説明

アロマターゼ活性の測定方法

本発明は、アロマターゼ活性の測定に有用な化合物に関する。本発明は、アロマターゼ活性を測定し、アロマターゼ活性を調節する試験薬剤をスクリーニングするための方法をさらに提供する。そうしたスクリーニング法で使用するためのキットも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アロマターゼ活性を測定するための化合物、方法及びキットに関する。本発明は、インビトロとインビボの両方で、酵素活性を測定し、阻害物質を特定/特性決定するために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
酵素活性を測定するためのアッセイは薬学及び環境科学において広く用いられている。コンビナトリアルケミストリーと高生産性スクリーニングの出現にともなって、潜在的な酵素活性の修飾因子をスクリーニングするための簡単で、感度良くかつ費用効果の高いアッセイの必要性が増大している。
【0003】
酵素アロマターゼシトクロムP450 19 A1(EC1.14.14.1)は遺伝子のP450スーパファミリーのメンバーであるCYP19遺伝子の産生物である。アロマターゼは、それがアンドロゲンのΔ−3−オン環をエストロゲンのフェノールA環に転換するので芳香族化と称される反応である、エストロゲン生合成の律速段階であるC19アンドロゲン性ステロイドの対応するエストロゲンへの転換(図1)での触媒作用をする(Ciolino et al.,2000,British Journal of Cancer,83,333−337)。
【0004】
エストロゲンは、閉経前と閉経後両方における女性の多くの乳癌の成長と進行における最も重要な病因的要素である。閉経後の女性の乳房腫瘍は、血漿17β−エストラジオール濃度が低いにもかかわらず、高レベルの17β−エストラジオールを含む。乳房腫瘍が、副腎アンドロゲン前駆体から17β−エストラジオールを合成できることは現在広く認められている。合成は、アロマターゼによるアンドロステンジオンのエストロンへの芳香族化、続く17β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ1型によるエストロンの17β−エストラジオールへの転換によって行う(James et al.,2001,Endocrinology 142,1497−1505)。
【0005】
インビトロで測定した場合、隣接の又は健康な脂肪細胞より、乳房腫瘍においてアロマターゼ活性がより高いことが見いだされた。さらに、癌性細胞を取りまく脂肪間質細胞は、非癌性領域における対応細胞より、より高いレベルのアロマターゼmRNAを含むことが分かった(Chen et al.,1999,Endocrine−Related Cancer,6,149−156)。したがって、腫瘍又は周囲の組織でのアロマターゼ活性は、エストロゲンの局所的な生成に起因して、腫瘍の増殖を促進するのに重要な役割を果たすと考えられている。
【0006】
アロマターゼは、活性を低下させ、その結果、腫瘍の部位で合成されるエストロゲンのレベルを低下させることによって、乳癌の治療における処置のキーポイントとなる。したがって、アロマターゼ阻害物質は多くの乳癌患者に多大な利益を提供する(James et al.,2001,Endocrinology 142,1497−1505)。
【0007】
阻害物質は潜在的な環境有害物質、すなわち、いわゆる「内分泌攪乱物質」として特定されているので、アロマターゼは、乳癌の治療における医学的及び薬学的見地からだけでなく、環境の観点からも重要な酵素である(Mak et al.,1999,Environmental Health Perspectives,107,855−860)。したがって、アロマターゼ活性の修飾因子、特に阻害物質を特定するための簡単で高い処理能力のスクリーニングアッセイの開発は、大きな商業的関心事である。
蛍光検出法
蛍光ベースのアッセイは、操作の簡易さ、感度、コスト及び自動化の容易さの点で、酵素活性を測定するための放射化学的ELISA、抗体及びより伝統的な技術を凌ぐ大きな利点をもたらす。最近、同一分子上に供与体と消光性受容体を有する基質を使用する蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイ適用に大きな関心が寄せられている。例えば、国際公開第94/28166号は、プロテアーゼによる加水分解によってより強く蛍光を発するポリペプチド基質に結合しているそうしたFRET標識の使用を報告している。
【0008】
FRET技術は、スクリーニングアッセイで使用するのに、単なる蛍光強度技術より高い感度と信頼性をもたらすが、その複雑な性質のため、基質は調製し精製するのに著しく高価である。したがって、FRET標識の調製は、分析及び/又は精製と材料のコストの両方の点で要求が高まってきている。さらに、従来の蛍光又はFRET標識を識別するための唯一の方法はその吸収スペクトル及び発光スペクトルによるものである。
【0009】
本発明で使用できる蛍光寿命測定は、蛍光強度を定量化することだけを基にしている従来の蛍光技術を凌駕する著しい利点を提供する。蛍光寿命は、スペクトル分解した同じ強度信号により測定されるだけでなく、さらに時間領域で分解される。蛍光寿命技術は、信号が「バックグラウンドノイズ」によって殆んど影響されないので、より高い識別度を提供する。この技術のさらなる利点は、複数の異なる事象を、識別可能な寿命を有する標識を選択し、多重化することによって、同時に測定できることである。さらに、蛍光寿命の測定は濃度効果及び光退色による影響を受けない。
アロマターゼアッセイ
アロマターゼ活性の測定のために、複数のアッセイ様式が報告されている。これらは、「天然」基質か又は代理基質の使用によって、2つのカテゴリーに分けることができる。検出方法には、放射性同位元素純トレーサー(例えば、Thompson & Siiteri,1974,Journal of Biological Chemistry,249,5364−5372)、蛍光強度(Crespi et al.,Analytical Biochemistry,1997,248,188−190)、酵素活性(例えば、Chabab et al.,1986,Journal of Steroid Biochemistry,25,165−169)及び高速液体クロマトグラフィー(Fauss & Pyerin,1993,Analytical Biochemistry,210,421−423)の使用が含まれる。
【0010】
Odum and Ashby(Toxicology Letters(2002),129,119−122)は、アロマターゼ活性測定のための「トリチウム化水アッセイ」を用いた放射能アッセイを記載している。このアッセイは、芳香族化の際の基質の1β位からの、OとしてのHの放出に基づいて酵素活性を定量する。最終反応は、ジメチルスルホキシド中の基質1β(H)−アンドロステンジオン及び潜在的アロマターゼ阻害物質と一緒に、ラットの卵巣ミクロソーム及びNADPH発生システムを含んだ。反応を、基質を加えて開始させ、37℃で30分間実施した。クロロホルム−メタノールを加えて反応を停止させ、混合物を60秒間振盪させた。溶媒を除去した後、デキストランコーティングした活性炭の懸濁液を加えた。混合物を4℃で1時間放置し、遠心分離にかけ、500μlの上澄みをシンチラントに加え、液体シンチレーションカウンタでカウントとした。
【0011】
このアッセイは、潜在的な阻害物質を特定するための手段として文献で広く用いられているが(例えば、国際公開第03/045925号)、労働集約的であり、多大な時間を必要とし、かつ放射能標識した基質を必要とするので、明らかに、高い処理能力の手順に応じられるものではない。
【0012】
Crespi et al.(Analytical Biochemistry(1997),248,188−190)は、昆虫細胞中に発現し、ミクロソームとして調製された組み換えられたヒトアロマターゼの活性を測定するために使用できる、マイクロタイタープレートをベースとした蛍光定量的強度アッセイを記載している。このアッセイは、基質としてジベンジルフルオレセイン(DBF)を使用しており、このアッセイによって、多くの場合報告されている値と異なる多数のIC550値が報告されている。これらの差は、基質の選択及び細胞基準系の使用などの方法上のばらつきに起因していると報告されている。この第2の様式における「代理」基質の使用によって、IC550が何故公表されている値と異なるかが明らかとなる。
【特許文献1】国際公開第94/28166号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/045925号パンフレット
【特許文献3】国際公開第02/081509号パンフレット
【特許文献4】国際公開第02/056670号パンフレット
【特許文献5】米国特許第5968479号明細書
【特許文献6】国際公開第98/47538号パンフレット号
【特許文献7】国際公開第02/099424号パンフレット
【特許文献8】国際公開第02/099432号パンフレット
【非特許文献1】Ciolino et al.,2000,British Journal of Cancer,83,333−337
【非特許文献2】James et al.,2001,Endocrinology 142,1497−1505
【非特許文献3】Chen et al.,1999,Endocrine−Related Cancer,6,149−156
【非特許文献4】Mak et al.,1999,Environmental Health Perspectives,107,855−860
【非特許文献5】Thompson & Siiteri,1974,Journal of Biological Chemistry,249,5364−5372
【非特許文献6】Crespi et al.,Analytical Biochemistry,1997,248,188−190
【非特許文献7】Chabab et al.,1986,Journal of ステロイド Biochemistry,25,165−169
【非特許文献8】Fauss & Pyerin,1993,Analytical Biochemistry,210,421−423
【非特許文献9】Odum and Ashby(Toxicology Letters(2002),129,119−122)
【非特許文献10】Bhatnager et al.,2001,Journal of Steroid Biochemistry and Molecular Biology,76,199−202
【非特許文献11】Principles of Fluorescence Spectroscopy,(Chapter4) ed.J R Lakowicz,Second Edition,1999,Kluwer/Academic Press
【非特許文献12】Principles of Fluorescence Spectroscopy,(Chapter5) ed.J R Lakowicz,Second Edition,1999,Kluwer/Academic Press
【非特許文献13】Sanders et al.,(1995)Analytical Biochemistry,227(2),302−308
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、薬学及び環境科学において、アロマターゼ活性を測定するための改善された蛍光ベースアッセイの必要性が引き続き存在している。そうしたアッセイは、以下の特質、すなわち均質性、高感度、良好な信頼性、堅牢さ、使用の簡単さ、低コスト、自動化の容易さ、標識特異性及び/又は標識化合物を識別するための2つ以上の検出の形のうちの1以上を有することができる。改善されたアッセイは、これらの特徴のうちの2つ以上を示すことが好ましく、これらの特徴のすべてを示すことが好ましい。本発明は、そうしたアッセイを実施するための新規の試薬と方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、式Iの化合物であって、アロマターゼ活性を有する酵素がその化合物に作用した際に、蛍光強度又は蛍光寿命に関して前記化合物の蛍光信号が変化することを特徴とする化合物を提供する。
【0015】
R−L−S
(I)
式中、Rは蛍光染料分子であり、
LはN、O及びSなどの他の原子も含んでいてもよい炭化水素鎖を含む1個以上の原子を含む適宜の連結基であり、
Sは酵素アロマターゼの基質基を含む分子である。
【0016】
Rは、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、BODIPY(商標)染料、フェノキサジン、シアニン、Alexafluors(商標)、メロシアニン、Cy3B、Cy5、Cy5.5、Cy7、アクリドン、キナクリドン及びスクエア酸染料からなる群から選択されることが適切である。
【0017】
本発明によって蛍光レポーター部分Rとして使用できるある範囲の蛍光標識は市販されている。例としては、これらに限定されないが、国際公開第02/081509号に記載のオキサジン(例えば、MR121、JA242、JA243)及びローダミン誘導体(例えば、JA165、JA167、JA169)が含まれる。他の例(国際公開第02/056670号に記載のような)には、これらに限定されないが、Cy5、Cy5.5及びCy7(Amersham)、メロシアニン(Few Chemicals)、IRD41及びIRD700(Licor)、NIR−1及びIC5−OSu(Dojindo)、Alexa fluor660 & Alexa fluor680(Molecular Probes)、LaJolla Blue(Diatron)、FAR−Blue、FAR−Green One & FAR−Green Two(Innosense)、ADS790−NS及びADS821−NS(American Dye Source)、インドシアニングリーン(ICG)及びその類似体(米国特許第5968479号)、インドトリカルボシアニン(ITC、国際公開第98/47538)号、蛍光量子ドット(硫化亜鉛キャップセレン化カドミウムナノ結晶−QuantumDot Corp.)並びにキレート化ランタニド化合物(蛍光ランタニド金属にはユウロピウム及びテルビウムが含まれる)が含まれる。
【0018】
Rは、国際公開第02/099424号に記載の式IIのアクリドン染料であることが好ましい。
【0019】
【化1】

