いずれかに記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、前記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)前記(b)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
〔6〕 工程(c)におけるアレルギー性疾患の有無の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる、上記〔5〕に記載の診断方法。
〔7〕 アンフィレギュリンを認識する抗体を含有してなるアレルギー性疾患の疾患マーカー。
〔8〕 前記アレルギー性疾患が喘息、アトピーまたはアレルギー性鼻炎であり、当該疾患の検査においてプローブとして使用される上記〔7〕記載の疾患マーカー。
〔9〕 前記アレルギー性疾患が喘息であり、喀痰検査に使用される上記〔7〕または〔8〕に記載の疾患マーカー。
〔10〕 下記の工程(A)および(B)を含む、アレルギー性疾患の診断方法:
(A)被験者の生体試料中のアンフィレギュリンの発現量を測定する工程、および
(B)前記(A)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
〔11〕 下記の工程(a)、(b)および(c)を含むアレルギー性疾患の診断方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と上記〔7〕〜〔9〕いずれかに記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、前記疾患マーカーを指標として測定する工程、および
(c)前記(b)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
〔12〕 工程(c)におけるアレルギー性疾患の有無の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる上記〔11〕記載のアレルギー性疾患の診断方法。
〔13〕 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、アンフィレギュリンの発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とアンフィレギュリンの発現を測定可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるアンフィレギュリンの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるアンフィレギュリンの発現量と比較する工程、および
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、アンフィレギュリンの発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
〔14〕 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、アンフィレギュリンのEGF受容体への結合活性を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質と、アンフィレギュリンおよびEGF受容体とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させたアンフィレギュリンのEGF受容体との結合活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない対照アンフィレギュリンのEGF受容体との結合活性と比較する工程、および
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、アンフィレギュリンのEGF受容体との結合活性を抑制する被験物質を選択する工程。
〔15〕 アレルギー性疾患の治療剤の有効成分を探索するための方法である、上記〔13〕または〔14〕に記載のスクリーニング方法。
〔16〕 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、喀痰分泌を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質およびアンフィレギュリンと、ムチンの発現を測定可能な細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞におけるムチンの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるムチンの発現量と比較する工程、および
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、喀痰分泌を抑制する被験物質を選択する工程。
〔17〕 前記喀痰分泌がアレルギー性疾患に伴うものである、上記〔16〕に記載のスクリーニング方法。
〔18〕 アンフィレギュリンに結合する抗体を含有してなるアレルギー性疾患の治療剤。
〔19〕 アンフィレギュリンの発現量またはEGF受容体への結合活性を抑制する物質を有効成分とする、アレルギー性疾患の治療剤。
〔20〕 前記物質がアンフィレギュリンに対する抗体もしくはドミナントネガティブ変異体または当該抗体もしくはドミナントネガティブ変異体をコードする核酸分子を含む発現ベクターである上記〔19〕に記載の治療剤。
〔21〕 喀痰分泌抑制作用またはリモデリング抑制作用を有するものである上記〔18〕〜〔20〕のいずれかに記載の治療剤。
〔22〕 アンフィレギュリン遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分とする、アレルギー性疾患の治療剤。
〔23〕 前記物質が、アンフィレギュリン遺伝子に対するアンチセンス核酸、リボザイム、デコイ核酸またはsiRNAである上記〔22〕に記載の治療剤。
〔24〕 喀痰分泌抑制作用またはリモデリング抑制作用を有するものである上記〔22〕または〔23〕に記載の治療剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の疾患マーカーによると、喘息、アトピーおよびアレルギー性鼻炎等のアレルギー性疾患の指標を提供することが可能となり、当該疾患の容易かつ的確な診断をすることができる。本発明のアレルギー性疾患の診断方法によると、肥満細胞特異的に発現するアンフィレギュリンの作用との関連性が明確になり、喀痰の分泌や上皮細胞のリモデリングに関する診断等が可能となる。本発明のスクリーニング方法によると、アンフィレギュリンの作用機序に基づく新規なアレルギー性疾患の治療剤の開発が可能となる。本発明の治療剤によると、アンフィレギュリンの作用を特異的に調節することができ、副作用の少ないアレルギー性疾患の治療が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、および当該分野における慣用記号に従う。
【0013】
本明細書において「遺伝子」または「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において遺伝子(DNA)とは、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)並びに該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれもが含まれる。また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号:1)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であるタンパク質(例えば同族体(ホモログ、スプライスバリアントなど)、変異体および誘導体)をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「遺伝子」または「DNA」としては、具体的には、後述のストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:1で示されるいずれかの特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。
【0014】
例えばヒト由来のタンパク質のホモログをコードする遺伝子としては、当該タンパク質をコードするヒト遺伝子に対応するマウスやラットなど他生物種の遺伝子が例示でき、これらの遺伝子(ホモログ)は、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E-valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるヒト遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)としてマウスやラットなど他生物種の遺伝子を選抜することができる。
なお、遺伝子またはDNAは、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン、またはイントロンを含むことができる。
【0015】
本明細書において「アンフィレギュリン遺伝子」または「アンフィレギュリンのDNA」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号1)で示されるヒトアンフィレギュリン遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体および誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:1に記載のヒトアンフィレギュリン遺伝子(GenBank Accession No. NM_001657)や、そのマウスホモログ(例えば、GenBank Accession No. NM_009704)、ラットホモログ(例えば、GenBank Accession No. NM_017123)などが包含される。
【0016】
本明細書において「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」には、特定のアミノ酸配列(配列番号:2)で示される「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加および挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
【0017】
