説明

アンテナ装置

【課題】フロントガラス等の自動車内の誘電体板に設置されるアンテナ装置であって、アンテナ利得を低下させることなく薄型化が実現可能な低コストのアンテナ装置を提供する。
【解決手段】本発明のアンテナ装置1は、フロントガラス等の誘電体に近接して設置しても所定のアンテナ特性が得られるよう、下記の条件を満たす構成としている。図1において、放射素子2と地板3との距離をAとし、接着部6の表面である接着面7と地板3との距離をBとしたとき、
B≦λ/(2π) かつ A/B≦0.5 (1式)
なる関係を満たすよう、アンテナ装置1を構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載される無線装置用のアンテナ装置に関わるものであり、特に、室内ガラスに接着して車室外との情報通信を行うための無線装置に好適なアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車には、GPS(全地球測位システム)、VICS(道路交通情報通信システム)、DSRC(専用狭域通信)特にETC(有料道路自動料金収受システム)などの無線通信装置が搭載されるようになってきている。
【0003】
搭載される無線通信装置の増加とともに、アンテナ装置への小型化の要求が高まる一方、アンテナ装置の設置場所についても目立たない場所等への設置が行われるようになってきている。最近では、フロントガラス上の運転者が前方を視認する際に支障とならない場所、例えば室内後写鏡で遮へいされる範囲へのアンテナ装置の設置が積極的に行われている。
【0004】
しかしながら、フロントガラス等の車内の誘電体板に近接してアンテナ装置を設置すると、該誘電体板の影響を受けてアンテナ特性が劣化してしまうという問題があった。非特許文献1で規定されるような放射素子からλ/(2π)以内の極近傍領域(Reactive Near Field)では、顕著となる。そこで、特許文献1には、誘電率の異なる複数の誘電体を組み合わせることで、上記のようなフロントガラスの影響を回避する技術が記載されている。
【特許文献1】特開2005−033475
【非特許文献1】Richard C. Johnson著 「Antenna Engineering Handbook THIRD EDTION」P1-11 McGraw-Hill,Inc. 1993 ISBN 0-07-032381-X
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では下記のような問題があった。
特許文献1に記載の方法において、アンテナ装置を薄型化するためには、介在させる誘電体の誘電率を高くする必要があり、特殊な誘電体を用いることになってしまうため、コストアップの原因となっていた。
【0006】
また、誘電体を介在させること無く、従来構成のアンテナ装置をフロントガラスに近接して設置した場合には、放射素子がガラスの影響を受けて電波を所望の方角に放射させることができなくなり、アンテナ利得の低下やそれによる不要な電波の放射に繋がるという問題があった。
そこで、本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、フロントガラス等の自動車内の誘電体板に設置されるアンテナ装置であって、アンテナ利得を低下させることなく薄型化が実現可能な低コストのアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のアンテナ装置の第1の態様は、平面の放射素子とこれに平行な地板とからなる平面アンテナをレドムに収納し、前記平面アンテナに略平行な前記レドムの一方の面に接着面を設けて室内ガラスに接着し、少なくとも車室外から送信された電波を前記室内ガラスを介して受信する、あるいは車室内から前記室内ガラスを介して車室外へ電波を送信するアンテナ装置であって、前記放射素子と前記地板との距離をA、前記接着面と前記地板までの距離をB、前記平面アンテナの使用周波数における自由空間波長をλとしたとき、
B≦λ/(2π) かつ A/B≦0.5
なる関係を満たすよう構成され、かつ前記放射素子と前記地板との間が空気層で構成されることを特徴とするアンテナ装置である。
第2の態様は、前記平面アンテナが、円偏波の送受信に使用されることを特徴とするアンテナ装置である。
第3の態様は、前記平面アンテナが、専用狭域通信に使用されるアンテナであることを特徴とするアンテナ装置である。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように本発明によれば、室内ガラス上にアンテナ利得を損なわないような形態で平面アンテナを設置できるようになるため、アンテナ利得の優れた自動車搭載用のアンテナ装置を提供することができる。また、本発明のアンテナ装置は、放射素子と地板との距離を小さくした平面アンテナに好適なことから、アンテナ装置の薄型化、小型化が容易に実現可能となる。
