説明

イオントランスポートデバイスおよびその作動モード

【課題】質量スペクトロメータの構造を簡単にし、製造、コストを下げること
【解決手段】デバイスの出口近くでイオンを細いビームに合焦するテーパ付き電界を形成するよう、振動(例えば無線周波数)電圧を印加する、長手方向に離間する複数の電極から、質量スペクトロメータの低真空領域または大気圧領域内でイオンをトランスポートし、合焦するためのデバイスが構成されており、電極間間隔または振動電圧の振幅は、イオン走行方向に大きくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には質量スペクトロメータのためのイオン光学系に関し、より詳細には、低真空領域内にイオンを閉じ込め、この領域内でイオンを合焦するためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
質量スペクトロメータの設計者が直面する基本的な課題は、特にイオンの動きがバックグラウンドガス分子との相互作用によって実質的な影響を受ける、大気または低真空領域を通してイオンソースから質量分析器へ効率的なトランスポート(輸送)を行うことにある。イオン合焦のための市販されている質量スペクトロメータ測定装置のこれら領域では、一般に静電光学系が使用されているが、イオンが受ける衝突の回数が多いことに起因し、かかるデバイスの効果が制限されることが知られている。従って、低真空領域を通るイオントランスポートの損失は、大きくなる傾向があり、このことは、測定装置の全体の感度に大きな悪影響を与えている。
【0003】
低真空領域におけるイオントランスポート効率を改善するために、質量スペクトロメータ技術ではこれまで種々の解決技術が提案されている。スミス外に付与された米国特許第6,107,628号に記載されたイオンジョウゴデバイスによって1つの解決技術が具現化されている。大まかに説明すると、このイオンジョウゴデバイスは、長手方向に密に離間した多数のリング電極によって構成されており、これらリング電極は、開口部を有し、これら開口部は、デバイスの入口から出口に向かって寸法が小さくなっている。これらリング電極は、互いに電気的にアイソレートされており、イオンをデバイスの内側に向けて径方向に閉じ込めるような所定の位相関係で、これら電極に無線周波数(RF)電圧が印加されている。デバイスの入口における開口部の寸法を比較的に大きくしたことは、イオン受け入れ面積を広くすることを配慮したものであり、開口部の寸法が徐々に小さくなることによって、テーパ付きRF電界を形成し、このRF電界はイオン走行方向に沿って直径が小さくなる、無電界ゾーンを有し、よってイオンを細いビームに合焦し、この細いイオンビームは大きなイオン損失度を受けることなく、スキマーまたは他の静電レンズの開口部を通過できる。(例えば)スミス外に付与された米国特許第6,583,408号、フランツェン外に付与された米国特許第7,064,321号明細書、ブルッカー ダルトニクス社によって出願された欧州特許出願第1,465,234号明細書、およびジュリアン外著の論文「質量のためのイオンジョウゴ:簡略化されたイオンジョウゴによる実験およびシミュレーション」(米国質量分析協会ジャーナル、第16巻、1708〜1712ページ、2005年)には、イオンジョウゴデバイスの改良および変形が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
研究環境では、イオンジョウゴデバイスが成功裏に使用されているが、コストおよび生産可能性に問題があることによって、業務用質量スペクトロメータ装置を実現することが阻害されている。代表的なイオンジョウゴは、約100個のリング電極を利用しており、各電極はユニークな直径の開口部を有する。このような構造の結果、部品数が多くなり、製造コストおよび複雑さも増している。更に、多数のリング電極を使用することにより、容量負荷が極めて大きくなり、このことにより、回路をドライブするために大電力増幅器が必要となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態によれば、デバイスの長手方向軸線に沿って離間した、開口部の設けられた複数の電極を含むイオントランスポートデバイスが提供される。これら電極の開口部は、イオンチャンネルを構成し、このイオンチャンネルを通ってデバイスの入口と出口の間でイオンがトランスポート(運搬)される。これら電極に結合された振動(例えばRF)電圧源は、イオンを径方向に閉じ込めるよう、適当な位相関係となっている振動電圧を電極に供給する。デバイスの近くのイオンチャンネルの中心線へイオンを合焦するために、隣接する電極間の間隔はイオンの走行方向に広くなっている。デバイスの出口の近くの電極間間隔が、比較的広くなることにより、それに比例して振動電界の進入度も増加できるようになっており、よって長手方向の中心線に対してイオンを集中させるテーパ付き電界を形成している。所定のイオン種の透過を最適にするか、または質量弁別効果を低減するよう、スキャン状態またはステップ状態で振動電圧の振幅を時間的に変えることができる。DC電圧のセットを電極に印加することにより、イオンチャンネルに沿ったイオンの推進を補助する長手方向のDC電界を形成できる。
【0006】
本発明の第2実施形態によれば、イオントランスポートデバイスは、開口部が設けられた一定間隔の複数の電極を含み、これら電極には振動電圧が印加される。イオンの走行方向に振動電圧の振幅を増加することにより、イオンチャンネルの中心線にイオンを合焦するためのテーパ付き電界が発生される。
【0007】
いずれの実施形態においても、視線経路をブロックするようイオントランスポートデバイスの入口に対して毛細管を横方向および/または回転角方向にずらすこと、および隣接する電極の開口部に対して電極の開口部を横方向にずらすことを含む技術のうちの1つまたは組み合わせにより、質量スペクトロメータの下流側の低圧領域までのクラスター、中性物および脱溶媒化されていない粒子のストリーミングを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】テーパ付き合焦電界を形成するよう、イオン走行方向に電極の間隔が広くなっている、本発明の第1実施形態に従って構成されたイオントランスポートデバイスを内蔵する質量スペクトロメータの略図である。
【図2】図1の質量スペクトロメータで使用されるイオントランスポートデバイスをより詳細に示す。
【図3】図2のイオントランスポートデバイスで使用される開口部の設けられた電極の一例を示す。
【図4】ガス補助イオントランスポートを促進するためのエンクロージャーを有するイオントランスポートデバイスの一部を示す。
