説明

アンビギティー検知式周波数偏位変調

距離範囲検知装置は、マイクロ波信号を送信するようになされた送信機(4)、及び目標から反射した、送信信号の一部に対応するエコー信号を受信する受信機(4)と、前記送信信号を発生するために前記送信機(4)に供給される駆動信号を発生する信号発生手段(2)であって、信号発生手段の発生する駆動信号には、少なくとも2つの周波数を含む第1の信号フレーム(300a)と少なくとも2つの周波数を含む第2の信号フレーム(301a)が含まれており、前記第2の信号フレーム(301a)は前記第1の信号フレーム(300a)と異なる信号発生手段(2)と、前記送信信号と共に前記エコー信号を処理して前記エコー信号を発生した目標までの距離を決定するプロセッサ(11)を備える。本装置は、自動車の、代表的には車間距離制御(ACC)機能における周波数偏位変調(FSK)レーダーに特に適している。本装置は距離測定のアンビギティーを低減可能である。アンビギティーを低減する対応方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーダーシステムにおける距離測定のアンビギティーを除去する装置に関し、特に、連続波周波数偏位変調(FSK)レーダーに関する。
【背景技術】
【0002】
FSKを用いたレーダー式距離測定は、低コストで製造可能であり、良好な距離分解能が求められる用途に適している。例えば、適応巡航制御(ACC)関連機能として自動車のレーダーに使用されている。レーダーはACCシステムが取り付けられたホスト車両と先行する目標車両間の距離を検知し、ACCは、車両のエンジン制御装置やブレーキ制御装置に信号を送って障害物から車両の安全距離を保つ。
【0003】
どのレーダーシステムにおいても、信号は車両に取り付けられた送信機から送信された後、障害物で反射して車両に取り付けられた検知器に戻される。反射信号の飛行時間が距離測定を提供する。送信信号と反射信号間のドプラーシフトを時間に関して測定することにより、ホスト車両と目標車両の相対速度が決定される。
【0004】
飛行時間は、送信とエコー受信間に発生した送信信号のサイクル数を計数することにより算出される。レーダーで使用する相対的に高い周波数、車両誘導システムのための経路長が1Kmまたは1Km以上にも及ぶ場合、この方式はサイクル数が非常に高くなるため実用的でない。また、信号の送信が連続して行われる場合、何サイクルを通過したかを識別することができない。
【0005】
FSKレーダーシステムは別の方式を提供する。期間の短い少なくとも2つの異なる周波数を含む信号が送信され、これにより、これらの異なる周波数の2つのバーストをまた含んだエコーが発生する。次に、各周波数において送信信号と反射信号の相対位相が測定される。2つの位相差を比較することにより、広範囲の距離に亘って距離値を決定することができる。この場合、サイクルの絶対数は重要ではない。異なる周波数の送信は反復して行われ(周波数の各グループは「フレーム」と呼ばれる)、フレーム毎に距離測定が行われる。
【0006】
既知の一形態として、1つの送信機を使用して設定周波数の搬送信号が送信され、この設定周波数は反復したシーケンスのフレームを発生するように変調される。各フレームは一連のステップからなり、各ステップは所与の周波数の連続信号である。
【0007】
エコー信号の測定は、各ステップにおける同一点で、典型的には各ステップの終りの方で行われ、そのステップの送信信号の位相と比較される。次に、フレーム内でステップ毎に行われた位相測定は比較されて距離が決定される。
【0008】
目標距離が長くなるにつれ、送信/エコー信号は、パイラジアンだけ位相が異なる点まで位相が外れてドリフトするであろう。したがって、2つの送信/エコー信号は、今は同相にある。距離が長くなると、再び、位相が外れてドリフトする。
【0009】
明らかなように、レーダーシステムから目標車両までの距離が、全周波数の送信信号とエコー信号間の360度位相シフトに相当する距離以上になると、距離を明白には決定し得なくなる。
【0010】
2以上の異周波数を使用すればレンジが明瞭に決定可能になる距離を拡張することはできるが、装置のコストや複雑さが増大する。
FSKレーダーシステムの1つの問題として、目標までの距離が遠くなると、あるフレーム内の1つの周波数バーストに対応するエコー信号は、そのフレームにおける後続周波数を送信するステップ期間中に受信されることになる。これにより位相の比較が不可能になるため、エラー信号を発生して距離を決定できないことを示す必要がある。さらに問題なのは、あるフレーム内の周波数バーストに基づいたエコーが、後続フレームでの同一周波数の送信中に受信されるケースである。これがフレームの全ステップで発生した場合(全てが時間的に1全フレームかそれ以上シフトした場合)、エコーを発生したフレームを特定することは不可能になる。のみならず、そのようなエラーが発生したことを知るすべもない。
