説明

アンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受用グリース組成物及びハブユニット軸受

【課題】ハブユニット軸受でグリース漏洩が少なく、耐はく離性、軸受潤滑寿命が優れるアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受用グリース組成物の提供。
【解決手段】(a)下記式(I)〜(III)で表されるジウレア混合物である増ちょう剤。
(I): R-NHCONH−R−NHCONH−R
(II): R-NHCONH−R−NHCONH−R
(III):R-NHCONH−R−NHCONH−R
(R1=シクロヘキシル基、R2=C6〜15の2価の芳香族炭化水素基であり、R3=C12〜20の直鎖又は分岐アルキル基、{R1/(R1+R3)}×100=85〜95モル%)
(b)基油、
(c)ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び
(d)カルシウムスルホネート
を含有するアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受用グリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受用グリース組成物及びそれを封入したことを特徴とするアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ハブユニット軸受用グリース組成物としてこれまでに多数のものが報告されている。例えば、特許文献1には、特定のウレア、有機モリブデンを使用したグリースは、フレーキング及び潤滑寿命を有意に延長し、フレッチングを低減することができることが開示されている。特許文献2には、芳香族ジウレアを増ちょう剤とし、防錆剤としてカルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及びアミン系防錆剤の3種、摩耗防止剤として有機亜鉛化合物または硫黄−リン系化合物を配合してなるグリースは、耐はく離性、耐摩耗性、耐フレッチング性及び耐腐食性に優れることが開示されている。特許文献3には、芳香族ジウレアを増ちょう剤とし、かつ有機モリブデン化合物及び有機亜鉛化合物から選ばれる少なくとも1種を含有するグリースは、水による腐食及び水から発生する水素に起因するはく離を抑える効果があることが開示されている。
他方、等速ジョイントを効率よく潤滑し、有効に摩擦を低減し、振動の発生を防止し得る等速ジョイント用グリース組成物として、基油、ウレア系増ちょう剤、モリブデンジチオカーバメート及び/又はモリブデンジチオホスフェート、石油スルホン酸カルシウム塩等のカルシウム塩を含有するグリース組成物が知られている(特許文献4)。
等速ジョイント用グリース組成物としてはまた、シリコーンゴム製ブーツとの適合性に優れた、基油、増ちょう剤、酸化ワックスの金属塩等の金属塩を含有するグリース組成物もまた知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−077056号公報
【特許文献2】特開2008−088386号公報
【特許文献3】特開2008−111057号公報
【特許文献4】特開平09−324190号公報
【特許文献5】特開平10−183162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のハブユニット軸受用グリース組成物はいずれも、耐はく離性、軸受潤滑寿命に関するもので、ハブユニット軸受のグリース漏洩が少ないという要求を満足できるものではない。
グリース漏れは、初期のグリースの硬さ、いわゆるちょう度の他、使用中に熱やせん断により軟化する度合い、いわゆる増ちょう剤の種類の違いによるせん断安定性が寄与する。ハブユニット軸受でグリース漏れが発生した場合、寿命の低下や制動装置にグリース又は油が伝わってしまった場合、最悪、制動不良が生じてしまう場合がある。
はく離寿命は、金属の疲労による寿命であり、この寿命を全うするためには潤滑油膜を厚くすることが古くから唯一の手段とされている。従って、この被潤滑部の潤滑に使用されるグリースには、従来、油膜を充分に厚くすること、すなわち充分に高い粘度を有する基油を使用することのみが求められていた。しかし、高粘度化は、軸受のトルク上昇に繋がってしまう。ハブユニット軸受のトルク上昇は、直接、自動車の燃費悪化に結びつき、昨今のエコカー・低燃費化志向に反する。