本明細書において「アンフィレギュリンタンパク質」または単に「アンフィレギュリン(以下、AREGと略することもある)」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号2)で示されるヒトアンフィレギュリンやその同族体、変異体、誘導体、成熟体およびアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:2(GenBank Accession No. NM_001657)に記載のアミノ酸配列を有するヒトアンフィレギュリンや、そのマウスホモログ(例えば、GenBank Accession No. NM_009704)、ラットホモログ(例えば、GenBank Accession No. NM_017123)などが包含される。
【0018】
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、ヒト化抗体またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。
【0019】
本明細書において「疾患マーカー」とは、アレルギー性疾患の罹患の有無、罹患の程度もしくは改善の有無や改善の程度を診断するために、またアレルギー性疾患の予防、治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接または間接的に利用されるものをいう。これには、アレルギー性疾患の罹患に関連して生体内、特に気管支粘膜上皮細胞または肥満細胞において、発現が変動する遺伝子またはタンパク質を特異的に認識し、また結合することのできる(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドまたは抗体が包含される。これらの(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドおよび抗体は、上記性質に基づいて、生体内、組織や細胞内などで発現した上記遺伝子およびタンパク質を検出するためのプローブとして、また(オリゴ)ヌクレオチドは生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。
【0020】
本明細書において診断対象となる「生体組織」とは、抗原刺激によるアレルギー性疾患に伴い本発明のアンフィレギュリン遺伝子が発現上昇する組織または細胞をいう。具体的には、気管支粘膜上皮細胞、肥満細胞、好酸球などがあげられる。
【0021】
本明細書において「アレルギー疾患」とは、抗原刺激により発症する疾患をいい、例えば、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどがあげられる。好ましくは、アンフィレギュリン遺伝子の発現上昇によって粘液の分泌過剰やリモデリングの亢進が関与する喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎であり、より好ましくはステロイド耐性の喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎である。
【0022】
本発明の疾患マーカーは、前記アンフィレギュリン遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/またはそれに相補的なポリヌクレオチドを含有することを特徴とするものである。
【0023】
具体的には、本発明の疾患マーカーは、配列番号1に記載のアンフィレギュリン遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチドおよび/またはそれに相補的なポリヌクレオチドを含有するものを挙げることができる。
【0024】
ここで相補的なポリヌクレオチド(相補鎖、逆鎖)とは、前記アンフィレギュリン遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、または該塩基配列において少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体またはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0025】
ここで、正鎖側のポリヌクレオチドには、前記アンフィレギュリン遺伝子の塩基配列、またはその部分配列を有するものだけでなく、上記相補鎖の塩基配列に対してさらに相補的な関係にある塩基配列からなる鎖を含めることができる。
【0026】
さらに上記正鎖のポリヌクレオチドおよび相補鎖(逆鎖)のポリヌクレオチドは、各々一本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されても、また二本鎖の形態で疾患マーカーとして使用されてもよい。
【0027】
本発明のアレルギー性疾患の疾患マーカーは、具体的には、前記アンフィレギュリン遺伝子の塩基配列(全長配列)からなるポリヌクレオチドであってもよいし、その相補配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。またこれらアンフィレギュリン遺伝子もしくは該遺伝子に由来するポリヌクレオチドを選択的に(特異的に)認識するものであれば、上記全長配列またはその相補配列の部分配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。この場合、部分配列としては、上記全長配列またはその相補配列の塩基配列から任意に選択される少なくとも15個の連続した塩基長を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0028】
なお、ここで「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、アンフィレギュリン遺伝子またはこれらに由来するポリヌクレオチドが特異的に検出できること、またRT−PCR法においては、アンフィレギュリン遺伝子またはこれらに由来するポリヌクレオチドが特異的に生成されることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物または生成物がこれらの遺伝子に由来するものであると判断できるものであればよい。
【0029】
本発明の疾患マーカーは、例えば配列番号1に記載のヒトアンフィレギュリン遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3( HYPERLINK http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi)またはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。具体的には前記本発明遺伝子の塩基配列を primer 3またはベクターNTIのソフトウエアにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列、もしくは少なくとも該配列を一部に含む配列をプライマーまたはプローブとして使用することができる。
【0030】
本発明の疾患マーカーは、上述するように連続する少なくとも15塩基の長さを有するものであればよいが、具体的にはマーカーの用途に応じて、長さを適宜選択し設定することができる。
【0031】
本発明疾患マーカーをアレルギー性疾患の検出においてプライマーとして用いる場合には、通常15bp〜100bp、好ましくは15bp〜50bp、より好ましくは15bp〜35bpの塩基長を有するものが例示できる。また検出プローブとして用いる場合には、通常15bp〜全配列の塩基数、好ましくは15bp〜1kb、より好ましくは100bp〜1kbの塩基長を有するものが例示できる。
【0032】
本発明の疾患マーカーは、ノーザンブロット法、RT−PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダーゼーション法などの特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、常法に従ってプライマーまたはプローブとして利用することができる。該利用によってアレルギー性疾患におけるアンフィレギュリン遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することができる。
【0033】
本発明のアレルギー性疾患の診断方法は、下記の工程(A)および(B)を含むことを特徴とする:
(A)被験者の生体試料中のアンフィレギュリン遺伝子の発現量を測定する工程、および
(B)前記(A)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
【0034】
例えば、本発明のアレルギー性疾患の診断方法は、下記の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと本発明疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、前記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)前記(b)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
【0035】
測定対象物としてRNAを利用する場合、具体的には、本発明の診断方法は、本発明の疾患マーカーをプライマーまたはプローブとして用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法などにより前記疾患マーカーへのRNAまたはその転写物の結合量が増大していることを指標として行うことにより実施できる。
【0036】
測定対象の生体試料としては、使用する検出手段の種類に応じて、被験者の生体組織の一部(気管支粘膜、鼻粘膜、胃粘膜など)をバイオプシ(生検)等で採取するか、または体液中(血液、痰、鼻汁、胃液など)に存在する細胞を回収して得られた検体から常法に従って調製したtotal RNAを用いてもよいし、さらに該RNAをもとにして調製される各種のポリヌクレオチドを用いてもよい。
【0037】
ノーザンブロット法を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをプローブとして用いることによって、RNA中のアンフィレギュリン遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、本発明の疾患マーカー(相補鎖)を放射性同位元素(RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された疾患マーカー(DNA)とRNAとの二重鎖を、疾患マーカーの標識物(RIもしくは蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、Alk Phos Direct Labelling and Detection System (Amersham PharamciaBiotech社製)を用いて、該プロトコールに従って疾患マーカー(プローブDNA)を標識し、被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、疾患マーカーの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