【0011】
この問題に対する既知の一手法は各フレーム長を長くすることであるが、これにより距離測定が行われるレートが減少する。また、ドプラーシフトを決定するために行われるサンプするレートも、1フレーム当たりのサンプル数は1個に限られることから、低下する。したがって、フレーム継続時間を長くすることは望ましいとは考えられない。
【0012】
このアンビギティーの問題に対する別法は、戻り信号の振幅を考慮することである。近い目標から戻ったエコー信号の強度は遥かに遠距離の目標から戻ってきたエコーの強度より十分に大きいと考えてよい。これにより、微弱なエコー信号は除去される。残念ながら、これが有効なのは、検知すべき対象の断面積が似通っている場合に限られる。遠距離にあるトラックからは、近距離のオートバイ乗りと同程度の信号が戻ってくるであろう。したがって、ある程度のアンビギティーは依然として残る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的はこの問題を改善する装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の側面に基づいて本発明は、
マイクロ波信号を送信するようになされた送信機、及び目標から反射した、送信信号の一部に対応するエコー信号を受信するようになされた受信機と、
前記送信信号を発生するために前記送信機に供給される駆動信号を発生するようになされた信号発生手段であって、信号発生手段の発生する駆動信号には、少なくとも2つの周波数を含む第1の信号フレームと少なくとも2つの周波数を含む第2の信号フレームが含まれており、前記第2の信号フレームは前記第1の信号フレームと異なっている信号発生手段と、
前記送信信号と共に前記エコー信号を処理して前記エコー信号を発生した目標までの距離を決定するようになされたプロセッサと、
を有することを特徴とする距離範囲検知装置を提供する。
【0015】
前記第1と第2のフレームは、第1の周波数の信号のバーストと、後続する第2の異なる周波数の信号のバーストを含んでもよい。また、第3の周波数または追加周波数のバーストを有してよい。事実、各フレームは5つの周波数バーストを有することが最適である。信号の「バースト」とは、フレームの持続時間より少ない持続時間もつ周波数の短い持続時間であることを意味する。各バースト内において周波数は連続的に送信されてよい。
【0016】
さらに、装置は、簡単なサイン波などの搬送波を発生する手段と、前記搬送波をフレーム繰返し数の1/2のレートで変調して、前記第1と第2のフレームを含む駆動信号を発生する手段を有してよい。搬送波の変調手段は、例えば電圧制御発振器のように、搬送波と合成される変調信号を発生する波形発生器を有してよい。
【0017】
フレーム内において、周波数の各バーストはその前に送信された周波数と異なると共にその後で送信される周波数とも異なってよい。したがって、フレーム内のバースト間で周波数は階段状に変化することになる。しかしながら、少なくとも本発明の一実施形態の範囲内として、フレーム内で順次送信される2つのバーストは同一周波数であってよい。
【0018】
特に好適な形態において、前記第1のフレームは第1、第2及び第3の周波数A、B及びCを有し、前記第2のフレームは前記第1及び第2の周波数A及びBを有するが前記第3の周波数Cは有さない。前記第3の周波数に代え、第4の異なる周波数Dが使用されるか、前記第1または第2の周波数AまたはBが繰り返される。
【0019】
代替として、1つの周波数を省略する代わりに、前記第1と第2のシーケンスは同一の第1、第2及び第3の周波数を含んでも良いが、周波数の2つが第2のフレームに送信される順序は、第1のフレームと異なり、3つの周波数のうち異なる対が送信される順序は、第1のフレームと第2のフレームに対し同じになる。例えば、第1のフレームは、A、B、Cの順に送信される周波数A、B、Cを有し、第2のフレームはB、A、Cの順に送信される周波数B、A、Cを有する。2対の周波数が第1のフレームで送信され、同じ2対の周波数が第2のフレームでも送信されるが、2対うち1対の順序が第1のフレームと比較して第2のフレームで逆になるこの方式は特に有効である。
【0020】
勿論、これらの形態のそれぞれについて、フレーム当たりの送信周波数は3より多くあってよい。一形態において、各フレームは同一の順序で送信される、同一の4つの周波数A、B、C、Dを含み、第1のフレームのある位置で第5の周波数Eが送信され、この第5の周波数は、第2のフレームの同じ位置に送られる、異なる周波数Fと対応している。第1と第2のフレームで異なる周波数のバーストは各フレームシーケンスの終端または始端であってよい。
【0021】
