説明

アンテナおよび無線通信装置

【課題】広範囲の周波数でのチューニングを容易にする。
【解決手段】アンテナ10は、アーム部12(第1のアーム部)、アーム部13(第2のアーム部)および可変インピーダンス部14を有する。アーム部12は、給電部11に端部が接続される。アーム部13は、アーム部12の端でない位置に端部が接続され、グラウンド20に他の端部が接地される。可変インピーダンス部14は、アーム部12の他の端部とグラウンド20との間に設けられ、インピーダンスを変更可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンテナおよび無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話システムや無線LAN(Local Area Network)などの無線通信システムが広く利用されている。無線通信に関する標準化団体では、通信速度や通信容量を更に向上させるべく、次世代の無線通信規格について活発な議論が行われている。例えば、3GPP(3rd Generation Partnership Project)では、いわゆるLTE(Long Term Evolution)やLTE−A(Advanced)と呼ばれる無線通信規格について議論が行われている。
【0003】
このような無線通信システムには、無線通信に用いる周波数帯域の広帯域化が進められているものがある。また、複数の周波数帯域を用いた通信(マルチバンド通信)を行うものもある。例えば、次世代の無線通信規格では、600MHz〜6GHzなどの広い周波数帯域が使用される可能性がある。その場合、規格に適合する無線通信装置は、そのような広い周波数帯域に適応可能なアンテナを備えることになる。一方で、携帯電話機などの携帯型の無線通信装置は、小型化や軽量化が求められることがある。
【0004】
なお、無線通信に用いるアンテナに関して、消費電力や漏洩電界を抑制し、IC(Integrated Circuit)搭載媒体との通信範囲を拡張し、通信精度を向上させるゲートアンテナ装置が提案されている。このゲートアンテナ装置は、信号電流が供給される給電ループアンテナと、供給されない無給電ループアンテナとを有する(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、RFID(Radio Frequency IDentification)タグが読み取り可能となる領域の形状を容易に設定できるRFIDタグ読取システムが提案されている。このRFIDタグ読取システムは、読取装置と給電線で接続された第1のアンテナと、第1のアンテナの放射方向に正対するように配置された第2のアンテナと、第2のアンテナと給電線で接続された第3のアンテナとを有する(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−102101号公報
【特許文献2】特開2008−123231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本出願人は、モノポールアンテナとループアンテナとを組み合わせた、動作周波数を調整可能なアンテナについて、特許出願(特願2009−82770)を行っている。しかし、この特許出願に記載されたアンテナは、動作周波数のチューニング、特に低周波数側のチューニングについて、改善の余地がある。電気的ループが形成されている部分の回路は、高周波数側でのチューニングを容易にしているが、低周波数側でも所望の動作周波数に容易にチューニングできるようになることが好ましい。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、広範囲の周波数でのチューニングを容易にするアンテナおよび無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、第1のアーム部と第2のアーム部と可変インピーダンス部とを有するアンテナが提供される。第1のアーム部は、給電部に端部が接続される。第2のアーム部は、第1のアーム部の端でない位置に端部が接続され、グラウンドに他の端部が接地される。可変インピーダンス部は、第1のアーム部の他の端部とグラウンドとの間に設けられ、インピーダンスを変更可能である。
【0010】
また、上記課題を解決するために、第1のアーム部と第2のアーム部と可変インピーダンス部とを有する無線通信装置が提供される。第1のアーム部は、給電部に端部が接続される。第2のアーム部は、第1のアーム部の端でない位置に端部が接続され、グラウンドに他の端部が接地される。可変インピーダンス部は、第1のアーム部の他の端部とグラウンドとの間に設けられ、インピーダンスを変更可能である。第1のアーム部、第2のアーム部、可変インピーダンス部およびグラウンドは、基板の同一面に形成されている。
