説明

アレーアンテナ及びそのビーム制御方法

【課題】低高度な目標に対しても大きい電力で電波を照射することができるアレーアンテナ及びそのビーム制御方法を得る。
【解決手段】送信信号を生成する送信器6と、前記送信信号を分配する分配器3と、分配器3の複数の出力に対して複素荷重をそれぞれ乗じる複数の乗算器2と、複数の乗算器2の出力をそれぞれ送信する複数の素子アンテナ1とが設けられたアレーアンテナであって、推定される目標位置に基づいて目標方向を推定する目標方向推定手段7と、前記目標位置に到達するマルチパス波の送信方向であるマルチパス方向を推定するマルチパス方向推定手段8と、前記マルチパス波が反射する角度から前記マルチパス波の反射係数を推定する反射係数推定手段10と、前記目標方向、マルチパス方向及び反射係数に基づいて複数の乗算器2で乗算する複素荷重を算出する荷重計算手段5とをさらに設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、目標方向、マルチパス方向、及びマルチパス波の反射係数を推定して、目標位置においてプロパゲーションファクタを最大化できるアレーアンテナ及びそのビーム制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のアレーアンテナは、所望とする方向の利得を上げるため、所望とする方向から電波が入射する場合の位相差を予測し、この位相差を相殺するように位相制御後合成するようにしている(例えば、非特許文献1参照)。可逆定理より同様な位相制御を送信時に施すことにより、所望の方向に対してビームを形成して高い利得で送信することができる。
【0003】
しかしながら、このようなアレーアンテナで高度の低い目標に対して電波を照射する場合、直接目標に照射される電波と地表面などに反射して目標に到達する電波が干渉することにより目標に照射される電波の電力が大幅に減衰するという課題がある。
【0004】
【非特許文献1】吉田孝監修、「レーダ技術」、電子情報通信学会編、昭和59年1月20日初版発行、第136頁−第151頁(コロナ社取次販売)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のアレーアンテナでは、例えば高度の低い目標に向けて電波を照射する場合において、直接目標に照射される電波と地表面などに反射して目標に到達する電波が干渉することにより結果として目標に照射される電波の電力が大幅に減衰するという問題点があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、電波を照射する目標の方向と干渉の原因となる反射波(マルチパス波)の送信方向を推定し、また、反射波の反射角度から反射係数を推定して、目標に照射される電力を最大化するための複素荷重を算出し、この複素荷重に基づいてビームを形成することで、低高度な目標に対しても大きい電力で電波を照射することができるアレーアンテナ及びそのビーム制御方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るアレーアンテナは、送信信号を生成する送信器と、前記送信信号を分配する分配器と、前記分配器の複数の出力に対して複素荷重をそれぞれ乗じる複数の乗算器と、前記複数の乗算器の出力をそれぞれ送信する複数の素子アンテナとが設けられたアレーアンテナであって、推定される目標位置に基づいて目標方向を推定する目標方向推定手段と、前記目標位置に到達するマルチパス波の送信方向であるマルチパス方向を推定するマルチパス方向推定手段と、前記マルチパス波が反射する角度から前記マルチパス波の反射係数を推定する反射係数推定手段と、前記目標方向、マルチパス方向及び反射係数に基づいて前記複数の乗算器で乗算する複素荷重を算出する荷重計算手段とをさらに設けたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係るアレーアンテナは、低高度な目標に対しても大きい電力で電波を照射することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係るアレーアンテナについて図1から図5までを参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係るアレーアンテナの構成を示す図である。なお、以降では、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0010】
図1において、この実施の形態1に係るアレーアンテナは、複数の素子アンテナ1と、複素荷重を乗算する複数の乗算器(W,W,・・・,W)2と、送信信号を分配する分配器3と、送信信号を生成する送信器(TX)6と、目標方向、マルチパス方向、及び反射係数に基づいて目標に照射される電力が最大化するように乗算器2で乗じる複素荷重を算出する荷重計算手段5と、電波を照射する目標方向を推定する目標方向推定手段7と、所望の目標に到達するマルチパス波の送信方向を推定するマルチパス方向推定手段8と、マルチパス波が反射する角度から反射係数を推定する反射係数推定手段10とが設けられている。
【0011】
なお、ビーム形成手段4は、乗算器2と分配器3で構成される。また、複数の素子アンテナ1と、複数の乗算器2と、分配器3と、送信器6とは、従来の送信用アレーアンテナの構成と同一である。
【0012】
つぎに、この実施の形態1に係るアレーアンテナの動作について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図2は、この発明の実施の形態1に係るアレーアンテナにおいて目標が地表面から低高度な位置に存在する場合の動作を示す図である。また、図3は、この発明の実施の形態1に係るアレーアンテナにおいてプロパゲーションファクタPFが増大する理由を説明するための図である。図4は、この発明の実施の形態1に係るアレーアンテナの荷重の位相特性を示す図である。図5は、この発明の実施の形態1に係るアレーアンテナの荷重の振幅特性を示す図である。
【0014】
従来、レーダや、電波を照射するイルミネータなどの送信に用いられるアレーアンテナの構成は、図1に示す素子アンテナ1と、乗算器2または移相器及び分配器と、送信器6などで構成される。送信のアレーアンテナでは、電波を放射したい方向で位相が合うように移相器を制御してその方向にビームを形成し、より強い電力の電波をその方向に放射することができる。マルチパス波などが存在しない理想的な環境では、このように形成された送信ビームによって目標に対して強い電力の電波を照射することができる。
【0015】
しかしながら、図2に示すように、目標が地表面から低高度な位置に存在し、地表面からの反射波であるマルチパス波の影響を強く受ける場合を考える。このとき、送信アンテナから目標方向に放射される直接波の他に、目標方向とは別の方向から放射される電波も地表面の反射波として目標に到達する。この直接波と反射波は目標に到達するまでの経路が異なるため、場合によっては打ち消し合い、結果として目標に照射される電力は大幅に減衰してしまうという課題がある。特に、目標までの距離が大きく直接波とマルチパス波の角度差θが小さい場合には、目標方向にビームを形成しても同時にマルチパス方向にも大きな電力を送信してしまい、干渉の結果、目標にはほとんど電波が届かなくなる。このように目標にビームを向けることは、目標に電波を到達させる上で必ずしも最適ではないことがわかる。
【0016】
上記のように干渉による電波伝搬を考慮に入れ、目標に到達する電力という観点からプロパゲーションファクタ(PF)と呼ばれる数値が用いられる。例えば、図2において、アレーアンテナの最大ゲイン(振幅利得)をG、アレーアンテナの目標方向の振幅利得をGで正規化したものをα、アレーアンテナのマルチパス方向の振幅利得をGで正規化したものをβ、電波が反射するときの反射係数をρとすると、プロパゲーションファクタPFは、次の式(1)で与えられる。
【0017】
【数1】

