説明

アンテナ装置

【課題】移動体アンテナでは小型化だけでなく、活動範囲の拡大に伴い、アンテナ駆動範囲の拡大も必要とされてきている。小型化とアンテナ駆動範囲の拡大の両方を解決するには問題があった。
【解決手段】アンテナ反射鏡1をEL軸の周りに回転させるEL回転構造物3、EL軸に直交するクロスEL軸の周りにアンテナ反射鏡を回転させるクロスEL回転構造物9、およびEL軸とクロスEL軸に直交するAZ軸の周りにアンテナ反射鏡を回転させるAZ回転構造物15とからなり、EL軸とクロスEL軸とAZ軸の3軸は1点で交わる構成として、アンテナ全体の小型化を図ると共にアンテナの駆動範囲を拡大するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンテナの方向を変えるための回転駆動系を有するアンテナ装置、特に船舶などに搭載されて衛星を介して通信を行う移動体アンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の小型化アンテナ装置の構造として、X軸とY軸の2軸駆動方式があげられる。例えば、アンテナの回転軸となるX軸とY軸の2回転軸を同一平面内に配置し、かつ反射鏡を各軸回りに駆動させるための回転駆動機構を各軸回りに配置せず、アンテナ設置部(例えば、地上)に敷設されたX方向ガイドとY方向ガイド上を移動する移動装置にアンテナ反射鏡底部を接続して、或いはアンテナ設置部に配置されたX方向ワイヤー巻取装置とY方向ワイヤー巻取装置により引張られるワイヤーにアンテナ反射鏡底部を接続して、反射鏡を回転駆動させる機構とすることで、アンテナ装置の小型化、軽量化、駆動機構の簡易化を実現させている。(特許文献1参照)
しかしこのような装置では、駆動範囲が天頂方向まわりに限られる。また、2軸構成で駆動範囲の拡大を図る場合、キーホールの存在がモータ容量の増大につながり、小型化には不利となる。
【0003】
キ-ホールがなく、駆動範囲の拡大を実現させるために、AZ軸/EL軸/クロスEL軸の3軸駆動方式を採用したものも知られている。この3軸駆動方式のアンテナ装置は、アンテナ反射鏡をAZ(方位角)軸、EL(仰角)軸の回りに回転させる他、天頂付近を通過する衛星の高速追跡を一層容易にするために、EL軸に直交するクロスEL軸回りにも回転させる3軸回転型のアンテナ装置であり、各軸ともに直交するよう配置されている。しかしEL回転構造部はAZ回転構造部本体の横側に配置され、クロスEL回転構造部はEL回転構造部本体とアンテナ反射鏡の間に配置されるようになっており、クロスEL軸はAZ軸/EL軸の2軸からオフセット配置されている。(特許文献2参照)
【0004】
【特許文献1】特開平11−289210号公報
【特許文献2】特開2002−217632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、船舶用移動体アンテナでは小型化だけでなく、活動範囲の拡大に伴い、アンテナ駆動範囲の拡大も必要とされてきている。しかし、上述したような従来のアンテナでは、特許文献1のものは駆動範囲が天頂方向周辺に限られているため、駆動範囲の拡大が課題であり、また特許文献2のものはクロスEL軸がAZ軸/EL軸の2軸からオフセット配置のため、アンテナの小型化が課題であり、アンテナの小型化とアンテナ駆動範囲の拡大の両方を解決するには問題があった。
【0006】
この発明は、このような従来の課題を解決するもので、AZ軸/EL軸/クロスEL軸の3軸駆動方式のアンテナ装置において、小型化かつアンテナ駆動範囲の拡大が可能となるアンテナ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のアンテナ装置は、アンテナ反射鏡をEL軸の周りに回転させるEL回転構造物、EL軸に直交するクロスEL軸の周りにアンテナ反射鏡を回転させるクロスEL回転構造物、およびEL軸とクロスEL軸に直交するAZ軸の周りにアンテナ反射鏡を回転させるAZ回転構造物とからなり、EL軸とクロスEL軸とAZ軸の3軸は1点で交わる構成としたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、EL軸、EL軸に直交するクロスEL軸、EL軸とクロスEL軸に直交するAZ軸の3軸構成とすることで、キーホールなくアンテナの駆動範囲を拡大することが可能となる。さらに、EL軸とクロスEL軸とAZ軸の3軸を1点で交わるようにすることによりアンテナ全体の小型化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1におけるアンテナ装置を図に基づいて説明する。図1はこの発明のアンテナ装置の正面図、図2はアンテナ装置の側面図、図3はアンテナ装置のEL駆動機構の一部破断斜視図、図4はアンテナ装置のクロスEL駆動機構とAZ駆動機構の一部破断の斜視図を示す。
【0010】
図において、アンテナ反射鏡1の底部には電波を送受信する電子機器を収納した電子機器筐体2が取り付けられている。電子機器筐体2の外周にはそれを囲むようにアンテナ反射鏡1に固定されたリング状のEL回転構造物3が設けられている。