【発明の効果】
【0011】
上記アンテナおよび無線通信装置によれば、広範囲の周波数でのチューニングが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施の形態のアンテナを示す図である。
【図2】第2の実施の形態の無線通信装置を示す図である。
【図3】第2の実施の形態のアンテナ部を示す図である。
【図4】周波数と反射損失との関係を示す図である。
【図5】折り曲げられたアーム部の動作例を示す図である。
【図6】折り曲げられたアーム部の反射損失の例を示すグラフである。
【図7】折り曲げられ短絡されたアーム部の動作例を示す図である。
【図8】折り曲げられ短絡されたアーム部の反射損失の例を示すグラフである。
【図9】一端が開放された状態での表面電流(低周波数)の例を示す図である。
【図10】一端が開放された状態での表面電流(高周波数)の例を示す図である。
【図11】一端が短絡された状態での表面電流(低周波数)の例を示す図である。
【図12】一端が短絡された状態での表面電流(高周波数)の例を示す図である。
【図13】アンテナ部の反射損失の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態のアンテナを示す図である。アンテナ10は、給電部11、アーム部12(第1のアーム部)、アーム部13(第2のアーム部)および可変インピーダンス部14を有する。
【0014】
給電部11は、送信部(図示せず)の電力をアーム部12,13に供給すると共に、アーム部12,13で電波を補足することで生じた電力を受信部(図示せず)に伝達する。給電部11は、アンテナフィーダとも呼ばれ得る。給電部11は、グラウンド20に接地される。給電部11とグラウンド20との間に他の回路が挿入されてもよい。また、給電部11に、インピーダンス整合を取るための整合回路が接続されてもよい。
【0015】
アーム部12は、1つの端部が給電部11に接続され、他の端部が可変インピーダンス部14に接続された導電体である。図1の例では、アーム部12は、グラウンド20の端辺と垂直又は略垂直である2つの短辺と、グラウンド20の端辺と平行又は略平行である1つの長辺とを有している。すなわち、給電部11から可変インピーダンス部14までの間に、2つの直角又は略直角な屈折点を有している。ただし、アーム部12の形状はこれに限定されるものではない。
【0016】
アーム部13は、1つの端部がアーム部12の途中(端でない位置)に接続され、他の端部がグラウンド20に接地された導電体である。図1の例では、アーム部12のうち給電部11側の短辺の途中に、アーム部13の1つの端部が接続されている。また、アーム部13は、グラウンド20の端辺と平行又は略平行である1つの長辺と、グラウンド20の端辺と垂直又は略垂直である1つの短辺とを有している。すなわち、アーム部12との分岐点からグラウンド20との接地点までの間に、1つの直角又は略直角な屈折点を有している。ただし、アーム部13の形状はこれに限定されるものではない。
【0017】
このように、アーム部12の一部区間、アーム部13およびグラウンド20によって、電気的ループが形成される。アーム部13の端部とグラウンド20との間に、他の回路が挿入されてもよい。例えば、アーム部13の端部の接地点を、複数の接地点の候補の中から選択するスイッチバンク部を設けることが考えられる。その場合、スイッチを切り替えることで、ループ長を可変にでき、電気的ループに起因する共振周波数を可変にできる。
【0018】
なお、アーム部12のグラウンド20からの高さ(例えば、アーム部12の長辺とグラウンド20の端辺との距離)を、アーム部13のグラウンド20からの高さ(例えば、アーム部13の長辺とグラウンド20の端辺との距離)より大きく設定してもよい。また、グラウンド20上で、給電部11と可変インピーダンス部14との距離を、給電部11とアーム部13の接地点との距離より大きく設定してもよい。例えば、給電部11と可変インピーダンス部14との間に、アーム部13の接地点を設けることが考えられる。これにより、アンテナ10の小型化を図ることができる。
【0019】