式中、基R及びRはZ環構造に結合しており、基R及びRはZ環構造に結合しており、
及びZは独立に1又は2個の芳香族又は複素芳香族縮合環系を完成するのに必要な原子を表し、各環は炭素原子並びに酸素、窒素及びイオウから選択される2個以下の適宜の原子から選択される5又は6個の原子を有し、
、R、R、R及びRは独立に水素、ハロゲン、アミド、ヒドロキシル、シアノ、アミノ、モノ又はジC〜Cアルキル置換アミノ、スルフィドリル、カルボニル、C〜Cアルコキシ、アリール、ヘテロアリール、C〜C20アルキル、アラルキル、基−E−F(式中、Eは炭素、窒素、酸素、イオウ及びリン原子からなる群から選択される1〜60個の原子の鎖を有するスペーサー基であり、Fは目標結合基である)、並びに基−(CH−)Y(式中、Yはスルホネート、サルフェート、ホスホネート、ホスフェート、四級アンモニウム及びカルボキシルから選択され、nは0又は1〜6の整数である)から選択される。
【0020】
目標結合基Fは反応基又は官能基であることが適切である。式(II)による蛍光染料の反応基は、適切な条件下で、基質の官能基(すなわち、基L又はX)と反応することができ、式(II)による化合物の官能基は、適切な条件下で、基質の反応基と反応することができる。これらの反応基及び官能基によって、式(II)による蛍光染料は、基質と反応し、かつ共有結合で結合することができ、それによって基質は蛍光染料で標識される。
【0021】
Fが反応基である場合、それは、スクシニミジルエステル、スルホ−スクシニミジルエステル、イソチオシアネート、マレイミド、ハロアセトアミド、酸ハライド、ビニルスルホン、ジクロロトリアジン、カルボジイミド、ヒドラジド及びホスホロアミダイトからなる群から選択されることが好ましい。Fが官能基である場合、それは、ヒドロキシ、アミノ、スルフィドリル、イミダゾール、アルデヒド及びケトンを含むカルボニル、ホスフェート並びにチオホスフェートから選択されることが好ましい。
【0022】
Rは、国際公開第02/099432号に記載の式IIIのキナクリドン染料であることが好ましい。
【0023】
【化2】