【図5】印加される振動電圧の振幅を、イオン走行方向に大きくすることにより、テーパ付き合焦電界を形成する、イオントランスポートデバイスの第2実施形態を示す。
【図6】質量スペクトロメータの下流領域内への中性ガス分子およびその他の望ましくない粒子のストリーミングを減少させるための形状を利用する、イオントランスポートデバイスの別の実現例を示す。
【図7】四重極型質量フィルタおよび同様な質量分析器によって分析されるイオンの透過を最大にするための作動モードに従って、イオントランスポートデバイスに対し、振幅がランプ状のRF電圧を印加することを示す。
【図8】注入周期中のm/z弁別を低減するための作動モードに従って、イオントランスポートデバイスに振幅がステップ状のRF電圧を印加することを示す。
【図9】ジェット膨張部に隣接する領域において、RF電界強度を低減するために、傾斜したリング電極形状を利用するイオントランスポートデバイスの更に別の実現例を示す。
【図10】RF大電界強度の領域からイオンを離間させるために、非対称のDC電界を使用する、イオントランスポートデバイスの更に別の実現例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の一実施形態に従って構成されたイオントランスポートデバイス105を内蔵する質量スペクトロメータ100の略図である。電気スプレイプローブ110を介してイオン化チャンバ107内にサンプル溶液を電気スプレイすることによって、分析イオンを形成できる。この電気スプレイ技術を利用するイオンソースに対し、イオン化チャンバ107は一般に大気圧またはその近くの圧力に維持されている。バックグラウンドガスおよび一部が脱溶媒化された粒子と共に、分析イオンは従来のイオン移動チューブ115(例えば細いボアの毛細管チューブ)の入口端部に流入し、圧力勾配の影響を受けてチューブの長手方向部を横断する。イオン化チャンバ107からのイオンのスループットを増加させるために、本明細書に示されている単一チャンネルのイオン移動チューブを多数の毛細管または分割された流路イオン移動チューブに置換することによって、多数のイオン流れチャンネルを設けることができる。分析イオン移動チューブ115は、カートリッジヒーター125によって加熱されるブロック120に良好に熱接触する状態に保持することが好ましい。当技術分野で知られるように、イオン移動チューブ115を通過するイオン/ガスストリームを加熱すると、残留溶剤の蒸発が促進され、測定に利用できる分析イオンの数が増加する。低真空チャンバ130内に位置するイオントランスポートデバイス105の入口120に開口するイオン移動チューブ115の出口端部から、分析イオンが放出される。矢印が示すように、チャンバ130は、機械式ポンプまたはその均等物により、低真空圧まで排気されている。代表的な作動条件下では、低真空チャンバ内の圧力は1〜10トール(約1〜10ミリバール)の範囲内となるが、低真空圧力および近大気圧圧力の広いレンジにわたり、例えば0.1ミリバールから1バールの間でも、本発明の実施形態にかかわるイオントランスポートデバイスは成功裏に作動すると信じられている。
【0010】
本明細書に図示し、説明する電気スプレイイオン化ソースは、説明の例として示されていること、および本発明のイオントランスポートデバイスは、電気スプレイイオン化ソースまたは他の特定タイプのイオン化ソースと共に使用することだけに限定されないと理解すべきである。電気スプレイソースの代わりに使用できるか、電気スプレイソースに加えて使用できる別のイオン化技術として、化学的イオン化技術、光イオン化技術およびレーザー吸着またはマトリックス補助レーザー吸着/イオン化(MALDI)技術を挙げることができる。
【0011】
分析イオンは、フリージェット膨張物としてイオン移動チューブ115の出口端部から出て、イオントランスポートデバイス105の内側に構成されたイオンチャンネル132を通って移動する。以下、より詳細に説明するように、イオンチャンネル132内のイオンの径方向の閉じ込めおよび合焦は、イオントランスポートデバイス105の開口部が設けられた電極135に振動電圧を印加することによって達成される。後に更に説明するように、デバイス出口137までのイオンチャンネル132に沿ったイオンのトランスポートは、長手方向のDC電界を発生するか、および/またはイオンを連行するバックグラウンドガスの流れを注文使様に合わせることによって促進できる。イオンは、細く合焦されたビームとしてイオントランスポートデバイス105を離間し、抽出レンズ145の開口部140を通ってチャンバ150内に向けられる。その後、イオンはイオンガイド155および160を通過し、チャンバ170内に位置する質量分析器165(この分析器は、図示するように従来の二次元の四重極型イオントラップの形態でよい)まで運ばれる。チャンバ150および170は、矢印で示されるように、ターボポンプのポートに接続することにより、比較的低い圧力まで排気できる。イオントランスポートデバイス105は、単一チャンバを占めるように示されているが、別の実現例は、圧力が連続的に下がる2つ以上のチャンバまたは領域を架橋するイオントランスポートデバイスも利用できる。
【0012】
図2は、(概略横断面図における)イオントランスポートデバイス105の細部を示す。このイオントランスポートデバイス105は、長手方向に離間した状態(本明細書で使用する「長手方向に」なる用語は、イオンチャンネル132に沿ったイオンの全体の移動によって構成される軸線の方向を示す)に配置されたほぼ平面状の複数の電極135から形成されている。全体がこのような構造のデバイスは、質量スペクトロメータ技術では、「スタックリング」イオンガイドと時々称されるものである。各電極135には、開口部205が設けられ、この開口部205をイオンが通過できるようになっている。これら開口部は、全体でイオンチャンネル132を構成し、このチャンネル132は、開口部の横方向の整合に応じて直線状でもよいし、または(図4を参照して以下説明するように)カーブしていてもよい。製造可能性を改善し、コストを低減するために、電極135のすべては(各電極がユニークな寸法の開口部を有する、スミス外に付与された上記米国特許第6,107,628号に開示されているデバイスと異なり)同じ寸法の開口部205を有することができる。振動(例えば無線周波数)電源210は、振動電圧を電極135に印加し、よってイオンチャンネル132内にイオンを径方向に閉じ込める電界を発生する。好ましい実施形態によれば、各電極135は、隣接する電極に印加される振動電圧と振幅および周波数が等しいが、位相が反対となっている振動電圧を受ける。