前記プロセッサは、エコー信号部分の周波数とエコー部分受信時の送信信号部分の周波数との間の相対位相を比較するようになされた位相決定手段を有してよい。これは、各フレーム内の各送信周波数バースト内で、好適には各周波数バーストの終端側で少なくとも1回サンプルを取ることにより行われる。
【0022】
エコーサンプルと前記送信信号の比較の結果、意味のある位相差が得られない場合に、エラーフラグを立てるエラー信号発生手段があってもよい。
さらに装置は、前記位相差決定手段の決定した位相差のうち少なくとも2つを対として組み合わせてエコー信号を発生した目標までの距離を決定する手段を有してよい。フレーム内における各周波数バーストとその隣または他の周波数バースト毎に、対が得られる。例えば、各フレーム内で3つの周波数A、B、Cが送信される場合、送信信号とエコー信号間の位相差の組合せとして、全部で3通り、すなわち、A−B、B−C、C−Aがある。勿論、全ての組合せを生成する必要はなく、実際には、1フレームから1対を得るだけで距離測定には十分である。
【0023】
前記第1のフレーム内で、エコー/送信周波数サンプルの対から決定された距離と、前記第2のフレーム内で、エコー/送信周波数サンプルの対応する対に基づいて決定された距離を比較するようになされた比較手段を有してよい。この比較の結果、少なくとも1対について、第1のフレームから決定した距離と第2のフレームから決定した距離との間に差が認められた場合、プロセッサは、装置から目標までの距離が長すぎてフレーム内で受信したエコー信号が実際には前のフレームで送信した信号に対応していることを示す出力を生成してよい。
【0024】
全ての対について同一の距離推定値が示された場合、プロセッサは、装置から目標までの距離が十分に短くてフレーム内で受信したエコー信号が実際に同一フレームで送信した信号に対応していることを示す出力を生成してよい。これにより、先行FSK技術で発生していたアンビギティーが克服される。
【0025】
前記第1と第2のフレームは連続的に、交互に、すなわち、第1のフレーム、第2のフレーム、第1のフレーム、第2のフレーム等の反復シーケンスで送信されてよい。
さらに前記プロセッサは送信フレームの平均周波数とエコーフレームの平均周波数を比較して装置とエコー信号を発生した目標の相対速度を表すドプラー信号を時間に関して発生してよい。
【0026】
第1のフレームの平均周波数と第2のフレームの平均周波数を同一にして、フレーム毎に取り出したサンプルに基づいて1つのドプラー信号が生成されるようにすることが好ましい。これは、例えば、第2のフレームに対して第1のフレームにおける2つの周波数バーストの順序を入れ替えるだけで確保される。
【0027】
1以上の周波数が第1のフレームと第2のフレームとで異なるために平均周波数が第1のフレームと第2のフレームで異なる場合、プロセッサは、第1のフレーム中または第2のフレーム中で取り出したサンプルのみを用いてドプラー信号を生成してよい。
【0028】
改良として、第1のフレームの平均周波数に対応するサンプルから1つのドプラー信号が決定されると共に第2のフレームの平均周波数に対応するサンプルからもう1つのドプラー信号が決定されるようにして、2つのドプラー信号が決定されてよい。
【0029】
また、本出願人の認めるところによれば、戻りエコーの飛行時間がフレーム内の各周波数バーストの持続時間より長いときに発生する距離のアンビギティーを除去する手段としてドプラー信号を利用することが可能である。目標が遠くにあって送信した周波数が次の周波数の送信時間中に受信されるような場合、見掛けのドプラー周波数にシフトが発生する。
【0030】
ドプラー周波数を決定するためのサンプルが、エコー信号の非変調部分に対応するポイントで取り出された場合、1つのドプラーピークのみが観察されることになる。ドプラー周波数を決定するためのサンプルが、エコー信号の変調部分に対応するポイント(すなわち、エコー信号は、サンプルの取り出し時に、第1のフレームと第2のフレーム間で異なる周波数ステップに対応している)で取り出された場合、ドプラー信号自体がフレーム繰返数の1/2で変調されることになる。これがサンプリングレートの1/2を越えると、2つのドプラー信号が生成され、1つはサンプルレートの1/2にドプラー周波数を加えて生成され、他方はサンプリルレートの1/2からドプラー周波数を減じて生成される。ナイキストにより、後者のピークはミラーされ、実際に、実ドプラー周波数で現れる。
【0031】
前記プロセッサは、前記ドプラー信号における第2のピークの存在を検知し、第2のピークが検知された場合に、前記エコー信号を発生した目標が遠距離の目標であること、または近距離範囲にあることを示すようになされた検知手段を有してよい。近い距離範囲とは、対象からのエコー信号の飛行時間が1バーストまたは1ステップより短いことを意味し、遠とは持続時間がそれより長いことを意味する。プロセッサは、ドプラー信号に「エイリアス」ピークが存在していなければ、それは近い対象であると決定してよい。