【0038】
RT−PCR法を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをプライマーとして用いることによって、RNA中のアンフィレギュリン遺伝子の発現の有無や発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、被験者の生体組織由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的のアンフィレギュリン遺伝子の領域が増幅できるように、本発明の疾患マーカーから調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した疾患マーカーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT−PCR反応液を調製し、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
【0039】
DNAチップ解析を利用する場合は、本発明の上記疾患マーカーをDNAプローブ(1本鎖または2本鎖)として貼り付けたDNAチップを用意し、例えば、これに被験者の生体組織由来のRNAから常法によって調製し、ビオチンで標識されたcRNAとハイブリダイズさせて、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、蛍光標識されたアビジンで検出する方法を挙げることができる。
【0040】
In situハイブリダイゼーション法を利用する場合は、前述の被験者の生体組織を生検によって採取し、切片を調製する。本発明の疾患マーカー遺伝子の特異的アンチセンスプローブまたはセンスプローブを作製する。前記プローブは、RI標識または非RI標識(例えば、DIG標識)でラベリングする。前記切片を脱パラフィン(パラフィン切片の場合)および前処理した後、エタノール等で固定する。固定した切片をプレハイブリダイズし、前記プローブとハイブリダイズした後、洗浄およびRNase処理を行い、標識に応じた検出方法(例えば、RI標識の場合は現像、非RI標識の場合は免疫学的検出と検鏡)により生体組織におけるアンフィレギュリン遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。
【0041】
本発明の診断方法において、前記工程(c)におけるアレルギー性疾患の有無の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われることが好ましい。
【0042】
前記アレルギー性疾患が喘息の場合、好ましい診断として、喀痰検査による喘息とその他の気管支炎との区別があげられる。この場合、その他の気管支炎由来の喀痰と比較して、喘息患者由来の喀痰では本発明の疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として、高い結合量の場合は喘息の可能性が高いと判断し、低い結合量の場合は気管支炎の可能性が高いと判断することができる。
【0043】
別の態様として、本発明の疾患マーカーは、アンフィレギュリンを認識する抗体を含有することを特徴とするものである。
【0044】
前記抗体は、被験者の生体試料におけるアンフィレギュリンタンパク質の有無またはその程度を検出することによって、該被験者がアレルギー性疾患に罹患しているか否かまたはその程度を測定することのできるツール(疾患マーカー)として有用である。
【0045】
また前記抗体は、後述するアレルギー性疾患の症状の予防、予想において、アンフィレギュリンタンパク質の発現変動を検出するためのツール(疾患マーカー)としても有用である。
【0046】
前記抗体は、その形態に特に制限はなく、アンフィレギュリンタンパク質を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよい。さらに、前記モノクローナル抗体をコードする遺伝子に基づいて作製されたキメラ抗体、単鎖抗体、ヒト化抗体またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントであってもよい。
【0047】
これらの抗体の製造方法は公知であり、前記抗体も常法に従って製造することができる(Current Protocol in Molecular Biology, Chapter 11.12〜11.13(2000))。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したアンフィレギュリンタンパク質を用いて、あるいは常法に従ってこれらタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したアンフィレギュリンタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4〜11.11)。
【0048】
抗体の作製に免疫抗原として使用されるアンフィレギュリンタンパク質は、本発明等により提供される遺伝子の配列情報(配列番号1等)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T. Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
【0049】
具体的には、アンフィレギュリンタンパク質をコードする遺伝子が所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して、得られる培養物から、目的タンパク質を回収することによって、本発明抗体の製造のための免疫抗原としてのタンパク質を得ることができる。また、これらアンフィレギュリンタンパク質の部分ペプチドは、本発明等により提供されるアミノ酸配列の情報(配列番号2等)に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。
【0050】
本発明のアレルギー性疾患の診断方法は、下記の工程(A)および(B)を含むことを特徴とする:
(A)被験者の生体試料中のアンフィレギュリンの発現量を測定する工程、および
(B)前記(A)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
【0051】
1つの態様において、本発明のアレルギー性疾患の診断方法は、本発明の疾患マーカーを用いることを特徴とする。前記疾患マーカーは、アンフィレギュリンタンパク質に特異的に結合する性質を有することから、動物の組織内に発現した前記アンフィレギュリンタンパク質を特異的に検出することができる。
【0052】
例えば、本発明のアレルギー性疾患の診断方法は、下記の工程(a)、(b)および(c)を含む方法によって実施することができる:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と本発明の疾患マーカー(抗体)とを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、上記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の罹患を判断する工程。
【0053】
測定対象物としてタンパク質を利用する場合、具体的には、本発明の診断方法は、本発明の疾患マーカー(抗体)をプローブとして用いて、ウェスタンブロッティング法、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法、蛍光抗体法、免疫組織染色法などの検出手段により前記疾患マーカーへのタンパク質の結合量が増大していることを指標として行うことにより実施できる。
【0054】
測定対象試料としては、使用する検出手段の種類に応じて、被験者の組織の一部(気管支粘膜、鼻粘膜、胃粘膜など)をバイオプシ等で採取するか、または体液中(血液、痰、鼻汁、胃液など)に存在する細胞等を回収して得られた検体から常法に従って調製したタンパク質または体液中に溶解しているタンパク質を用いることができる。
【0055】
より具体的には、本発明のアレルギー性疾患の診断方法は、本発明の疾患マーカー(抗体)を用いて、ウェスタンブロット法などにより当該マーカーへのアンフィレギュリンタンパク質の結合量が増大していることを指標として行うことにより実施できる。
【0056】
ウェスタンブロット法を利用する場合は、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した二次抗体(一次抗体に結合する抗体)を用い、得られる標識化合物の放射性同位元素、蛍光物質などに由来するシグナルを放射線測定器(BAS-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで検出し、測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明疾患マーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System (アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を用いて、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
【0057】
免疫組織染色法を利用する場合は、後述する実施例4に記載の方法に準じて、例えば、アンフィレギュリン陽性細胞を酵素標識抗体とその発色基質を用いて測定することができる。
【0058】
アレルギー性疾患の診断は、例えば、喀痰検査の場合、被験者の喀痰中のアンフィレギュリン遺伝子の発現レベル、またはアンフィレギュリンタンパク質の量、機能もしくは活性(以下これらを合わせて「タンパク質レベル」ということがある)を、対照の喀痰中の当該遺伝子発現レベルまたは当該タンパク質レベルと比較し、両者の違いを判定することによって行うことができる。組織のリモデリングの診断の場合、アンフィレギュリンの発現量と杯状細胞の過形成の程度の間に統計的有意な相関があることから、被験者の喀痰中のアンフィレギュリン濃度(タンパク質量)を、対照および同一被験者の経時的、喀痰中の当該タンパク質と比較し、両者の違いを判定することによって行うことができる。
【0059】
前記「リモデリング」とは、炎症を起こした部分が傷跡を残さず全く元どおりに再生することを完全修復というのに対し、前記部分が線維質に置き換わり(瘢痕)、傷跡を残して再生すること、すなわち、不完全修復(リモデリング)をいう。
【0060】