図示するように、これら電極135は、複数の第1電極215と複数の第2電極220とに分割でき、これら第1電極と第2電極とは、交互に配置されており、第1電極215は第2電極220に印加される振動電圧とは位相が反対の振動電圧を受ける。代表的な実現例では、印加される振動電圧の周波数および振幅は、それぞれ0.5〜1MHzおよび50〜400Vp−p(ピークツーピーク値)であり、必要な振幅は大いに周波数によって決定される。図面に示されている電極135の数は、任意に選択されており、本発明では特定の電極数だけに限定すべきでないと理解すべきである。50mmの長さを有するイオントランスポートデバイスの代表的な実現例は、12〜24本の電極を有する。デバイスの近くでは電極間の間隔が広くなることに起因し、本発明のこの実施形態に従って構成されたイオントランスポートデバイスは、スミス外に付与された米国特許第6,107,628号および上記引用した関連刊行物に記載されている従来のイオンジョウゴデバイスよりも、使用電極数が一般に少なくなっている。
【0013】
イオンをデバイスの出口137の近くで細いビームとなるように合焦するテーパ付き電界を形成するために、電極135の長手方向の間隔は、イオン走行方向に移動するにつれ広くなっている。当技術分野(例えばフランツェン外に付与された米国特許第5,572,035号だけでなく、上記ジュリアン外による論文も参照)では、スタックされたイオンリングガイドにおける振動電界の径方向の進入度は、電極間の間隔に比例することが知られている。入口127の近くでは、電極135は、比較的密に離間しており、この間隔は、径方向の電界の進入度を限られたものにしており、よって長手方向軸線を中心とする電界の存在しないワイドな領域を生じさせている。この状態は、イオン移動チューブ115からイオンチャンネル132内に流入するイオンが受け入れられる効率を高くすることを促進している。更に、入口127の近くの電極の密な間隔は、高い反射率の表面および拡散イオンクラウドのイオンをトラップしない浅い疑似ポテンシャル井戸を生じさせている。これと対照的に、出口137の近くに位置する電極135は比較的広く離間しており、このことは長手方向中心軸線に対して(径方向の振動電界のより大きい進入度、および無電界領域が狭くなることに起因し)イオンの効果的な合焦を生じさせている。デバイスの出口137の近くで、電極間の間隔が比較的広いことは、イオン損失を大きくしないと信じられる。その理由は、イオンがイオンチャンネル132に沿って走行する際に、イオンは中心軸線に向かって冷却されるからである。イオントランスポートデバイス105の一実現例では、電極間の長手方向の(中心間の)間隔は、デバイスの入口127における1mmから、デバイスの出口137における5mmまで変化している。
【0014】
図2の実施形態では、電極の間隔は、イオントランスポートデバイス105の全長に沿った、イオンの走行方向に徐々に、かつ連続的に広くなるように示されている。別の実現例では、(例えばデバイスの入口の近くの)イオントランスポートデバイスの長さの1つ以上のセグメントに沿って、電極の間隔を一定にし、次に、(例えばデバイスの出口の近くの)別のセグメントに沿って広くしてもよい。更に、所定の実現例は、徐々にではなく、ステップ状に電極の間隔が広くなるような構造も利用できる。
【0015】
(例えば作動圧力が比較的高い)所定の条件では、イオントランスポートデバイス105を通過して走行するイオンが、疑似ポテンシャルバリアに打ち勝つのに十分な運動エネルギーを有していない場合、ストール状態(すなわち電極間の井戸内にトラップされた状態)となり得る。この問題を解消するために、電極135に一組のDC電圧を印加するDC電源225を設けることにより、イオンチャンネル132内に長手方向のDC電界を形成できる。印加する電圧は、トランスポートされるイオンの極性に応じ、イオン走行方向に増減する。長手方向のDC電界は、デバイスの出口137に向かうイオンの推進を補助し、望ましくないトラッピングが生じないことを保証する。代表的な作動条件では、イオントランスポートデバイス105内でのイオンのストールを解消するには、1〜2V/mmの長手方向のDC電界勾配で十分である。別の実施形態では、リング電極135ではなく、補助電極(例えばリング電極の外側に位置する抵抗コーティングされたロッド電極のセット)へ適当なDC電圧を印加することによって、長手方向のDC電界を発生することもできる。
【0016】
一部の応用例では、入口127(またはその一部)を通して受けられるイオンを、制御できる時間長さのトラッピング周期の間に、イオンチャンネル132内に保持するよう、イオントランスポートデバイス105をトラッピングモードで選択的に作動させることができる能力を有することが望ましい。このトラッピングは、DC電源225によって、適当なDCバリア電圧をリング電極135のうちの所定の電極に印加し、イオンを軸方向に閉じ込めるDCポテンシャル井戸を発生することによって達成できる。イオントランスポートデバイス105からイオンを解放することが望ましいとき、バリアDC電圧が除かれ、イオンは、圧力勾配およびオプションの長手方向のDC電界の影響により、イオンチャンネル132の長手方向部を横断し、出口137に至る。この技術の変形例では、ギーレス外に付与された米国特許第6,914,241号(この特許の開示を本明細書で参考例として援用する)に記載されているタイプの一組の進行DCパルスが電極135に印加され、イオントランスポートデバイス104の長手方向部に沿って伝搬する1つ以上のトラッピング蓄積部を形成する。例えば潜在的に干渉する同重体イオンを分離するよう、イオントランスポートデバイス105内のイオンのイオン移動に基づく分離を生じさせることも望ましい。イオン移動による分離が望まれる場合、イオントランスポートデバイス105を軸方向に細長くし、および/またはこのデバイスを比較的高い圧力に維持し、異なる移動度を有するイオンの作動的に意義のある分離を生じさせることが望ましい。
【0017】
図3に示されるように、各電極135は、中心に位置する円形開口部205が設けられた正方形のプレート310から構成できる。上記のように、同一寸法の電極および開口部の寸法を相互に交換できる電極を利用することにより、部品数および製造コストを低減できる。プレート310の全体を導電性材料、例えばステンレススチールまたは真ちゅうから製造できる。別の構造では、プリント回路基板に使用されるような、絶縁基板の中心領域(すなわち開口部に対して放射状に隣接する領域)上に導電性材料を(適当な厚さで、かつ適当な領域にわたって)デポジットすることにより、電極を形成できる。振動および/またはDC電源に対して電気接触を確立するために、プレートの中央領域とエッジとの間に一組の導電性トレースをデポジットしてもよい。イオントランスポートデバイス105の代表的な実現例では、各電極135は、25mm×25mmの横方向の寸法、0.5mmの厚さおよび2〜15mmの直径を有する円形開口部205を有する。