【0005】
一方、等速ジョイントは、軸受と異なり、グリース充填部がブーツで覆われているため、ブーツの破損がない限り、グリースが外部に漏れ出る心配がない。そのため、等速ジョイント用グリース組成物の場合は、ブーツ材(ゴム材,樹脂材)との適合性が重要な要求性能となる。しかし、ハブユニット軸受の場合、接触型のシールが装着されているものの、グリースが軟化し流動化した場合や離油した油がもれ出る場合がある。従って、従来の等速ジョイント用グリース組成物ではハブユニット軸受のグリース漏洩が少ないことという要求を満足できるものではない。
特に、アンギュラ球軸受は、玉と軌道輪間に接触角を有するため、球と軌道輪の接触部では、スピン運動を行い、スピンにより滑りを生ずる。スラスト荷重を受けると深溝玉軸受は、接触角が発生し、スピンにより滑りを生ずるが、その接触角が大きいアンギュラ玉軸受は、深溝玉軸受に比べスピンによる滑りが大きい。従って、球と軌道輪の接触部は、潤滑剤不足が生じると直ちに焼付きを起こし、軸受潤滑寿命に至ってしまう。アンギュラ球軸受の軸受潤滑寿命を延長するためには、グリースの耐熱性は勿論のこと、グリース又は基油を潤滑部(球と軌道輪の接触部)に供給し続けるグリースの流入性が重要な性能である。このようなグリースの流入性は、軸受がアンギュラ玉軸受で有る場合、深溝玉軸受の場合に比べ特に強く要求される。
従って、本発明の課題は、ハブユニット軸受でグリース漏洩が少なく、耐はく離性、軸受潤滑寿命が優れるアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受用グリース組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により、以下の組成物を提供する。
〔1〕下記(a)〜(d)の成分を含有するアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受用グリース組成物:
(a)下記式(I)〜(III)で表されるジウレアの混合物で、式(I)〜(III)において、シクロヘキシル基と炭素数12〜20の直鎖または分岐アルキル基の総モル数に対するシクロヘキシル基のモル数の割合は85から95%である増ちょう剤。
(I): R1-NHCONH−R2−NHCONH−R1
(II): R1-NHCONH−R2−NHCONH−R3
(III):R3-NHCONH−R2−NHCONH−R3
(式中、R1は、シクロヘキシル基、R2は炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基であり、R3は炭素数12〜20の直鎖または分岐アルキル基を示す。)
(b)基油、
(c)ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び
(d)カルシウムスルホネート。
〔2〕組成物の全質量を基準として、(c) ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの含有量が1〜5質量%である前記〔1〕記載のアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受用グリース組成物。
〔3〕組成物の全質量を基準として、(d)カルシウムスルホネートの含有量が1〜5質量%である前記〔1〕又は〔2〕記載のアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受用グリース組成物。
〔4〕さらに、(e)ジアルキルジチオリン酸亜鉛を組成物の全質量を基準として0.1〜3.0質量%含有する前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受用グリース組成物。
〔5〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のグリース組成物を封入したこと特徴とするアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アンギュラ玉軸受を用いたユニットハブ軸受用として充分な耐グリース漏れ性,耐はく離,軸受潤滑寿命を有することが可能である。特に、本発明によれば、油膜の薄膜化により発生する金属疲労によるはく離を、油膜の厚膜化によらずに防止し、はく離寿命を延長することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(a)増ちょう剤