この場合、対照として正常な組織から採取調製した生体試料(RNAまたはタンパク質を含む試料)が必要であるが、これらはアレルギー性疾患に罹患していない人の組織の一部をバイオプシ等で採取するか、体液中に存在する細胞等を回収して得られた検体から常法に従って調製したタンパク質または体液中に溶解しているタンパク質を用いることができる。なお、ここでいう「アレルギー性疾患に罹患していない人」とは、少なくともアレルギー性疾患の自覚症状がなく、好ましくは他の検査方法の結果が、例えば、IgE(RAST)値正常、各種特異的IgE(RIST)値正常、プリックテスト陰性であり、アレルギー性疾患でないと診断された人をいう。なお、当該「アレルギー性疾患に罹患していない人」を、本明細書では単に正常者という場合もある。
【0061】
被験者の組織と正常な組織との遺伝子発現レベルまたはタンパク質レベルの比較は、被験者の生体試料と正常者の生体試料を対象とした測定を並行して行うことで実施できる。並行して行わない場合は、複数(少なくとも2つ、好ましくは3以上)の正常な組織を用いて均一な測定条件で測定して得られたアンフィレギュリン遺伝子の発現レベル、もしくはアンフィレギュリンタンパク質レベルの平均値または統計的中間値を、正常者の遺伝子発現レベルもしくはタンパク質の量として、比較に用いることができる。
【0062】
被験者が、アレルギー性疾患であるかどうかの判断は、該被験者の組織中のアンフィレギュリン遺伝子の発現レベル、またはアンフィレギュリンタンパク質レベルが、正常者のそれらのレベルと比較して2倍以上、好ましくは3倍以上多いことを指標として行うことができる。被験者の上記遺伝子発現レベルまたはタンパク質レベルが、正常者におけるレベルに比べて多ければ、該被験者はアレルギー性疾患であると判断できるか、該疾患の罹患が疑われる。前記発現レベルまたはタンパク質レベルと重症度との関係は、当該レベルが高いほど重症度が高いと判断することができる。また、被験者がステロイド等の薬剤により一見症状が治まっているような場合でも組織のリモデリングが起きている可能性があるが、このような場合においても、リモデリングが疑われる組織における当該レベルの高低を比較することにより、リモデリングの存否を判断することができる。
【0063】
本発明のアンフィレギュリンの発現を抑制する物質のスクリーニング方法は、下記工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a)被験物質とアンフィレギュリンの発現を測定可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるアンフィレギュリンの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるアンフィレギュリンの発現量と比較する工程、
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、アンフィレギュリンの発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
【0064】
工程(a)において、被験物質としては、いかなる公知物質および新規物質であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、タンパク質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分などがあげられる。
【0065】
工程(a)において、アンフィレギュリンの発現を測定可能な細胞としては、内在性および外来性を問わずアンフィレギュリンを発現する培養細胞全般、レポーター遺伝子を含む細胞などを挙げることができる。培養細胞においてこれら遺伝子が発現しているか否かは、公知のノーザンブロット法やRT−PCR法にてこれらの遺伝子発現を検出することにより、容易に確認することができる。
【0066】
具体的には、例えば、アレルギー性疾患の動物より単離、調製した肥満細胞またはその細胞株;本発明遺伝子のいずれかを導入した細胞;レポーター(ルシフェラーゼ、GFP等)遺伝子を導入した細胞等を挙げることができる。
【0067】
前記動物モデルとしては、アレルギー性疾患の動物モデルとして周知である如何なる動物モデルをも用いることができ、具体的には、アルブミン感作マウス喘息モデルなどをあげることができる。
【0068】
前記遺伝子導入用の細胞としては、CHO、MCF−7Mammary carcinoma cell、H295R adrenal cellなどをあげることができる。
【0069】
工程(a)において、被験物質は、アンフィレギュリンの発現を測定可能な細胞と培養培地中で接触される。前記細胞としては、肥満細胞の細胞膜上のFcεRIをIgEにより架橋させ、さらに抗IgE抗体で刺激した細胞が好ましく用いられ得る。前記培養培地は、アンフィレギュリンの発現を測定可能な細胞に応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件も同様に適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0070】
工程(b)において、発現量の測定は、mRNAまたはタンパク質を対象として行なわれる。mRNAの発現量は、例えば、細胞からtotal RNAを調製し、RT−PCR、ノーザンブロッティングなどにより測定される。タンパク質の発現量は、例えば、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定することができる。免疫学的手法としては、ウェスタンブロッティング法、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法、蛍光抗体法などを用いることができる。また、レポーター遺伝子を含む細胞(例、アンフィレギュリンのプロモーターの下流に機能可能にレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ、GFP)が連結されたベクターが導入された細胞)が用いられた場合、発現量は、レポーター遺伝子のシグナル強度に基づき測定される。
【0071】
工程(b)において、発現量の比較は、被験物質の存在下、非存在下において、アンフィレギュリンの発現量における有意差の有無に基づいて行なわれる。なお、被験物質を接触させない対照細胞におけるアンフィレギュリンの発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるアンフィレギュリンの発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0072】
工程(c)において、アンフィレギュリンの発現量を減少させる被験物質が選択される。このように選択された被験物質には、本スクリーニング方法の性質上、アンフィレギュリンの発現量を変動させ得る物質をも含まれる。選択された被験物質は、アレルギー性疾患の治療剤(例えば、喘息時の粘液分泌を抑える去痰薬、リモデリングの抑制剤、杯状細胞の過形成の抑制剤、特に、ステロイド耐性の喘息等における去痰薬もしくはリモデリングの抑制剤)の候補のみならず、免疫調節剤または研究用試薬としても有用である。
【0073】
また、本発明のアンフィレギュリンのEGF受容体への結合活性を抑制する物質のスクリーニング方法は、下記の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a) 被験物質と、アンフィレギュリンおよびEGF受容体とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させたアンフィレギュリンのEGF受容体との結合活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない対照アンフィレギュリンのEGF受容体との結合活性と比較する工程、および
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、アンフィレギュリンのEGF受容体との結合活性を抑制する被験物質を選択する工程。
【0074】
工程(a)において、被験物質としては、前記したとおりである。
【0075】
工程(a)において、被験物質は、アンフィレギュリンおよびEGF受容体と接触される。工程(a)において、接触方法は特に限定されるものではないが、例えば、25〜37℃の生理条件下でアンフィレギュリンおよびEGF受容体を所定の濃度で混合し、被験物質を添加する方法、EGF受容体を固相に固定し、被験物質の存在下アンフィレギュリンと結合させる方法、あるいはアンフィレギュリンおよびEGF受容体を発現する細胞の培養液に被験物質を添加する方法などがあげられる。
【0076】
工程(b)において、アンフィレギュリンとEGF受容体との結合活性は、以下の例にあげるような方法で測定できる。
b-1)抗アンフィレギュリン抗体または抗EGF受容体抗体を用いて免疫沈降し、免疫沈降で使用しなかった抗体でウェスタンブロッティングを行い、アンフィレギュリンとEGF受容体との結合量を測定する方法。
b-2)アンフィレギュリンまたはEGF受容体のいずれか一方を、ポリヒスチジンもしくはGSTなどの標識との融合タンパク質として発現させ、またはビオチン化させ、ポリヒスチジンはニッケルに、GSTはグルタチオンに、ビオチンはアビジンに結合することから、それらを利用して結合体を回収し、b-1)と同様のウェスタンブロッティングで結合量を測定する方法。
b-3)表面プラズモン共鳴法(ビアコア)。
b-4)蛍光標識したアンフィレギュリンのEGF受容体発現細胞への結合をフローサイトメーターで測定する方法。
【0077】
工程(b)において、結合活性の比較は、例えば、被験物質の存在下、非存在下において、アンフィレギュリンとEGF受容体との結合量の有意差の有無に基づいて行なわれる。
【0078】
工程(c)において、アンフィレギュリンのEGF受容体との結合活性を減少させる被験物質が選択される。選択された被験物質は、アレルギー性疾患の治療剤(例えば、喘息時の粘液分泌を抑える去痰薬、リモデリングの抑制剤、杯状細胞の過形成の抑制剤、特に、ステロイド耐性の喘息等における去痰薬もしくはリモデリングの抑制剤)の候補のみならず、免疫調節剤または研究用試薬としても有用である。
【0079】
また、本発明の喀痰分泌を抑制する物質のスクリーニング方法は、下記の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a)被験物質およびアンフィレギュリンと、ムチンの発現を測定可能な細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞におけるムチンの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるムチンの発現量と比較する工程、および
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、喀痰分泌を抑制する被験物質を選択する工程。
【0080】
工程(a)において、被験物質としては、前記したとおりである。
【0081】