EL回転構造物3はEL軸シャフト4に固定され、EL軸シャフト4はEL軸Aの周りに回転するようになっている。EL軸シャフト4はEL用軸受5を介してEL軸Aに直交するクロスEL軸Bの周りにアンテナ反射鏡1を回転させるクロスEL回転構造物9に支持されている。EL回転構造物3の外周面には円弧形状のEL駆動用旋回ギア6が取付けられている。クロスEL回転構造物9の円弧形状の底部内周面側にはEL駆動用モータ7(図1参照)が取り付けられ、このEL駆動用モータ7の小歯車8によりEL駆動用旋回ギア6を回転させる。EL駆動用旋回ギア6の回転によりEL回転構造物3をEL軸Aの周りに回転させ、アンテナ反射鏡1をEL(仰角)方向に指向させる。
【0011】
クロスEL回転構造物9はEL回転構造物3の駆動範囲を妨げないようにアンテナ反射鏡1側の上端部が切り欠けられた切欠部を有した円弧形状に形成され、この円弧形状の中心はEL軸Aに直交し、その交点が1点となるクロスEL軸Bとなる。円弧形状のクロスEL回転構造物9は円弧形状のEL駆動用旋回ギア6とその円弧が直交するように配置される。クロスEL回転構造物9の円弧形状の両側面にはRガイドと称するガイド部10が設けられている。このガイド部10はレール10aとブロック10bとで構成され、レール10aはクロスEL回転構造物9の円弧形状全長に沿って配置され、ブロック10bはAZ回転構造物15に固定された台形状の支持構造物11に固定され、レール10aを挟み込むようにしてレール10aを支持している。したがって台形状の支持構造物11はガイド部10を介してクロスEL回転構造物9を支持し、クロスEL回転構造物9は台形状の支持構造物11を介してAZ回転構造物15に支持される。クロスEL回転構造物9の円弧形状の一側の外周面にはクロスEL駆動用旋回ギア12が取り付けられ、またAZ回転構造物15にはクロスEL駆動用モータ13(図2参照)が固定されている。このクロスEL駆動用モータ13の小歯車14によりクロスEL駆動用旋回ギア12を回転させることにより、クロスEL回転構造物9をクロスEL軸B周りに回転させ、アンテナ反射鏡1をクロスEL(仰角)方向に指向させる。
このようにEL軸Aに直交するクロスEL軸Bの回転機構は、EL回転駆動範囲を狭めないようクロスEL軸上に配置しないで、AZ回転構造物15側に配置している。
【0012】
AZ回転構造物15と架台17はAZ駆動用ギア付旋回ベアリング16を介して接続されており、AZ駆動モータ18により360°連続回転が可能となっている。即ち、AZ回転構造物15にはAZ駆動用ギア付旋回ベアリング16の内輪が接続され、架台17にはAZ駆動用ギア付旋回ベアリング16の外輪に接続され、AZ回転構造物15はAZ駆動用ギア付旋回ベアリング16によって架台17に回転自在に支持されている。AZ駆動モータ18はAZ回転構造物15に支持固定されており、AZ駆動モータ18の駆動により小歯車19がAZ駆動用ギア付旋回ベアリング16の外輪に噛み合って回転し、それによってAZ回転構造物15がAZ駆動用ギア付旋回ベアリング16の内輪と共に回転する。AZ回転構造物15はAZ軸Cの周りに回転し、アンテナ反射鏡1をAZ(方位角)方向に360°指向させる。このAZ回転構造物15の回転中心となるAZ軸CはEL軸AとクロスEL軸Bと直交し、EL軸AとクロスEL軸BとAZ軸Cの交点Dは1点で交わるようになっている。
【0013】
アンテナ反射鏡1、EL回転構造物3、クロスEL回転構造物9、AZ回転構造物15、およびそれらの回転駆動機構は全てレドーム20により覆われ、全天候から保護されるようになっている。またアンテナ反射鏡1には副反射鏡21とホーンアンテナ22が取り付けられている。
【0014】
上記構成において、その動作を簡単に説明する。今、AZ駆動モータ18を駆動すると、AZ駆動モータ18−小歯車19−AZ駆動用ギア付旋回ベアリング16を介してAZ回転構造物15がAZ軸Cの周りに回転する。このAZ回転構造物15は支持構造物11−ガイド部10を介してクロスEL回転構造物9を支持しており、またクロスEL回転構造物9はEL用軸受5−EL軸シャフト4を介してEL回転構造物3を支持している。更にEL回転構造物3にはアンテナ反射鏡1が取り付けられている。したがってAZ駆動モータ18の回転により、AZ回転構造物15、クロスEL回転構造物9、EL回転構造物3およびアンテナ反射鏡1が同時にAZ軸Cの周りに回転する。
【0015】
この状態で、EL駆動用モータ7を回転駆動すると、EL駆動用モータ7−小歯車8−EL駆動用旋回ギア6を介してEL回転構造物3をEL軸Aの周りに回転させ、アンテナ反射鏡1が同時にEL軸Aの周りに回転する。更にこの状態で、クロスEL駆動用モータ13を回転駆動すると、クロスEL駆動用モータ13−小歯車14−クロスEL駆動用旋回ギア11を介してクロスEL回転構造物9をクロスEL軸Bの周りに回転させ、アンテナ反射鏡1が同時にクロスEL軸Bの周りに回転する。
こうして、アンテナ反射鏡1をAZ(方位角)、EL(仰角)、クロスELの全方向に向けて指向させることができ、衛星の追尾性能が向上する。
【0016】
このようにこの発明の実施形態1によれば、EL軸とこのEL軸に直交するクロスEL軸とEL軸およびクロスEL軸に直交するAZ軸の3軸構成にすることでアンテナの駆動範囲を拡大すると共に、EL軸とクロスEL軸とAZ軸の3軸を1点で交わる構成にすることで、アンテナ全体の構成を小型化することができる。