式中、基R及びRはZ環構造に結合しており、基R及びRはZ環構造に結合しており、
及びZは独立に1つ若しくは2つの芳香族又は複素芳香族縮合環系を完成するのに必要な原子を表し、各環は炭素原子並びに酸素、窒素及びイオウから選択される2個以下の適宜の原子から選択される5又は6個の原子を有し、
、R、R、R、R、R、R及びRは独立に水素、ハロゲン、アミド、ヒドロキシル、シアノ、アミノ、モノ又はジC〜Cアルキル置換アミノ、スルフィドリル、カルボニル、カルボキシル、C〜Cアルコキシ、アリール、ヘテロアリール、C〜C20アルキル、アラルキル、基−E−F(式中、Eは炭素、窒素、酸素、イオウ及びリン原子からなる群から選択される1〜60個の原子の鎖を有するスペーサー基であり、Fは目標結合基である)、並びに基−(CH−)Y(式中、Yはスルホネート、サルフェート、ホスホネート、ホスフェート、四級アンモニウム及びカルボキシルから選択され、nは0又は1〜6の整数である)から選択される。
【0024】
目標結合基Fは反応基又は官能基であることが適切である。式(III)による蛍光染料の反応基は、適切な条件下で、基質の官能基と反応することができ、式(III)の化合物の官能基は、適切な条件下で、基質の反応基と反応することができる。これらの反応基及び官能基によって、式(III)による蛍光染料は基質と反応し、かつ共有結合で結合することができ、それによって基質は蛍光染料で標識される。
【0025】
Fが反応基である場合、それは、スクシニミジルエステル、スルホ−スクシニミジルエステル、イソチオシアネート、マレイミド、ハロアセトアミド、酸ハライド、ビニルスルホン、ジクロロトリアジン、カルボジイミド、ヒドラジド及びホスホロアミダイトからなる群から選択されることが好ましい。Fが官能基である場合、それは、ヒドロキシ、アミノ、スルフィドリル、イミダゾール、アルデヒド及びケトンを含むカルボニル、ホスフェート並びにチオホスフェートから選択されることが好ましい。
【0026】
アクリドン染料及びキナクリドン染料(及びその対応する寿命(ナノ秒))の好ましい例を、表1に化合物(IV)、(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)をそのNHS(N−ヒドロキシスクシニミジル)エステルとして示す。
【0027】
【表1】

Lは、−NR’−、−O−、−S−、−CH=CH−、−C=C−、−CONH−及びフェニレニル基(式中、R’は水素及びC〜Cアルキルから選択される)から選択される1種以上の基を適宜含むことができる炭素原子から選択される1〜40個の連結原子を含むリンカー基であることが適切である。
【0028】
Lは、2〜30個の原子、好ましくは6〜20個の原子を含むリンカー基であることが適切である。
【0029】
Lは、基{(−CHR’−)p−Q−(−CHR’−)r}s(式中、各QはCHR’、NR’、O、−CH=CH−、Ar及び−CONH−から選択され、各R’は独立に水素又はC〜Cアルキルであり、各pは独立に0〜5であり、各rは独立に0〜5であり、sは1又は2である)から選択されるリンカー基であることが好ましい。Qは−CHR’−、−O−及び−CONH−(R’は水素又はC〜Cアルキルである)からなる群から選択されることがより好ましい。
【0030】
基Sは式IXのステロイド又はその誘導体であることが好ましい。
【0031】
【化3】

式中、R及びRはH及びメチルから選択され、
はH、C−Cアルキル、シアノ、−(CH−OR、−(CH−COOR、−(CH−SO、−(CH−CHO、−(CH−NR及び−(CH−CORから選択され、
はH、−COR及びヒドロキシルから選択され、
はH、−COR、ヒドロキシル、シアノ及びハライドから選択され、
はH及びヒドロキシルから選択され、
、R及びRは独立にH、−COR及びヒドロキシルから選択され、
10はH及びハライドから選択され、
但し、RはH、及びOHで適宜置換されたC〜Cアルキルから選択され、
及びRはH及びC〜Cアルキルから選択され、
はC〜Cアルキル、又はCOOR、OH、OR若しくはSOで適宜置換されたC〜Cアルキルから選択され、
kは0又は1〜8の整数である。
【0032】
ハロゲン及びハライド基はフッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選択される。
【0033】
基Sは、4−アンドロステン−3−オン、4−コレステン−3−オン、4−エストレン−3−オン及び4−プレグネン−3−オン誘導体からなるステロイドファミリーの群から選択されるステロイドであることが適切である。
【0034】
基Sは式Xのアンドロステンジオン又はその誘導体であることが好ましい。
【0035】
【化4】