工程(a)において、被験物質は、アンフィレギュリンとともにムチンの発現を測定可能な細胞と接触される。ここで、ムチンとは、気管、胃腸などの消化管、生殖腺などの内腔を覆う粘液の主要な糖タンパク質をいいい、本発明においては、MUC2、MUC5AC、MUC1、MUC6などがあげられ、MUC2およびMUC5ACが好ましい。「ムチンの発現を測定可能な細胞」としては、内在性および外来性を問わずムチンを発現する培養細胞全般、レポーター遺伝子を含む細胞などを挙げることができる。培養細胞においてこれら遺伝子が発現しているか否かは、公知のノーザンブロット法やRT−PCR法にてこれらの遺伝子発現を検出することにより、容易に確認することができる。
【0082】
工程(a)において、被験物質は、アンフィレギュリンとともにムチンの発現を測定可能な細胞と培養培地中で接触される。前記培養培地は、ムチンの発現を測定可能な細胞に応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件も同様に適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0083】
工程(b)において、発現量の測定は、mRNAまたはタンパク質を対象として行なわれる。mRNAの発現量は、例えば、細胞からtotal RNAを調製し、RT−PCR、ノーザンブロッティングなどにより測定される。タンパク質の発現量は、例えば、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定することができる。免疫学的手法としては、ウェスタンブロッティング法、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法、蛍光抗体法などを用いることができる。また、レポーター遺伝子を含む細胞(例、ムチン遺伝子のプロモーターの下流に機能可能にレポーター(例えば、ルシフェラーゼ、GFP)遺伝子が連結されたベクターが導入された細胞)が用いられた場合、発現量は、レポーター遺伝子のシグナル強度に基づき測定される。
【0084】
工程(b)において、発現量の比較は、被験物質の存在下、非存在下において、ムチンの発現量における有意差の有無に基づいて行なわれる。なお、被験物質を接触させない対照細胞におけるムチンの発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるムチンの発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0085】
工程(c)において、アンフィレギュリンの発現を介したムチンの発現量を減少させる被験物質が選択される。このように選択された被験物質には、本スクリーニング方法の性質上、ムチンの発現量を変動させ得る物質をも含まれる。選択された被験物質は、アレルギー性疾患の治療剤(例えば、喘息時の粘液分泌を抑える去痰薬、リモデリングの抑制剤、杯状細胞の過形成の抑制剤、特に、ステロイド耐性の喘息等における去痰薬もしくはリモデリングの抑制剤)の候補のみならず、免疫調節剤または研究用試薬としても有用である。
【0086】
本発明の疾患マーカーのうち、上記抗体を含有する疾患マーカーは、動物に適用することによって、アレルギー性疾患の状態の変動を予防または治療することができ、本発明はかかる方法を提供する。上記抗体の中でも、特に、中和抗体、アンフィレギュリンとEGF受容体との結合を阻害し得る抗体が好ましい。
【0087】
前記動物は、ヒトおよびヒトを除く脊椎動物であることが好ましく、特にウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、イヌ、ネコ等の家畜または愛玩動物が好ましい。
【0088】
本発明は、前記疾患マーカーの量または活性を低減させる物質を有効成分として含有するアレルギー性疾患の治療剤を提供する。
【0089】
本発明の治療剤は、アンフィレギュリンの量または活性を低減させるものであれば特に制限されるものではなく、アンフィレギュリンまたはEGF受容体に特異的に結合する各種化合物を有効成分として含有するものがあげられる。
【0090】
前記化合物としては、前記各種抗体、公知の受容体チロシンキナーゼ阻害剤(例、AG1478、gefitinib(ZD1839))、抗EGF受容体抗体などがあげられ、好ましくはアンフィレギュリンに対する中和抗体もしくはドミナントネガティブ変異体、または抗EGF受容体抗体である。ここで、「ドミナントネガティブ変異体」とは、アンフィレギュリンに対する変異の導入によりその活性が低減したものをいう。当該ドミナントネガティブ変異体は、天然のアンフィレギュリンと競合することで間接的にその活性を阻害することができる。アンフィレギュリンのドミナントネガティブ変異体は、アンフィレギュリンに変異を導入することによって作製することができる。変異としては、例えば、N末端領域における1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加などが挙げられる。
【0091】
本発明の治療剤は、アレルギー性疾患の治療剤、好ましくは喘息時の粘液分泌を抑える去痰薬、リモデリングの抑制剤、杯状細胞の過形成の抑制剤、特に、ステロイド耐性の喘息等における去痰薬もしくはリモデリングの抑制剤として用いられる。
【0092】
本発明の治療剤は、前記有効成分そのままであってもよく、公知の薬学的に許容される担体などを含んでもよい。前記担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0093】
別の態様として、本発明の治療剤は、アンフィレギュリン遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分として含有するものである。
【0094】
前記物質は、アンフィレギュリン遺伝子に対するアンチセンス核酸、リボザイム、デコイ核酸またはsiRNAであることが好ましい。
【0095】
「アンチセンス核酸」とは、標的mRNA(初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNA(初期転写産物)とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNA(初期転写産物)にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。
【0096】
「リボザイム」とは、核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本発明では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。
【0097】
「デコイ核酸」とは、転写調節因子が結合する領域を模倣する核酸分子をいい、アンフィレギュリンの発現を抑制する物質としてのデコイ核酸は、アンフィレギュリンに対する転写活性化因子が結合する領域を模倣する核酸分子であり得る。本発明では、デコイ核酸としては、リン酸ジエステル結合部分の酸素原子を硫黄原子で置換したチオリン酸ジエステル結合を有するオリゴヌクレオチド(S−オリゴ)、又はリン酸ジエステル結合を電荷を持たないメチルホスフェート基で置換したオリゴヌクレオチドなど、生体内でオリゴヌクレオチドが分解を受けにくくするために改変したオリゴヌクレオチドなどが含まれる。デコイ核酸は転写活性化因子が結合する領域と完全に一致していてもよいが、アンフィレギュリンに対する転写活性化因子が結合し得る程度の同一性を保持していればよい。デコイ核酸の長さは転写活性化因子が結合する限り特に制限されない。また、デコイ核酸は、同一領域を反復して含んでいてもよい。
【0098】
「siRNA」とは、アンフィレギュリンmRNAもしくは初期転写産物のコード領域内の部分配列(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相補的な二本鎖オリゴRNAである。siRNAを細胞に導入することによって、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象が起こり、前記リボザイムと同様の効果が期待される。
【0099】
前記アンチセンス核酸、リボザイム、デコイ核酸、およびsiRNAは、公知の方法にしたがって作製することができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0101】
[サイトカインおよび抗体]
組換え(r)ヒト(h)IL−3は、Intergen社より購入した。rhIL−6およびrhSCFは、Pepro Tech EC社より購入した。rhAREG、rhEGFおよびマウス抗ヒトAREGモノクローナル抗体(mAG)は、Genzyme Techne社より購入した。マウス抗ヒトtryptase mAb(クローンAA1)は、Dako社より購入した。
【0102】
[臍帯血(CB)由来肥満細胞および成人末梢血(PB)由来肥満細胞の生成]
本研究におけるすべてのヒト検体は、文書によるインフォームドコンセントをもって提供され、本研究は、各病院の倫理検討委員会により承認された。ヒトCB単核球(以下、単核球をMNCと省略する場合がある)およびPB単核球を、Ficoll-Isopaque(Nycomed社)を用いた密度勾配遠心分離により単離した。直系血統でない単核球をCB単核球およびPB単核球から選択した後、無血清のIscoveメチルセルロース培地(Stem Cell Technologies社)およびIscove改変Dulbecco培地(SCF 200 ng/mL, IL-6 50ng/mL, IL-3 1ng/mL含有)で培養した(Blood 2003; 102: 2547-2554)。培養42日目に、メチルセルロースをPBSに溶解して細胞を再懸濁し、2%FCSを補足したIscove改変Dulbecco培地(SCF 100 ng/mL, IL-6 50ng/mL含有)で培養した。
【0103】
[白血球の精製]
顆粒球および単核球を、正常ボランティアの静脈血から分離した。好酸球を、Percoll(1.090 g/mL)密度遠心分離により単離した後、抗CD16結合マイクロ磁気ビーズを用いたネガティブセレクションによりさらに精製した(Blood 1995; 86: 1437-1443)。このネガティブセレクションの後、好中球をPercoll(1.085 g/mL)密度遠心分離により単離した。単離した好中球は、混在する好酸球を除去するために抗CD81抗体を用いたネガティブセレクションによりさらに精製した。
【0104】
[ヒト肥満細胞の活性化]
ヒト肥満細胞表面のFcεRIの凝集による活性化のため、肥満細胞を、37℃で24時間、1μg/mLのヒト骨髄腫IgE(CosmoBio社)で最初に感作した。洗浄後、前記細胞を、37℃で所定の時間、ウサギ抗ヒトIgE Ab(Dako社)または培地のみでチャレンジした。IgE介在遺伝子発現プロファイルおよび肥満細胞によるAREGの産生におけるデキサメタゾン(Pepro Tech EC社;グルココルチコイド)の作用を調べるため、肥満細胞を、活性化の24時間前に10-6 Mのデキサメタゾンで前処理した。すべての条件において、細胞をSCFおよびIL−6を含む完全Iscove改変Dulbecco培地に懸濁した。10-6 Mのデキサメタゾン、および/またはIgE/抗IgEでの肥満細胞の処理は、細胞の生存能または細胞数を有意に変化させないことを確認した。