また、クロスEL軸上に駆動機構を配置させないようにすることで、EL軸駆動機構の駆動範囲を狭めることはなくなり、またクロスEL駆動範囲を拡大することが可能となる。
【0017】
また、EL回転構造物を支持するクロスEL回転構造物をクロスEL軸まわりに描かれる切欠部を有する円弧形状とし、この円弧形状の側面にはガイド部を設け、このガイド部を介して円弧形状のクロスEL回転構造物をAZ回転構造物に支持することで、クロスEL軸駆動機構がEL駆動範囲を狭めることなく、かつクロスEL駆動範囲を拡大することが可能である。クロスEL駆動範囲を拡大することで天頂付近での衛星追尾においてAZ駆動モータの容量が軽減でき、小型化につながる。
また、アンテナ反射鏡の裏側にスペースが形成できるため、アンテナ送受信のロス削減のために送受信機を放射系に近づけて配置することも可能であり、反射鏡の裏に給電系や電子機器を搭載するアンテナ装置には特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態1におけるアンテナ装置の正面図を示す。
【図2】この発明の実施の形態1におけるアンテナ装置の側面図を示す。
【図3】この発明の実施の形態1におけるアンテナ装置のEL駆動機構を一部破断した斜視図を示す。
【図4】この発明の実施の形態1におけるアンテナ装置のクロスEL駆動機構とAZ駆動機構を一部破断した斜視図を示す。
【符号の説明】
【0019】
1:アンテナ反射鏡 2:電子機器筐体
3:EL回転構造物 4:EL軸シャフト
5:EL用軸受 6:EL駆動用旋回ギア
7:EL駆動モータ 8:小歯車
9:クロスEL回転構造物 10:ガイド部
11:支持構造物 12:クロスEL駆動用旋回ギア
13:クロスEL駆動モータ 14:小歯車
15:AZ駆動構造物 16:AZ駆動用ギア付旋回ベアリング
17:架台 18:AZ駆動モータ
19:小歯車 20:レドーム
21:副反射鏡 22:ホーンアンテナ
A:EL軸 B:クロスEL軸
C:AZ軸 D:EL軸とクロスEL軸とAZ軸の交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ反射鏡をEL軸の周りに回転させるEL回転構造物、前記EL軸に直交するクロスEL軸の周りに前記アンテナ反射鏡を回転させるクロスEL回転構造物、および前記EL軸とクロスEL軸に直交するAZ軸の周りに前記アンテナ反射鏡を回転させるAZ回転構造物とからなり、前記EL軸とクロスEL軸とAZ軸の3軸は1点で交わる構成としたアンテナ装置。
【請求項2】
クロスEL回転構造物は、アンテナ反射鏡側の上端が切欠けられた、クロスEL軸を中心とする円弧形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
クロスEL回転構造物は、クロスEL軸を中心とする円弧形状に形成され、この円弧形状に沿ってガイド部が設けられ、このガイド部を介して前記クロスEL回転構造物はAZ回転構造物に支持されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
クロスEL回転構造物の円弧形状の外周面にクロスEL駆動用旋回ギアが形成され、このクロスEL駆動用旋回ギアをAZ回転構造物に固定した駆動用モータで回転させることにより、前記クロスEL回転構造物をクロスEL軸周りに回転するようにした請求項2または請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
円弧形状のクロスEL軸回転構造物を挟みこむようにしてAZ回転構造物に固定された支持構造物を設け、この支持構造物で前記クロスEL回転構造物に設けられたガイド部を保持することにより、前記クロスEL回転構造物をAZ回転構造物に支持させるようにした請求項2乃至請求項4のいずれか1つに記載のアンテナ装置。
【請求項6】
EL回転構造物はリング形状に形成され、このリング形状のEL回転構造物に固定されたEL軸シャフトを介して、クロスEL軸回転構造物に回転自在に支持されていることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1つに記載のアンテナ装置。
【請求項7】
EL回転構造物の外周部に円弧形状のクロスEL回転構造物と直交するように円弧形状のEL駆動用旋回ギアを設け、このEL駆動用旋回ギアを前記クロスEL回転構造物に固定した駆動用モータで回転させることにより、前記EL回転構造物をEL軸周りに回転するようにした請求項6に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
アンテナ反射鏡による電波の送受信を行う電子機器をEL回転構造物のリング形状の内側に設けた請求項6または請求項7に記載のアンテナ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−219233(P2008−219233A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51187(P2007−51187)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】