【0018】
このプロパゲーションファクタPFは、図2における直接波とマルチパス波の位相が反転して打ち消し合う場合における目標に照射される電力と、アレーアンテナの最大ゲインで目標に照射された場合の電力との比を表したものと考えることができる。例えば、目標方向にビームを向けマルチパス波が存在しない場合にはプロパゲーションファクタPFは1となる。逆に、目標方向のゲインとマルチパス方向のゲインが同じであり、反射係数1である場合には、目標には全く電波が届かなくなり、この場合プロパゲーションファクタPFは0となることが分かる。
【0019】
そこで、本実施の形態の目的は、今導入したプロパゲーションファクタPFを最大化するためのビーム制御荷重を求めることである。まず、ステアリングベクトル計算手段は、目標方向のステアリングベクトルとマルチパス方向のステアリングベクトルを計算する。目標方向のステアリングベクトルとマルチパス方向のステアリングベクトルをそれぞれaとaとする。例えば、到来方向kに対するステアリングベクトルaは、この方向から電波が到来する場合の素子アンテナmと基準点(位相中心)との受信位相差φkmと素子アンテナmの到来方向kの受信振幅利得akmより、次の式(2)のように定義される。
【0020】
【数2】

【0021】
ここに素子アンテナ数はMである。また、ビームフォーミングのため素子アンテナmに乗じる複素荷重wで構成される荷重ベクトルを次の式(3)のように定義する。
【0022】
【数3】