さらに、本発明のアンテナ装置では、特殊な誘電体等を用いる必要がないため、低コストでアンテナ装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図面を参照して本発明の好ましい実施の形態におけるアンテナ装置の構成について詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
図1は、本発明の実施の形態に係るアンテナ装置の概略の構成を示す図である。本発明のアンテナ装置1は、放射素子2とこれに平行に配置された地板3からなる平面アンテナ4がレドム5の内部に収納された構造を有している。レドム5の表面のうち、平面アンテナ4に略平行でかつ放射素子2に近い面には接着部6(両面テープ等)が設けられており、接着部6の表面である接着面7がフロントガラス8に接着されて固定される構成となっている。
【0010】
図1のように構成されたアンテナ装置1は、フロントガラス8上の運転者が前方を視認する際の支障とならない位置に接着して固定される。アンテナ装置1の設置場所として、図2に示す室内後写鏡9で遮蔽される位置が好適である。フロントガラス8上の図2に示す位置に固定されたアンテナ装置1は、運転者から見て室内後写鏡9で遮蔽されているため、前方視認等の運転への影響を回避することができる。
【0011】
従来構成の平面アンテナをフロントガラスのごく近傍に配置した場合には、該平面アンテナの利得が大きく低下するといった問題があった。図1に示す本発明の平面アンテナ4は、従来構成の平面アンテナに見られる利得低下の原因を解明して、その対策を施したものである。従来構成の平面アンテナをフロントガラスに近接して配置したときの利得の低下は、以下のメカニズムに起因して生じている。
【0012】
一般に平面アンテナは、所望の周波数帯の中心波長λに対し、寸法がλ/2程度の大きさの平面状の放射素子と、該放射素子から電波を放射させる放射面とは反対側に配置された地板とから構成されている。該地板は、放射する電波に適合させた形状を有し、通常、対向する放射素子より大きい寸法で形成される。このような構成の平面アンテナでは、前記放射素子の外形寸法を調整することで、所望の周波数を得ることができる。
【0013】
しかし、アンテナ装置をフロントガラスなどの誘電体に近接して設置し、かつ該フロントガラスを透過して電波を放射させる場合には、前記アンテナ装置に内蔵されている放射素子を前記フロントガラスに極めて近接させてしまうことになる。このように、放射素子をフロントガラス等の誘電体に近接させると、誘電体による波長短縮効果により、該放射素子の大きさが自由空間に設置されているときよりも電気的に大きく見えてしまう。
【0014】
すなわち、一般的に誘電率εの誘電体中を透過する電磁波の波長は、自由空間波長λとした場合に、

【0015】
に短縮されることが知られている(波長短縮効果)。この効果により、前記放射素子が電気的に大きく見え、これが地板よりも大きく見える場合には放射素子の動作と地板の動作とが逆転してしまう。特にアンテナ装置の小型化のためなど、平面アンテナの地板の大きさがλ/2程度しか確保できない場合は、逆転が起き易い。
【0016】
上記の波長短縮効果により、平面アンテナを構成する放射素子と地板との寸法上の大小関係が電気的に逆転すると、放射素子として設計された導体板が地板として作用する一方、地板として設計された導体板が放射素子として作用してしまうことになる。その結果、前記平面アンテナはフロントガラスとは逆方向に電波を放射してしまい、本来放射させたい方向の利得が低下してしまう。これが、従来構成の平面アンテナをフロントガラスに近接して配置したときの利得の低下の原因であることが明らかとなった。
【0017】
そこで、図1に示した本発明のアンテナ装置1は、フロントガラス等の誘電体に近接して設置しても所定のアンテナ特性が得られるよう、下記の条件を満たす構成としている。図1において、放射素子2と地板3との距離をAとし、接着部6の表面である接着面7と地板3との距離をBとしたとき、
B≦λ/(2π) かつ A/B≦0.5 (1式)
なる関係を満たすよう、アンテナ装置1を構成している。
【0018】
(1式)より、本発明のアンテナ装置1は、フロントガラス8に設置されたとき、放射素子2と地板3とからなる平面アンテナ4から見てλ/(2π)以内の極近傍領域(Reactive Near Field)に誘電体であるフロントガラス8が位置するように構成されている。そして、放射素子2は、地板3とフロントガラス8との中間位置よりも地板3に近い位置に配置されるように構成されている。