【0032】
装置は、フレーム内の異なる周波数バーストの間に取り出したサンプルからドプラー信号を生成しても良い。例えば、各フレームが周波数A、B、C、Dの4つの周波数バーストで構成される場合、ドプラー信号は各フレームのバーストAからのサンプル、バーストBから別のサンプルから構成される。事実、4つのサンプルは各バーストに対応して1つを取り出してよい。各ドプラー信号は、エイリアスドプラー信号の存在について調べられる。装置がフレーム間で第1のバーストを変調している場合、第2のバーストに対応するサンプルに存在するゴーストは、飛行時間が1バーストより長いが2バーストよりは短いことを示す。第3のバーストにおいてドプラー信号にゴーストが存在する場合、2バーストと3バースト間の飛行時間を示し、以下各ドプラー信号に対しても同様である。
【0033】
搬送波周波数と合成された際に、第1及び第2のフレームの各「バースト」用周波数として送信機に供給される信号を発生するようになされた信号発生器により、送信機を駆動してよい。信号発生器は異なる周波数の反復フレームを供給する局部発振器を有してよい。
【0034】
第2の側面に基づいて、本発明は、搬送波周波数が送信され、かつ第1と第2のフレームのシーケンスが送信されるように前記搬送波周波数が変調される種類のレーダー装置における距離のアンビギティーを除去する方法において、
a)最初に、少なくとも2つの異なる周波数のシーケンスを含む第1のフレームを送信し、
b)続いて、少なくとも2つの異なる周波数を含む第2のフレームを送信し、第2の信号は第1の信号と異なり、
c)目標で反射された前記送信信号に対応したエコー信号を受信し、
d)前記エコー信号を前記送信信号と共に処理して前記目標までの距離を決定する、
方法を提供する。
【0035】
方法は前記第1及び第2のフレームを反復して、好適には次々と連続的に送信するステップを有してよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1aは、代表的なFSKレーダーにおいて、近くに目標がある場合の送信波形及び受信波形を時間関数として示したものである。この実施形態において、レーダーは4つの周波数ステップないしバーストF1〜F4を順次、それぞれ2.5マイクロ秒の持続時間送信する。一般にフレームと知られるこのシーケンスは10マイクロ秒毎に連続して繰り返される。レーダーが比較的近い目標に向いている場合、反射エコー信号部分の飛行時間Tf1は短く、受信エコーの周波数はそれを発生した、対応する送信信号の周波数と重なる。
【0037】
遥かに遠距離の場合、エコーの飛行時間Tf2は遥かに長くなり、ことによると、近い対象よりも1全フレーム受信が遅れているにも関わらず、受信エコー信号は近い対象に対する波形に酷似した波形を与えるように見える。このケースの送信信号と受信信号は図面の図1bに示される。
【0038】
よく知られているように、周波数の異なる2つの信号が同じ目標で反射した場合、両者に異なる位相シフトが発生し、受信信号間に に等しい位相差が発生する。ここに、cは光速であり、F1/F2は2つの送信周波数である。したがって、目標距離Dは次の関係式で推定される。
D = c/Δf Δψ/ 2π ここに、Δf = (F2− F1)
しかしながら、目標距離が長くなっていくと、あるステップで受信されるどのエコー信号もそのステップと同一の周波数で送信されたものではないようなポイントに達し、前記関係は成り立たなくなる。
【0039】
図2はこの方式に従ってレーダーはどのように目標までの距離を知らせるかを示す。距離Daより近い目標については、各ステップでエコー信号の一部にそのステップと同一の周波数の信号が含まれ、前記関係式(1)は成り立つ。これより遠くなると、各ステップの送信周波数は同一でなくなり、チャンネル間の位相差が混乱し、正しくない距離を通知することになる。これは図2にアンビギティー領域1として示される。
【0040】
一旦、飛行時間がフレーム周期を越えると、各エコー測定は近い対象から受信したものと同様なものが現れ始める。この理由は、実際には1全フレームだけ前に送信された信号から生じたエコーなのであるが、所与のステップで受信したエコー周波数がそのステップの周波数と同一になるからである。これが図2のアンビギュアス領域A2である。
【0041】
本発明はこのアンビギティーを克服する方法を提供するものである。
図4に示すように、本発明の第2の側面に基づいた装置の一実施形態は、車両の前部に固定され、車両の前方へ制御ビームの信号を送信する送信機及び受信機を備える。実用的な実施形態では、1つのアンテナ4で送信機と受信機の機能を兼用してよい。