【0023】
この式(3)の荷重ベクトルのノルムをWとすると、荷重ベクトルwで形成される到来方向kの振幅利得(電界)は、次の式(4)で与えられる。なお、一般には、式(4)は電界を表す量であるが、ここでは基準点が位相中心に設定されているため位相特性を持たず、また、メインビーム内のマルチパス波を想定しているため符号は正であるので利得の平方根すなわち振幅利得と一致するため上記のように表現した。また、メインビーム外のマルチパス波の干渉はレベルが小さく問題とならないので、ここでは対象外とする。
【0024】
【数4】

【0025】
以上の定義から式(1)のα及びβは、次の式(5)及び式(6)のようになる。
【0026】
【数5】

【0027】
これら式(5)と式(6)を、式(1)に代入すると次の式(7)を得る。
【0028】
【数6】

【0029】
この式(7)は荷重ベクトルと()内のベクトルの内積となっており、荷重ベクトルの大きさは正規化により必ず1としているので、プロパゲーションファクタPFが最大となる荷重ベクトルwoptはシュヴァルツ(シュバルツ)の不等式から次の式(8)に示すように、()内のベクトルの複素共役ベクトルで与えられることが分かる。
【0030】
【数7】

【0031】
この式(8)で与えられる荷重値がプロパゲーションファクタPFを最大化する最適なビーム制御荷重であり、このとき目標に照射される電力は最大となる。すなわち、荷重計算手段5は、乗算手段により、マルチパス方向のステアリングベクトルaに反射係数ρを乗算する。減算手段により、目標方向のステアリングベクトルaから乗算手段の出力ρaを減算する。複素共役演算手段により、減算手段の出力(a−ρa)の複素共役を求める。そして、荷重計算手段5は、複素共役演算手段の出力を複素荷重として出力する。なお、上記のビーム制御荷重ベクトルはノルムで正規化しているため、定係数倍したものを用いてもよい。式(8)の荷重を求めるためには、「目標方向」、「目標に到達するマルチパス波を放射するマルチパス方向」、「マルチパス波が反射する反射係数」の情報が必要となる。このような情報が得られるケースとして以下の場合が考えられる。
【0032】
まず、レーダの捜索時などにおいて電波を照射したい位置を自分自身で決定している場合である(図1の(1)参照)。このような場合には所望とする照射先の位置は既知なので、目標方向推定手段7では、図2に示すようなアレーアンテナの位置と照射目標の位置のジオメトリから照射目標方向を求める。また、マルチパス方向推定手段8では、図2に示すような自分自身の位置と照射目標の位置、地表面の位置のジオメトリからマルチパス波を放射する方向を推定する。反射係数推定手段10では、図2に示すようにマルチパス波が反射する場合に、反射面に対して入射する角度θから概ね推定することができる。
【0033】
以上の情報を用いて、荷重計算手段5では、まず推定された照射目標方向とマルチパス方向から式(2)によってステアリングベクトルaとaを求める。このステアリングベクトルと推定された反射係数ρから式(8)に従って最適荷重ベクトルwoptを求める。この最適荷重ベクトルwoptの各要素である荷重値は、ビーム形成手段4の乗算器2により分配器3の出力に対して乗算され、それぞれ素子アンテナ1から送信することで目標に照射される電力が最大化する最適なビームが形成される効果がある。
【0034】
目標やマルチパス方向は、例えばレーダなどの送受信を共用しているアレーアンテナでは、目標の方向を推定する機能を備えている場合が多いので、この情報を利用して同様に推定することができる(図1の(2)参照)。なお、レーダの目標方向推定方法の代表的なものとしてモノパルス測角、位相差方探方式、MUSIC(Multiple Signal Classification)アルゴリズムを応用したものなど、さまざまなものが利用されている。
【0035】
送受信アンテナが別の位置に設置されるバイスタティックレーダや、レーダとは別の位置に設置されたイルミネータの送信アンテナに適用する場合には、同様にレーダの受信機能によって目標の位置を推定し、この情報を送信アンテナに送り、ここで受信アンテナの位置、目標の位置、自身のアンテナの位置からジオメトリックな推定を行って目標の方向を推定することも可能である(図1の(3)参照)。
【0036】
特に、図1の(2)や(3)のケースにおいて、レーダが追尾機能を備えており、目標を追尾している状況においては、予め予測される目標の位置から目標の方向を推定することも可能である(図1の(4)参照)。これにより、例えば移動している目標などにも適用可能となる。
【0037】
なお、提案する方法によりプロパゲーションファクタPFが増大する理由は、求められた荷重の位相及び振幅から以下のように説明できる。今、図3のような座標系のy−z平面内にアレーアンテナが設置されている場合を考える。目標はアジマス角度φ=0度、エレベーション角度θ=0度の方向に存在するものとする。このとき、式(8)により求められた荷重の位相と振幅を模式的に示したのが図4及び図5である。図4の横軸は素子アンテナ位置のz座標であり、縦軸は対応する素子アンテナに設定される荷重の位相を示している。この図4から、位相は傾きを持ったS字状の特性を持っていることが分かる。傾きを持っていることでビームは目標方向からシフトしており、またS字状の位相設定により目標方向でのアンテナパターンの傾きが急峻になると考えられる。図5は同様に横軸に素子アンテナ位置のz座標、縦軸に対応する素子アンテナに設定される荷重の振幅を示している。この図5から、アレーアンテナの外側ほど大きな荷重が設定されることが分かる。このような分布を与えることにより、ビームが細くなることが知られており、振幅からも目標方向におけるアンテナパターンの傾きが急峻になることが分かる。以上から、本発明で求められる荷重によって目標方向でもアンテナパターンの傾きが急峻となり、近接するマルチパス方向と目標方向とのゲイン差が増大し、プロパゲーションファクタPFが高められていると考えられる。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態の送信用アレーアンテナでは、目標方向と、マルチパス方向と、マルチパス波の反射係数を予測し、得られた情報からプロパゲーションファクタPFが最大化するビーム制御荷重を算出し、送信ビーム制御を行うので、直接波とマルチパス波が干渉する場合においても目標に照射される電力を増大させることができる効果がある。
【0039】
なお、ここでは簡単のためマルチパス波が1波の場合について説明したが、複数波存在する場合にも簡単に拡張できる。例えば、マルチパス波がN波存在する場合に、マルチパス波nに対応するステアリングベクトルをacnとし、マルチパス波nに対応する反射係数をρとすると、求める荷重ベクトルは、次の式(9)のようになる。
【0040】
【数8】