【0105】
[患者]
日本アレルギー学会の基準に基づいて、喘息症状の段階および症状の頻度を組み合わせて、疾患の重症度を規定した40名の患者と、喘息をもたない6名の正常対照を研究した(表1)。現在も喫煙している患者はいなかった。また、過去2年間喫煙していた患者もいなかった。検査に先立つ1月間に、気管支または呼吸器を感染した患者もいなかった。本研究は、獨協医科大学の倫理委員会により承認され、すべての患者は、インフォームドコンセントを文書で同意した。各喘息患者および正常対照における基底膜の総厚は、既報にしたがって評価した(Chest 1997; 111: 852-857)。気道の過敏性は、アセチルコリンが段階的に増加する濃度で連続吸入中に呼気耐性が増加し始める時点のアセチルコリンの最小累積用量として測定した。
【0106】
【表1】

【0107】
[気管支のバイオプシ]
喘息患者の組織試料は、既報(Chest 1997; 111: 852-857)に従って、光ファイバーの気管支鏡検査中に標準ピンセットを用いて、右下葉気管支と中央下葉気管支との間の竜骨下(subcarina)(右B6気管支の起点)から採取した。各バイオプシ検体を直ちにOCT培地中に入れ、液体窒素中で瞬時に凍結し、クリオスタットでの切片の作製時まで−80℃で保存した。
【0108】
[統計学的解析]
対になった2つの群間の偏差は、片側Student’s t−検定により解析し、P<0.05を有意とみなした。値は、平均±SEMで表す。
【0109】
[参考例1]
RNAの単離、RT−PCR、リアルタイム定量RT−PCRおよびジーンチップ発現解析
全細胞RNAを、RNeasy Mini Kits(Qiagen)を用いて製造業者の仕様書に従って、肥満細胞から単離した。106個の肥満細胞当たりのRNAの収量は、2.4(2.0−2.8)μg(メジアンとレンジ、n=6)であった。等量のRNA(50ng)をRT-PCR解析に用いた。PCRは、サーモサイクラー中、下記条件:
94℃で1分の後、40増幅サイクル(94℃で1分;60℃で30秒;72℃で2分)
で行った。AREGに対するプライマーの配列は、
5’プライマー:5’-AGAGTTGAACAGGTAGTTAAGCCCC-3’(配列番号3)および
3’プライマー:5’-GTCGAAGTTTCTTTCGTTCCTCAG-3’(配列番号4)であった。等量のPCR増幅産物を臭化エチジウムで可視化した。GAPDHに対するmRNAを陽性対照として検出した。cDNAなしのPCRは、コンタミネーションを除外するために行った。
【0110】
次に、リアルタイムRT−PCR用のGeneAmp 7900 シークエンス検出システム(Applied Biosystems)を用いて、MUC2およびMUC5AC mRNAの発現を測定した。全細胞RNAの抽出およびcDNAの合成は、前述のように行った。PCRは、TaqMan Universal PCR Master Mix Kit(Applied Biosystems)および蛍光プローブ(Applied Biosystems)を用いて製造業者のプロトコールに従って行った。MUC5AC検出のために使用したプライマーの配列は、
forward: 5’-TCAACGGAGACTGCGAGTACAC-3’(配列番号5)
reverse: 5’-TCTTGATGGCCTTGGAGCA-3’(配列番号6)であり、FAMレポーターダイ−標識ハイブリダイゼーションプローブ:5’-FAM-ACTCCTTTCCTGTTGTCACCGAGAACGTC-TAMRA-3’(配列番号7)であった。MUC2検出のために使用したプライマーの配列は、
forward: 5’-GCCCTGGCTTCGAACTCAT-3’(配列番号8)
reverse: 5’-TCTTCGGGTCGCTCTTGAA-3’(配列番号9)であり、FAMレポーターダイ−標識ハイブリダイゼーションプローブ:5’-FAM-CACTGTATCATCAAACGGCCCGACAA-TAMRA-3’(配列番号10)であった。標的mRNAのレベルと逆に相関する閾値サイクルCは、レポーター蛍光放出が増幅曲線に沿って対数増殖期の中点を越えて増加したときのサイクル数として定義した。相対発現レベルは、サイクル閾値と競合Ct法を用いて決定し、共増幅するハウスキーピング遺伝子レベル、2倍増幅/サイクル率および対照試料の参照発現レベルを調整した。
【0111】
ジーンチップ発現解析
ヒトゲノムワイドの遺伝子発現は、約23000の全長遺伝子および発現配列タグ(EST)に対するオリゴヌクレオチドプローブセットを含むHuman Genome U95A およびU133Aプローブアレイ(GeneChip, Affymetrix社)を用いて、製造業者のプロトコール(Expresion Analysis Technical Mannual)および既報に従って調べた。約10個の細胞から全RNA(3−10μg)を抽出した。二本鎖cDNAを合成し、当該cDNAを、ビオチン化ヌクレオシド三リン酸の存在下でin vitroの転写に付した。ビオチン化cRNAを45℃で16時間プローブアレイとハイブリダイズし、ハイブリダイズしたビオチン化cRNAをストレプトアビジン−PE(Phycoerythrin)で染色した後、Hewlett-Packard Gene Array Scannerで走査した。各プローブの蛍光強度は、コンピュータープログラムGeneChip Analysis Suite 5.0 (Affymetrix社)を用いて定量した。一本鎖mRNAの発現レベルは、25マーのオリゴヌクレオチドからなる11対の(完全マッチおよびシングルヌクレオチドミスマッチ)プローブにより得られた強度の中で平均蛍光強度として決定した。ミスマッチプローブの強度が非常に高い場合、GeneChip Analysis Suite 5.0 プログラムで高い平均蛍光が得られたとしても、遺伝子発現は存在しないと判定した。遺伝子発現のレベルは、GeneChipソフトウエアを用いて、平均偏差(AD)として決定した。次いで、ハウスキーピング遺伝子(β−アクチンおよびGAPDH)の6つのプローブセットの平均ADレベルに対する特異的ADレベルの割合を計算した。
【0112】
さらに、GeneSpring ソフトウエア version 6 (Silicon Genetics)を用いて、データ解析を行った。チップ間の染色強度の変化を正規化するために、与えられたチップ上のすべての遺伝子に対するAD値をそのチップ上のすべての測定値のメジアンで除した。バックグランドノイズのレンジ内の変化を除外し、最も差異的に発現した遺伝子を選択するため、生のデータ値が100ADを超え、遺伝子発現がAffymetrixデータ解析により存在すると判定された場合にのみそのデータを使用した。標準相関との階層的なクラスタリング解析を用いて、遺伝子のクラスタを同定した。特定の試料を相互に正規化した、すなわち、試料を対照試料のメジアンに対して正規化した。これらの特定試料中の各遺伝子に対する各測定値は、対応する対照試料におけるその遺伝子の測定値のメジアンで除した。分割比を0.5に設定した。0以下の正規値は、0に設定した。データは、
(i)少なくとも2倍(活性化プログラム)の発現変化および
(ii) 増加した遺伝子発現が少なくとも1つ存在するcall(Affymetrix アルゴリズム)を含む場合、データを有意とみなした。アップレギュレート遺伝子またはダウンレギュレート遺伝子として分類する限定は、正規化した値に適用した。
【0113】
以下の基準に基づいて遺伝子の発現レベルを比較することにより、肥満細胞特異的転写物を同定した。
・ 肥満細胞における各遺伝子の平均発現レベルが他の細胞型の最高レベルよりも5倍以上大きい。
・ 3個または4個の独立した実験で、非存在または限界callが1以下である。
・ 標準偏差が平均値未満である。
・ 異なるプローブセットにより得られた多数の転写物が同一のGenebankまたはUnigene accession numberを有する場合、最も高い発現レベルを示す転写物を表中に選択する。
【0114】
[結果]
ヒト肥満細胞でデキサメタゾンにより制御される遺伝子発現のクラスタリング解析
FcεRIの凝集によりアップレギュレートするがデキサメタゾンでの前処理によりダウンレギュレートしない遺伝子を同定するために、高密度オリゴヌクレオチドプローブアレイ(GeneChip)を用いてヒト肥満細胞における遺伝子発現プロファイルを探査した。本発明者らは、前記遺伝子を下記4つのセットに分けた。
セットI:下記遺伝子を含む
(i)その発現がFcεRIの凝集後に少なくとも2倍(活性化プログラム)変化する、および
(ii)その増加した遺伝子発現がデキサメタゾン前処理後に0.5倍未満まで低下する(図1、I)。
セットII:下記遺伝子を含む
(i)その発現がFcεRIの凝集後に少なくとも2倍(活性化プログラム)変化する、および
(ii)その増加した遺伝子発現がデキサメタゾン前処理後に0.5倍以上変化する(図1、II)。
セットIII:下記遺伝子からなる
(i)その発現がFcεRIの凝集後に2倍未満変化する、および
(ii)その増加した遺伝子発現がデキサメタゾン前処理後に0.5倍未満まで変化する(図1、III)。
セットIV:下記遺伝子を含む
(i)その発現がFcεRIの凝集後に2倍未満変化する、および
(ii)その増加した遺伝子発現がデキサメタゾン前処理後に0.5倍以上変化する(図1、IV)。
【0115】
さらに、ヒト末梢血単核球、好酸球および好中球の遺伝子発現プロファイルとの比較に基づいて、肥満細胞特異的遺伝子を選択した。上述のように、肥満細胞における発現レベルがヒト末梢血単核球、好酸球および好中球の最大発現レベルよりも少なくとも5倍高い場合に、そのデータを肥満細胞特異的とみなした。このようにして、24個の遺伝子をセットIの肥満細胞特異的であると同定した。これらの遺伝子は、サイトカイン(IL−5およびGM−CSF)およびケモカイン(MCP−1およびI−309)等のNF−κB経路のメンバーであった(表2)。セットIIに同定された17個の肥満細胞特異的遺伝子は、AREG、ならびにα1−(E)カテニンという接着分子を含む(表3)。セットIIIにおいて、22個の遺伝子を肥満細胞特異的と同定し、それらの遺伝子にはカテプシンG、キマーゼおよびメタロプロテアーゼを含んでいた。最後に、セットIVにおいて、236個の遺伝子を肥満細胞特異的遺伝子として選択した。これらの遺伝子は、トリプターゼ、主要塩基性タンパク質、PGD2シンターゼ、およびc-kitを含む。
【0116】
【表2】

【0117】
脚注:MC1(2)c:未処理対照肥満細胞、MC1(2)a:抗IgE刺激肥満細胞、MC1(2)d:抗IgEおよびデキサメタゾンで処理した細胞、Eo:好酸球、MNC:単核球、Ne:好酸球、specif:肥満細胞特異性(他の白血球に対する比)、CCL:CC-ケモカインリガンド、CXCL: CXC-ケモカインリガンド。