上述した通り、グリース漏れは、増ちょう剤の種類が寄与する。等速ジョイント用グリースと異なり、軸受用グリースの耐グリース漏れは、グリース組成物に求められる極めて重要な性能として位置づけられている。従って、その他性能との両立を考えながら最適な増ちょう剤を選択することが必要となる。
式(I)〜(III)中、末端のR1及びR3がいずれも脂肪族炭化水素である増ちょう剤を用いたいわゆる脂肪族ジウレアグリースは、漏れ易くハブユニット軸受用グリースとして適用するのは好ましくない。式(I)〜(III)中、末端のR1及びR3がいずれも芳香族系炭化水素基である芳香族ジウレア化合物を増ちょう剤としたグリースは、耐熱性が優れるものの、流入性が悪く、アンギュラ玉軸受で満足する軸受潤滑寿命を有することが出来ない。
一方、リチウム石けんなどの金属石けんを増ちょう剤としたグリースでは、ハブユニット軸受用としての耐熱性が充分でなく、高温環境下でグリースが軟化・漏洩し、満足するアンギュラ玉軸受の軸受潤滑寿命を有することが出来ない。リチウムコンプレックス石けんは、リチウム石けんに比べ、耐熱性に優れ、ハブユニット軸受用として充分なアンギュラ玉軸受の軸受潤滑寿命を有する。しかし、リチウム石けんやリチウムコンプレックス石けんグリースの耐はく離性は、ウレアグリースに比べ劣り、ハブユニット軸受用として充分なはく離寿命を有することが出来ない。
【0009】
本発明において用いる増ちょう剤は、上記式(I)〜(III)で表される特定のジウレア化合物の混合物であって、式(I)〜(III)における、シクロヘキシル基R1と炭素数12〜22の直鎖または分岐アルキル基R3との総モル数に対するシクロヘキシル基R1のモル数の割合が85〜95%、好ましくは85〜90%である増ちょう剤である。95%を超えると、グリースの流入性が悪くなり、アンギュラ玉軸受で満足する軸受潤滑寿命を有することが出来ない。85%未満では脂肪族ジウレアグリースと同様に漏れが生じてしまう。
式(I)〜(III)中、R2は炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基であり、好ましくは-C6H4-CH2-C6H4-、-C6H4-又は-C6H3(CH3)-であり、より好ましくは-C6H4-CH2-C6H4-である。R3は、炭素数8〜20の直鎖または分岐アルキル基であり、好ましくは炭素数8〜20の直鎖アルキル基である。
【0010】
本発明で用いるジウレア化合物としては、特に、式(I)〜(III)中、R1が炭素数18の直鎖又は分岐アルキル基であり、R2が−C64−CH2−C64−であり、R3がシクロへキシル基であるジウレア化合物の混合物が好ましい。
本発明で用いるジウレア系増ちょう剤混合物は、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン等のアルキルモノアミンと、シクロヘキシルアミンと、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等のジイソシアネートとの反応によって得られる。
本発明のグリース組成物中のウレア系増ちょう剤の含有量は、グリース組成物全体に対して好ましくは3〜20質量%、さらに好ましくは9〜15質量%である。
【0011】
(b)基油
本発明で用いる基油としては、鉱油をはじめとして、必要に応じてあらゆる合成油を混合して使用することが可能である。好ましくは、基油全量中50質量%以上の鉱油を含み、更に好ましくは基油全量中50質量%以上の鉱油と合成炭化水素油の混合油である。鉱油を基油全量中50質量%未満、即ち合成油を50質量%以上混合すると原料コストの高騰を招いてしまいハブユニット軸受用として適応が難しい。
合成油としては、例えば、ジエステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油、ポリαオレフィン、ポリブテンに代表される合成炭化水素油、アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールに代表されるエーテル系合成油、シリコーン油、フッ素化油など各種合成油が使用可能であり、これらは鉱油に単独でも2種以上を混合して使用してもよい。
ハブユニット軸受の場合、-40℃以下の寒冷地で使用されるため、低温時の起動性が必要となるが、低温時の起動性をさらに向上させることを目的として合成油を混合する場合、エステル系合成油は、ハブユニット軸受に用いるシールを膨潤させてしまうため適当でなく、エーテル系合成油、シリコーン油、フッ素化油は極めて高価な為適当でないことから、混合に用いる合成油は合成炭化水素油が好ましい。