可変インピーダンス部14は、アーム部12の給電部11に接続されていない側の端部とグラウンド20との間に設けられる。可変インピーダンス部14は、インピーダンスを変更可能である。可変インピーダンス部14は、例えば、LC共振回路(LCタンクとも呼ばれ得る)として実現できる。その場合、可変容量ダイオードなど、静電容量を変更できる可変キャパシタが含まれ得る。静電容量を変更することで、インピーダンスを可変にでき、電気的ループに起因する共振周波数と異なる他の共振周波数を可変にできる。ただし、インピーダンスを変更できるものであればよく、LC共振回路に限定されない。
【0020】
このようなアンテナ10によれば、アーム部13とグラウンド20との間に形成される電気的ループが、ループアンテナとして機能する。よって、ループ長に応じた共振周波数で、アーム部13の表面に大きな電流が流れる。アーム部13にスイッチバンク部を接続した場合、スイッチを切り替えることで、共振周波数を可変にできる。
【0021】
一方、アーム部12,13の組み合わせが、逆F型アンテナとしても機能する。すなわち、アーム部12が逆F型アンテナの放射部として機能し、アーム部13が逆F型アンテナの短絡部として機能する。よって、電気的ループに起因する共振周波数とは異なる共振周波数で、アーム部12,13の表面に大きな電流が流れる。その際、可変インピーダンス部14がインピーダンスを調整することで、共振周波数を可変にできる。この共振周波数は、電気的ループに起因する共振周波数とは別個にチューニング可能であり、広範囲の周波数でのチューニングが容易となる。すなわち、広帯域用アンテナとして好適である。
【0022】
例えば、図1に示した形状の場合、アーム部13によって実現されるループアンテナは比較的高周波数で共振し、アーム部12,13によって実現される逆F型アンテナは比較的低周波数で共振する。よって、可変インピーダンス部14は、高周波数側の共振周波数とは別個に、低周波数側の共振周波数をチューニングできることになる。
【0023】
なお、アンテナ10は、受信用アンテナ、送信用アンテナ、送信・受信兼用のアンテナの何れとしても使用可能である。アンテナ10は、無線端末装置に搭載できる。特に、アンテナ10は小型化が容易であるため、携帯電話機や携帯端末装置などの無線端末装置に好適である。例えば、LTEやLTE−Aの規格に適合する無線通信装置に搭載可能である。その場合、アーム部12,13のアーム長を調整することで、600MHz〜6GHzの広周波数帯域に適応することもできる。また、ソフトウェア無線(SDR:Software Defined Radio)、すなわち、制御ソフトウェアを変更することによって無線通信方式を切り替えることが可能な無線通信を実現することも容易である。
【0024】
以下に説明する第2の実施の形態では、第1の実施の形態に係るアンテナ10を、無線通信装置に適用した例について説明する。ただし、アンテナ10は、前述の通り、図1に示した具体的形状や第2の実施の形態で説明する具体的形状に限定されるものではない。
【0025】
[第2の実施の形態]
図2は、第2の実施の形態の無線通信装置を示す図である。無線通信装置100は、アンテナ部110およびグラウンド120を有する。アンテナ部110は、送信・受信兼用であり、高周波エネルギーを電波として空間に放射すると共に、空間の電波を補足して高周波エネルギーに変換する。グラウンド120は、アース電位に設定され、アンテナ部110に接続されている。
【0026】
なお、アンテナ部110およびグラウンド120は共に、無線通信装置100が備えるプリント基板の1つの面上に形成することができる。これにより、プリント基板の他の面上にはアンテナ部110の部材を設置しなくてよく、プリント基板の面上の領域を有効活用できる。従って、無線通信装置100の小型化を図ることが容易となる。
【0027】
図3は、第2の実施の形態のアンテナ部を示す図である。アンテナ部110は、給電部111、整合回路112、外側アーム部(Outer Arm)113、内側アーム部(Inner Arm)114、LC共振回路115およびスイッチバンク部116を有する。アンテナ部110のこれら部材は、プリント基板の1つの面上に一層で形成することができる。
【0028】
給電部111は、送信部(図示せず)の電力を外側アーム部113および内側アーム部114に供給すると共に、外側アーム部113および内側アーム部114で電波を補足することで生じた電力を受信部(図示せず)に伝達する。給電部111は、グラウンド120に接地される。給電部111は、第1の実施の形態の給電部11の一例と見なせる。
【0029】
整合回路112は、外側アーム部113および内側アーム部114と給電部111との間でインピーダンス整合を取る回路である。整合回路112は、給電部111に接続されている。整合回路112は、例えば、可変容量ダイオードなどの可変キャパシタを含むLC共振回路によって実現することが可能である。