【0018】
電極135間のギャップがチャンバ130に開口し、このチャンバと連通するよう、図2に示されるようなオープン構造にイオントランスポートデバイス105を構成できる。この構造によって電極間のギャップを通してイオン/ガスストリームからガスを除くことが可能となる。スミス外に付与された米国特許第6,107,628号に記載されているように、一組の絶縁性支持ロッドおよびスペーサを使って、電極135を組み立て、互いに整合し、電極間の所定の間隔に固定することができる。別の実現例では、電極間ギャップからチャンバ130へのガスの直接流出を防止し、よってイオンチャンネルの囲まれた部分に沿った比較的高いガス流を保持するエンクロージャー内に電極135のすべてまたは一部を位置決めすることができる。このガス流はイオンチャンネルに沿ったイオンのトランスポートを補助し、上記タイプの長手方向のDC電界を発生させる必要性を除くことができる。図4を参照する。プレート410の四角形の配置から、エンクロージャー405を形成できる。電極間の間隔を所望する値に固定し、オプションの振動DC電圧のための接続部を提供するエッジコネクタ415を使って、エンクロージャー405内に電極135を取り付けできる。
【0019】
図5は、本発明の第2実施形態に従って構成されたイオントランスポートデバイス500を示す。図2の実施形態と対照的に、各々に同じ寸法の開口部507が設けられている電極505は、長手方向軸線に沿って一定に離間している。電極505全体は、イオンチャンネル510を構成しており、デバイスの入口512における高いイオン受け入れ効率、およびデバイスの出口515におけるイオンビームの密な合焦を促進する、テーパ付き径方向の電界を発生するために、電極505に印加される振動電圧の振幅は、上流方向に、電極に対して次第に大きくなっている振動電圧を各電極が受けるよう、イオン走行方向に大きくなっている。このような振動電圧の増加は、図5のグラフに示されている。振動電源525に結合された一組の減衰回路520を通して、所望する振動電圧を送ることができる。イオントランスポートデバイス500の一実現例では、電極505は中心間で1〜1.5mmに離間しており、振動電圧は0.5〜1MHzの周波数、およびデバイスの入口510における50〜100Vp−pからデバイスの出口515における400〜600Vp−pまで変化する振幅を有する。印加される振動電圧の必要な最大振幅は、電極間の間隔に応じて決まり、この最大振幅は、より広い間隔(例えば中心間で4mmの間隔は、印加される最大電圧を100Vp−pまで低減できる)を利用することによって低減できる。イオンチャンネル510に沿ってイオンを推進するのを助ける、長手方向のDC電界勾配を発生するよう、図2の実施形態に関連してこれまで説明したように、電極505に結合されたDC電源(図示せず)は、一組のDC電圧を印加できる。これとは異なり、またはこれに加えて、イオンチャンネル510内に比較的高いガス流量を維持するよう、エンクロージャー内に電極505を設けることによって、デバイスを通過する長手方向のイオントランスポートを促進できる。
【0020】
図2のイオントランスポートデバイス105および図5のイオントランスポートデバイス500では、デバイスの入口と出口との間に実質的に直線状の障害のないイオンチャンネルが確立される。しかしながら、質量スペクトロメータの低圧領域への中性ガス分子、クラスターおよび脱溶媒化されていない粒子のストリーミングを防止し、信号対ノイズ比を改善し、ポンピング条件を下げるようにイオントランスポートデバイスを構成することが望ましい。図6を参照すると、ここには下流領域への中性物およびその他の望ましくない粒子のストリーミングを防止するための多数の特徴を含むイオントランスポートデバイス605が示されている。イオントランスポートデバイス605は、開口部の設けられた複数の電極610から構成されており、これら電極は、入口620に隣接する第1電極セット615と、デバイスの出口630に隣接する第2電極セット625にグループ分けされる。第1電極セット615は、第2電極セット625の開口部640よりもサイズが大きい開口部635を有することができる。第1電極セット615のうちの最初の電極の開口部635の中心に対して横方向にずれた出口を有するイオン移動ポートチューブ645を介して、入口620にイオンが導入される。イオン移動チューブ645またはそのターミナルセグメントは、開口部635の中心によって構成される中心流れ軸に対して回転角方向に(一般に約5°)ずれた中心流れ軸を有する。更に、第2電極セット625の開口部640の中心は、互いに、かつ開口部635の中心に対して、横方向にずれているので、イオン移動チューブ645の出口と、出口レンズ655の中心開口部650との間には、視線経路は存在しない。このように、分析イオンはイオントランスポートデバイスの長手方向部を横断するのに、弧状の経路に従い、かつレンズ開口部650を通過しなければならない。(脱溶媒化されていない粒子および溶剤−イオンアダクトのような高質量の帯電粒子と共に)イオンチャンネル605に進入する中性物の軌跡は、横方向にシフトする合成電界によっては影響されないか、またはわずかに影響されるだけであり、よって中性物および高質量粒子は、電極の固体表面に衝突する傾向があり、レンズの開口部を通過しない。中性物のストリーミングを低減するように設計されたイオントランスポートデバイスの他の実現例は、S字形状のイオンチャンネルを構成するように電極を配置できると理解できよう。基本的には、イオン/ガス流れ軸内に位置する固体プレートから構成された、米国特許第6,583,408号に開示されているジェットディスターバー構造を使って、中性ガスがイオンチャンネルを通過するのを防止することもできる。イオントランスポートデバイスの長手方向軸に対してカーブしているか、および/または横方向または回転角方向に中心軸がずれているイオントランスポートデバイスの下流側に位置するイオンガイドを有することによって、更に、質量分析器への中性物のストリーミングを更に低減することもできる。
【0021】