【0019】
換言すれば、本発明のアンテナ装置1では、フロントガラス8からλ/(2π)以内の極近傍領域に平面アンテナ4を設置する極めて薄型のアンテナ装置が実現される。このような極薄型のアンテナ装置1を実現するために、放射素子2を地板3とフロントガラス8、すなわちアンテナ装置1に設けられた接着面7、との中間位置よりも地板3に近い位置に配置するようにしている。
【0020】
本発明のアンテナ装置1を、(1式)の関係を満たすよう構成したことによる効果を以下に説明する。なお、下記ではETCに適用されるアンテナ装置を対象とし、前記地板の大きさを約25×25mm、前記放射素子の大きさを約20×20mmとする。このとき、ETC(5.8GHz帯)の自由空間における中心波長λは約52mmであることから、(1式)よりB≦8.2mmとなる。
【0021】
アンテナ装置1をフロントガラス8に近接させた場合に、放射素子2と地板3とがそれぞれ所定の動作を行っているか、あるいは逆転させているかを下記のように評価することができる。
【0022】
まず、フロントガラス8に近接させない自由空間において所望の周波数帯(ETC帯)で動作する前記アンテナ装置に対し、前記アンテナ装置の放射素子の大きさを変更したときの周波数変化を評価した。具体的には、前記放射素子の大きさを1mmだけ変更したときの周波数変化を求めた。その結果を図3に示す。なお、ここでの周波数は、前記放射素子のインピーダンスが50Ωに最も近くなる周波数で規定する。
【0023】
図3では、前記放射素子と前記地板との距離Aを複数ケース変化させ、それぞれのケースにおける前記周波数変化をプロットしている。一般的に良く知られるように、自由空間においては、距離Aを変更しても前記周波数変化はほとんど変化しておらず、前記周波数変化は距離Aにほとんど依存しないと言える。
【0024】
次に、前記アンテナ装置をフロントガラス8に近接させたときの前記周波数変化を以下に説明する。
この場合、前記放射素子と前記地板との距離Aだけでなく、フロントガラス8と前記地板との距離Bも前記周波数変化に影響を与えると考えられることから、ここではA/Bをパラメータとし、A/Bの各値における前記周波数変化を評価している。その結果を図4に示す。
【0025】
図4は、フロントガラス8の厚さを4.7mm(通常のフロントガラス厚さは4mm〜6mm)、誘電率を5.5とし、前記放射素子と前記地板との間は空気層により構成された直線偏波パッチアンテナとしたときの結果である。
【0026】
図4において、グラフ12及び13は、それぞれB=2.6mm及びB=5.1mmのときの前記周波数変化を示している(ともに前記のB≦8.2mmを満たしている)。グラフ11及び12は、図3に示した自由空間における前記周波数変化と比較すると、A/Bの値が0.5を超えると前記周波数変化が小さくなることを示している。
【0027】
図3、図4より、フロントガラス8が無い場合には、前記放射素子の大きさを変更することによる前記周波数変化は、距離Aによらずほぼ一定となっているのに対し、フロントガラス8を近接させた場合には、A/Bの値が0.5を超えると前記放射素子の大きさを変更することによる前記周波数変化が小さくなることが分かる。
【0028】
すなわち、A/Bの値が0.5を超えると、前記放射素子の動作と前記地板の動作とが逆転し始めると考えられる。よって、フロントガラス8に近接させて平面アンテナを設置する場合には、A/Bの値が0.5以下になるようにアンテナ装置を構成する必要があることが明らかとなった。
【0029】
前記放射素子が地板として動作し始めているのを確認するために、A/B>0.5とした本発明の[適用外]のアンテナ装置(A/B=0.6)と、A/B≦0.5とした本発明のアンテナ装置(A/B=0.3)のそれぞれの指向性を調べた結果を図5に示す。同図において、角度0度が好ましいフロントガラス8の方向への指向性を表しており、角度180度がフロントガラスとは逆方向に電波が放射される指向性を表している。
【0030】
図5において、本発明の[適用外]のアンテナ装置の指向性21は、本発明のアンテナ装置の指向性22に比べて、角度180度で高くなっている。これは、本発明の[適用外]のアンテナ装置が有する放射素子が、地板として動作していることを示している。
【0031】
そこで、本発明のアンテナ装置1では、図1に示す通り、放射素子2と地板3とからなる平面アンテナ4をレドム5の内部に収納し、フロントガラス8に固定するための接着面7をレドム5の一面に設けている。そして、地板3と接着面7との距離Bに対する地板3と放射素子2との距離Aの比率A/Bが0.5以下となるように構成している。
【0032】