【0030】
外側アーム部113は、1つの端部が給電部111に接続され、他の端部がLC共振回路115に接続された導電体である。外側アーム部113は、グラウンド120の端辺と垂直な2つの短辺と、グラウンド120の端辺と平行な長辺とを有する。整合回路112からLC共振回路115までの間に2つの直角な屈折点がある。外側アーム部113は、第1の実施の形態のアーム部12(第1のアーム部)の一例と見なせる。
【0031】
内側アーム部114は、1つの端部が外側アーム部113の給電部111側短辺の途中に接続され、他の端部がスイッチバンク部116を介してグラウンド120に接地された伝導体である。内側アーム部114は、グラウンド120の端辺と垂直な短辺と、グラウンド120の端辺と平行な長辺とを有する。外側アーム部113との分岐点からスイッチバンク部116までの間に1つの直角な屈折点がある。内側アーム部114は、第1の実施の形態のアーム部13(第2のアーム部)の一例と見なせる。
【0032】
ここで、内側アーム部114の長辺は、外側アーム部113の給電部111側短辺から外側アーム部113の長辺と同じ方向に伸びている。内側アーム部114のグラウンド120への接地点は、給電部111とLC共振回路115との間に設けられている。これにより、アンテナ部110の小型化が容易となる。
【0033】
また、外側アーム部113の長辺の長さをLa2、グラウンド120の端辺から長辺までの距離をLf2とすると、外側アーム部113のアーム長はL2=La2+2×Lf2と定義できる。また、内側アーム部114の長辺の長さをLa1(La1<La2)、グラウンド120の端辺から長辺までの距離をLf1(Lf1<Lf2)とすると、内側アーム部114およびグラウンド120によって形成される電気的ループの最大ループ長はL1=2×La1+2×Lf1と定義できる。
【0034】
LC共振回路115は、インピーダンスを変更可能な回路であり、外側アーム部113の給電部111に接続されていない側の端部とグラウンド120との間に設けられる。LC共振回路115には、例えば、可変容量ダイオードなどの可変キャパシタが含まれる。静電容量を変更することで、インピーダンスを調整できる。直列接続の複数のキャパシタが含まれてもよい。LC共振回路115は、第1の実施の形態の可変インピーダンス部14の一例と見なせる。
【0035】
スイッチバンク部116は、接地点を切り替え可能な回路であり、内側アーム部114の外側アーム部113に接続されていない側の端部とグラウンド120との間に設けられる。スイッチバンク部116は、グラウンド120上の互いに異なる位置に接続された、キャパシタ付きの複数のスイッチを含む。各スイッチは、独立にON/OFFが可能である。図3の例では、5つのスイッチを含んでいるが、スイッチの数は変更可能である。
【0036】
何れか1つのスイッチがONになると、内側アーム部114がキャパシタを介してグラウンド120に接地し、内側アーム部114とグラウンド120との間に電気的ループが形成される。この電気的ループのループ長は、ONにするスイッチによって異なる。給電部111から最も遠いスイッチをONにすると、ループ長は最大ループ長L1になる。他のスイッチをONにすると、ループ長はL1より小さくなる。ただし、スイッチバンク部116は、接地点を切り替え可能であればよく、図3に示した構成に限定されない。
【0037】
ここで、内側アーム部114とグラウンド120との間に形成される電気的ループが、ループアンテナとして機能する。よって、ループ長に応じた共振周波数(高周波数側の共振周波数)で、内側アーム部114の表面に大きな電流が生じる。高周波数側の共振周波数は、スイッチバンク部116のスイッチ操作によって変更できる。
【0038】
一方、外側アーム部113と内側アーム部114の組み合わせが、逆F型アンテナとして機能する。よって、電気的ループに起因する共振周波数とは異なる共振周波数(低周波数側の共振周波数)で、外側アーム部113および内側アーム部114の表面に大きな電流が生じる。低周波数側の共振周波数は、LC共振回路115の静電容量の操作によって変更できる。
【0039】
このように、アンテナ部110は、低周波数側と高周波数側の2つの共振周波数を有しており、両者は別個にチューニングが可能である。ここで、外側アーム部113はLC共振回路115によって短絡されており、外側アーム部113とグラウンド120との間にも電気的ループが形成されているようにも見える。しかし、その内側にループ長の小さい電気的ループが形成されているため、外側アーム部113はループアンテナとして機能しない。すなわち、内側アーム部114の存在によって、外側アーム部113がループアンテナとして機能することが阻害されている。