簡潔にし、かつ明瞭にするため、図6からはRFおよびオプションのDC電源、並びに接続部が省略されているが、図2に関連してこれまで説明したように、電極610にRF電圧および(オプションの)DC電源を印加してもよいと認識できよう。すなわち径方向の閉じ込め電界を発生するように、シーケンシャルに交互に変化するパターンで、等しい振幅および反対の位相のRF電圧を印加でき、長手方向のDC電界を発生するように、振幅がイオン走行方向に増減するDC電圧を印加することができる。所定の条件下では、イオンチャンネルの後半の部分を走行するイオンが受けるRF電界の強度を低減し、よって意図しないフラグメント化を低減するよう、(第1電極セット615の電極に印加されるRF電圧の振幅に対する)第2電極セット625の電極に印加される、振幅のより小さいRF電圧を印加することが有利となる場合がある。
【0022】
上記のように、イオントランスポートデバイスの長手方向中心軸に対するイオン位相チューブ(例えば毛細管)の軸線を回転角方向にずらす結果、イオンは電極のより密になって電極に接近し、よって電極近くの電界強度が増加することに鑑み、比較的高いRF電界強度の領域に曝されることになる。このことは、不安定な分析物分子の意図しないフラグメント化を生じさせ得る。図9および10に示された設計により、軸からずれた状態でイオンを導入することから生じる、意図しないフラグメント化が生じる問題に対して実施可能な2つの解決方法が示されている。まず、図9を参照する。イオントランスポートデバイス905は、イオン走行方向に平均電極間の間隔が広くなる複数の電極910から構成されている。電極のセット915は、互いに傾斜しており、かつ非傾斜電極920に対しても傾斜しているので、傾斜しているセット915のうちの各電極は、隣接する電極に対して平行でない平面を構成する。この構造によれば、イオントランスポートデバイス905のセグメントは、イオントランスポートデバイス905の反対側における対応する電極間の間隔に対して、角度の付いた毛細管925の出口と反対に位置するイオントランスポートデバイス905の側で(すなわち毛細管の出口から生じるジェット膨張部930と整合する側で)電極間の間隔が大幅に狭くなっている。上で指摘したように、RF電界の径方向の進入度は、電極間の間隔が広くなるにつれ増加する。毛細管の出口と反対側にある電極間の間隔が狭くなっている結果、径方向の電界進入度も小さくなるので、ジェット膨張部930内のイオンは、電極間間隔が対称的な平行電極を有する均等な実施形態よりも小さいRF電界強度に曝される。RF電界強度がより小さくなっている結果、イオントランスポートデバイス内での分析イオンの望ましくないフラグメント化が少なくなる。
【0023】
図10は、意図しないフラグメント化の問題を軽減するための別の解決方法を示す。イオントランスポートデバイス1005は、イオン走行方向に電極間間隔が広くなるように配置された複数の電極1010を含む。イオンは角度の付いた毛細管1020を介してジェット膨張部1015としてイオントランスポートデバイス1005の内部に導入される。図9の実施形態とは異なり、イオントランスポートデバイス1005は、傾斜した電極の一組を含まない。その代わりに、電極1010に対し、毛細管1020の出口と反対側の近くにDC電極1025が位置している。イオンを電極1010から離間させ、イオントランスポートデバイス1005の中心線に向ける、径方向に非対称のDC電界を発生するように、DC電極1025に適当な電圧が印加されている。この効果は、電極の近くに存在する高強度のRF電界にイオンが露出することを低減し、よって分析イオンの意図しないフラグメント化を防止または低減している。
【0024】
図9および10からは、不必要に複雑とならないよう、RF電源およびオプションのDC電源、並びに接続部が省略されているが、図2を参照してこれまで説明したように、電極にRF電圧および(オプションの)DC電圧を印加してよい。すなわち径方向に閉じ込める電界を発生するようシーケンシャルに交互に変化するパターンで、等しい振幅および反対の位相のRF電圧を印加し、イオン走行方向に振幅が増減するDC電圧を印加し、長手方向のDC電界を発生してもよい。
【0025】
図2および図5の実施形態で具現化されている、テーパ付きラジアル電界を発生するための技術を、別個に、または組み合わせて使用できると認識すべきである。すなわちイオントランスポートデバイスは、テーパ付き電界を発生するために長手方向に広くなる電極の間隔、または長手方向に増加する振動電圧の振幅の一方または双方を含むことができる。更に、これら技術のうちの1つまたは双方を、スミス外に付与された米国特許第6,107,628号に開示されているデバイスによって具現化されている物理的テーパ技術(すなわち長手方向に小さくなる開口部の寸法)と組み合わせることができる。これとは異なり、図6に示され、これまで説明したように、イオントランスポートデバイスが複数のセグメントにセグメント化されるよう、電極の開口部の寸法をステップ状に変えてもよく、この場合、各セグメントは、寸法が同じ開口部を備えた複数の電極を有し、1つのセグメントの開口部の寸法は、別のセグメントの開口部の寸法と異なる(別の表現をすれば、各電極は、同じ開口部の寸法を有する少なくとも1つの隣接する近接電極を有する)。
【0026】
図2に示され、これまで説明したデバイスのように、イオンの走行方向に電極間の間隔が徐々に広くなるイオントランスポートデバイスに対し、イオン透過効率が最大となる時の印加RF電圧の振幅は、透過したイオンの質量対電荷比(m/z)と共に増加することが観察されている。換言すれば、印加されたRF電圧の所定の値に対し、デバイスのイオン透過効率はm/zに依存し、よって所定のm/z値を有するイオンは、異なるm/zを有するイオンに対し、高い効率または低い効率で透過し得る。ある状況では、測定装置の全体の感度を改善するよう、印加するRF電圧の振幅を時間的に変えることが有効となる場合がある。質量スペクトルを得るのに利用される質量分析器のタイプに応じ、RF電圧を変えることができる方法は少なくとも2つあると予想される。連続ビーム分析器、例えばある瞬間に狭いレンジのm/z内にあるイオンだけを検出器に(または質量スペクトロメータの他の下流側部品に)送るようイオンをフィルタにかける四重極型質量フィルタを使用する質量スペクトロメータ装置では、時間内のある点で、質量分析器により透過/検出されるm/zのレンジ内のイオンの透過効率を最大にするよう、イオントランスポートデバイスへ印加されるRF電圧を変えることが有効となり得る。透過/検出イオンのm/zを徐々に変える(よって質量スペクトルを発生する)よう、四重極型質量フィルタに印加されるRFおよび/またはDC電圧(または別のタイプの連続ビーム分析器に印加される対応する電圧)を変える際に、質量分析器によって透過/検出されるレンジ内のm/zを有するイオンの透過率を(所定の瞬間に)最大にするよう、イオントランスポートデバイスの電極に印加されるRF電圧の振幅を同時に変える。RF電圧の振幅を(測定されるイオン種のm/zに対応して)時間に対してリニアに変えてもよいし、またはその代わりに、より複雑に時間(m/z)に応じて変えてもよい。図7は、四重極型フィルタ質量分析器のスキャン周期に対応する周期にわたり、所定の振幅値の間でRF振幅を繰り返しランプ状に変化させるよう、時間に対してイオントランスポートデバイスに印加されるRFの振幅の変化を示す。このように、質量分析器へ透過/検出されるイオンのトランスポートが最適化され、このことは感度に対して望ましい効果を与える。四重極型質量フィルタまたは同様な質量分析器が「スキャン」モードではなく「パーク」モード(時間的に固定されたレンジのm/zでも透過)で作動されている場合、イオントランスポートデバイスの電極に印加されるRF電圧の振幅は、モニタ中のイオン種の質量分析器への透過を最大にするスタティックな値に維持できる。