本発明において用いる基油の40℃における動粘度は70〜400mm2/sであるのが好ましい。40℃における動粘度が70mm2/s未満ではハブユニット軸受用としてのはく離寿命を満足することは出来ず、400mm2/sを超えると軸受トルクの増大を招いてしまう。
はく離寿命を満足するために、充分な油膜厚さを確保する必要があるハブユニット軸受用グリースは、アンギュラ玉軸受が多く用いられている極めて高速回転で運転される工作機械主軸用軸受用グリースと比べ、基油動粘度の設定が全く異なる。工作機械主軸用軸受用グリースの40℃における基油動粘度は、グリースが高速でせん断を受けた場合の抵抗を低下させるために、一般的には、15〜40mm2/s、高くとも30〜60mm2/sに設定されている。
【0012】
(c)ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン
本発明に使用する成分(c)ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンとしては、次式で表されるものが好ましい。
[R4R5N-CS-S]2-Mo2OmSn
(式中、R4及びR5は、炭素数1〜24、好ましくは炭素数3〜18の直鎖又は分岐アルキル基であり、mは0〜3、nは4〜1であり、m+n=4である)
(c)ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの含有量は、組成物の全量を基準として、1〜5質量%が好ましく、1〜4質量%がより好ましい。1質量%未満では、所期の効果を十分に得ることが困難になり、一方5質量%超の場合にも添加量に見合う効果の増大はない。
【0013】
(d)カルシウムスルホネート
本発明に使用する成分(d)カルシウムスルホネートは、親油基である有機基を有するスルホン酸のカルシウム塩である。このような有機スルホン酸塩としては、潤滑油留分中の芳香族炭化水素成分のスルホン化によって得られる石油スルホン酸とジノニルナフタレンスルホン酸や重質アルキルベンゼンスルホン酸のような合成スルホン酸等が挙げられる。特に好ましくは、ジノニルナフタレンスルホン酸のカルシウム塩、アルキルベンゼンスルホン酸のカルシウム塩である。とりわけ、中性のジノニルナフタレンスルホン酸のカルシウム塩、中性のアルキル基の炭素数が16〜24であるアルキルベンゼンスルホン酸のカルシウム塩が好ましい。
(d)カルシウムスルホネートの含有量は、組成物の全量を基準として、1〜5質量%が好ましく、1〜4質量%がより好ましい。1質量%未満では、所期の効果を十分に得ることが困難になり、一方5質量%超の場合には添加量に見合う効果の増大はない。
【0014】
(e)亜鉛ジチオホスフェート
本発明に使用する成分(e)亜鉛ジチオホスフェートとしては、次式で表されるものが好ましい。
[(R6O)(R7O)P(=S)-S]2-Zn
(式中、R6及びR7は、炭素数3〜12、好ましくは炭素数3〜6の直鎖又は分岐アルキル基である)
(e)亜鉛ジチオホスフェートの含有量は、組成物の全量を基準として、0.1〜3.0質量%が好ましく、0.5〜3.0質量%がより好ましい。0.1質量%未満では、所期の効果を十分に得ることが困難になり、一方3.0質量%超の場合にも添加量に見合う効果の増大はない。
【0015】
本発明のグリース組成物には必要に応じて汎用の添加剤を添加しても良い。例えば、以下に示す添加剤が挙げられる。
・酸化防止剤
アミン類;フェニルαナフチルアミン、アルキル化フェニルαナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミンなど
フェノール類;2、6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3、5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3、5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのヒンダードフェノール
キノリン系;2、2、4−トリメチル−1、2ジヒドロキノリン重合体など
・錆止め剤
カルボン酸およびその誘導体;アルケニルコハク酸無水物、アルケニルコハク酸エステル、アルケニルコハク酸ハーフエステル