【0042】
アンテナは、波形発生器1から発生する電圧信号に応じて周波数列を発生する電圧制御発振器2の出力で駆動される。この周波数列は周期的であり、交互に発生する2個のフレームを有し、各フレームは等しい持続時間の4つの連続ステップまたはバーストからなる。キーとなる特徴は、第1と第2のフレームは、含まれる周波数が異なるか、あるいは送信順序が異なるか、あるいは両者が異なっている。フレームは、特徴として、フレーム送信レートの2倍の周期性を有するが、フレーム送信レートで周期性は有さない。
【0043】
第1と第2のフレームで発生する周波数の可能な周波数―時間プロットが図面の図3a、3b、3cに示される。図3a、3b、3cにおいて同様な要素には同一の番号に添え字「a」、「b」、「c」がそれぞれ付けられている。周波数はy軸に沿って増加し、時間はx軸に沿って増加する。送信信号は、77GHzベースから代表的に250kHzステップで周波数が増加する、4つの異なる周波数ステップ310、312、314、316を含む。
【0044】
図3a、3bにおいて、第1のフレーム300a/bは、4つの周波数310、312、314、316を介して順次、周波数が増加する4つのステップ320a/b、322a/b、324a/b、328a/bからなる。第2のフレーム301a/bの周波数のシーケンスが2つの例で異なっている。
【0045】
図3aの方式の場合、第2のフレーム301aの最初の2つのステップ330a、332aは、それぞれ、周波数312、310をもつために周波数において逆になるように、第1のフレーム300aに比べて逆になっている。第1及び第2のフレームの双方でステップF3、F4からの情報を使用して距離測定が行われる場合、依然としてアンビギティーが残る。しかしながら、ステップF1、F2における情報を使用して同様な測定を行えば、目標への距離がレーダーに近くにあるか、あるいはアンビギティー領域2にあるかを区別できる。近い目標では、第1と第2のフレームからの結果はアンビギティー領域2に一致し、その結果は符号が逆になる。
【0046】
図3bに示す代替方式の場合、第2のフレーム301bの第2のステップ332bは第1のステップ330bと同一の周波数310で続いている。このため、周波数310が第1のフレーム300bにおける期間の倍に亘り送信される一方で、周波数312は完全に省略される。これにより、図3aではステップF3とF4のみなのに対して、3つのステップF1、F2、F3が距離測定に使用される。但し、第1と第2のフレームの平均送信周波数は異なることになる。
【0047】
図3cにさらに別の代替方式が示される。この方式の場合、第1と第2のステップの双方にステップF0が追加され、このステップの周波数は、第1のフレームと第2のフレームで異なっていて、フレーム繰返し数の丁度1/2で変調されることになる。したがって、第1と第2のフレームの双方について、全ての4ステップF1〜F4が距離測定に使用可能になる。
【0048】
全ての3ケースにおいて、フレーム300a/b/c、301a/b/cは波形発生器の制御の下に、発振器から交互に、反復して発生する。
発振器2から発生した信号は、発振器の出力をサーキュレータ3に渡すことにより送出される。サーキュレータ3は3つのポート3a、3b、3cを有する。各ポートに入力された信号は、3a、3b、3c、3aの順で、次のポートへ渡される。したがって、発振器2の出力はサーキュレータ3のポート3aに入力され、ポート3bから出力される。ポート3bはアンテナ4に接続されている。アンテナ4はサーキュレータ3のポート3bの出力を送信すると共に、送信信号のエコーを受信する。
【0049】
受信信号はサーキュレータ3のポート3bに入力され、ポート3cに伝えられる。次に、受信信号はミキサ5で送信信号と混合される。混合信号は送信信号と受信信号の和周波数と差周波数の成分を持つ。したがって、混合信号は、フィルタアンプ6により、ローパスフィルタ処理されて差周波数信号のみが取り出され、増幅される。
【0050】
フィルタアンプ6からのフィルタ処理された信号出力はアナログ/デジタル変換器(ADC)7でデジタル化される。次にデジタル信号はデマルチプレクサ8により多重化解除される。すなわち、デマルチプレクサ8はフレーム300a/b/c、301a/b/cの各ステップ320a/b/c、322a/b/c等の終端に対応する時間でデジタル信号をサンプル且つ出力し、そして4つのチャンネル101、102、103、104に出力する。次にデマルチプレクサ8は、各サンプルの取り込み時間差を考慮して各チャンネル信号を外挿する。差分手段9は各チャンネル間の差をとって、3つの差の値105、106、107を出力する。各微分位相シフトはFFTユニット10により高速フーリエ変換(FFT)される。したがって、FFTユニット10の出力する3つの信号115、116、117は、各チャンネル101、102、103、104間の差の周波数と位相を表す。一方、各チャンネルは送信信号と受信信号間の位相と周波数の差を表す。