上記のように構成されたアンテナ装置1では、接着面7でフロントガラス8に固定させたときにも、上記のA/Bの値を0.5以下に維持することができる。その結果、フロントガラス8が平面アンテナ4の極近傍領域に位置するものの、所望のアンテナ利得を得ることができるようになる。
【0033】
本発明のアンテナ装置1は、放射素子2と地板3との間が空気層である平面アンテナに適用されるものであり、とくに、DSRC(専用狭域通信)用アンテナとして好適なアンテナ装置である。また、DSRCよりもさらに短波で使用される平面アンテナにも適用できるものである。
【0034】
本発明のアンテナ装置1に適用される平面アンテナ4の実施例を図6に示す。本発明のアンテナ装置1に適用される平面アンテナ4は、図6(a)に示す直線偏波の平面アンテナ31に加えて、図6(b)に示す切欠き部を有する1点給電型の円偏波の平面アンテナ32や、図6(c)に示す対角給電型の円偏波の平面アンテナ33にも適用可能である。
【0035】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係るアンテナ装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態におけるアンテナ装置1の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明のアンテナ装置の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図2は、本発明のアンテナ装置1の好適な設置場所の一つである室内後写鏡9で遮蔽される位置を示す図である。
【図3】図3は、自由空間において所望の周波数帯で動作するアンテナ装置に対し、放射素子の大きさを変更したときの周波数変化を示す図である。
【図4】図4は、厚さ4.7mm、誘電率5.5のフロントガラス8に、所定の直線偏波平面アンテナを近接して設置したときの周波数変化を示す図である。
【図5】図5は、A/B>0.5とした本発明の[適用外]のアンテナ装置と、A/B≦0.5とした本発明のアンテナ装置のそれぞれの指向性を示す図である。
【図6】図6は、本発明のアンテナ装置1に適用される平面アンテナ4の実施例を示す概略構成図である。図6(a)は直線偏波の平面アンテナ31、図6(b)は切欠き部を有する1点給電型の円偏波の平面アンテナ32、図6(c)は対角給電型の円偏波の平面アンテナ33をそれぞれ示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0037】
1・・・アンテナ装置
2・・・放射素子
3・・・地板
4・・・平面アンテナ
5・・・レドム
6・・・接着部
7・・・接着面
8・・・フロントガラス
9・・・室内後写鏡
11、12・・・フロントガラスに近接するときの周波数変化のグラフ
21・・・本発明の[適用外]のアンテナ装置の指向性のグラフ
22・・・本発明のアンテナ装置の指向性
31・・・直線偏波の平面アンテナ
32・・・切欠き部を有する1点給電型の円偏波の平面アンテナ
33・・・対角給電型の円偏波の平面アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面の放射素子とこれに平行な地板とからなる平面アンテナをレドムに収納し、前記平面アンテナに略平行な前記レドムの一方の面に接着面を設けて室内ガラスに接着し、少なくとも車室外から送信された電波を前記室内ガラスを介して受信する、あるいは車室内から前記室内ガラスを介して車室外へ電波を送信するアンテナ装置であって、
前記放射素子と前記地板との距離をA、前記接着面と前記地板までの距離をB、前記平面アンテナの使用周波数における自由空間波長をλとしたとき、
B≦λ/(2π) かつ A/B≦0.5
なる関係を満たすよう構成され、かつ前記放射素子と前記地板との間が空気層で構成されることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記平面アンテナは、円偏波の送受信に使用される
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記平面アンテナは、専用狭域通信に使用されるアンテナである、
ことを特徴とする請求項1から請求項2のいずれか1項に記載のアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−97084(P2007−97084A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286904(P2005−286904)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】