【0040】
なお、外側アーム部113のアーム長L2と、電気的ループの最大ループ長L1とは、低周波数側および高周波数側それぞれの所望の共振周波数を考慮して調整すればよい。外側アーム部113はモノポールアンテナとしての性質を有することから、低周波数側の共振波長をλ2とすると、L2〜λ2÷4の関係が成立する(「〜」は近似の意味)。一方、高周波数側の共振波長をλ1とすると、L1〜λ1の関係が成立する。
【0041】
図4は、周波数と反射損失との関係を示す図である。前述の通り、アンテナ部110では、スイッチバンク部116の操作により、高周波数側の共振周波数のチューニングが可能である。また、LC共振回路115の操作により、低周波数側の共振周波数のチューニングが可能である。図4の例は、高周波数側および低周波数側それぞれについて、5通り(併せて10個)の共振周波数を切り替える場合を示している。高品質な無線通信のためには、所望の周波数で反射損失(リターンロス)が閾値以下であることが好ましい。
【0042】
高周波数側の共振周波数の特定方法は以下の通りである。まず、スイッチバンク部116の複数のスイッチのうち、給電部111から最も遠いスイッチをONにし他のスイッチをOFFにする場合を考える。このとき、ループ長が最大になるため、高周波数側の中で最も低い周波数fUsで共振する。すなわち、最初に最小の共振周波数fUsが決まる。そして、ONにするスイッチを給電部111に近い側に順次切り替えていくと、fUsより高い共振周波数が順次決まる。給電部111に最も近いスイッチをONにしたとき、ループ長が最小になるため、高周波数側の中で最も高い周波数fUeで共振する。
【0043】
一方、低周波数側の共振周波数の特定方法は以下の通りである。まず、LC共振回路115が存在しない場合、すなわち、外側アーム部113の給電部111に接続されていない側の端部が開放されている場合を考える。このとき、低周波数側の範囲で中心の周波数fLrで共振する。すなわち、最初に中心の共振周波数fLrが決まる。そして、LC共振回路115によりインピーダンスを順次増減させると、fLrより高い共振周波数および低い共振周波数が順次決まる。このようにして、低周波数側の中で最も高い共振周波数fLeおよび最も低い共振周波数fLsが決まる。
【0044】
次に、外側アーム部113と内側アーム部114の動作の具体例を説明する。まず、外側アーム部113単独の動作について説明する。その次に、外側アーム部113がLC共振回路115によって短絡されない場合の、外側アーム部113と内側アーム部114の動作について説明する。最後に、外側アーム部113がLC共振回路115によって短絡された場合の、外側アーム部113と内側アーム部114の動作について説明する。
【0045】
図5は、折り曲げられたアーム部の動作例を示す図である。図5に示すように、外側アーム部113単独で使用する場合を考えると、外側アーム部113は折り曲げられたモノポールアンテナ(逆L型アンテナ)として機能する。すなわち、共振周波数で、給電部111側の短辺、長辺の給電部111寄り、および、グラウンド120の給電部111付近に、比較的大きな電流が流れる。また、開放端側の短辺、長辺の開放端寄り、および、グラウンド120の給電部111から少し離れた箇所に、中程度の電流が流れる。
【0046】
図6は、折り曲げられたアーム部の反射損失の例を示すグラフである。このグラフは、図5に示した形状のアンテナについてシミュレーションを行った結果を示している。ここでは、アーム長のパラメータを、L2=La2+2×Lf2=54mmとしている。図6に示すように、低周波数側の共振周波数(グラフ中の矢印で指し示された周波数)が検出されている。このときの共振波長は、アーム長の4倍程度(約216mm)である。
【0047】
図7は、折り曲げられ短絡されたアーム部の動作例を示す図である。図7に示すアンテナは、外側アーム部113の給電部111に接続されていない側の端部が短絡されている点で、図5のものと異なる。
【0048】
この場合、外側アーム部113はループアンテナとして機能する。すなわち、共振周波数で、2つの短辺、長辺の屈折点付近、グラウンド120の給電部111付近、および、グラウンド120の短絡点付近に、比較的大きな電流が流れる。また、長辺の屈折点から少し離れた箇所、グラウンド120の給電部111から少し離れた箇所、および、グラウンド120の短絡点から少し離れた箇所に、中程度の電流が流れる。なお、電流の大小は図7の中での相対レベルであり、図5と比較可能な絶対レベルではない。