カルボン酸塩;脂肪酸、二塩基酸、ナフテン酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸などのアミン塩
スルホン酸塩;スルホン酸のBa塩、Zn塩、Na塩など
不働態化剤;亜硝酸Na、モリブデン酸Naなど
エステル;ソルビタントリオレート、ソルビタンモノオレートなど
金属腐食防止剤;ベンゾトリアゾール又はその誘導体、酸化亜鉛など
・極圧剤
リン系化合物;トリクレジルホスフェート、トリ-2-エチルヘキシルホスフェートなど
硫黄系化合物;ジベンジルジサルファイド、各種ポリサルファイドなど
硫黄-リン系化合物;トリフェニールホスホロチオネート
有機金属系極圧剤;ジアルキルジチオリン酸のMo、Sb、Biなどの塩、ジアルキルジチオカルバミン酸のZn、Sb、Ni、Cu、Biなどの塩などその他、無灰ジチオカーバメート、無灰ジチオフォスフェートカーバメートなど
・固体潤滑剤;二硫化モリブデン、グラファイト、PTFE、MCAなど。
【0016】
本発明のグリース組成物の混和ちょう度は、好ましくは265〜325であり、より好ましくは270〜310である。265未満ではトルク上昇,車両の燃費不良を招いてしまう恐れがあり、325超では付着性が劣り、潤滑部のグリース不足による潤滑不良を招いてしまう。
【実施例】
【0017】
<実施例1〜4,比較例1〜9>
基油中で原料イソシアネート1モルに対し原料アミン2モルの比率で所定量を反応させ、添加剤を規定量加え混合した後、3本ロールミルで混和ちょう度が300となるように調整した。なお、基油の40℃における動粘度は、JIS K 2283に基づき測定した。以下、同様である。
<比較例10>
所定量の基油中で所定量のヒドロキシステアリン酸リチウムを混合加熱溶解し、冷却した後、添加剤を規定量加え混合した後、3本ロールミルで混和ちょう度が300となるように調整した。
<比較例11>
所定量の基油中に所定量のヒドロキシステアリン酸を加え、ヒドロキシステアリン酸1モルに対して水酸化リチウム1水塩1モルの比率で所定量をけん化し、次に所定量のアゼライン酸を加え、アゼライン酸1モルに対して水酸化リチウム1水塩1モルの比率で所定量をけん化した。200℃まで加熱し、冷却した後、添加剤を規定量加え混合した後、3本ロールミルで混和ちょう度が300となるように調整した。
【0018】
〔評価試験方法〕
<軸受潤滑寿命試験>
軸受7206Bに試験グリースを4ml充填して、その軸受の外輪温度を150℃に保ち、荷重Fa=1500Nの条件下、6000rpmで内輪を20h運転、4h休止のサイクルで運転した。軸受の回転トルクが過大になり、過電流(3.5アンペア)を生じるまで、または軸受温度が10℃以上上昇するまでの時間を軸受潤滑寿命とした。
(判定)軸受潤滑寿命(h)
○;1000h<。軸受潤滑寿命が極めて長寿命。ハブユニット軸受用として好適
△;500〜1000h。軸受潤滑寿命が長寿命。ハブユニット軸受用として好適
×;500h>。軸受潤滑寿命が短寿命。ハブユニット軸受用として不適
【0019】
<はく離寿命試験>
φ15mmの軸受用鋼球を3個用意し、底面の内径36.0mm、上端部の内径31.63mm、深さ10.95mmの円筒状容器内に置き、試験グリースを20g塗布する。この3個の鋼球の上にφ5/8インチの軸受用鋼球1個を接触させ、所定の回転数で回転させると、下側の3個の鋼球は自転しながら公転する。これを鋼球面にはく離が生じるまで連続回転させる。なお、はく離は、最も面圧の高い玉-玉間に生じる。寿命は、はく離が生じた時点の総回転数とする。
(試験条件)
試験鋼球:φ5/8in軸受用鋼球(回転球)、φ15mm軸受用鋼球(従動球)
試験荷重(W):400kgf(6.5Gpa)1)
回転速度(n):1500rpm
試験繰り返し数:5(平均寿命:n=5の平均)
1)球-球間の最大ヘルツ圧。6.5Gpaという値は、非常に高い面圧であり、油膜はかなり薄膜になっている状態である。
(判定)平均寿命(×1000回転)
◎;10000×1000回転以上。はく離寿命が極めて長寿命
○;5000〜10000×1000回転。はく離寿命が長寿命。
△;2000〜5000×1000回転。はく離寿命が長寿命とは言えない。
×;2000以下×1000回転。はく離寿命が短寿命。
【0020】
<耐グリース漏洩試験>
軸受6204ZZに試験グリースを1.8g封入し、荷重Fa=Fr=67Nの条件下、10000rpm,150℃で1h運転し、試験前後のグリース減量より漏洩量(mass.%)を算出した。