【0027】
「パルス化された」質量分析器、例えば四重極型イオントラップを使用する質量スペクトロメータ装置(または質量分析器の中間イオン蓄積上流部を使用する装置)に対しては、イオン分析器または中間蓄積部内にイオンが累積する注入周期にわたってイオントランスポートデバイスの電極に印加されるRF電圧の振幅を変えることが有効となり得る。図示されている例では、比較的小さいm/zを有するイオンに対する透過率を最大にする注入周期の開始時に、ある値のRF振幅を印加することができる。次に、次第にm/zが大きくなるイオンに対して透過効率を増すように、注入周期にわたってRF電圧の振幅を変える(一般にステップ状または連続的ではあるが、より複雑な電圧変調も利用できる)。関連する実現例では、注入時間の長さを複数の時間成分サブ周期に分割し、このサブ周期は同じ長さでもよいし、そうでなくてもよく、サブ周期の各々の間でイオントランスポートデバイスに異なる振幅のRF電圧を印加し、この場合、連続する注入サブ周期の間のインターバル中にRF電圧を除く。あるレンジのm/zにわたり、最大イオン透過効率を変えることによって、質量分析器内に累積する合成イオン密度は、イオントランスポートデバイスの電極に印加されるRF電圧の振幅を注入周期全体にわたって固定値に維持した場合に生じる高いm/zイオンまたは低いm/zイオンに対して、望ましくな弁別を生じることなく、ソースにおいて生じるイオンの密度に、より密に近似し得る。印加する電圧を選択する際には、質量分析器によって検出可能なイオンのm/zレンジを考慮できる。その理由は、検出可能なm/zのレンジの外側(上または下)にあるイオンを質量分析器に導入しても、利益は得られないからである。
【0028】
図8は、例えばイオントラップ質量分析器の累積周期に対応する注入周期中における時間に対するRF振幅の変化の一例を示す。この例では、注入周期は振幅が増加する3つの連続ステップ内でRF電圧を印加するように、3つの時間成分サブ周期となるように分割されている。ある特定の実現例では、3つのステップ中に印加される振幅を次のように計算できる。
【数1】

【数2】

【数3】

ここで、V1、V2およびV3は、それぞれ第1ステップ、第2ステップおよび第3ステップにおける印加される振動電圧の振幅であり、(m/z)lowおよび(m/z)highは、それぞれ当該イオンに対するm/zの最小値および最大値であり、fは1より小さい定数であり、例えば0.3の値をとることができ、Kは(例えば0〜100までの値を有する)調節可能な定数である。(m/z)low、(m/z)highおよびKは、グラフィックユーザーインターフェースを介し、装置のオペレータによって供給してもよいし、またはこれとは異なり、記憶されている基準に従って装置のコントローラにより選択してもよい。
【0029】
図8および添付テキストは、RF電圧を徐々に大きくするように印加することを図示し、説明しているが、本発明から逸脱することなく、任意の順序でステップ状の電圧を印加できると認識すべきである。更に本明細書で使用するような「第1」、「第2」および「第3」なる用語は、RF電圧を印加するために特定の時間シーケンスを必要とするものと見なすべきではなく、むしろRF振幅の異なる値を示し、区別するために、単に使用したにすぎない。
【0030】
以上で、本発明の詳細な説明に関連し、本発明について説明したが、これまでの説明は、本発明を説明するものであり、発明の範囲を限定するものではないと理解すべきである。
【符号の説明】
【0031】
100 質量スペクトロメータ
105 イオントランスポートデバイス
107 イオン化チャンバ
110 電気スプレイプローブ
115 イオン移動チューブ
120 ブロック
125 カートリッジヒーター
127 入口
130 低真空チャンバ
132 イオンチャンネル
135 開口部が設けられた電極
137 デバイスの出口
140 開口部
145 抽出レンズ
150 チャンバ
155、160 イオンガイド
165 質量分析器
170 チャンバ
205 円形開口部
215 第1電極
220 第2電極
310 正方形プレート
500 イオントランスポートデバイス
505 電極
507 開口部
510 イオンチャンネル
512 デバイスの入口
515 デバイスの出口
520 減衰回路
525 電源
605 イオントランスポートデバイス
610 開口部の設けられた電極
615 第1電極セット
620 デバイスの入口
625 第2電極セット
630 デバイスの出口
635、640 開口部
645 イオン移動チューブ
650 中心開口部
655 出口レンズ
905 イオントランスポートデバイス
910 電極
915 電極セット
920 非傾斜電極
925 角度のついた毛細管
930 ジェット膨張部
1005 イオントランスポートデバイス
1010 電極
1015 ジェット膨張部
1020 毛細管
1025 DC電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンチャンネルを構成する長手方向に離間する複数の電極を備え、前記イオンチャンネルに沿ってイオンがトランスポートされ、前記複数の電極の各々には開口部が設けられており、この開口部を通ってイオンが走行できるようになっており、
更に前記複数の電極の少なくとも一部に振動電圧を印加する振動電圧源を備え、
(i)隣接する電極間の間隔および
(ii)前記印加される振動電圧の振幅のうちの少なくとも1つが、イオンの走行する方向に増加している、イオントランスポートデバイス。
【請求項2】
イオン走行方向に前記隣接電極の間の間隔のみが増加する、請求項1に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項3】