【0051】
送信信号が目標で反射した後、その受信が送信中に(すなわち、それを生じた信号と同一の周波数ステップで)行われた場合、各チャンネル101、102、103、104は定数になる。この定数は送信信号と受信エコー信号間の位相シフトを表す。周波数が異なるステップに関するこれらの位相シフト間の差は、上述したように、目標までの距離範囲に依存する。したがって、目標までの距離範囲は距離推定器11により次式で算出可能である110。
【0052】
D = cΔφ/(4πΔf)
ここに、Dはエコーが受信される対象までの距離、cは光速、Δφは微分位相シフト、Δfは関係するステップ間の周波数の差である。各微分位相シフト115、116、117は(ほぼ)同一の結果になるはずである。
【0053】
しかしながら、目標がアンテナから遠ざかるにつれ、各周波数ステップの送信期間と、対応する同一周波数エコーの受信期間との間で重なる量が減少し、やがて重ならないようになる。その結果、ミキサは、位相を算出する際に2つの異なる周波数を混合し、隣り合うステップの周波数の差に応じて変化する信号が発生する。この状況はFFT信号にも、全4チャンネル101、102、103、104間の差が変調されて現れる。距離推定器11は、各FFT信号115、116、117から異なる距離を算出し、さらにFFT信号に基づいて、差信号の周波数が全て非ゼロになって、目標が第1の距離より遠い第1のアンビギティー距離範囲にあることを示すフラグを立てる。
【0054】
仮に第1のフレーム300a/b/cが連続的に送信されるものとすると、目標がレーダーシステムからさらに遠ざかっていくと、あるポイントで、次のフレームの対応するステップの送信中に、ひとつのフレームの対応するステップが受信されるようになる。これにより、チャンネル101、102、103、104は再び変調無しになり、Dの算出値は一致するようになる。しかしながら、Dの算出値は、レーダーシステムから至近距離にあるという誤った明白な距離を与えるであろう。上記のような代表的周波数を使用した場合、1.5kmの距離の大きな目標が仮想的に距離ゼロの小さな目標であるかのように見えていることになる。
【0055】
交互に第1と第2のフレームを送信していることから、アンビギティーは除去される。図3a、3b、3cのどの波形を使用するかに関わらず、ステップF0〜F4の位相比較結果は、目標が図2のアンビギティー距離範囲A2にある場合、第1のフレームと第2のフレームで異なり、近い目標に対しては同一になる。
【0056】
この108を検知するために、装置は、位相差が明らかに一定であるかをチェックし、フレームの全ステップ対について一定であることをチェックする比較器12を備える。第2のフレーム301a/b/cで第1の手段300a/b/cとは異なる周波数シーケンスを使用しているため、第2のフレーム301a/b/cの送信中に第1のフレーム300a/b/cのステップが受信されたような場合に(あるいはその逆の場合に)、全ての位相差が一定になることはあり得ない。検査器12はこれをチェックし、全ての位相差が一定でなければ、目標が第2のアンビギティー距離範囲にあること示すフラグを立てる。
【0057】
なお、次の第1のフレーム300a/b/cが送信されているときに第1のフレーム300a/b/cの信号を受信する可能性はあり、その場合、上述のようなアンビギティーが発生するのではないかと考えられる。しかしながら、これが発生するのは、前記実施形態のケースで3kmの距離であり、この距離の増加により余分の12dB損失するため、アンビギティーの問題にはなりそうにない。
【0058】
前記実施形態の別の重要な特徴として、第1と第2のフレーム間の位相比較結果のいくつかが一致しないことから、目標がアンビギティー距離範囲2にあることが検知される一方で、第1のフレームで送信した周波数のうち少なくとも2つは第2のフレームでも送信されて一致することから、この距離範囲にある目標の距離の値を求めることが可能である。例えば、図3aを検討すると、信号位相の測定は期間F3とF4で行うことができ、目標までの距離は通常の方法で算出される。これらの測定はステップF1とF2を逆転することで影響を受けず、両フレームで同じ結果になる。同様な計算がステップF1とF2で行われる。近い目標の場合、奇数期間で行われた測定はF3/F4から求めた距離と一致するのに対し、偶数期間で行われた測定結果は符号が逆になる。アンビギティー距離範囲にある遠い目標の場合、この逆になる。
【0059】