(判定)漏洩量(mass.%)
○;5mass.%>:僅かにグリース漏れが認められるものの、著しいものではない。
心配なし。
△;5〜10mass.%:グリース漏れ発生。寿命低下,制動不良の心配点有り。
×;10mass.%<:著しくグリース漏れ発生。寿命低下,制動不良が極めて心配点。
【0021】
〔試験結果〕
耐熱性に優れる全てのウレアグリースがアンギュラ玉軸受の軸受潤滑寿命試験で長寿命な訳ではないことが分かった。アンギュラ玉軸受を用いた軸受潤滑寿命試験で長寿命なグリースは、耐熱性を有し、且つ流入性に優れるリチウムコンプレックスグリースや、本願のグリース(一般式(I)〜(III))や、脂肪族ジウレアで表される特定のウレア化合物を増ちょう剤とした場合に限定される。
また、ウレアグリースははく離寿命に優れ、リチウムコンプレックスグリースは劣る。
ハブユニット軸受用として適用する場合、充分なはく離寿命が必要であり、充分な油膜厚さを得るためには、充分高い基油動粘度の設定が必要であるが、(c) ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンと(d)カルシウムスルホネートの添加で金属疲労によるはく離を油膜の厚膜化によらずに防止し、はく離寿命を延長することができる。
更に、(e)ジアルキルジチオリン酸亜鉛の添加ではく離寿命を更に延長可能である。
芳香族ジウレアや一般式(I)〜(III)シクロヘキシル基のモル数が95%超のグリースは、グリース漏れが少ないものの、グリースの流入性が悪くなり、アンギュラ玉軸受で満足する軸受潤滑寿命を有することが出来ない。脂肪族ジウレアや一般式(I)〜(III)でシクロヘキシル基のモル数の割合は85%未満の場合、グリース漏洩が著しい。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(d)の成分を含有することを特徴とするアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受用グリース組成物:
(a)下記式(I)〜(III)で表されるジウレアの混合物で、式(I)〜(III)における、シクロヘキシル基と炭素数12〜20の直鎖または分岐アルキル基との総モル数に対するシクロヘキシル基のモル数の割合が85から95%である増ちょう剤、
(I): R1-NHCONH−R2−NHCONH−R1
(II): R1-NHCONH−R2−NHCONH−R3
(III):R3-NHCONH−R2−NHCONH−R3
(式中、R1は、シクロヘキシル基、R2は炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基であり、R3は炭素数12〜20の直鎖または分岐アルキル基を示す。)
(b)基油、
(c)ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び
(d)カルシウムスルホネート。
【請求項2】
組成物の全質量を基準として、(c) ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの含有量が1〜5質量%である請求項1記載のアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受用グリース組成物。
【請求項3】
組成物の全質量を基準として、(d)カルシウムスルホネートの含有量が1〜5質量%である請求項1又は2記載のアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受用グリース組成物。
【請求項4】
さらに、(e)ジアルキルジチオリン酸亜鉛を組成物の全質量を基準として0.1〜3.0質量%含有する請求項1〜3のいずれか1項記載のアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受用グリース組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物を封入したことを特徴とするアンギュラ玉軸受を使用したハブユニット軸受。

【公開番号】特開2011−178824(P2011−178824A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41597(P2010−41597)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】