イオン走行方向に前記印加振動電圧の振幅のみが増加する、請求項1に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項4】
前記イオンチャンネルの入口と出口の間でのイオンのトランスポートを補助するよう、前記イオンチャンネル内で長手方向のDC電界を発生するための手段を更に含む、請求項1に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項5】
前記長手方向のDC電界を発生するための前記手段は、前記複数の電極の少なくとも1つにDC電圧のセットを印加するDC電圧源を含む、請求項4に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項6】
実質的に直線状のイオンチャンネルを構成するように、前記複数の電極の前記開口部が整合している、請求項1に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項7】
前記複数の電極のうちの2つ以上の電極の開口部の少なくとも一部は、隣接する電極の開口部に対して横方向にずれている、請求項1に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項8】
前記イオンチャンネルは、S字形状である、請求項7に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項9】
前記イオンチャンネルは、弧状である、請求項7に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項10】
2つの隣接する電極の間に介在されたジェットディスラプターを更に含む、請求項1に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項11】
隣接する電極の間の間隔は、イオン走行方向に徐々に広くなっている、請求項2に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項12】
前記印加振動電圧の振幅は、イオン走行方向に徐々に増加している、請求項3に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項13】
前記振動電圧源は、無線周波数電圧源である、請求項1に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項14】
前記複数の電極は、複数の第1電極を含み、これら複数の第1電極は複数の第2電極とインターリーブする関係に配置されており、前記第1電極に印加される前記振動電圧は、前記第2電極に印加される振動電圧と位相が反対になっている、請求項1に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項15】
前記複数の電極の前記開口部は、同じ寸法である、請求項1に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項16】
前記複数の電極は、デバイスの入口に隣接して位置する電極の第1のセットと、デバイスの出口に隣接して位置する電極の第2のセットとを含み、前記第1電極セットのうちの電極は、固定された第1の寸法の開口部を有し、前記第2の電極セットの電極は、固定された第2の寸法の開口部を有し、固定された第2の寸法は、固定された第1の寸法よりも小さくなっている、請求項1に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項17】
前記電極間のギャップを通過するガスの流出を防止するエンクロージャー内に、前記複数の電極のうちの少なくとも一部が保持されている、請求項1に記載のイオントランスポートデバイス。
【請求項18】
イオンソースと、
質量分析器と、
前記イオンソースと前記質量分析器との間のイオン経路内の中間に位置するイオントランスポートデバイスとを備え、前記イオントランスポートデバイスは、 イオンチャンネルを構成する長手方向に離間する複数の電極を備え、前記イオンチャンネルに沿ってイオンがトランスポートされ、前記複数の電極の各々には開口部が設けられており、この開口部を通ってイオンが走行できるようになっており、
更に前記複数の電極の少なくとも一部に振動電圧を印加する振動電圧源を備え、
(i)隣接する電極間の間隔および(ii)前記印加される振動電圧の振幅のうちの少なくとも1つが、イオンの走行する方向に増加している、質量スペクトロメータ。
【請求項19】
イオン走行方向に前記隣接電極の間の間隔のみが増加する、請求項18に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項20】
イオン走行方向に前記印加振動電圧の振幅のみが増加する、請求項18に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項21】
前記イオンチャンネルの入口と出口の間でのイオンのトランスポートを補助するよう、前記イオンチャンネル内で長手方向のDC電界を発生するための手段を更に含む、請求項18に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項22】
前記長手方向のDC電界を発生するための前記手段は、前記複数の電極の少なくとも1つにDC電圧のセットを印加するDC電圧源を含む、請求項21に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項23】
前記複数の電極のうちの2つ以上の電極の開口部の少なくとも一部は、隣接する電極の開口部に対して横方向にずれている、請求項18に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項24】
チャンバ内に前記イオントランスポートデバイスが位置しており、前記チャンバ内の圧力を0.1トールから10トールまでに維持するよう、前記チャンバに連通するポンプを更に含む、請求項18に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項25】
前記イオンソースから前記イオントランスポートデバイスの前記入口まで、イオンを搬送するための少なくとも1つの細長い毛細管を更に含む、請求項18に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項26】
前記少なくとも1つの細長い毛細管は、多数のイオン流チャンネルを含む、請求項25に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項27】