【0118】
【表3】

【0119】
脚注:MC1(2)c:未処理対照肥満細胞、MC1(2)a:抗IgE刺激肥満細胞、MC1(2)d:抗IgEおよびデキサメタゾンで処理した細胞、Eo:好酸球、MNC:単核球、Ne:好酸球、specif:肥満細胞特異性(他の白血球に対する比)。
【0120】
AREGは、EGFファミリーのサイトカインであるので、本発明者らは、肥満細胞特異的遺伝子の中でも、FcεRIの凝集によりアップレギュレートするがデキサメタゾン前処理によりダウンレギュレートしないAREGに焦点を当てた。
【0121】
AREGに焦点を当てた理由は、以下のとおりである。
(i) AREGは、マウスにおいて肺の分枝の形態形成の過程に関与していること、
(ii) 後述する実施例に示すように、AREGは、粘膜上皮NCI−H292細胞においてMUC2およびMUC5ACのmRNAをEGFと同程度に誘導したこと、
(iii)AREGは、ヒト気道トリプシン様プロテアーゼによるAREGの放出を通してNCI−H292細胞でのムチン発現を増加させたこと、および
(iv) AREGは、EGFと異なり、肥満細胞特異性が高く発現しているので、アレルギー症状を制御可能な分子標的として優れていること。
【0122】
[実施例1]
ヒト肥満細胞におけるAREG発現の解析
肥満細胞を骨髄腫IgEで感作し、洗浄し、次いで1.5μg/mLの抗IgEで、または抗体なしで24時間チャレンジした後、培養上清を回収した。細胞が密になるまで増殖し、培地中の血清が枯渇したNCI−H292細胞(American Type Culture Collection: ATCC)を、10μg/mlの抗AREG中和抗体またはイソ型対照mIgG1で20分間処理した後、前記肥満細胞の培養上清を添加した。また、前記培養上清中のヒトAREGを、ELISAキット(R&D Systems)を用いて、当該キットに添付されたプロトコールに従って測定した。ヒトAREGのアッセイの感度は、5pg/mLであった。
【0123】
[結果]
AREG mRNAは、IgEまたは抗IgE活性化肥満細胞で明確に検出された(図2A)。AREG mRNAは、FcεRI凝集後の肥満細胞のデキサメタゾン前処理によりアップレギュレートするように見受けられた(図2A)。AREGの分泌を検証するために、ELISAキットを用いて活性化された肥満細胞の培養上清を調べ、AREGの存在を確認した。デキサメタゾン前処理は、AREGのIgE介在放出をアップレギュレートするように思われるが、有意ではなかった(図2B)。図2Cは、FcεRI凝集後の肥満細胞によるAREG産生の経時変化を示す。AREG産生は、FcεRI架橋後少なくとも36時間まで増加し続けた。デキサメタゾン単独では、培地単独の場合とほぼ同様の結果であった。AREG産生は、FcεRI架橋後36時間肥満細胞のデキサメタゾン前処理によりアップレギュレートすることが示唆された(図2C)。AREGは、濃度依存的様式で抗IgEにより放出された(図2D)。
【0124】
[実施例2]
AREGによるMUC2およびMUC5A発現の解析
実施例1で処理したNCI−H292細胞から全RNAを抽出し、MUC2およびMUC5Aの発現を定量リアルタイムPCRにより解析した。
【0125】
[結果]
図3Aおよび3Bに示すように、AREGはNCI−H292細胞において、用量依存的にMUC2およびMUC5AC遺伝子の発現を増加させた。10ng/mlでは、AREGは、MUC2およびMUC5AC遺伝子の発現をそれぞれ3倍および13倍増加させた。AREGで誘導されたMUC2およびMUC5ACの発現増加は、EGFにより誘導されたものとほぼ同じだった。
【0126】
[実施例3]
活性化肥満細胞培養上清によるMUC2およびMUC5AC遺伝子発現の増加
密に増殖させて血清を枯渇させたNCI−292細胞を、1μg/mlの抗AREG中和抗体または1μg/mlのマウスIgG1とともに前処理した後、刺激していない肥満細胞由来の培養上清(Unsti MC SN)または活性化肥満細胞培養上清(Stim MC SN)とともに24時間インキュベートした。NCI−292細胞から全RNAを抽出し、定量リアルタイムRT−PCR解析を用いて、MUC2およびMUC5ACmRNAの量を決定した。刺激していない肥満細胞培養上清とともにインキュベートした細胞と比較して、活性化された肥満細胞培養上清とともにインキュベートした抗AREG mAbまたはmIgG処理細胞のムチンmRNAレベルの倍数変化(平均±SEM)として示す(図4)。
【0127】
[結果]
図4Aおよび4Bより、活性化された肥満細胞の培養上清は、AREGが介在するMUC2およびMUC5AC遺伝子発現をさらに増加させることがわかる。これらの増加は、AREGに対する中和抗体により有意に阻害された。
【0128】
[実施例4]
免疫組織化学
表1に記載の喘息患者および正常被験者由来の呼吸器粘膜の3μmの連続切片を、ABCキット(Vector Laboratories)を用いて抗AREG mAbおよび抗トリプターゼmAbで染色した。具体的には、スライドを3%H中で10分間クエンチングして内因性のペルオキシダーゼをブロックし、PBS中で洗浄した。切片を一次抗体とともに1時間、次いで、ビオチン化二次抗体とともにインキュベートした後、ABC試薬を用いた。発色は、ジアミノベンジジンを基質として用いて行った。スライドをMayerのヘマトキシリンで対比染色した。特異的ブロッキングペプチドと一次抗体とのプレインキュベーションまたは一次抗体の無関係なIgGでの置換を、陰性対照として用いた。AREG陽性細胞は、3名の別々の観察者によって各試料の少なくとも6つの高倍率の視野で計数した。Hanselの染色(鳥居薬品)を用いて、好酸球を同定した。気道組織切片の連続アルシャンブルー染色および過ヨウ素酸−Schiff染色により、分泌細胞におけるムチンが明確に可視化された。上皮分泌細胞の細胞内ムチン性糖タンパク質は、多様な大きさの紫色の長円板として認識された。
【0129】
杯状細胞の分泌応答を解析するために、下記のように、各分泌細胞における粘液の量をランク付けすることにより組織切片から粘性度を決定した。段階1では、染色域の垂直距離は、基底膜から細胞の頂点まで測定した上皮層の1/3以下である。段階2では、染色域の垂直距離は、上皮層の1/3を超える。染色域は、気管の2つの壁に沿って20個の連続する高倍率視野でランク付けした。各ドナーにおいて、粘液スコアは、n+2n(nおよびnはそれぞれ、段階1および段階2の細胞の総数である)として計算した。各研究者による各試料に与えられた平均スコアを最初に計算し、次いで3名の研究者による各試料に対する平均スコアを計算し、データとして記録した。
【0130】
[結果]
喘息患者の気管支肥満細胞におけるAREGの発現
AREG陽性(AREG)細胞を肥満細胞であると同定するために、連続切片を用いて、1つの切片を抗tryptase mAbで染色し、別の切片を抗AREG mAbで染色した。正常対照被験者由来の気管支バイプシ試料は、AREGに対してほとんど免疫反応性を示さなかった。対照的に、喘息患者由来のバイプシ試料は、気管支の肥満細胞において、AREGに対して明確に陽性の免疫反応性を示した(図5A)。次に、tryptase陽性(tryptase)細胞におけるAREG細胞の数を計数した。AREG肥満細胞の割合は、軽度、中度、および重症の喘息患者において、それぞれ平均35%、52.8%および52%であった。喘息検体および対照検体の気管支粘膜の1mmにおけるAREG細胞の数(AREG細胞/mm)を計数した(図5B)。AREG細胞/mmの数は、対照検体に比べて喘息検体で有意に増加していた(P<0.01)。喘息患者および正常被験者の両方の気道上皮細胞は、AREGに対してほとんど免疫反応性を示さなかった。次に、このことを明確にするために、AREGtryptase/mmの数を計数した(図5C)。さらに、正常および喘息の肺の試料において、全AREG細胞の中でのAREG上皮細胞、好酸球およびその他の割合を計数した。その結果、全AREG細胞の10%未満が上皮細胞および好酸球であることがわかった(図5D)。他の細胞は1%未満であった。したがって、AREG細胞の数は、肥満細胞の総数とほぼ同じであった。次に、AREG肥満細胞の数と粘膜スコアとの関係を調べた。その結果、これらの2つの数値の間に有意な相関関係があることが明らかになった(図5E、P<0.005、r=0.54)。このことは、AREGが杯状細胞の過形成を誘導することを示唆するものである。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明によれば、喘息、アトピーおよびアレルギー性鼻炎等のアレルギー性疾患の指標を提供することが可能となり、当該疾患の容易かつ的確な診断をすることができるとともに、アンフィレギュリンの作用機序に基づく新規なアレルギー性疾患の治療剤の開発が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】図1は、対照肥満細胞、抗IgEで刺激した肥満細胞および抗IgEとデキサメタゾンで刺激した肥満細胞におけるmRNA発現レベルを表す図である。ヒト肥満細胞をデキサメタゾンの存在下または非存在下でIgEとともに前培養し、次いで抗IgEで6時間活性化した。着色したバーの各横列は、1つの遺伝子を表し、各縦列は、1つの刺激を表す。着色バーは、示されたスケールにしたがって各遺伝子の応答の強さを示す。Iは、抗IgE刺激によりアップレギュレートするが抗IgEで活性化した後にデキサメタゾンで前処理すると低下した遺伝子のセットを示す。IIは、抗IgE刺激によりアップレギュレートするが抗IgEで活性化した後にデキサメタゾンでの前処理により影響を受けない遺伝子のセットを示す。IIIは、抗IgE刺激により影響を受けないが抗IgEでの活性化の前にデキサメタゾンで処理することによりダウンレギュレートした遺伝子のセットを示す。IVは、抗IgE刺激により影響を受けないがデキサメタゾンでの前処理によりアップレギュレートした遺伝子のセットを示す。
【図2】図2は、ヒト肥満細胞によるAREGの発現を示す図である。2A:FcεRI介在の活性化によるヒト肥満細胞におけるAREG発現のアップレギュレーション。デキサメタゾンの存在下(+)または非存在下(−)で前処理したヒト肥満細胞を、IgEとともに前培養し、次いで1.5μg/mlの抗IgEで活性化した。AREGおよびGAPDHに対する細胞内mRNAを、RT−PCRで増幅した。2B:デキサメタゾンの前処理の有(+)または無(−)で、1.5μg/mlの抗IgE刺激後の肥満細胞由来のAREG分泌。24時間で細胞培養上清を回収し、AREGに対するELISAを行った(n=3ドナー)。2C:デキサメタゾンの前処理の有(ドットを付したバー)または無(黒色のバー)で、抗IgE(1.5μg/ml)で刺激したヒト肥満細胞によるAREG産生の経時変化。対照細胞をデキサメタゾンの存在下(斜線入りバー)または非存在下(白色バー)でIgEとともにインキュベートしたが、抗IgE処理は除外した。2D:ヒト肥満細胞による抗IgE誘導性AREG産生の濃度−応答研究。肥満細胞をIgEで前インキュベートし、次いで0.1、0.5、1.5、または5μg/mlの抗IgEで24時間活性化した。N.D.は検出されないことを意味する。