【0041】
これにより、複数のマルチパス波が存在する場合にも対応して、目標に照射される電力を増大させることができる。
【0042】
また、反射係数推定手段10が反射係数を正確に推定できない場合には、予想される反射係数を複数切り替え、受信波から適切な反射係数を選ぶように設定してもよい。
【0043】
また、複素の荷重制御が難しい場合には、荷重計算手段5は、算出された複素荷重から位相成分だけを抽出し、移相器などにより位相制御するように構成しても良い。このような位相制御方式を用いた場合、複素荷重制御方式に比べ性能はやや劣るが、コスト的に有利であり、またフェーズドアレーレーダに適用できる利点がある。
【0044】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係るアレーアンテナについて図6を参照しながら説明する。図6は、この発明の実施の形態2に係るアレーアンテナの構成を示す図である。
【0045】
図6において、この実施の形態2に係るアレーアンテナは、複数の素子アンテナ1と、複素荷重を乗算する複数の乗算器(W,W,・・・,W)2と、分配器3と、送信信号を生成する送信器(TX)6と、後述する記憶装置13に記憶されている電波環境情報を参照して、既知である所望の照射位置に基づいて目標方向及び電波強度を推定する目標方向推定手段7と、後述する記憶装置13に記憶されている電波環境情報を参照して、既知である所望の照射位置に到達するマルチパス波の送信方向であるマルチパス方向及び電波強度を推定するマルチパス方向推定手段8と、目標方向推定手段の出力及びマルチパス方向推定手段の出力に基づいて目標に照射される電力が最大化するように乗算器2で乗じる複素荷重を算出する荷重計算手段5と、通信対象である移動体端末11からの信号に基づき移動体端末11の位置を推定する端末位置情報推定手段12と、予め計算した設置場所周辺の地点毎の電波環境情報を記憶する記憶装置13とが設けられている。
【0046】
なお、ビーム形成手段4は、乗算器2と分配器3で構成される。
【0047】
つぎに、この実施の形態2に係るアレーアンテナの動作について図面を参照しながら説明する。
【0048】
本実施の形態は、本発明を移動体通信などへ応用した場合である。送信ビームを形成するアレーアンテナは、移動体通信の基地局アンテナに適用するものとする。基地局アンテナ周辺の電波強度、電波反射や電波回折などの電波環境情報は、設置場所周辺の建物や地形構造などの情報から計算機シミュレータ上で推定することができる。また、電波環境情報は実測データから推測することもできる。このような計算シミュレーションで電波環境情報を基地局アンテナ周辺の地点毎に計算し、記憶装置13に記憶しておく。記憶するデータは、その地点rに到達するパスnの位相遅れφrn、減衰量arn、パスの送信方向である。ここで、パスは直接到達するものも含む。パスnの送信方向のステアリングベクトルarnをとすると、地点rに到達する電力の平方根は次式Pに比例する。ここでは、プロパゲーションファクタPFと同様に、全て1の荷重で励振した場合の振幅利得Gで正規化して表す。
【0049】
【数9】