前記少なくとも1つの毛細管は、その出口部分に毛細管流れ軸を構成し、この毛細管流れ軸は、前記イオントランスポートデバイスの長手方向中心軸線に対して角度がついている、請求項25に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項28】
前記イオントランスポートデバイスと前記質量分析器との間のイオン経路内の中間に位置する多極イオンガイドを更に備え、この多極イオンガイドは、前記イオントランスポートデバイスの長手方向中心軸線に対してずれた長手方向中心軸線を構成する、請求項18に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項29】
前記質量分析器は、選択されたレンジ内に質量対電荷比を有するイオンを透過するように作動できる四重極型質量フィルタを備え、前記振動電圧源は、前記イオントランスポートデバイスを通過する前記選択されたレンジ内に質量対電荷比を有するイオンの透過を最大にするよう、前記印加された振幅を調節する、請求項18に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項30】
前記四重極型質量フィルタは、前記選択されたレンジを時間的にスキャンするように作動し、前記振動電圧源は、時間内のある点で前記四重極型質量フィルタによって透過されるイオンの透過を最大にするよう、前記印加電圧の振幅をダイナミックに調節する、請求項29に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項31】
前記質量スペクトロメータは、前記イオントランスポートデバイスからのイオン経路内の下流に位置するイオントラップを備え、このイオントラップには、注入周期中にイオンが注入され、前記振動電圧源は前記注入周期中に前記印加電圧の振幅を変える、請求項18に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項32】
前記質量分析器は前記イオントラップを含む、請求項31に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項33】
前記印加電圧の振幅は、離散的ステップで変更される、請求項31に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項34】
前記離散的ステップは、第1ステップと、第2ステップと、第3ステップから成る、請求項33に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項35】
前記第1ステップ、前記第2ステップおよび前記第3ステップの振幅は、
【数1】

【数2】

【数3】

(ここで、V1、V2およびV3は、それぞれ第1ステップ、第2ステップおよび第3ステップにおける印加される振動電圧の振幅であり、(m/z)lowおよび(m/z)highは、それぞれ当該イオンに対するm/zの最小値および最大値であり、fは、1より小さい定数であり、Kは、調節可能な定数である。)に従って計算できる請求項34記載の質量スペクトロメータ。
【請求項36】
長手方向に離間する複数の電極を設けるステップを備え、各電極は、同じ開口部の寸法を有する少なくとも1つの別の電極に隣接して位置しており、前記電極は、イオンチャンネルを構成し、このイオンチャンネルに沿ってイオンが走行するようになっており、
前記イオンチャンネル内にイオンを径方向に閉じ込める電界を発生するよう、前記複数の電極に振動電圧を印加するステップと、
イオンの走行方向に前記径方向の電界進入度を増加させるステップとを備える、質量スペクトロメータの低真空領域または大気圧領域内でイオンをトランスポートし、イオンを合焦するための方法。
【請求項37】
前記径方向の電界の進入度を増加させる前記ステップは、イオンの走行方向に、隣接する電極間の長手方向の間隔を増すことを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記径方向の電界の進入度を増す前記ステップは、イオンの走行方向に前記印加振動電圧の振幅を増加させることを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記イオンチャンネルに沿ったイオンのトランスポートを補助するための長手方向のDC電界を発生させるステップを更に含む、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記複数の電極のうちの少なくとも2つの電極は、異なる寸法の開口部を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項41】
前記印加振動電圧の振幅をダイナミックに調節するステップを更に含む、請求項36に記載の方法。
【請求項42】
時間内のある点において、下流側四重極型質量フィルタを透過するイオンの透過を最大にするよう、前記振幅を調節する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
下流側イオントラップ内にイオンを注入する周期中に、前記振幅を離散的ステップで調節する、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記複数の電極は、傾斜した電極のセットを含み、前記傾斜した電極の各電極は、隣接する電極によって構成された平面に対して平行でない平面を構成し、前記毛細管と反対の前記イオントランスポートデバイス側での隣接する電極間の間隔は、他方の側での対応する間隔よりも狭くなっている、請求項27に記載の質量スペクトロメータ。
【請求項45】
前記毛細管と反対の前記イオントランスポートデバイスの側の近くに位置するDC電極を更に含む、請求項27に記載の質量スペクトロメータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−530120(P2010−530120A)
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512266(P2010−512266)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/065581
【国際公開番号】WO2008/157019
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(501192059)サーモ フィニガン リミテッド ライアビリティ カンパニー (42)
【Fターム(参考)】