基Sは式XIのテストステロン又はその誘導体であることが好ましい。
【0036】
【化5】

第1の態様の好ましい実施形態では、式XIIの化合物を提供する。
【0037】
【化6】

本発明の第2の態様では、試料のアロマターゼ活性を測定する方法であって、その方法が
i)前記試料にそれを加える前に、先行する請求項のいずれか1項記載の化合物の蛍光強度又は蛍光寿命を測定する段階と、
ii)アロマターゼ活性に好都合な条件下で前記試料に前記化合物を加える段階と、
iii)段階ii)に続いて前記化合物の蛍光強度又は蛍光寿命の変化を測定する段階と
を含み、
蛍光強度又は蛍光寿命の前記変化を、アロマターゼ活性を測定するために使用することができる方法を提供する。
【0038】
試料は抽出物、細胞、組織及び有機体からなる群から選択されることが適切である。細胞又は有機体は、天然由来のものでも、アロマターゼなどの特定のタンパク質を過剰発現するように遺伝子操作された組み換え細胞又は有機体であってもよい。
【0039】
本発明の第3の態様では、アロマターゼの活性に対するその効果を測定する試験薬剤をスクリーニングするための方法であって、前記方法が
i)前記薬剤の存在下で上記の方法を実施する段階と、
ii)上記薬剤の存在下での前記アロマターゼの活性と、上記薬剤の非存在下でのアロマターゼの活性の既知の値とを比較する段階とを含み、
上記薬剤の存在下での上記アロマターゼの活性と、上記薬剤の非存在下での前記既知の値との差がアロマターゼの活性に対する試験薬剤の効果を示す方法を提供する。
【0040】
例えば、試験薬剤は、合成分子又は天然産物(例えばペプチド、オリゴヌクレオチド)などの任意の有機若しくは無機化合物、或いはエネルギー形態(例えば光又は熱或いは電磁気放射の他の形態)であってよい。
【0041】
既知の値を電子データベースに保存しておくことが適切である。適宜、その値を標準化し(例えば、100%アロマターゼ活性を表すため)、試験薬剤の存在下で、標準化された酵素の活性と比較する。このようにして、ある最少量で酵素活性に影響を及ぼす試験薬剤のみが、さらに評価をするために選ばれる。
【0042】
本発明の第4の態様によれば、アロマターゼの活性に対する効果を測定しようとする試験薬剤をスクリーニングするための方法であって、前記方法が、
i)上記薬剤の存在下及び非存在下で上記のようにアロマターゼ活性を測定する方法を実施する段階と、
ii)上記薬剤の存在下及び非存在下で前記酵素の活性を測定する段階
を含み、
上記薬剤の存在下と非存在下での上記アロマターゼの活性の差がアロマターゼの活性に対する試験薬剤の効果を示す方法を提供する。
【0043】
薬剤の存在下又は非存在下での酵素の活性の間の差を、標準化し、電子的に保存し、基準化合物の値と比較することが適切である。したがって、例えば、活性の差を電子データベースに阻害率(又は刺激率)として保存し、この値を、アロマターゼの標準阻害物質の対応する値と比較することができる。このようにして、ある所定の閾値を満たす(例えば、基準化合物と同等か又はより効果的である)試験薬剤のみを、関係するものとしてさらなる試験のために選ぶことができる。
【0044】
本発明によるアッセイ方法は好ましくは、マルチウェルプレート、例えば24個、96個、384以上の密度のウェル、例えば864又は1536個のウェルを有するマイクロタイタープレート中のウェルで実施する。或いは、アッセイは、マルチ流体装置又はFACS設備のアッセイチューブ又はマイクロチャンネルで実施することができる。一般的なアッセイでは、関係する物質を含む試料を、ウェル中で反応混合物と混合する。酵素を加えて反応を開始させる。反応を一定時間進行させ、停止試薬でこれを停止させる(例えばEDTA)。
【0045】
反応混合物は、そうしたプレートのウェルの中に予め分注しておくことができる。
【0046】
一般に、酵素アッセイは「停止した」状態の下で実施する。これは、反応を所定の時間進行させ、次いで停止試薬で終結させることを意味する。停止試薬の性質は一般に、強力な酵素の阻害物質であり、しばしば非特異的であり、例えば、酵素活性のために通常存在する金属イオンを封鎖するためにEDTAが使用される。第2、第3及び第4の態様の実施形態では、存在下か又は非存在下での試験化合物に対するアロマターゼ活性のためのアッセイは、連続測定の条件下で実施することができる。標識基質の蛍光強度及び/又は寿命を連続的にモニターし、変化を連続的に観察することができるので、標識基質を酵素反応の生成物から分離する必要がない。この方法で反応の時間的経過が得られ、それによって動力学的検討をリアルタイムで行うことができる。
【0047】
通常、アッセイは複数の成分、一般には酵素、基質、共同因子、金属イオン、緩衝液塩、場合により試験又は標準阻害化合物からなることになる。
【0048】
さらに、低い割合の有機溶媒、例えばDMSOの存在下でアッセイを実行する必要があることがある。本発明では、混合物に試薬のどれを加えることも可能であるが、重要な成分を任意の順序で除外することも可能である。次いでこの種の反応は非特異的効果についてモニターすることができる。対照としてさらに、酵素の存在しない混合物で構成することも可能である。反応の性質のために、最後の成分を加え、リアルタイムで又はその後のある時点で反応を停止させて変化をモニターすることができる。
【0049】
本発明の方法は、細胞、組織、有機体及び抽出物から誘導された試料で実施することができる。生物試料は、例えば有機体全体、有機体若しくは組織の一部から調製されたホモジネート、溶解物又は抽出物であってよい。例えば、アッセイは、血液、粘液、リンパ液、滑液、髄液、唾液、羊水、尿、膣液及び精液などの様々な体液で実施することができる。特に、このアッセイは脂肪又は乳房の組織及び細胞で実施することができる。
【0050】
さらに、アッセイを、真核細胞又は原核細胞をそこで成長させることができる普通ブイヨン又は類似の媒体などの媒体中で実施することができる。阻害物質をスクリーニングするためには、アロマターゼを過剰発現するように操作された細胞、例えばATCCから得られるJEG3絨毛癌細胞(Bhatnager et al.,2001,Journal of Steroid Biochemistry and Molecular Biology,76,199−202)が特に有用である。
【0051】
適切には、標識の蛍光強度及び/又は寿命を測定するために従来の検出方法を使用することができる。これらの方法には検出装置として光電子増倍管を用いた機器が含まれる。これらの方法を用いたいくつかの手法が可能である。例えば、
i)時間相関の単光子計数法に基づく方法(cf.Principles of Fluorescence Spectroscopy,(Chapter4) ed.J R Lakowicz,Second Edition,1999,Kluwer/Academic Press)
ii)周波数領域/位相変調に基づく方法(cf.Principles of Fluorescence Spectroscopy,(Chapter5) ed.J R Lakowicz,Second Edition,1999,Kluwer/Academic Press)
iii)時間ゲート法に基づく方法(cf.Sanders et al.,(1995)Analytical Biochemistry,227(2),302−308)である。
【0052】
マルチウェルプレートのすべてのウェルを画像化するために、走査画像装置又は領域画像装置などの電荷結合素子(CCD)画像装置を用いて蛍光強度の測定を実施することができる。LEADseeker(商標)(Amersham Biosciences,UK)システムは、ワンパスで高密度マイクロタイタープレートの画像化が可能であるCCDカメラを特徴としている。画像化は定量的でかつ迅速であり、画像化用途に適した計装化によってマルチウェルプレート全部を同時に画像化することが可能になる。
【0053】
本発明の第5の態様によれば、上記のような組織内で化合物の分布を測定するための方法であって、上記化合物を、組織内の生細胞が取り込むことができ、その方法が、
i)無細胞環境又は親宿主細胞において上記化合物の蛍光強度又は蛍光寿命を測定する段階と、
ii)上記化合物を、1以上の細胞又はアロマターゼを過剰発現するように操作した細胞に加える段階と、
iii)段階ii)に続いて上記化合物の蛍光強度又は寿命を測定する段階と
を含み、
蛍光強度又は蛍光寿命の変化がアロマターゼ活性を示し、それを使用して上記化合物の分布を測定することができる方法を提供する。遺伝子操作して親宿主細胞と比べてアロマターゼが過剰発現された細胞は、著しく高いレベルの酵素活性を示すことを理解されたい。
【0054】
第1の被検体の組織内の化合物の分布を、第2被検体の組織内の化合物の分布と比較することが適切である。
【0055】
被検体は、哺乳動物、植物、昆虫、魚、トリ、ハエ、線虫及び藻類からなる群から選択されることが適切である。哺乳動物はマウス又はラットであることが好ましい。
【0056】
本発明の第6の態様では、インビトロ又はインビボでの画像形成用プローブとしてアロマターゼ活性を測定するための上記したような化合物の使用を提供する。
【0057】
本発明の第7の態様では、第1の被検体から採取した試料中のアロマターゼの活性と、第2の健康な対照被検体から採取した試料中のアロマターゼの活性とを比較することを含む、被検体においてアロマターゼ活性の増大によって引き起こされた疾患を、上記の方法を用いて診断するための方法であって、上記第2の健康な対照被検体に対する上記第1の被検体から採取した試料の測定された活性の増大が疾患について指し示す方法を提供する。
【0058】
本発明の第7の態様では、
i)上記の化合物と、
ii)アッセイ緩衝液と、適宜
iii)停止緩衝液
を含むキットを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
アロマターゼ基質の合成
i)Tert−ブチル2−{[(3−オキソアンドロスタ−4−エン−17−イル)カルボニル]アミノ}−エチルカーバメート
【0060】
【化7】

