説明

アンテナ装置およびレーダ装置

【課題】 主アンテナから補助アンテナへの結合により、補助アンテナの放射パターン形状が一様では無くなり、アンテナの動作特性が劣化するという問題があった。
【解決手段】 主アンテナと補助アンテナの間のアンテナ構体上に、複数の導体片と、それぞれの導体片と裏面の地導体を接続するスルーホールからなるマッシュルーム構造を形成することで、主アンテナから補助アンテナへの結合量を低減し、補助アンテナの放射パターンを改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体に搭載されたレーダに用いられるアンテナ装置、およびそのアンテナ装置を備えたレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダは電波を放射して、その反射波によって目標の存在と、そこまでの距離を知るための無線装置であり、そのアンテナ装置には単一方向に鋭い指向性を有した主ビームが求められる。しかしながら、実際には、所望方向以外にもレベルの低い放射であるサイドローブが存在する。そのため、サイドローブ方向に地面や、海面等の大きな反射物が存在することで不要な電波(クラッタ)が発生し、目標からの信号がクラッタによって埋もれてしまったり、サイドローブ方向から妨害波が到来することで、目標検出が出来なくなる事態が発生する。
【0003】
このような問題を解決するための技術として、サイドローブブランカ(Sidelobe Blancker:以下SLB)や、サイドローブキャンセラ(Sidelobe Canceller:以下SLC)等の技術がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
SLBは、レーダの主アンテナとは別に、主アンテナのサイドローブより利得が高く、かつ主アンテナの主ビームより利得が低い補助アンテナを設けて、補助アンテナでの受信信号と主アンテナで受信した信号との振幅を比較することで、サイドローブから到来した信号を除去するものである。また、SLCは、レーダの主アンテナとは別に補助アンテナを設け、補助アンテナからの信号を用いて、妨害波到来方向のアンテナ感度を0とするようなパターン形成を自動的に行うものである。
【0005】
そのため、補助アンテナには、レーダの覆域を一様に覆う無指向性に使い放射特性が求められるので、主アンテナとは異なる別の部位に補助アンテナを搭載することが多い。しかしながら、移動体に搭載されたレーダでは、搭載部位の制約が大きいため、主アンテナとは別に補助アンテナを搭載することが困難である。
【0006】
このような、アンテナ装置における問題点を解決する別の手段として、主ビームを構成するアンテナ素子と同一の誘電体基板上に、ガードアンテナ(補助アンテナ)を設ける例が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Alfonso Farina著 「Antenna-Based Signal Procesing Techniques For Radar Systems」Artech House 1992 chapter 3,Chapter4
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平1−78968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に示す従来の技術では、主アンテナと同一開口上に補助アンテナを搭載することで、アンテナ装置の搭載性の向上を図っている。しかし、この方法では主アンテナの素子アンテナと補助アンテナの相互結合により、補助アンテナの放射パターン形状が一様では無くなり、SLBやSLCの特性が劣化する問題があった。
【0010】
以下、従来技術の問題点について更に説明する。図3は、従来の補助アンテナを用いたアンテナ装置の特性を示す図であり、(a)はアンテナ放射パターン特性図、(b)は主アンテナと補助アンテナの相互結合を説明する図である。図において、主アンテナを構成する素子アンテナ1と、補助アンテナ2とは、アンテナ構体3に搭載されている。
【0011】
目標から到来した電波は、素子アンテナ1または補助アンテナ2上に電流を励起し、この電流がアンテナからレーダ受信器に流れこむことで、受信される。しかしながら、素子アンテナ1上に励起された電流は、空間に電波を再放射し、その一部はアンテナ構体3に沿った表面波となって、補助アンテナ2で再受信される。
このような結合が配列、周波数の関係により、補助アンテナ2の本来の放射パターンと重畳され、補助アンテナ2の放射パターンにリップルを生じさせる場合がある。
【0012】
従って、従来の技術では補助アンテナの放射パターンにリップルが生じやすく、角度によっては補助アンテナの利得が主アンテナのサイドローブより低下してしまい、SLBやSLCが正常に動作しない問題点が発生する場合があった。
【0013】
この発明は係る課題を解決するためになされたものであり、補助アンテナの放射パターンのリップルを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明によるアンテナ装置またはレーダ装置は、主アンテナと、上記主アンテナと同一開口上の補助アンテナと、上記主アンテナおよび補助アンテナを搭載するアンテナ構体を備えたアンテナ装置において、上記主アンテナと補助アンテナの間のアンテナ構体上の表面に形成された複数の導体片と、上記それぞれの導体片と裏面の地導体を接続するスルーホールとからなるマッシュルーム構造を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、主アンテナと補助アンテナに挟まれたアンテナ構体の表面にマッシュルーム構造を設置することで、主アンテナから補助アンテナへ伝播する表面波を低減し、補助アンテナの放射パターンのリップルを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明に係る実施の形態1によるアンテナ装置の構成を示す図である。
【図2】実施の形態1によるマッシュルーム構造の動作を説明する図である。
【図3】従来の補助アンテナを用いたアンテナ装置の特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
図1は、この発明に係る実施の形態1によるアンテナ装置の構成を示す図であり、(a)はアンテナ装置の構成図、(b)はマッシュルーム構造部分の構成を示す断面図および上面図、(c)はアンテナ装置の特性を示す図である。図において、アンテナ装置は、主アンテナを構成する複数(N個以上、Nは2以上の整数)の素子アンテナ1と、1つもしくは複数(M個以上、MはNより小さい整数)の補助アンテナ2と、アンテナ構体3と、アンテナ構体3に形成されたマッシュルーム構造4とから構成される。複数の素子アンテナ1および補助アンテナ2は、アンテナ構体3上の同一開口面に形成される。補助アンテナ2は、主アンテナに対するSLBまたはSLC用のガードアンテナとして機能する。また、素子アンテナ1と補助アンテナ2の間には、マッシュルーム構造4が配置されている。
【0018】
マッシュルーム構造4は、誘電体基板上にエッチング技術や導体ペーストの印刷技術等を用いて形成されるものであり、スルーホール6を介して導体片5を地導体7に平傘形状に接続して、キャパシタンスとソレノイドによる高インピーダンス回路を構成したものである。導体片5、スルーホール6、地導体7は、素子アンテナ1および補助アンテナ2が配置される同一の誘電体基板上に構成されているが、素子アンテナ1が配置される誘電体基板上に、別の誘電体基板を積層することで、マッシュルーム構造4を設けても良い。
【0019】
導体片5は例えば正六角形状をなしており、導体片5における正六角形の斜辺が隣接する他の導体片5の正六角形の斜辺と対向するように配置されている。これによって、導体片5同士の配置間隔を調整することができるとともに、密度高く実装することができる。導体片5の配置間隔は一定の間隔とするのが良いが、インピーダンス特性を部分的に変化させるように、導体片5について複数種類の配置間隔を設定して、その配置間隔を部分的に変化させても良い。
【0020】
マッシュルーム構造4は、導体片5の種類、形状、大きさや配置間隔、スルーホール6の長さや径等に依存した特定の周波数において、表面波のインピーダンスを高くすることが可能な構造である。その詳細構造や動作は、例えば非特許文献2による。
【0021】
【非特許文献2】Dan Sievenpiper, Lijun Zhang,Roulo F. Jimenez Broas, Nicholas G. AlexopolousAnd Eli Yablonovitch "High Impedance Electromagnetic Surfaces witj a Forbidden Frequency band" IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques ,Vol. 47,No11,November 1999,PP2059-2074
【0022】
図2は、非特許文献2が示すような、マッシュルーム構造の動作を説明するための図である。図2に示すように、マッシュルーム構造4は、両面銅張り積層板の表面にエッチング等により形成された複数の導体片5と、それぞれの導体片5と裏面の地導体7を接続する、スルーホール6からなる複数のマッシュルーム状部から構成される。図2において、隣接するマッシュルーム状部の導体片5の縁が形成するキャパシタンス(C)と、マッシュルーム状部と地導体7が形成する電流経路によるソレノイド(L)が並列に接続された高インピーダンス回路が形成される。この高インピーダンス回路では、マッシュルーム構造の表面を伝播する表面波のインピーダンスが、概念的に次式で表現される。
【0023】
【数1】