【0050】
この式(10)から、地点rに到達させる電力を最大化させる荷重ベクトルは、式(8)の場合と同様にシュヴァルツ(シュバルツ)の不等式から次の式(11)で与えられる。
【0051】
【数10】

【0052】
この式(11)は、記憶装置13から呼び出される地点rに到達するパスnの位相遅れφrn、減衰量arn及びパスnの送信方向から求められるステアリングベクトルarnを用いて計算する。求められた荷重ベクトルの複素荷重値は、ビーム形成手段4の乗算器2により乗算され、素子アンテナ1から送信されることで、地点rにおいて最大電力を照射することができる。
【0053】
基地局同士の通信など、地点rが固定の場合はその位置が既知であるので、記憶装置13から上記情報を抽出できるが、例えば移動体端末11などに送信する場合には電波の送信先の位置が未知であるのでこれを推定する必要がある。
【0054】
送信先の位置は、基地局アンテナの受信信号から端末位置情報推定手段12の電波方向探知処理により推定することができる。また、移動体端末11にGPSなどの位置情報推定処理器を搭載し、その位置情報を基地局に送信することで行ってもよい。端末位置情報推定手段12により推定された端末位置情報を参照して、目標方向推定手段7とマルチパス方向推定手段8は、記憶装置13から上記の電波環境情報を抽出して目標方向、マルチパス方向などを推定し、荷重計算手段5は荷重制御を行えばよい。
【0055】
以上説明したように本実施の形態のアレーアンテナでは、予め地点毎の電波環境情報を位相遅れφrn、減衰量arn及びパスnの送信方向などの情報として記憶する記憶装置13を備え、通信先の位置情報が得られた場合にその地点の電波環境情報を記憶装置13から抽出し、それに基づいてビーム制御荷重を計算するので、その地点に照射される電波を増大させることができる。また、送信先の位置が未知の場合には、その位置を推定する端末位置情報推定手段12を備え、得られた位置から同様にビーム制御荷重を計算するので送信先に到達する電波を増大させることができる。
【0056】
なお、上記の実施の形態1の場合と同様に、複素の荷重制御が難しい場合には、荷重計算手段5は、算出された複素荷重から位相成分だけを抽出し、移相器などにより位相制御するように構成しても良い。このような位相制御方式を用いた場合、複素荷重制御方式に比べ性能はやや劣るが、コスト的に有利であり、またフェーズドアレーアンテナのビーム形成手段にも適用できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】この発明の実施の形態1に係るアレーアンテナの構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るアレーアンテナにおいて目標が地表面から低高度な位置に存在する場合の動作を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係るアレーアンテナにおいてプロパゲーションファクタPFが増大する理由を説明するための図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係るアレーアンテナの荷重の位相特性を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係るアレーアンテナの荷重の振幅特性を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係るアレーアンテナの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 素子アンテナ、2 乗算器、3 分配器、4 ビーム形成手段、5 荷重計算手段、6 送信器、7 目標方向推定手段、8 マルチパス方向推定手段、10 反射係数推定手段、11 移動体端末、12 端末位置情報推定手段、13 記憶装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を生成する送信器と、
前記送信信号を分配する分配器と、
前記分配器の複数の出力に対して複素荷重をそれぞれ乗じる複数の乗算器と、
前記複数の乗算器の出力をそれぞれ送信する複数の素子アンテナとを備えたアレーアンテナであって、
推定される目標位置に基づいて目標方向を推定する目標方向推定手段と、
前記目標位置に到達するマルチパス波の送信方向であるマルチパス方向を推定するマルチパス方向推定手段と、
前記マルチパス波が反射する角度から前記マルチパス波の反射係数を推定する反射係数推定手段と、