0.49gの4−アンドロステン−3−オン−17β−カルボン酸に、N,N−ジメチルホルムアミド(3ml)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(0.55ml)及びO−(N−スクシニミジル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(0.48g)を加えた。室温で(窒素雰囲気下で)1.5時間攪拌してtertブチルN−(2−アミノエチル)カーバメート(0.25g)を加えた。混合物を室温で3日間撹拌し、その後揮発成分をロータリーエバボレータで除去した。フラッシュクロマトグラフィーを実施し、関係する画分を一緒にし、ロータリーエバボレータを用いて溶媒をストリッピングした。これによって、0.50gの所望の物質(式XIII)を得た。マススペクトル:459.30(M+H)。
【0061】
ii)N−(2−アミノエチル)−3−オキソアンドロスタ−4−エン−17−カルボキシアミド
【0062】
【化8】

16.5mgのTert−ブチル2−{[(3−オキソアンドロスタ−4−エン−17−イル)カルボニル]アミノ}−エチルカーバメートに0.5mlの95%トリフルオロ酢酸/水を加えた。2時間放置し、ロータリーエバボレータで揮発成分を除去した。得られたオイル状の生成物(式XIV)をさらに精製することなく使用した。マススペクトル:359.23(M+H)。
【0063】
iii)N−(2−{[(2−(6,7,8,9,10−テトラヒドロ−14−スルホナート−16,16,18,18−テトラメチル−7aH−ビスインドリニウム[3,2−a,3’,2’−a]ピラノ[3,2−c,5,6−c]ジピリジン−5−イウム)アセチル]アミノ}エチル)−3−オキソアンドロスタ−4−エン−17−カルボキシアミド
【0064】
【化9】