【0024】
式1より、角周波数ωに関し、式2が成り立つ共振角周波数ωでは、表面波のインピーダンスZは非常に大きくなり、表面波は減衰する。
【0025】
【数2】

【0026】
従って、図1(a)、(b)に示すように、レーダの主アンテナを構成する素子アンテナ1と、補助アンテナ2との間に、マッシュルーム構造4を設置し、その共振周波数(共振角周波数ω)をレーダの動作帯域(或いは主アンテナの動作周波数帯域)とすることで、レーダの主アンテナの素子アンテナで受信した電波が再放射されても、素子アンテナ1と素子アンテナ2の間の表面波がマッシュルーム構造4によって抑制される。このため、主アンテナ(素子アンテナ1)から補助アンテナ2への結合量は低減され、図1(c)に示すように、補助アンテナ2による主アンテナの放射パターンの利得変動(リップル)は小さくなる。
【0027】
かくして、実施の形態1によるアンテナ装置によれば、補助アンテナの放射パターンに大きなリップルが生じにくくなり、補助アンテナの利得が主アンテナのサイドローブより低下しないため、SLBやSLCが正常に動作するという効果が得られる。
【0028】
この実施の形態1によるアンテナ装置は、アンテナ装置にて送信電波を放射し、その目標からの反射波を受信し、その受信信号を復調してレーダ信号処理することで、目標の存在と、目標の距離または速度を検出するレーダ装置に適用しても良い。これによって、補助アンテナの利得が主アンテナのサイドローブより低下することなく、クラッタや妨害波等の不要波の存在下でも、サイドローブにおいて到来した不要波の信号を除去したり、不要波の到来方向のアンテナ感度を0とするようなパターン形成を行う、ことが可能となる。
【0029】
なお、実施の形態1によるアンテナ装置では、マッシュルーム構造の表面のパターンは正六角形としたが、他の多角形や、丸型等の他の形状であっても、程度の差はあれその効果は同じである。
【符号の説明】
【0030】
1 (主アンテナを構成する)素子アンテナ、2 補助アンテナ、3 アンテナ構体、4 マッシュルーム構造、5 導体、6 スルーホール、7 (アンテナ裏面の)地導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主アンテナと、上記主アンテナと同一開口上の補助アンテナと、上記主アンテナおよび補助アンテナを搭載するアンテナ構体を備えたアンテナ装置において、
上記主アンテナと補助アンテナの間のアンテナ構体上の表面に形成された複数の導体片と、上記それぞれの導体片と裏面の地導体を接続するスルーホールとからなるマッシュルーム構造を形成したアンテナ装置。
【請求項2】
上記マッシュルーム構造は、上記補助アンテナのリップルを低減するように、上記主アンテナの動作周波数帯域で共振することを特徴とした請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
上記アンテナ装置を備えた請求項1または請求項2記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−172149(P2011−172149A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36007(P2010−36007)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】