【0049】
図8は、折り曲げられ短絡されたアーム部の反射損失の例を示すグラフである。このグラフは、図7に示した形状のアンテナについてシミュレーションを行った結果を示している。ここでは、ループ長のパラメータを、2×La2+2×Lf2=94mmとしている。図8に示すように、1つの共振周波数(グラフ中の矢印で指し示された周波数)が検出されている。このときの共振波長は、ループ長と同程度(約94mm)である。
【0050】
図9は、一端が開放された状態での表面電流(低周波数)の例を示す図である。図9に示すように、外側アーム部113の端部を電気的に短絡しないアンテナ部110を考えると、低周波数(例えば、0.96GHz)では、外側アーム部113と内側アーム部114との組み合わせが、逆F型アンテナとして機能する。
【0051】
すなわち、低周波数側の共振周波数で、外側アーム部113の給電部111側の短辺、外側アーム部113の長辺の給電部111寄り、および、内側アーム部114の給電部111寄りに、比較的大きな電流が流れる。また、外側アーム部113の開放端側の短辺、外側アーム部113の長辺の開放端寄り、内側アーム部114のスイッチバンク部116寄り、グラウンド120の給電部111付近、および、グラウンド120のONであるスイッチ付近に、中程度の電流が流れる。
【0052】
なお、図9の例では、スイッチバンク部116の複数のスイッチのうち、給電部111から最も遠いスイッチをONにしている。また、スイッチの数を図3の例とは変更している(10個のスイッチを設けている)。また、電流の大小は図9の中での相対レベルであり、図5,7と比較可能な絶対レベルではない。
【0053】
図10は、一端が開放された状態での表面電流(高周波数)の例を示す図である。アンテナの形状は図9に示したものと同じである。図10に示すように、高周波数(例えば、2.26GHz)では、内側アーム部114が、ループアンテナとして機能する。内側アーム部114の存在により、外側アーム部113の長辺には小さな電流しか流れない。
【0054】
すなわち、高周波数側の共振周波数で、外側アーム部113の給電部111から内側アーム部114との分岐点までの区間、内側アーム部114の給電部111寄り、および、内側アーム部114のONであるスイッチ付近に、比較的大きな電流が流れる。また、内側アーム部114の中央付近、グラウンド120の給電部111付近、および、グラウンド120のONであるスイッチ付近に、中程度の電流が流れる。なお、電流の大小は図10の中での相対レベルであり、図5,7,9と比較可能な絶対レベルではない。
【0055】
図11は、一端が短絡された状態での表面電流(低周波数)の例を示す図である。図11に示すように、外側アーム部113の端部をLC共振回路115によって電気的に短絡したアンテナ部110を考えると、低周波数(例えば、0.96GHz)では、図9と同様に、アンテナ部110が逆F型アンテナとして機能する。すなわち、低周波数側の共振周波数で、図9に示した箇所と同様の箇所に、比較的大きな電流および中程度の電流が流れる。加えて、外側アーム部113の短絡点付近に、比較的大きな電流が流れ、グラウンド120の短絡点付近に、中程度の電流が流れる。なお、電流の大小は図11の中での相対レベルであり、図5,7,9,10と比較可能な絶対レベルではない。
【0056】
図12は、一端が短絡された状態での表面電流(高周波数)の例を示す図である。図12に示すように、外側アーム部113の端部をLC共振回路115によって電気的に短絡したアンテナ部110を考えると、高周波数(例えば、2.26GHz)では、図10と同様に、アンテナ部110がループアンテナとして機能する。すなわち、高周波数側の共振周波数で、図10に示した箇所と同様の箇所に、比較的大きな電流および中程度の電流が流れる。なお、内側アーム部114の存在により、外側アーム部113がループアンテナとして機能することが阻害されている。なお、電流の大小は図12の中での相対レベルであり、図5,7,9〜11と比較可能な絶対レベルではない。
【0057】
このように、アンテナ部110は、外側アーム部113がLC共振回路115によって短絡されている場合でも、短絡されていない場合と同様に、低周波数では逆F型アンテナとして機能し、高周波数ではループアンテナとして機能する。そして、低周波数側の共振周波数は、LC共振回路115によってチューニングすることができる。
【0058】