6,7,8,9,10−テトラヒドロ−2−カルボキシメチル−14−スルホナート−16,16,18,18−テトラメチル−7aH−ビスインドリニウム[3,2−a,3’,2’−a]ピラノ[3,2−c,5,6−c]ジピリジン−5−イウムNHSエステル(1.0mg)に、N−(2−アミノエチル)−3−オキソアンドロスタ−4−エン−17−カルボキシアミド(0.6mg)、ジイソプロピルエチルアミン(0.01ml)及びジクロロメタン(0.2ml)を加えた。この混合物を18時間ローラー上に置き、次いで分取HPLCで精製した[カラム:Phenomenex Jupiter 10u C18 300A 250×21.2mm。方法:20ml/分、5%〜50% B、30分かけて(A=水0.1%TFA、B=CH3CN 0.1% TFA)。ピークを559nmで検出した。RT(生成物)約27分]。関係する画分を一緒にしてロータリーエバボレータで濃縮した。次いでその物質を凍結乾燥して1.0mgの所望の生成物(式XV)を得た。マススペクトル:902(M+H)。
【0065】
iv)エチル6−(9−オキソアクリジン−10(9H)−イル)ヘキサノエート
【0066】
【化10】

9(10H)−アクリドン(1.0g)に窒素雰囲気下でテトラヒドロフラン(15ml)を加えた。撹拌しながら水素化ナトリウム(0.25g)を加え、30分間後、エチル6−ブロモヘキサノエート(1.12ml)を加え、混合物を加熱して18時間還流させた。その後、水(10ml)を加え、層を分離させた。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し蒸発させて乾燥した。ドライフラッシュクロマトグラフィーを実施して0.85gの所要の物質(式XVI)を得た。マススペクトル:338(M+H)。
【0067】
v)6−(9−オキソアクリジン−10(9H)−イル)ヘキサン酸
【0068】
【化11】

エチル6−(9−オキソアクリジン−10(9H)−イル)ヘキサノエート(0.80g)に酢酸(9ml)と2M塩酸(2.5ml)を加えた。混合物を100Cで18時間加熱し、続いて揮発成分をロータリーエバボレータで除去した。ジエチルエーテルを加え(25ml)、混合物を15分間撹拌した。得られた物質をろ別し、空気乾燥して0.36gの最終生成物(式XVII)を得た。マススペクトル:310(M+H)。
【0069】
vi)Tert−ブチル2−{[6−(9−オキソアクリジン−10(9H)−イル)ヘキサノイル]アミノ}エチルカーバメート
【0070】
【化12】

0.48gの6−(9−オキソアクリジン−10(9H)−イル)ヘキサン酸に、ジクロロメタン(6ml)と塩化チオニル(0.2ml)を加えた。この混合物を加熱して1時間還流させ、続いて真空を施して揮発成分を除去した。得られたオイルにジクロロメタン(3ml)、ピリジン(3ml)及びt−ブチルN−(2−アミノエチル)カーバメート(250mg)を加えた。この混合物を18時間撹拌し、続いてこれを0.5M水酸化ナトリウム溶液(15ml)に注加し、ジクロロメタン(2×10ml)で抽出した。一緒にしたジクロロメタンを0.1M塩酸溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し蒸発させて乾燥した。得られた物質をカラムクロマトグラフィーで精製して0.30gの固形状の最終生成物を得た(式XVIII)。
【0071】
vii)N−(2−アミノエチル)−6−(9−オキソアクリジン−10(9H)−イル)ヘキサンアミド塩酸塩
【0072】
【化13】

0.30gのtert−ブチル2−{[6−(9−オキソアクリジン−10(9H)−イル)ヘキサノイル]アミノ}エチルカーバメートにジクロロメタン(DCM;30ml)を加えた。HCl(g)を溶液中で10分間バブリングさせた。続いて混合物をろ過し、DCM(3×20ml)で洗浄して所望の生成物(0.15g;式XIX)を得た。マススペクトル:352(M+H)。
【0073】
viii)3−オキソ−N−(2−{[6−(9−オキソアクリジン−10(9H)−イル)ヘキサノイル]アミノ}エチル)アンドロスタ−4−エン−17−カルボキシアミド
【0074】
【化14】

0.082gの4−アンドロステン−3−オン−17Bカルボン酸にDMF(5ml)、DIPEA(0.045ml)及びO−(N−スクシニミジル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(0.08g)を加えた。1時間撹拌後、N−(2−アミノエチル)−6−(9−オキソアクリジン−10(9H)−イル)ヘキサンアミド塩酸塩(化合物XVII)(0.10g)を加え、3日間撹拌を継続した。分取HPLCを実施し[カラム:Phenomenex Jupiter 10u C18 300A 250×21.2mm;20ml/分、5%〜95% B、30分かけて(A=水 0.1% TFA、B=CH3CN 0.1% TFA)。ピークを280nmで検出した。RT(生成物)約23分]、関係する画分を一緒にしてロータリーエバボレータで濃縮した。凍結乾燥して0.0683gの生成物(式XX)を得た。マススペクトル:650(M+H)。
【0075】
ix)5−エチル−7,14−ジオキソ−12−{6−オキソ−6−[(2−{[(3−オキソアンドロスタ−4−エン−17−イル)カルボニル]アミノ}エチル)アミノ]ヘキシル}−5,7,12,14−テトラヒドロキノ[2,3−b]アクリジン−2,9−ジスルホン酸
【0076】
【化15】