代わりに図3bの波形を使用した場合、位相の測定はステップF2〜F4で通常の方法で行われ、距離が算出される。しかしながら、奇数フレームと偶数フレームの平均周波数が異なるため、遠距離の目標に対して、これらの信号は位相変調される。奇数フレームと偶数フレームの対応するステップで測定した信号の位相を比較することにより、目標が近いか遠いか決定できる。位相変調の度合いは信号遅延時間、したがって目標までの距離に依存することから、この信号は徐々に変化する。このため、目標を認めるべきか無視してよいかを決定するためにこの信号を閾値と比較する必要がある。また、異なる周波数ステップで行われた測定は変調されたステップ(例えば図3bのF1)に対して遅れるため、フレーム内で位相変調が発生するポイントは変化する。図5に、周波数チャンネルF4に発生する位相変調の度合いと共にこれと固定閾値を比較することにより得られた代表的な検査関数を示す。勿論、実用上、閾値は可変であってよく、対応する目標毎に受信信号振幅に対する比率に設定可能である。
【0060】
アンビギティーを除去するため送信/エコー信号の周波数対の位相を比較するのに加え、あるいは代替として、少なくとも1つの実施形態において、目標の速度を測定するため複数のフレームに介して確立されるドプラー信号を使用し、これによって幾つかのケースでのアンビギティーを除去することが提案される。
【0061】
目標のドプラー周波数を測定するために、各送信フレームの平均位相とエコー信号の平均位相を比較する。これを行うために各送信フレームと戻りのエコーからサンプルが取り出される。近くの目標から戻ってくる各エコーの場合、送信信号と受信信号間に発生する唯一の周波数の差はドプラーシフトに起因する。
【0062】
図3cのステップF1でサンプルを取り出すことにより生成される周波数スペクトルを示した図6について説明する。このステップは、「変調」ステップ、すなわち奇数フレームと偶数フレームとで周波数が異なるステップであるため、選ばれている。速度が異なる2つの目標AとBがある。また、高速の目標Bの方が低速の目標Aよりレーダー装置に近い所にある。目標Bからのエコーの飛行時間は周波数ステップの長さより短い。かくしてBの場合、各フレームのステップF1、ステップF2、F3またはF4での位相測定が通常の方法で蓄積されて、図6に示すような単一のドプラーピークが形成される。
【0063】
一方、目標Aで発生したエコーは飛行時間が1周波数ステップより長いため、図6に示すような2つのドプラーピークが発生する。ドプラー信号の周波数をfaとすると、第2のピークは、fs/4で反射されて、周波数スペクトルのfs/2−faの位置に現れる。ここにfsは、Tfをフレーム持続時間としたとき1/2Tfで表されるフレーム周波数である。
【0064】
2以上のドプラーピークの出現を検知することにより、目標が近くにあるか、遠距離にあるかを決定可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1a】従来のFSKレーダーシステムにおける、送信信号と、近距離範囲の目標からの受信エコー信号を示す。
【図1b】従来のFSKレーダーシステムにおける、送信信号と、遥かに遠距離範囲の目標からの受信エコー信号を示す。
【図2】従来のレーダーにおいて目標までの距離範囲の増大に対して行われる目標をどのように通知するかを示す。
【図3a】本発明に基づいて、実施形態のFSKレーダー装置において可能な送信信号の概略を示す。
【図3b】本発明に基づいて、実施形態のFSKレーダー装置において可能な送信信号の概略を示す。
【図3c】本発明に基づいて、実施形態のFSKレーダー装置において可能な送信信号の概略を示す。
【図4】図3aから図3cに示される信号を使用して従来のシステムで発生したアンビギティーの一部を除去する実施形態の周波数偏位変調(FSK)レーダー装置の模式図である。
【図5】本発明に基づいた、目標までの距離の検知例を示す。
【図6】起こり得る状況として距離測定がアンビギアウスになる目標やアンビギアウスにならない目標がある状況下で、生成されるドプラー周波数スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波信号を送信するようになされた送信機、及び送信信号の一部に対応する、目標から反射したエコー信号を受信するようになされた受信機と、
前記送信信号を発生するために前記送信機に供給される駆動信号を発生するようになされた信号発生手段であって、信号発生手段の発生する駆動信号には、少なくとも2つの周波数を含む第1の信号フレームと少なくとも2つの周波数を含む第2の信号フレームが含まれており、前記第2の信号フレームは前記第1の信号フレームと異なっている、信号発生手段と、
前記送信信号と共に前記エコー信号を処理して前記エコー信号を発生した目標までの距離を決定するようになされたプロセッサと、
を備えた距離範囲検知装置。
【請求項2】