図13は、アンテナ部の反射損失の例を示すグラフである。このグラフは、図11,12に示した形状のアンテナについてシミュレーションを行った結果を示している。前述の通り、アンテナ部110は、例えば、0.96GHzと2.26GHzの2つの共振周波数を実現することができる。低周波数側の共振周波数である0.96Hzは、LC共振回路115の操作によってシフト可能である。高周波数側の共振周波数である2.26GHzは、スイッチバンク部116の操作によってシフト可能である。低周波数側と高周波数側のチューニングは別個に行うことができる。
【0059】
このような第2の実施の形態によれば、内側アーム部114によって形成される電気的ループが、高周波数帯において、ループアンテナとして機能する。スイッチバンク部116のスイッチを切り替えることで、ループ長を変更でき、高周波数側の共振周波数を変更できる。また、外側アーム部113と内側アーム部114の組み合わせが、低周波数帯において、逆F型アンテナとして機能する。LC共振回路115でインピーダンスを変更することで、高周波数側の共振周波数とは別個に、低周波数側の共振周波数を変更できる。
【0060】
また、アンテナ部110は、プリント基板の1つの面上に一層で形成することが可能である。よって、プリント基板の面上の領域を有効活用でき、無線通信装置100を小型化・軽量化することが容易となる。このように、無線通信装置100は、広帯域の無線通信を行う無線端末装置として特に好適である。
【符号の説明】
【0061】
10 アンテナ
11 給電部
12,13 アーム部
14 可変インピーダンス部
20 グラウンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電部に端部が接続された第1のアーム部と、
前記第1のアーム部の端でない位置に端部が接続され、グラウンドに他の端部が接地された第2のアーム部と、
前記第1のアーム部の前記端部と異なる他の端部と前記グラウンドとの間に設けられ、インピーダンスを変更可能な可変インピーダンス部と、
を有することを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
前記第2のアーム部の前記他の端部と前記グラウンドとの間に設けられ、前記第2のアーム部の前記他の端部の接地点を、複数の接地点の候補の中から選択するスイッチバンク部を更に有することを特徴とする請求項1記載のアンテナ。
【請求項3】
前記第1のアーム部は、前記給電部と前記可変インピーダンス部との間に、2つの屈折点を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のアンテナ。
【請求項4】
前記グラウンド上で、前記給電部と前記可変インピーダンス部との間の距離は、前記給電部と前記第2のアーム部の前記他の端部の接地点との間の距離より大きいことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のアンテナ。
【請求項5】
前記第1のアーム部の前記グラウンドからの高さは、前記第2のアーム部の前記グラウンドからの高さより大きいことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のアンテナ。
【請求項6】
前記可変インピーダンス部は、可変キャパシタを含む共振回路であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載のアンテナ。
【請求項7】
給電部に端部が接続された第1のアーム部と、
前記第1のアーム部の端でない位置に端部が接続され、グラウンドに他の端部が接地された第2のアーム部と、
前記第1のアーム部の前記端部と異なる他の端部と前記グラウンドとの間に設けられ、インピーダンスを変更可能な可変インピーダンス部と、を有し、
前記第1のアーム部、前記第2のアーム部、前記可変インピーダンス部および前記グラウンドは、基板の同一面に形成されている、
ことを特徴とする無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−114643(P2011−114643A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269934(P2009−269934)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「立体構造新機能集積回路(ドリームチップ)技術開発/複数周波数対応通信三次元デバイス技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】