N−(2−アミノエチル)−3−オキソアンドロスタ−4−エン−17−カルボキシアミド(1.0mg)をジクロロメタン(1ml)中に溶解し、DMF(1ml)中の5−{6−[(2,5−ジオキソピロリジン−1−イル)オキシ]−6−オキソヘキシル}−12−エチル−7,14−ジオキソ−5,7,12,14−テトラヒドロキノ[2,3−b]アクリジン−2,9−ジスルホン酸(2mg)の溶液を加えた。DIPEA(0.02ml)を加え、混合物を室温で1時間撹拌した。続いて分取HPLCを実施して1.6mgの所望の物質(式XXI)を得た。マススペクトル:956(M+H)。
【0077】
アロマターゼアッセイ
NADPHを調製して100mMリン酸1水素2ナトリウム緩衝液pH7.4中に1mMの最終濃度にした。標識した基質(すなわち、3−オキソ−N−(2−{[6−(9−オキソアクリジン−10(9H)−イル)ヘキサノイル]アミノ}エチル)アンドロスタ−4−エン−17−カルボキシアミド;式XIX)又は発色団単独の(6−(9−オキソアクリジン−10(9H)−イル)ヘキサン酸−化合物XVI)をNADPHの溶液に加えて2μMの最終濃度にした。
【0078】
100μlのこの試薬を96ウェルマイクロタイタープレートの同型ウェル中に分注した。各ウェルに、20μl〜30μlのミクロソームを含むCYP19(アロマターゼ)か又は対照ミクロソーム(CYP19は存在しない)のどちらかを分注した。すべてのミクロソームをアッセイ緩衝液で同じタンパク質濃度に調節した。プレートを37Cで1時間インキュベートし、次いで蛍光強度をEnvision Plate Reader(Perkin Elmer,US)で、励起405nm/放射 BFP450nmで測定し記録した。
【0079】
図2は「緩衝液のみ」の処理と、アロマターゼ活性を有するミクロソーム及びアロマターゼ活性を有しないミクロソームとの蛍光強度データを比較したものである。これから分かるように、対応する対照ミクロソーム調製物と比べて、活性アロマターゼを含むミクロソームはより大きい蛍光強度の減少をもたらす。ミクロソームの存在下での信号の減少は、タンパク質/脂質の存在に起因する基質信号の消光を表している。
【0080】
蛍光信号はアッセイで存在する酵素/ミクロソームの量に比例していることが分かった。図3はアッセイ信号に対するミクロソーム体積の効果を示している。20μlのミクロソーム体積は、対照反応と比べて17.5%の強度の減少をもたらす。これは、30μlのミクロソーム調合物の存在下でさらに24.2%に増した。
【0081】
図4はアロマターゼ(図中のCYP19)活性のNADPH依存性を示す。追加のNADPHの存在下で24%の蛍光の減少が観察された。これは、追加の共同因子の非存在下での16%と対比される。追加のNADPHの非存在下で観察された信号は、酵素調合物中でのNAD(P)Hの存在を反映している可能性がある。
【0082】
図5は酵素のその基質についての特異性を示している。20μlのCYP19アロマターゼ調合物の存在下では、対照に対して17.5%の強度の変化が、標識ステロイドレポーターについて観察された。CYP19ミクロソームと一緒にインキュベートした場合、発色団単独(すなわち、6−(9−オキソアクリジン−10(9H)−イル)ヘキサン酸−化合物XVII)で、5%の強度の変化をもたらした。したがって、観察された蛍光強度の減少は、発色団に直接作用する酵素によるものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】アンドロステンジオンのエストロンへの転換におけるアロマターゼの生物化学的活性を示す図である。
【図2】蛍光アッセイ信号での緩衝液単独、対照ミクロソーム及びCYP19ミクロソームの比較を示す図である。
【図3】ミクロソームが有する体積の蛍光アッセイ信号に対する効果を示す図である。
【図4】ミクロソーム調製物(CYP19)/アロマターゼ酵素活性のNADPH依存性を示す図である。
【図5】アロマターゼ酵素のその基質についての特異性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式Iの化合物であって、アロマターゼ活性を有する酵素の作用を受けた際に、蛍光強度又は蛍光寿命に関して当該化合物の蛍光信号が変化することを特徴とする化合物。
R−L−S
(I)
式中、Rは蛍光染料分子であり、
Lは、1個以上の原子を含み、N、O及びSなどの他の原子も含んでいてもよい炭化水素鎖を含んだ適宜の連結基であり、
Sは酵素アロマターゼの基質基を含む分子である。
【請求項2】
Rがフルオレセイン、ローダミン、クマリン、BODIPY(商標)染料、フェノキサジン、シアニン、Alexafluors(商標)、メロシアニン、Cy3B、Cy5、Cy5.5、Cy7、アクリドン、キナクリドン及びスクエア酸染料からなる群から選択される、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
Rが式IIのアクリドン染料である、請求項1又は請求項2記載の化合物。
【化1】

式中、基R及びRはZ環構造に結合しており、基R及びRはZ環構造に結合しており、
及びZは独立に1又は2個の芳香族又は複素芳香族縮合環系を完成するのに必要な原子を表し、各環は、炭素原子並びに酸素、窒素及びイオウから選択される2個以下の適宜の原子から選択される5又は6個の原子を有し、
、R、R、R及びRは独立に水素、ハロゲン、アミド、ヒドロキシル、シアノ、アミノ、モノ又はジC〜Cアルキル置換アミノ、スルフィドリル、カルボニル、C〜Cアルコキシ、アリール、ヘテロアリール、C〜C20アルキル、アラルキル、基−E−F(式中、Eは炭素、窒素、酸素、イオウ及びリン原子からなる群から選択される1〜60個の原子の鎖を有するスペーサー基であり、Fは目標結合基である)、並びに基−(CH−)Y(式中、Yはスルホネート、サルフェート、ホスホネート、ホスフェート、四級アンモニウム及びカルボキシルから選択され、nは0又は1〜6の整数である)から選択される。
【請求項4】
Rが式IIIのキナクリドン染料である、請求項1又は請求項2記載の化合物。
【化2】

式中、基R及びRはZ環構造に結合しており、基R及びRはZ環構造に結合しており、
及びZは独立に1又は2個の芳香族又は複素芳香族縮合環系を完成するのに必要な原子を表し、各環は、炭素原子並びに酸素、窒素及びイオウから選択される2個以下の適宜の原子から選択される5又は6個の原子を有し、
、R、R、R、R、R、R及びRは独立に水素、ハロゲン、アミド、ヒドロキシル、シアノ、アミノ、モノ又はジC〜Cアルキル置換アミノ、スルフィドリル、カルボニル、カルボキシル、C〜Cアルコキシ、アリール、ヘテロアリール、C〜C20アルキル、アラルキル、基−E−F(式中、Eは炭素、窒素、酸素、イオウ及びリン原子からなる群から選択される1〜60個の原子の鎖を有するスペーサー基であり、Fは目標結合基である)、並びに基−(CH−)Y(式中、Yはスルホネート、サルフェート、ホスホネート、ホスフェート、四級アンモニウム及びカルボキシルから選択され、nは0又は1〜6の整数である)から選択される。
【請求項5】
Lは、炭素原子から選択される1〜40個の連結原子を含有し、−NR’−、−O−、−S−、−CH=CH−、−C=C−、−CONH−及びフェニレニル基(式中、R’は水素及びC〜Cアルキルから選択される)から選択される、1個以上の基を適宜含んでもよいリンカー基である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の化合物。
【請求項6】
Lが2〜30個の原子を含有するリンカー基である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の化合物。
【請求項7】
Lが6〜20個の原子を含有するリンカー基である、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の化合物。
【請求項8】
Lが以下の基から選択されるリンカー基である、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の化合物。
{(−CHR’−)−Q−(−CHR’−)
式中、各QはCHR’、NR’、O、−CH=CH−、Ar及びCONH−から選択され、
各R’は独立に水素又はC〜Cアルキルであり、
各pは独立に0〜5であり、
各rは独立に0〜5であり、
sは1又は2である。
【請求項9】
Qが−CHR’−、−O−及び−CONH−(式中、R’は水素又はC〜Cアルキルである)からなる群から選択される請求項8記載の化合物。
【請求項10】
Sが式IXの酵素アロマターゼの基質基である、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の化合物。
【化3】