【図3】図3は、NCI−292細胞におけるMUC2およびMUC5AC発現に対するAREGの影響を表すグラフである。NCI−292細胞をrhAREGまたはrhEGFとともにインキュベートし、前記細胞から抽出した全RNAを用いて、定量リアルタイムRT−PCR解析を用いて、MUC2(A)およびMUC5AC(B)mRNAの量を決定した。結果を、AREGまたはEGF未処理細胞と比較して、AREGまたはEGF処理細胞のムチンmRNAレベルの倍数変化(平均±SEM)として示す(n=3)。*P<0.05、AREGまたはEGFで処理していない細胞との比較。
【図4】図4は、活性化された肥満細胞培養上清がAREGが介在するMUC2およびMUC5AC遺伝子発現を増加させることを示すグラフである。休止期のNCI−292細胞を、抗AREG中和抗体またはマウスIgG1で前処理した後、刺激していない肥満細胞由来の培養上清(Unsti MC SN)または活性化肥満細胞培養上清(Stim MC SN)とともに24時間インキュベートした。NCI−292細胞から全RNAを抽出し、定量リアルタイムRT−PCR解析を用いて、MUC2(A)およびMUC5AC(B)mRNAの量を決定した。結果を、刺激していない肥満細胞培養上清とともにインキュベートした細胞と比較して、活性化された肥満細胞培養上清とともにインキュベートした抗AREG mAbまたはmIgG処理細胞のムチンmRNAレベルの倍数変化(平均±SEM)として示す(n=3)。*P<0.05、抗AREG中和抗体で処理した細胞とmIgG処理した細胞との比較。
【図5】図5は、喘息患者の気道におけるAREGtryptase細胞の数と杯状細胞の過形成の程度との相関を示す図である。5A:tryptase肥満細胞におけるAREGの共存。喘息患者由来の気管支バイオプシ検体の2つの連続する3μmの切片をtryptase(左パネル)およびAREG(右パネル)で免疫染色した。5B:正常対照(Control)および喘息患者(Asthma)の気管支粘膜の1mm当たりのAREG細胞の数。AREG細胞を、3名の別々の観察者によって各試料の少なくとも6つの高倍率の視野で計数した。**P<0.01、正常対照および喘息患者におけるAREG細胞の数間を比較。5C:正常対照(Control)および喘息患者(Asthma)の気管支粘膜1mm当たりのAREGtryptase細胞の数。**P<0.01、正常対照および喘息患者におけるAREGtryptase細胞の数間を比較。5D:全AREG細胞正常検体(白抜きバー)と喘息患者の肺検体(黒塗りバー)との間のAREG上皮細胞および好酸球の割合。*P<0.05、対照被験者および喘息患者におけるAREG上皮細胞の割合に対して。5E:肥満細胞におけるAREGの発現と喘息患者における杯状細胞過形成の程度との相関。杯状細胞過形成の程度は、実施例4に記載のように求め、喘息患者の気道におけるAREGtryptase細胞の数との相関を解析した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンフィレギュリン遺伝子の連続する少なくとも15塩基の塩基配列を有するポリヌクレオチドおよび/または当該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含有してなるアレルギー性疾患の疾患マーカー。
【請求項2】
前記アレルギー性疾患が喘息、アトピーまたはアレルギー性鼻炎であり、当該疾患の検査においてプローブまたはプライマーとして使用される請求項1記載の疾患マーカー。
【請求項3】
前記アレルギー性疾患が喘息であり、喀痰検査に使用される請求項1または2に記載の疾患マーカー。
【請求項4】
下記の工程(A)および(B)を含む、アレルギー性疾患の診断方法:
(A)被験者の生体試料中のアンフィレギュリン遺伝子の発現量を測定する工程、および
(B)前記(A)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
【請求項5】
下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、アレルギー性疾患の診断方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと請求項1〜3いずれかに記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、前記疾患マーカーを指標として測定する工程、
(c)前記(b)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
【請求項6】
工程(c)におけるアレルギー性疾患の有無の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる、請求項5に記載の診断方法。
【請求項7】
アンフィレギュリンを認識する抗体を含有してなるアレルギー性疾患の疾患マーカー。
【請求項8】
前記アレルギー性疾患が喘息、アトピーまたはアレルギー性鼻炎であり、当該疾患の検査においてプローブとして使用される請求項7記載の疾患マーカー。
【請求項9】
前記アレルギー性疾患が喘息であり、喀痰検査に使用される請求項7または8に記載の疾患マーカー。
【請求項10】
下記の工程(A)および(B)を含む、アレルギー性疾患の診断方法:
(A)被験者の生体試料中のアンフィレギュリンの発現量を測定する工程、および
(B)前記(A)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
【請求項11】
下記の工程(a)、(b)および(c)を含むアレルギー性疾患の診断方法:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と請求項7〜9いずれかに記載の疾患マーカーとを結合させる工程、
(b)該疾患マーカーに結合した生体試料由来のタンパク質を、前記疾患マーカーを指標として測定する工程、および
(c)前記(b)の測定結果に基づいて、アレルギー性疾患の有無を判断する工程。
【請求項12】
工程(c)におけるアレルギー性疾患の有無の判断が、被験者について得られる測定結果を正常者について得られる測定結果と対比して、疾患マーカーへの結合量が増大していることを指標として行われる請求項11記載のアレルギー性疾患の診断方法。
【請求項13】
下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、アンフィレギュリンの発現を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とアンフィレギュリンの発現を測定可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるアンフィレギュリンの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるアンフィレギュリンの発現量と比較する工程、および
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、アンフィレギュリンの発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
【請求項14】
下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、アンフィレギュリンのEGF受容体への結合活性を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質と、アンフィレギュリンおよびEGF受容体とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させたアンフィレギュリンのEGF受容体との結合活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない対照アンフィレギュリンのEGF受容体との結合活性と比較する工程、および
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、アンフィレギュリンのEGF受容体との結合活性を抑制する被験物質を選択する工程。
【請求項15】
アレルギー性疾患の治療剤の有効成分を探索するための方法である、請求項13または14に記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
下記の工程(a)、(b)および(c)を含む、喀痰分泌を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質およびアンフィレギュリンと、ムチンの発現を測定可能な細胞とを接触させる工程、
(b) 被験物質を接触させた細胞におけるムチンの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるムチンの発現量と比較する工程、および
(c)前記(b)の比較結果に基づいて、喀痰分泌を抑制する被験物質を選択する工程。
【請求項17】
前記喀痰分泌がアレルギー性疾患に伴うものである、請求項16に記載のスクリーニング方法。
【請求項18】
アンフィレギュリンに結合する抗体を含有してなるアレルギー性疾患の治療剤。
【請求項19】
アンフィレギュリンの発現量またはEGF受容体への結合活性を抑制する物質を有効成分とする、アレルギー性疾患の治療剤。
【請求項20】
前記物質がアンフィレギュリンに対する抗体もしくはドミナントネガティブ変異体または当該抗体もしくはドミナントネガティブ変異体をコードする核酸分子を含む発現ベクターである請求項19に記載の治療剤。
【請求項21】
喀痰分泌抑制作用またはリモデリング抑制作用を有するものである請求項18〜20のいずれかに記載の治療剤。
【請求項22】
アンフィレギュリン遺伝子の発現を抑制する物質を有効成分とする、アレルギー性疾患の治療剤。
【請求項23】
前記物質が、アンフィレギュリン遺伝子に対するアンチセンス核酸、リボザイム、デコイ核酸またはsiRNAである請求項22に記載の治療剤。
【請求項24】
喀痰分泌抑制作用またはリモデリング抑制作用を有するものである請求項22または23に記載の治療剤。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−174740(P2006−174740A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369925(P2004−369925)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】