前記第1と第2のフレームは、第1の周波数の信号のバーストと、後続する第2の異なる周波数の信号のバーストを含む、請求項1に記載の距離範囲検知装置。
【請求項3】
さらに、単一のサイン波のような搬送波を発生する手段と、前記搬送波をフレーム繰返し数の1/2のレートで変調し、前記第1と第2のフレームを含む駆動信号を発生する手段を有する、請求項1または2記載の距離範囲検知装置。
【請求項4】
フレーム内において、周波数の各バーストはその前に送信された周波数と異なると共にその後に送信される周波数とも異なる、請求項1、2または3に記載の距離範囲検知装置。
【請求項5】
前記第1のフレームは第1、第2及び第3の周波数A、B及びCを有し、前記第2のフレームは前記第1及び第2の周波数A及びBを有するものの前記第3の周波数Cは有さない、請求項1から4のいずれかに記載の距離範囲検知装置。
【請求項6】
前記第2のフレームにおいて、前記第3の周波数に代え、第4の異なる周波数が使用されるか、前記第1または第2の周波数AまたはBが繰り返される、請求項5に記載の距離範囲検知装置。
【請求項7】
1つの周波数を省略する代わりに、前記第1と第2のフレームは同一の第1、第2及び第3の周波数を有するが、3つの周波数のうち2つの周波数が送信される順序は、第1のフレームと第2のフレームとで異なり、3つの周波数のうち別の周波数の対が送信される順序は、第1のフレームと第2のフレームで同じに留まる、請求項1から6のいずれかに記載の距離範囲検知装置。
【請求項8】
前記プロセッサは、エコー信号部分受信時にエコー信号部分の周波数と送信信号部分の周波数間の相対位相を比較する位相決定手段を有する、距離範囲検知装置。
【請求項9】
エコーサンプルと前記送信信号の比較の結果、意味のある位相差が得られない場合に、エラーフラグを立てるエラー信号発生手段を有する、請求項8に記載の距離範囲検知装置。
【請求項10】
さらに、前記位相差測定手段の測定した位相差のうち少なくとも2つを対として組み合わせてエコー信号を発生した目標までの距離を測定する手段を有する、請求項8または9に記載の距離範囲検知装置。
【請求項11】
前記第1のフレーム内のエコー/送信周波数サンプルの対に基づいて決定された距離と、前記第2の送信フレーム内の対応する対に対するサンプルから決定された距離を比較する比較手段を有する、請求項10に記載の距離範囲決定装置。
【請求項12】
前記第1と第2のフレームは連続的に且つ交互に、すなわち、第1のフレーム、第2のフレーム、第1のフレーム、第2のフレームのように反復シーケンスで送信される、請求項1から11のいずれかに記載の距離範囲決定装置。
【請求項13】
前記プロセッサは、送信フレームの平均周波数とエコーフレームの平均周波数を比較して前記装置とエコー信号を発生する目標の相対速度を示す時間にわたりドプラー信号を発生する、請求項1から12のいずれかに記載の距離範囲決定装置。
【請求項14】
第1のフレームの平均周波数と第2のフレームの平均周波数は同一である、請求項13に記載の距離範囲決定装置。
【請求項15】
前記プロセッサは、前記ドプラー信号における第2のピークの存在を検知し、第2のピークが検知された場合に、前記エコー信号を発生した目標が遠い目標であるかまたは近距離範囲にあることを示す検知手段を有する、請求項13または14に記載の距離範囲決定装置。
【請求項16】
搬送波周波数が送信され、かつ第1と第2のフレームのシーケンスが送信されるように前記搬送波周波数が変調される種類のレーダー装置における距離のアンビギティーを除去する方法であって、
a)最初に、少なくとも2つの異なる周波数のシーケンスを含む第1のフレームを送信するステップと、
b)続いて、少なくとも2つの異なる周波数のシーケンスを含む第2のフレームを送信するステップと、第1の信号は第2の信号と異なり、
c)目標で反射された前記送信信号に対応したエコー信号を受信するステップと、
d)前記エコー信号を前記送信信号と共に処理して前記目標までの距離を決定するステップと、
を含む方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−509212(P2006−509212A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558827(P2004−558827)
【出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【国際出願番号】PCT/GB2003/005381
【国際公開番号】WO2004/053521
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(504225644)ティーアールダブリュー・リミテッド (5)
【出願人】(502367557)ルーカス・オートモーティブ・ゲーエムベーハー (25)
【Fターム(参考)】