式中、R及びRはH及びメチルから選択され、
はH、C〜Cアルキル、シアノ、−(CH−OR、−(CH−COOR、−(CH−SO、−(CH−CHO、−(CH−NR及び−(CH−CORから選択され、
はH、−COR及びヒドロキシルから選択され、
はH、−COR、ヒドロキシル、シアノ及びハライドから選択され、
はH及びヒドロキシルから選択され、
、R及びRは独立にH、−COR及びヒドロキシルから選択され、
10はH及びハライドから選択され、
但し、RはH、及びOHで適宜置換されたC〜Cアルキルから選択され、
及びRはH及びC〜Cアルキルから選択され、
はC〜Cアルキル、又はCOOR、OH、OR若しくはSOで適宜置換されたC〜Cアルキルから選択され、
kは0又は1〜8の整数である。
【請求項11】
基Sが、4−アンドロステン−3−オン、4−コレステン−3−オン、4−エストレン−3−オン及び4ープレグネン−3−オンの誘導体からなるステロイドファミリーの群から選択されるステロイドである、請求項10記載の化合物。
【請求項12】
Sが式Xのアンドロステンジオン又はその誘導体である、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の化合物。
【化4】

【請求項13】
Sが式XIのテストステロン又はその誘導体である、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の化合物。
【化5】

【請求項14】
式XXの請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の化合物。
【化6】

【請求項15】
試料のアロマターゼ活性を測定する方法であって、
i)前記試料に請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の化合物を加える前に、その蛍光強度又は蛍光寿命を測定する段階と、
ii)アロマターゼ活性に好都合な条件下で、前記試料に前記化合物を加える段階と、
iii)段階ii)に続いて、前記化合物の蛍光強度又は蛍光寿命の変化を測定する段階と
を含み、
蛍光強度又は蛍光寿命の前記変化を、アロマターゼ活性を測定するために使用することができる方法。
【請求項16】
試料が抽出物、細胞、組織及び有機体からなる群から選択される請求項15記載の方法。
【請求項17】
アロマターゼの活性に対するその効果を測定しようとする試験薬剤のためのスクリーニング方法であって、
i)前記薬剤の存在下で請求項15又は請求項16記載の方法を実施する段階と、
ii)前記薬剤の存在下での前記アロマターゼの活性と、前記薬剤の非存在下でのアロマターゼの活性の既知の値とを比較する段階とを含み、
前記薬剤の存在下での前記アロマターゼの活性と、前記薬剤の非存在下での前記既知の値との差がアロマターゼの活性に対する試験薬剤の効果を示す方法。
【請求項18】
前記既知の値を電子データベースに保存する請求項16記載の方法。
【請求項19】
アロマターゼの活性に対するその効果を測定しようとする試験薬剤のためのスクリーニング方法であって、前記方法が
i)前記薬剤の存在下及び非存在下で請求項16又は請求項17記載の方法を実施する段階と、
ii)前記薬剤の存在下及び非存在下で前記酵素の活性を測定する段階
を含み、
前記薬剤の存在下と非存在下での前記アロマターゼの活性の差が、アロマターゼの活性に対する試験薬剤の効果を示す方法。
【請求項20】
前記薬剤の非存在下と存在下でのアロマターゼの活性の前記活性の差を標準化し、電子的に保存し、基準化合物の値と比較する請求項18記載の方法。
【請求項21】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の化合物の組織内での分布を測定する方法であって、
前記化合物は、前記組織内の生細胞によって取り込み可能であり、
i)無細胞環境又は親宿主細胞において前記化合物の蛍光強度又は蛍光寿命を測定する段階と、
ii)前記化合物を、1以上の細胞又はアロマターゼを過剰発現するように操作した細胞に加える段階と、
iii)段階ii)に続いて前記化合物の蛍光強度又は寿命を測定する段階と
を含み、
蛍光強度又は蛍光寿命の変化がアロマターゼ活性を示し、それを使用して前記化合物の分布を測定することができる方法。
【請求項22】
第1の被検体の組織内での前記化合物の分布を、第2の被検体の組織内での前記化合物の分布と比較する請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記被検体が哺乳動物、植物、昆虫、魚、トリ、ハエ、線虫及び藻類からなる群から選択される請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記哺乳動物がマウス又はラットである請求項23記載の方法。
【請求項25】
アロマターゼ活性を測定するための、インビトロ又はインビボでの画像形成用プローブとしての請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の化合物の使用。
【請求項26】
第1の被検体から採取した試料中のアロマターゼの活性と、第2の健康な対照被検体から採取した試料中のアロマターゼの活性とを比較することを含む、被検体においてアロマターゼ活性の増大によって引き起こされた疾患を、請求項15記載の方法を用いて診断する方法であって、前記第2の健康な対照被検体に対する前記第1の被検体から採取した試料の測定された活性の増大が疾患を指し示す方法。
【請求項27】
i)請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の化合物と、
ii)アッセイ緩衝液と、適宜に
ii)停止緩衝液と
を含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−500182(P2007−500182A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521676(P2006−521676)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003341
【国際公開番号】WO2005/012901
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(398048914)ジーイー・ヘルスケア・ユーケイ・リミテッド (30)
【Fターム(参考)】