前記目標方向、マルチパス方向及び反射係数に基づいて前記複数の乗算器で乗算する複素荷重を算出する荷重計算手段と
をさらに備えたことを特徴とするアレーアンテナ。
【請求項2】
前記荷重計算手段は、
推定された前記目標方向及びマルチパス方向に基づいて目標方向のステアリングベクトル及びマルチパス方向のステアリングベクトルを計算するステアリングベクトル計算手段と、
前記マルチパス方向のステアリングベクトルに前記反射係数を乗算する乗算手段と、
前記目標方向のステアリングベクトルから前記乗算手段の出力を減算する減算手段と、
前記減算手段の出力の複素共役を求める複素共役演算手段とを有し、
前記複素共役演算手段の出力を複素荷重として出力する
ことを特徴とする請求項1記載のアレーアンテナ。
【請求項3】
前記目標方向推定手段は、既知である所望の照射位置に基づいて目標方向を推定し、
前記マルチパス方向推定手段は、前記既知である所望の照射位置に到達するマルチパス波の送信方向であるマルチパス方向を推定する
ことを特徴とする請求項1又は2記載のアレーアンテナ。
【請求項4】
前記目標方向推定手段は、追尾レーダで推定される目標の予測位置に基づいて目標方向を推定し、
前記マルチパス方向推定手段は、前記予測位置に到達するマルチパス波の送信方向であるマルチパス方向を推定する
ことを特徴とする請求項1又は2記載のアレーアンテナ。
【請求項5】
送信信号を生成する送信器と、
前記送信信号を分配する分配器と、
前記分配器の複数の出力に対して複素荷重をそれぞれ乗じる複数の乗算器と、
前記複数の乗算器の出力をそれぞれ送信する複数の素子アンテナとを備えたアレーアンテナであって、
予め計算した設置場所周辺の地点毎の電波環境情報を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置に記憶されている電波環境情報を参照して、既知である所望の照射位置に基づいて目標方向及び電波強度を推定する目標方向推定手段と、
前記記憶装置に記憶されている電波環境情報を参照して、前記既知である所望の照射位置に到達するマルチパス波の送信方向であるマルチパス方向及び電波強度を推定するマルチパス方向推定手段と、
前記目標方向推定手段の出力及び前記マルチパス方向推定手段の出力に基づいて前記乗算器で乗算する複素荷重を算出する荷重計算手段と
をさらに備えたことを特徴とするアレーアンテナ。
【請求項6】
通信対象である移動体端末からの信号に基づき前記移動体端末の位置を推定する端末位置情報推定手段をさらに備え、
前記目標方向推定手段は、前記記憶装置に記憶されている電波環境情報を参照して、前記端末位置情報推定手段により推定された位置に基づいて目標方向及び電波強度を推定し、
前記マルチパス方向推定手段は、前記記憶装置に記憶されている電波環境情報を参照して、前記端末位置情報推定手段により推定された位置に到達するマルチパス波の送信方向であるマルチパス方向及び電波強度を推定する
ことを特徴とする請求項5記載のアレーアンテナ。
【請求項7】
前記荷重計算手段は、算出した複素荷重から位相成分だけを抽出し、
前記複数の乗算器に代えて、前記位相成分によって前記分配器の複数の出力をそれぞれ移相制御する複数の移相器を備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかに記載のアレーアンテナ。
【請求項8】
推定される目標位置に基づいて目標方向を推定する目標方向推定ステップと、
前記目標位置に到達するマルチパス波の送信方向であるマルチパス方向を推定するマルチパス方向推定ステップと、
前記マルチパス波が反射する角度から前記マルチパス波の反射係数を推定する反射係数推定ステップと、
推定された前記目標方向及びマルチパス方向に基づいて目標方向のステアリングベクトル及びマルチパス方向のステアリングベクトルを計算するステアリングベクトル計算ステップと、
前記マルチパス方向のステアリングベクトルに前記反射係数を乗算し、この乗算した値を前記目標方向のステアリングベクトルから減算し、減算して得られたベクトルの複素共役をとって複素荷重を算出する荷重計算ステップと、
前記複素荷重に基づいてビーム制御を行うステップと
を含むことを特徴とするアレーアンテナのビーム制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−164483(P2008−164483A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355545(P2006−355545)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】